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環境低負荷高分子材料

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環境低負荷高分子材料
環境低負荷高分子材料
Polymeric and Environmentally Conscious Materials
東京大学生産技術研究所
持続型社会構築に役立つ高分子関連技術
高分子材料は誕生からほんの数十年の間に社会生活に必要不可欠なもの
として深く浸透した。その守備範囲は、包装材、構造材などの汎用性材料から、
光学レンズや電子部品素材などの高機能性・高付加価値材料まで非常に幅
広い。持続型社会形成に関連した分野でも、例えば水処理用フィルターなど
として広く活用されており、また、新エネルギー関連材料などでは将来的な期
待が大きい。
一方で、石油資源の枯渇やプラスチック廃棄物による環境汚染などの社会
問題がクローズアップされており、高分子材料、特に汎用性高分子材料を炭
素資源循環の観点から再設計する必要性が高まっている。この再設計には、
再生可能資源からのプラスチック生産、リサイクル技術、材料の長寿命化など
の科学技術と、環境教育や材料の一生涯(原料採取-生産-利用-廃棄)にわ
たる環境負荷の評価法の構築など社会技術の双方が必要である。本研究室
は前者で、高分子材料による環境負荷低減に貢献しようと考えて研究を行っ
吉江研究室
環境低負荷プラスチックの設計
例1) リサイクル志向のプラスチック
当研究室ではプラスチックリサイクルの方法として、純粋に化学的手法による
リサイクルと微生物の持つ高分子分解能、生産能に依存するバイオリサイクル
を検討している。前者のコンセプトを下図に示す。
これまでプラスチックリサイクル技術は、使用時の特性を最優先に設計された
材料に対してリサイクル方法を検討するという手順で構築されてきた。本研究
ではこれとは逆、すなわち、リサイクル性を最優先に材料設計し、そこに材料
特性向上のための方策を施すという手順で新規材料の開発を目指す。ター
ゲットとする分子構造は、化学反応特性上、難切断性の共有結合によって形
成されたモノマーを易切断性かつ可逆反応性の共有結合によりつないだもの
である。可逆性結合により、高分子化−低分子化、すなわちケミカルリサイクル
が高分子材料の性能劣化を伴うことなく比較的低エネルギーで実現可能であ
ると考えている。さらに、可逆反応性を利用して、使用による劣化=低分子量
化を修復する自己修復型材料としての側面も検討している。
ている。
生 産
利 用
廃 棄
炭素循環
人工空間
リ ユー ス
生産効率向上
マテリアルリサイクル
長寿命化
環境に配慮した添加物選択
部品の
リユース
または
ケミカルリサイクル
マテリアル
リサイクル
サーマルリサイクル
環境教育
再生可能資源由来
プラスチック
バイオリサイクル
L C A 評 価
バイオベースポリマー
製 品
コンポスト
自然環境
環境分解性(生分解性)プラスチック
環境保全
材料劣化
オリゴマー
モノマー
可逆反応性結合を持つ高分子
エココンポジット
利用による劣化
または解重合
各種フィルター類
*
光学、電気電子材料
(導電性ポリマー、液晶...)
エネルギー
ケミカル
リサイクル2
ケミカル
リサイクル1
+
n
再重合
新エネルギー関連材料
(導電性ポリマー、イオン交換膜...)
機能性材料
炭素資源循環とプラスチック
従来型のプラスチック材料は原料を石油資源に頼っているが、炭素循環の
観点ではこれを可能な限り再生可能資源に代替することが望まれる。例えば、
農業廃棄物を原料としたモノマーの化学合成、バイオ技術による植物や微生
物を用いたモノマーやプラスチックの生合成などが該当する。
プラスチック材料における炭素資源循環の環には大小さまざまなものが想定
される。循環に要するエネルギーなどを考慮すると、小さい環ほど優先される
べきであることはいうまでもない。しかし、バージンプラスチックが安価であるた
め再使用品や再生品に経済的メリットを見出しにくいこと、プラスチックが化学
的に非常に安定で分解が困難であることなどにより、リユースやリサイクルが困
難であるため、現在、炭素循環の環が閉じているとは言い難いエネルギー
環境低負荷プラスチックの設計
例2) 再生可能資源由来/生分解性プラスチック
高分子物質の特性は鎖状分子特有の階層性構造と密接に結びついている。
再生可能資源由来/生分解性プラスチックの場合も例外ではない。例えば生
分解性ポリエステルの酵素分解においても、巨視的な材料崩壊は酵素-ポリ
エステルの分子間相互作用により引き起こされるものであり、分解性は分子
及びナノサイズレベルの構造に大きく依存する。そこで当研究室では各階層
における分子鎖の構造および挙動と巨視レベルでの物性の相関を解析し、
それを通じて高分子材料の特性を最大限に引き出す研究をしている。
また、再生可能資源由来/生分解性プラスチックとして許容される化学構造
には限界がある。そこで二種以上の物質を複合化することによる新規機能性
材料設計研究も行っている。
(熱)回収が次善の策として広く行われている。また、プラスチック材料が包装
用材として広く用いられていること、それらが軽くて飛散しやすいことなどを考
再生可能資源由来/生分解性高分子材料の選択
えると、自然環境中に誤って放出されても自然界の炭素循環サイクルに乗る
O
材料も選択肢として存在することが重要であろう。
化石資源
R C O n
植物
自 然 環 境
樹脂
製品
製品・部品の
リユース
マテリアル
リサイクル
ポリアミド
ナイロン類
ポリウレタン類 etc.
R=低疎水性基
モノマー
or
モノマー原料
OH
C C n
ポリビニル
アルコール
ケミカル
リサイクル
C C n
100 µm
n
ポリアクリル酸
ポリイソプレン etc.
(天然ゴム)
多糖 リグニン etc.
=
廃 棄
循環型社会
×
10 cm
COOH
10 nm
エネルギー
(熱)回収
消費社会
ポリエステル類
各階層の
構造制御
O H
R O C N n
バイオ
リサイクル
人 工 空 間
樹脂
CO2
O H
R C N n
物性(生分解性)設計
環境分解
吉江 尚子([email protected])
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