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中古住宅流通の現状と課題
特集 中古住宅市場の活性化に向けて 01 中古住宅流通の現状と課題 さか ね 国土交通省 住宅局 住宅政策課 課長 のりひろ 坂 根 工博 1961 年大阪府生まれ。 1986 年東京大学法学部修了、同年建設省入省。 宮内庁東宮職東宮侍従、国土交通省大臣官房地方課長、大臣官房調査官などを経て、2013 年6月より住宅局住 宅政策課長。 はじめに た指針」を策定した。 また、 建物評価の改善が真に市場に定着していくため、 平成 25 年9月に「中古住宅市場活性化ラウンドテーブ 我が国の全住宅流通量(中古住宅流通+新築着工)に ル」 (以下「ラウンドテーブル」という。 )を設置し、中古 占める中古住宅の流通シェアは約 13.5%(平成 20 年) 住宅流通に携わる民間事業者等のいわゆる実物サイドと であり、欧米諸国と比較すると約6分の1程度と低い水 金融機関等の金融サイドが、自由で率直な意見交換を通 準にある。 じて、中古住宅市場の活性化や拡大に向けた基本的方向 このため、中古住宅・リフォーム市場に関しては、 「日 本再興戦略」 (平成 25 年6月 14 日閣議決定)において、 諸外国に比して大きく立ち後れた市場を活性化するた や取組課題を共有、議論し、平成 26 年3月に「平成 25 年度報告書」を取りまとめたところである。 本稿においては、ラウンドテーブルにおける議論を中 め、2020 年における中古住宅・リフォーム市場規模を、 心に、中古住宅市場の現状と課題及び今後の取組につい 2010 年の 10 兆円から 2020 年に 20 兆円へと倍増させ て紹介したい。 る目標を掲げ、関連施策の推進に努めているところであ る。 中古住宅市場活性化の意義 こうした中で、平成 25 年6月に行われた「中古住宅 の流通促進・活用に関する研究会」の報告では、中古住 宅流通を阻害している要因として、売主と買主間の情報 の非対称性の解消等の「流通上の課題の解消」に向けた 取組に加え、 「建物評価の改善」と「住宅金融上の課題の 解消」に正面から取り組むものとなっている。 (1) 中 古 住 宅・リ フ ォ ー ム 市 場 活 性 化 の 経 済 波及効果 我が国の住宅ストックの現在評価額は、平成 23 年時 点で約 340 兆円となっているが、これまでの住宅投資の これを受け、まず建物評価を抜本的に見直し、中古住 累計額が約 860 兆円にのぼるのに対し、約 500 兆円程 宅がその状態や機能に応じて適切に評価されることを目 度小さい額となっている。これは、住宅ストックの現在 指すため、平成 25 年8月に設置された「中古住宅に係 評価額が、過去の投資額の累計とほぼ同額となっている る建物評価手法の改善のあり方検討委員会」において新 米国と比較すると大きな損失になっているといえる【図 たな建物評価指針の策定に向けて議論を行い、平成 26 表1】 。 年3月に「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向け 18 Housing Finance 2014 Summer また、家計が保有する宅地資産と併せると、住宅・宅 中古住宅流通の現状と課題 図表1 住宅投資額の累積と住宅資産額の日米比較 アメリカ (兆ドル) (実質値) 16 資産額が投資額を上回る理由 14 資産評価:減耗のある再調達原価で設定・ 市場の実勢を反映し、税法上の償却(27.5 年で償却)よりも、遙かに低い減耗率を使 用・大規模なリフォーム投資も住宅投資・ 資産額に反映 12 10 2010 年 14.0 兆ドル 2007 年 14.4 兆ドル 2007 年 12.6 兆ドル 日本 (兆円) (実質値) 900 資産額が投資額を大きく下回る理由 800 700 600 500 8 投資がストックとして、少ない減耗 で積み上がっているため、好景気な どにより再調達原価が上昇すると、 評価額が投資額を上回る。 6 2010 年 13.7 兆ドル 400 2011 年 862.0 兆円 資産評価:減耗のある再調達原価 で設定 ・我が国住宅の実態を反映し、築年数 の経過で急速に減耗する計算 2011 年 344.0 兆円 投資額累計に対し、資産額が 500 兆円程度下回る。 300 4 200 2 住宅投資額累計 1945 1948 1951 1954 1957 1960 1963 1966 1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 2008 0 (資料)住宅資産額:「Financial Accounts of the United States」 (米連邦準備理事会) 住宅投資額累計:「National Income and Product Accounts Tables」(米国商務省経済分析局) ※野村資本市場研究所の「我が国の本格的なリバース・モ ーゲージの普及に向けて」を参考に作成 住宅資産額 100 住宅投資額累計 0 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 住宅資産額 (資料)国民経済計算(内閣府)を元に、国土交通省において作成 ※住宅資産額の 2000 年以前のデータは、平成 17 年基準をもと に推計 ※ 1969 年以前は統計がないため、1969 年以降の累積 地資産の総額は 1,000 兆円を超え、我が国の家計におけ 般的となっており、住宅を良好な状態で管理して「使用 る金融資産の相当部分を占める現金・預金等の約 900 兆 価値」を維持していても、売却時の市場価値は使用価値 円を上回る規模となっている。 を大幅に下回るのが実態となっている。 ここで、中古住宅の建物評価を改善するとともに、そ これを反映し、50 歳以上の二人以上世帯における一 の流通・活用を促進するなど、中古住宅・リフォーム市 世帯当たりの資産額で見ると、平均で約 2,000 万円の 場の活性化が図られれば、家計が保有する住宅資産額が 「含み損」を抱えていることから、高齢者世帯にとって国 大幅に増大することが期待されるほか、拡大した住宅・ 民資産としての住宅の価値を大幅に増大させ、流通・活 宅地資産を資金化した場合には、金融資産が増大するこ 用する方策が必要になっている。住宅の価値が増大し、 とになる。これをマクロ的な効果として捉えると、個人 住宅を売却することで得られる資金によって、高齢者等 金融資産が稼働して消費や投資の拡大が期待でき、日本 が老後の生活資金等を確保する目途が立てば、将来に対 経済に好循環をもたらすものと考えられる【図表2】 。 する不安が大きく軽減されることになる【図表3】 。 中古住宅・リフォーム市場活性化がもたらす効果は、 (2) 中 古 住 宅・リ フ ォ ー ム 市 場 活 性 化 が 国 民 の住生活や社会に与える効果 我が国において、バブル崩壊以降、地価が継続的に下 落するトレンドをèり、今後必ずしも大きな地価上昇が 現在、欧米諸国に比して低い割合でしか起こっていない ライフステージに応じた住み替えが容易になることなど を通じ、個々の世帯の生活設計に大きな影響を与えると 考えられる。 望めない中で、住宅保有世帯にとって、購入した住宅を 具体的には、高齢者が退職後に、現住居を売却した資 売却する際の差損を小さくするためには、住宅の建物価 金を活用して、より利便性の高い住居やサービス付き高 値がその状態や機能に応じて適切に評価される必要があ 齢者向け住宅に住み替えるとともに、これまで以上に豊 る。 かでゆとりある暮らしを送ることが可能となる(住宅の これまで我が国の中古住宅の建物価値の評価について 年金化) 。こうした住み替えは、高齢者の孤立化等の社 は、築 20 年程度で価値がゼロとなる評価のあり方が一 会問題を解決する一助になることも期待される。さら Housing Finance 2014 Summer 19 特集 図表2 中古住宅市場の活性化に向けて 中古住宅・リフォーム市場活性化の経済波及効果 住宅(現住居以外・ その他 現居住地以外) 53.8 兆円 55.9 兆円 2.1% 2.2% 住宅の価値向上・評 価改善による資産価 値増大 土地(現住居以外・ 現居住地以外) 137.5 兆円 5.4% 住宅価値増大と併せて住 住宅(現住居・ 現居住地) 241.4 兆円 9.5% 宅・宅地資産の流動化・ 資金化 金融資産 (株式・債券等) 186.1 兆円 7.3% 金融資産 (保険、年金準備金) 418.5 兆円 16.4% 住宅・リフォーム 投資促進効果 家計純資産総額 2,548.0 兆円 (平成23年) 土地 (現住居・現居住地) 557.5 兆円 21.9% 金融資産 (現金・預金等) 897.3 兆円 35.2% 消費増大効果 消費増大効果 住宅・宅地資産の活用が生む資金 等により、金融資産活用促進 (注1)「その他」には生産資産の“在庫”及び住宅を除く“固定資産”、有形非生産資産の“漁場”が含まれる。 (注2) 「土地」 「住宅」の“現住居・現居住地”、“現住居以外・現居住地以外“の資産額については、 『平成 21 年 消費実態調査』における“宅地”“住宅”それぞれの資産額の割合を用いて算出している。 〈宅地(総額 1,991.8 万円)〉現住居・現居住地:1,597.8 万円(80.2%)、現住居以外・現居住地以 外:394.0 万円(19.8%) 〈住宅(総額 522.6 万円)〉現住居・現居住地:424.3 万円(81.2%)、現住居以外・現居住地以外: 98.3 万円(18.8%) (資料)国民経済計算年報(内閣府)及び消費実態調査(総務省)より作成 図表3 二人以上世帯における一世帯あたりの住宅・宅地資産額 (万円) 3,000 ※純資産額:住宅粗資産額×残価率 ( (1−π) n) π:「減価償却資産の耐用年数に関する省令」に定められ た定率法による償却率 (例)木造住宅の場合:耐用年数 22 年、償却率 0.114 n:建築時期からの経過年数 ※減価償却分:住宅粗資産額−純資産額 減価償却分 2,500 純資産額(住宅) 2,000 純資産額(宅地) 1,500 612 500 377 265 0 住宅 512 宅地 30 歳未満 2,103 573 654 住宅 宅地 住宅 540 宅地 2,689 大幅な経年減価 (50 歳以上世帯当たり約 2,000 万円) 2,497 1,536 960 2,041 2,020 1,820 1,171 1,000 住宅 507 宅地 住宅 住宅価値増大のポテンシャル 380 宅地 30 歳∼39 歳 40 歳∼49 歳 50 歳∼59 歳 60 歳∼69 歳 住宅 宅地 70 歳以上 ・建物評価の見直しによる市場価値、担保価値の 増大 ・中古住宅の流通促進 ・賃貸等での活用 ・リフォーム、建替え等の投資増大 に、住み替えが円滑に進むことにより、高齢者のニーズ に放置され、それが後に居住不能な状態となって空き家 に合わなくなった住宅から転居して介護サービスを効率 化するという状況があったが、これも建物評価の改善に 的に受けることができるようになるほか、売却又はリバ より変化する。 ースモーゲージなどの手法を通じて得た収入の一部を生 さらに、若年層にとっては、自ら住宅を新築する資金 活資金に充てることで、社会保障関係の公的な扶助を受 余力がなくとも、子育てに適した良質な住宅に居住でき ける必要性が減ずるなど、財政面での効果も期待される る可能性が拡大することを通じて、少子化の歯止めにも 【図表4】 。 つながることが期待される。仮に住宅ローンの支払が困 また、これまではどのように自宅に手をかけようとも 難になる場合においても、改善された建物評価による売 市場では評価されないために、必要なリフォームをせず 却が残債割れを防ぐなど、終身雇用・年功序列といった 20 Housing Finance 2014 Summer 中古住宅流通の現状と課題 図表4 中古住宅・リフォーム市場活性化が目指す住まい方の将来像 【現状の中古住宅・リフォーム市場を前提とすると】 評価額 【建物評価の改善に伴い中古住宅・リフォーム市場が活性化すると】 評価額 20 年 売却又はリバー スモーゲージ 住宅(建物) キャピタルロス 土地代しか資金 化できない 売却 売却又はリバー スモーゲージ 住宅A(建物) 土地 住宅B(建物) 建物部 分も価 値が付く 土地 30 代で 一次取得 50 代以降で住み 替えを検討 就労・子育て アクティブ・ シニア期 後期高齢者になり、 サービス付き高齢者向 け住宅への入居を希望 30 代で 一次取得 50 代以降、家族構成 の変化等で住み替え 後期高齢者になった際の、サービス付き高齢 者向け住宅等への入居・生活資金確保 住み替え 親世代 就労・子育て 一次取得時の資産形成に おいて、一定のローン返 済をしていれば、高齢期 までの柔軟な住み替え・ 生活資金を確保 アクティブ・シニア期 売却又はリバースモーゲー ジにより、サービス付き高 齢者向け住宅等への入居・ 生活資金を確保 住み替え 市場価値を失い、必要な リフォームをせず放置 取り崩せる預貯金がなけれ ば住み替え資金が不足 相続時には空き家となり、 居住不可能な状態に アクティブ・シニア期 就労・子育て 子世代 親世代から購入し た住居に入居、リ フォームを実施 孫世代 就労・子育て 日本型雇用慣行に一層の変化が見込まれる中で、若年世 現状を踏まえ、主として中古戸建て住宅の流通時におけ 帯の住宅取得後の生活不安の改善にも資すると考えられ る建物の評価について、人が居住するという住宅本来の る。 機能に着目した「使用価値」に係る評価のあり方を提言 するとともに、評価の実務において市場価値に加えて住 建物評価手法の抜本的な見直し 宅の使用価値も併せて把握できる環境を整備し、取引市 場への新たな評価の浸透を図るものである【図表5】 。 中古戸建て住宅の評価方法としては、 取引事例比較法、 ( 1 ) 「中 古 戸 建 て 住 宅 に 係 る 建 物 評 価 の 改 善 に 収益還元法及び原価法がある。このうち、取引事例比較 法については、現状では、個々の住宅の本来の価値を適 向けた指針」の策定 こうした建物評価のあり方を改善するため設置された 切に反映した取引事例が十分に存在するとはいえず、中 「中古住宅に係る建物評価手法の改善のあり方検討委員 古戸建て住宅の評価手法とすることは適切ではない。ま 会」では、平成 26 年3月に「中古戸建て住宅に係る建物 た、収益還元法については、一般に戸建て住宅は、流通 評価の改善に向けた指針」を策定した。 市場においては自己居住を目的に売買がなされており、 同指針は、木造戸建て住宅の流通の実態や建築技術の 図表5 賃貸住宅市場については未だ発展途上であるため、収益 本来あるべき住宅の価値 住宅の現状の市場価値 本来あるべき住宅の価値 価格 価格 ・リフォームをしても価値の 下落ペースが変わらない ・メンテナンス状況によって は、建物がマイナス評価と なる場合もある 20∼25 年 築年 A.各部位ごとの建物の耐用年数の 把握 B.リフォームによる価値回復・向 上の反映方法を検討 B 20∼25 年 A 築年 Housing Finance 2014 Summer 21 特集 中古住宅市場の活性化に向けて 還元法を中古戸建て住宅の評価に本格的に導入するの 来求められる機能が失われるリスクの増加ととらえら は、特定の地域において一定の市場の厚みがあるなどの れ、基礎・躯体の使用価値は経年的に一定の減価をする 条件が必要である。 と解することもできる。 これに対し、原価法は手法として市場に定着しており、 したがって、劣化対策の程度が異なる住宅の類型ごと 補修等による価値の回復を積極的に評価することが可能 に、一般的に基礎・躯体が住宅全体を支え安全性等を確 な方法でもあることから、中古戸建て住宅の建物評価の 保するという機能を維持すると考えられる期間を基礎・ 改善のためには、まずこの原価法の運用改善・精緻化に 躯体の耐用年数として設定し、経年による減価のモデル より建物評価の現状を改めていくアプローチが妥当であ を置くことが考えられる【図表6】 。 このように耐用年数に応じた減価のモデルを置くとし る。 これを踏まえ、同指針においては、原価法について、 た場合にあっても、個別の住宅につき、インスペクショ 評価の時点における対象不動産の再調達原価を求め、個 ンを行い、劣化の進行状態に応じて築年数によらない評 別の住宅の状態に応じて使用価値を把握し減価修正を行 価上の経過年数を設定することが考えられる。例えば、 うことを基本的な方向としている。 インスペクションにより劣化が進行していないと確認さ れた場合は、実際の築年数を短縮した年数を評価上の経 (2) 原価法の運用改善・精緻化 ① 部位の特性に応じた区分 過年数と設定する。また、最低限の機能の残存が確認さ れた場合は、実際の築年数によらず一定の時点まで評価 住宅を構成する部位は、それぞれその機能を維持する 上の経過年数を短縮する。躯体部分に見つかった不具合 ことができる期間(耐用年数)やそれらが低下する要因 を適切に取り替えた場合についても、基礎・躯体の評価 が異なるため、住宅を一体として減価修正するのではな 上の経過年数を短縮することとしている。 く、耐用年数が異なる各部位ごとに減価を把握した上で ③ 内外装・設備の評価 住宅全体の価値を導き出すことが合理的である。 このため、住宅を構成する各部位について、材の性質、 内外装・設備の価値は、経年でほぼ一律に減価するも のの、補修等が適切に行われることによって、その使用 劣化要因等の観点から、住宅を大きく基礎・躯体部分と 価値が回復・向上する。この場合、同等の機能を有する 内外装・設備部分に分類し、さらに補修等の頻度等の観 ものへの更新であれば 100%まで使用価値が回復する。 点から、内外装・設備を分類する。その上で、これらの 適切な内外装・設備の補修等を行えば、基礎・躯体の機 各部位ごとにそれぞれ再調達原価を算出し、部位の特性 能が失われていない限り、住宅の使用価値は何度でも回 に応じて減価修正を施した上で合算し、建物全体の価値 復・向上するという原則が置かれるべきである 【図表7】 。 を導き出すこととしている。 また、各部位ごとの耐用年数については、各部位が本 「中古住宅市場活性化ラウンド テーブル」の開催 来要求される機能を維持しており、取引の際に社会通念 に照らして通常価値があるとみなされる期間としてとら えることが適当である。 ② 基礎・躯体の評価 木材の耐久性や強度が減ずるのは、蟻害や水分の浸 (1) 建 物 評 価 指 針 の 不 動 産 市 場・金 融 市 場 へ の定着 入・結露による腐朽が発生した場合であるから、木造戸 中古住宅の建物評価を改善するためには、策定した建 建て住宅の躯体は、防蟻処理や防水・防湿などが適切に 物評価指針を不動産市場・金融市場の双方に定着させる 行われていれば、蟻害や腐朽が発生せず、機能を維持す 必要がある。そのため、策定した建物評価指針を、ラウ ることが可能である。蟻害や腐朽をはじめとする物質的 ンドテーブルに報告し、中古住宅に係る建物評価手法改 な劣化が躯体に発生するリスクは、実態上、経年ととも 善等の取組を中古住宅流通市場と金融市場に定着させる に増加する。そのため、このリスクの増加は、躯体に本 ための方策等を議論するとともに、宅建業者向けの「戸 22 Housing Finance 2014 Summer 中古住宅流通の現状と課題 図表6 建物評価上の基礎・躯体の使用価値の減価の 考え方 図表7 内外装・設備の価値向上を反映した評価イメージ <建物評価上の基礎・躯体の使用価値の減価の考え方> 内外装・設備の価値向上を反映した評価イメージ ︻内外装・設備︼ 残存価値の割合 100% ○劣化事象が発生するリスクを住宅の使用価値に織り込むとすると、 基礎・躯体は経年により減価するととらえることができる。 ○この際、住宅の質(劣化対策の程度)により減価のスピードは異な ると考えられる。 ︻基礎・躯体︼ 築年数 20∼25 年 劣化対策等級 2 (現在の市場価値 (50∼60 年) が維持する期間) 劣化対策等級 3 (75∼90 年) 残存 価値 長期優良住宅 (100 年∼) ※新築時点の使用価値を100%とおいた場合の減価のイメージを示したもの。実際には、 それぞれの住宅により再調達原価は異なる。 ※修繕等の状況によっては、上記年数以上に使用価値を維持しうる。 残存 価値 部位A 部位C 部位B 部位D 基礎・躯体の機能が維持されてい る限り、何度でも補修等を行うこ とが可能 ↓ 補修等による価値向上の 効果を評価にも反映 築年数 現状の市場価値は 20∼25 年でゼロに 基礎・躯体の機能が維持される期間 適切な劣化対策や維持管理 が行われていれば、基礎・ 躯体の機能は長期間維持 築年数 とができるのではないかとの議論がなされた。 建て住宅価格査定マニュアル」の改訂及び(公社)不動 産鑑定士協会連合会等における既存住宅評価の環境整備 例えば、米国の鑑定評価手法において用いられている に反映することとしている。さらに、金融機関における 「実質的経過年数」 (Effective Age)や「経済的残存耐用 これらの活用を促進するため、引き続きラウンドテーブ 年数」 (Remaining Economic Life)の考え方を参考に、 ルにおいて議論していく【図表8】 。 我が国においても、実際の築年数に加え、不動産鑑定士 ラウンドテーブルにおいては、新たな建物評価手法に 等が適切なデータや根拠に基づきながら「実質的経過年 基づき算出された価格(以下「参考価格」という。 )を市 数」や「経済的残存耐用年数」を判断し、買主に対して 場に提示することで、当該参考価格を視野に入れた売買 情報提供することが望ましいとの提案がなされた【図表 価格の交渉がなされ、成約価格に影響を与える可能性が 10】 。 あるとの議論がなされた【図表9】 。 また、中古住宅について、 「この住宅の実質的な経過年 (2) 新たな金融商品の設計可能性 数は何年か」又は「この住宅にあと何年住めるのか」を 今後の成長分野として期待される新たな住宅金融商品 一定の尺度で示すことにより、点検、修繕及びリフォー の設計に当たっては、土地だけの値付けでは十分な担保 ムの結果を反映した「価値」を適切に消費者に伝えるこ 価値が得られない場合であっても、経年の変化において 図表8 中古住宅に係る建物評価・担保評価の改善についての検討体制(平成25、26年度) 国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会 鑑定評価基準におけるストック型社会(中古住宅流通促進等)に おける鑑定評価ニーズへの対応等について検討 (公社)不動産鑑定士協 会連合会等における既 存住宅評価の環境整備 ●不動産鑑定評価基準の改正(平成 26 年春を予定) 中古住宅に係る建物評価手法の改善のあり方検討委員会 (平成 25 年度) 適切な建物評価を目指した理論上、不動産取引実務上の観点から の検討 報告 ●原価法における建物評価方法の改善のあり方を検討 中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針(建物評価指 針)を策定(平成 25 年度中) 中古住宅市場活性化ラウンドテーブル (平成 25,26 年度) 不動産取引実務・金融実務の関係者が一堂に会して率直かつ自由 な意見交換を実施 検討 結果を 反映 中古住宅に係る 建物評価手法の改善 ・住宅の売買の局面 例:住宅の状態をより適切 に反映した査定価格を 参考価格として提供 戸建て住宅価格 査定マニュアル の改訂 (平成 26 年度) ・住宅の担保評価の局面 例:住宅の状態をより適切 に反映した鑑定評価書 を活用 ●中古住宅に係る建物評価手法改善等の取組を中古住宅流通市場と 金融市場に定着させるための方策等を議論 Housing Finance 2014 Summer 23 特集 中古住宅市場の活性化に向けて 図表9 「参考価格」の導入により期待される中古住宅取引市場での効果 新たな建物評価手法に基づき算出される 参考価格 2,400 万円程度 (建物 900 万円+土地 1,500 万円) 築年数:30 年 相場:1,500 万円 (建物 0 円+土地 1,500 万円) <売主側宅建業者> 従来の相場では 1,500 万円ですが、建物評価の指針に基 づいて算出した参考価格は 2,400 万円と出ています。 <売主> 参考価格は 2,400 万円と出たので、相場 より高いけど、2,200 万円で売り出そう。 成約価格:2,000 万円 (建物 500 万円+土地 1,500 万円) <買主側宅建業者> <買主> 売出価格は 2,200 万円ですが、参考価格では 2,400 万円の価値がある物件です。 予算は 2,000 万円なので、より高い参考価格が付 いている 2,400 万円の物件を 2,000 万円で買おう。 図表10 ・新たな建物評価手法に 基づいて算出される参 考価格も視野に入れな がら、売り値、買い値 の交渉が行われる。 ・このケースでは、従来 の相場では 0 円となっ てしまう建物の価格が 成約価格では 500 万円 回復している。 住宅の売買の局面における「実質的経過年数」の活用案 <従来> 物件X 売主 買主 「築年数」と「リフォーム 実施済み」の情報だけでは 建物の状態が分からない。 建物の状態を示す指標が あればいいのに… 築 25 年 リフォーム 実施済み ●●円 建物の状態を示す1つの指標として、実際の築年数に加えて「実質的経過年数」を採用すると… < 「実質的経過年数」が市場に定着した場合> 売主 買主 物件X ・インターネット物件サイト等での表示により、建物の状態を反映し た「実質的経過年数」が近いもの同士で物件の比較ができる。 物件A 築 25 年 実質的経過 年数 10 年 ●●円 築 40 年 築 25 年 実質的経過 年数 10 年 実質的経過 年数 25 年 ▲▲円 ▼▼円 築年数は異なるが、 建物の状態が近い 水回りなどをリフォームしたけれど、 買う人はどう見てくれるかしら… 物件B <定期的なリフォームを実施> 築年数は近いが、建 物の状態が異なる <リフォーム未実施> 取引価格よりも安定している賃料をベースにした DCF ついては、DCF 分析を用いた将来の担保価値を計算し 分析による担保不動産評価が有効な場合がある。戸建て た新たな金融商品が検討されており、今後、賃貸市場が 住宅の賃貸市場等の市場の厚みという課題はあるが、賃 成熟してくれば戸建て住宅についても同様の商品も開発 料は地価に比べて地域差が少なく、 (一社)移住・住みか される可能性があるとの指摘があった。 え支援機構(JTI)が最低家賃保証を行っている中古の リバースモーゲージについては大手銀行も参入を開始 戸建て住宅は、多くの地域で売却するよりも賃貸した方 しており、住宅の年金化の一手段として期待される。建 が収益を生むという指摘があった。 物が使用価値に応じて適切に評価された場合、リバース また、売買・賃貸とも市場の厚みのあるマンションに 24 Housing Finance 2014 Summer モーゲージの担保の対象が建物まで拡大することで、特 中古住宅流通の現状と課題 図表11 高齢者が保有する住宅を活用したリバースモーゲージ及びリフォーム推進案 リフォーム事業者 地方公共団体 指示・ 補助 リフォーム サービス 補助 リフォーム 費用 リフォームに対する支援案 長期借家契約 転貸契約 住み替え促進 機関・企業 貸主 (高齢者世帯) (JTI等) 賃料保証 ローンを 生活資金に 借主 (子育て世帯) 賃料支払 利用価値のある 戸建て住宅等を 賃借できる 定額家賃保証額の範囲内にて ローンを約定弁済 賃料債権を譲渡担保 としてローンを実行 金融機関 に地価の低い地方圏において、リバースモーゲージが普 及する可能性が高まる。 定額家賃保証制度 れている。 また、平成 26 年度において、建物評価指針の定着の 一方で、 (一社)移住・住みかえ支援機構の最低家賃保 取組として、前述の通り、宅建業者向けの「戸建て住宅 証を前提として、賃料債権に譲渡担保を設定して融資を 価格査定マニュアル」の改訂及び(公社)不動産鑑定士 行うリバースモーゲージが一部の地方銀行により商品化 協会連合会等における既存住宅評価の環境整備に反映す されていることが紹介された。また、住宅を賃貸するに る。 当たって必要となるリフォーム費用への行政による支援 ラウンドテーブルにおいては、以上の平成 25 年度の の可能性や、空き家問題、団地再生等の地域政策を担当 議論を踏まえ、平成 26 年度において、平成 25 度の論点 する法人による住宅の取得の可能性等が議論された【図 を深掘りするとともに、①建物評価の改善を踏まえた宅 表 11】 。 建業者、不動産鑑定士、金融機関等における実務の改善、 しかし、金融機関だけでリバースモーゲージにおける ②証券化市場を含む金融二次市場等を活かした中古住宅 全てのリスクを負担するのは困難であり、例えば、長生 関係金融商品の設計、③戸建て賃貸住宅市場、地域政策 きリスクについては民間の保険、担保下落リスクについ (空き家対策、住宅地再生)との連動によるビジネスモデ ては公的な保険又は賃料保証に加え、証券市場の活用等 ルの構築、といった論点について、より具体的な方策の によるリスク分担も検討すべきであるとの議論がなされ 検討を目指すこととしている。 国土交通省としても、同指針が市場に定着して建物評 た。 価が改善するよう、そして、改善した建物評価に則した 今後の取組 金融商品により住宅・宅地資産が資金化され、日本経済 に好循環をもたらすよう、中古住宅流通市場に係るプレ ーヤーとともに中古住宅市場の活性化に取り組んで参り 中古住宅市場活性化については、平成 26 年5月 14 たい。 日、自民党の住宅土地・都市政策調査会に中古住宅市場 活性化小委員会が設置され、活性化に向けた方策の検討 が行われ、年内に政策提言が取りまとめられる予定とさ Housing Finance 2014 Summer 25