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車両運動総合シミュレータによる新しい乗り心地の研究

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車両運動総合シミュレータによる新しい乗り心地の研究
日本機械学会誌 2003. 7 Vol. 106 No. 1016
548
車両運動総合シミュレータによる新しい乗り心地の研究
図1 JR東海で導入した車両運動総合シミュ
レータ
模擬客室
映像装置
6自由度動揺装置
ータからなる6自由度動揺装置,この
多くある.ここで速度制限の制約条件
6自由度動揺装置を支えるベースごと
は,左右定常加速度と呼ばれる客室内
左右に並進させる直線モーション装
で床面に平行な曲線半径方向の定常的
置,模擬客室の床をより高周波まで加
な遠心加速度である.このほかにも曲
振させる高周波振動台から構成され
線通過速度を抑える条件は乗り心地の
る.この装置の特徴は,曲線の乗り心
面では,曲線の入口と出口における車
地を再現するために直線モーション装
体のロール角速度,定常加速度の時間
置と6自由度動揺装置を組み合わせる
的な変化率といったものがある.乗り
ことにある.これにより曲線再現時の
心地指標は当然,策定された時の線路
姿勢変化を滑らかにすることが可能に
状態,車両の構造を反映したものであ
なり,リアルな曲線乗り心地を再現す
る.理想的には技術進歩による線路の
ることができる(図3).
保守状態の高品位化,車両の高性能化
■新しい乗り心地評価手法
直線モーション(並動)装置
高周波振動台
図2 模擬客室内の様子(700系車内を模擬)
模擬客室側操作卓
へと,減速しなければならない曲線が
模擬客室(700系車両室内を模擬)
が反映できる指標とすべきものである
現車では,走行中に軌道の不整や,
が,前述の左右定常加速度などは,反
曲線,直線,トンネル,橋りょう,分
映されにくい物理指標となっている.
岐器などさまざまな条件があり,評価
そのために,線路状態や車両の高性能
区間,試験順序,試験条件などの工夫
化などが反映される曲線
が現車試験に求められる.しかし,定
での乗り心地指標を策定
置試験では評価したい区間を切りだ
することは,非常に有意
し,繰り返し試験条件を比較すること
義である.現実にも国内
ができる.また,机上で時刻暦に数値
や海外で多くの曲線乗り
計算された振動データをシミュレータ
心地指標の研究がなされ
により再現することにより,軌道の構
ている.たとえば曲線で
造,狂い量,車両のダンパ定数,ばね
の振動加速度と定常加速
定数,取付位置などの多くのパラメー
度の組合わせで乗り心地
タについて比較試験を行うことがで
を評価する研究や,曲線
き,軌道・車両の構造やメンテナンス
で発生する数種類の物理量を組合わせ
基準と乗り心地の関係などの評価が可
鉄道にとって乗り心地は,サービス
た指標により乗り心地を評価する研究
能となる.鉄道にとって重要な乗り心
レベル,走行速度,線路や車両の保守
などが行われている.しかし,複雑な
地指標を,あらゆる角度から検証を可
作業量,構造,コストなどに直結する
指標になればなるほど,多くの試験条
能とするシミュレータは非常に強力な
重要な指標である.この指標は営業線
件でのデータ増しが必要となり,多く
研究ツールとなる.
での現車走行試験により,定めること
の現車試験を行わなければならないが
■おわりに
ができる.しかし現車試験は,制約条
現実には困難である.そこでJR東海
乗り心地評価を行うシミュレータは
件が多く,試験回数,試験条件も限ら
では曲線での乗り心地を正しく評価す
その開発,評価手法の確立自体が十分
れたものとならざるを得ない.さらに,
るために繰り返し定置で試験を行うこ
に基礎的な研究課題である.しかしこ
最終的には管理上の問題から極力簡素
とができる「車両運動総合シミュレー
のシミュレータにより得られる知見は
な指標で人間の感性を基準化する必要
タ」を導入した(図1,2)
.
鉄道にとって十分に実用的な基準とな
があり,重要な指標ではあるが,指標
■車両運動総合シミュレータ
る.乗り心地という基本的な指標の研
図3 シミュレータにより再現された左右振動
(上段:実車,下段:シミュレータ)
R2500
実車左右加速度振動
0.1g
速度
100km/時
1分
シミュレータにより再現された左右加速度振動
0.1g
京都
■はじめに
至米原
このシミュレータは鉄道車両におけ
究をこのシミュレータにより充実さ
る.
る乗り心地を研究するために導入され
せ,お客様に乗り心地のよいサービス
■曲線での乗り心地
た,世界初の大型試験装置である.こ
を提供したい.
化することが難しいという特徴もあ
東海道新幹線では,曲線で感じる遠
の装置は三つのハードウェアすなわ
(原稿受付 2003年4月2日)
心力を基準値以下に抑えるために,通
ち,6自由度の運動を与え,模擬客室
〔坂上 啓 東海旅客鉄道(株)〕
常の最高速度270km/時から250km/時
の荷重を支える6本の油圧アクチュエ
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