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NMR による石炭ピリジン抽出物の構造に関する研究
Title Author(s) Citation Issue Date NMRによる石炭ピリジン抽出物の構造に関する研究 武谷, 愿; 伊藤, 光臣; 鈴木, 章; 横山, 晋 北海道大學工學部研究報告 = Bulletin of the Faculty of Engineering, Hokkaido University, 35: 129-140 1964-06-30 DOI Doc URL http://hdl.handle.net/2115/40730 Right Type bulletin (article) Additional Information File Information 35_129-140.pdf Instructions for use Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP NMRによる石炭ピリジン抽出物の 構造に関する研究 武谷 鈴木 原 ’c」’ ぬ 早 伊藤光臣 横山 晋 A Study of the Structure of Pyridine Extracts from Coals by High Resolution Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy Gen TAKEyA, Mitsuomi 1’roH, Akira SuzuKエ and Susumu YOKOYAMA Abstraet The present report deais with the constitution of the pyridine extracts of some Japanese coals, a study based叩on their hydrogen distribution. The pyridine extracts of Yubari, Taiheiyo, Sumiyoshi and Sohya coal were separated from the solvent, dried and redissolved into deutero−pyridine, C,D,N. The C,D,N solutions (18一一20a/o) of the coal extracts thus prepared were examined by NMR spectroscopy at 60 Mc. with a JNM−3 H−60 NMR spec− trometer. The distribution of hydrogen was estimated from the intensities of the three different NMR bands Hia, H., He. From the contents of the different types of hydrogen atoms and the elementary analysis, the structural parameters:ノ}t(carbon aromaticity),σ(the measure of the substitution of the aromatic systems) and Hat‘ICa (the aromatic hydrogen−to−carbon ratio of the hypothetical unsubstituted aromatic mic terial) which were introduced by Brown et al. have been calculated for the pyridine extracts of coa1s. A new parameter of the length of the aliphatic carbon chain is proposed by the present authors on the basis of the following relation : 」El,/H. == (“}le/H)/(Ha/H”)・ The structural parameters,プ}‘,σ, Haz‘/C,、 and Ho/」砿、 together with the features for the mean structure which are inferred from these parameters, are given in Table 1−2−5. 目 次 1. 糸蕎 雷‘ ・・・・・・… 一一・… 一・… 一■・・・… 一一・・・・・・・… 一一一・・■■・・・・・・・・・・・・・・… 一一・・一・… ■■・・・・・・・・… 2.石炭抽出物のNMRスペクトル測定の予備実験…………’”…”……”…………’……’ 2 2・1 重水素ピリジンの溶媒効果・………・………・・…・……………・…・・……………・……… 3 2・2 璽水素ピリジン中の不純物の影響・……………・・………………・・…………・……・・…・ 4 L・3 3. 2 実 石炭抽出物NMR試料調製及びNMRスペクトルの測定条件………・…・…・…… 験 ・・・・・・・・・・・・・… 一・・・・・… 一一a・■■・・・… 4一・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一一・・・・・・・・・・・・・・・・・… 一一・・・… 一・・ 4 6 130 2 武谷 悠・伊藤光駆・鈴木 章・横山 晋 4. 結果及び考察・・………………・・…・…… 6 4・1抽出物試料…・・……………・…・・ 6 4・2抽出物試料のNMRスペクトル 7 4・3 屑憲造ノxoラメーター ・・・・・… 一一一一一■・一■・ 8 4・4 ピリジン抽出物の平均構造単位・・ 10 1. 緒 言 石炭の化学構造の研究は,戦前からのX線回折のほかに戦後における赤外線分光分析,核 磁気共鳴吸収(NMR)スペクトル分析など各種の機器分析装置の発達によって,過去10年間に 著しい進展を示してきた。 とくに広幅法1)一‘),および高分解能NMR分析装置の導入によって,石炭の構造単位を形 成する各種の結合様式のプロトン量の比率を測定し得るようになったことは,今後の石炭の構 造研究に対しても,極めて有力な手段となるものである。 石炭類の構造研究に高分解能NMRを.適用することは, Friede16)が石炭の水添生成油のア スファルテンについて用いた結果を1959年に発表したのに始まる。その後Lahiri等7)は石炭 タール・ピッチにつき,その二硫化炭素溶液を試料として各種プロトンを調べている。併し高分 解能NMRによって石炭の化学構造の解析に新たな業績を残したのはBrownおよびLadner5) である。彼等は石炭の奥空下の蒸留留出物,急速乾留タールのクロロフォルム可溶物について これをメチレンクuリド溶液にして高分解能NMRの測定を行ない,各種プロトンの含有量と 元素分析値に基づく石炭の構造パラメ…一ターを新たに設定して,石炭の化学構造を解析した。 又Oth等8)・9)は石炭のベンゼン抽出物及びそのフラクシ・ンについて,重水素ベンゼンを溶媒 とし同様の研究を行なっている。Friedel, Retcofskyll)はごく最近,石炭の重水素ピリジン抽 出物溶液についての高分解能NMRから,ピリジン抽壮1物構造についての研究を行なってい る。我々は過去に石炭の粘結性とコークス化反応の研究において,石炭ピリジン抽出物の化学 構造を研究した10)。引続き1962年から再び石炭ピリジン抽出物の平均構造単位の研究を高分 解能NMRを用いて開始した。その結果の第一報を日化欧文誌にノートとして発表12)したが, ここにその詳細を報告する。 2.NMRによる定量の予備実験 高分解能NMRでは各種水素が別個に観測され,特に芳香族に直接付いている脂肪族水素 (凡)を区別して測定できる特徴を持っている。更にこれらの各種水素の含量を,そのシグナル の面積強度から定量することができる。併し測定試料としては液体または溶液の状態が必要条 件であるため,縮合芳香族構造をもち難溶解性の石炭類に応用するには可なりの制約を受ける。 著者等は石炭ピリジン抽出物の高分解能NMR測定に用いる溶媒として重水素ピリジン (C5D,N)を選び,これによるNMR試料調製の条件(溶解度,粘度等)及び重水素ピリジンの溶 3 131 NMRによる石炭ピリジン抽出物の構造に園する研究 媒効果,不純物として存在する普通ピリジンのプmトンシグナルの補正など,予想される測定 上の問題点を予め予備実験によって検討した。 2・1 重水素ピリジンの溶媒効果 重水素ピリジンを溶媒とした場合の抽出物の化学シフトに与える溶媒効果を調べるために Table 1−2−!の数種の標準試料について5重:量%ピリジン溶液のNMR測定試料を調製し(3. 実験NMR試料調製に準じて),各種プロトンの化学シフトを調べた。 Table I−2−!に標準物質 の各種プuトンの化学シフトを示した。芳香油プロトン(H,,)はテトラメチルシラン位置を0 として(以下化学シフトの表示はこれによる)約7.2 p.p.m.,芳香族環に対してα位脂肪族プロ トン(瓦)は約2.5p.p.m.,β位以上の飽和脂肪族フ。ロトン(He)は2 p.p.m.以上の高磁場に現わ れる。OH基プロトンは,池上氏の研究13)によるとピリジンを溶媒とした場合には化学シフト は8.5p.p.m.より低磁場側に観測されることがわかっている。 Table 1−Z−1. Chemicai shifts of standard chernical substances and coal extracts where pyridine was used as solvent Samples Ethylbenzene* .1−L, 」’rt, average Jla ) 7.2 2.5 1.1 t;一Propylbenzene 2.6 1,2 .1−r,, =. 2.5 o−Ethyltoluene 2.43 !.03 1’fe :1.2 nt−Ethyltoluene 2.50 1.10 1)一Ethyitoluene 2.45 LIO 2.6 1.6 Tetralol 2.5 1.6 Pyridine extract of Sohya coal 2.50 1.28 .1(,, :7.4e Pyridine extract of Sumiyoshi coal 2.50 !,28 }塩=2.50 Pyridine extract of Taiheiyo coal 2.50 1.28 1−ro == 1.28 2.50 1.28 Tetralin:i‘ Pyricline extract of Yubari coal* 7.3 .}塩 7.工 7.40 * Measured in cleutero−pyricline as solvent 次いで石炭抽出物の5重量%ピリジン溶液(夕張炭の場合は5重量%璽水素ピリジン溶 液)のNMRスペクトルを測定した。各氏出物の種々のプロトンシグナルはTable I−2−1下 欄に示すように,標準物質における各腫プロトンの化学シフトの範囲内にほぼ一致して現わ れた。 石炭抽出物と重水索ピリジンとの間にH−D交換が容易に起るならば,石炭llk i.’lzl物のNMR スペクトルから求める各種水素含籔の測定結果並びに石炭抽出物の1薄造解析に重大なる影響を 与える。石炭構造r†iの水田の騰温20∼22。Cにおける重水との重水素交換反応性について研究 した結果,OH基, COOH基等の極性基水素と重水との間ではほぼ定:蹴的に起るが,芳香油及 び脂肪族構造の中の水素についてはH−D交換の起らないことを著者等は認めている14)。ただ 132 4 武谷 悠・俳藤光臣・鈴木 章・横山 ・無 し石炭を炭酸ソーダ重水溶液に懸濁し,水浴上100℃に加熱すると,石炭ri/の極性基水素以外 の水素構造も僅かに重水との重水素交換反応を起こすことを観察した14>。また後述のエチルベ ンゼン,テトラリンの重水素ピリジン溶液について,NMRスペクトルから測定した各種水素 のシグナルの面積強度の値は,実験誤差の範囲内で理論値と良い一致を示している。 更に重水素を供与する熊水索ピリジンのH−D交換反応性については,一般に芳香族及び 脂肪族CH水素と重水の間のH−D交換反応は起り難いという報告がある15)。以上のことから 石炭抽出物の水素と重水素ピリジンの重水索との交換反応については,さらに検討を続けてい るが,ここでは一応無視し得るものとして考察を進める。 2・2 重水素ピリジン中の不純物の影響 この研究の溶媒に使用した重水索ピリジンC,D,N(Merck Sharp&Dohme of Canada社 製,純度98%以⊥)のNMRスペクi・ルをFig.1−2−1に示した。図には重水素ピリジン中に不 TMS 98了65432iOPP.M Fig.1−2−1 NMR spectrum c)f(leしitero−pyricline use(l as the solvent. (TINflE: Tetramethyl.si}ane) 純物として存在する微:鼠の普通ピリジンC、H,Nのシグナルが,化学シフト8.70,7.54,7.22 p.pm.に現われている。石炭抽出物測定の場合には,不純物C5H,Nのシグナルは抽出物中の 芳香族ブロー・ンのシグナルと重なってくる。 よってこの貢水索ピリジン中の不純物C,H5Nに よるプロトンシグナルの補正を次の様にして行なった。先ず.屯水素ピリジン溶媒に,一定母加 えた内部標準物質テトラメチルシランのシグナル面積強度と,:不純物C5H5Nのプロトンシグ ナルの面積強度との割合を,溶媒電水素ピリジンのNMRスペクトルから求める。次いでこの 割舎を基準として,抽出物NMRスペクトルのテトラメチルシランのシグナルの而積強度に対 応する不純物プロトンシグナルの而積強度を,石炭抽出物のナ}二香族プPトンのシグナルの画積 強度から差引いて補正を行なった。 なおOth等16)は電水素ピリジン溶液によって,石炭抽出物のNMR測定を試みているが 溶媒が不純のため失敗している。又Friedel等ま1)は石炭を重水素ピi/ジン溶媒で直接抽出した ために,彼等の抽出物のNMRスペクi・ルは, H,Oプuトンの著しく強いシグナルによって, 抽出物プロトンHa,瓦シグナルの裾に影響を受けている可能性がある。 2・3 石炭抽出物NMR試料調製及びNMRスペクトルの測定条件 一・般に:石炭及び石炭の溶剤抽出成分は,その芳香族性化学構造からみてプロトン含量が低 い。従って石炭ピリジン抽出物の高分解能NMR試料調製は,プmトン濃皮を高めることが要 5 133 NMRによる石炭ピリジン抽出物の構造に関する研究 求される。併し抽出物濃度を高めると,溶液粘度の増加をともない,この為めに緩和効果に影 響を及ぼし,シグナルが幅広いスペクトルとして観測されるなど,定量上好ましくない現象の 起ることが予剋聖される。 このためにNMR試料に供し得る溶1夜粘度の範囲内で,紬出物の適当な濃度を調べた結果 20重鍛%で充分にNMRスペクトルを測定出来ることがわかった。 NMRスペクトルから求め得る各種プuトンの面積強度は,それぞれの含有鷺に比例する が,NMRスペクトル測定の際に飽示1]現象が起っていれば,価積強度とプwトンとの間の定鍛 的関係は得られない。このため抽II=h物のNMRスペクトル測定にはr.f磁場を注意して選定し た後測定を行なった。 なおエチルベンゼン,テトラリンの20重量%・電水素ピリジン溶液について,石炭ピリ ジン抽出物の場合と同一条件で測定したNMRスペクi・ルはFig.1−2−2である。各種プロト ンのシグナルの面積強度の比と理論水素脳病の比とを比較した結果はTable l−2∼2に示すよう に良い一致を得ている。 丁卜∼S H・ H。 H。 (D 丁卜IS 冠a H。 H6 (2} 98了6543210PPM FIg. 1−2−Z NtMR spectra of Ethylbenzene (1) and of Tetralin (2). 〈’rMs : ’1’etramethy]silane) Table 1−2−2. Result of integration of hyclrogen in NiMR spectra of ptire compounds Nydrogen distribution ratio Compouncls gr(,)ups Ethylbenzene Tetralin Theoretical Obtainecl* ,ira .5 一瓦, 2 2.03 端 3 3,03 .瓦‘ 4 2,47 .lfa 4 2.31 ∬fも 4 2.24 :k Values obtained from each peak area of NMR spectrum 5,17 134 6 武谷 感・伊藤光臣・鈴木 章・横山、玉1砿 高分解能NMRを用いて石炭ピリジン抽出物の各種水素の含鍛を定量するに先立ち,定量 方法の各問題点について以上の予備実験結果を得た。以下ピリジン抽出物について轟分解能 NMRスペクトルを測定し,構造解析を行なった。 3. 実 験 NMR測定試料と装置 石炭化度を異にする代表的な北海道炭4樫を選び,ピリジン(関東化学社製,一級試薬)を 抽出溶媒とし,ソックスレー抽出器で抽出液に着色が認められなくなるまで24時間以上常法 によって下国を行なった。石炭抽出物のピリジン溶液から溶媒を留去し,更に水蒸気蒸留によ ってピリジンを除去して得た石炭抽出物を粉砕し,乾燥剤の五酸化燐の上で減圧(!mmHg)下 に70。Cで一昼夜乾燥したものを,石炭ピリジン抽出物試料宣下抽1」二i物試料という)とした。 NMR測定用試料の調製は,肉薄のNMR試料ガラス管(外径5mm,長さ!40 mm)に抽 出物試料150mgを糟取し,別に予め内部標準物質としてテトラメチルシラン約0.4%を加え た電水素ピリジンO.6 ccをマイクロンリンジーによって採取し, NMR試料管に注入する(抽 技1物試料の濃度は約20重量%となる)。試料管下部を冷却しながら直ちに先端部を熔封し,試 料管をよく振雛して抽出物試料を溶解させNMRスペクトル測定試料とする。 NMR測定装置はlil本電子製60 Mc. J N M−3 H−60型NMRスペクトロメータt一一を用 いた。 4. 結果及び考察 4・1抽出物試料 本試料調製により得た抽出物にはピリジン臭はなく,溶剤ピリジンは可及的に除去し得た ものである。原炭及び抽出物の分析値,抽出収:i逢はTable王一2−3に示す。抽出収量は各試料炭 とも原茸に対して16∼!9%(d,a. f.)に朴i当する。また原炭とピリジン抽出物試料について,KBr 錠剤法による赤外線吸収スペクトルを測定し,一例として住吉炭について比較を行なったのが FigJ−2−3である。これによると4零種の抽出物はすべて2920 cm uzi近辺の脂肪族C−H伸縮 振動の吸収強度が原物よりもやや増加を示しているが,そのほかは貯炭種とも原炭スペクトル Table 1−2−3. Analysis of coals and coal extracts (ln weight percentage) Pyridine extracts 〈d. a. t.) Coal (d,a, t.〉 Coal Sohya c H o OH C 70.3 5.3 22,8 10.8 76.5 H O (diff.) 6,7 16.7 OH yielc1 4,2 16.6 Sumiyoshi 75.5 6.2 17.1 7.8 77.9 6.7 15.4 3.9 15.8 rl”aiheiyo 76,7 6,4 16.2 7.6 80.1 7.3 1L.6 4.1 16.7 Yubari 84.0 6.4 8.8 3.2 83.7 6.5 9,8 !.4 18a5 7 135 NMRによる石炭ピリジン抽出物の構造に関する研究 ;ee (2) ,s 一$ 霧 量 ト【 @0 ).s〈e 100 (1) 漏 30ee 2000 leao 360e taeo 1200 ieoo soe boe 補 Wave fiumber CP’1 Fig. 1−2−3 1nfrared spectra of Sumiyoshi coal (1) ancl of its pyricline extract (2). と極めて類似している。即ち著者等の紬出物引引は,原炭のもつ構造をある程度保持している と云える。この点Brown等5)が熱処理を受けた石炭誘導休を試料とし,またOth等8)が抽出 膜鍛5%のベンゼン抽出物を対象としたのとは相違している。 4・2 抽出物試料のNMRスペクトル Fig.1−2−4には一例として住吉炭抽1=[・1物のNMRスペクトルを示した。各種フ。ロトンを示 すシグナルの化学シフトは各石炭の抽出物試料について同じ位i置に現われるが,各種プロトン シグナルの相対強度は下種によって異なっている。芳香族プvaトンの吸収は,化学シフト7.4 p.p.m.の近辺に1”i:1るが,この位1{萱には溶媒電水素ピリジン中に含まれる不純物C5H5Nのプロ トンのシグナルも重なって現われる。抽出物構造中の芳香族側鎖のα位脂肪族プmトンのシグ ナルは2.50 P.P.m.近辺に,更に化学シフトL28及びO.93 P.P.m.の位概にはα位フ。ロトン以外 の脂肪族プvトンのシグナルが,各々独立シグナルとして現われている。抽出物中のOH基プ ロトンは8.5 p.pm.以上の低磁場側に現われる13)と予想されたが, OH基含最の比較的葛い家 谷炭抽出物の場合でさえ観測することが幽来なかった。これは抽出物試料のOH基フ。ロトン含 嶽が比較的低いこと,抽出物中のOH基及びその鯛辺構造の相違によって化学シフトに幅があ 9 Fig. 1−2−4 BT654321 ORPM NiMR spectrum of the pyricline extract of Sumiyoshi coal in cleutero−pyridine. (TMS: Tetramethylsilane) 136 8 武谷 悠・伊藤光臣・鈴木 章・横山 晋 Table 1−2−4. Hydrogen distribution of pyridine extracts calculated from NMR results Parent coals yubari 1 Taiheiyo Sumiyoshi Sohya 瓦、μ■ 0ユ51 O.053 O,064 O.105 塁y離含。d譲旧藩n珊π 0,224 0.183 0.195 0.191 1’fo/Jf 0.625 0,764 0.74! 0.704 * ff=:Jr.十lr.÷lr, るためと考えられる。このことは,抽出物の赤外線吸収スペクトルにおいて3406cm一・近辺 のOH基吸収スペクトルも,幅広いものであったことから推測されるのである。 各種プロトンシグナルの而積強度の測定嬉から,抽出物試料の各種水素含:蹴を求め,Table I−2−3の抽出物の全水索からOH基の水素を除いたものを100とする水素(H)の割合で示した のがTable l−2−4である。 4・3 構造パラメーーター 石炭の化学構造の解明に対しては,純粋物質について行なわれているような絶対構造の究 1媚は現在のところ難かしい。従って石炭の平均構造単位について極々のパラメーターを導入し 構造解析を行なわなければならない。 著者等は石炭抽i71E物のNMRから得た各種プロトンの含量測定値と元素分析値を併用して 芳香族性五,芳香族環縮合度H、 ,t/C(、(芳香族環の水素概換可能位匿の数瓦伽と,芳香族炭素 数C,、との比),芳香族」漿の置換指数σ(芳香族環の置換可能な数に対し,実際に闘葵構造をとっ ている数の比)の3個の構造パラメーターをBrown, Ladner5)に従って採用し,且つ脂肪族側 鎖の長さを表わす指数として,NMRスペクトルより得た脂肪族構造の水素分布から次の構造 パラメーターを新たに設定した。 Ho Ho/H 瓦 凡/丑 これらの構造パラメーターを用いるにあたり,次の各項がピリジン抽出物の構造について 容認されるものと仮定している。1)元素分析値の中でN,Sの存在を無祝する。2)全酸素は芳 香族環に直接結合し,且つディフェニ・一一ルエーテル((〉一〇一《:》),フェニ・・一ルアルキルエーテ ル((:〉一〇一R)型は存在しないこと,即ち大部分の酸素はフェノール性OH基,或いはキノイ ド構造として存在する。3)芳香族構造には,ディフェニール(《)一く》)及びデKフェニール i × /一fO 一CH,=O / x)鞘造は・r−tt・(・・しない・と・・鵬撚・・糸曾てい粥撒イヒ水 ・タ・ 素の・二丁寸く綜卿丁数倦一・・洞・・離以上の三下・・付・水素碑均 数(急一〃・をいずれも・とす・. 仮定!はN,Sの合鍛が微量であるから無視しても大きな誤りはない。仮定2は,これら 9 137 NMRによる石炭ピリジン抽禺物の構造に闘する研究 の抽出物の原寸台酸素基(OH, C・・O, COOH等)は,水酸基及びカルボニル基酸素が金酸素 の約60%をしめている17)。また標準物質についてエーテル酸素の隣接脂肪族プロトンのシグ ナルは,化学シフトが3.0 P.P.m.より低い側の磁場に襯測されるが,4炭種の抽出物のNMR スペクトルの中にこのシグナルは認められない。ピリジン抽出物について仮定3に関する資料 は未だ殆んど得ていないが,ディフェニ・一ルメタン構造の標準物質について,メチレンプロ下 ンの化学シフトは3.7 P.Pm,近辺に現われるのに,各1}1咄物のNMRスペクトルにはこの附近 に吸収を認めることができない1。仮定4は,Brown等)・ls>が蝦も可能姓ある摘として用いて いるx・= ?」 =・2を,本研究においても選んだのである。併し彼等が対象とした試料と著者等のも のとは相違しており,また石炭構造中に環状1]旨肪族が電要な構成要素をなしていると需う最近 の:報告正9}・2a)もあり,今後さらに検討を要する。以上の各仮定の重:†:奪には未解決の点もあるが,石 炭ピリジン抽出物の構造解析の第一近似法として採用したものである。 Table l−2−5に各抽出物の構造パラメータe,f,,, a, H。・u/(7a,」鴎/瓦の数値を示した。また Table 1−Z−5. Structural parameters and mean structure of pyridine extracts Parent coal Yubari Taiheiyo [ Sumiyoshi Sohya ノ1、 O.61 O.50 O,53 O.55 Structural parameters a 0.58 0.79 0,79 0,7! of pyridine extractS .Zlra・u/(」a 0.54 0.55 0,58 O.66 .ノ:ημ垢, 2.9 4,2 3.8 3.7 Mean structure of pyridine extracts: @ a) Estinユate(I number of condensed . ■ arOlnatlc rmgS 64 65 @ b>Number・f C atoms in aliphatic 45 5−6 @ 5 @ C.chain* * (b)¥(.lfo/Jra)十1 Table 1−Z−6. Degree of substitution of the aromatic system in pyridine extracts Sohya Yubari Taiheiyo atotal O.58 O.79. Oal 0.31 O.36 O.31 0.26 tig e,27 e,43 0.48 0.45 parent coal SLIMiYOS}li Degree of substitution of aromatic system in pyridine extracts . O.7 9. O.71 Ototai : Totai substittition ; aai : Aliphatic substitution ; ao : Substitution by oxygen contammg groups. * その後,他のピリジン拙出物のNMR測定でC%の低い草炭,十勝亜炭の抽鵠物について,化学シフ ト3.70 p.p,m.に弱いスペクトルを観測した。 138 IO 武谷 感・伊藤光臣・鈴木 章・横山 晋 Table I−2−6は側鎖置撞1構造パラメt一一ターを脂肪族構造のもの(σ。♂)と,含酸素基構造のもの(a・) とに分けて表わしたものである。 Table l−2−5において, f“は太平洋炭抽珪1物のC%80迄は055∼0.50であるが夕張炭ピ リジン抽出物では芳香族性1ま増す。環縮合度Ha zt/C(tの植は,原炭の石炭化度の進行に従って 減少を示し,縮合多環芳香族構造の方向へと進んでいる。また脂肪族側鎖の長さは殆んど岡じ 程度であるが,夕張炭抽出物では側鎖が短かくなって.いる。 石炭化度が相違しても,各石炭からのピリジン抽出物は類似の構造のものが抽出される傾 向があることを以前に認めた10)。本研究に於いても石炭及びピリジン紬駄物の元索分析値の比 較からは同様の傾向が認められるが,NMRの結果からは抽出物の構造パラメーターに,原炭 のC%の糟違による変化が現われている。 4・4 ピリジン抽出物の平均構造単位 上に求めた構造パラメーターの指数をもとに,抽出物の平均構造単位を更に;ミ体的な形で 考察するために,Table L2−7には種々の芳香族縮合環モデル物質のHaz‘/C(、値を掲げた。 Table 1−2−5とTable I−2−7のH。 et/C(tを比較することにより,夕張炭抽出物の芳香族環数は平 均約6環程度となる。更にこれらの芳香族環に付いている脂肪族側鎖及び含酸素基の置換は, 躍換可能位置数の約6割をしめている(Table I−2−6)。いま仮りにディベンツピレン型の6環構 Table IL2−7 .ltLt・cafCa of various aromatic substances Aromaヒ1c rubstances ○ cO CCO 審 舘 C。 Ha、 Rn H%、 6 6 1 1.00 10 8 2 0.8G 14 10 3 0.召 14 10 33 P2 W 18 12 4 18 12 445 P6 PG O.62 Q0 P2 O.60 20 12 5 0.60 22 12 6 0.55 24 12 了 30 14 9 Rn : Number of aromati¢ rings. 0.了1 O.6了 0.6了 α6了 0.50 0.4了 ll NMRによる石炭ピリドン捕出物の構造に関する研究 139 造を考えるならば約7個所で置換されていることになり,その内脂肪族側鎖による躍換は約4 個所で,他は含酸素基羅換となる。また脂肪族側鎖構造は,構造パラメv一ターH。IHIaの指数に 1を加えた整数値を取り,約4個の炭素数から構成されていることになる。 ・ 太平洋一興出物の平均縮合芳香族環数は約6環,住吉門口出物は5∼6環,宗谷炭抽出物で は4環程度とみなされるee。 上に得た各構造パラメーターは構造単位の平均的な値である。実際は構造に可なりの福を 持っていることであろう。又脂肪族構造については広幅法NMR,その他の研究で脂環構造が 石炭構造の一部を構成しているとも云われている19)・20)。上に得た構造パラメP一・ターσ。z,]騰/嵐 の値は脂環構造をも含めた平均構造単位の指数とみなすべきである。また実際の抽出物構造は 平均単位体の結合構造として考えられるので,脂肪族側鎖の長さは,平均構造単位長さの2倍 の炭素鎖として存在するという見方も否定出来ない。 以上本研究は石炭の化学構造研究の一環として,ピリジン抽出物に高分解能NMR法を適 用し,第一一一近似の構造解析を初めて行ない,その平均構造単位の知見を得たものである。 本研究においてNMRスペクトルの測定を抵当された下川繁三助手に深く感謝する。 (昭和38年4月 日本化学会第16年会において発表) 文 献 !) R. E. Richards and R. W. Yorke: J. Chem. Soc.,1960, 2489. 2) W. R. Ladner and A. E. Stacey: Fuel, Lon., 1961, 40, 295. 3) Y. Sanada and 1{. Honda: Fuel, Lon., 1962, 41, 437. 4> W. R. Ladner and A. E. Stacey: 5th lnternational Conference on Coal Science, Cheltenham, 1963. 5) 」. K. Brown and W. R, Ladner: Fuel, Lon., !960, 39, 87−96. 6) R. A. Friedel: J. Chem. Phys., 31, 280, (1959>. 7)H.S. Rao, G. S. Murty and A工ahiri:Fuel, Lon.,!960,39,263. 8) 」. F. M. Oth and H. Tsehamler: Fuel, 40, 119−22, (1961). 9) J. F. M. Oth and H. Tschamler: BrennstoffChemie, 1962, 43, 177. 10)武谷悠・久郷隠夫・牧野和夫・手甲正孝;工化誌,61,No.2,206,(1958). 11) R. A. Friedel and 1{. Retcofsl〈y: Proceedings of the Fifth Carbon Conference, Volume II, 149, (1963). 12) G. Takeya, M. ltoh, A. Suzuki and S. Yokoyama: Bull. Chem. Soc. Japan, 36, No. 9, 1222, (1963). 13)池上恒男氏 (東北大)よりの私信(未発表). 14)横山晋・牧野和夫・伊藤光匝・武谷懇;日月会第15年会,京都,(1962.4). !5) W. R. }larp. and R. C. Eiffert: Anal. Chem. 32, NQ. 7, 794, (1960). 16) 」. F. M. Oth, F... de Ruiter and H. ’1−schamler: Brennstoff−Chemie, 42, 378, (1961). * 夕張炭,住吉炭各氏日満物の芳香族縮合工数は,その後の研究によってここに提耕したものよりやや小さ な値となるようである。このことはEi本化学会第3回NMR討論会(1963・11月)で,口頭発表の際に 修正したが詳細はおって報告する。 140 武谷 慈・伊藤光臣・鈴木 章・横山 習 12 17)武谷憾・牧野和夫・横山習:H化会第14年会,(/96!);武谷懲・伊藤光距・牧野和夫・横江【普;北大 二r二石汗究報告,35, 123,(1964). 18) 1), W. van Krevelen: Fuel, Lond., 42, 427, (1963>. ’ 19) W. R. Ladner and A. E. Stacey: Fuel, Lond,, 1961, 40, 452. LO) 1. G. C. Dryden,: ll uel, Lond., 1962, 41, 30!.