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レジャー・アウトドアに おけるスポーツの事故

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レジャー・アウトドアに おけるスポーツの事故
連載 基礎から学ぶ「スポーツと法」
No. 7
レジャー・アウトドアに
おけるスポーツの事故
齋 雄一郎
1.はじめに
スキューバダイビング、ハンググライダ
スポーツ法政策研究会、日比谷見附法津事務所、弁護士
装備の不具合や装着ミスが原因となって事
故が発生することがあります。
4.民事の法律問題
(1)債務不履行と不法行為
ー、登山などは、レジャーやアウトドアの
さらには、専門家の指導監督のもとに行
事故が発生した場合に、被害者から加害
一環として、一般の人々にも親しまれてい
われるとはいえ、特別な訓練を受けていな
者に対して損害賠償の請求がなされること
ます。これからの季節、とくにリゾート地
い、知識技術面でさまざまなレベルの一般
があります。その際の法律的な根拠は「債
などにおいて、これらのスポーツに参加さ
の人が参加するため、経験の未熟さが原因
務不履行」または「不法行為」です。
れる方やインストラクターや指導員として
となった事故が多発しています。
「債務不履行」というのは、簡単に言えば、
かかわる方々も大勢いらっしゃることと思
このように、レジャー・アウトドアにお
契約関係にある当事者間において債務者2)
います。レジャーでスポーツを楽しむ、ま
けるスポーツには、常に危険が内在してい
が債務の履行をしないときに、債権者3)
た、インストラクターとしてかかわる際に
ます。これらのスポーツの魅力は、そのよ
がそのことによって生じた損害の賠償を請
も、事故が発生してしまった場合には、法
うな危険性が内在されている点にあるとい
求するというものです。
律問題が生じる可能性があります。
っても過言ではありません。参加者も、常
次に「不法行為」というのは、他人によ
に危険が内在しているということを認識し
って権利の侵害がなされた場合に、たとえ
110号にて掲載されましたが、今回は、とく
たうえで取り組んでいるものと思われま
契約関係がなくとも、被害者から加害者に
にレジャーやアウトドアで行われるスポー
す。したがって、そこで事故が起こった場
対し、侵害によって発生した損害の賠償を
ツにおける事故に焦点を当てて、スポーツ
合、実際に生じた損害の責任をすべてイン
請求するというものです。参加者が主催会
と法律について考えてみたいと思います。
ストラクターや指導者に帰することが妥当
社の経営するショップでツアーの申し込み
なのかという視点も必要となります。
を行い、主催会社が、その従業員たるイン
スポーツ事故については、本誌109号、
2.レジャー・アウトドアに
おけるスポーツの特色
レジャー・アウトドアにおけるスポーツ
には次のような特色が考えられます。
ストラクターが参加者を引率してツアーを
3.基本的な法律関係
事故が発生した場合に問題となる法律関
係は、大きくわけて2つあります。
行うことを内容とするサービスを提供し、
そのサービスの対価として参加者が料金を
支払う場合を考えてみると、契約関係は、
1つは、レジャー・アウトドアにおける
参加者と主催会社の間に生じますから、債
スポーツにおいて死亡事故が発生した際
務不履行に基づく損害賠償は主催会社に対
スキューバダイビングであれば空気のな
に、遺族がインストラクターやツアーの主
する関係でのみ問題となります。
い水中、ハンググライダーであれば空中、
催会社に対して損害賠償を請求する場合で
ロッククライミングであれば岩壁といった
す。これが「民事」の法律関係です。
まず、これらのスポーツは自然環境の
なかで行われるという特色があります。
自然環境のなかで行われます。そのために、
もう1つは、インストラクターの指導上
常に危険と隣り合わせであり、ひとたび事
のミスが原因で死亡事故が発生した場合
故が発生すると生命や身体に重大な危険が
に、そのインストラクターが業務上過失致
生じうることがあります。また、このよう
死罪という罪名により、逮捕起訴され、刑
な自然環境のなかで行われることから、特
事裁判において有罪か無罪か1)が判断さ
殊な装備を使用することが多く、そのため、
れる場合です。これが「刑事」の問題です。
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これに対し、不法行為については、契約
関係の有無を問いませんから、主催会社お
よびインストラクターに対する関係で問題
となります4)。
(2)過失相殺5)
過失相殺とは、被害者にも事故の発生や
損害の発生について落ち度があるときに
Sportsmedicine 2009 NO.112
基礎から学ぶ「スポーツと法」
は、損害額を決めるにあたってこの落ち度
はないこと。
の相互協力を要する生命身体に危険のある
を考慮することができるというものです。
・海上に浮上できない事態が発生したとき
スポーツであるから、自己の身体の安全確
損害賠償制度の目的は損害の公平な分担
には、携行する酸素がなくなると、必
保については、自らも十分に注意すべきで
という点にありますので、被害者にも責任
然的に溺死するという重大な結果を招
あり、どのような確保体勢をとり、手を離
があり、損害のすべてを加害者に賠償させ
来することが認められる。
せばよいか説明を求めるべきであったのに
ることが公平の観点から望ましくない場合
よってこの裁判の被告は、a.ダイビン
これを怠り、漫然被告の言うがままに手を
には、損害賠償の額の額を決めるにあたっ
グ講習を主催した会社(スポーツクラブ)
、
離した点について落ち度があると言わざる
て被害者の過失が反映されるのです。
b.現地ダイビング業者でaからツアーガ
をえない。よって、被害者にも過失を認め、
レジャー・アウトドアにおけるスポーツ
イドの委託を受けた会社、c.bのアルバ
賠償額を3割減額となった。
は、そもそも危険性がある状況において行
イトとしてガイドを務めていた者の3者と
②超軽量飛行機の飛行クラブでの訓練中
なり、判決としては、aに対しては債務不
の事故(東京地裁平成3年8月8日)
また、本来スポーツは自己責任で行われ
履行(ファンダイビングサービスを提供す
・本件の超軽量動力機は構造上簡単で相当
るべきであるところ、被害者本人のミスが
る契約上の義務があり、その履行にあたっ
危険を伴うものであるところ、原告
大きな原因となって事故が発生する場合が
て参加者の安全を確保すべき注意義務があ
(被害者)はこれを承知のうえで入会し
多数あります。そのために、レジャー・ア
る)
。bおよびcに対しては不法行為が認
ウトドアにおけるスポーツの事故に関する
められた。
多くの裁判例において過失相殺が問題とな
②インストラクターが負うべき注意義務
6)
われるという特色があります 。
っています。
(東京地方裁判所平成16 年7月30 日判決、
①判決と同じもの)
(3)裁判例
事前にファンダイビングに参加するダイ
訓練を受けたものであること。
・また、一応の操縦方法、危険回避の方法
等の指導を受けていること。
・また、いったん飛行訓練等に入った場合、
具体的な場面における操作方法等は操
縦者自身に任せられていたこと。
・原告は、本件事故前にも、同様に、失速
続いて、実際の裁判例をみていきましょ
バーの能力や海況等を十分に把握し、これ
う。上記で説明したレジャー・アウトドア
に応じた的確な潜水計画を策定して、その
におけるスポーツの特色は裁判においてど
計画に沿った適切な監視態勢を採ったうえ
・本件操縦機に乗る際、本件操縦機が従来
のように評価されているのでしょうか。
で必要かつ十分な監視を行い、万一異常な
のものと違ってパワーがある旨聞かさ
事態が発生し、あるいは発生の危険を予見
れていること。
[債務不履行および不法行為]
①自然環境で行われるがゆえの危険性
(東京地方裁判所平成16 年7月30 日判決)
・海中では、空気を自由に摂取することが
できず、その環境自体が生体にとって
危険に満ちていること。
・海中での移動は、強い潮流、危険な海中
生物などの危険が常にあること。
・危険を避けるために、四囲の状況、自己
事故を起こしていること。
した場合には、直ちに重大な事故の発生を
・本件事故発生前に本件操縦機による一回
回避すべく適切な措置をとるべき注意義務
ずつの訓練を行い、本件操縦機の性向
を負うと解する。
について知る機会があったこと。
③器具に関する事故(東京地方裁判所昭
結局、本件事故原因の相当部分は原告の
和63 年2月1日判決)
スキューバダイビングツアーにおいて、
操縦未熟にあると認められる。よって、被
害者にも過失を認め、賠償額を7割減額と
潜水用高圧空気ボンベのバルブにレギュレ
なった。
ーターを取り付けていたところ、ボンベが
③スノーボードにおける事故(名古屋地
破裂して参加者が骨折した事故について、
裁平成13 年7月27 日)
の位置を確認するには、自らの視覚に
裁判所は、引率指導者には、外観検査を適
ゲレンデでジャンプをしたスノーボーダ
依存するほかはないが、場所を特定す
切に行わずボンベに高圧空気を充てんした
ーが、段差の下にいたスクール受講中のス
る目安に乏しく、透視度、透明度、視
点やボンベの錆を十分点検しないで使用さ
ノーボーダーに激突した事故について、原
界が制限され、音声によって会話がで
せた過失があると判断した。
告(被害者)も被告(加害者)と同じく本
件段差をスノーボードでジャンプしたにも
きないという制約があるため、同伴者
からの情報を得る方法が限られ、事故
が発生した事実自体を他の者に知らせ
ることが容易にはできないこと。
[過失相殺]
①ロッククライミングの指導中の事故
(横浜地裁平成3年1月21 日判決)
かかわらず、着地に失敗して転倒した後、
続いてジャンプしてくる者の存在に注意を
払わず、体勢を立て直して立ち上がり、着
・危険や事故が発生した場合、即座に海上
原告(被害者)は、初心者であったとは
地した場所付近から、漫然と少し移動しつ
の安全な場所に退避することも容易で
いえ、岩登りは、パーティーを組む者同志
つコーチのアドバイスを聞いていたのであ
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り、原告が、続いてスノーボードでジャン
業務の性格、冬山関係者の供述等に照らす
るスポーツでの事故に焦点を当てて、法律
プして来る者を予想して、衝突を回避する
と、本件の具体的状況の下で「被告人は、
や裁判についての説明をしました。これら
ため、本件段差から直ちに遠ざかるなど、
本件ツアーのガイドとして、本件雪崩の発
のスポーツは危険性を内在しているもので
安全に配慮していた事実は認められない。
生およびその雪崩が本件休憩地点に到達し
はありますが、裁判例において認定された
よって、被害者側にも過失を認め、賠償額
遭難の事態となることを当然予見すべきで
具体的な注意義務違反の内容などを参考に
を3割5分減額となった。
あり、かつ、そのように予見することが十分
して、安全に十分配慮して楽しんでいただ
可能であったと認められる」とされました。
きたいと思います。また、スポーツ事故の
②夜間潜水の講習指導中の事故(最高裁
報道などに接する際には、裁判所がどの点
判所平成4年12 月17 日判決)
を捉えて義務違反であると判断しているの
6.刑事の法津問題
次に、刑事の法律問題についてお話しし
ます。レジャー・アウトドアにおける事故
夜間潜水の講習指導中に受講生が死亡し
で問題となるのは、おもに「業務上過失致
た事故につき指導者が「業務上過失致死罪」
8)
死傷罪」 という犯罪です。
生を見失うおそれがあること、受講生の中
上の地位に基づき反復継続して行う行為で
には技術が未熟で不安感などから空気を通
あって、一般に人の生命身体に対して危険
常より多量に消費し、指導者からの適切な
を伴うものと言われていますが、インスト
指示、誘導がないとパニックになり溺水す
ラクターがツアーの客をガイドしたり、講
る可能性があることから、指導者としては、
習を行うのはこの業務に該当します。
受講生の空気残圧量を把握すべく絶えず受
な争点となります。
「過失」とは、犯罪事実の認識又は認容
講生のそばで動静を注視し、受講生の安全
を図るべき業務上の注意義務があるのに、
不用意にその場を一人移動して受講生のそ
のないまま、不注意によって一定の作為・
ばを離れ、受講生を見失った過失がある、
不作為を行うことです。つまり、
「結果の
とされました。
発生を予見する可能性が認められ、また、
③ダートトライアル競技の練習中に起き
結果を回避する可能性が認められることを
た事故(千葉地裁平成7年12 月13 日判決)
前提に、結果を予見すべき義務および結果
なお、レジャー・アウトドアにおけるス
を回避すべき義務が認められるにもかかわ
ポーツとは少し異なりますが、ダートトラ
らず、漫然とそれらの義務を果たさなかっ
イアル競技の練習中に起きた事故につい
たこと」が過失とされるのです。
て、次のような裁判例があります。
下り急カーブを曲がりきれず、車両が防
(1)裁判例について
それでは、レジャー・アウトドアにおけ
護柵に激突し同乗者が死亡した事故につき
運転者が「業務上過失致死罪」に問われた
るスポーツ事故に関する刑事の裁判例をみ
事件で、ダートトライアル競技の性質上、
てみましょう。
転倒衝突等によって生命身体に重大な損害
①雪山散策ツアー中の事故(札幌地裁小
が生じる危険が内在していることを前提
樽支部平成12 年3月21 日判決)
に、同乗者が、運転者が技術の限界に近い
雪山散策ツアー中に雪崩が発生し、ツア
運転をし、暴走転倒などの一定の危険を冒
ーに参加していた女性が死傷した事故につ
すことを予見していることもあるから、同
き、ツアーガイドが「業務上過失致死傷罪」
乗者はその危険を自己の危険として引き受
(死亡者と傷害者が出たため、業務上過失
致死と業務上過失致傷とが問題)に問われ
けたとみることができ、違法性の阻却が認
められるとされ無罪とされました。
た事件で、雪崩の発生が予見できたかが問
題となったが、現場の地形、積雪状態等、
被告人の知識・経験・認識のほか被告人の
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はないでしょうか。
に問われた事件で、夜間で視界が悪く受講
ここで、
「業務」とは、各人が社会生活
この犯罪においては、過失の有無が大き
か、注目してみるとより理解が深まるので
7.結語
〔参考文献〕
伊藤堯ら編『スポーツの法律相談』
(青林書院)
中田誠著『商品スポーツ事故の法的責任』
(信山社)
我妻栄ら著『コンメンタール民法』
(日本評論社)
内田貴著『民法Ⅱ、Ⅲ』
(東京大学出版会)
〔注釈〕
1)量刑も判断されます。
2)ここでは主催者などの加害者です。
3)ここでは被害者です。
4)債務不履行と不法行為の差異については、本
誌110号を参照して下さい。
5)民法418条 債務不履行について「債務の不履
行に関して債権者に過失があったときは、裁判所
は、これを考慮して、損害賠償の責任およびその
額を定める。」民法 722 条2項不法行為について
「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを
考慮して、損害賠償の額を定めることができる。
」
6)競技スポーツにおいても、対戦相手との接触
など常に危険がつきものですが、アウトドアにお
けるスポーツはその環境自体が危険を内包してい
る点に特色があります。
7)この事故では、スクールの主催会社の過失も
被害者側の過失として斟酌されています。
8)刑法第211条1項「業務上必要な注意を怠り、
よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若し
くは禁錮または百万円以下の罰金に処する。重大
な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
」
スポーツ法政策研究会
●入会方法
参加資格/幹事の承認を得たうえで参加していた
だきます。
年会費/5,000円
入会申し込み/会入会希望の旨を下記事務局ま
で、電話、FAX、E-mail にて申し込み、所定の申
込書に必要事項を明記し返送する。
●事務局
〒104-0031
東京都中央区京橋1-3-3 柏原ビル2階
京橋法律事務所内「スポーツ法政策研究会」
事務局長/片岡理恵子
TEL:03-3548-2073
FAX:03-3548-2071
E-mail:[email protected]
http://www.keystone-law.jp/sports/sports-index.htm
本稿では、レジャー・アウトドアにおけ
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