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「余暇・レジャー」概念の社会学的考察

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「余暇・レジャー」概念の社会学的考察
産業・労働・組織(2)
「余暇・レジャー」概念の社会学的考察
――余暇社会学/レジャー・スタディーズの再検討を介した概念整理――
東海大学 小澤考人
1. 目的
「余暇・レジャー」とは何か。本報告ではこの単純な問いについて考える。2020 年東京五輪
を見すえ観光立国への取組みやツーリズム研究が活発化する中、基礎概念の一つである「余暇・
レジャー」については未だ反省が不十分なままである。実際、「労働から解放された自由時間」
という通念では、
「労働」の対概念(=時間概念)として捉えられる一方、労働への従事を免れた
「レジャー・クラス」にも適用される点、また富裕層を指し示す一方、失業対策や福祉政策の面
でも援用される点など、対極の振れ幅をもつ概念として「謎」を伴っている。かくも空虚で過剰
な概念に対して社会学的考察を敢行することにより、概念整理を行うことが本報告の目的である。
2. 方法
この作業を遂行すべく既存の研究分野として 1950~60 年代の余暇社会学、および 1970 年代
半ば以降今世紀に新潮流を築いたレジャー・スタディーズを対象とする。国際研究の一拠点とし
てレジャー研究協会(LSA)を擁する英国を中心に理論的な研究動向に沿って検討を行った。
3. 考察
余暇社会学からレジャー・スタディーズへという理論的転回を追跡すると、次のような視座の
転位が浮かび上がる。①「誰もが余暇・レジャーをもつ」という余暇社会学の前提に対して、む
しろそれを「万人が等しくもてない」という現実認識を出発点とする。②余暇・レジャーとは「個
人が自由に使える時間=行為」であるとして行為論的アプローチに立つのではなく、むしろ「そ
の使い方/使われ方」をめぐる不均等な差異や社会的分割に対して問いの焦点を向ける。③そこ
で問題となっているのは、「余暇・レジャーの使い方/使われ方」それ自体よりも、むしろ現在
そうであるような差異や不均等を伴う問題の構造とそれを生み出す社会的条件である。
このように、ジェンダー・エスニシティ・階級から失業問題に至るまで、異なる他者間の分割・
差異の提示を介した批判的な問題提起を跡づけるとき、特に失業問題(enforced leisure)という
反照点を介して、そこから派生する重要な論点の一つとして、「余暇・レジャー」とは万人が均
等にアクセスできない「価値」
(資源)であるという側面が浮かび上がる(Rojek[2005])
。
4. 結論
一連の考察を介して、
「余暇・レジャー」とは単に「労働しない時間」なのではなく、
「労働す
る必要のない時間」であり、その本質的条件とは「カネ(金)とヒマ(時間)」の総体にある点、
すなわち(自ら及び先行世代の他者を含む)労働の対価・資産(=富)を前提とした余剰(カネ
とヒマ)という意味で「労働より以上のもの」であることを指摘できる。その意味で、もっぱら
時間概念としての通念は、一種の近代的錯視をはらむ価値転倒の産物でもあるといえる。
以上をふまえて本報告では、
「労働する/しない」という位相の諸局面を再検討しつつ、労働・
失業・福祉との対照を介して、「余暇・レジャー」概念の布置の画定を試みると同時に、社会学
的なレジャー研究のポテンシャルとして、経験的次元で余剰の社会的配分を問う観点から理論的
含意に言及する。
【文献】
小澤考人, 2013, 「
「余暇」(leisure)とは何だろうか?:価値論的考察の試み」
『余暇学研究』16, 50-64
――――, 2015, 第 5 章(渡辺潤編『レジャー・スタディーズ』世界思想社、2015 年)72-86
Roberts, Kenneth, 2006, Leisure in Contemporary Society, 2nd ed. CABI
Rojek, Chris, 2005, Leisure Theory: Principles and Practice, Palgrave Macmillan
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