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JICA(国際協力機構)
第 20 号 2009 年 4 月 30 日
アマパ州の氾濫原における森林資源の持続的利用計画
プロジェクト通信(最終号)
プロジェクト事務所: Avenida Procópio Rola, 90 Centro Administrativo, Macapá, Amapá
TEL&FAX:+96-3212-3121
CEP:68900-081 (アマパ州森林院内)
E-mail(担当:渡邉):[email protected]
プロジェクト・エリア
アマパ州マザガウン郡の氾濫原地帯(マラカ地
区・マザガウン・ベーリョ地区)
プロジェクトの上位目標
アマパ州氾濫原の森林資源の持続的利用に
よりプロジェクト・エリアに居住する川岸住民の
生計が改善される。
プロジェクト目標
氾濫原にあるプロジェクト・エリアにおいて、川
岸住民の生計向上に資する森林資源活用の
方法が改善される。
プロジェクトにより期待される成果
① アマパ州政府内にプロジェクト・エリア内の
氾濫原における森林資源の持続的利用の
ための技術的枠組が構築される。
② 森林の持続的管理が川岸住民によって行
われる。
③ アグロフォレストリー・システムが川岸住民
によって確立される。
④ 川岸住民と家具業者の連携が構築され、
強化される。
■ はじめに
本プロジェクト最後の公式行事となる第 8 回合同調整委員会(JCC)が 4 月 17 日に開催されました。アマパ州政府を代表し
て経済開発特別局(SEDE)のファリアス局長、プロジェクトダイレクターで森林院(IEF)のクーニャ所長他、実施機関、協力機
関の代表者が出席。日本側は JICA ブラジル事務所の芳賀所長、井上所員、そしてプロジェクトの JICA スタッフ全員が出席し
ました。さらに川岸住民の代表や州政府環境警備隊の隊長もオブザーバー参加しました。
議題は、①氾濫原における森林資源の持続的利用のための基本方針の承認、②プロジェクト活動実績の承認、③2008 年
11 月、12 月に実施されたプロジェクト終了時評価における提言の対応、進捗状況についてです。
各カウンターパート機関の代表者からは、それぞれ活動の継続、発展について力強い発言がありました。また懸案となって
いる土地問題についても、この件に関係の深い連邦政府機関の植民農地改革院(INCRA)アマパ支所より、去る 3 月に就任し
た新所長も出席し、引き続き協力していくことを述べました。
プロジェクト通信は本号が最後。改めてプロジェクトの背景や実績、課題などを振り返ってみたいと思います。
第 8 回 JCC(写真左端は環境警備隊隊長)
左から、森林院所長、SEDE 局長、JICA ブラジル
事務所長、農村開発院所長代理
実施機関:アマパ州政府 森林院、農村開発院、商工鉱局
実施期間:2005 年 11 月−2009 年 4 月
プロジェクトの活動実績について説明・協議
協力機関:アマパ州政府 経済開発特別局、農村開発局、科学技術局、環境局他
日本側投入:チーフアドバイザー、森林管理、アグロフォレストリー、木材加工の各専門家、必要機材、他
プロジェクトの背景
ブラジルは世界の熱帯雨林面積の約半分を占めるアマゾン森林地帯を有して
います。しかし近年は森林破壊が進み、その面積は急速に減少しています。ア
マゾン河とその支流域に広がる氾濫原は、豊富な森林資源に恵まれ、貴重な生
態系を有していますが、その一方、氾濫原も木材伐採による大きな人為的圧力
プロジェクトの事前評価調査(2004 年)
を受け深刻な森林資源の劣化が進んでいます。
アマパ州の氾濫原地域では大規模な森林伐採は進んでいませんが、氾濫原地域に居住する住民(川岸住民)は木材
の伐採に生計の大部分を依存しており、不安定な経済基盤の上で生活しています。
一方、川岸住民が伐採する木材の主要販売先である州都マカパ市は、家具産業を地場の特産として潜在的可能性を
もっています。しかしながら、木材の利用が効率的でない上、木材の加工技術、家具の製造技術も低いため、国内の他
地域と比較しても競争力が低いのが現状です。このため川岸住民は木材を非常に安価な価格で販売せざるを得ない状
況になり、生計のために無計画な伐採を行う悪循環につながっていました。
このような住民による無計画な伐採等による不適切な森林管理、木材利用が続けば、アマパ州に残された氾濫原地域
の貴重な森林資源がこれまで以上に急激に減少し、川岸住民の生活にも多大な影響が生じることが想定されましたが、
アマパ州政府においては、その氾濫原あるいはそこに成立する森林の管理について規定されている包括的な法律や政
策はなく、適切に管理するための体制も存在していませんでした。そのためアマパ州政府は同地域の森林保全に関する
支援を、ブラジル政府を通じ JICA に要請しました。
プロジェクトの方針
この要請に基づき JICA は、2004 年 3−4 月、同年 8−9 月、2005 年 7 月と、合計 3 回の事前評価調査を実施し、以下
の基本方針を定めました。
(1) 森林資源の活用方法の改善と川岸住民の伐採依存型の生計を改善すべく、行政においては持続的な森林管理を
支えていくために必要な基本方針の策定、体制づくりに協力する。
(2) その方針に基づき、アマパ州各行政機関が主体となり、代替手段として既存研究結果などを活用したアグロフォレ
ストリー技術を普及する。
(3) また川岸住民が計画的・持続
的に森林伐採を行えるように家
具加工業者と契約生産を実施
するためのモデル構築に関す
る支援を行う。
こうして「氾濫原にあるプロジェク
ト・エリアにおいて、川岸住民の生
計向上に資する森林資源活用の
方法が改善される。」を目的に、
2005 年 11 月、プロジェクトがスター
トしました。
アマゾン河口付近の氾濫原
このような増減水を
1 日に 2 回繰り返す
プロジェクトの投入・実績
氏名
JICA 派遣専門家・スタッフ
担当分野
森林管理
2005.11.2-2006.9.27
2006.11.20-2007.3.10
2007.4.29-2007.12.21
加藤 慎一
木材加工/業務調整
2005.11.2-2009.4.28
高松 寿彦
アグロフォレストリー
2006.6.7-2009.5.1
稲田 徹
社会経済調査
2005.11.30-2006.3.18
豊岡 宣紀
市場調査
2007.2.14-2007.3.28
渡邉 満
チーフアドバイザー
2008.2.7-2008.12.21
2009.3.14-2009.5.3
佐藤 卓司
森林管理
2008.3.12-2008.3.21
2008.6.28-2009.4.18
(途中不在期間含む)
塚地 俊裕
チーフアドバイザー/
本プロジェクトにはこれまでに合計で7名の専門家が派遣され
ました。最初のチーフアドバイザーは塚地俊裕さんで、プロジェ
クトの立ち上げから現在の実施体制へ移行するまで活躍されま
派遣期間
した。長期専門家(派遣期間連続1年以上)は加藤さんと高松さ
んです。加藤さんは業務調整員を兼任し、唯一、プロジェクトの
スタートから終了まで本件に参加しました。高松さんと佐藤さん
はそれぞれ長崎、東京の出身ですが、30 年以上前にアマゾン
へ移住され、今はアマパ州の隣、パラー州在住です。
専門家とは別に、このプロジェクトでは通訳・業務補佐2名が
派遣されました。第5号通信でも紹介した斉藤武雄さんと渡辺
エジムンドさんです。斉藤さんはサンパウロ出身、渡辺さんはパラー州出身の日系二世です。日本側とブラジル側の調整
や複雑な事務作業、危険を伴うプロジェクト・エリアでの現地作業において二人の役割は大きく、その活躍がプロジェクト
を最後まで支えました。
本邦研修
本邦研修には 3 年間で合計 6 名が派遣されました。
氏 名
所属先(派遣時)
研修テーマ
研修期間
Ronaldo Benedito de Souza
農村開発院(RURAP)
地域住民の生計向上を組み込んだ自
2007/2/26‐
Mario Roberto Marinho
森林院(IEF)
然環境プロジェクト(集団研修)
2007/3/13
Nonato Picanço de Sousa Corrêa
全国工業職業訓練機関(SENAI)
木材加工技術研修とアマパ州におけ
2007/7/25‐
Ailson Picanço de Sousa Corrêa
全国工業職業訓練機関(SENAI)
るブランド化戦略
2007/9/23
Antônio Correia da Cruz
農村開発院(RURAP)
自然農業と農業普及研修
2008/7/1‐
Marcos Antonio Parro
農村開発局(SDR)
2008/8/1
機材
JICA からアマパ州政府へ供与された機材は、車輌(2台)、ボート(4台)、パソコ
ン(デスクトップ、ノートブック)、家畜飼料用の粉砕機、苗床用寒冷紗、森林管理
計画作成用 PC ソフト、木材加工用機械など合計で 75 項目です。関係機関が多い
ため、州政府を代表して SEDE が一括して管理することになりました。
ブラジル側カウンターパート
プロジェクト・エリアで大活躍したボート
ブラジル側からは非常に大勢の州政府機関職員、連邦政府機関職員が本プロ
ジェクトに参加しました。そのうち、JICA 専門家と直接業務を行ったプロジェクトダ
イレクター、マネージャー、技術スタッフ、総務スタッフは延べ 32 名でした。
カウンターパートは公務員なので、3年間の活動継続はなかなか難しいのです
が 、 各 実 施 機 関 で あ る 森 林 院 ( IEF ) 、 農 村 開 発 院 ( RURAP ) 、 商 工 鉱 局
(SEICOM)の技術スタッフ代表(各1名)は、プロジェクトの準備フェーズから最後
まで参加しました。この3名を中心にプロジェクト終了後も活動が継続されていく見
通しです。
2008 年からアグロフォレストリー分野でプロ
ジェクトに参加した IEF の技術スタッフ(終了
セミナーにて)
成果品
本プロジェクトでは各専門家が作成した調査報告書、森林管理計画書(案)、ホームページ、プロジェクト紹介パンフレッ
ト、パネルなど 24 項目の成果品が作成されました。そのうち高松専門家が 3 年間の経験を纏めた報告書『アマパ州バル
ゼアにおけるアグロフォレストリー普及の取り組みと提言』が 4 月 17 日開催の合同調整委員会で関係機関代表に配布さ
れました。また加藤専門家は、今後も木材加工分野の技術指導が継続できるよう、テキストをポルトガル語に翻訳して電
子ファイルに纏め、全国工業職業訓練機関(SENAI)や商工鉱局(SEICOM)などへ提供しました。
今後の課題
2008 年 11‐12 月に実施されたプロジェクトの終了時評価では、プロジェクト期間中に対処すべき短期的提言とプロジェ
クト終了後に継続して対処すべき長期的提言が示されました。今後の課題として、長期的提言を以下にご紹介します。
(1) アマパ州の森林資源の持続的利用については、新設された IEF の役割が重要であり、その体制の強化(施設、
機材、情報システム、職員増等)、職員の能力向上をさらに推進すべきである。特に、農林協会の組織化・強化に
かかる職員を配置することが望ましい。
(2) 農林協会は IEF の支援を受け、雨季・乾季にあわせ、進行スケジュールを計画的に進める必要がある。特にマザ
ゴン地区における森林管理計画作成に必要な森林調査は、2009 年の乾季に行われる必要がある。
(3) プロジェクト・サイトを含む農村地域での農業技術指導は、RURAP が大きな役割を担っている。IEF および
RURAP は、本プロジェクトの成果の順調かつ着実な進捗のためにも森林政策と農村開発政策を統合する必要
があり、両者の上位機関である農村開発局(SDR)の役割が重要である。
(4) 農林協会および家具組合は SEICOM の支援を受け、積極的に意見交換の場を設け、木材供給契約が速やかに
締結されるよう準備を進めるべきである。
(5) SDR(IEF および RURAP を含む)と SEICOM の活動を統合的に推進する
ためには、その上位機関である SEDE の役割が重要である。SEDE は、
本プロジェクトの成果が継続できるように関係機関の調整を行うとともに、
本プロジェクトの成果が州内他地区に展開されるように知事・議会に積極
的に働きかける必要がある。
(6) JICA がパラー州で行っている第三国研修「アグロフォレストリーコース」は
本件を推進する上で有効であり、アマパ州は積極的に職員を参加させるこ
とが望まれ、JICA もアマパ州からの参加を配慮することとする。
2009 年からアグロフォレストリー分野でプロジ
ェ ク トに参加した RURAP の技術スタッフ
(SAF 終了セミナーにて)
プロジェクト終了にあたって(編集後記)
去る 4 月 21 日、アマパ日伯協会の方々から JICA プロジェクト関係者の送別会を開いていただきました。アマパ州にはおよそ 100 家族の
日系人がいらっしゃるそうですが、送別会にもおよそ 100 名の方々が参加して下さいました。幹事役の一人、横野玲子さんは 26 年前に神戸
から移住されました。ご主人は非日系ブラジル人で、1980 年代に JICA の研修で神戸大学に留学しており、そこで出合ったそうです。神戸と
いえば、101 年前に第 1 回移民船「笠戸丸」が出航した町。不思議なご縁です。横野さんご夫妻は今、プロジェクト事務所(森林院)近くのマ
カパ市内で英語や日本語を教える学校を経営し、日伯の架け橋としてご活躍されています。
ブラジルにいると、日本人への信頼がとても高いことを感じますが、アマパ州のようにあまり日系人のいない州でもそれを感じることができる
のは、長年の日本人移住者の努力の賜物です。このような信頼関係がベースにあってこそ技術協力が効果的となり、さらに相互理解や信頼
関係がさらに高まるのだろうと思います。
この通信作成中(4 月 28 日)に訃報が届きました。冒頭で紹介した環境警備隊の隊長、パウメリン氏が心臓病で突然他界されました。同氏
は無許可製材、伐採を続ける川岸住民を取り締まる立場でありながら、本プロジェクトの主旨を理解し、住民への指導を続けました。同氏の
理解がなければ、川岸住民が混乱していたことは確かです。同氏はカウンターパートではないものの、基本方針策定の会議や現地セミナー
に参加するなど、プロジェクトに多大な貢献をされました。パウメリン氏のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
本通信は今回が最後です。執筆・写真は JICA 専門家、スタッフによるもので、編集は渡邉が担当しました。不適切な文章表現や写真があ
ったとすれば、それは渡邉の責任によるものです。
最後に、これまでプロジェクトの推進にご理解、ご協力を頂いた多くの方々に、この場を借りて御礼申し上げます。
2009 年 4 月 30 日
渡邉 満(チーフアドバイザー)
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