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負の屈折現象を生み出す逆進的な光の流れ解明
平成23年6月7日 独立行政法人物質・材料研究機構 独立行政法人科学技術振興機構 負の屈折現象を生み出す逆進的な光の流れ解明 -フィッシュネット型メタマテリアル内部における直接的な光の伝搬解析に初めて成功- 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)の先端フォトニクス材料ユニット(ユニッ ト長:迫田 和彰)の岩長 祐伸 主任研究員は可視から近赤外の光領域で最も注目されているフィッシ ュネット型メタマテリアルについて理論的な光の伝搬解析を行い、負の屈折現象を可能にする逆進的な 光の流れを初めて解明しました。この成果により、これまで有効誘電率・透磁率モデルによって説明さ れてきたメタマテリアルにおける負の屈折現象を直接的、定量的に理解することが可能になりました。 今回の研究による理解の深化をもとに負の屈折現象を超解像イメージングや超解像リソグラフィに用 いた研究開発の促進が期待されます。なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推 進事業 個人型研究(さきがけ) 「光の利用と物質材料・生命機能」研究領域(研究総括:増原 宏、奈 良先端科学技術大学院大学 教授/台湾国立交通大学 教授)における研究課題「転送光学に基礎をおく 超解像顕微鏡とメゾ機構のその場観察」 (研究者:岩長 祐伸)の一環として行われました。 1.研究の背景 水やガラスのような均一透明媒体における屈折現 象は日常的に見られるものであり、 よく知られていま す。 これらは正の屈折率に起因するので正の屈折現象 と言えます。 一方で負の屈折現象はかつて空想上のも のであると考えられてきました(図1参照) 。近年、 メタマテリアル注1)と呼ばれる人工周期構造体にお いて、負の有効誘電率・透磁率を仮定すると負の屈 折現象が起こることが予見され、検証実験でも肯定 的な結果が得られていました。しかし、この新奇な 図1 屈折現象の模式図。左:正の屈折現象を表 しています。右:負の屈折現象では屈折角が負() になります。 現象を利用して新たな光デバイスを開発するためには仮定やモデルに依存せず、現象を正確に理解し定 量的に記述することが必要でした。 図2 フィッシュネ ット型メタマテリア ル(金属/絶縁体/金属 の 3 層に穴の空いた 積層構造)の模式図。 石英基板上に作製し た場合を描いていま す。空気側(手前)か ら光が入射する配置 を考えます。 2.今回の研究成果 岩長主任研究員は光領域で最も代表的なフィ ッシュネット型メタマテリアル(図2参照)の 電磁波固有モード注2)の研究を実施し、エネル ギー・入射角度依存性の理論解析によって負の 屈折現象を起こす電磁波固有モードが負の群速 度をもつ平面的な光であることを明らかにしま した。さらにマクスウェル方程式 注3)を直接解 いて、電磁エネルギーの流れがメタマテリアル 内部において、入射波の進行方向に対して負の方向に誘起されることを示しました(図3参照)。これ により負の屈折現象を担う電磁波固有モードが直接的、定量的に明らかになりました(図4参照) 。 1 3.社会への波及効果と今後の展開 メタマテリアルは光の波長よりも小さい周期長からなる 人工構造体であることから、極小光デバイスのための材料と して期待を集めています。今回の研究による理解の深化をも とに負の屈折現象を超解像イメージングや超解像リソグラ フィに用いる研究開発の精密化を促進することが期待され ます。また、今回の負の流れをもつ光波の発見は極小空間に おける光の切り返しを可能するので光デバイスの一層の極 小化に資するものです。そのほか、高精度の光位相変調素子 の開発にも学術的基盤を与えます。 4.その他 1)本成果はアメリカ光学会発行の速報誌 Optics Letters で公開される予定です。 2)今回の研究成果はJST戦略的創造研究推進事業さき がけ、東北大学サイバーサイエンスセンター、科学研 究費補助金(課題番号 22760047,22109007) 、新エ 図3 絶縁体層中央の電磁エネルギー 流。単位胞を示しています。カラーは強 度、円錐はベクトルを表しています。入 射角度は 30°です。入射光は正の x 成分 をもち、導波路モードは負の x 成分の流 れを示しています。 ネルギー・産業技術総合開発機構による支援を受けて 得られました。 注1)メタマテリアル:人工周期構造体でその周期長が光(電磁波)の波長よりも小さいものを呼ぶ ことが一般的です。メタマテリアルでは有効誘電率・透磁率を仮定して性質を説明する報告が従 来数多くありました。 注2)電磁波固有モード:周期構造体による空間的な制限があるために、電磁波が形成する特有の状 態のこと。空気中の光(平面波)とは非常に異なった空間分布を形成します。 注3)マクスウェル方程式:電磁波を定量的に記述できる基礎物 理方程式です。 5.問い合わせ先 (報道担当) 独立行政法人物質・材料研究機構 企画部門 広報室 〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1 TEL:029-859-2026 FAX:029-859-2017 独立行政法人科学技術振興機構 広報ポータル部 〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3 TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432 E-mail:[email protected] (研究内容に関すること) 独立行政法人物質・材料研究機構 先端フォトニクス材料ユニット プラズモニクスグループ 主任研究員 岩長 祐伸(いわなが まさのぶ) TEL:029-860-4913(ダイヤルイン) E-mail:[email protected] 2 図4 今回明らかになった フィッシュネット型メタマ テリアルにおける負の電磁 エネルギー流の模式図。絶 縁体からなる中間層で強い 負の流れが誘起されます。 (JSTの事業に関すること) 科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究推進部 原口 亮治(はらぐち りょうじ) 〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル TEL:03-3512-3525 FAX:03-3222-2067 E-mail:[email protected] 3