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詳細PDF版 - 物質・材料研究機構

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詳細PDF版 - 物質・材料研究機構
高い電界電子放出特性をもつ新型窒化ホウ素薄膜の合成に成功
− 従来の 100 倍以上の特性により、次世代高精細大画面テレビ・省エネ照明などへの応用も可能 −
平成16年3月10日
独立行政法人物質・材料研究機構
[概要]
独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS、理事長:岸 輝雄)物質研究所(所長:渡辺 遵)
非酸化物焼結体グループの小松正二郎らのグループは、従来と比べて 100 倍以上の電界電子放出
特性をもつ新型窒化ホウ素薄膜の合成に成功した。これは、プラズマ状態からの薄膜形成に、紫
外レーザー光による成長反応の促進を応用した新しいプロセスを採用することで得られた研究
成果である。
電界電子放出とは、物質の表面に強い電界をかけると物質内部から電子が飛び出してくる現象
で、テレビなどのディスプレイ、集積回路作製時の電子ビーム描画(ナノリソグラフィー)
、ラ
ンプ型光源など、生活・産業に密着した幅広い応用分野をもつため、熾(し)烈な開発競争が繰
り広げられている。
現在、ナノテクノロジー分野でもカーボンナノチューブの応用例として研究が進められている
が、低い電界強度でも高い電流密度を実現し、かつ損耗が少ないことも要求されることから、材
料特性のみならず、その電子エミッター(電子放出点)形状の微細形成加工技術がキーテクノロ
ジーとなっている。
今回の合成法では、1回の合成でマイクロメートルオーダーの先端の尖ったエミッター形状が
「自己組織的」に形成されることから、デバイス作製の作業工程が従来よりも一気に簡略化され、
大幅なコストダウンにつながるため、例えば、次世代高精細大画面テレビなどの大幅な低価格化
も実現可能になると期待される。
また、窒化ホウ素は高温合成時のルツボなどにも使われるなど、高温に耐え、しかも著しく安
定で結晶形によってはダイヤモンド並みに硬いなど、最も丈夫な材料の一つである。そのため、
ディスプレイ材料で考えれば、従来のカーボンナノチューブ、有機ディスプレイなどで問題とさ
れていた寿命に対するブレークスルーとしても大いに期待できる。
なお、この研究成果は、3月 28 日から東京工科大学(東京都八王子市)で開催される応用物
理学会で発表される予定である。
1.研究の背景
ランプ型光源デバイス、フィールドエミッション型ディスプレイ、ナノリソグラフィーなどの
分野に応用される冷陰極型の電界電子放出デバイスは、現在その材料としてカーボンナノチュー
ブを中心に研究が進められている。そこでは、10V/μm(マイクロメートル)程度の低電界強度
における放出電流密度が mA(ミリアンペア)/cm2 オーダーにとどまっており、超高輝度光源、
超高精細ディスプレイ、電子ビーム・ナノリソグラフィーなどの実用化・高性能化に対する阻害
要因となっている。さらに、エミッター形成のためには、サブマイクロメートルオーダーの微細
加工技術が必要とされるため、デバイス化には複雑な作製ステップが必要となり、コストのかさ
む要因になっていた。また、ディスプレイ材料として、カーボンナノチューブや有機ディスプレ
イなどは寿命の問題が克服されていない。
2.今回の成果
今回、プラズマ状態からの薄膜形成に、紫外レーザー光による成長反応の促進を応用した新し
いプロセスを採用することで、従来に比べて 100 倍以上の電界電子放出特性をもつ新型窒化ホウ
素薄膜の合成に成功した。すわなち、8.6V/μm の低電界強度において、0.9 A/cm2 という従来値
の 100 倍以上の電流密度を実現している。今回の合成法は、1回の合成プロセスで電界電子放出
に最適な先端の尖った 10μm 程度の紡錘形状が薄膜表面に多数形成されることが特徴で、優れ
た特性の要因の一つになっている。この薄膜の材料は、sp3-結合性 5H-BN1)と呼ばれる新材料
で、NIMS において小松主席研究員らが独自に開発したものである。この新材料は、ふつうルツ
ボなどにも使われる窒化ホウ素の一種で、抜群の耐熱性と化学物質に対する耐性を有することか
ら、従来にない耐久性を持ち、かつ高負荷に耐えられる電子材料である。そこで、将来の集積回
路のさらなる高密度化・高負荷化への対応策としても考えられている。
3.研究成果の内容
まず、シリコン、ニッケルなどの基板に、ラジオ周波数(13.56 MHz)の電界により励起され
・水素・アンモニア・アルゴン・混合ガスプラズマ
たジボラン(化学組成 B2H6 の水素化ホウ素)
を照射する。同時に、193nm の紫外レーザー光を基板表面に照射し、sp3-結合性 5H-BN の成長
反応を選択的に励起する(図1参照)2)。反応物質の表面における拡散過程と化学反応過程の競
合が照射紫外光により制御され、自己組織化が進むことで、図2A、Bに示すような 10μm 程
度の先端の尖った紡錘形状が薄膜表面に多数形成され、電界電子放出におけるエミッターとして
働くことになる。
次に、試料を陰極とし、陽極としてステンレスの平らな先端を持つ針(径 1.2mm)を用いて、
真空中において試料と陽極の間隔を 80μm および 85μm に設定して、陽極−陰極間に電圧を印
可し、放出される電流を測定した。図2Cに、印可電圧(電界強度)を変化させた場合の電流密
度を示す。6V/μm の低い電界において、既に 90mA/cm2 の電子放出が始まっており、電子放出
は電界の増加に伴い急激に増加し、8.6V/μm において 0.9A/cm2 という極めて高い電流密度に達
している。測定に用いた電圧印可用電源の電流容量が飽和して測定ができないため、今回の実験
ではここまでの値しか得られていないが、今後より高い電流密度が得られることが期待される。
4.産業上、学術上の意義と今後の展望
現在、プラズマテレビは 600W程度の大きな電力消費が問題である。一方、液晶テレビは自発
光でなくバックライトを用いることと、時間追随性などに問題を残す。今回開発された新型窒化
ホウ素電子源を用いれば、液晶並みの低電力消費(30W程度)の大画面高精細ディスプレイが実
用可能になる。しかも、作製プロセスがワンステップで済み、従来の電子源デバイスのような複
雑な工程が省略できるため、大画面・高精細・低消費電力で、しかも大幅な低価格化も実現可能
になる。
低電力消費のディスプレイは様々なところで需要が見込まれ、身近なところでは携帯電話があ
る。現在は電力節約のため、操作時以外は輝度を落とす設定であるが、これが常時明るく表示さ
れる。また、室内灯として現在は蛍光灯が使われているが、低消費電力と廉価性を活かした、蛍
光灯に代わる次世代の製品が開発されるであろう。
現在家庭における電力消費量の 1/4 が照明用であるといわれるため、次世代低消費電力照明は
省エネのガキを握る要因の一つとして認識され、アメリカ、ヨーロッパでは国家プロジェクトと
して熾(し)烈な競争が繰り広げられている。蛍光灯は水銀を用いるため、世界的には環境問題
化される機運もあり、本研究で開発した材料を用いた次世代照明が実用化されれば、水銀フリー
の環境に優しい省エネ照明としての市場開拓が見込まれる。
また、超高輝度光源が開発されれば、点光源として十分に自動車のヘッドライト・ビームラン
プを代替することができるため、自動車のデザイン面でも革新を起すことにつながる。さらに、
材質自体の並外れた耐熱性・耐久性は、宇宙、放射線下などの極限環境で信頼できる電子部品の
開発に役立つものと期待される。
NIMS では、今回開発した材料に関する基本特許を申請中であり、日本独自の技術として日本
経済の活性化にも役立つことが期待される。
用語説明
1)sp3 結合性 BN
ダイヤモンドと同じ結合状態を持ち、ダイヤモンドの次に硬い窒化ホウ素。
補足説明
2)合成法の概略(図1の詳細説明)
ステンレス製の反応容器上部にプラズマ発生用トーチがある。アンモニア、ジボラン、水素を
アルゴンで希釈したものを導入して、トーチの周囲に巻いた水冷したコイルにラジオ周波数の電
圧をかけ、プラズマを発生する。一方、反応炉内は真空ポンプで排気されており、圧力は一定に
保たれる。
プラズマは下方に噴出。一方、炉内に45度の角度で設置されたシリコンなどの基板に、レンズ
で適度に集光(焦点をはずす)したパルスレーザー光(193 nm、20 Hz)を照射し、表面での化
学反応と拡散反応を制御することで、自己組織化によるエミッター群が形成される。
(問い合わせ先)
〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1
独立行政法人物質・材料研究機構
広報室 TEL:029-859-2026 FAX:029-859-2017
(研究内容に関すること)
独立行政法人物質・材料研究機構
物質研究所 非酸化物焼結体グループ
主席研究員 小松正二郎 TEL:029-860-4486 FAX:029-852-7449
Preparation of film samples
レーザー支援プラズマCVD法によるエミッター薄膜の作製
ジボラン+水素+アン
モニア+アルゴン+混
合ガスプラズマ
集光用レンズ
シリコン、
ニッケルな
焦点をはずした紫外レーザー光
どの基板
図1 新型窒化ホウ素薄膜の合成方法
B
A
C
1
電流密度︵ A/cm
︶2
A-80μm
A-85μm
B-80μm
B-85μm
B-90μm
0.8
0.6
0.4
0.2
0
4
6
8
10
12
14
E (V/μm)
印可電圧(電界強度)
E(V/μm)
図2 A、Bは得られた薄膜表面に自己組織的に形成された電界電子放出エミッター群の走査型
電子顕微鏡による像。Cはその電界電子放出特性を示す。
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