...

3つの社会問題(鉄のリサイクル・CO2 削減・水素供給)を一挙に解決

by user

on
Category: Documents
12

views

Report

Comments

Transcript

3つの社会問題(鉄のリサイクル・CO2 削減・水素供給)を一挙に解決
同時発表:
筑波研究学園都市記者会(資料配付)
文部科学記者会(資料配付)
科学記者会(資料配付)
3つの社会問題(鉄のリサイクル・CO2 削減・水素供給)を一挙に解決
―即効性のある温室効果ガス削減策として期待、水素製造技術としても有望―
平成17年10月 6日
独立行政法人物質・材料研究機構
概要
1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸 輝雄)
、材料研究所の江場(えば)宏美研
究員らは、温室効果ガスとして問題になっている二酸化炭素を、鉄などの金属に効果的に吸
収・固定させる新技術を開発した。金属として1キログラムの鉄を用いた場合、約450リ
ットル(790グラム)の二酸化炭素を吸収・固定化できる。
2.金属の中でも鉄は地球上の存在量がアルミニウムに次いで多く、鉄鋼やステンレスとして
広く用いられている。このため、スクラップ鉄の発生も膨大な量となっているが、一方でリ
サイクルの方法などにはまだ課題が残っている。本技術を用いると、増大するスクラップを
有効活用しつつ二酸化炭素の固定を進めることができ、温室効果ガス削減と廃棄物処理、資
源の有効活用を同時に実現できる。
3.二酸化炭素を吸収する材料としては、吸収量の高いセラミックス系材料(珪酸リチウム:
Li4SiO4、チタン酸二バリウム:Ba2TiO4)が開発されているが、本技術は従来法と比べて重量
あたりの吸収量が格段に大きく、かつ単純な金属であるため材料としての製造コストも安
く、スクラップを利用すれば原料費も低減できる。
4.さらに、二酸化炭素が固定化されると同時に、同容積の水素が気体となって発生するとい
う副次的効果があり、今後燃料電池の普及とともに需要が拡大する水素を効率的に供給する
技術としても期待される。
1
研究の背景
温室効果ガスの排出量を削減するため、発電所や工場などのプラントから大量に発
生し続ける二酸化炭素を効果的に回収・固定化する技術が求められている。先ごろ、
セラミックス(珪酸リチウム:Li4SiO4、チタン酸二バリウム:Ba2TiO4)による二酸化
炭素吸収材料が高い吸収能力をもつものとして開発され、プラント等から排出される
ガスをオンサイトで回収する技術として実用化されようとしている。しかしながら、
削減すべき二酸化炭素の量が膨大であることを考えると、吸収材料の質量あたりの吸
収量はなお十分とは言えず、膨大な量の吸収材料の確保を必要とすることになる。実
際のところこれらの材料による吸収は、他の固定化プロセスへ受け渡すための一時的
な分離・回収剤としての利用にとどまり、発生し続ける二酸化炭素をそれ自体で固定
化することは不可能である。
一方、現在日本国内では、年間3500万トンもの膨大なスクラップ鉄(使用済み
鉄鋼)が発生しており、鉄鋼材料へリサイクルする研究も進められているが、今後ス
クラップ鉄の発生量はさらに増大し、鉄鋼内需量を上回ることが予想され、仮に鉄鋼
を 100%リサイクル品によってまかなうことができたとしても、スクラップ鉄が確実に
残ると言われている。
本技術は発電所や工場などから大量に発生し続ける二酸化炭素を効果的に回収・固
定化し、緊急課題である温室効果ガス排出量削減を可能とするばかりでなく、金属廃
材を有効利用する新しい手段を提供するものである。
成果の内容
①原理
多くの金属は酸化し易く、表面にさびや酸化皮膜を生じ易い。金属の中でもイオン
化傾向の大きいもの(リチウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、
アルミ、チタン、マンガン、亜鉛、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、錫、鉛など)
は、原理的には水素イオン(H+)と反応して金属イオン(Mn+)となり水素ガス(H2)
を発生する(式1)
。
M(金属) + nH+ → Mn+ +
n
H2 ↑
2
・・・(1)
一方、二酸化炭素は水に溶けて炭酸を生成する(式2)
。
CO2 + H2O → H2CO3 ↔ H+ + HCO3− ↔ 2H+ + CO32− ・・・(2)
2
(1)式と(2)式とを合わせると
M+
n
n
n
CO2 + H2O → M(CO3) n + H2 ↑ ・・・(3)
2
2
2
2
特に金属が2価(n=2)のイオンになるときには、
M + CO2 + H2O → MCO3 + H2 ↑
・・・(4)
したがって、水を反応媒体として二酸化炭素を炭酸塩として固定することができる。
またこのとき同時に水素も得られる。
(1)式の反応は金属Mがイオン化傾向の特に大きなナトリウム、カリウム、カル
シウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の場合、純水に金属を接触させるだけ
でも激しく進行する。一方、それらよりもイオン化傾向の小さな金属は相対的に活性
が低いため、水素イオン濃度の高い水溶液、すなわち酸と接触させることで反応速度
をあげることができる。ここでは二酸化炭素から酸(炭酸)が生成するため、活性の
低い金属を用いても(3)や(4)の反応は進みやすくなる。これが本技術の第1の
ポイントである。しかし炭酸は弱酸であるため、いっそう効率的に反応を進めるため
にさらに工夫を行った。それが第2のポイントである。
②金属の微粒子を利用して効率化
本技術では金属として鉄の微粒子を用いることで反応速度を大きくした。市販の鉄
粉(和光純薬製、粒径 45μm)と水とを1気圧の二酸化炭素雰囲気下で室温(25℃)
において攪拌し反応させると、二酸化炭素が吸収されて水素が発生した。より微細な
粉末状の鉄を原料として用いると反応速度は格段に速くなり、二酸化炭素はより効率
的に固定化されることが確認された。この反応のように鉄粉の活性の高さを利用して
いるものとして、使い捨てカイロが商品化されている。使い捨てカイロは、空気中の
酸素により鉄が酸化する過程で発熱することを利用したものであるが、本技術は酸素
の代わりに水と二酸化炭素を導入して酸化還元反応を行わせるものである。したがっ
て、鉄粉が空気に触れるのを避けるよう、鉄片の粉砕と固定化反応を同時に進めると
都合がよい。
微細化には、いわゆるブレークダウン法によって微粒子を製造するための装置とし
て用いられるボールミル(容器駆動媒体ミル、図1)を用いた。ボールミルは、容器
を外部から駆動することで、粉砕媒体として内部に入れられたボールにエネルギーを
3
伝達し、ボールと一緒に入れられた固体に衝撃を与えて機械的に粉砕する機構をもつ。
ボールミル容器に水、1気圧の二酸化炭素とともに鉄を入れて粉砕し、反応を行わせ
た。容器内のガス濃度の時間変化をガスクロマトグラフィーにより分析した結果を図
2に示す。二酸化炭素の吸収とともにそれと入れ替わりに同容量の水素が発生してい
ることがわかる。二酸化炭素吸収後に得られた粉末についてX線回折実験を行うと、
図3のとおり、炭酸鉄(FeCO3)の生成が確認された。炭酸鉄は鉄の原料として産
出する鉄鉱石の一種で、菱鉄鉱という名前でよく知られている物質である。得られた
炭酸鉄粉末の写真を図4に示す。
この手法では、使用済みの金属片をそのまま原料として用いることができ、試しに
鐵鋼の一種である軟鋼や、飲料用のスチール缶、また合金であるステンレスの粉末を
用いた場合にも、二酸化炭素の固定化が確認された。また金属として鉄だけでなくマ
ンガンを用いた場合にも、二酸化炭素の固定化と水素ガスの生成が確かめられ、炭酸
マンガン(MnCO3、菱マンガン鉱という鉱物として知られる)が回収されており、
他の金属も利用できることがわかっている。
波及効果と今後の展開
本技術は、金属の微粒子を用意するだけで、これと二酸化炭素を反応させて吸収・
固定化することができる。鉄1キログラムあたり 790 グラム(約 450 リットル)の二
酸化炭素を固定化することができ、現在最も期待されているセラミックス系新材料、
リチウムシリケート(1 キログラムあたり370グラム)に対して2倍以上の吸収量
をもつ。吸収剤の体積あたりに換算すると、鉄はリチウムシリケートに対し7倍以上
の二酸化炭素を吸収できる。また原理的に非常に単純な反応によるものであるため具
体性があり、急務となっている二酸化炭素排出量削減問題に対し、実効性のある技術
として利用が拡大すると予想される。発電所や工場の二酸化炭素発生源において実際
に稼動させることを考える場合にも、二酸化炭素の処理量に合わせた反応装置のスケ
ールアップは極めて簡単で、大量の金属による大量の二酸化炭素固定が可能と思われ
る。
金属としては、どこにでもあるような金属片や使用済みの鉄鋼などでよく、今後増
え続けるスクラップ鉄を二酸化炭素の固定剤とすることで有効に利用する道が開ける
ため、廃棄物問題と大気汚染問題という別種の環境問題を同時に解決できる(図5)
。
また鉄系の金属に限らず、マンガンほか原理的にはいろいろな金属から炭酸塩を生成
できるので、他の金属による固定化についても検討する余地があり、今後の発展が期
待できる。
日本国内において排出される二酸化炭素は、発電所からの排出量が全体の32%を
4
占めており、これは約4億トン/年の二酸化炭素に相当する(2003 年のデータ、出典:
温室効果ガスインベントリオフィス)
。一方、現在日本国内では、年間3500万トン
もの膨大なスクラップ鉄が発生しており、本技術を用いて仮にこの2割(700万ト
ン)を二酸化炭素固定に用いるとすると、560万トンの二酸化炭素を固定化するこ
とができる。これは上記の年間排出量の1.4%の削減に相当する。
本技術はまた水素製造という目的に対しても有望である。今後本格的に普及してい
く燃料電池に対して、効率的な水素生産や、室温での安全な供給をオンサイトで行う
具体的な方法として、直ちに実用化できる手段となり得る。
問い合わせ先:
〒305-0047 茨城県つくば市千現1−2−1
独立行政法人物質・材料研究機構
広報室 TEL:029-859-2026
研究内容に関すること:
独立行政法人物質・材料研究機構
材料研究所 高輝度光解析グループ
研究員 江場 宏美(えば ひろみ)
TEL:029-859-2822 FAX:029-859-2801
E-mail:[email protected]
5
図1 金属の粉砕のために用いたボールミル(遊星型ミル)
.
粉砕と同時に二酸化炭素の固定も可能とするため、市販装置を若干改造してガ
ス反応を行えるようにした.
100
60
90
50
70
40
60
H2
50
CO2
30
40
20
30
20
Volume (ml)
Concentration (%)
80
10
10
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
0
100
Time (min)
図2 鉄による二酸化炭素吸収と水素発生の時間変化.
容積65mlのボールミル装置に0.4gの鉄と1気圧の二酸化炭素、2mlの
水を入れ、室温において毎分 200 回転の回転運動を加えることで二酸化炭素を
吸収.二酸化炭素と入れ替わりに同容積の水素が生成.
6
15000
Intensity (cps)
X線 強 度 ︵カウント毎 秒 ︶
FeCO 3
α-Fe
Fe 3O 4
10000
5000
0
20
40
60
80
100
回折角度(2Θ)
Angle (2θ )
図3 二酸化炭素を吸収して生成した炭酸鉄からの粉末X線回折パターン.
図4 回収された炭酸鉄の粉末.
(深緑∼灰色。ボールミルからのステンレスの混入により本来の炭酸鉄の色に
比べて黒ずんでいる)
7
二酸化炭素の固定 水素の製造
F eC O 3 +
CO 2
H2
発生し続ける
温室効果ガス
CO 2
H2
反応容器
(ミリング装置)
発電所や
製鉄所 などの 工場
粉砕・攪拌
FeCO 3
Fe
増加する
H2O
スクラップ鉄
鉄粉
F e + H 2O + C O 2
図5 発生し続ける二酸化炭素をスクラップ鉄を利用して炭酸塩として固定できる.
温室効果ガス削減だけでなく、廃棄物処理問題の解決にもつながる.
8
Fly UP