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ディズニーと三越で学んできた 日本人にしかできない「気づかい」の習慣

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ディズニーと三越で学んできた 日本人にしかできない「気づかい」の習慣
ディズニーと三越
ディズニーと三越で
三越で学んできた
日本人にしかできない
日本人にしかできない「
にしかできない「気づかい」
づかい」の習慣
大人の寺子屋 縁かいな 主宰 上田比呂志氏
株式会社三越 入社。社内研修制度に応募し、全国の三越約 12,000
名の中から 11 名が選ばれ、フロリダのウォルトディズニーワール
ドにてフェローシッププログラムに参加。 1 年間、世界 11 カ国
の人たちとディズニーユニバーシティに通いディズニーマネジメ
ント(ディズニーウェイ)を学ぶ。その後、日本の三越にてお店
作りや企画を担当し、グアム三越ティファニーブティック支配人
として 1 年半グアムに勤務を経た後、再びフロリダディズニーワ
ールドエピコットセンターのジャパンパビリオンディレクター
(取締役)として赴任。ショップ、レストラン、カルチャーの三
部門の統括責任者として経常利益の向上や約 250 名の部下(日本
人、アメリカ人、ベトナム人)の人材育成に貢献する。昨年 10 月に出版した書籍『日本人にしかできない「気づかい」
の習慣』は発売 40 日で 10 万部を突破している。
1. 幼少期に
幼少期に学んだ「
んだ「おもてなし」
おもてなし」のベース
みなさんこんにちは。講師の上田比呂志と申します。よろしくお願いいたします。
先ほどご紹介いただいたのが、昨年 10 月出版の初めての著書『ディ
ズニーと三越から学んできた日本人にしかできない「気づかい」の習
慣』です。今日は「グローバル」がキーワードということですので、
私が体験の中で感じてきたグローバル視点を皆さんにお伝えできれば
と思っております。
「気づかい」について、私の本の中では、このようにお話しさせて
いただいております。
「気づかいとは心を持って正しきことを行うこと」
。
「心を持つ」とは、思いやりの心、相手を慮る心、おもてなしの心・・・このような心
です。そして「正しきこと」というのは、相手にとって正しきこと。独りよがりであって
はいけないということですね。そういうことを行うことが、気づかいなのではないかと感
じております。
このように感じたきっかけは、私の幼い頃の経験にあ
ります。私は、新宿区のある料亭で育ちました。そうい
う意味では、小さい頃から気づかいやおもてなしの文化
の中にいました。私の実家は珍しくて、この平成の今も、
「家訓」というものがあります。珍しいですよね。その
家訓のひとつに、
「働かざる者食うべからず」というのが
あり、どんなに小さくてもいいから自分のできる範囲で
お手伝いをしなさいとしつけられました。料亭の手伝いですから、子どもだとできること
が限られるのですが、小学 3 年生くらいから手伝いを始めた私の担当は「お燗場」でした。
学校から帰ると 1 日お燗場に座っていて、大きな木のたらいにお湯を張りまして、とっく
りを 30 本ぐらい並べるんです。手で触ってみて、いい加減だなと思ったら取り出して、芸
者さんに渡すのが私の役目。おかげで、小学 3 年生で、お燗の人肌が作れるようになりま
した。私は上田比呂志と申しますので、その頃「人肌のひろちゃん」と呼ばれていました。
そんな環境で育ったのですが、私がこの時代に覚
えたのは何も、お燗の作り方だけではありません。
初代の女将で大商人だった祖母が、もう見事に、私
に商人道を叩き込むんです。その祖母から学んだひ
とつに、
「おもてなしの心」がありました。
「おもて
なしって難しいことじゃないんだよ。自分の目の前
にいる方が、自分にとって一番大切な人だと思って
みなさい。そしたら、どうしたらその人が喜んでく
れるか分かるよね?」こういう風に、子どもの私でもわかるように教えてくれました。
私は後に三越に勤め、フロリダのディズニーでマネジメントをやらせていただいて、色々
なおもてなしやサービスの仕組み、スキルを学んできました。でもこの歳になっても、幼
少時代の祖母や母からの教えがその根底にあるような気がしてなりません。
そして、うちは料亭でしたので、写真のような芸者
衆がたくさん出入りしていました。私は、芸者さんは
日本のおもてなしのスペシャリストだと思います。
実は昔の芸者さんは経済的に苦労している人が多く
て、彼女たちはいつも必死になって自己を磨いていま
2
した。昼は歌や舞などのお稽古ごとを学んで、おもてなしは出先の料亭の女将さんなどか
ら学ぶ。そうやって自分を磨いて磨いて、やっとお座敷という舞台に出ることができます。
ですから私は、おもてなしというのは自己を磨くことなのだというふうにも思っています。
ではこの気づかいですが、江戸時代にそのルーツがあ
るのではないかと思います。ご存知のように江戸時代は
1603 年に徳川家康が江戸幕府を築いてからのおよそ
250 年間続きます。それまでの戦の世で人口がなかなか
増えない状態から、この時代は 250 年も平穏であったわ
けですから、江戸の人口が極端に増えていきます。人が
多くなるとどうしても人間関係のトラブルが多くなりま
すので、当時の商人たちはうまくコミュニケーションする方法を考えたんですね。それが、
「江戸思草(しぐさ)
」というものです。この江戸思草のおかげで、人が増えた江戸におい
ても人間関係がスムーズにいったとのことです。私は、このあたりから日本の気づかいの
ルールができてきたのではないかと思います。明治生まれの祖母は江戸時代に生きてはい
ませんが、そういうことを学んで、私に伝えていたのではないかという気がしております。
2. 三越で
三越で学んだ、
んだ、おもてなしの「
おもてなしの「スキル」
スキル」
そんな環境で育った私は、サービスやおもてなしのプロフェッショナルになりたい、そ
ういう職業に就きたいと思っておりましたが、ちょうど就職するころ、東京ディズニーラ
ンドができました。世界のディズニーが日本にやってくる。このことがあって、
「世界中の
人を楽しませているディズニーの仕組みを、アメリカのディズニーワールドで学びたい」
と夢を持つようになりました。
すると、私が入社する年に三越がディズニーと提携して、研修制度を取り入れるとの情
報があり「ここだ!」と思いました。ディズニーに行けるチャンスがあるかもしれないと
思ったんですね。そして入社した三越では、組織での気づかいやおもてなしを学ばせてい
ただきました。
三越の理念には「まごころの精神」というものがあります。私が三越で学んだのは、そ
れをどうやって表現していくかというスキルでした。同じ「まごころの精神」と言っても
デパートである三越はいろんな分野が入っていますから、その表現方法はお客様の状況に
よって全く違います。例えば、食品売り場ではスピードと活気こそが「まごころの精神」。
しかし、特撰売り場に、スピードと活気はいりません。穏やかに放っておくことが、特撰
売り場でのおもてなしです。放っておくというのは、お客様が物を選んでいる時間を大切
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にして、邪魔しないという意味です。笑顔でさりげなくお客様のほうを見ていて、お客様
が必要としていらっしゃるときに初めて、お声をかけるようにします。
おなじ「まごころの精神」であっても、お客様が望む環境や扱う商品によって、その表
し方が変わってくる。三越ではその仕組みを学ばせていただきました。
3. ディズニーが成功
ディズニーが成功している
成功している 3 つの要因
つの要因
そして入社 8 年目、フェローシッププログラムという試験に受かり、ディズニーの研修
制度に参加することになりました。私がここでマネジメントをしていて気づいた一番肝心
なことは、
「ディズニーは特別なことをやっていない」ということです。その代わり、ディ
ズニーは当たり前のことを徹底的にやり抜きます。するとそれは、当たり前ではなくなる
のです。
フロリダのディズニーには東京の 10 倍くらいの土地とアトラクションがありますが、私
が勤めていたのは、
「ワールド・ショーケース」という世界 12 カ国の色々な街並みを築い
たセクションです。たとえばモロッコのセクションに行けば、モロッコの商品が売ってい
て、モロッコのエンターテインメントが見られて、モロッコ人が接客して、モロッコの食
べ物が食べられる。そんな、旅行を疑似体験できるセクションでした。
その中で私がいたのがこちら、日本館というパビリオンです。この写真をぱっとご覧に
なっても、とてもフロリダの光景だとはお思いにならな
いと思います。ディズニーは徹底的にこだわりますから、
これを建てる時にも、2 年間日本をキャラバンして、厳
島神社、法隆寺の五重塔、白鷺城など日本の美しい造詣
を全部ここへ移築しようとしたわけです。そして、この
ときにわざわざ日本の宮大工を呼んで造らせています。
では、ディズニーが成功している 3 つの要因を説明していきたいと思います。
まずは「想い」
、理念です。哲学と言ってもいいでしょう。ディズニーワールドには若い
方、ご年配の方、国の違う方、障害を持った方、宗教の違う方等、さまざまな方が訪れま
す。でも、ディズニーではどんな方でも関係なく、思いきり楽しんでいただきたいという
想いがあり、これが哲学なのです。この一点を叶えるために、様々なことをやっています。
ひとつが、最先端の技術や心理学の応用です。例えば、NASA と連絡を取り合い、その
技術を応用しています。ディズニーランド第一号店ができた当時は、米ソが冷戦状態だっ
たため、優れたエンジニアは全て戦争に従事していたのですが、ディズニーは彼らをヘッ
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ドハンティングして、その優れた技術をお客様の幸せのために活かしたのです。最も重要
なのは、
「技術」と「想い」の組み合わせです。同じ技術でも、一方は戦争という名のもと、
人を殺すために使いますが、ディズニーでは感動という名のもと、人を幸せにするために
使っていました。
企業の研修の時にもよくお話しすることですが、「笑顔の時は口角を何度上げて」「お辞
儀して」など、こういったことはスキルです。確かにスキルは学ばないといけないのです
が、もっと大切なのは、それを何のために使うかという想いです。想いを乗せて使わない
限りスキルは絶対活きません。想いの大切さというのはそういう意味です。
ディズニーはこうした技術を、お客様を喜ばせ
るための色々な仕掛けに取り入れています。これ
らは目に見えない仕掛けです。どうして目に見え
ないかというと、優れた仕掛けと演出力で、全部
カバーしてしまえるからです。
この、想い(理念)
、最先端の技術、しかけと
演出力の3つが、丁度良いバランスで組み合わさ
れていること。それが、ディズニーが成功してい
る要因だと思います。
舞浜の駅でも、ディズニーの看板だらけです。この視覚効果によって、お客様は電車を
降りた途端に「ディズニーに来たんだな」という気持ちになれます。それと、この写真は
ディズニーランドの外にあるボンボヤージュというお土産屋さんなのですが、この入り口
は何の形を表しているかお分かりになりますか?
これは旅行鞄です。タグがついて鍵穴があって
取っ手があって・・・なぜ、この形をしているか
お分かりになりますか?
これからディズニーランドに行く人に、
「大きな
鞄を持って行ってくださいね。そしてお帰りの際
は、その中に夢や希望やお土産をいろいろ詰め込
んでお帰りください」というメッセージを込めて
います。
「ボンボヤージュ」というのは「良い旅を」
という意味ですね。こういうことを意識して見てみれば、わくわく感が増してくると思い
ませんか?
ボンボヤージュの横のゲートをくぐると音楽が流れていて、聴覚でディズニーの世界へ
誘っていきます。そして、よくキャラクターたちがハグしてくれたり、写真を撮ってくれ
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たりしますよね。これは触覚です。奥に行くとレストラン街が広がっていて、ここでしか
食べられないいろいろなものを食べられます。味覚ですね。テーマパークを歩いていると
ポップコーンのいい匂いがして、買いに並びたくなってしまいます。これは嗅覚ですね。
このように、ディズニーは五感をうまく組み合わせて、おもてなしを表現しています。
皆様の企業でも、五感という切り口でおもてなしを考えてみると、もしかしたら今まで
にない表現方法があるかもしれません。
それともう一つ。ディズニーには自然とものが売れていく仕掛けがあります。
実に、ディズニーのメインの収益は物販です。莫大な売上げを物販でたてています。し
かし実はディズニーの研修では、「決して物を売ろう
としないでください」と言われます。では何を売るの
か。私たちは、物語を売るのです。
アトラクションから出てくると、そのアトラクショ
ンに見合った商品が置いてありますよね。アトラクシ
ョンで体験したわくわく感、その物語が消えないうち
に、手に取れるところに見合った商品を置いておくの
がみそなんですね。この場合、お客様は商品を買って
いかれるのではなく、その商品に含まれた物語を買っていかれます。家に帰ってそれを見
ると、その時のわくわく感を、絵本を読むように思い出します。そして、また物語の続き
を見たくなってディズニーランドに戻るのです。これが、リピーターができる仕掛けの一
つでもあります。
4. 感動をシェアし
感動をシェアし、
をシェアし、心を耕す
6
こちらは私がディズニーランド撮ってきたデ
ィズニーのキャストの写真です。とても自然体
の笑顔で写っていると思いませんか?
ディズ
ニーで働くキャストたちが笑顔でいられるのは、
「人を喜ばせる喜び」を知っているからです。
ゲストの楽しみを、自分の楽しみに変えていけ
る人たちなのです。実はこれは、ディズニーの
キャストだからできるというわけではなく、み
んなできることです。違いは、この喜びをうま
く体験させるステージを与えてあげるというところです。人を喜ばせる喜びを知ると、み
んな一生懸命やり出します。喜んでもらうことが、自分の喜びに変わっていくからです。
そうするとおもてなしやサービスのスキルを教えなくても、どんどんチャレンジしていく
ようになります。
そこでディズニーで行っていたのが「感動の共有」です。私たちはゲストとの感動する
触れ合いや出来事を、みんなで共有していました。私たちはたくさんのお客様との、本当
に色々な物語があり、必ずシェアし合います。そのとき、私はこう申し上げました。
「ここ、ウォルト・ディズニーワールドは、世界中から色々な物語を持ったお客様が楽
しみにいらっしゃるところです。皆さんは笑顔でお客様をお迎えして、その物語をほんの
少しだけおすそ分けしていただいて下さい。そうすれば皆さん自身が幸せになって、次の
お客様にその幸せを分けて差し上げることができますよ。
」と。
本当のおもてなしのベースは、スキルではなく、感動し、心を耕す感性です。心が耕さ
れていれば、お客様に何をして差し上げるかはその心で判断します。ですから心を常に磨
いておかなければならないんですね。これが、私たちがディズニーでやっていた感動の共
有です。
5. 「心力」
心力」が重視される
重視される時代
される時代へ
時代へ
これからは3つの力が大切だと私は思っています。今まではアメリカが世界の文明を引
っ張ってきました。資本主義・能力主義の名のもとに、競い合わせる文明です。これはこ
れで、時代に必要なことだったのだと思います。
しかしこれからは、資本主義だけでは対応できなくなってきています。リーマンショッ
ク以降、世界に変化が訪れています。また、私たち日本人は 3.11 という誰もが心を傷める
7
不幸な出来事がありました。あの時、日本の文化が世界中から評価されましたよね。技術
力、組織力ももちろん必要なのですが、それよりも「心力」
、心の力が重要視される時代に
なっているのではないでしょうか。
私がディズニーに行って、
「ディズニーはやはりアメリカの文化だな、と驚かされたのが、
ディズニーの中でチップを貰っていたということです。あの、ウォルト・ディズニーがここ
まで完璧に作り上げた夢と魔法の世界の中で、チップを貰うという現実があるということ。
文化というのはディズニーでも超えられないものです。でも私たち日本人はどうでしょう
か。誰かが何かを言う前に、相手の気持ちを慮って、さり気なくおもてなしをすることが
できます。気遣う感性があり、それに対してびた一文も要求しません。これは、ディズニ
ーと言えども敵わないところであり、私たちの無形の文化財産だと思います。そしてこれ
こそが、この時代に世界から必要とされているものではないかと思うのです。
ディズニーを賞賛する本などはたくさんありますし、
もちろん私もディズニーは素晴らしいところがいっぱ
いあると思いますが、私が見たその本質は、日本文化
の素晴らしさだったのです。ですから著書の 1 ページ
目にも、
「日本文化の中には、ディズニーをも超えるも
のがあります」と書かせていただきました。これから
のグローバル社会で日本が世界に訴えられるのは、技
術力と、おもてなし、そして気づかいという心の無形
財産じゃないでしょうか。
あっという間の 1 時間でしたが、これにて私の講演は終了させていただきます。ご清聴
どうもありがとうございました。
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