Comments
Transcript
1 平成 28 年 3 月 31 日 平 成 2 7 年 度 委 託 研 究 開 発 成 果 報 告 書
平成 28 年 3 月 31 日 平 成 27 年 度 委 託 研 究 開 発 成 果 報 告 書【公開版】 1.研究開発課題名と研究開発代表者名 事業名 脳科学研究戦略推進プログラム 研究開発課題名 遺伝環境統計学的相互作用大規模解析による気分障害の病態メカニズム の解明 機関名 学校法人藤田学園 藤田保健衛生大学 研究開発 所属 役職 医学部 精神神経科学 教授 担当者 氏名 岩田 仲生 2.研究開発成果の内容 ①集団サンプルの全ゲノム解析 当初の目標を超え、3,000 名の双極性障害サンプルを収集、全ゲノム SNP 解析として、2セット (total case/control: 3,040/54,887)を施行した。日本人サンプルのみとして、新規1領域(chr11)を 日本人独自のリスクとして同定した。本遺伝子多型は、機能に影響し、脂質代謝に影響するため、因 果関係にある可能性が示唆された。また、白人を中心とする GWAS のメタ解析である Psychiatric GWAS Consortium Bipolar disorder Working Group (PGC-BD)とのメタ解析で、さらに1領域 (chr19)がリスクとして同定した。加えて、既にリスクとして知られている4領域でも有意な関連を 認めた[ODZ4, TRANK1, MAD1L1, MLL2~DHH]。 また、ポリジェニックモデルを用いた解析において、白人データとの比較を行った。その結果、日 本人—日本人での共通性に比し、白人—日本人ではおおよそ 1/10 程度の共通性しか認められなかった。 すなわち、白人—日本人の双極性障害のリスクは確実に共通するものが存在する一方、かなりの割合で 民族特異性のリスクも存在することも判明した。 加えて、双極性障害と近縁疾患と考えられている統合失調症の遺伝的リスクの共通性を確認するた め、すでに完了している約 2000 名の統合失調症全ゲノム SNP データを利用して、ポリジェニック解 析を行った。その結果、双極性障害で定義された発症リスクは、統合失調症に有意に多く含まれ、か つ統合失調症で定義された発症リスクも、逆に双極性障害に有意に多く含まれた。特異的な部分も多 く含まれることはその小さい寄与率(1~3%)から明らかである一方、少なくとも日本人集団において、 両疾患の遺伝的共通性を統計的に示した。 ②家系・コホートサンプルの作成と全ゲノム解析 双極性障害家系は収集困難であり、PS、PO の指示の下、積極的な収集は行わなかった。 前向き「うつ状態」調査を行う職域コホートサンプルとして、学校法人藤田学園藤田保健衛生大学 の看護師で、3-6 ヶ月ごとにうつ状態の指標である BDI(Beck Depression Inventory)とストレスフル ライフイベント(SLE)のアンケートを施行した。新規入職者について、サンプリングを行い、132 名のデータを収集した。総計、1,112 名を対象に全ゲノム SNP 解析および遺伝環境相互作用(SLE x SNP)解析を行った結果、BMP2 遺伝子近傍の SNP と SLE の相互作用が、有意にうつ状態と関連す 1 ることを見出した(rs10485715, P=8.2x10-9: Ikeda et al. 2016) 。 ③死後脳を用いた網羅的解析 平成27年度に収集できた死後脳はなかった。 ④うつ病予防のための介入試験 大学病院新規入職者に対し、平成26年度より認知行動プログラムを施行しているが(183 名のア ンケートと全ゲノム SNP) 、平成27年度も実施し、132 名のアンケートと全ゲノム SNP データを得 た。この対象者について、1回1時間、10人規模のスモールグループの認知行動プログラムを4セ ッション施行した。 認知行動プログラムの有用性を検討するため、過去3年間の新入職者(平成25年度は認知行動プ ログラムを施行していない。平成26年度、平成27年度サンプルは施行済)における、施行前後の Beck Depression Inventory (BDI:うつ状態の指標であり、19 点以上が中等度うつ状態とされ、本解析 では、このカットオフ以上を「うつ状態」とする)を基としたロジスティック回帰モデルを適応した。 その際、過去の看護師コホートサンプルより得られた全ゲノム SNP データを基盤とする「うつ状態の polygenic score」 、ストレスフルライフイベントの有無、年齢・性別を covariate しながら、認知行動 プログラムの有無がうつ状態と関連するかを検討した。その結果、ストレスフルライフイベントが強 く関連する一方(P=1.8x10-4) 、認知行動プログラムの有無はうつ状態に関連する傾向を得た(P=0.011)。 しかし、うつ状態の polygenic score(うつ状態の遺伝的リスクの総和と想定している)は有意な関連を 認めなかった。したがって、認知行動プログラムは、短期的ではあるが将来のうつ状態にプロテクテ ィブに働くことが推測され、新人研修などとして有用であることが示された。 ⑤プロジェクトの総合的推進 PS、POを含めたプロジェクト全体の連携を密とするため、会議やディスカッション(web 会議を 含む)を加藤 PO と行った(5月28日、9月30日、11月26日) 。また、独立行政法人理化学研究 所の鎌谷チームリーダーとも同様に会議(web 会議を含む)を要所で行った(4月23日、5月12日、 5月25日、6月8日、6月18日、6月29日、7月9日、7月23日、8月24日、9月30日、 11月16日、11月26日、12月7日、12月13日、12月25日、2月12日) 。 2