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白髪 や 脱毛 の 要因 とな る 幹細 胞 を 探 る
教授 白髪や脱毛の要因となる 幹細胞を探る 西村栄美 難治疾患研究所 幹細胞医学分野 を繰り返しながら生み出され、皮膚 ヒトの毛髪は、頭皮内部の毛乳頭 から養分を得た毛母細胞が細胞分裂 し、米科学誌﹃ 世界で初めて同定することに成功 色素細胞のもととなる色素幹細胞を 取 り 組 ん で い る。2002 年 に は、 表面に毛を生やす。 e r u t a N 後の毛母細胞に色素はなく、色素細 分 化 し た 細 胞 を 作 り 出 す﹁ 分 化 能 ﹂ 幹細胞は、未分化な状態でさらに 自 ら を 作 り 出 す﹁ 自 己 複 製 能 ﹂ と、 ﹄に論文が掲 胞︵メラノサイト︶が作り出すメラ を併せ持つ細胞であり、組織の新陳 載された。 ニン色素を取り込むことで着色され 代 謝︵ 細 胞 の 入 れ 替 わ り ︶、 恒 常 性 毛髪に色が付くのは、毛根の色素 細胞の働きによる。分裂し始めた直 る。 こ の 時 点 で 色 が 付 か な い 場 合、 の維持、再生をコントロールしてい 多くの組織臓器には、この幹細胞 を頂点とする階層構造が構築されて 製能を持つ人工の幹細胞だ。 細胞︶も、試験管内で同様に自己複 る。 近年話題の新型万能細胞 ︵iPS 白髪が生えることになる。 日本人の頭毛は、平均約 万本と いわれている。生えてきた毛髪は ∼ 年で寿命を迎え、脱毛する。そし じ場所から次の頭毛の成長が始まる。 仕組みの上流にも幹細胞がある。た て数カ月の準備期間を経て、また同 このサイクルの中、毛髪が生え替 わり成長し始める時期に色素細胞が だし、その場所は西村教授らが見つ おり、成熟した色素細胞を作り出す 活性化することで頭毛に色が付く。 け出すまで長らく謎のままだった。 ﹁毛包の根元部分には成熟した色 素細胞があり、この細胞が色素を作 西村栄美教授は、白髪や脱毛とい った老化現象と幹細胞の関連に着目 ると、次に、色素幹細胞が維持でき 元ではなく、色素細胞から少し離れ もととなる色素幹細胞は、毛包の根 産生されるもの 包幹細胞でのみ 色素細胞のもととなる 色素幹細胞を発見 しながら、老化のメカニズム解明に なくなる仕組みの解明に取り組んだ。 では産生されま って毛髪に色を付けています。その たバルジ領域という場所に存在して 色素幹細胞自体に何らかの問題が 生 じ て 起 こ る 白 髪 に 加 え て、 実 は、 型コラ が分かった。しかも、色素幹細胞の ている場合で ーゲンが欠損し せ ん。 ニッチは、すぐそばにある別の幹細 も、 毛 包 幹 細 胞 いました﹂ 幹細胞はどこにでも存在できるわ けではなく、最適な微小環境︵ニッ ニッチ側の問題でも白髪になること で、 色 素 幹 細 胞 チ︶が整った生態的適所でしかその 胞で、毛を作り出す毛包幹細胞であ 存在を維持できない。 ﹁様々な細胞に分化できる能力を 持つ幹細胞を赤ん坊に例えると、こ 型コラーゲ に ば、 白 髪 に も な ンを戻してやれ うサイトカインを介して色素幹細胞 らず毛も抜けないのです﹂ 型コラーゲンがTGF β とい したがって、色素幹細胞にとっての にも影響を与え、色素幹細胞の未分 す ニッチはバルジ領域にあるというこ れば、人類の長年の悩みである白髪・ しかし、西村教授の研究は、白髪・ す﹁多能性﹂を持つことが示されて 管内で骨芽細胞や脂肪細胞を作り出 胞のニッチとして働く細胞は、試験 大きな意味を持つ。実際、造血幹細 幹細胞システムを理解するうえでも 幹細胞システムの中でどのようにが が 著 し く 増 加 す る が ん に つ い て は、 す。特に、高齢になるほど発生頻度 の視点からアプローチしていきま はなぜなのか、ニッチを含む幹細胞 ﹁老化すると様々な機能が低下し、 様々な疾患にもかかりやすくなるの 脱 毛 の 解 消 に 役 立 つ か も し れ な い。 近 年 の 幹 細 胞 研 究 の 発 展 に よ り、 幹細胞と周囲の微小環境との間に相 おり、幹細胞間の相互作用がほかの んが発生するのかを研究していきた い。ヒトのがんの中でも予後が悪い ことで知られる悪性黒色腫︵メラノ ーマ︶に注目しています。メラノー マは、放射線や化学療法に耐性があ は毛包幹細胞の膜を貫通して機能す 細胞様の性質を獲得する仕組みを解 つがんですので、色素幹細胞が癌幹 るという癌幹細胞と同様の特徴を持 るタイプのユニークなコラーゲンで 明していきたいと考えています﹂ コラーゲン入りの食品や飲料が最 近流行しているが、 型コラーゲン 医療の可能性を広げる 最新の幹細胞医学 組織にも存在することを示唆する。 ことが判明したことは、ほかの組織 脱毛だけにとどまらない。ここから 化性や休眠状態での維持を促進する ●にしむら・えみ 再生医療やがんの仕組み解明にも研 とになります。マウス実験では、放 1994 年滋賀医科大学医学 部卒業。 京都大学医学部皮 膚科に入局後、同大学大学 院で博士号 ( 医学)を取得。 ハーバード大学博士研究員、 北海道大学特任助教授、金 沢大学がん研究所教授を経 て、2009年より現職。 幹細胞の自己複製促進 白髪抑制 脱毛抑制 分化・枯渇抑制 互作用があることが明らかにされて ことにより、幹細胞の自己維持に役 TGF-β いる。今回、毛包幹細胞が色素幹細 色素幹細胞 究領域を広げていきたいという。 射線などのゲノムストレスや、加齢 ﹁ 毛 包 幹 細 胞 も 色 素 幹 細 胞 も、 型コラーゲンがなくなると、未分化 自己複製せずに分化してしまうこと が分かりました。ニッチから色素幹 性を維持できずに分化してしまいま す。そうなると、幹細胞自身が枯渇 細胞が枯渇してしまったために、白 髪になっていたのです﹂ するため、その子孫細胞で毛や色素 を作り出す細胞を増やせない。脱毛 も白髪も進んでしまうということで 幹細胞医学分野では、 「組織幹細胞の維 持機構の解明」 「加齢やゲノム損傷に抗 して幹細胞プールを維持する仕組みの解 明」などの研究に、幹細胞システムを通じ て取り組んでいる。 白髪と脱毛にかかわる 型コラーゲンの重要性 17 胞のニッチ細胞として機能している 立っていたのだ。 Col17a1 (BP180) 立毛筋 毛包幹細胞 ることが判明。毛包幹細胞が作り出 17 れを眠らせておくのに最適なニッチ 17 によるDNA損傷で、色素幹細胞が の こ と は ゆ り か ご に 例 え ら れ ま す。 17 ある。その発現制御の仕組みが分か 17 す。ただし、 型コラーゲンは、毛 分化した 色素細胞 西村教授は、毛髪の色を決定付ける色素細胞 のもととなる色素幹細胞を世界で初めて同定 することに成功した。 3 16 Bloom! 医科歯科 No.12 Bloom! 医科歯科 No.12 17 17 TGF-β バルジ領域 10 西村教授は、色素幹細胞を同定す 色素幹細胞 17型コラーゲンが白髪と脱 毛を抑制するメカニズム 5 17 ニッチ 未 来 医 療 を 拓 く 医療研究★最前線 Nishimura Emi Research Worker Number .04