Comments
Description
Transcript
この報告書をダウンロードする
日機連 17 高度化-4-2 平成17年度 大型精密機器システム基盤技術の 開発振興に関する調査研究事業報告書 ― 21 世紀型航空機国際共同開発振興に係る事業の ライフサイクル高度化調査事業 ― 平成18年3月 社団法人 日 本 機 械 工 業 連 合 会 財団法人 航空機国際共同開発促進基金 序 我 が 国 機 械 工 業 に お け る 技 術 開 発 は 、戦 後 、既 存 技 術 の 改 良 改 善 に 注 力 す る こ と か ら 始 ま り 、や が て 独 自 の 技 術・製 品 開 発 へ と 進 化 し 、近 年 で は 、科 学 分 野にも多大な実績をあげるまでになってきております。 し か し な が ら 世 界 的 な メ ガ コ ン ペ テ ィ シ ョ ン の 進 展 に 伴 い 、中 国 を 始 め と す る ア ジ ア 近 隣 諸 国 の 工 業 化 の 進 展 と 技 術 レ ベ ル の 向 上 、さ ら に は ロ シ ア 、イ ン ド な ど B R I C s 諸 国 の 追 い 上 げ が め ざ ま し い 中 で 、我 が 国 機 械 工 業 は 生 産 拠 点 の 海 外 移 転 に よ る 空 洞 化 問 題 が 進 み 、技 術・も の づ く り 立 国 を 標 榜 す る 我 が 国の産業技術力の弱体化など将来に対する懸念が台頭してきております。 こ れ ら の 国 内 外 の 動 向 に 起 因 す る 諸 課 題 に 加 え 、環 境 問 題 、少 子 高 齢 化 社 会 対策等、今後解決を迫られる課題も山積しており、この課題の解決に向けて、 従 来 に も 増 し て ま す ま す 技 術 開 発 に 対 す る 期 待 は 高 ま っ て お り 、機 械 業 界 を あ げて取り組む必要に迫られております。 こ れ か ら の グ ロ ー バ ル な 技 術 開 発 競 争 の 中 で 、我 が 国 が 勝 ち 残 っ て ゆ く た め に は こ の 力 を さ ら に 発 展 さ せ て 、新 し い コ ン セ プ ト の 提 唱 や ブ レ ー ク ス ル ー に つ な が る 独 創 的 な 成 果 を 挙 げ 、世 界 を リ ー ド す る 技 術 大 国 を 目 指 し て ゆ く 必 要 が あ り ま す 。幸 い 機 械 工 業 の 各 企 業 に お け る 研 究 開 発 、技 術 開 発 に か け る 意 気 込 み に か げ り は な く 、方 向 を 見 極 め 、ね ら い を 定 め た 開 発 に よ り 、今 後 大 き な 成果につながるものと確信いたしております。 こ う し た 背 景 に 鑑 み 、当 会 で は 機 械 工 業 に 係 わ る 技 術 開 発 動 向 等 の 補 助 事 業 の テ ー マ の 一 つ と し て 財 団 法 人 航 空 機 国 際 共 同 開 発 促 進 基 金 に「 大 型 精 密 機 器 システム基盤技術の開発振興に関する調査研究事業」を調査委託いたしまし た 。本 報 告 書 は 、こ の 研 究 成 果 で あ り 、関 係 各 位 の ご 参 考 に 寄 与 す れ ば 幸 甚 で す。 平成18年3月 社団法人 会 ⅰ 日本機械工業連合会 長 金 井 務 まえがき 財団法人航空機国際共同開発促進基金は、平成17年度調査研究事業の一つとして、 日本自転車振興会の機械工業振興資金の補助を受け、社団法人日本機械工業連合会か らの受託事業「大型精密機器システム基盤技術の開発振興に関する調査研究事業」を 実施した。本報告書は、その調査研究の一事業である「21世紀型航空機国際共同開 発振興に係る事業のライフサイクル高度化調査事業」について取りまとめた調査報告 書である。 世界の航空機市場は、グローバル化が一段と加速され、また事業投資規模も益々拡 大している。この世界市場に対する我が国の基本姿勢は、国際協調、国際貢献であり、 航空機産業の発達は、世界舞台で主導的役割、貢献を果たすことにより達成される。 この認識の上での重要課題は、国際共同開発の場での役割を高める先進技術開発の更 なる促進を図ることはもとより、開発戦略を強力に推進し、多様な形態の国際共同開 発プロジェクトの拡大に結びつける体制等の構築である。このため本調査事業では、 これまでの国際交流促進、シーズ発掘等そして国際共同開発基盤調査事業において実 施してきた航空機産業の発展に係る産・学・研・官・エアラインの連携、情報交換、 人的交流を既存の基盤を効果的に活用のための方策提言、我が国の航空機関連ビジネ スの発展に関わる官と法制度のあり方、我が国の航空機産業の自主性、独立性を維持 しながら一層のビジネス拡大のための検討、海外の航空機政策・大方針の実態調査に 照らして、我が国の政策・方針のあるべき姿の検証、アジア地域の重要性再分析、ア ジア調査並びに Info-Plaza Meeting の継続と充実化、及び両者の成果の分析と今後 のあり方、我が国の航空機工業と機械工業全体の発展とその関わり方に視点を置き、 調査・検討を実施した。これまでの国際共同開発基盤調査事業等での調査で得られた 成果をも取り込みつつ、実施に際しては、当基金内に「21 世紀型航空機国際共同開発 振興に係る事業のライフサイクル高度化調査委員会」を設け 21 世紀の巨大化、複雑 化、グローバル化する世界の航空機産業への我が国の貢献並びに広範囲の先端技術を 駆使した高度の技術集積からなる航空機等の開発・製造技術と機械工業技術との間の 相互有効活用、相互転用、相互移転促進等を視野に入れたシステムの構築のために「21 世紀型航空機国際共同開発振興に係る事業のライフサイクル高度化調査事業」を実施 した。 この調査にあたっては、事業の実現と推進にご尽力を賜った経済産業省および日本 自転車振興会ならびに社団法人日本機械工業連合会の関係各位に厚く御礼申し上げま す。 平成18年3月 財団法人 会 ⅲ 長 航空機国際共同開発促進基金 佐 々 木 元 平成17年度 21 世紀型航空機国際共同開発振興に係る事業の ライフサイクル高度化調査事業委員会委員名簿 区 分 委員長 氏 名 情報通信研究機構つくば JGN Ⅱ リサーチセンター長 元 筑波大学構造工学系教授・副学長 村上 宇宙航空研究開発機構 航空プログラムグループ 超音速機チーム実証機ユニット長(兼)計画管理チーフマネージャ 哲 李家 賢一 坂田 公夫 板原 寛治 池上誠一郎 北川 徹 永峯 義隆 水谷 哲也 鳥居 誠 筒木 正明 杉浦 重泰 土肥 達也 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 助教授 東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 教授 ○ 宇宙航空研究開発機構 理事 総合技術研究本部長 航空プログラムグループ 統括リーダ (社)日本航空宇宙工業会 国際部長 三菱重工業(株) 航空宇宙事業本部 民間航空機部 課長 川崎重工業(株) 航空宇宙カンパニー 営業本部 宇宙・民間航空機部 課長 富士重工業(株) 航空宇宙カンパニー 航空機第2部 民間機営業課長 石川島播磨重工業(株) 航空宇宙事業本部 民間エンジン事業部 技術部 部長代理 横河電機(株) 航空宇宙・特機事業部 開発推進部長 住友精密工業(株) 航空宇宙第二営業部 担当部長 全日本空輸(株) 整備本部 部品計画部部長 主席部員 双日エアロスペース(株) 東京第 3 営業部長 (H17.9.30 まで) 双日エアロスペース(株) 東京第 3 営業部長 大倉 祥弘 (株)東芝 デジタルメディアネットワーク社 経営企画部 企画担当グループ長 一ノ瀬宏昭 オブザーバー 和爾 俊樹 高岡 武司 山口 俊吉 佐藤 秀雄 ◎ ○ 原田 純一 奥田 章順 事務局 W・G 古賀 達蔵 渡辺 紀德 委 員 所 属・役 職 ○ ○ ○ (H17.1.0.1 から) ○ (株)三菱総合研究所 産業・市場戦略研究本部 産業戦略研究部 国際産業研究チーム プロジェクトマネージャー ○ 兼チームリーダー 経済産業省 製造産業局 航空機武器宇宙産業課 課長補佐 (H17.6.19 まで) 経済産業省 製造産業局 航空機武器宇宙産業課 課長補佐 (H17.6.20 から) (財)航空機国際共同開発促進基金 常務理事 国際部長 国際部部長代理 ◎:ワーキンググループ主査 O:ワーキンググループ委員 ⅴ 1.はじめに 1.1 調査事業の趣旨 航空機産業は、その製品が過酷な条件下での運用、且つ高度な安全性が求められる技術 の集積からなりたっており、付加価値が高く、他産業への技術波及効果が大きい典型的な 知識集約産業であり、我が国が技術立国を目指す上で、欠くことが出来ない産業と位置づ けられる。 我が国産業の“ものづくり”の空洞化が叫ばれている現在、いち早く先端技術をもって 現状を改善することが、我が国の航空機工業並びに機械工業全体の発展に繋がる。航空機 産業はコスト的に高額であり、開発・製造リスクは大きく、1 社単独での研究・開発は容 易ではなく、国際的な共同開発・製造分担が世界の趨勢となっている。 一方、21世紀初頭における世界の航空機産業の状況を見ると 大型民間用航空機は欧 米2大メーカの寡占下にあり、小型民間用航空機はブラジル、カナダが占めている。また 中国も小型民間用航空機の開発を開始しており、更にアジア諸国においては経済危機から の回復が続いている。 加えて21世紀初頭における世界状況を見てみると大量の情報が一瞬のうちに世界中に伝 播される高度 IT 社会、IT 技術と高度先端技術が単独叉は複合的に応用される高度技術社 会、環境負荷低減の社会、地域経済体制構築の機運が高まる社会、世界各国での公平、公 正で、自由な競争が、世界的基準・規格・標準・倫理感のもとで行われるべき社会、安全 管理・危機管理が確立されるべき社会および事業活動がその事業のライフサイクルにおい て統合的に実施され、地球環境と密接に関わるものとして推進される状況の社会である。 日本が国際舞台においてこの様な21世紀初頭の状況に対応させ且つ主体的な役割を果た していくためには、独創的な技術革新を図り、それらを各産業間で横断的に結合・応用さ せ、確たる知的財産政策のもとに、それを有効的に次世代の国際共同開発に発展させるシ ステムの構築が必要である。そのことにより我が国の航空機産業並びに関連機械工業の発 展、及び国際的貢献の進展を図ることができる。 財団法人航空機国際共同開発促進基金としては、上記のような趣旨に鑑み、昨年度 に引き続き平成17年度事業として、社団法人日本機械工業連合会から日本自転車振興 会の機械工業振興資金の補助を受けて、委託事業「21世紀型航空機国際共同開発振興 に関る事業のライフサイクル高度化調査事業」を実施するために、当基金内に「21世 紀型航空機国際共同開発振興に関る事業のライフサイクル高度化調査委員会」を設置し て我が国航空機工業と機械工業との双方向連携と有効活用のためのシステム構築、21世 紀における航空機産業の事業ライフサイクル高度化・高次化、国際化、及び21世紀のア ジア地域での航空機産業の発展、共生、共栄への日本の貢献のための調査・検討を行うこ ととし、本年度は、航空機産業発展のための事業サイクル上の連携・交流のシステム基盤 のあり方(全機開発機種の事業化に向けて)について調査・検討を実施した。 (図1.1「21世紀型航空機国際共同開発振興に係る事業のライフサイクル高度化調査 事業」概念図 (図1.2「21世紀型航空機国際共同開発振興に係る事業のライフサイクル高度化調査 事業」活動及びスケジュール概要 1 1.2 調査目的 世界の航空機産業はグローバル化が一段と加速され、事業投資規模も益々拡大している。 ここにおける対応の基本姿勢は、国際的協調、共生・共栄であり、我が国の航空機産業の 発展は、国際貢献によって達成されるとの観点に立つ必要がある。特に、我が国がアジア 地域においてどのように貢献するかが、我が国の航空機産業が飛躍的な発展に繋がる重要 な視点である。 かかる状況下で、21世紀初頭の世界情勢に適正に対応しつつ我が国が国際舞台で主体 的な貢献役割を果たしていくためには、技術総合力の向上を図ると共に、一方では、技術、 人材、情報等の資源が有効に活用されるために、それらの資源の有機的交流・調和が図る ための航空機産業のシステム基盤の構築が不可欠である。それにより航空機産業関連事業 の発展が促進される。本調査事業ではこれまでの国際交流促進事業において実施してきた アジア地域の人材・情報交流調査およびシーズ発掘事業で実施してきた航空機産業と機械 工業等の他産業間の技術移転、技術交流の態様の調査で得られた成果並びに国際共同開発 基盤調査事業の成果をも取込みつつ、21世紀の巨大化、複雑化、グローバル化する世界 の航空機産業への我が国の貢献並びに広範囲の先端技術を駆使した高度の技術集積からな る航空機等の開発・製造技術と機械工業技術との間の相互有効活用、相互転用、相互移転 促進等を視野に入れたシステムの構築のために「21世紀型航空機国際共同開発振興に係 る事業のライフサイクル高度化調査事業」を実施する。 1.3 調査経緯 航空機国際共同開発振興のためにこれまで以下に示す調査事業を実施した。 (1)航空機等国際共同開発シーズ発掘等事業 [1989(H1)年~1999(H11)年] 航空機等国際共同開発シーズ発掘等事業は、国際共同開発の新規プロジェクトのシー ズ発掘のあり方を調査研究することを目的としてスタートした。 元来、高度先端技術集約を特徴とする航空機産業の発達を図る上で、航空機産業以認識 のもと、技術移転を主要課題とした航空機関連のシーズ発掘の調査研究を平成元年度か ら実施してきた。すなわち、航空機産業と他産業間の技術移転、交流の態様と航空機産 業の技術体系を調査すると共に、主として航空機部品・素材分野における先端産業技術 の取り込み(技術移転および交流)の現状を調査し、あわせて、わが国の航空機産業に おけるシーズ開発の進め方を調査してきた。その結果、①航空機開発に必要な個別技術 の抽出、②他産業から取り込める技術の抽出、③航空機産業への技術移転ならびに技術 のシステム化の態様が把握され、平成11年度に調査研究の目的をほぼ達成し終了した。 (2)航空機技術者等国際交流促進調査事業 [1991(H3)年~1999(H11)年] 航空機の国際共同開発の促進には、テクノグローバリズムの一層の進展に配慮して、 航空機産業分野における技術者・研究者等の相互理解の円滑化と技術力の向上を目指し た人材・情報の交流が図られなければならない。 この主旨のもと、平成3年度から幅広い人材・情報交流の基盤整備について調査・検討 を行うと共に、アジア・オセアニア地区の航空機産業における国際協力体制などに関す る研究者・技術者を主体とした国際フォーラムを開催し、具体的人材・情報交流の組織 2 化と体制作りを目指し、さらに人材・技術情報などの総合的データ蓄積に基づく航空機 産業用の海外向け情報発信を可能とする人材・情報センター(航空機産業国際交流セン ター)構想に対する各国のニーズの調査・検討を実施し、平成 11 年度に調査研究の目 的をほぼ達成し終了した。 (3)航空機等次世代国際共同開発基盤調査事業 [2000(H12)年~2003(H15)年] 国際交流促進調査事業において実施してきたアジア地域の人材・情報交流の基盤整備調 査およびシーズ発掘等事業で実施してきた航空機産業と他産業間の技術移転、技術交流 の態様の調査で得られた活動成果を取り込みつつ、これまでの両事業をさらに発展統合 して、グローバル化する世界の航空機産業への貢献、とりわけ、アジア地域への貢献に 視点を置き、「航空機等次世代国際共同開発基盤調査事業」を新設し、国際共同開発の 振興に寄与する調査研究を開始した。調査研究は航空機産業発展に係る産・学・官の連 携、情報交換、人的交流のあり方、航空機関連ビジネスの発展に係る官と法制度のあり 方、更に一層のビジネス拡大のための検討、及びアジア地域の重要性の分析、Info-Plaza Meeting を含むアジア調査の実施を行い、平成15年度に調査研究の目的をほぼ達成し 終了した。 (4)これまで航空機等次世代国際共同開発基盤調査事業において実施してきた我が国の 国際共同開発の推進に関する基本調査、我が国の国際共同開発推進のあり方とその取り 組みに関する検討・考察で得られた成果をも反映しつつ、航空機国際共同開発振興に係 わる検討の切り口をより広範、且つ高い視点から捉え、開発のみならず航空機産業の事 業ライフサイクル全般を俯瞰し、事業ライフサイクル高度化のための重 要な事項につ きその課題・問題点を明らかにするとともに、あるべき姿を実現するために「21世紀 型航空機国際共同開発振興に係る事業のライフサイクル高度化調査事業」を実施するた めに調査委員会を設置し、国際共同開発の振興に付与する調査研究を開始した。 1.4 調査委員会の構成と運営 委員会のメンバーは冒頭の「委員会構成表」のとおりで、大学2名、公的研究機関2 名、航空機関連業界11名、その他の有識者1名の合計16名より成り、オブザーバー として経済産業省製造産業局航空機武器宇宙産業課一ノ瀬宏昭課長補佐(H17.6.19 迄) および和爾俊樹課長補佐(H17.6.20 から)に参加して頂いた。 委員長には学会の第1人者であり、産業界においても幅広く活躍されている情報通信研 究機構つくばJGNⅡリサーチセンター古賀達蔵センター長にご就任頂き、委員会の運 営全般にわたり多大のご教示を賜った。 委員会の運営は全員参加型の委員会活動を旨とし、実際の調査活動をワーキング・グル ープ(WG.主査村上哲委員)で行い、委員会にて全体の合意を形成する方針で臨んだ。 ワーキンググループの編成は別掲表示のとおりである。 (1)委員会運営の基本なお、調査検討委員会の運営と方法は次の通りである ①活動内容の具体的イメージアップ システム基盤というテーマを扱うため、極力中味の明確化に努め、グループ員の認識 の共通化を図り、常に5W1Hを考慮しながら実施する。 3 ②プロセス追求の重点指向 最終ターゲットに到達するプロセスの追求を重視しつつ、年度毎に設定した命題の解 決の方策を見出す方法とする。 ③幅広い共鳴を得る努力 利害衝突あるいは従来のスキーム、体制の変更要求等から、委員会内で活動に対する 共鳴確保が困難な状況の発生が想定される。従って、幅広い共鳴を得られる工夫と努 力が重要である。 ④委員会とワーキンググループ の位置づけ a.委員会 活動の基本方針の検討・議論と決定、ワーキンググループ検討事項の承認 b.ワーキンググループ 具体的活動の推進 c.委員会運営の手法 ・徹底した議論の展開とその輪の拡大 委員会及びワーキンググループでの活発な議論の展開 メディアの有効活用による議論の充実と議論の輪の拡大 ・委員会およびその周辺での早期試行 活動そのものの先導的意義および解決策の進化のため、実現可能な領域で試行する。 ・共鳴確保の工夫と努力の推進 できる限りの議論の展開 価値概念およびアイデンティティーを高める工夫の推進 プレゼンテーション資料ファイルの充実 1.5 調査概要 21世紀型航空機国際共同開発振興に係る事業のライフサイクル高度化調査事業内容 として、次の4項目の調査を推進して行くこととした。 調査の進め方としては、事業全般に係わる異業種交流状況聴取を踏まえた現状の把握、問 題点・課題の抽出、解決方策の検討及び具体的方策の作成について進めることとする。 (1)航空機産業の事業ライフサイクルにおける IT 活用のあり方 ①IT ハードとしての活用(各機器のブレーン、システムコントロールなど) ②ビジネスへの活用 ③人的交流、情報交流、並びに他産業との連携交流としての活用 ④欧米航空機産業先進国における情報交流における IT 活用 ⑤不特定多数(一般市民など)との情報交流としての活用 [注記]:世界の社会、経済、科学技術、情報等の巨大化・複雑化・グローバル化にとも ない今後事業を実施するに際して旧来の単一的な縦割り組織・行政形態的思考で は立ちゆかない。すなわち全体を俯瞰しつつ統合的且つ効率的に事業を行う必要 がある。 (2)航空機産業を中心とする機械工業の各事業サイクル上の活動における技術の相互波 及と、そのより効率的な連携と交流のあり方。(新製品ビジネス及びアフターマーケッ トビジネス発展に向けて) (3)航空機産業の事業ライフサイクル高度化のためのシステム基盤 航空機工業-機械工業間の相互技術波及(上記2項)以外の事項について、航空機 4 産業の発展の為の事業ライフサイクル上の連携・交流のシステム基盤あり方 [調査・検討の視点] ① 収益率向上化、性能技術向上化、安全性向上(安全管理・危機管理の視点)、技術 の近代化、省エネルギー、環境適合性向上、市場拡大化、マーケティングシステム のあり方、 事業ライフサイクルの統合的管理のあり方。 ② 知的財産政策・戦略、 国際交流・連携のあり方、不特定多数との情報交流とその活 用 ③ 経営者等の資質・独創性・発想の転換・長期戦略・哲学 ④ 我が国の政策・法制度並びに国際的基準、規格、相互取り決め等 ⑤ メーカ、エアライン、大学、研究所、及び関連各省庁、更に連携交流のあり方 ⑥ 我が国独自に進める全機航空機・エンジン開発とその事業化に向けての事業サイ クルシステム基盤のあり方。 (4)日本の航空機産業の発展とアジアとの共生・共栄、ひいては欧米先進国との共生・ 共栄のための国際的連携・交流のあり方。 (特に中国を中心としたアジア各国との連携を視野に入れ、21世紀初頭状況に適合 した方針・方向性の確立) ① アジア各国の定期的実態調査・交流の実施とそのあり方(含む Info-Plaza Meeting)。 ② 欧米先進国の定期的実態調査の実施とそのあり方。 1.6 平成16年度調査結果と課題 航空機産業の発展のための事業ライフサイクル上の連携・交流のシステム基盤のあり 方につき、他業種と国内外の航空機産業との事業ライフサイクル等の調査およびその 比較分析等から、日本の航空機産業の事業ライフサイクルの高度化のためのビジネス シナリオの必要性と技術相互波及、連携・交流の必要性を指摘した。また、いかなる システム基盤(環境基盤)が連携・交流を促進することに効果的であるのかについて 検討し、そのあり方・具体的な方策を見いだすことが今後の課題である。 さらに、IT有効活用のあり方検討では他業種、教育、研究開発および、航空機製造・ 整備等の現状調査から、連携・交流のシステム基盤という視点で、航空機産業のライ フサイクルの各段階(企画からプロダクトサポート)での、より具体的な IT 有効活用 のあり方について検討を行うことが必要であることが明確になった。 一方、アジア各国との定期的な連携・交流のためにパシフィコ横浜に於いて第3回 Info-Plaza Meeting を開催し、日本と韓国との相互理解を深めた。 近年航空機需要の増加が著しいアジアにおいては、日本がアジアの核となり、アジア 中心の航空機国際共同開発を始めるための基盤創りが重要である。 1.7 平成17年度調査概要 1.7.1 調査内容 平成16年度で抽出された課題等を考慮しつつ、平成17年度の活動方針は以下の項 目を中心として調査・検討を実施することとした。 5 (1)日本の航空機産業の現状 日本の航空機産業の概要、機体関係、エンジン関係および装備品関係についての調査・ 検討。 (2)国内外の航空機企業の成功事例分析とビジネス戦略 エアバス社(ヨーロッパ)、ロールスロイス社(イギリス)、エンブラエル社(ブラジ ル)、ボンバルディア社(カナダ)ジャムコ社(日本)およびアジア域における状況に ついての調査・検討。 (3)航空機産業以外でのビジネス戦略事例 日本の自動車産業およびデジタル家電についての調査・検討 (4)日本の航空機産業のビジネス目標 航空機産業の特性と事業戦略、日本が目指すべき姿、日本のビジネス目標、および求 められる人材についての検討。 (5)アジア各国との定期的な連携・交流とそのあり方 アジア各国との定期的な連携・交流の重要性および Info-Plaza Meeting の実施。 1.7.2 調査活動 平成17年度の調査委員会活動として、調査の進め方は、年/4回の委員会開催、年/ 4回のワーキンググループ会議を開催し、海外(韓国、タイ)調査をとおして進めた。 具体的には、次のとおりである。 [調査委員会] ○第1回委員会 平成17年6月7日 1.本調査事業の趣旨および活動計画概要の紹介と意見交換 2. 委員会の活動計画概要について ○第2回委員会 平成17年9月13日 1.調査の進め方について(第1回ワーキンググループ会議の結果報告と討議) 2.Info-Plaza Meeting(韓国)および海外調査計画について ○第3回委員会 平成17年12月6日 1.調査の進め方について(第2回ワーキンググループ会議の結果報告と討議) 2.Info-Plaza Meeting(韓国)および海外調査結果の概要報告について ○第4回委員会 平成18年3月1日 1.平成17年度調査報告書の承認 [ワーキンググループ会議] ○第1回ワーキンググループ会議 平成17年7月12日 1.本事業の調査の進め方について 6 ○第2回ワーキンググループ会議 平成17年10月11日 1.本事業で取り扱うテーマの討議 ○第3回ワーキンググループ会議 平成18年1月12日 1.本事業で取り扱うテーマの討議 2.平成17年度調査報告書の作成について ○第4回ワーキンググループ会議 平成18年2月1日 1.平成17年度調査報告書原稿の検討 [海外調査] 1.調査目的 21世紀型航空機国際共同開発振興に係る事業のライフサイクル高度化調査事業に係る アジア地域調査として平成17年度はタイの航空業界調査を行った。また、同時期に韓国 のソウルで行われた Info-Plaza Meeting に出席し、開催中のソウル エアショウを視察調 査した。 2.訪問先 1) ソウル エアショウ 2005(韓国-ソウル) 2)Info-Plaza Meeting(韓国-ソウル) 3)カセサート大学 Bangkhen キャンパス(タイ-バンコック) 4)カセサート大学 Si Racha キャンパス(タイ-バンコック) 5)Chromally Thailand(タイ-バンコック) 6)タイ王国空軍航空博物館(タイ-バンコック) 3.期間 2005年10月17日~10月27日 4.調査団 * 古賀 達蔵:調査委員会委員長 情報通信研究機構 つくば JGNⅡリサーチセンター長 * 渡辺 紀徳:調査委員会委員 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 * 村上 哲 :調査委員会委員 ワーキンググループ主査 宇宙航空研究開発機構 超音速機チーム * 山口 助教授 航空プログラムグループ 実証機ユニット長 俊吉:調査委員会事務局員 航空機国際共同開発促進基金 7 国際部 部長 活 動 項 目 活 動 の 位 置 付 け 我が国の航空機産業を発展させるべく、国際 1.航空機産業の事業ライフサイクルにおける国際 共同開発振興に係るシステム基盤構築に関 する基本調査(現状分析・課題整理・考察) ①我が国航空機工業と機械工業との双方向連携と有効活用の ためのシステム基盤 共同研究・開発を促進する諸基盤の中で、人、 ②21世紀における航空機産業の事業ライフサイクル高度化・高次化 及び国際化 H16年度からは航空機国際共同開発振興に 技術、情報等の資源を有機的に結合し、より高度で 有効な資源の活用を図り国際共同開発をより効果的に 推進するためのベースとなる基盤をシステム基盤 と定義付け、このシステム基盤の構築にむけ調査 平成16年度活動 平成17年度活動 (平成18年度活動予定) 相互技術連携に係る 異業種 交流状況聴取を 踏まえた 現状の把握 航空機関連企業の 現状の把握 問題点・課題の抽出 問題点・課題の抽出 問題点・課題の抽出 解決方策の検討 解決方策の検討 解決方策の検討 (平成19年度活動予定) 日本の航空界の 現状と航空機のための 産学官の連携状況 の把握 解決方策の検討 事業を実施するものである。 係る検討の切り口をより広範、且つ高い視点から 具体的方策 捉え、開発のみならず航空機産業の事業ライフサイクル ③21世紀のアジア地域での航空機産業の発展、共生、共栄 への日本の貢献 全般を俯瞰することとし、事業ライフサイクル高度化の ための重要な事項につきその課題・問題点を明らかに するとともにあるべき姿を実現するための具体策を 提言すべく必要な調査・検討を行う。 委 施策立案及びま とめ 具体的方策 (1)委員会:委員16名、開催:4回/年 (2)同WG:委員 9名、開催:4回/年 具体的方策 具体的方策 員 2.主要調査・検討実施項目 調査・検討 活動の視点 9 会 [1] 航空機産業と機械工業等間の相互波及 活 (1)航空機産業を中心とする機械工業等の各事業サイクル上の ①新規製造ビジネス・アフターマーケット 相互技術波及連携・交流のため のシステム基盤 動 活動における技術の相互波及と、そのより効率的な連携と交流の ビジネス発展に向けて あり方 ②取り組みの現状、業界の要望 ③技術及びマーケティングスキルの相乗効果 (2)航空機関連技術高度化の為のIT有効活用のあり方 ①ITハードとしての活用 ②人的・情報・産業間交流としての活用 ③欧米航空機先進国のIT活用 ④一般市民との情報交流活用 航空機関連技術高度化の為のIT有効 活用(ネットワーク化等) [2] 航空機産業の事業ライフサイクル高度化の為のシステム基盤 (1)航空機産業発展のための事業サイクル上の連携・交流の システム基盤のあり方 (全機開発機種の事業化に向けて) 国際共同開発事業 ①航空機関連企業の現状 ・市場調査、製品計画、運用と整備 ・人材育成ー国際人 ②航空界の現状 ・航空輸送システムの将来構想 ・航空産業の計画と見通し ③航空機のための産学官の連携状況 ・先端技術開発 整備事業 航空界の現状 産学官の連携 (2)航空機産業のあるべき姿を実現するための施策 ・プライムとしての大型機国際共同開発(アジア地域中心) ・中小型機の全機開発機種の事業化 施策立案及びまとめ 第4回Info-Plaza Meeting (韓国) 第3回Info-Plaza Meeting、 [3] 日本の航空機産業の発展とアジア(含む欧米)との共生・共栄と、 ①アジア各国の定期的実態調査・交流と 及びタイ調査を実施 Pacifico横浜 その為の国際連携・交流のあり方 そのあり方(含むInfo-Plaza Meeting) (21世紀初頭状況に適合した方針・方向性の確立) ②欧米先進国の定期的実態調査・交流と そのあり方 ホスト:事業ライフサイクル高度化調査委員会) [4] その他、委員会進行途上において必要とされる項目の調査検討 図1-2 「21世紀型 航空機国際共同開発振興に係る事業のライフサイクル高度化調査事業」 活動及びスケジュール概要 第5回Info-Plaza Meeting (日本)及び欧米調査 (ホスト:事業ライフサイクル高度化調査委員会) 第6回Info-Plaza Meeting (韓 国)及びインドネシア調査 2. 日本の航空機産業の現状 2.1 概要 2.1.1 世界の航空産業の売り上げとの比較 以下の図2-1-1-1に示すように、日本は航空と宇宙の両分野の合計が約 100 億ドル (1 兆円)規模で、航空のみでは約83億ドルで、世界第一の米国 1500 億ドル(ただし、 航空のみでは 800 億ドル)と比較し、1/15となっている。また、第 2 位、3 位のフラ ンス、英国がともに 300 億ドルであることと比べ、1/3程度の売り上げで、大きく差が 米国全体 米国航空機 英 国 仏 国 独 国 加 国 伊 国 日本全体 日本航空機 日本宇宙 図 2-1-1-1 2001 1998 1995 1992 1989 1986 1983 1980 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 1977 売上(億ドル) ついている。 主要世界航空宇宙工業会の売り上げ なお、GDP(国内総生産)比で見ると、日本の航空機産業は 0.2%程度で、GDP への寄与 は小さく、基幹産業にはいたっていない。一方、米国、フランス、英国、カナダなどは 1.5% 前後で、国を代表する産業となっている。 図2-1-1-2 カナダ イタリア ドイツ イギリス フランス アメリカ 日本 2.0% 1.8% 1.6% 1.4% 1.2% 1.0% 0.8% 0.6% 0.4% 0.2% 0.0% 売り上げ対 GDP 比(2003) 10 2.1.2 日本の航空工業生産高 図2-1-2-1に示すように、航空機工業の生産高は、年度を追って伸びてきている。 内訳として、防衛需要、民需、輸出に分けて示しているが、1990 年ころから冷戦終結にと もなう防衛予算の伸びがなくなってきており、一方で、この時期から国際共同開発による 輸出が大きな割合を持つようになった。また、図2-1-2-2に示すように、輸出は全 体の 3 割を占めるに至っている。一方、製造と修理生産額の推移を図2-1-2-3に、 割合の推移を図2-1-2-4に示す。機体、エンジン、装備品の修理は生産額の約 2 割 だが、微増している。 航空機エンジン等生産額内訳 1,200,000 百万円 1,000,000 800,000 輸 出 内 需 防衛庁 600,000 400,000 200,000 19 71 (S 19 46) 75 (S 19 50) 79 (S 19 54) 83 (S 19 58) 87 (S 62 19 ) 91 (H 3 19 95 ) (H 19 7 99 ) (H 20 11) 03 (H 15 ) 0 図2-1-2-1 国内航空機産業の生産額(億円) 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 輸 出 内 需 防衛庁 19 71 (S 19 46) 75 (S 50 19 ) 79 (S 19 54) 83 (S 58 19 ) 87 (S 62 19 ) 91 (H 3) 19 95 (H 7 19 99 ) (H 20 11) 03 (H 15 ) 百万円 航空宇宙生産高の内訳 図2-1-2-2 航空宇宙生産高の内訳(億円) 11 図2-1-2-4 製造と修理の変遷 12 2004(H16) 2001(H13) 1998(H10) 1995(H 7) 1992(H 4) 1989(H 1) 2-1-2-3 1986(S61) 1983(S58) 1980(S55) 1977(S52) 図 1974(S49) 1971(S46) 60% 40% 20% 0% 2003(H15) 2001(H13) 1999(H11) 1997(H 9) 1995(H 7) 1993(H 5) 1991(H 3) 1989(H 1) 1987(S62) 1985(S60) 1983(S58) 1981(S56) 1979(S54) 1977(S52) 1975(S50) 1973(S48) 1971(S46) 12000 10000 8000 6000 修理合計 製造合計 4000 2000 0 航空機生産額内訳(億円) 100% 80% 修理合計 製造合計 2.1.3 航空機機材の輸出入について 輸入超過の産業として継続しているが、ここ最近では、大型民間機の購入に伴う 5000-9 000 億円の輸入に対し、輸出は平成 8 年以降 B777、V2500 などの好調な売れ行きで増加 したものの、2500-3000 臆円程度となっている。結果、図2-1-3-1に示すように、 入超額は、2000-5000 億円と大きな額を示している。 10,000 9,000 8,000 7,000 6,000 輸出 輸入 入超額 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 図2-1-3-1 H15 H13 H11 H9 H7 H5 H3 H1 S62 S60 S58 S56 S54 S52 S50 S48 S46 S44 S42 S40 0 -1,000 輸出入額(億円) 図2-1-3-2に見られるように、昭和 54年からの B767 の出荷や、昭和 58 年からの V2500 の出荷、平成4年からの B777 の出荷、平成 8 年からの CF34 の出荷などが着実に 輸出増加に寄与している。それ以外にも最近のボンバルディア社、エアバス社、エンブレア社など への輸出が輸出に係わってきている。 2500 KHI エンブレアERJ-190参加 1)MHI ボンバルディア CRJ参加 2)MHI Airbus貨物扉参加 2000 CF34初出荷 1500 億円 B777初出荷 航空機 発動機 V2500初出荷 1000 B767初出荷 500 図2-1-3-2 15 13 11 9 7 5 3 H1 62 60 58 56 54 52 50 48 46 44 42 S40 0 機体、エンジン輸出額 図2-1-3-3に機体の出荷額と B767 および B777 の出荷機数の相関を見たが、その トレンドは相関が見られる。なお、B767 と B777 の出荷機数のトレンドを図2-1-3 13 -4に示す。一方、2004 年度は、B767、B777 の出荷機数 49 機に対し売上は約 620 億円 で、図 2-1-3-5 に示すように、機体輸出額 1200 億円の約半分を占めている。その他機体メ ーカへの輸出は、カナダ、ブラジル、欧州向けで合計約 25%を占めている。 140 2500 2000 100 80 1500 60 1000 40 輸出額(億円) B767,B777 合計台数 120 500 20 図2-1-3-3 H16(2004) H14(2002) H12(2000) H10(1998) H8(1996) H6(1994) H4(1992) H2(1990) S63(1988) S61(1986) S59(1984) S57(1982) 0 S55(1980) 0 航空機輸出額と B6、B7 出荷台数相関 140 120 100 80 60 40 20 0 図2-1-3-4 H16(2004) H12(2000) H8(1996) H4(1992) S63(1988) S59(1984) S55(1980) B777-300 B777-200 B767-400 B767-F B767-300 B767-200 CAC(民間航空機株式会社)出荷機数 14 Brazil Canada Australia UK France Germany USA(B767&B777) USA(残り) その他 図 2-1-3-5 国別機体輸出先(2004 年) エンジンについても、図2-1-3-6に示すように、発動機出荷額と V2500 および CF34 の出荷台数との相関がみられる。図2-1-3-7に JAEC のエンジンモジュール出荷台 数を示す。なお、JAEC(日本航空機エンジン協会)の V2500、CF34 の売上高は約 670 億で、 1200 500 1000 400 800 300 600 200 400 100 200 図2-1-3-6 H15 H16 H14 H12 H13 H10 H11 H8 H9 H7 H5 H6 H3 H4 0 H2 0 発動機出荷額と V25,CF34 出荷台数の相関 15 発動機輸出額(億円) 600 S63 H1 V2500とCF34出荷台数合計 エンジン輸出額約 1000 億円の約 7 割を占めている。 600 500 400 CF34 V2500 300 200 100 図2-1-3-7 JAEC エンジンモジュール出荷台数 16 H16 H15 H14 H13 H12 H11 H10 H9 H8 H7 H6 H5 H4 H3 H2 H1 0 2.2 機体関係 航空機国際共同開発を今後どう取り進めて行くかを検討する上で、日本の航空機産業 の国際競争力を認識しておく事が重要である。以下、航空機産業を機体関係、エンジン関 係、装備品関係に分類して分析する。先ず、日本の航空機産業の内、機体関係につき、国 際競争力の現状を調査し取り纏めたものが表 2.2.である。 表 2.2.航空機国際共同開発の現状(機体) カテゴリー 事業者 民間航空機 国際 JADC M,K,F 競争力 787 (ナショ (注1) プロ) × × × ○ ○ ○ 機 種 A B プライム製造メーカー(OEM)として事業を進めた。 RSP製造メーカー(OEM)として事業を進めた。 C D サプライヤー(下請け)として事業を進めた。 JVの一員として事業を進めた。 市場調査、製品計画を実施した。 a 営業活動(客先窓口業務、契約業務等)を実施した。 b b1 製品を顧客(エアライン)に販売した。 b2 顧客との契約業務を担当した。 b3 客先窓口業務を担当した。 開発、設計を実施した。 c c1 要素試験を実施した。 c2 概念設計(Firm Concept設定迄の作業)を実施した。 c3 基本設計(Firm Configuration設定)を実施した。 c4 詳細設計を実施した。 型式証明を取得した。 d × × × × ×(△) × × × × × × × ○ × × ○ △ △ △ ○ △ ○ △ ○ ○ △ 自前の設計基準とスペックを採用した。 e f ×(△) プライムの支援。 × プライムが実施。 × × × ○ 日本単独実施。 ○ △ ○ ○ ×(△) プライムの型式証明 取得を支援。 × × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × × ○ ○ △ △ △ ○ ○ × × × ○ ○ ○ △ ○ △ ○ ○ ○ ○ × × △ △ × △ △ × △ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ △ △ △ △ ○ ○ ○ ○ d2 適合証明プランを纏めFAA認証を取得した。 適合証明の為の解析・試験を実施、レポートに纏めFAA d3 認証を取得した。 d4 型式証明は自社の名で取得した。 プライムが型式証明 を取得。 ○ 日本単独実施。 ×(△) プライムへ部品、 技術資料を提供。 (注1)MHI:ボンバルディア機種 FHI:レイセオン機種 KHI:エンブラエル機種 17 × × △ × f1 客先サポート(整備計画、WARRANTY、GUARANTY等) f2 客先サポートレップ(オンサイト) f3 スペア部品販売 f4 技術図書 f5 修理開発 × × 参考 日航製 国 YS-11 防衛庁 (ナショ 機種 プロ) ○ ○ × × △ (複合 材) × d1 量産製造を実施した。 プロダクトサポートを実施した。 補足説明 ◎:世界のトップメーカーと伍して、機体全体の開発~製造、販売、顧客サービスを行う 事が出来る経験/ノウハウを有する ○:機体全体の開発~製造、販売、顧客サービスを世界のトップに近いレベルで行う事が 出来る経験/ノウハウを有する。 △:機体全体の開発~製造、販売、顧客サービスを行う為の経験/ノウハウを十分ではない が、有する ×:機体全体の開発~製造、販売、顧客サービスを行う為には、相当の努力を必要とする。 以下に、表 2.2.の各主要項目につき、もう少し補足説明を加える。尚、表中、事業者 の 行 の 「 JADC 」 は 財 団 法 人 日 本 航 空 機 開 発 協 会 ( Japan Aircraft Development Corporation)を、「M,K,F」は各々、三菱重工業株式会社、川崎重工業株式会社、富士重 工業株式会社、又、 「日航製」は、日本航空機製造株式会社を指す。又、カテゴリーのカラ ム の 「 OEM 」 は Original Equipment Manufacturer を 、「 RSP 」 は Risk Sharing Partnership を、「JV」は Joint Venture を意味する。 2.2.1 市場調査、製品計画(表 2.2.a 項) YS-11 で市場調査、製品計画を実施して以来、中・大型民間航空機の世界では、日本独 自のプロジェクトが無かった事から、市場調査、製品計画を実施する機会が無く、日本の 航空機機体メーカーは、ボーイング社とエアバス社といったプライムの支援を中心に作業 を実施している。 2.2.2 営業活動(客先窓口業務、契約業務等)(表 2.2.b 項) 上記の通り、市場調査、製品計画と同様、営業活動もプライムが実施している。日本 の航空機機体メーカーには、日本独自のプロジェクトが無く、YS-11 以来、営業活動を展 開する対象が無かった。 2.2.3 開発、設計(表 2.2.c 項) 767、777、787 といったボーイング社との国際共同開発を通じて、日本の航空機機体 メーカーは、開発、設計能力を高めて来た。現在では、世界のトップに近いレベルで開発、 設計を実施出来る能力があると言える。 2.2.4 型式証明取得(表 2.2.d 項) 現状では、プライムが、プライム自身の名で型式証明を取得している。現在、日本独 自のプロジェクトが無い事から、日本の航空機機体メーカーは、自ら型式証明を取得する 機会が無く、プライムの型式証明の支援を中心に作業を実施している。 2.2.5 量産製造(表 2.2.e 項) 767、777、787 といったボーイング社との国際共同開発を通じて、日本の航空機機体 メーカーは、量産製造能力を高めて来ており、高品質、納期厳守といった面でのボーイン 18 グ社の評価は非常に高い。現在では、世界のトップに近いレベルで量産製造を実施出来る 能力は、十分あると言える。 2.2.6 プロダクトサポート(表 2.2.f 項) YS-11 以来、日本独自のプロジェクトが無かった事から、直接、客先(エアライン) をサポートする機会が無く、日本の航空機機体メーカーは、プライムへの部品/技術資料 の提供を中心に作業を実施している。 2.3 エンジン関係 第二次世界大戦後の航空機産業の空白期間を経て、復興された航空機エンジン産業は、 海外 OEM が設計/開発した防衛庁向けエンジンの生産に始まり、1980 年代以後は JAEC の V2500 に代表される民間国際共同開発エンジンプログラムに参画して民間航空機エンジン ビジネスの表舞台に立つに至り、今日では民間航空機エンジンの主要な共同開発プログラ ムには多くの場合、日本企業がパートナとして加わるような状況となった。 但し、上述したような民間航空機エンジンの国際共同開発においては、いずれも欧米の 主力エンジン・メーカ(米 General Electric 社、英 Rolls Royce 社、米 Pratt & Whitney 社)がプログラムの OEM としての主要部分を占め、日本企業が欧米主力メーカと同レベ ルの役割を果たすには至っていない。 航空機エンジン産業で日本企業が今後、更なら飛 躍を遂げるためには、日本企業が OEM として民間航空機エンジンを開発し、そのビジネ スを展開する実績をもつことが重要な試金石となると考えられる。 その観点から、日本企業が民間航空機エンジンを企画、設計、型式承認取得を行い、そ の販売、顧客サポートまでの一巡のビジネスを自前で行うために、これまでの国際共同開 発プログラムでどのような実績を積んできたか、更にその実績に基づいて、独力で民間航 空機エンジンビジネスを展開するための競争力が欧米の主力メーカに比して、どのレベル にあるのかを民間航空機エンジンビジネスを展開するために必要な実績/能力項目につい て評価を行ったものを表 2.3 にまとめた。 防衛庁向けのエンジンビジネスの実績/経験 は民間航空機エンジンビジネスでの国際競争力に 100%直結するものではないが、寄与す る部分が多々あるものであるため、参考として、表 2.3 に付記することとした。 19 表 2.3. 民間航空機エンジンの国際共同開発実績と国際競争力 カテゴリー エンジン 事業者 JAEC 防衛庁 (参考) 機種 V2500 CF34 GENX IHI GE90 A プライム製造メーカ(OEM)として事業を進めた。 × × × × B RSP製造メーカ(OEM)として事業を進めた。 - ○ ○ ○ - - ○ C サプライヤー(下請け)として事業を進めた。 - - - - - - ○ D JVの一員として事業を進めた △ × × × - - △ a 市場調査、製品計画を実施した。 × X X X ○ × × X X X X ○ ○ × × × × × ○ ○ × × × × × ○ ○ × b 営業活動(客先窓口業務、契約業務など)を実施 した b1 製品を顧客(エアライン)に販売した。 b2 顧客との契約業務を担当した。 b3 客先窓口業務を担当した。 設計、開発を実施した。 c 開発運転試験を実施した。 c1 国際 国産開発 海外OEM 競争力 エンジン ライセンス 生産エンジ ン ○ - × × × × × ○ ○ × △ △ △ △ ○ × △ △ △ △ △ ○ × △ FAA(または相当する認証機関)型式証明試験 c2 (運転試験)を実施した。 × △ △ △ ○ × △ FAA(または相当する認証機関)型式証明試験 c3 (要素試験)を実施した。 × △ △ △ ○ × △ × × × × ○ × △ △ △ △ △ ○ × △ c4 概念設計を実施した。 c5 基本設計を実施した。 c6 詳細設計を実施した。 型式証明を取得した。 d d1 自前の設計基準とスペックを採用した。 ○ ○ ○ ○ ○ × ○ △ △ △ △ ○ × △ × × × × ○ × △ 適合証明プランを纏め、FAA(または相当する認 d2 証機関)認証を取得した × × × × ○ × △ 適合証明のための解析・試験を実施しレポートに d3 纏め、FAA認証を取得した。 △ △ △ △ ○ × △ × × × × ○ × △ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ △ △ △ △ ○ ○ △ X X △ X ○ ○ × d4 型式証明は自社の名で取得した 量産製造を実施した。 e プロダクトサポートを実施した。 f f1 客先サポート(整備計画、WTY、GTYなど) f2 客先サポートレップ(オンサイト) △ X △ X ○ ○ × f3 スペア部品販売 f4 技術図書 △ △ △ △ ○ ○ △ △ △ △ △ ○ × △ f5 修理開発 △ △ △ △ ○ △ △ 評点の規準 ◎ プライムOEMとして、世界のトップメーカと伍して、エンジンシステム全体の設計/開発/製造、販売、顧客サービスを 行うことが出来る経験/ノウハウを有する ○ プライムOEMとして、エンジンシステム全体の設計/開発/製造、販売、顧客サービスを世界のトップレベルに近いレ ベルで行うことが出来る経験/ノウハウを有する △ プライムOEMとして、エンジンシステム全体の設計/開発/製造、販売、顧客サービスを行うためための経験/ノウハ ウを十分ではないが、有する × プライムOEMとして、エンジンシステム全体の設計/開発/製造、販売、顧客サービスを行うためには、相当の努力を 必要とする 20 2.4 装備品関係 事業活動の現状について次の表2.4-1にまとめる。 表2.4-1 機体用装備品及びエンジン補機の現状 カテゴリー 事業者 機 種 機体用サブシステム エンジン補機 横河 住精 JAMCO IHI エアバス向 主脚 ラバトリーなど FDRV(V2500) け液晶モジ (CRJ700/ 内装品(ボーイ 900) ング、エアバス ュール 住精 FCOC(V2500) HC(Trent1000) など) A B C D a b プライム製造メーカ(OEM) ○ として事業を進めた。 RSP製造メーカ(OEM) ○ として事業を進めた。 サプライヤー(下請け) として事業を進めた。 ○ ○ ○ ○ ○ X X ○ ○ X X X ○ ○ X JV の一員として事業を進めた。 市場調査、製品計画を 実施した。 営業活動(客先窓口業務、 契約業務など)を実施した。 c 設計、開発を実施した。 ○ △ ○ ○ ○ d 型式証明を取得した。 △ X ○ △ X e 量産製造を実施した。 ○ ○ ○ ○ ○ △ △ ○ ○ △ X X ○ ○ X X X ○ ○ X f3 スペア部品販売 ○ △ ○ ○ ○ f4 技術図書 ○ △ ○ ○ ○ f5 修理開発 ○ △ ○ ○ ○ f f1 f2 プロダクトサポートを実施 した。 客先サポート(整備計画、 WTY、GTYなど) 客先サポートレップ (オンサイト) 21 機体用装備品及びエンジン補機の日本メーカは多岐にわたるので一概に能力を評価する ことは難しいが、表2.4-1の a 項~f項について下記にまとめる。 a.市場調査・製品計画 OEM のサプライヤーあるいはその下請けとしての事業が多いが、JAMCO 社のように 最初は OEM へのサプライヤーから開始したが、現在では世界的な専門メーカに発展し、 客先(エアライン)との直接のコンタクトも行い、市場調査及び製品計画の能力も獲得し ているメーカもある。 b.営業活動 客先(エアライン)と直接、コンタクトしているメーカはまだ、数少ないが、国際的な ネットワーク(人材)を持つ会社(海外)を利用して活動を進め、将来的には自前の国際 的な営業能力の獲得を目指している。 c.設計・開発 自前の設計・開発能力を持っている。 d.型式証明取得 OEMへ設計・開発データを提出し、OEMが型式証明を取得することが多い。最近で はOEMの代わりに大部分の型式証明取得準備作業を行えるようになり、将来的に自前で 型式証明を取得するために経験を持つ人材(海外)を雇用したり、自社の人材を育成する ことになる。 e.量産製造 自前の量産製造能力を持っている。 f.プロダクトサポート 客先(エアライン)と直接、コンタクトしているメーカはまだ、数少ないが、実際上、 開発・製造した部品のサポートは製造メーカだけしかできないので最終的に各メーカが能 力を備えてサポートの主導権を握ることになる。 2.5 まとめ 2.5.1 機体関係 ここまで、航空機国際共同開発を今後どう取り進めて行くかを検討する為、日本の航空 機産業を機体関係、エンジン関係、装備品関係に分類し、各々の国際競争力を表に纏め把 握した。以下、まとめとして、商品企画力(含む概念設計)、開発(試験)能力、設計技術 力、型式証明取得、製造能力、営業力(航空機販売)、顧客サポート(プロダクトサポート)、 試験研究(Research and Development(R&D))、投資力(意欲)といった観点から、日本 の航空機産業について考察を加える。先ず、日本の航空機産業の内、機体関係につき、以 下にまとめる。 22 (1)商品企画力(含む概念設計) 日本の航空機機体メーカーとしては、YS-11 以来、日本独自のプロジェクトが無い。 現時点では、大型民間航空機において、ボーイング社とエアバス社の2大メーカーが市 場を占めており、機体の概念検討を含め、商品企画をした経験が乏しく、残念乍ら、商 品企画力は、上記2大トップメーカーに比べ、相当の努力をしないと追いつけない状況 にあると言わざるを得ない。 (2)設計技術力 日本の航空機機体メーカーは、ボーイング社との国際共同開発を通じ、基本設計、詳 細設計共に、十分経験を積んでおり、2大トップメーカーにかなり近いレベルに到達し ている。 (3)開発(試験)能力 日本の航空機機体メーカーは、防衛庁機種では、プライムとして全機開発した経験も あり、全機開発する実力は十分に有している。一方、民間航空機では、開発試験費用は 莫大であり、且つ、マーケットリスクを負っており、費用回収が保証されている訳では 無い。従って、巨大なボーイング社と雖も、単独では開発出来ず、国際共同開発を実施 しているのが現状である。日本の航空機機体メーカーは、ボーイング社との国際共同開 発で、開発試験項目をシェアしているが、日本だけで全ての開発試験項目を実施してい る訳では無く、日本だけで全てのノウハウを有しているとは言い難い。 (4)型式証明取得 型式証明は、ボーイング社が自社の名で取得しており、日本の航空機機体メーカーは、 型式証明取得関連の開発試験項目をシェアする事等により、ボーイング社の型式証明取 得を支援している。しかし乍ら、これら試験はボーイング社のスペックに基づき実施さ れており、日本独自技術とは言い難い。よって、日本が型式証明を単独で取得するには、 日本独自技術/開発試験 Data の積上げ、技術者のリソース、日本国の認証体制(国土交 通省 航空局)等の面で、実力を向上していく必要がある。 (5)製造能力 納期厳守、品質の高さにおいて、日本の航空機機体メーカーは、圧倒的な国際競争力 を有しており、ボーイング社が日本機体メーカーを継続的にパートナーに選定している 理由もそこにある。製造面においては、2大トップメーカーにかなり近いレベルに到達 していると言える。 (6)営業力(航空機販売) YS-11 で航空機販売を実施して以来、日本には販売する機体が無く、現在では大型民 間機の販売体制は弱体化してしまい、2大トップメーカーに比べ、相当の努力をしない と追いつけない状況にあると言わざるを得ない。又、現在では、日本独自のプロジェク トが無い事から、エアラインとのコネクションも限られている。一旦民間航空機を開発 した後は、継続して航空機を開発し、エアラインとの良好な関係を維持していく事が肝 要である。 (7)顧客サポート(プロダクトサポート) 日本の航空機機体メーカーは、2大トップメーカーへの補用品提供、技術資料提供等 23 のプロダクトサポート支援は実施しているが、エアラインとの直接コンタクト/エアライ ンへの補用品販売等は実施していない。日本の機体メーカーにおいても、エアラインへ の補用品直接販売等を通じて、実力を向上すると共に、エアラインからの信用を高めて く必要がある。 (8)試験研究(Research and Development(R&D)) 日本の航空機機体メーカーは、部分的に要素試験を実施してきているので、複合材等 の個々の分野での技術はかなり向上してきているが、実用機1機全体を開発するところ までの試験研究という意味では未だ実力不足である。 (9)投資力(意欲) 日本の航空機機体メーカーはそれなりの企業規模を有しており、相当の投資に耐え得 る体力は有している。開発に失敗した場合のリスクが膨大なだけに、入念なリスク・機 会分析を実施し、しっかりとしたビジネス・スキームを構築していく事が重要である。 更に、各社の Top Management が、日の丸航空機を開発するのだという強い意思を持 ち事業を後押ししていく事が重要である。 以上の考察を、レーダーチャートに取り纏めたものが図 2.5.1 である。 商品企画力 (含む概念設計) 投資力(意欲) 試験研究(R & D) 4 3 2 1 0 設計技術力 開発(試験)能力 顧客サポート (プロダクトサポート) 型式証明取得 営業力(航空機販売) 製造能力 図2.5.1 日本の航空機機体メーカーの国際競争力 評価の規準 (2.2項 表 2.2 の◎、○、△、×に、本図の評点4、3、2、1が相当する。) 4:世界のトップメーカーと伍して、機体全体の開発~製造、販売、顧客サービスを行う 事が出来る経験/ノウハウを有する。 3:機体全体の開発~製造、販売、顧客サービスを世界のトップに近いレベルで行うこと が出来る経験/ノウハウを有する。 2:機体全体の開発~製造、販売、顧客サービスを行う為の経験/ノウハウを十分ではない が、有する。 1:機体全体の開発~製造、販売、顧客サービスを行う為には、相当の努力を必要とする。 24 2.5.2 エンジン関係 2.3 では日本の航空機エンジンビジネスにおける実績と国際競争力を細分化した項目 に分けて評価を行ったが、更にそれらの評価項目を中心としてまとめた 9 つのグループ を評価軸(以下の章題になる)として、現状の日本の国際競争力のレベルを図 2.5.2 に 図式化した。 その図に沿って、日本企業が独力で民間航空機エンジンビジネスを展開 するための国際競争力の現状を概観することにする。 2.5.2.1 商品企画力 表 2.3.の a.市場調査、製品計画、c4.概念設計の評価の通り、民間エンジンプログ ラムでの商品企画の経験は乏しい。 概念設計等の技術力について言えば、防衛庁向け の国産開発エンジンにおける実績もあり、国際的に見ても一定の国際競争力を有するが、 民間エンジンビジネスでの市場調査、製品企画/立案、顧客への提案という観点での実績 は乏しく、国際競争力としては未知数と言わざるを得ない。 2.5.2.2 設計技術力 表 2.3 の c4、c5 の通り、基本設計では空力設計、システム設計等でエンジン全体をまと める実績が民間エンジンプログラムでは不足しているが、詳細設計では主要メーカと渡り 合えるレベルに近い設計技術力を有している(基本設計に関しても、防衛庁向け国産開発エ ンジンでは十分な実績がある)。 自前のスペック・設計基準(表 2.3 の d1)という点から見 ると、防衛庁向け国産開発エンジンでの実績はここでもあるが、国際共同開発民間エンジ ンプログラムにおいてはプログラムの主導的立場にある欧米主力メーカのスペック・設計 基準に従うことがプログラム要求として求められるため、その実績は十分ではない。民間 エンジンビジネスを展開するためには FAA による型式承認が必要条件とすれば、FAA に も通用するスペック・設計基準(材料データベース等も含む)を確立することが必要な状況 である。 2.5.2.3 開発プログラム遂行能力 表 2.3 の c1、c2、c3 の通り、防衛庁向け国産エンジンでは型式認証全般に渡る試験実績 もあり、民間エンジンプログラムでも試験実績があるが、民間エンジンプログラムでの実 績は一部の FAA 型式承認試験に限定され、また、FAA に対して試験と型式認証を結びつ けて、耐空性を立証する自前の確立したロジックは実績として確立されてはいない。 2.5.2.4 型式認証機能 表 2.3 の d2、d3、d4 にあるように、FAA 型式認証のための報告書作成の実績はあるが、 FAA 型式認証全体を取りまとめた実績は国際共同開発においてはなく、対 FAA の認証ロ ジックの確立が必要である。また、表 2.3 の評価項目とはなっていないが、自国の認証機 関で民間エンジンの型式承認を行った実績が実質ないことも課題である。 25 2.5.2.5 製造能力 表 2.3 の e の通り、製造能力は民間エンジン、防衛庁向けエンジンの実績を通じ、エン ジンシステム全体をカバーする高いレベルにある。但し、例えば粉末冶金の国内での量産 が困難である(海外からの輸入についても制限があり、入手が非常に難しい)等、欧米主 力メーカに及ばない分野も一部の領域にある。 2.5.2.6 営業力 表 2.3 の b にある通り、民間エアラインを顧客として直接、エンジンを販売するビジネ スを行った経験がない。 オーバーホールビジネスでの民間エアラインとのコネクション はあるが、多くの顧客エアラインに現地駐在員を送り込んで、販売チャンネルを確立して いる欧米の主力メーカに比すれば、そのコネクションの範囲は狭く、営業力は未知数の領 域と言わざるを得ない。 2.5.2.7 顧客サポート 表 2.3 の f の通り、国際共同開発プログラムを通じて、担当部位の技術支援ではある程 度の実績を積んでいるが、OEM として民間航空機エンジンビジネスを展開するためには、 全世界に散らばるエアラインをサポートする体制、システムの構築が課題である。 2.5.2.8 R & D(研究開発) 官主導の研究開発プロジェクトを始めとして、多岐に渡る研究開発が行われており、世 界のトップレベルと言ってよい領域もあるが、欧米主力メーカに伍して、所謂、“売れる” 民間航空機エンジン全体を自前で開発するためには十分と言えない技術領域がまだ多く残 されている。研究開発は先端分野に重きが置かれる傾向があるが、欧米主力メーカは既に 確立した技術でも日本で実用化には十分なレベルにない技術分野もあり、官主導の研究開 発プロジェクトにおいてもそういった技術分野の整備を念頭においた展開が望まれる。 2.5.2.9 投資力(意欲) 国際共同開発プログラムによる民間エンジンの生産台数は伸張を続け、新規のプログラ ム立上げも目覚しく、プログラム参加企業はそれに呼応した活発な投資を行っているが、 その投資の範囲は担当部位の限られた範囲に集中し勝ちとなるため、自国でエンジン全体 を開発してビジネスを展開するために必要な投資を欧米主力メーカに比して規模の小さい 日本企業が独力で行うには困難が伴う。これを補うための国レベルでの投資支援の役割は 依然として大きい。 26 商品企画力 (含.概念設計) 4 投資力(意欲) 設計技術力 3 2 1 R & D(研究開発) 開発プログラム遂行能力 0 顧客サポート 営業力 型式認証機能 製造能力 図2.5.2 日本の航空機エンジン産業の国際競争力 評点の規準 (表2.3の◎、○、△、×に本図の評点4、3、2、1が相当する) 4 : プライムOEMとして、世界のトップメーカと伍して、エンジンシステム全体の設計/ 開発/製造、販売、顧客サービスを行うことが出来る経験/ノウハウを有する 3 : プライムOEMとして、エンジンシステム全体の設計/開発/製造、販売、顧客サービス を世界のトップレベルに近いレベルで行うことが出来る経験/ノウハウを有する 2 : プライムOEMとして、エンジンシステム全体の設計/開発/製造、販売、顧客サービス を行うためための経験/ノウハウを十分ではないが、有する 1 : プライムOEMとして、エンジンシステム全体の設計/開発/製造、販売、顧客サービス を行うためには、相当の努力を必要とする 27 2.5.3 認証 日本はこれまでに国際共同開発、RSP、下請けなどで設計開発/製造に携わってきた が、これらのプロダクトは欧米のメーカーの下で Type Certificate を取得してきている為、 日本の航空局(以下 JCAB)は関与してきていない。 JCAB は、日本の航空会社の導入する欧米の航空機に対して型式証明、耐空証明を発行す るが、これらは既に FAA(米国)、EASA(ヨーロッパ)の Type Certificate を取得したも のを審査した上で発行しているに過ぎず、設計に対する審査経験を持ち合わせているとは いえない。 又、交換部品、修理方法の開発などは従来 OEM のマニュアルに掲載されているものを採 用している限り JCAB の認可は不必要となっており、日本においては交換用部品や、修理 開発が日本の航空機産業界では根付いておらず、その理由として JCAB の審査能力不足が 挙げられている。 一方 JCAB は部品の改修、修理開発などを認証する機会が無い為、それらの要求に応える 体制を作って来なかった。このような結果、日本の航空機産業全体として航空機、エンジ ン、装備品、部品に至るまでの設計に関する認証の能力は不十分であると考える。 28 3.国内外の航空機企業の事例分析とビジネス戦略 3.1 エアバス社 3.1.1エアバス社概要 エアバス社は当初フランスとドイツの共同出資により,1970 年に設立された大型旅客機 メーカーである。その後,さまざまな変遷を経て,現在ではイギリスとスペインが加わり, EADS 社と BAE システムズ社が共同出資する,欧州連合の航空機メーカーとなっている。 設立後 20 年を経た 1990 年代から急激な成長を遂げ,米国のボーイング社に対抗する欧州 連合のメーカーとして,現在ではボーイング社の売上を凌ぐ勢いを有している。米国では 航空機産業の優位性が脅かされ,重大な問題と捉えられて,巻き返し策が真剣に検討され ている状況にある。表 3.1-1 に同社の変遷を年表で示す。 ジェット旅客機時代になり開発費の高騰などから,ヨーロッパの既存の各社が単独では, アメリカの航空機メーカーであるボーイングやダグラス(マクドネル・ダグラス),ロッ キードへの対抗が難しくなったことから,フランスのエアロスパシアル(現 EADS)と西 ドイツ DASA(現 EADS)が共同出資し,1970 年 12 月に設立され,中型機の製作に取り 掛かった。これは後に A300 となる機体で,イギリスの BAe とスペインの CASA(現 EADS) も参加して 4 カ国体制となった。 完成した A300 は,初めて作った旅客機のために信頼性がなかったので売上は非常に悪 く,エアバスは膨大な赤字を抱えたが,フランスと西ドイツ政府の全面的な援助によって 成り立っていた。新型機にはボーイングに対抗するため,次々に斬新なアイデアを機体に 盛り込み,特色を出した。1988 年に旅客機初のフライ・バイ・ワイヤー機であるエアバス A320 が運航を開始したことなどから,「コンピュータ中心のコクピット」と言われること も多い。 A320 以降,急速に売上を伸ばし,マクドネル・ダグラスを追撃する勢いとなり,それま で静観していたボーイングは危機感を覚えた。そのため,仏独政府に手厚く保護された体 制を批判する強烈な非難キャンペーンを繰り広げた。エアバスもこれに反抗して,ボーイ ングが米国政府と一体となって売り込んでいる姿勢をあからさまに批判し,双方が裁判に 持ち込むなど泥仕合となったが,エアバスが完全に株式会社化したことで,組織体制の非 難合戦は収束した。 アメリカの大型ジェット旅客機製造メーカーが合併,統廃合の結果ボーイングのみとな ったため(ロッキードは 1984 年に旅客機から撤退,マクドネル・ダグラスは 1996 年にボー イングへ吸収された),現在,世界で大型旅客機を製造しているのはボーイング,エアバ スの二大メーカーだけとなっているが,1999 年にエアバスは販売数でボーイングを追い抜 き,差を少しずつ広げている。 2001 年,エアバスは企業連合から統合企業へと組織を変更し,EADS(フランスのアエ ロスパシアル・マトラ,ドイツのダイムラー・クライスラー・エアロスペース,スペイン の CASA が合弁して誕生した企業)と英国の BAE システムズが両社の保有するエアバス の関連資産を新たに設立された株式会社に移行させ,それぞれ 80%と 20%を出資する株主 となった。 29 2004 年時点での従業員数は 53,000 人で,売上高は 200 億ユーロとなっている。 [参考] 従業員一人あたり売上高比較 Boeing(2004 年) 60,813 億円/159,000 人=3,825 万円/人 Airbus(2004 年) 26,187 億円/ 52,000 人=5,036 万円/人 Bombardier(2004 年)18,362 億円/ 27,100 人=6,776 万円/人 Embraer(2003 年) 3.1.2 2,485 億円/ 12,941 人=1,920 万円/人 エアバス社の製品 エアバス社の製品一覧を表 3.1-2 に示す。 当初開発した A300 は 1969 年に開発が開始され,1974 年に初引渡しが行われた。その 後,派生型の A310 も開発されたが,これらの機種は販売機数が少なく,エアバス社は低 迷を続ける状況にあった。この間はフランスとドイツを中心とする国々の援助によって開 発が続けられていた。 1980 年代半ばから A320 が,後述する新しいコンセプトで開発された。同機の投入によ り,1990 年代に入って販売機数,売上高が急伸張し,現在の隆盛が実現された。 その後,A320 の派生型である A321,A319,A318 が開発されると同時に,大型機であ る A330 および A340 が新たに開発されて,製品ラインナップが充実された。現在の話題 は総 2 階建て超大型機 A380 であり,2006 年の初引渡しに向かっている。 図 3.1-1 に引渡し機数の年変化を示す。1990 年代に入っての延びが見られるが,特に 1996 年以降,急激な増加が顕著である。 このトレンドを機種別に図 3.1-2 で見てみると,1990 年代初頭には A320 の引渡しが爆 発的に増加してピークを形成しており,図 3.1-1 の 1991 年,92 年における急増と対応し ている。更に 1990 年代後半には A320 とその派生型である A319 の引渡し機数が大幅に伸 びており,これらが全引渡し機数の 90 年代後半における伸張の主因となっていることが 明らかである。 図 3.1-3 は売上高の推移を示したもので,引渡し機数のトレンドと対応して,1990 年代 後半からの増加が顕著に見られる。一方,2000 年代に入って,売上高,引渡し機数ともに 横ばいの傾向となっていることもわかる。 30 表 3.1-1 エアバス社年表 1969 年 5月 A300 開発決定 1970 年 12 月 エアバス・インダストリー設立(企業 連合として) 1972 年 10 月 A300 初飛行 1974 年 5月 A300B2 就航 1975 年 6月 A300B4 就航 1978 年 7月 A310 生産着手 8月 A300B4 旅客/貨物転用型 1980 年 12 月 A300-600 シリーズ開発決定 1982 年 4月 A310 初飛行 1983 年 3月 A310-300 開発決定 7月 A300-600 初飛行 1984 年 3月 A320 生産着手 1985 年 12 月 A310-300 就航 1987 年 1988 年 2月 A320 初飛行 6月 A330/A340 生産着手 12 月 A300-600R 初飛行 2月 A320 型式証明取得 3月 A320 初号機引き渡し 1989 年 11 月 A321 生産着手 1991 年 10 月 A340 初飛行 1992 年 1993 年 1994 年 1995 年 1996 年 11 月 A330 初飛行 12 月 A340 型式証明取得 1月 A340 初号機引き渡し 3月 A321 初飛行 6月 A319 生産着手 10 月 A330 型式証明取得 12 月 A330 初号機引き渡し 1月 A321 初号機引き渡し 9月 A300-600ST 初飛行 1月 A319 初飛行 9月 A300-600ST 型式証明取得 11 月 A330-200 生産着手 1月 A300-600ST 就航 4月 A319 型式証明取得 1997 年 6月 A340-500/-600 生産着手 1999 年 4月 A318 生産着手 2001 年 1月 エアバス統合,株式会社化 A319 コーポレートジェット生産着手 2002 年 4月 A340-600 初飛行 1月 A318 初飛行 2月 A340-500 初飛行 5月 A340-600 型式証明取得 31 表 3.1-2 エアバス社製品リスト 特徴 機種 A300 エンジン 2 基,2 列通路 座席数 開発開始 初飛行 初引き渡し 250-361 1969 年 5 月 1972 年 10 月 1974 年 5 月 200-280 1978 年 7 月 1982 年 4 月 1985 年 12 月 107 1999 年 4 月 2002 年 1 月 2003 年 10 月 124 1993 年 6 月 1995 月 1 月 1996 年 4 月 150 1984 年 3 月 1987 年 2 月 1988 年 3 月 185 1989 年 11 月 1993 年 3 月 1994 年 1 月 エンジン 2 基,2 列通路, A310 A300 型機を 6.96 m 短胴化 A318 A319 エンジン 2 基,1 列通路, A320 型機を 6.17 m 短胴化 エンジン 2 基,1 列通路, A320 型機を 3.77 m 短胴化 A320 エンジン 2 基,1 列通路 A321 エンジン 2 基,1 列通路, A320 型機を 6.94 m 延長 A330 エンジン 2 基,2 列通路 253-295 1987 年 6 月 1992 年 11 月 1993 年 12 月 A340 エンジン 4 基,2 列通路 261-380 1987 年 6 月 1991 年 10 月 1993 年 1 月 A350 エンジン 2 基,2 列通路 250-300 2004 年 12 月 2009 年 2010 年 555-840 2000 年 2005 年 4 月 2006 年 A380 エンジン 4 基,2 列通路,2 階建 32 Aircraft deliveries 19 89 19 90 19 91 19 92 19 93 19 94 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 350 300 250 200 150 100 50 0 図 3.1-1 エアバス社の引渡し機数の変遷 Deliveries(機種別) 140 120 100 A318 A319 A320 A321 A300 A310 A330 A340 80 60 40 20 図 3.1-2 04 01 20 20 98 19 95 19 92 89 19 86 19 83 19 80 19 19 77 19 19 74 0 引渡し機数の機種別変遷 Turnover(billion USD) 30 25 20 15 10 5 19 89 19 90 19 91 19 92 19 93 19 94 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 0 図 3.1-3 エアバス社の売上高の変遷 33 3.1.3 国家事業の性格が強い航空機産業 (1)国家首脳が果たしている大きな役割 事例:1993 年当時,サウジアラビア航空は 30 機 60 億ドルの航空機購入計画を持って いた。この計画に対応して,サウジアラビア国家首脳陣に,米国と EU が激しい売り込み 工作を展開した。 当時のファウド国王に対し,クリントン米大統領は湾岸戦争によるクウェート開放の実 績を強調し,ボーイングとダグラスの航空機を購入するよう要請した。 これに対し,EU 諸国は強く反発した。ミッテラン仏大統領はサウジアラビア王国の防 衛とパレスチナ問題の進展,パレスチナ人の自治権確立を EU が支援する計画を提案した。 米国はユダヤ人との関係からパレスチナ問題を持ち出せない状況にあった。 更にこれに対し,クリントン大統領はボスニア内戦問題で対抗した。EU はキリスト教 の立場から,ボスニアにおけるイスラム教徒への支援をせず(推測),セルビアに対する軍 事行動の要請を拒否した。この件でサウジアラビアのアブドラ皇太子はコール独首相に非 難を浴びせた。一方,クリントン大統領はボスニア内戦の終結に向けての努力を約束した。 この結果,結局サウジアラビア航空向け 30 機は米国が受注した。ただし,この一連の 行動により,EU 諸国のエアバスをめぐる協力体制が強化されたと言える。 この事例に典型的に見られるように,航空機産業は国家首脳レベルが積極行動を起こす 国策事業となっており,EU 諸国の国家レベルの育成に向けた強い意志が,エアバス社の 成功を支える極めて大きな要因となっていると考えられる。キャラハン英首相は, 「政府の トップにあるものはこの業界に自ら関心を持たなければならない。ここには政治的な要素 があまりにも多い」と言い残している。 (2)国家レベルでの産業育成と財政援助 (a)コメットの開発事例:世界初のジェット旅客機の開発 戦時中,アメリカは輸送機と爆撃機に力を入れていた。終戦後の長距離航空路線の発展 に際し,アメリカがこの蓄積によって世界をリードすることは明白な状況にあった。これ に対しデ・ハビランドは,イギリスが巻き返すチャンスがあるとすればステップ・バイ・ ステップの進展ではなく,年月をかけても大きな飛躍を目指し,相手を大幅にリードする ことしかない,と考えた。その答えがジェット旅客機であり,ジェットエンジンの技術は イギリスがアメリカを大きく凌いでいた。 デ・ハビランドの計画に対し,英国の手厚い援助がなされた。コメット開発計画の発表と ともに,BOAC から 8 機の初期注文が出された。続いて British South American Airways から 6 機,軍需省が 2 機発注した。これらの資金は全て英国政府が提供した。また,政府 国防省からデ・ハビランドに 250 万ポンドのエンジン開発補助金が提供された。 (b)欧米の助成金 ライト兄弟から始まった飛行機だが,1910 年代はヨーロッパが軍の航空部門に膨大な資 金援助を開始したことから,米国をリードしていた。助成金は国家の航空機にかける野望 のバロメーターと言える。米国では 1916 年あたりから軍の航空機予算が戦争の影響で急 増する。1916 年 7 月のソンムの会戦(英軍が前線に飛行機を飛ばし,敵の塹壕を攻撃) に促され,軍用機に 1650 万ドルの資金を供出した。 34 (c)エアバス立ち上げ期の事情 エアバス社の設立は,1967 年に合意書が取り交わされた。当初は双発ジェットの機体開 発に 1 億 9000 万ポンドを計上し,英仏がそれぞれ 35.7%,ドイツが 20%を負担すること となった。エンジンはロールスロイス社が開発し,推定開発コストは 6000 万ポンドとさ れた。そのうち 75%を英国大蔵省が引き受け,残りを独仏が分担することとした。これに 対し,独仏のエンジンメーカーは応分の仕事を受注して参画することになった。250 機の 販売を見込み,3 カ国の全ての国営航空会社にはそれぞれの保有機にエアバスを含むこと を約束させた。 その後,1969 年に英国が脱退し,独仏はエアバス・インダストリー設立合意書に調印し た。英国は 1978 年に再び参加した。 (d)資金援助 欧州各国からエアバス社に対し,どれくらいの資金援助がなされているか,その総計は 必ずしも明確ではない。米国からの指摘によれば,英独仏は 1990 年までのエアバス社の 売上が伸びなかった時代に,135 億ドルを資金援助している。国別の内訳は,ドイツが 58.9%,フランス 25.1%,イギリス 16%となっている。米国はさらにこの金額に金利負担 を加味すると,価値は 190 億ドル超と計算されるとしている。 これに対し,欧州からは米国政府の資金援助に関する指摘がなされている。それによれ ば,1978 年から 1988 年の間にボーイングとマクドネル・ダグラスに対し,米政府は概算 230 億ドルを支出したとされている。その内訳は,国防省から航空機と電子機器の研究開 発資金として 45%,国防委託契約の利益助成として 20%,残りは NASA の研究資金との ことである。 以上のように,欧米では航空機産業に対し,国家による巨額の資金援助が行われている が,エアバス社の関係で特筆されるのは,同社が航空機メーカーとして十分機能せず,低 迷を続けていた 20 年間にも,欧州諸国による援助,育成策が施されていた事実であろう。 航空機産業の特殊性から,このような産業育成策が,どうしても必要であることを示す例 である。また,ローンチカスタマーとして国営またはそれに準ずる航空会社からの発注が, 政府の働きかけで行われているのも,注目される事実である。 3.1.4 大規模な売り込み戦略 航空会社は,緊急に補修やスペアパーツが必要になったとき,周囲の航空会社からパー ツを借りられるようにしておきたい。したがって一つの国に飛行機を売ることに成功すれ ば,隣の国も続いて同じ飛行機を買う可能性は高い。エアバス社はアメリカ本土への売り 込みが厳しかったとき,産油国の資金などを睨みながら,オリエントからアジアに至る, 地中海の端から始まる線に沿って,一国ずつ攻略していく戦略を立てた。その結果,1978 年から 79 年の間に,フィリピン,マレーシア,インドネシア,パキスタン,イランで売 り込みに成功した。その後,同じラインでエジプト,レバノン,サウジアラビアへの売込 みも成功させている。この戦略には,上述のような欧州諸国政府による強い工作が関与し ており,この点でも国策が重大な役割を担って売上を伸ばしていることが明らかである。 35 3.1.5 後発企業としての独自戦略 米国に比べ,欧州の大型航空機産業は大幅に遅れをとっていたというエアバス社設立当 時の状況から,欧州では後発者として,米国を凌駕する新たな戦略を企画遂行することが 必須となっていた。そこで,開発製造技術や運用など,あらゆる面での検討が行われた。 (a)A300 の開発意図 双発ワイドボディは 1960 年代後半当時,ニッチ分野であった。そこで座席数 266,航 続距離 4150 マイルのワイドボディ旅客機として,A300 の開発を決定した。その頃,ボー イング社は B747,マクドネル・ダグラス社は DC10 の製造で手一杯であるという状況も あった。 A300 は当初のスケジュール通り,予算内で完成した。このときはオランダとベルギー も参加しており,1972 年 10 月 28 日に初飛行に成功した。その後 1974 年,パリ・ロンド ン間に初就航した。この機体には,1970 年にエールフランスが 6 機を第 1 号オプション 発注しているが,これはフランス政府の働きかけによる。 この機体はあまり売上が伸びなかった。伸ばすにはコンソシアムに多くの国を参加させ るのが有効との判断から,1972 年にスペインを引き込んだ。 (b)ファミリー化 航空機の開発生産には,サイズが異なるシリーズ機種を系統的に生産することが必要で ある。これにより航空会社の様々なニーズに合わせた機体の供給が可能となる。航空会社 はシリーズ機種を購入することにより,異なった機種を扱う訓練を受けたパイロットの数 を削減することが可能となる。一方,メーカーは開発費や部品などのコストを削減できる。 このようなシリーズ機種の生産戦略は,最初にダグラス社が始め,次いでボーイング社が 採用したものである。 エアバス社もこの手法を採用し,かつ世界の民間航空市場のシェア 30%を獲得する戦略 大要をコンソシアムとして承認した。これにより,A300 より大きい機種と小さい機種の 開発を決定した。これにより,表 3.1-2 で示した製品ラインナップが順次揃えられてきて いる。 3.1.6 新規技術の開発による差別化 後発企業として,エアバス社はボーイング他の米国企業と差別化するための様々な新規 技術を提案し,開発してきている。 多くのパイロットはもともとボーイングで飛んでいたため,ボーイングの飛行機を良い 飛行機の手本と考えている。後発メーカーであるエアバスは後発の分,設計思想は新しい。 しかしながら新しい設計思想は当初受け入れられにくい。 (新しいシステムは古いシステム になれた人たちによって評価される。)しかしながら,長い目で見ると,合理的な新規技術 は徐々に受け入れられ,定着しているという例を,エアバス社の開発技術に見ることがで きる。 36 (a)A320 パイロットの数と訓練の分野でのコスト削減を目指し,フライ・バイ・ワイヤーとジョ イスティック方式を導入した。 (b)制御系の設計 オートパイロットの位置付けがボーイングと異なり,ボーイングよりオートパイロット 中心となっている。このためコンピュータ中心と言われる。 この点では A300 と A310 はコンベンショナルな部分が多いが,A320 で完全フライ・バ イ・ワイヤー化がなされた。 エアバス社によれば,ボーイング等の従来の制御系と大きく異なるのは以下の点である。 1)サイドスティックとホイールとの違い 2)エアバスにはトリムスイッチがなく,スティックを傾けた位置がイントリムとなる。 コンピュータのプロテクションでフライトエンベロープが守られる。 ただし,現在のパイロットからみると,両者に操縦上の大きな違いはない,との感想で ある。現在は基本的になるべくオートパイロットを有効に使おうとする時代であり,これ は機種によらない。 (c)売り込むターゲットの違い 飛行機を作る姿勢として,ボーイングはパイロットにターゲットを当てたセールスポイ ントを打ち出している。一方エアバスは経営者,あるいはパイロットも含めたエアライン 全体をターゲットにしたセールスポイントを打ち出している。エアバスは後発会社として, このような点でもボーイングと異なる路線を常に考えている。 (d)エアバスが提案した新技術の例 ・大型双発機 ・ツー・メン・クルー ・フライ・バイ・ワイヤー 電気信号のみによる操縦系統。現在はエアバス A320 とその派生機,ボーイング 777 がこれを採用している。 ・ アルファ・フロア 飛行機の迎角が大きくなって失速速度に近づいたとき、自動的にスロットルが変化 してエンジン出力を大きくし、速度を増して迎角を抑える安全システム これらはどれも現在の旅客機技術として定着しているものであり,旅客機の新しい流れ を作っているのはヨーロッパと見ることもできる。 (e)コックピット・ユニフォーミティとファミリー化 単通路型である A319,A320,A321 から,ワイドボディ新世代機 A330,A340 まで, コックピットと制御系はほとんど同じレイアウトであり,操作手順,操縦特性を共有させ ている。古い 300 と 310 以外はすべて共通である。このことから,パイロットの操縦しや すさが確保されており,また,エアラインの訓練コストが削減されるという効果が得られ ている。これらはエアバス成長の一つの重要な要因と考えられる。 37 また,A330 と A340 は機体形状が同じで,翼型も同じである。エアバスには製造ライ ンが7つあるが胴体は2種類しかない。このような可能な限りの徹底したファミリー化が 行われているのも重要である。 3.1.7 顧客獲得の方策例 エアバス社では顧客への資金調達手法を提示するという戦略も開発した。もともと米国 にはなかったシステムである。例えば A300 では座席数が多すぎる,という航空会社があ った場合,その航空会社が必要とする座席数分の代金だけ支払えば航空機を売り渡す。残 りの座席が埋まればその分を追加として払ってもらう,というシステムを提案・実施した。 また,購入資金が足りない航空会社のため,銀行からの低利貸付をエアバスが調達する ような資金調達パッケージも準備している。例えばブリティッシュ・カレドニアン航空へ の A320 導入に対し,銀行団が A320 を購入し,同社にリースする方策をエアバス社が提 供した。 3.1.8 まとめ 以上に見てきたエアバス社発展の要因をまとめると,以下の諸点が指摘できる。 ・航空機産業は高度に国家戦略の様相を呈す。国家戦略は売込みにも重要であり,欧米の 場合は国家首脳レベルの人たちが関与している。 ・政府補助金が欧米では巨額である。先進国としての威信をかけているように見受けられ る。 ・会社が利益を上げていない間も援助があった。国家レベルの長期計画が立案,遂行され ている。 ・後発企業の場合,新規技術を打ち出すことが絶対に必要である。 ・顧客ニーズの十分かつ的確な把握,ユーザーの広範な便宜を満足させる洞察が必要であ る。 参考文献 (1)ボーイング vs エアバス -旅客機メーカーの栄光と挫折,Mattew Lynn 1995,アリア ドネ企画. (2)エアバスの真実-ボーイングを越えたハイテク操縦,加藤寛一郎,講談社,1999. (3)エアバス社ホームページ http://www.airbus.com/en/ (4)SJAC ホームページ http://www.sjac.or.jp/ (5)JADC ホームページ http://www.jadc.or.jp/ 38 3.2 ロールス・ロイス社 現在の航空エンジンの基本形である、高バイパス・エンジンは 1960 年後半から開発さ れ、B747 の導入により PWA 社の JT9D が採用されたのを皮切りに、ワイドボデイ・ジェ ットの時代を迎えて、GE 社の CF6 Series、RR 社の RB211 Series が開発され、従来一機 種一種類のエンジンが航空会社の要望に応えてエンジンを選べるようになった。 この結果エンジン業界の競争は益々激しくなった。 民間航空エンジンの市場は当初 PWA 社が圧倒的に多かったが、GE 社は CF6 Series を開 発し、その信頼性の高さと性能により、徐々に民間航空エンジン市場を拡大してきた。 1980 年代後半まで、民間航空エンジン市場は米国の二大エンジン・メーカーにより圧倒的 に占められ、RR 社はわずか 10%程度のシェアを占めるだけであった。 しかしながら、1990 年代に入り RR 社が徐々に市場を拡大してきており、昨年実績では RR 社が約 40%を占めるまで成長してきている。 このシェア拡大の背景には、RR の一貫した技術力重視、顧客重視の市場戦略がある。 RR が市場を如何にして拡大してきたか、その歴史的背景を探ると共に、その成功の鍵を 分析してみる。 3.2.1 RB211 の開発と RR 社倒産 RR はヨーロッパにおけるエンジン・メーカーとして常にリーダーシップを発揮し、新 しい技術を開発する企業であると同時に、それらの技術に対して徹底的にテストを行い、 技術実証をした上で製品化していく伝統的な会社であった。 ジェットエンジンの燃料効率化技術としてバイパスエンジンの概念(第2世代)を始めて 創ったのは RR であり、1953 年に最初のバイパスエンジン Conway の開発に着手、1958 年に就航させている。 PWA 社は RR 社からの技術供与により、1958 年にバイパス原理を取り入れた JT3D の開 発を始める。PWA は RR の技術に遅れていたとはいえその差は急速に縮み、JT3D を B707 に装着することに成功、更に高バイパス型(第3世代)の最初の受注競争になった B747 用エンジンでは 1965 年に PWA 社製の JT9D が、RR 社提案の RB178 を制することにな る。 Note; この時 RR 社はコンコルド用のエンジン開発も検討しており、ボーイング社および、航 空機を発注していたパンアメリカン航空は RR の生産能力に疑念を抱き、RR はコンコ ルド用エンジンに経営資源を集中すると判断し、RB178 を候補から外したと言われて いる。) RR 社が開発したバイパスエンジンの技術は既にアメリカ製のエンジンに対して技術的 競争力はなくなったことになり、RR 社がアメリカのエンジン・メーカーと競争するには 新しい技術開発が必要になった。 RR 社がジェットエンジンを世界市場に輸出しようとすれば、実際問題として競争相手は アメリカ企業であり、ことに旅客機分野では、RR 社がバイパスエンジンの技術を提供し 39 た PWA 社であった。そしてアメリカ民間航空機市場は、イギリスに比べて、戦前から既 に大きい上、戦後も急成長していたので、PWA 社が RR 社よりも有利な経営環境にいたこ とは間違いない。 「アメリカ企業はイギリスの市場全体が提供する需要よりも遥かに大きな政府と民間 の輸送機需要を享受している。当社のシェア拡大はそのアメリカ企業と競争しなければ達 成できない。」 PW を意識しつつ、RR の会長キンダズリは、アメリカ企業との競争について、繰り返 しその困難さを訴えるとともに、自社の技術優位確保の努力とその為の援助策の必要性を 強調し、関係筋の理解を得ることに努めている。 又、キンダズリ会長は 1958 年 7 月に、RR 社航空エンジン事業のあり方について次のよ うに述べている。 「私はここで航空エンジン事業の将来について得に触れておきたい。 ・・・・・・・・・・・・・・ この事業はわが国にとってその根本から堅実な事業だと信じている。何故なら、それは高 度な難しさがあり、市場は全世界にまたがって広大だが、しかし競争相手は当面大きな技 術資源を有する工業国に限られている。 ・・・・・技術面で競争力を持ち、又そうあり続け ようと思えば、我々は、米露と比肩できる基本的開発設備を備え又それを最新の水準に維 持できる体制でいなければならない。 堅実な航空エンジン事業と言うものは広い範囲のさまざまなエンジンを扱っていることを 必要とする。この目的のために開発組織と設備を維持していく費用は、巨大な売り上げが あってこそ賄うことが出来る。売り上げのうち、わが国の国有及び民営航空会社に期待で きるのはほんの一部である。軍需生産計画についても今日我々はエンジン総生産額の 50% 以上を輸出に依存しており、その大部分は外国政府への軍備品の販売によるものである。 軍用エンジンについて仮にも国内で開発努力を怠ればこの市場がアメリカに採られること は避けがたい。それゆえ、エンジン開発の適切な計画を維持していくのに足るだけの収益 をエンジン生産企業に得させようというのであれば、イギリスの民間航空機の総生産高大 幅に増加するように振興されることが必要なのである。」 1965 年秋になると RR 社は 3 軸型エンジンを考え始めた。エンジンの効率と操作性を向 上するためにファン、低圧圧縮機、高圧圧縮機のタービン軸を全て独立させる 3 軸型の機 構はこれまで試みられたことがなかった。 RR 社は 1966 年 7 月から低推力だが新機構 3 軸型のエンジン Trent の開発を始め、翌年 12 月に試運転に成功して新機構を実証することが出来た。 Trent 開発を進める傍ら、RR は 3 軸型の高推力エンジン RB207(双発機用)、RB211(3 発機用)の開発計画を発表し、1967 年初めから販売活動に入った。 その後 RB207 は開発を断念するが、1968 年 3 月ロッキード社からワイドボデイ機 L-1011 用に RB211 Engine の受注に成功する。 RB211 は 3 軸構造のほか、環状燃焼室(Annular)、高バイパス比、合成樹脂新素材など、 新技術を一挙に採用しようとしたエンジンであった。 3 軸型構造はロッキード社との契約交渉中の 1967 年末に Trent で実証したばかりで、量 産型は未経験であった。 高バイパス比構造については RB178 の実証エンジンが 1966 年 7 月に一応運転に成功した 40 ものの、高圧部分の欠陥が見つかっており、しかもその後に開発を中止してしまったので 高推力、高バイパス型の開発実績としては充分とは言い難い。又、高圧下で運転される環 状燃焼室の採用は RR 社にとっては最初の試みであり、経験の蓄積がなかった。 更にかねてから開発を進めていた新素材、ハイフィル(Hyfil)など各種の繊維強化合成樹 脂を Fan Blade、Guide Vane,など各所に使用してエンジンの重量軽減を図ろうとしたが、 この素材も実用試験を積んでいない始めての試みが大部分であった。 これらは何れも技術的には革新的なものだが、このような新技術を一つのエンジンに一挙 に投入することは、Conway に至るまでの RR 社の技術開発の歴史と比べると大きな方針 転換であった。 それに加えて、RB211-06 を提案した折はもちろん、最終的に 1968 年 3 月に成約した 22 型も、その時点では開発設計段階のペーパーエンジンであった。もちろん事前の研究開発 は種々行われていたが、エンジン自信の実物の開発には進んでいない。しかし、エンジン 納期は 1971 年 8 月からと言う契約が結ばれていたので、約 3 年でペーパーエンジンから 現物への開発を完了しなければならない短期間の日程であった。 この様に数々の実証されていない新しい技術が RB211 には同時に導入され、開発費は高 騰、一方ではロッキード社からのエンジンの推力増加、性能向上の要請に応えるために設 計変更をしなければならず、結果的には資金不足となり 1971 年倒産にいたる。 【注】 倒産に至った背景を徹底的に研究・分析した大河内暁男氏は、「ロウルズ・ロイスの研究」 (東京大学出版会)の本にその内容を発表している。上記の内容はそれらを引用したもの である。 RR が倒産すると言うことはイギリスがロッキード社=アメリカに対して信頼を失うこ となり、イギリス政府は 2 億 7000 万ポンドを超える国費を投入し、RR を国営企業として 復活させ、RB211-22Bを完成した。 しかしながら、RR が資金調達に必死となった金額は 6000 万ポンドと言われており、ひと たび企業が倒産しそれを立て直すのには如何に社会的費用を必要とするのか、産業金融と はいったい何のためにあるのかをこの本では問題提議している。 そして、RR はこの時に得た教訓を踏まえて新たに再出発を果たし、この時に開発した技 術が今でも大いに生かされているのである。 RR はその後どの様にして発展してきたのか、この点について更に分析をしてみる。 3.2.2 RR の発展の背景 RR は会社を維持発展するには、アメリカの市場に参入することが絶対条件である考えた。 そのためには当時開発を始めた DC10 と L1011 のエンジンに選ばれることが重要であり、 RB211 はその目的の為に巨額な開発費を投じて開発されたエンジンであった。 RR は L1011 の受注に成功し、倒産/復興を経て L1011 に RB211-22B を提供した。 その後、航空機のエンジンは一機種一社ではなくなり、エアラインがエンジンを選定でき るように機体メーカーは二社以上のエンジン・メーカーを採用するようになった。 RR のエンジンは RB211-22B から推力を増大させた RB211-524 Series がB747 に選ばれ、 41 その派生型である小型のエンジン RB211-535 が B757 に使用される様になった。特に RB211-535 は当初から高い信頼性を維持し完成度の高いエンジンとして評価を得ている。 その後 RB211 Series から派生型のエンジン Trent Series を開発し、A330 に Trent700、 B777 に Trent800、A340 に Trent500、A380 に Trent900、B787 に Trent1000 を提供し ている。 そして民間エンジンの市場を最近では 40%を越える勢いで占めてきている。 この背景には RR の一貫した技術へのこだわりと、顧客思考の哲学がある。 A. 新技術の導入と徹底した試験 RR 社はバイパスエンジンのコンセプトを初めとして 3 軸構造、合成樹脂新素材の適用 など、常に業界をリードする新しい技術を独自で開発してきている。しかもそれらに対し ては徹底したテストにより、何が壊れるのかを見極め、それらを改善していく「Run and Burst」手法を取り入れ、高い信頼性を作り上げてきている。 (1)3軸構造のエンジン RR のエンジンの最も大きな特徴は3軸構造であろう。 ファン、低圧圧縮機、高圧圧縮機のタービンを全て独立させた3軸構造コンセプトは、 過去にない革新的なデザインであり、1965 年に開発に着手し、最終的に RB211-22B エ ンジンで初めて実用運航に入った。その後、RB211-524 Family、Trent Family でもこ のデザインは受け継げられている。 3軸構造にすることにより、各ローターの効率を上げ、トータルの段数を減少すること が出来るので、コンパクトになる。この結果、重量は軽減し、全長は短く、Shaft Bow や Tip Rubbing のリスクが減少し、性能劣化が少なくなるメリットもある。 しかしながら、この開発は Inter Shaft Bearing の設計や潤滑方法が難しく、リスクを 伴う挑戦でもあった。 当初のエンジンは、推力当たりのエンジン重量が他社のエンジンに比して最も重く、エ ンジンの始動にも時間がかかった。先に出発の許可を貰った航空機が、エンジンの始動 に時間を要したため、結局遅れて後発になるようなことがあり、乗員からの評判は悪か った。 その後 30 年かけてエンジンの改良を積み重ね、問題点を克服してきた。Trent Family は、同等クラスのエンジンに比べて、巡航性能は同等であるが、最も軽量なエンジンと なった。更に最新鋭の Trent 1000 では、従来 HP Rotor で Gearbox を駆動していたが、 これを IP Rotor に変更(IP Power Off Take)することで、コンプレッサー効率の向上、 Idle Thrust の低減により Specific Fuel Consumption(SFC)の向上を図ることが可能 になる。スタート時には HP Rotor を回転させるために、クラッチ(Coupling)を導入す るが、HP/IP Rotor が同時に回転するので、始動時間の短縮も可能となる等、従来の欠 点も克服され、3軸構造のメリットを活かしてきている。 (2)Wide Chord Fan Blade 合成樹脂新素材の開発はその後ロッキード社にも技術供与されたほど完成度が高かっ 42 た新技術であったが、RR が導入を試みた Fan Blade は飛行実験において鳥を吸い込む と衝撃に脆いことが判明し、採用中止に至った。その後、RR はチタニウム製の Fan Blade に設計変更するが、徹底的に重量の軽減を図りチタニュウム製中空ハニカム構造や、 Diffusion Bonded/Super Plastically Formed 構造による Fan Blade の開発を行い、現 在では GE 社が開発した複合材製の Fan Blade よりも軽量化に成功している。最近では 複合材の技術も向上してきているが、RR は二度と複合材の Fan Blade の開発には戻ろ うとはしていない。この点でも、当時の開発が如何に徹底したものであり、利点欠点を 知り尽くして最終判断を行った自信に基づいていると考える。 その後、RR は世界に先駆けて Wide Chord Fan Blade を開発している。 Wide Chord Fan Blade は、Mid Span Shroud が無いため、空力的な損失が無く、性能 向上に効果を上げることが出来る。又、鳥衝突の場合にはコアに入りにくく、Fan Exit に抜けるため、エンジンの内部損傷による取り卸を防ぐことが出来る画期的なデザイン である。 しかしながら、一枚の Fan Blade が従来よりも大きくなり、重量が増加するために、 Fan Blade Out Test(FAA の Type Certificate Test に指定されている。)においては、 大きなアンバランスが生じると共に、Fan Blade が Fan Case を突き破る可能性がある。 これを防止するには Fan Case を強化する必要があるので、更にエンジンの重量が増加 する等、悪循環になる。この Fan Blade Out Test を満足するためには、Fan Blade の 重量を最小限にしなければならない。 最近のエンジンでは Wide Chord Fan Blade が性能向上の為に標準装備となっており、 PWA、GE も Wide Chord Fan Blade を導入すると共にその軽量化には苦労をしている。 こ の 点 で RR の チ タ ニ ュ ウ ム 製 中 空 ハ ニ カ ム 構 造 や 、 Diffusion Bonded/Super Plastically Formed 構造による製造方法は画期的な製造手法であり、世界で最も軽量な Wide Chord Fan Blade である。 独自の新しい技術の開発とその信頼性を見極めるために徹底したテストの導入は RR の昔 からの伝統として現在でも受け継がれている。 B. 信頼性の向上への戦略 1970 年代に生まれた高バイパス比の大型ファンエンジンは、エンジン・メーカー大手三社 のエンジン(CF6、JT9D、RB211)においても大きな問題を抱えており、その信頼性は まだまだ不十分であった。ロッキードの L1011 に装着された RB211-22B エンジンは故障 の連続で、導入当初のエンジンの On Wing Life は 1000 時間にも達せず、改修を次々に実 施していかなければならなかった。 当時 ANA のエンジン・オーバーホールを担当し、IHI 瑞穂工場に駐在していた RR の技 術駐在員は、毎回分解されたエンジン部品を一点一点綿密に調査し、不具合内容、その原 因等について木目細かい報告を RR ダービー本社に送っていたのが印象的である。 これらの不具合分析から、設計を見直し、信頼性向上プログラムを作成し、改修を行い、 更にそれを評価するサイクルが重要なのである。 43 エンジンの信頼性は、この 30 年間に飛躍的に向上してきた。その事例として、Figure 1 に RB211 Family エンジンの信頼性向上の推移とその派生型として開発された Trent Family エンジンの信頼性の比較を示す。派生型エンジンの信頼性は、初期故障もなく、 導入当初から安定した信頼性を維持していることが判る。この背景には、RR の発生した 故障や不具合に対する徹底した原因追求と、それらを克服するための改修内容の効果を見 極め、派生型の設計に適用してきたことが挙げられる。 現在でも RR は、使用してきたエンジンの各部品の状況を詳しく分析することを基本とし ており、信頼性向上に対して次のような取り組みを行っている。 Trent family maturity for better reliability Basic engine Removals per 1000 hours Basic engine Removals per 1000 hours 1.6 1.6 Trent family RB211 family 1.4 1.4 1.2 1.2 RB211-22B 1st generation 1 Maintaining improved reliability with each new family member 1 0.8 0.8 Trent 700 1st generation 0.6 0.6 RB211-524 2nd generation 0.4 0.4 Trent 800 2nd generation 0.2 0 0.2 RB211-535 3rd generation 0 10 20 30 40 50 60 0 0 10 20 30 40 50 Months since EIS Months since EIS The Trent 500 engines build upon successful family heritage, to ensure reliable products Figure 1 RR エンジンの信頼性向上の推移 Rolls-Royce Proprietary Data (1)Total Care Package RR は、最近 Total Care Package(以下 TCP)と称して、エンジンの整備を時間当たりの コストに換算し、提供するあらゆるメニューを用意している。 時間当たり一定の費用で、ショップ整備作業、又はライン整備を含む全ての整備作業、 又は整備に必要な部品を提供するプログラム、等である。 近年、エンジンの信頼性向上と共に整備用部品が売れなくなり、従来以上に激しい販売 競争によって、エンジン・メーカーはエンジンを販売するだけでは利益が上がらず、自 ら保有している技術力を活用し、エンジンの受託整備に参入し、利益を上げようとアフ ターマーケット・ビジネス戦略を始めた。アフターマーケット・ビジネスへの参入は RR だけではなく、GE、プラットアンドホイットニー(以下 PW)も同様である。 しかしながら、RR の対応は GE 及び PW と少し異なり、自らエンジンの使用状況の把 握をその目的に置いている。自分の開発したエンジンを自らの手で整備し、その使用実 績を把握することが信頼性向上に最も近道であることを、RR は実行に移しているので ある。 44 60 (2)人事面での配慮 RR は、分解したエンジンの状況を詳しく分析するために、エンジン開発に携わった技 術者の一部をこの整備部門に人事異動させ、自ら設計した製品がどのように使われ、ど のような不具合を起こしているかを自ら把握することが出来るように、同社のキャリ ア・パスを作っている。 このような人事異動は米国の企業には見られない。米国の場合は、開発に携わった技術 者は更に次のエンジンの開発に行くようなシステムになっており、エンジン整備部門と エンジン開発部門は縦割りの組織となっている。 この点、RR ではエンジン開発からアフターマーケットまでを同じ組織内で行っており、 全体の利益を考えて経営しているといって良い。従って、人事面においても、設計から 実運航の状況、そして改修からその改修効果を見極めるまでのサイクルを同じ人間が見 ることが出来、これらの使用実績、経験を次のエンジン開発につなげることが出来るの である。 (3)継続したエンジン開発と派生型のデザイン RR の倒産は RB211 エンジンの開発費が不足したことに起因する。 開発費の不足は、ロッキード社からのエンジンに対する推力増加などの設計変更が重な ったこともあるが、実証していない技術をいくつも同時に導入したため、期限内で実用 化を図るには資金に限界があったと考えられる。 最近の RR は、新しく開発される航空機に対して、そのエンジンを全て開発することを ポリシーとしている。一般的には、エンジンの開発による利益率を算定し、その都度判 断するところであるが、RR は、全ての機体に適用するエンジンを開発するというその 連続性に技術的な価値を見出している。 継続的に開発をし続けることによって、蓄積された経験や技術をスムーズに伝承するこ とが出来、エンジンの設計/開発/テスト等の技術を常に維持・向上させることが出来 る価値である。そしてこれらのエンジンにはそのモジュール構造を利用し、推力に応じ て各モジュールのスケールを変えながら派生型のデザインを組み合わせ、新しい技術を 少しずつ導入している。これは RB211-22 を開発したときの失敗を繰り返さないように、 充分に試験を実施し、そのテクノロジーを確立するだけではなく、その使用実績を積ん だ信頼性の上に新たな技術を導入しているのである。 例えば、現在大型エンジンは RB211 Series から Trent Series へと移り、3 軸構造をベ ースに Swept Fan、3D Aero、Tiled Combustor、Contra-Rotation (HP Rotor と LP &IP Rotor を反転させる。) 等の新しい技術を Trent 700/800 から Trent 8104、 Trent500、Trent900 へと徐々に導入している。この様な派生型のデザインによって新 しいエンジンの開発費を削減し、使用実績を充分に反映した信頼性の高いエンジンの開 発が可能となるのである。 C. エアラインとの協調による市場拡大 アフターマーケット・ビジネスにおける RR の TCP のもう一つの特徴は、エアライン との協調を主眼にしている点である。 エンジン・メーカーのアフターマーケット・ビジネスへの参入は、1990年に入って 45 から活発になった。GE は、英国航空のウェールズにあるエンジン・オーバーホール工場 を買収し、エンジン・オーバーホールをビジネスにするようになった。その後、米国や東 南アジアにあるエンジン・オーバーホール工場を次々と買収し、規模を拡大していった。 そして、Maintenance Cost Per Hour(以下 MCPH)と称して、時間当たり一定のコスト でエンジン整備を実施するプログラムをエアライン各社に提案していった。整備部門を持 たない小規模エアラインにとっては、どの様な故障が発生しても一定の整備費用で整備を してくれるこのプログラムは魅力的であり、受注も増えていったが、大手エアラインは、 自社整備体制を危うくするものとして反発した。しかしながら、規制緩和の煽りを受けた エアライン業界は、航空運賃の値下げ競争によって経営不振に陥り、自社整備に比べて安 い(?)MCPH 契約を余儀なく採用していった。果たして、MCPH は本当に自社整備よ りも安いのか?一見安く見える MCPH のコンセプトは、長期間契約のためエアラインの 技術力を空洞化するものとして、長い目で見れば高くつくという反論もあったが、目先の 経済情勢には勝てず、大手エアラインは苦渋の選択を迫られていった。 MCPH プ ロ グ ラ ム は 、 エ ン ジ ン 部 品 の 修 理 事 業 を 行 っ て い る ベ ン ダ ー や Parts Manufacturer Approval(以下 PMA) 部品を販売している部品メーカーとも競合するも のであり、又、エンジンのアフターマーケット・ビジネスの全てを抱え込もうとするもの であった。 このような情勢の中で、RR は GE とは違った戦略に出ている。RR の TCP 契約には、 航空会社の整備部門をそのまま活かして、従来通り航空会社に整備作業を委託し、整備の Work Scope はエアラインと協議し、RR が承認するやり方もあれば、RR の整備工場へ全 て運び込み、完全に RR の基で整備を行なうやり方もある。中には航空会社とジョイント・ ベンチャーを作り、受託整備の利益を分配するようなやり方も行なっている。 エアラインには、自ら築いてきた実績や経験がある。RR は、これらの経験を活かし、 そのリソースを活用している。このやり方は、工場を買収する資金も人員も不要である。 RR は、エンジンを売り、エンジンの整備内容を審査する少人数の専門家を送り込めば、 適切な整備を長期間にわたって管理出来るのである。 このようなやり方によって、RR は、エアラインとの協調関係を長期間に亘って維持す ることが出来、その市場を徐々に増やしていったのである。 3.3 エンブラエル社 3.3.1 エンブラエル社成功の要因 エンブラエル社は、1969 年に大統領令により国有企業として創業開始以来 5,900 機以上 の航空機を生産・販売しているブラジル唯一の航空機製造メーカーである。 民営化された 1994 年には$330 million の赤字を計上したが、その後 1998 年には$180 million の純利益 をあげるブラジル最大の輸出企業企業にまで成長した。 ここでは、エンブラエル社の成長 の過程において同社が抱えていた課題と、それらを克服することが出来た要因について考 察する。 46 (1)エンブラエル社概要 エンブラエル社の概況(表 3.3.1-1 参照) (出典:平成 16 年度版 民間航空機関連デ ータ集 -- 財団法人 日本航空機開発協会) (2)企業として抱えていた課題 (a)市場の法則に従い利益を生み出す企業としてではなく、ブラジルの誇りであり 国家のシンボルとして存在していた。 (b)航空機製造を可能にする技術開発を行うという戦略的な目的で設立されたため、 Bandeirante(ターボプロップ民間輸送機)や Tucano(ターボプロップ軍用練習 機)等の開発に見られるように、国際的な技術能力は保持していたが、世界競争 に耐え得る価格競争力が欠如していた。 (c)技術開発に注力し、顧客のニーズに合った製品開発に重点を置いていなかった。 (d)1990 年代初めに政府資金が消滅し、湾岸戦争後に国際航空市場が危機に陥った 際に国有企業として成立し得なくなった。 (3)成功の要因 (a)民営化 ボサノ・シモンセン銀行、プレビ(ブラジル銀行年金基金)、システル(旧国営通 信公社テレプラス年金基金)が資本参加し民営企業として企業体質の改革を推 進。 (b)経営幹部の刷新----経営改革を推進するリーダーの擁立 1)長年の間、軍人が社長として会社を指揮していたが、1995 年にボサノ・シモ ンセン・グループの関連機器メーカーで社長を務めていたボテーリョ社長を プロの企業経営社として同社の社長に擁立し、市場要求に応える企業体質へ の変革を図った。 2)また、ボテーリョ社長は、エンブラエル社における経営幹部の刷新を図り、 半数を外部企業から引き抜き、残りの半数を社内から抜擢した。 (c)戦略的パートナーとの機体開発 航空機産業のグローバル化に伴い、同分野における他企業との密接な協力が必 要不可欠であるため、当事者と顧客の利益を考慮した新たな技術・製品・マー ケットを共同でエンブラエル社に提供し得る戦略的パートナーのプロジェクト への参画を促し、国際共同開発による低コスト開発・製造によるリスクと資金 のシェアリング及び新規市場の開拓を図った。 1)ERJ-145 プロジェクト: ① ガメッサ(スペイン)=翼 ② C&D Aeronautica(米)=内装、貨物室 ③ ソナカ(ベルギー)=胴体の一部、ドア ④ Enaer(チリ) 47 2)Embraer 170/190 プロジェクト ① 川崎重工業=Wing Stub(中央翼)、動翼、Wing Box(-190)等 ② ソナカ(ベルギー)=Slats ③ ラテコア(仏)=前胴、後胴、前方ドア ④ ガメッサ(スペイン)=尾胴、垂直・水平尾翼、方向舵、昇降舵 ⑤ Hamilton/Standard=テール・コーン、APU、空調システム、電気システム ⑥ Honeywell=アビオニクス、他計 16 社 (d)アウトソーシングの活用拡大 1)セキュリティー等の基本的なサービス、社員教育・訓練の外部会社への外注 を拡大し、また、同社を退職した職員で構成された外部機関に専門技術作業 を委託することによりコストの削減を図った。 2)同社のパートナー会社には基本的な製造組立作業までも外注することとし、 エンブラエル社は自社のサプライヤー管理に重点を置くことにより、品質と スピードの改善を図った。 3)但し、設計・開発及び、機体運航機関におけるプロダクトサポートについて は、同社が行う方針を崩さなかった。 (e)資本構成の再編による資本強化 資本強化の側面においても、戦略的パートナーとしてフランス系企業グループ* が議決権の 20%に相当する株式を所有することにより資本参加することを促し た。 但し、フランス系企業グループはエンブラエル社における支配権を有さない立 場での資本参加であり、経営に関する実質的決定権は従来どおり、ボサノ・シ モンセン銀行、プレビ(ブラジル銀行年金基金)、システル(旧国営通信公社テレ プラス年金基金)のブラジル側が保有することとしている。 *ダッソー、アエロスパシアル・マトラ、SNECMA、トムソンCSF (f)良好な労使関係の構築 各部門における管理職員数を削減すると共に、大幅な人員削減を行ったが、そ の一方で、会社の利益が拡大し目標が達成された場合、従業員は株主配当の 25% に相当する額を受け取れる等、会社への貢献へのインセンティブを付与するこ とにより、最良の人材を確保を図った。 (g)世界市場におけるプレゼンスの向上 1990 年初めから続いた経営危機からの経営改革が進んでいる状況を世界に証 明すべく、同社のサン・ジョセ・ドス・カンボス工場を顧客・供給業者・国際 金融アナリスト・専門ジャーナリストに公開し、年間 3 万人規模の訪問者を確 保することにより、同社の世界市場におけるプレゼンスの向上を図った。 48 (4)参考データ:エンブラエル社の従業員1人当り売上高 エンブラエル社の従業員数と1人当り 年の売上高は以下の通り。 従業員数:14,658 人 (2004 年会計年度末時点) 売上高:3,441 Million US$ (2004 年会計年度末時点) 1人当り売上高:0.24 Million US$/人 (出典:財団法人 日本航空機開発協会平成「16 年度版 民間航空機関連データ集」) (出典:月間 実業のブラジル 1999 年 11 月 ブラジルの航空機産業(上) (出典:月間 実業のブラジル 1999 年 12 月ブラジルの航空機産業(下) 49 表3.3.1-1(1/3) エンブラエル社の概要 50 表3.3.1-1(2/3) エンブラエル社の概要 51 表3.3.1-1(3/3) エンブラエル社の概要 3.4 ボンバルディア社 (社)日本航空宇宙工業会が、“平成 17 年度 先端航空機部品・素材技術委員会”活動 の一環として実施した講演会(2005 年 6 月 28 日)の資料「ボンバルディア社のリージ ョナルジェット機における企業戦略等調査」 (株式会社 STG 東京事務所)によると、ボ ンバルディア社の歴史、政策面(カナダ政府の成長支援策)、並びに、技術・人材面(ボ ンバルディア社の開発方針)は概ね次の通りである。 3.4.1 ボンバルディア社の民間航空機製造の歴史 (1)ボンバルディア社(カナダ) 52 1942 年に J. Armand Bombardier は、ケベック州(カナダ)に、雪上車の生産・販売 会社としてボンバルディア社を設立した。同社は、一連の買収行為によって成長し、2004 会計年度(2月~翌年1月)の年収は 158 億米ドル(約 1 兆 7400 億円、@110 円/US $)であった。内、航空宇宙部門が全事業の約 50%を占め、次いで、鉄道や地下鉄の輸 送用機器部門が約 48%の事業規模を占める。航空宇宙部門は、カナデア社(1986 年)、 ショート・ブラザーズ社(1989 年)、リアジェット社(1990 年)、デハヴィランド社(1992 年)を次々に買収して現在に至っている。 (2)カナデア社(カナダ) カナデア社の前身であるビッカース社(英国)は、1911 年にケベック州(カナダ)に 造船会社として設立された。1922 年にビッカース社は、水陸両用機 Viking IV のライセ ンスによる組立を開始した。1944 年にカナダ政府は、ビッカース社を買収して社名をカ ナデア社と改めた。次いで、1947 年に一旦売り払い、1976 年に米国のジェネラルダイ ナミクス社から買い戻した。1986 年、ボンバルディア社が、カナダ政府よりカナデア社 を買収、航空機事業に参入した。 カナデア社の最初のビジネスジェット機 Challenger 600 は、1980 年に型式証明を取 得した。本事業は、現在の Challenger 604 改造型、Global Express の生産へと繋がっ ている。Challenger の機体は、延長されて 1992 年に Canadair Regional Jet (CRJ100) となり、その後、更に延長され、CRJ700(2000 年型式証明取得)及び CRJ900(2002 年型式証明取得)となった。2004 年 12 月末迄に、約 1200 機の Canadair Regional Jet (-100、-200、-440、-700 及び -900)が出荷された。 (3)ショート・ブラザーズ社(英国) ショート・ブラザーズ社は、1908 年にライト兄弟の飛行機をライセンス生産する為に、 英国に設立された。同社は、リージョナル機 SHORT 330(座席数 30)、SHORT 360 (座席数 36)等多くの航空機を開発・生産した。1989 年にはボンバルディア社に買収 されたが、当時、リージョナルジェット機 SHORT FJX-シリーズを開発中であった。現 在、ショート・ブラザーズ社部門は、ナセルの開発やビジネス機 Learjet 45 ファミリー の胴体構造を生産している。 (4)リアジェット社(米国) 1960 年に、Bill Lear 氏がリアジェット社を設立した。その後、ボンバルディア社が、 同社を 1990 年に買収した。ビジネスジェット機 Lear 23 に始まり、現在迄に、2200 機 を越える Learjet ビジネス機が生産され、Learjet 40, 45, 45XR 及び 60 が今も使われて いる。 (5)デハヴィランド社(カナダ) カナダのデハヴィランド社は、1928 年に設立され、翌年、オンタリオ州トロント郊外 にある Downsview に移転した。第二次世界大戦中は、主に軍用機のライセンス生産を 行っていた。戦後、同社は自主開発機の生産を開始した。DHC-1(単発ピストン機)か 53 ら始まって、DHC-8(37~70 席の双発リージョナルターボプロップ機)に至る種々の 航空機が生産され、DHC-8(Dash 8)は現在でも生産中である。1974 年に同社はカナ ダ政府に買収され、その後、1986 年にはボーイング社に売却された。次いで、1992 年 に、ボーイング社から、ボンバルディア社(51%)とオンタリオ州政府(49%)に売却 され、最後に 1997 年、ボンバルディア社が残りのオンタリオ州政府株を引取って、100% 所有となった。2004 年 12 月末現在、約 690 機の DHC-8 が出荷されている。 3.4.2 政策面(ボンバルディア社及びその前身に対するカナダ政府の成長支援策) カナダ政府が、ボンバルディア社及びその前身に対して、直接/間接の支援を行った方 法は以下の約7種類に分類される。 (1)営業損失補填 カナデア社は、1986 年にボンバルディア社に売却されたが、国有であった 10 年間に ビジネスジェット機 Challenger を開発し、これが CRJ シリーズに発展した。同様に、 デハヴィランド社も、1974 年に国有化され、1986 年にボーイング社に売却されたが、 この間に Dash 7 の開発が完了、型式証明を取得し、更に Dash 8 の型式証明も取得した。 カナデア社/デハヴィランド社の国有時代の政府による支援総額は、数十億カナダドル (数千億円、@95 円/カナダドル)に達すると言われる。 即ち、国有企業の間に開発が終了(開発費の一部を償却)、その後で、当国有企業を買 収する事により、買収する企業は、開発費の負担を軽減し、より良い収益性を確保出来 る。 (2)債務負担 カナダ政府は、1984 年 12 月にカナデア社を2分割した。1社は、売却(民営化)可 能な企業として、ニューカナデア社を設立した。同時に、もう1社は、整理会社とし、 負債 13 億カナダドル(約 1200 億円)を別途引受けた。ニューカナデア社は 1986 年に ボンバルディア社へ 8700 万カナダドル(約 83 億円)で売却されたが、将来にわたって 推定1億 2400 万カナダドル(約 118 億円)のロイヤルティを支払う事になっているも よう。当ロイヤルティは、航空機価格に一定比率を乗じて算出されるが、これは、同社 が国有であった期間の開発費(10 億カナダドル(約 950 億円)以上)の一部を補償する 意味合いを持つ。 上記の通り、カナダ政府は、Challenger 機(CRJ の祖型)、Dash7並びに Dash8の 開発の為に(1)、(2)項を合わせ、多大な援助を行ってきた。 (3)政府助成金及び融資 カ ナ ダ 政 府 は 、 1960 年 代 末 に 防 衛 産 業 生 産 性 プ ロ グ ラ ム ( Defense Industry Productivity Program=DIPP)を発足させた。当プログラムにより、カナデア社のボン バルディア社への売却直後の 1986 年、予備設計完了の為の 680 万カナダドル(約 6 億 円)の貸付が発表された。更に、1989 年には、同政府は DIPP の研究開発助成金として、 3800 万カナダドル(約 36 億円)を貸付け、研究開発関連活動に対して融資(償還を要 する)を提供した。航空宇宙産業(及びカナデア社)は、当プログラムによって、最大 54 の融資を受けた部門である。償還は、プログラム利益に一定比率を乗じて算出される。 (所謂、収益納付方式) 当プログラムは、1996 年に、類似の Technology Partnership Canada (TPC)融資プロ グラムに改訂された。1996 年 10 月 21 日、TPC はボンバルディア社に対し、CRJ700 の開発支援の為、8700 万カナダドル(約 83 億円)の貸付を発表した。ボンバルディア 社によれば、CRJ 及びその他の同社の航空宇宙プロジェクト全てに対して、1998 年1 月 31 日以降、TPC は3億 1200 万カナダドル(約 296 億円)を供与している。 (当融資 額の 90%が、契約によってカナダ政府に償還される) 一方、同社によれば、自社の航 空機事業への自社投資総額は 52 億カナダドル(約 4940 億円)である。 カナダ政府は、WTO のパネルの決定に従い、1999 年 11 月にボンバルディア社への TPC 供与を中止した。 (4)輸出金融 カナダ政府は、エアライン数社(ボンバルディア社の顧客)に対して、貸付金その他 の金融支援(借入保証等)を実施している。これは、カナダの輸出信用機関 Export Development Canada (EDC)を通じて行われる。CRJ オペレーターに対する、貸付その 他の支援総額は明らかではないが、産業別の概略は公表されており、それによると、航 空宇宙産業は EDC の支援を最も多く受けている。 (2003 年度 貸付総額 221 億カナダ ドル(約 2 兆 1000 億円)中、74 億カナダドル(約 7030 億円;34%)が航空宇宙に貸 付けられた。)ボンバルディア社はカナダ最大の航空機輸出業者であるから、貸付の相当 部分が CRJ ユーザーに向けられたと推察される。 (5)オンタリオ州政府所有のデハヴィランド社株式のボンバルディア社への売却 1992 年、ボーイング社は、デハヴィランド社を、1億カナダドル(約 95 億円) (ボン バルディア社(51%)、オンタリオ州政府(49%))で売却した。更に、1997 年、ボン バルディア社が、残りのオンタリオ州政府株を 4900 万カナダドル(約 47 億円)で取得 し、100%所有とした。ブラジル政府は、WTO に対し、株式の 49%を原価(株価の値 上り分を無視して)で転売する事は、不当な補助金に当たるとして提訴したが、WTO はこれを退けた。しかし乍ら、ボンバルディア社へのこの様な便宜は、同社にとって、 明らかに利益となっている。 (6)ケベック州 ケベック州は、工業開発に関するカナダ・ケベック協定(Canada-Quebec Subsidiary Agreement on Industrial Development)と Investissement-Quebec (IQ)に参加してい る。ボンバルディア社のカナデア部門は、前者に基づく返済条件付き融資を(少なくと も 1996~1997 年に)受けた模様であり、又、IQ の運営する2つの基金が、カナデア社 のケベック州における活動の支援に利用されたようである。最近、ケベック州首相は、 州政府がボンバルディア社に、9 億 7600 万カナダドル(約 927 億円)の借入保証を供 与すると述べた。 55 (7)英国政府の支援 1995 年に英国政府は、Learjet 45 ビジネスジェット機の支援の為、ショート・ブラザ ーズ社のアイルランド工場における機体開発に関して、1770 万ポンド(約 36 億円、@ 203 円/£)の融資を行った。詳細は不明だが、同機プログラムが成功した場合に、返済 義務が発生するもよう。(収益納付方式、又はロイヤルティ方式) (8)結論 以上のように、ボンバルディア社の成功には、カナダ政府、オンタリオ州政府、ケベ ック州政府及び英国政府から支援が、大きく寄与したものと推察される。 3.4.3 技術・人材面(ボンバルディア社の開発方針) (1)ボンバルディア社の開発状況 1992 年以降のボンバルディア社機種の市場導入年は以下の通りである。 1992 年:CRJ-100/200 1993 年:Learjet 60 1994 年:Canadair 415 1995 年:Dash 8-200 1996 年:Challenger 604 1997 年:Learjet 45 1998 年:Global Express 1999 年:Dash 8-Q400 2001 年:CRJ-700 2002 年:CRJ-900 2003 年:Challenger 300, Learjet 40 2004 年:Global 5000 ボンバルディア社が外部との協力関係を目指したリスク分担型のパートナーシップ を初めて正式に採用したのは、1998 年の Global Express ビジネスジェット機であり、 それ以降、同方式を採用してきている。 Global Express より前の機種は、全て同社の内部資源により開発された。1998 年当時、 エアバス社、エンブラエル社は、既にリスク分散型のパートナーシップを導入して久 しかったが、それ以前にボンバルディア社が、パートナーシップを導入しなくて済ん だ要因の1つとして、同社の地理的に分散した拠点構成(カナダ、米国、英国)が挙 げられる。 又、ボンバルディア社の開発の特徴として、既存技術の有効活用が挙げられる。低 価格が求められるリージョナル機市場を Target にしている為、開発費が嵩む新技術の 開発が敬遠されるのは止むを得ない面はあるが、この傾向が続くと、早晩、技術的に 行き詰まり、競合他社に遅れを取る恐れがある。これは今後のボンバルディア社の課 題と考えられる。 56 (2)ボンバルディア社のパートナー選定方針 ボンバルディア社は、パートナー選定に際し、以下の点を考慮していると言われてい る。 (分担範囲における技術力) 自社担当部位の設計・生産に責任を持つだけでなく、下請・孫請の担当するサブシステ ムとの統合やインターフェイス設計も含めた技術力。 (人材) 開発、設計、試験飛行、カスタマーサポート等を遂行する上で充分なスタッフの陣容。 (資金力) 開発費用の負担だけでなく、生産スケジュールの厳守、カスタマーサポート、マーケテ ィング、販売等にも全面的に貢献出来るだけの資金力。 (資金的寄与) 無利子融資、補助金、助成金、あるいは優遇税制等を獲得する為に役立つパートナー(特 に国外)としての実力。 (機体に対する金融支援) 航空機の販売に関わる短期、長期の融資の支援及び寄与。 (パートナーシップの衝突) 競合他社プログラムに既に関与しているパートナーは、技術漏洩の恐れがある為、忌避 される可能性がある。 以上見てきた様に、ボンバルディア社の重要な意思決定であるパートナー選定におい ては、資金面だけでなく、技術・人材といった資源の有効活用が重要視されている。 (3)参考 Data:ボンバルディア社の従業員数と 1 人当り売上高 ボンバルディア社の従業員数と 1 人当り 2004 年の売上高は以下の通り。 従業員数:27,100 売上高:15,839 人(2004 年会計年度末時点)(会計年度=2 月から翌年 1 月末) Million US $(2004 年会計年度) 1 人当り売上高:0.58 (出典:2005 年 6 月 28 日 技術委員会 Million US $/人(64 百万円/人、@110 円/US$) 日本航空宇宙工業会 平成 17 年度 先端航空機部品・素材 講演会資料「ボンバルディア社のリージョナルジェット機における企 業戦略等調査」(株式会社 STG 東京事務所) (出典:(財)日本航空機開発協会「平成 16 年度版 民間航空機関連データ集」) (出典: (財)日本航空機開発協会「民間航空機の受注・納入状況」 (2004 年 12 月末現在)) (出典:株式会社 酣燈社「世界航空機年鑑 57 2005年版」) 3.5 ジャムコ社 (1)JAMCO社の現状 事業概要 ・航空機内装品等製造関連事業 製品: ギャレー、ラバトリー、インフライト システム(IFE)、トータル 顧客: H16年度連結売上高 インテリア 167億円 エンターテインメント インテグレーション(TII) 機体メーカー(ボーイングなど)、エアライン(JAL、ANA、SIA、 BA、UAL など) 事業所:JAMCO 立川工場、子会社(新潟、宮崎、米国、オランダほか) ・航空機器等製造関連事業 製品: H16年度連結売上高 51億円 熱交換器、タービンシュラウド、 複合材構造部材 ADP(Advanced Pultrusion) 顧客: 島津製作所、東芝、IHI、NEC、エアバスなど 事業所: JAMCO 三鷹 ・航空機整備等関連事業 製品: H16年度連結売上高 76億円 ホイールとブレーキ整備、JAMCO 製品のカスタマーサポート、 各種ヘリコプター及び中小型機の整備 顧客: エアライン(JAL、ANA など)、防衛庁、海上保安庁、航空大学校、 JAXA など 事業所: 成田、羽田、仙台、宮崎、帯広などの各空港 航空機内装品 ギャレーについては 1970 年の ANA のボーイング 727 用ギャレーの受注から事業を開始 し、1979 年にボーイングから 767 用ラバトリーの受注を機に、ボーイングとダグラスから 大量にギャレーとラバトリーを受注するようになり、世界的な専門メーカーの地位を確立 した。現在、ボーイングのギャレーとラバトリー供給のかなりの部分を JAMCO 社が全面的 に行っている。(設計、開発、製造、T/C 取得用データ、カスタマーサポートなど) また、最近はギャレー、ラバトリー、IFE などの単品のみでなく、客室内装備を一括して 供給するソリューション事業(TII)を積極的に拡大し、事業の柱となりつつある。このた めに JAMCO AMERICA を中心に客先である世界中のエアラインと緊密な連絡を取り、常に最 新の客先要求事項を確認している。 航空機器製造 従来からの JAMCO 社の特殊金属(アルミ二ウム、チタニウムなど)の加工技術により 熱交換器を中心とした航空宇宙用部品の製造を行っている。また、最近は JAMCO が開発し た複合材成形技術(ADP)による複合材構造部材がエアバスの垂直尾翼及び床材として採用 され、更なるアプリケーションが大いに期待されている。 58 航空機整備 中型・小型航空機の整備事業が大きな柱ではあるが、現在、大型機も含め、車輪とブ レーキの整備と修理に力を入れており、この分野における国内唯一のオーバーホールセン ターとしての確実な地歩を占めつつある。 * 内装品事業での研究開発費は年間約5億円で大部分が飛行機用部品の要求事項(軽量 化、耐火性など)の改善に使用される。 * JAMCO 社従業員の90%以上が技術系ベースの人材である。 (2)ADP 工場の見学 JAMCO 社のご厚意により ADP の製造ラインを見学し、ご説明を受けた。ADP は長いベッ ドの上を少しずつ、移動させながら熱と圧力をかけて成形するので直線性に優れている。1 時間に2.5メートル移動し、検査は移動しながら超音波検査を自動的に行うとのこと。 (3)JAMCO社の歴史 JAMCO社は1955年に伊藤忠航空整備株式会社として創立され、全日本空輸 及び日本航空の仕事を開始し、運輸省航空局より装備品(1963年)、航空機(1969 年)の修理改造認定事業場の認定を取得した。その後、航空法の改定により航空機の整備外 注が制限され、JAMCO社の航空機整備が減少したが、これに代わって前述のように1 970年の全日空からのボーイング727用及び737用ギャレー受注から大型機の内装 品の開発・製造が開始され、1979年のボーイングからの767用ラバトリー受注を皮 切りに大型機内装品の世界的メーカーに発展することになった。 59 3.6アジア域における状況 3.6.1 中国航空工業第2集団公司(AVICⅡ)を中心とした現状 ・ AVICⅡの変遷:1950 年代にあった、”Ministry Aviation”が 1980 年に合体し、Ministry of Of Aerospace”と”Ministry Aviation & of Aerospace になり、その 後 1993 年 に 企 業 体 と し て ”China Aerospace Industry” と ”Aviation Industry of China” に分離、このうち、”Aviation Industry of China”が 1999 年に AVICⅠと AVICⅡに分割され現在に至っている。 ・ このような背景から、AVICⅡはそもそも政府組織としてあったものを 1993 年に企業 化したもので、AVICⅠとともに現在も基本的に中国の航空産業を統括する行政機関的 役割(総合調整)を果たしていると考えられる。 ・ AVICⅡの傘下には44企業、3研究所、その他22の関連企業・研究所がある。全従 業員数は17万人。2004 年度の Turnover は 38 億 US$(4600 億円相当)。 ・ 44企業のうち、航空機製造企業は8社(うち、2社はヘリコプター製造)、エンジン 関係(補機類含む)が7社、航空機搭載機器関連が14社、その他14社。研究所は ヘリコプター、動力及び特車に関する研究所。22の子会社には海外との貿易に関す る CATIC(China National Aero-Technology Import & Export Corp.)及び、China Aviation Supply and Marketing Corp.が含まれている。AVICⅡはこれら2社の 50%の Share Holder である。 ・ 国際共同や海外との貿易に関しては、50 の国及び地域と共同関係を持っており、これ らは CATIC(China National Aero-Technology Import & Export Corp.)及び、China Aviation Supply and Marketing Corp.を通じて実施されている。 ・ AVICⅡの売り上げは航空関連製品が 21.8%、非航空関連製品が 78.2%となっている。 ・ 航空関連の主要製品はヘリコプター、輸送機、練習機、攻撃機、汎用機、無人機及び 搭載機器などで、ヘリコプターは AVICⅡだけが生産している。最新鋭のヘリコプター (EC120)は Eurocopter と Singapore Tech. Aerospace Ltd.との共同開発によるもの である。またサブコントラクトによる部品生産も実施。 ・ 非航空関連製品の主力はミニバンやミニトラックを中心とした自動車事業でミニバン 及びミニトラックの国内市場の 43%以上を保有している。また繊維機械、バイク、環 境設備機器、動力機器などの生産を行っている。 ・ 航空関連の国際共同開発及び国際協力については、30~50 席クラスの Regional Jet 機の共同開発が最近の大きな話題。 ・ これについては Embraer との共同開発で以下の3点を目的として、現在進めようとし ているところである。 *中国国内に共同生産のための JV 設立 *部品生産の国産化 *新製品の開発 60 ・ 一方、AVICⅠにおいても独自開発による 70~100 席クラスの ARJ21 開発を立ち上げ ているところである。AVICⅠの ARJ21 プロジェクトが独自国産技術開発能力の拡 大・強化、AVICⅡのJVプロジェクトは海外メーカとの共同開発を行うことによる海 外技術の導入と素早い市場提供による売り上げ確保に狙いがある。 ・ ヘリコプター分野では回転翼システムに関して Eurocopter と、トランスミッションシ ステムで Agusta、エンジンでは PWC と技術協力関係を持つほか、エンジンの換装に 関して Turbomeca 等とも協力関係を持っている。 ・ EC120 ヘリについては Eurocopter と Singapore Tech. Aerospace Ltd.との共同開発に よるものであるが、AVICⅡは胴体、複合材構造、耐衝撃燃料システム、降着装置など の開発を担当した。また S92 ヘリでは Shikorsky との Risk Sharing Partnership を 結んでいる。 ・ 固定翼機についてもエンジンとアビオニクス関係を中心に海外メーカと技術協力、既 存機体のアップグレードを実施。 ・ サブコントラクトの中心はガスタービンエンジン部品で RR、GE、PW などのサブコ ントラクターとして部品供給を行っており、1999 年以降急激にその売り上げを伸ばし つつある。 ・ WTO 加盟に伴って海外との協力関係においては、サブコントラクト、改修等による技 術協力、Risk Sharing プログラムへの参画など、様々な協力形態において、生産、技 術や資産の確保観点での海外との協力を拡大する一方、共同開発・共同生産及びJV では柔軟な協力関係を指向していくとしている。 AVICⅠ及び AVICⅡはいずれも大きな企業体(AVICⅠは25万人規模、AVICⅡは20 万規模)であるが、基本的に傘下にある企業を統括し調整する行政機関的な役割を果たし ているように思われる。 航空機生産には高度な生産技術を要求されるが、欧米の航空機・エンジンメーカとのサブ コントラクト、技術協力や共同開発を通じて、着実にその技術を獲得しつつあるように思 われる。さらに、研究所組織も AVICⅠ及び AVICⅡを合わせれば33機関を有し、技術開 発能力も高いと考えられる。特に AVIC1がそのほとんどを有しており、独自国産技術に 重点を置いていることが分かる。 また、中国国内の航空輸送需要の拡大は明らかであり、それを背景とした国産或いはJV による民間航空機開発の動きはアジア域における航空機生産の中核となる可能性が大きい。 3.6.2 韓国における状況 韓国の航空宇宙産業規模は、売上げ約 2700 百万ドル、雇用規模は約1万人となってお り、売上げ規模では日本の約1/4である。主要なメーカは KAI(Korean Aerospace Industries)、Samsung Techwin、KAL(Korean Airline)となっており、軍用機を中心 として航空機製造は KAI、ボーイングやエアバスの部品生産や MRO を KAL が担ってお り、航空エンジンは Samsung Techwin が海外メーカのエンジンをライセンス生産してい る。 61 韓国の航空機産業は2015年までに売上げ規模を日本と同等レベルに押し上げること を目標に、先頃開発を完了して量産体制となった超音速練習機 T-50 や既に海外にも輸出 実績のある初等練習機 KT-1、開発に着手した多目的ヘリコプター429M/KHP、産学官連 携で注力している無人機(UAV)といった防衛・軍需製品の輸出拡大を売上げ規模拡大の 根幹に据えている。 (1) KAI(Korean Aerospace Industries) ・大宇重工(28%)、三星工業(28%)、現代自動車(28%)の出資で 1999 年 10 月 1 日に 設立された、韓国で航空機全機を製造する唯一の会社である。 ・外国企業との関係では、Lockeed Martin と T-50(超音速ジェット練習機)開発におけ るパートナーシップ、ならびに KF-16 戦闘機のライセンス生産。この他に Boeing、Bell などと機体一部分のライセンス生産や機体改修も行っている。 ・主要な製品としては、T-50 超音速ジェット練習機(国産ということになっている)、KT-1 初等練習機、KF-16、韓国陸軍用 UAV、民間機部品、衛星 KOMPSAT2 等で、これからわ かるように、顧客は軍(韓国空軍、陸軍、海軍)であり、売り上げの 80%を占めている。 ・事業所は、ソウル(本社)、Sachon に 2 工場、Changwon に1工場、Daejon(大田)に 衛星関係の1工場、計 4 工場(Sachon, Changwon ともに韓国南部の慶尚南道(釜山も含 まれる州)にあり)を有している。 ・年間売り上げは、2002 年度の売上げは約 9500 億ウォン(約 950 億円)、利益 160 億ウ ォンで、雇用者数は約 3200 人(内技術者は約 1000 人)となっている。 (2) KAL(Korean Airline) ・KAL の Aerospace Division は 1976 年に設立。1970 年代の朴大統領の自律的な防衛能 力の確保の方針から、当時唯一の航空機に関する事業(運航・整備)を行っていた KAL が他のカスタマー(含:米軍)の MRO と製造の事業にも乗り出したものである。 ・KAL は運航部門、整備部門及び製造部門で構成され、整備部門は自社機体の整備である。 Aerospace Division が製造部門であり、ここが自社以外のカスタマーの機体整備と製造を 実施、プサンのキムハエ空港に隣接し、デジョンの技術開発部門も含めて約 2,000 人の従 業員を有している。 ・人員規模では KAI(Korea Aerospace Industry)の約 2/3 であるが、経営基盤では KAI を 凌ぎ、韓国航空宇宙産業の中核となっている。KAI が財政問題から政府からの投資を受け ているのに対して、KAL は政府からの投資は全くなく極めて健全な状態にある。 ・事業所としては、ソウル近郊にエンジン整備拠点、プサンに MRO と製造の拠点を有す るほか、デジョンに研究開発の拠点(Korea Institute of Aerospace Technology)がある。 開発エンジニア数はプサンに約 250 人、デジョンに約 100 人である。 ・KAL 全体の売上げのうち製造部門は約 10%で、2002 年度で約 190 百万$(2002 年)。 ・軍関係では米軍の航空機整備(アジアで最大規模)とともに、自国軍向けのヘリや機体 の製造・整備。500MD ヘリのライセンス生産を皮切りに F-5E/F 戦闘機の製造、520MK ヘリの開発などを手がけ、現在UH60 ヘリの製造、F-16 戦闘機や KT-1 練習機や T-50 超 音速練習機の部分生産を実施している。このほかに、各軍用機のアビオニクスのアップグ 62 レードなどを行っている。 ・民間部門ではボーイング、エアバス及びエンブラエルの機体部分構造製造をオフセット プログラムで実施している。ボーイング関係では B777(flap extension, Wing-tip)、B717 (Nose fuselage Assy.)等、エアバスでは A340(mid-fuselage)等、A380 の部品生産も行 っている。エンブラエルでは ERJ175 の胴体生産を行っている。また、5-seater の軽飛行 機 BlueSky-91 を自社開発、韓国で初めて自国開発機の型式を取得、現在市場への展開を 検討している。 ・研究開発はデジョンの技術開発センターで行っているが、同地にある KARI(Korean Aerospace Research Institute)の設備を活用してアビオニクスやサブシステム等の研究 開発を中心に実施しており、宇宙関係では韓国の人工衛星やロケットの開発にも参画して いる。 63 4.航空機産業以外でのビジネス戦略事例 4.1 自動車産業 4.1.1 自動車産業と航空機産業(特に日本)のビジネスモデルの考え方の比較 自動車産業は航空機と同じインテグレーション産業(アセンブリー産業)であるが、多 くの場合顧客が一般消費者である。即ち、B2C(航空機はB2B)のビジネスであると いう点で航空機とは大きく異なる。しかし、顧客ニーズや市場動向を踏まえて製品開発等 の戦略を展開している点では、航空機産業の参考となると考えられる。 ここで一般に航空機産業(特にビジネスについては日本)と自動車産業の違いとしては 以下の点が指摘できる。 (表4.1-1) 表 4.1-1 航空機産業と自動車産業の比較 航空機産業(特に日本) 自動車産業 ・航空会社等の運航事業者 ・主に一般消費者 マーケティング ・自社ではほとんど行っていない ・非常に強い ・顧客データベース等完備 コンセプト ・自社開発は少ない、国際共同 開発の場合も、プライムではな いため自社では作成していない ・自社 生産・設計 ・詳細設計が中心 ・部位が中心、最終組み立ては ほとんど無い ・基本設計等全てを実施 ・国内外でグローバルに生産 ・自社生産が中心 ・プライムに依存 ・自社 顧 客 販売サポート 出所)MRI 即ち、自動車産業は顧客ニーズ把握→コンセプト構築→設計→開発・生産→販売・サポ ートの全てを基本的に自社で行っており、ビジネスモデルの構築もビジネスプロセス全体 から策定されている。結果、顧客ニーズへの対応、さらには顧客に対して何を訴求(売り) するかがその基本となってくる。一方、我が国の航空機産業、とりわけ民間旅客機の製造 事業では、国際共同開発においてリスク・シェアリング・パートナーやサプライヤの位置 付けにある。このため、ビジネスモデルもインテグレーダ(アセンブラー)の立場よりは、 パートナー、サプライヤの立場で構築される傾向が強いと考えられる。 双方を比較した場合、前者はマーケティング等を通じて新製品を開発するにあたり、ど れほどの収益が期待されるか(あるいはターゲットとするか)がまずベースとなるため、 そこに投入するリソース(人、物、金等)や生産計画等を基本的に自ら決定することが出 来る。例えば製品1台当たりの付加価値は相対的に小さくても多く販売できるものであれ ば、価格(あるいは費用対効果)を「売り」とする製品を作り、ビジネスモデルを構築す る。逆に数がそれほど出なくても高付加価値な製品については、ブランド構築に注力して、 顧客層を絞り込んだ。ビジネスモデルを構築する。さらに、複数のクラスの車種のポート 64 フォリオを考えながら、最終的に会社全体として全体のビジネスモデルを策定する。 一方、航空機産業はビジネスプロセスの一部(詳細設計、製造、納品等)をベースにビ ジネスモデルを構築するため、マーケティングは技術力をベースとした品質やコスト、納 期といったQCDの視点からビジネスモデルが構築される。従って、例えば高付加価値な 製品やある特定のターゲットを狙った製品をベースに、ビジネスモデルを構築することが 難しく、自らがとれるビジネスモデルのオプションが限られることとなる。 4.1.2 高付加価値車の事例 (1)レクサス 近年、国内の景気回復基調の中、自動車業界では、高級車市場への関心が高まっている。 我が国でも2005年夏にトヨタ自動車が高級ブランド・レクサスを国内で展開、この レクサス効果もあり、欧州車を中心に高級車の国内市場が拡大しつつある。 レクサスは1990年代はじめにトヨタ自動車が米国で展開した高級車ブランドである が、米国市場での成功は、当時のメルセデス・ベンツの技術開発体制を変えるほどインパ クトのあるものであった。 レクサスのビジネスモデルには従来のトヨタ車と異なる違いが幾つか見られる。 次ページにレクサス開発のはじまりから成果までのポイントを簡単に示す。レクサスの 出発点は豊田英二氏にあり、そこにJファクターと呼ばれる日本らしさ、即ち、日本文化 を折り込んでいる。そして、独自のマーケティングを展開することで、トヨタ自らがター ゲットを明確に決めていることが分かる。 レクサスはその後、通常の自動車開発と比べてはるかに多くの開発コストとリソースを 投入し、販売、チャネルについてもかなりの資金とリソースを展開し、最終的に米国で成 功を収めた。 ここで重要なことは、当初の出発点が自らにあり、かつ、自らがマーケティング(実際 にカリフォルニア州の高級住宅地で生活して体感したりしている)を行い、開発や販売チ ャネル等に投入するコスト、リソースを決めている。当然、事業を進めていく上で状況が 変化することは考えられるが、自らが評価・判断し、かつ、リスクをテイクしていること から、そのような場合も現実的な対応をとることが可能であったと考えられる。 一方、製造の一部を担当するサプライヤは、レクサスを生み出すようなインテグレーダ の戦略に大きく左右される。それだけビジネスモデルとしては様々な状況をあらかじめ想 定する必要があるが、それはプライムが決めるため、あくまで受態的にならざるを得ない。 結果、大きなリスクをとることが難しくなり、レクサスのような時代に合致した新しいビ ジネスモデル(あるいは戦略)を迅速に実行することが難しくなる。日本の航空機産業に はこうした一面が見られる。同時に出発点に関しても、マーケティングの結果をコンセプ トに落とし込むといった領域の弱さがある。結果、レクサスのような大胆かつ緻密な新し いビジネスモデルを作ることが難しくなっていると考えられる。 65 ①出発点 ②文化 :豊田 英二(1人のカーマニアの思いつきから出発) :Jファクター(日本らしさを土台とする) ③ポイント :包括的市場調査によれば、高級車の顧客満足度は最低レベル ④マーケティング:カリフォルニア州高級住宅地での生活、高級レストランの実態調査 ⑤開発コスト ・・・10億ドル~30億ドル(通常は大きくても5億ドル未満) ※ディーラーネットワーク構築のためのコストは除く ⑥投入人材リソース ・・・24チーム(3,980人) エンジニアチーム ・エンジニア (24) ・デザイナー 1,400人(通常は最大でも200人程度) ・技能員 60人 ・補助作業員 2,300人 ⑦開発された試作車台数 ⑧成果 220人 ・・・約450台(通常、実物大試作車は2~3台) :トヨタ自動車の年間純益の1/4を占める、中古車保証基準作成 出所)Chester C. Dawson Ⅲ, LEXAS The Relentless Pursuit (2)BMW 技術-製品開発の一部を担当する場合(例えばサプライヤ)は、先のインテグレーダの ようなビジネスモデルを構築することはできないのか?この点についてはサプライヤでは ないが、自動車におけるBMWのトランス・ミッションが1つの参考例となる。 トランス・ミッションは自動車の重要な要素技術であるが、BMWではこうした要素技 術について、開発の段階から「顧客に一体何を訴えるべきか」を、トランス・ミッション が搭載される車格(クラス)ごとのブランドを勘案して決定している。即ち、トランス・ ミッションという要素技術が車に組み込まれた場合に、車全体として顧客に何を訴え、提 供すべきかという視点(ブランド)に立ち、それを技術に落としこむことで、顧客としっ かり結びついた開発アプローチを実現化している(図4.1-1参照)。 従って、一部の部位や装備品を扱うサプライヤにおいても、当該製品が顧客(さらには 航空機の場合は航空機を利用する利用者という最終顧客)に訴求するものを、製品及び全 体システムで共有化し、明確化することでビジネスモデルをより戦略的なものとすること が可能となろう。 66 【要素技術の段階から顧客に一体何を訴えるのかの明確化(トランスミッションの例)】 トランス・ミッション 【マルチ・ブランド】 【モデル】 BMWユーザ :The Ultimate Driving Experience Z3 :機動性(agility) 、スポーティ音 図 4.1-1 MINIユーザ :カート(kart)のようなハ ンドリング RollsRoyseユーザ :快適な(comfortable) パワー・トレイン 7シリーズ :快適性を生み出す滑 らかな出力特性 BMWのトランス・ミッションの開発アプローチ 出所)BMWの資料からMRI 4.2 デジタル家電業界 4.2.1 デジタルコンバージェンスの進展 薄型テレビ、DVDレコーダー、デジタルカメラが「新三種の神器」と称されて久しいが、 これらのデジタル家電分野では「デジタルコンバージェンス」が進展している。 「デジタルコ ンバージェンス」とは、アナログ技術のデジタル技術化により、コンピュータと家電、放送と 通信などの産業の垣根が崩れ、異なる産業間の融合によって、再び新しい産業へと収斂(コ ンバージェンス)していく過程を意味している。 現在、放送と通信の間で起きている現象は、ひとつの典型と言える。NTTグループのぷ ららネットワークスなどは、映像や音楽のコンテンツを企画し、光ケーブルを利用した伝送 技術の上で、視聴者に、通信とコンテンツ配信サービスを提供して対価を得ようとしている。 フジテレビなどの放送局も、映像や音楽のコンテンツを企画し、仕入れ、地上波を利用した 伝送技術の上で、視聴者にコンテンツ配信サービスを無料で提供し、企業から広告収入とい う対価を得ている。異なるアナログ技術で区分されていた通信と放送の業界が、アナログ技 術のデジタル技術化、インターネット・プロトコル(IP)などの伝送技術の共通化が進み、 同じデータを地上波で流すか、光ファイバーで流すかの違いだけになってきた。ユーザーか らみれば、目的のコンテンツが視聴できれば、地上波であろうが、光ファイバーでもどちら でも構わない。通信業界に属するNTTグループと放送業界に属するフジテレビは、より大 きなひとつの産業に融合しつつある。 コンピュータと家電においても、デジタル技術への共通化が進み、同様のことが起きてい る。放送と通信 (コンテンツ・サービス)、コンピュータと家電(ハードウェア)は、これらを 繋ぐソフトウェア産業をも吸収し、ひとつの巨大な産業へと生まれ変わろうとしている。新 たに出現した巨大な産業の中で、従来の業界の枠組みを越えるような新たな製品・サービス が生み出され、全く異なる産業へと姿を変えつつある。 デジタルコンバージェンスは、産業革命に匹敵する巨大な変化といっても過言ではない。 音楽や映画などのコンテンツを、高精細テレビや携帯端末などのハードウェアを通じて、よ 67 りタイムレスに、よりスペースレスに、楽しむ生活へと一気にシフトさせるライフスタイル の変化は、既に至る所で起きている。 ひとつは、音楽や映像コンテンツの楽しみ方が根本的に変わったことである。米国では、 アップルの「iTunes Music Store」、リアルネットワークスの「Rhapsody」などの音楽配信サ ービスが定着している。日本でも音楽はauの「着うたフル」、映像は「Yahoo!BB光TV」 (ソフトバンクBB)、「光プラスTV(KDDI)」、「4th MEDIA」 (ぷららネットワークス) などが、次々とブロードバンド放送、オンデマンドサービスを開始している。このように、 音楽や映像コンテンツは、買いに行くものから、会員登録して、クリックひとつでダウンロ ードやストリーミングで視聴するものへと変わっていきている。メジャースポーツとニュ ースを除けば、あらゆるテレビ番組は、オンデマンドで、いつでもどこでも、好きな時間に、 好きな番組を視聴するようなスタイルにシフトしている。ブロードバンドの普及と帯域の 拡大によって、家庭に音楽や映像コンテンツを容易に配信できるようになった。 ふたつは、新たなハードウェアの進化と普及が進んでいることである。テレビについては、 日本、韓国などアジアメーカーの大規模な設備投資によって、薄型テレビの価格が生産量の 拡大に伴うコストダウンによって急速に低下し、1 インチ 1 万円の需要のブレークポイント を越えた。低価格化による普及拡大と、ブロードバンド回線を通じた家庭への映像配信によ って、薄型テレビが家庭を埋め尽くしていく。ユーザーはテレビの解像度に見合う、より高 精細な映像配信、大容量回線を求め始めている。一方、携帯電話などの端末の進化により、 いつでもどこでもインターネットにアクセスして、電話やeメールだけでなく、音楽、映像 コンテンツを利用することがきるようになってきた。日本でも、CDMAなど第三世代携帯 電話の普及に伴い、音楽のダウンロードや、映像コンテンツ配信サービスの利用が拡大して いる。 現代の市場は、テレビや携帯電話などのハードウェア、音楽や映像などのコンテンツ、そ れらをつなぐサービスとの相互依存性が高まり、それぞれが単独では成立しえなくなって おり、ハードウェアをはじめとして、音楽や映像コンテンツ、サービスのあり方を根本から 変えていく。 4.2.2 iPod の成功ビジネス戦略 デジタルコンバージェンスのもとで新種のデジタル家電製品や新型のサービスが多く生 まれる。今後も、従来のカテゴリー概念では区分できない新しい製品が生まれてくるだろう。 ここでは Apple 社の iPod のヒットを例にとって、各局面でどんなビジネス戦略(主に商品開 発戦略)をとったかを検証してみたい。 4.2.2.1 iPod の販売実績 昨年もヒット商品番付にあげられたApple社の「iPod」は、驚くほど小型の「iPod shuffle」、「iPod nano」、ビデオも再生できる新型「iPod ビデオ」と次々と新製品を発表 して他社製品を圧倒した。また、音楽配信サービス「iTunes Music Store」も、8 月に日本 語版のサービスが開始されると同時にダウンロードが殺到し、まさに「iPod」ファミリーが デジタルポータブルプレーヤーの市場を席巻した一年であった。 米Apple社の、2005 年 10~12 月期の売上高は前年同期比 65%増の 57 億 4,900 万ド 68 ル、純利益は同 1.9 倍の 5 億 6,500 万ドルで、四半期決算としては過去最高を記録した。こ の 3 ヵ月だけで、『iPod』が同 3.1 倍の約 1,404 万台売れており、ブームに拍車がかかって いる。 iPod シリーズの販売台数は、2005 年 1~3 月が 531 万台、4~6 月が 616 万台、7~9 月が 645 万台と推移していたが、10~12 月は人気上昇と歳末要因が重なり、一気に膨らんだ。iPod は 2001 年 11 月に発売され、約 3 年後の 2005 年初めに累計 1,000 万台を達成したが、現在は 4,200 万台を超えており、更に販売が加速している。 iPod の売上高は 29 億 600 万ドルで、ついにパソコン部門(17 億 2,400 万ドル)より大きく なり、全体の売上高の約半分を占めるようになった。パソコン販売台数も同 20%増の 125 万 4,000 台(プロセッサー1 基で1台と計算)に増えており、iPod 人気が波及しているとみら れる。 4.2.2.2 iPod の生い立ち 2001 年初頭、Apple 社は 1 人がマーケティング、もう 1 人は技術の担当の 2 人に、携帯型音 楽プレーヤの市場調査の命を下した。わずか 9 カ月余りのその年のクリスマス・シーズン に、製品が店頭に並んだ。それから 2 年半。2 人が礎を築いた事業の成功を疑う声はない。 彼らの製品のヒットは、1社の窮地を救っただけでなく、人々が音楽を聴くスタイル、そし て楽曲を買い求める手段までをも変えつつある。 同社は、今後の成長を見込める分野として音楽関連市場に触手を伸ばした。2001 年 1 月 に開催した「Macworld Conference&Expo」で、Apple 社は第一弾の製品、Macintosh 向けのジ ュークボックス・ソフトウエア「iTunes」をお披露目する。音楽市場への参入は遅く、米国 では、多くの周辺装置メーカーがフラッシュEEPROMを使った携帯型音楽プレーヤ製 品をそろえており、Apple 社の構想に似た製品は、既に市場にあふれていた。いずれも売れ 行きは、捗捗しくなく、パソコンにつないで使う音楽プレーヤといえば、ニッチ商品の代名 詞だった。 それでも Apple 社には、成功の予感があった。Apple 社には、経営陣から技術者、マーケテ ィング部門に至るまで、生活の一部として音楽が欠かせない多くの社員がいた。彼らは開発 途上の「iTunes」を使って、自分たちの CD コレクションをパソコンに移し始めた。その中か ら好きな曲を選んで、持ち運べるプレーヤで聴きたいと願うのは、ごく自然な欲求だった。 ここに、彼らは潜在的な市場の存在をかぎ分けた。しかも、そこでは Apple 社の強みである、 使いやすいユーザー・インタフェース、ハードウェアからソフトウェアまで 1 社ですべてを 手掛けていることなどを生かせそうだった。 2 人は、競合他社の製品の分析から、大部分のユーザーは、購入した数週間後には、音楽プ レーヤを使わなくなり、何回か試しただけで、放置してしまうことが分かった。原因は明白 だった。ユーザーは何百枚ものCDから吸い上げた楽曲を、パソコンに蓄えているが、半導 体を利用した音楽プレーヤに保存できるのは、せいぜい 10 数曲であり、その時々に聴きた い曲を持ち運ぶには、プレーヤの内容を何度も入れ替えなければならない。その手間をユー ザーは厭いとうのだ。大容量のハード・ディスク装置を使って、この手間を省こうとした製 品もあったが、難点は大きすぎて持ち運びに向かないことだった。 使い勝手の問題も露呈した。製品によっては、10~15 個ものボタンが付いていて、望みの 69 曲にたどり着くまで、複雑極まりない操作を強いられる。Apple 社が目指したのは、音楽フ ァンの日常に欠かせない、万人に愛される製品である。数週間にわたる 2 人の奔走の末、製 品の骨格は、ポケットにスッポリ収まる大きさに、ユーザーのすべての音楽コレクションを 記録する製品となった。現行の製品にはないコンセプトを実現すれば、音楽ファンの心をわ しづかみにできるはずだ。 無数の楽曲を保存するには、記録媒体にハード・ディスク装置を使うしかない。2.5 型H DDを利用したのでは、ポケットに押し込めるのは難しく、体積がほぼ半分の 1.8 型HDD を使う方が良い。電池などの主要部品も、薄くても十分な性能を発揮する、Ni水素電池や Liイオン電池などが、検討の俎上に載った。 携帯型音楽プレーヤのユーザーとしてのこだわりを感じさせるのが、液晶パネルに対す る要求だ。調査では、ユーザーは今聞いている曲やアーティストの名前を知りたがることが 判明した。曲名、アーティスト名、経過時間などの表示を重視し、見やすく表現するため、可 能な限り大きな液晶パネルを選ぶことを決めた。 iPod のチームが成功の秘訣として強調するのは、Apple 社がハードウェアからOS、アプ リケーション・ソフトウェア、デザインまで、製品を構成するすべての要素を自社で手掛け ていることだ。その代表例が、iPod をパソコンに接続すると自動的に認識され、「iTunes」 が立ち上がって、パソコンの音楽ライブラリと iPod の中身がそっくり同じになるように、 新たに追加された楽曲ファイルを転送する「Auto‐Sync」機能だ。ユーザーは、iPod をパ ソコンにつなぐだけでいい。音楽を iPod に移すのに、これ以上簡単な手はない。ユーザー のすべての音楽コレクションを持ち運ぶという iPod のコンセプトが、この壁の突破口にな った。同社は「Auto‐Sync」の技術で特許を出願している(米国特許出願番号 2003/0167318)。 ユーザーの体験を、些細なことで損なわないように、Apple 社はユーザー・インタフェー スの細部にも目を配った。再生専用のデジタル音楽プレーヤという概念を踏み外さないた め、コンピュータでは当たり前の概念を極力持ち込まないようにした。例えば iPod では、 曲に対応する「ファイル」や、曲を格納する「フォルダ」が前面に出ることがない。iPod のユ ーザー・インタフェースを特徴付ける最大の要因は、iPod を片手で操作できること。この 条件を満たす部品を求め、各種のボタン、筐体から出っ張るダイヤル状の部品など、あらゆ る機構を試した。 iPod の開発チームの主要メンバーは、定期的にブレーンストーミングを開いていた。ブ レーンストーミングに参加する人数はできるだけ少数にした。ブレーンストーミングから は、さまざまなアイデアが育ち、即座にプロトタイプが作られた。 iPod の開発チームが直面した問題の 1 つとして、パソコンにある膨大な音楽コレクショ ンを iPod に高速に複製する手段がある。Apple 社の Macintosh は、既に最高データ転送速 度が 400Mビット/秒の FireWire を採用済みで、400Mビット/秒あれば 1,000 曲あっても 10 分足らずで処理が済む。パソコンのハードウェアまで自社で手掛けていることの強みが生 きた格好だった。FireWire の活用法は、1 本のケーブルでつなぐだけで、楽曲の転送だけに とどまらず、電源も供給できること。このアイデアで、他社の音楽プレーヤには付属する AC アダプタ用の専用ケーブルを不要にし、ケーブル分だけコストを削り、ここでも操作性を改 善している。 製品のコンセプトが固まってから、実質 6 カ月で iPod は出来上がったという。iPod のチ 70 ームは、開発のほとんどは自社で済ませたと断言する。もっとも本当に iPod の外形寸法を 決めたのは、プリント配線基板よりも、HDDやLiポリマ 2 次電池である。外観のデザイ ンでは、薄さを印象付けることを重視し、見た目を分断して、さらに薄く見える外観を考案 した。白いプラスチックの筐体に、鏡のように輝くステンレス鋼の半面を合わせた。多少コ ストが高くなっても、実物以上に薄く見えるだけでなく、他の材質にない高級感を漂わす。 2002 年 3 月 21 日。東京で開催した「MacWorld Expo」で、Apple 社はハード・ディスク装 置の容量を 10Gバイトにした iPod の新製品を公表。収録できる曲数は 1,000 曲から 2,000 曲へ倍増した。そして、2002 年 7 月 17 日。Apple 社は「第 2 世代品」を発表する。第 2 世代 品は、どちらかといえば小粒の製品で、容量は 5Gバイト、10Gバイト、20Gバイトの 3 種類。 このうち 10Gバイトの製品は、以前と比べて多少スリム化し、厚さは 18.4mmで、前機種よ りも 1.6mm薄い。第 2 世代機の最大の特徴は、Widows への対応である。Apple 社は、iPod を独立したビジネスとして育てることを決断し、iPod の市場を広げるには、Widows への対 応が必要不可欠であると考えた。 2003 年 4 月、iPod の開発を開始してからわずか 2 年。Apple 社は早くも第 3 世代品を発 表した。事実、iPod の売り上げは第 3 世代機の投入を境に、ぐんぐんと伸び、第 3 世代着が 登場した。2003 年第 2 四半期の出荷台数は 30 万 4,000 台で、第 1 四半期の 8 万台を大きく 上回った。第 3 四半期には 33 万 6,000 台に伸び、クリスマス・シーズンの第 4 四半期の出 荷台数は対前年同期比 235%増の 73 万 3,000 台となり、爆発的ヒットとなった。2004 年に 入って勢いはさらに増し、第 1 四半期には 80 万台を突破した。前年同期と比べて実に 10 倍である。 「iTunes Music Store」 iPod を時代の寵児に押し上げたのは、第 3 世代機の魅力以上に、インターネットで楽曲を 購入できる「iTunes Music Store」(以下「iTMS」)だったことは想像に難くない。2003 年 10 月には Widows 版の iTunes を発表し、Widows パソコンのユーザーもサービスを利用できる ようになった。Apple 社は「iTMS」で、ハードウェアとソフトウェアが一体となってユーザー に「体験」を提供するという、iPod の中核コンセプトに立ち返った。パソコンに組み込んだ ソフトウェアが、インターネット経由で楽曲の購入/ダウンロードを可能にする。購入した 音楽は、パソコンに保存するだけでなく、iPod にコピーして持ち運べる。 Apple 社は、先行する試みの中で根本的な欠点は、ユーザーにとって使い勝手が悪いこと であると考えた。例えばCDの場合、店で買ってきてプレーヤにかけるのに、わざわざマニ ュアルを広げる人はいない。しかし、当時の合法的な音楽ダウンロード・サービスでは、購 入から再生までのステップが複雑で、パソコンの知識が不可欠だった。既存のサービスでは、 著作権管理技術がユーザーに課す制約が大きかった。購入した楽曲を何台ものパソコンで 聞いたり、CD‐Rにコピーしたりといった、ユーザーが当然望む行為ができない。しかし、 これを実現しない限り成功はないとみた。最大の難関は、多数の楽曲の権利を統括するレコ ード会社である。Apple 社は、条件次第でレコード会社側の理解は得られると考えたが、立 ち向かったハードルは、とてつもなく高かった。ユーザーが納得するだけの楽曲をそろえる ため、Apple 社は 5 大レコード会社のすべてに接捗を始めたが、最初は話すら聞いてもらえ なかった。 71 1 年余りの歳月をかけ、Apple 社は交渉の荒波を何とか乗り切った。「iTMS」は、5 大レコー ド会社すべてから集めた、20 万に及ぶ楽曲を提供する。すべての曲が、無料で 30 秒間試聴 できる。サービスの加入料は一切不要で、1 曲当たりの値段は一律 99 米セント。購入した 曲は 3 台のパソコンで再生でき、同じ曲順のままで 10 回までCDに書き込めた。Apple 社 は 20 を超えるアーティストと独占契約したコンテンツも用意した。「iTMS」で購入した楽曲 が、iPod 以外の携帯型プレーヤにコピーできないことも、音楽業界の安心感を得たようだ。 iPod に格納した音楽ファイルは、基本的にパソコンにはコピーできない。Apple 社は、当然 DRM技術にも気を配った。「iTMS」は、たちどころにマスコミに熱狂を引き起こした。消費 者の反応も強烈だった。「iTMS」は、最初の 1 週間で 100 万曲以上を売り上げる。レコード業 界も驚きを隠せなかった。レコード業界は、CDの売り上げの漸減に頭を痛め、ファイル交 換ソフトウェアの脅威に神経を尖らせていた。彗星のごとく現れた Apple 社の成功は干天 の慈雨だった。Widows 版の iTunes Music Store の登場を待ち望むのは、ユーザーや Apple 社だけでなくなった。 2003 年 10 月 16 日、Apple 社は Widows パソコン向けの「iTMS」を開店する。売り上げの勢 いはさらに増した。Widows 版が登場する前は、Apple 社が 1,000 万曲を販売するのに 4 カ月 余りを要した。Widows 版が現れると、わずか 3 カ月で 1,500 万曲が上乗せされた。サービ ス開始から 1 年後の 2004 年 4 月 28 日。Apple 社はトータルで 7,000 万曲を販売した。Apple にとって「iTMS」は、あくまでも iPod の売り上げを伸ばすための仕組みである。Macintosh 向けの「iTMS」がオープンした直後の 1 週間で、Apple 社は 11 万台もの iPod を受注したとい う。Widows 版の登場後に、iPod の出荷台数が爆発的に伸びた。 4.2.3 iPod の進化と「iPod mini」 もちろん iPod のヒットに貢献したのは、「iTMS」の成功ばかりでない。Apple 社は iPod 自 体にも大幅な変更を加えた。第 3 世代の iPod で、Apple 社はさらなる薄さと軽さを追求し た。Apple 社の表現を借りれば、「2 枚のCDよりも薄く、軽い」。第 3 世代機の厚さは 15.7 mm。第 2 世代機よりも 2.7mm薄く、初代機と比べれば 4.3mmも減った。薄型化を達成 するために、機械式のボタンを一切排除し、初代機のスクロール・ホイールや押しボタンの 代わりに、全面的にタッチ・センサを導入した。このほか、USB 2.0 に対応し、Widows パ ソコンが標準的に備えるインタフェースで接続できるようになった。 2002 年末ごろ携帯型音楽プレーヤの市場は急激に拡大、先進ユーザーは、2 台目、3 台目の 購入を検討する段階にあった。当時の iPod のシェアはおよそ 30%。ところが、ほぼ同じシ ェアを占めるフラッシュ・メモリ・ベースのプレーヤが 30%もあった。そもそも初代の iPod の誕生を促したのは、フラッシュEEPROMを使う音楽プレーヤに対するユーザーの不 満を解消することだった。こうした弱点を備えた携帯型音楽プレーヤが、iPod が登場した 後も売れ続ける理由は、大きさ、重さ、値段である。特に、運動中やアウトドアで音楽を聴く ユーザーにとって、iPod のようなハード・ディスク装置(HDD)を使った携帯型音楽プレ ーヤは大きく、重すぎた。 Apple 社の構想の急所を握る技術は、1 型HDDだった。既存の iPod が内蔵する 1.8 型と 比べて、実装面積がおよそ 1/3 になる。半導体を用いた音楽プレーヤ並みに iPod を小型化 するには、なくてはならない部品だ。1 型HDDの利用を思い立った音楽プレーヤ・メーカ 72 ーは、Apple 社が初めてではない。ただし、これらの製品が用いた 1 型HDDは容量がせい ぜい 1.5Gバイト止まりで、400 曲弱しか保存できない。Apple 社は 1,000 曲あれば、どの曲 が入っているかを気にしたり、いちいち曲を入れ替えたりしなくて済むと考えた。 2003 年1月、新たなHDDメーカーが発足した。日立製作所が米IBM Corp.のH DD事業を買収して設立した米 Hitachi Global Storage Technologies、inc.(HGST社) だ。同社の設立会見の目玉が、4Gバイトの1型HDDだった。128kビット/秒で符号化し た楽曲を、ちょうど 1,000 曲保存できる容量だ。量産時期は 2003 年秋。Apple 社が想定す る iPod mini の出荷に間に合う。 iPod mini がHGST社のHDDを使っていることは、公然の秘密である。世界中のどこ を探しても、4Gバイト品を製造しているのは同社しかない。1型HDDの採用で、小型化へ の青写真は描けた。新しいユーザーを振り向かせるには、もう一工夫必要で、解消策は iTunes の新アルゴリズムだった。膨大な楽曲からユーザーのお気に入りの曲を、iPod の容 量に合わせて自動的に選び出す。曲を聴いた回数、ユーザーの採点の高さ、オンラインで購 入したかどうかなど、複数の要素を加味して好みの曲を抽出するものだ。 このほか Apple 社は、画面表示にも配慮した。既存の iPod で 2 型だった液晶パネルは、iPod mini で 1.67 型に縮小した。それでも同じだけの情報を提示できるよう、小降りのフォントを使っている。 2004 年 2 月 20 日。iPod mini が店頭に並んだ日、Apple Store を取り巻く長蛇の列がで きた。殺到した顧客の前で、在庫は瞬く間に消えた。あまりの引きの強さに、Apple 社は他 国での出荷を延期せざるを得なかった。4 月の予定が 7 月までずれ込んだ。HDDを供給 するHGST社は、急遽 2 億米ドルを投じてタイの製造拠点を拡張すると発表した。 Apple Store からの報告によれば、iPod mini の購入者には、女性や子供が多いという。 2004 年の iPod の総出荷台数は、6 月までで 160 万台を突破。調査会社の米NPD Grou pによると、2004 年 1 月から 5 月までの携帯型音楽プレーヤの売り上げベスト 4 を、iPod が独占したという。 この勢いに待ったを掛けようと、「ウォークマン」を生んだソニーも、 ようやく重い腰を上げる。2004 年 5 月に米国で「Connect」サービスを立ち上げ、オンライン での音楽販売を開始。7 月にはウォークマン発売 25 周年を記念して、初の「HDDウォーク マン」を発売した。強力なライバルの登場にも、Apple 社は動じない。7 月 19 日に、薄さと電 池寿命を改善した第 4 世代機を発表して対抗する。 4.2.4 消費者期待を越えるものづくり Apple社の iPod の例に見るように、ヒット商品の背景にあるのが、特定市場におけ る、圧倒的なものづくり優位である。他社には真似のできない製造技術、品種の幅、次々とイ ノベーションを連続するスピードが他社の追随を許さないリード力の源泉になっている。 こうした「ものづくり」が優位を持つのは、イノベーションを通じて生み出された製品が、他 社には真似できない製造技術という要素資源を占有し、差別化され、市場の独占・寡占状態 を作り出しているからだ。このことによって、市場支配力を生み出し、価格をコントロール し、超過利潤を上げることができる。ものづくりリード力を組織的に作り出し、持続させる、 固有の戦略がベースになっている。以下に、iPod がヒットするポイントとなる商品開発プ ロセスを述べる。 1.他社にはない能力を蓄積した人による摺り合わせやチームワークをベースに、多様で 73 高度な技術を組み合わせ、真似のできないイノベーションを生み出したこと。 2.パソコンに特長的な部品の標準化やモジュール型のものづくりではなく、飽くなき製 品イノベーションによって新製品開発に成功し、それを連続していること。 3.付加価値の高い製品領域に資源を集中し、同質製品による価格低下競争から脱却し、 より付加価値の高い垂直的な品質競争へと転換していること。 4.知的財産の保護により基幹技術をブラックボックス化し、技術優位を延命させること によって優位を維持していること。 などである。 このように新製品開発成功の要因を戦略面から整理すると、「ものづくりを通じて競争優 位を構築する」ことにあると言える。ものづくりの鍵は「真似のできない製造技術をベース に、飽くなきものづくりへのこだわりによって、市場を独占・寡占すること」にある。 iPod mini 等の大ヒット商品に共通する成功要因は、消費者の期待を越える製品と品質水 準を提供したことにある。消費者の期待を越える製品と品質水準を生み出したのは、異常な ほどの「ものづくり」に対する組織的なこだわりである。「人とチームワーク」の強み、さら に得意技である「実装技術」の強みによって、伝統的に抱く「もの」へのある種の崇高性を体 現し、差別的な品質水準をベストタイミングで市場導入したことである。単なるシーズ発想 の「物づくり」ではなく、消費者視点の「ものづくり」が成功の背景になっているといえる。 参考文献 (1)日経エレクトロニクス iPod の開発「林檎の樹の根回し」 (2)JMR生活総合研究所ホームページ http://www.jmrlsi.co.jp/ 74 5.日本の航空機産業のビジネス目標 5.1 航空機産業の特性と事業戦略 5.1.1 航空機産業の特性 一般に航空機産業の特長としては以下の点をあげることが出来る。 ・構成要素が多い ・技術産業の裾野が広い ・要求仕様(特に安全性、信頼性)が厳しい ・先進的ビジネスモデルを生み出す産業特性 ・デュアルコース産業と国家戦略 ・付加価値が高いと言われている産業 ・グローバルな体制 (1)構成要素が多い 航空機産業のようなインテグレーション産業では、材料、部位、部品、機器、サブシス テム、システム等、様々な構成要素が必要となり、航空機の構成要素数は数10万点にの ぼる(自動車と比べて1桁大きい)。 そして、多くの構成要素を結びつけるインターフェイスをはじめ、ハードウェア、ソフ トウェアの双方で高度なインテグレーション能力が求められる。 結果、航空機産業は、多くの異なる技術を結びつけ、全体として要求仕様に合致した機 能を実現化させるための高いシステム化能力を有する産業と見ることができる。 (2)技術・産業の裾野が広い 構成要素が多いことから、そこに適用される技術も、素材・材料から中間材、各種部品、 機器、サブシステム、システムと、新素材、エレクトロニクス、オプトロニクス、通信、 制御等の先進技術に加え、航空機を開発・生産・運用するために必要となる設計(CATIA、 CFD 等)、テスト・評価技術(アイアンバード、風洞等)、工作機械、製造・加工技術、品 質管理、メンテナンス等の MRO(Maintenance, Repair, Overhaul)技術、操縦訓練技術な ど多岐に渡る。 (3)厳しい要求仕様 航空機は他の交通システムと異なり、トラブルや故障が発生した場合も停止することは できないため、絶対的な安全性と高い信頼性が求められる。 こうした特性から、損傷許容設計やフュールセーフ、ヒューマンファクター、事故デー タベース等の安全に関わる取り組みで先進的な研究や技術の実用化がなされてきた。 (4)先進的ビジネスモデルを生み出す産業特性 航空機産業はハイリスク、ハイコストの産業であり、かつ民間航空機では市場環境が大 きく変化し、他の産業と比べてより厳しい事業環境にある。このことは、製造業として新 しいビジネスモデルを生み出すこととなった。例えば、1978年に米国が導入した航空 機規制緩和以降、新興航空会社の台頭、合併などによる航空輸送業界再編が進んだ。そし て、新規航空会社の拡大は、MROや機材調達、さらには運用のアウトソーシングの市場 を拡大させている。例えば、ボーイングはGAINでグローバル・サプライチェーン・サ 75 ービスを構築、この他リース・ファイナンス、航空会社の運航コンサルティング事業等が 拡大し、川下産業を中心に新たなビジネスモデルが構築されている。 (5)デュアルユースと国家戦略 航空機産業が他産業と大きく異なる点は、軍民双方を対象とするデュアルユース・テク ノロジー産業であることである。このため諸外国は、航空機産業に注力する理由として、 国家安全保障を極めて重要な理由としてあげている。 この国家安全保障は単に軍事的側面だけを意味するものでは無い。1990年代に冷戦 が終結した後は、各国が自国の先進技術や重要産業を国家的視点から後押しする傾向が強 くなっており、これもまた国家安全保障の1つと見ることが出来る。 例えば、欧米では民間航空機のトップセールスに大統領や首相クラスが関わり、米国国 防総省下のDARPA(先進技術研究プログラム局)等が民間に近い研究開発に取り組ん でいる。また、WTOのパネルで航空機産業をめぐり各国が火花を散らすこともある。 (6)付加価値が高いと言われている 一般に航空機産業は付加価値の高い産業と言われている。しかしながら、同じアセンブ リー産業である自動車産業と比較した場合、この「付加価値が高い」という指摘は必ずし もあてはまらない。 表5.1-1に1990年、1995年、2000年における航空機産業及び自動車産 業の従業員一人当たりの生産額を示す。航空機産業の一人当たり生産額は近年増加する傾 向にあるが、自動車産業は平均して5,100万円~5,500万円/人と航空機産業よ り高い値を示している。 表 5.1-1 航空機産業及び自動車産業の従業員一人当たりの生産額(単位:万円) 従業員一人当たりの生産額 航空機 自動車 1990年 2,800 5,400 1995年 3,000 5,100 2000年 4,000 5,500 出所)(社)日本航空宇宙工業会、経済産業省工業統計表 一方、利益で見た場合、1990年代後半でわが国の航空機産業一人当たりの営業利益 は280万円~340万円(メーカによって差がある)となっている。この当時、トヨタ 自動車の一人当たりの純利益が約266万円/人、2003年度の純利益は一人当たり約 890万円/人となっている。営業利益と純利益の違いを考えれば、一人当たりでみた場 合、自動車メーカのほうが収益が高いことが分かる。 (7)グローバルな体制 技術・産業の双方で幅広い裾野を持ち、かつグローバルな市場での生き残りをかけ、国 家安全保障とも深く係わる航空機産業は、現状、全てを1社あるいは1国で行うことが不 可能となっている。このため、インテグレーションを担当するメーカ(プライム)ととも に、Tier1.2.3・・・・といったパートナー(RSP:Risk Sharing Partner 等)、 サプライヤ等から産業が構成されている。結果、航空機産業はパートナー、サプライヤ等 76 のマネジメントで高度なマネジメントを実現化している。 5.1.2 航空機産業の事業戦略 (1)ビジネスプロセスから見た重要領域 ここで顧客ニーズ把握から基本設計、詳細設計、開発;量産、販売、プロダクト・サポ ートまでの流れをビジネスプロセスと呼ぶことにする(図5.1-1参照)。製造業等の「も のづくり」においては、このビジネスプロセスで極めて重要なことがある。それは開発す る側と顧客の間に「断絶」を生じないことである。このためには、ビジネスプロセスで必 ず押さえなければならない領域があり、ボーイング、エアバス、エンブラエル、ボンバル ディア等のインテグレータはいずれもこれらの重要領域を確実に押さえている。 ここで重要となる領域とは下記である。 ○顧客との接点(販売、プロサポ、ワーキングトゥゲザー等) ○基本設計力(FAA、EASA等の認証取得、評価、認証に係わる技術) ○サプライヤ・マネジメント(Tier1等を活用して効果的にイニシアティブを確保 する。また、製造・生産だけでなく、販売、プロサポでのアウトソーシング、提携等 を含む) ○資金調達力(官民の資金調達、顧客へのファイナンス提携等) ○重要となる新技術の研究開発(特に基礎的なデータの蓄積が重要) インテグレーションによる「ものづくり」の掌握 研究・ 技術開発 従来の日本企業の強み リスク評価 基礎研究 研究開発 生産技術 (工作機械等) 設計基準作成 評価・ テスト技術 フィードバック 顧客ニーズ 把握 マーケティング /リスク評価 コンセプト作成 :「勝ち組」が強い領域 設計 (基本設計) 設計 (計画設計) 販売・サービス 設計 (詳細設計) 販売、リース等 生産 プロダクト サポート 評価・テスト・ 認証 中古・ リサイクル :従来の日本企業が強い領域 インテグレーションの「強み」を実現化させる顧客との密接な関係 図 5.1-1 「ものづくり」のビジネスプロセス 出所)MRI とりわけ重要となると考えられるのは顧客との接点である。ビジネスプロセスが顧客と 断絶すると、パートナー、サプライヤ等に対して高いイニシアティブを保持することが難 しくなる。そして、顧客との断絶を防ぐためには、航空機産業そのものをきちんと捉える 必要がある。 (2)「作る」 と「使う」の双方を包含した航空機産業の捉え方 現在、世界の航空機市場は航空機、エンジン等の装備品、MRO 等を含めて年間で20兆 円強と推測され、その市場規模は自動車の1/3程度である。しかし、航空機産業を捉え 77 る場合、航空機の製造や MRO のみを対象とすると顧客との間に断絶が生じることになる。 航空機産業は、民間航空機輸送事業者(航空会社や航空機使用事業者等)や官公庁等の運 用者の市場も含めて考える必要がある。例えば日本には、現在、主要運航会社だけで40 0機を超える民間航空機が飛んでおり、東京-札幌、東京-福岡という世界で第1位、第 2位の需要の路線を有する大きな市場がある。 ところが我が国の航空機産業は、世界的に重要な市場である航空会社等を中心とした航 空機運航事業と有機的に結びついていない。つまり、 「作り手(作る)」と「買い手(使う)」 の間に「断絶」があるのだ。そしてこの「作り手」と「買い手」の間に生じた「断絶」が、 国内航空機産業の現在の産業としてのあり方を決定し、また世界市場におけるポジション、 そして、国際競争力等を決めるのに大きく影響している。 航空機産業に限らず、一般に製造業、つまり「ものづくり」産業は、先にも述べたよう に一貫したビジネスプロセスから構成されている。コンセプトを構築、基本設計を行い、 試作開発し、それを量産にのせ販売、アフターサービスを展開していくというこのビジネ スプロセスで日本が「ものづくり」で強いとされてきたのは、特に生産・量産に係わる領 域である。優れた性能の製品を安く、納期を厳守して納める能力に優れているのだ。この ことは「ものづくり」産業が強いための必要条件ではあるが、これだけではイニシアティ ブはとれない。 例えば、生産・量産の領域は常にコスト削減を迫られ、付加価値が小さい領域である。 実は、必要十分条件を満たすためにはもう1つ重要な視点がある。それは開発し生産・量 産している「もの」を誰が決定しているかである。「何を作れば良いかを自らが決定する」 ことが出来なければ、それは下請けになってしまう。国内の航空機産業が世界的に見ても 高い技術力を有していながら、欧米等の下請け的な位置付け(近年はリスクもシェアする リスクシェアリング・パートナーとなるケースも増えてきている)にある最大の理由はこ こにあると考えられる。 さらに究極の安全性・信頼性が求められる航空機産業では(何故なら航空機はトラブル が発生しても他の交通システムのように止まることはできない)、「できあがったものがそ れで本当にいいのか」を確認するための高い認証能力が求められる。現状、この認証の基 本は米国の FAA(連邦航空局)のものが世界標準となっており、合わせて欧州の EASA(欧 州航空安全庁:European Aviation Safety Agency)のものも世界標準となりつつある。 「で きあがったものがそれでいいのか」を認証することは、実は航空産業では「何を使えば良 いか」と合わせて極めて重要なプロセスとなる。そして、この2つのプロセスの間に挟ま れているのが、日本が強いとされる生産・量産といった「ものづくり」のプロセスである。 即ち、生産・量産という「ものづくり」の基本プロセス(顧客ニーズ把握、コンセプト構 築、基本設計)と、 「できたものがそれで良いのか」を決定するプロセス(認証)をおさえ られると、付加価値やイニシアティブはこの2つのプロセスをおさえた側が握ることにな る。そして、この構造は、現在の日本の航空機産業がおかれた状況に近い。 実はこのような構造となった最大の要因はビジネスプロセスをおいて「顧客」側と直接 接している販売、アフターサービスと、開発側の「顧客ニーズ把握、基本設計」等との間 に「断絶」があるためである。即ち、 「作り手(作る)」と「買い手(使う)」の「断絶」が 航空機産業の重要な課題となっていると考えられる。 78 国内の航空機産業が有するこの「断絶」を解決するためには、サプライヤとしてではな く、インテグレータとして全てのビジネスプロセスに係わることが不可欠であり、そのた めには「完成機」のプログラムが必要となる。 (3)ビジネスプロセスの重要領域から見た場合の我が国航空機産業の課題 従来から日本の航空機産業が実現化を目指してきた完成機プログラムの実現、商業化に あたっては、マーケティングから基本設計、認証、生産、販売、アフターマーケットの全 てで日本がイニシアティブをとる必要が指摘されていたが、我が国の航空機産業にはマー ケティング、認証、アフターサービスといった弱い領域がある。さらに、仮に「完成機」 プログラムを進める場合、現状、世界的にはそれほど強くない航空機製造は日本としての なんらかの「強さ」(欧米等に対する差別化、付加価値)をそこに付加する必要があろう。 具体的には日本の技術、産業の「強み」を生かした戦略が考えられるが、具体的な対応 策については、今後の課題として位置付けられることになる。 5.2 日本が目指すべき姿 5.2.1 目指すべき姿 航空機産業が高度で付加価値の高い技術が必要とされる加工・組立産業の最上位にあり、 広範な関連産業と他産業への技術波及効果を有すること、また航空機が重要な防衛装備で あることを考えれば、日本においても航空機産業を基幹産業のひとつにすることが期待さ れている。しかし、日本の航空機産業規模は売上げ規模で約100億ドル(1兆円)、GD P比0.2%程度と基幹産業には至っていないのが現状である。 戦後、国産民間機として YS11 を開発し民間航空機市場への参入を目指したものの、こ れに続く国産民間機の開発を果たせず、日本の航空機産業は国際共同開発おける製造分担 の拡大により産業規模を拡大してきた。このため、国際共同開発における製造分担拡大が 日本における航空機産業の発展の基本的な考え方となっている。しかし、近年の中国等東 アジア諸国の航空機製造技術力の向上を背景に、欧米の機体メーカによる中国等への外注 や技術指導もなされているなかで、将来にわたって日本が国際共同開発における製造分担 によって産業規模を維持・発展させるには限界があるのではないか。少なくとも、日本の 基幹産業のひとつとなるだけの発展は期待できないであろう。さらに言えば、中国が国産 リージョナルジェットを開発して民間航空機市場へも参入を図ろうとしており、韓国も日 本では法的にできない軍用機や無人機の輸出拡大により、10 年後に日本と同等レベルの産 業規模になることを目指しているなかで、このままでは日本の航空機産業のアジア域にお ける相対的な競争力も低下する可能性も否めない。航空エンジン分野においては日本は他 のアジア諸国と比べて技術力で大きな優位を有し、当面アジア域での相対的な競争力を持 ち得ることが可能とは言え、欧米エンジンメーカの絶対的優位のなかで製造分担の拡大に よる産業規模の拡大には限界があるという点については航空機分野と同じ状況である。 こうした危惧から、日本の航空機産業は 80 年代以降ある意味で成功してきた米国メー カ主導の国際共同開発における製造分担による維持・拡大といった基本的な方針の質的な 転換、すなわち、「日本が主導する国際共同開発(日本ブランドの獲得)」による日本航空 機産業の発展を目指すという方向に転換していかなければならないであろう。 79 しかし、ここ 20 年以上にわたって国際共同開発における製造分担が中心であった日本 においては、民間航空機のライフサイクルにおいて欠けているマーケティング、アフター サービス、巨額な開発資金と長期の投資回収期間といった航空機産業固有の事業リスクへ の対応、技術的には完成機としてまとめる(民間機としての)システム統合技術能力や型 式証明等の認証を得るためのノウハウ、さらには認証体制など、航空機産業にとどまらず 日本政府や公的研究機関が一体となって解決しなければならない課題は非常に多い。特に 実績が重要な民間航空機市場において、これらの課題全てを一朝一夕に解決できるもので はない。ここに示した「日本が主導する国際共同開発(日本ブランドの獲得)」には、10 年、20 年或いは 30 年といった長期的な戦略が必要である。 5.2.2 航空機 航空機産業界において大型機市場は、Boeing、Airbus に、小型機市場はボンバルデイ ア、エンブラエルに占有されていると言える。日本が航空機産業として世界に進出する為 には、マーケッテイング、プロダクト・サポートに対して経験と実績を積まなければなら ない。しかしながら、航空機に於いては国産機を持たない以上限界がある。 大型機市場に参入するにはリスクが大きく、当面は難しいが、リジョナル・ジェットなど の小型機市場から参入するべきであろう。 これまで日本の航空機産業は、ボンバルデイア、エンブラエルの開発している航空機に対 し RSP として、多くの部位に対して技術を提供してきた。これらの技術は日本独自のもの として開発されており、航空機を開発する日本の航空機産業の技術的なレベルは充分彼等 の技術レベルを上回ることが出来ると思われる。 日本はこれまで、航空機の設計開発・製造に於いて実績を積み、国産航空機開発の機会 を待ってきた。航空機開発の技術的基盤が整った段階で国産航空機開発に着手すべく検討 を重ねてきているのである。 しかしながら、日本が独自で航空機を開発し、自ら技術を提供してきたボンバルデイア、 エンブラエルの航空機メーカーを相手に競争することは自らの首を絞めるに他ならず、む しろ、彼等の保有するマーケッテイング、プロダクト・サポート体制に勝つことが出来ず 市場競争では必ずしも優位には立てないと考えられるのである。 だからといって、このままボンバルデイア、エンブラエルの下請けを継続することはせず、 将来の国産航空機開発に向かって新しい戦略を立てることが必要である。 日本の航空機産業が経験してこなかった、マーケッテイング、プロダクト・サポートを ボンバルデイア又はエンブラエルに任せる国際共同開発契約形態をとり、日本の航空機と して開発する方法、又は、ボンバルデイア又はエンブラエルを吸収合併することにより、 彼らの保有するノウハウをベースに日本製の航空機で徐々に市場開拓していく戦略も選択 肢として考えられるのである。 日本がこれらの航空機の主要技術を保有していれば、彼らの技術をテイク・オーバーし て日本のプロダクトとして売る出すことは決して不可能ではない。 80 5.2.3 航空エンジン 航空エンジンも欧米の航空機エンジン・メーカーと国際共同開発、RSP などに参画し技 術の蓄積を行ってきている。しかしながら航空エンジンは航空機と異なり、欧米のエンジ ン・メーカーの材料データベース、設計基準に依存している部分が大きく、独自の技術の 蓄積がない為、日本独自でエンジンを開発する場合はこれらのデータベースの蓄積から行 う必要があり、FAA の Type Certificate をタイムリーに取得し、欧米のエンジン・メーカ ーと競合するには経験不足で市場を獲得できないと考える。 エアラインは過去の使用実績を重んじると共に、将来にわたって確実なプロダクト・サ ポート体制を要求する為、使用実績、データベースを持たない日本は世界市場で競争する には従来と異なった戦略的なアプローチが必要である。 使用実績を積むための戦略には次のような方法が考えられる。 (1)国際共同開発、RSPでの参画の仕方 国際共同開発、RSPなどでは、従来の欧米エンジン・メーカーの設計基準に基づく のではなく、独自の技術力を駆使した設計で参画できるように、契約を変えていく必 要がある。 しかしながら、FAA の Type Certificate を取得する為には使用実績のある欧米の設計 基準、材料スペック/データベースに従う方が簡単であり、日本の独自の技術は中々 採用されることはない。 そのためには欧米のエンジン・メーカーの保有している技術よりも画期的に優れた技 術を開発し、多少の手間をかけてもエンジン全体の性能を向上させる価値を認めさせ ることが必要である。独自の技術で参入することを彼らに認めさせることが出来れば 日本の設計基準、材料スペック/データベースなどを採用し、使用実績を蓄積するこ とが可能になる。更に当該部位のプロダクト・サポートは自らの手で、直接エアライ ンと情報交換することが必要であり、この点についても契約内容の更新が必要である。 (2)アフターマーケット・ビジネスへの参画 国際共同開発、RSPでは HP Turbineの設計/製造に食い込むことは難し いと考えられる。一方米国に於けるPMA部品の設計開発や、DER Approved Repair などを開発している企業は最も利益率の高いHP Turbineの領域に参入しそ の技術力で市場を開拓している。これらはエアラインにとって部品コスト削減に大き く貢献する一方、OEMのサポートが得られなくなるリスクがあるため、技術を持っ たエアラインしか採用しないと言う問題を抱えている。 日本の航空エンジン産業が、充分な技術サポートを行いながら、これらのアフターマ ーケットを支えるようになれば、エアラインにとって信頼できる代替部品、修理方法 となり、日本はマーケッテイング、プロダクト・サポートの経験を蓄積できるように なるだけでなく、将来の顧客となるエアラインとの信頼関係を築くことに繋がるので ある。 この様にして独自の技術で得た使用実績を充分モニターし、データベース化していくこ とで、競争力のあるデザインを確立し、アフターマーケット・ビジネスへの参入と共に、 エアラインのニーズを把握できるようになれば、徐々にマーケットの動向を自ら見極める ことが出来るようになり、新しい技術の開発や、設計基準も改善されてくるであろう。 81 世界市場からも、日本の技術力、プロダクト・サポート体制に定評が出てくれば、エンジ ンに関しても、競争力が出てくると考えられる。 5.2.4 システム、装備品 既に日本でも欧米の航空機用装備品として定着している会社もあるが、全体からすれば 未だ未だ少ない。航空機産業が活性化すればこれらの産業も現れてくると思われる。それ までの間は、欧米にある会社のものを採用していく事になるであろう。但し、これらのベ ンダーとのネットワークや、エアラインからのクレームなどに日本が窓口となって一元管 理することが重要であり、今から、システムのあり方を研究し、全体のコンセプトを確立 しておく必要がある。 また、過去にないような新しいシステム開発、装備品の開発などを生み出す為に、航空機/ エンジンに対しての Advanced Technology の研究開発を行っていく必要があり、これらの ニーズは現状の航空機の課題から抽出していくように現状分析から始めていく必要がある。 5.2.5 航空機業界の連携と一元化 (1)エアラインと、航空機産業界、国研、大学との交流を密にする必要がある。 日本のエアラインで経験した不具合はもっと日本国内で原因探求が行われるように仕 組みを作る必要がある。現在は全て欧米のメーカーに送り返して原因究明がなされてい る。不具合の内容を分析することにより新しい技術にニーズが生まれ、進歩がある。こ れらの重要な情報は現状では全て、欧米のメーカーに流れていく。日本が設計開発した 部位でさえ日本のメーカーには直接エアラインから情報が流れない仕組みになってい るのである。 これでは日本の技術力は向上しない。 このためには、エアラインにおける不具合情報をタイムリーに収集する為の情報網の確 立と、不具合に対するサポート体制が必要である。 このような連携体制をとるためには、設計開発の経験のある人材を有効に活用するとと もに、人材交流が図れるようにすることも必要である。 最近はボーイング社より技術者が研修のためにエアラインの技術部門に派遣され担当 として勤めている。エアラインからもメーカーに研修に行っている。 国内に於いてもメーカー、研究所、大学、エアラインが自由に相互研修できるような制 度が必要であろう。 (2)日本が世界市場に対して競争する為には日本の技術力を結集する必要がある。現状 では重工各社は自らの技術を他社には見せないようにしている為、新しい技術に関して 国内三社で対立することになり、せっかくの技術が相乗的に生かされず、無駄も多い。 航空産業界を如何に一元化するかは大きな課題である。しかも日本の場合は航空部門を 持つ総合的な重工産業であり三社の航空部門をまとめて一つにすることは難しい。 エアバスのようなコンソーシアムの形であれ、全ての技術、データベースを結集し、経 済産業省、文部科学省、国土交通省、防衛庁に対して将来戦略立案や、予算要求を行い、 各重工の航空機/エンジン部門をマネージメント出来る強力な組織体を作ることが必 要である。 82 5.3 ビジネス目標 日本の航空機産業が基幹産業のひとつとなっていくためには、現在、欧米の航空機/エ ンジン・メーカーとの国際共同開発、RSP、下請けなどの製造分担による産業規模の維 持・発展から「日本が主導する国際共同開発(日本ブランドの獲得)」による産業規模の発 展を目指すことを述べてきた。ここでは、この目指すべき姿からビジネス目標として展開 することを試みる。以下の検討はあくまで相対的かつ定性的なものである。したがって、 この相対的かつ定性的なビジネス目標に関する検討を踏まえて、 「 日本が主導する国際共同 開発(日本ブランドの獲得)」を目指すべき姿を達成するために日本がとるべきアクション を検討すること、その検討のプロセスにおいて改めてビジネス目標を明確することが今後 の課題となろう。 5.3.1 基幹産業としての視点から 航空機産業が国を代表する産業となっている米国、仏国、英国やカナダなどでは航空機 産業はGDP比1.5%前後の規模を有しているのに対して、日本の航空機産業は0.2 ~0.3%となっている。基幹産業としての視点からは、少なくともGDP比で1%を超 えることがビジネス目標の目安となろう。 ここで留意しなければならいないのは、カナダを除いた航空産業先進国ではその売上げ の半分以上が防衛・軍需関係で支えられていることである。韓国が10年後に日本と同等 の産業規模を目指すとしたビジョンのなかで、産業規模拡大の大半を軍需製品の輸出拡大 で実現しようとしていることからも、航空機産業規模の飛躍的な拡大には防衛・軍需面で の売上げ拡大が効果的ということを示している。しかしながら、防衛・軍需製品が国内需 要に限定される日本においては民需の拡大が必須となり、「日本主導による国際共同開発」 による従来の民間航空機市場への参入拡大だけでなく、新たな市場、すなわち、これまで 存在していない市場で飛躍的な拡大が見込まれる市場-個人ユースの航空機や超音速輸送 機など-を日本自らが開拓しなければならない。また、アフターマーケットについても「日 本主導による国際共同開発」が飛躍的な参入拡大、産業規模の発展に寄与すると考えられ るが、これには日本が不足している販売やプロダクトサポート部分の経験と実績を何らか の方法で積んでいくことが必要である。 5.3.2 産業健全性としての視点から エクセレントカンパニーとしての目安は利益率で5~7%と言われている。この利益率 が他律的でなく、 「日本主導による国際共同開発」によって自律的に達成していくことが産 業健全性としてのビジネス目標の目安となろう。すなわち、高付加価値が見込め、かつ、 新興工業国からの追い上げを受けにくい自主民間機或いは日本主導の国際共同開発による 民間機の継続的開発/生産(市場調査から製品企画・開発・製造・販売・プロダクトサポー トまでプロダクトライフサイクルを一貫して)を通じて、高利益率を確保していくことで ある。今後10年程度を考えれば、比較的リスクの小さな中小型機分野でこれを実現し、 航空機産業ライフサイクルを確立していくことが目標となる(この市場は現在、ボンバル ディアとエンブレアルの寡占市場となっており、この1/3を獲得することが目標となる)。 このためには、日本では経験が不足している市場調査や製品企画、認証プロセス、販売・ 83 プロダクトサポートの部分の強化が必須であり、その実績を有する中堅企業の買収や販 路・プロダクトサポートの活用など、多面的にビジネス戦略を検討していかなければなら ない。 5.3.3 貿易収支の視点から 国際共同開発、RSP或いはサブコントラクトに基づく欧米メーカ向けの航空機部品や エンジン部品が輸出の多くを占め、日本の航空機・エンジン製造産業はこれで利益を得て いる。しかしながら、日本国全体としてみると、日本の航空会社の欧米メーカの機材購入、 防衛関連調達、製造に必要な素材調達等により、航空機材の貿易収支は2000億円から 5000億円の輸入超過となっている。日本の航空関連産業全体で捉えた場合には、この 輸入超過の解消、すなわち貿易赤字の黒字転換がビジネス目標の目安になるのではないか。 航空機機材の貿易赤字の要因のひとつは日本の製造メーカが製造したものを日本の航空 会社が数倍のコストで再輸入しているという構図であり、これによる赤字は、日本が参加 したプロジェクトの航空機/エンジンが世界に売れ、日本の航空会社が購入している機数 による貿易赤字以上の利益が得られれば貿易収支は黒字転換できることになるが、それだ けの売り上げを得られるかどうかは、欧米の航空機/エンジン・メーカーに依存しており、 他律的である。 「日本主導の国際共同開発」により、自律的に赤字解消を目指さなければな らない。このなかには海外に依存する素材から国内生産の素材(例えば炭素繊維)の活用 や防衛関係の調達のあり方なども視野に入れる必要があろう。 5.4 求められる人材 航空機国際共同開発を行うにあたり、我が国に必要とされる人材(求められる人材)は どのようなものであるかについて本節では検討を行う。我が国が目指す航空機国際共同開 発の戦略とこの人材育成は密接に関係していると考えられ、必要とされる人材が不足して いる場合には、人材育成を行う必要がある。平成 12 年度から 15 年度にかけて本基金にお いて実施された「航空機等次世代国際共同開発基盤調査事業」においても、 「人材教育にお ける産学連携の必要性」について議論がなされたが、当時の調査では教育機関(大学等) における人材育成について議論が主として行われており、実際の航空機開発がなされる現 場、すなわちメーカー内での人材育成について検討がなされることはほとんどなかった。 そこで本調査では、航空機メーカーにおいて必要とされる人材ならびにメーカー内での人 材育成について初期的な検討を試みる。 5.4.1 航空機開発に必要な人材、不足している人材 本報告書では、我が国が将来目指すべき姿として日本主導の航空機国際共同開発を挙げ ている。この目標を達成するための要件について、航空機開発においてなされるべき過程 毎に議論がなされてきた。本節においても同じ分類法によって、人材育成について考察を 試みる。すなわち、ここで考える航空機開発の過程とは、 (1)商品企画(概念検討)、 (2) 設計(基本設計・詳細設計)、(3)開発および試験、(4)認証(認証体制を含む)、(5) 製造と量産、(6)営業(販売)、(7)プロダクトサポート、(8)研究開発、以上の8項 目である。 84 上記の 8 項目のうち、(2)設計(基本設計・詳細設計)、(3)開発および試験、(5) 製造と量産、以上の 3 項目については、過去の航空機国際共同開発(全機ではなく担当部 分の設計、開発、製造にとどまるが)を通じて、かなりの経験の蓄積と人材の育成が行わ れてきたと考えられる。また、 (8)研究開発についても旧国研の設備を活用して多くの技 術的蓄積があり、人材についても不足していない。すなわち以上 4 項目については、経験 の蓄積と人材が十分にあるといえる。また(7)プロダクトサポートについても全機のサ ポートではなく、部品提供側としてのサポート的側面からの経験の蓄積と人材の育成はあ ると考えられる。 そこで以下では、これら以外の項目、すなわち(1)商品企画(概念検討)、(4)認証 (認証体制を含む)、 (6)営業(販売)、以上の 3 項目について主として現状について概観 するとともに、考察を試みる。なお、本年度における人材育成に関する考察は、全般的な 面からの考察にとどめ、個々の項目に関する具体的な事例については、特に詳しく考える ことは行わない。 (1)商品企画(概念検討) この分野は、機体、エンジンともに民間分野おいて全機を開発することが近年少なく、 すなわち日本における経験がほとんど無いため、人材についても非常に不足していると考 えられる。その結果として企業内での設計・製造、営業、商品企画の三者の比率で考える と商品企画に従事する人材の割合は海外に比べて圧倒的に少ないと考えられる。 商品企画の人材を育てるために、現在とられている方策の一つとしては、例えば民間機 の技術者が防衛関係の部署において企画を経験することがある。これは防衛庁の機体・エ ンジン開発に関しては、日本国内でその作業がすべて閉じており、民間機部署の担当者が 経験することが困難な企画業務についても防衛庁機については経験を積むことが可能であ るからである。ただし防衛庁機と民間機の性格的違いによる差異については注意する必要 がある。また、RSP として海外メーカーの企画に参画することもあり得る。この場合は、 海外メーカーが直接顧客と接触するために、顧客との直接的な接点は無いとしても、企画 に参画することによって、海外メーカーの企画の情報が得られ、ある程度の経験を蓄積す ることはできる。 全機開発を行っていない国内企業の現状としては、上述のような方策をとって、商品企 画部門の人材を育成することを考えざるを得ない。ここで、前述の(1)から(8)まで の商品開発に関するすべて項目を自社内で完結しているデジタル家電メーカーを例にとっ て考えてみる。デジタル家電メーカー内での商品開発の過程については平成 16 年度の本委 員会の報告書に詳しいが、商品企画担当部署は、将来の自社製品の成功を根源的に左右す る部署である。ただし設計部門(これには、製品の一部の部品を設計する技術者も多く含 まれるが)が数百名に対して企画部門は十名程度である。少数の人間でしかもその分野に 特に強い関心をいだいている人材が企画を担当している。 (2)認証(認証体制を含む) 新規機体の国内開発が無く、FAA 等からの認証をうける必要がなかった現状では、認証 に必要な知識、経験またそのための体制が十分ではない。このため、FAA により認定され た DER に依頼して、事前に審査してもらう手段をとらざるを得ない。DER については前記 「航空機等次世代国際共同開発基盤調査事業」平成 14 年度報告書に詳しい。 85 なお、航空機メーカーにおいて経験を積んだ技術者を認証サイドの担当者として認証機 関が受け入れることは、適切な認証を行うために有用であると考えられる。このような民 間との人材交流の機会が増大することが望まれる。 (3)営業(販売) 開発された機体を販売するために、最適な手段は自社の販売網を用いることである。し かしながら、現状ではそのような販売網は存在しない。 過去に MU-300 が機体開発された際には、米国 Moony 社を買収して、その販売網を活用 して販売することが行われている。また現在開発が進められようとしている、環境適応型 小型航空機は、機体販売の際には、国内の商社に依頼して機体を販売することも検討され ている。このように営業に関しては、自社のものではなく既存の他社の販売網に頼らざる を得ないのが実情である。営業開始当初は、他社の営業力の援助を得たとしても、将来的 には営業担当者を自社の社員に徐々に置き換えていく努力が必要である。なお、自社で営 業担当者を育成する際に重要な点としては、国際的な顧客との折衝能力が挙げられる。 (4)Project Leader の資質 ここまでは、8 項目に関する人材育成について検討してきた。これらの人材を束ねて、 航空機開発を完遂するためには、Project Leader が必要である。Project Leader に必要な 素質としては、例えば戦略を練ることのできること、長期的な資金計画を立てられること が挙げられる。 この Project Leader を如何に社内で育てるかという面も考えねばならない。一般に、 特定の分野に精通している Specialist に対して、広い分野、すなわち営業、設計、などの 各分野を経験し、商品の成立性や事業規模を判断することのできる Generalist がいる 1) 。 この Generalist が Specialist よりも Project Leader に相応しい人材と考えられている。 このような Generalist を育てるためには、部署の異なるさまざまな職種を OJT(On the Job Training)として経験させる必要がある。実際に、設計部門の人材を整備部門に一定期間 送り込んで、経験を積ませることや設計部門とプロダクトサポート部門との間で定期的に 人材交流をさせている会社もある。なお Project Leader として才を発揮するためには、そ の個人が有している個性も強く影響すると考えられる。すなわち、比較的早い時期にある 人材が将来の Project Leader に相応しいと見抜くことのできる担当者も社内に必要である。 (5)その他 この他に必要な人材としては、顧客サポート担当者、品質保証担当者等がある。ただし、 これらの面に精通した人材を育成することから始めていては、機体販売に間に合わないこ とも考えられ、他社が有する既存のネットワークを活用することも検討に値する。 5.4.2 今後の調査検討課題 5.4.1節では、航空機国際共同開発に際して航空機メーカーにおいて必要とされる 人材ならびにメーカー内での人材育成について初期的な検討を行った。今後必要とされる 調査検討課題としては、 ・実際に企業内ではどのようなルートで人材育成を行っているかを明らかにすること ・前述の 8 種の過程に必要とされるマンパワーの比率を検討すること ・航空機開発に必要な組織について整理すること 86 ・人材育成に必要な行動計画とタイムチャートについて考察すること 等が考えられる。 図5.4―1には、航空機開発に必要な組織の一例として、1960-70 年代に開発中止と なった Boeing 社の SST 開発プロジェクトの組織図 2) を示しておく。 参考文献 1)伊藤源嗣、別府信宏:航空エンジンの取り組みと官民交流、防衛技術ジャーナル、2003 年 7 月、pp.10-16. 2) Sutter, J.F., 海外版 Veteran に聞く My Reflections, 日本航空宇宙学会誌 No.617, 2005 年 6 月、pp.167-174. 図5.4-1 Boeing 社 超音速航空機 87 開発組織図 6.Info – Plaza Meeting 及びタイ調査 (詳細については APPENDIX 海外調査報告書【韓国、タイ】参照。) 6.1 目的 航空機国際共同開発調査事業についてのアジア、オセアニア地域の関係国による会議 (Info-Plaza Meeting)が韓国(ソウル)のエアショーと同時期に開催されたのでこれら に参加し、その後、バンコックに移動してタイ航空業界の調査を行った。 6.2 調査団 平成17年度 ・ 古賀 航空機国際共同開発促進基金調査委員会 達蔵 同委員会委員長 情報通信研究機構 ・ 渡辺 紀徳 つくばJGNⅡリサーチセンター長 同委員会委員 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 ・ 村上 哲 同委員会委員 ワーキンググループ主査 宇宙航空研究開発機構 超音速機チーム ・ 山口 俊吉 航空プログラムグループ 実証機ユニット長 同委員会事務局員 航空機国際共同開発促進基金 6.3 助教授 国際部 部長 日程 2005年10月17日~10月27日 ・ 10月18日 ――― ソウル ・ 10月19日 ――― Info-Plaza Meeting (ソウル) ・ 10月21日~26日 6.4 ――― エアショウ 2005 視察 タイ航空業界調査 Info-Plaza Meeting(IPM)及びソウル エアショウ 2005 ソウル郊外の空軍基地(Seongnam City)で開催されたソウル エアショウ 2005 (10月18日~23日)に合わせて第4回 IPM が行われたのでエアショウを視察し、 IPM に出席した。 6.4.1 ソウル エアショウ 2005 初日(10 月 18 日)の午前中は韓国大統領が参列したオープニング セレモニーで関係者 以外立ち入り禁止であったため、午後、エアショウを視察した。 空軍関係中心のエアショウで韓国空軍、米国空軍及び航空関係企業が展示を行っており、 中心は最近、完成した韓国国産の最新鋭超音速練習機 T-50 GoldenEagle で屋内展示及 びデモフライトが行われた。 屋内展示は韓国の統合された航空宇宙会社(KAI)の展示(T50)を中心に世界中の航空 機メーカ(Boeing、Lockheed Martin、EADS、BAE Systems など)、エンジンメーカ(GE、 UTC、RR など)、補機メーカ(Goodrich、Hexcel など)、武器メーカなどが狭い展示会場 88 に肩を並べていた。日本企業の参加は無く、SJAC のみがブースを出していた。 Boeing の民間機担当のセールスディレクター(Brian R. Belka)の話ではアシアナ航空へ B787 の売込み中であるが時間がかかりそうとのことであった。 また、RR のマーケッティングマネージャー(Peter M. Cox)によると最近のエンジン受 注の好調さを反映して今後の RR の生産地図は大型エンジン 型エンジン ―― ドイツ(ベルリン)、小型エンジン ―― ―― 英国(ダービー)、中 米国と拡大し、V2500 エ ンジンの生産拠点はダービーからベルリンへ移るとの話であった。 6.4.2 10 月 19 日 第4回 Info-Plaza Meeting ソウルの JW Marriot Hotel において第 4 回 IPM が韓国 7 名、中国 1 名、 日本 4 名の参加を得て、開催された。会議では韓国から 2 件、中国から 1 件、日本から 4 件の発表があり、各国の航空機産業の現状及び将来計画が紹介された。エアショウとの関 係で議論の時間が少なかったが、食事を取りながらリラックスした雰囲気の中で意見交換 ができ、有益であった。 (出席者 添付図6.4.2-1参照) 韓国からは次の2件の発表があった。 * Present and Future in Korea Aerospace Industries ――― * Tae Shik Oh (KAI) The Korea UAV Roadmap ――― Jinsoo Cho (KSAS & Hanyang University) 韓国では 1999 年に航空企業 3 社(Samsung、Hyundai、Daewoo)が合併し、Korea Aerospace Industries(KAI)となったが、大韓航空(KAL)は単独で民間航空機事業(ボ ーイングのサプライヤー事業、航空機整備事業など)を進めている。 韓国航空宇宙業界の現在の規模は年間$1B であるが、10 年後には日本と同じ年間$10 B の規模を目指している。 また、司会の Jinsoo Cho 氏より韓国の UAV 開発への取り組み状況の説明があり、UAV を韓国航空機事業の大きな柱として熱心に進めている状況が理解できた。 中国からは AVICⅡの International Coorperetion & Trade 部門 Deputy Director の Xu(シ ュー)さんより AVICⅡの現状について次の発表があった。 * Current Overview of Aerospace Industry in China ――― Ms. Xu Bo IADF 委員会からは次の4件を発表した。 * Introduction of IADF Study Committee ――― 山口 * Overview Japanese Aerospace Industry ――― 山口 * Research Activities on Aeronautical Science & Technology at JAXA ――― * Activity of Aeronautical Departments in Japan 89 村上 ――― 渡辺 6.5 タイ航空業界調査 6.5.1 カセサート大学 Bangkhen キャンパス訪問 10 月 21 日(金),バンコク市の北部に位置するカセサート大学 Bangkhen キャンパスを 訪問し,会合に出席して情報交換を行った。このキャンパスは同大学の中心キャンパスで あり,工学部の中枢もここに設置されている。 まず、工学部長の Prof. Nontawat Junjareon に面会し,挨拶を交わした。学部長先生は IT 技 術が専門で,同大学が IT 分野でタイ国の最優秀大学に選定されたことを紹介された。 続いて会議室に移り,航空宇宙工学関係の先生方と情報交換会議を実施した。同国の航空 宇宙関連学科が集まり,CASE という大学間共同研究組織を作っており,今回の会合は CASE と IADF の会議として設定された。CASE とは,Consortium of Aerospace Engineering Thailand の略称である。メンバーはカセサート大学,キング・モンクット工科大学北バン コク校,チェンマイ大学,タイ王立空軍大学の4大学である。 この会議でカセサート大学およびキング・モンクット工科大学の航空宇宙工学科の現状と 今後の計画について説明を受け,IADF からは日本の航空宇宙関連研究所と大学の研究活 動,国際交流活動などを紹介した。またそれらの情報をもとに,両者の航空宇宙関連工学 の現状と将来,情報や人材の交流などについて様々な討論を行った。(出席者 添付図6. 5.1-1参照) なお,この会議には NIA(National Innovation Agency)という政府組織の 3 名も同席し,情報 交換を行った。この組織は大学や研究機関の研究内容から,産業につながる可能性のある ものを選定し,財政支援を行う仕事を担っており,広い範囲の科学技術に対して評価ある いはコンサルティングを実施している。 6.5.2 カセサート大学 Si Racha キャンパス訪問 10 月 25 日(火)に訪問した Si Racha キャンパスは地方キャンパスのひとつであり、 バンコックから東に約 100km のションブリ地方に位置し、東部海岸地区開発プロジェク トにおける人材不足を鑑みて 1989 年に設置された。 Si Racha キャンパスは、工学部、資源環境学部及びビジネス学部(Management Sciences) 学部の3つの学部で構成されており、計算科学、環境科学、産業工学、海洋構造学、海洋 工学などの工学・資源環境学関連のほか、ビジネス管理、マーケッテイングなどのビジネ ス関連の大学教育プログラムが実施されている。学生数は約 5000 人(工学部:約 1000 人、資源環境学部:約 400 人、ビジネス学部:約 3600 人)。敷地面積は 32 ヘクタール。 特に、海洋関連工学は Si Racha キャンパスの特色ある教育プログラムとなっているよう で、2002 年から6年間の予定で、国際海洋研究所が当キャンパスにオフィスを構えている。 航空宇宙工学関連の実験設備は、主として学生教育向けの設備となっており、小型の低速 風洞、ノズル性能試験装置、プロペラ性能試験装置や小型エンジン運転装置、構造強度試 験装置などがある。先端的な実験研究を行うための特別な実験装置はないが、小型回流式 低速風洞やノズル性能試験装置などは新しく導入したもので、大学の設備としては十分な 機能と性能を持っている。風洞の3分力天秤で6分力を計測できるように工夫するなど、 計測装置の改良などが取り組まれている。 90 また、航空宇宙工学科の教育プログラムの一環として、実際の飛行機を作る試みがなされ ており、来年の初飛行を目指して GFRP の水上機(飛行艇)が製作中(手作り)であった。 6.5.3 Chromalloy(タイ)訪問 10 月 26 日(水)午前、空港に近い Chromalloy(タイ)の工場を訪問し、社長以下、 主要メンバーの出迎えを受け、会議室においてクロマロイの説明と IADF 委員会の調査主 旨説明を相互に行った後、工場見学を行った。工場は大量のブレード修理を行っており、 社長はアメリカ人、技術責任者はオランダ人、製造責任者はタイ人であった。 (参加メンバ ー 添付図6.5.3-1参照) SEQUA 社航空宇宙部門の Chromalloy Gas Turbine Corporation(本社:米国テキサス州) の Chromalloy Aircraft Engine Servies 部門のタイ工場として設立。 Chromalloy 全体 の年間売上は約8億ドルで、従業員数は 5000 人。米国を中心に、全世 界に 40 の操業拠点をもつ。 GE 製品を中心とした航空エンジンや産業用ガスタービンのパーツ修理事業が主体で、一 部 PMA 部品も生産。PMA 部品の比率(売上ベース)は3%程度とのこと。最大顧客はエ ールフランス。 Chromalloy としての今後の事業戦略として、PMA 部品製造事業の拡大もあるが現在のコ アコピータンスである部品修理事業を着実に伸ばすことが最重要、特に部品修理から各エ アラインのエンジン整備全体を請け負う事業への発展も視野に入れているとのこと。 6.5.4 タイ王国空軍航空博物館(Royal Thai Air Force Museum) 調査メンバーは 10 月 25 日夕刻、宿泊先の Sofitel Central Plaza 内で Kasetsart University 関係者と夕食会を開き懇談の機会を持った。懇談の席で、Preecha, Vichit 両 元空軍少将からタイ王国の航空史におけるエピソードの数々と、彼らが自主開発プロジェ クト機 RTAF-3, -4, -5 の設計・開発に深く係わったことを聞いた。とくに Preecha 少将は、 RTAF -3 の開発に携わったとき、横浜の日本飛行機株式会社の風洞を借りて実験を行うた めに、風洞模型を搬送し自身も横浜に4ヶ月間滞在したと懐かしそうに話した。タイにお ける航空の歴史と伝統、及び航空機開発に対する情熱に敬意を表すると同時に、40 年ほど まえに日本で風洞実験が行われたという事実をはじめて知って大いに驚き、感激した。わ れわれの感激を察知してか、Preecha 少将がタイ王国空軍航空博物館へ招待したい旨提案 した。 10 月 26 日(水)午前からの Chromally (Thailand) Ltd.訪問と同社関係者との昼食会を終 了後、バンコク国際空港に隣接したタイ王国空軍基地内にある航空博物館を訪れた。ロビ ーには、Preecha 少将とタイ王国空軍制服の軍人5名ほどが待ち受けており、Preecha 少 将は自主開発試作機に関する古い資料のコピーをバインドしたファイルをわれわれ一人一 人に手渡した。また、Preecha 少将の友人 Kanin 氏に紹介された。Kanin 氏は、パイロッ ト・航空技術者で、かって空軍機の開発に携わったが、現在は Pattaya 近くの飛行クラブ の教官としてパイロット養成を行っているとのことであった。当日、午後10時15分発 の便に搭乗予定を前にして非常に短い時間の訪問であったが、きわめて有意義かつ友好的 な時間を過ごすことができた。 91 Sung-Woo Lee KAIA Tae-Shik Oh KAI Jinsoo Cho KSAS Soo-Do Kim KAIA Dong-Ho Lee Seoul Univ. Dae-Sung Lee KARI 92 Table Sungil Lee KAIA S Yamaguchi IADF Xu Bo AVIC Ⅱ T Koga NiCT A Murakami JAXA Screen 2005 Info-Plaza Meeting in Seoul Date: October 19, 2005 Time: 11:00 - 15:00 Venue: Boardroom, JW Marriot Hotel in Seoul 図 6.4.2-1 T Watanabe Univ. of T k Screen Preecha Wannabhum KU Quiechai Chirachon KU Siripong Atipan KU Jarurat Ousingsawat KMITNB Phacharaporn Bunyawanichakul KU Vichit Laipradit KU Ratthasirin WangKanond KU Pimporn KU Hanns-Juergen Lichtfuss NIA S Yamaguchi IADF Jittbodee Khunthongkeaw NIA 93 Anonymous NIA Akram Dallalah KU Table T Koga NiCT T Watanabe Univ. of Tokyo A Murakami JAXA CASE - IADF Meeting in Bangkok Date: October 20, 2005 Time: 10:00 - 15:00 Venue: Faculty of Engneering Meeting Room in Kasetsart University 図 6.5.1-1 Gerton van den Oetelaar CT Supachai Mernmuang CT Akram Dallalah KU Anurak Atthasit KU Phacharaporn Bunyawanichakul KU Yokpetch Yoopanon CT Table 94 Larry Waldron CT S Yamaguchi IADF T Koga NiCT A Murakami JAXA T Watanabe Univ. of Tokyo Screen Meeting at Chromally Thailand Date: October 26, 2005 Time: 10:00 - 14:00 Venue: Conference Room at Chromally Thailand 図6.5.3-1 7.まとめと今後の展望 以上、各章で21世紀型航空機国際共同開発振興に関る事業のライフサイクル高度化 の調査の一環として、日本の航空機産業の現状、国内外の航空機企業や航空機産業以外 の事例分析とビジネス戦略を調査し、日本の航空機産業のビジネス目標についての検討 を行った。 本章では最後にこれらの結果をまとめ、今後の展望と課題について考える。 7.1 調査活動のまとめ 7.1.1 今年度の検討課題 (1)日本の航空機産業の現状把握 日本の航空機産業における事業ライフサイクルの現状認識と課題を把握する観点から、 日本の航空機産業規模について売上げ及び輸出入額の観点から整理するとともに、航空 機産業の事業ライフサイクルを構成する事業部分について、機体、エンジン及び装備品 の各分野におけるこれまでの実績とこれに基づく日本の実力を分析した。 (2)国内外の航空機企業の事例分析とビジネス戦略 日本の航空機産業のビジネス戦略を今後検討する上で参考となる、国内外における航 空機企業の成功事例とそのビジネス戦略について調査した。具体的には、エアバス、ロ ールスロイス、エンブラエル、ボンバルディア及びジャムコの各社について公刊されて いる資料や聞き取りなどを通じて調査・分析を行うとともに、中国や韓国における状況 についても調査してその事業戦略を整理した。 (3)航空機産業以外でのビジネス戦略 (2)と同様に、日本の航空機産業のビジネス戦略検討の参考とするため、自動車及 びデジタル家電おけるビジネス戦略について事例調査とその分析を行った。 (4)日本の航空機産業のビジネス目標 日本の航空機産業の現状、国内外の航空機企業の事例やビジネス戦略、また航空機産 業以外でのビジネス戦略についての調査結果、また昨年度の事業ライフサイクル高度化 に関する検討などを踏まえて、航空機産業の特性と事業戦略上の重要な視点を整理する とともに日本の航空機産業の維持・発展のために目指すべき姿とその展開としてのビジ ネス目標と求められる人材について検討を行った。 (5)アジア各国との定期的連携・協力のあり方 日本の航空機産業の発展とアジアとの共生・共栄、ひいては欧米先進国との共生・共 栄のための国際的連携・交流のあり方についての調査の一環として、従来より活動して きたアジア諸国との情報交流としての Info-Plaza Meeting を開催するとともに、タイ国 の航空機関連企業や航空関係の大学等の現状の調査と情報交換を実施した。 7.1.2 調査活動のまとめ (1)日本の航空機産業の現状把握 日本の航空機産業は、売上げで約83億ドル(航空関係のみ)、GDP比で約0.2% で、輸出入では2000~5000億円の輸入超過となっている。内訳では国際共同開 発による輸出がここ10年程度で伸びる一方、防衛関係が減少したためこの5年程度で 95 は売上げ規模はほぼ横這い状態となっている。 日本の航空機産業の国際競争力では、機体関係、エンジン関係、装備品関係に分類し、 それぞれの分野で事業ライフサイクルを構成する各項目についてこれまでの実績等を調 査して分析した。機体関係及びエンジン関係については多少の違いはあるものの、製造 能力はプライム OEM として世界トップレベルの競争力を有する一方、商品企画力、営 業力、顧客サポートといった面ではプライム OEM として能力が特に不足しており、ま た認証の面においても設計に関する認証能力が不十分となっている。すなわち、日本が プライムOEMとして航空機或いはエンジンを市場に送り出すに足る能力は持っていな いというのが現状である。特に劣っているとされた上記の項目は、日本の民間航空機産 業が1980年代以降進めてきた、欧米ほかの航空機メーカやエンジンメーカが主導す る国際共同開発への参画では必要とされない能力であり、また育成することが困難な能 力であることが、現状の能力・国際競争力に反映されていると言えよう。 (2)国内外の航空機企業の事例分析とビジネス戦略 事例分析及びビジネス戦略の調査として、エアバス社、ロールスロイス社、エンブラエ ル社、ボンバルディア社については文献等の調査、また客室装備で国際的競争力を有す るジャムコ社については聞き取り調査により、各社の発展の要因を分析した。これらの ほか、中国及び韓国の航空機産業について Info-Plaza Meeting での情報交換などから、 状況を調査した。各企業の発展の要因を以下に整理する。中国及び韓国については各国 航空機産業発展のビジョンとして整理する。 今回調査した海外企業の成功要因に共通していることは、その設立当初或いは民営化以 前に政府からの財政的援助が行われ、現在の市場獲得の発端となった多くの機種の開発 がその援助があるときに行われていること、それによって売れていない状況におかれて いた時期においても開発・生産が継続されていること、市場要求の把握と適切な対応が なされていること、これらによって事業ライフサイクルの断絶のない事業として継続し て機体開発・エンジン開発を進め得たことが今日の成功に繋がっている。日本が YS11 で航空機市場への参入に挑戦したものの、これに続く国産民間機の開発を果たせず、完 結した事業ライフサイクルの事業を継続できなかったこととは対照的である。また、エ アバスとロールスロイスでは新規技術の導入が競争力に繋がっているとともに、失敗も 含めてその実績・経験がその後の事業戦略に活かされていることも重要な視点であろう。 航空機内装品の専門メーカとして確固たる地位を築いたジャムコにおいては専門メー カとしての事業ライフサイクルの断絶がないように、顧客ニーズの把握から開発・製造・ 販売までを一貫して自律的に展開されている。しかし、最も重要な点(成功要因)は航 空法改定により整備外注が制限されて航空機整備事業の縮小が余儀なくされた状況にお いて、当時の同社の生産能力を上回る受注に対して設備投資を行い内装品事業への転換 を図った経営判断であると考えられる。 中国と韓国の航空機産業については、欧米と同様に航空機メーカの集約が挙げられよ う(もっとも、中国においては未だに多くの航空機メーカが存在するが国の方針として はこれらを集約する方向で動いている)。それぞれの国の状況等に応じた国としての取り 組みが見て取れる。中国においては、国内航空機需要の拡大を背景として、海外メーカ との共同開発による速やかな技術導入と適時の市場への参入、これと独自開発による国 産機開発能力の拡大・強化の両面で民間航空機市場に参入していくことをねらっている。 96 韓国ではIT技術力を背景として、これを有効に活用する無人機開発に産学官連携で国 として取り組む一方、国産の軍用機やヘリコプタの輸出により産業規模拡大をねらって いる。何れも民間・軍用の違いはあるにせよ、事業ライフサイクルの断絶を起こすこと のない自律的な産業に発展させることをその戦略としていると言えよう。 以下に、今回調査した企業等についての成功要因を個別に整理して示す。 a.エアバス社 ・国家戦略としての位置付け(国家首脳レベルによる売り込み) ・政府による巨額の財政援助と国家レベルの長期計画 (20 年間で 135 億ドルの資金援助、金利負担も考慮すれば 190 億ドル以上との試算) ・新規技術による差別化(後発企業としての独自戦略) ・顧客ニーズの把握とユーザーへの広範な便宜(顧客への資金調達手法の提示等) b.ロールスロイス社 ・新技術の導入と徹底した試験(3軸構造・ワイドコードファンブレード) ・信頼性の向上への取り組み(トータルケアパッケージ、人事面での配慮、継続したエ ンジン開発) ・エアラインとの協調 c.エンブラエル社 ・民営化(国家シンボルとしての存在から民営企業への体質改善) ・経営幹部の刷新(市場要求に応える企業体質への変革) ・戦略的パートナーとの機体開発(国際共同開発による低コストとリスクシェア) ・アウトソーシングの活用拡大(エンブラエル社はサプライヤー管理に重点) ・資本構成の再編による資本強化(支配権を有さない海外企業グループの資本参加) ・良好な労使関係の構築(従業員へのインセンティブ付与:株主配当の 25%の提供) ・世界市場におけるプレゼンスの向上(年間3万人規模の訪問者受入) d.ボンバルディア社 ・カナダ政府の直接/間接的支援(営業損失補填、債務負担、助成金及び融資等) ・リスク分担型パートナーシップの採用 e.ジャムコ社 ・新規事業であった内装品事業へのチャレンジ (航空法改定による整備事業縮小時の内装品事業への参入の経営判断) ・専門メーカとしての競争力強化への注力(航空機装備品要求への R&D) ・国内外のエアラインとの密接な関係(最新の客先要求事項の調査) f.中国・韓国における航空機産業 <中国> ・国内航空機需要を睨んだ事業戦略 ・ジョイントベンチャーによる海外メーカとの共同開発による技術導入と素早い市場参 入による市場確保(エンブラエルとのJV) ・独自開発による国産技術開発能力の拡大・強化(ARJ21 開発) <韓国> ・国内航空機メーカの集約(KAI、KAL、SamsungTechwin への集約) ・国産軍用機の輸出を中心とした規模拡大(2015 年までに日本に追いつくビジョン) 97 ・得意技術分野の活用の無人機開発(IT 技術の活用と産学官連携) (3)航空機産業以外でのビジネス戦略 自動車及びデジタル家電の分野を例として、航空機産業以外の産業におけるビジネス 戦略の事例調査を実施した。 自動車産業はインテグレーション産業としては航空機産業と同じであるが、多くの場 合顧客は一般消費者であり、B2Cのビジネスであるという点で大きく異なる。また事 業ライフサイクルの全てを自社で行っており、顧客ニーズや市場動向を基本として収益 性をベースにリソースや生産計画等を自らが決定する。すなわち、様々なクラスの製品 のポートフォリオから会社全体としてのビジネスモデルを自律的に策定でき、ビジネス 戦略の選択肢の自由度が高い。また決定から実行までを速やかに行うことができる。高 付加価値車である高級車トヨタレクサスの成功例はインテグレータとしてのビジネスモ デルの選択幅の広さと大胆で緻密な新しいビジネスモデルの迅速な実行力を示す典型例 と言えよう。 デジタル家電ではコンピュータと家電、放送と通信などの産業の垣根が崩れ異業種間 の融合(「デジタルコンバージェンス」)が伸展したなかで、新たなビジネス・商品が多 く生まれてきている。このような大きな変革期における成功商品の背景にあるのは、特 定市場における圧倒的ものづくり優位である。すなわち、他社には真似のできない製造 技術、品種の幅、次々とイノベーションを連続するスピードによって、優位技術の占有 による差別化、これによる市場の独占・寡占化を作り出すことで、市場支配力(価格コ ントロール)を獲得し超過利潤を得ることに、商品開発戦略の根幹をおいていることで ある。この戦略の前提としてあるのは消費者の期待を超える「ものづくり」である。こ れは単なるシーズ発想の「ものづくり」ではなく消費者視点の「ものづくり」とするこ とが成功要因である。成功事例として調査したアップル社の i-Pod の商品戦略はそこに ある。 今回調査した自動車及びデジタル家電における成功事例のビジネス戦略が事業ライフ サイクルの完結がその戦略の前提となっている。一方、現状の日本の航空機産業はイン テグレータ(プライムOEM)の事業ライフサイクルの一部を担っているに過ぎず、現 状において日本の航空機産業がとり得るビジネスモデルの選択肢が限定される要因とな っている。すなわち、インテグレータ(プライムOEM)のビジネス戦略(ねらう市場 や製品特性、生産計画など)に大きく左右されてしまう国際共同開発において、RSP やサプライヤの位置付けにある日本の航空機産業のビジネスモデル構築は、プライムO EMに対して技術力をベースとした品質やコスト、納期といったQCDの視点からのも のにならざるを得ず、自律的なビジネスモデルの選択肢は極めて限られる。このことが、 高付加価値製品やある特定の市場をねらった製品をベースとしたビジネスモデルを構築 する自動車やデジタル家電などとの大きな違いである。製品開発の一部を担当する場合 (例えばサプライヤ)においても一部の部位や装備品が顧客(航空機では利用者)に訴 求するものを全システムで共有化し明確化できれば(例えばBMWのトランスミッショ ンの事例)、RSPやサプライヤという立場においても戦略的なビジネスモデルを構築す ることが可能かも知れない。最終的にはプライムOEMとなることがビジネス戦略の選 択肢の幅を広げるためには不可欠であるが、そこに至る過程においてはBMWのトラン 98 スミッションに見られるようなビジネス戦略も日本の航空機産業にとって参考になろう。 以下は、自動車産業における事例として調査したトヨタレクサス及びBMWのトランス ミッション、デジタル家電業界における事例としてアップル社の i-Pod におけるビジネス のポイントを整理して示す。 a.トヨタレクサス ・J-ファクター(日本らしさの折り込み) ・独自のマーケティング (カリフォルニア高級住宅地での生活・高級レストラン実態調査) ・トヨタ自らの明確化ターゲットとリソースの決定と評価・判断 b.BMWのトランスミッション ・車全体として顧客に訴えるトランスミッションと技術への落とし込み (顧客と結び付いた開発アプローチの実現) c.アップル社 i-Pod ・他社が真似のできないイノベーションの創出 (他社にない能力を持った人材の摺り合わせやチームワーク) ・製品イノベーションと継続した製品開発 ・付加価値の高い製品領域への資源集中と価格低下競争からの脱却(品質競争への転換) ・知的財産の保護による基幹技術のブラックボックス化(技術優位の維持) (4)日本の航空機産業のビジネス目標 日本の航空機産業の現状、国内外の航空機企業や他産業の事例調査と分析などを踏ま えて、ここで航空機産業の特性や事業戦略の視点の整理を行い、日本が目指すべき姿と ビジネス目標への展開、さらには求められる人材について検討を行った。 a.航空機産業の特性と事業戦略 航空機産業の特性を整理すると、 ・ 構成要素が多い ・ 技術産業の裾野が広い ・ 要求仕様(特に安全性、信頼性)が厳しい ・ 先進的ビジネスモデルを生み出す産業特性 ・ デュアルコース産業と国家戦略 ・ 付加価値が高いと言われている産業 ・ グローバルな体制 などが、挙げられよう。 一方、事業戦略における重要領域は、 ・ 顧客との接点 ・ 基本設計力 ・ サプライヤマネージメント ・ 資金調達力 ・ 重要となる新技術の研究開発 などが挙げられ、特に開発する側(「作り手」)と顧客(「買い手」)の間に「断絶」を 生じない「ものづくり」 、すなわち事業ライフサイクルの完結が不可欠である。 99 日本の航空機産業は「ものづくり」産業の強さの必要条件である生産・量産に係わる領 域での高い技術力・国際競争力を有している。しかし、世界市場におけるポジションはそ の高い技術力に相応の地位を確保しているとは言えない。これは日本の航空機産業が高い 付加価値で超過利潤を享受できる、また戦略的にビジネスモデルを構築できる、 「何を作れ ば良いかを自ら決定する」産業となっていないからである。このためには、これまで述べ てきたように、 「作り手」と「買い手」との間の「断絶」を解決するインテグレータとして の全てのビジネスプロセスに係わることが不可欠である。そのためには「完成機」のプロ グラムと継続的な開発が必要となる。その過程において、日本が弱いマーケティング、認 証、プロダクトサポートなどの領域を如何に強化していくか、或いは如何なる戦略でこれ をカバーしていくかが課題となろう。 b.日本が目指すべき姿 これまでに述べてきたように、日本の航空機産業は欧米の航空機メーカが主導する国際 共同開発において、製造部分における高い技術力を背景にその分担拡大により産業規模を 拡大してきた。しかし、東アジア諸国が航空機製造事業の拡大を目指すなかで、将来にわ たって日本が国際共同開発における製造分担で産業規模を維持・拡大させるには限界があ ろう。こうした危惧から、日本がある意味で成功してきた 80 年代以降の米国メーカ主導 の国際共同開発における製造分担による産業の維持・拡大という基本的考え方から質的な 転換、すなわち「日本が主導する国際共同開発(日本ブランドの獲得)」によって発展を目 指すという方向に転換していかなければならない。これは一朝一夕に達成できるものでは なく、10 年、20 年或いは 30 年といった長期的な戦略が必要である。 航空機では、マーケティング、プロダクトサポート等の経験と実績を蓄積する必要があ り、当面はリージョナルジェットなどの小型機市場への参入を目指すのが妥当であろう。 このために、独自に市場を開発していくというだけでなく、例えばすでにマーケティング、 プロダクトサポートをすでにその体制を有する企業(ボンバルディア等)に任せるような 国際共同開発契約形態の下での日本ブランドの航空機開発や吸収合併等による、その企業 が有するマーケティング、プロダクトサポートのノウハウをベースに市場を開拓するとい ったことも戦略の選択肢と考えられよう。 航空エンジンでは欧米メーカに匹敵する設計データベース蓄積が必要であるが、それを 現在有していない日本においては従来と異なる戦略的なアプローチが必要となろう。例え ば、国際共同開発やRSPにおいて独自の技術力による設計で参画できるような契約形態 への変更やアフターマーケットビジネスへの参画など通じて、独自技術の使用実績を蓄積 していくことが必要である。しかしながら、このような戦略アプローチをとるために、既 存技術に比べて飛躍的に優れた新技術開発や担当した部位のプロダクトサポートの自らの 実施(エアラインとの直接的情報交換)など克服しなければならない。 装備品ではすでに国際競争力をもった企業もあるが、日本の航空機産業が活性化すれば この分野も拡大していく可能性が高い。そのため、ベンダーとのネットワークやエアライ ンからのクレーム等の管理システムのあり方の研究を行う必要があろう。また、この分野 で全く新しい商品開発のためには航空機やエンジンの先進技術の研究開発と現状の航空機 の課題分析によるニーズ抽出が必要となろう。 また、日本が世界市場において競争力をもつためには、エアライン、製造産業、公的研 究機関や大学との交流の促進や強力なマネージメント機能をもつ組織体(コンソーシアム) 100 の設立など、航空機業界の連携等のあり方についても今後の戦略検討において考えていか なければならない。 c.ビジネス目標 「日本が主導する国際共同開発(日本ブランドの獲得)」による産業規模の拡大が日本の 目指すべき姿とした。この目指すべき姿を展開したビジネス目標として、基幹産業、産業 健全性、貿易収支としての各視点からの検討を試みた。基幹産業としての視点からは、航 空機産業が国を代表する産業となっている諸外国を参考にしてGDP比1%以上が、産業 健全性としての視点からはエクセレントカンパニーの目安である5~7%の高利益率をプ ライムOEMとして自律的に達成することが、また貿易収支としての視点では赤字解消が、 ビジネス目標としての目安と考えられる。しかし、これらの検討はあくまで相対的かつ定 性的議論によるものであって、今後、日本が目指すべき姿を達成するためアクションを検 討する過程において改めてビジネス目標を明確にすることが必要である。 d.求められる人材 日本が主導する国際共同開発を達成する上で、すなわち事業ライフサイクルを完結した 産業とするために、航空機産業において求められる人材とその育成について検討を試みた。 とくに不足していると懸念される、商品企画(概念検討)、認証(認証体制を含む)及び営 業(販売)の分野において現状を分析、全般的な面から人材育成についての考察を行った。 商品企画の分野は日本では全機開発を行う経験が少なく、この分野の人材は海外に比べ て圧倒的に少ないと考えられる。しかし、全機開発を行っていない現状においては、防衛 庁の機体・エンジン開発やRSPとして海外メーカの企画への参画などを通じ人材の育成 を図るなどの方策が考えられよう。認証の分野においてもこれに必要な知識、経験またそ のための体制は十分ではない。当面は FAA により認定された DER に依頼するなどの手段 をとらざるを得ないであろうが、この分野における人材の育成と体制整備が将来的には必 要となろう。航空機メーカで経験のある技術者を認証サイドの担当者として認証機関が受 け入れるなどの人材交流の促進も有用と考えられる。営業の分野では日本の航空機産業が 独自の販売網を有していないのが現状であるが、当面は販売網をもつ既存他社の営業力に 頼らざるを得ないものの、国際的な顧客との折衝能力をもった自社の営業担当者を育成、 置き換えていく努力が必要である。 このほか、航空機開発を完遂するためにはプロジェクトリーダーが必要である。その育 成については様々な部署・職種を OJT として経験させるなどの方策をすでにとっていると ころも少なくない。また、プロジェクトリーダーに相応しい人材を比較的早い時期に見い だすことも重要であろう。 (5)アジア各国との定期的連携・協力のあり方 従来より活動してきたアジア諸国との情報交流としての Info-Plaza Meeting を韓国ソ ウルで開催し、韓国、中国と航空機産業・技術研究開発に関連する情報交流を実施すると ともに、タイ国の航空機関連企業や航空関係の大学等を訪問し、航空機産業や航空に関連 する研究活動、教育活動について情報交換を行った。韓国、中国及びタイ国との情報交換 及び意見交換において、引き続きアジア諸国における情報交流を深めること、人材交流の 促進の必要性が認識された。特に人材交流の面では日本の制度の周知が豪州などと比較し て十分とは言えないところもあり、Info-Plaza Meeting など定期的な情報交流の場を利用 してこれを周知、促進していくことが必要であろう。 101 7.2 今後の展望と課題 今年度は、事業ライフサイクルの各要素ごとに国際競争力として整理することで日本の 航空機産業の現状を把握するとともに、国内外の航空機企業及び他産業における事例調査 に基づくビジネス戦略や成功要因分析、東アジア諸国の航空機産業の調査などを行った。 この調査・分析の結果、日本の航空機産業が今後日本の基幹産業のひとつとして国を代表 する産業に発展していくためには、これまでの欧米メーカ主導の国際共同開発における製 造分担拡大という基本的方針の質的転換が必要であることを明らかにした。すなわち、 「日 本が主導する国際共同開発」を目指すことが必要であると認識され、この目指すべき姿の ビジネス目標への展開を試みた。これらの調査・分析は、本調査研究の目的である航空機 産業の発展のための連携・交流のシステム基盤構築に向けた国際共同開発振興のための事 業のライフサイクル高度化のために、昨年度その必要性を指摘したビジネスシナリオ検討 の出発点となるものである。 したがって、日本が目指すべき姿とした「日本が主導する国際共同開発」の実現に向け たビジネスシナリオ(或いはビジネス戦略)の検討と求められる人材の育成についての調 査が今後の課題である。さらに、その調査・検討結果を踏まえて、長期的な行動計画の検 討を行い、その検討のなかで事業ライフサイクル高度化の視点から航空関係の諸機関の連 携・交流の効果的なシステム基盤について検討する必要がある。 8.おわりに 世界の航空機市場のグローバル化が一段と加速され、また事業投資規模もますます拡大 している中で、航空機産業の国際的協業化・分業化は必然の趨勢であり、わが国の航空機産 業もこの視点に立ち国際舞台で主導的役割・貢献を果たせる分野を確実になすことにより、 事業ライフサイクルの高度化が達成されるものと考えられる。 本委員会はすでに冒頭の調査事業の趣旨及び目的で述べたごとく、21世紀の巨大化、複 雑化、グローバル化する世界の航空機産業への我が国の貢献並びに広範囲の先端技術を駆 使した高度の技術集積からなる航空機等の開発・製造技術と機械工業技術との間の相互有 効活用、相互転用、相互移転促進等を視野に入れたシステムの構築のために“21世紀型 航空機国際共同開発振興に係わる事業のライフサイクル高度化調査事業”を行うものであ る。 2年目となる今年は航空機国際共同開発事業の基本的な現状把握及び世界の航空機ビジ ネスの現状調査を行い、日本の航空業界が目指すべき姿の検討を行った。 ・ 航空機産業(航空機、エンジン、装備品)の事業ライフサイクル機能を分解し、各 事業の日本の能力評価を行った。この結果、市場調査、製品企画、客先対応業務(営 業、プロダクト・サポート)などの経験が少なく、これらの能力が低いことが確認 され、航空機国際共同開発を主導的に進めるためにはこれらの能力を獲得すること が必要である。 ・ エアバス社、ロールスロイス社、ジャムコ社などの世界的な成功を収めている企業 のビジネス戦略を調査・検討し、日本企業の目指すべき姿(日本ブランドの獲得) を浮き掘りにした。今後、この目指すべき姿の具体化及び具体的な実現方法の策定 102 が必要である。 ・ 航空機需要の増加が著しいアジアにおいてアジア中心の航空機国際共同開発の基 盤創りの為にアジア各国の航空機産業及び研究機関との情報交換、意見交換による 相互理解が重要である。 本年度は、事業ライフサイクル及びビジネス戦略の視点から調査及びディスカッション を進め、なるべく多面的な問題提起を試みた。これをもとに来年度は、さらに焦点を絞りな がら、議論を深めて行くこととしたい。 最後に、本調査を進めるに当たりご協力を頂いた、ワーキンググループの委員をはじめと する各委員の労を惜しまぬ努力、関連省庁、機関のご協力に紙面を借りて謝意を表する次第 である。 103 【 略 語 説 明 】 AIA ARPU ASD ATO BAA BAE BOAC BEP CASA CAD CALS CAM CATIA CDMA COE COL CSP DASA DER E&M EASA EADS EC EDI EIS EPO ERP ERTMS EU FAA GA GAMA IADF IEEE III IP IPM IT ITBL ITS JADC JAXA JCAB Aerospace Industries Association Average Revenue per User AeroSpace and Defence Industries Association of Europe Authorization To Offer Bi-Lateral Airworthiness Agreement British Aerospace British Overseas Airways Corporation Break Even Point Constrecciones Aeronauticas SA Computer Aided Design Continuous Acquisition and Life-cycle Support Computer Aided Machining Computer-Aided Three-dimensional Interactive Application Code Division Multiple Access Center of Excellence Center of Learning Certified Service Provider :Deutsche Arbeitsschutzausstellung Designated Engineering Representative Electrical & Mechanical (System) European Aviation Safety Agency European Aeronautic Defence and Space Company E-Commerce E-Data Interchange Entry into Service European Patent Office Enterprize Resource Planning European Rail Traffic Management System European Union Federal Aviation Administration General Aviation General Aviation Manufacturers Association International Aircraft Development Fund The Institute of Electrical and Electronics Engineers Interfaculty Initiative in Information studies Internat Protocol Info-Plaza Meeting Information Technology Information Technology Based Laboratory Interectual Transportation system Japan Aircraft Development Corporation Japan Aerospace Exploration Agency Japan Civil Aviation Bureau 104 【 略 語 説 明 】 JNX JPO JR JSF JV KAIA KARI LMS MNP MRI MRO NC NEDO NPO OEM OJT PCT PDC PL PLM PMA TCP QC QCD R&D RSP RRSP SATS SCM SJAC SSBJ SUV T/C TLO TP UAV UPACS USPTO VOD WCDMA WTO Japanese automotive Network eXchange Japan Patent Office Japan Railway Joint Strike Fighter Joint Venture Korea Aerospace Industries Association Korea Aerospace Research Institute Learning Management System Mobile Number Portability Mitubishi Research Institutes Maintenance Overhaul Repair Numerical Control New Energy and Industrial Technology Development Organization Non-Profit Organization Original Equipment Manufacturer On the Job Training Patent Cooperation Treaty Personal Digital Cellular System Product Liability Product Lifecycle Management Parts Manufacturer Approval Total Care Package Quality Control Quality Cost Delivery Research and Development Risk Sharing Partnership Revenue and Risk Sharing Partnership Small Aircraft Traffic System Supply Chain Management Society of Japanese Aerospace Companies Supersonic Business Jet Sports Utility Vehicle Type Certification Technology Licensing Organization Trading Partner Unmanned Aerial Vehicle Unified Platform for Aerospace Computational simulation United States Patent and Trademark Office Video on Demand Wideband CDMA World Trade Organization 105 APPENDIX 海外調査報告書 <韓国・タイ> 1. 海外調査概要 2. ソウル エアショウ 2005視察 3. 第4回 Info-Plaza Meeting 出席 4. カセサート大学 Bangkhen キャンパス訪問 5. カセサート大学 Si Racha キャンパス訪問 6. Chromally(タイ)訪問 7. タイ王国空軍航空博物館訪問 Info-Plaza Meeting 発表資料 * Present and Future in Korea Aerospace Industries * The Korea UAV Roadmap * Current Overview of Aerospace Industry in China * Introduction of IADF Study Committee * Overview of Japanese Aerospace Industry * Research Activities on Aeronautical Science & Technology at JAXA * Activity of Aeronautical Departments in Japan 海外調査時の集合写真 1. 海外調査概要 H17 年度の海外調査は 2005 年 10 月 17 日から 10 月 27 日(11 日間)の間に韓国のソウ ルでソウル エアショウ 2005視察し、第4回 Info-Plaza Meeting(IPM)に出席し、 この後、タイのバンコックに移動し、タイ航空業界の調査を行った。 調査団メンバー * 古賀 達蔵:調査委員会委員長 つくば JGNⅡリサーチセンター長 情報通信研究機構 * 渡辺 紀徳:調査委員会委員 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻 * 村上 哲 :調査委員会委員 ワーキンググループ主査 宇宙航空研究開発機構 超音速機チーム * 山口 助教授 航空プログラムグループ 実証機ユニット長 俊吉:調査委員会事務局員 航空機国際共同開発促進基金 国際部 部長 日程 2005年10月17日∼10月27日 ・ 10月18日 ――― ソウル ・ 10月19日 ――― 第4回 Info-Plaza Meeting ・ 10月21日∼26日 ――― エアショウ 2005 タイ航空業界調査 調査内容 韓国 ソウル郊外の空軍基地(Seongnam City)で開催されたソウル エアショウ 2 005(10 月 18 日∼23 日)に合わせて第4回 IPM が行われたのでエアショウを視察し、 IPM に出席した。 初日(10 月 18 日)の午前中は韓国大統領が参列したオープニング セレモニーで関係者以 外立ち入り禁止であったため、午後、エアショウを視察した。 空軍関係中心のエアショウで韓国空軍、米国空軍及び航空関係企業が展示を行っており、 中心は最近、完成した韓国国産の最新鋭超音速練習機 びデモフライトが行われた。 T-50 GoldenEagle で屋内展示及 屋内展示は韓国の統合された航空宇宙会社(KAI)の展示(T50)を中心に世界中の航空機 メーカ(Boeing、Lockheed Martin、EADS、BAE Systems など)、エンジンメーカ(GE、 UTC、RR など)、補機メーカ(Goodrich、Hexcel など)、武器メーカなどが狭い展示会場 に肩を並べていた。日本企業の参加は無く、SJAC のみがブースを出していた。 10 月 19 日 ソウルの JW Marriot Hotel において第 4 回 IPM が韓国 7 名、中国 1 名、 日本 4 名の参加を得て、開催された。会議では韓国から 2 件、中国から 1 件、日本から 4 件の発表があり、各国の航空機産業の現状及び将来計画が紹介された。エアショウとの関 係で議論の時間が少なかったが、食事を取りながらリラックスした雰囲気の中で意見交換 ができ、有益であった。 韓国では 1999 年に航空企業 3 社(Samsung、Hyundai、Daewoo)が合併し、Korea Aerospace Industries(KAI)となったが、大韓航空(KAL)は単独で民間航空機事業(ボーイングの サプライヤー事業、航空機整備事業など)を進めている。 韓国航空宇宙業界の現在の規模は年間$1B であるが、10 年後には日本と同じ年間$10 B の規模を目指している。 10 月 21 日からタイのバンコックを中心にカセサート大学 Bangkhen キャンパス、同大 学 Si Racha キャンパス、Chromally Thailand、タイ王国空軍航空博物館などを訪問し、タ イ航空業界の現状を調査した。 10 月 21 日(金),バンコク市の北部に位置するカセサート大学工学部(Bangkhen キャン パス)を訪問し,工学部長に面会し,挨拶を交わした。続いて会議室に移り,タイ全体の 航 空宇宙 工学 関係の 先生 方の組 織で ある CASE( Consortium of Aerospace Engineering Thailand)と IADF 委員会との会議を実施した。この会議でカセサート大学およびキング・ モンクット工科大学の航空宇宙工学科の現状と今後の計画について説明を受け,IADF から は日本の航空宇宙関連研究所と大学の研究活動,国際交流活動などを紹介した。またそれ らの情報をもとに,両者の航空宇宙関連工学の現状と将来,情報や人材の交流などについ て様々な討論を行った 10 月 25 日(火)に訪問した Si Racha キャンパスは、工学部、資源環境学部及びビジネ ス学部(Management Sciences)学部の3つの学部で構成されており、計算科学、環境科 学、産業工学、海洋構造学、海洋工学などの工学・資源環境学関連のほか、ビジネス管理、 マーケッテイングなどのビジネス関連の大学教育プログラムが実施されている。航空宇宙 工学関連の実験設備は、主として学生教育向けの設備となっており、小型の低速風洞、ノ ズル性能試験装置、プロペラ性能試験装置や小型エンジン運転装置、構造強度試験装置な どがある。また、航空宇宙工学科の教育プログラムの一環として、実際の飛行機を作る試 みがなされており、来年の初飛行を目指して GFRP の水上機(飛行艇)が製作中(手作り) であった。 10 月 26 日(水)午前、空港に近い Chromalloy(タイ)の工場を訪問し、社長以下、主 要メンバーの出迎えを受け、会議室においてクロマロイの説明と IADF 委員会の調査主旨 説明を相互に行った後、工場見学を行った。工場は大量のブレード修理を行っており、社 長はアメリカ人、技術責任者はオランダ人、製造責任者はタイ人であった。 10 月 26 日(水)午後、バンコク国際空港に隣接したタイ王国空軍基地内にある航空博物 館を訪れた。 Preecha 少将とタイ王国空軍制服の軍人5名から展示された航空機の説明を 受け、 Preecha 少将からは自主開発試作機(RTAF-1∼RTAF-5)に関する古い資料のコ ピーを受領し、詳細の説明を受けた。また、Kanin 氏(Preecha 少将の友人)はパイロッ ト・航空技術者で、嘗て空軍機の開発に携わったが、現在は Pattaya 近くの飛行クラブの 教官としてパイロット養成を行っているとのことであった。 2.ソウル エアショウ 2005 視察報告 1)エアショウ概要 10 月 18 日から 10 月 23 日の間、ソウル郊外の空軍基地 “Seoul Airport” (Seongnam City)において軍用機を中心としたエアショウが開催されており、10 月 18 日の午後(午前 中は韓国大統領が参列したオープニングセレモニーで関係者以外立ち入り禁止であった。)、 視察調査を行った。 2)視察調査メンバー(IADF 調査委員会) * 古賀委員長 * 渡辺委員 * 村上主査 * 山口(事務局) 3)視察調査内容 空軍関係中心のエアショウで韓国空軍、米空軍及び航空関係企業が展示を行っており、 中心は最近完成した韓国国産の最新鋭の超音速練習機 T-50 Golden Eagle で屋内展示及 びデモフライトが行われた。 屋内展示 屋内展示は韓国の統合された航空宇宙会社(KAI)の展示(T50)を中心に世界中の航空 機メーカ(Boeing、Lockheed Martin、EADS、BAE Systems など)、エンジンメーカ(GE、 UTC、RR など)、補機メーカ(Goodrich、Hexcel など)、武器メーカなどが狭い展示会場 に肩を並べていた。 日本企業の参加は無く、SJAC のみがブースを出していた。 Boeing のブースで民間担当 Deputy Vice President の Brian R. Belka (アシアナ航空担 当セールスディレクター)に話を聞いたところ、アシアナ航空への B787 の売込みで忙しい が、時間がかかりそうとの事であった。先日のボーイング講演会(ランディ ベイスラー) のお礼を言い、ベイスラー氏によろしくと依頼した。 また、RR のブースでは Peter M Cox(Product Marketing Manager-Trent)に話を聞いた ところ、最近のエンジン受注の好調さを反映して今後の RR の生産地図は大型エンジン ― ― 米 英国(ダービー)、中型エンジン ―― ドイツ(ベルリン)、小型エンジン ―― 国と拡大し、V2500 エンジンの生産拠点はダービーからベルリンへ移るとのことであった。 屋外展示 駐機場の脇には各企業のシャレーがあり、各種の商談が行われていた。 駐機場には戦闘機(Joint Strike Fighter、F-16、KF-16、F-4、F-5 など)、練習機(KT-1 など)、爆撃機(B1 など)、哨戒機(P3C など)、ヘリコプター、ミサイルなどが展示され ており、韓国空軍と米空軍が説明を行っていた。 4)所感 今回のソウル エアショウは軍用の機体のみの屋外展示で屋内も軍用機材が中心となっ ていた。武器輸出の可能な韓国としては当面、軍用を中心にして韓国の航空工業を育てて いく方針のように感じられた。 Info−Plaza Meeting 報告 3.第4回 1)会議概要 Korea Aerospace Industries Association (KAIA) の主催により第4回の Info-Plaza Meeting が韓国、中国及び日本の参加により次の通り、開催された。 * 開催日時:2005 年 10 月 19 日(水)10:40∼15:00 * 開催場所:JW Marriot Hotel(ソウル) 2)会議出席者 韓国 * Soo-Do Kim ――― Vice Chairman、Korea Aerospace Industries Association (KAIA) * Dong-Ho Lee ――― * Jinsoo Cho ――― Professor、Seoul National University Director、The Korean society for Aeronautical and space Sciences(KSAS) * Dae-Sung Lee ――― * Tae-Shik Oh ――― Professor、Hanyang University Director、Korea Aerospace Research Institute(KARI) Director、Korea Aerospace Industry(KAI) * Sung-Woo Lee ――― * Sungil Lee ――― & Deputy Director、KAIA General Manager、KAIA 中国 * Xu Bo ――― Deputy Director、China Aviation Industry Corporation Ⅱ (AVIC Ⅱ) 日本 ――― IADF 調査委員会 * 古賀委員長 * 渡辺委員 * 村上主査 * 山口(事務局) 3)会議内容 A) はじめに 名刺交換とともに挨拶を交わしてから主催者を代表して KAIA 副会長である Soo-Do Kim(金秀道)による開会の辞があり、Jinsoo Cho の司会により第 4 回の Info-Plaza 会議 が開始された。 これに続き、出席者各位の自己紹介が行われ、同時に IADF 代表して古賀委員長より主 催者である KAIA に対してお礼のご挨拶があった。 B) 韓国の発表 1.Present and Future in Korea Aerospace Industries ――― Tae Shik Oh (KAI) 2.The Korea UAV Roadmap ――― Jinsoo Cho (KSAS & Hanyang University) 韓国からは上記2件の発表があり、Tae Shik Oh(KAIA)氏からは韓国航空宇宙業界全 体の説明があった。 韓国では 1999 年に航空企業 3 社(Samsung、Hyundai、Daewoo)が合併し、Korea Aerospace Industries(KAI)となったが、大韓航空(KAL)は単独で民間航空機事業(ボ ーイングのサプライヤー事業、航空機整備事業など)を進めている。 韓国航空宇宙業界の現在の規模は年間$1B であるが、10 年後には日本と同じ年間$1 0B の規模を目指している。 韓国(KAIA)、ヨーロッパ(EADS)などは航空業界の統合が進んでいるが、何故、日本 は統合しないのかと質問されて返答に窮した。 また、司会の Jinsoo Cho 氏より韓国の UAV 開発への取り組み状況の説明があり、UAV を韓国航空機事業の大きな柱として熱心に進めている状況が理解できた。 C)IADF の発表 1.Introduction of IADF Study Committee ――― 山口 2.Overview Japanese Aerospace Industry ――― 山口 3.Research Activities on Aeronautical Science & Technology at JAXA ――― 4.Activity of Aeronautical Departments in Japan 村上主査 ――― 渡辺委員 D)中国の発表 *Current Overview of Aerospace Industry in China ――― Ms. Xu Bo Xu(シュー)さんは定型的な中国美人で AVICⅡの International Coorperation & Trade 部門の Deputy Director で英語はかなりのものであった。(英語は北京で 英才教育を受けたとのこと。)MDA(Master of Defense Administration)を英国 の Cranfield で取得したそうであるが、軍用関係の仕事だけではないようである。 発表では AVICⅡの生い立ちと現状を少ない時間の中で熱心に説明していた。 4)所感 今回は韓国7名、中国 1 名、日本 4 名の合計12名の会議となり、エアショウとの関係 で会議時間が 1 時間短縮された為、会議での討議の時間がとれず、昼食時の非公式な議論 になったが、このようなリラックスした雰囲気での話し合いも良い情報交換の機会となっ た。 また、IADF の対象は民間用航空機の国際共同開発であるが、IPM の中では官民の区別 が出来ないので各国の航空機業界全体の話題にならざるを得ない。この場合、日本におい ても60%以上を占める官用航空機事業が中国、韓国、マレーシアなどのアジア各国にお いては大部分を占めていることは現実の姿である。今後、世界的に民間航空機事業の比率 が増加する中で、IADF の目標であるアジア・オセアニアでの民間航空機国際共同開発に IPM のテーマを絞り込むことが必要と思われる。 Sung-Woo Lee KAIA Tae-Shik Oh KAI Jinsoo Cho KSAS Soo-Do Kim KAIA Dong-Ho Lee Seoul Univ. Dae-Sung Lee KARI Table Sungil Lee KAIA S Yamaguchi IADF Xu Bo AVIC Ⅱ T Koga NiCT A Murakami JAXA Screen 2005 Info-Plaza Meeting in Seoul Date: October 19, 2005 Time: 11:00 - 15:00 Venue: Boardroom, JW Marriot Hotel in Seoul 図 3−1 T Watanabe Univ. of T k 4.カセサート大学 Bangkhen キャンパス訪問 1.調査概要 2005 年 10 月 21 日(金),バンコク市の北部に位置するカセサート大学 Bangkhen キャン パスを訪問し,会合に出席して情報交換を行った。このキャンパスは同大学の中心キャン パスであり,工学部の中枢もここに設置されている。 まず工学部長の Prof. Nontawat Junjareon に面会し,挨拶を交わした。学部長先生は IT 技 術が専門で,同大学が IT 分野でタイ国の最優秀大学に選定されたことを紹介された。 続いて会議室に移り,航空宇宙工学関係の先生方と情報交換会議を実施した。同国の航 空宇宙関連学科が集まり,CASE という大学間共同研究組織を作っており,今回の会合は CASE と IADF の会議として設定された。CASE とは,Consortium of Aerospace Engineering Thailand の略称である。メンバーはカセサート大学,キング・モンクット工科大学北バンコ ク校,チェンマイ大学,タイ王立空軍大学の4大学である。 この会議でカセサート大学およびキング・モンクット工科大学の航空宇宙工学科の現状 と今後の計画について説明を受け,IADF からは日本の航空宇宙関連研究所と大学の研究活 動,国際交流活動などを紹介した。またそれらの情報をもとに,両者の航空宇宙関連工学 の現状と将来,情報や人材の交流などについて様々な討論を行った。 なお,この会議には NIA(National Innovation Agency)という政府組織の 3 名も同席し,情 報交換を行った。この組織は大学や研究機関の研究内容から,産業につながる可能性のあ るものを選定し,財政支援を行う仕事を担っており,広い範囲の科学技術に対して評価あ るいはコンサルティングを実施している。 2.会議出席者 Asst. Prof. Ouiechai Chirachon (Kasetsart Univ.) Senior Lecturer Akram F. Dallalah, P.E. (Kasetsart Univ.) Dr. Siripong Atipan (Kasetsart Univ.) Dr. Jarurat Ousingsawat (King Mongkut’s Institute of Technology North Bangkok) Prof. Dr. Hanns-Juergen Lichtfuss (NIA) Dr. Jittbodee Khunthongkeaw (NIA) Dr. Phacharaporn Bunyawanichakul (Kasetsart Univ.) Lecturer Ratthasirin Wangkanond (Kasetsart Univ.) AVM Preech Wannabhum (Kasetsart Univ.) AVM Vichit Laipradit (Kasetsart Univ.) 3.カセサート大学(Kasetsart University) カセサート大学はタイに 41校設置されている国立大学の一つで,歴史としては4番目に 古い大学である。もともと 1938 年,チェンマイに農業省農林水産部の管轄するカセサート カレッジとして設立された。その後,1939 年に現在のメインキャンパスがある Bangkhen に 移り,1943 年に農業省から離れて,カセサート大学として改めて開設された。1970 年代に 国の大学機構が変更され,現在は大学省 Ministry of University Affairs が所轄する国立大学と なっている。2003 年に開学 60 周年を祝い,この年に歴代卒業生が 10 万人に達した。 2002 年時点での全学生数は 32,776 人で,タイ国内の 7 つのキャンパスに分かれている。最 大は Bangkhen キャンパスで,学部生 16,800 名,修士課程大学院生 6,815 名,博士課程学生 456 名となっている。 学部は 20 学部あり,分野は農学部,建築学部,経済学部,教育学部,工学部,人間科学 部,教養学部,理学部,社会学部など多岐に亘る総合大学となっている。ただし,規模と しては農学関連が最大で,学生数は全体の約 30%を占める。 Bangkhen キャンパスは前述のように最大のキャンパスであり,バンコク市北部の 135 ヘ クタールの敷地に 13 学部,2 単科,7研究施設,および大学院が置かれている。また,大 学の中枢機構もこのキャンパスにある。学部は農学,農業工学,建築学,経営学,経済学, 教育学,工学,水産学,林学,人間科学,理学,社会科学,獣医学の 13 分野である。 この他のキャンパスはいずれも規模は小さいが,設置された各地域の教育,知識普及への 貢献を目指して次々に建設されているものである。 工学部レベルで日本の三重大学と親密な交流がある。毎年人材が行き来しており,カセ サート大学,三重大学,中国の大学の三大学で学部の合同シンポジウムを開催している。 航空宇宙工学科: 航空宇宙工学科は Bangkhen キャンパスの工学部にある。この分野の教育研究は,1990 年 に機械工学科の中で開始された。その後,1992 年に独立した航空宇宙工学科が設置された。 4年制の学部は毎年定員 40 名である。また,IDDP と呼ばれる,6 年間でタイとオーストラ リアの両国で教育を受ける特別プログラムがあり,毎年 40 名が在籍している。その他,運 航技術と運航管理の分野でそれぞれ定員が 30 名ずつあり,全てあわせると全学年で 640 名 の航空宇宙関連学生が在籍することになる。航空宇宙工学の修士課程は今年立ち上がった。 タイでは大学入学試験に全国共通試験が科されるが,カセサート大学航空宇宙工学科に は最上位 10%の学生が入学してくるとのことである。 卒業生の進路としては,19%が航空宇宙関連に,その他の技術分野には 36%が進み,20% の学生は国外の大学院に進んでいる。国外ではオーストラリアに行く学生が多い。 実験設備はこのキャンパスには手狭なために設置されておらず,バンコクの東南東 100km ほどの場所に位置する Si Racha キャンパスに設けられている。実験を行う学生は Bangkhen キャンパスからバスで移動する。Si Racha キャンパスの実験室には学生のための簡易宿泊設 備も整えられている。 学生には国外の航空宇宙関連メーカーを訪問する機会が与えられており,Boeing 社など に毎年見学に訪れている。 大学院博士では,オーストラリア,フランス,アメリカ,ドイツなどの国で学生が学び, 学位を取得して帰国している。 高校生を対象とする Aerospace Camp という行事を毎年実施しており,会議当日,たまた まこの行事が行われていた。模型飛行機の製作や飛行などを行って高校生を啓蒙するオー プンキャンパス事業で,高校生の人気は高く,毎年 500 名ほどの応募者がある。 所感: 研究活動というよりは,実用的な技術教育に力を入れている段階と思われる。運航技術 や運航管理といった実際的な航空関連技術の教育システムを整備してきており,修士課程 を新たに設置する等,基礎的研究活動も含めた教育環境はこれから整えていくものと思わ れる。一方で外国との人材交流,外国への大学院生の派遣などは積極的に行っている。た だ,学生の滞在費の支援が大きな問題とのことだった。日本にも学生を送りたいが,経済 的に無理なことが多い。現在東工大に 1 名学生がいる。 その他: ガスタービンについて意見交換を行った。タイでは売電が可能で,隣接国に電力を輸出 している。石油はすべて輸入していて高価だが,天然ガスは豊富で非常に安い。そこでガ ス焚き小型ガスタービンが普及する可能性があるのではないか,との観測があった。小型 ガスタービンの国産化はどうか,と問いかけたところ,今のところ高級な材料が手に入ら ないこと,工作技術が進歩していないことから,難しいだろうとのことだった。 4.キング・モンクット工科大学 北バンコク校 (King Mongkut’s Institute of Technology North Bangkok) キング・モンクット大学は国立大学で,1959 年,タイ政府とドイツ政府との共同により, タイ‐ドイツ工業学校という形で設立された。1964 年に工科単科大学に昇格し,1971 年, Thonburi 工科単科大学,Nonthanburi 通信大学と統合されて,キング・モンクット大学とな った。1986 年には 3 つのキャンパスに分かれた。即ちキング・モンクット大学 Ladkrabang 校,キング・モンクット大学 Thonburi 校,そしてキング・モンクット大学北バンコク校であ る。 キング・モンクット大学北バンコク校は現在 5 つの学部,一つの単科大学,一つの大学院, 3 つの付属研究所を持つ工科大学となっている。また外国との共同組織として,タイ‐フラ ンス・イノベーションセンターと,タイ‐ドイツ工科大学院が設置されている。 航空宇宙: 航空宇宙関連では工学部に機械・航空宇宙工学科が設置されている。もともと機械工学 科の中で教育研究を行っていたが,1998 年に航空宇宙のカリキュラムを大幅に追加した。 現在 25 人のアカデミックスタッフがいる。機械・航空宇宙の学部学生は 400 人で,このう ち航空宇宙を専攻しているのは 60 名である。また,機械の修士課程で毎年 20 人の学生が いる。修士課程に航空宇宙専攻を来年加える予定である。この修士課程は 2006 年 6 月に発 足し,2 年間の論文を科する修士課程である。 現在の研究分野は,飛行力学・制御,概念設計,構造,空力などであり,現在進行中の 研究プログラムとしては,自動操縦系統の研究,UAV,飛行計画立案,などがある。将来 は他大学や産業界との共同プログラム,学生の設計プロジェクト,小型衛星などに取り組 みたい。 所感: カセサート大学よりも航空宇宙関連分野の設置は新しく,教育環境を整備している状況 と思われる。 5.その他 タイでは従来から空軍大学校が航空宇宙関連分野を牽引してきている模様である。空軍 博物館ではタイ国産の小型練習機が展示されていた。航空関連の先進的研究開発を開始す るには今後の進展が必要であるが,先進諸国との協力関係や,人材の派遣などにより,そ の萌芽は着実に見えていると感じられる。 Screen Preecha Wannabhum KU Quiechai Chirachon KU Siripong Atipan KU Jarurat Ousingsawat KMITNB Phacharaporn Bunyawanichakul KU Vichit Laipradit KU Ratthasirin WangKanond KU Pimporn KU Hanns-Juergen Lichtfuss NIA S Yamaguchi IADF Jittbodee Khunthongkeaw NIA Anonymous NIA Akram Dallalah KU Table T Koga NiCT T Watanabe Univ. of Tokyo A Murakami JAXA CASE - IADF Meeting in Bangkok Date: October 20, 2005 Time: 10:00 - 15:00 Venue: Faculty of Engneering Meeting Room in Kasetsart University 図 4−1 5.カセサート大学 Si Racha キャンパス訪問 (1)訪問先 Kasetsart University, Faculty of Engineerign at Si Racha. 199 Sukhumvit Road, Si Racha Chonburi, 20230 Thailand (2)日時 2005 年 10 月 25 日(火)10:30∼13:30 (3)訪問者 (1)古賀達蔵(つくば JGNⅡリサーチセンター) (2)渡辺紀徳(東京大学大学院工学系研究科) (3)村上 哲(宇宙航空研究開発機構) (4)山口俊吉(航空機国際共同開発促進基金) (4)訪問先対応者 (1)Ms.Chatchanee Gunson (Secretary of Faculty of Engineering at Si Racha) (2)Dr.Siripong Atipan (Dept. of Aerospace Engineering, Faculty of Engineering) (3)Dr.Phacharaporn Bunyawanichakul (Dept. of Aerospace Engineering, Faculty of Engineering) (5)概要 ・ Kasetsart 大学はメインキャンパスであるバンコックの Bangkhen キャンパスの ほかに、6つの地方キャンパスを持っている。 ・ 地方キャンパスは地方に高等教育を拡大することが目的として設置されたもので あり、学部・学科などの違いや課程の違いによりキャンパスが分かれいるもので はない。このため、各地方キャンパスの学生はその地方出身者に限られており、 教育プログラムも独立したものとなっており、固有のものもある。 ・ Si Racha キャンパスはその地方キャンパスのひとつであり、バンコックから東に 約 100km のションブリ地方に位置し、東部海岸地区開発プロジェクトにおける人 材不足を鑑みて 1989 年に設置された。 ・ Si Racha キャンパスは、工学部、資源環境学部及びビジネス学部(Management Sciences)学部の3つの学部で構成されており、計算科学、環境科学、産業工学、 海洋構造学、海洋工学などの工学・資源環境学関連のほか、ビジネス管理、マー ケッテイングなどのビジネス関連の大学教育プログラムが実施されている。学生 数は約 5000 人(工学部:約 1000 人、資源環境学部:約 400 人、ビジネス学部: 約 3600 人) 。敷地面積は 32 ヘクタール。特に、海洋関連工学は Si Racha キャン パスの特色ある教育プログラムとなっているようで、2002 年から6年間の予定で、 国際海洋研究所が当キャンパスにオフィスを構えている。 ・ Si Racha キャンパスにはバンコックのメインキャンパスにある工学部航空宇宙工 学科の実験設備もある(なお、Si Racha キャンパスに固有の教育プログラムとし ては航空宇宙工学はない) ・ 航空宇宙工学関連の実験設備は、主として学生教育向けの設備となっており、小 型の低速風洞、ノズル性能試験装置、プロペラ性能試験装置や小型エンジン運転 装置、構造強度試験装置などがある。先端的な実験研究を行うための特別な実験 装置はないが、小型回流式低速風洞やノズル性能試験装置などは新しく導入した もので、大学の設備としては十分な機能と性能を持っている。風洞の3分力天秤 で6分力を計測できるように工夫するなど、計測装置の改良などが取り組まれて いる。 ・ 航空宇宙工学科の学生が実験を行うためには、Si Racha キャンパスのこれらの設 備を使う必要があるため、実験の際はある期間泊り込みとなる。そのため、実験 設備のある建物のなかに、宿泊できる部屋が確保されている。 ・ また、航空宇宙工学科の教育プログラムの一環として、実際の飛行機を作る試み がなされており、来年の初飛行を目指して GFRP の水上機(飛行艇)が製作中(手 作り)であった。 ・ 航空宇宙工学科の実験設備のある実験棟には、機械工学や建築土木に関連する設 備として、吸い込み式の低速風洞(大気境界層模擬装置付)や各種材料強度試験 機なども設置されている。 6.Chromally(タイ)訪問 (1)訪問先 Chromalloy (Thailand) LTD. 25 Moo 5, Bungkhamproi Lamlukka, Pathumthani 12150, Thailand (2)日時 2005 年 10 月 26 日(水)10:30∼13:30 (3)訪問者 (1)古賀達蔵(つくば JGNⅡリサーチセンター) (2)渡辺紀徳(東京大学大学院工学系研究科) (3)村上 哲(宇宙航空研究開発機構) (4)山口俊吉(航空機国際共同開発促進基金) (4)訪問先対応者 (1)Larry Waldron (Managing Director) (2)Supachai Mernmuang (Operation Director) (3)Gerton van den Octelaar (Engineering Manager) (4)Yokpetch Yoopanon (HR Manager) (5)Suthep Klinrat (Unit Manager Building I) (6)Panya Prakittimongkol (Unit Manager Building II) (7)Ad Verbeek (General Manager, A Division of Chromalloy Gas Turbine Corp., Precision Component Technologies) (5)概要 ・ SEQUA 社航空宇宙部門の Chromalloy Gas Turbine Corporation(本社:米国テ キサス州)の Chromalloy Aircraft Engine Servies 部門のタイ工場として設立。 ・ Chromalloy 全体 の年間売上は約8億ドルで、従業員数は 5000 人。米国を中心に、 全世界に 40 の操業拠点をもつ。 ・ GE 製品を中心とした航空エンジンや産業用ガスタービンのパーツ修理事業が主 体で、一部 PMA 部品も生産。PMA 部品の比率(売上ベース)は3%程度とのこ と。最大顧客はエールフランス。 ・ Chromalloy としての今後の事業戦略として、PMA 部品製造事業の拡大もあるが 現在のコアコピータンスである部品修理事業を着実に伸ばすことが最重要、特に 部品修理から特に各エアラインのエンジン整備全体を請け負う事業への発展も視 野に入れているとのこと。 ・ タイ工場は 1989 年に設立、1991 年から操業を開始 。当初は Chromalloy オラン ダとタイ航空のエンジンパーツ修理(GE エンジン)を顧客として従業員 30 人で スタート。1997 年からは、高圧コンプレッサの修理にも事業拡大して、大幅に修 理部品数が増加、2000 年には Building II が完成。現在、従業員数 313 人(この うち、230 人が修理・製造、技術は 12 人、それ以外は品証、教育や管理等)。修 理部品数約 30 万∼35 万点/年の能力。2003 年から産業用ガスタービン部品修理 部門が独立・分離したことにより、約 15%従業員数は減少(修理部品数も一時減 少)。敷地面積は 25,000m2、2つのショップでその床面積は約 6,000m2。 ・ 米国(1991)、タイ(1991)、パキスタン(1995)、欧州(1997)、中国(1999)及びインド ネシア(2001)の各国の航空局からの認証取得済み。 ・ タイ工場で扱う修理部品は、CF6 の高圧コンプレッサ、燃焼器サブアセンブリ、 タービンシュラウド・シール関係、CFM56 の高圧コンプレッサ、燃焼器サブアセ ンブリ、低圧タービンシュラウド・シール関係、このほか、JT9D の部品も扱って いる。 ・ 具体的には、Building I で、honeycomb と燃焼器サブアセンブリ、Building II で、高圧コンプレッサブレードと低圧タービンブレードなどを修理。 ・ 各 Building は大きく検査工程と修理工程に分かれ、それぞれが機能別・製品別に 細かくユニットとして区切られている。検査工程で、蛍光探傷、超音波探傷や X 線探傷等の検査を経て修理可否(修理可能か否か)、修理箇所・修理方法が決定さ れ、ドキュメント・チェックシートが作成されて、修理工程へと回され、最終的 には確認検査のために検査工程に戻る。なお、蛍光探傷や X 線探傷は全て自動化 されていることはもちろんのこと、修理工程も最終工程の研磨を除くと多くの工 程が自動化されている。 Gerton van den Oetelaar CT Supachai Mernmuang CT Akram Dallalah KU Anurak Atthasit KU Phacharaporn Bunyawanichakul KU Yokpetch Yoopanon CT Table Larry Waldron CT S Yamaguchi IADF T Koga NiCT A Murakami JAXA T Watanabe Univ. of Tokyo Screen Meeting at Chromally Thailand Date: October 26, 2005 Time: 10:00 - 14:00 Venue: Conference Room at Chromally Thailand 図6−1 7.タイ王国空軍航空博物館訪問 まえがき 調査団は、10月25日夕刻宿泊先の Sofitel Central Plaza 内で Kasetsart University 関 係者と夕食会を開き懇談の機会を持った。懇談の席で、Preecha, Vichit 両空軍少将からタ イ王国の航空史におけるエピソードの数々と、彼らが自主開発プロジェクト機 RTAF-3, -4, -5 の設計・開発に深く係わったことを聞いた。とくに Preecha 少将は、RTAF -3 の開発に 携わったとき、横浜の日本飛行機株式会社の風洞を借りて実験を行うために、風洞模型を 搬送し自身も横浜に4ヶ月間滞在したと懐かしそうに話した。調査団員一行は、タイにお ける航空の歴史と伝統、及び航空機開発に対する情熱に敬意を表すると同時に、40年ほ どまえに日本で風洞実験が行われたという事実をはじめて知って大いに驚き感激した。わ れわれの感激を察知してか、Preecha 少将がタイ王国空軍航空博物館へ招待したい旨提案 した。日程的に非常に苦しかったが、短時間でもいいからぜひ訪問したいとこの招待を受 け入れた。 10月26日、午前からの Chromally (Thailand) Ltd.訪問と同社関係者との昼食会を終了 後、バンコク国際空港に隣接したタイ王国空軍基地内にある航空博物館を訪れた。ロビー には、Preecha 少将とタイ王国空軍制服の軍人5名ほどが待ち受けていた。Preecha 少将は、 自主開発試作機に関する古い資料のコピーをバインドしたファイルをわれわれ一人一人に 手渡した。また、Preecha 少将の友人 Kanin 氏に紹介された。Kanin 氏は、パイロット・ 航空技術者で、かって空軍機の開発に携わったが、現在は Pattaya 近くの飛行クラブの教 官としてパイロット養成を行っているとのことであった。当日午後10時15分発の便に 搭乗予定を前にして非常に短い時間の訪問であったが、きわめて有意義かつ友好的な時間 を過ごすことができた。 1 写真:Royal Thai Air Force Museum ロビーにて、左から, 山口、村上、、渡辺、二人おい て古賀、一人おいて Preecha, Kanin, Akram,の各氏 (写真提供:村上 哲 氏) タイ王国航空史の概略 タイ王国の航空は、King Vajiravudh (Rama VI)の治世の時代に始まった。1911年、陸 軍参謀長だった Phitsanulok Prachanard 元帥がタイ王国陸軍に航空師団を設置する考え を示し、Luang Sakdi Sunyavoudh (Sunee Suvanprateep)少佐、Luang Arvoudh Sikigorn (Long Sisnuk)大尉、Thip Kedutat 中尉の 3 人をフランスへ留学させた。 3 人は、1913 年に卒業し帰国したが、そのとき、8機の飛行機を持ち帰った。このうち7 機はタイ政府が購入し、もう1機は Chaopraya Apaipubet (choom Apaiwong)氏が寄贈し たものである。これらは、4機の Nieuport(単葉)機と4機の Breguet(複葉)機からな っていた。タイ陸軍航空部隊が設置され、初めての格納庫が Pathumwan 飛行場(現在の the Royal Bangkok Sports Club)に建てられた。3人はその後パイロット養成教官及び飛 行技術者として活躍した。 陸軍航空部隊の活動が拡大したので Luang Sakdi Sunyavoudh 中佐はさらに適切な飛行場 用地に Don Muang を選定し、1914年に陸軍航空部隊はその地に移転した。 これら3人の先駆者の努力によりタイ国航空史に新しい時代のページが開かれた。191 5年には、タイ王国初の国産 Breguet 機が作られ試験飛行に成功した。陸軍航空部隊はそ の後も拡大し続け、1937年にはタイ王国空軍が創設された。 この国産機は Boripatra と命名された。その後 1928−1929 頃に、数機が作られたようで ある。Boripatra 機は、Jupiter, BMW, Curtiss, Pratt & Whitney Wasp などのエンジンを 載せて飛行し性能比較のためのテストベッドとして使われた。また、Boripatra 機により、 インド(1929-1930)とインドシナ(1930-19319 への親善飛行が行われた。Boripatra 機は、 2 タイ王国が自主的に設計・製作した最初の飛行機として国民の誇りとなっている。 1918年、第1次世界大戦に参戦し航空部隊を含む軍隊をフランスに派遣して対ドイツ 戦の後方支援に当たった。この間フランスで多くのパイロットが養成された。戦後はフラ ンス製航空機が多く輸入され、ライセンス生産が活発になった。その後徐々にイギリスと アメリカ、とくにアメリカの影響が強まるが、第2次世界大戦で日本側につくと日本の航 空機が導入され三菱、中島製航空機等が使われた。 戦後1950年の半ばまでは、余剰のイギリス、アメリカ製の航空機が大量かつ安価に手 に入ったので、航空機の国内生産はほとんど行われなかった。その頃、タイ王国空軍に航 空技術に携わる部署として、Science and Weapon Systems Development Center (SWDC) が設置された。SWDC により設計、試験された航空機を RTAF-に順番数字を付けて標識す ることになった。RTAF-1 については詳細不明であるが、1927年製傑作機の Boripatra 機に付与されたようである。RTAF-2 は、富士重工製 FUJI LM-1 を基に設計された。 RTAF-3 については詳細不明だが、当時開発に関与した Preecha 空軍少将によれば、横浜の日本飛 行機(株)の風洞で実験が行われた。実機製作にはいたらなかった。RTAF-4 は、De Haviland of Canada 製 DHC-1 Chipmunk の改造機である。14機が生産された。RTAF-5 は、機体 形状は North American OV-10 Bronco に似ているが、Bronco が双発であるのに対して、 RTAF-5 は単発プッシャータイプである。1984年、初飛行に成功、試作機2機が作られ た。主任テストパイロットの墜落死により、プロジェクトを終了した。1974年に、ア メリカから自家製 Pazmany PL-1 が導入され2機が組み立てられた。1982年、ドイツ Rhein-Flugzeugbau GmbH 製自家組み立て式 RFB Fantrainer を導入した。2機は組立済 み実機として受け取ったが、残りは一式キットとして輸入しタイ国内で組み立てた。同様 にキットから組み立てた例では、Kasetsart University の Department of Aerospace Engineering で、1988年から90年代初頭までに、Rotorway Exec 90 ヘリコプター数 機が組み立てられ、農業などへの応用について評価試験に用いられたようである。 下図は、Preecha 少将から提供された記録文書等コピー集の2ページの複写である。第2次 大戦後に開発が試みられた試作機等の一覧である。 3 タイ王国空軍博物館 タイ王国空軍博物館は、1952年に設立された。タイ王国航空史の初期から今日に至る までに国土防衛のために使われた航空機、部品等の物件を収集、修復することを目的とし ている。はじめは Don Muang 飛行場の西にある格納庫に設置され、1959年3月27日 までは公開されなかった。現在のものは、1968年3月26日に起工、同年11月15 日に竣工した。総工費は、6,635,000 バーツ。1969年1月24日から一般公開された。 博物館には世界でも数少ないタイプの航空機がいくつか展示されている。その多くは、第 2次世界大戦で使われタイ王国の独立を守るために重要な役割を果たした機体である。 RTAF のパイロットたちに与えられた多くの戦勝記念勲章は、彼らの勇猛さを示している。 展 示 の 飛 行 機 に は 、 The Type 10 (Hawk 3), Model I (Corsair), Bomber model II (Boripatra), Tachikawa, RTAF-5, F-84G, H-86F, F-86L, Spitfire などがある。 (以上、Royal Thai Air Force Meseum パンフレットより抄訳) Tachikawa と銘打った機体は下の写真のように全体を黄色にペイントされて展示されてい た。これはおそらく立川キ−36 九八式直協偵察機と思われる。 4 写真: 黄色の Tachikawa 機 (写真提供:山口俊吉 氏) あとがき タイ王国航空史におけるパイオニアスピリットと今日まで引き継がれている技術開発に対 する熱意に敬意を表したい。航空史の初期は、パイロット養成に始まり、実用機を導入し て運行することに主眼が置かれたようである。植民地化の波に抗して独立を守るために、 技術的独立を維持する必要性から航空機の自主開発のための研究が行われた。実用化され た機種は少ないが、最新技術の習得、技術者の養成、技術の継承などに重要な役割を果た してきたように思われる。近年では、欧米製小型機組み立てキットの導入・組み立てが盛 んなようだが、本格的な航空機開発への参入が困難の状況下では、実用性もかねて全機体 システム製作の経験を与えるという教育的意義は大きい。 参考資料 1.ROYAL THAI AIR FORCE MUSEUM(博物館発行・配布リーフレット) 2.Preecha 少将提供の記録文書等コピー集 3.http://www.aeroflight.co.uk/waf/aa-eastasia/thailand/thai-manu-history3.htm 4.http://www.earlyaviators.com/ethai5.htm 5 Info-Plaza Meeting 発表資料 Present and Future In Korea Aerospace Industries Dr. Tae Shik OH Presented at the 2005 Info Plaza Meeting on Aerospace Cooperation, Seoul, Korea Korea Aerospace Industries, LTD. - CONTENTS Ⅰ. Overview Ⅱ. Aircraft Business Ⅲ. Space Business Ⅳ. Vision Ⅰ. Overview History of Aircraft Business ’80 ’85 ’90 ’95 ’00 Depot Maintenance and Fixed Fixed ’05 T-50 Final Assembly KT-1 Wing Wing KF-5E/F KF-16 Temporary Vacuum Period Rotary Rotary Wing Wing AeroAeroStructure Structure 429M KLH 500MD UAV UAV SB-427 UH-60 KHP UAV Boeing, Airbus, etc F-15K Apache Korea enters into industrialization stage upon license production of KF-16 and UH-60 in 1990’s, and opens a new era through KT-1 and T-50 development and marketing. History of Space Business ’90 ’95 ’00 ’05 Broadcasting Broadcasting and and Communication Communication KOREASAT 1,2,3 KOREASAT-5 Remote Remote Sensing Sensing (KOMPSAT: (KOMPSAT: Korea Korea KOMPSAT-1 Multipurpose Multipurpose Satellite) Satellite) KOMPSAT-2 Scientific Scientific (STSAT (STSAT :: Science Science & & Technology Technology Satellite) Satellite) Uribyul-1 Uribyul-2 Uribyul-3 STSAT-1 STSAT-2 Launch Launch Vehicle Vehicle (KSR: (KSR: Korea Korea Sounding Sounding Rocket) Rocket) KSR-1 KSR-2 KSR-3 Korea has built up the space infrastructure through the first launch of 100kg class micro satellites in 1992 and scientific sounding rocket in 1993. Trend of Aerospace Production ($M) 1,600 1,400 1,200 Military 1,366 181 1,243 144 340 1,000 Commercial Domestic 1,187 292 237 951 950 Export 1,267 257 356 1,010 911 371 800 600 1,185 1,099 1,026 400 816 200 - - 2002 - 2003 - 2004 2005 * Source : Statistical Analysis from Korea Aerospace Industries Association (Spring 2005) • Aerospace industry in Korea mostly depends on military program and total production of 2005 is expected to be about $1,267. Itemized Aerospace Production Unit : $M 2002 Aircraft Space 2003 2004 2005(expect) Aircraft 747 670 518 496 Aero-structure 188 184 235 261 Engine 298 284 287 332 Electronics 78 53 67 60 Accessory 37 39 53 73 Material 2 -- 3 3 Sub Total 1,350 1,230 1,163 1,226 Launch Vehicle 7 5 11 3 Satellite 10 8 13 38 Sub Total 17 13 24 41 1,367 1,243 1,187 1,267 Total * Source : Statistical Analysis from Korea Aerospace Industries Association (Spring 2005) • Aircraft, aero-structure and engine production occupy most of aerospace production History of Major Aerospace Companies ’75 ’99.10 SAMSUNG SAMSUNG Precision Aerospace Industries 1974 1987 HYUNDAI Technology and Development 1994 HYUNDAI Space & Aerospace 1996 DAEWOO Heavy Industries 1984 1976 1976 • The ROK Government Designated KAI as a Specialized Defense Industry for all Government-ordered Fixed/Rotary-Wing Aircraft Programs (February 2000) to prevent excessive competition and overlapping investment Aerospace Companies in Korea Total 40 companies in Korea Three (KAI, KAL, Samsung Techwin) companies occupy over 95% market share KAI is designated as a system integrator of aircraft programs Companies Aircraft KAI Engine Samsung Techwin Aero-structure Accessory Material x KT-1, T-50, UAV, KHP, SB-427 x Gas turbine License Production (T700, F100 Engine etc) x Industrial Turbo Machineries KAI x B737/B747/767, A380, Bell212/412, AH-64D, F-15K KAL x B747/777, A330/340, ERJ170/190 Nex1-Future, Electronics Major Products x Avionics, Electronic Warfare System Samsung Thales x Tactical Air Navigation, Search and Tracking Radar STX Radar sys x UAV Communication System Hanwha Wia Korea Lost-Wax Hankuk Fiber x Aircraft Hydraulic Part (B787 etc) x Aircraft Landing Appliances x Precision Casting x Composite Material Profile of KAI Revenue : U$628M (2004) Aerostructure 17% Space & others 5% Export 18% Fixed Wing 73% Rotary Wing 5% Domestic 82% Workforce : 2,779 people (As of October, 2005) Seoul Office 26 Land Facility 1,141 k(sqm) 241 k(sqm) Head Office (Sachon) 1,852 Sachon#2 Plant 313 Changwon Plant 588 KAI’s experiences and on-going programs Establishment of KAI 1990 1995 2000 KFP I - 120 (1992 ~ 1999) 2005 2010 KFP II - 20 (2000 ~ 2004) T-50 Production (2005 ~ ) KT-1 Production (2000 ~ ) KT-1, T-50 Development UAV Production Corps Level (2001~2004) UAV Development 429M/KHP Development (2005~ ) SB-427Development (1996 ~ ) P-3C Upgrade (2004 ~ ) E-X Upgrade Aero-Structures B412/212 (1987 ~ ) CH-47D (1989 ~ ) Satellite Commercial Dauphin Airplane (1993~1994) KOMPSAT-1 (1999) F-15K B787 Apache A350 KOMPSAT-2 (2005) KOMPSAT3/5 Ⅱ. Aircraft Business Program Management Structure Prime Minister AIDPC : Aerospace Industry Development Policy Council Government MND MOCIE Government Agencies KARI KARI ADD ADD System Integrator DPA DPA KAI KAI Industry Korean Korean Industries Industries MOCIE: Ministry of Commerce, Industry & Energy MND : Ministry of National Defense DPA : Defense Procurement Agency KARI: Korea Aerospace Research Institute ADD : Agency for Defense Development Development Roadmap Year ~ 2005 2005 ~ 2010 2011 ~ 2015 Fixed Wing KT-1 KT-1C, CAS Super KT-1 T-50 A-50, F-50 KFX SB427 429M 429 Derivatives KHP Next-Generation Heavy Helicopter Rotary Wing UAV Corps Level UAV Division Level UAV Medium&High Altitude UAV Upgrade P-3 E-X C-130 Aero-Structure Apache, F-15K, B737, A380 A350, B787 300-Passenger Class Airplane Ⅲ. Space Business Program Management Structure President NSTC : National Science & Technology Council Government MOCIE Government Agency Industry MOST MOIC MND KARI KARI ETRI ETRI ADD ADD Korean Korean Industries Industries KARI: Korea Aerospace Research Institute MOST : Ministry of Science & Technology MOCIE: Ministry of Commerce, Industry & Energy ETRI: Electronics & Telecommunications Research Institute MOCT : Ministry of Construction & Transportation ADD : Agency for Defense Development MND : Ministry of National Defense Mid- and Long-term National Space Development Plan 2005 2007 KSLV-1 2000 2003 STSAT-1 1999 KOMPSAT-1 2005 KOMPSAT-2 2007 STSAT-2 2008 COMS-1 1999 KOREASAT-3 2008 KOMPSAT-5 1999 KITSAT-3 2010 STSAT-3 2010 2015 KSLV-2 2014 KOMPSAT-7 2013 KOMPSAT-6 2014 COMS-2 2011 KOMPSAT-3A 2009 KOMPSAT-3 Development Roadmap Stage Stage 11 (( ~2005) ~2005) Stage Stage 22 (( ~2010) ~2010) Stage Stage 33 (( ~2015) ~2015) Satellite Satellite KOMPSAT-1 KOMPSAT-2 KOMPSAT-3/5 COMS-1 STSAT-3 KOMPSAT-6/7 COMS-2 STSAT-3 Launch Launch Vehicle Vehicle Space Center KSLV-1 COMS : Communication, Ocean and Metrological Satellite KSLV : Korea Space Launch Vehicle KSLV-2 Ⅳ. VISION Vision Revenue USA $100 B Enter into Global Top 10 Countries by 2015 EU Russia 3 Revenue : over $10B 3 Indigenous Development Capability ★ Year 2015 $10 B Year 2010 $5 B $1 B Singapore Licensed Production Korea India Taiwan Indonesia Co-Development Technology Level China Canada Japan ★ Brazil Israel Indigenous Development Strategy Aircraft Marketing •International Alliances •Customer Satisfaction Cost Reduction • Outsourcing • Restructuring Core Competence •Specialization •Improvement Growth Plan $10B Others Aero-Structure Rotary-Wing - 429M / KHP $5B Fixed-Wing - T-50/KT-1 Series - UAV $1B 2005 2010 2015 Concluding Remarks Roll-Out Ceremony 1st Production article of T-50 (August 30th 2005) KAI successfully rolled out 1st production article of T-50, which means Korea becomes 12th country to produce supersonic aircraft. Based on the success in T-50 development, Korea will continue its maneuver toward global top 10 aerospace countries by 2015. Info-Plaza Info-Plaza Meeting Meeting 2005 2005 The Korea UAV Roadmap Oct 19, 2005 Prof. Jinsoo Cho, Ph.D. Hanyang University, Seoul, Rep. of Korea ( < Chairman, The Korea Engineering and Industrial Roadmap Committee Director, The Korean Society for Aeronautical and Space Sciences Editor in Chief, The Korean Society for Engineering Education ) OVER VIEW Introduction The UAV Roadmap Committee Target Selection of the Korea UAV System Platform Control & Communication Mission Equipments Support & Service The Target UAV System Design Requirements Conclusions Introduction(1) The TheKorea KoreaUAV UAVRoadmap RoadmapBackground Background High Market Growth Potential Next-Generation Aerospace Technologies Heavy Global Competition in the Future : Right Time to Step in Relatively New Market : Low Entrance Barrier Rapid Return for R&D : Based on Mature IT Industry of Korea Relatively Low Risk : Industry Development Based on Domestic Demand Introduction(2) The TheKorean KoreanUAV UAVBackground Background Unmanned Target Drone (1970’s) Practical UAV Development Stage (1990’s) Operation of UAV by Korean Army (Present) The Korea Robot Aircraft Competition (2002~Present) Feather Featherof ofKorean KoreanUAV UAVIndustry Industry Major Contender in Global UAV Market Top-class Technological Competitiveness Significant Market Share of Domestic & Regional Market Growth Engine for Korean Aerospace Industry Introduction(3) Korea KoreaDomestic DomesticMarket MarketTrend Trend Growing Military Demand in Small/Mini UAV Systems Quickening of the UAV System Parts/Equipments Industry Emerging Civilian Market, Intermittence of Military Demand Million $ 200 150 100 50 0 2002 2003 2004 2007 ☞ World Market for Unmanned Aerial Vehicle (UAV) Systems, Frost & Sullivan, 2001 ☞ ROK Army Information School , 2002 ☞ Courtesy of Korea Aerospace Industry (KAI) Introduction(4) The TheKorea KoreaRobot RobotAircraft AircraftCompetition Competition The The 11stst Year Year Competition Competition (Final (Final October October 5~6, 5~6, 2002) 2002) 33 Teams Competed at Hankuk Aviation University 18 Teams for Final Competition → None Completed the Final Mission nd Year The Year Competition Competition (Final (Final October October 3, 3, 2003) 2003) The 22nd 36 Teams Competed at Hankuk Aviation University 10 Teams for Final Competition → 2 Teams Near Final Mission The The 33thth Year Year Competition Competition (Final (Final September September 19, 19, 2004) 2004) 33 Teams Competed at Hankuk Aviation University 15 Teams for Final Competition → 2 Teams Completed the Final Mission The The 44thth Year Year Competition Competition (Final (Final October October 2, 2, 2005) 2005) 28 Teams Competed at Hankuk Aviation University 7 Teams for Final Competition → 1 Teams Completed the Final Mission The UAV Roadmap Committee(1) Objective Objective A Blueprint for UAV Industry & Market in Korea for the Following Decade “Choice and Concentration Perspective” of the Core Technology Prediction of Future Market and Future Technology Selection of Product (Technology) Groups to Concentrate Definition of Technical Difficulties & Solution Paths Proposal of Executive UAV System Development Projects The UAV Roadmap Committee(2) The TheCompetitive CompetitiveCore CoreTechnology TechnologySelection Selection More Profitable Areas with Larger Integration Effects among World Level Technologies in Korea Areas of the Less-than-5-years Technology Gap Compared to the Technologically Advanced Countries Potential Areas where System Can be Immediately Converted into Military Use such as Aircrafts and Missiles while Operated in the Civilian Industry The State-of-the-art Technologies that has Large Effect on the Other Industry System Integrated Technology that Drives the Korea Aerospace Industry into the World Top 10 Class The UAV Roadmap Committee(3) The TheCommittee CommitteeOrganization Organization The UAV Committee Chairman : Jinsoo Cho (Hanyang Univ.) * Manager Jon Ahn (Sejong Univ.) * Administrator Bonggyun Kim (KOTEF) Platform Control/Communication Mission Equipment Support/Service Sub-chairman Byungchul Choi (KAL) + 3 specialists Sub-chairman Jaekun Song (Ucon System) + 3 specialists Sub-chairman Byunggul An (LG Innotek) + 3 specialists Sub-chairman Jangwhan Park (UAV Center) + 3 specialists Target Selection of the Korea UAV System(1) The TheUAV UAVIndustry Industry& &Operation OperationTechnology TechnologyTree Tree Target Selection of the Korea UAV System(2) Classification Classificationof ofUAV UAVIndustry Industry& &Operation Operation Target Selection of the Korea UAV System(3) Market MarketPortfolio Portfolioof ofUAV UAVTechnologies Technologies(Products) (Products) Target Selection of the Korea UAV System(4) Technology TechnologyPortfolio Portfolioof ofUAV UAVTechnologies Technologies(Products) (Products) Target Selection of the Korea UAV System(5) Priority PriorityAnalysis Analysisof ofthe thePortfolios Portfolios Platform(1) Definition Definition& &Characteristics Characteristicsof ofthe thePlatform Platform Definition Definition Flight Vehicle & Onboard Equipments to Complete the Mission Characteristics Characteristics Weight & EMI of Mission Equipments are Critical. Mission Depends on Endurance & Radius. System Reliability Depends on Subsystems & Integration. Flight Vehicle is Less Important than Manned Vehicles. Platform(2) Market MarketTrend Trendof ofthe thePlatform Platform Approx. 30% of UAV System Acquisition Cost World WorldMarket Market Domestic DomesticMarket Market Airborn Recovery System Electric Equipments Navigation System Flight Computer Rotary Wing System Million $ 5 4 Airborne Recovery System Electric Equipments Navigation System Flight Computer Rotary Wing System Million $ 400 300 3 200 2 100 1 0 0 1999 2001 2003 2005 2007 1999 2001 2003 2005 2007 ☞ World Market for Unmanned Aerial Vehicle(UAV)Systems, Frost & Sullivan, Aerospace Daily, 2002.12 Platform(3) Technology TechnologyPortfolio Portfolioof ofthe thePlatform Platform Control & Communication(1) Definition Definition& &Characteristics Characteristicsof ofthe theControl Control& &Communication Communication Definition Definition Ground Control System & Ground /Airborne RF Bi-directional Data-link System Characteristics Characteristics Real-time Flight / Take-Off / Landing Control. Prediction & Measure for Emergency Situation is Critical. Higher Requirements on Communication Range & Data Band Width. Encrypted Data, Redundant Dual Data-Link. Control & Communication(2) Market MarketTrend Trendof ofthe theControl Control Approx. 15% of UAV System Acquisition Cost World WorldMarket Market: :Control Control Domestic DomesticMarket Market: :Control Control Million $ 40 500 400 300 200 100 0 20 0 1998 Flight Control Equipment 비행조종장비 Image Control and Analysis Equipment 영상조종및분석장비 Mission Plan Equipment 임무계획장비 Automatic Landing/Take-off Guidance Equipment 자동이/착륙유도장비 Million $ 2000 2002 2004 2006 2008 1998 2001 2004 ☞ World Market for Unmanned Aerial 2007 Vehicle(UAV)Systems, Frost & Sullivan, Aerospace Daily, 2002.12 Control & Communication(3) Market MarketTrend Trendof ofthe theCommunication Communication Approx. 15% of UAV System Acquisition Cost Domestic DomesticMarket Market: :Communication Communication World WorldMarket Market: :Communication Communication Million $ Million $ 1500 40 30 1000 20 500 10 0 0 1999 2001 2003 2005 2007 1999 2001 2003 2005 ☞ World Market for Unmanned Aerial 2007 Vehicle(UAV)Systems, Frost & Sullivan, Aerospace Daily, 2002.12 Control & Communication(4) Technology TechnologyPortfolio Portfolioof ofthe theControl Control& &Communication Communication Mission Equipments(1) Definition Definition& &Characteristics Characteristicsof ofMission MissionEquipments Equipments Definition Definition Sensing Device & Subsystems to collect Image Information Characteristics Characteristics Perceived Indicator of UAV System Performance. Multi-Functioning Equipments. Application of Commercial Products. Mission Equipments(2) Market MarketTrend Trendof ofMission MissionEquipments Equipments Approx. 12% of UAV System Acquisition Cost World WorldMarket Market Domestic DomesticMarket Market Million $ Million $ 2 1.5 1 0.5 0 1999 2001 2003 2005 2007 800 600 400 200 0 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 ☞ World Market for Unmanned Aerial Vehicle(UAV)Systems, Frost & Sullivan, Aerospace Daily, 2002.12 Mission Equipments(3) Technology TechnologyPortfolio Portfolioof ofMission MissionEquipments Equipments Support & Service(1) Definition Definition& &Characteristics Characteristicsof ofthe theSupport Support& &Service Service Definition Definition Visible/Invisible Technologies & Equipments to Support the UAV Operation Characteristics Characteristics Most Time-Consuming Area for the UAV System Operation. Inter-Organization & International Cooperation are Needed for Standard & Regulation (Very Important Issue to be Solved) Support & Service(2) Market MarketTrend Trendof ofthe theSupport Support& &Service Service Approx. 10% of UAV System Acquisition Cost World WorldMarket Market Domestic DomesticMarket Market Million $ Million $ 150 20 System Test Equipment System Test Equipment 15 Training Support System Training Support System 100 10 50 5 0 0 1999 2001 2003 2005 2007 1999 2001 2003 2005 2007 ☞ World Market for Unmanned Aerial Vehicle(UAV)Systems, Frost & Sullivan, Aerospace Daily, 2002.12 Support & Service(3) Technology TechnologyPortfolio Portfolioof ofthe theSupport Support& &Service Service The Target UAV System Design Requirements The TheTarget TargetUAV UAVSystems SystemsSpecification Specification Conclusions(1) The TheKorea KoreaUAV UAVSystem SystemDevelopment DevelopmentScenario Scenario Conclusions(2) Executive ExecutiveUAV UAVDevelopment DevelopmentProject Project––1st 1stPhase Phase Conclusions(3) <Motivation> High Market Growth Potential Next-Generation Aerospace Technologies Growth Engine for Korean Aerospace Industry <Analysis> Systematic Analysis of UAV Technologies and Market Selection of Technologies to Concentrate Executive UAV System Development Plan <Answer> Considering Mature IT Industry, Domestic Market Potential, and Future Entrance Barrier → The Right Time for Korea to Focus on the UAV Industry Evolvement of Chinese Aviation Industry Since 1950s Aviation Industries Ministry of Aviation Industry of China (1950s) (1993) AVIC II (1999) AVIC I (1999) Ministry of Aerospace Industry (1988) China Aerospace Industry Ministry of Space Industry (1950s) China Aviation Industry Corporation II (1993) December 200 3 AVIC II ¾ Founded in 1999 ¾ Owns 44 industrial enterprises, 3 institutes and other 22 subordinates ¾ 170,000 employees in total ¾ AviChina – a spin-off company of AVIC II Listed on Hong Kong Stock Exchange Market on Oct.30, 2003 Capitalised over 2bn HK$ ¾ Develops and manufactures a majority of civil aircraft and export aircraft in China. ¾ The premier major enterprise in China undertaking the development and production of helicopters ¾ Subordinate enterprises have delivered in total over 6,667 aircraft (including 778 helicopters), 700+ units exported to 26 countries; 25,571 aero-engines; 10,182 tactical missiles in 52 years. Organization Chart of AVIC II Headquarters President Vice Presidents Planning Aircraft Personnel Resources Helicopter Science International &Technology Cooperation &Trade Engine Airborne Equipment Science & Technology Committee Finance &Audit Quality Supervision Vehicle Non-aero &Tertiary General Office AVIC II Nationwide ★Changchun Beijing Tianjin ★Shijiazhuang ★Qingdao ★Xinxiang ★Hanzhong ★Zhengzhou ∇★Jingmen ★Nanjing Shanghai ★Chengdu ★Changzhou ★Wuhan • Ya’an ★Nanchang ★Yibin ★Changsha ∇ ★Zhuzhou ∇ ★Jingdezhen ★Lanzhou •Kunming ★Enterprise ∇Research Institute •Other Subsidiaries • Hong Kong The People’s Republic of China ★Harbin Main Production Bases Harbin Aviation Industry (Group) Co., Ltd. • Established in 1952 and located in Harbin; • 7,558,354m2 land area; 26,000 employees ; • The R&D and production base of medium/small helicopters, light aircraft and regional aircraft, such as, Z5, Z6, Z9 helicopters and Y11, Y12, H5 aircraft; • 1400 aircraft accumulated produced and sold in 50 years. Main Production Bases Shaanxi Aircraft Industry Co. Founded in 1969 at Hanzhong, Shaanxi Province; • The sole R&D and production base of medium and large-sized transports - Y8 series aircraft; • 3,000,000m2 land area; over 8,400 employees; • Owns the largest final assembly hanger in Asia. • Main Production Bases Hongdu Aircraft Industry Group • Founded in 1951, located in Nanchang, Jiangxi Province; • 7,155,190m2 land area, 12,085 employees; • The birthplace of the first home-made aircraft of P.R.C.; • More than 4,400 aircraft in over 20 models produced and sold since 1951; • Aero-products: A5 series attacker, K8 and CJ6 trainer, N5A agricultural aircraft. Main Production Bases Changhe Aircraft Industry Group • Founded in 1969, located in Jingdezhen, Jiangxi Province; • The R&D and production base of helicopter in China; • 2,778,328 m2 land area, 9,828 employees; • Aero-products: Z8 and Z11 series helicopter, S92 helicopter. Main Production Bases China National South Aeroengine Co. • Founded in 1951 and located in Zhuzhou, Hunan Province; • The birthplace of China’s first aero-engine; • 5,269,530 m2 land area; 8,502 employees; • Aero-products: WJ6 turboprop engine, WZ8 series turboshaft engines, HS6 series piston engines, WS11 turbofan engine. Main Research Organisations China Helicopter Research and Development Institute • Founded in 1969 in Jingdezhen, Jiangxi Province; • 1,884 employees, 61,062 m2 land area; • The sole R&D&T institute specialized in helicopter in China; • Design, modify and redesign 2, 4, 6, 13 tonnage helicopter at international advanced level. Main Research Organizations Zhuzhou Aviation Powerplant Research Institute • Founded in 1968 in Zhuzhou, Hunan Province • 544,310 m2 land area, 1,545 employees • The sole R&D center for medium/small aero-engine in China • WZ8 turboshaft series, WJ6 turboprop and WS11 turbofan Main Research Organizations China Special Vehicles Research Institute • Founded in 1961 in Jingmen, Hubei province • 1,875,737m2 land area, 1,160 employees • The sole R&D center for seaplane and ground effect aircraft in China • SH-5 water bomber, “Sky Wing I” wing in ground effect aircraft AVIC II Worldwide ■ ◆ ◆ ■ ◆ ■ ◆■ ■ ■ ■ ◆ ◆ ■ ■ ■ ◆ ◆ Subcompany ■ Office ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ◆ ■ ■ ■ AVIC II Operation Highlights (2004) 21.80% US$3.83bn of total output 24.50% US$3.3bn of sales income 75.50% 78.20% Aero Non-Aero Military Civil Sales Accumulation (Year 2004) K-8 CJ-6 A-5 Y-12 Y-8 149 produced 2406 produced 891 produced 126 produced 96 produced 196 export orders 177 exported 114 exported 93 exported 14 exported Y-5 N-5 Z-11 Z-9 Z-8 1098 produced 18 produced 41 produced 155 produced 21 produced 122 exported 4 exported Export Sales (1981-2004) 40 35 10M USD 30 25 20 15 10 5 0 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 2003 Annual Sales 408 aircraft & helicopters, 4 production (overhaul) lines exported, worth of $1.57bn. Export Coverage (29 Countries, 1981-2004) Mongolia ■ 』 USA ■ ● Mauritania ● Mali ■ Guyana ■ Y 12 ▲K8 19 Countries) (9 Countries) 』 CJ 6 (3 Countries) ● Z-9 (3 Countries) ★ Y-8 (5 Countries) ◎ A-5 (2 Countries) Peru ■ Peru ★■ Iran ◎ ■ Nepal ▲ ▲ ■ ●Pakistan ◎』 ★Myanmar Egypt ▲ ■ ▲★ ■ Laos ■ Eritrea ■ Cambodia ■ Kenya ▲ Uganda ■ Tanzania ★■ ★』■ Sri Lanka ■ ■ Malaysia ■ Kiribati ■Zambia ■ Zimbabwe ■ Fiji ▲ Namibia 3 Main Aero Products Evolvement ¾ ¾ ¾ Helicopters,Transport aircraft, Training aircraft Fighting aircraft , General aircraft, UAVs Related Aero-engines and Airborne equipment Main Aero-Products - Helicopters Z-9 EC-120 Z-8 Z-11 Main Aero-Products – Transports Y – 12 Y-5 Y–8 Little Eagle 500 N-5 A Main Aero-Products – Trainers CJ6 primary trainer Certified in 1962 Max speed 297 km/h K8 primary, mediate and advanced trainer; Certified in 1992 Max speed 800 km/h L15 advanced trainer; Planned maiden flight in Dec. 2005 Max speed 1200 km/h Main Aero-Products – A-5 Attacker Aircraft • Single seat, twin jet engine, supersonic attacker, first flight in 1965; • For close air support, battlefield block and cut off, air self-protection; over 10 derivatives; abundant racks for diversified external stores, maximum external store weight at 3000kg; • Max Mach 1.205,climb rate 148m/s,ceiling 15850m, • TOFL 560m,LFL 750m,Max range >2000km,cruise time 2.9h Main Aero-Products – Others Wing in Ground Effect Vehicle SH-5 Main Aero-Products – UAVs Main Aero-Products – Engines Main Aero-Products – Missiles Main Aero-Products – Airborne Equipment Main Non-Aero Products Chinese vehicle market(<1.3 liter) leader; Domestic brand leader Main Non-Aero Products Main Non-Aero Products International Cooperation Programs & Subcontract Production ERJ145 Series Regional Jet • • • • • • Manufactured by the AVIC II and Embraer joint venture in Harbin for domestic and abroad market; First aircraft rolled out end of 2003; More than 1200 confirmed orders in the world, more than 700 delivered; For passenger transport mainly, also military and civilian executive aircraft; Uniform service and quality in the globe; Lower wing, T tail, retractable landing gear, twin AE3007 turbofan engines. ERJ Series of 50 -Seater Turbofan Regional Aircraft 50-Seater SPECIFICATIONS Seats ERJ145XR ERJ140LR ERJ135LR 50 44 37 5890 5330 4850 24000 21100 20000 852 833 833 Design Range km) 3700 3019 3148 Max. Ceiling(m) 11278 11278 11278 Max. Payload(kg) MTOW(kg) Cruising Speed(km/h) Over 98% of commonality among ERJ145 series ERJ145 3-Elevation Profile S-92 Risk Sharing Partnership Between Sikorsky & Changhe ¾To be able to produce 48 sets of vertical tail annually; ¾To improve technical processes; ¾Strive to expand production share. M430 Fuselage Subcontracting BAe146/RJ Fokker 70/100 Doors SD3-360 Center Wing General Electric Turbine Engine Parts P&W Engine Components RR Engine Inter-Casing Joint Ventures • Harbin Embraer Aircraft Industry Co., Ltd. to produce ERJ145 series aircraft. • Chengdu Engine Group with P&W to produce Aeroengine components (JT8D). • China National South Aero-engine Company with P&WC to produce civil Aero-engine components Forward Looking on Cooperation ¾ Co-design/produce aircraft, aero-engine and airborne equipment ¾ Aviation components subcontract production and participation in risk-sharing international programs ¾ Technology cooperation Z9 Helicopter – In General • 4t class twin-turboshaft engined, multipurpose helicopter; • MTOW 3,850kg, payload 1,863kg, cruise speed 293km/h and ceiling 4,500m; • 75% of localization, expected to rise to 89%; • Accumulated 100,179 safety flying hours, 385,801 time flights; • CAAC certified. Z-9 Helicopter - Milestones • • • • • • 1980 1982 1992 1996 1998 2001 License agreement signed with Eurocopter First example made initial acceptance flight First flight of Chinese made version First batch of Armed version delivered Armed version approved to delivery Type Certified by CAAC Z-9 Helicopter - Dimensions ¾ Length: overall, rotor running 13.71 m fuselage 12.08 m ¾ Width: overall fuselage ¾ Height: overall to top of rotor head ¾ Main rotor diameter 3.21 m 2.03 m 3.97 m 3.51 m 11.93 m ¾ Wheel track 1.90 m ¾ Wheel base 3.64 m Z-9 Helicopter - Descriptions • • • • • • • • • • • • • Max level speed 280km/h Normal cruising speed 250km/h Max rate of climb 6.6m/s Fuel rate at normal cruising speed 1.06kg/km Max range with standard fuel 860km Endurance with standard fuel 4.2h Hovering ceiling IGE (ISA/ISA+20℃) 2150m/1350m Hovering ceiling OGE(ISA/ISA+20℃) 1150m/450m Service ceiling 6000m MTOW 4100kg Max payload 1980kg Empty weight 2050kg Fuel weight for use 900kg Z-9 Helicopter - Main Equipment Basic Equipment • • • • • • • • • • • • • • Radio compass 6AH battery Radio altimeter GPS Encoding altimeter Transponder Intercom Copilot operating system Front wheel locking device Foul weather mooring system Rear sliding door VHF AM Radio HF radio Radar Mission Equipment • Searchlight • Hoister • Optical-electric system • Stretcher • External sling • Life raft • Night vision Z-9 Helicopter - Missions • • • • • • • • • • • • • • Search and rescue Communication and control Calibrating shot, jamming Attack Search and attack submarine Suppress smuggling Forestry fireproofing Ambulance Police executing Passenger and cargo transport Aerial photograph Martine patrol Offshore salvage and support Slung load Z-9 Typical mission - Search and Rescue • • • • • • • • • MTOW: 4100kg Weight empty:2380kg Fuel:900kg Search time: 15 min. Rescue time: 5 min./person Endurance: 4.2h Steel rope length: 90m Max speed with door open: 200km/h Max speed with hoisting load: 148km/h Person: • • • • 2 pilots 1 rescuer 1 hoister operator survivor (max 10) Equipment: • • • • • • Electrical hoister Searchlight Electro-optical slung cabin Stretcher Night vision Sling Z-9 Typical Mission - Transport • Passenger:8 comfortable seats 12 folded seats • Cargo Cabin floor: Area: 6000Pa 4.2m2 • Baggage cabin payload:200kg • Weight empty: 2,275kg • Standard fuel: 900kg • Range without reserve Internal fuel: Auxiliary fuel: 860km plus 140km • Economy cruising speed: 250km/h • Max cruising speed: 280km/h Advantages: • Long range • High speed Z-9 Typical Mission - Ambulance Cabin configuration: • 2 double deck stretchers, 2 comfortable seats • Selected emergent medical equipment Person: • 1 medical attendant • 4 severe patients Advantages: • • • • Quick response Excellent Maneuverability Direct approach No road effect Z-9 Typical mission - City Guard Function: • • • • City air guard Air patrol, control For emergency 2-8 polices Equipment: • Radar • Searchlight • Electro-optical system • Hailer • Snipe scope Z-9 Typical Mission- Armed Version Weapon options: Machine gun, cannon, rocket, missile 8 missiles per mission Day/night attack capability Z9 Helicopter - H series Specifications H410A H425 H450 MTOW(Kg) 4100 4250 4500 Effective Payload(Kg) 1760 1860 2060 Engine Take-off Power(Kw) 626 626 626 Operating Ceiling(m) 4572 4572 4572 Ceiling under Ground Effect(m) 2150 2740 2840 Non-Ground Effect Ceiling(m) 1150 1320 1960 Main Differences Re-engine Z9A with more powerful engines – Arriel 2C Rotor system; Avionics; Anti-crash fuel tank; Structure and interior Rotor system; Duct tail rotor; Transmission system; Control system Status Certified Certified by CAAC in 2004 Concept phase Z8 Helicopter – In General • 13t class, 3 turboshaft engines powered, multipurpose helicopter; • MTOW 13,000kg, maximum cruise speed 248km/h, range 800km, ceiling 3,050m; • Able to take off and land on both ground and water; • Able to float up to 6-10 hours. Z8 Helicopter - Milestones 1975 Development; 1989.4 Technical evaluation for basic version ; 1989.9 Delivery to Chinese Navy 1994 Development for army version 1999 Technical evaluation finished 2001 Delivery to Chinese Army Z8 Helicopter - Dimensions Overall length (rotor turning) Fuselage length 23.035m 18.985m Overall width(rotor turning) Fuselage width 18.90m 2.24m/ 5.2m(with float) Maximum height(Empty weight) 6.66m Main rotor diameter Tail rotor diameter 18.90m 4.00m Wheel track Wheel base 4.30m 6.567m Cargo cabin 7m×1.9m×1.83m Z8 Helicopter - Descriptions Flight performance: H=0, ISA Take-off weight(kg) VNE(km/h) Cruise speed (km/h) Hovering IGE (m) Max. rate of climb Service ceiling Max. range(km) Max. endurance (h) 13000 275 232 2600 5.1 3500 853 4.59 Z8 Helicopter - Descriptions • Water landing To be operated safely under sea state II and wind speed of 20~ 25km/h –Max.taxing speed on water 18km/h –Max.towing speed on water 10km/h –Water floatation time (still sea) 6-10h Z8 Helicopter - Main Equipment • • • • • • • Self-adaptive SW radio Anti-interference USW radio Intercom Radio compass Autopilot Doppler navigation system Weather radar Z8 Helicopter - Missions Civil: EMS, cargo transportation, short-haul passenger transport, sightseeing, external sling Military: Troop transportation, external sling, ASW, logistic support, medicare Z8 Typical mission – For General Purpose 3 crew + 39 passengers (or 4-ton cabin load/5-ton ext. load) Options: In-cabin cargo transport equipment Jeep mooring device External sling equipment Rescue hoist Ferry tank Z8 Typical mission – Search and Rescue Mission Equipment Options: • • • • • • • • • • • SAR Radio Electronic map auxiliary navigation Forward infra-red imaging system ADF Rescue hoist Heavy duty search light Loudspeaker Winch Stretcher Rescuer-seat Self-identification transponder Z8 Typical mission - Carrier 3 Crew + 27 fully armed personnel Additional deck landing devices Rotor and tail pylon foldable Z8 Typical mission - Z8F ¾ To re-engine:increase take-off power from 1190Kw to 1448Kw; ¾ To improve rotor:develop anti-icing and de-icing composite blades; ¾ To integrate avionics:adopt advanced integrated avionics. Specifications Z8 Z8F Engine Take-off Power (Kw) 1190 1448 1st Time Overhaul Limit(h) 500 3500 Start at 4,500m altitude Unable Able Operating Ceiling(m) 3050 4700 Hovering Ceiling with Ground Effect(m) 1900 2800 Z11 Helicopter – In General • 2.2t single turboshaft engine powered, multipurpose helicopter; • MTOW 2,200kg, speed 238km/h, ceiling limit 5,240m, and range 600km; • First flight in December 1996. Certified by CAAC in 2001. Z11 Helicopter – Milestones 1989 Development 1994 First flight 1996 State-level evaluation 1997 Small batch production 1998.9 First batch of delivery for military training 2001.4 TC by CAAC Z11 Helicopter – Dimensions Overall Length(rotor turning) 13.012m Fuselage length 11.240m Overall width(rotor tuning) 10.690m Fuselage width 1.80m Max. height(empty weight) 3.14m Main rotor diameter 10.69m Tail rotor diameter 1.86m Skid track 2.09m Z11 Helicopter – Descriptions Engine Type Take-off weight (kg) Total fuel capacity (kg) MGB limit (kw) Max. cruise speed (km/h) Max. rate of climb (m/s) Range (km) Duration (h) Dynamic ceiling (m) (V=1m/s) IGE Static ceiling (m) OGE Static ceiling (m) ARRIEL 2B1A 2250 423 440 243 10 625 3.86 5270 4082 3369 WZ-8D 2000 423 440 248 9.8 634 4.11 5400 3750 3000 Z11 Helicopter – Main Equipment • Integrated compass • Air temperature indicator • Stability augmentation system • USW radio • Intercom • Radio compass • Radar altimeter Z11 Helicopter – Missions • Flight training • Aerial photography and relay • Sightseeing, business, transportation • Boarder patrol, air command • Rescue • Forest fire fighting, fertilizing and pesticiding • Air reconnaissance, law reinforcement • Geological survey, power line patrol Z11 Typical mission - Trainer Dual pilot High reliability High mission accomplishment rate Low training cost Z11 Typical mission – Aerial Photography Mission Equipment: Gyro stabilized video camera, 6 inch liquid crystal monitor, 10 inch liquid crystal monitor, videocorder, automatic tracking devices, video camera head, controller, transmitter, receiver,cooling fan, power, wave filter and waveguide, cabinet, data conversion interface, GPS. Z11 Typical mission – Law Reinforcement 1 pilot + 2-4 policemen Mission Equipment: Search light Loudspeaker Double stretcher Electric winch Emergency float landing gear Cable cutter Emergency locating transmitter Machine gun Ripping ring Z11 Typical mission – Sightseeing, Business,Transportation 1 pilot + 5 passenger (or 1 pilot + 2.16m3 Cargo) Z11 Typical mission - Ambulance 1 pilot + 2 medical service personnel Mission Equipment: Bunk stretcher and medical equipment Z11 Prototype Single-Engined Version Twin-Engined Version Specifications Z11 Z11MB1 Z11MB2 Take-off Power(Kw) 510 557 343×2 Max. Continuous Power(Kw) 450 544 283×2 Effective Payload(Kg) 880 1074 1164 Operating Ceiling(m) 5240 6000 5168 Non-ground Effect Ceiling(m) 3000 4484 3283 Ceiling under Ground Effect(m) 3750 5171 3932 9.8 11.3 8.4 certified & delivered certified in 2003 concept phase Max. Climbing Rate(m/sec.) Status EC120 • 1.7t single turboshaft engined light helicopter; • Takeoff weight 1,770kg, speed 232km/h, range 748km, ceiling 6,035m; • Jointly developed by China (24%), France (61%) and Singapore (15%); • First flight in 1995 and more than 460 units delivered. EC120 - Milestones EC120 is the first helicopter completely developed and certified through international cooperation by Chinese aviation industry. 1993.1 Joint design by China, France and Singapore; passed preliminary design review 1994.3 Detailed design review by Eurocopter 1995.3 1st Chinese made proto type delivered 1995.6 1st flight 1996.7 Airworthiness test flights 1997.6 JAA TC obtained 1998.1 FAA TC obtained 2000.10 CAAC TC obtained 2003.11 Trilateral agreement signed to build a EC120 F/A line in Hafei, renamed as HC120 2004.6 Bilateral agreement signed between China and France 2004.9 Start production line building and final assembly simultaneously 2004.12 1st flight by 1st HC120 2005.7 4 HC120s delivered to customer EC120 - Dimensions EC120 - Descriptions Max. take-off weight 1,715 kg Max. take-off weight (ext. load) 1,800 kg Standard Empty weight 960kg Effective load 755kg External load 700kg Usable fuel 325kg Engine – single TM Arriel 2F 504 shp Fuel capacity 413 Litre Seating 5 EC120 - Performance Under Max. take-off weight: Service ceiling 5,180m IGE hovering ceiling (ISA) 2,960m OGE hovering ceiling (ISA) 2,350m Fast cruise speed 230km/h Max. range no reserve fuel, ISA, sea level 732km standard fuel tank 325km EC120 - Missions Law reinforcement Passenger and business transport General aviation • News collection • External load transport • Agricultural spraying • Power line patrol Liaison Aerial medical transport Observing EC120 – China F/A Line On November 20, 2003, agreement signed among the 3 parties of China, France and Singapore to build the second production and final assembly line in Hafei. Major Performances of Helicopter Type MTOW (Kg) Cruising Speed (km/h) Operating Ceiling (m) Range (km) Cruising Duration (h:min) Z8 13000 248 3050 800 4:06 Z9 3850 293 4500 910 4:24 Z11 2200 238 5240 600 3:42 EC120 1770 232 6035 748 4:12 CJ6 Series Trainer • Single engine, lower wing, tandem seat • For pilot primary training, also used by flight clubs for training, sports and recreation, famous in North American, European and Australian markets K-8 Trainer - Specifications First flight in 1990, certified in December 1992 Max level speed at S/L 800km/h Max T-O weight 4,332kg Max rate of climb 30m/s Unstick speed 185km/h Service ceiling 13,600m Touch down speed 160km/h Range with external fuel 2,140km Landing run 530m Endurance with external fuel 4.2h T-O run 440m K-8 Trainer - Missions Primary and advanced trainer for: • Training at full weather conditions • Take-off and landing • Navigation, Flight at night, Flight by instrument • Formation flight • Acrobatic flight • Air-air, air-ground fight • Attack ground, battle field support K-8 Trainer - Weapon Options Light attack jet weapon options: • • • • • • • • • • • 1ⅹ23mm gun 1ⅹ23mm gun + 2ⅹ250 ltr drops 1ⅹ23mm gun + 4ⅹ6 kg trg bombs 1ⅹ23mm gun + 4ⅹ11.5 kg trg bombs 1ⅹ23mm gun + 4ⅹ50 kg trg bombs 1ⅹ23mm gun + 2ⅹ12 rockets 1ⅹ23mm gun + 2ⅹPL-7 missiles 1ⅹ23mm gun + 4ⅹ50 kg trg bombs + 2ⅹ12 rockets 1ⅹ23mm gun + 2ⅹ200 kg bombs 1ⅹ23mm gun + 2ⅹ250-3 kg bombs 1ⅹ23mm gun + 2ⅹBL-755 bombs K-8 Trainer - Equipment • Engine TFE731-2A-2A(USA) • Ejection seats MK-CN10LW(UK) • Communication KTR909(USA) • ILS KNR634A(USA) • EFIS EFIS-86T(USA) • AHRS HZX-4A • Air data computer SS/SC-5 K-8 Trainer - Market 112 aircraft delivered to Colombia, Egypt, Morocco, Myanmar, Namibia, Pakistan, Sri Lanka, Zambia, etc. K-8 Trainer - Better Performance K8 IA63 C101 L139 S211 Max level speed ( km/h) 807 740 796 760 667 Max rate of climb (m/s) 30 27 19.3 21.3 21.4 Service ceiling (m) 13600 13000 12192 11800 12200 T-O run (m) 440 460 630 500 440 Touch down speed (km/h) 160 180 176 183 175 Endurance (h) 3.2 2.8 2.8 3.1 3.15 Tailslide maneouvrability yes no no no no K-8 - Customers By the end of 2004, nearly 200 K8s exported in total. Pakistan 12 Myanmar 12 Sri Lanka 9 Egypt 120 Zambia 8 Uganda 6 Zimbabwe 12 Namibia 4 L15 Advanced Trainer New generation fighter trainer L15 advanced trainer K8 basic trainer CJ-6 primary trainer L15 Advanced Trainer Max. level flight Mach Number Service ceiling Max. available angle of attack Range (without/with auxiliary fuel tank) Endurance (without/with auxiliary fuel tank) Touch-down speed Max. service overload ≥ 1.4 ≥ 16000m ≥ 30° 1600/2800km ≥ 2.5/4.2 h 220km/h +8/-3g L15 Advanced Trainer - Schedule 2003.12 2004.12 2005.12 2007 To finish conceptual design To finish detailed design To finish prototype production and make first flight To freeze design and start small batch delivery Y12 - Multi-purpose transport aircraft • • Independently developed by China in early 80’s, twin turboprop engines, upper single wing, single vertical tail, fixed landing gear; 17-19 passenger capacity, max payload 1,984kg, MTOW 5,670kg, speed 328km/h and range 1,340km. TOL and LFL on unpaved runway or grassland in under 500m. Y12 - Multi-purpose transport aircraft • • The very first CAAC TC holder among domestic-made aircraft and the only Chinese-made aircraft holding certificates from CAA and FAA; Utilizing in passenger transport, sea surveillance, land survey, aerial photograph, freighter, forestry planting, artificial rainfall; Y12 - Multi-purpose transport aircraft More than 120 Y12s sold including 93 units exported to 19 countries. Y12 Aircraft - Utilization Tourism Cargo Transport Parachute Ambulance Artificial rainfall Forestry seeding Geological survey Aerial Photography Military Sea Surveillance Y12 Aircraft - Customers By the end of 2004, 93 Y12s in total exported to 19 countries Pakistan 6 Laos 7 Sri Lanka 9 Iran 9 Eritrea 3 Peru 9 Fiji 5 Nepal 5 Mongolia 6 Zambia 4 Mauritania 8 Namibia 2 Kenya 12 Bengal 2 Kiribati 1 Egypt 2 Cambodia 2 Guyana 1 Y12 - Multi-purpose transport aircraft Version Y12 II Y12 IV Y12E MTOW 5300kg 5670kg 5670kg Max. Payload 1700kg 1984kg 1984kg Max. Cruise Speed 328km/h 328km/h 345km/h Operating Ceiling 7000m 7000m 7000m Single Engine Ceiling 3000m 3000m 4200m Range 1340km 1340km 1340km Take-off Power 680hp 680hp 750hp PT6A engine; 17 seats PT6A engine; 19 seats Main Difference Status CAATC in 1990 FAATC in 1995 Re-engine with PT6A-135A for hot and high performance; 19 seats; 4 blades to replace 3 blades; Advance avionics; Change maintenance mode; Fuselage life from 20,000h to36,000h. CAACTC in 2001 Y8 - Multi-Purpose Transport Aircraft • • • • Medium transport/multi-role, four turboprops(WJ6 or PW150A), high mounted wing; Maximum payload 20,000kg, MTOW 61,000kg, single airdrop piece of 7,400kg, ceiling 10,400m, speed 662km/h and maximum range 5,615km; TC awarded by CAAC. 96 units delivered including 14 exported. Y-8 Series Aircraft • Y8 prototype first flight in 1974, Y8C first flight in 1990, Y8F first flight in early 1990; • 10 models developed. Y-8 Series Aircraft - Prototype Specifications Length overall 34m MTOW 61t Max level speed 662km/h 550km/h Wing span 38.00m MLW 58t Max cruising speed Height overall 11.16m Max payload 15t Service ceiling 10400m Cabin length 13.70m Max fuel load 22.909t TO run length 1270m Cabin Volume 123.3m3 Max range 5615km Landing run at MLW 1050m Y-8 Transport - Applications • Airdrop, airborne, freight, passenger transport, lifesaving. As carrier of livestock , helicopter, UAV; • Ability to transport 96 troops, or 82 paratroopers, or 60 litter patients and 33 patients plus 3 attendants; • Ability redesigned as platform of AEW, Tanker, control and communication, electronic warfare, air reconnaissance. Y-8 Transport – Various Versions • • • • • • • • • • • • Y8: Prototype Y8A: Helicopter carrier, deliveries began in 1987 Y8C: First fully pressurized version, CAAC certification in 1993 Y8D: Export baseline version, delivered in 1987 Y8E: Drone carrier version for Chang Hong UAV, first flight in 1989 Y8F: Livestock carrier version, with cargo cabin to contain up to 500 sheep Y8H: Aerial survey version Y8X: Maritime patrol version Y8F100: Cargo version for China postal service Y8F200: Pressurized version of F100, certified by CAAC in 1997 Y8F400: Reduced the flight crew from 5 to 3, certified by CAAC in 2002 Y8F600: Under development with PW150A engines Y-8 Transport - New Versions Specification Y8F200 正在研制 MTOW 61t 改型第三步:Y8F800 Y8F400 Y8F600 61t 65t Max. Payload 15t 15t 20t Operating Ceiling 10050m 10050m 11000m Max. Range 3400km 3400km 3800km Crew 5-crew 3-crew 2-crew Pressurized civil cargo aircraft Redesigned nose and cockpit; Honeywell avionics. CAAC TC in 1997 CAAC TC in 2002 Main Differences Status Re-engine for more power; 6 propeller blades instead of 4; Service life from 20,000h to 30,000h; Cargo capacity from 137m3 to 170m3. First flight planned end of 2005 Y5 - Multi-Purpose Aircraft • • • Capacity of 12 passengers. Max payload 1,500kg, ceiling 4,500m, speed 239km/h; Able to take off and land on unpaved runway or grassland in under 200m. In the unlikely event of engine failure, it can still land safely by gliding; For multi-purposes. More than 1,000 units produced - a domestically made transport in continuous production of longer and higher volume than any other aircraft in China. N5 Series • First flight in 1989 and awarded TC by CAAC in July 1992; • Single engine, tandem, lower wing, fixed landing gear, anti-crash designed; • Maximum payload of 960kg, MTOW 2,450kg, ceiling 4,280m, speed 220km/h; • Flight operating capability in 3~5m low altitude; • Disease prevention and cure, aerial weed, aerial fertilization, annihilate mouse; • Planting forestry, grass and seed, forestry surveillance, eliminating fire, fish survey. Little Eagle 500 • 4 seats single-engined aircraft for multi-purpose including: pilot primary training, transportation, tourism, forestry, aerial photography, etc.; • Range 1800km; • First flight on Oct. 26, 2003; TC award by CAAC in Oct. 2005; first batch delivery in Dec. 2005 China Aviation Industry Corporation II Briefings AVIC II ¾ In general ¾ Helicopters ¾ Aircraft ¾ International cooperation Thank You! IADF Study Committee 2005 Info-Plaza Meeting in Seoul Introduction of IADF Study Committee October 2005 P1 IADF Study Committee IADF (INTERNATIONAL AIRCRAFT DEVELOPMENT FUND) -Non-Profit Public Corporation Established May 22, 1986 by Funds from Japanese Aeronautical Companies -Management of Governmental Development Fund under Control of METI (Ministry of Economy, Trade and Industry) - Promotion of International Collaboration for Civil Aircraft and/or Engine Developments - Office: Toranomon, Minato-ku, Tokyo P2 IADF Study Committee IADF Study Committee IADF study committee has started more than 15 years ago to investigate and research how to promote international collaboration for civil aircraft and/or engine developments. Study Themes • Infrastructure for International Collaboration Developments • Exchange Systems of Advanced Technology and Information among Industries, Laboratories, Universities and Other Related Organization • Education Systems of Human Resources P3 IADF Study Committee Info-Plaza meeting Face to Face Communication among Asian and Oceanian Countries for International Collaboration of Aircraft and Engine Developments in this Region Seven unnamed meetings and three Info-Plaza Meetings were carried out in the past. 1st-Info-Plaza Meeting 2001 in Malaysia 2nd- Info-Plaza Meeting 2003 in Korea 3rd-Info-Plaza Meeting 2004 in Yokohama, Japan Current members: Australia, India, Indonesia, Korea, Malaysia, China, Singapore, Taiwan, Thai and Japan P4 IADF Study Committee IADF Study Committee Member Chairperson: KOGA, Tatsuzo Director, National Institute of Information and Communications Technology former Prof., Engineering Mechanics and Vice President, University of Tsukuba Vice-Chairperson: MURAKAMI, Akira Senior Researcher, SST Unit, Institute of Space Technology and Aeronautics Japan Aerospace Exploration Agency Members: 16 Members including 9 Working group Members, Experts from National Institute, University, Aircraft, Engine and Auxiliaries Manufacturers, Airlines, Think tank, Trading companies and so on Secretariat: International Department, IADF P5 IADF Study Committee 2005 Info-Plaza Meeting in Seoul Overview Japanese Aerospace Industry October 2005 IADF Study Committee Japanese Aircraft Industry Airframe & Engine Manufacturer, MRO and Others (Major leading companies as listed ) • • • • • • • • • • • • MHI (Airframe、Engine、Equipment、Materials) KHI (Airframe、Engine、Equipment、Materials) FHI (Airframe) Nippi (Airframe) ShinMaywa (Airframe) IHI (Engine、Equipment、Materials) Shimadzu (Equipment) Teijin (Equipment) Sumitomo Precision (Materials) Jamco (Airframe、Equipment、Materials) JAL (Airline) ANA (Airline) IADF Study Committee Japanese Aerospace Industry SJAC Member Companies (Major leading companies ) • 100 Regular members • 43 Associated members ( Manufacturers, Operators) • • • • • • • • • • • • • MHI ・ JAL KHI ・ ANA FHI ・ MELCO Nippi ・ NT Space ShinMaywa ・ FUJITSU IHI ・ HITACHI Shimadzu ・ IAC Teijin ・ RSC Sumitomo Preci. ・ MSS kayaba ・ AMS Japan JADC ・ APC Aerospace JAEC ・ Fujikin, Inc. CAC ・ others (Trading firms and others) • • • • • • • • • • • • Mitsubishi Corp. Mitsui & Co. Sumitomo Corp. Sojitu Cop. Itochu Corp. Shin TOA Corp. Jupiter Corporation Yamada Corp. Mitsubishi Research International Aircraft Development Fund Rocket System Corp. others IADF Study Committee Japanese Major Industries Sales Comparison (in Trillion Yen,2004) Aircraft Ship Build Computer Steel Home Electronics General Machinery Automobile 50 40 30 20 10 0 IADF Study Committee Aircraft & Space Turnover 1200 800 600 Aircraft Space 400 2004 2003 2002 2001 2000 99 98 97 96 95 94 93 92 91 0 90 200 89 Billion Yen 1000 Total Turnover is about ¥1200Billion as of JFY2004. IADF Study Committee Aircraft Turnover 1200 Commertial 800 Export include Commertial after 2001 Defense 600 400 200 0 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 2001 2002 2003 2004 Billion Yen 1000 Defense have 62% share of the aircraft Turnover. IADF Study Committee Major Commercial Aircraft Program in Japan Item Year, Start / End Type and Seats Aircraft YS-11 B-767 B-777 A-380 B-787 V-2500 CF34-8 CF34-10 1958-1974 Twin Turbo-prop 60-64 1978- Under Production Twin Turbo Fan Jet 224-303 1990- Under Production Twin Turbo Fan Jet 305-451 Under Development Under Development 1988- Under Production Four Turbo Fan Jet 555 Twin Turbo Fan Jet 200-250 Two Spool Fan Jet Engine 1999-Under Production Two Spool Fan Jet Engine 2002-Under Production Two Spool Fan Jet Engine Total number of Product NOTES 182 Japanese Products 931 as of Feb.03 Boeing: 70% JADC: 15% 619 as of Feb. 03 Boeing: 79% JADC: 21% Service Entry in 2006 Service Entry in 2008 Ordered: 5000 More Delivered: 2621 as of Jun.05 Approx. 21 Japanese makers involved JADC: 35% Mounted on A-319, 320, 321 & MD-90. Collaborated with JAEC/PW/RR/MTU Ordered: 1100 More Delivered:700 CRJ-700,-900, Embraer170, -175, GE&JAEC Collaboration Ordered: 450 More Embraer-190,-195, ARJ700/900, GE&JAEC Collaboration IADF Study Committee Aircraft Industry Import,Export and Trade Balance (in Billion Yen) 400 200 0 Export Import Balance -200 -400 -600 -800 2004 2003 2002 2001 2000 99 98 97 96 95 94 93 92 91 90 89 -1,000 Import amount is about 2-4 times of export. IADF Study Committee Sales in World Wide (in Billion $, 2003) 160 140 120 100 80 60 40 20 0 USA UK France Germany Canada Japan Japanese sales is 1/15 of USA, 1/3 of UK. IADF Study Committee Aerospace Industry Japan FY2004 • • • • ・ • • Turnover: $11 billion Ratio to GDP: 0.2 % Member Co.: 143 Employee : 28,766 Military : 62 % Export : 24 % Trade Balance : - $5 billion IADF IADF Study Study Committee Committee Research Activities for Aeronautics at Japan Aerospace Exploration Agency October, 2005 MURAKAMI, Akira Aviation Program Group Japan Aerospace Exploration Agency IADF IADF Study Study Committee Committee Contents •Introduction of JAXA and Aviation Program Group •Current R&D Projects for Aircraft Technology in Japan •Research Activities for Aeronautics at JAXA - Civil Transport Technology Project - Clean Engine Technology Project - Supersonic Aircraft Technology Project - Others •Flight Test of NEXST-1 at Woomera, Australia (hot topic) IADF IADF Study Study Committee Committee Outline of JAXA (1) Organization Budgets President General Auditor 176 bil.JYen (for JFY2005) General Auditor Office Employee Strategic Planning & Management Dept. Assessment & Audit Office General Affairs Dept. Public Affairs Dept. Office of Space Flight & Operations -R&D of Space Launcher -Launch Operations -R&D of Space Utilization Systems (Intl. Space Station) -Operations of Space Tracking -Large Space Test Facilities Operations Tsukuba Space Center General Administration Office Information Systems Dept. Security Administration Office Human Resources Dept. Finance Dept. Industrial Collaboration Dept. Safety & Mission Assurance Dept. 1,709 (2004.4.1) Contract Dept. International Relations Dept. Office of Space Applications -R&D of Satellite System Tech. -Space Application Programs Earth Observation Research Satellite Applications etc. Ground Facilities Dept. Institute of Aerospace Technology -R&D of Advanced Aerospace Tech. -R&D of Test & Computation Tech. -Large Test Facilities Operation -Aerospace Science Study -Support of Space Development Projects Spectrum Managementt Office Institute of Space & Astronautical Science -Space Science Study -Education for Graduate Students -R&D of Science Mission Satellite Aviation Program Group -R&D of Advanced Aircraft Tech. -Promotion of Aviation Projects IADF IADF Study Study Committee Committee Outline of JAXA (2) Aviation Program Group Executive Director Aviation Program Director Budgets Aviation Program 2.9 bil.JYen(1.7%) Employee approx.90 176 bil.JYen (for JFY2005) Program Office Aviation Program System Engineering Office Safety & Quality Assurance Office Civil Transport Team ・Tech. Support of Environment Adaptive Regional Jet R&D Project (promoted by METI/NEDO) ・R&D on Future Civil Aircraft Technology Clean Engine Team ・Tech. Support of Jet Engine R&D Project for Environment Adaptive Regional Jet (promoted by METI/NEDO) ・R&D on Clean Engine Technology Supersonic Transport Team ・R&D on Super/hyper-sonic Aircraft Technology ・Promotion of Flight Demonstration Projects (NEXST, S3TD) for Supersonic Technology Operation & Safety Technology Team ・R&D on Distributed & Revolutionary Efficient Air-Safety Management System (DREAMS) ・R&D on aviation safety such as cabin safety structures, human factors, etc.. Unmanned & Innovative Aircraft Team ・R&D on Unmanned Air-vehicle for ・Promotion of Flight Demonstration Projects for Super/hyper-sonic Technology IADF IADF Study Study Committee Committee Current R&D Projects for Aircraft Technology in Japan Ministry of Education, Sports, Science and Technology(MEXT) 1. Civil Transport Technology Project R&D on future civil transport technology (high effi. flap design, low-cost composite structure, etc.) 2. Clean Engine Technology Project R&D on clean engine technology (low emission combustor, low noise fan, etc.) 3. Supersonic Aircraft Technology Project Development of Experimental Vehicles & Flight Test (NEXST1, S3TD) 4. Others R&D on Operation & Flight Safety Technology (DREAMS) , etc. Ministry of Economy, Trade and Industry(METI) 1. Environment Adaptive Regional Jet R&D Project Development of Flight Demonstrator for 70-90 passengers regional Jet 2. Jet Engine R&D Project for Environment Adaptive Regional Jet Development of Jet Engine for regional Jet 3. Others IADF IADF Study Study Committee Committee Major Research Projects for Aircraft Tech. in JAXA 1.Civil Transport Technology Project R&D on Advanced Technologies for Regional Jets Low Drag Wing Design High Efficient & Low Noise High-Lift Devices Flight Control Simulation,etc. 2.Clean Engine Technology Project R&D on Component Technologies for Highly Environment Compatible Engines CFD simulation Technology for Turbo-Mechanics Low NOx Combustor Technology Noise Reduction Technology Evaluation Tests for Advanced Engine Materials, etc. 3.Supersonic Aircraft Technology Project NEXST-1 project Non-powered Ex-vehicles to be developed and tested in flight for development of the advanced CFD-design and other important technologies. S3TD project (provisional) Development and flight tests of silent supersonic technology demonstrator (S3TD) for demonstration of the advanced supersonic aircraft concept to reduce sonic-boom intensity by 50%, and other important technologies. IADF IADF Study Study Committee Committee Civil Transport Technology Project Technical support for development of the Regional Jet Demonstrator in METI Project (Environment Adaptive Regional Jet R&D Project , and research and development of advanced technology for future civil transport (regional jet) which is competitive in global aircraft market. 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Technology Target for 2012 -Cost Reduction 20% -Weight Reduction 20% -Community Noise Reduction 20% R&D items METI Development of RJ Demonstrator Flight Tests (Industry) Support for RJ Demonstrator -BL Transition Estimation JAXA -High Efficient High Lift Devices -Wind Tunnel Tests&Structure Tests -Flight Simulations -Low Noise Nozzle Design -Fan Noise Absorber Design Advanced Technology -Low Cost Composite Structure /Low Cost Manufacturing Tech. -Aeroelastic Active Control Tech. -High Efficient Non-Destructive Inspection Tech. -Optimized Aerodynamic Design Tech. -Low Noise Optimized Design Tech. (Acoustic Analysis/CFD Optimization) -Safety Airframe Structure Tech. (Crash Impact Absorbed Seat/Airframe Structure) Commercial RJ(Provisional) Courtesy by MHI Technology support for RJ Demonstrator Test&Computation Advanced Technology Development for Civil Transport (RJ) IADF IADF Study Study Committee Committee Clean Engine Technology Project Technical support for development of the turbo-fan jet-engine demonstrator in METI Program (Jet-Engine R&D Project, and research and development of advanced technology for highly environmental compatible aeroengine which is competitive in global aeroengine market. 2003 Technology Target for 2012 -NOx Reduction 50% (compared to ICAO CAEP-2) -CO2 Reduction 10% (compared to 2000 Tech. Level) -Noise Reduction 10dB (compared to ICAO stage4) 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 Market Research/Feasibility Study METI Development of engine demonstrator Commercial Engine(Provisional) (Industry) R&D items Support for E/G Demonstrator JAXA -CFD Simulation for Turbo-Mechanics -Low NOx Combustor Design -Engine Material Tests in Actual Conditions -Noise Reduction Technology Advanced Technology -Advanced Engine Concept Study (Optimized Integration/AI Control) -NOx Reduction Technology (Combustor Design, Combustion Simulation Tech.) -High Efficient Turbo-Mechanics (Turbine Cooling Optimization, CFD Tech.) -Noise CFD Estimation Technology -Composite Materials Application. (Ceramics Application, etc.) Technology support for E/G demonstrator Test&Computation Advanced Technology Development for Commercial E/G IADF IADF Study Study Committee Committee Supersonic Aircraft Technology Project To establish advanced technology required for next-generation supersonic transport, two types of scaled supersonic experimental airplanes, non-powered one that is launched with the aid of solid rocket booster and glides (NEXST-1) and jet-powered one (NEXST-2), are developed and flight tested. But NEXST-2 project has been cancelled in 2003. Silent Supersonic Technology Demonstrator (S3TD) project is planned as a post project of NEXST-1. -CFD Inverse Design (Airframe Aerodynamics, NLF Wing) -Flight Test system technology 1997 1998 1999 2000 2001 Development of NEXST-1 2002 2003 2005 2004 #1FLT Trial (14 July,2002) Flt. Test Preparation #2FLT Trial (10 Oct., 2005) Repair&Improvement Dec.2002- May 2003 Interim Evaluation by Advisory Committee of MEXT NEXST-1 (1997-2005) 2000 2001 2002 2003 Development of NEXST-2 -Optimized-Inverse CFD Design (Low Drag/Low Boom Config.) -Variable Control Inlet System -Composite Structure Wing 2004 2005 2006 Project cancelled! Flight Tests NEXST-2 (2000-2006) -MDO Design (Low Drag/Low Boom Config.) -Full Composite Structure -Advanced Flight Control System S3TD Project is planned… Development of S3TD IADF IADF Study Study Committee Committee Other Research Research on Operation & Flight Safety… We are pursuing technical research on operation and flight safety for future progress in aviation. 1. Cabin Safety Structure 2. Aviation Human Factors 3. Flight Safety around Airports (incl. air-traffic control system) Research on VTOL aircraft as innovative aircraft… The VTOL aircraft can move vertically up and down and fly like a conventional jet transport aircraft by switching fans in the air in a cruising flight. The aircraft that we aim at has better speed and range characteristics, more payloads and lower noise level than a helicopter. We are researching such convenient and interesting aircraft. 1.System Concept Study 2.Lift Fan Technology IADF IADF Study Study Committee Committee NEXST-1 Flight Test at Woomera, Australia (10 Oct. 2005) Objectives (1) (2) (3) Demonstrate supersonic NLF wing design technology using CFD inverse design Demonstrate low-drag design concepts (CA Wing, AR fuselage, etc.) Accumulate unmanned flight experimental technologies NEXST-1 Vehicle Configuration L 11.5m B 4.7m W 2 tons Outline of NEXST-1 Flight Trial Separation Flight Trial at Mach2 ( alpha sweep flight) Cranked Arrow Wing Warp configuration Launch Natural Laminar Flow Wing Recovery Area-ruled fuselage Total Flight Time : about 15min. IADF IADF Study Study Committee Committee NEXST-1 Flight Test at Woomera, Australia (10 Oct. 2005) Outline of Flight Trial Result Flight trial has been successfully completed, the summary is as follows; (1) (2) (3) System integration technology of aerodynamics, structure and flight control system has been verified through the flight trial. Aerodynamic data necessary for validation of NLF wing and other design concepts has been acquired of more than 300 measurement points, including detailed data of boundary layer transition (hot-film signals, unsteady pressure signals, etc.). Design concepts will be verified by detailed analysis of flight data in the future. We wish to promote close relationship with institutions, industries and universities worldwide. Thank you! IADF Study Committee Activity of Aeronautical Departments in Japan October, 2005 T. WATANABE Department of Aeronautics and Astronautics University of Tokyo 2005-10 The objective of education is ¾ To give students a clear understanding of the problems of aircraft and space vehicles. ¾ To give students a training in engineering sciences such that students are with broad and flexible adaptability. Undergraduate students are classified into the following courses: (1) Aerospace Engineering Course (2) Aerospace Propulsion Course Graduate course is classified into four groups: Group (A) Fluid dynamics Group (B) Structures and Materials Group (C) Flight dynamics and Control Group (D) Propulsion Department of Aeronautics and Astronautics, University of Tokyo Undergraduate Course - Junior, Senior ; 52 students/year - Selection at the middle of Sophomore Graduate School - Master (two-year) course ; 52 students/year - Doctor (three-year) course; about 15 students/year Staffs Professors; 9, Associate Professors & Lecturers; 7, Research Associates; 13 Cooperative Professors from Other Institutions University of Tokyo - Graduate School of Frontier Sciences ; 4 professors - College of Art and Sciences ; 1 professor - Research Center for Advanced Science and Technology ; 3 professors JAXA/ISAS (Institute of Space and Astronautical Science) ; 8 professors Department of Aeronautics and Astronautics, University of Tokyo Present Research Activities Aerospace Propulsion Aerospace Engineering • Viscous Fluid Dynamics • Propulsion System • High Temperature Gas Dynamics • Aerodynamics of • Thermal Protection System Turbomachines and Jet Engines • Composite Structures • Combustion • Smart Structure • Thermo-fluid dynamics • Biomechanics • Internal Flow • Aircraft Design • Aeroacoustics • Flight Mechanics • Aeroelasticity • Orbital Mechanics • Materials • System Optimization • Electric Propulsion • Artificial Intelligence in Space • High-Enthalpy Gas Dynamics • Robotics in Space Department of Aeronautics and Astronautics, University of Tokyo International Exchange 1. Students from Abroad ・Undergraduate: 3 (Kirea(1), Thailand(2)) ・Master Course: 3 (Brazil(1), Malta(1), Nigeria(1)) ・Doctor Course: 1 (Thailand(1)) ・Funds: Japanese Government (Ministry of Education.….) or Private 2. Students in Abroad ・Three students are studying in USA. 3. Visiting Professors / Researchers ・Average: 7 / year ・Duration: 2 weeks ∼ 10 months ・Countries: China (special exchange program), U.K., France, Belgium, Russia, Turkey, etc. ・Funds: Ministry of Education.., IADF, JSPS (Japan Society for the Promotion of Science), etc. Department of Aeronautics and Astronautics, University of Tokyo International Collaboration ? Exchange of Professors, Researchers, and Students with Korean Collaborating Universities/Institutes Japan: University of Tokyo, Dept. of Aeronautics & Astronautics Korea: Seoul National University, KAIST, etc. ? Exchange Program for Professors, Researchers, and Students with Chinese Collaborating Universities Japan: University of Tokyo, Dept. of Aeronautics & Astronautics, etc. China: Tsinghua University, Univ. of Science & Technology of China, etc. ? Cube-Sat, Micro-Sat Project - Micro-scale satellite, First launch was held in 2002. - Collaboration among Univ. of Tokyo, Tokyo Institute of Tech., Arizona State Univ., Red Wood City High School, Kennedy Middle School, Korea, etc., Supported by private companies. ? Innovative Aerial Robot Project - Inside the framework of the 21st Century COE Program “Mechanical Systems Innovation” (2003-2007) - Micro Aerial Vehicle/Unmanned Air Vehicle Research and Development - Information, researchers and students exchange with SNU, ETH, etc. Jet Propulsion Laboratory Dept. of Aero- & Astronautics, University of Tokyo Cascade Flutter Concern: ― Shock Associated Flutter ― Flow Separation Effect on Cascade Flutter ― Active Control of Cascade Flutter Approach: ― Experiments in Transonic Linear Cascade Tunnel ― CFD Analysis Rotor-Stator Interaction, Unsteady Tip Vortex Behavior Concern: ― 3D Unsteady Flow Behavior in Rotor-Stator Configuration (Near-stall Condition) ― Unsteady Aerodynamic Force and Stage Performance Approach: ― Experiments in 3-Stage Model Compressor ― CFD Analysis Aeroacoustics Concern: ― Generation Mechanism of Turbomachine Noise Approach: ― Experiments in Anechoic Chamber and 3-Stage Compressor ― Numerical Simulation Internal Flow in SCRAM Jet Engine Concern: ― Effect of B.L. suction on Stable Combustion ― Mixing Enhancement of Injected Fuel into Supersonic Flow Approach: ― Experiments in M2.0 High-temperature Wind Tunnel ― Numerical Simulation including Chemical Reaction Two-Phase Flow in Microgravity Concern: ― Gas-Liquid Two-Phase Flow Phenomena in Rocket Engine System Approach: ― CFD Analysis ― Experiments in Drop Tower Bio-fluid Mechanics Concern: ― Characteristics of Oscillatory Flow in Branched Tube ― Enhancement Mechanism of Gas Exchange Approach: ― Flow Visualization and Numerical Analysis Active Control of Cascade Flutter Control methods to suppress the cascade flutter with changing blade stiffness with changing blade oscillation direction with trailing edge oscillation were studied. Most effective one was the control method with trailing edge oscillation. Movement of passage shock wave can be controlled by trailing edge oscillation. Piezo-Electric device realizes the control system. Trailing Edge Oscillation Φ : angular displacement Flapping oscillation region : about 30 % chord length δ : Phase difference between trailing edge oscillation and blade vibration. Pilot Study of the Vibration System Piezo-electric device is glued on the flat plate blade. AC voltage is provided on the device. Blade trailing edge was oscillated by the electric signal. Displacement of the trailing edge was successfully obtained. δ = about 45 (deg.) Blade Displacement Unsteady Aerodynamic Work The phase angledisplacement of unsteady aerodynamic force acted on the Increase in blade was suppressed. blade was delayed compared with that of blade displacement. Stalled Flow Field in Compressor Cascade Velocity Contour and Streamline 2D Navier-Stokes Computation Torsional Flutter with High Incidence Generation and Suppression of Non-uniform Flow in Scramjet Engines Side View Bottom View Airframe Built-in Type → Developed boundary layer enters into engine modules. Sidewall Compression → Low energy core appears on the body surface of engine channel. Computed Streamlines Separated region Throat L.E Sidewall x z vortex1 y Central surface of flow channel 25% surface of flow channel ○ Generation of Vortex1 Thick boundary layer from inlet → Flow over-turn occurs in low velocity region Streamlines on horizontal plane Effect of B.L. Suction (1) ○ Comparison of Mach contour near the suction port Without Suction With Suction (a) : x/L=0.76 ,(b) : x/L=0.91 ,(c) : x/L=1.07,(d) : x/L=1.26, (e) : x/L=1.41 L: Inlet Length Subsonic region shrinks due to flow suction in the low energy core. Effect of B.L. Suction (2) ○ Mach contour on the central plane of flow channel Influence of Heating ・Mach number decreases. Without Heating and Suction ・Low energy core grows. Influence of Suction With Heating and Without Suction ・Growth of low energy core is suppressed. ・Forward motion of low energy core is prevented. With Heating and Suction IADF Study Committee History of the meeting 1st 2nd 3rd 4th 5th 6th 7th 8th 9th 10th 11th Year/Month 1995/Feb 1995/Oct 1996/Jun 1996/Oct 1997/Dec 1999/Feb 2000/Mar 2001/Oct 2003/Nov 2004/Oct 2005/Oct Met'g Title - - - - - Trial Forum Trial Forum Info-plaza Info-Plaza Info-Plaza Info-Plaza 1st 2nd Meeting Meeting Meeting Meeting (Member's) Korea China Taiwan Indonesia Thailand Malaysia Singapore India Australia Japan (Observer) U.S.A England :Host :Participation :By phone ソウル 左から エアショウ 渡辺 2005 村上 第4回 Info-Plaza Meeting 左から Sungil Lee、山口、Jinsoo Cho、渡辺、Xu Bo、Soo-Do Kim、古賀、Dong-Ho Lee、 Tae-Shik Oh、村上、Sung-Lee カセサート大学 Bangkhen キャンパス 左から S Atipan、山口、渡辺、N Junjareon、村上、Q Chirachon カセサート大学 Si Racha キャンパス S Atipan、一人措いて C Gunson、古賀、渡辺、村上、山口 タイ王国空軍航空博物館 左から 山口、村上、渡辺、二人措いて古賀、一人措いて Preecha、Kanin、Akram Dallalah KEIRIN この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。 非 売 品 禁無断転 載 平 成 17 年 度 大型精密機器システム基盤技術の 開発振興に関する調査研究事業報告書 - 21世紀型航空機国際共同開発振興に 係る事業のライフサイクル高度化調査事業- 発 行 発行者 平成18 年3月 社団法人 日 本 機 械 工 業 連 合 会 〒105-0011 東京都港区芝公園三丁目5番8号 電 話 財団法人 03-3434-5384 航空機国際共同開発促進基金 〒105-0001 東京都港区虎ノ門三丁目6番2号 (第2秋山ビルディング) 電 話 03-3432-8361