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「タイ・プラスワン」のミャンマー
ミャンマー情報 「タイ・プラスワン」のミャンマー ∼ 「アジア最後のビジネスフロンティア」 ∼ TOPICS text by 滋賀銀行 バンコク駐在員事務所長 河村 正弘 「国境」のゆくえ 民主化が進み、注目が集まるミャンマー。人件費高騰に苦しみ、安い労働力を求めて進出する タイ企業、新しい活路を求めて進出気運が高まる日本企業。 ミャンマーの 今 をレポートする。 日本では歩いて隣国へ行くことはあり 軒下の足踏みミシンで服を縫うミャンマー女性。人件 費が安く縫製業がさかん えない。 ところが、中国は10ヵ国以上と陸 でつながり、世界で最も多くの国と国境を れてきた。2010年、国内外からの民主化 接している。 要求を背景に総選挙が行われ、軍事政 権は2011年3月に幕を下ろした。 しかし軍 1997年に中国へ返還された香港では、 街角の隅々まで、 アウン・サン・スー・チー女史のポスターが 事政権時代の実力者が依然として権力 げを実施した。 現政権が選挙公約としてい うのが現状である。 たもので、 全国一律40%引き上げられ、 バン コク近郊の場合、 1日215バーツ (約560円) が300バーツ (約770円) になった。 引き上げ 後の実質人件費はミャンマーの約9倍との 国境の町 の役目を果たしている。禁区には中国人は もとより、香港人でも許可がないと立ち入 ることができない。 禁区の広さは2,800ヘクタール。土地 が飽和状態の香港にとって、土地再開発 試算もあり、 タイ企業は食品、 繊維企業など 90%が上座部仏教徒であること、産業・文 を中心に安価な人件費を求め、 ミャンマー れ、2015年までに全てが開放される予定 への生産拠点の移転を活発化させている。 である。 業国であること、 などミャンマーとの共通点 急速な民主化が進む ミャンマー 中国本土からの密輸や密航者に対する砦 隣国・タイは、人口約6,400万人。 うち約 化の中心となる母なる大河があること、農 タイとミャンマーを結ぶ “架け橋” 。商売の人々が自由に行き来している (タイ北部・メーサーイで) 入禁止区域(以後、禁区)が残されており、 を掌握、 民主化への道のりはこれからとい 経済交流がさかんな ミャンマーとタイ 中国との「国境」はそのままだ。国境には立 「タイ・プラスワン」 が多い。 ミャンマーとは古くから人の往来 が盛んで、 タイからは商人が物資購入の や観光資源として活用することが期待さ 中 国・深 圳との 国 境 東 端 にある禁 区 「沙 頭 角」は、1 9 8 0 年 代 末、中 国 が自国 の観光客に立ち入りを認めたため、中国 人 が 香 港 の 製 品を直 接 買える場 所とし ため、 ミャンマーからは職を求め、両国の 日系企業にとってもミャンマーは魅力ある て人 気を博した。しかし、中 国 の 為 替 規 先日、 タイ北部のメーサーイから徒歩 ミャンマーといえば民主化指導者のアウ 国民が国境を行き来している。 国だが、 インフラの未整備、 投資関連法規 制緩和や本土でも香港や外国の製品が でミャンマーを訪れた。日本 人 がミャン ン・サン・スー・チー女史が有名だが、国の 両国の経済的な結びつきは強く、 ミャン の不透明さなど、 進出には課題もある。 しか 自由に買えるようになり、賑わ い にも陰 マーへ入国するにはビザが必要だが、 実態はあまり知られていないのが現実だ。 マーの輸出相手国の第1位はタイで、そ し既にタイに進出している日系企業にとって ここではイミグレーションで5 0 0 バーツ 面 積は日本の約 1 . 8 倍 、首 都はネピ のシェアは30%を超えている (表参照)。 は、 ミャンマーでの労働力確保が比較的容 タスが維持されていることも否めない。そ (約1,290円) を支払いパスポートを預け ドー、経済の中心都市はヤンゴン。 ビルマ タイは発電量の約70%を天然ガスに依存 易なうえ、 タイとの交流も盛んなことから、 人 の一方で、昨年は2,800万人もの中国人が ると、国境から5km以内の範囲でのみ行 族が70%、残り30%が100以上の少数民 している。 そしてミャンマーは、 主要輸出品で 件費が高騰するタイ拠点を補完する意味 香港を訪れ、 「国境」の存在を忘れてしまい 動できる14日間有効の入国許可証「エント 族という多民族国家である。豊饒なデル ある天然ガスのほぼ全量をタイに輸出してい からもミャンマーへの進出が増えそうだ。 そうである。 リー・パーミット」が即、発行される。大量の タ地域では米作が盛んで、天然ガス、宝 る。 まさにミャンマー経済は、 タイの天然ガス 「タイ・プラスワン」 としてのミャンマー。 荷物を積んだトラックやトゥクトゥク (三輪車 石などの天然資源も豊富である。 中国、 イ 需要に依存し、 左右される図式となっている。 民主化の進展とともに、企業進出の動向 タクシー)が行き来する小さな橋を渡り、 ンド、 タイと国境を接する物流拠点として タイでは今年4月1日、 最低賃金の引き上 がますます注目される。 ゲート (開門6:30∼18:30) をくぐると、 もうそ の立地の良さ、安価な人件費、天然資源 こはミャンマーの町、 タチレイ。 タイバーツ の豊富さで「アジア最後のビジネスフロン が流通し、 両替も必要ない。 ティア」 として注目されている。 このようなミャンマーとタイの間の国境 一方で多民族国家ゆえに、民族間の の町はいくつかあり、 いずれも両国の関係 争いから幾度かの軍部のクーデターを経 の深さ、 そして経済格差を体感できる。 て、 長期にわたる軍事独裁体制が確立さ 16 かけはし 2012.6 エントリー・パーミット (写真下) を受け取る筆者(河村) タイ ミャンマー 人 口 6,388万人 5,884万人 面 積 51万3,115㎢ 67万6,578㎢ 一人あたりGDP 4,992米ドル 742米ドル 輸出相手国 1位 中国(11.0%) 1位 タイ(32.7%) 2位 日本(10.5%) 2位 香港(21.4%) 3位 アメリカ(10.3%) 3位 中国(13.6%) りがみえる。 「国境」が存在することで、香港のステー 中華人民共和国 広東省 深圳市 国 境 沙頭角 禁区 禁区 界線 香港特別行政区 沙頭角海 中国と香港の国境には禁区が設置されているが、 2015年までに開放される予定だ (しがぎんアジア月報5月号より 香港支店 上田) (JETROホームページより) 2012.6 かけはし 15