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Page 1 (19)日本国特許庁(JP) (45)発行日 平成24年1月18日(2012.1

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Page 1 (19)日本国特許庁(JP) (45)発行日 平成24年1月18日(2012.1
JP 4855573 B2 2012.1.18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(i) 少なくとも1つのチオール基を有する非ピリチオン錯化剤としてのジメ
ルカプロールと、(ii)ビスマスまたはビスマス含有化合物を有する混合物と;
(2)その分子構造が(i)少なくとも1つのチオール基を有する非ピリチオン錯化剤
としてのジメルカプロールと、(ii)ビスマスまたはビスマス含有化合物と、(iii
)前記(2)(i)のチオール含有錯化剤としてのジメルカプロールの少なくとも1つの
硫黄原子を前記(2)(ii)のビスマスに結合させる配位結合を含む錯体と;
(3)前記(2)の錯体と、(i)チオール含有錯化剤としてのジメルカプロールと(
ii)ビスマスまたはビスマス含有化合物からなる群から選択される少なくとも1種を有
10
する組み合わせと、
からなる群から選択される、ヘルペスウイルス感染を防止または阻止する薬剤の製造のた
めの抗ウイルス製剤の使用。
【請求項2】
ジメルカプロールに対するビスマスのモル比が1:1と3:1の間である、請求項1の
使用。
【請求項3】
ジメルカプロールに対するビスマスのモル比が1:2と3:1の間である、請求項1の
使用。
【請求項4】
20
(2)
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前記抗ウイルス製剤におけるジメルカプロールに対するビスマスのモル比が2:1と3
:1の間である、請求項1の使用。
【請求項5】
前記ビスマス:ジメルカプロールの5:10mM溶液が、410nmの波長において少
なくとも1.5の吸光度を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記ビスマス:ジメルカプロールの5:10mM溶液が、410nmの波長において少
なくとも10の吸光度を有する、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
25℃において等容量の水とブタノール、ならびに、前記ビスマス:ジメルカプロール
10
の5:10mM溶液をそれぞれ使用して分配した場合に、少なくとも1%の前記錯体が水
からブタノールに分配される、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
25℃において等容量の水とブタノール、ならびに、前記ビスマス:ジメルカプロール
の5:10mM溶液をそれぞれ使用して分配した場合に、少なくとも10%の前記錯体が
水からブタノールに分配される、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
少なくとも1つの錯化剤が、その分子構造に酸素を欠失する、請求項1に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【0001】
20
本出願は、米国特許出願第08/960,031号(1997年10月28日出願)の一
部継続出願である:これは、米国特許出願第08/428,464号(1995年4月2
5日出願、現在は放棄)の継続出願である米国特許出願第08/883,584号(19
97年6月26日出願)の一部継続出願である。
【0002】
(技術分野)
本発明は、細菌、ウイルスおよび他の微生物の活性の改善および阻害を行うための組成物
およびその方法に関する。より詳細には、本発明は、特定の金属:チオール錯体および金
属/チオール混合物ならびにその使用に関する。殺菌性および静菌性が明らかにされ、そ
れらは抗バイオフィルム性である。本発明はまた、特定の金属:ピリチオン錯体および金
30
属/ピリチオン混合物の抗バイオフィルムでの使用に関する。
【0003】
(背景技術)
消化管の感染性疾患は、世界中で大きな健康問題を引き起こしている。感染性の下痢疾患
は、発展途上国における罹患率および死亡率の主要な原因の1つである。発展途上国にお
いて、下痢および大腸炎は、抗生物質による治療が行われているときに頻発する症状であ
る。サルモネラ(Salmonella)属細菌、赤痢菌(Shigella)、カンピ
ロバクター(Campylobacter)属細菌または大腸菌(E.coli)で汚染
された食物は大きな健康問題をもたらす。下痢は、旅行者における最も頻発する不快なも
のである。現在では、潰瘍でさえ、感染性疾患と見なされている。
40
【0004】
ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)が潰瘍の確からしい
原因であったということが1983年に発見されたことによって、この生物を胃腸(GI
)管から一掃するための治療を開発することにおける集中的な活動が急に引き起こされた
。抗生物質、H2阻害剤およびビスマス化合物の組合せを含む治療が出現した。このよう
な治療は、再発を防止するために、ビスマスに大きく頼っている。現在では、ビスマスを
投与するための好ましい形態は、次クエン酸塩(subcitrate)(コロイド状の
次クエン酸ビスマス、すなわち、CBS)としてであり、あるいは次サリチル酸塩(su
bsalicylate)(BSS、ペプト−ビスモル(Pepto−Bisumol)
(登録商標)として市販)としてである。
50
(3)
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【0005】
コロイド状の次クエン酸ビスマスまたは次サリチル酸ビスマスがヘリコバクターピロリを
一掃するのを助ける機構は完全に理解されておらず、現在、研究中である。コロイド状の
次クエン酸ビスマスの特性に関する総説については、Wagstaff他、Drugs、
36:132から157(1988)を参照のこと。明らかに、ビスマス活性の1つだけ
の機構によって、文献に示唆されている抗潰瘍効果のすべてを説明することはできない。
実際には、多数の治療活性が関与していると考えられる。
【0006】
ビスマス化合物は、多数の他の医学的適用においても使用されている。例えば、ビスマス
化合物は、抗下痢剤として、調子が悪くなった胃、吐き気、嘔吐のために経口的に使用さ
10
れ、そして内用消臭剤として使用され、そして皮膚消毒剤として使用されている。ビスマ
ス化合物はまた、旅行者の下痢に対して予防的に使用され、そしてヨードホルム・パラフ
ィンペーストとして使用されている。ビスマス化合物は、手術傷の感染を制限するために
使用されている。一般に、ビスマスは、医学的有用性が明らかにされた抗菌性を有してい
る。しかし、ビスマス化合物の効き目は、特に鉄が存在する場合には比較的弱い。さらに
、ビスマスを使用することによる大きな問題の1つは、水溶液におけるその不溶性である
。
【0007】
ビスマスはまた、細菌におけるビルレンス因子の発現に対する選択的な効果を有する。そ
れにもかかわらず、細菌増殖を阻害する濃度よりも低い濃度で、K.pneumonia
20
eおよびその腸内細菌科の他のメンバーの夾膜多糖(CPS)の発現が抑制された。ビス
マスはまた、接着に関与するいくつかのピリ線毛の発現を抑制する。ビスマスの抗菌能は
、鉄が低い条件のもとで特に強くなる。鉄が増大すると、細菌に対するビスマスの阻害効
果は弱くなる。ビスマスに加えて、アンチモンおよびヒ素もまた、限られた抗菌活性を示
すが、このような活性は大きな用量を使用することが必要である。これは、その全身的な
毒性および水におけるその溶解性がないことのために必ずしも利用できるとは限らない。
【0008】
大部分の先行技術の抗菌剤は、バイオフィルムと直面したときに有用性が著しく低下する
ことで悩まされていた。「バイオフィルム」は、細菌(およびときには、酵母を含む他の
微生物)の共生的な共同体である:この場合、(種々のタイプの細菌をも含み得る)完全
30
な共同体は、少なくとも部分的には、単一のユニットとして作用する。著しい量の夾膜多
糖が分泌され、そしてこの夾膜多糖は生物を一緒に結びつけている。代謝および繁殖は、
通常の細菌コロニーと比較して著しく遅い。バイオフィルムは、大部分の走化性介入に対
して比較的非応答的である。夾膜多糖によって、表面下部の細菌に対する抗生物質の接触
が妨げられている。さらに、抗生物質によって媒介される表面細菌の溶解は、望ましくな
いことに、表面下の細菌に養分を提供する。細胞分裂および増殖を攻撃することによって
機能する抗生物質は、分裂および増殖をほとんど行わないバイオフィルムの細菌にはあま
り作用しない。
【0009】
(発明の開示)
40
本発明の目的は、細菌感染、真菌感染またはウイルス感染の予防または阻止を含む広範囲
の抗菌適用に関してより効果的な組成物および方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、細菌を一掃することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、腐敗を防止することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、バイオフィルムの形成または増殖を防止し、そして既に形成
されたバイオフィルムを減らすための方法および成分を提供することである。
【0013】
50
(4)
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本発明のさらに別の目的は、乾癬を処置することである。
【0014】
本発明のさらに別の目的は、口腔カンジダ症を処置することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、真菌感染および酵母感染を処置することである。
【0016】
本発明のさらに別の目的は、カンジダ(Candida)属真菌の感染およびクリプトコ
ッカス(Cryptococcus)属菌類の感染を処置することである。
【0017】
1つの実施形態において、本発明は、細菌増殖を抑制する方法を提供する。この方法は、
10
そのような抑制が所望される領域に、下記のものからなる群から選択される抗菌性配合物
を含む抗菌剤を与えるステップを含む:
(A)(i)少なくとも1つのチオール基を有する非ピリチオン錯化剤と、(ii)ビス
マス、アンチモンおよびヒ素からなる群から選択される第V族金属またはその化合物とを
含む混合物;
(B)(i)少なくとも1つのチオール基を有する非ピリチオン錯化剤と(ii)ビスマ
ス、アンチモンおよびヒ素からなる群から選択される第V族金属またはその化合物とを含
み、(iii)(B)(i)のチオール含有錯化剤の少なくとも1つのイオウ原子が(B
)(ii)の金属に結合する配位結合を含む分子構造を有する錯体;および
(C)(B)の錯体と、(i)チオール含有錯化剤ならびに(ii)ビスマス、アンチモ
20
ンおよびヒ素からなる群から選択される第V族金属またはその化合物とからなる群から選
択される少なくとも1種とを含む組合せ。
【0018】
用語「チオール」は、適切なpHの条件(例えば、チオールが使用される条件のもとでそ
のようなイオウ原子が脱プロトン化されているか、あるいは完全に、または部分的にプロ
トン化されているかどうかにかかわらず、化合物の最も低いpKaよりも著しく低いpH
条件)のもとでスルフヒドリル基の形態で存在することができる1つまたは複数個のイオ
ウ原子を含有する化合物を示すために本明細書中において使用されている。「チオール基
」は、「チオール」のイオウまたは−SH基を意味する。
【0019】
30
用語「混合物」および用語「組合せ」は、本発明の抗菌剤、あるいは本発明に従ってその
ような抗菌剤を含む製造物の最終的な使用条件のもとで互いに相互作用することができる
十分に近いそれらの近傍で2つ以上の成分を使用することを包含する。特定の疾患に対す
る処置が必要な患者は、問題としている疾患が存在することを示す症状を示す患者、ある
いはそのような存在を示す診断試験に応答する患者である。予防的介入が必要な患者は、
曝されることによるか、あるいはそれ以外により、問題としている疾患に罹る危険性が一
般の集団よりも高い患者である。
【0020】
本明細書中に記載されている抗菌剤は、微生物増殖を抑制するために、微生物の侵入を減
らすために、製造物または表面を処置して微生物の侵入に対する製造物の抵抗性を改善す
40
るために、バイオフィルムを減らすために、細菌のバイオフィルムへの変換を防止するた
めに、微生物感染の予防または阻止を行うために、腐敗を防止するために、そして本明細
書中に記載されている他の使用のために使用することができる。本発明の抗菌剤はまた、
ヘルペス属ウイルス(サイトメガロウイルス、1型単純ヘルペスウイルスおよび2型単純
ヘルペスウイルスなど)によるウイルス感染の予防または阻止を含む多数の抗ウイルス目
的に有用である。本発明の抗菌剤の他の内用的および外用的な薬学的使用には、細菌感染
、結核、ヘリコバクターピロリ感染、および消化性潰瘍疾患の処置または防止が含まれる
が、これらに限定されない。1つの実施形態において、本発明の薬剤は、細菌に対して一
般的には致死的でない投薬量で使用される。しかし、それにもかかわらず、そのような投
薬量は、別の方法で自然の免疫応答に抵抗する保護的な多糖コーティングを減らすのに十
50
(5)
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分である。従って、この技術は、抗生物質の場合に認められる程度にまでヒトの共生微生
物(例えば、正常な腸内フローラなど)を傷つけることなく、免疫系媒介による細菌感染
の一掃を助けると考えられる。
【0021】
1つの実施形態において、本発明は、バイオフィルムを減らす方法を提供する。この方法
は、バイオフィルムを、下記のものからなる群から選択される抗菌性配合物を含む抗菌剤
と接触させることを含む:
(A)(i)ピリチオン錯化剤と、(ii)ビスマス、アンチモンおよびヒ素からなる群
から選択される第V族金属またはその化合物とを含む混合物;
(B)(i)ピリチオン錯化剤と(ii)ビスマス、アンチモンおよびヒ素からなる群か
10
ら選択される第V族金属またはその化合物とを含み、(iii)(B)(i)のピリチオ
ン錯化剤が(B)(ii)の第V族金属に結合する配位結合を含む分子構造を有する錯体
;および
(C)(B)の錯体と、(i)ピリチオン錯化剤ならびに(ii)ビスマス、アンチモン
およびヒ素からなる群から選択される第V族金属またはその化合物からなる群から選択さ
れる少なくとも1つの化学種とを含む組合せ。
【0022】
ピリチオンを含有するこの同じ抗菌剤は、この薬剤をバイオフィルムに適用することによ
ってバイオフィルムを減らすために使用することができる。この薬剤または、細菌を致死
量以下のこの薬剤と接触させることによって細菌を一掃することなく、細菌のバイオフィ
20
ルムへの変換を抑制するために使用することができる。従って、この薬剤は、より無差別
的な抗生物質の程度にまで正常な腸内フローラを傷つけることがない薬学的使用に好適で
ある。他の使用には、口腔カンジダ症の限定された処置(例えば、そうでなければ100
μMから1mMの抗微生物剤を有する普通の口内洗浄による;1日あたり1回から3回の
洗浄)が含まれる。他の使用には、乾癬、他のカンジダ属真菌の感染、クリプトコッカス
属菌類の感染、および本明細書中に記載されている他の感染の処置が含まれるが、これら
に限定されない。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、細菌増殖を抑制する方法を提供する。この方法は、そ
のような抑制が所望される領域に、下記のものからなる群から選択される抗菌性配合物を
30
含む少なくとも1つの抗菌剤を与える段階を含む:
(A)ジチオール錯化剤と、ビスマスまたはビスマス含有化合物とを含む混合物;
(B)(i)ジチオール錯化剤と(ii)ビスマスまたはビスマス含有化合物とを含み、
(iii)前記チオール含有化合物の少なくとも1つのイオウ原子がビスマスに結合する
配位結合を含む分子構造を有する錯体;および
(C)(B)の錯体と、(i)ジチオール錯化剤および(ii)ビスマスまたはビスマス
含有化合物とからなる群から選択される少なくとも1つの化学種とを含む組合せ;
ただし、前記抗菌性配合物におけるビスマス対ジチオール錯化剤のモル比は1:2から3
:1の間であり;
(A)、(B)および(C)のそれぞれのジチオール錯化剤は、第1の炭素原子に結合し
40
た1つのチオール基と、第2の炭素原子に結合した別のチオール基とを有し、第1の炭素
原子は、0個から3個の介在原子によって第2の炭素原子から隔てられ;
前記の第V族金属:錯化剤の5:10mMの溶液は、410nmの波長における光の吸光
度が少なくとも1.5であり;そして
前記錯体の少なくとも1%が水からブタノールに分配される(ただし、分配試験は、それ
ぞれ、25℃の等量の水およびブタノール、ならびに前記の金属対錯化剤の5:10mM
の溶液を使用して行われる)。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、下記のものからなる群から選択される抗菌性配合物を
含む抗菌剤を提供する:
50
(6)
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(A)(i)その分子構造において、少なくとも1つのチオール基を有し、かつ酸素を有
しない錯化剤と、(ii)ビスマス、アンチモンおよびヒ素からなる群から選択される第
V族金属またはその化合物とを含む混合物;
(B)(i)その分子構造において、少なくとも1つのチオール基を有し、かつ酸素を有
しない錯化剤と、(ii)ビスマス、ヒ素およびアンチモンからなる群から選択される第
V族金属またはその化合物とを含み、(iii)(B)(i)のチオール含有錯化剤の少
なくとも1つのイオウ原子が(B)(ii)の金属に結合する配位結合を含む分子構造を
有する錯体;および
(C)(B)の錯体と、(i)その分子構造において酸素を有しないチオール含有錯化剤
ならびに(ii)ビスマス、アンチモンおよびヒ素からなる群から選択される第V族金属
10
またはその化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化学種とを含む組合せ;
ただし、前記抗菌剤は下記の特徴の少なくとも1つを有する:
(1)前記抗菌剤は粉末形状である;
(2)前記抗菌性製剤は溶液中に存在し、溶液のpHは7.0以下である;
(3)前記抗菌性配合物は、アルコールを含有する溶液である;
(4)前記錯体の少なくとも1%が水からブタノールに分配される(ただし、分配試験は
、それぞれ、25℃の等量の水およびブタノール、ならびに前記の金属対錯化剤の5:1
0mMの溶液を使用して行われる);あるいは
(5)前記の第V族金属の5mM溶液およびチオール含有錯化剤の10mM溶液は、41
0nmの波長における光の吸光度が少なくとも1.5である。
20
【0025】
本発明の他の特徴および利点は、添付した図面を参照して、本発明の下記の説明から明ら
かになる。
【0026】
(発明を実施するための最良の形態)
本発明により、第V族金属およびチオールは、いずれかの成分によって個々にもたらされ
得る何らかの穏和な活性を上まわる相乗的なレベルの活性をもたらす。理論によりとらわ
れるものではないが、本発明のいくつかの実施形態において、金属およびチオールは、金
属とチオールの少なくとも1つのイオウ原子との間の配位結合を有する錯体を形成すると
考えられる。このような錯体が形成されることによって、いくつかの異なる利点を得るこ
30
とができる。例えば、このような錯体は、親水性環境および親油性環境の両方でより好適
な溶解性を有し、それによって、より良好にその標的に到達することができる。再度では
あるが、理論によりとらわれるものではないが、チオールは、第V族金属のキャリアとし
て作用することができ、そして金属をその標的に送達することができ、その後、局所的に
得ることができる別の金属との配位結合を形成することができ、そしてそのような金属に
関して類似する輸送および送達をもたらすことができると考えられる。ビスマスは、キャ
リアのチオールと、生物学的プロセスに関与するチオールとの間でのチオール交換を行い
得ることもまた仮定されている。ビスマスをチオール含有酵素に加えることは、細胞プロ
セスおよび呼吸プロセスに対する有害作用を有するようである。実際、金属:チオール錯
体の有効性は、少なくとも部分的には、エネルギー産生に直接かかわっている細菌細胞膜
40
における膜電位を低下させるためであると考えられている。この考えは、大腸菌の膜電位
が、ビスマス:2,3−ジメルカプトプロパノールの5:2.5μM溶液に曝された場合
に低下したときに明らかにされた。
【0027】
従って、本発明のシステムは、(a)錯体、(b)未錯化チオール、および(c)未錯化
金属の局所的な濃度に関して時間とともに変動する傾向がある。下記においてより詳しく
説明されているように、本発明の抗菌剤において使用されている金属およびチオールの全
体的な比率は、薬剤が使用される環境に依存して広範囲にわたって変化させることができ
る。金属およびチオールとしての物質もまた、意図された使用および局所的環境によって
変化させることができる。金属およびチオールが本発明に従って取ることができる形態、
50
(7)
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および一方をもう一方に錯化させることを容易にする方法は、下記の2つの異なる節にお
いてより詳しく記載されている:1つの節は金属に関し、もう1つはチオールに関する。
【0028】
錯体のインシトゥでの形成が水分の存在下で容易に生じることは特に好都合である。微生
物増殖は湿った環境でもたらされやすく、従って、微生物増殖を促進する同じ環境によっ
て、抗菌活性を得るために好ましい錯体の形成もまた促進されることは好都合である。
【0029】
錯体がその場で生成し得るために、そしてチオールおよび金属を混合することによって得
られる相乗作用は、錯体の形成にすべてが帰因し得るものではないと考えられるために、
本発明の抗菌剤は、チオールおよび金属の単なる混合物の形態で与えることができ、ある
10
いはチオールおよび金属が相互作用して抗菌活性をもたらし得る十分な近傍にチオールお
よび金属を置くことによって与えることができる。本明細書中で使用されている「混合物
」は、これらの成分を、使用条件のもとで、それらが局所的な細菌または他の標的に対し
て相互作用することができる互いに十分に接近するように置くことを含む。当然的には、
金属およびチオールは、それらが互いに容易に接触し、そして好ましい錯体を形成するた
めに一方からもう一方への配位結合の形成を容易にする形態で提供されることが好ましい
。
【0030】
あるいは、本発明の抗菌剤は、金属:チオール錯体から主として既に構成された形態であ
って、ほんの限られた量の未錯化チオールまたは未錯化金属を有する形態でその作用部位
20
に提供することができる。本発明のこの形態は多数の方法で製造することができる。例え
ば、金属およびチオールは、同じ溶液に溶解することができる。錯体を形成させた後、錯
体は、未錯化チオールまたは未錯化金属から標準的な技術によって分離することができる
。そのような技術には、一方の成分またはもう一方の成分を沈澱させること、特異的な捕
捉剤の使用、pHを調節すること、および錯体を沈澱させるための他の技術が含まれるが
、これらに限定されない。同様な方法で、あるいは他の知られている技術によって、金属
塩の形態で最初に供給された金属のために溶液に存在する任意のアニオンを除くことがで
きる。しかし、そのようなアニオンを除くことは、厳密には、必ずしも必要ではない。そ
のようなアニオンがシステムに存在することによって、あるいは(錯体が粉末形態または
結晶形態で提供される場合に)金属:チオール錯体の結晶にそのようなアニオンが取り込
30
まれることによってでも、通常は、抗菌活性の重大な減少は生じない。
【0031】
錯体の形成および分解の両方が、その場で、特に、本発明の薬剤が細菌と相互作用してい
るときに、そうでなければ使用中に生じ得ることが予想される。従って、錯体、未錯化金
属および未錯化チオールの相対的な濃度は時間とともに変化し得る。当然なことではある
が、使用中に、これらの成分の1つまたは複数を断続的または連続的のいずれかで補充す
ることができる。
【0032】
金属、チオールまたは錯体のいずれかは、液体形態または固体形態で与えることができる
。本発明の抗菌剤は、溶媒、稀釈剤、賦形剤、保存剤、乳化剤、あるいはにおい、味覚ま
40
たはpHなどを調節するための化合物をさらに含むことができる。
【0033】
本発明の抗菌剤における使用のために1つだけの金属または1つだけのチオールを選ぶこ
とは必ずしも必要ではない。複数の異なる金属(例えば、ビスマスおよびアンチモンを一
緒に)使用することができる。同様に、複数のチオール(例えば、エタンジチオールおよ
びブタンジチオールを一緒に)使用することができる。複数の金属およびチオールは様々
な異なる方法でシステムに提供される。例えば、1つの金属は遊離のイオンとして提供さ
れ得るが、それ以外の金属は塩の形態で加えられる。1つだけの金属が使用される場合で
も、そのいくらかは遊離の形態で加えることができ、そしていくらかは塩の形態で加える
ことができる。広範囲の異なる塩を使用することができる。同様に、1つまたは複数のそ
50
(8)
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のような変化が、チオール成分が本発明に提供される場合に可能である。このような変化
は交換可能であるが、下記においてより詳しく記載されているように、いくつかの好まし
いものは、いくつかの関連において、より良好な結果をもたらす。
【0034】
本発明の抗菌剤は液体形態または固体形態のいずれかでその作用部位に導入され得るだけ
でなく、本発明の薬剤を液体形態で適用すること、および溶媒を蒸発留去して除き、乾燥
した成分のみを残すこともまた可能である。例えば、カテーテルは、例えば、使用中にお
ける将来の細菌増殖を防ぐために、本発明に従って処理することができる。1つの実施形
態において、カテーテルは、本発明の抗菌剤の溶液に浸漬することができ、次いで乾燥し
て、本発明の抗菌性配合物の乾燥した成分をカテーテルに残すことができる:この場合、
10
乾燥成分は保存期間中および使用まで留まっている。他の製造物を同様に浸漬することが
できる。
【0035】
金属
金属の説明
本発明の金属成分として、ビスマス、アンチモンまたはヒ素のいくつかの塩を使用するこ
とができる。金属は塩の形で存在する必要はないが、金属塩はしばしば金属を溶液にし、
そしてチオール化合物を含む本発明の錯化剤に入手および利用できるようにするために使
用される。本発明の好ましい塩は、その錯化剤と錯体を生成するために、その金属をより
利用および入手しやすくする塩である。塩の例の中には、金属硝酸塩、次没食子酸塩、ク
20
エン酸塩、酸化物および次サリチル酸塩が含まれるが、それに限定されるものではない。
好ましくは、その金属塩は、硝酸ビスマス、コロイド状次クエン酸ビスマスおよび次サリ
チル酸ビスマスのようなビスマス塩である。ビスマスは、本発明の抗菌物質では、アンチ
モンおよびヒ素よりも著しく効果的であることが証明されている。例えば、チオールとし
てジメルカプロールを用いた試験では、ビスマスは、アンチモンおよびヒ素よりも、おお
よそ1桁性能が優れていた。なお、アンチモンとヒ素の両方はジメルカプロールと相互に
作用して、ジメルカプロール単独、ヒ素単独またはアンチモン単独よりも、より良い結果
を生じる。
【0036】
金属塩の溶解度
30
金属:チオール錯体の活性は使用される塩の種類によって変化する可能性がある。この活
性に影響を与える1つの要因は、錯体の使用または調製の条件下でのその金属塩の溶解度
である。金属を錯化剤と結合させる場合の期待される1つの利点は、金属の溶解度が上が
ることである。その上に、その金属塩の溶解性が良くなればなるほど、その金属はチオー
ルと錯体を作るのに利用しやすくなると推定される。この点に関しては、その金属塩を溶
解する溶媒の選択も、その金属塩の溶解度の検討を基にした活性に影響を及ぼす可能性が
ある。
【0037】
金属:錯化剤のモル比
金属:錯化剤の溶解性を最大にするのに考慮するもう一つの要因は、その最終的なモル比
40
である。この比は、金属塩の最終濃度を決める上での1つの要因であり、したがってその
金属塩の溶解度に影響を及ぼす可能性がある。例えば、その金属塩の溶解度は、高い金属
濃度およびより高い金属:錯化剤比では、より重要な要因である。
【0038】
金属塩の選択に対するpHの影響
金属:チオール錯体の活性を最大にするために金属塩を選択する上でのなおもう一つの考
慮すべき問題は、調製される金属:チオール錯体溶液の望ましいpH、または本発明が使
用されるべき所の、特にインシトゥで錯体が生成される所の局部的なpHである。好まし
くは、使用される金属塩は、その最終的な錯体溶液の望ましいpHを包含しているpH範
囲で良好な緩衝能力を有することである。この方法、その塩をその錯体溶液のpHをある
50
(9)
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限界以内に維持するための緩衝剤として使用することもできる。しかしながら、その金属
塩は、特にそのような溶液が緩衝剤として作用する別の塩を含んでいるときには、その錯
体溶液で緩衝剤として作用しなければならないことはない。
【0039】
しかしながら、その金属:チオール錯体の活性は使用される塩の種類によって変わるけれ
ど、そのような活性はチオールのない金属の活性よりも常にかなり高いと出願人が決定し
たということを指摘することは重要である。したがって、本発明は、本発明が調製される
かまたは使用される溶媒の錯化剤溶液で、完全または部分的である、あるいは完全または
部分的である可能性を有する、任意の金属塩の使用を包含している。
【0040】
10
チオール
チオールおよびピリチオンによるビスマスの抗菌活性の向上と向上した活性についての好
ましいパラメータ
出願者は、有機チオール化合物がビスマスの抗菌活性を向上させることができることを決
定した。好ましいチオールの中には、1つから2つのスルフヒドリル基、特に2つのスル
フヒドリル基を有するものもある。それらは両親媒性であることが好ましく、そしてビス
マス、ヒ素およびアンチモンに配位結合を作ることができる。多くのものも同様にアルコ
ールであるが、水酸基の存在が活性を向上させるようには見えない。事実、非常に活性な
化合物である、ビスマスプロパンジチオールおよびビスマスエタンジチオールの中には水
酸基を含まないものもある。しかしながら、水酸基は、ビスマス:ジメルカプロールのよ
20
うなある種のビス−チオールの安定性を、活性をひどく妨害することなく、向上させるよ
うに思われる。化合物ビスマス:β−メルカプトエタノール、およびビスマス:2−メル
カプトエチルアミンは、ビスマス:2−メルカプトエチルアミンのアミノ基に対して同じ
位置に水酸基があることを除けば、構造的に同じである。この差は、ビスマス:2−メル
カプトエチルアミンの活性が5分の1になり、そしてビスマス:β−メルカプトエタノー
ルと比較して異なる最適モル比になる。ジメルカプト−コハク酸は構造的にはジメルカプ
ロールと似ているけれど、酸基の存在がビスマスとの相乗作用を破壊するに十分である。
酸素原子(特に、水酸基の部分でない時)、アミン、および特にチオールの酸基置換が活
性を減少させた。試験された多くの他のチオール化合物はビスマスと共同的ではなく、小
さな炭化水素骨格(例えば、C6以下、特にC2−C4)にカルボン酸塩を持たないチオ
30
ール基が好ましい分子構成である。炭素、硫黄および水素以外の原子を持たないチオール
も特に効果的であることが証明されている。
【0041】
出願者は、ジチオールは、より良いキレート化剤なので、概してモノチオールよりも活性
であることを発見した。最適な活性を達成するためには、モノチオールのレベルよりも低
いレベルのジチオールが必要である。同じ抑制活性を達成するためには、ジメルカプロー
ルのほぼ3倍の3−メルカプト−2−ブタノールが必要であった。化合物、DMSAおよ
びジメルカプトプロパン−1−スルホン酸はジオールであり、優れたビスマスのキレート
化剤であるが、抗菌相乗作用を示さなかったし、親油性でもなかった。ビスマス−チオー
ルのキレート化合物の親油性は、後段でより詳細に論議されるように、抗菌活性の非常に
40
良い前兆となるものである。このモデルが、どの疎水性モノチオールも、または少なくと
もわずかな疎水性を持つどのジチオールもビスマスと共同的であろうと予測する。出願者
はまた、トリチオシアヌル酸および2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール
のような3つ以上のチオールを含んでいる化合物も良いキレート化剤であると決定した。
【0042】
したがって、好ましい実施例では、本発明は、2−メルカプト−3−ブタノール、β−メ
ルカプトエタノール、2−メルカプトエチルアミン、モノチオグリセロール、およびp−
クロロチオフェノールから成る群から選ばれた化合物のような1つのスルフヒドリル基を
含んでいるチオール化合物によってキレート化されたビスマスを含む組成物を提供する。
【0043】
50
(10)
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最も好ましくは、キレートを作る化合物は、3,4−ジメルカプトトルエン、エタンジチ
オール、2,3−ブタンジチオール、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,4
−ジメルカプト−2,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジチオール、および1,4
−ブタンジチオールから成る群から選ばれた化合物のような複数のスルフヒドリル基(例
えば、2つ)を含んでいる。本親出願書の明細書に開示されているチオールには、ジメル
カプロール、β−メルカプトエタノールおよびジチオトレイオトールが含まれる。これら
の3つは、望ましい場合には、本明細書のどの実施例からも除かれるかもしれない。
【0044】
異なるチオールの存在においてビスマスの活性の向上レベルの変動の結果として、そのよ
うな向上を予測するための異なったモデルを以下に述べる。
10
【0045】
チオール基の近辺
化合物ビスマス−2,3−BDT(2,3−ブタンジチオール)は、ほとんどのバクテリ
アに対して、ビスマス:エタンジチオール(下記に詳細に論じる)のように良好であるよ
うに見える。しかしながら、ビスマス−1,4−ブタンジチオール(1,4−ブタンジチ
オール)は活性が約100分の1であり、隣位のジチオールは離れたジチオールよりも良
く作用することを示している。ビスマス:プロパンジチオール(1,3−プロパンジチオ
ール)は非常に良く作用するが、燐位のジチオール程ではなく、燐位のジチオールが最も
良く作用し、次に炭素1つ離れたものが続くけれど、他のジチオールは効果がより少ない
ということを示唆している。
20
【0046】
したがって、本発明の好ましい実施例では、キレート化するチオール化合物にある2つの
炭素原子のいずれも1つのスルフヒドリル基に結合されており、そして硫黄原子に結合さ
れた炭素原子は互いに0から3の介在している原子、好ましくは0から1の介在原子によ
って分離されている。最も好ましくは0、すなわち、その場合はこれらの2つの炭素原子
は直接共有結合している。
【0047】
黄色の強さ
水溶液の黄色の強さはビスマスとチオールの高モル比での活性の向上の前兆となるもので
ある。ほとんどのビスマス−チオールは、大きな吸収係数を持ったビスマス:ジメルカプ
30
ロールおよびビスマス:プロパンジチオール(それぞれ6.2および12.4)を除いて
、1.0から2.6の吸収係数を持つ410 nmでの吸光度を示している。ビスマス:
ジメルカプロールおよびビスマス:プロパンジチオールは、ビスマスとチオールの高い比
(3:1から2:1)で最適に作用する。黄色は、金属イオン錯体に共通の配位子金属電
荷移動帯(LMCT)から生じると信じられている。「柔らかい」B3+イオンと「柔ら
かい」チオレート硫黄の組合せは、配位子金属電荷移動帯に有利であるはずである。した
がって、黄色の強さを、生成したビスマス−チオール錯体の量の尺度および生成したキレ
ートの程度の尺度として使用することができる。次いで、アルカリ性ビスマス−チオール
溶液の黄色を、低濃度でビスマスを最もよくキレート環にするチオールを選別するのに使
用することができる。したがって、本発明のビスマス:ジチオール組成物の5:10 m
40
M溶液が、波長410 nmで、少なくとも1.5の、好ましくは少なくとも10の好ま
しい光吸光度を有する。
【0048】
ブタノールへの溶解度(lipopholicity)
ビスマスをチオールと化合させる場合に予想される1つの利点は、ビスマスの水への溶解
度を増加させることだと思われる。これらの薬品の疎水性は活性にとって重要であり、水
への溶解度は明らかな特質である。様々な条件の下での溶解度は、ビスマス−チオールの
汎用性と潜在的な有用性を強める。これらの薬品を使って、多くの配合物および組成物が
可能である。水への溶解度は、pHと組成の両方に左右される。例えば、ビスマス:ジメ
ルカプロールは、そのモル比次第で、酸と塩基の両方に可溶である。またビスマス:ジメ
50
(11)
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ルカプロールを使って、たいていの抗菌活性を保持する粉末を生成することができる。異
なる環境において溶解性を保持するためにビスマス:ジメルカプロールを配合できるとい
うことは、この種類の化合物の汎用性を増やすことになる。
【0049】
しかしながら、ビスマス−モノチオールまたはビスマス−ジチオールの範囲のそれぞれに
おいて最も活性なビスマス−チオールはブタノールに最も可溶性でもあることに注目する
ことは重要である。したがって、ブタノールへの溶解度から、ビス−ジチオールのどんな
錯体が最も共同的であるかを予測できる。それゆえに、好ましい実施例においては、ビス
マス−ジチオールの5:10 mM溶液が、等容積の水とブタノールを使用して25℃で
分配されるとき、水からブタノールの中に分配される錯体の、少なくとも1%、より好ま
10
しくは少なくとも10%、そして最も好ましくは少なくとも50%という結果になる。
【0050】
PHの影響
ビスマス:ジメルカプロールのようなビスマス−チオールの化学についての非常に多くの
様相に対するPHの影響は、チオール基のイオン化の反映である。ジメルカプロール単独
では、最初のチオールはpH10で完全に脱プロトンされて、そして第2のチオールはp
H11で脱プロトンされる。ビスマスが1:2のモル比で溶液に添加されると、これが劇
的に変わる。両方の脱プロトンが、はるかに低いpHで起こり、最初のチオールはpH5
で脱プロトンを完了し、第2のチオールはpH9で完了する。妥当な結論は、Bi3+イ
オンへのジメルカプロールの配位がイオン化を促進するということである。このプロセス
20
の間、ジメルカプロールはビスマスに配位したままであると考えることができる。理論に
縛られることを意図せずに、pH9でのビスマス:ジメルカプロールの溶解度の変化を次
の通り説明できるかもしれない。もしもビスマス:ジメルカプロール錯体がBi(ジメル
カプロール)2であり,次いでその2つのチオールが脱プロトンされると、その錯体はよ
り多くイオンを含むので、より可溶性である。しかしながら、塩基性条件は、ビスマスの
存在によって加速される結果であるチオールのジスルフィドへの自動酸化を促進する。こ
のことが、不安定性と抗菌活性の両方が、pHが4.5から9.0になると何故増加する
のかを説明している。この活性を全て、温度を上げることによって、およびモル比を変え
ることによってさらに上げることができる。たった1つのチオールをイオン化すると(p
Hが5−7)、ビスマス:ジメルカプロールは速度の遅い活性を示す。pHが4.5より
30
下では、活性がなく、錯体は生成されない。最大の活性および不安定性は、高いpHおよ
び温度で、最適モル比において生じる。低いpKa’sを持ったチオールは、かなり酸性
の条件下での使用に好ましい。
【0051】
多くの微生物に対する自然の防御は、微生物もまた機能しないより酸性側のpHでかなり
弱められるということを認めることが重要である。普通、有毒なスルフヒドリルおよび金
属は、保護のためにそれ自身のスルフヒドリル化合物(例えば、グルタチオンおよびDB
Sペリプラズム酵素)を使うバクテリアによって除去される。しかしながら、pHが3以
下では、これらの内因性のスルフヒドリルはプロトン化され、活性が弱い。この理由で、
可能性がある場合には、酸性環境が好ましい。酸性環境にある時は、より酸性のpHで活
40
性である本発明のチオール(例えば、比較的低いpKa’sを持つチオール)が好ましい
。そのようなチオールは都合よく脱プロトンされて(完全にまたは部分的に)、本発明の
好ましいチオール金属錯体をいっそうよく生成するけれど、低pHは同時にその目標の自
然防御を弱くする。このよい例は、低いpH環境でビスマスの存在下に完全に活性である
1,3−プロパンジチオールである。したがって、ビスマス:プロパンジチオールを、胃
の酸性環境において潰瘍の処置(例えば、Helicobacter pyloriの無
力化または絶滅)に都合よく使用することができる。他の実施例では、本発明の低pKa
チオールを、最初の例の酸性媒体に供給することもできる。酸性度は有用であるけれど、
もしもpHが金属の存在下で、選択されたチオールの有効なpKaよりも低いと、錯体の
生成に望ましくない影響を有することもあり得る。したがって、低いpH環境が予想され
50
(12)
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る場合には、pKaはチオールを選択するに際しての非常に重要な基準である。
【0052】
金属をチオールと錯体にする
錯体の形をしているチオール化合物によるビスマス、アンチモンおよびヒ素のキレート化
は、それらの溶解度を高め、そして効果的な処置に必要なこれら金属の投薬量を減少させ
、そうして毒性問題を減少させる。このキレート化は、例えば、そのチオール化合物をビ
スマス、アンチモンまたはヒ素の塩のプロピレングリコール溶液に溶解することによって
達成することができる。その後、水またはプロピレングリコールを使用して、サンプルを
望ましい濃度までさらに希釈することができる。
【0053】
10
防腐剤コーティングとしてのビスマス−チオール剤
カテーテル、胃管、気管内挿入管、および人工装具装置のような移植片または装置を、ビ
スマス−チオールで被覆して、バクテリア、特にブドウ球菌の付着または存続を最小にす
ることができる。換気装置、貯水槽、空気調節装置、フィルター、塗料、または他の物体
のような装置を、長期間にわたって生物膜のない状態にすることができる。移植術後、骨
の置換えの後、歯科処置中、または移植中に経口または組織的に与えられた少量のビスマ
ス−チオールは、ブドウ球菌および他のバクテリアの棲付を防止できる。その薬品を装置
中に組み込むことは、加熱中数週間にわたって局部的に抗菌剤をゆっくり放出する限り、
より有効足り得る。
【0054】
20
抗菌剤、抗真菌剤および抗生物膜剤としての金属−ピリチオン
ビスマス:ピリチオン錯体は、ピリチオン単独またはビスマス単独よりも抗菌活性がかな
り増加することを示している。ビスマスピリチオンは同時に、カンジダおよびクリプトコ
ックス属のようなイーストに対して良好な抗真菌活性を示す。
【0055】
出願者は、驚いたことに、ビスマス:ピリチオン錯体は生物膜に対して有効であるという
こと、その錯体は細菌粘液層に浸透し、そして生物膜のないバクテリアの群落においてさ
え粘液層を減じるように見えるということを発見した。アンチモンおよびヒ素は同じよう
な錯体を生成するものと期待されるが、ただし金属/チオールの混合物および錯体がまさ
にその事例であったように、それらの効果はビスマスの効果に遅れるかもしれない。それ
30
ゆえに、本発明は、前記金属がビスマス、ヒ素およびアンチモンから成る群から選ばれて
いる本発明の抗菌金属/ピリチオンの混合物および錯体を効果的な量適用することによっ
て、生物膜の生成または成長を防止する方法、またはすでに生成した生物膜を減少させる
ための方法を提供する。ビスマスが好ましい。その金属およびピリチオンは、金属および
チオールについて前述した全ての異なる方法でその系に提供される可能性がある。
【0056】
ある種のチオール化合物と組み合わせて、ビスマスの抗菌活性を1000倍に向上させる
ことができる。ビスマス−チオールは広範囲のバクテリアに対して活性であり、きょう膜
多糖(CPS)の発現を防止する。そのチオールピリチオン(PYR)は、優れた抗菌性
および抗真菌性であり、活性であり、そして同様にCPSの発現を防止する。ビスマスと
40
PYRの組合せ(BisPYR)は優れた性質を示した。バクテリア阻止は、NCCLS
標準にしたがって、Mueller Hinton brothのmicrobroth
希釈によって評価された。CPSの発現は、特定培地での18時間にわたる成長と、それ
に続くウロン酸含有量によって測定されるCPSのカチオン界面活性剤による抽出および
アルコールによる沈殿とによって測定された。2:1のモル比で組み合わせると、ビスマ
スピリチオン(BisPYR)はPYR単独の6倍の抗菌活性を示した。耐バンコマイシ
ン腸球菌のいくつかの菌株に対するMBC(PYR単位で)は50∼60から10∼20
μMに、緑膿菌に対しては140から30μMに、そして黄色ブドウ球菌に対しては40
から10μMに低下した。肺炎桿菌に対しては、MBCは4分の1に低下し(60から1
5μMに)、そしてCPSは2μMで90%より以上抑制された。BisPYRも同様に
50
(13)
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RPMI broth中のmicrobroth希釈によって、真菌類に対して試験され
た。カンジダおよびクリプトコックス属のいくつかの種に対しては、BisPYRのMI
CsはPYR単独よりも2分の1から10分の1に低下した。Aspergillisま
たはフザリウム属の種は一般にPYR およびBisPYRに耐性があった。PYRと比
較して、BisPYRは一般に広い範囲のバクテリアおよびイーストに対してより活性で
あり、ビスマスまたはPYR単独の場合よりCPS発現の抑制が強いことを示した。
【0057】
本発明は、また、一般にバクテリアへの致死として要求されるよりも低い投与量でビスマ
ス:ピリチオンの医薬品用途を考えている。致死量以下のビスマス:ピリチオンの投与量
は体重1kg当たりビスマスが約50から150μg(静脈内に投与されるとき)である
10
と予想される。経口では、投与量は10から100倍に、特に体重1kg当たり1から1
0mg、特に体重1kg当たり3から7mgになるだろう。1日に1回または2回の投与
が勧められる。理論に縛られることを意図せずに、金属とピリチオン(混合物、錯体また
は両方)は、致死量以下で投与されると、保護的な多糖類皮膜を減じるかまたは除去して
しまうだろう。したがって、バクテリアまたはイーストを通常の人間の免疫応答に対して
より敏感にさせる。この処置は、望ましい腸内の生理的寄生菌などのような普通の健康な
微生物群落を実質的に保護するという利点を有する。150μgから約1mgの静脈内投
与量は、患者に明らかな毒性を与えることなしに、(バクテリアまたはイーストを)直接
殺すことになりそうである。
【0058】
20
ビスマス:チオールの抗ウイルス特性
ビスマスは抗ウイルス剤であるとは知られていない。事実、Bi(NO3)3もジメルカ
プロールもどちらも単独では、数種のウイルスの感染価に対して何の明らかな影響も有し
ていない。しかしながら、生体内実験は、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス
のタイプ1(HSV−1)、およびタイプ2の感染価は、本発明に従ってビスマス:チオ
ール組成物で処置した後にかなり減少することを示した。50μMのBi(NO3)3と
25μMのジメルカプロールの混合物(ビスマス:ジメルカプロール)を利用した。した
がって、本発明は、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスのタイプ1および単純
ヘルペスウイルスのタイプ2から成る群から選ばれたウイルスによって引き起こされるウ
イルス感染を防止するまたは抑制する方法を提供するものであり、チオール化合物により
30
キレート化されたビスマスを金属:チオール錯体の形で含んでいる組成物の抗ウイルスと
して治療上有効な量を、それを必要としている患者に投与する段階を含んでいる。
【0059】
ビスマス−チオールの組合せのモル比
ビスマス−チオールの組合せを、最適活性を決めるために、広い範囲のモル比で試験した
。マウスの腹腔内に与えると、ビスマスまたはジメルカプロール単独の場合よりも毒性は
4分の1から6分の1になるが、ビスマス:ジメルカプロールは1:2のモル比でマウス
に対して最も毒性が強い。チオール含有量が高いと、悪臭があり、皮膚を刺激することも
判明した。そのチオール溶液に硝酸ビスマスを添加すると、2:1の比で、硫黄の臭いお
よびジメルカプロールの刺激作用が除去されたが、1:2の比では完全ではなかった。高
40
いチオール濃度だけで最適活性を達成するビスマス−チオール化合物は、これらの好まし
くない影響のため有用性が劣るかもしれない。そのデータは、ビスマス:ジメルカプロー
ルの各成分がもう一つの成分の好ましくない性質を緩和することを示している。
【0060】
したがって、本発明の好ましい実施例では、金属(ビスマスが好ましい)とチオール化合
物(ジチオールが好ましい)のモル比はほぼ1:2からほぼ3:1である。より好ましく
は、このモル比はほぼ1:1からほぼ3:1、さらにより好ましくは、ほぼ2:1からほ
ぼ3:1、そして最も好ましくは、ほぼ3:1である。以下に見られるように、本発明が
用いられている特別な用途によってその言及内容が少し変わる。
【0061】
50
(14)
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本発明の好ましい用途
本発明は、本明細書に記述したように広範囲の抗菌用途に応用できる。その用途は、表面
消毒薬、話題の調合薬、個人衛生用途(例えば、抗菌石鹸、脱臭剤、またはそれと同様な
もの)、および全身的な薬剤製品(例えば、helicobacter pyloriに
よって引き起こされる潰瘍のような体内の細菌感染症の処置用)のように変化する。多く
の他の用途を以下にて論じる。こうして、本発明を広範囲の製品に組み込むことができる
。本発明を、すでに微生物汚染のあるどんな領域でも直接使用することができるし、ある
いは代わりに将来の汚染を阻止するためにある領域で予防的に使用することもできる。用
途の包括的なリストが下の表1の欄1に明らかにされている。示された欄2から4は、各
用途のために、最良の結果を得るためにある種のパラメータを変化させることができる方
10
法に関する優先権を明らかにしている。これらの優先権は、本明細書の他のところで論じ
られたこれらの一般的な優先権以外のものであり、驚くべき利点を提供する。例えば、低
いモル比は本発明の成分の表面吸光度を高める傾向がある。
【表1】
20
30
【0062】
製薬用途
40
以下に論じられるように、金属:錯化剤を、微生物感染に苦しんでいる、または微生物感
染を受けやすい患者の状態を処置するまたは予防するために投与することができる。特に
、本発明の組成物は、helicobacter pylori、疱疹、乾せん、カンジ
ダ感染、およびクリプロコックス感染によって引き起こされる消化性潰瘍の獲得を処置す
るまたは耐えるのに有用である。予防薬用途として勧められる投与量は本明細書で記述さ
れている治療上の投与量と同じである。
【0063】
本発明の1つの態様に従って、いったん微生物(バクテリアの、ウイルス性またはイース
ト)感染が決まると、金属:チオール錯化剤を、その微生物を捕らえて根絶するに十分な
投与量で投与する。しかしながら、本発明の抗菌剤を、それを人間の自然な免疫応答によ
50
(15)
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り敏感にしているバクテリアの被覆を弱めるのに十分であるより低い投与量(経口投与す
るときは、体重1kg当たり1から10mg、好ましくは5から10mgの金属、および
静脈内に投与するときは体重1kg当たり100μgから1mg、好ましくは500μg
から1mgの金属)で投与するのが好ましい。当然、担当している臨床医が個々の患者の
応答に基づいて投与量を増やしたり減らしたりすることができる。
【0064】
金属:錯化剤(ピリチオンであろうと他のチオールであろうと)が経皮のまたはtran
smucosal技術により投与されると、その与えられた投与量を、既知の方法で、す
なわち、(1)ローション剤、軟骨剤、乳剤、ゲルまたははり薬が使われる場所を変える
ことによって、(2)それが使われる表面積の大きさを変えることによって、(3)活性
10
成分の濃度を変えることによって、(4)伝搬体、キャリヤなどを変えることによって、
増やしたり減らしたりすることができる。例えば、表面積を増やすことは、もしも活性成
分の濃度が一定のままであれば、与えられた活性成分の投与量を当然増加させることにな
る。同じ方法で、与えられる投与量は、与えられる基剤中の活性成分濃度が増加すると増
加し、濃度の減少に伴い減少する。伝搬体またはキャリヤを変更すると、同様に、既知の
方法で与えられる投与量も変えることができる。その後、症候的な軽減が得られているこ
とを立証するために症候学的に、または既知の技術により他の方法で感染を測定すること
のによって、患者を監視することができる。
【0065】
本発明で使用されているように、本発明の金属:錯化剤(ピリチオンであろうと他のチオ
20
ールであろうと)を、追加のキャリヤまたは希釈剤を用いてまたは用いないで、経口、全
身的、経皮、transmucosal、または他の典型的なルートによって投与するこ
とができる。経口投与用の製薬組成物では、金属:錯化剤は、その組成物の総重量に関し
て重量で5および99%の間の濃度であるのが好ましく、50および99%がより好まし
く、80および99%が特に好ましい。
【0066】
経皮投与用に調製するときは、金属:錯化剤は、その組成物の総重量に関して重量で2お
よび20%の間の濃度であるのが好ましく、5および15%がより好ましく、5および1
0%が特に好ましい。
【0067】
30
その金属:錯化剤を、それ自身によって、あるいは他の抗菌剤、抗ウイルス剤または抗真
菌剤の存在下に投与することができる。一つの実施例では、追加の抗真菌剤が、本発明の
金属チオール混合物および/または錯体に添加される。
【0068】
経口投与−消化性潰瘍
ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)に起因する消化性潰
瘍疾患の処置のための好ましい投与方法は経口投与であり、好ましい金属:錯体剤は、致
死量以下の体重kgあたりビスマス100μg−1mg、好ましくは500μg−1mg
で投与される(モル比がそれぞれ2:1である)ビスマスと1,3−プロパンジチオール
である。これらの投与量は、特に低いpHにおいてバクテリアを殺すことが期待される。
40
少なくとも、この製剤はコロニー形成を抑制し、免疫系応答により感受性であるバクテリ
アを弱体化させるであろう。実際、後の目的のためには、低投与量であっても効果的であ
りうる。上述投与量が、単に弱体化させるというよりも殺すことが予測される理由は、(
1)低pHにおいてバクテリアの感受性を上昇させ、(2)使用の条件下でビスマス:1
,3−プロパンジチオールの効能である。1,3−プロパンジチオールはそのメルカプト
基のpkaが低いことから、胃の酸性環境でのヘリコバクターピロリ(Helicoba
cter pylori)の処置のための好ましい錯体剤である。酸性環境で、低pka
はチオール基の確実な脱プロトン化、したがって金属とチオール硫黄間の望ましい配位結
合のより容易な形成を助ける。
【0069】
50
(16)
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経口経路による投与の際、本発明の抗菌剤は、体重1kg、1日あたり100μgから1
mg、好ましくは500μgから1mgの範囲の簡易な投与量を提供する濃度での経口投
与のために、例えば噴霧乾燥ラクトースおよびステアリン酸マグネシウムのような従来の
賦形剤によって、錠剤あるいはカプセルに調剤されてよい。
【0070】
活性物質は、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウムあるいはリン酸第2カルシウムなどの
固体、粉状担体物質、およびポリビニルピロリトン、ゼラチンあるいはセルロース誘導剤
などの結合剤と混合することで、あるいはステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナト
リウム、「カルボワックス(Carbowax)」あるいはポリエチレングリコールも加
えることで、錠剤あるいは糖衣錠コアに組込める。もちろん経口投与形態の場合、味覚改
10
善物質も加えることができる。活性物質はまた、適切な担体中で固体分散状態で投与する
ことができる。このような担体は例えば、1,000から20,000ダルトンまでの様
々な分子量のポリエチレングリコールおよびポリビニルピロリドン(例えばAmeric
an Chemicals Ltd., Montreal, CanadaのPovi
done)からなる群より選ばれてよい。
【0071】
さらなる形態として、硬質ゼラチンのようなプラグカプセル、同様に例えばグリセリンの
ような軟化剤あるいは可塑剤を含む密封軟質ゼラチンカプセルを用いることができる。プ
ラグカプセルは、好ましくはたとえばラクトース、サッカロース、マンニトール、ジャガ
イモデンプンあるいはアミロペクチン等のデンプン、セルロース誘導体あるいは非常に分
20
散したケイ酸のような充填剤との混合で粒状の形をした活性物質を含む。軟質ゼラチンカ
プセルにおいて、活性物質は好ましくは植物油あるいは液体ポリエチレングリコール等の
適切な液体内に溶解あるいは懸濁される。
【0072】
局所投与−乾癬および皮膚感染症
細菌皮膚感染症あるいは乾癬処置のための好ましい投与方法は局所投与である。局所ゲル
、軟膏、外用水薬等を用意するために、当技術分野で一般的に使用されている薬理学的に
許容可能ないくつかのものを基材として使用してよい。本発明の抗菌剤は、好ましくは2
0uM−10mM金属、さらに好ましくは100uM−1mMの濃度にて提供される。患
部への1日あたり1回から2回の塗布を推奨する。
30
【0073】
経皮デリバリー
本発明の組成物が軟膏、外用水薬、ゲル、クリーム等として経皮投与のために調剤される
とき、活性物質はヒト皮膚あるいは粘膜と親和性を持ち、皮膚あるいは粘膜を通した化合
物の経皮あるいは経粘膜浸潤を高める適切な担体と混ぜられる。適切な担体は当技術分野
で知られており、Glaxal Canada Limitedから入手可能なKluc
el HFおよびGlaxal塩基を含むが、これらに限定されない。他の適当な賦形剤
は、KollerおよびBuri, S.T.P. Pharma 3(2), 115
−124, 1987において見出すことができる。担体は、好ましくは活性成分が使用
した濃度で周囲の温度において可溶性であるようなものである。担体は、この物質を塗布
40
した皮膚の局部を通した前駆物質の確実な浸透を許容するのに十分な期間まで、流れたり
蒸発したりすることなしに、塗布した皮膚あるいは粘膜の局部上でこの前駆物質を保つた
めの十分な粘性を持つべきである。担体は典型的には例えば薬学的に許容できる溶媒およ
び濃化剤等のいくつかの成分の混合物である。有機および無機溶媒は、例えば水とエタノ
ール等のアルコールのような疎水性および脂肪親和性溶解を促進することができる。望ま
しくは、担体は、もし(重量で)10%金属:錯体剤および90%担体として調剤され、
疾病領域へ金属:錯体剤の形で金属が10μgから10mg、好ましくは100μgから
1mg、さらに好ましくは500μgから1mgの提供量で1日2回塗布した場合、感染
あるいは乾癬の症状が減少あるいは消滅させるであろうものである。
【0074】
50
(17)
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担体は、軟膏、外用水薬、ゲルおよびクリームで一般に使用され、化粧品と医学分野でよ
く知られている様々な添加剤を含んでもよい。例えば、芳香剤、抗酸化剤、香水、ゲル化
剤、カルボキシメチルセルロース等の濃化剤、界面活性剤、安定剤、緩和薬、着色料等が
存在してもよい。
【0075】
外用水薬、軟膏、ゲルあるいはクリームは、余剰分がないように皮膚に完全にすり込むべ
きであり、ほぼすべての経皮浸透が起こるまで、好ましくは投与後少なくとも15分間、
さらに好ましくは少なくとも30分間、皮膚の塗布部位を洗わないであろう。
【0076】
経皮パッチを既知の技術にしたがって本発明の物質をデリバリーするために使用してもよ
10
い。これは典型的には例えば、0.5から4日間といった長い期間塗布し、しかし活性成
分のゆっくりとしたそして一定の送達を許容しながら、より小さい表面領域へ活性物質を
接触させる。
【0077】
改良され、使用されている多くの経皮ドラッグデリバリーシステムが、本発明の活性成分
をデリバリーするのに適切である。放出の速度は典型的にマトリックス拡散によって、あ
るいは制御膜を経る活性成分の通過によって制御される。
【0078】
経皮装置の機構的な側面は、当技術分野でよく知られており、例えば参照により本明細書
に組み込まれている、米国特許第4,162,037号、第5,154,922号、第5
20
,135,480号、第4,666,441号、第4,624,665号、第3,742
,951号、第3,797,444号、第4,568,343号、第4,064,654
号、第5,071,644号、第5,071,657号において説明されている。さらな
る背景が、欧州特許第0279982号および英国特許明細書第2185187号により
提供されている。
【0079】
この装置は粘着性マトリックスおよび貯蔵型経皮デリバリー装置を含む、当技術分野で既
知の一般的な型のいずれでもよい。本装置は、活性成分および/あるいは担体を吸収する
繊維を組み込んだ薬品含有マトリックスを含んでよい。貯蔵型装置において、貯蔵は担体
に対してそして活性成分に対して不浸透性のポリマー膜によって規定されうる。
30
【0080】
経皮装置において、装置それ自身は望ましい局部皮膚表面に接触して活性成分を保持する
。このような装置において活性成分に対する担体の粘着性はクリームもしくはゲルによる
のと比べてあまり関与しない。経皮装置の溶媒系は、例えばオレイン酸、直鎖アルコール
乳酸塩およびジプロピレングリコール、あるいは当技術分野で知られている他の溶媒系を
含んでよい。活性成分はこの担体中に溶解もしくは懸濁してよい。
【0081】
皮膚への接着のために経皮パッチは中央に穴のあいた外用粘着テープ上に載せてよい。こ
の粘着剤は好ましくは使用前にそれを保護するためにリリースライナーにより覆われる。
リリースに望ましい典型的な素材は、ポリエチレンとポリエチレンコート紙を含み、好ま
40
しくは取り除くのが簡便なようにシリコンコート紙を含む。装置を適用するために、リリ
ースライナーは簡単にはがれ、粘着剤が患者の皮膚に接着する。参考により本明細書に組
み込まれている、米国特許第4,135,480号において、Bannonらは、皮膚に
装置を固定するための非接着性の手段を備える他の装置を記載している。
【0082】
静脈注射
無菌液剤もまた静脈に投与できる。活性物質は無菌水、生理食塩水あるいは他の適切な無
菌の注射可能な溶媒を用いて投与する時に溶解あるいは懸濁されうる無菌固相組成物とし
て、金属:錯体剤の形で、体重1kgあたり金属が最終濃度100μgから1mg、好ま
しくは500μgから1mgになるように調製されうる。担体は必須不活性結合剤、懸濁
50
(18)
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剤、潤滑剤、香味剤、甘味料、保存料、色素および被覆剤を含むことが考えられている。
【0083】
本発明による処置は、すべての細菌感染症状がなくなるまで望ましいに過ぎない。体内の
細菌叢の存在をなくすために必要以上に延長した期間で処置を引き延ばさないように気を
つけるべきである。
【0084】
抗真菌剤の添加
所望であれば、本発明の製剤それ自身が抗真菌活性を有するとしても、本発明の抗菌剤は
既知の抗真菌剤を追加あるいは混合してよい。
【0085】
10
好ましい物質としてのビスマス:ジメルカプロール
調製、モル比、投与量および毒性
ビスマス:ジメルカプロール等のビスマス−チオール物質は、いくつかの標準手法により
調製することができる。好ましい実施形態において、10mM/5mM(比2:1)での
ビスマス−チオールの1ml溶液を調製するために、200μlの硝酸ビスマス保存液(
10mlプロピレングリコール中48.5mg Bi(NO3)3)を795μlプロピ
レングリコールに加える。その後、チオール(この場合2,3−ジメルカプトプロパノー
ル)1モーラー溶液5μlをこの混合液に加え、勢いよく振る。もう一つの実施形態にお
いて、10mM/20mM(比1:2)でビスマス−チオールの1ml溶液を調製するた
めに、200μlの硝酸ビスマス保存液(10mlプロピレングリコール中48.5mg
20
Bi(NO3)3)をプロピレングリコール778μlに加える。その後、チオール(こ
の場合2,3−ジメルカプトプロパノール)1モーラー溶液20μlをこの混合液に加え
、勢いよく振る。水酸化ナトリウムを可溶化するために加える。
【0086】
極端な温度にビスマス:ジメルカプロール保存液をさらすことの抗菌活性への影響を、沸
騰するまで暖めることにより、そして加圧滅菌することにより試験した。ビスマス:ジメ
ルカプロールは沸騰には耐性であるが、減圧滅菌により壊れることがわかった。様々なビ
スマス:ジメルカプロール調製物の安定性は、定期的に試験した長期間の間室温および4
℃で保たれた。ビスマス:ジメルカプロールはかなり安定な物質であることがわかった。
ビスマス:ジメルカプロール活性は4℃においておくと少なくとも1ヶ月間安定であるが
30
、室温(RT)では500/600uMのビスマス:ジメルカプロール溶液は2週間でそ
の活性の50%を消失するだろう。500/150uMのビスマス:ジメルカプロール溶
液は室温において2、3日でその活性の50%を消失する。
【0087】
ジメルカプロールに対するビスマスの理想のモル比はおよそ1:2から3:1の範囲であ
ることが明らかになった。ビスマス:ジメルカプロールは1:2の時細菌に対して最も効
果的であり、しかし2:1の時最も安定である。異なる比をこの物質の望ましい特性に依
存しながら使用できる。
【0088】
水溶液中に50uMのBi3+を溶かすことは不可能であるが、500mMBi3+はp
40
H9−10で存在する1.2 Mジメルカプロールの溶液中に溶ける。さらにジメルカプ
ロールは脂肪酸親和性なので、ビスマス:ジメルカプロールはアセトン、エタノール、イ
ソプロパノール、アセトニトリル、DMSOおよび1−ブタノール中でさえ可溶性である
が、クロロホルム、オクタノール、酢酸エチルあるいはイソアミルアルコールには溶けな
い。しかしながら異なるビスマスチオールは独特の溶解特性を持つ。
【0089】
ゲル濾過分析を基にすると、2:1比のビスマス:ジメルカプロールは多価陽イオンとし
て存在する。ビスマス:ジメルカプロールは1つの末端が高い正の電荷を帯びているので
、酸の中でその溶解度を増す。もう一方の末端においては脂肪親和性であり、したがって
、非極性溶媒に可溶である。
50
(19)
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【0090】
濃縮したビスマス:ジメルカプロール溶液のpHがアルカリ範囲以下に下がったとき黄色
沈殿物が形成されるので、ジメルカプロールのBi3+に対する親和性は高い。Bi3+
単独で白色沈殿物を形成する。沈殿物を沈殿させ、上清を取り除き、新たなアルカリ緩衝
液を加えた後、沈殿物は再溶解し、細菌に対して活性を持つ。このことは、沈殿がBi3
+
のみではなく、むしろ完全なビスマス:ジメルカプロールであることを示している。こ
れは、1:2ビスマス:ジメルカプロールが酸性の胃内では沈殿する可能性があるが、し
かし小腸では溶解するであろうことを示唆する。腸溶性コートされたビスマス:ジメルカ
プロールはこのような沈殿をさけることができただろう。
10
【0091】
最適なBi3+投与量は、ジメルカプロールの500mg/kgを越えないような経皮お
よび局所投与量、およびジメルカプロールの50mg/kgを越えない注射投与量による
1日あたり0.01mg/kgから357mg/kgの範囲であることがわかっている。
これは30ml(525mgサブサリチル酸ビスマス)が3週間1日4回(2.1g/日
)投与されたPepto−Bismol(登録商標)に対するヒトでの集中的な管理と矛
盾がない。ヒトでのサブサリチル酸ビスマスの最大摂取量は4.2g/日である。これは
30gマウスにおけるBi3+の18mg/日あるいは600mg/kg/日、あるいは
300mg/kg量と同等である。ヒトに対するビスマス:ジメルカプロールでのBi3
+
の最大経口投与量はマウスに対するビスマス:ジメルカプロールの最も高い安全投与量
と等しい。したがって最大Bi3+濃度は、すでにビスマス:ジメルカプロール治療の代
20
3+
わりに変える必要のない他の治療上のBi
化合物として確立された。驚くべきことに
ビスマス:ジメルカプロールは、細菌に対して1000倍まで強力であるにもかかわらず
、現存しているBi3+化合物に比べ毒性が少ない。高投与量のジメルカプロールは毒性
であり、深刻なふるえを伴う急死となるので、ジメルカプロールは制限因子であることが
分かった。
【0092】
2つの別々の試行によると、マウスの腹膜内注射の際、ビスマス:ジメルカプロール(L
D50=140±40mgBi3+/kg)h、Bi(NO3)3(LD50=52±1
3mgBi3+/kg)あるいはBi−システイン(LD50=49±12mgBi3+
/kg)に比べてかなり毒性が低い。マウスは少なくとも5日間は病的状態あるいは死亡
30
3+
の兆候を示さずにビスマス:ジメルカプロールの形での60mgのBi
/kgの腹膜
3+
内投与に対して耐性である。したがって、Bi
/kgは特に腹膜内投与するときに、
他の化合物に比べてビスマス:ジメルカプロールキレート化合物として低い毒性である。
【0093】
ビスマス:ジメルカプロールは細菌の広い範囲に対して活性がある。特に、ヘリコバクタ
ーピロリ(H.pylori)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)およびクロストリ
ジウムディフィシル(C.difficile)に対して効果的であり、腸球菌(ent
erococci)およびある嫌気性菌に対してはあまり効果がない。試験した47のメ
チシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aureus)のうち、どれも耐性の兆候を示さなか
った。ほとんどの細菌は、17uMBi3+以下のビスマス:ジメルカプロールで抑制さ
40
れる。しかしながら、寒天希釈試験において、MICは大腸菌(E.coli)に対して
3倍高く、これは寒天培地中の化合物によってビスマス:ジメルカプロール活性が中和さ
れていることを示唆している。寒天希釈試験によるデータは培養液で見られるものとかな
り関連する。
【0094】
ビスマス−エタンジチオール(BisEDT)
多くの適用に対する好ましいビス−チオール化合物は、ビスマス−エタンジチオールであ
る。これはビスマス:ジメルカプロールより強い抗菌剤である。これは典型的にはほとん
どの細菌に対して4倍強く働き、バークホルデリア(Burkholderia)あるい
はバンコマイシン耐性腸球菌等の強い耐性微生物に対して10倍よく働く。最大の改善は
50
(20)
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、人工股関節、心臓弁、カテーテルなどの移植片上に粘着している日和見感染病原体でも
ある正常皮膚細菌の表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermi
dis)に対するものである。表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)ATCC
12228を抑制するために必要なビスマス:エタンジチオールのMICは、0.1μM
Bi3+であり、これは土壌中で通常みられるものより少量のビスマスである。10の
メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)(MRSE)はビスマス
:エタンジチオール中の0.85から1.75μMの間のビスマスすべてに感受性であっ
た。きわめて低いビスマス:エタンジチオールの濃度(6μMビスマス)で嫌気性菌、グ
ラム陽性およびグラム陰性細菌、および抗生物質耐性細菌を含むすべての細菌を抑制でき
る。これは他のノンチオールビスマス化合物に比べて1000倍の値である。
10
【0095】
以下でこれまでのところビスマス:エタンジチオールに感受性の細菌株種を示す。バーク
ホルデリア カパシア(Burkholderia capacia)、エンテロコッカ
ス ファエカリス(Enterococcus faecalis)、ストレプトファモ
ナス(Stenotrophomonas)種、霊菌(Serratia marces
cens)、プロテウスブルガリス(Proteus vulgaris)、エンテロバ
クター(Enterobacter cloacae)、サルモネラエンテリティディス
(Salmonella enteritidis)、大腸菌(Escherichia
coli)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、緑膿菌(P
seudomonas aeruginosa)、表皮ブドウ球菌(Staphyloc
20
occus epidermidis)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcu
s aureus)、プロビデンシアスタリティ(Providencia stuar
tii)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、結核菌(
Mycobacterium tuberculosis)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、アエロモニアスヒドロフィラ(Aeromonias hydro
phila)、レジオネラ(Leginolla)種、B群連鎖球菌(Streptco
cci)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、肺炎連
鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(H
aemophilus influenzae)、フレクスナー赤痢菌(Shigell
a flexneri)、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylo
30
ri)、マイコバクテリウムアビウム(Mycobacterium avium)、腸
炎エルシニア菌(Yersinia enterocolitica)、カンピロバクタ
ー(Campylobacter)種。試験した嫌気性菌はまた1から8μM Bi3+
間すべてで感受性であり、これにはディフィシリ菌(Clostridium difi
cile)の6株種、ウェルシュ菌(Clostrisium perfringend
s)の2株種、フラジリス菌(Bacteroides fragilis)の2株種が
含まれる。
【0096】
エタンジチオールを用いることの1つの不都合な点は、その臭いにおいである。しかしな
がら、ビスマスとエタンジチオールを合わせると、もはやにおわない。ビスマス:エタン
40
ジチオールの他のあらゆる側面は都合のよいことばかりである。ビスマス:ジメルカプロ
ールと比較して、ビスマス:エタンジチオールは50倍安価で、そしてなんの毒性もない
。Aldrich Chemical Companyからの添付MSDS書によると、
ビスマス:エタンジチオールのマウスに対する致死率はジメルカプロールのそれとほとん
ど等しい。ビスマス:エタンジチオールは単に少量しか必要としないため、ビスマス:ジ
メルカプロールに比べ毒性が小さい。また、すべてのモル比およびpHにおいてより安定
な化合物である。
【0097】
実験の詳細
細菌株および培養
50
(21)
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細菌基準培養液(Difco Laboratories,Detroit,MI)を細
菌の広いスペクトルを試験するために使用した。細菌株種はエンテロバクター(Ente
robacter cloacae)ATCC23355、大腸菌(E.coli)AT
CC25922、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)ATCC1
3883、プロテウスブルガリス(Proteus vulgaris)ATCC133
15、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)ATCC27853、
霊菌(Serratia marcescens)ATCC8100、黄色ブドウ球菌(
Staphylococcus aureus)ATCC25923、化膿性連鎖球菌(
Streptococcus pyogenes)ATCC19615、エンテロコッカ
スファエカリス(Enterococcus faecalis)ATCC29212、
10
およびネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)ATCC14
028を含む。他の使用した腸病原体は、腸内毒素原性大腸菌ATCC43896、腸管
出血性(ベロトキシン産生)大腸菌ATCC35150、フレクスナー赤痢菌(Shig
ella flexneri)ATCC12022、および腸炎エルシニア菌(Yers
inia enterocolitica)ATCC27729であった。バンコマイシ
ン耐性腸球菌(VRE)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(S.aurue)(MR
SA)は臨床菌株であった。レジュネラニューモフィラ菌(Legionella pn
eumophila)株3−69、B2−5−D1、ATCC33152およびGolv
er単離菌はBinax、Incより入手した。嫌気性菌として、クロストリジウムディ
フィセル(Clostridium difficile)ATCC9698、バクテロ
20
イデスフラギリス(Bacterpides fragilis)ATCC23745、
および1つのBacteroides fragilis臨床単離菌、ヒストリティウム
菌(Clostridium histolyticum)ATCC19401、ウェル
シュ菌(Clostridium perfringens)ATCC13124、バク
テロイデスオバタス(Bacteroides ovatus)ATCC8483、およ
びアクチノミセスオドントリティカス(Actinomyces odontolyti
cus)ATCC17929を含めた。試験したもう一つの株はE.faeciumAT
CC2358である。嫌気培養条件はBBL GasPak Plus系を用いて確立し
た。嫌気性菌は5%ヒツジ血液を含むTrypticase Soy寒天(BBL,Co
ckysville,MD)上で培養し、6つの抗生物質耐性大腸菌臨床株はBBL C
30
ampy Pouch Microaerophilic系(Becton Dicki
nson,Cockeysville,MD)内で、Muller−Hinton血液寒
天上で培養した。
【0098】
感受性試験
感受性試験を培養液希釈、寒天希釈および寒天拡散を含む様々な方法によって行った。培
養液希釈試験のために、スターター培養液を4時間200rpm、35℃で中間指数期ま
で育て、0.5 McFarland標準懸濁液を調製するのに使用し、さらにMuel
ler−Hinton細胞培養液(BBL)中で1:100(5×105CFU/ml)
に希釈した。培養液をインキュベートし、Avantage Microbiology
40
系(Abbott Laboratories, Irving,TX)で濁度をモニタ
ーした。増殖抑制は培養増殖開始前の遅滞時間をモニターすることにより(6)、また2
4時間増殖における3通りの細菌の標準プレーティングによって測定した。培養液遅滞時
間は、コンピュータ生成増殖曲線より得た。MICは、24±2時間の濁度を抑制した最
も低い薬物濃度として示した。生存細菌数(CFU/ml)および継代培養をNutri
ent寒天(BBL)上で、標準プレーティングすることで行った。寒天希釈試験のため
に、無菌綿棒をNutrient寒天上に0.5MacFarland標準を接種するた
めに使用した。吸収紙ディスクを寒天の表面に載せた。このディスクを15μlまでの硝
酸ビスマス、ジメルカプロール、あるいはその両方を含む溶液にしみこませた。
【0099】
50
(22)
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プレートを36℃で一晩インキュベートした。6mmディスクの直径を含む抑制部分の直
径をノギスで測定した。寒天拡散試験は一般的にMueller−HintonII寒天
で行った。レジオネラ菌(Legionella)菌株をBCYE寒天(BBL)上で培
養し試験した。寒天希釈試験(ヘリコバクターピロリ(H.pylori)および嫌気性
菌)のために、ビスマス:ジメルカプロールを含むMueller−Hinton血液寒
天を調製した。溶解Mueller−Hinton寒天培地を50℃まで冷却し、脱繊維
素化ウマ血液を最終濃度5%になるように加えた。ビスマス:ジメルカプロール粉末を、
寒天をプレートに注ぐ間、ビスマス:ジメルカプロールの濃度増加にともなって寒天培地
を作る間徐々に加えた。ヘリコバクターピロリ(H.pylori)のNo.1 Mac
Farland標準と同等の懸濁液を寒天表面に(10μl)スポットした。プレートを
10
Campyポーチ中で5日間37℃でインキュベートした。MICは増殖を抑制した最低
薬物濃度として示した。
【0100】
殺菌アッセイを培養液で行った。最小殺菌濃度を、18−24時間インキュベート時に最
初の生存細菌数を99.9%まで減少させた薬物濃度として記録した。生存細菌数は適切
な寒天培地上の標準プレーティングによって測定した。殺菌活性へのpHの影響を生理食
塩水中で指数期の大腸菌(E.coli)ATCC25922株を洗浄することおよび生
存数を109CFU/mlにあわせることで測定した。試料を以下に示したpHでの10
mMの緩衝液を含むように調製した。クエン酸pH4、2[N−モルホリノ]スルホン酸
エタン(MES)pH5およびpH6、3[N−モルホリノ]スルホン酸プロパン(MO
20
PS)pH7、トリス[ヒドロキシメチル]アミノメタン(TRIS)pH8およびpH
9。pH3およびpH4のリン酸緩衝液(10mM)も使用した。ビスマス:ジメルカプ
ロールを100μMで試料に加えた。培養液を24時間36℃にてインキュベートし、コ
ロニー計数のために繰り返しサンプリングした。
【0101】
ビスマス:ジメルカプロールの大腸菌(E.coli)ATCC25922に対する殺菌
活性をいくつかの温度で評定した。109/ml後期指数期の細菌の食塩水懸濁液を75
/37.5μMビスマス:ジメルカプロールとともに25℃、35℃、42℃および50
℃でインキュベートした。細菌生存をNuterient寒天(BBL)上にプレーティ
ングした標準寒天により測定した。
30
【0102】
安定性および溶解性
ビスマス:ジメルカプロール(BisBAL)を、10 Mジメルカプロール(Sigm
a Chemical Co.,St.Louis,MO)2.5から10μlを1ml
のプロピレングリコール中50mM Bi(NO3)3に加えることでモル比2:1から
1:2までの間で調製した。試料を水あるいはプロピレングリコール中で希釈した。プロ
ピレングリコールの最終濃度を、抗細菌効果の混同を防ぐために≦1%にとどめた。pH
を10N NaOH、あるいは濃HClの添加により調節した。試料を細胞培養液中の大
腸菌(E.coli)ATCC25922に対する安定性について週単位で試験した。溶
解性試験で、様々なモル比でビスマス:ジメルカプロール成分を混合し、エッペンドルフ
40
(Eppendorf)5415Microfuge中で2分間遠心することで沈殿させ
た。沈殿したビスマス:ジメルカプロールは先に測量してあるチューブ内で凍結乾燥した
。沈殿物の重量を測量し、溶解率をえるために20.8(化合物mg中の総重量)で割っ
た。滴定試験では、100mMジメルカプロール 5ml、あるいは水中の50/100
mMBisBALにNaOHを加え、それぞれの水酸化物の添加後のpHの上昇を記録し
た。
【0103】
ビスマス−チオール類の脂肪親和性を、1−ブタノール中で2相に分けることで評定した
。ビスマス−チオール溶液を精製水中5/10mMの濃度で、10N NaOHを加える
ことによりpH9−10として調節した。等量の1−ブタノールを加え、30秒間チュー
50
(23)
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ブを激しく混合し、液体相を分離するためにパルス遠心した。明黄色溶液の吸収(A41
0nM)を410nmの波長で、Milton Roy Spectronic 601
UV/VIS分光高度計を用いて両方の相で記録した。ビスマス:ジメルカプロールの
吸光度は水中よりもブタノール中で高く、0.8という生の吸光度データに調節した。
【0104】
生化学試薬
50mM Bi(NO3)3(Sigma)の保存溶液をプロピレングリコール(Sig
ma)中で調製した。Sigmaより入手したチオール試薬および錯体剤を様々な比で加
えた。共同作用に対するスクリーニングにおける標準モル比はビスマス対チオール、1:
2であった。安定性試験で使用したものを除いて、すべての溶液を毎日調製し、室温で保
10
った。
【0105】
実施例1 ビスマス:ジメルカプロールの毒性
ビスマス:ジメルカプロールの毒性試験を35g Swiss−Websterメスマウ
スで行った。ビスマス:ジメルカプロールを経口および腹膜内に投与した。表2に示すよ
うに、マウスは経口でジメルカプロールのある程度高い投与量による12.5mgのBi
3+
(357mg/kg 50同等ヒト投与量)に耐性だった。Bi3+と合わせた時、
500mg/kgのジメルカプロール用量は無毒であり、一方1g/kgでは2、3時間
の内にすべてのマウスが死んだ。単独で投与した場合、500mg/kgのジメルカプロ
ールは1時間以内にすべてのマウスを殺し、250mg/kgでは5匹の内1匹のマウス
20
が死んだ。
【0106】
ジメルカプロール単体の経口投与LD50は333mg/kgと計算された。ジメルカプ
ロール単体のラットでの筋肉内投与LD50は86.7mg/kgである(Merck Manual)。マウスにおけるジメルカプロールに対する腹膜内投与LD50は、60
mg/kgである。マウスに対する経口投与LD50は5倍以上高く、おそらく消化管か
らのジメルカプロールの吸収が制限されているからである。ビスマス:ジメルカプロール
でのジメルカプロールに対する経口投与LD50はずっと高く、556mg/kgである
。明らかにBi3+はジメルカプロールの経口毒性を減らす。したがって、ジメルカプロ
ールはビスマス:ジメルカプロール経口調製物中の毒性部分であり、しかしBi3+と合
30
わさった場合、経口投与で毒性ではない。さらに、ビスマス:ジメルカプロールとして経
口で投与されたジメルカプロールは、腹膜内に投与されたジメルカプロールに比べほぼ1
0倍低い毒性であった。
【0107】
ヒトにおけるジメルカプロールの閾値毒性筋肉注射投与量は、5mg/kg(Sulzb
erger,1946)よりも低く、これはビスマス:ジメルカプロールとして経口投与
では耐性であったジメルカプロールの1000分の1である。これらのデータは、ビスマ
ス:ジメルカプロール中のジメルカプロールの最小抑制濃度(MIC)が100−500
μg/kgであるので、ジメルカプロール毒性は、ビスマス:ジメルカプロール治療中の
問題ではない可能性があることを示している。
40
【表2】
【0108】
50
(24)
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さらなる実験でビスマス:ジメルカプロールの局所毒性を調査するため、やけどをさせた
マウスに肺炎桿菌(K.pneumoniae)で攻撃した。376/621mg/kg
のビスマス:ジメルカプロールを局部的に、あるいは焼痂の下に投与したとき死亡率は2
−3日間だけ早まった。しかしながら38/62mg/kgでは局所に投与したとき死亡
率を早めることはなく、3.8/6.2mg/kgでは局所的あるいは焼痂下のどちらか
で投与したときも、死亡率に影響しなかった。やけど敗血病モデルにおけるビスマス:ジ
メルカプロールの致死率は、経口モデルにおいてみられるものとにている。このデータは
、ビスマス:ジメルカプロールの形態での経口あるいは局所投与のジメルカプロール毒性
の閾値が500mg/kg以上であり、一方全身毒性閾値が50mg/kg以上であるこ
とを示唆している。
10
【0109】
殺菌剤として、あるいは無生命表面上での使用のためにはビスマス:ジメルカプロール濃
度は上に設定する制限を上回ることができる。特にBi3+500mMとジメルカプロー
ル1Mに達しそして超える濃度を殺菌目的のために使用できる。さらにBi3+50μM
およびジメルカプロール100μMより低い濃度を防腐あるいは保存のために使用できる
。
【0110】
もう一つの研究は、哺乳類細胞に対するビスマス:ジメルカプロールの毒性である。ビス
マス:ジメルカプロールは、動物試験および他の非公式観察を元にすると著しく細胞障害
性でもなく前炎症性でもなかった。処置した動物の便中の血液あるいは粘液の証拠はなく
20
、またビスマス:ジメルカプロールの大量投与による過敏症の兆候もなかった。少量のジ
メルカプロールの手への偶然の接触はかなり刺激となりうるが、ビスマス:ジメルカプロ
ールはこのジメルカプロール濃度の100倍でさえ皮膚に刺激を与えない。ジメルカプロ
ール単独で、5%溶液として投与したとき、とても毒性があり、胃粘膜に対してきわめて
刺激的である(Cattell,1942)。さらに予備結果は、ビスマス:ジメルカプ
ロールが100×静菌濃度でさえも好中球に対して細胞障害性ではないことを示した。
【0111】
実施例2 ビスマス:ジメルカプロールの抗菌活性
細菌と培養条件
院内病原体をビスマス:ジメルカプロールの抗菌活性の範囲を測定するために使用した。
30
以下の細菌をたとえばMuller−HintonII等の標準細胞培養液にて一晩培養
した。肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)O1:K2株52145
、Non O1 コレラ菌(Vibrio cholerae)株NRT36S、腸炎菌
(Salmonella enteritidis)株ATCC14028、フレクスナ
ー赤痢菌(Shigella flexneri)ATCC12022、腸炎エルシニア
菌(Yersinia enterocolitica)ATCC27729、腸管出血
性大腸菌(Escherichia coli)O157:H7(ATCC35150)
、腸内毒素原性大腸菌(Escherichia coli)ATCC43896。嫌気
菌としてウェルシュ菌(Clostridium perfringens)ATCC1
3124およびフラジリス菌(Bacteroides fragilis)ATCC2
40
3745を使用した。10のアミノグリコシド抗生物質に耐性の緑膿菌(Pseudom
onas aeruginosa)はSchering−Ploughコレクションより
入手した。プロビデンシア(Providencia)、セラチア(Serratia)
およびキサントモナス(Xanthomonas)のいくつかの臨床単離菌を試験した。
プロテウス属(Proteus)はプロテウスブルガリス(P.vulgaris)O:
19、プロテウスブルガリス(P.vulgaris)ATCC49990、プロテウス
ミラビリス(P.mirabilis)ATCC49995、プロテウスミラビリス(P
.mirabilis)ATCC51286、プロテウスミラビリス(P.mirabi
lis)ATCC49565を含み、ヘリコバクターピロリ(H.pylori)のシュ
ードモナスセパシア(Pseudomonas cepacia)単離菌、メチシリン耐
50
(25)
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性黄色ブドウ球菌(S.aureus)(MRSA)およびバノマイシン耐性腸球菌(V
RE)もまた使用した。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus
)(ATCC25923)、大腸菌(Escherichia coli)(ATCC2
5922)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)PA01の基準
株を比較のため用意した。緑膿菌(P. aeruginosa)のpyoverden
e変異株RAO6609およびK394を使用した。以下の鉄レセプター変異株を使用し
た。大腸菌(E.coli) H1443(wt)、E.coli H854(fiu)
、E.coli C1087(cir)、E.coli C1072(tonB)、E.
coli AB1515−およびE.coli AB1515−1F(Fe2+輸送欠損
)。大腸菌(E.coli)の複数の抗生物質耐性(mar)、およびsox変異株を利
10
用し、これは菌株MC4100(wt)、MC4100/p9(Mar)、MC4100
Tn9 △1738、MC4100 Tn1Okan soxR201を含んだ。これ
らの株を必要に応じて、アンピシリン(50μg/ml)、カナマイシン(20μg/m
l)、あるいはクロルアンフェニコール(10μg/ml)を含む寒天培地上で継代する
ことで維持した。コレラ菌(Vibrio cholerae)株は、395、569、
El tor Ogawa N16961、El tor Inaba P27459、
1837、168019およびMO−10を含んだ。菌株1837、168019および
MO−10は鞘を持つことが知られている。細菌を一週間単位でBloodあるいはNu
trient寒天プレートで継代した。
【0112】
20
Muller−HintonII培養液(BBL System,USA)はほとんどの
感受性試験で使用した細胞培養液である。過剰のグルコースをいれ、窒素を制限した化学
的制限培養液(DW)を肺炎桿菌(K.pneumoniae)培養液内での鞘産生を促
進するために使用した(Domenico,1991)。MacFrarland標準懸
濁液(0.5)を中間指数期のスターター培養液より調製し、さらに試験培養液中に1:
100に希釈した。細菌を化学療法剤でカスタマイズした調査キュベット内に入れ、Ad
vantage系(Abbott Laboratories,USA)にのせた。培養
液をゆっくりと34.5℃で振り、A670nmにて繰り返しモニターした。抑制は培養
増殖開始前の遅滞時間を記録することで評定した。遅滞時間はコンピュータ生成増殖曲線
より得た。24時間抑制濃度(IC24)は24±1時間の培養液遅滞時間を作り出す平
30
均抗生物質濃度(N≧3)として定義した。このデータは統計学的測定(すなわちスチュ
ーデントt検定)のパラメトリックパラメーターを提供した。いくつかの細菌で、NCC
LS標準とともに、血液あるいはMuller−Hinton寒天プレート上での寒天拡
散によって感受性を解析した。ビスマス:ジメルカプロールの様々な混合液の殺菌活性(
CFU/mlの99.9%の減少)を大腸菌(E.coli)ATCC25922を用い
た液体培養で評価した。ビスマス:ジメルカプロールへのヘリコバクターピロリ(H.p
ylori)の感受性をBlood寒天上のCampyポーチバッグ(Becton D
ickinson,Cockeysville,MD)内で血液寒天プレート上で試験し
た。プレートを5日間36℃でインキュベートした。感受性も寒天希釈にて測定した。
【0113】
40
細胞培養液成分のビスマス:ジメルカプロール活性への影響をそれぞれの必須の成分の量
を制限したあるいは過剰量を加えた化学的制限培地で評定した。酸素圧効果を好気性、微
好気性(Candle jar)、および嫌気性(GasPak)条件での寒天拡散によ
って測定した。濾紙ディスクに157μg Bi3+、186μgジメルカプロールまた
は157μg/31μgビスマス:ジメルカプロール(モル比3:1)をしみこませた。
他の量および比も試験した。pHまたは温度等の培養条件効果を細胞培養液で評価した。
【0114】
耐性細菌
アミノグリコシド耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を試験
し、これには酵素不活性化株、および透過性を減少させた株の両方を含んでいる。大腸菌
50
(26)
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(E.coli)の増殖耐性(marあるいはsox)変異株を試験したが、これはこの
ような細菌が抗生物質に抵抗するために流入機構を使用しているからである。プロビデン
シア(Providencia)、セラチア(Serratia)およびキサントモナス
(Xanthomonas)のいくつかの臨床単離菌をビスマス:ジメルカプロールに対
する感受性について試験したが、これはこれらの細菌がクロルヘキシジン(CHX)に抵
抗する傾向にあるからである。プロテウス(Proteus)もクロルヘキシジンに対し
て抵抗性である傾向にある。シュードモナスセパシア(Pseudomonas cep
acia)を試験した。これは最も耐性な種の一つである。
【0115】
10
結果
ビスマス:ジメルカプロールは、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(St
aphylococcus aureus)(MRSA)のようなグラム陽性生物に対し
て特に有効であることが分かった。バンコマイシン耐性エンテロコッキ(enteroc
occi)(VRE)は、ビスマス:ジメルカプロールによって阻害された。37℃での
24時間インキュベーションの後の両方の抗生物質耐性種に対する剤によって生じた阻害
のゾーン直径は、表3に概説される。
【表3】
20
【0116】
試験したバンコマイシン耐性エンテロコッキおよびメチシリン耐性エス.アウレウス(
S.aureus)の全ての株を、ビスマス:ジメルカプロールによって阻害させたが、
しかし、Bi(NO3)3によっては最小限しか阻害されず、そしてジメルカプロール単
30
独によっては阻害されなかった。メチシリン耐性エス.アウレウスは、特に感受性があり
、そしてそれは、27.9±2.5mmのさらに別の部分的ゾーンの阻害を示した。バン
コマイシン耐性エンテロコッキ単離ではなんら部分的ゾーンは見られなかった。
【0117】
グラム陰性細菌も、ビスマス:ジメルカプロールに非常に感受性があることが分かった
。消化管病原体の全ては、一様に感受性がある。終了点として24時間阻害濃度(IC2
4)を用いて、以下の細菌:ビブリオ・コレラ(Vibrio
cholerae)、サ
ルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、シゲラ
・フレキスネリ(Shigella flexneri)、イェルシニア・エンテロコリ
チカ(Yersinia enterocolitica)、腸毒素産生および腸侵襲性
40
大腸菌(E.coli)を、ミューラ−ヒントンIIで一夜生育させた。大腸菌およびサ
ルモネラは、250−500μM Bi3+の存在下でよく生育する一方で、ブイ.コレ
ラ、エス.フレキスネリ、およびワイ.エンテロコリチカは、50μM B3+までよく
耐えることができた。18時間での培養誘導期も最終培養濁りのいずれも、Bi3+濃度
によって限界以上に影響を受けなかった。まったく対照的に、3μMジメルカプロール(
0.37μg/ml)と混合した12μMでのBi3+(4.3μg/ml)は、全ての
細菌に完全に阻害性があった。大腸菌ATCC25922についての静菌性および殺菌性
濃度は、類似であった(およそ15μM Bi3+/5μMジメルカプロール)。大腸菌
の多重耐性(marまたはsox)変異株も、ビスマス:ジメルカプロールに同様に感受
性があった。ケイ.ニューモニア(K.Pneumoniae)(IC24=30/10
50
(27)
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μM)およびシュードモナス・アエロギノサ(Pseudomonas aerogin
osa)(IC24=8/2.7μM)のような他のグラム陰性好気性バシリ(baci
lli)も、ビスマス:ジメルカプロールに感受性を示した。アミノグリコシド抗生物質
に対して耐性である10個のピー.アエルギノサ(P.aeruginosa)株の内、
全ては、それらがアミノグリコシド透過性または酵素不活性化変異株であるかどうかにか
かわらず、ビスマス:ジメルカプロールに同様に感受性があった。6個のプロテウス(P
roteus)の株、2個のプロビデンシア(Providencia)および1つのセ
ラチア(Serratia)株も、感受性が低いことを示した(≦30/10μM)。7
個のキサントモナス(Xanthomonas)単離物は、同様に感受性があった。Og
awaおよびInabaを含めたブイ.コレラの7個の株は、全て15/5μMビスマス
10
:ジメルカプロールより低い感受性があった。ブルトコルデリア・セパキア(Burtc
holderia cepacia)の単独の臨床単離物は、高いMIC(90/30μ
M)を示す唯一の株であった。
【0118】
嫌気性菌も試験し、それによりアクチモマイセス・オドントリチカス(Actimom
yces odontolyticus)で22.5/45μMで、クロストリジウム・
SPP(Clostridium spp.)については50/100μMで、そしてバ
クテロイデス・SPP.(Bacteroides spp.)については100/20
0μMで阻害された。ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylor
i)は、1と6μM Bi3+の間のビスマス:ジメルカプロールに感受性を示す。
20
【0119】
データが明瞭に示すとおり、試験したグラム陽性およびグラム陰性細菌および嫌気性菌
および好気性細菌は、ビスマス:ジメルカプロールに感受性であった。それらは、消化管
中の正常な微生物叢と考えられるので、バクテロイドスの中で見つけられたビスマス:ジ
メルカプロールに対する大きな耐性が、有用である可能性があることに注目すべきである
。さらに、ビスマス:ジメルカプロールは、ストレプトコッキおよびピー.アウレギノサ
の両方に対して特に活性であることが分かり、そしてそれは、抗細菌剤としてまれであり
、そして非常に有用な特性であった。
【0120】
胃腸管を阻害する細菌は、嫌気性条件下で成長するので、嫌気性環境下でビスマス:ジ
メルカプロールの阻害効力を測定した。BBL ガスパックプラス(GasPakPlu
s)嫌気性菌システム(メリーランド州コッキースビル(Cockeysville、M
D)のベクトン・ディキンソン)を用いて、寒天拡散によって、6個の大腸菌を試験した
。ビスマス抗細菌活性は、鉄によって逆行させることができるので、選択された株は、鉄
摂取研究に使用したものであった。結果は、表4に概説される。
【表4】
30
(28)
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10
20
30
40
【0121】
データは、嫌気性条件下でビスマス:ジメルカプロール活性にただ10から20%の減
少があったことを示す。厳密な嫌気性菌クロストリジウム・ペルフリンゲンス(Clos
tridium perfringens)およびバクテロイデス・フラギリス(Bac
teroides fragilis)を使用する寒天拡散研究も、おそらく溶解性が減
50
(29)
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少されたことにより、ビスマス:ジメルカプロールがO2の不在下で最小限に影響される
ことを示唆する。ヘリコバクター・ピロリの10個の臨床単離物も、寒天拡散によってビ
スマス:ジメルカプロールに対する感受性について、微量親気性雰囲気下で試験した。B
i3+(157μg)またはジメルカプロール(186μg)単独が、阻害をほとんど生
じないか、または阻害のゾーンを生じないとき、ビスマス:ジメルカプロール(157/
31μg)は、一般に、8と10mmとの間のゾーン直径を生じた。
【0122】
ビスマス:ジメルカプロールは、強力な抗微生物剤である。Bi3+またはジメルカプ
ロールのいずれか単独に比較して、ビスマス:ジメルカプロール活性は、よりいっそう高
い規模の桁である。わずかの例外と伴に、他のビスマス化合物またはジメルカプロールは
10
、1−10mMの範囲内でMICを示し、そしてビスマス:ジメルカプロールより100
から1000倍少ない効力である。ジメルカプロールでキレート化される場合、他の三価
金属(例えば、Al3+、Ga3+、Cr3+、Ru3+、Fe3+、Sc3+、Y3+
)は、抗細菌活性が増強されたことを示さない。
【0123】
Bi3+に対比して、ビスマス:ジメルカプロールの抗細菌効果は、鉄濃度から独立で
ある。Bi3+(または他の三価金属)の抗細菌効果は、培養培地にマイクロモル量の鉄
を添加することによって逆行させることができる。しかし、ミリモル量の鉄は、細菌にお
けるビスマス:ジメルカプロールの影響を逆行または減少させない。他のビスマス化合物
とは対照的に、鉄濃度におけるビスマス:ジメルカプロール組成物の従属性の欠如は、そ
20
の条件が嫌気性であり、そして鉄が豊富である下部胃腸管での治療的利益のものである。
ビスマス:ジメルカプロールは、消化管微生物叢に考慮すべき効果を有することが示され
た一方で、ビスマス・サブサリシレート単独は、これらの細菌について目立った生育阻害
効果は示さない。特に、単独のビスマス:ジメルカプロールは、24時間の期間をかけて
ラットで、60%まで糞便材料の生成を減少させた。マウスに100μlの1mMまたは
10mMビスマス−ジメルカプロール(2:1比)を、2週間、毎日二回与えると、血液
寒天で好気的に、または嫌気的に糞便細菌成長の数で90%または99%減少になった。
【0124】
他の陽イオン、例えば銅、銀および金は、ビスマス:ジメルカプロール活性において相
殺する効果を示す。特に、78μMでの銅は、1xおよび10xの阻害効果を相殺したが
30
、ビスマス:ジメルカプロールのMICは100xではない。したがって、これらの拮抗
剤は、必要な場合に、ビスマス:ジメルカプロールを相殺させるのに使用することができ
た。
【0125】
ビスマス:ジメルカプロールは、莢膜多糖(CPS)産生を際立って阻害することもで
きる。莢膜多糖は、減圧乾燥に対する保護のため、そして宿主防御に対する偽装のために
多くの細菌によって産生される。クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella
pneumoniae)について0.25のMICで、ビスマス:ジメルカプロールは
、莢膜発現の60%を阻害することができたこと、そして半分のMIC未満で、ジメルカ
プロールは、糖についての化学的分析によって測定されるとおり、80%以上まで莢膜発
40
現を減少させたことが示される実験を行った。対照的に、防腐剤、感染防止剤、および保
存剤として有用な局所剤であるクロルヘキシジン(CHX)は、MICの0.75でさえ
莢膜多糖発現になんら際立った影響を示さなかった。莢膜多糖として表層コーティングが
減少されるときに、細菌が、抗莢膜抗血清の存在下で白血球細胞(WBC)によって食作
用摂取に徐々に傷つきやすくなるので、莢膜発現でのこの減少は、重要である。0.5未
満のMICで、100WBC当たりの食作用を受けた細菌の数は、ビスマス:ジメルカプ
ロール処理なしの19からビスマス:ジメルカプロール処理で600以上まで増加したこ
とも示された。いくつかの他のビスマス化合物は、莢膜多糖発現および食作用摂取に類似
の効果を示すが、100倍高い濃度が必要とされる。さらに、上に検討されたとおり、培
養培地に鉄を添加すると、Bi(NO3)3またはビスマス・サブサリシレートの抗莢膜
50
(30)
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多糖効果を相殺したが、ビスマス:ジメルカプロールのものには影響しない。
【0126】
ビスマス:ジメルカプロールは、バイオフィルム生物を効果的に阻害することも示され
た。特に、ビスマス:ジメルカプロールは、それがプランクトン性細菌状態にあるときに
、バイオフィルムでの細菌に対して有効であることが示された。他の公知薬でこの許容量
を示すものはない。
【0127】
ビスマス:ジメルカプロールは、血液を通して自由に流れる代わりに、当初の接触で組
織にしっかりと付着するので、ビスマス:ジメルカプロールは、組成物の安全性および耐
性を増大する強力な粘着特性を示す。さらに、その組成物は、皮膚、消化管粘膜および他
10
の組織に密着して粘着するので、ビスマス:ジメルカプロールのこれらの特性は、組成物
の細菌永続性に加わり、それにより期間が増加されるための保護を供する。
【0128】
ビスマス:ジメルカプロール組成物は、その全体の値または有用さを改善する他の剤と
組合わせることができることと理解すべきである。特に、抗酸化剤のような添加剤は、ビ
スマス:ジメルカプロールと共に使用して、貯蔵寿命を延長させることができる。トコフ
ェロールのような抗酸化剤は、ビスマス:ジメルカプロールに適合性があることが示され
た。さらに、これらが、組成物の活性を改善することが示されたときに、セトリマイドま
たはツイッタージェント(Zwittergent)3−14のようなポリカチオン性洗
剤を、添加することができた。ビスマス:ジメルカプロールは、別の膜活性生物致死剤で
20
あるクロルヘキシジンであるより洗剤(例えば、SDS、ツウィーン80)による相殺に
対して100倍以上耐性がある。したがって、ビスマス:ジメルカプロールを、石鹸およ
び洗剤と混合することが容易である。さらに、被覆または効力を増す、抗生物質混合物、
抗真菌、抗マイコバクテリアまたは抗ウイルス剤を、特に胃腸管の潰瘍性疾患に対して有
用な、H.ピロリに対するものを含ませることができる。結局、その場所でpHを増加さ
せ、そして溶解性を改善するアルカリ、平衡剤、H2−ブロッカーなどのような、他の化
合物、および密度または粘り強さを変化させるビスマス:ジメルカプロールと混和できる
担体化合物を含むことができる。ジメルカプロールは、賛成できない臭いを有するので、
他の剤を添加して、生じる生成物の味または臭いを改善することができることも意図され
る。
30
【0129】
ビスマス:ジメルカプロールは、広範な感染性の剤および病原体による感染を阻害およ
び防止するのに有用である。組成物は、経口で、腹膜内で、筋肉内で、皮下で、静脈内で
、および局所に供することができる。液体、粉末、錠剤、またはカプセルとして提供する
ことができる。組成物は、医療装置またはカテーテルのような移殖物を被覆するのに使用
すること、または手術用スクラブ中で濃厚にすることができることも意図される。ビスマ
ス:ジメルカプロールは、抗細菌剤として石鹸に組込むか、または消臭/汗止め剤(脚ま
たは腋用途)、口腔洗浄剤、コンタクトレンズ液、洗浄剤、塗料、食品および他の生鮮製
品に使用することもできる。さらに、ビスマス:ジメルカプロールは、パルプおよび製紙
で、水性タオル、水性フィルター、排気装置、空気清浄装置でのような工業製品でのバイ
40
オフィルム形成を阻害するのに使用することができるか、または腐敗防止混合物中に組込
まれる。ビスマス:ジメルカプロールは、水泳用プール、ボート、および湿潤条件にかけ
た他の表面上にある、種々の装置上にあるバイオフィルム集団を防止または死滅させるの
に有用である。結局、それは、化粧品または個人用救急用品で保存剤または防腐剤として
使用することもできる。
【0130】
ビスマス:ジメルカプロールの作用の機構は、十分に分かっていないが、非常に可溶な
形態(Bi3+/ジメルカプロール比=1:2)は、100倍低い可溶性種で活性におい
て類似しない(比=2:1)ので、ビスマス:ジメルカプロールの活性は、単独で溶解性
が増大されたことによって総計することができないことが知られている。さらに、他のチ
50
(31)
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オール含有キレート化剤、特にジメルカプト−コハク酸(DMSA)、2,3−ジメルカ
プトプロパン−1−スルホン酸(DMPS)、およびアミノ酸システインは、同様にまた
はジメルカプロールよりよくビスマスを可溶化させるが、しかし、それらは、その抗細菌
特性を増大させない。
【0131】
ビスマス:ジメルカプロールは、ポリカチオン性と同様に両親媒性(両親和性)として
特徴づけられてきた。このような特性を有する化合物は、一般に膜活性化剤である。すな
わち、それらは、細菌の膜を中断させることによって一次的に作用する。100/33.
3μMビスマス:ジメルカプロールで処理した大腸菌の電子マイクログラフは、これらの
知見を支持する。ビスマス:ジメルカプロールは、膜内で濃縮されるようである。しかし
10
、巨大分子の漏れはほとんど、またはなにも起こらず、そしてそれにより、ビスマス:ジ
メルカプロールが溶菌または透過性化を促進しないことが示唆される。大腸菌のビスマス
:ジメルカプロール処理直後の細胞外ペントースにおける増加は、拡散の放出をも示唆す
る。
【0132】
ビスマス:ジメルカプロールは、Bi3+のチオール交換によって、膜の酵素活性、特
に膜ATPaseのものを不活性化することによって、その効果を強力に発揮する可能性
があることも考えられる。莢膜および粘液発現は、エネルギー集約的であり、そしてAT
Pase阻害の結果と同様に、予備阻害レベルでビスマス:ジメルカプロールによって実
質的に遮断される。必須でなく、莢膜多糖産生は、細菌成長が影響を及ぼされる前に止め
20
ることができる。このような阻害は、Bi(NO3)3については500μM以上で起こ
るが、ビスマス:ジメルカプロールについては5μMで起こる。上で検討したとおり、効
力における目立った増加は、水での溶解性が増加したことによって説明することができな
い。その代わり、ビスマス:ジメルカプロールの新規構造は、細菌膜への透過性を促進す
ると考えられる。グラム陰性細菌の外側膜を通しての浸透は、ボリンから概ね独立である
と思われ、そして抗生物質流入機構によって影響を及ぼされない。むしろ、ビスマス:ジ
メルカプロールは、クロルヘキシジンまたはポリミキシンBと同様に外側膜を浸透する。
そのポリカチオン両親媒性構造は、負に負荷された両親媒性外側膜に対する親和力を促進
する。
【0133】
30
実施例3:数種のビス−チオールおよびビス−非チオールの抗微生物活性
溶解性を増加させることによって活性を増強させようとして、ビスマスを、数種の強力
なキレート化剤と混合した。試験した非チオール化合物は、D−ペニシルアミン、2,2
‘−ジアミノ酪酸、スペルミジン、シス1,3−ジクロロプロペン、EDDA、2−ブロ
モ−2−ニトロ−1,3プロパンジオール、サリチルヒドロキサミン酸、亜硫酸ナトリウ
ム、およびEDTAであった。試験チオールとしては、ジメルカプロール(ビスマス)、
δ−メルカプトエタノール(δME)、2−メルカプトエチルアミン(MEN)、ジチオ
スレイトール(DTT)、ジメルカプトプロパン−1−スルホン酸(DMPS)、ジメル
カプトコハク酸(DMSA)、1−モノチオグリセロール(MTG)、1,3−プロパン
ジチオール(PDT)、3−メルカプト−2−ブタノール(MBO)、2−メルカプトピ
40
リミジン、2−チオウラシル、1−チオδ−D−グルコース、チオサリチル酸、チオメロ
ザール、チオ乳酸、メソ−1−1’−ジメルカプトアジピン酸、トリ酪酸2,3−ジメル
カプトプロパノール、チオグリコール酸、チオストレプトン、L−システイン、還元グル
タチオン、p−チオクレゾール、チオジグリコール、2−メルカプトベンゾチアゾール、
ピリチオン、チオアニソール、2−ヒドロキシエチル ジスルフィド、1,4−ブタンジ
チオール、2,3−ブタンジチオール(BDT)、1,5−ペンタンジチオール、1−ペ
ンタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,2−エタンジチオール(EDT)
が挙げられる。エタンジチオールおよびブタンジチオールは、ビスマス活性をほとんど1
000倍に増強することが示された。非チオール化合物は、ビスマス抗細菌活性になにも
影響を示さなかった。しかし、チオールキレート化剤ビスマス、プロパンジチオール、ジ
50
(32)
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チオスレイトール、3−メルカプト−2−ブタノール、δ−メルカプトエタノール、2−
メルカプトエチルアミン、および1−モノチオグリセロールは、大腸菌成長の阻害によっ
て測定されるとおり、ビスマスの抗細菌活性を25から300倍まで増強させた(表5)
。硝酸ビスマスまたはチオールについてのMICは、別々に、低いミリモル(−3mM)
の範囲内にあったが、しかし生育培地でのそれらの不溶性のため正確に測定することがで
きなかった。チオール酸(すなわち、ジメルカプトプロパン−1−スルホン酸またはジメ
ルカプト−コハク酸)のいずれもは、それらが、黄色のような溶液中での類似の特性を示
し、そして水溶性を増強したが、ビスマスと組合わせて活性を増強させるものはなかった
。
【表5】
10
(33)
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10
20
30
40
【0134】
7個の活性ビスマス−チオール複合体は、様々なモル比で最適活性を示した。モル比と
MICとの間の関係は、図2に例示される。ビスマスの抗細菌活性は、チオール濃度を増
加させながら増加したが、さらに追加のチオールが減少効果を示す平坦域に達した。MI
Coptは、最適モル比でのビスマスの阻害濃度として規定され、そして、基本的に、添
50
(34)
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加された最低量のチオールで達成した最適抗細菌活性であった。4つの最も活性なビスマ
ス−チオール化合物(ビスマス:1,3−プロパンジチオール、ビスマス:ジメルカプロ
ール、ビスマス:ジチオスレイトール、およびビスマス:3−メルカプト−2−ブタノー
ル)は、十分なチオールが添加されたときに、比較的低いMICを生じた。それらのそれ
ぞれの最適比では、MICは、Bi(NO3)3よりほとんど300倍低かった(MIC
;から3000μM)。しかし、ビスマス:1,3−プロパンジチオールおよびビスマス
:ジメルカプロールのみが、3:1比で有効であった。ビスマス:ジチオスレイトールお
よびビスマス:2,3−メルカプト−2−ブタノールについてのMICoptは、1:1
の比で起こった。ビスマス:δ−メルカプトエタノールについてのMICoptは、1:
2モル比で起り、ビスマス:ジメルカプロールのものの2倍であった。最終的に、2−メ
10
ルカプトエチルアミンおよび1−モノチオグリセロールについてのMICoptは、それ
ぞれ、1:3および1:4のモル比で起こり、そしてビスマス:ジメルカプロールより8
倍高かったが、しかしBi(NO3)3より25倍低かった。
【0135】
MICopt、で、そして2:1の比の両方で、大腸菌に対するMICデータの概要は
、表5で示される。ジチオールは、3:1から1:1の最適ビスマス−チオールモル比で
、ビスマスで最大の相互作用を生じた。モノチオールは、一般的に、協力薬としてではな
く、そして最適抗細菌活性については1:1から1:4までのモル比が必要とされた。特
に、モノチオールおよびジチオールが分離されるときに、ビスマス−チオール化合物の抗
細菌活性と親油性との間の強力な関係がある。各系統での最大の活性ビスマス−チオール
20
は、ブタノール中での最も可溶性のものでもあった(表5)。ビスマス:プロパンジチオ
ールおよびビスマス:ジメルカプロールも、アルカリ性溶液中で最大の黄色を生じたが(
表5)、それは、形成された複合体の量の指標である。
【0136】
ビスマスとの比較のために、数種の三価金属を、チオール化合物と混合し、そして抗細
菌活性について試験した。試験した金属としては、第二鉄、塩化アルミニウム(III)
、塩化クロム(III)、酸化ガリウム(III)、ルテニウム赤、酸化スカンジウム(
III)、硝酸イットリウム(III)、および酸化イットリウム(III)が挙げられ
る。これらの金属イオンの内のいずれかと組合せたジメルカプロールでは、1:2モル比
で大腸菌に対する増強された抗細菌活性がないことが注目された。アンチモンのジメルカ
30
プロール増強またはヒ素の抗細菌活性が注目されたが、しかしビスマスのものと同じ規模
のものではなかった。
【0137】
濃縮されたビスマス:ジメルカプロール溶液の安定性は、pH、温度およびジメルカプ
ロール(ビスマス)濃度に左右された。ビスマス:ジメルカプロールは、酸性では安定で
あったが、しかし中性付近または塩基性溶液ではそうではなかった。pH9では、25℃
で500μM Bi3+/600μMジメルカプロールの半減期は、およそ3週間であっ
た一方で、500/150μM溶液のものは、<1週間であった。したがって、アルカリ
性pHでは、安定性は、ビスマス:ジメルカプロールのモル比に左右される。対照的に、
pH2で2:1ビスマス:ジメルカプロール溶液は、25℃で2ヶ月後に、活性の注目す
40
べき損失がないことを示した。ビスマス:ジメルカプロール水溶液(5mM/2.5mM
)は、pH<4で不明確に安定であったが、pH6−7で徐々に下がった(t1/2;1
−2週間)。プロピレングリコール中で製造されたビスマス:ジメルカプロール溶液は、
3と11.6との間のpH値で安定性の損失がないことを示したが、しかし100mM
HClの添加は活性を壊した。ビスマス:ジメルカプロール溶液をオートクレーブにかけ
ると、活性を壊したが、しかし、30分間100℃で加熱すると、活性において認識でき
る効果はなかった。
【0138】
殺細菌活性は、温度を上げながら増加した。75/37.5μMのビスマス:ジメルカ
プロール溶液は、25℃で、1ログ単位まで、35℃で、ほぼ6ログ単位まで、そして4
50
(35)
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2℃または50℃で9ログ単位まで24時間での生育可能な大腸菌の数を減少させた。ビ
スマス:ジメルカプロールの存在なしにこれらの温度で培養した細菌は、25℃または3
5℃での生育性に減少は示さず、42℃では1ログ単位の減少を、そして50℃では3−
4ログ単位の減少を示した。
【0139】
NaOHでのジメルカプロールおよびビスマス:ジメルカプロールモル比の滴定を行っ
た。ジメルカプロール滴定の結果は、ジメルカプロール上の2つのチオール基について、
8.5と10のpKa値に対応して、pH9から10、および10から11の2つの変化
領域を示した。溶液は、滴定の間、均質であり、そして透明であった。ビスマス:ジメル
カプロールの滴定曲線も、pH3.5から4?5.0(pKa;2.9)、およびpH6
10
.0から9.0(pKa;5.3)で2つの変化領域を示した。ビスマス滴定と対照的に
、沈殿物が溶解して、透明な黄色溶液を形成するpH8.0まで、溶液は、黄色沈殿物で
濁っていた。
【0140】
別のpH依存性変数は、抗細菌活性であった(図4)。100/50μMビスマス:ジ
メルカプロールを用いた109/mlの大腸菌に対する殺細菌活性は、pH4.5から9
まで次第に増加した。これは、NaOHを用いたビスマス:ジメルカプロールの滴定曲線
および黄色のビスマス:ジメルカプロール沈殿物の溶解作用に続く。pH8および9で、
殺細菌活性は、比較的迅速であったが、それは、5時間培養で、生育可能な細菌をほぼ1
01CFU/mlまで減少させた。pH5から7で、殺細菌活性は、24時間で完璧であ
20
ったが、なお、5時間培養で、ただ1つまたは2つの対数減少が観察された。pH4では
、対照値のものより上の殺細菌活性で観察されるものはなく、それにより、ビスマス:ジ
メルカプロールがこのpHではおおむね不活性であることが示された。ビスマス:ジメル
カプロール存在なしに、大腸菌をpH4または9にかけると、生育性にただ最小の影響を
示した。
【0141】
ビスマス:ジメルカプロールについての活性のスペクトラムは、むしろ広範であること
を立証した。いくつかの医療的に重要な細菌に対するビスマス:ジメルカプロールについ
ての阻害および殺細菌濃度は、表6に列挙される。MICは、液体に関しては5.9から
63.0μM Bi3+の範囲にあり、そして粉末では8.3から33.2μg/mlの
30
範囲にあった。イー.フェカリス(E.faecalis)は、ビスマス:ジメルカプロ
ールに対してもっとも耐性があった。対照的に、エス.アウレウスおよびエス.ピオゲネ
スは、ビスマス:ジメルカプロールに対して6倍以上敏感であった。ビスマス:ジメルカ
プロールは、腸内グラム陰性病原体、エス.チフィムリウム、腸毒素産生大腸菌、腸出血
性(ベロ毒素産生)大腸菌、エス.フレキスネリ(S.flexneri)、およびワイ
.エンテロコリチカ(Y.enterocolitica)、およびイー.クロアカエ(
E.cloacae)、ケイ.ニューモニアエ(K.pneumoniae)、ピー.ブ
ルガリス(P.vulgaris)およびピー.アエルギノサ(P.aeruginos
a)も阻害した。数種の病原体のビスマス:ジメルカプロール阻害は、ビスマス単独のも
のより>100倍増加された。殺細菌濃度は、MICより25−30%高かった。全体で
、イー.フェカリスのみが、ビスマス:ジメルカプロールの殺細菌活性に耐性があった。
【表6】
40
(36)
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10
20
30
40
【0142】
数種の細菌は、寒天拡散によって感受性についても試験した。一般に、試験した全ての
細菌は、表7に記録された阻害のゾーンによって例示されるとおり、硝酸ビスマスまたは
ジメルカプロール単独に対してよりビスマス:ジメルカプロールに対していっそう敏感で
あった。グラム陽性細菌の中でも、ビスマス:ジメルカプロールは、スタフィロコッキに
対して非常に有効であるが、ストレプトコッキに対しては活性が低い。47のメチシリン
耐性エス.アウレウス(MRSA)単離物および18のバンコマイシン耐性エンテロコッ
キ(VRE)のうち、メチシレン耐性エス.アウレウスは、27.9±3.5mmまで拡
大する阻害の部分的ゾーンを示した。メチシレン耐性エス.アウレウスについての部分的
50
(37)
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ゾーンは見られなかった。寒天拡散によって試験したグラム陰性細菌としては、6つの大
腸菌、4つのエル.ニューモフィラ(L.pneumophila)および3つのピー.
アエルギノサ単離物が挙げられ、そしてその全ては、ビスマス:ジメルカプロールに感受
性を示したが、その構成成分部分に対する応答はごくわずかであった。
【表7】
(38)
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20
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40
【0143】
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(39)
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ビスマス:ジメルカプロールは、H.ピロリおよび嫌気性細菌に対しても有効であった
。表8では、種々の臨床単離物および対照株を用いた寒天拡散研究を概説される。数種の
任意の細菌を、嫌気性条件下で相前後して研究した。得られたMICは、ジメルカプロー
ルと1:2の比で、2.2から100μM Bis3+まで変化した。バクテロイドス(
Bacteroides)は、一般に、他の細菌よりいっそう耐性がある一方で、H.ピ
ロリ、シー.ジフィシレ(C.difficile)およびエス.アウレウスは、最も感
受性があった。H.ピロリの結果は、テトラサイクリン、アンピシリン、およびメトロニ
ダゾール耐性株を含めた6つの抗生物質耐性単離物からの平均であった。大腸菌のビスマ
ス:ジメルカプロール阻害も、寒天拡散研究で嫌気性条件下で起こった。
【表8】
10
(40)
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10
20
30
40
【0144】
水中でのビスマス:ジメルカプロールの溶解性も、図3に示されるとおり、pHおよび
モル比に依存した。pH10では、ビスマス:ジメルカプロール(5mMのBi3+)は
50
(41)
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、1:1.8モル比まで、いっそうチオールを添加したとき、徐々に可溶性になった。比
>1.5:1でのBisBAlは、塩基中で最も可溶性が低い一方で、比<1:1.5は
いっそう可溶性であった。pH3で、ビスマス:ジメルカプロール(5mMのBi3+)
は、いっそうチオールを加えたとき、徐々に不溶性になり、酸中で1.2:1モル比で完
全に可溶性であり、そして<1:1.5で最も可溶性が低かった。1:1以上またはより
下のモル比でのごくわずかな変化は、酸または塩基での溶解性を劇的に変化させた。アル
カリ性溶液では、ビスマス:ジメルカプロールの1:2形態は、500mM近くまでH2
OでのBi3+可溶性を増加させた一方で、酸溶液では、2:1形態は、>50mM B
i3+までプロピレングリコール中でのBi3+を増加させた。ジチオスレイトール、δ
−メルカプトエタノール、1−モノチオグリセロール、ジメルカプトプロパン−1−スル
10
ホン酸およびジメルカプトコハク酸のような他のチオール化合物も、同様の形態で水中の
溶解性を際立って増強させた。
【0145】
ある種のビスマス−チオール化合物は、1−ブタノール中でも可溶性であり、そしてそれ
は、新油性の測定法として使用された。水からブタノール層に分配したpH9−10での
50/100mM溶液の含有率は、2.7から81.5までの範囲にあった(表5)。M
ICは、特にジチオールをモノチオールから分離した後、親油性と相関した。ビスマスと
、メシチリン耐性株エス.アウレウス、ジメルカプトプロパン−1−スルホン酸、L−シ
ステイン、ジメルカプトアジピン酸のようなチオールおよび酸性基を含む複合体は、相乗
作用を示さなかった一方で、ある程度までブタノール中で分配する全ての複合体は、抗細
20
菌性相乗作用を示した。
【0146】
実施例4:ビスマス:ジメルカプロールの抗ウイルス活性
ビスマス:エタンジチオールまたはビスマス:ジメルカプロールのようなビスマスチオ
ールは、ヘルペスのようなウイルスの使用について示唆される。アデノウイルス、エコウ
イルス、および呼吸性合胞体のウイルスの感染性力価は、50μM Bi(NO3)3、
25μMジメルカプロール(ビスマス−ジメルカプロール)を用い、37℃で3時間後に
変化しなかった。しかし、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−
1)、およびHSV−2の感染性は、それぞれ、83%、99.2%および>99.9%
減少した。Bi(NO3)3もジメルカプロールもいずれも単独で効果を示さなかった。
30
In vivo実験は、単純ヘルペスウイルス1で皮膚に感染させた毛なしマウスの局所
(25μl)および経口(100μl)治療から構成された。治療は、5日間、日に三回
行われた。病巣を0から10(重篤な帯状疱疹形態の潰瘍)で等級分けした。局所治療に
ついては、8週齢マウスを使用し、10は、DMSOで処置し、そして10は、10mM
Bi(NO3)3、5mMジメルカプロールで処置した。実験群について6日で2.9
で、14%の死亡率であるのに比べて、対照群は、6日で7.5のPMLSを、そして1
4日までに50%死亡率を示した。したがって、ビスマス−ジメルカプロールは、細胞外
ヘルペスウイルスの感染性を不活性化し、そしてマウスの単純ヘルペスウイルス1型感染
を修飾する。
【0147】
40
実施例5:カンジダ(Candida)種、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cr
yptococcus neoformans)、および線状菌に対するピリチオン単独
および硝酸ビスマスとの組み合わせでの活性
ピリチオン単独(プロピレングリコール中)および硝酸ビスマスとの組み合わせ(2:1
での硝酸ビスマス:ピリチオン比)での効力は、カンジダ・アルブカンス(Candid
a albcans)(7つの単離物)、シー.パラプシロシス(C.parapsil
osis)(1つの単離物)、シー.グラブラタ(C.grabrata)(1つの単離
物)、シー.トロピカリス(C.tropicalis)(1つの単離物)、クリプトコ
ッカス・ネオフォルマス(Cryptococcus neoformans)(5つの
単離物)、アスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus
50
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)(1つの単離物)、エイ.フラブス(A.flavus)(1つの単離物)、およびフ
サリウム・ソラニ(Fusarium solani)(1つの単離物)に対して調査し
た。RPMIブロス中の微量ブロス希釈法(重炭酸ナトリウムなしで、L−グルタミンお
よび3[N−モルフォリノ]プロパンスルホン酸緩衝液165mMを用いて)を用いて、
抗菌感受性試験を行った。酵母については、NCCLS(M27−T、15刊10号)に
よって、MICを測定した。線状菌については、提案した標準化手段を行った(J.Cl
in.Microb.、35巻、139−143頁、1997年)。103CFU生物は
、ピリチオン単独(40から0.3μMまで)および硝酸ビスマスおよびピリチオンの組
合せ(2:1比)(40/20−0.6/0.3μM)の一連の二倍希釈を含むウエルに
接種した。成長対照ウエルは、薬剤不含であり、そして陰性対照は、RPMI中で生物不
10
含であった。その後、MIC微量希釈平板は、35℃で、48時間(カンジダについて)
および72時間(クリプトコッカスおよび線状菌について)インキュベートした。MIC
は、成長対照(MIC−2)の80%阻害および任意の識別しうる成長を防止する濃度(
MIC−0)の結果を生じる最低濃度として規定された。ピリチオン単独、および硝酸ビ
スマスとの組合わせでの最小殺菌濃度(MFC)は、各ウエルからサブロウ・デキストロ
ース寒天に100μlサンプルを載せることによって測定した。MFCは、24時間イン
キュベーション後、最初の接種のCFUの数で、90%減少を起す最低濃度として規定し
た。
【0148】
種々のカンジダ種に対するピリチオン対ビスマス:ピリチオンを比較する上で、以下のこ
20
とは、表9から解釈される。MIC−2およびMFC値の間になにも際立った差異は見ら
れなかったが、ピリチオンおよびビスマス:ピリチオンのMIC−0は、酵母単離物の多
くの間で際立って異なる。したがって、ビスマス:ピリチオンは、MIC−0データによ
って、カンジダに対して、ピリチオン単独より4倍またはそれ以上の阻害であった。
【表9】
30
40
【0149】
クリプトコッキの中で、一般に、ビスマスを、ピリチオンと組合わせたとき対ピリチオン
単独で活性で2−4倍も増加があった(表10)。
【表10】
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10
【0150】
表11に示される結果は、アスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fu
migatus)、エイ.フラブス(A.flavus)およびフサリウム・ソラニ(F
usarium solani)は、ピリチオン単独、および硝酸ビスマスとの組合わせ
での両方に耐性があった。
【表11】
20
【0151】
実施例6:ブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)
に対するビス−チオールの活性
ビスマスは、B.セパシアに対して試験させるために、強力なキレート化剤として様々
のチオール化合物と組合わせた。試験した様々なチオールは、2−メルカプト−3−ブタ
ノール、p−クロロチオフェノール、3,4−ジメルカプトトルエン、ピリチオン、1,
2−エタンジチオール、および2,3−ジメルカプロール1−プロボノールであった。表
12には、B.セパシアに対する異なるビスマス−チオールおよびクロラムフェニコール
阻害活性の結果が概説される。
【表12】
30
(44)
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30
40
【0152】
表12中のデータは、ビスマス−チオール化合物、特にビスマス:3,4−ジメルカプト
トルエン、ビスマス:ピリチオンおよびビスマス:2−メルカプト−3−ブタノールが、
ブルクホルデリア・セパシアに対して阻害活性を示すことを指示する。ビスマス:2−メ
50
(45)
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ルカプト−3−ブタノールは、クロラムフェニコールを含めた全ての他のものより優れて
いる。したがって、ビスマス:2−メルカプト−3−ブタノールは、嚢胞性繊維症の患者
での肺感染の治療または予防での選択の剤として考えられるべきであった。
【0153】
別の実験では、ビスマス:p−クロロチオフェノールも、B.セパシア(MIC=7.2
±0.3μM Bi3+)および大腸菌(MIC=13.3μM Bi3+)に対して抗
細菌活性を発現することが示された。
【0154】
実施例7:K.ニューモニアエ(K.Pneumoniae)莢膜発現におけるビスマス
:チオールの影響
10
K.ニューモニアエ中で莢膜の発現を予防するそれらの能力を試験するために、ビスマ
スを、様々の比および様々の濃度でp−クロロチオフェノールおよび3,4−ジメルカプ
トトルエン化合物と混合させた。図5に示される結果では、2:1および1:2モル比で
のビスマス:p−クロロチオフェノール、および2:1モル比でのビスマス:3,4−ジ
メルカプトトルエンが、K.ニューモニアエ中での莢膜の発現を予防することが示される
。1:2モル比でのビスマス:p−クロロチオフェノール、および2:1モル比でのビス
マス:3,4−ジメルカプトトルエンが、ビスマス:ジメルカプロールに類似して、K.
ニューモニアエ中での莢膜の発現を予防する。
【0155】
本発明の効力についての実験的証拠
20
様々の細菌を死滅させる効力。メチシリン耐性スタフィロコッカス・エピデルミディス(
Staphylococcus epidermidis)に対するビスマス:エタンジ
オールについてのMIC90は、1.63μM Bi3+である。エス.エピデルミディ
ス対照株(ATCC 12228)に対して、MICは、0.09μMであった。スタフ
ィロコッカス・アウレウスATCC25923は、2.1μMで感受性があった。非常に
耐性のある病原体を含めて実質的に全ての細菌は、≦5.2μMでビスマス:エタンジチ
オールに感受性があった。バンコマイシン耐性エンテロコッキおよびB群ストレプトコッ
キ(streptococci)は、15μMビスマス:エタンジチオールと同じくらい
高いMICを示しながら、わずかに多い耐性がある。
細菌成長の遅延。ビスマス:ジメルカプロール(50/75mM)で被覆されたハイドロ
30
ゲルカテーテルは、数週間、細菌成長を阻止した。被覆カテーテルを、細菌を播種した新
しい寒天に毎日、移殖した。カテーテルは、20日間、エッシェリキア・コリの成長を阻
止し、そして39日後、なお阻害性があった。したがって、ビスマス−チオール中にハイ
ドロゲル被覆樹脂を浸漬して、水性環境にゆっくりと放出する抗細菌被覆を提供した。コ
ーティングは、様々の細菌に対して3週間またはそれ以上続く。
抗バイオフィルムの剤としてのビスマス−チオールの効力
ビスマス−チオール(BT)は、医薬および工業の両方でバイオフィルム(バイオフィ
ルム)と戦うために有用である。数種のビスマス:チオールが、今までのところ発見され
てきており、各々は様々の品質および効力を有する。抗バイオフィルム作用でのビスマス
−チオールについての利点は、
40
1)比較的低い濃度での効力。10μMでのビスマス−ジメルカプロールは、一回に数週
間、シュードモナス(Pseudomonas)、バシルス、アシドボラックス(Aci
dovorax)、またはビブリオ・SPP(Vibrio spp.)によるバイオフ
ィルム形成を阻害する。クレブシエラ(Klebsiella)またはシュードモナスか
ら生じた莢膜および粘膜発現は、ビスマス−ジメルカプロール中に5μM Biで実質的
に排除された。結果では、同じ目的のためには5ppmの塩素が必要とされるのに対し、
ほんの2ppm(10μM)ビスマス−ジメルカプロールが、バイオフィルムを防止する
ために必要とされることが示される。
2)バイオフィルム形成の防止。粘膜生成細菌(シュードモナス、アシドボラックス、バ
シルス、ビブリオ・SPP.)によるバイオフィルムは、ビスマス:ジメルカプロール(
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1−10μM Bi3+)15日間かけて>90%まで防止された。ビスマス:ジメルカ
プロールは、25μM Bi3+で海洋性細菌ハイポモナス(Hyphomonas)か
ら生じたバイオフィルムをも防止した。
3)莢膜および粘膜形成の阻害。クレブシエラ莢膜発現は、5μM Bi3+で、ビスマ
ス:ジメルカプロールによって>90%まで防止された。シュードモナス・アルギネート
発現は、2.5μM Bi3+で、ビスマス:ジメルカプロールによって>90%まで、
そして4μM Bi3+で、ビスマス:エタンジチオールによって80%まで防止された
。
4)予備形成バイオフィルムに対する、プランクトン生物に対するのと同じ効力。バイオ
フィルムは、通常、プランクトン生物より抗生物質死滅に50−500倍耐性があるが、
10
しかしビスマス:ジメルカプロールについては、MBCプランクトン性生物は、MBCバ
イオフィルムとほぼ同じである。カチオン性親油性剤は、バイオフィルムの中心に浸透し
、そして固着性生物を死滅させることができると思われる。ビスマス:ジメルカプロール
は、それらを溶菌または透過することなしに細菌を死滅させ、したがってバイオフィルム
で他の細菌をいっそう深くに供給しないと思われる。
【0156】
したがって、本発明は、バイオフィルムの形成または成長を防止することが望まれる領域
に、その金属が、ビスマス、ヒ素およびアンチモンから構成される群から選択されるもの
である金属:チオール複合体の形態でチオール化合物によってキレート化された金属を含
む有効量の組成物を塗布する段階を含むことを特徴とする、バイオフィルムの形成または
20
成長を防止する方法を提供する。
【0157】
本発明は、特定のその具体例に対する関係で記述されたが、多くの他の変異および修飾お
よび他の使用法は、当業者に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ビスマス:ジメルカプロール(BisBAL)(本発明によるビスマス:ジチオ
ール錯体)およびクロルヘキシジン(CHX)(消毒剤、消毒薬および保存剤として有用
な既知の代表的な薬剤)の夾膜および細菌粘液に対する効果の比較を示すグラフである。
【図2】ビスマス−チオールキレーターの静菌活性に対するビスマス対チオール化合物の
モル比の効果を示す。硝酸ビスマスを、種々のモル比のプロパンジチオール(白丸)、ジ
30
メルカプロール(●)、ジチオスレイトール(■)、3−メルカプト−2−ブタノール(
△)、2−メルカプトエチルアミン(□)、および1−モノチオグリセロール(◆)と一
緒にして、肉汁培地に加えた。大腸菌の感受性を4:1から1:4のモル比で三連で測定
した。静菌活性濃度を、増殖を24±2時間の間阻害するキレーターと組み合わせたビス
マスの濃度として定義した。結果は、平均および標準偏差を得るために三連で行った試験
を示す。
【図3】ビスマス:ジメルカプロールの溶解性に対するモル比およびpHの効果を示す。
10%プロピレングリコールでの5mMのビスマス溶液を、pH3(■)またはpH10
(●)のいずれかで、様々なモル比のジメルカプロールと一緒にした。生じた沈澱を沈降
させ、凍結乾燥して、重量を測定した。溶解性(%)を、加えた成分の総重量に対する沈
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澱物の重量によって求めた。結果は、平均および標準偏差を得るために三連で行った試験
を示す。
【図4】ビスマス:ジメルカプロールの殺菌活性に対するpHの効果を示す。大腸菌を中
期対数期まで肉汁培養で増殖させ、生理食塩水で1回洗浄し、そして生理食塩水に再懸濁
し、そしてpH4(□)、pH5(■)、pH6(○)、pH7(●)、pH8(◇)お
よびpH9(◆)の10mM緩衝液の存在下、100/50μMのビスマス/ジメルカプ
ロールで処理した。培養物を、1時間、3時間、5時間および24時間でサンプリングし
た。時間に対する生存率の減少を、平均および標準偏差を得るために、適切な稀釈物の標
準的な寒天置床法によって三連で求めた。
【図5】モル比が2:1および1:2のビスマス:p−クロロチオフェノール(BisO
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Cl)およびモル比が2:1のビスマス:3,4−ジメルカプトトルエン(Bis:TO
L)の種々の濃度のK.pneumoniaeにおける夾膜の発現に対する効果を示す。
【図1】
【図2】
(48)
【図3】
【図5】
【図4】
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フロントページの続き
(51)Int.Cl.
FI
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(2006.01)
A61K 33/24
A61P 31/22
(2006.01)
A61P 31/22
(56)参考文献 特開平08−119862(JP,A)
特開昭49−010908(JP,A)
特公昭39−026564(JP,B1)
特開平09−087116(JP,A)
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Antimicrobial Agents and Chemotherapy,1997年 8月,Vol.41, No.8,p.1697-1703
(58)調査した分野(Int.Cl.,DB名)
A01N 55/02
A01N 43/40
A01N 59/16
A61K 31/095
A61P 31/04
A61P 31/10
A61P 31/12
A61K 33/24
A61K 31/44
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