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Dia News No.74

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Dia News No.74
財団設立20周年記念
2013
No.74
02 巻頭言「超高齢 社会」と「超少 子社会」
03
論説「うつ予防のためのポピュレーション・
アプローチ・プログラムの応用と効果」
堀 勝洋
兪 今
07 Dia Information
静嘉堂文庫美術館(左)と静嘉堂文庫(右)撮影:井出昭一氏
08 ダイヤビックによる被 災地支援 活動
10
財団研究レポート
「傘寿者(80 歳)の社会とのつながり」
吉田あき子
澤岡 詩野
国宝 趙孟頫筆 与中峰明本尺牘 元時代(14世紀)重文 尾形光琳作 住之江蒔絵硯箱 江戸時代(18世紀)
表紙写真
「三菱の文化遺産 Ⅱ」
国宝 曜変天目
(「稲葉天目」)南宋時代(12~13世紀)
重文 平治物語絵巻 信西巻 鎌倉時代(13世紀)
公益財団法人 静嘉堂
静嘉堂は、第二代と第四代 三菱社長であった岩﨑 彌之 助と岩﨑小 彌 太の父子二代によって設 立され、国宝 7 点、重要文化財 8 3 点を含む、およそ 2 0
万冊の古典籍
(漢 籍 12 万冊・和書 8 万冊)と 6 , 5 0 0 点の東洋 古美 術品を収 蔵しています。18 9 2 年に創 設された静嘉堂文 庫の重要な所蔵書 籍としては、
清 朝 末の蔵 書 家 陸心源の旧蔵 書 4 万 4 千 冊があり、その中には中国においても貴重な宋 元 版 4 , 9 0 0 冊があります。又、静 嘉堂 文 庫美 術 館は 19 9 2
年に静嘉堂文庫創設 10 0 周年を記念して開館され、世界に 3 点しか現存していない中国・南宋時代の国宝「曜変 天目茶 碗(稲葉天目)」をはじめとする
所蔵品が 有名です。詳細はホームページ http://www.seikado.or.jp/をご覧ください。
頭
言
本研究財団が設立された20年前の高齢
諸課題に関する調査研究や上記の構造変化
化率(65歳以上人口/総人口)は13%程度
に関する調査研究に取り組むことが求めら
でしたが、現在は 24%程度になっています。
れるようになるのではないかと思われます。
その間、本研究財団は、各種の調査研究、
「超高齢社会」は「超少子社会」でもありま
事業活動、啓発活動を行うことによって、高
すが、これらは主に少子化によってもたらさ
齢社会の諸課題―高齢者の健康、在宅ケア、
れます。超高齢社会が問題であるとすると、
生きがいなど―を解明・解決することに多大
そうならないよう少子化対策をこれまで以上
の貢献をしてきました。
に講ずる必要があります。そのためには、従
Forum
公 益 財 団 法 人 年 金 シ ニ ア プ ラ ン 総 合 研 究 機 構 理 事 長 堀
「超高齢社会」
と
「超少子社会」
巻
Forum
ところで、我が国の高齢化率は今後 40%
来のような児童手当の拡充、保育所の増設
程度へと、更に上昇することが予測されてい
といった政策だけでなく、若者の雇用を最
ます。
そのような社会では、
労働力人口が減っ
優先することによって所得を保障し、結婚し、
て経済や財政の規模が縮小し、医療・介護
うつ予防のためのポピュレーション・
アプローチ・プログラムの応用と効果
―高齢者のうつ予防と支援事業としてのハッピー教室の取り組み―
(公財)ダイヤ高齢社会研究財団 主任研究員 兪
今
元気な時からのうつ予防の重要性
高齢期には、身体の機能のみならず、精神機能の衰えも
高齢者のうつの特徴は抑うつ気分よりも、身体症状を訴
しばしば見られるが、中でもうつ状態の発生が顕著であ
えやすい点にある。うつ病という病気に対する誤解や、精
子を産める社会に作り変えるとともに、子育
る。高齢者の約 2 〜 3割がうつ状態にあるといわれ、身体
神科の病院にかかることへの抵抗から、精神科への受診が
のマンパワーが減る一方で、高齢者のための
てしやすい環境を整備する必要があると思
的な健康度の低下に伴い、うつ状 態の割合は増加する。
遠のき、診断を難しくしている。地域高齢者にうつ状態の割
介護、医療、年金などの給付費が大幅に増
います。本研究財団も「超高齢社会=超少
また、うつ病やうつ状態は、要介護リスクを高める老年症
合が多い現状では、うつの知識の普及・啓発が必要であり、
えます。したがって、我が国の就業構造、経
子社会」であることを踏まえて、将来研究対
候群に大きく影響し、自殺の危険性を高めることが問題
現時点でうつリスクがあまり無い一般的な人々に対するう
済構造、財政構造などを変えなければ、我
象を拡げることが求められるようになるかも
視されている。特に、日本の高齢 者の自殺率は諸外国と
つ予防サービスの提供が望まれる。すなわち、効果的なポ
比べて高く、うつ病は高齢期で最も重要な精神健康問題
ピュレーション・アプローチが重要な課題の一つである。
が国の存立すら危うくなるのではないかと思
しれません。
われます。
このため、例えば高齢者の就労を促進す
ることによって生涯現役社会を実現し、女性
の就労を促進することによって夫婦共働き
社会を実現し、更には自助・互助の役割の増
大、経済の活性化・財政の効率化といった、
勝洋
これまでとは異なった発想による改革が求め
られるようになるのではないかと思います。
本研究財団も、このような「超高齢社会」の
◇ PROFILE 堀 勝洋(ほり・かつひろ)
19 67 年東京大学法学部卒業、厚生省(現 厚生労 働省)、
社 会 保 障 研 究 所( 現 国 立 社 会 保 障・人 口 問 題 研 究 所 )、
上智 大 学 法 学 部を経て、2012 年から現 職。上智 大 学 名
誉 教 授。ダイヤ財団設 立当初より、財団評 議員に就任い
ただいています。著書に『社会保障・社会福祉の原理・法・
政策』
(ミネルヴァ書房)、
「社会保障法総論(第 2 版)」
(東
京大学出版会)
「
、年金保険法(第 3 版)」
(法律文化社)など。
の一つであるといえる。高齢期はうつになりやすい要因が
表紙写真について
『 曜 変 天 目 茶 碗( 稲 葉 天 目 )と の 巡 り 合 い 』 井 出 昭 一
私は美術館と展覧会巡りを永年続けてきましたが、その原点となったのは日本橋・高島屋で開催された「中国名陶百選展」です。訪れたのは昭和 35年(1960年)
4月17日、展覧会の最終日でした。50数年も前のことですが、あまりにも強烈な印象を受けたため今でも脳裏に焼き付いています。会場には国内の国宝 6点、重要文
化財 23点のほか、日本にあれば国宝級に相当する海外所蔵家の中国の名陶など百点が展示されていました。これほど厳選された名品が一堂に会するのは空前絶後
のことです。国宝 6点のうち天目茶碗が 4点も並び、その中でも静嘉堂文庫の曜変天目茶碗は圧巻でした。人間が創造した作品でこれほど華麗で神秘的なものは他に
類がありません。この“世界の至宝”との対面を契機として私の展覧会巡りが始まり、今でも静嘉堂文庫美術館に通い続けています。
Dia News ◆ No.74
従来のアプローチ方法では主にうつ病患者を対象とし、
増える時期でもあるが、病的なものだと気づかないことが
治療、服薬といった臨床介入の延長線にあるものが多かっ
多く、重症化・長期化することも多い。同時に、高齢期の
た(ハイリスク・アプローチ)。 その次に多く用いられた
生活の質の低下を招きやすく、うつ病は社会的には医療
手法は認知療法であり、集団、グループにおける方法もみ
費、介護費、生活保護費の増大など社会保障費の負担を
られたが、離脱者が多いなど、一般の地域高齢者向けのポ
高めることも危惧されている。自殺予防 対 策と同様に元
ピュレーション・アプローチに応用するには限界があった。
気な時からのうつ予防施策の展開が求められており、か
近年、ポジティブ心理学が提唱され、うつの改善、幸福
つエビデンスの蓄積や具体的な効果のある施策の確立が
感の向上に効果があるとされている。ポジティブ心理療法
急務であると考える。
はネガティブ面の修復に焦点を当てるのではなく、ポジティ
ブな面に焦点をあてて満足感や幸福感の構築を期するとい
介護予防施策におけるうつ予防支援策の現状
う比較的最近発達した注目の分野である。ポジティブ心理
平成18年度に介護予防を重視する施策がスタートし、老
チが可能であり、メンタルヘルスの維持増進に資するもので
年症候群リスクがあると判断された二次予防対象者(従来
2
うつ予防には効果的な
ポピュレーション・アプローチが必要
療法は、参加者が受け入れやすく、集団に向けたアプロー
あるとされている。
の特定高齢者)に対しては運動器の機能向上、栄養改善や
うつ予防のポピュレーション・アプローチとして、地域高
口腔機能の向上といった介護予防サービスを行ってきてい
齢者向けの介護予防事業(二次予防事業)の一環としての
る。しかし、うつ予防及び支援対策では基本チェックリスト
展開が適切であると考え、我々は高齢者のメンタルヘルス
等を用いてうつに関するアセスメントを行い、「心の健康相
の維持増進のために、ポジティブ心理学手法を中心に、精
談」や医療機関への受診勧奨にとどまっている。一方、老年
神医学、心理学、脳科学、中国医学など多分野の研究成果
症候群リスクが無いと判断された一次予防対象者(従来の
に基づいたハッピープログラムを開発した。そして、高齢者
一般高齢者)に対しては、うつに関する正しい知識の普及・
向けの二次予防事業の中でうつ予防事業として試みた。本
啓発を行うことが進められている。
プログラムの開発と短期的な効果については、ダイヤニュー
Dia News ◆ No.74
3
Forum
ス64号(2011.1月発刊)で既に紹介した通りである。本稿
ハッピー教室の概要
表 2 主なメンタルヘルス関連評価指標
ではうつ予防のためのポピュレーション・アプローチとして、
ハッピー教室の概要は表1に示す通りで、一次予防対象
介護予防事業へのハッピープログラムの応用と短期・中長
者向けポピュレーション版のハッピー教室は一般高齢者を
期的効果の一部について紹介する。
中心とした、週に1回の頻度で計12回実施する通所型教室
うつ予防事業としてのハッピー教室の取り組み
である。
二次予防対象者向けハイリスク版のハッピー教室は、うつ
うつ予防事業の導入が遅れているのは、エビデンスの
の疑いが高いと判定された者を対象とする。つまり、厚生労
不足や実践的な応用プログラムが開発されていないことが
働省の基本チェックリストにおけるうつ項目の内、2項目以
原因である。ハッピープログラムは、通所型サービスとして
上該当する者(治療中、重度者、課題遂行が難しいと思わ
実施され、事業評価も行われて、エビデンスも蓄積しつつ
れる者は除く)を対象としている。
ハッピー教室の進め方
表 1 二次予防事業のうつ予防事業としてのハッピー教室の概要
一次予防対象者向け
(ポピュレーション版)
二次予防対象者向け
(ハイリスク版)
参加者
一般高齢者が半数以上だが、
うつの疑いがあると
判定された者*を含む
うつの疑いがあると
判定された者*
教室形態
通所型
通所型
実施規模
(人数)
2 5人
1 5人
実施期間
(頻度)
1回90分
週1回
計12回
1回 105~120分
週1回
計13回
会場
規模にあった人数を収容可能、
且つグループワークができる会場
人員配置
対象者5~8人に対しファシリテーター1人
*:基本チェックリストの結果による該当者(治療中の者、重度者を除く)
ハッピー教室の流れ及びハッピープログラムの実
際を図1に示した。
1. 対象者の把握
0-24点 : 高い程、不眠症の疑いが
不眠 : アテネ不眠尺度(AIS)
高い
不安 : 不安尺度
(STAI)
状態不安
(SAI)
20-80点 : 高い程、事態に対する不
安過敏性が高い
特性不安
(TAI)
20-80点 : 高い程、性格特性として
の不安傾向が高い
心理的幸福感 (
: FEQ)
0-10点 : 高い程、幸福感が高い
結果通知書に同封のハッピー教室の案内によって募っている。
自治体が二次予防事業対象者把握事業として、
中国医学を応用したもので、五感を中心に点在する「ツ
ボ」を刺激することで体調を整え、脳の活性化を促し、
リラクゼーション効果が得られる健康法である。
《 ホームワークの取り組み 》
ホームワークの課題に沿って、日常生活の中でポジティ
ブ経験を重ねることを目的としている。実施結果につい
てはハッピーダイアリーに記入し、課題の実施状況をま
とめて、グループワークの際に提出する。
6. 自主グループ活動の推奨
本プログラム終了前から参加者に呼び掛け、教室参加者
で構成する自主グループ活動化も推進している。これは、
行動変容後の行動の習慣化や長期的な効果継続を図るた
ために、評価指標による調査を、ハッピー教室参加者には
めに、プログラム終了後も、自主的かつ定期的に活動を続
教室開始時と終了時に行う。主な評価指標は表 2に示す。
けるよう勧めるものである。
5. ハッピープログラムの実際
7. フォローアップ調査と評価
フォローアップ調査と評価はハッピー教室の中長期的な
グループワークは、前半はうつの知識の普及・啓発やハッ
効果を検証することを目的とする。事前事後の評価時の指
高齢 者向けの 全 数 調 査 及び 基 本健 康 診査 等の
ピー課題の勉強会形式、後半はハッピーな話題を共有す
標に加え、要介護認定状況等の指標を用いて評価を行う。
ルートで基 本チェックリストを実施し、二次予防
るワークショップとリラクゼーション法の実技指導で構成
8. 結果のフィードバック
事業実施対象であるか否かを判断する。
されている。
①参加者にフィードバック
2. 従事者養成
《 グループワーク 》
本プログラムを実施するために必要な知識と技
①うつの知識の普及・啓発
結果を参加者にフィードバックし、対象者自身のメンタル
ヘルスの管理に役立てる。
術を備えたファシリテーターを育成している。メイ
うつを正しく理解するために、うつに関する12 のテーマ
ンファシリテーターは、一定の現場経験があり、本
の一般的な知識と対応法について習得する。うつに対す
報告会、講演会、講座、従事者研修等に用いることで、
プログラムの所定の時間の従事者研修および実習
る健康意識を高め、うつの早期発見、早期対応に資する。
本プログラムの普及啓発に役立てる。
修了者としている。臨床心理士、精神保健福祉士、
②ハッピー課題
②普及啓発に利用
③プログラムの改善に利用
医療職および、これらと同等な
ハッピー課題は本プログラムの中のコアの部分であり、
総合的な評価は関連機関にフィードバックし、プログラム
能力を有する者とする。メイン
幸せになるスキル(ハッピースキル)を身に付けていくこ
の改善や保健福祉施策に役立てる。
ファシリテーターの役割は、プ
とを目的とする。日常生活の中でのポジティブ体験・実
ログラムの運営および総括を行
践活動を促すことで、ポジティブ感情や幸福感の向上、
学会や学術誌への研究発表を通し、専門家への情報発
うことである。サブファシリテー
心身の健康の維持増進を目指す。ポジティブ感情・体験
信を行い、科学的エビテンスを蓄積する。
ターは現場経験があり、本プロ
を増やすための日常生活の中で気軽に取り入れられる
グラムの普及啓発用の従事者研
10 のハッピー課題について、科学的な根拠と効果を説
修および実習修了者としている。
明し、ホームワークのフォローアップを通して、対象者の
ポピュレーション版ハッピー
図 1 ハッピー教室の流れとハッピープログラムの実際
④ Y 式五感健康法
本プログラムに参加したことによる効果の有無を把握する
本プログラムはグループワークとホームワークからなる。
3. 対象者の募集
Dia News ◆ No.74
0-15点 : 高い程、抑うつ状態の疑
いが高い 6点以上 = うつ状態あり
4. 事前事後評価
ある実践的な応用プログラムである。
4
抑うつ : 高齢者用抑うつ尺度
(GDS)
行動変容を促すための内容である。
③ワークショップ
④科学的なエビデンスを提供
ハッピー教室の効果検証
1. ポピュレーション版ハッピー教室の効果検証
一次予防対象者(一般高齢者)向けのポピュレーション
教室の参加者は、主に自治体の
12 のテーマを提示し、小人数で行うグループワークで
版ハッピー教室の効果検証については、参加者と同じ条件
広報誌で募っているが、二次予
ある。参加者同士でポジティブ体験を互いに共有化した
で選ばれた(基 本チェクリストのうつ項目該当数、年齢、
防 対 象者向けの 参 加 者は、基
り、結果期待を確立することで、コミュニケーションスキ
性別、居住地域を制御)対照群を設定し、評価を行った。
本チェックリストで把 握された
ルの向上を図り、調和性を高めたり、さらにホームワー
評価指標については、ハッピー教室の開始時、終了時、6
二次予防対象者向けに送られる
クの取り組みについて事前サポートを行う狙いもある。
カ月後、1年後の 4時点で測定した。ハッピー教 室参加者
Dia News ◆ No.74
5
Dia Information
Forum
4.20
のみでも、うつ得点はハッ
ピー教室参加前後で改善
し、そ の 効 果 は1年 後 も
GDS Score
加 者全員でも、あるいは
抑うつ状態のある参加者
4.28
4.09
3.90
持が確認された。
2. ハイリスク版ハッピー
教室の効果検証
二次予防対象者を中心
7.00
7.27
7.24
6.55
2.94
6.00
3.03
4.00
開始前 終了時 6ヵ月後 1年後
全 体
GDS≧6Group
6.79
対照群
教室参加者
(GDS×Group: 0.0009)
5.00
3.00
5.33
6.5
①専門家向けシンポジウム
・テーマ:
「高齢期のうつ予防事業について
-ハッピープログラムの取り組み-」
4.58
開始前 終了時 6ヵ月後 1年後
抑うつ状態あり群
6.32
抑うつ
幸福感
7.0
ピー 教 室の 評 価 方 法 は、
開始前
6.20
6.0
終了時
**P<0.01
開始前
終了時
図 3 ハイリスク版ハッピー教室の参加前後の抑うつ得点と幸福感得点の変化
ハッピー教室の前後の2時点で自記式調査表を用いて評価
平成 24年より科学研究費助成事業 ( 学術研究助成基金
した。本プログラムの実施前後の抑うつ得点と幸福感の得
助成金 ) で科学的な実証研究を実施中である。なお、本研
点の変化を図 3 に示す。抑うつの改善及び幸福感の増加で
究は桜美林大学加齢・発達研究所と共同で行っている。
明確な効果が得られた。同様に、睡眠、不安の改善も認め
られた。
本文で示した結果は都市部の1自治体における結果であ
るが、一般高齢者向けポピュレーション版ハッピー教室お
よび二次予防対象者向けのハイリスク版ハッピー教室の成
績は、抑うつの改善及びメンタル指標の改善に有益であり、
ポピュレーション・アプローチとして地域高齢者のうつ予防
と支援策に応用できることが示唆された。今後は、応用効
果を含め、ハッピー教室の汎用性を実証していきたい。
現在までの実績
平成 20年度から国内外の研究実績に基づき本プログラ
ムを開発し、平成 21年度のプレ介入研究、東京都 F 市で
のうつ予防モデル事業、平成 23年度の新潟県 N 市でのモ
デル事業において、本プログラムの効果の信頼性と妥当性
を得るに至った。平成 21年度から平成 24年度まで 2自治
体で介護予防事業として導入され、計41の教室を実施し、
実績を得た。また、終了した対象者の一部は自主グループ
で活動を定期的に継続しており、その自主グループ間の交
流のための合同会も計 6回実施した。
6
Dia News ◆ No.74
(1部)講演:桜美林大学教授 新野 直明氏、
財団主任研究員 兪 今
(2部)ワークショップ「ハッピープログラムの実際」
5.36
としたハ イリスク版ハッ
・開催場所:日本教育会館(東京都千代田区一ツ橋)
事例紹介:府中市、長岡市
6.5
5.5
5.0
・開催日時:2013年 9月5日(木)9:45 ~16:30
・内容
6.69
6.0
◆ 財団主催のシンポジウム開催のご案内 ◆
5.75
図 2 ポピュレーション版ハッピー教室における参加者と対照群の抑うつ得点比較
時に、対照者に比べ効果
福感の指標も、1年後の維
4.02
7.83
8.00
対照群
教室参加者
3.56
3.30
同様に、ハッピー教室終了
参 加 者の睡 眠、不安、幸
4.22
(GDS×Group:P=0.002)
3.60
維 持 されて いた( 図 2)。
がみられたハッピー教 室
4.18
GDS Score
は対 照 群と比 較して、参
シンポジウムのご案内
9月 5日に、日本教育会館(千代田区一ツ橋)で、「高齢期の
うつ予防事業について -『ハッピープログラム』の取り組み-」
というタイトルのシンポジウムを開催いたします。詳しくは財団
ホームページをご覧下さい。
文献
1.Seligman ME, Schulman P, Tryon AM. Group prevention of
・参加対象者:行 政の高齢者問題担当者や介護関係
の専門職
・共催:桜美林大学 加齢・発達研究所
・後援:厚生労働省、府中市、長岡市
・お申し込み方法:財団ホームページをご覧ください。
②一般向けシンポジウム
・テーマ:
「都市コミュニティーを救うシニアの力
-プロダクティブ・エイジングの視点から-(
」仮称)
・日時:2013年11月12日(火)13:30 ~16:30
・場所:新宿文化センター(東京都新宿区)
・講演:鎌倉女子大学准教授 杉原 陽子氏
・パネルディスカッション:コメンテーター財団主任研究員
澤岡 詩野
・お申し込み方法:後日、財団ホームページにてお知ら
せいたします
depression and anxiety symptoms. Behav Res Ther. 2007
Jun;45(6):1111-26.
2.Jin Yu, Naoakira Niino, et al:Effectiveness of Positive
◆「平成24年度活動報告書」◆
Other Mental Health State. 9th Asia / Oceania Congress of
Geriatrics and Gerontology. 2011.10
of the community elderly. Third World Congress on Positive
Psychology June27-30, 2013・Los Angeles California U.S.A.
◇ PROFILE 兪今(ゆきん)
(公財)ダイヤ高齢社会研究財団主任研究員・医学博士
中国延辺医学院医学部卒、琉球大学大学院医学研究科修了。
桜美林大学加齢・発達研究所研究員、東京都老人総合研
究 所研 究員を経て、2009 年より現 職。高 齢 者のうつ予
防プログラムの開 発と応用研究に関する研究などを行う。
主な共著に「男性百歳の研究」「精神障害の予防をめぐる
最近の進歩」等。
⑤荒 井浩道、袖井孝子、澤岡詩野*、森やす子、鈴木
昭男:
「ICT を活 用した高 齢 孤 立 防止モデルに対
する評 価の推移 : テキストマイニングによるインタ
ビューデータの時系列分析」
第28回日本老年精神医学会 (2013/06大阪 )
兪今*:
「高齢者のうつ状態の変化及びリスク要因」
日本ケアマネジメント学会第12回研究大会 (2013/06大阪 )
①天 野貴史*(慶應義塾大学)
・石橋智昭*・阿部詠子
*
*
・小野恵子 (群馬パース大学*)
・新津ふみ子(社
会事業大院 )・高野龍昭(東洋大)
・池上直己(慶
應義塾大学)
:
「アセスメントデータから算出するケ
アのアウトカム指標(1)
;居宅支援事業所の比較」
②石橋智昭*・天野貴史*・阿部詠子*・小野恵子*・高
野龍昭・新津ふみ子・池上直己:
「アセスメントデー
タから算出するケアのアウトカム指標(2); リスク調
整の必要性」
③濱田康子(ラックコーポレーション )・小野恵子*・石
橋智昭*天野貴史*・阿部詠子*・高野龍昭・新津ふ
み子・池上直己:
「アセスメントデータから算出する
ケアのアウトカム指標(3); 同一法人内の QI 比較」
7/25付けで、財団の平成 24年度活動報告書概要を
財団ホームページに掲載いたしました。
◆ 学会発表 ◆
⑤小野恵子*・石橋智昭*・天野貴史*・池上直己:
「居
宅介護利用者の褥瘡に関する研究 -アセスメント
情報に基づく分析-」
3.Jin Yu, et al:Medium-to long-term effectiveness of positive
psychology approach in preventing depressive symptoms
④澤 岡詩野*、袖井孝子(東京家政学院大学)、森や
す子(お茶の水女子大学大学院)、荒井浩道(駒澤
大学)、鈴木昭男(シニア社会学会):
「高齢者の電
子メールを介した非親族との日常的交流 ~中高年
向け WEB サイト登録者を対象として~」
④阿 部詠子*・小野恵子*・石橋智昭*・天野貴史*・新
津ふみ子・高野龍昭・池上直己:
「アセスメントデー
タから算出するケアのアウトカム指標 (4); ケアプラ
ン改善への活用」
Psychology Approach (PPA) to Decrease Depression
Symptoms in Older Adults in Relationship to Changes in
②石橋智昭*、針金まゆみ(シード・プランニング)
、岡
眞人(横浜市立大学)
、長田久雄(桜美林大学大学
院老年学研究科):
「生きがい就業の介護予防プログ
ラムへの活用可能性 ; 新規登録会員の1年後の状態」
③西村昌記*(東海大学)
:
「家族介護者ソーシャル・サ
ポート尺度の開発」
(*は財団研究員)
第 54回日本老年社会科学会(2013/06大阪)
小講演Ⅰ
:
「都市高齢者の日常的な他者との交流と居場所」
演者:澤岡詩野*、司会:西村昌記*(東海大学)
①安順姫*、兪今*、兪峰(琿春市幸福中高年健康セン
ター)、崔範日(琿春市中老年人健康活動中心)
:
「中
国東北農村地域における高齢者の社会参加と健康
関連要因に関する縦断的研究」
Dia News ◆ No.74
7
ダイヤビックによる被災地支援活動
か
み
へ
い
お お つ ち
~岩手県上 閉伊郡大 槌町での活動~
新 聞 及び岩手日報
の両紙で 報 道さ
れ、指導者は、イン
タビューで「一昨年
に知 的 障 が い者も
楽しめるエアロビッ
クを 考 案し、今 年
は全 国で 普及活動
を行っている。利用
ダイヤ財団は、2000年に玉川学園と共同で、元気な高
者に楽しんでもらえ
齢者づくりのためのエアロビクス「ダイヤビック」を開発しま
てよかった。誰でも
した。本 格的な高齢社会を迎え、介護予防、元気高齢者
できる運 動 なので
づくりに対する関心が高まるなか、自治体主催のダイヤビッ
世代間交流につながってほしい。」と答えていました。
ク教室等を通じてダイヤビックを楽しむ高齢者の延べ人数
(写真 3)ダイヤビックを楽しむ参加者
出しに合わせ、笑顔でリズムに乗って楽しんで頂きました。
◆被災地支援活動
は、首都圏を中心に年間 4万人に達しています。ダイヤビッ
年さんの挨拶で始まり、参加者はインストラクターのキュー
参加者の中に、2008年に「だれでもダイヤビック」の指導
クの普及活動は、2003年に設立された高齢者のインスト
大 槌町は、東日本大 震災で甚 大な被 害を蒙りました。
活動で訪問した際にお会いした知的障がい者施設「わら
ラクターの団体「ダイヤビックひばり会」が中心となって推
現在、復興に向けて様々な取り組みがなされていますが、
び学園」の利用者の方が元気にダイヤビックをされていま
進しており、本年 3月末の会員は120名(男性 22名、女性
昨年秋、小笠原正年さんより「仮設住宅に居住する高齢者
した。再会できた喜びで胸が熱くなりました。
98名、平均年齢 71歳)で、指導技術の維持・向上に努め
(写真 2)元気な施設利用者がリーダーとなって!
ながら、ダイヤビック教室や各種イベントで指導及び紹介
活動を行っています。
(写真 1)
大槌町で住宅装備品の製造販売と健康ジムを経営(南
部屋 産業㈱)している小笠原正年さんの奥 様久美子さん
の閉じこもり防止と健康維持を目的にダイヤビック教室を
自治体等の協力を得て開催したいので応援して欲しい。」
との依頼がありました。
当日行なったダイヤビック教 室満足度調査では大半の
方に満足して頂けたようです。
◆今後の支援活動について
が、日経新聞に掲載されたダイヤビック・インストラクター
些少なりとも被災地のお役に立つことができればとの思
指導技術の向上やユニバーサルスポーツの観点での応用
の記事を目にしたことがきっかけで 2003年にダイヤビッ
いから、ダイヤビックひばり会の有志とダイヤ財団の担当
東日本 大 震 災で甚 大な被 害を被った大 槌 町には、約
研究等を行っています。
ク・インストラクターの資格(*)を取得し、大槌町でダイヤ
者 5名が、本年 3月 22日に大槌町を訪問し、表1のイベン
2,200戸の仮設住宅があり、住民の半数以上が住まいとし
ビックの指導活動を開始しました。
トで支援活動を行いました。
(表1、写真 3)
ています。居住者には、高齢者も多く、仮設住宅での生活
一方、ダイヤ財団は、同会の活動を支 援するとともに、
◆大槌町とダイヤビック
(*)ダイヤ財団主催の専門家によるダイヤビック・インストラクター養成
講座を受講。合格者には認定書を授与。
ダイヤビック教室は、首都圏を中心に開催されていますが、
今回の開催に当り、小笠 原ご夫妻は、“ 健 康 運 動推 進
は長期に及んでいることから、孤立化防止、健康維持・増
サークル ”として『いきいき岩手元気隊』を立ち上げ、“ 復興
進を図る具体的な取り組みが喫緊の課題となっています。
他の地域でも地域在住のダイヤビック・インストラクターが
大槌町で 2005年 3月に町役場の後援で開催された「第1
独自の活動を展開しています。そういった地域の一つに大
回ダイヤビック教室」では、ダイヤビックひばり会とダイヤ財
A4判カラー刷りの案内チラシを作成し、病院・役所等関
ビック教室の継続的な開催を支援し、同地の高齢者の孤
槌町があります。
団は、同教室の出張指導のため大槌町を初めて訪れました。
係施設に配布されました。開催当日、会場の役場仮庁舎内
立化防止、健康の維持・増進に微力ながら取り組んでまい
また、2008年10月には、ユ
の大槌町役場体育館には、広い体育館一杯に70名もの人
ります。 (吉田あき子)
ニバーサルスポーツの観点から
たちが参加されました。午前10時より2時間弱、小笠原正
ダイヤビック教室 in 大槌 ” を企画、多くの参加者を募るべく、
ダイヤビックひばり会とダイヤ財団は、大槌町でのダイヤ
長寿社会開発センターの助成
表 1 大槌町仮設住宅入居者向け復興支援企画「ダイヤビック教室」
により開発した知的障がい者
向け「だれでもダイヤビック」を
大槌町の知的障がい者施設
「わ
らび学園」の利用者を対象に指
導活動を行いました。
(写真 2)
(写真 1)ダイヤビックひばり会の研修風景
8
Dia News ◆ No.74
この催しは、地元の岩手東海
日 時:3 月 22 日(金) 10:00 ~ 11:45
場 所:大槌町役場体育館(仮役場庁舎内)
主 催:健康運動推進サークル いきいき岩手元気隊 役場、包括支援センターとの共同企画
指導者:ダイヤビックひばり会 大島 泉さん、佐藤 恵子さん、松野 富恵さん、森木 俊治さん、ダイヤ財団 吉田 あき子
参加者:70 名
Dia News ◆ No.74
9
REPORT
画した。
傘寿者(80歳)の社会とのつながり
― 杉並区健康長寿モニター事業 初年度調査の結果から ―
(公財)
ダイヤ高齢社会研究財団 主任研究員 工学博士 澤岡 詩野
Report Report
有無、ある場合はその内容を具体的に尋ねた。この結果、
事業では、80 歳の区民を対象に、高齢期の生活環境や
全体の 39.0%(男性 38.7%、女性 39.3%)が、なんらかの
社会活動が、その後の健康長寿にどのように寄与している
社会活動を 70 歳以降に開始していた。その内容は、ウォー
かについて、平成 24 年 4 月~平成 29 年 3 月までの 5 年
キングやスポーツクラブ、歴史や外国語の勉強、フラダンス
間の追跡調査により検証することを目的としている。調査は、
にピアノ、パソコンやデジカメ、料理、町会活動やボランティ
大きく 3 つに分けられる。
アなど、多様な活動が挙げられた。それらの活動は、
「スポー
●郵送調査:80 歳区民全員を対象に、保健行動や生活習慣、
ツ・運動」
「教養・学習」
「趣味」
「ICT(情報通信技術)」
「家事」
REPORT
から三年ごとに約 20 年間追跡した「全国高齢者パネル調
社会活動や地域との関わり、心理状態などを調査。
PROJECT
Report Report
平成 24 年 9 月~ 10 月に 3,749 人(男性 1,446 人、女性
人に 1 人が 65 歳以上の高齢者となる社会が到来すると推
査」
(東京都健康長寿医療センター・ミシガン大学共同研究)
2,303 人)に郵送配布し、回収率は 66.0%。
計されている1)。このなかで、75 歳以上の後期高齢者人口
の結果 2)、変化のパターンは男女で異なるものの、多くの人
の割合も上昇を続け、平成 29(2017)年には 65 ~ 74 歳
の前期高齢者人口を上回り、その後も増加傾向が続くこと
平成 25 年には4人に1人が、平成 47(2035)年には 3
Project project PROJECT
Report Report report
「社会的活動」
「その他」に大きく分類された。始めた社会
活動について具体的な記入のあった 949 人のなかで、男女
共に最も行われていたのは趣味で、スポーツ・運動が続い
●会場調査:郵送調査回答者のうち、協力意向のあった人
ていた(図 1)。スポーツ・運動ではウォーキングが多く挙げ
の自立度が低下していくのは 70 歳半ばからであることがわ
に、郵送では調査困難な項目について、面接により聞き
られており、区が介護予防や認知症予防事業で重点的に推
かってきている。
取り調査を実施。
奨してきたことが反映された結果といえる。また、男性では、
高齢者の活動を共に行うメンバーや交流する他者の多く
平成 24 年 10 月 16 日~ 11 月 29 日まで、7 箇所の地域
ICT や町内会やボランティアなどの活動に加え、料理などの
されている。平成 67(2055)年には男性 83.7 年、女性
は同年代であることが多く、関わる他者の自立度も同時に
区民センターで調査を実施した結果、513 人から協力が
家事が挙げられることが多かった。
90.3 年と、男女共に平均寿命も伸びていくことが見込まれ
低下していく後期高齢期は社会活動や社会関係の縮小期に
得られた。
る超高齢社会のなかで、誰もが安心して、生きがいに満ち
位置づけられている。縮小を前提とした調査・研究が行わ
●歯 科医院調査:郵送調査回答者に無料歯科受診券を送
た人生を送り続けるための地域づくりが求められている。
れる中で、
「後期高齢期に差しかかる時期に新たに始められ
付。区内の歯科診療所で義歯の利用に関する調査を実施
20 年とも 30 年ともいえる高齢期の長い時間を考えるう
た社会活動はないのだろうか?」、
「あるのであればどのよう
した結果、285 名から協力が得られた。
えで、心身機能の衰えが顕著になる後期高齢期以降につい
な活動なのだろうか?」については明らかにされていない。
これらの調査に加え、個人情報の同意が得られた 1,846
ては、特別な支援が必要である。しかし、後期高齢期以降
また、自立度が低下しつつあるなかで、日々の見守りや
人の後期高齢者医療情報、介護保険情報を 5 年間蓄積
の人々が、実際にどのような日常生活を地域で送っているか
災害時に助けてもらうといったことへの需要も増えてくるこ
し、3 つの調査から得られたデータと併せて分析を行っ
は、ほとんど明らかにされていない。この課題意識から、
(公
とが考えられる。その担い手として近所を位置づけた施策
ていく計画である。
財)ダイヤ高齢社会研究財団では、区政 80 周年を迎える
や地域活動グループによる支援活動のあり方が模索されて
東京都杉並区が 80 周年記念事業の一環として行う、区と
いる。しかし、実際に後期高齢期にある都市住民は、
「ど
同い年の区民(傘寿者)を対象にした「健康長寿モニター
のよう関係を近所に望んでいるのか?」はほとんど知られて
事業」に共同研究者として参画している。本稿では、この
いない。
が見込まれ、これは都市部において顕著であることが指摘
事業の初年度に行った平成 24 年度調査から、杉並区の傘
寿者の社会とのつながりのなかで、
「70 歳代から新たに始
めた社会活動」と「近所との関わり」に焦点を当て、結果
の一部を紹介する。
後期高齢期以降の社会とのつながり
年齢と自立度(日常生活の動作を介助なしでできるか)
の変化を、全国の 60 歳以上の男女約 6,000 名を 1987 年
10 Dia News ◆ No.74
REPORT
健康長寿モニター事業の概要
平成 24 年度郵送調査の結果から
男性
女性
スポーツ・運動
教養・学習
趣味
ICT
(情報通信技術)
家事
社会的活動
回答者の 58.3% が女性であった。自分の健康状態につ
いては、全体の 72.3%(男性 72.1%、女性 72.5%)が、
「非
その他
0% 20% 40% 60% 80%
常に健康」
「まあ健康」と回答していた。家庭や社会での
役割など地域で生活していくうえで必要とされる機能や日常
図 1 70 歳を過ぎてから新たに始めた社会活動
杉並区は東京都の特別区の一つで、23 区の西部に位置
生活に必要な動作や家事をする能力については、老研式活
する、人口規模 52 万 7635 人(高齢化率 19.9%)の自治
動能力指標(得点範囲は 0 ~ 13 点、得点が高いほど生活
近所に、
「災害などの緊急時には助けてもらいたいと思う
体である 3)。区民の平均寿命は、男女共に 80 歳を超え、
機能が自立していることを示す)を測定した結果、全体の
か」
「ふだんから見守ってもらいたいと思うか」
「うちとけて
常に全国の上位に位置している。
「健康長寿と支えあいのま
平均得点は 10.9 点(男性 10.8 点、女性 11.0 点)であった。
話せる人が欲しいと思うか」
「あいさつ程度のお付き合いを
ち」を新たな基本構想として掲げる区では、施策検討のた
めの基礎的知見を得るために、健康長寿モニター事業を計
「70 歳代から新たに始めた社会活動」
調査対象者に、70 歳を過ぎてから新たに始めた活動の
「近所との関わり」
する人が欲しいか」を尋ねた。この結果、66.4% が災害な
どの緊急時には助けてもらいたいと考え、近所の人にふだん
Dia News ◆ No.74
11
REPORT
から見守ってもらいたいと考えるのは51.0% に過ぎなかった。
なる存在として位置づけられる近所ではあるが、実際には、
また、84.0% があいさつ程度のお付き合いをする人が欲し
あいさつ程度の交流は求めつつも、見守られるといった関
いと思っているものの、うちとけて話せるという様な親密な
係性に拒否感を示す傘寿者が多く存在した。2008 年に杉
お付き合いを近所に求めるのは 67.8% に留まった。いずれ
並区のひとり暮らし後期高齢者を対象に行った調査 8)でも、
においても、女性でそれらのお付き合いを近所に欲しいと
同様の傾向が現れており、今後、都市部において後期高齢
考える人の割合が高かった(図 2)
。
者の数が増加していくなかで、近所との関わり方に対する希
男性
女性
非常時には助けて
もらいたい
望を考慮した地域づくりが求められる。
今回、協力頂いた傘寿者が 85 歳になる 5 年後に、
「70
ふだんから見守って
もらいたい
歳以降に新たに始めた社会活動の有無がどのような影響を
うちとけて話せる人
ように変化していくか?」。これらを追跡調査により検証し、
及ぼしているか?」、
「近所との関わり方に対する希望がどの
健康長寿を実現するための要件を明らかにしていきたい。
あいさつ程度の
お付き合いをする人
最後に、本健康長寿モニター事業に協力頂いている杉並
0% 20% 40% 60% 80% 100%
Report Report
区の傘寿者のみなさまに御礼申し上げます。
図 2 近所との関わり方
<参考文献>
REPORT
Project project PROJECT
PROJECT
Report Report report 1)内閣府:平成24年版
Report Report
高齢社会白書(2013)
.
まとめと今後の展開
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/
平成 24 年度郵送調査では、地域で生活する自立度の高
い傘寿者(80 歳)の 4 割弱が、70 歳代以降から新たな社
REPORT
会活動を始めていた。社会活動は、幸福な老い(successful
aging)を構成する要素の一つ 4)として、主観的健康感 5)、
生きがい形成 6)などの肯定的な関係が報告されている。ま
た、要介護高齢者数が増加傾向にある日本においては、介
護予防の観点からも、社会活動への参加が着目されている。
同時に、豊富な経験や知識をもつ高齢者が地域貢献に関す
る社会活動を行うことで、地域社会にとっても多くの恩恵を
7)
得ることが指摘されている 。自立度の低下傾向にある後
期高齢期においても、それまでの社会活動を継続していく
ための支援に加え、新たに活動を始めるための多様な機会
を創出していくことが求められる。
また、
「遠くの親類より近くの他人」ということわざで表
されるように、距離的近接性からも高齢者にとって頼りに
発行者 公益財団法人 ダイヤ高齢社会研究財団
zenbun/24pdf_index.html
(2013/6/9)
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科学、
80
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asp? genre=B14002
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関連する因子、日本公衆衛生雑誌、49
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Alone in Tokyo,9th Asia/Oceania Regional Congress of
Gerontology & Geriatrics(2011)
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〒160-0022 東京都新宿区新宿1-34-5 直田ビル3階
FA X:03-5919 -1641
E-mail:[email protected] ht tp://w w w.dia.or.jp
編集人:西村芳貢 デザイン・印刷:橋本確文堂 (三菱製紙ホワイトニューVマット)
発行:2013.7.25 No.74
12 Dia News ◆ No.74
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