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IGPI
REPORT
4
2011 秋
Vol.
不確かな時代の確かな原則
~ポストバブル崩壊時代の欧米経済と日本企業の経営~
代表取締役 CEO 冨山和彦
IGPI経営教室 第 2 回
組織戦闘力の高め方
ディレクター 松岡慎一郎
IGPI REPORT
不確かな時代の確かな原則
~ポストバブル崩壊時代の欧米経済と日本企業の経営~
代表取締役 CEO 冨山和彦
前回、前々回と、不確実性の時代、危機の時
を、山一證券や拓銀の経営危機に置き換えれ
代の経営について、言わば経営の「構え」
(心
ば、日本との対比で物事の進み具合を想像でき
と組織体制)を中心に考えました。ここに来て、
ます。危機と小康を繰り返しながら、より大き
欧州だけでなく米国の政府債務問題とその背景
な危機、日本における長銀や日債銀の破たんの
にある景気の不透明感も加わり、
不確実モード、
ような危機が、そう遠くない将来に顕在化する
潜在的危機モードはさらに深まっています。今
蓋然性は、やはり高いということです。
回は逆に、こういう情勢だからこそ、より「確
欧州も米国も、最後は公的資金をさらに大量
かなこと」、直面する激動の底流にある基本原
投入することによって、貸し手側のリスク吸収
則について考えてみたいと思います。
なぜなら、
だけでなく、借り手側の過剰債務処理も行わね
歴史を振り返った時、激動の時代を勝ち抜く企
ばならないでしょう。破産などの債務整理手続
業は、変化に対し迅速果敢に適応する能力を持
きを通じた債務免除や、公的資金による資産・
つ一方で、目の前の現象に振り回されずに、確
債権の買取によって、過剰債務を抱えた企業や
固たる基本原則に忠実な戦略行動をとってきた
個人を借金のくびきから解放しない限り、民間
企業でもあるからです。
部門の投資や消費は本格回復しないからです。
現状のままいくら金融緩和や財政出動を拡大し
この道は、 いつか来た道 ・ ・ ・
ても、血管が詰まっているところに大量の輸血
日本の経済と金融は、90 年代初頭のバブル
と強心剤投与を行うようなもので、自律的な持
崩壊から、不良債権問題にけりをつけて 2005
続回復をもたらす経済循環は起きません。むし
年 3 月末にペイオフが解禁されるまでの約 15
ろその代償として、公的債務と過剰流動性ばか
年間、常に危機と背中合わせの不安定な状態か
りが増大することになります。
ら抜け出せませんでした。今、欧米も、2008
しかし、借り手問題への政府部門の本格介入
年秋のリーマンショックという巨大バブルの崩
は、
米国では資本主義の総本山としての抵抗感、
壊以来、似たような道のりを進みつつあります。
欧州ではよその国の企業や国民を自国の税金で
もちろん日本の経験から学んで同じ過ちを回避
救う事への抵抗感から、いずれも非常に政治的
できた部分はありますが、本質的にはほぼ同様
なハードルが高くなります。我が国の不良債権
の道筋を辿っています。但し、欧州はほぼ日本
処理の最終局面で、この問題に取り組んだ私の
の二倍速、米国は三倍速で。
実感で言うと、行くところまで行かないと、こ
欧米における今回のバブル崩壊では、民間金
のハードルを越えることは出来ないものです。
融機関のリスクの多くは国家に移転しています
まだ先は長いという事です。
から、ギリシャやアイルランドの国家財政危機
確からしいことは何か?
地域の躍進ぶりは凄まじい。世界の中で、需要
サイドと供給サイドが相互循環的、持続的に経
私たち民間企業の経営問題に照らして考える
済成長をしていく最大のポテンシャルを持って
とき、一つ確かなことは、欧米であろうと、日
いるのは、アジア経済圏なのです。
本国内であろうと、かかる時代に、政治や政府
他方、このアジアの中で、少子高齢化と人口
部門にあまり期待を持つべきではないという事
減少が最も先進的に進んでいるのが日本の現実
です。およそ先進国の政府部門に、財政政策上
です。仮に少子化対策で政策的な大ヒットが
も金融政策上も、あまり大きな自由度はありま
あっても、経済的に大きなインパクトが生まれ
せん。取りうる正しい政策の多くは、おそらく
るのは、その子供たちが育ち生産・消費主体と
国民に不人気で、しかも効果は遅効的です。円
なるまで、
おそらく数十年待たねばなりません。
高問題についても、首相や日銀総裁が誰かに関
したがって、純粋な内需で見る限りは、この先
わらず、今の日本政府が独自に成しうることに、
かなりの長朝にわたり市場が縮んでいくことは
多くを期待しない方がいいと思います。むしろ
確実です。
ここで私たち民間経営者が立ち戻るべき行動様
アジア圏においては、資源価格リスクの問題
式は、徹底したリアリズムと自助自立です。
や、政治的リスクの問題はあるにしても、これ
世界、業界、そして自らの現実を、真っ直ぐ
らは結局のところ予測困難。一方、統計的な将
ありのままに見つめること。そこで自分の力で
来予測において、もっとも確実に当たるのは人
何ができるかを冷静冷徹に考えること。そして
口動態予測であり、アジアも日本も、良くも悪
できることを粛々と実行すること。たとえその
くもこの宿命からは確実に逃れられません。
現実がいかに「不都合な真実」で、実行すべき
ことがいかに「理不尽な難行」であっても。政
内需型ビジネスの経営
治の貧困、政府の無為無策を嘆く暇があったら、
・ ・ ・ 解像度、 密度を高めよ
さっさと日本中、世界中のどこに行ってでも、
日本経済の約 8 割が、いわゆる内需型経済
自らが生き残る道を切り拓く。
「なでしこJA
です。おそらくIGPIレポートの読者の多く
PAN」の選手たちが、
厳しい競技環境の中で、
も、この領域でビジネスをされている方々で
それぞれ必死に生き延びてきたのと同様です。
しょうし、現実問題として、まずは内需の世界
次に確からしいことをもう一つ。経済成長を
で生き残れないと、その先のグローバリゼー
長期的に規定する最も大きな要因は、今後も、
ションも何もないという会社が大多数です。
人口と一人あたりの生産性(≒所得水準≒消費
内需が縮み続ける前提に立つとき、内需型ビ
力)であるということです。モンスーン圏で水
ジネス領域の多くにおいて、今後、さらなる淘
田稲作のアジア地域は、歴史的に大きな人口を
汰・再編、いわゆるコンソリデーションが避け
抱えています。中国や韓国のような少子高齢化
られません。IT化等によって事業を経済的に
予備国もいますが、今後もトータルには人口増
成り立たせる最低限の規模、クリティカルマス
加地域です。一人当たり生産性は、平均的な教
が大きくなる一方で、市場の収縮が進みますか
育水準と生産活動の資本装備率(設備資本と知
ら、個別企業の事業規模がそのクリティカルマ
的資本)に規定されますが、この点でもアジア
スを下回るケースが増えて行くからです。同時
IGPI REPORT
に、縮む世界でしっかり収益を上げるには、経
えつつあります。
営の解像度を空間的にも、時間的にも高める事
じつは内需型産業の大半が、
「規模の経済」
が必要になります。顧客ごと、製品ごとの収益
が単純には効かない、むしろむやみに大きくな
状況と業務状況を、できるだけ細かく、よりリ
り過ぎると「規模の不経済」に陥るリスクのあ
アルタイムで「見える化」
。そしてどうしても
る、
「密度の経済」型産業です。小売、外食、
儲からない、あるいは競争優位を失った顧客や
地域交通、金融などのサービス業の大半、一次
製品・サービスカテゴリーは冷徹に捨て、浮い
産業でもかなりの部分がこの領域に属します。
た経営資源をより可能性のある領域に投入。不
製造業や通信、エネルギー産業などでも、販売
断の業務品質の向上によって、コストダウンと
やデリバリー機能については、単純な規模より
顧客満足度向上を持続的に実現する。こうした
も「密度の経済性」がモノを言う側面がありま
PDCAサイクルを高速かつ緻密に回転させて
す。裏返せば、内需型ビジネスにおいては、業
行くという、地味で当たり前の努力を、コツコ
務効率面、顧客満足面、財務体質面での足元を、
ツと積み上げることが極めて重要になります。
密度の高い経営でしっかり固め、コンソリデー
こうやって収益基盤を固めた企業だけが、事
ションも絡ませながらドミナント領域を確実に
業継続に必要な投資をまかなうキャッシュフ
広げることが、戦略行動の基本となるのです。
ローを自ら生み出すことができ、また、早晩起
逆にグローバリゼーションや人口減少のうねり
きる淘汰・再編においては、
主導的な立場になっ
に慌てふためいて、顎を上げてしまい、足元が
て行きます。そうした企業がコンソリデーショ
おろそかになる愚は厳に慎まねばなりません。
ンの過程で、企業間シナジーや地域間シナジー
の実現に成功すれば、ますます淘汰・再編は加
それでは、この高解像度で高密度な経営基盤
速します。その結果、ドミナントで効率的な業
の上に、いかにアジアを軸としたグローバリ
界構造を構築できれば、比較的安定した競争状
ゼーション、イノベーションと言った成長の芽
況が生まれます。幸か不幸か「縮む市場」には、
を根付かせ、大きく育てていくか?日本企業と
新規参入が起きにくいからです。
爆発的な売上、
日本経済の「成長」を規定する大きな命題につ
利益の成長は望めなくても、
「縮む市場」
ゆえに、
いては、次回以降のIGPIレポートで考えて
長期的に安定した収益構造の事業を作り上げる
みたいと思います。
ことが可能になるし、現実にそういう業界は増
冨山和彦プロフィール
旧産業再生機構 専務取締役 COO
司法試験合格、 スタンフォード大学経営学修士 (MBA)。
ボストンコンサルティンググループ入社後、 コーポレイトディレクション社設立に参画、 後に代表取締役社長に就任。
産業再生機構設立時に COO に就任。 (現職) オムロン社外取締役、 ぴあ社外取締役、 朝日新聞社社外監査役、
中日本高速道路社外監査役。
財務省 ・ 財政制度審議会専門委員、 文部科学省 ・ 科学技術 ・ 学術審議会委員
近著に 「挫折力 (PHP 研究所)」、 「カイシャ維新 (朝日新聞出版)」 がある。
IGPI 経営教室
IGPI経営教室 -第2回ー
組織戦闘力の高め方
ディレクター 松岡慎一郎
IGPI経営教室第 2 回は、戦略立案と組織開発の連動を主テーマに長年
活動しております弊社ディレクターの松岡が、「組織戦闘力の高め方」と題し、
よく見受けられる組織課題とその処方箋につき解説いたします。
醒めたプランが
まかり通っては
いませんか
経営コンサルティングに携わる中でこれまで、幅広い業種・業態の企業
とさまざまな議論を展開してきました。そして、しばしばむず痒さを覚え
てきました。
業務柄、頻繁に目にする各社社内資料、パッと見のレベルアップは、一
昔前と比べるとまさに隔世の感があります。3C や SWOT といった分析手
法を駆使し、現状・課題・打ち手と論理だて、データもふんだんに添付さ
れているといった具合です。ただ同時に、薄っぺらさを感じることも多く
なってきました。正直なところ、会社名などの固有名詞さえ書き換えてし
まえば、他社の資料としても使えるのでは、といった風合いの事業計画を
目にすることも稀ではありません。
あまた開発されてきた経営手法やコンセプトを皆、学び消化してきたこ
とが背景にあるのでしょう。そしてその副作用として、誰がまとめてもそ
うなる、無味乾燥な内容をいつのまにか受け入れてしまう風潮が強まって
きたのでは、と感じます。
10 年前と比べると口角泡を飛ばして議論するような場面が減ってはい
ませんか、と直球で問うたとき。皆さん心当たりおありではないでしょう
か。
兵站が
ほころびはじめては
いませんか
世の中の不連続さ・不透明さはここ 10 年で相当に高まってきました。
戦線はグローバルにも拡大し、国内外各地での競争も激しく先読みもしに
くい中での舵取りが不可避となりました。そこでは、変化対応の質と速度
が鍵を握ります。レポートラインの不明瞭さ・意思決定の遅さは、将来に
致命的な悪影響を及ぼしかねません。言葉を換えれば、最前線で活動する
担当者の、いちいちの判断が勝負を分かつということです。
ここで留意すべきは、現場の迅速な意思決定のみを強調すると、組織活
動全体としては不整合を起こす可能性が高まるということです。最前線で
のさまざまなアクションが、それぞれの担当者によって個々別々に行われ
るからです。
組織の内部においては、本気の議論が薄まりつつ、プランニングがだん
だんデータ整理学的なものに堕していく。組織の外部に対しては、必ずし
IGPI REPORT
も全体と整合しない場当たり的なアクションで、現場担当者が目先を切り
抜けていく。
かくして組織には、内向きに摺り合せることなきまま外向きに引き摺る
という、バラバラに崩そうとする力が強度を増しながらかかりつづけてい
るのです。
何よりまず、
“ 要は ”
を突き詰めること
組織全体の連携を維持しつつ意思決定の速度を上げるならば、兎にも角
にも、前線で実行を司る各担当者に、確たる行動の指針を提供せねばなり
ません。組織全体として動く方向は右か左か、その中で各担当者が最も重
視すべきは何か、
判断に迷ったときに立ち返る明確な基本原則や価値観が、
あらかじめ最前線に届いていなければならないのです。
市場規模や業績目標など定量的な考察は当然のごとく重要です。進むべ
き方向を決めるにしても、仔細に突っ込んだ分析がなければ選択肢の評価
など行いようがありません。
しかしながらありがちな勇み足は、そのような検討の内容、冗長な前置
きや乾いた数字を、そのまま組織内に落とし込んでしまうことです。
そうではなくいま一歩、
“要は何をどう目指すのか”を突き詰めること、
そしてそれを、
皆が異口同音に唱えるように落とし込むことが鍵なのです。
ヒトを見極め、
託して賭けること
こと、組織に方向転換を強いるようなテーマであればなおさら、ついつ
い関与するメンバーを増やしがちになります。それぞれに役割分担して皆
で動かないことには大事は成し得ないのですから、関係者を広く巻き込む
こと自体は決して間違いではありません。
しかしながらよく見られる杜撰さは、中途半端にただ関与する頭数を増
やしてしまうことです。兼務で広く集めはしたものの、結局何も動かない
といったケースです。
テーマが重ければ重いほど、
“ヒト”を見極めた取り組みが重要になり
ます。オーナーシップを有し責任を背負いうるのは誰か、そしてその人物
を補完しうるのは誰かをリアルに見極める視点。また、迂闊に易きに流れ
てしまわないようなサポートの貫徹。万難を排して突き進む人物に命運を
託し、経営としてぶれずに支援しつづける覚悟が必要なのです。
変化を是とする
一貫した姿勢を
示しつづけること
下からの上申に対してもっともらしく云々する。そこには、どこか麻薬
のようなところがあります。そしてこの旧態然とした形が、いまだ多く見
かけられるのが巷の現実です。
しかしながらかかるマネジメントスタイルは、組織のサイロ化・部分最
適化を強烈に助長し、かつ、変化を厭う風土を植えつけていきます。否定
されそうなことを提議するインセンティブなど湧かないからです。
目指すべきはそうではなく、
「上はきっと、もっと高い視座で考え、もっ
と思い切った判断を下すはずだ」と皆に感じさせつづけることです。勿論
一朝一夕になるものではありませんが、経営トップを先頭に先へ先へと変
IGPI 経営教室
化を厭わず歩を進める姿勢を示すことに加え、評価されるべきものを評価
する仕組みを組織に埋め込んでいくことが欠かせないのです。
どれだけ本気で
組織と向き合えて
いますか
混迷の度を増す市場競争環境の中で、発散を制御しないマネジメントを
続けると、組織は無作為に兵站の伸びた状態、忙しいのに儲からない状態、
に陥っていきます。そうして活力が、徐々にかつ決定的に毀損されていき
ます。
突き詰めて考えると経営とは、あまた描きうる方向性の中から、自社が
取る道を選択的に選んでやり切ること(逆にいえばやらないことをやらな
いこと)だと感じます。
組織が根源的に問う、
「本当のところわれわれはこれからどうするの
か?」という限りなくシンプルな質問に対して、経営としてどれほど本気
で答えを示せているか。それこそが、組織の戦闘力を律するのです。
時間切れになる前に今一度、真摯に向き合うべき命題です。
松岡 慎一郎 プロフィール
伊藤忠商事にて日本・米国で勤務、米国駐在時代は現地子会社のシリコンバレー事務所所長として電子部品・
半導体製造設備の輸出入を管轄。のち、外資系コンサルティング会社アーサー・D・リトルのシニア・マネ
ジャーとして、各種の事業・組織改革プロジェクトを統括。
IGPI参画後は、第三者割当増資の引受に伴い、ぴあ社取締役コーポレート本部長として事業基盤・財務
基盤の構造改革に従事。
東京大学工学部卒
お問い合わせ
IGPI 及び IGPI Report に関するお問い合わせは、以下にお願いいたします。
E-Mail: [email protected]
HP: http://www.igpi.co.jp
TEL: 03-5209-7700
FAX: 03-5209-7800
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