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ロンドンオリンピックに向けたセーリング競技のサポート活動
ロンドンオリンピック報告 ロンドンオリンピックに向けたセーリング競技のサポート活動 ■ ロンドンオリンピック報告 ロンドンオリンピックに向けたセーリング競技のサポート活動 〜専門性をつなぐ多分野複合型支援の一例〜 藤原 昌 (チーム「ニッポン」マルチサポート事業) セーリング競技は、自然環境(風、潮流など)がパフォーマンス(順位)に大きく影響するスポーツである。 そのため、レース海域の風や潮流の特徴を捉えることが勝敗を左右するといえる。 このような理由から、国立スポーツ科学センター(以下「JISS」とする)では、大会開催地であるウェーマス 海域における Web 上の気象情報の収集を実施してきた。さらにロンドンオリンピックに向けたマルチサポート事 業の活動として、同事業の研究開発グループ(株式会社 ノースセール・ジャパンと鹿屋体育大学)の協力のもと ウェーマス海域の風調査を行い、収集したデータを解析した。そして、日本セーリング連盟が主体となり実施し てきた潮流調査の結果を統合して、オリンピック時におけるレースエリアの特徴を選手・コーチらにフィード バックした。 本発表では、これらの JISS が実施した主なサポート活動の実施背景と内容を概説することにする。 【サポートの概要】 ① Web 上の気象情報の収集 JISS の Web 上データを自動収集するシステムを用いて、4年間に渡りオリンピック本番会場であるイギリス (4箇所)の風向・風速データ(約₁,₀₀₀レコード/日) 、衛星画像、および天気図を収集してきた。蓄積された情 報は、JISS 内のサーバーへ配置し、スタッフがどこからでもインターネットを介して閲覧できるようにした。こ れにより、海外遠征先や国内のどこにいてもレース海域の風向や風速の情報を入手することができ、レース本番 に向けたトレーニングおよび道具開発や選定のターゲット風域の設定にも活用された。さらにこれらの情報は、 風調査のデータ解析や気象予報のための情報としても利用された。 ②ウェーマス海域における風調査 高精度の風向風速計・ヘディングセンサー・GPS 機能付きポケット PC を搭載した複数のモーターボートを レースコース上に配し、各箇所で風向および風速を長期/長時間に渡り計測した。なお、これらデータは、ノー スセール・ジャパン社によって開発された独自の解析ソフトを用いて解析された。 また本調査は、オリンピック会場であるウェーマス海域における風データの測定を行いながら、陸繫島(ポー トランド)を迂回する風、地形の影響により風がさえぎられている局部的な地帯の模索、およびオリンピック開 催時期の特徴などを考慮し、レースコース特有の「癖」を見つけていった。加えて、レースコース内で測定され た風データを補間して、コンピュータ上で仮想レースを行うことで「最適航路(オプティマムコース)」を算出し た。そして、これらの情報を海上練習およびレース時における戦術の振り返りに活用した。 ③多岐にわたる情報の統合および情報共有サービスを用いたフィードバック 事前合宿時およびプレ大会では、①、②のデータと日本セーリング連盟が中心に調査してきた周辺海域の潮流 調査の結果が複合的に分析され、各日のレースエリアの特徴が選手とコーチに対してフィードバックされた。ま たオリンピック本番では、気象予報と照らし合わせて、各日の各レースエリアで考えられるコースの「特徴」を まとめた一覧図を作成した。そしてこれらの資料を、情報共有サービス(Handbook)を用いて日本チームの携帯 端末に随時配信した。 【まとめ】 今回のサポートを振り返ってみると、多くの専門家が複合的に関わったことで一定の成果が出せたと考えてい る。今回紹介する上記のサポート活動以外にも、ロンドンオリンピックに向けて「コンディショニングサポート (チェック、栄養管理、トレーニング指導、身体ケア) 」、 「映像サポート」 、 「リザルト分析」と幅広く実施してき た。その背景として、マルチサポート事業の対象種目となったことで、これまでの JISS の持つ支援機能や専門性 に加えて、より競技に特化した支援が可能となったことが挙げられる。 18