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研究計画書(後方視的観察研究)
資料 1 研究計画書(後方視的観察研究) 「原発性血管炎の治療の現状に関する後方視的観察研究(単施設症例集積研究)」 1. 研究の背景・目的 原発性血管炎は全身性炎症性症候群として多岐にわたる臓器障害をきたしうる稀少疾患 群である。動脈は血管径により大型、中型、小型、毛細血管に分類され疾患も診断・分類 されている。 大型血管として大動脈やその分枝レベルの動脈炎である大動脈炎症候群(高安動脈炎: TAK)や巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎:GCA)。中型血管を主体として炎症を生じる疾患と しては、非感染性結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)。小血管(細小動静脈・ 毛細血管)の壊死性血管炎と好中球細胞質抗体(ANCA)陽性を共通の特徴とする ANCA 関連血管炎(主として顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(旧:Wegener 肉芽腫症(WG))(GPA)、好酸球性肉芽腫性多発血管炎(EGPA)(旧:Churg Strauss 症候 群(CSS) )が含まれているが、その原因に関しては不明点が多く、広く一般的に最適とさ れる標準的治療の確立が十分されていない。現在は炎症性病態に対してステロイドを中心 とした様々な免疫抑制薬や生物学的製剤が治療として用いられているが全ての患者に治療 効果がでない事もあり、その結果不可逆的な臓器障害が生じ、日常生活動作、労働など患 者一人一人の生命、生活のみならず、社会・経済的にも影響が生じている。 ANCA 関連血管炎については欧米では疫学的に GPA の頻度が高く、本邦においては MPA が圧倒的に多い。また、高安病についても本邦では欧米に比べ多い。 現在欧米を中心に行われたランダム化比較対象試験の結果が報告され、質の高いエビデ ンスが提示されつつあるが、臨床試験の背景において欧米で頻度の高い GPA や巨細胞性動 脈炎を主としたものが多く、本邦で多い MPA や高安病の治療で応用する場合には慎重な吟 味を要する。 この研究では、症例集積研究として患者病歴経過、臨床所見、各種検査データ、治療内 容、合併症を含む転帰といった臨床情報を収集し、国内外での過去の報告や、多施設研究 の結果などと比較する事による客観的な解析を行い、これまでは疾患毎、症例毎に検討さ れていた疾患それぞれの問題点の抽出、現在までに最良とされてきた治療の効果判定や、 疾患の予後などについて効率よく検証し、そこから新たな治療戦略のための臨床研究の立 案に寄与、更には治療を最適化することを目的とする。 2. 研究方法 2005 年4月1日から 2016 年 3 月31日までに原発性血管炎により当院リウマチ・膠原 病内科の外来および病棟で診療を受けた患者の診療録(カルテ)より病歴、各種採血結果 や生理機能検査、各種画像データ結果、治療内容およびその後の臨床経過について後向き に収集し解析を行う。原発性血管炎全体の疾患分類は Chapel Hill Consensus Conference 1 2012.7.26 様式改訂 資料 1 Nomenclature of vasculides(CHCC2012)における Large vessel vasculitis(LVV)、Medium vessel vasculitis(MVV)、Small vessel vasculitis(SVV)とし ANCA 関連血管炎については Watts のアルゴリズムに即して臨床診断された患者を対象とする。また本邦において診断基 準として用いられている厚生労働省の診断基準について診断された患者についても対象と する。観察研究のため症例数設計は行わず全ての該当する症例を対象とする。 3.研究期間 倫理委員会承認後~2017 年 3 月 31 日までに臨床情報の収集を行い、2017 年 12 月 31 日までを解析を含む研究実施予定期間とする。結果については関連する学会での学会発表 及び学術誌への論文投稿される予定。 4.調査対象の症例 調査対象の期間:2005 年 4 月 1 日~2016 年 3 月 31 日までの症例 目標症例数:対象期間の原発性血管炎全症例 300 例 リウマチ・膠原病内科外来、入院、研究室で原発性血管炎と診断、治療された患者。 原発性血管炎全体の疾患分類は Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of vasculides(CHCC2012) に お け る Large vessel vasculitis(LVV) 、 Medium vessel vasculitis(MVV)、Small vessel vasculitis(SVV)とし ANCA 関連血管炎については Watts の アルゴリズムに即して臨床診断された患者。ここでは新たに診断加療された患者のほか、 もともと診断確定しており再燃のため治療された患者も含める。臨床診断については、国 内での厚生労働省の診断基準および、海外で用いられている Watts らのアルゴリズムによ る分類とする。 ANCA 関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症(旧:ウェゲナー肉芽腫 症) 、好酸球性肉芽腫性多発血管炎(旧:Churg-Strauss 症候群) ) 結節性多発動脈炎、クリオグロブリン血症 5.調査項目 診断時・治療開始時 (1) 患者特性:年齢、性別、身長、体重、Performance Status (2) 合併症(または既往症):アレルギー疾患の既往(気管支喘息・アレルギー性鼻炎)、先行する 好酸球増多、喫煙歴、職業歴、肺疾患、心疾患、糖尿病、合併する非重篤感染症、過去 6 ヶ 月以内の重篤感染症、嚥下障害、Performance status、その他の感染リスク (3) 腎障害に関する臨床経過:数週から数ヶ月の間で急速に進行する腎不全の有無 (4) Birmingham vasculitis activity (BVAS)、重症度分類、病型分類 (5) 急速糸球体腎炎性臨床重症度 (6) 血液学的検査:CBC(Hb、白血球数、白血球分画、血小板数)、 (7) 生化学検査:血清クレアチニン、BUN、GFR(推算式より推定)、TP、Alb、AST、ALT、ALP、 LDH、Tchol、空腹時血糖、HbA1c、CRP、尿蛋白/尿クレアチニン比、IgG、IgA、IgM、KL-6、 2 2012.7.26 様式改訂 資料 1 SP-D (8) 血液ガス検査 (9) 免疫学的検査:ANCA(PR3-ELISA,MPO-ELISA)、B 型肝炎ウイルス(HBs 抗原/HBe 抗原)、 C 型肝炎ウイルス(HCV 抗体)、抗 GBM 抗体 (10) その他:検尿・沈渣、血圧、病理学的検査所見(腎・肺・皮膚など)、胸部画像検査(単純 X 線, 単純 HRCT 検査)、呼吸機能(FVC, %FVC, VC, %VC, TLC, %TLC, DLco, %DLco, %DLco/VA, FEV1.0, FEV1.0%)、眼窩・副鼻腔 MRI、退院時要約 3 ヶ月,6 ヵ月,12 ヵ月,18 ヵ月,24 ヵ月後,36 ヶ月後,48 ヶ月後,60 ヶ月後,72 ヶ月後,84 ヶ月後,96 ヶ月後,108 ヶ月後,120 ヶ月後 転帰(生存・死亡,寛解・再燃の有無) (1) BVAS,Vascular damage index (VDI) (2) CBC (3) GFR(推算式より推定),血清クレアチニン,BUN,LDH,CRP,IgG,IgA,IgM,KL-6,SP-D, 呼吸機能,HbA1c (4) 血液ガス検査(3 か月後、6 か月後、12 ヶ月後、24 ヶ月後、血管炎による呼吸器病変有の症例 のみ) (5) ANCA,抗 GBM 抗体、検尿・沈渣 (6) 胸部画像検査(単純 X 線,単純 HRCT 検査)(3 か月後、6 か月後、12 ヶ月後、24 ヶ月後、呼 吸器病変有の症例のみ) (7) 呼吸機能検査(3 か月後、6 か月後、12 ヶ月後、24 ヶ月後、血管炎による呼吸器病変有の症 例のみ) (8) 治療に関する情報 (9) 感染症の有無と種類 (10) 感染症以外の副作用 再燃時 (1) (2) (3) (4) 再燃年月日 BVAS CBC GFR(推算式より推定),血清クレアチニン,BUN,LDH,CRP,IgG,IgA,IgM,KL-6,SP-D, 呼吸機能,HbA1c (5) (6) (7) (8) (9) 血液ガス検査(血管炎による呼吸器病変有の症例のみ) ANCA,抗 GBM 抗体、検尿・沈渣 胸部画像検査(単純 X 線,CT 検査)(血管炎による呼吸器病変有の症例のみ) 呼吸機能検査(血管炎による呼吸器病変有の症例のみ) 治療に関する情報 3 2012.7.26 様式改訂 資料 1 6.個人情報の取扱い 当院のみで実施する後方視的研究のため、匿名化等の対応は行なわない。研究の結果等を 学会または誌上に発表する際には、個人を特定できないように配慮する。また、研究の目 的以外に、研究で得られた被験者の個人のデータは使用せず、研究発表から 5 年後に匿名 化を行い廃棄する。 7.被験者に理解を求め同意を得る方法 研究計画書をホームページに掲載し、被験者からの問い合わせに適切に対処する。 被験者より研究参加拒否の申し出があった場合は、ただちにその症例のデータ収集を中止 する。 8.知的財産権 研究成果の帰属については埼玉医科大学に属する。 9.研究組織 実務責任者:リウマチ・膠原病内科 助教 倉沢 隆彦 研究分担者:リウマチ・膠原病内科 教授 天野 宏一 リウマチ・膠原病内科 講師 近藤 恒夫 リウマチ・膠原病内科 助教 武井 博文 リウマチ・膠原病内科 助教 奥山 あゆみ リウマチ・膠原病内科 助教 千野 健太郎 リウマチ・膠原病内科 助教 柴田 明子 リウマチ・膠原病内科 助教 岡田 悠介 連絡先電話番号 リウマチ・膠原病内科医局 049-228-3579 (平日9時から 17 時) 4 2012.7.26 様式改訂 資料 1 補足事項 I. ANCA 関連血管炎の分類および診断 1) ANCA 関連血管炎の分類 Churg-Strauss 症候群(CSS),Wegener 肉芽腫症(WG),顕微鏡的多発血管炎(MPA),腎限局 型血管炎(RLV),肺限局型血管炎(PLV)の 5 疾患を本研究で対象とする ANCA 関連血管炎とし, 表 1 で示した原発性全身性血管炎(PSV)の定義を満たす症候と検査所見を有することが必要であ る. 2) ANCA 関連血管炎の診断 CSS,WG,MPA,RLV,PLV の 5 疾患の診断は,Watts らが提唱した ANCA 関連血管炎および 結節性多発動脈炎の分類方法に準じて行うi.ただし,本方法には PLV は分類されていないので, その診断のため暫定的に肺血管炎代用マーカーを追加している.その分類アルゴリズムを図 1 に 示す.なお,アルゴリズムには本研究では対象とならない結節性多発動脈炎および分類不能血管 炎が含まれている. ① Churg-Strauss 症候群(CSS) 表 2 および表 3 に示す米国リウマチ学会(ACR)あるいは Lanham の CSS 分類基準を満たす 患者を CSS と診断する. ② Wegener 肉芽腫症(WG) CSS が除外された患者で,表 4 に示す ACR の WG 分類基準を満たすもの,さらにこの分類 基準は満たさないが表 5 に示す Chapel Hill Consensus Conference (CHCC)の WG 組織所見 が得られたものを WG と診断する.いずれにも該当しない患者でも,CHCC の MPA 組織所見を 示し,表 6 に示す WG 代用マーカーを有するもの,さらに組織所見はなくても WG 代用マーカ ーがあり,ANCA 陽性のものは WG と診断する. ③ 顕微鏡的多発血管炎(MPA),腎限局型 ANCA 関連血管炎(RLV)および肺限局型 ANCA 関連血管炎(PLV) CSS および WG が除外された患者で,小血管炎による腎,肺などの臓器障害症候と表5の CHCC の MPA 組織所見があり,表6の WG 代用マーカーがないものを MPA と診断する.組織 所見のない場合には,表6の腎血管炎あるいは肺血管炎代用マーカーがあり,ANCA 陽性の ものを MPA と診断する.その中で,腎のみ,あるいは肺のみに血管炎臓器障害を認める ANCA 陽性の患者を,それぞれ RLV および PLV と診断する. 5 2012.7.26 様式改訂 資料 1 表1 原発性全身性血管炎の定義ii 以下の 3 つの項目(A,B,C)をすべて満たすものを原発性全身性血管炎と定義する (A)症候が ANCA 関連血管炎または結節性多発動脈炎に特徴的であるか,あるいは矛盾しない こと 組織学的に血管炎が証明されていれば症状や徴候は矛盾しないものであればよい.組織学 的証明がない場合は症状や徴候は特徴的なものでなければならない. (B)以下の項目のうち少なくとも 1 つを満足すること 1. 組織学的に診断された血管炎または肉芽腫性病変 血管炎には壊死性糸球体腎炎が含まれる.肉芽腫性病変は米国リウマチ学会 (American College of Rheumatology;ACR)の Wegener 肉芽腫症分類基準で定義され ているものとする:血管壁あるいは動脈・細動脈の血管周囲と血管外領域での肉芽腫性 炎症所見. 2. ANCA 陽性 MPO-ANCA または PR3-ANCA が陽性である 3. 血管炎および肉芽腫症が強く示唆される以下の特異的な検査所見 ・神経生理学的検査による多発単神経炎 ・血管造影(MR 血管画像または腹腔内血管造影)による結節性多発動脈炎所見 ・頭頚部と胸部の CT または MRI による眼窩後部と気管病変 4. 好酸球増多(>10%または>1.5×109 / L) (C)症候を説明する他の疾患のないこと,特に以下の疾患を除外できる 1. 悪性腫瘍 2. 感染症(B 型・C 型肝炎感染,HIV,結核,亜急性心内膜炎) 3. 薬剤性血管炎(ヒドララジン,プロピルチオウラシル,アロプリノールを含む) 4. 二次性血管炎(関節リウマチ,SLE,シェーグレン症候群,結合組織病) 5. ベーチェット病,高安大動脈炎,巨細胞性動脈炎,川崎病,本態性クリオグロブリン血 症,シェーンライン・ヘノッホ紫斑病,抗 GBM 抗体関連疾患 6. 血管炎類似疾患(コレステロール塞栓症,calciphylaxis,劇症型抗リン脂質抗体症候 群,心房粘液腫) 7. サルコイドーシス 補足:腎あるいは皮膚生検組織の IgA 沈着はシェーンライン・ヘノッホ紫斑病を,また抗 GBM 抗体 の検出はグッドパスチャー症候群を疑う所見である.しかし,IgA 組織沈着と抗 GBM 抗体は ANCA 関連血管炎でも認めることがあり,シェーンライン・ヘノッホ紫斑病とグッドパスチャー症候群の除外 は個々の医師が判断する. 国内の施設ではいずれの施設においても ELISA 法での MPO-ANCA または PR3-ANCA の測 定が可能であるため蛍光抗体法による ANCA の評価は除外した. 6 2012.7.26 様式改訂 資料 1 図1 ANCA 関連血管炎分類アルゴリズム(Watts et al. ARD 2007 を一部改変) PSV(表1)の臨床診断 ACR または Lanham の CSS 基準(表2、表3)に合致 いいえ はい CSS はい はい ACR の WG 分類基準(表4)に合致 いいえ CHCC の WG に合致する組織所見(表5) いいえ はい CHCC の MPA に合致する組織所見で WG 代用マーカー(表6)あり WG いいえ はい 組織所見なし WG 代用マーカーあり PR3 あるいは MPO-ANCA 陽性 いいえ はい 小血管炎に合致する臨床徴候および組織所見 WG 代用マーカーなし いいえ MPA 組織所見なし 腎限局型 肺限局型 はい WG 代用マーカーなし (腎あるいは肺の 腎血管炎または肺血管炎代用マーカーあり みに臓器障害を認 PR3 あるいは MPO-ANCA 陽性 める場合) いいえ 古典的結節性多発動脈炎 分類不能 7 2012.7.26 様式改訂 資料 1 表 2 米国リウマチ学会(ACR)の Churg-Strauss 症候群の分類基準iii 基準項目 定義 1. 喘息 喘鳴あるいは呼気時にみられるびまん性の高音のラ音の既往. 2. 好酸球増多症 白血球分画における好酸球増加>10%. 3. 単神経障害ある 全身性血管炎に起因する単神経障害,多発性単神経障害あるいは多 いは多発神経炎 発神経障害(すなわちグローブ/ストッキング状分布). 肺浸潤(非固定 全身性血管炎に起因する移動性あるいは一過性の肺浸潤影示す X 性) 線像(固定性浸潤は含まない) . 副鼻腔異常 急性あるいは慢性副鼻腔痛または圧痛の既往,あるいは副鼻腔の X 4. 5. 線像にみられる混濁化所見. 6. 血管外組織への 動脈,細動脈あるいは細静脈の生検において血管外組織への好酸球 好酸球浸潤 浸潤を認める. 分類上,上記 6 項目中少なくとも 4 項目以上が認められる場合,Churg-Strauss 症候群と判定する. 項目の種類を問わず 4 項目以上認めれば,感度 85.0%,特異度 99.7%である. 表 3 Lanham の Churg-Strauss 症候群の分類基準iv 基準項目 1. 喘息 2. 好酸球増多症(>1.5×109 / L) 3. 血管炎に起因する 2 臓器以上の臓器障害 分類上,上記 3 項目全てを満たす場合,Churg-Strauss 症候群と判定する. 表 4 米国リウマチ学会(ACR)の Wegener 肉芽腫症の分類基準v 基準項目 定義 1. 有痛性あるいは無痛性口内内潰瘍,または化膿性あるいは 鼻あるいは口腔内炎症 血性鼻汁の発現. 2. 胸部 X 線上異常陰影 結節,固定性浸潤,あるいは空洞の存在を示す胸部 X 線 像. 3. 尿沈渣 尿沈渣において顕微鏡的血尿(>赤血球 5 個/高倍率 1 視 野)あるいは赤血球円柱を認める. 4. 生検における肉芽腫の証 動脈壁内,血管周囲または血管外領域(動脈または小動 明 脈)に肉芽腫を認める. 分類上,上記 4 項目中少なくとも 2 項目以上が認められる場合,Wegener 肉芽腫症と判定する.項 目の種類を問わず 2 項目以上認めれば,感度 88.2%,特異度 92.0%である. 8 2012.7.26 様式改訂 資料 1 表 5 Chapel Hill Consensus Conference(CHCC)の ANCA 関連血管炎の分類と定義vi 疾患名 定義 Wegener 肉芽腫症(WG) 1. 気道における肉芽腫性炎症所見. 2. 小・中型血管の壊死性血管炎(壊死性糸球体腎炎がよくみられ る). Churg-Strauss 症候群(CSS) 1. 気道における好酸球を多数認める肉芽腫性炎症所見. 2. 小・中型血管の壊死性血管炎. 3. 喘息と好酸球増多症. 顕微鏡的多発血管炎 1. 毛細血管,小動脈,小静脈の小・中型血管の壊死性血管炎で, (MPA) 免疫複合体沈着は少ないあるいは認めない. (小・中型血管の壊死性血管炎を認めることがある.壊死性糸球体 腎炎がよくみられる.肺の毛細血管炎もしばしばみられる.) 小血管とは細静脈,毛細血管,細動脈,および細動脈につながる実質内末梢動脈根幹である. すべての項目を満たすものを各疾患に分類する. 表 6 血管炎の代用マーカー 血管炎 代用マーカー Wegener 肉芽腫症 1. 固定性の肺浸潤性病変,結節性病変あるいは空洞性病変の (上・下気道の肉芽腫性炎 所見が、胸部画像検査で 1 カ月を超えて存在する(感染症や 症) 悪性腫瘍が除外される) 2. 気管支狭窄 3. 1 ヶ月を越える血性鼻汁と鼻垢,あるいは鼻の潰瘍, 4. 3 ヶ月を越える慢性副鼻腔炎,中耳炎あるいは乳様突起炎 5. 眼窩後部の腫瘤あるいは炎症(偽腫瘍) 6. 声門下狭窄 7. 鞍鼻または破壊性副鼻腔疾患 腎血管炎(糸球体腎炎) 1. 赤血球円柱を伴う血尿 2. 検尿検査で 2+以上の血尿とタンパク尿 肺血管炎(肺胞出血および 1. 血痰,喀血あるいは気管支鏡検査で確認された肺胞出血 間質性肺炎) 2. 胸部 X 線あるいは CT 検査により診断された間質性肺炎(感染 症や薬剤性肺障害などの他の原因による間質性肺炎,間質性 肺病変が除外されること) 1 項目が認められた場合,血管炎による臓器障害と判定する. 国内での標準的検査方法が確定されていないため腎血管炎の項目2の変形赤血球は削除した. 9 2012.7.26 様式改訂 資料 1 厚生労働省認定基準による血管炎の分類vii 本研究では,登録された患者を図1のアルゴリズムを用いて分類を行うが,併せてわが国の認定 基準に沿った評価も行い比較検討する. ①ウェゲナー肉芽腫症 A 主要症状 (1) 上気道(E)の症状 E:鼻(膿性鼻漏,出血,鞍鼻),眼(眼痛,視力低下,眼球突出),耳(中耳炎),口腔・咽 頭痛(潰瘍,嗄声,気道閉塞) (2) 肺(L)の症状 L:血痰,咳嗽,呼吸困難 (3) 腎(K)の症状 血尿,蛋白尿,急速に進行する腎不全,浮腫,高血圧 (4) 血管炎による症状 ① 全身症状:発熱(38℃以上,2 週間以上),体重減少(6 カ月以内に 6 ㎏以上) ② 臓器症状:紫斑,多関節炎(痛),上強膜炎,多発性神経炎,虚血性心疾患(狭心 症・心筋梗塞),消化管出血(吐血・下血),胸膜炎 B 主要組織所見 (1) E,L,K の巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎 (2) 免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎 (3) 小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎 C 主要検査所見 Proteinase-3(PR-3)ANCA(蛍光抗体法で cytoplasmic pattern,C-ANCA)が高率に陽性 を示す. D 判定 (1) 確実(definite) (a) 上気道(E),肺(L),腎(K)のそれぞれ 1 臓器症状を含め主要症状の 3 項目以上を 示す例 (b) 上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状の 2 項目以上及び,組織所見 ①,②,③の 1 項目以上を示す例 (c) 上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状の 1 項目以上と組織所見①,②, ③の 1 項目以上及び C(PR-3)ANCA 陽性の例 (2) 疑い(probable) (a) 上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状のうち 2 項目以上の症状を示す 例 (b) 上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状のいずれか 1 項目及び,組織 所見①,②,③の 1 項目を示す例 (c) 上気道(E),肺(L),腎(K),血管炎による主要症状のいずれか 1 項目と C(PR-3) 10 2012.7.26 様式改訂 資料 1 ANCA 陽性を示す例 ② 顕微鏡的多発血管炎 A 主要症候 (1) 急速進行性糸球体腎炎 (2) 肺出血,もしくは間質性肺炎 (3) 腎・肺以外の臓器症状:紫斑,皮下出血,消化管出血,多発性単神経炎など B 主要組織所見 細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死,血管周囲の炎症性細胞浸潤 C 主要検査所見 (1) MPO-ANCA 陽性 (2) CRP 陽性 (3) 蛋白尿・血尿,BUN,血清クレアチニン値の上昇 (4) 胸部 X 線所見:浸潤陰影(肺胞出血),間質性肺炎 D 判定 (1) 確実(definite) (a) 主要症候の 2 項目以上を満たし,組織所見が陽性の例 (b) 主要症候の①及び②を含め 2 項目以上を満たし,MPO-ANCA が陽性の例 (2) 疑い(probable) (a) 主要症候の 3 項目を満たす例 (b) 主要症候の 1 項目と MPO-ANCA 陽性の例 ③ A アレルギー性肉芽腫性血管炎(厚生労働省認定基準) 主要臨床所見 (1) 気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎 (2) 好酸球増加 (3) 血管炎による症状〔発熱(38℃以上,2 週間以上),体重減少(6 か月以内に 6kg 以上),多 発性単神経炎,消化管出血,紫斑,多関節痛(炎),筋肉痛,筋力低下〕 B 臨床経過の特徴 主要所見(1),(2)が先行し,(3)が発症する. C 主要組織所見 (1) 周囲組織に著明な好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫性,またはフィブリノイド壊死性 血管炎の存在 (2) 血管外肉芽腫の存在 D 判定 (1) 確実(definite) (a)主要臨床所見のうち気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎,好酸球増加および血管炎 による症状のそれぞれ一つ以上を示し同時に,主要組織所見の 1 項目を満たす場合 11 2012.7.26 様式改訂 資料 1 (アレルギー性肉芽腫性血管炎) (b)主要臨床所見 3 項目を満たし,臨床経過の特徴を示した場合(Churg-Strauss 症候群) (2) 疑い(probable) (a)主要臨床所見 1 項目および主要組織所見の 1 項目を満たす場合(アレルギー性肉芽腫性 血管炎) (b) 主要臨床所見 3 項目を満たすが,臨床経過の特徴を示さない場合(Churg-Strauss 症候 群) Ⅱ.大型血管炎の診断と分類 ①高安動脈炎 <高安病の診断基準 ~ Journal Vol.72 Supplement 循環器病の診断と治療に関するガイドライン Circulation IV> 1 疾患概念と特徴 大動脈とその主要分枝及び肺動脈、冠動脈に狭窄、閉塞又は拡張病変をきたす原因不明の 非特異性炎症性疾患。狭窄ないし閉塞をきたした動脈の支配臓器に特有の虚血障害、ある いは逆に拡張病変による動脈瘤がその臨床病態の中心をなす。病変の生じた血管領域によ り臨床症状が異なるため多彩な臨床症状を呈する。若い女性に好発する。 2 症状 (1) 頭部虚血症状:めまい、頭痛、失神発作、片麻痺など (2) 上肢虚血症状:脈拍欠損、上肢易疲労感、指のしびれ感、冷感、上肢痛 (3) 心症状:息切れ、動悸、胸部圧迫感、狭心症状、不整脈 (4) 呼吸器症状:呼吸困難、血痰 (5) 高血圧 (6) 眼症状:一過性又は持続性の視力障害、失明 (7) 下肢症状:間欠跛行、脱力、下肢易疲労感 (8) 疼痛:頸部痛、背部痛、腰痛 (9) 全身症状:発熱、全身倦怠感、易疲労感、リンパ節腫脹(頸部) (10) 皮膚症状:結節性紅斑 (11) 消化器合併症:非特異的炎症性腸炎 3 診断上重要な身体所見 (1) 上肢の脈拍ならびに血圧異常(橈骨動脈の脈拍減弱、消失、著明な血圧左右差) (2) 下肢の脈拍ならびに血圧異常(大動脈の拍動亢進あるいは減弱、血圧低下、上下肢血 圧差) (3) 頸部、背部、腹部での血管雑音 (4) 心雑音(大動脈弁閉鎖不全症が主) (5) 若年者の高血圧 12 2012.7.26 様式改訂 資料 1 (6) 眼底変化(低血圧眼底、高血圧眼底、視力低下) (7) 顔面萎縮、鼻中隔穿孔(特に重症例) (8) 炎症所見:微熱、頸部痛、全身倦怠感 4 診断上参考となる検査所見 (1) 炎症反応:赤沈亢進、CRP 促進、白血球増加、γグロブリン増加 (2) 貧血 (3) 免疫異常:免疫グロブリン増加(IgG、IgA) 、補体増加(C3、C4) (4) 凝固線溶系:凝固亢進(線溶異常) 、血小板活性化亢進 (5) HLA:HLA-B52、B39 5 画像診断による特徴 (1) 大動脈石灰化像:胸部単純写真、CT (2) 胸部大動脈壁肥厚:胸部単純写真、CT、MRA (3) 動脈閉塞、狭窄病変:DSA、CT、MRA 弓部大動脈分枝:限局性狭窄からびまん性狭窄まで 下行大動脈:びまん性狭窄(異型大動脈縮窄) 腹部大動脈:びまん性狭窄(異型大動脈縮窄) しばしば下行大動脈、上腹部大動脈狭窄は連続 腹部大動脈分枝:起始部狭窄 (4) 拡張病変:DSA、超音波検査、CT、MRA 上行大動脈:びまん性拡張、大動脈弁閉鎖不全の合併 腕頭動脈:びまん性拡張から限局拡張まで 下行大動脈:粗大な凹凸を示すびまん性拡張、拡張の中に狭窄を伴う念珠状拡張から 限局性拡張まで (5) 肺動脈病変:肺シンチ、DSA、CT、MRA (6) 冠動脈病変:冠動脈造影 (7) 多発病変:DSA 6 診断 (1) 確定診断は画像診断(DSA、CT、MRA)によって行う。 (2) 若年者で血管造影によって大動脈とその第一次分枝に閉塞性あるいは拡張性病変を多 発性に認めた場合は、炎症反応が陰性でも大動脈炎症候群(高安動脈炎)を第1に疑う。 (3) これに炎症反応が陽性ならば、大動脈炎症候群(高安動脈炎)と診断する。 (4) 上記の自覚症状、検査所見を有し、下記の鑑別疾患を否定できるもの。 7 鑑別疾患 ① 動脈硬化症 ② 炎症性腹部大動脈瘤 13 2012.7.26 様式改訂 資料 1 ③ 血管型ベーチェット病 ④ 梅毒性中膜炎 ⑤ 巨細胞性動脈炎 ⑥ 先天性血管異常 ⑦ 細菌性動脈瘤 <1990 年 ACR による高安病の分類基準> 1.発症年齢 40 歳未満;臨床徴候の出現が 40 歳未満 2.跛行症状;特に上肢の易疲労感 3.上腕動脈の拍動低下 4.上肢収縮期血圧の左右差>10mmHg 5.鎖骨下動脈、腹部大動脈の血管雑音 6.血管造影で大動脈とその主要分枝の狭窄あるいは閉塞病変 ※上記 6 項目のうち 3 項目を満足した場合を高安病(感度 90.5% 特異度 97.8%)と分類 しています。 ACR 1990 Criteria for the Classification of Takayasu Arteritis <原文> 1. Age at disease onset < 40 years Development of symptoms or findings related to Takayasu arteritis at age < 40 years 2. Claudication of extremities Development and worsening of fatigue and discomfort in muscles of 1 or more extremity while in use、 especially the upper extremities 3. Decreased brachial artery pulse Decreased pulsation of 1 or both brachial arteries 4. BP difference >10 mmHg Difference of >10 mmHg in systolic blood pressure between arms 5. Bruit over subclavian arteries or aorta Bruit audible on auscultation over 1 or both subclavian arteries or abdominal aorta 6. Arteriogram abnormality Arteriographic narrowing or occlusion of the entire aorta、 its primary branches、 or large arteries in the proximal upper or lowe extremities 、 not due to arteriosclerosis、 fibromuscular dysplasia、 or similar causes; changes usually focal or segmental * For purposes of classification、 a patient shall be said to have Takayasu arteritis if at least 3 of these 6 criteria are present. The presence of any 3 or more criteria 14 2012.7.26 様式改訂 資料 1 yields a sensitivity of 90.5% and a specificity of 97.8%. BP = blood pressure (systolic; difference between arms). ②巨細胞性動脈炎 <1973 年厚生省特定疾患調査研究班による診断基準> 1.主要症状 (1)頭痛 (2)視力障害 (3)側頭動脈の発赤腫脹・疼痛、索状肥厚、拍動の減少など 2.組織所見 血管炎(巨細胞性動脈炎)の組織所見がみられる 3.判定 主要症状少なくとも 1 項目と組織所見があれば「確定的」、主要症状の(3)を含み、 少なくとも 2 項目あれば「疑い」とする 15 2012.7.26 様式改訂 資料 1 <1990 年 ACR による巨細胞性動脈炎の分類基準> 1.発症年齢 50 歳以上;臨床徴候の出現が 50 歳以上 2.新しい頭痛;新たに出現し、新しい性質の頭部に限局した疼痛 3.側頭動脈の異常;側頭動脈の圧痛・拍動の低下、頸動脈硬化とは関係しない 4.赤沈亢進;赤沈 50mm/時以上 5.動脈生検異常所見;単核球細胞浸潤あるいは多形核巨細胞をもつ肉芽腫性病変 ※上記 5 項目のうち 3 項目を満足した場合を側頭動脈炎(感度 93.5% 特異度 91.2%)と 分類する ACR 1990 Criteria for the Classification of Giant Cell (Temporal) Arteritis <原文> 1. Age at disease onset >=50 years Development of symptoms or findings beginning at age 50 or older 2. New headache New onset of or new type of localized pain in the head 3. Temporal artery abnormality Temporal artery tenderness to palpation or decreased pulsation、 unrelatd to arteriosclerosis of cervical arteries 4. Elevated erythrocyte sedimentation rate Erythrocyte sedimentation rate >=50 mm/hour by the Westergren method 5. Abnormal artery biopsy Biopsy specimen with artery showing vasculitis characterized by a predominance of mononuclear cell infiltration or granulomatous inflammation、 usually with multinucleated giant cells * For purposes of classification、 a patient shall be said to have giant cell (temporal) arteritis if at least 3 of these 5 criteria are present. The presence of any 3 or more criteria yields a sensitivity of 93.5% and a specificity of 91.2% Hunder GG、 Bloch DA、 Michel BA、 Stevens MB、 Arend WP、 Calabrese LH、 et al. The American College of Rheumatology 1990 criteria for the classification of giant cell arteritis. Arthritis Rheum 1990;33:1122---8. 16 2012.7.26 様式改訂 資料 1 ③病型分類 Ⅰ:大動脈弓分枝血管の病変を有するもの Ⅱa:上行大動脈、大動脈弓ならびにその分枝血管に病変を有するもの Ⅱb:上行大動脈、大動脈弓ならびにその分枝血管、胸部下行大動脈に病変を有するもの Ⅲ:胸部下行大動脈、腹部大動脈、腎動脈に病変を有するもの Ⅳ:腹部大動脈かつ/又は腎動脈病変を有するもの Ⅴ:上行大動脈、大動脈弓ならびにその分枝血管、胸部下行大動脈に加え、腹部大動脈か つ/又は腎動脈病変を有するもの ④重症度分類 Ⅰ度:大動脈炎症候群(高安動脈炎)と診断しうる自覚的(脈なし、頸部痛、微熱、めま い、失神発作など) 、他覚的(炎症反応陽性、γグロブリン上昇、上肢血圧左右差、 血管雑音、高血圧など)所見が認められ、かつ血管造影(CT、MRI、MRI を含む)に ても病変の存在が認められる。 ただし、特に治療を加える必要もなく経過観察する かあるいはステロイド剤を除く治療を短期間加える程度 Ⅱ度:上記症状、所見が確認され、ステロイド剤を含む内科療法にて軽快あるいは経過観 察が可能 Ⅲ度:ステロイド剤を含む内科療法、あるいはインターベンション(PTA)、外科的療法に もかかわらず、しばしば再発を繰り返し、病変の進行、あるいは遷延が認められる。 Ⅳ度:患者の予後を決定する重大な合併症(大動脈弁閉鎖不全症、動脈瘤形成、腎動脈、 虚血性心疾患、肺梗塞が認められ、強力な内科的、外科的治療を必要とする。 Ⅴ度:重篤な臓器機能不全(うっ血性心不全、心筋梗塞、呼吸機能不全を伴う肺梗塞、脳 血管障害(脳出血、脳梗塞) 、白内障、腎不全、精神障害)を伴う合併症を有し、厳 重な治療、観察を必要とする。 17 2012.7.26 様式改訂 資料 1 18 2012.7.26 様式改訂