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マイクロ波加熱および誘導加熱を用いた糖質の加水分解

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マイクロ波加熱および誘導加熱を用いた糖質の加水分解
マイクロ波加熱および誘導加熱を用いた糖質の加水分解
俊太郎、大野
桐世(高知大総研セ)、東
緒言
水熱加水分解は酸触媒などを使用しない、環境負
荷の小さいバイオマスの前処理および加水分解方
法の一つである。
急速加熱法であるマイクロ波加熱や誘導加熱を用
いることにより、反応効率の向上が期待される。
(すでに家庭での調理にも広く利用されている)
●
さらに、マイクロ波加熱については、特殊な加熱
モードに起因する付加的な効果が期待される 。
(マイクロ波を吸収する物質が利用可能)
マイクロ波加熱
(2.45 GHz)
反応容器
マイルストーン
ゼネラル (株) START D
四国理科 (株) SSN-400
スターラー
ロッキング
撹拌
温度制御
双極子の回転 イオンの振動 ジュール熱
磁気損失
反応温度 (℃)
PID
熱履歴
(室温14℃)
誘導コイル中におかれた
金属の表面に渦電流が生
じ、それに伴うジュール
熱で発熱
δ+
250
200
200
150
氷水冷
100
50
0
100
0
500
1000
反応時間 (sec)
1500
マイクロ波の内部加熱特性を調べるため、撹拌の
オンとオフの2条件で水熱加水分解を行った。
(B)
グルコースの定量;グルコースCIIテストワコー
還元糖の定量;DNS法
マルトース・セロビオースの定量;HPLC
[HPLC条件]
カラム;Shodex SC1011(80℃)
溶媒;水、流速、1 mL/min、検出;RI
空冷
100
50
0
500
誘導加熱
マイクロ波加熱
1000
1500
反応時間 (sec)
結果 ② 塩のマイクロ波吸収効果
(A)
イオンを含む水溶液
がマイクロ波を良好
に吸収する特性を生
かして、水熱加水分
解を行った
1
Microwave
マイクロ波加熱
Induction
誘導加熱
80
3.
150
0
② マイクロ波加熱の糖化率 ③ マイクロ波加熱では
グルコース選択性が高い
の向上への効果は小さい
(A)
マイクロ波の吸収特性を高めるために、適宜NaCl
およびMgCl2を加え、同様の条件にて水熱加水分解
を行った。
PID
250
結果 ① 糖の安定性と選択性
糖化に及ぼすマイクロ波の
影響を調べるために、グル
コースの安定性と二糖の糖
化率を調べ、誘導加熱と比
較した。
2.
反応基質;グルコース、マルトース、セロビオース
(250 mg/10 mL)、デンプン(コーンスターチ; 1 g/20 mL)
塩;NaCl、MgCl2
塩添加量;0.1-0.2 M
オーブン
誘導加熱 (外部加熱)
δ-
左表に示したマイクロ波加熱オーブンおよび誘導
加熱オーブンを用いて、同一の熱履歴のもと単糖、
二糖、多糖の水熱加水分解を行った。
【実験手順】
加熱原理
マイクロ波加熱 (内部加熱)
HASTELLOY C
PTFE
そこで、マイクロ波加熱と誘導加熱を用いて糖質
の水熱加水分解を行い、特にマイクロ波の効果に
着目しながら、それぞれの特性を比較した。
●
1.
誘導加熱
0.8
100
60
100
(B)
蒸留水
NaCl
MgCl
MgCl2
2
80
40
20
Microwave
マイクロ波加熱
分解率 (%)
100
誘導加熱
Induction
20
0
100
2
Microwave
マイクロ波加熱
3
4
5
Induction
誘導加熱
80
60
カチオンの価数が上がる
につれ、糖化率は向上
0.4
Microwave
マイクロ波加熱
Induction
誘導加熱
0.2
0
1
2
3
4
0.8
40
(A)
60
Microwave
マイクロ波加熱
0.2
Induction
誘導加熱
40
2
3
20
0
4
0
5
2
3
200
400
600
800
1000
1200
4
5
log R0
log R0
0
Fig . 2. マルトース (上) およびセロビオース (下) の
水熱加水分解による (A) 糖化率、(B) グルコース選
択性に対するマイクロ波加熱および誘導加熱の効果。
1400
反応時間 (sec)
Fig . 1. グルコースの安定性
に及ぼすマイクロ波加熱と
誘導加熱の効果
(反応条件;220℃)
400
記した。)
*セベリティパラメーターの算出;
0
=
exp
− 100
14.75
300
250
200
150
100
50
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
NaCl濃度 (wt %)
マイクロ波加熱
60
3.5
撹拌あり
撹拌あり
3
撹拌なし
190
200
210
220
230
加水分解を促進
撹拌なし
2.5
240
180
190
200
210
220
230
240
反応温度 (℃)
4.5
100
撹拌あり
誘導加熱
撹拌を止めると内
部温度は十分に上
昇しない
誘導加熱
撹拌なし
80
4
pH
60
3.5
40
撹拌あり
3
20
0
2.5
190
200
210
220
反応温度 (℃)
230
加水分解を抑制
撹拌なし
誘導加熱
180
0
230
170
180
190
200
240
210
220
230
反応温度 (℃)
250
(C)
200° C, 5 min
220
220° C, 5 min
200
200
-3
蒸留水
NaCl
MW DW
-4
MW NaCl
-5
150
100
E = 139 kJ/mol
ln A = 29.6
-6
-7
-8
E = 134 kJ/mol
-9
ln A = 27.3
50
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
1.2
-10
2
2.1
NaCl濃度 (wt %)
2.2
2.3
2.4
1000/T
Fig . 4. (A) 塩強度がセロビオースの加水分解に及ぼす効果、(B) 塩強度がマイクロ波
出力に及ぼす効果、(C) セロビオースの水熱加水分解反応のアレニウスプロット
考察
① マイクロ波による内部加熱は反応容器壁面での過分解を防ぐ
マイクロ波加熱
誘導加熱
単糖
水が選択的に加熱される
→選択的にグリコシド結合
を加水分解しやすい可能性
過分解物
熱伝導が非選択的
→還元末端などからラ
ンダムに分解が進行し
やすい可能性
② 塩は糖の水熱加水分解反応の頻度因子を高める
40
反応温度 (℃)
還元糖収率 (%)
マイクロ波加熱
撹拌を止めると内
部が過昇温する
4
pH
還元糖収率 (%)
(B)
マイクロ波加熱
180
220
頻度因子を向上
4.5
80
0
210
t;反応時間 (min)
撹拌のオンとオフの2条件において水熱加水分解を行い、
マイクロ波の内部昇温効果を調べた。(基質;デンプン)
20
200
Fig . 3. 塩化ナトリウムおよび塩化マグネシウム
が (A) セロビオースおよび (B) デンプンの糖化に
及ぼす効果
(B)
Glc
グルコース
Cb
セロビオース
350
結果 ③ マイクロ波の内部昇温効果
(A)
190
(結果は反応温度と時間を組み合わせたセベリティパラメーター *として表
T;反応温度 (℃)
100
180
0.6
0.4
20
170
反応温度 (℃)
塩強度の増加に伴い、
糖化率は向上し、かつ
マイクロ波出力は低下
5
80
0
40
20
ln (k)
120
グルコース選択性
糖化率 (%)
40
0
マイクロ波出力 (kJ)
① マイクロ波加熱ではグ
ルコースの安定性が高い
60
0.6
収率 (mg/500mg)
60
蒸留水
NaCl
MgCl2
MgCl2
80
糖化率 (%)
●
実験方法
糖化率 (%)
●
順一(京大院農・地域環境)
装置
考察
反応温度 (℃)
○椿
180
190
200
210
220
反応温度 (℃)
230
240
Fig . 5. デンプンの水熱加水分解における (A) 還元糖収率と
(B) pHに及ぼすマイクロ波加熱と誘導加熱の効果。
従来、塩を含んだ水溶液はマイクロ波により良好に加熱されることが知られてきた13)。イオンはマイクロ波電場内で激しく振動し、その運動が熱に変換される。糖の水
熱加水分解においても、塩は頻度因子を高め糖化率を向上した。この利点は海藻バイ
オマスなど、もともと塩を含んでいるバイオマスの利用に有効である。
③ マイクロ波照射はバイオマスに対して特殊な効果を及ぼすか?
有機合成分野で見出されてきたマイクロ波の反応促進効果は、定在波などによる温度
の不均一性が原因である可能性が指摘されている 4)。加熱ムラは過度なマイクロ波の
効果を示す (Fig. 5) 。均一な温度条件下において、どちらの加熱方法においても糖化
率に劇的な差は見られないことから、マイクロ波照射が加水分解反応を特異的に促進
する可能性は薄い。むしろ、内部加熱に起因する生成物選択性の向上や過昇温がメ
リットになると考えられる。本研究では均一系の反応について報告したが、今後は、
実際のバイオマス利用に近い不均一系におけるマイクロ波効果について精査する。
【謝辞】本研究の遂行にご支援いただきました文部科学省の平成23年度テニュアトラック普及・
定着事業および高知大学理学部柳澤和道教授、恩田歩武博士に厚く感謝申し上げます。
【参考文献】1) Carbohydr. Res. 2001. 331, 9-12. 2) Carbohydr. Res. 2005. 340, 2150-2153. 3) J.
Food Sci. 2010. 75. C152-C159. 4) J. Org. Chem. 2008. 73, 36-47.
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