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在宅医療における半固形化栄養~半固形化の実際と導入時

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在宅医療における半固形化栄養~半固形化の実際と導入時
から
QOLの観点から
栄養を考える
2回
第
近年、経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)による経腸栄養法が急速に普及してきましたが、
下痢や嘔吐などの消化器合併症や、誤嚥性肺炎などのトラブルが新たな課題となっています。
そこでいま注目されているのが半固形化栄養です。
第2回目は、北美原クリニック看護師の阿部かずみさんと理事長の岡田晋吾先生に、
在宅における半固形化栄養の導入の実際について解説いただきました。
在宅医療における半固形化栄養
∼半固形化の実際と導入時の注意点∼
北美原クリニック 理事長
岡田晋吾 先生
北美原クリニック 看護師
阿部かずみ さん
の方が良い場合もあり
■導入にあたって
家族介護者を知ることが第一歩
ます。患者さんや家族
介護者の状況や希望、
半固形化栄養の導入にあたっては、
まず、
また、胃瘻の種類によっては注入のしやす
かなかそうもいきません。
どのような家族が介護しているのかを知る
さが異なり、栄養剤や半固形化剤の種類
そこで、当クリニックで半固形化栄養を
ことが大切です。家族の介護力や生活スタ
によってはコストとの兼ね合いもありますの
導入する際には、看護師がパンフレットや
イルを考慮して、実際に無理なく継続でき
で、家族と相談しながら柔軟に対応するこ
サンプルを持参して、自宅に指導に出向い
るかどうかを見極める必要があります。
とが肝要です。
ています。サンプルを用いて実際に家族の
半固形化栄養が、介護者である家族の
負担になってはなりません。半固形化の作
業にはある程度の力や手間が必要なため、
■患者・家族への支援、
指導
特別な道具は不要
目の前でつくってみせたり、患者さんや家
族にクリニックに来ていただいてトレーニン
グをすることもあります。
手の小さな人や、いわゆる
「老老介護」の
入院中に、在宅生活に適した栄養法を
半固形化栄養で必要な道具は、まずは
場合は難しいかもしれません。また、液体
選択することができ、事前に指導を受けら
シリンジです。以前はドレッシングボトルも
の栄養剤で問題がなければ、従来の方法
れることが理想です。しかし、実際にはな
使用していましたが、使い勝手などの理
由から、現在は主に
50mLのシリンジを使
写真1 粉末寒天を使用した半固形化の方法
用しています。それか
ら、栄養 剤と半固形
化剤を混ぜるための
ボールやスプーンなど
が必要です。
半固形化剤として
は、粉末寒天のほか、
①鍋に水と粉末寒天を入れる。
②加熱・沸騰させて寒天を溶かす。
③温めておいた栄養剤に②を加えて混ぜる。
写真2 市販の半固形化剤を使用した半固形化の方法
市販のものも用いてい
ます。市販の半固形
化剤には、栄養剤の
組み合わせによる相
性もあるので、栄養
剤によって使い分けて
います。
市販の半固形化剤
のなかには、加熱処
理が不要で簡便なも
①栄養剤をボールに入れる。
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②半固形化剤を加える。
③よく混ぜる。
のもあることから、当
クリニックでもよく使用しています。
を見極める必要があります。
間ほど様子をみながら進めていきます。
また、準備のための手間がかかるように
在宅で指導する際には、数字で伝えて
そのほか、血圧、熱、お腹の張り、意識
感じるかもしれませんが、これも一つの料
もわかりにくいので、あえて数値は使わず、
レベルなどに変化がないかといった点に
理方法だと思えば特別な手間がかかるわ
使用している栄養剤の1 回分に対する適
も留意して、注意深く観察することが大切
けではなく、特別な道具も必要ありません
切な半固形化剤の分量を、メーカーのパ
です。便秘が続くときは、腸閉塞などの
ンフレットなどの資料に従って指導してい
可能性も考えられますので、主治医に報
ます。家族には、「ヨーグルト状」
もしくは
告し、今後の栄養法について指示を確認
(写真1、2)
。
■粘度の見極め方
在宅でも可能なわかりやすい方法で
「プリン状」
といった感覚的にわかりやすい
します。
表現で、適切な粘度をつかんでいただくよ
高齢で胃が小さい患者さんでは、3食
半固形化の栄養剤の粘度については、
うに指導し、患者さんの状態によって粘度
のうち1食だけ半固形化栄養を用いる場
20,000cP*で食道逆流が起こりにくいとい
を調整してもらっています
(写真3)
。
合もありますが、基本的には家族次第で
う報告もあります。市販されている既製の
半固形化の栄養剤は、5,000cP前後のも
■投与時の注意点
のが多くありますが、実際には患者さんに
顔色や症状の変化に気を付ける
合わせて、どの程度の粘度が適切なのか
初回は、1回で全量を入れずに、1回の
食事量の半量を入れて、
15~30分ほどおいてから
写真3 半固形化した状態
ヨーグルト状
プリン状
す。朝だけ半固形化栄養にするなど、患
者さんの状態や希望、生活スタイル、家
族の介護力など、状況に応じて調整して
いきます。
■その他の注意点
また入れるという方法を
希望やニーズに合わせて柔軟に対応を
取っています。これは、胃
使用した道具はきれいに洗って、必ず
の大きさなどを確認する目
乾かしてから使用するなど、衛生面への指
的からです。患者さんにも
導が必要です。夏場は特に細菌が繁殖し
よりますが、通常は栄養
やすくなるので、気をつけます。
剤の注 入には10~15分
また、栄養投与後に水分補給をする
程度かけています。
場合も、できるだけ水ではなく、半固形化
苦しくないか、冷や汗を
したもので行うようにしています。
かいていないかなど、1週
在宅では医療者がずっとそばにいるわ
表1 半固形化栄養を導入した事例
当クリニックでは、胃瘻患者さんのうちの30∼40%が半固形化栄養を導入していますが、
特に、介護者が共働きなどで介護に割ける時間が限られているケースや、家族介護者が比較的
若いケースが多く取り入れています。また、高齢者施設やショートステイの利用との兼ね合いか
ら、半固形化栄養を選択するケースもあります。
❶介護力が限られているケース
高齢者を介護している共働きの息子さん夫婦:半固形化栄養の利用により、手間をかける時
間が短縮されたと、導入によるメリットを評価しています。
❷家族介護者が比較的若いケース
40歳代のパーキンソン病患者さん:経口摂取も可能ですが、より自然な生活スタイルを求め
て胃瘻を造設して欲しいと受診され、2003年ごろから胃瘻からの栄養法を開始しました。患
者さんも家族介護者も働き盛りの年代で、その後、ご自身で半固形化栄養のことをインター
ネットで調べて、半固形化栄養の導入を希望されました。以後、大きなトラブルもなく、2008
年の夏には家族とキャンピングカーでの旅行にも出かけられました。半固形化栄養であれば、
サービスエリアなどで簡便に利用できるということで、家族との旅行を楽しまれたそうです。
半固形化にあたっては、普段は市販の半固形化剤を用いて栄養剤をつくっていますが、旅行時
には利便性を考慮して、既製の半固形化された栄養剤を利用しています。
❸施設利用との兼ね合いで導入したケース
グループホームなどの看護師がいない施設の場合、胃瘻患者さんの受け入れが難しいのが現
状です。また、ショートステイなどの利用時にも、看護師の勤務時間(9∼17時)に栄養投与を
終了させる必要があることから、相談を受け、半固形化栄養を取り入れたこともあります。
けではないので、特に初回は何かあったら
連絡してもらうように指導しています。
表1の事例のように、ショートステイ利用
時や旅行のときなど一時的に、あるいは忙
しい朝だけ半固形化栄養を利用するなど、
様々な活用法が考えられます。
在宅医療の現場では、医療者よりも家
族の方が、患者さんの小さな変化をよくみ
ている場合があります。患者さんや家族
のなかには、ショートステイのスタッフ用に
自分たちで資料をつくり、
「栄養剤を入れ
るとお腹が膨らむので、入れる前にオムツ
を緩めておく」といった指示をされるなど、
ご家族ならではのアイデアから教えられる
ことも多々あります。このように、個々の患
者さんや家族の希望やニーズ、生活スタイ
ルなどに応じて、在宅生活のなかに上手
に半固形化栄養を取り入れていって欲し
*:市販の経腸栄養剤は1∼10 cP、中濃ソースは1,000 cP、マヨネーズは45,000 cPとされています。
いと思います。
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