...

13 政府間財政におけるソフトな予算制約

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

13 政府間財政におけるソフトな予算制約
13 政府間財政におけるソフトな予算制約
井堀利宏
要 旨
1990 年代にわが国の財政赤字が増加した主要な理由の 1 つは,地方政府
が公共事業という形で中央政府から巨額の資金を獲得したからである.その
財源に公債発行が充てられて,財政赤字が累増した.バブル景気が崩壊した
1990 年代初頭以降,地域振興のために多くの国債や地方債が発行されて,
公共事業が行われたが,経済活性化や税収増にそれほど寄与せず,あまり成
功しなかった.わが国では,中央政府は地方政府に対して毎年 GDP 比率で
5%程度の財政援助をしている.多くの地方政府(あるいは地域を単位とす
る利益団体)は政治的なロビー活動を通じて交付税の基準財政需要を引き上
げるなどして,中央政府から資金を獲得することに精力を傾ける.表面上は
中央政府の財政赤字として計上されるもののなかでも,交付税や補助金の形
で,実際は地方政府の財政赤字の肩代わりをしているものも多い.本稿では,
政府間財政におけるソフトな予算制約に注目して,バブル期とそれ以降の日
本の政府間財政運営について,理論的,実証的な視点で分析する.
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
427
1 はじめに
公共部門の財政赤字の実質的な配分を見ると,地方政府全体よりも中央政
府の方がはるかに財政状況はよくないが,それでも地方政府も全体として見
れば,相当の財政赤字を出してきた.表面上は中央政府の財政赤字として計
上されるもののなかでも,交付税や補助金の形で,実際は中央政府が地方政
府の財政赤字の肩代わりをしているものも多い.そうした赤字も本当は地方
政府の赤字として分類し直すと,地方政府関連の財政赤字は他の先進諸国よ
りも突出して大きくなる.
わが国では,中央政府は地方政府に対して毎年 GDP 比率で 5%程度の財
政援助をしている.そのうちの一部は制度上義務的に中央政府から地方政府
へと財政移転が行われるものであるが,なかには裁量的に地方の財政事情,
経済事情に配慮する形で移転が行われる場合もある.そうした移転は主とし
て,政治的な要因に基づいて決定されてきた.その背景には,多くの地方政
府,首長,地方議会議員,地方選出の国会議員(あるいは地方を主要な拠点
とする利益団体,農協や地方の土建業界など)が政治的なロビー活動を通じ
て交付税の基準財政需要額を引き上げるなど,中央政府から資金を獲得する
ことに精力を傾けてきたことがある.彼らはわが国のもっとも強力な利益団
体の 1 つになってきた.
1980 年代後半以降を振り返ると,バブルが財政運営に与えた影響は,ど
ちらかといえば,マイナスであった.バブルの生成と崩壊は税収の大きな変
動をもたらしたが,こうした税収の変動は財政運営にマイナスの影響をもた
らした.すなわち,80 年代に地方財政も含めて政府全体に財政再建の動き
が見られたが,バブル期の税収増によって財政再建の機運は弱まり,むしろ,
80 年代後半に放漫な財政運営が行われた.バブル崩壊後の 90 年代には前半
に財政再建路線がある程度試みられたが,90 年代後半の景気低迷期に,公
428
共事業を中心に積極的な財政運営が行われ,さらに財政赤字が拡大した.
90 年代にわが国の財政赤字が増加した主要な理由は,地方政府が公共事
業という形で中央政府から巨額の資金を獲得したからである.その財源に公
債発行が充てられて,財政赤字が累増した.これは,彼らが利益団体として
行動しており,それが実際の予算編成にも反映されたからである.これは,
地方の利益団体がこの時期にきわめて強力な政治力をもっていたことを示唆
している.こうした結果は,経済効率性と両立しない可能性が高く,バブル
景気崩壊後の日本経済低迷の一因ともなっている.国と地方のこのような政
府間の財政関係の弊害を改革することは,バブル期以降のわが国の財政赤字
累増傾向に歯止めをかけて,これからの財政再建が成功するための重要な課
題である.
一般的に,中央政府はある一定の支出に関してシーリングの制約をかける
ことができる.これは財政再建の第 1 歩である.実際にもわが国の中央政府
はこのようなシーリングを設定してきた.が,中央政府は地方政府のレント
(あるいは既得権)となっている地域限定公共サービスに関しては,結果と
して,シーリングを有効に設定できない程度に弱体であると見なすことがで
きるだろう.
その結果,政府間の財源調整制度がソフト予算化することで,中央政府の
予算に地方政府はただ乗りしてしまう.これが,地方政府の予算獲得競争を
刺激する.とくに,わが国では基準財政需要が法律で明示されてないことも
あって,地方政府への交付税配分が不透明な政治的過程で決定されている.
さらに,地方政府は地方税の税率を自由に決定できないか,あるいは,決定
できる場合でも,税率の引き上げによる地域住民の税負担増を求めても,交
付税も含めて考えると,ネットの税収増につながりにくいので,彼らは中央
政府からの資金に過度に依存する.そのために,地方政府や政治家あるいは
地域住民も自ら税負担をして公共サービスを充実させるより,中央政府から
財源を獲得することに政治的ロビー活動を行う.中央政府は地方政府に資金
を配分しているから,中央政府が強い権限をもっているように見えるが,実
際にはそれぞれの地方政府が地域限定の既得権をもっていると考える方が
もっともらしい.こうした理解に立つと,望ましい地方分権とは,地方政府
の財政上の自由度を拡大することではなくて,政府間財政に内在するソフト
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
429
な予算制約をハード化して,地方政府に財政規律を求めることにあるべきだ
ろう.
ところで,90 年代後半から始まった地方分権への改革は,同時に財政再
建を実現するものでなければならない.もし財政状況が改善できれば,中央
政府は全国レベルの公共財支出を増加させることができる.これは,日本全
体に波及するので,それぞれの地方政府あるいは地域住民にとっても望まし
い.これに対して,もし各地方政府が自分たちの既得権にしがみついていれ
ば,世間一般から批判されるとともに,財政状況が危機的になることで,最
終的にすべての既得権を失いかねない.こうした財政再建のメリットはすべ
ての地方政府(あるいは住民)もある程度は認識できるので,財政再建への
大まかな合意は可能である.しかし,その場合,すべての地方政府は,なる
べく他の既得権の削減を優先し,当該政府の関係する既得権の削減には抵抗
するだろう.その結果,非協力ゲームのもとで,各地方政府は既得権益を少
しずつあきらめざるをえない.財政再建のスピードはかなり遅くなる.この
ような地方政府の段階的な譲歩と改革スピードの遅さは,わが国の財政再建
における特徴である.地方政府は重要な利益団体として十分な政治力をもっ
ていると同時に,中央政府の指導力に限界もある.こうした特徴を考慮して,
政府間財政の経済的帰結を検討する必要がある.
本稿の構成は,以下のとおりである.第 2 節ではバブル期を中心にその前
後の期間における政府間財政の動きを振り返る.第 3 節以降では,ソフトな
予算制約を明示した理論モデルを提示して,その政策的な含意を検討する.
そして,わが国の政府間財政の問題点をその改革のあり方を議論する.
2 歴史的な回顧と展望
2.1 バブル期における財政運営と地域発展政策
高度成長が 1970 年代半ばに終わると,税収が低迷するとともに,公共事
業や福祉関連の歳出が増加して,財政赤字が累増した.その結果,1980 年
代に財政再建が最優先課題となった.1981 年に臨調が設立され,当時の中
曽根首相の指示を受けて,臨調は政府の行財政組織や中身を改革する一連の
提案を行った.そのなかには,中央政府と地方政府の財政再建や行財政改革
430
も含まれていた.中央政府レベルでは,旧国鉄などの民営化が実施されるな
ど,こうした改革はある程度進展したが,地方政府レベルでは,歳出の抑制
に消極的な各省庁と財政再建を重視する(旧)大蔵省との利害対立が大きく
なった結果,それほど顕著な改革は進展しなかった.
ところが,日本経済が 2 度の石油危機から回復したあとで,バブル景気に
よって 1980 年代後半に税収が大きく増加した.その結果,一時的にせよ,
多くの地方政府は財政危機から脱却することができた.バブルの影響は,地
方財政に関するかぎり,財政健全化への意欲を失わせるという弊害(マイナ
スの影響)が大きかったと思われる.その結果,行財政改革はその目的の重
点を財政再建という緊縮政策から地域の経済発展という積極政策に移すよう
になった.
バブル期に地方政府も民間企業も将来の需要予測を強気に形成するように
なり,第 3 セクター方式で地域振興政策が過大に活用され,地方政府の資金
も投入された.この方式では経営危機になったときの責任の所在が不明確で
あったために,納税者,有権者,地域住民のチェックも働かなかった.その
後バブルが崩壊して,経営危機が現実化したときに,結果として公的資金に
よる負担が増加することになった.
同時に,バブル期には中央政府レベルでも,ふるさと創生資金などを活用
して,
(旧)自治省が地方政府による地域活性化政策を支援した.また,交
付税や地方債による支援の形で財政面からもそうした政策を後押しした.
この時期,国民の経済生活に直結する身近の経済問題,福祉政策に多くの
関心が集中するにつれて,地方政府においても保守か革新かという政治的対
立は大きな争点ではなかった.住民は行政管理能力や中央政府との良好な関
係を重視するようになった.自治省出身の知事が増加し,与野党相乗りが一
般的になるにつれて,政治的な無関心も拡大した.
地方交付税は,地方政府の財源保障機能をもっている.1980 年代後半に
国税や地方税は増加したため,交付税の財源も自動的に増加した.もし交付
税の基準財政需要が増加しなければ,交付税の配分額は減少して,交付税の
特別会計に黒字が計上されていたはずであるが,自治省は基準財政需要を大
きく増加させて,交付税の配分額を維持した.
この時期は 2 つの要因が重要である.すなわち,地方政府の財政状況と地
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
431
方経済の動向である.中央政府は財政再建と地域振興という 2 つの政策目的
をもっていた.産業の空洞化が進んだ地方や農業に依存してきた地方では,
新しい地域振興の目玉を公共事業や公的な財政支援に頼るようになった.地
方政府の財政状況にある程度余裕があったバブル期までは,これら 2 つの目
標は両立しえたが,バブル景気が終焉した後で財政状況が深刻化すると,こ
れら 2 つの目的は両立しにくくなった.たとえば,1990 年代初頭以降に,
地域振興のために多くの地方債が発行されて,公共事業が行われたが,あま
り成功しなかった.Ihori and Kondo[2001],Ihori, Nakazato, and Kawade
[2003]を参照.これらの実証分析によると,地方における公共事業が GDP
を拡大させるマクロ経済刺激効果は,それほど大きくなかったことが示され
ている.とくに,地方における農業関連の公共事業については,その経済刺
激効果が相当乏しいという結果が一般的であった.
2.2 バブル崩壊後の地方分権と財政再建
バブル景気が崩壊した 1990 年代には,税収が低迷した一方で景気対策と
して公共事業が増加したため,国も地方も財政状況が悪化した.その結果,
地方に配分される交付税収も自動的に減少した.総務省は地方政府(あるい
はそれに関連する政治家)の圧力に配慮して,基準財政需要を抑制しなかっ
たので,交付税特別会計の赤字が増大した.地方政府も,中央政府同様,財
政再建が大きな課題となったが,十分な成果は見えなかった.Ihori, Doi,
and Kondo[2001]を参照.
この時期は政治的には,すべての有力政党が一度は政権にかかわる連立政
権の時代を迎えた.細川内閣以降,地方分権は中央政治の大きな論点になっ
た.この時期以降,地方分権は多くの支持を得た.とくに,2000 年代に
入ってからの小泉内閣における「三位一体」の改革では,地方政府の自主的
な自助努力を重視して,地方政府が財政面でも自立した運営が行えるように,
補助金,交付税の改革,国税と地方税の配分問題が,一体として改革される
ことになった.地方分権は,中央政府が地方政府を指導・管理・監督する度
合いを少なくしようとするものである.また,各省庁の地方政府に対する権
限や影響力も小さくしようとするものである.ただし,以下で説明するよう
に,財政面での地方分権はなかなか進展していない.
432
2.3 政府間財政の評価と問題点
これまでの政府間財政を展望すると,戦後の復興期から高度成長期には中
央集権的なシステムである程度の成果を上げた.これは地域間での多様性が
乏しく,住民の選好も一様であった時代に,地域間の調整を中央政府レベル
でまとめて処理する方が効率的であったからと解釈することができる.しか
し,高度成長の後期から,そうした制度がソフト予算化して,各地方政府が
中央政府の補助金を当てにする形で,公共サービスを拡充し始めるようにな
り,それが地方政府の既得権益と見なされるようになった.その結果,次第
に,政府間財政はその中身が,中央政府の政策誘導・統制から,地方政府に
よる補助金の陳情圧力を反映させるものに変化していった.バブル崩壊後の
経済低迷期にそうした傾向が顕著となった.
90 年代後半以降,最近の地方分権の動きは,地方政府の財政支出面での
自由度を高めるものでもあるが,それだけでは,ますます地方政府の中央政
府の財源へのただ乗り誘因を強める結果にもなりかねない.地方分権を有意
義な改革にするには,まず,中央政府の役割を限定して,政府間財政をハー
ド化することが重要である.
財政面で地方分権への具体的な動きはそれほど迅速でもない.地方分権の
理念は多くの人々によって支持されているが,政府間財政の改革が大きく進
展しているわけでもない.その理由は 2 つ考えられる.1 つは,地方政府間
の利害対立である.大都市部と農村部では地方税の財源に相違があるから,
自助努力が可能な自治体とそうでない自治体の間では,地方分権のあり方に
関して,利害は一致しない.もう 1 つは,中央,地方政府ともに財政再建の
目標を同時に達成するという制約を抱えていることである.いずれの政府も
中期的には増税が不可欠であるから,単純に税源を中央から地方に移譲する
だけで,地方分権が進展することにはならない.
3 理論モデルによる分析
3.1 問題の所在
本稿では,バブル期前後に特徴的に見られた地方政府の道路整備など,地
方自治体による公共投資がどういう条件のもとで過大供給あるいは過小供給
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
433
になるのかを,地方政府が発行する地方債に対する中央政府の起債制限制度
と関連づけながら理論的に考察する.
中央政府と地方政府の政府間財政が地方政府の支出に与える影響としては,
前述したように,「ソフトな予算制約」という概念が注目されている.もし
地方政府はソフトな予算制約に直面していれば,地方政府はそれを事前に予
想して,事後に中央政府から支出されるだろう補助金を当てに,最初から過
大に支出し,過大に借り入れ,無駄な投資をする傾向が生じる.そのような
過大支出は「共有地の悲劇」という用語で公共経済学では用いられてきた.
たとえば,Wildasin[1997,2004],Goodspeed[2002],Akai and Sato[2005],
また Boadway and Tremblay[2005]などを参照されたい.
すなわち,常識的な予想として,もし中央政府がソフトな予算制約を課せ
ば,地方政府にとっては公共サービスのコスト意識が実質的に希薄化される
ため,非効率で過剰な投資水準が生じる.こうしたメカニズムがバブル崩壊
後の日本経済でも生じた可能性は高い.景気対策としての公共事業も,将来
その財源を交付税措置を通じて中央政府が補塡してくれると地方政府が予想
すると,地方単独の事業であっても強気に行う傾向が生じる.
しかし,最近,Besfamille and Lockwood[2004]は,ソフトな予算制約を
きつくして,ハードに予算制約を維持することで,必ずしも最善解は実現し
ないことを指摘している.すなわち,ハードな予算制約が事前の意味で厳し
すぎると,社会的に望ましい(リスクのある)投資までも抑制してしまう可
能性がある.
この節では,公共投資に不確実性やリスク要因を入れないきわめて単純な
モデルを用いる.しかし,課税ベースが中央政府と地方政府間で重複してい
るという想定をおく.そして,ハードな予算制約は必ずしも最善解をもたら
すわけではないが,ソフトな予算制約も必ずしも悪い結果をもたらすわけで
もないことを示す.ソフトな予算制約は地方政府のレント獲得行動を刺激す
るという弊害もあるが,同時に,過小な水準にとどまる地方政府の公共投資
(道路整備など)を促進させるというプラスの効果ももっている.地方固有
のローカルな公共事業にも日本経済全体から見て望ましく,より積極的に行
うことが,日本全体の経済厚生を向上させるものがありうる.理論的には,
ソフトな予算制約は常に弊害を生むとはいえない.しかし,現実の世界では
434
弊害のもたらした可能性が高いだろう.この点は,実証分析の課題である.
また,ソフトな予算制約の大きさは地方政府の公債発行の仕組みとも関係
している.その結果,中央政府と地方政府の提供する公共財の相対的な重要
性と当初の予算制約がきつすぎるかどうかという点で,ハードな予算制約が
望ましい結果をもたらすかどうかも決まってくる.ソフトな予算制約は波及
効果のある公共投資を実質的に内部化するという望ましい効果ももっている.
ところで,本稿ではとくに政府間財政を分析する際に,中央政府と地方政
府間での課税ベースが重複することによる垂直的な外部性に注目する.この
点は政府間財政を課税面から分析する上で重要な仮定である.すなわち,複
数の階層の政府が存在することで,地方政府と中央政府は同じ課税ベースに
税金をかけている.実際にも,わが国において所得税と住民税,法人税と法
人事業税,消費税と地方消費税,あるいは道路関係や自動車関係の税金はそ
の典型的な例である.その結果,課税の重複は,通常とは異なる「共有地の
悲劇」問題をもたらす.理論的に標準的な設定であれば,地方政府と中央政
府は自由にそれぞれの税率を決定できる.そのような場合,課税の重複によ
る垂直的な外部性は地方税を過大に設定させる.なぜなら,それぞれの地方
政府は,中央政府が国税を課してその支出を行う便益を過小に評価するから
である.Keen and Kotsogiannis[2002],Keen[1998],Wilson[1999]などの
文献を参照されたい.
わが国の政府間財政を想定すると,地方税率は地方政府が決めるものであ
るが,現実には中央政府ですら税率を自由に操作するのは困難である.同時
に,わが国では地方政府はほとんど税率決定に関する裁量権をもっていない.
したがって,この節では,中央政府と地方政府によるそのような垂直的な課
税競争も,また,複数の地方政府による水平的な課税競争も考慮しない.そ
して,課税の水準(税率)は地方政府にとっても中央政府にとっても所与と
仮定する.むしろ,本論文の関心は課税ベースが中央政府と地方政府間で重
複することによる(公共投資を通じた)別の外部性にある.
すなわち,課税の配分比率が外生的に所与であることで,2 つの非効率性
が生じる.第 1 に,中央政府と地方政府間で全国レベルの公共財と地方レベ
ルの公共財という 2 つの政府支出の政府間配分が最適に行われなくなる.も
し中央政府へ税配分が過大であれば,中央政府の支出も過大になる(逆の場
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
435
合は,地方政府の支出が過大になる)
.第 2 に,地方政府が行う公共投資は
中央政府に対しても税収増を通じて,プラスの外部性をもたらす.すなわち,
もし地方政府の公共投資によって地方のインフラが整備されて,当該地域経
済活動が活発になり,課税ベースが拡大すれば,税収の配分比率が一定のも
とで,中央政府の税収も増加する.これはプラスの外部経済効果を中央政府
にもたらす.この意味で,地方政府の公共投資は非協力解において過小にな
る.
これら 2 つの非効率性に直面して,中央政府は地方政府の(他地域に波及
効果のある生産性の高い)公共投資を刺激するような政策的な対応をとるこ
とが望ましい.この点を簡単な 2 期間モデルで説明するのが本節の第 1 の課
題である.
つまり,中央政府は第 2 期に事後的に追加の補助金を与えることで,生産
性の高い公共投資の財源を支援しようとする.しかし,そのような事後的な
補助金の可能性は,事前に見ると,地方政府の予算制約をソフト化させる.
なぜなら,地方政府は第 1 期により多くの地方債を発行して多くの公共投資
を行うことで,第 2 期により多くの補助金を獲得できると期待するからであ
る.その結果,生産性の高い公共投資であっても,過剰に実施されることで,
その生産性は大きく低下する.本節の第 2 の課題はそうした状況でのソフト
な予算制約について分析することである.以下,こうした問題を簡単なゲー
ムを用いて説明しよう.
3.2 モデルの枠組み
地方政府の公共投資とソフトな予算制約の関係を分析するために,中央政
府(CG)と地方政府(LG)からなる 2 つの政府を想定して,2 期間モデル
を用いて政府間財政と道路整備などの公共投資の関係を考えよう.単純化の
ために,代表的な地方政府を想定して,地方政府間の競合・競争や波及効果
は考えない.これは単純化のための仮定であるとともに,わが国の現状に
あった想定でもある.
多くの文献では,複数の地方政府間の非協力行動を明示して,そこから生
じる競争による水平的,垂直的な外部性を分析している.Wilson[1999]を
参照されたい.ただし,代表的な地方政府を想定する本節での理論的分析は,
436
かりに複数の地方政府を想定しても定性的に同じである.さらに,日本の場
合,多くの地方政府は協力して行動しているし,彼らの行動は総務省がまと
めて代表しているとも理解することができる.したがって,代表的地方政府
という仮定はそれほど不自然なものでもないだろう.
さて,この代表的な地方政府(LG)は,地方公共財 g を供給し,中央政
府(CG)は全国的な公共財 G をそれぞれの期に供給する.これらの公共財
は各経済主体に便益をもたらし,効用関数は標準的な性質を満たすものとす
る.さらに,すべての財は正常財であるとする.それぞれの財の相対価格は,
単純化のために,1 とおく.
したがって,社会厚生 W は代表的個人の公共財に対する評価を反映する
ものであり,以下のように定式化される.
W =u ( G ) + v ( g ) + δ { u ( G ) + v ( g )}
(13.1)
ここで 0<δ<1 は異時点間の割引要因である.単純化のために,民間消費
は固定されており,そこからの効用は変化しないと仮定する.この理論モデ
ルでは,公共財からの効用のみを考える.
地方政府は第 1 期に公共投資 k を実施する.これは将来その地域の経済
を活性化させるので,第 2 期に税収を増加させる効果をもつ.Y を t ( t =
1, 2) 期における税収の総額とする.Y は単純化のため一定とするが,Y は
地方政府が第 1 期に実施する公共投資の大きさに依存する.
公共投資は生産性の高いものであり,第 2 期の税収を増加させる.この効
果関数を f ( ) で表す.これは標準的な稲田条件を満たすものとする.
f '( )>0,
f "( )<0
単純化のために,中央政府による公共投資は考慮しない.また,地方政府に
よる単なる補助金目当ての無駄な公共投資も公共投資としては考慮しない.
地方政府の行う公共事業はそれなりの便益を生むが,支出量が多くなりすぎ
ると,その限界生産性が大きく低下して,デメリットが大きくなる.最初か
ら明らかに無駄な事業も現実には数多く存在するが,そうした事業は公共事
業ではなく,レント獲得行動として最初から無駄な歳出に分類する.この理
論的分析では事業の量に応じて,その公共事業が社会的に望ましいかどうか
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
437
が決まってくるという定式化を採用している.
DelRossi and Inman[1999]が示したように,地方政府の政治的活動の結果,
中央政府が過剰に補助金を出して無駄な地方政府の公共投資が増加する可能
性は,現実には否定できない.理論的には,そうした活動を考慮すると,地
方政府の公共投資が過大になることは,明らかであろう.この節では,そう
した地方政府による過剰な政治活動は公共事業としては考慮せず,無駄な公
共事業は,最初から無駄な支出(地方の利益団体のレント)に分類する.し
たがって,地方政府の投資プロジェクトは社会全体にとっても有益なものと
する.問題は,その量的な水準である.また,代表的な地方政府を想定する
ことで,地方政府の公共投資のもたらす地域を越えた波及効果も考慮しない.
それでも中央政府の税収に対する垂直的なプラスの外部効果は生じる.その
結果,中央政府からの補助金が何もないときには地方政府の公共投資は過小
になるが,中央政府からの(過剰な)補助金を考慮すると,場合によっては
過大になることもある.この点を理論的に解明することが,本節の理論分析
の主要な目的である.
3.3 政府の予算制約
次に政府の予算制約式を定式化する.中央政府,地方政府ともに重複する
経済活動に課税する.課税ベースが重複するので,税収は 2 つの政府間で配
分される.β で総税収のうちで地方政府に配分される割合を表すことにする.
0< β<1.したがって,中央政府の配分割合は,1− βとなる.なお,配分比
率 β は一定であり,モデルの外で決定される外生変数と考える.また,時間
を通じて変化しないものとする.
毎期の中央政府(CG)の予算制約式は次式で与えられる.
B = G − (1 − β ) Y
(13.2)
G + (1 + r ) B = (1 − β ) Y
(13.3)
ここで B は中央政府が第 1 期に発行する公債を示す.r >0 は外生的に与え
られる利子率である.
地方政府(LG)の毎期の予算制約式も同様に定式化される.
438
D = g + k − β Y + S
(13.4)
g + (1 + r ) D = β Y
(13.5)
ここで D は地方政府が第 1 期に発行する地方債を示す.S は無駄な歳出,
すなわち,地方政府の政治家が享受するレントである.地方政府はレント獲
得行動を行うと想定している.この無駄な歳出には無駄な公共事業も含まれ
る.k は有益な公共事業であり,無駄な公共事業は k ではなくて,S のなか
に含まれる.ただし,有益な公共事業であっても,過大に行われれば,費用
と比較すると,ネットでは無駄な公共事業になる.
(13.2) (13.5)式から中央政府,地方政府それぞれの異時点間の予算制約
式を求めると,以下のようになる.
G +
G
(1 − β ) Y
= (1 − β ) Y +
1+r
1+r
(13.6)
g
βY
+ k + S = β Y +
1+r
1+r
(13.7)
g +
3.4 パレート効率の解
まず,最初にこのモデルにおける最善解をベンチマークとして考察してお
こう.基本モデルは不確実性やリスク要因を入れない単純なモデルである.
したがって,中央政府と地方政府を統合した単一政府は,公共投資や他の政
府支出に関して,最善解を実現することができる.そのためには,総税収を
各支出項目に最適に配分すればよい.すなわち,統合された単一政府がすべ
ての支出項目 { G, g, k } の最適水準を実現するためには,社会厚生(13.1)
を以下の統合された制約条件の下で最大化すればよい.
Y +
Y
G
g
= G +
+ g +
+k+S
1+r
1+r
1+r
(13.8)
この制約条件は(13.6),
(13.7)式から β を消去して求めることができる.
最適化の 1 次の条件は以下のようになる.
u1 − µ = 0
13
δ u2 −
µ
=0
1+r
政府間財政におけるソフトな予算制約
ここで ut ≡
∂u ( G )
∂G
ここで
∂v ( g )
∂g
439
v 1 − µ = 0
δ v 2 −
µ
µ
=0
1+r
v t ≡
f'(k)
 1 + r − 1 = 0
S=0
µ は制約式(13.8)にかかわるラグランジュ乗数である.これらの条件式よ
り次式を得る.
v1 = u1
(13.9)
u2 = v2
(13.10)
v 1
u1
=
= (1 + r ) δ
u2
v2
(13.11)
f'(k)=1+r
(13.12)
S=0
(13.13)
上の最適化の条件式(13.9) (13.13)と制約式(13.8)は,ベンチマークと
してのパレート効率の資源配分(=最善解)を決定する.条件式(13.9)
(13.10)は公共財の限界便益が中央政府(CG)と地方政府(LG)間で均等
化することを意味する.条件式(13.11)は 2 つの期間での公共支出の異時
点間の最適配分について標準的な条件を提示している.条件式(13.12)は
公共投資の標準的な最善解の条件である.最後に,
(13.13)式はレント(無
駄な歳出)がないという効率性の条件である.
4 分権された制度での結果
4.1 分権の基本モデル
ここで,中央政府と地方政府がばらばらに政策を決定する完全に分権化さ
れた世界で,上の節で定義した最善解が実現できるかどうかを検討してみよ
う.すなわち,最初に,外生的に所与である β>0 のもとでの完全に分権化
440
された世界を想定する.
中央政府 CG は社会厚生(13.1)を制約式(13.6)のもとで最大化するが,
その際に地方政府の支出を所与として自らの支出を決定する.同様に,地方
政府 LG はレント S を制約式(13.7)のもとで最大化するが,その際に中央
政府の支出を所与として自らの公共投資と公共財供給を決定する.
地方政府は同時に以下のような制約にも直面している.
(13.14)
v ( g ) + δv ( g ) = U
ここで U は代表的個人(投票者)の留保効用である.もし(13.14)式が
満たされないと,有権者はこの地方政治家を再選しようとしないので,地方
政治家は政権にとどまることができなくなる.以下の不等式を想定すること
はもっともらしいだろう.
U < U  ≡ v ( g ) + δv ( g )
ここで g,g は最善解での g,g をそれぞれ意味する.U はある政治環
境で導出される留保効用であり,ここでは単純化のために,外生的に一定と
考えている.この水準は最善解で達成可能な効用水準よりは小さいだろう.
第 2 段階
このゲーム,すなわち,第 2 段階のゲームの解を調べてみよう.地方政府
LG の問題は以下のようになる.

Max S = β Y +
Y
g
− g +
+ k st
1+r
1+r
 

(13.14)
したがって,最適条件は以下のようになる.
− 1 − ψ v 1 = 0
−
1
− ψ δ v 2 = 0
1+r
f'(k) β
−1=0
1+r
(13.15)
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
441
ここで ψ は制約式(13.14)に対するラグランジュ乗数である.したがって,
次式を得る.
v 1
= (1 + r ) δ
v 2
(13.16)
(13.14)
,(13.15)
,
(13.16)の 3 つの条件より,g,g,k,D と S が求め
られる.条件(13.16)は地方公共財への支出総額 g+{1(1+r )} g が,地
方政府の政権維持制約(13.14)のもとで,最小になることを意味する.
(13.15)式は
(13.16)式はこのゲームでの g,g の値 g*,g* を決める.
このゲームでの k の値 k* を決める.また,(13.5)式は S を決める.g,g,
k,D と S のゲームでの解は,中央政府 CG によるG,Gの選択とは独立で
ある.したがって,部分ゲーム完全均衡は,ナッシュ均衡と同じになる.
第 1 段階
中央政府 CG は(13.1)式を制約式(13.6)のもとで最大化するように,
全国レベルの公共財を選択する.その際にg,g,k,D と S は,地方政府
LG が第 2 段階で決定しているので,これらは所与と見なす.したがって,
最適条件は以下のようになる.
u1 − Ψ = 0
δ u2 −
Ψ
=0
1+r
ここで Ψ は(13.6)式に対応するラグランジュ乗数である.よって,次式
を得る.
u1
= (1 + r ) δ
u2
(13.17)
条件(13.17)は社会厚生 u( G )+δu( G ) が,k* に対応する総支出額 G+
{1(1+r )}G のもとで,最大化されることを意味する.
442
解の性質
このゲームの部分ゲーム完全均衡は以下のようになる.
f'(k)=
1+r
>1 +r
β
(13.15)
v 1
= (1 + r ) δ
v 2
(13.16)
u1
= (1 + r ) δ
u2
(13.17)
条件(13.16)
(13.17)は(13.11)式と同じであり,g と g との相対的な
(異時点間の)効率性の条件である.また,G と G との相対的な(異時点
間の)効率性条件である.相対的な水準は最善解と同じ最適水準に決まって
くる.しかし,これらの公共支出の絶対的な水準が最適に供給されていると
は必ずしもいえない.いい換えると,条件(13.9)
(13.10)は必ずしも成立
しない.なぜなら公共支出の総額 G+G(1+r ) と g+g(1+r ) が外生
的なパラメータ,β,や地方政府 LG のレント獲得行動,維持制約(13.14)
によって恣意的に与えられているからである.
さらにβ<1 を考慮すると,
(13.15)式から,重複する課税ベースの外部
性によって,k が過小供給になっていることがわかる.k*<k .ここで,k*
はこのゲームにおける k の解であり,k  は最善解での k の水準である.す
なわち,(13.12)式は成立しない.地方政府は課税ベースの拡大が中央政府
による公共財供給へもたらすプラスの波及効果を考慮しないので,地方政府
が行う公共投資はその外部効果を考慮しない分だけ,最適水準よりも不十分
になり,第 2 期における総税収も低すぎる水準になる.条件(13.13)は地
方政府 LG のレント獲得行動の結果,成立しない.
要約すると,完全な地方分権モデルでは,以下のような問題点が指摘でき
るだろう.第 1 に,β が必ずしも最適水準に設定されていないので,中央政
府 CG と地方政府 LG の間での公共支出の絶対的な水準に関する配分も最適
には決定されない.第 2 に,課税ベースにおける重複のために,公共投資に
外部性が生じて,k は過小供給になる.最後に,地方政府 LG のレント獲得
行動の結果(U <U )
,有益な地方支出 g,g が過小になり,無駄な歳出 S
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
443
が生じる.
5 追加の移転
5.1 中央政府 CG の事後の移転――第 3 段階
この政府間財政ゲームでは,第 2 期がくると中央政府 CG は初期に設定さ
れていた β の値にコミットすることを望まないかもしれない.中央政府 CG
は地方政府 LG へ事後的に補助金を出すことで実質的に β を増加させること
ができる.これは「時間に関する不整合性問題」である.
まず,最初に第 2 期の初めにおける中央政府 CG の最適化問題を,この
ゲームの第 3 段階として考えてみよう.地方政府 LG が地方公共財 g,無駄
な支出 S と公共投資 k への配分を第 1 期に決めたあとで,中央政府 CG は第
2 期に追加的な補助金 A を決めると考えてみよう.追加的に補助金を用い
ることで,中央政府 CG は第 2 期の公共支出 G と g の配分を予算制約式
(13.3)と(13.5)のもとで,実質的に自由に操作可能となる.
中央政府の第 2 期の予算制約式は,次式である.
G + (1 + r ) B = (1 + β ) Y − A
(13.3)'
同様に,地方政府の第 2 期の予算制約式は,次式となる.
g + (1 + r ) D = βY + A
(13.5)'
これら(13.3)' と(13.5)' 式から A を消去すると,第 2 期の経済全体の予
算制約式が得られる.
G + g + (1 + r ) ( B + D ) = Y
(13.18)
第 2 期に事後的に A の水準を選択することで,中央政府は G と g の配
分を実質的に選択できる.その際の制約式は(13.18)である.第 2 期の社
会厚生は u( G )+v( g ) となるから,中央政府はこれを最大化するように補
助金を決めればよい.レント獲得行動は第 1 期に終了していると考えている.
また,ここでは政権の維持制約条件(13.14)も効いていない.したがって
このゲームの第 3 段階での最適条件は次式となる.
444
u2 = v2
(13.19)
この最適条件式(13.19)と事後的な予算制約式(13.3)',(13.5)' から,第
1 期にすでに選択されていた D と k を所与として行動するので,中央政府
の A,g(そして G )の最適反応関数は,D と k の関数として,以下のよ
うに求めることができる.
A = J ( D, k )
(13.20)
g = P ( D, k )
(13.21)
予算制約式(13.3)'(13.18)と最適条件式(13.10)を全微分すると,次
式を得る.
dG + dg + (1 + r ) dD = f ' ( k ) dk
(1 − η ) dG = η dg
dG = (1 − β ) f ' ( k ) dk − dA
ここでη≡ v2 [  u2 + v2  ] は G の g との相対的な限界評価を示す.簡
単化の仮定として 0<η<1 は一定とする.
(13.3)' 式を考慮すると,反応関
数の特徴として次式を得る.
J =
J =
∂G
∂A
= η (1 + r ) > 0
=−
∂D
∂D
∂G
∂A
+ (1 − β ) f ' ( k ) = (1 − β ) f ' ( k ) − ηf ' ( k )
=−
∂k
∂k
P =
(13.22)
(13.23)
∂g
= − (1 − η ) (1 + r ) < 0
∂D
(13.24)
∂g
= (1 − η ) f ' ( k )
∂k
(13.25)
P =
(13.22)式は地方債発行によるソフト予算化の標準的な結果を示している
(Goodspeed[2002])を参照)
.D の増加で g は所与の G のもとで減少する.
これは,中央政府からの補助金 A の増加をもたらす.J >0.その直感的な
説明は以下のとおりである.より多くの D が発行されると,g は(13.5)
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
445
式より減少するが,G は(13.3)式より増加する.こうした結果は中央政
府にとって望ましくない.なぜなら,中央政府は社会厚生を最大化するため
に最適条件(13.10)式を実現しようとしている.したがって,中央政府は
第 2 期に地方政府に追加的な補助金を与えて g の事後的な水準を増加させ,
G の事後的な水準を減少させる誘因をもっている.
さらに公共投資による別のソフト予算制約のルートがある.J>0.これ
は垂直的な外部性による新しいルートである.
(13.23)式に示されているよ
うに,J の符号は一般的に不確定である.もし 1− β>η であれば,J>0 と
なる(逆の場合は逆)
.すなわち,もしG の限界評価が相対的に小さく,
1− β が大きすぎる場合は,g は G と比較して過小となる.その結果,CG
は事後的な社会厚生を最大化すべく,事後的に A を増加させるように反応
す る.直 感 的 な 説 明 は 以 下 の と お り で あ る.k の 増 加 は CG の 税 収 を
(1− β ) f ' の大きさだけ増加させるが,G の増加は ηf ' の大きさになる.も
し1− β>ηであれば,CG は補助金 A を LG に与えて,g を増加させようと
するのが事後的に社会厚生を増加させることにつながる.
このモデルの核心は,中央政府と地方政府の相互依存関係である.中央政
府は両政府が供給する公共財の限界便益を等しくさせるように資源配分した
い.そうすることで,事後的に社会厚生はより増加する.しかし,中央政府
のこうした厚生最大化行動は,地方政府が第 1 期により借り入れを行い,よ
り多くの支出をするとき,中央政府に第 2 期に追加的な補助金を出させる誘
因をもたらし,ソフトな予算制約という現象を生じさせる.
すでに説明したように,公債発行と公共投資という 2 つのルートで,ソフ
トな予算制約は生じる.まず,第 1 期の借り入れは第 2 期の地方政府による
公共支出を減少させる.これは中央政府の最適な資源配分を攪乱させる.中
央政府は地方政府の過小な公共財供給を是正すべく,第 2 期に補助金を増加
させる.それを見越して,地方政府は第 1 期に過剰に借り入れを行う.これ
は標準的なソフトな予算制約のルートである.第 2 に,第 1 期の公共投資は
第 2 期の中央政府の税収を増加させて,中央政府の支出も増加させる.した
がって,社会厚生を最大化する中央政府は地方政府の借り入れや公共投資の
増加に対応して,第 2 期に補助金を事後的に地方政府に与える誘因をもつ.
このルートは,課税の政府間重複を前提にして初めて生じるルートである.
446
5.2 地方政府 LG の行動――第 2 段階
次に,この政府間財政ゲームのソフト予算ケースを前提として,地方政府
の最適行動を考察しよう.地方政府の維持制約(13.14)に中央政府が地方
の支出に対応して A を(13.27)
(13.28)式で定式化されるように調整する
ということを折り込んでみると,以下の(13.14)' 式になる.この式が制約
として効く形になる.さらに,現在価値化された予算制約式にも(13.27)
(13.28)式を代入して,中央政府の事後的な補助金行動を前提とした予算制
約式に修正する.すなわち,地方政府の制約式は以下のようになる.
g +
v ( g ) + δv ( P ( D, k )) = U
(13.14)'
β  Y + f ( k )
P ( D, k )
J ( D, k )
+ k + S = βY +
+
1+r
1+r
1+r
(13.26)
地方政府は S を最大化するが,その制約は(13.14)' と(13.26)の 2 式で
あり,その際に税収の配分比率 β を与件として行動する.この段階では第 1
期の最適化行動であるから,家計に留保効用を保障しなければならないとい
う政権の維持制約は効いている.
したがって,地方政府が選択する変数,g,D,と k に関する最適条件は
以下のようになる.
(13.27)
− 1 − ω v 1 = 0
−

− 1+
P − J 
− ω δ v2 P = 0
1+r
(13.28)
J
P
β
−
f'(k)−
− ω v2 P = 0 (13.29)
1+r
1+r
1+r

ここで ω(>0)は制約式(13.14)' にかかわるラグランジュ乗数である.
(13.27)
,(13.28)式は g と g の最適配分を β と U のもとで決めることに
なる.
(13.22)
,(13.24)式を(13.27)
,
(13.28)式に代入して次式を得る.
v1 = δ v2 (1 − η ) (1 + r )
(13.30)
したがって(13.14)式で与えられる g と g の最適配分条件はこのゲー
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
447
ムの均衡では実現しない.もし中央政府が A の補助金を追加支出しなけれ
ば,地方政府の最適化行動の結果,(13.11)式が実現して g と g の最適配
分も達成されただろう.LG が CG の反応関数である(13.20)
,
(13.21)式
を考慮して行動すると,g の実質的な限界費用を低下させるので,第 1 期
に g は刺激される.
(13.30)式は,g が過大になり,g と G が相対的に過
小になることを意味する.さらに,地方公共支出の総額 g+{1(1+r )} g
は第 3.1 項の場合よりも大きくなる.ソフトな予算制約は A の増加をもた
らし,g を刺激する.地方政府はソフトな予算制約に直面すると,第 2 期
の中央政府からの補助金を当てにして,第 1 期に過大な公共支出をするよう
になる.
次に,(13.23)
,
(13.25)式を(13.28)式に代入すると次式を得る.
v1 = δ (1 − η ) f ' v2
(13.31)
(13.30)式と(13.31)式を考慮すると,最終的に次式を得る.
1+r = f'
(13.12)
その結果,部分ゲーム完全均衡での k は第 3.1 節のケースよりも大きく
なる.これはソフトな予算制約のもっともらしい帰結である.k が増加すれ
ば,地方政府は自分の税収増 βY に加えて中央政府の税収増 (1− β )Y から
期待される追加的な補助金 A も期待できる.よって,k の増加による実質
的な限界便益は f ' となり,βf ' ではなくなる.このゲームの第 1 段階は,
第 3.1 項のケースと同じである.中央政府は(13.17)式が実現するように
G,G を決める.
5.3 経済厚生の比較
これまで分析したように,ソフトな予算制約は公共投資を刺激する.しか
し,同時に A も増加するので,無駄の歳出 S も増加し,これは経済厚生を
低くする.ここでソフトな予算制約の経済厚生に与える総合的な効果を評価
してみよう.A を明示的に表すと,事後の中央政府の予算制約は以下のよ
うになる.
448
G +
1
1
1
G = (1 − β ) ( Y +
Y ) −
A
1+r
1+r
1+r
(13.6)'
k の増加で A は直接,間接的に増加する.これは(13.23)式と(13.22)
式に示されている.他方で,k が増加すると中央政府の税収も増加する.k
の増加が中央政府のネットの税収に与える効果,つまり,A の支出を差し
引いた(13.6)' 式の右辺全体の収入に与える効果は,以下の式で示される.

R ≡ (1 − β ) f ' − J + J 
dD
dk

(13.32)
ここで(13.5)' 式を考慮すると次式を得る.
1
dD
1
dD
βf '
P + P
−
=
+
1+r
dk
dk
1+r
1+r


J +J


dD
dk

あるいは,最終的に次式を得る.
dD
βf '
=
dk
(1 − η ) (1 + r )
(13.33)
よって,(13.33)式を(13.32)式に代入すると次式を得る.
R=
(1 − β − η ) η
f'
1−η
(13.32)'
もし 1− β−η>0 であれば,
(13.32)式の右辺 R はプラスになる.よっ
て k の増加で(13.6)' 式の右辺も増加する.これは望ましい.このような場
合,ソフト予算ケースで社会厚生は増大する.他方,もし 1− β−η<0 であ
れば R は負になる.このケースでは,経済厚生は低下する.この望ましく
ないケースは生じることもある.なぜなら,A が過大すぎると,留保効用
U を維持するのに必要な地方公共支出総額も増加するからである.そして,
k の増加で中央政府に利用可能なネットの税収は増加せず,中央政府の公共
支出は減少してしまう.
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
449
6 コメント
6.1 ソフト予算の経済厚生上の含意
いくつかのコメントが有益だろう.このゲームにおいて,事後的にも補助
金を出さないという制約にコミットしたケースをハード予算制約のケース,
また,事後的に補助金を出すことで,事前の制約にコミットしないケースを
ソフト予算制約のケースと呼ぶ.
もし中央政府が先決で所与の β のもとで補助金を出さないことにコミット
して,政府間財政においてリーダーとして行動するのであれば,地方政府は
ハードな予算制約に直面する.しかし,このケースでは均衡解は必ずしも最
善解にならない.なぜなら β が外生的に所与であり,政府間の財源配分は最
適に決まっているわけではない.しかも,地方政府はレント獲得行動をして
おり,無駄な歳出もある.さらに,課税ベースが重複していることで,β に
外部性がある.中央政府は地方債の発行を操作する(起債制限を設定する)
ことで,地方債の水準 D を適切に操作することは可能である.しかし,地
方債の上限を操作するだけでは最善解は実現できない.それでも,起債制限
を何らしない場合と比較すると,経済厚生を高めることはできる.
また,中央政府は β の所与とされた値に,第 2 期にもずっとコミットする
ことが最適ともいえなくなる.時間に関する不整合性の問題である.そして,
地方政府はソフトな予算制約に直面することになる.すなわち,地方政府が
第 1 期の支出や借り入れを増やすと,中央政府はレント獲得行動のあとで追
加的に補助金を出して,そのような支出拡大を支えようとする誘因をもつ.
その結果,そのようなゲームでは地方政府は第 1 期の借り入れや支出を意図
的に拡大する強い誘因をもつ.もし G の限界評価が小さいか,あるいは,
先決変数である β が小さすぎる場合,いい換えると(1− β>η)の不等式が
成立する場合,中央政府は追加の対応として,第 2 期に補助金をより多くだ
そうとする.
公債発行と公共投資という 2 つのルートがソフトな予算制約をもたらす.
ま ず 第 1 期 の 借 り 入 れ は 第 2 期 の 公 共 支 出 の 減 少 を 意 味 す る か ら,
Goodspeed[2002]が指摘したように,中央政府はそれの弊害を相殺すべく,
第 2 期に補助金を追加支出する.第 2 に,公共投資の増大は中央政府の税収
450
の増加ももたらすから,第 2 期の地方政府の支出を補助金で支援するように
なる.この第 2 の点は本稿の新しいルートである.
起債制限をかけない場合は,これら 2 つのルートがともに働く.ソフト予
算は常に k を刺激する.これは望ましい効果である.同時に,これは A も
追加支出させる.これ自体は望ましくない効果である.もし 1− β−η>0 で
あれば,経済厚生に与えるプラスの効果がマイナスの効果を上回って,全体
の経済厚生は増加する.
ここで,地方債について起債制限のあるゲームを想定してみよう.そこで
のソフト予算ケースでは公共投資刺激効果は不確定となる.なぜなら,公債
発行によるルートは働かないからである.もし 1− β<η であれば,ソフト
予算でも公共投資は刺激されず,経済厚生も増加しない.しかし,資本蓄積
が刺激されるかぎり,ソフト予算は望ましい.したがって,ソフト予算の経
済厚生上の含意は,これら 2 つのゲームで同じであり,それは,1− β−η
の符号に依存している.
6.2 起債による公共投資制約
ところで,公共投資のための財源にのみ公債の発行が当てられるケースを
検討しよう.地方債に場合,赤字地方債は例外的な対応であり,原則として
建設地方債しかその発行が認められていない.こうしたケースを分析するこ
とは,わが国の政府間財政を理論的に解明する上で有益だろう.したがって,
追加の制約式として,以下の式を得る.
D=k
このとき,LG のゲームⅠでの第 2 段階での最適問題は,レント S
S = βY − g
を以下の制約のもとで最大化することである.
v ( g ) + δv ( βY − (1 + r ) k ) = U
最適条件は(13.34)式と次式になる.
(13.34)
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
βf ' ( k ) = 1 + r
451
(13.15)
k の水準は第 3 節のゲームと同じである.しかし,
(13.16)式は必ずしも
成立しない.よって,地方公共支出の総額 g+{1(1+r )} g は,基本ゲー
ムよりも大きくなり,経済厚生は基本ゲームよりも減少する.ソフトな予算
制約に関する主要な結果はそのまま当てはまる.
6.3 地方公共投資の波及効果
課税ベースが中央政府と地方政府で重複しているという垂直的な外部性は,
ハードな予算制約において地方公共投資が過小になるという結果を得る際の
キーとなる要因である.しかし,こうした垂直的な外部性を考慮しなくても,
上でのモデル分析と同様の結果を導出することは可能である.すなわち,垂
直的な外部性の代わりに,もし地方公共投資に地域を超える波及効果を想定
すると,同じような結果を得る.つまり,複数の地方政府を明示的に導入し
て,各地方政府の行う公共事業に地域を超えた外部性があるとしよう.各地
方政府が勝手にその公共投資を決めている複数地方政府のケースで,波及効
果をもたらす公共投資は過小になる.この意味で,中央政府と地方政府間で
の税収配分が先決のパラメータで与えられているという仮定は,本質的なも
のではない.もし複数地方政府を明示的に導入したモデルで,地方公共投資
の波及効果を想定すれば,同じような分析的結果を得ることができる.
6.4 民間消費の考慮
本稿の理論モデルでは,これまで民間消費を明示的に考慮していなかった.
もし民間消費を明示的に考慮するとすれば,家計の予算制約式は以下のよう
になる.
c +
1
c = (1 − t ) y
1+r
ここで c,c は第 1 期,第 2 期の民間消費,t は税率,また y は所得である.
税収は
452
ty = Y
と定義できるだろう.Y は k の増加関数であるから,y も税率一定のもとで
k の増加関数になる.よって,民間消費からの経済厚生は,k の増加関数に
なる.
第 4 節で示したように,もし k がソフトな予算制約の結果,増加すると
すれば,民間消費も増加するから,これは望ましい.したがって,民間消費
を明示したとしても,これまでの分析結果は定性的に当てはまる.いい換え
ると,民間消費を考えなかったこれまでの理論分析は,単純化の想定として,
それほどきついものとはいえない.
7 実証への応用
7.1 モデルの政策的な含意
本稿の理論モデルでは,理論的に中央政府から地方政府への補助金に関す
るソフト予算制約を取り上げ,両政府間で課税ベースが重複することから生
じる垂直的な外部性を明示して,その効果を分析した.また,ソフト予算制
約のメリットとデメリットを明らかにするために,地方政府によるレント獲
得行動も考慮した.
上述の理論分析で示したように,中央政府の慈悲的な誘因のもとで,公債
の発行と公共投資という 2 つのルートでソフトな予算制約が生じる.第 1 に,
公債発行は第 1 期により多くの借り入れをするため,第 2 期の地方公共支出
が減少する.これは中央政府の公共支出の最適配分をゆがめて,補助金の追
加をもたらす(Goodspeed[2002]を参照).第 2 に,公共投資は中央政府の税
収増ももたらし,第 2 期に地方公共支出を増やすように,中央政府が補助金
を出す状況を作り出す.この第 2 のルートは本稿で新しく強調している点で
ある.
課税ベースが中央政府と地方政府で重複するという税収の垂直的外部性の
ために,公共投資が過小になる点は興味深い.その結果,ソフトな予算制約
で公共投資が促進されれば,それは望ましい効果をもつ.ただし,レント獲
得行動も誘発するというデメリットもある.本稿での分析結果によると,公
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
453
債発行に対する起債制限のないケースではソフトな予算制約は 2 つのルート
がともに働くために,公共投資を刺激する効果をもつ.その場合,もし G
の限界評価が小さく,先決されている地方政府の税収配分比率 β が低すぎる
場合(1− β>η),ソフトな予算の方が経済厚生を増加させる.また,公債発
行に起債制限のある場合は,公債発行によるソフト予算のルートは働かない.
したがって,ソフトな予算でも必ずしも公共投資が促進されるとはいえず,
ハードな予算制約よりも経済厚生が必ず改善するともいえない.ここでも,
経済厚生が改善するかどうかは,1− β−η の符号に依存する.
起債制限のあるソフト予算は政府間財政から見ると,中央政府と地方政府
間でもっとも相互依存度の高いケースである.他方で,起債制限のないハー
ド予算は政府間財政から見てもっとも独立性の高いケースである.地方分権
の程度は,後者の場合にもっとも高く,前者の場合にもっとも低くなってい
る.垂直的な外部性など地方公共投資に波及効果のある場合には,これら 2
つの極端なケースは必ずしもよい結果をもたらすとはいえない.すなわち,
起債制限のない場合のソフト予算ケース(相対的に独立性のあるケース)の
方がハード予算のケースよりも,もし 1− β−η>0 であれば,経済厚生を高
める.起債制限のあるソフト予算の経済厚生上の含意は一般的に曖昧であり,
1− β−η>0 であれば起債制限のないハード予算の場合よりもよいかもしれ
ない.本稿での分析は,G の限界評価と税収配分比率 β が中央政府による
起債制限とソフト予算を評価する上で重要であることを示している.
7.2 数値解析
土居[2008]では,以上のモデル設定を前提に関数型を特定化することで,
具体的に日本経済に対応するパラメータの値を入れて,それぞれの解での各
変数の値を求めている.その結果は,内閣府 ESRI のホームページ掲載の図
表 1 と図表 2 に表されている.
まず,ベンチマークとして,図表 1 の 4 列目の値を見よう.ここで,最善
解での社会厚生の値は 139.783 だが,部分ゲーム完全均衡解では,126.262
と低下し,さらに中央政府からの追加の財政移転があるケースでは 117.634
となっている.このように,ソフトな予算制約のもとでは経済厚生が低くな
ることがわかる.
454
さらに,公共投資の額を見ると,最善解での値は 18,629(単位は 10 億
円)だが,部分ゲーム完全均衡解では,46,573 に増加し,さらに中央政府
からの追加の財政移転があるケースでは最善解と同じ 18,629 となっている.
次に,割引要因 δ の値が変化すると,均衡解の値がどのように変化するか
を見よう.それは,図表 1 の 1 列目から 5 列目に示されている.これらを見
ると,δ が大きくなるにつれて,1 期目の公共財供給よりも 2 期目の公共財
供給が重視されて,2 期目の公共財供給量が増えていることがわかる.ただ
し,公共投資量には変化がない.
利子率が変化した場合は,図表 1 の 6 列目から 8 列目に示されている.こ
れらによると,利子率が高まるにつれて公共投資が増えるとともに,S の値
が低下していることがわかる.
Y の値が変化した場合は,図表 1 の 9 列目から 10 列目に示されている.
これらによると,Y の値が高まるにつれて公共財供給量や S の値が増える
が,公共投資量は変化しないことがわかる.
公共投資の税収に及ぼす効果の関数に関するパラメータ α の値が変化し
た場合は,図表 1 の 11 列目から 14 列目に示されている.これらによると,
公共投資の生産性 α の値が 1 を下回る場合,公共投資量はほとんどゼロと
なる.これは,関数形から,公共投資を増やすことによって 2 期目の税収を
増やす効果が少ないために生じている現象であるといえる.α の値が 1 を上
回る場合,α=2 のベンチマークケースで公共投資量が多いものの,α が大
きくなるにつれて公共投資量が減っていることがわかる.これは,関数形か
ら,α の値が 1 を上回る場合,少しの公共投資で 2 期目の税収をより多く増
やすことができるようになることが反映した結果であるといえる.
Z の値が変化した場合は,図表 1 の 15 列目から 18 列目に示されている.
これらによると,前述の α の値のときと同様,Z の値が大きくなるにつれて,
少しの公共投資で 2 期目の税収をより多く増やすことができるようになるか
ら,公共投資量が減ってくることがわかる.
図表 2 の 19 列目から 22 列目には,留保効用 U の大きさが変化したとき
の結果を示している.これらによると,留保効用の値が高くなるにつれて,
S の値が低下するが,公共投資量は変化しないことがわかる.
地方公共財の評価に関するパラメータ θ の値が変化した場合は,図表 2 の
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
455
23 列目から 26 列目に示されている.これらによると,地方公共財の限界評
価の大きさに対応する θ の値が高まるにつれて地方公共財の量が増えるが,
公共投資量は変化しないことがわかる.
これまでは,政府消費が中央政府より地方政府が多いことに基づいて,地
方公共財の限界評価の大きさに対応する θ と中央政府公共財の限界評価の大
きさに対応する ζ の値を設定していたが,θ の値よりも ζ の値の方が低い場
合の結果を示したのが,27 列目から 33 列目である.これらによると,ζ の
値が相対的に低くなるほど,中央政府が供給する公共財の量が多くなること
がわかる.しかし,いずれの場合でも,公共投資の値は変わらないことがわ
かる.
7.3 実証分析の結果
Doi and Ihori[2002]の実証分析結果では,わが国では 1990 年代に公共投
資の生産性は低下した.それが 90 年代におけるマクロ経済低迷の 1 つの原
因でもある.本節の研究結果と合わせて考えると,実証的にも上で解明した
ソフトな予算制約が結果として,過大な公共投資をもたらし,GDP の低迷
に結びついた可能性を示唆するものである.こうしたソフトな予算制約をも
たらした政治経済学的な背景としては,地方における利益団体の活発なロ
ビー活動が考えられる.90 年代に民間経済活動が低迷すると,そうした国
からの補助金を獲得するロビー活動の金銭的な便益は増加する.これが政治
的な圧力となって,この時期のソフトな予算制約を大きくさせたと考えられ
る.
国が財政再建のために財政支出にシーリングを課すことができるのにもか
かわらず,地方への財政移転に制約を課すのは簡単なことではない.国の一
般歳出のなかでも交付税金額はこれまであまり抑制されてこなかった.Doi
and Ihori[2002]の実証結果は,地方の圧力団体の活動が 1990 年代に拡大し
ており,これが 1990 年代に財政再建がうまく行かなかったことの一番の理
由であったことを示している.この研究結果は,増税が公共部門における
GDP の増加と同様の効果をもっていることを示している.すなわち,地方
または国の増税は,地方の圧力団体の活動を活発化させるという結果を招く.
増税に関する実証分析は,Doi and Ihori[2002]や Ihori and Itaya[2004]で検
456
討した政治経済モデルと整合的である.このなかではまた,財政再建下の政
府債務の定常レベルが,時間選好率や公共事業の評価レベルの増加関数で,
また利子率の減少関数であることも示されている.とくに,地方への補助金
の増加については,権益を求める政治活動が過渡期や債務が増加する時期に
活発化し,地方への補助金が増加する一方で,それ以外の一般歳出である全
国規模で便益が及ぶ公共サービスは減少する,ということが確認された.こ
のような動きは,日本経済が経済成長の減速を経験した 1990 年代に実際に
見られた.
7.4 交付税の改革
土居[2008]や赤井・佐藤・山下[2003]で指摘しているように,わが国の地
方交付税には以下のような問題が指摘されている.すなわち,地方交付税の
存在を前提とすると,国が手当てする交付税の財源は全国の納税者が負担す
るから,個々の地方政府やその地域住民にとって交付税を得るための追加的
な税負担はほとんど認識する必要がない.だから,現行制度下でより多く便
益を得るには,より多く交付税を得て,より多く行政サービスのために支出
すればよい.
交付税をより多く得るには,基準財政需要額がより多くなる「努力」をす
るのが 1 つの方法である.つまり,基準財政需要額に算入される費目の支出
を増やすことである.そうすれば,基準財政需要額が多く算定され,財源不
足額が多くなり,より多く交付税を得られる.たとえば,地元経済では必要
ないが基準財政需要額に含まれる港湾の建設費を支出すれば,財源不足額は
増加する.だから,交付税を多く得るために,基準財政需要額に算入される
経費の調達費用を積極的に削減しない.逆にいえば,算入対象経費を削減し
たら,その分基準財政需要額,ひいては交付税が減少してしまい,自治体の
収支はあまり改善しない.歳出削減を怠るインセンティブが地方交付税制度
に内在している.また,多くの地方政府が協力して基準財政需要の算定を拡
大するように,総務省を通じて,国に(あるいは与党の政治家に)強力に働
きかける誘因も生じる.
基準財政収入額を増やす「努力」を怠るディスインセンティブもある.現
行の地方交付税の算定方式では,地元経済を活性化して自然増収を図る努力
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
457
も阻害されてしまう.たとえば,地元経済を活性化する政策を自治体独自で
行って,その成果として(税率を引き上げなくても)税収が増えたとしよう.
そうなれば,基準財政収入額の算定方法により,留保財源の分を除いた大半
の(標準税率によって課税された)増収分だけ,基準財政収入額が増えてし
まう.基準財政需要額が変わらなければ,基準財政収入額が増えた分だけ,
財源不足額が減ってしまい,交付税は減額されてしまう.せっかく地元経済
を活性化して自然増収が増えて,自治体財政の収支が改善すると思いきや,
交付税の削減で帳消しにされてしまう.それでは,地元経済を活性化する努
力がそれだけ阻害されてしまう.
つまり,地方自治体は不必要な支出をやめたり,地元経済を活性化して税
収を増やしたりする政策努力を怠り,交付税に依存し続けようとする.この
ようなインセンティブが働くことは,現行制度が建前として想定しているこ
とではない.しかし,制度に内在する動機づけが経済合理性から見て上述の
とおりであるから,これはモラル・ハザードが生じている状況といえよう.
地方交付税制度は,財源保障機能という制度の根幹にかかわる部分そのも
のの理由でモラル・ハザード現象をもたらしており,財政の最適規模と無関
係に地方政府の政治的圧力を配慮して交付額が決定されるなどの欠陥が生じ
ている.多少地方交付税制度を多少改善しても,自治体の歪んだインセン
ティブは是正できない.基準財政需要額や基準財政収入額の決定方式自体に
財源保障機能という欠陥が内在している以上,この欠陥を解消するには,現
行制度を清算した方が早道である.
このように,わが国の財政制度のもとでは,国から地方へ地方譲与税,地
方交付税,国庫支出金の形で財政移転が行われる.この財政移転による地域
間所得再分配の度合いは他の先進国よりも大きく,わが国の国家財政の役割
として,地域間所得再分配の機能が大きいことが 1 つの特徴となっている.
これを政治的な観点から見ると,各地域から選出される国会議員は,より多
くの財政移転を得ることが重要だと認識して,閣僚や中央官僚に彼らの地域
により多く財政移転を分配するように主張する.彼らが再選するためには,
財政移転の形をとった特定地域に限定した既得権益や公共事業といった国か
らの分配が重要であるからである.
今後,国と地方の財政健全化を実現するためには,地方政府が効率化のイ
458
ンセンティブをもつように制度設計することが必要である.公共事業の新し
い再評価システムによって効率性や透明性を追求することは,基準財政需要
の算定基準を透明化して,地方の既得権益を抑制するために重要である.ま
た,地方政府ができるだけ独自に集める税収で財政運営できるように地方交
付税制度の再構築することは,ソフトな予算制約を解決する為には重要なこ
とである.
8 地方債の考え方
地方債許可制度は 2005 年度をもって廃止され,2006 年度より協議制度に
移行した.協議制度のもとでは地方公共団体は総務大臣(都道府県の場合)
,
または都道府県知事(市町村の場合)の同意を得なくても,その旨を事前に
議会へ報告すれば地方債を発行できる.このように,地方政府が歳入,歳出
の両面で自主権をもつと,地方政府も今まで以上に財政赤字を出すことがで
きる.この財政赤字は,地方政府の債券である地方債の発行で賄われる.地
方政府の予算制約に何らかの制約が課されていないと,支出面では増加傾向,
課税面では減少傾向のバイアスがかかるだろう.地方債をどんどん発行する
と,現在の住民が将来の住民の負担にただ乗りすることになる.
これに対する 1 つの政策的対応は,地方債の発行に対する中央政府からの
制度的な規制(=起債制限)であろう.もちろん,市場メカニズムが完全で
あれば,そのような規制がなくても,各地方政府が発行する地方債に対する
資本市場での格付けの評価を通じて,この問題が処理される.財政規律の甘
い地方の発行する地方債は,高い金利でないと消化されなくなる.しかし,
現実には,地方債の格付けに関する資本市場での機能は完全ではないし,ソ
フトな予算制約の結果最終的な負担者が中央政府になるケースも多い.とす
れば,中央政府による何らかの起債制限も必要となる.
地方政府の借金を最終的に中央政府が面倒をみる現在の日本の制度では,
ますます個別の地方政府は地方債に依存する誘因をもっている.地方債は個
別の地方公共団体が発行するものではあるが,どの地方公共団体の発行する
地方債でもそれほど発行条件に格差はない.これは,最終的に中央政府が地
方債の償還を保証しているからである.この点を変更しないのであれば,何
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
459
らかの起債制限が必要になる.
ところで,地方債発行の自由度をどこまで認めるかは,地方財政制度設計
のポイントである.わが国だけでなく,一般的に,多くの国で財政力のある
自治体(大きな地方政府)では,地方債の発行条件は緩やかであり,同時に
そうした自治体は地方政府間の移転では移転の出し手になっている.これに
対して,財政力のない自治体(小さな地方政府)では,地方債の発行条件は
厳しいし,その上限が設定されていることが多い.また,そうした自治体は,
地方政府間の移転で受け取り手になっている.こうした状況は,地域間再分
配政策の 1 つのやり方として解釈することができるだろう.
すなわち,どの地方政府が経済的に恵まれているのか,そうでないかの情
報が中央政府にとって完全にわかっているケースでは,中央政府による直接
の(一括固定税と補助金を組み合わせた)地域間再分配政策が有効である.
しかし,情報が不完全のケースでは,結果としての経済状態を見るだけでは,
その地方自治体に本当に経済力があるのかないのかを識別するのは困難であ
る.事後的な財政状態,経済状態は識別できても,それが本来の財政力,経
済力の差による結果なのか,あるいは,当該自治体があまり財政努力,経済
活性化の努力をしなかったことの結果なのかを,識別することは,中央政府
にとって困難である.
したがって,本来は経済力,財政力がある自治体でも,中央政府からの移
転を当てにして,まじめに経済活性化の努力をしないで経済力,財政力のな
い自治体にとどまろうとするかもしれない.その地方自治体の本当の(潜在
的)実力は,中央政府にとって不完全な情報である.こうしたケースでは,
次善の策として中央政府による地方債発行制約が有効となる.
たとえば,中央政府が移転支出で支援する見返りに,地方債の発行条件を
厳しく設定するとしよう.逆に,地方債を自由に発行できる自治体には,地
方債の発行条件を自由にする見返りに中央政府が税金を徴収する.中央政府
はこうして得た税金を,地方債の発行条件を厳しくした自治体への補助金に
回す.
このように発行条件と補助金・税金を組み合わせるケースでは,経済力の
ある自治体はそうした厳しい発行条件をきらって,中央政府からの財政支援
を当てにしないで,むしろ,他の自治体に資金を援助することも甘受しなが
460
ら,地方債を自由に発行できる方を選択するだろう.なぜなら,地方債が自
由に発行できれば,たとえ歳出が異時点間で大きく変動する場合でも,課税
を平準化できるため,経済厚生上のメリットが大きいからである.逆に,財
政力のない自治体では,地方債の発行条件に関する厳しい条件を受け入れて
でも,中央政府からの財政支援を期待するようになる.その結果,地方債の
発行条件に対する対応の如何で,どの自治体が「真に」経済的,財政的に豊
かであるのか,あるいは,貧しいのかが,中央政府にも判別できるようにな
る.
9 おわりに――政府間財政改革の評価と展望
本稿では,ソフトな予算制約を明示した政府間財政モデルを構築して,地
方の行う公共投資がどのような要因で決定されるのかを分析した.また,レ
ント獲得行動を明示的に考慮して,地方政府のただ乗りの誘因についても分
析した.さらに,地方政府間の財政移転制度と移転支出政策の望ましい組み
合わせについても分析した.バブル期とその後の経済停滞期に地方政府にお
いて公共投資が多くなされたが,当初はそれなりに生産性の高いものもあっ
たが,規模が大きくなりすぎると,それは必ずしも地域を超えた波及効果の
大きな投資ではなかった.そうした投資が過剰になされて,財政赤字が累増
した結果,その後の財政危機を増幅するとともに,わが国全体の経済活性化
にもマイナスの影響をもたらしたといえる.
ところで,バブル期以降,わが国では地方分権を推進する望ましい方向と
して,中央政府から地方政府への税源委譲が議論されてきた.そして,2004
年以降三位一体改革として実際に,所得税のうち 3 兆円が地方の住民税に委
譲された.
しかし,本稿のモデル分析が明らかにしたように,ソフトな予算制約をそ
のまま温存する世界で,そのような税源委譲を実施しても,それ自体は何ら
実質的な効果をもたない.地方政府の財政赤字が減少しても,中央政府の財
政赤字が同額だけ増加するだけでは,実質的な効果はない.国税を減税して,
地方税を増税しても,地方政府のコスト意識を高める上で何ら効果はない.
さらに,起債制限を緩和(強化)する政策についても同様である.むしろ,
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
461
国税あるいは地方税率を上昇させることは,財政再建にある程度寄与する.
税収の増加は,政府部門にとっては課税ベースの拡大あるいは GDP の増加
と同じく,望ましい.ただし,民間消費は抑制されるので,最適な政策では
ない.有益な地方分権を実現するには,交付税を通じた「ソフトな予算制
約」を改革する必要がある.
バブル期以降のわが国政府間財政を振り返ってみると,さまざまな政策的
教訓を読み取れるだろう.まず第 1 に,地方分権と財政再建を同時に実現す
るために,地方政府の財政基盤を強化して,税収面でも公共サービスの面で
も自由度を高める必要があるのは,確かである.しかし,財政基盤を強化す
るには,地方政府自らが税収を確保する自助努力を行う必要がある.それに
よって,国からの補助金や地方債に依存する体質を変えなければならない.
また,交付税を改革して,交付税総額を削減するとともに,基準財政需要
の算定基準を簡略化,透明化し,地方政府の財政収支が悪化しても,安易に
交付税でそれを補塡しないことも重要である.限界的な意思決定において,
地方政府が自らの税収で自らの公共サービスの財源を調達するようになって
初めて,ソフトな予算制約を解決することもできるし,財政再建も可能にな
る.また,地方の利益団体によるロビー活動を抑制することもできる.
ところで,地方分権を推進するには,合併も有力な手段である.合併によ
り,地方政府の守備範囲が拡大して,財政基盤が強化されれば,有能な人材
も育成しやすいし,固定費用の削減にもつながる.しかし,合併の効果は競
争の圧力のもとで初めて発揮される.ソフトな予算制約が維持されると,合
併しても,放漫財政の強い地域,既得権の大きな地域の悪い財政運営が標準
化してしまい,効率化とは逆行する結果も生じやすい.単に,合併によって
将来の経済規模や財政需要を過大に見積もって,無駄な公共事業が増加した
り,より非効率な旧自治体の方に人件費や行政コストの基準が合わされたり
することになりかねない.
より効率的で,自立した財政運営を地方政府が確立するには,行政改革は
重要であるし,そのために情報公開や再評価制度の活用も有効である.民間
委託や PFI も有益であろう.しかし,問題は地域の住民がそうした問題に
関心をもつ誘因があるかどうかである.住民の参加や監視なくして,まとも
な地方分権は構築されない.1 つの地方政府内で受益と負担が乖離していれ
462
ば,行政の効率化を推進しても,地域住民の利己的な便益には直結しない.
その場合には,効率化の中身も不十分なままであろう.財政的にも中央政府
から自立して,住民の負担に見合った公共サービスを模索するように,財政
面で地方分権が十分に確立して初めて,行政改革の進展も期待できる.
現実には,すべての地方政府が中央政府の財源にただ乗りしようとしてい
るわけではない.財政面で地方政府の自由裁量の度合いが高くなれば,より
効率的で公平な公共サービスを提供できる地方政府も多いだろう.しかし,
現在の政府間財政制度が多くの地方政府をして,ソフトな予算制約のもとで
中央政府の財源に安易に依存させているのも,たしかである.その意味で,
地方分権の改革を成功させるには,まず中央政府の財政面での守備範囲を限
定し,同時に,地方政府の財政状況にかかわらず,その守備範囲を維持する
ことが重要である.そうした中央政府のハードな予算制約というコミットメ
ントに信頼性が確立されて初めて,地方政府に自助努力を求める地方分権は
意味のあるものになる.政府間財政の改革の理念が成功するかどうかは,ま
ず,中央政府の予算制約をハードにすることができるかどうかにかかってい
る.地方分権は,中央政府が政府間移転において財政規律を取り戻すことか
ら始められるべきであろう.
参考文献
赤井伸郎・佐藤主光・山下耕治[2003],『地方交付税の経済学――理論・実証に基く改革』
有斐閣.
井堀利宏・土居丈朗[1998],
『日本政治の経済分析』木鐸社.
土居丈朗[2000],『地方財政の政治経済学』東洋経済新報社
土居丈朗[2008],「政府間財政と道路整備――数値解析による定量的分析」未定稿.
Akai Nobuo and Motohiro Sato [2005], Decentralized Leadership Meets Soft budget.
Discussion Paper Series in University of Tokyo.
Besfamille, M, and B. Lockwood [2004], Are Hard Budget Constraints for Sub-national
Governments Always Efficient? Warwick Economic Research Papers 717. Papers 717.
Boadway, R. and J-F. Tremblay [2005], A Theory of Vertical Fiscal Imbalance Working
Paper of Queen s University, DP.
DelRossi, A. F. and R. P. Inman [1999], Changing the Price of Pork: The Impact of Local
Cost Sharing on Legislators Demands for Distributive Public Goods.
, 71(2), pp. 247‒273.
13
政府間財政におけるソフトな予算制約
463
Doi, Takero, and Toshihiro Ihori [2002], Fiscal Reconstruction and Local Interest Groups
in Japan.
Goodspeed, T. J. [2002], Bailouts in a Federalism.
9(4), pp. 409‒421.
, 16(4), pp. 492‒511.
,
Ihori, Toshihiro, Takero Doi, and Hiroki Kondo [2001], Japanese Fiscal Reform: Fiscal
Reconstruction and Fiscal Policy.
, 13(4), pp. 351‒370.
Ihori, Toshihiro, and Jun ichi Itaya [2004], Fiscal Reconstruction and Local Government
Financing.
, 11(1), pp. 55‒67.
Ihori, Toshihiro, and Hiroki Kondo [2001], Efficiency of Disaggregate Public Capital
Provision in Japan.
, 1, pp. 161‒182.
Ihori, Toshihiro, Toru Nakazato, and Masumi Kawade [2003], Japan s Fiscal Policies in
the 1990s.
, 26(3), pp. 325‒338.
Keen, M. J. [1998], Vertical Tax Externalities in the Theory of Fiscal Federalism. IMF
Staff Papers 45(3), pp. 454‒485.
Keen, M. J., and C. Kotsogiannis [2002], Does Federalism Lead to Excessively High
Taxes?
, 92(1), pp. 363‒370.
Wildasin, D. E. [1997], Externalities and Bail-outs: Hard and Soft Budget Constraints in
Intergovernmental Fiscal Relations, Mimeo.
Wildasin D. E. [2004], The Institutions of Federalism: Toward an Analytical Framework.
. Part 1, 57(2), pp. 247‒272
Wilson, J. [1999], Theories of Tax Competition.
, 52(2), pp. 269‒304.
Fly UP