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火星探査航空機に向けた低レイノルズ数における フクロウ翼の空力特性
火星探査航空機に向けた低レイノルズ数における フクロウ翼の空力特性 ○近藤勝俊(東理大) ,青野光,野々村拓,安養寺正之,大山聖(ISAS/JAXA), Tianshu Liu(ウエスタンミシガン大),藤井孝藏(ISAS/JAXA),山本誠(東理大) Katsutoshi Kondo (TUS), Hikaru Aono, Taku Nonomura, Masayuki Anyoji, Akira Oyama (ISAS/JAXA), Tianshu Liu (WMU), Kozo Fujii (ISAS/JAXA) ,and Makoto Yamamoto (TUS) Key Words : Airfoil characteristics, Low Reynolds number, CFD, Avian wing Aerodynamic performance associated with owl-, seagull-like, and ishii airfoils at a Reynolds number of 2.3×104 and the angle of attack ranging from 0.0 up to 9.0 degrees are numerically investigated. Time-averaged aerodynamic coefficients and lift-drag ratio are compared among three airfoils, and the relationship between time-averaged flow fields and aerodynamic coefficients are analyzed. The results suggest that for all angles of attack considered in current study owl-like airfoil attains greater lift-drag ratio than the others due to low drag and high lift force production. However, nonlinearity of CL-α curve is observed for all airfoils due to movement of separation and reattachment points. Moreover, degradation in aerodynamic performance of owl-like wing at low angle of attack is observed because the flow of pressure side massively separates. 諸言 1. している.さらに青野ら 9)は,石井翼と上面形状が似 現在,JAXA と大学の研究者を中心に火星惑星探査 た SD7003 翼と石井翼を比較し,石井翼の下面形状が 飛行機の成立性が議論されている.火星の大気密度は 揚力増加に貢献していることを明らかにしている.上 地球の 1/100 と非常に希薄で,飛行機のサイズも様々 記に述べた過去の研究より,石井翼の高い空力性能が な制限により小さくなることから,低レイノルズ数(翼 明らかとなったが,火星探査航空機の翼型にはさらに のコード長に対して Re=104-105)での飛行となる.こ 20~30%程度の揚抗比向上が必要である.それに伴い, のため,低 Re 数における翼の空力特性を把握するこ 佐々木ら 10)は限られた迎角のみであるが翼断面形状 とが火星探査飛行機を設計する上で一つ重要な点とな の最適化を行い,その解析を行っている.しかし,1 る. ケースの翼型最適化にかかる時間や計算負荷は,翼型 低 Re 数領域における翼の流れ特性として,高 Re 数 を固定し,迎角を変化させた計算に比べて大きい.そ 領域より層流剥離が起きやすく,高い揚力係数を得に のため,Schmitz らの報告に適合する翼など,低 Re 数 くいという問題がある 1)-4).さらに層流剥離後,剥離 せん断層が翼面上に再付着することにより,層流剥離 で高性能な翼型に対して迎角を変化させて解析を行い, 知見を得ることは重要である. 泡を形成する場合がある.この層流剥離泡の挙動が失 低 Re 数において良い空力特性を持つとされている 速特性に影響を与えること 5)や,揚力曲線の非線形性 鳥類の翼に Liu ら 11)は注目し,翼型形状などのデータ の一因であること 6)が報告されている. を習得しているが,空力性能については解析を行って 上記のような複雑な流れ場となることが予想される いない.特にカモメ翼とフクロウ翼は,石井翼よりも 低 Re 数流れにおいて,Schmitz らは以下のような特徴 翼下面に大きなキャンバーをもっている.さらにフク を持つ翼型の空力性能が良いと報告している 1)-2).1) ロウ翼は上面形状が石井翼と良く似ており,石井翼と 前縁がとがっている(剥離点を固定し,Re 数依存性を 同様もしくはそれ以上の空力性能が期待できる.そこ 減らす) .2)翼上面がフラットである(剥離領域を小 で,本研究は 2)や 3)のような特徴を持つ鳥類の翼,特 さくする) ,3)翼下面で大きなキャンバーを持つ(翼 に Liu ら 11)の計測によって形状が定式化されたフクロ 下面での揚力を稼ぐ) .上記の 2),3)のような特徴を持 ウ翼とカモメ翼,および火星探査航空機の候補となっ つ翼型として石井翼が挙げられる.石井翼はフリーフ ている石井翼に注目する.それぞれの翼型に対して 2 ライトハンドランチグライダーの世界記録保持者の石 次元の数値解析を行い,各翼の流れ場及び空力係数を 井氏によって設計された翼型で,現在の火星探査航空 比較することで翼形状が空力特性に与える影響を明ら 機の翼型第一候補となっている.野々村らや安養寺ら かにし,最終的には新たな低 Re 数翼型開発に向けた 7)-8)は, この石井翼が,Re=2.3×104 において,実験的, 有益な知見を得ることを目的とする. 数値計算的にも高い空力性能を有することを明らかに 計算概要 2. 2.1. 結果および考察 3. 計算条件 3.1. 本研究における一様流速度は問題の簡略化のために 平均空力係数の比較 フクロウ,カモメ,石井翼の各迎角に対する時間平 圧縮性を無視できる範囲内で,マッハ数 0.2 とした. 均揚力係数 CL,抗力係数 CD,揚抗比 L/D 分布を図 3, また Re 数は翼弦長を基準として 2.3×104 とした.こ 4,5 にそれぞれ示す. の際,流入する一様流れは乱れがない理想的な条件と 揚力係数に注目すると,カモメ翼,フクロウ翼,石 した.迎角 α は 0.0~9.0 度まで 1.5 度おきに変化させ 井翼の順に大きな揚力を得ることがわかる.これは定 7 迎角×3 翼=計 21 ケースの解析を行った. 性的に下面のキャンバーが大きな順に大きな揚力を得 2.2. 計算手法 ている.さらに,全ての翼において揚力曲線の非線形 12) 性が顕著である.一般的に揚力傾斜が非線形となるこ を用いて 2 次元解析を行った.支配方程式は 2 次元圧 本研究では,ISAS/JAXA にて開発された LANS3D とは翼型設計上好ましくない.この非線形性と流れ場 縮 性 Navier-Stokes 方 程 式 と す る . 対 流 項 評 価 は との関係ついては後に詳しく述べる. SHUS13)+3 次精度 MUSCL14),粘性項評価は 2 次精度中 次に抗力係数に注目する.抗力係数に注目すると, 心差分,時間積分は 2 次精度後退差分を ADI-SGS 陰解 カモメ翼はフクロウ翼や石井翼に比べて高い値を示す. 法 15)で解き,時間方向の精度を保つために内部反復を また,フクロウ翼と石井翼を比較すると,同程度の抗 3回 16)行っている.また,本研究では全域層流を仮定 力係数を示すが,迎角 4.5~6.0 度の間で大小関係の入 して非定常計算を行う.本研究における Re 数(2.3× れ替わりを示す.さらにフクロウ翼は迎角 0.0 度の抗 104)では,大規模な剥離を伴わない流れであれば,層 力係数の方が 1.5 度よりも高い. 流計算で平均解を精度良く予測できることが先行研究 で分かっている 17). 時間刻み dt は,2.5×10-4 とし,本 研究での最大 CFL は約 1.4 である. 2.3. 解析対象・計算格子 揚抗比分布をみると,フクロウ翼は高い揚力を得て, 抗力を石井翼と同程度にすることで,全迎角において カモメ翼および石井翼よりも高い揚抗比を有し,特に 迎角 6.0 度においては,最大揚抗比約 23 を示す.カモ 解析対象はフクロウ翼,カモメ翼,石井翼とした. メ翼は高い揚力を得るが同時に高い抗力を得るために 翼形状を図 1 に示す.フクロウおよびカモメ翼の翼断 揚抗比性能は低い.また,石井翼は得られる揚力は低 面形状は Liu11)らの計測によって定式化された式に従 いが,抗力を抑えることで揚抗比を得る翼型である. い,翼の付け根からスパン方向に 40%の翼断面を用い 以上が各空力係数の分布から得られた特徴である. た.また,本研究には C 型構造格子を用いた.その代 これらの特徴が流れ場とどのような関係性をもつのか 表例としてフクロウ翼の格子を図 2 に示す.格子数は について時間平均場および翼面圧力分布を用いて,高 翼周方向に 615 点,垂直方向に 101 点の計 62,115 点で い揚抗比性能が得られるフクロウ翼を中心に各翼の比 ある.最小格子幅は0.03c/√Reとした. 較,考察を行う. 3.2. 流れ場と空力係数の関係 本節では,前節で述べた各空力係数の特徴に注目し, 流れ場との関係性を議論する.以下に空力係数の特徴 を述べる. フクロウ翼は他の翼に比べて高揚抗比性能が得 られる. 図1 翼形状(赤実線:フクロウ翼,緑破線:カモメ翼, 青点線:石井翼) 全ての翼で CL-α 曲線の非線形性が見られる. フクロウ翼と石井翼の抗力係数は,迎角 4.5~6.0 度の間に大小関係が入れ替わる. フクロウ翼の抗力係数が迎角 0.0 度の方が 1.5 度 よりも大きい. 上記 4 点に関してフクロウ翼を中心に議論を行う.各 翼の迎角 0.0~6.0 度における時間平均場を図 6 に示す. 3.2.1. 揚抗比性能について 本項ではフクロウ翼が他の翼に比べて高い揚抗比性 能を得る理由について,最大揚抗比迎角の平均場およ び翼面圧力分布を比較することにより議論を行う.図 7 に各翼が最大揚抗比を得る迎角(フクロウ翼:6.0 度, カモメ翼:3.0 度,石井翼:4.5 度)における翼面圧力 分布の比較を示す.フクロウ翼(迎角 6.0 度) ,カモメ 図2 計算格子 翼(迎角 3.0 度) ,石井翼(迎角 4.5 度)の流れ場(図 下面のキャンバーは揚力向上に寄与することがわかる. また,翼上面の分布に注目すると,カモメ翼は x/c=0.6 ~0.9 付近で大きな負圧を得る.この大きな負圧により 下面だけでなく上面においても大きな揚力を得るが, 後縁付近の負圧は抗力への寄与も大きい.そのため, カモメ翼は揚力も抗力も大きい.フクロウ翼と石井翼 を比較すると,フクロウ翼は石井翼に比べて大きな負 圧を得ることがわかる.特に翼前縁付近から中心付近 の領域で形成される剥離泡の範囲では,一定の大きな 負圧を維持している. 以上のことから,翼下面のキャンバーが大きいほど 高い揚力を得ることがわかる.翼上面おいては,カモ 図3 揚力係数 メ翼のようなキャンバーを持つ翼では大きな剥離領域 を形成することにより大きな揚力を得るが,同時に抗 力を得てしまうため,高揚抗比性能を得るためには適 していない.逆にフクロウ翼や石井翼のようなフラッ トな上面を持つ翼型は剥離面積が小さくなり,抗力が 小さくなるだけでなく,剥離泡の範囲で大きな負圧を 得ることで大きな揚力を得ることができる.このこと から,翼上面がフラットな翼型が高揚抗比性能を得る のに適した翼型である. 3.2.2. CL-α 曲線の非線形性について 本節では CL-α 曲線の非線形性が顕著となる迎角付 近の流れ場(フクロウ翼:3.0~6.0 度,カモメ翼:1.5 ~4.5 度)に注目する.フクロウ翼の迎角 3.0 度の平均 図4 抗力係数 場に注目すると,翼上面は後縁剥離流れ,翼下面は剥 離泡を伴う流れである.この流れ場は迎角が大きくな るにつれ翼上面は剥離泡を伴う流れ,下面は付着流と なる.カモメ翼においては,翼上面は迎角 1.5~4.5 度 において大きな変化を伴わないが,翼下面では剥離泡 を伴う流れから付着流へと変化する.以上から翼面上 の剥離特性が変化する迎角において CL-α 曲線が非線 形となる.そのため,翼型を設計する上では,巡航迎 角において,剥離特性が変化しないような翼型を設計 する必要がある. 3.2.3. 抗力係数と流れ場の関係 本項では,フクロウ翼と石井翼の迎角 4.5~6.0 度に おける抗力係数の大小関係の入れ替わりとフクロウ翼 図5 揚抗比 の迎角 0.0 度の抗力係数の増加現象について述べる. まず前者について議論する.図 4 をみると石井翼は 6)をみると,フクロウ翼と石井翼の流れ場は翼前縁付 迎角の 2 次関数状に増加するが,フクロウ翼の分布で 近で剥離し翼中心付近で再付着する剥離泡を伴う流れ, は迎角 4.5 度と 6.0 度の抗力係数がほぼ同じ値を示す. カモメ翼は最大キャンバー付近で剥離する後縁剥離流 そこで,フクロウ翼の流れ場に注目すると,迎角 4.5 れである.フクロウ翼と石井翼の流れ場は剥離面積が 度では後縁付近に剥離領域があるが,迎角 6.0 度にな 小さいが,カモメ翼は翼中心から後縁にかけて大きな ると前縁から翼中心付近にかけて剥離領域が存在して 剥離領域が存在する.そのためフクロウ翼と石井翼は おり,剥離領域が移動していることがわかる.そこで, 圧力損失が小さくなるので抗力が小さいが,逆にカモ 図 8 のフクロウ翼の迎角 4.5 度と 6.0 度における翼面圧 メ翼は圧力損失が大きいため抗力が大きくなる. 力分布をみると,迎角 4.5 度では,suction peak が確認 次に翼面圧力分布に注目する.翼下面の分布に注目 された後,高い負圧を後縁付近まで維持している.こ すると,下面に大きなキャンバーのあるフクロウ翼, の後縁付近における負圧は抗力への寄与が大きい.一 カモメ翼は石井翼に比べて大きな正圧を得ることから, 方,迎角 6.0 度では剥離領域(剥離泡)が前縁付近に フクロウ翼 (a) α=0.0° (b) α=1.5° (c) α=3.0° (d) α=4.5° (e) α=6.0° カモメ翼 0.00 u/u∞ 石井翼 1.25 図6 各翼の時間平均場 移動し,さらにフクロウ翼上面形状が迎角 6.0 度の流 下面の翼面圧力分布をみると,両迎角において前縁付 れ場に対して適切な形状となっているため,抗力への 近で suction peak が確認された後,剥離泡の領域で一 寄与が小さい.このことから,翼上面形状を適切に設 定の圧力値を示し,再付着点付近で急激な圧力回復を 計することで抗力への寄与を減らすことができ,揚抗 起こす.ここで,一定値を示す領域に注目すると,迎 比性能を向上させることができると考えられる. 角 1.5 度では正圧を保っているが,迎角 0.0 度では負圧 次に後者について議論する.フクロウ翼の迎角 0.0 となってしまう.この領域での負圧領域は,翼形状と 度における平均場みると,翼下面の流れ場が前縁付近 合わせて考えると揚力低下および抗力増加に寄与する. で剥離し翼中心付近で急激な再付着を起こし,大きな そのため,迎角 0.0 度の抗力は迎角 1.5 度よりも高くな 剥離泡を形成している.対して迎角 1.5 度の際の流れ ると考えられる.以上のことから大きなキャンバーを 場をみると,剥離せん断層がそのまま再付着する流れ 持つ翼は下面で流れが大きく剥離し,空力性能が低下 場となる.このときの翼面圧力分布を図 9 に示す.翼 する場合があるので翼型設計の際は注意が必要である. 結言 4. Re=2.3×104 におけるフクロウ翼,カモメ翼および石 井翼に対して 2 次元の層流解析を行い,流れ場と空力 係数との関係を明らかにした.各翼の空力係数の比較 からフクロウ翼は高い揚力を得て抗力を抑える翼型で ある.特に最大揚抗比は迎角 6.0 度において約 23 とな り,石井翼よりも 38%高い揚抗比性能が得られた.ま た,本研究による 3 種類の翼の比較から,限られたレ イノルズ数ではあるが,低レイノルズ数翼型に関する 以下の新しい知見が得られた. フラットな上面を持つ翼型は剥離面積を小さく することで,抗力の増加を抑えることができる. さらに剥離泡の範囲で一定の負圧を得ることで揚 力増加も期待できる. 図7 翼面圧力分布(赤:フクロウ翼 6.0 度, 緑:カモメ翼 3.0 度,青:石井翼 4.5 度) 翼下面の大きなキャンバーによって持たせるこ とで揚力を向上させることができる.ただし,低 迎角では流れが剥離し,空力性能が低下する場合 があるので注意する必要がある. 巡航迎角において CL-α 曲線を非線形にさせない ためには,剥離特性を変化させないことが重要で ある. 参考文献 1) Schmitz, F. W. : Aerodynamics of the Model Airplane Part1, RSIC-721, 1967. 2) Schmitz, F.W.:The Aerodynamics of Small Reynolds Number, NASA TM-51, 1980. 3) 李家賢一 : 翼型上に生ずる層流剥離泡, ながれ 22, 15-22, 2003. 4) Lissaman, P. B. S. : Low-Reynolds-number Airfoils, Annual Review in Fluid Mechanics, pp 223-239, 1983. 図8 フクロウ翼の翼面圧力分布 5) (赤:4.5 度,青:6.0 度) Mueller, T. J. and Batill, S. 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