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無線CATV技術

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無線CATV技術
特集
横須賀無線通信研究センター特集
特
集
3-5 放送システム
3-5-1 無線 CATV 技術
3-5-1 An Advanced CATV System with Wireless Distribution
都竹愛一郎
Aiichiro TSUZUKU
要旨
CATV は、昭和 30 年(1955 年)に群馬県の伊香保温泉で、弱電界エリアでの難視聴対策として開始され
たが、最近では、同軸ケーブルの特性を生かして、多番組伝送のみならず、高速インターネットの伝送媒体
として脚光を浴びている。都市型 CATV の普及率は、平成 12 年(2000 年)度末の時点で 1048 万世帯、世帯
普及率で 22%となっている。
本報告は、CATV をより効率的に運用する手法として、住宅散在地域、集合住宅、都会の無電柱地域、
離島など、ケーブルの敷設が困難な地域に対して、有線を補完するシステムとして、無線(ミリ波)によ
る分配について検討したものである。
CATV(Community Antenna TV) has been started as a measure intended to improve the
poor reception area since 1955 at the spa of Ikaho in Gunma prefecture. Recently CATV has
come into the limelight as a multi program distributor and a new transmission media of the
broadband Internet. The percentage of household CATV sets is 22% in 2000 in Japan.
The wireless distributed CATV system is able to complement the wired system. It is serviceable in where the cable cannot lay, such as the area studded with houses or isolated
island.
In this paper, an advanced CATV system with wireless distribution is mentioned. The frequency band is the millimeter-wave band, because it has the characteristic of allowing
broadband transmission and miniaturization of devices. The link budget of the test system
using 60GHz band is also described.
[キーワード]
無線 CATV,ミリ波,広帯域伝送,難視聴対策
CATV system with wireless distribution, millimeter-wave, broadband transmission, improvement of
the poor reception area
1 はじめに
効なことが認知されるようになり、強電界エリア
においても、地上波を補完する伝送方式として
CATV(Community Antenna TV)は、1955 年
新しい役割を果たすようになった。最近では、同
(1953 年の TV 放送開始から 2 年後)に、群馬県の
軸ケーブルの特性を生かして、多番組伝送のみな
伊香保温泉で、弱電界エリアでの難視聴対策と
らず、高速インターネットの伝送媒体として脚光
して開始された。その後、都市に高層建築物が建
を浴びている。総務省の調査では、自主放送を
てられるようになると、都市部でのゴースト障
行っている都市型 CATV の普及率は、平成 12 年
害が社会問題となり、CATV が電波障害対策に有
度末の時点で 1048 万世帯、世帯普及率で 22%と
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なっている。
(図1参照)
本報告は、CATV をより効率的に運用する手
たことから、60GHz 帯双方向無線伝送システム
について行った。
法として、住宅散在地域、集合住宅、都会の無
電柱地域など、ケーブルの敷設が困難な地域に
2 無線 CATV の必要性
対して、有線を補完するシステムとして、無線
による分配について検討したものである。本検
CATV の無線利用の利用形態を図 2 に示す。
討は、2000 年に電気通信技術審議会から
CATV の無線利用は、有線を補完するシステム
「60GHz 帯の周波数の電波を使用する無線設備の
と位置づけられているので、ケーブル敷設が困
技術的条件」の答申[1]がなされて法制化され、
難なところを無線で伝送する。ケーブルは敷設
この周波数帯における様々な電波の利用促進の
できるが採算が合わない住宅が点在する地域や、
期待とともに、CATV の無線分配も可能となっ
ケーブルの引き込みが困難な集合住宅、住民合
意ができないためケーブルが引き込めないマン
ション、都会のケーブル地中化により電柱がな
い無電柱地域にケーブルの末端を無線で結ぶ 1 対
多数(P − MP)
、また、伝送路の途中で河川や鉄
道を横断するような場所を無線で結ぶ、1 対 1
(P − P)の形態がある。なお、CATV の無線利用
で既に実用化されているシステムとしては、区
域外放送を CATV で放送するため、区域外放送
が受信できる山の上から CATV の放送局である
図1
CATV の普及状況
図2
CATV に於ける無線の利用イメージ
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通信総合研究所季報 Vol.47 No.4 2001
ヘッドエンドまで無線で伝送する再送信伝送用
固定局と呼ばれるものがある。
検討した。
CATV におけるディジタル放送の周波数配列
3 システム検討
は、図3のようになっている。上り周波数は、
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10MHz から 55MHz、下り周波数は、70MHz から
CATV 放送で無線伝送に使用する周波数は、
90MHz がFM放送の伝送、90MHz から上は、1
23GHz 帯、40GHz 帯、60GHz 帯が割り当てられ
チャネル当たり 6MHz 幅で 113 チャネルがテレビ
ている。23GHz 帯は、平成 10 年に法制化がなさ
放送に指定されている。検討した伝送システム
れおり、既に実用可能となっている[2]。しかし
は、上り 10MHz から 55MHz、下り 70MHz から
ながら、帯域幅は 400MHz しかないため、CATV
770MHz を周波数変換のみにより、それぞれ
の 770MHz 帯域すべてを伝送することができず、
60GHz 帯に変換するものである。
下り回線のみの単方向、同報伝送となっている。
特定小電力無線局が使用できる周波数は
40GHz 帯は、現在、社団法人日本 CATV 技術協
59GHz から 66GHz となっているが、60GHz 付近
会を中心にして、技術基準策定のための検討を
は酸素の吸収による減衰が大きいこと、無線局
行っている。周波数帯域幅は 1GHz の予定である。
の送信電力の規定値が 10mW と小さいことから、
40GHz 帯では、CATV の上り、下りの 770 メガ
比較的吸収の少ない 64GHz から 65GHz の 1GHz
ヘルツ帯域を伝送可能なため、双方向伝送を想
で検討した。図 4 は、全国の主要都市における
定している。60GHz 帯は帯域幅が 7GHz あるが、
60GHz の 1 ㎞当たりの降雨減衰特性を表している
特定小電力無線局としての帯域は 2.5GHz 以内と
[3]。稼働率をどの程度に設定するかで、減衰量
なっている。今回検討したシステムは、40GHz
は変わるが、平均的なところで、東京における
帯と同じく、帯域幅を 1GHz として双方向伝送を
累積分布 0.1%値、64GHz で約 8.5dB を降雨減衰値
図3
CATV の周波数配列
表 1 回線諸元
図4
60GHz の降雨減衰特性
周波数:64 ∼ 65GHz
送信電力:10mW
送受信アンテナ利得及びビーム幅
P−P :33dBi
2 度
P−MP:15dBi(親局)
60 度
33dBi
2 度
給電路損失:1dB
NF:10dB
大気減衰:6.6dB / km
降雨減衰:8.5dB / km
受信C/N:26dB(64QAM)
42dB(NTSC)
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とした。これらをもとに、伝送距離と伝送チャ
ンネル数について検討した。まず、CATV の下
り回線について回線計算を行った。回線諸元を
表1に示す。周波数は 64GHz から 65GHz、送信
電力は 10mW、アンテナ利得は P − P では送受信
とも 33dBi、ビーム幅は約2度である。P − MP
の場合は送信アンテナ利得 15dBi、アンテナビー
ム約 60 度、受信アンテナ利得は 33dBi、ビーム幅
約 2 度、フィーダロスは送受併せて 1dB としてい
る。受信機 NF は 10dB、大気減衰は 1 ㎞で 6.6dB、
降雨減衰は 1km で 8.5dB としている。
なお、伝送形式はディジタル伝送を想定して
図 6 ディジタル方式とアナログ方式の伝送
距離の比較
おり、受信 C/N は、CATV の変調方式である
64QAM の誤り訂正前で BER が 10 -4 の値となる
形状により一定ではないが、2 回反射以降にマル
26dB である。
チパスの影響が出る可能性がある。しかしなが
図5は、横軸が伝送チャンネル数、縦軸が伝
ら、住宅側のアンテナのビームが狭いこと、多
送距離である。計算結果より、チャネル数が増
回反射により電波が減衰することなどにより、
えると1波当たりの電力が小さくなるため、伝
マルチパスの影響は少ないものと思われる。
送可能距離が短くなることがわかる。P−Pの
場合、フルチャネル伝送で約 350m、P − MP の
4 実験概要
場合は、約 75m となる。図6は、P − MP の場合
のアナログの NTSC の伝送の場合とディジタル
これらの検討を元に現在、実証実験を進めて
伝送方式の比較をした図である。諸元は、表 1 と
いる。実験システムの系統を図 7 に示す。親局、
同じ値を用いている。アナログの標準テレビで
子局とも同じ構成になっている。主な仕様を表 2
ある NTSC の所要 C/N 42dB は昭和 62 年の電気
に示す。下り周波数は 64.27 から 64.97GHz の
通信技術審議会答申の望ましい性能(検知限)と
700MHz、上り周波数は 64.010 ∼ 64.055GHz とな
されている値である。NTSC の場合、伝送距離は
っている。変換前の上り、下りの周波数間隔は
50 チャネルで約 20m、フルチャネルでは 13m と
15MHz しかなく、そのまま周波数変換したので
なる。
は送受信周波数をフィルターで分離できないた
ところで、マンションやアパートなどに無線
め、60GHz 帯では 215MHz 離している。アンテ
伝送を想定した場合、マルチパスの影響が懸念さ
ナについても、送受信の干渉を防ぎ、かつダイ
れる。伝送路側アンテナビーム幅を 60 度、建物
プレクサによるロスを少なくするため独立して
側のアンテナビーム幅を 2 度とした場合、建物の
いる。狭角用は約 10cm のレンズホーンアンテナ
で利得が 35dBi,広角用はセクトラルホーンアン
テナで利得は 15dBi となっている。送信電力は、
親局、子局とも最大 10mW である。周波数変換
にはダブルコンバージョン方式を採用している。
図8に実験システムの写真を示す。右が親局、
左が子局である。親局の下部導波管に広帯域用
のホーンアンテナを取り付け、上部の狭帯域用
レンズホーンアンテナとの切り替えは装置横の
つまみを回すことにより、導波管スイッチが切
り替わり、アンテナを切り替えることにより、P-
図5
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チャネル数対伝送距離
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MP、P − P の実験が行えるようになっている。
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図7
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CATV 無線伝送システムの構成
表 2 試作装置の仕様
周波数 下り:64.27 ∼ 64.97GHz
上り:64.010 ∼ 64.055GHz
アンテナ形式・利得
レンズホーン(10cm φ)
:35dBi
ホーン(広角アンテナ) :15dBi
偏波:直線偏波
送信電力:10mW(Max)
図9
実験装置の受信 C / N 対 BER 特性
5 まとめ
無線 CATV 技術について、現在検討中の
図8
試作システムの外観
60GHz 帯無線 CATV システムについて概説した。
今後、実験装置により、無線システムでの多番
中央部の装置は疑似伝送路でアッテネータの値
組伝送の確認、双方向伝送機能の確認などを計
を変えることにより、伝送距離を模擬すること
画している。
ができる。現在、通信総合研究所の CATV 標準
CATV は、放送のみならず電話やインターネ
化施設、通称ACTセンターの設備を使用して
ットに接続できる便利なシステムであり、ROF
双方向実験を行っている。実験結果の一例を図
(光ファイバ無線)との親和性がよいことから、
9に示す。この結果は、擬似伝送路を用いてデ
モバイル CATV の検討も進められている[4]。今
ィジタル信号を伝送したときのビット誤り率を
後、無線と有線、放送と通信の融合したシステム
測定したものであるが、伝送システムの所要 C/N
について、更に検討を進めていく予定である。
劣化量は約 2dB という値を得ている。
123
特集
横須賀無線通信研究センター特集
参考文献
1 電気通信技術審議会答申“60GHz 帯の周波数の電波を使用する無線設備の技術的条件”
,2000. 2.
2 電気通信技術審議会答申“有線テレビジョン放送事業用無線局の無線設備の技術的条件”のうち,“23GHz 帯
を使用する有線テレビション放送事業に用いる固定局の技術的条件”の一部答申,1998. 6.
3 郵政省電波研究所電波部“40GHz 以上の電波利用の研究について
(3)”pp.84-90, 1983. 1.
4 藤瀬雅行,“ROF マルチサービス無線通信システムについて”,電子情報通信学会論文誌 B, Vol.J84-B, No.4,
pp.655-665,Apr.2001.
つ づく あい いち ろう
都竹愛一郎
無線通信部門 横須賀無線通信研究セ
ンター放送システムグループリーダー
博士(工学)
ディジタル放送技術
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通信総合研究所季報 Vol.47 No.4 2001
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