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すぐ役立つ妊婦・授乳婦と薬の情報源

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すぐ役立つ妊婦・授乳婦と薬の情報源
病薬アワー
2013 年 1 月 21 日放送
企画協力:社団法人 日本病院薬剤師会
協
賛:MSD 株式会社
すぐ役立つ妊婦・授乳婦と薬の情報源
虎の門病院薬剤部
山根 律子
●はじめに●
妊婦・授乳婦薬物治療に関する公的情報源は「添付文書」ですが、添付文書における妊
婦情報は「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与」と薬物療法の
原則の記載にとどまることが多いのが現実です。授乳婦への記載も、母乳保育の利点は考
慮されないばかりか、乳汁中への移行量を考慮せずに、ごくわずかでも認められれば「授
乳を中止させること」などと記載されています。このため医師にとっても薬剤師にとって
も臨床で使いやすい妊婦・授乳婦薬物療法に関する情報源が求められているのが現状です。
本日は、多忙な日常業務のなかで効率的に良質の判断根拠を入手できる情報源について
ご紹介いたします。
●妊婦情報源●
妊婦情報源を大きく分類すると、①製薬企業情報、②文献検索、③各種ガイドライン、
④妊娠と薬に関する書籍に分けることができます。
製薬企業が提供する情報源には、添付文書情報、インタビューフォーム、文献請求先へ
のコンタクトの三つが挙げられます。
今回は書籍を中心にお話していきますが、その前に製薬企業情報について簡単にご説明
いたします。
わが国の添付文書、妊婦の項については、旧厚生省の通知により記載方法が決められて
います。この「妊婦の項」は「使用上の注意」のなかに位置付けられていて、一般の患者
と比べて、妊婦で特に注意する必要がある場合に、必要な注意を記載することとなってい
ます。処方前に留意すべき注意点ですから、疫学調査があり胎児に問題が無かったとの情
報があっても記載されることはありません。また、妊娠と知らずに服薬した偶発的な場合
も記載要領の想定外であり、記載には限界があります。
インタビューフォームの非臨床試験では生殖発生毒性試験結果の情報を得ることができ
ます。発売直後でヒトの情報が全く得られない段階では貴重な情報となります。また、2008
年からは、巻末の「海外における臨床支援情報」として、妊婦への投与に関して海外情報
がある場合、海外公的評価、FDA、オーストラリアの妊婦リスクカテゴリー、海外添付文書
情報について記載されることになりました。大まかな世界標準の評価を入手するのに有効
です。
製薬企業が提供する情報源の三つ目として文献請求窓口の存在があります。妊婦服薬に
関する文献情報や製薬企業の持つ市販後調査に関する情報等を入手することができます。
こうした情報のうち、製薬企業の市販後調査はイベントモニタリングが原則となっていて、
流産症例や異常症例といったイベントが集積される傾向があります。したがって、奇形の
発生率が読み取れるものではないことに注意が必要です。
次に紹介するのは文献情報です。
最新で網羅的な情報源に、文献検索に基づく原著論文の入手・利用があります。インタ
ーネット環境があれば米国国立医学図書館が提供するPubMedが無料で利用できますし、国
内文献については医中誌Web等の利用が可能です。
ただし、忙しい臨床で文献が届くのを待っていては、判断が遅れる、妊婦指導に間に合
わないといった現実もありますので、今回はもう少し簡便な情報源を中心にお話します。
三番目が各種ガイドラインです。
日本産科婦人科学会が作成した産婦人科診療ガイドライン、あるいはWHOと米国心肺血
液研究所が公表している喘息管理ガイドラインGINAなどは、疾患が妊娠へ与える影響、妊
娠が疾患に与える影響、治療薬が胎児に与える影響をコンパクトに把握できる重要な情報
源です。ただし個々の薬剤の情報に関しては要約情報にとどまる傾向があります。
そこで本日の本題ともいえる、第四の情報源として「妊娠と薬に関する書籍」について
ご説明します。
代表的なものを挙げると、海外書籍では『Drugs in pregnancy and lactation 第9版』
(Lippincott Williams&Wilkins)、通称「Briggsの本」があります。国内書籍では『実践妊娠と
薬第2版』
(じほう社)が挙げられるでしょうか。
『Drugs in pregnancy and lactation』は妊婦・授乳婦の胎児・乳児に与える影響について、生
殖試験から臨床データまで豊富な情報量でまとめられています。胎児の危険度について独
自に16種の分類をしています。これによって、概要がすぐにわかり、利用しやすい形を取
っています。
『実践妊娠と薬』には添付文書情報、動物生殖試験結果、ヒト妊婦服薬に関する症例報告
や疫学データがまとめられています。また、実際に相談に来た方約1万例の妊娠転帰が相
談事例として記載されています。国内でしか発売されてない薬剤については貴重な情報と
なります。
こういった書籍は、1冊手元に準備しておくと便利なだけでなく、他の情報源から得ら
れた情報を評価したり臨床的位置付けを決める際の座標軸にもなるのでお勧めです。
では、これらの情報源を活用した具体例に基づき解説しましょう。
32歳女性、ヘルペス治療のために、アシクロビル錠1日2,000mgを処方され5日間服薬後
に、妊娠が判明した事例です。処方医からは「大きな問題はなさそうだが、100%安全とも
言えない、今度どうするかは夫婦で相談するように」と指導され不安になった女性です。
服薬時期は妊娠30日目から34日目と胎児の重要な器官ができる時期でした。
まず、添付文書には「治療上の有益性が危険性を上回ること判断される場合にのみ投与
すること。
(動物実験(ラット)の妊娠10日目に、母動物に腎障害が現れる大量を皮下投与
した実験では、胎児に頭部及び尾の異常が認められたと報告されている。)
」と記載されて
います。
書籍『実践妊娠と薬』を参照すると、疫学調査の結果が得られます。
アシクロビルを服薬した妊婦の出産結果に関する大規模な疫学研究が行われています。
米国の報告では、器官形成期を含む妊娠初期に服薬した妊婦596例、デンマークの報告では
1,561例について調査されており、先天異常の発生率は非服薬群と比べ増加していなかった
と報告されています。
また、書籍からは、以下の米国産婦人科学会ガイドラインの情報も入手可能です。
「妊娠中の性器ヘルペス感染症が胎児および新生児のリスクとなるため、妊娠中の性器ヘ
ルペス感染症の管理としてアシクロビルによる治療が容認される」との情報で、投与量や
投与法が紹介されています。
このように、通常文献検索を行わないと入手できない情報を効率よく入手することがき
ます。また、今回の症例では根拠となる情報を患者さんに紹介することにより、患者さん
の不安を取り除き、安心した妊娠・出産を支援することが可能です。
●授乳婦情報源●
視点を変えて、授乳婦薬物療法の情報源についてお話します。
米国小児科学会は、2005年の雑誌Pediatricsにおいて、母乳保育を推奨しています。日本
小児科学会も学会誌で2007年に「若手医師に伝えたい母乳保育の話」と題した報告書で、
母乳保育のメリットを紹介しています。薬理作用や毒性のない程度の微量の母乳中薬物で
あれば母乳保育が可能と考える専門家の考え方を、まず前述の情報源で理解することが重
要です。母乳は乳児にとって最良の栄養源であり、免疫グロブリンや、ラクトフェリン等
を含んでおり、乳児を感染から守る作用があります。もちろん、スキンシップによる母児
の情緒形成などメリットを挙げればきりがありません。
この母乳保育のメリットを生かすために、母乳へ移行する薬物の量やその影響を評価す
ることが重要になります。そこで薬物母乳移行に関連した情報源を紹介します。ここでも
文献検索や、製薬企業情報が存在しますが、今回は割愛します。
今回、情報源として紹介するのは、書籍『Medication and Mothers'Milk』
(Hale Publishing)
と、米国国立医学図書館が提供しているインターネット情報「LactMed」
(http://toxnet.nlm.
nih.gov/cgi-bin/sis/htmlgen?LACT)です。
母乳を介して乳児に移行する薬物の量と影響を客観的に評価する指標として、最近では
RIDが使用されています。相対的乳児投与量あるいは率といって、母乳を介して乳児が1日
に摂取する体重当たりの薬物量を母体の体重当たりの1日薬物摂取量と比較した値です。
専門家の間では母体の治療量の10%未満であれば、授乳を考えてもよいと考えられていま
す。
これらの情報源を活用した具体例を紹介します。
逆流性食道炎の為、オメプラゾールを処方された産後4カ月の女性から、薬を服薬しな
がら授乳は可能かという相談です。
オペプラゾールの添付文書には動物実験で母乳中に移行することを理由に「授乳中の婦
人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合には、授乳を避けさせる
こと。
」と記載されています。
一方、薬理作用から考えますとプトロンポンプ阻害剤はプロドラッグとなっていて、胃
酸で分解されるのを防ぐため、腸溶性のコーティングが施されています。母乳を介して摂
取したオメプラゾールは吸収される前に児の胃で分解されると考えられます。
また、先ほどご紹介した専門書やLactmedではRIDは1%程度であること、実際に授乳を
行った症例が報告されており乳児に有害作用は認められなかったことが報告されています。
ここでは薬剤師と小児科医、産婦人科医が協議して、服薬しながらの授乳は十分に可能で
あることが指導できます。
以上、今回は妊婦授乳婦薬物情報源についてお話いたしました。
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