...

過期妊娠

by user

on
Category: Documents
29

views

Report

Comments

Transcript

過期妊娠
2008年 1 月
N―9
D.産科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Therapy and Management of Obstetrics Disease
6.異常妊娠
Abnormal Pregnancy
15)過期妊娠
過期妊娠(post-term pregnancy)
とは,妊娠満42週または満294日を超えた妊娠であ
る.現在,
“予定日超過”という用語は,欧米での“post date”同様,その定義が不明確
であるため使用されない.過期妊娠の頻度は,我が国で2∼3%前後,欧米では10%前後
といわれている1).
過期妊娠は正期産に比してハイリスクであることはよく知られており, 妊娠40週以降,
週数とともに胎児および母体の合併症は増加する.胎児死亡率は妊娠42週で正期産の2倍,
妊娠43週で6倍に増加するともいわれている1).
過期妊娠の原因
過期妊娠の第一の原因は,分娩予定日のずれである.定義どおりの最終月経開始日から
算出された分娩予定日は,妊婦の記憶のあいまいさ,排卵の遅れなどのため,正確でない
ことが多い.超音波診断による予定日の算出は,最終月経開始日からの算出より適切であ
るとされ,実際,過期妊娠と診断された症例で,超音波診断による予定日を算出した場合,
過期妊娠率は70%減少するとの報告もある1).不必要な医学的介入を避けるためにも,臨
床上,より正確な予定日の把握は必須であり,超音波検査による予定日の算出は重要であ
る.真の過期妊娠において,その原因として初産婦,過期妊娠の既往,無脳症,男児,遺
伝的背景等が指摘されているが,多くは原因不明である.
過期妊娠のリスク
表 D-6-15)
-1に示すように,過期妊娠では胎児,母体双方においてさまざまな合併症
が引き起こされる.過期妊娠に伴うリスクは巨大児と子宮内胎児発育不全(IUGR)
児の大
きく2つに分けて考えることができると思われる.巨大児分娩では,肩甲難産,遷延分娩,
児の整形外科学的・神経学的損傷,母体の難産道高度損傷,児頭骨盤不均衡,帝王切開の
必要性等が懸念される.過期妊娠に IUGR が合併した場合,IUGR がない場合に比し,児
の死亡率が飛躍的に増加すると報告されてい
る.胎盤機能不全を背景として,低酸素血症,
(表 D615)1) 過期妊娠における母
羊水過少,羊水混濁,胎便吸引症候群,等の
児のリスク
存在が児の予後を左右する因子として重要で
母体のリスク
胎児・新生児のリスク
ある.
帝王切開
胎児機能不全・死亡
過期妊娠の管理
児頭骨盤不均衡 新生児仮死・死亡
過期妊娠の管理法についてはさまざまな報
分娩異常
低酸素血症
告があり,一定の見解がいまだない.しかし
肩甲難産
羊水混濁・胎便吸引症候群
ながら,いずれの場合においても,真の分娩
分娩遷延
骨折
予定日の確認は管理上非常に重要である.妊
難産道損傷
末梢神経障害
娠12週までは頭殿長(CRL)
が,その以降は
分娩後出血
肺炎
児頭大横径(BPD)
が予定日の決定に適当で
感染
敗血症
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
N―10
日産婦誌60巻 1 号
(表 D615)2) 過期妊娠の管理
妊娠満40週以降
分娩予定日の確認
母児の状態の確認
患者へのインフォームドコンセント
誘発か?待機か?
分娩待機希望
分娩誘発希望
分娩誘発適応か否か
水量正常
Yes
胎児モニタリング
(胎動カウント,NST,羊水量等)
No
reassuring fetal status,羊
モニタリング継続
No
妊娠41週以降
頸管熟化を図りつつ
陣痛誘発
自然分娩
帝王切開術等考慮
あるとされる.妊娠20週までに予定日を決定した場合その誤差は7日前後であり,妊娠20
週から妊娠30週では14日前後,それ以降は21日前後であるとされ,妊娠週数が進むにつ
れ,誤差が大きくなるため,より早い週数での予定日の確認が望ましいと考えられる.
過期妊娠での胎児モニタリングとして,ノンストレステスト(NST)
,
biophysical profile
(BPP;NST,胎動,筋緊張,呼吸様運動,羊水量)
,modified BPP
(NST,羊水量)
,contraction stress test(CST)
,およびそれらの組み合わせが試みられているが,いずれの
方法がより適切であるか,いまだ結論はでていない.ACOG(The American College of
Obstetricians and Gynecologists)
では,妊娠週数に伴って胎児・新生児死亡が増加す
ることを考慮し,週に2回の頻度で,modified BPP を行うことが推奨している1).
分娩誘発を行うか,待機するかの選択は非常に難しい.さまざまな trial が行われてい
るが,一定の結論は出ていない2)3).最終的には患者へ十分な説明を行ったうえでいずれか
の方法を選択していくことになるだろう.ただし,頸管未熟例では誘発不成功による帝王
切開率が高くなるため,誘発前に十分に熟化させることが望ましいとされている.実際に
は週数に伴う児死亡率の増加等を考慮し,妊娠41週で分娩誘発を行っている施設が多い
ようである.
当科における過期妊娠の管理を表 D-6-15)
-2に示した.過期妊娠の管理については前
述のように一定の見解がなく,2004年 ACOG の recommendation も含め,施設ごとに
その管理法を工夫する必要がある.
《参考文献》
1.ACOG Practice Bulletin. Management of Postterm Pregnancy. Vol. 104, No3,
September 2004 ; 55 : 639―646
2.Crowley P. Interventions for preventing or improving the outcome of delivery at
or beyond term. Cochrane Database Syst Rev. 2000 ; CD000170
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
2008年 1 月
N―11
3.Heimstad R, Skogvoll E, Mattsson LA, et al. Induction of labor or serial antenatal fetal monitoring in postterm pregnancy. Obstet Gynecol 2007 ; 109 :
609―616
〈星合
香*,岡村 州博*〉
*
Kaori HOSHIAI, *Kunihiro OKAMURA
Department of Obstetrics and Gynecology, Tohoku University Graduate School of Medicine,
Sendai
Key words : post-term pregnancy
索引語:過期妊娠
*
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
Fly UP