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自給飼料の多収生産技術と 未利用資源の飼料化技術 - 農研機構

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自給飼料の多収生産技術と 未利用資源の飼料化技術 - 農研機構
平成 25 年度 革新的農業技術に関する研修
(革新的農業技術習得支援事業)
自給飼料の多収生産技術と
未利用資源の飼料化技術
平成 25 年 9 月 4~6 日
(独)農業・食品産業技術総合研究機構
畜産草地研究所
資料の取り扱いについて
本資料に掲載の研究成果等について、複写、転載および引用の際には、
原著者の了承を得た上で利用されたい。
研 修 日 程
9月4日(水)
13:00
集合・受付
13:15~13:45
13:45~14:35
開講式・説明
「自給飼料の収穫・調製技術」
生物系特定産業技術研究支援センター
畜産工学研究部
主任研究員
14:35~15:25
酪農研究領域
上席研究員
大下友子
「稲発酵粗飼料の長期安定貯蔵・流通技術」
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
上席研究員
16:25~17:15
保宏
「イアコーン等の収穫・調製・給与技術」
北海道農業研究センター
15:35~16:25
橘
浦川修司
「焼酎粕等を活用した発酵 TMR の調製・給与技術」
九州沖縄農業研究センター
畜産草地研究領域
主任研究員
服部育男
9月5日(木)
9:00~10:20
「未利用資源を材料とした発酵 TMR の調製・給与技術」
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
上席研究員
10:30~12:00
「エコフィードの飼料特性とそれを活用した乳牛向け飼料設計」
畜産草地研究所
家畜生理栄養研究領域
上席研究員
13:00~14:20
永西
修
「土地利用の高度化による飼料作物の安定多収栽培技術」
畜産草地研究所
飼料作物研究領域
上席研究員
14:30~17:30
野中和久
菅野
勉
「未利用資源を活用した発酵 TMR の調製(現地見学)
」
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
上席研究員
野中和久
9月6日(金)
9:15~11:45
総合討議
(座長)家畜飼養技術研究領域
領域長
11:45~12:00
閉講式
塩谷
繁
目 次
ページ
1.自給飼料の収穫・調製技術
・・・・・・・・・・・・・・・・・
2.イアコーン等の収穫・調製・給与技術
3.稲発酵粗飼料の長期安定貯蔵・流通技術
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
4.焼酎粕等を活用した発酵 TMR の調製・給与技術
・・・・・・・・
5.未利用資源を材料とした発酵 TMR の調製・給与技術
・・・・・・
6.エコフィードの飼料特性とそれを活用した乳牛向け飼料設計
7.土地利用の高度化による飼料作物の安定多収栽培技術
1
15
27
45
59
・・
79
・・・・・
85
自給飼料の収穫・調製技術
生物系特定産業技術研究支援センター
畜産工学研究部
飼料生産工学研究
橘
保宏
1.はじめに
輸入飼料価格の高騰が畜産経営を圧迫するなか、飼料の自給率向上が重要な課題となっ
ている。飼料自給率を高めるためには、粗飼料の安定的な生産が必要であるものの、酪農
家においては、飼養規模の拡大や高齢化による労働力不足が課題となっており、技術革新
による省力化と低コスト化に期待が寄せられている。また、酪農家の飼料生産を請け負う
コントラクターと毎日の飼料調製作業を肩代わりする TMR センターに注目が集まってい
る。
本稿では、農研機構生研センター(以下、生研センター)が、トウモロコシ生産を省力
化するために開発した細断型ロールベーラ、府県コントラクター向けに開発した汎用型飼
料収穫機、TMR センター向けに開発した可変径式 TMR 成形密封装置を中心に、粗飼料の
収穫調製用機械、発酵 TMR の調製用機械について紹介する。
2.粗飼料の収穫調製用機械
1)細断型ロールベーラ(トウモロコシの収穫調製用機械)
青刈りトウモロコシ(以下、トウモロコシ)は、栄養価が高く、濃厚飼料の一部を代替
えできるため、飼料自給率の向上に重要な作物であるものの、その作付面積は、平成 2 年
度の 12 万 6 千 ha をピークに減少を続けていた。その要因は、トウモロコシの収穫調製を
能率的に行うには人手が必要であり、重労働なサイロ詰めを伴うことであった。そこで、
生研センターでは、トウモロコシの収穫調製作業を省力化するため、府県の中規模酪農家
を主な対象として、株式会社 IHI スターと株式会社タカキタと共同で細断型ロールベーラ
(図 1)を開発した。細断型ロールベーラは、平成 16 年にメーカーから市販化され、平成
25 年 2 月現在 723 台が普及している。
(1)細断型ロールベーラの構造と仕様
細断型ロールベーラは、トラクタ PTO 軸で駆動するけん引式の作業機であり、フォレ
ージハーベスタで細断されたトウモロコシをホッパに受けロールベールに成形することが
できる。成形されたロールベールを自走式又はけん引式のベールラッパで密封することに
より、誰でも簡単にトウモロコシを高品質なサイレージに調製することができる。これま
で重労働であった人手によるサイロ詰め作業を必要としない。細断型ロールベーラは、成
形室の構造の違いからバーチェーン式とローラ式の 2 通りがある(図 2、3)。主要諸元を
表 1 に示す。
-1-
図1
図2
細断型ロールベーラ(左:バーチェーン式、右:ローラ式)
バーチェーン式の構造図
表1
図3
ローラ式の構造図
細断型ロールベーラの主要諸元
全
長
(mm)
バーチェーン式
(MR-810)
4,760
全
幅
(mm)
1,960
1,850
全
高
(mm)
2,860
2,850
質
量
(kg)
1,590
2,000
成形室寸法
(mm)
φ800×850
φ860×860
細断型ベーラ
3
ローラ式
(TSB0920)
4,950
ホッパ容量
(m )
2.0
1.7*
ネット幅
(mm)
1,200または1,000
1,060
所要動力
(kW)
15
20
*定置作業用は 2.2m3
-2-
(2)作業精度と作業能率
平均含水率 72%(65~81%)、設定切断長 8~11mm のトウモロコシをロール成形した
結果、放出時に生じたロスは平均 1.2%、密封時に生じたロスは 0.2%であった。ロールの
平均質量は 336kg(271~396kg)、平均乾物密度は 183kg/m3 であり含水率が低くなるほ
ど高くなった。この密度は、5~6mの縦型サイロの底部の密度に相当する。
作業能率は、①34a の圃場で、トラクタの横に 1 条刈りハーベスタを装着すると同時に
細断型ロールベーラを同じトラクタでけん引し PTO 駆動する形態(ワンマン作業)での
ロール成形作業では 15.9a/h、②20a の圃場で、2 条刈りハーベスタに併走した作業(伴走
作業)では 38.7a/h、③32a の圃場で、2 条刈ハーベスタをトラクタ後部に直装して後進収
穫するリバース作業を組み合わせた作業(定置作業)では 11.4a/h であった。いずれも、
慣行のサイロ詰め作業体系と収穫から成形・密封までの延べ労働時間を比較するとワンマ
ン作業では 44%、定置作業では半分に削減できることが分かった(細断型ロールベーラ利
用研究会 2008)。
(3)サイレージ品質
細断型ロールベーラでトウモロコシを調製したサイレージの発酵品質調査結果が多数報
告されている。野中ら(2005)は、約 100 個のロールベールを約 2~3 ヶ月貯蔵した後に
品質調査した結果、不良発酵の指標である酪酸含有が 0%で VBN/TN 比は 7%と低く良質
であり、品質の大きなばらつきは認められなかった。志藤ら(2005)が、貯蔵期間と土の
付着および高水分材料の発酵品質への影響を調べた結果、貯蔵 2~12 ヶ月間貯蔵後も発酵
品質は良好であり、土の付着した部分は乳酸が少なく酢酸量が多くなったものの不良発酵
とは認められなかった。また、水分含量が多く内部に排汁がたまっていた場合でも発酵品
質は良好であった。
(4)トウモロコシ以外の作物への適応性
①ソルガム
村上ら(2006)は、細断型ロールベーラによるソルガムの収穫調製技術への適応を試み、
収穫機械は、フレール式ハーベスタよりもコーンハーベスタが優れていること、ロール成
形後 24 時間以内に密封すれば発酵品質を確保できること、さらに、12 ヶ月の長期保管後
もカビの発生は見られなかったことを報告した。
②予乾牧草
志藤ら(2003)は、イタリアンライグラス、スーダングラスをディスクモアで刈取り予
乾した後に集草しフォレージハーベスタで収穫作業を行い、細断型ロールベーラで調製す
る体系とカッティング機構のない牧草用ロールベーラによる収穫調製体系と比較する試験
を行った。その結果、細断型ロールベーラによるベールの乾物密度は、イタリアンライグ
ラスで平均 175kg/m3、スーダングラスで平均 163kg/m3 となり、牧草用ロールベーラによ
るベールの 1.7~2.1 倍に高まった。
③飼料イネ
喜田ら(2005)は、細断型ロールべーラを利用してフォレージハーベスタで細断収穫さ
れた飼料イネを成形密封することが可能であること、このときの乾物密度は 200kg/m3、
現物密度は 500kg/m3 で飼料イネ専用収穫機(Y 社製フレールタイプ)のロールベールに
比べ現物比 1.5 倍の高密度であり、良好な発酵品質が得られることを報告した。
-3-
2)汎用型飼料収穫機(トウモロコシ、飼料イネ、牧草の収穫調製用機械)
(1)開発の背景、目的
農林水産省(2012)によれば、全国のコントラクター数は平成 21 年に 525 組織となり
全国の飼料収穫面積の 1 割以上をコントラクターが担うまでに増加している。しかし、北
海道や九州などの大規模生産地が 3 分の 2 以上を占め、都府県ではその普及が伸び悩んで
いる。その理由は、圃場が狭小で分散しており、地盤が軟弱な水田や転作田が多いため、
大型機械による効率的な作業を難しくしていること、さまざまな飼料作物の収穫調製を請
け負う場合は、作物毎に異なる専用の機械を揃えなければならず機械費が大きな負担にな
ることが上げられる。
そこで、生研センターは、株式会社タカキタおよび株式会社ヤンマーと共同で、狭く小
さな圃場や軟弱な圃場に強く、1 台でトウモロコシ、飼料イネ、牧草などの飼料作物を収
穫、細断、ロール成形できる汎用型飼料収穫機を開発した。汎用型飼料収穫機は、平成 21
年 7 月に市販化され、平成 25 年 6 月現在 52 台が普及している。
(2)主な特徴
汎用型飼料収穫機の概念図を図 4、主要諸元を表 2 に示す。汎用型飼料収穫機は、走行
部にホッパと細断型ロールベーラの成形室を搭載し、機体前方に収穫部を装備している。
走行部はゴムクローラ式を採用し、その場での旋回もできるので進入路が狭い圃場や小さ
な圃場でも小回りを効かせた作業が可能である。また、接地圧が小さいのでトラクタが入
れない軟弱な圃場でも作業ができる。収穫部は、フォレージハーベスタとアタッチメント
で構成され、アタッチメントはトウモロコシ用、飼料イネ用、予乾牧草用の 3 種類がある。
フォレージハーベスタは、ユニット型シリンダ式カッタヘッドを搭載し切断長を 1cm 又は
3cm に設定できる。成形室は、幅 85cm、直径 1mであり、特殊バーチェーン方式を採用
している。また、ホッパに細断した材料を一時貯留することができるので、ネット結束中
およびロール放出中も停止することなく収穫作業を継続することができる。
図4
汎用型飼料収穫機の概念図
-4-
表2
機体の
大きさ
収穫部
ホッパ
成形室
走行部
全 長
(mm)
全 幅
(mm)
全 高*
(mm)
重 量
(kg)
細断方式
アタッチメント種類
作業幅
(mm)
容 量
(m3)
形 式
直径×内幅 (mm)
形 式
接地圧
(kPa)
機関出力
汎用型飼料収穫機の主要諸元
トウモロコシ収穫時
6,500
2,000
3,460
4,990
ロークロップ式
1,500(2条刈)
26.4
飼料イネ収穫時
6,810
2,340
3,460
5,220
ユニット型シリンダ式
リール式
2,060(6条刈)
1
特殊バーチェーン式
φ1,000×850
クローラ式
27.6
(kW)
予乾牧草収穫時
6,180
2,000
3,460
4,920
ピックアップ式
1,600
26.0
72.1(98PS)
*全高は作業時の寸法
(3)汎用型飼料収穫機による作物別収穫調製作業
① トウモロコシ
トウモロコシの収穫作業風景を図 5 に示す。
トウモロコシ用収穫アタッチメントは、2 条
刈りのロークロップ式であり枕地処理も中割
もできる。牛の食べ残しを減らしロールベー
ルの密度を上げ、サイレージ品質を高めるた
め、切断長は 1cm に設定する。
作業能率は、圃場面積が 30a 程度であれば
30~40a/h であった。圃場面積が同じでも収
量が多い場合や圃場の形状が不整形な場合は、
圃場作業量は低下する。ロールベールの重さ
図5
トウモロコシの収穫作業風景
は、含水率 68~77%の条件では約 480kg と
なった。ソルガムも条間 75cm 程度で播種することによってトウモロコシ用アタッチメン
トで収穫できた。ロール放出時のこぼれによるロスは 1%以内であった(飼料イネ、牧草
収穫時も同様に放出時ロスは 1%以内)。
② 飼料イネ
飼料イネの収穫作業風景を図 6 に示す。汎
用型飼料収穫機による飼料イネの収穫では、
汎用コンバインで採用されているリール式の
飼料イネ用アタッチメントを装着する。作業
幅は 2m で枕地処理も中割作業も可能である。
切断長は、乳牛の採食量を確保しつつ未消化
籾の排せつ量を低減できる長さとして 3cm
(新出ら 2008)に設定する。
作業能率は、
乾物収量 0.8t/10a、面積 25a の圃場で 29a/h、
-5-
図6
飼料イネの収穫作業風景
5a 前後の圃場でも 11a/h であった。人が何とか歩ける程度の軟弱圃場でも作業は可能であ
る。長稈品種も草丈が 160cm 程度までなら収穫できる。ただし、倒伏した圃場では、アタ
ッチメントや収穫部での詰まりを避けるため速度を落とし、株元側から追い刈りを行う。
逆に穂先からアタッチメント内に入る収穫方法を行うと草丈が長い場合は、株元を切断す
る前に穂先が収穫部に引き込まれるため、株を根本から引き抜き土を混入させてしまうこ
とになる。ロールベールの重さは、含水率 58~72%の条件では平均 328kg であった(橘
ら 2011a)。
③ 予乾牧草
予乾牧草の収穫作業風景を図 7 に示す。予乾牧草用アタッチメントは、タインで集草列
を拾い上げるピックアップ式である。集草列を作るまでの刈り取り、転草、集草作業は、
従来の予乾牧草収穫用機械(ディスクモア、モアコンディショナ、テッダ・レーキなど)
を利用する。切断長は、飼料イネと同様 3cm に設定する。予乾牧草は、トウモロコシや飼
料イネのような立毛状態で直接収穫する作物よりも含水率の経時的変化が大きく、転草や
集草作業の巧拙による含水率のムラが生じやすい。汎用型飼料収穫機の性能は、こうした
影響を強く受けるので圃場面積の大小だけで圃場作業量を推定するのは困難なため、毎時
乾物処理量で作業能率を判断する。集草列含水率が 60%以下の条件では毎時乾物処理量は
約 5t/h であるが、集草列含水率が 70%を超えると毎時乾物処理量は 3t/h 以下と著しく低
下する(図 8)(橘ら 2011b)。一般に含水率 70%以上の牧草サイレージは、密封後のラッ
プサイロ内に汁液が溜まり牛の嗜好性を低下させる上、汁液の廃棄による栄養ロスが大き
い。作業能率の低下を抑え飼料の栄養価を確保するためにも、集草列の含水率は 50~60%
程度に予乾させた後に作業することが望ましい。
ベールの放出時損失率は平均 0.9%(0.6-1.4%)、ロールベールの重さは、含水率 50~
60%の条件では平均 390kg であった。石の多い草地での作業は、収穫部の切断刃を破損す
る危険があり、8°以上の傾斜地での作業も安全上避けることが望ましい。また、クローラ
式であるため旋回時に草をはがす恐れがあるので、永年草地には不向きであり転換畑の裏
作での牧草を主に対象としている。
8.0
毎時乾物処理量(t/h)
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
45
図7
予乾牧草の収穫作業風景
図8
-6-
50
55
60
65
70
集草列含水率(%)
75
集草列含水率と毎時乾物処理量の関係
80
(4)サイレージ品質
成形されたロールベールの平均乾物密度は、トウモロコシで 197kg/m3、飼料イネで
168kg/m3、予乾牧草で 232kg/m3 で高い品質のまま長期間保存できる。各飼料作物のサイ
レージ発酵品質の例を表 3 に示す。なお、いずれのサイレージも乳酸菌等の添加物は使用
しなかった。
表3
汎用型飼料収穫機で収穫調製したトウモロコシ、飼料イネおよび牧草の
サイレージ発酵品質の例
含水率
(%)
pH
トウモロコシ*1
74
飼料イネ*2
イタリアン
ライグラス*3
現物割合(FM%)
VBN/TN
V-score
乳酸
酢酸
酪酸
(%)
3.84
1.55
0.31
0.00
9.4
90
59
4.01
1.16
0.26
0.00
1.96
100
54
5.09
1.31
0.26
0.00
8.00
94
*1:調製 4 ヵ月後の発酵品質、*2:調製 12 ヵ月後の発酵品質、*3:調製 7 ヵ月後の発酵品質.
3.発酵 TMR の調製用機械
1)発酵 TMR について
酪農家の労働力不足を解決し経営の効率化を図る手段として、飼料混合等餌作り作業の
外部化が進んでいる。TMR(完全混合飼料)を畜産経営に供給する TMR センターは、飼
料生産労働力不足への対応や良質飼料の供給を推進する上で重要である。平成 15 年は 32
組織であった TMR センターは、平成 21 年には 93 組織に拡大している(農林水産省 2012)。
TMR の中でも発酵 TMR は、フレッシュタイプに比べて作り置きが利くため、運搬距離
が長い酪農家への配送回数を減らすことができ、エコフィード等食品副産物の利用がしや
すい。また、開封後に品質が低下しにくく、ドライタイプに比べて嗜好性や採食性に優れ
るなどの特徴を持つため、今後の普及拡大が期待されている。
2)フレコンバッグと細断型ロールベーラの利用
発酵 TMR は、フレコンバッグによる梱
包(図 9)が一般的であるが、フレコンバ
ッグを利用する場合は、袋詰め作業に 2~3
名の人員が必要であり、梱包密度が低いた
め夏場にはカビの発生が見られるなど品質
面でも課題がある。
その対策として、発酵 TMR の調製に細
断型ロールベーラを利用することによって、
発酵 TMR の高品質化、大幅な省力化、貯
蔵性の改善が確認されつつある。これまで
に、乾物密度 350kg/m3 と高密度にロール
図9
フレコンバッグ詰め作業
成形でき、長期保存しても品質は安定して
いること(福井ら 2007)、発酵 TMR は開封後の好気的変敗が抑制されること(平岡ら 2006)、
-7-
調製にかかる延べ労働時間は大幅に削減されること(増田ら 2007)、調製後の発酵ガスに
よるベールの膨張、変型はごく僅かで 2 段積みによる貯蔵も可能であること(増田ら 2009)
が報告されている。最近では、細断型ロールベーラとベールラッパが一体化し、成形から
密封まで自動運転が可能なモデルも登場してきており(図 10)、既にいくつかの TMR セ
ンターで導入が進んでいる。しかし、細断型ロールベーラの成形室は定径であるため、質
量・大きさが違う発酵ロール TMR を品揃えするためには、成形室の大きさが異なる複数
の細断型ロールベーラを導入する必要がある。また、成形室が満量になった時点で材料供
給を止める方式であるため、ロールを目標質量(400kg、500kg など)に合わせることが
難しい。さらに、TMR 材料の組成や水分の違いによって圧密成形後の密度が異なるため、
同じ質量に合わせようとすると成形室に入りきれない場合や、満量にするための材料が足
りずに梱包密度が低下する場合が起こり得る。これを解決するために、材料投入後に上か
らピストンで圧縮する方式の圧縮梱包機や材料を角形に成形梱包する角形梱包機があるが、
数千万円の設備投資が必要なことが課題となっている。今後、TMR センターが経営の安
定化を図るためには顧客の拡大が重要なポイントとなり、酪農家の頭数規模や泌乳牛、乾
乳牛、育成牛等のメニューの違いなどのニーズに即した餌作りへの対応が必要になると予
想される。
図 10 ベールラッパ一体式細断型ロールベーラ
(左:I 社製・直径 1m×幅 1m、中:T社製・直径 1.15m×幅 1m、右:T社製・直径 1m×幅 0.85m)
3)可変径式 TMR 成形密封装置
このため、生研センターでは、株式会社 IHI スターと共同で、TMR を直径が異なるロ
ールベールに成形密封できる可変径式 TMR 成形密封装置を開発し、平成 25 年度中の市販
化が予定されている。
可変径式 TMR 成形密封装置は、荷受部、可変径式成形部、密封部などから構成される
(図 11、表4)。可変径式成形部の成形室(幅 0.86m)は、幅広ベルト可変径式で、ベー
ルの直径を 0.85~1.1m の範囲で成形でき、37kW 以上のトラクタ PTO または電動モータ
で駆動する。荷受部に投入された TMR を、コンベア等によって成形室に供給し成形室内
で TMR はロール状に成形する。成形室内のベールが設定した大きさになると供給を停止
しネット結束した上で、成形室から排出後にラップフィルムによる密封を自動で行う。成
形中に還元部に落ちた「こぼれ」は成形室に再供給される。
-8-
荷受部
可変径式
ネット装置
密封部
成形部
還元部
図 11 可変径式 TMR 成形密封装置の概要
表4 可変径式TMR成形密封装置の主要諸元
項目
内容
機体全長(m)
9.0
機体全幅(m)
3.3(移動時 2.4)
機体全高(m)
3.0
機体質量(kg)
4,600
荷受部容量(m3)
3.5
成形室
幅広ベルト可変径式
成形室幅(m)
0.86
成形室直径可変範囲(m)
0.85~1.1
結束方式(ネット装置)
ネット
(巻き数自動調節機能付き)
密封方式(密封部)
ラップフィルム
(可変径対応、上アームダブルストレッチ)
適応トラクタ・モータ
(kW)
37以上
-9-
最大径
最小径
(1.1m)
(0.85m)
図 12 試作機で梱包したロールベール
4)可変径式 TMR 成形密封装置の性能
材料内訳や含水率が異なる TMR(表 5)を、最小径ベールと最大径ベールのベール質量
比で 1.7~2.0 倍、乾物密度は 300kg/m3(粗飼料主体のものは 200kg/m3)以上のベールに
成形密封できた(図 12、表 6)。毎時処理量は 8~18t/h 程度で、成形から密封までのこぼ
れによる損失割合は 1%以下であった。質量設定は、対象 TMR の最小径から最大径の質量
範囲内で設定でき、設定値に対する質量の差は±10kg 程度であった。ベールに調製し、密
封した TMR(2010 年 8 月~11 月に調製)を 2 ヵ月後に品質調査したところ、カビの発生
は認められず嗜好性も良好であった。
表5 供試 TMR
供試
TMR
対象牛
材料内訳
(乾物%)
粗飼料
濃厚飼料
含水率
(%)
平均
パーティクル
サイズ
(mm)
※
A
泌乳牛
40
60
56.2
7.3
B
乾乳牛
65
35
69.1
10.0
C
肉用牛
20
80
44.3
6.8
D
乾乳牛
63
37
35.7
6.5
E
泌乳牛
30
70
33.3
5.5
F
泌乳牛
30
70
46.7
6.1
G
泌乳牛
30
70
54.4
6.5
※:濃厚飼料にはミネラル等の添加剤を含めた。
-10-
表6 成形試験結果(n=3)
供試
TMR
ベール直径
範囲(m)
最小~最大
ベール質量
範囲(kg)
最小~最大
ベール
質量比
(最大/最
小)
乾物密度
(kg/m3)
A
0.86~1.12
361~686
1.90
311~350
B
0.86~1.10
352~638
1.81
206~238
C
0.87~1.10
352~704
2.00
388~474
D※
0.91~1.14
258~474
1.84
296~348
E
0.87~1.13
324~559
1.73
424~438
F
0.88~1.12
364~642
1.76
373~401
G
0.87~1.11
434~739
1.70
385~401
損失割
合
(%)
0.3~
0.6
0.3~
0.4
0.3~
0.5
0.4~
0.6
0.7~
0.9
0.4~
0.5
0.3
毎時処理量
(t/h)
13.9~17.7
11.3~13.5
12.7~14.6
8.1~8.3
12.0~13.1
15.4~16.7
11.8~14.9
※:Dの最大径の試験回数は1回。
5)食品製造副産物などへの対応
TMR センターでは、季節性の高い食品製造副産物などを通年で利用するため、これら
の梱包への要望が寄せられた。そこで、開発機の適応性を拡大するため、食品製造副産物
を成形するための条件を検討し、さらにサイレージの再梱包やイアコーンの成形を行い、
適応性拡大試験を行った。
表7 食品製造副産物と乾草の混合割合とロス等の関係(n=1)
供試した
食品製造
副産物の種類
デンプン粕
乾草
混入量
(%)
含水率
(%)
平均
パーティ
クルサイ
ズ
(mm)
5
77.4*2
7
*2
*2
76.1
10
ニンジン粕
脱水ビール粕
74.2
ロス率(%)
梱包質量
(kg)
乾物密度
(kg/m3)
処理量
(t/h)
小径
中径
大径
-
×
×
0.1
759
214
-
-
×
0.3
0.1
432~805
223~249
-
-
0.1
-
0.1
424~752
224~243
8.1~11.2
2
57.3
4.5
×
×
×
779
438
-
5
56.0
4.9
×
1.9
0.4
381~762
375~457
10
53.9
4.7
0.3
0.3
0.1
379~608
364~397
52.0
3.7
×
×
2.0
533
326
15.7~
17.7
10.4
3.9
×
×
0.6
300~647
256~332
12.9
20
18.5
*1
55.7
*2
注:混合した乾草は、デンプン粕とニンジン粕はチモシー、脱水ビール粕はオーツヘイとした。
直径90cm未満を小径、90~100cmを中径、100cm以上を大径とした。
×はロスが3%以上であることを示す。
*1は水を追加混合したため相対的に乾草の混合割合が減少した。
*2 は各材料の含水率と質量から求めた計算値であり、他は実測値である。
-11-
適応性拡大試験では、TMR ミキサーで食品製造副産物に乾草を 2~10%混合調製した材
料と、粗飼料の単味材料およびセミコンを使用し、小径(90cm 未満)、中径(90~100cm)、
大径(100cm 以上)をそれぞれ1個ずつ梱包した(表 7)。この試験により、デンプン粕
やニンジン粕を、安定して梱包するためには 10%の乾草を混合する必要があることがわか
った。乾草が 2~7%と少ない場合は、放出後ベールの円形状が自重で縦につぶれ、密封部
での作業に支障があった。いずれの材料も、大径のときにこぼれによる損失が最も少なか
った。脱水ビール粕は、20%の乾草を入れた場合、大径のみで成形が可能であった。また、
水を加えて含水率を高めることで損失が少なくなった。なお、乾物密度は、すべてのベー
ルで 200kg/m3 以上であった。損失が少なく円滑な梱包が可能な場合の毎時処理量は 8~
18t/h であった(表 7)。
グラスサイレージの再梱包は、直径の大小に
かかわらず可能であった。イアコーンは、大径
のときのみ損失が小さく梱包が可能であり(図
13)、毎時処理量は 16~19t/h であった。セミ
コン A は、直径の大小にかかわらず良好な成形
であったが、セミコン B は、ロスが大きく円滑
な梱包が困難であった(表 8)。乾物密度は、グ
ラスサイレージの再梱包で 160~180kg/m3
図 13 イアコーン単味の大径ベール
と、細断型ロールベーラによる場合とほぼ同
等の値であった。なお、梱包状態は,成形の可否も含めて材料の性状によって異なるため、
TMR と同様にそれぞれの材料で試行する必要がある。
表8 グラスサイレージ、イアコーン単味及びセミコンの成形試験結果
平均パー
供試した飼料単味の
含水率
ティクル
ロス率(%)
梱包質量
乾物密度
処理量
(t/h)
サイズ
種類
(%)
(mm)
小径
中径
大径
(kg)
(kg/m3)
80.6
19.4
1.1
-
0.7
387~747
160~181
29.8
5.3
×
×
0.9
216~498
319~448
16.9
56.6
-
0.4
0.4
0.3
208~410
211~257
6.1~7.9
42.3
3.6
×
×
×
687
499
-
バンカーサイロ内
グラスサイレージ
(再梱包)(n=3)
16.4~
18.8
イアコーン(n=3)
(サイレージ調製のた
めの梱包)
A(粗濃比
セミコン
55:45)n=3
B(粗農比
○:○)n=1
注:セミコン A の濃厚飼料と粗飼料の主成分は、ポテトピール及びチモシー、B は脱水ビール粕とオーツ
ヘイであった。
-12-
4.粗飼料含水率の簡易測定技術(開発中)
乳牛等大家畜の飼養管理や粗飼料の流通促進を図る上で、粗飼料の乾物質量の把握が重
要である。しかし現状では、中高水分域(30~80%)の粗飼料を簡易に測定できる含水率
計がないため、産現場で簡易に含水率を測定する方法が求められている。そこで生研セン
ターでは、粗飼料の収穫調製時や給餌等の際に、短時間で中高水分域の粗飼料の含水率を
測定する技術を開発している。
5.さいごに
平成 22 年 3 月閣議決定された「新たな食料・農業・農村基本計画」では、10 年後の飼
料自給率の目標を 38%(平成 22 年 26%)としている(農林水産省 2010a)。これを受け
て同年 7 月に発表された「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」では、畜
産経営の労働負担の軽減と自給飼料の生産性向上のため、コントラクターや TMR センタ
ー等の飼料生産支援組織への飼料生産の外部化を一層推進することが重要であるとしてい
る(農林水産省 2010b)。TMR センター向けに開発中の可変径式 TMR 成形密封装置の実
用化を急ぐとともに、引き続き自給飼料生産調製用機械の技術革新に取り組んでいきたい
と考えている。
6.参考文献
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[2010 年 6 月 14 日参照]
平岡啓司、山本泰也、乾清人、浦川修司(2006)細断型ロールベーラを用いれば高品質発
酵 TMR が調製できる.関東・東海・北陸農業研究成果情報.http://narc.naro.affrc.go.jp
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[2010 年 6 月 14 日参照]
喜田環樹・松尾守展・重田一人・守谷直子・蔡義民・吉田宣夫・山井英喜・畑原昌明・設
楽秀幸(2005)細断型ロールベーラによる飼料イネの高密度成型.畜産草地研究成果
情報,http://www.affrc.go.jp/ja/research/seika/data_nilgs/h17/ch05002[2009 年 7
月 7 日参照]
増田隆晴・平久保友美・越川志津(2007)細断型ロールベーラを活用した発酵 TMR 調製
技術.日草誌 53(別):314-315
増田隆晴・平久保友美・越川志津・川出哲生・橘保宏・志藤博克(2009)可変径式細断物
成形機構により調製された発酵 TMR における発酵ガスの滞留並びに貯蔵性.日草誌
55(別):173
村上恭彦・家木 一・竹中尚徳・山田牧子・志藤博克・高橋仁康(2006)細断型ロールベ
ーラによるソルガムの収穫調製技術と発酵品質の検討.日本草地学会誌 52(別 2):
92-93
野中和久・青木康浩・小林良治・張 建国・山田明央(2005)トウモロコシ細断型ロール
ベールサイレージの貯蔵ロスと品質のばらつき.日草誌 51(別):138-139
農林水産省(2009)食料自給率向上への取組と TMR センターの位置づけ.平成 21 年度自
-13-
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農林水産省(2010a)食料・農業・農村基本計画.農林水産省.http://www.maff.go.jp/j/
keikaku /k_aratana/pdf/kihon_keikaku_22.pdf[2010 年7月 20 日参照]
農林水産省(2010b)酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針.農林水産省.
http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/tikusan/pdf/sheet1.pdf[2010 年7月 20 日参
照]
農林水産省(2012)自給飼料をめぐる情勢.http://souchi.lin.gr.jp/contractor/kenshu/kaigi/
pdf/h23con04meguru.pdf[2013 年 7 月 24 日参照]
細断型ロールベーラ利用研究会(2008)細断型ロールベーラ利用マニュアル(山名伸樹監
修)細断型ロールベーラ利用研究会事務局.農研機構生研センター:13-18
新出昭吾・園田あずさ・岩水 正(2008)飼料イネホールクロップサイレージにおける切
断長と給与子実形状の違いが乳牛の乳生産に及ぼす影響.広島総技研畜技セ研報 15:
15-22
志藤博克・山名伸樹(2003)試作細断型ロールベーラの牧草収穫調製への試用.日草誌,
49(5):514-515
志藤博克・高橋仁康・澁谷幸憲・山名伸樹(2005)細断型ロールベーラで調製したサイレ
ージの発酵品質.日草誌 51(1):87-92
橘
保宏・志藤博克・川出哲生・高橋仁康・岡島
弘・北中敬久・正田幹彦・古田東司・
和田俊郎・安藤和登(2011a)汎用型飼料収穫機の飼料イネ収穫機能の開発.日草誌
57(1):21-26
橘
保宏・志藤博克・川出哲生・高橋仁康・岡島
弘・北中敬久・正田幹彦・古田東司・
和田俊郎・安藤和登(2011b)汎用型飼料収穫機の予乾牧草収穫機能の開発.日草誌
57(1):27-33
-14-
イアコーン等の収穫・調製・給与技術
北海道農業研究センター
酪農研究領域
大下
友子
1.はじめに
昨今の急激な円安もあり配合飼料価格は過去最高を記録し、畜産経営を取り巻く状況は
一層厳しさを増している。今後の配合飼料価格がどのように推移するかは、不透明な状況
ではあるが、輸入穀物を安価でかつ安定的に入手するのは、かなり困難と予想される。こ
のため、わが国の畜産を今後も持続的に発展させていくには、現在、海外依存割合の高い
輸入濃厚飼料の代替となる自給飼料の生産体制を作り上げる必要がある。輸入穀物への依
存度を減らす方策としては、自給粗飼料の品質を高めることや輸入穀物の代替となる濃厚
飼料資源を自給生産することが有効と考えられる。
C4 植物である(飼料用)トウモロコシは、ホールクロップ、子実のいずれにおいても圃
場生産性が高く、その効率的活用は購入飼料費の削減につながると期待され、道内では栽
培面積が 4 万 ha まで回復した。飼料用トウモロコシ利用が改めて見直された理由としては、
大型機械+バンカーサイロの大量調製貯蔵技術や細断型ロールベーラを利用した省力的調
製技術の普及が進みつつあること、飼料調製をコントラクター等の外部支援組織が担う体
制が整いつつあること、今まで栽培できないとされてきた地域向けの極早生品種が開発さ
れたこと等があげられる。本研修では、飼料用トウモロコシを効率的に生産利用するため
に、トウモロコシの有する飼料特性を整理し、1)粗飼料としてホールクロップサイレージ
利用する場合、2)濃厚飼料として雌穂(イアコーン)を利用する場合に分け、各利用目的
に応じた収穫調製給与技術について紹介する。
2.飼料用トウモロコシの生育時期別飼料特成分の変動
飼料用トウモロコシは、繊維含
表1 黄熟期刈りトウモロコシ各部位の成分
量の高い茎・葉・芯・穂皮と繊維
乾物
(DM)
含量の低い子実から構成され(表
1)、その各部位別の構成割合は、
トウモロコシ
ホールクロップ
粗タンパク質(CP)
NDF
28.7
8.6
36.2
品種、収穫時期によって異なるが、
茎
17.9
4.8
59.4
ホールクロップサイレージの収穫
葉
穂皮
19.5
18.9
15.0
4.8
56.3
72.3
適期とされている黄熟後期では、
柄
15.4
2.9
46.1
子実割合が 4-5 割となる。図 1
芯
子実
43.1
53.1
2.5
9.3
82.4
12.5
12.8
に収穫時期別の部位別の生産量を
圧片トウモロコシ
87.1
9.0
示したが、この図からトウモロコ
チモシーサイレージ
25.0
12.0
65.0
アルファルファサイレージ
40.0
18.0
45.0
シでは、絹糸抽出期以降、茎葉の
生産量はほぼ一定で、乳熟期以降
*チモシーサイレージは穂ばらみ~出 穂期 刈り
*アルファルファサ イレージは着蕾後期刈り
*NDF=中性デタージ ェント繊維
急速に雌穂の生産量が増加することがわかる。子実の乾物率の上昇に伴い、ホールクロッ
-15-
プの乾物率は水熟期で 20%以
gDM/本
下であったものが黄熟後期には
300
30%を超えるようになり、また、
250
生育に伴い子実にでんぷんが蓄
200
積され、ホールクロップの繊維
雌穂
穂皮
穂柄
葉
茎
150
含量は相対的に低下する。この
ように、飼料用トウモロコシの
100
ホールクロップサイレージは熟
50
期が進むにつれ、粗飼料と濃厚
0
絹糸抽出
飼料の両方の性格を持つ飼料と
乳熟期
糊熟期
黄熟期
黄熟後期
図1 生育時期別各部位の乾物生産量の変化
なる。
3.ホールクロップサイレージ利用における収穫調製給与技術
1)収穫適期
現在、わが国で栽培されてい
る飼料用トウモロコシはそのほ
とんどがホールクロップサイレ
乾物回収率(%)
105
ージとして利用されている。飼
料用トウモロコシはいずれの時
期においても糖含量が高いため、
ダイレクトカットで調製しても
100
100
95.4
95
90
90.6
87.7
85
80
pH が低く、良質なサイレージを
乳熟期
調製することができるが、乾物
糊熟期
黄熟初期 黄熟後期
図2 黄熟後期を100とした時の収穫期別乾物回収率
率が低いものほど、より多くの
排汁が発生する。未熟なトウモ
110
以上が排汁として流出してしま
100
い、乾物回収率は黄熟後期を
100 とすると乳熟期から黄熟初
期までの乾物回収率は約 1 割減
少する(図 2)。養分回収率を
見ると、粗タンパク質では黄熟
後期を 100 とした場合、乳熟期
で 73、糊熟期で 84、完熟期で
養分回収率(%)
ロコシでは、詰め込み量の 1 割
100
93
84 86
90
80
100
95
85
78
73
70
60
92
乳熟
糊熟
黄熟初
黄熟後
完熟
50
40
粗タンパク質
可消化養分
図3 収穫時期別トウモロコシサイレージの養分回収割合
図3
収穫時期別トウモロコシサイレージの養分回収率
95 となり、また、可消化養分
(TDN)含量は黄熟後期を 100
とすれば、乳熟期で 78、糊熟期で 85、完熟期で 92 となる。このように、乾物で 1 割程度
の損失であっても、消化性の高い成分の損失が多いため、可消化養分の損失は 2-3 割にも
達することになる(図 3)。
-16-
表2に、乾物率の高いサイレージ
表2 品種の早晩性がサイレージ収量、乳生産量に及ぼす影響
が、低いサイレージよりも泌乳牛の
採食性が高く、濃厚飼料給与量を低
減できることを示した(大下ら
20
品種
早生
中生
ほ場面積あたりの原物収量(ton/ha)
57.57
70.68
乾物率
28.0
25.1
1.66
7.69
サイレージの原物収量 (ton /ha)
56.61
65.24
の理由から原物収量が少ない早生品
サイレージの乾物収量(ton DM/ha)
15.45
15.98
種よりも登熟の遅い中生あるいは晩
泌乳牛の摂取量(kg/頭)
10.1
9.1
濃厚飼料給与量(kg/頭)
10.4
11.0
生タイプの品種を選ぶ場合もあるか
4%FCM乳量(kg)
41.1
41.6
と思うが、登熟に達することがサイ
乳脂肪率(%)
07)。原物収量(がさ)が欲しいと
排汁割合(%)
3.73
3.76
(大下ら 2007)
レージ生産量から、また泌乳牛の採
食性からも有利と言える。
2)大量調製貯蔵技術
現在、北海道では、コントラクター組織や TMR センター等の外部支援組織が飼料調製
作業の主要な担い手となっている。これらの組織では、自走式フォレージハーベスタ(写
真 1)等の大型機械を有し、圃場か
らダンプカーで原材料草を運搬し、
大型バンカーサイロにショベルやロ
ーダーで鎮圧作業を行う作業体系が
一般的である。近年普及が進んでき
た技術として、トウモロコシサイレ
ージの破砕処理技術があげられる。
破砕処理は、自走式フォレージハー
(左) イアコーン用
ベスタで細切した原材料をクラッシ
ャーと呼ばれる装置ですり潰す処理
のことである。すり潰しの程度はク
(右)ホールクロップ用
写真1 とうもろこし収穫用アタッチメントを取り
付けた自走式フォレージハーベスタ
ラッシャーのローラ幅で加減でき、
用時の切断長は、破砕処理なしのハ
ーベスタで推奨されている 9mm の
切断長よりも長い 16-19mm が適当
とされている(谷川ら 2008)。
破砕処理を行うメリットとして、
①堅い芯や茎が潰され、選び食いを
なくし残飼が減ることや、②未消化
65
バンクライフ
(発熱までの時間)
-5mm 程度である。クラッシャー利
密度
変敗までの時間
60
600
550
55
500
50
450
45
40
密度(kg原物/m3)
現在、利用されているローラ幅は、3
400
あり
なし
破砕処理
図4 破砕処理の有無がトウモロコシサイレージの密度と
バンクライフにおよぼす影響(Johnsonら 2003)
子実の割合が減少することが確認さ
れており、また、サイレージの詰め込み密度が高まり、開封後の好気的変敗が起こりにく
くなる事も報告されている(図 4)
。ただし、破砕処理をしたホールクロップサイレージに
含まれるでんぷんは、圧片トウモロコシに比べ、より速く第一胃内で消化される特徴があ
-17-
るので、ルーメンアシドーシスにならないような飼養管理を行う必要がある。
3)開封後の変敗対策
バンカーサイロ等の水平型サイロで
50
は、詰め込み密度が低くなると、開封
壁面や角で密度
が低くなりやすい
45
温度(℃)
温度( ℃)
後の好気的変敗が起こるリスクが高ま
ることが知られている。図 5 に示した
ように、密度が低い部位ほどサイレー
ジの品温が高く、密度が低くなりやす
40
35
30
25
い壁面付近の踏圧を十分に行うことが
20
400
変敗防止の第一歩である。また、トウ
モロコシホールクロップサイレージは、
500
600
700
密度( ㎏/m3)
800
900
図5 サイレージの品温と詰め込み密度との関係
(北農研 1994)
開封後の変敗が起こりやすく、これに
対する対策が求められている。最近の
サイレージ添加剤に関する研究から、
表3 ヘテロ型乳酸菌添加の影響(Kungら、2003)
ヘテロ型発酵を行う乳酸菌の変敗防止
効果が明らかになっている(表 3)
。ヘ
テロ型乳酸菌(L.Buchnrei)を添加する
と、乳酸含量が減り、酢酸含量が増加
し、開封後のバンクライフを保つのに
有効と報告されている(Kung
2003)
。
ただし、先に述べたように、踏圧をき
ちんと行うことや十分な取り出し量を
確保することが重要であることは言う
無添加
L.buchneri添加
発酵品質
pH
乳酸、%DM
43.4
4.36b
41.5
4.66a
6.58a
5.25b
酢酸、%DM
3.35b
5.67a
68b
100a
25.1
39.9b
25.4
40.7a
DM、%
TMRの変敗までの時間
(好気的安定度)
泌乳試験結果
採食量、kg/日
乳量、kg/日
a,b:異符号を付けた数値間に5%水準の有意差あり.
までもない。
近年、普及が進んでいる細断型ロールベーラによって再梱包することで、サイレージの
好気的変敗を予防することもできる。気温の上昇とともに、サイロ内のトウモロコシサイ
レージは変敗しやすくなる。そこで、バンカーやスタックサイロで貯蔵したものを細断型
ロールベーラで再梱包することで、取り出し量を増やし、変敗による廃棄量を減らすこと
ができる。再梱包によって、有機酸の生成量が増加することが確認されており、ロールベ
ールのラップフィルムに傷がつかなければ、長期貯蔵も可能であり、変敗防止対策の一つ
と言える。
4)ホールクロップサイレージの多給利用
トウモロコシホールクロップサイレージは、①牧草サイレージ(出穂期刈)に比べ、栄
養価が高い(黄熟期刈)、②圃場生産性が高い(TDN収量としてイネ科主体牧草の約1.8
倍)、③良質なサイレージが調製しやすく、家畜の嗜好性が高い等の特長がある。トウモ
ロコシサイレージを利用した場合、泌乳牛の乾物採食量は約14kgとなり、泌乳最盛期でも
TDN自給率は約50%となるが、特に多給利用すると圃場面積あたりの飼養頭数を約0.5頭程
度増やすことが可能になり、圃場収益性を高めることができる(表4)。牧草サイレージと
-18-
トウモロコシサイレージを粗飼料源と
表4 圃場面積あたりの飼養可能頭数と産乳可能量
した給与試験データを基にして購入飼
併給
多給
(CS36%) (CS92%)
料費が安価であった2001年と価格が高
収量
騰した2008年における試算結果(図6)
14.65
混播牧草
を見ると、いずれの時期においても、
14.65
9.04
チモシー
トウモロコシサイレージの多給利用は
7.45
1頭あたり必要なほ場面積 (ha)
収益性を高める効果があると言える
(大塚
(ton/ha)
トウモロコシ
2010)。
トウモロコシサイレージ
0.18
牧草サイレージ
0.53
0.45
乾草
0.06
ほ場面積あたり飼養可能頭数 (頭/ha)
1.41
1.96
ほ場面積あたり産乳可能量
20,740
27,829
153.1
205.4
乳代
(kg/ha/年)
(万円/ha)
総飼料費 (万円/ha)
ほ場面積あたり飼料費差し引き乳代(万円/ha)
49.8
74.3
103.3
131.1
(大下ら 1999)
一方で、乾乳期における
4000
トウモロコシサイレージの
利用は、栄養濃度のコント
サイレージ主体飼料を飽食
給与した場合に、トウモロ
コシサイレージを混合給与
3000
血中3HB濃度(μmol/L)
ロールが必要であり、特に
乾草併給GS区
乾草併給CS区
サイレージ主体GS区
サイレージ主体CS区
ab異符号間に有意差あり
(P<0.05)
a
a
2000
a
1000
すると分娩後にケトーシス
の危険性が高まることが指
摘されている(図7)。ただ
し、乾乳後期にトウモロコ
0
-5
-4
-3
-2
-1
1
2
b
b
b
3
4
5
分娩後週数(週)
図7 乾乳期のとうもろこしサイレージ給与が分娩後の血中3HB濃度に及ぼす影響
シサイレージを利用しても、
トラブルなく移行期を乗り切っているケースも多いことから、ケトーシス発生とトウモロ
コシホールクロップサイレージの化学性や繊維の消化性や物理性等の関係を今後明らかに
-19-
する必要がある。いずれにせよ、分娩後のケトーシスを避け、泌乳期のトウモロコシサイ
レージ多給につなげていくための乾乳期におけるトウモロコシサイレージならし給与時は、
栄養濃度の低い牧乾草と組み合わせて、過肥にならないようにすることが重要である。
5)ホールクロップサイレージの物理性
トウモロコシホールクロップサ
イレージの給与時に考慮すべき事
摂取量
反芻時間
項としてその物理性がある。破砕
摂取量(kg/日)
イレージの切断長が 9mm 以下に
なると咀嚼時間が短くなることが
指摘されている(図 8;岡本ら
7.5
600
500
400
300
200
100
0
7
6.5
6
5mm
1979)。
近年、家畜による消化性や乾物
摂取量のほか、咀嚼行動を通じて
10mm
反芻時間(分/日)
処理をしていないトウモロコシサ
25mm
切断長
図8 トウモロコシサイレージの切断長による乳牛の摂取量と
反芻時間(岡本ら 1979)
反芻家畜の第一胃発酵の安定性維
持に影響を及ぼす重要な要因とし
て飼料の粒度(切断長)が着目され、これを客観的に評価しようとする動きがある。その
簡便な一つの方法としてペンステ
表5.泌乳初期牛への給与飼料の粒度分布の推奨値
(パーティクル・セパレータ利用)
(Heinrichs とKononoff 2002)
ート・パーティクルセパレータ
(Nasco 社製)を利用した篩い分
ふるい
目開き
(cm)
粒子サイズ
(cm)
トウモロコシ 予乾牧草
サイレージ サイレージ
TMR
で急速に普及しつつある。泌乳初
上段
1.91
>1.91
3–8
10 – 20
2–8
期の乳牛に対する給与飼料のガイ
中段
0.79
0.79 - 1.91
45 – 65
45 – 75
30 – 50
ドラインとしては、表 5 に示した
下段
0.13*
0.18* - 0.79
30 – 40
20 – 30
30 – 50
範囲が示されている。この他に、
通過受け皿
<0.18
<5
<5
<20
け法があり、TMR 給与の飼養現場
有効繊維(Mertens 1997)等の概
念も提唱されており、今後の研究
*下段の目開きは0.13cmであるが、通過可能な粒子サイズは0.18cmであること
から、この値を採用している。
**予乾サイレージは原典ではアルファルファ利用
の進展が期待されている。
以上のように、酪農経営では自給粗飼料の品質を高めることが、コスト低減に対して最
も有効であると言える。このためには、圃場面積あたりの栄養収量を高める技術開発の重
要性は依然として高い。一方で、現在の家畜生産性を低下することなく、飼料自給率を高
めるには濃厚飼料資源の確保も不可欠である。北海道内では濃厚飼料として自給生産でき
るトウモロコシ雌穂に着目し、技術開発研究を行ってきたのでその成果の一部を紹介する。
-20-
4.自給濃厚飼料としてのトウモロコシ雌穂(イアコーン)サイレージの生産利用技術
1)海外でのイアコーンサイレージの利用状況
先に述べたように飼料用トウモロコシは C4 植物で生産性は高く、圃場面積あたりの穀
実収量も C3 植物であるイネ、ムギに比べ高い。このため、欧米では HMEC や CCM 等の
略称で呼ばれ(表 6)、自給濃厚飼料資源として古くから利用されてきた。海外での雌穂
収穫の方法としては、大まかに分けて、コンバインで子実のみ(一部、芯を含む)を収穫
する方法と、自走式フォレージハーベスタを利用する方法がある。コンバイン収穫したも
のは、乾燥穀実あるいはバンカーサイロやタワーサイロ、簡易なスティールサイロに貯蔵
し、自家産の濃厚飼料として、泌乳牛のみならず、肉用牛および豚・鶏などの中小家畜に
も利用されてい
る。一方、ハーベ
スタ収穫の場合、
子実のみならず、
芯と一部の穂皮お
よび若干の茎葉を
含むため、コンバ
イン収穫のものよ
りも繊維含量が高
く、栄養価も低い。
ハーベスタで収穫したイアコーンサイレージはイアレージとして分類されている。
2)イアコーンサイレージ収穫・調製の機械化体系
わが国でのトウモロコシ雌穂に関する研究は70年代後半に一時行われたものの、収穫の
作業効率が低かったことや輸入穀類に比べコストが高かったため、当時は実用化までに至
【収穫】オペレーター1名
【運搬】傭車2台
【積み込み】1名
【調製】2名
【ロール移動】1名
図9 イアコーンサイレージの収穫調製作業
*道内TMRセンターでの事例
-21-
らなかった。しかしながら、海外の事例から、雌穂収穫専用のコーンヘッダであるイアス
ナッパヘッドがあれば、近年、TMRセンター等を中心に導入されている自走式フォレージ
ハーベスタと細断型ロールベーラを組み合わせることによって、実用的な作業能率でイア
コーン収穫とサイレージ調製ができる可能性があると考え、その作業性について検証を行
った。その結果、ホールクロップサイレージ並の作業体系(図9)と作業能率で収穫できる
ことが明らかとなった(表7)。
表7
イアコーンサイレージ
サイレージ
作 業
1)
収 穫
自走式ハーベスタ
+スナッパヘッド
作業体系
作業人数
圃場作業効率
圃場作業量
収穫作業能率と損失率 (大津ら 2012)
ダンプトラック
人
%
ha/h
ホールクロップサイレージ
2)
梱包密封
バケットローダー
細断型ロールベーラ
3
84
1.5
収 穫3)
自走式ハーベスタ
+ロータリーヘッド
ダンプトラック
ハンドラ
3
97
1.2
細断型ロールベーラ
ハンドラ
3
96
0.4
3
83
1.1
1)作業幅4.57m。ハーベスタの設定切断長5mm,破砕装置間隙2mm。
2)呼び径1000mm×1000mm。巻き数は3回6層。
3)作業幅4.5m。ハーベスタの設定切断長19mm,破砕装置間隙2mm。
梱包密封2)
バケットローダー
3)イアコーンサイレージの飼料価値
表 8 に同一圃場の飼料用トウモロコシから生産したホールクロップサイレージとイアコ
ーンサイレージの成分組成と発酵品質を示した。イアコーンサイレージはホールクロップ
サイレージに比べ、乾物率とでんぷん含量が高く、TDN 含量も約 12 ポイント高く、濃厚
飼料としての利用が十分可能と考えられた。また、保存性について検討した結果、ホール
クロップサイレージと機械収穫したイアコーンの粒度は細いものの、細断型ロールベーラ
表8 北海道内で生産されたイアコーンサイレージの成分組成と発酵品質
ホールクロップ
イアコーン
イアコーン
(道内平均)
粒度(8mm以下の割合%)
30.2
56.3
梱包密度(kgDM/m3)
190
403
乾物(%)
31.8
56.1
粗タンパク質 (%DM)
7.1
7.1
7.8
41.1
24.8
24.1
28.6
53.5
55.1
飼料成分
NDF(%DM)
でんぷん(%DM)
60.6
発酵品質
pH
3.71
3.82
4.00
VBN/TN(%)
5.10
5.40
4.43
乳酸(%FM)
1.61
1.11
1.02
酢酸 (%FM)
0.32
0.33
0.24
エタノール(%FM)
0.50
0.42
0.43
Vスコア
栄養価(TDN含量%DM)3)
99
98
99
65.4
77.7
79.6
1)同一圃場、同一時期に生産(供試品種:RM90日、栽植密度:8400本/10a)
2)ホールクロップサイレージは調製後半年で、イアコーンサイレージは調製後10~12ヶ月で開封
し分析に供した。
3)TDN含量は去勢ヒツジを供し、全糞採取法で査定
-22-
で密封梱包でき、梱包密度はホールクロップの約 2 倍で、乳酸とエタノールを含み良好な
発酵品質で、約 1 年間保存できることを確認した。ただし、貯蔵時のネズミ等によるラッ
プフィルムの破損には十分注意が必要である。道内で過去 3 年間に生産されたイアコーン
サイレージの平均乾物率は 60.6%、乾物中のでんぷん含量は 55.1%、TDN 含量は 79.6%で
あり、飼料成分、栄養価から濃厚飼料として十分利用可能であると言える。
イアコーンサイレージに対する乳肉用牛の嗜好性は大変良く、泌乳牛に対しては、トウ
モロコシサイレージ給与時に 2.4kgDM、牧草サイレージ給与時に 3.3kgDM、放牧時に
5.4kgDM を輸入圧片トウモロコシの代替として給与しても、乳量、乳成分および血液性状
に差は認められなかった(表 9)。イアコーンサイレージを利用することで、飼料自給率を
10 ポイント以上向上でき、特に、乳量が 26kg/日程度であれば、集約放牧とイアコーンを
組み合わせることで飼料自給率 100%の達成も可能と言える。
表 9 イアコーンサイレージ給与泌乳牛の飼料摂取量、乳生産性および血液性状
試験概要(頭数、分娩後日数、開始時体重) 1)
試験処理 (圧片給与量kgDM, ECS給与量kgDM)
1)
舎飼 CSベース(n=6, 109日, 630kg)
舎飼 GSベース(n=6, 129日, 647kg)
放牧 GSベース(n=8, 150日, 581kg)
圧片区(1.9, 0)
圧片区(2.4, 0)
圧片区(3.4, 0)
ECS区(0, 2.4)
ECS区(0, 3.3)
ECS区(0, 5.4)
併給飼料
総乾物摂取量 (kg)
体重変化量 (kg)
CS+GS+conc+SBM
23.4
23.4
+3.0
+2.0
GS+conc+SBM
22.4
22.2
+9.0
+1.7
放牧草+GSのみ
21.5
22.9
+13.9
+14.0
乳量 (kg)
乳脂率 (%)
乳タンパク率 (%)
32.7
3.85
3.25
34.0
3.61
3.22
32.2
4.36
3.30
32.1
4.25
3.17
26.1
3.92
3.14
26.0
4.01
3.11
血液性状
BUN (mg/dL)
Glu (mg/dL)
NEFA (mg/dL)
12.9
75.2
213
11.3
74.7
218
13.7
69.2
139
13.5
67.1
120
17.2
67.1
138
17.3
65.0
122
1) CS;トウモロコシサイレージ、 GS;グラスサイレージ、 圧片;圧片トウモロコシ、 ECS;イアコーンサイレージ、 conc;配合飼料、 SBM;大豆粕
4)イアコーンサイレージの生産コスト
道内でイアコーンサイレージの生産利用に取り組む TMR センター(作付け面積 27ha)
の生産コストは 37,454 円/10a(2010 年実績)であった。一方、イアコーンの原物収量は
1,442kg/10a で サ イ レ ー ジ の
TDN 含量が 79.1%であったこ
とから TDN 収量は 736kg/10a と
なった。これらの数値を元に、
イアコーンサイレージの生産コ
ストを計算すると TDN1kg あた
り 51 円となった(図 10)
。これ
は、2012 年 3 月時点の圧片トウ
モロコシ価格並みであることを
示している。この TMR センタ
図 10
道内 TMR センターにおける生産コスト(2010 年)
ーでは、ハーベスタおよびロール
ベーラは既存の機械を利用し、スナッパヘッドは、所有業者から借用しているので、スナ
ッパヘッド(定価:1,200 万円/台)を新規導入した場合では TDN1kg あたり約 9 円(原物
1kg あたりでは 4~5 円)のコスト上昇が見込まれる(償却期間:7 年)
。ただし、この費用
は収穫面積によっても左右され、圧縮できる可能性は十分にある。また、生産コストを大
-23-
きく左右するのは、単位面積あたりの圃場収量であり、図 11 には十勝地域で品種と収穫時
期による収量の影響を調査した結果を示した。
イアコーンサイレージの収量は黄熟後期(ホ
ールクロップサイレージの収穫適期)
よりも 1~2 週間後の完熟期(雌穂乾
物率は 55%以上)が最も高く、イア
コーン向けの雌穂登熟の早い品種を
選べば 1,000kgDM/10a 以上の収量を
確保することが可能であることを示
している。また、栽植密度を 7,500
本/10a(ホールクロップ向け)から
9,000 本 /10a に 高 め 、 追 肥 量 を
2kg/10a 増肥することで、雌穂乾物
収量を現在の 1.1 倍以上に高められ
図 11
品種別イアコーンサイレージの乾物率と実収量
ることが道総研畜産試験場の試験で
明らかにされている。仮に乾物収量が 900kg から 1,000kg/10a になったとすると TDN1kg
あたり約 6 円コストが低下すると試算され、収量確保がコスト削減に果たす効果が高いこ
とがわかる。
5)イアコーンサイレージの自給濃厚飼料資源として定着させるには?
以上、トウモロコシ雌穂のみを収穫しサイレージ調製するため機械化体系を示し、また、
生産したイアコーンサイレージが自給濃厚飼料として十分利用でき、その生産コストは現
在の圧片トウモロコシ価格並みであることを示した。今までの試験成績をとりまとめ、イ
アコーンサイレージの作り方や使い方を解説したマニュアル(図 12)を本年7月にウェブ上
で公開したので、参照して頂きたい。
今後、わが国で耕地の効率的利用を図りつつ、濃
厚飼料資源を自給生産していくためには、耕種農家
で生産し畜産農家で利用するといった耕畜連携の体
系作りが不可欠である(図 12)。そのためには、連
携コーディネータを育成するとともに、ヨーロッパ
で定着しているように飼料用のトウモロコシ生産を
組み入れた新たな輪作体系を組み立てる必要がある。
また、イアコーンサイレージを酪農家が利用する際
には、組み合わせ給与する牧草サイレージ等粗飼料
の品質を高める工夫をすればより一層の飼料費削減
が可能と考えられる。
図 12.
-24-
イアコーンサイレージ生産利用マニュアル
図13 耕畜連携によるイアコーンサイレージの生産利用体系
5.参考文献
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慶(2009)イアコーンは機械収穫でき、そのサイレージは
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大下友子・大塚博志・西野一・鷹取雅仁・高山英紀・五十嵐弘昭・野中和久・名久井忠(1999)
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保田哲史・藤田直聡・山田洋文・谷川珠子・滑川拓朗・高田雅透・中西雅昭・岩
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雪印種苗.畜産技術情報ゆきたねネット.粗飼料調製.
http://livestock.snowseed.co.jp/top/index.html
-26-
稲発酵粗飼料の長期安定貯蔵・流通技術
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
浦川
修司
1.はじめに
平成 20 年にトウモロコシを始めとする穀類の急激な価格高騰、その後も飼料価格
の高止まりが続き、さらに、円高によって支えられてきた飼料価格は、近年の急激
な円安によって、飼料価格は高騰し、各国のエネルギー政策や農業政策、経済状況、
気象条件、原油価格、為替相場などに影響を受けやすい我が国の畜産経営において、
経験したことのない状況になりつつある。また、今後、海外から安定して飼料を入
手することは困難になることも想定される。そこで、畜 産物を安定 的に供給す るた
め、国産飼 料の増産を 図ることを 目的として 、稲発酵粗 飼料(以下 、イネ WCS)
や飼料用米 等に手厚い 支援が行わ れている。 研究面にお いても 平成 22 年度から農
林水産省の委託プロジェクト研究として「自給飼料を基盤とした国産畜産物の高付
加価値化技術の開発(略称:国 産 飼料プロ)」研究が開 始され、イ ネ WCS に 関する
研究に加え 、飼料用米 を濃厚飼料 として積極 的に利用す るための研 究や WCS 用イ
ネの裏作を 活用した飼 料用ムギ類 の研究も行 われている 。
イネ WCS については、行政支援や一貫した研究、普及によって、作付面積は年々
増加し、平成 24 年度には 25 千 ha を超えるまでに拡大した。さらに、作付面積の拡
大と利用促進を図るためには、これまでのような地域内流通だけでなく、地域や県
域を超えて飼料生産基盤が脆弱な地域の畜産農家にでも、イネ WCS が利用できる
ように、良質で安全な国産流通粗飼料として位置付け、広域的な流通体制を構築す
る必要がある。そこで、本稿ではイネ WCS の長期安定技術と、その流通技術につ
いて解説する。
2.イネWCSの収穫調製体系
イネ WCS の収穫調製体系にはフォレージハーベスタにより収穫し、固定サイロに
調製する方法も行われていたこともあったが、現在ではロールベールサイレージとし
て調製する方法が一般的である。また新たな体系としてフォレージハーベスタで収
穫・細断した材料イネを細断型ロールベーラで梱包する方法も一部の地域で行われて
いる。
ロールベールサイレージ体系においては、畜産農家が保有する牧草用収穫機(モー
ア、牽引式ロールベーラ等)を利用した体系とイネ WCS 専用収穫機による体系があ
り(図 1)、畜産農家が加わった生産組織では牧草収穫機体系で行われ、耕種農家の
集団やコントラクターが収穫調製を行う場合には、専用収穫機が利用されている場
-27-
合が多い。なお、牧草収穫機を利用する体系では、早期に落水して収穫時期に大型
機械での作業が可能状態にしておくことが必要である。
[ 牧草用収穫機体系 ]
刈取り
集草
梱包
密封
モーア
レーキ
ロールベーラ
ベールラッパ
[ 専用収穫機体系 ]
刈取り・梱包
密封
専用収穫機
自走式ベールラッパ
(ダイレクト収穫)
図1.WCS 用イネの収穫調製のための牧草用収穫機体系と専用収穫機体系
(1)牧草用収穫機体系(ロールベール体系)
イネ WCS の収穫調製作業において牧草用機械を利用する利点は、畜産農家が現有
している牧草用収穫機械(図 2)を活用することで、専用収穫機などの新たな機械
資本の投資を必要とせずに WCS 用イネの収穫調製作業を行えることにある。また、
特に大区画圃場においては高能率でイネ WCS をロールベールとして収穫調製でき
ること、予乾処理によってβ-カロテンの低いイネ WCS が生産できるのも牧草用収
穫機械体系の特徴である。牧草用機械体系では、まず立毛状態の WCS 用イネの刈
落し作業が必要であり、その後、水分が高い場合やβ-カロテンを下げるためには、
予乾作業(反転)を行うが、子実(籾)の脱粒を防止するためには、反転作業を省
略するか、強度な反転作業は避けることが望ましい。また、土砂の混入は発酵品質の
低下を招く危険性が高いため、土砂を混入させずに良質で安定的に貯蔵する面からも、
牧草用機械体系によるイネ WCS の生産作業においては、地面とテッダやレーキのタ
イン高さには注意が必要である。
一方、ビタミン A 制御型の肥育牛への給与を目的にβ-カロテン含量の低いイネ
WCS を生産するためには、専用収穫機のようなダイレクト収穫体系よりも予乾を行
うことができる牧草用収穫機体系が有利である。以上のように、牧草用収穫機体系に
するか、専用収穫機体系にするかは、圃場条件や生産組織の形態(耕種農家と畜産農
家で組織した場合等)、供給先の畜産農家によって選択することが必要である。
図2.牧草用収穫機体系による WCS 用イネの作業状況
-28-
(2)専用収穫機体系
立毛状態の WCS 用イネの刈取りと梱包作業を行うための専用収穫機には、コン
バイン型とフレール型と呼ばれる 2 つの機種の自走式ダイレクト収穫方式のロール
ベーラが実用化されている。
コンバイン型専用収穫機と呼ばれている機種は、自脱型コンバインの刈取・搬送
部を利用し、脱穀部やグレインタンク部等の替りに切断部とロール成形室を搭載し
たものである。本機は自脱型コンバインの刈取り・搬送部をそのまま利用している
ことと、初期機種はトワイン結束であったことから、切断機構であるディスクカッ
タの切断刃間隔は 15cm に設定されており、撹拌機構も不十分であったことから、
穂部と茎葉部が分離したロールベールが成形される傾向にあった。そのため、平成
20 年度に細断(約 3cm)・撹拌機能を付加した機種に改良された(図 3)。
自脱型コンバイン部
刈取部
ロールベールアタッチ部
搬送部
ネット装置
細断装置
ベール成形室
攪拌装置
搬送装置
図3.コンバイン型専用収穫機(細断型)の概略図
改良されたコンバイン型専用機(細断型ホールクロップ収穫機:ロール寸法:100
×85cm)は、従来機と同様に自脱型コンバインの刈取部と走行部を利用しているが、
細断部であるディスクカッタの切断刃間隔を 15cm から 3cm に短く設定するととも
に、カッタの直下に 2 枚のディスクを取付け、両ディスクを水平に回転させること
で、細断された材料イネの穂部と茎葉部が混合され、ロールベールの成形精度は飛
躍的に向上した(図 4)。さらに結束方式をトワイン方式からネット方式にしたこ
とにより、細断された WCS 用イネでも少ない損失率で高密度なロールベールが成
形できるようになり、従来機と比較して発酵品質も向上した。
図4.改良されたコンバイン型専用収穫機(左)と切断(中)撹拌機構(右)
-29-
改良されたコンバイン型専用収穫機(細断型)についても自脱型コンバインの刈
取り・搬送部を利用していることから、従来機と同様に対象とする WCS 用イネの
草丈に制約要因があり、適応範囲は 130cm 程度であった。そのため、130cm を超え
る専用品種の収穫作業には、作業速度を遅くするか、5 条の刈取り部に対して、4
条で刈取り作業を行う必要があった。その一方で専用品種は多収を目指して長稈品
種が中心になってきたことから、平成 24 年度に長稈品種に対応できるように搬送部
の縦パイプをなくすとともに(図 5)、切断部への搬送角度を変えるなどの改良が
行われ、150cm 以上の長稈品種でも刈取り部からディスクカッタへの搬送がスムー
ズになり、本機の最高作業速度で収穫作業が行えるようになった。また、オペレー
タの夏季の過酷な作業環境を改善する目的から、長稈品種対応型ではキャビン付仕
様が中心に販売されている(図 6)
図5.平成 24 年度から販売している長稈品種対応のコンバイン型専用収穫機
図6.キャビン付仕様のコンバイン型専用収穫機
フレール型専用収穫機も自脱型コンバインをベース機としているが、刈取部には
フレール式刈取り装置を採用し、コンバイン型と同様に脱穀部の替わりにベール成
形室を搭載している(図 7)。本機はコンバイン型専用収穫機と比較して籾に傷が
付きやすく、長稈な専用品種にも対応できるとともに、専用収穫機として位置付け
されているものの、ソルガム等の収穫や予乾した稲ワラ等の拾上げ・梱包作業に利
用できるのも特徴である。その一方で、超軟弱な圃場での作業や根張りの悪い WCS
用イネを収穫する場合には、株ごと抜き上げてしまう場合があり、倒伏した WCS
用イネを収穫する場合には土砂が混入しやすい。また、コンバイン型専用収穫機と
比較して籾の損失率もやや多いいことが指摘されていた。さらに、コンバイン型専
用収穫機のロールベール寸法 100cm×85cm に対して、90cm×86cm とやや小さいこ
とから、作業能率がやや劣る傾向があった。なお、ロールベール質量も約 200kg/個
-30-
とやや軽く、専用収穫機の普及当初には取扱が容易なことや流通先の畜産農家の規
模によって、コンバイン型専用収穫機よりもロールベール寸法や質量の小さいフレ
ール型専用収穫機は、中小規模なコントラクターを中心に導入されてきた。
図7.フレール型専用収穫機の収穫部(左:フレール刃)と概略図(右)
イネ WCS の普及が始まって約 10 年が経過し、コントラクターや生産組織の大規
模化が進み、請負面積も拡大してきたことから、専用収穫機の機種選定において、
作業能率が重要な要件になってきた。そこで、フレール型専用収穫機についても作
業能率の向上を目的に平成 22 年度にエンジン出力の向上を行い、刈幅も従来機が
140cm であったのに対して 150cm に広げ、ロール寸法も 100cm×86cm に拡大した。
また搬送部にコンベアを装着したことにより、材料草の送込み時の詰まり防止対策
を図るとともに、放出部のスチールローラにベルトを装着することによって、これ
までフレール型専用収穫機の大きな課題となっていた損失率の低減化が図られてい
る。また、結束方式をトワイン方式からネット方式に改良するなど、その作業精度
や能率は従来機と比較して大きく向上した(図 8)。
図8.改良されたフレール型専用収穫機の概略図
注)刈幅、ロール寸法の拡大、収穫ロスの低減化、ネット結束等の改良
専用収穫機は両機とも走行部はゴム履帯を利用しており、平均接地圧も小さ
いことから軟弱圃場でも作業を行うことができる。しかし、良質な発酵を促進
させ、長期安定貯蔵のためには 早期落水を行うことによって、収穫時の地耐力を高
め、土砂を混入させないことが必要である。なお、改良されたコンバイン型および
フレール型専用収穫機の作業時間は WCS 用イネの収量や圃場条件等によって異
-31-
なるものの両機とも約 20~30 分/10a である。
(3)自走式ベールラッパ
専用収穫機は自走式ベールラッパと組み合わせて作業を行うことが多く、軟弱な
圃場条件でも作業を行うことができるように専用収穫機と同様に走行部にはゴム履
帯を利用している。その他にも、オペレータの作業軽減を図るとともに、畦畔沿い
に放出されたロールベールの拾上げ作業も容易に行うことを目的に前方からロール
ベールをターンテーブル上に積載できる(一般的な牽引式ベールラッパは後方また
は側法積載)。また、ベールグラブを保有していない生産組織でも運搬車へ密封後の
ロールベールを直接荷降ろしできるようにリフト機能を有しているのも特徴の一つ
である(図 9)。
図9.従来型の自走式ベールラッパの概略図(左)と前方積載(中)、リフト機能を利用した
運搬車への荷降ろし(右)作業
専用収穫機等の改良によって、これまで以上に高密度で重いロールが成形できる
よ う に な っ た こ と か ら 、 300kg を 超 え る よ う な 重 い ロ ー ル ベ ー ル で も 安 定 し て 積
載・荷降ろしができるように改良されてきた。しかし、自走式ベールラッパはガソ
リンエンジンで燃料消費量も多く、タンク容量も小さかったことから、1 日の作業
で数回の補給が必要であった。そのため、新たな改良が行われ、25 年度から販売さ
れている機種(図 10)は、ガソリンエンジンからディーゼルエンジンに変更し、燃
料タンクも大きくすることで、1 回の給油で 6 時間以上の作業が行えるようになっ
た。
図 10.平成 25 年度から販売が開始された自走式ベールラッパ
注)オペレータ-の作業環境改善のために日除けが標準装備されている。
-32-
また、燃料消費量もガソリンエンジン仕様と比較すると、約 25%の節減が図られ
ている。その他にも、油圧ポンプ能力の向上を図ることにより、最大 500kg のロー
ルにおいても積載や荷降し、リフト上昇作業がスピーディーに行えるようになって
いる。
(4)専用収穫機と自走式ベールラッパの組み作業
自走式ベールラッパと専用収穫機が組作業を行う場合、その後のロールベールの
圃場外への搬出作業まで考慮する必要がある。そのため圃場条件が良好な場合、専
用収穫機は結束時間等を利用して農道方向へ移動してロールを放出したり、自走式
ベールラッパはフィルム巻時間を利用して農道方向へ移動してから荷降ろしたりす
ることによって、農道付近にロールベールを集中させておくことで、その後の圃場
外への搬出作業が容易に行えるようになる。そのためには、専用収穫機は先ず作業
スペース・荷降ろし場所を確保し、その後は食用米の自脱型コンバインの収穫作業
と同様な方法で収穫作業を行う(図 11)。特に WCS 用イネの収穫時期は秋雨時期と
も重なることから、密封したロールベールでも長期間にわたり圃場に放置しておく
ことは、降雨によって圃場に水が溜り、品質の劣化を招くだけでなく、軟弱になっ
た圃場ではベールグラブが圃場内で作業できないようになることも考慮しておくこ
とが必要である。その他、密封後のロールベールのハンドリング回数を少なくし、
フィルムの破損や変形による品質の劣化を防止し、高品質なイネ WCS を生産する
ために、未ラップのまま輸送して畜産農家の庭先や保管場所で密封作業を行う体系
も増えつつある。ただし、この場合、安定して高品質なイネ WCS が生産され易く
なるものの、未ラップロールで輸送することから損失率は大きくなる。
図 11.専用収穫機と自走式ベールラッパの効率的な作業方法の例
-33-
また、フレール型専用収穫機には、成形されたロールベールを効率よく農道付近
まで搬出して全体の作業時間を短縮するための簡易なロールベール運搬装置(ロー
ルキャリア)が開発されている(中央農研)。この装置は収穫機から放出されたロー
ルベール 1 個を受け止めて積載し、任意の位置まで運搬して荷降ろしするものであ
る。本装置の特徴としては、軽量・簡易な構造であり、動作のためにも油圧等の外
部動力を必要としないこと、走行中でも運転席からワンタッチで荷降ろしできる機
構であること、収穫機本体に特別な加工を行わずに容易に取り付けと着脱ができる
ことが挙げられる。また、成形・結束済みのロールベールを機体外に保持するため、
運搬をしながら同時に刈取りが可能である(刈取り同時運搬)。このため、収穫機が
本来の作業行程から外れることなくロールベールを農道付近へ運搬できる。ロール
キャリアによる最適な運搬方法は圃場の大きさや形状、単位面積収量、ロールベー
ル質量、刈り取り経路、ロールベール集積方法等の条件によって異なるものの、収
穫機が材料草で満量になるたびに、その位置にロールを放出してから回収する方法
と比較すると、全てのロールベールを密封して圃場外に搬出するまでの作業時間は、
ロールキャリアを利用することによって最大 35%短縮される(図 12)。ただし、コ
ンバイン型やフレール型専用収穫機でも新機種には対応しておらず、今後の開発に
期待される。
図 12.フレール型飼料イネ専用収穫機に装着するロールキャリアとロール放出位置
(中央農研 開発)
(5)その他の収穫作業
<自脱型コンバインを改良した WCS 用イネの刈り落とし機と汎用型飼料収穫機>
イネ WCS の予乾を行う作業においても、牧草用のモーアを用いずに立毛イネの
刈落としができるような体系も検討も行われてきた。この体系においては、自脱型
コンバインに簡易な装置(ウインドロワー)を装着することで、自脱型コンバイン
を刈落し作業機(モーア)と集草用作業機(レーキ)のように活用できる(図 13)。
なお、刈落しと集草を同時に行った後は、特に軟弱な圃場条件の場合には、牧草用
収穫体系でも用いられているクローラ型の牽引式ロールベーラや自走式ロールベー
ラで梱包することになる。ただし、自脱型コンバインの改良においては、自己責任
において行う必要がある。
-34-
図 13.自脱型コンバインを改良した刈り落とし方法(ウインドローワ)と梱包
(東北農研センター)
専用収穫機と呼ばれている 2 機種(コンバイン型、フレール型)の他に、WCS 用
イネを収穫できる自走式作業機として、汎用型飼料収穫機が開発されている(生研
センター)。本機は専用収穫機とは異なり、収穫部のアタッチメントを取り換えるこ
とで WCS 用イネだけでなく、トウモロコシや刈落した予乾牧草を収穫することが
でき(図 14)、大規模コントラクターへの導入が期待される。ただし、予乾牧草用
アタッチメントについては、本年度から販売が中止されることになった。
図 14.各種飼料作物への対応が可能な汎用型飼料収穫機
(生研センター)
3.飼料イネの安定貯蔵技術
(1)土砂の混入防止対策
WCS 用イネは当然、水田で作付され、天候や圃場条件に品質が大きく影響される。
収穫時に圃場条件が良好な場合、牧草用収穫機体系ではテッダやレーキと地面の高
-35-
さを考慮するだけで土砂の混入を防止できるが、専用収穫機体系も含めて圃場条件
が軟弱で密封前のロールベールを圃場内に放出すると、ロールに土砂が付着して劣
質なサイレージが調製されやすくなる。
従来方式のコンバイン型専用機と自走式ベールラッパでは、軟弱な圃場での作業
を想定して、ロールベーラから放出するロールを自走式ベールラッパで直接荷受け
作業を行うことができたが、改良されたコンバイン型専用収穫機やフレール型専用
収穫機、汎用型飼料収穫機と自走式ベールラッパの組作業においては、ロールベー
ルの直接荷受け作業を行うことができない。そのため、軟弱圃場においては 4 輪駆
動のトラクタが作業できる程度の圃場の場合には、パレットフォークを用いてロー
ルベーラから放出されるロールを直接荷受けして圃場外へ搬出し、農道またはロー
ルロールベールの一時保管場所で密封する体系で作業を行う。このような作業方法
では、作業時間は長くなるものの土砂の混入を防ぐことができる(図 15、16)。な
お、このような作業方法では、トラクタ等のホイル型作業機によって、輪跡等がで
きて圃場(田面)を荒らすことがあるため、予め地権者に了解を得ておくことが必
要である。
図 15.パレットフォークを用いたロールの荷受けと圃場外への搬出作業の概略図
図 16.パレットフォークや自前の簡易荷受けフォークを用いたロールの荷受け方式
(2)乳酸菌の利用
WCS 用イネの茎は堅い中空構造であり、トウモロコシなどの飼料作物に比べ、サ
イロ内に残存する酸素量が多いことから、嫌気的条件にするのが困難である。さら
に WCS 用イネには不良菌である好気性細菌、カビおよび酵母菌が多く付着してお
り、良質発酵に重要な乳酸菌の数は少ない。また、WCS 用イネは乳酸菌の栄養源と
なる可溶性糖類であるサッカロース、グルコースおよびフルクトースの含量がトウ
モロコシと比較して低いのが特徴である。しかし、新たに改良された細断方式のコ
ンバイン型専用収穫機やフレール型専用収穫機、汎用型飼料収穫機は梱包密度が高
く、糊熟期から黄熟期で収穫すると立毛状態でも水分含量が 65%程度となり、良質
なロールベールサイレージが調製できるようになった。しかし、朝露が残っている
場合や軟弱な圃場条件等での作業を行う場合でも、安定して確実に良質サイレージ
を調製するためには、乳酸菌(図 17)を添加することも必要である。なお、専用収
穫機には乳酸菌を効率的に添加する装置が装備されている。
-36-
図 17.飼料イネ専用乳酸菌「畜草1号」添加剤(左)と凍結乾燥粉末(右)
(3)フィルムの巻き数と保管期間
フィルムの巻き数の違いは、その後のロールベールの長期貯蔵性に大きく影響を
及ぼす。保管中にフィルムの破損がなくても、長期保管を行う場合ではフィルムの
劣化や密着の緩みから気密性が低下するため、フィルムの巻き数の設定は非常に重
要である。
WCS 用イネのロールベールのフィルムの巻き数を 4 層巻き、6 層巻き、8 層巻き
に変えて保管した場合の廃棄率を調査した結果、4 層巻きでは比較的早い段階から
廃棄率が高くなるが、6 層巻きでは調製後 10 ヵ月まではカビによる廃棄率は低く、
さらに 8 層巻きにすると 1 年間を経過しても、カビ発生による廃棄率は全体のほぼ
5%以内に抑制できる(図 18)。
図 18. WCS 用 イネのロールベールのフィルムの巻き数と廃棄率の関係
(千葉県畜産センター)
フィルムの巻き数を増やすと安定して長期保存が可能となるが、フィルムの価格
を約 12,000 円/本とすると、4 層巻きでは 400 円/個、6 層巻きで 600 円/個、8 層巻
きになると 800 円/個程度になる。さらに巻き数を増やすことは、経費の他にフィル
ムで密封する作業時間も長くなる。そのため、経済性や作業性等を考慮して巻き数
を設定することが重要である。WCS 用イネのロールベールでは、6 層巻きを基本と
して、長期間保管するロールベールについては 8 層巻きにするなど、品質保持と経
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済性を勘案しながら、保管期間に応じて巻き数を変えることで、安定した品質のロ
ールベールを通年給与できるようなる。なお、フィルムの巻き数を変えて流通する
場合には、ロールベールにフィルムの巻き数を表示するが必要である。
4.耕畜連携による飼料イネの地域内流通と広域流通
(1)耕畜連携体制の変遷
WCS 用イネ は日本の米政策と密接な関係があり、牧草やトウモロコシのように畜
産農家が自ら栽培して収穫調製までの全ての作業を行う体系よりも、耕種農家が栽
培管理を行い畜産農家が収穫調製を行う耕畜連携体制で始まった(図 19)。さらに、
近年になって組織化された耕種農家集団(土地利用型農業法人、集落営農組合等)
が WCS 用イネの栽培管理から収穫調製までの全ての作業を行う体系や耕種農家と
畜産農家の間にコントラクターを介した体制が中心となりつつある(図 20)。また、
特に都府県においてのコントラクターは任意機械利用組合が中心になって組織化さ
れてきたが、今後、社会的な信用性やコスト意識、経営意識を備えたサービス事業
体へと発展することに期待したい。
図 19.イネ WCS が普及し始めた当時の耕畜連携体制
図 20.コントラクターが仲介する耕畜連携体制
(2)ベールグラブを用いないハンドリング技術
イネ WCS の場合は畜産農家が自ら生産から利用までの全ての作業を行う自己完結
的な自給飼料とは異なり、流通をともなう飼料である。一般的な輸送作業にはベール
グラブを用いて、密封後のロールベールをトラック等の運搬車に積み込んで輸送する。
近距離輸送においては 2tダンプや軽トラック等を複数台利用し、畜産農家へピストン
輸送を行い配送されている。その他、ホイル型のベールグラブが作業できないような軟
弱圃場に置かれたロールベールの搬出作業を想定して、畜産草地研究所ではロールベー
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ルクランプやロールベール簡易荷得器具を開発している(図 21)。両装置とも簡易
な構造であり、農道からクレーン付トラック(ユニック車)を用いてロールを圃場外
へ搬出することができる(図 22)。そのためにも、農道付近にロールベール集中さ
せておくことが重要となってくる。
図 21.ベールグラブを用いずにロールを圃場外へ搬出するための簡易装置
図 22.ロールベールクランプ(左)と簡易荷役具(右)を装着したロールベールの
ユニック車を利用した圃場外への搬出作業
ロールベールクランプを利用する時の留意点としては、持上げ時にロールを変形
させることから、密封後のできるだけ早い時期にロールベールを圃場外へ搬出する
場合に用いることが必要である。一方、ロールベール簡易荷役具は、ロールを変形
させることなく持上げることができるため、圃場で発酵が進んだイネ WCS のロー
ルベールの搬出作業にも活用でき、変形による品質劣化防止にも効果的である。
5.イネWCSの今後の取り組み方向(広域流通)
イネ WCS は耕畜連携による地域内流通が基本であり、同一地域内の耕種農家と
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畜産農家の間で取引が行われている。しかし、作付面積の拡大とともに、畜産農家
の戸数(需要側)と米の生産調整面積(供給側)との間に不均衡が生じている地域
や市町村あり、既に地域や県域を超えた広域流通も始まりつつある。
(1)広域流通のためのハード面の課題
広域流通を推進する場合の重要な施設の一つとして考えられるのがストックヤー
ド(ロールベールの一時保管場所)である。広域流通の場合では地域内流通とは異
なり、収穫調製と同時に畜産農家までロールベールをピストン輸送する体系では、
輸送時間が制約要因となり、効率的な作業が行えなくなる。そのため、ストックヤ
ードで一時保管した後に、輸送作業は後日集中的に行う体制を検討すべきであ る 。
ストックヤードの設置場所として留意することは、団地化された圃場の近隣である
こと、雨水等の水が溜まらない場所であること、鳥獣害には十分に気を付けること、
さらに、ストックヤードでは多くのロールベールが保管されることから、サイレー
ジ臭に対する近隣の住民への配慮も忘れてはならない。なお、ストックヤードとし
て利用できる場所としては、圃場から近距離で輸送・保管できる遊休地の他に、水
田地帯の中心にあるカントリーエレベータ(CE)やライスセンター(RC)等の米麦
共同乾燥施設を活用することも検討する。
ストックヤードで一時保管されたイネ WCS は、順次、利用者である畜産農家へ輸
送(配送)される。地域内流通においては、生産者である耕種農家やコントラクタ
ー、または利用者である畜産農家がイネ WCS の輸送まで担うことが多い。しかし、
飼料生産基盤の脆弱な地域でもイネ WCS が利用できるように、地域や市町村、さら
に県域を越えた広域流通においては、運送業務の外部委託(運送業界への委託)も検
討する必要がある。
運送業務の外部委託化のためには大型トラックによる大量輸送によって、輸送経費
の削減を図るため、ストックヤードは大型トラックが出入りできるような場所を選定
する必要がある。また、ストックヤードで保管されたイネ WCS のロールベールの管
理(鳥獣害対策等)と運送業者によるロールベールのハンドリング作業も重要な課題
である。ストックヤードでのロールベールの管理を誰が行うかは、売買契約を保管場
所で行うか、畜産農家の庭先まで輸送された時に行うかによって異なり、それによっ
てロールベールの保管費やストックヤードの地代等の経費負担が誰になるかも異な
ってくる。このように、ストックヤードを活用する場合には、売買契約をどの時点で
行うかは、事前に検討しておくべき重要なことである。何れにしても、鳥害対策とし
てはテグスを張り、ネズミ害対策においては、十分な広さの保管場所が確保できれば、
ロールを密着して置かずに広々配置も効果的である。その他に、ストックヤードの周
辺には雑草を繁茂させないこともネズミ害対策につながる。また、ストックヤードの
保管者は定期的に保管状況を観察して、ピンホール等があれば速やかに補修すること
が必要である。一方、ハンドリング作業においては、収穫直後のロールベールはフィ
ルムの粘着性や材料草の復元性も高いが、ストックヤードで一定期間保管されたロー
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ルベールは発酵が進んであり、ハンドリング作業においてはフィルムを破損させな
いことは当然であるが、密封後の日数の経過とともにフィルムの粘着性も低くなり、
強度な把持作業によって変形したロールベールは空気が侵入しやすく、把持部を中
心にカビの発生や品質の低下を招くことがある(図 23)。そのため、ベールグラブ
による把持作業においては、ロールベールの変形をできるだけ避けることが、安定
した貯蔵にとって重要である。
図 23.ベールグラブの強度な把持作業によって発生したカビの状況
ロールベールの広域流通において、輸送業務を専門業者に委託する場合、ベール
グラブ等の特殊な機器を用いずに運送業界で最も多く利用されているフォークリフ
トを利用し、簡易にハンドリングを行うことのできるロールベール簡易荷役具等の
活用も検討することが必要である。なお、畜産草地研究所において開発した簡易荷
役具(図 21)はロールベールを変形させずに、運送業者が操作に熟練したフォーク
リフトによって容易に大型トラックへの荷積みと荷降ろしができる(図 24)。
図 24.簡易荷役具とフォークリフトを用いた
ロールベールの荷積み作業
(2)広域流通のためのソフト面の課題
広域流通おけるソフト面での重要な課題の一つは、これまでのような地域内流通
では耕種農家と畜産農家が、お互いの「顔の見える取引」であったが、広域流通にお
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いては「顔の見えない取引」になる。そのため、品種の情報や刈取り時期等の情報を
畜産農家へ的確に提示することが必要になってくる。先進的なコントラクターにおい
ては、既にロールベールに通し番号を記載したり、ロールにラベルを貼付して生産履
歴を管理しているが、その記載内容は様々である。
そこで、平成 23 年度に(社)日本草地畜産種子協会では「稲発酵粗飼料流通基準」
策定した。この流通基準は「原料イネ管理票」と「品質表示票(成分値)」、
「ロール
ベール表示票」から構成されている。
「原料イネ管理票」には耕種農家(栽培管理者)
が移植月日や肥料関係、農薬等の散布情報等を記録し、収穫調製組織(コントラク
ター等)は収穫時の熟期や病害虫や雑草の被害程度、圃場の状態等を記録する。こ
の栽培管理と収穫調製に関する二つの情報を統合し、販売者(収穫調製組織の場合
が多い)は、必要に応じて購入者(畜産農家)に各情報を提示する。また、ロール
ベールの形態で流通する場合には、販売するロールベールに統一した「稲発酵粗飼
料のロールベール表示票(表示ラベル:図 25)」を貼付することを推奨している。
図 25.「稲発酵粗飼料流通基準」で推奨しているロールベールの貼付ラベル
(3)生産履歴管理技術
畜産草地研究所では、農林水産省委託プロジェクト研究(略称:国産飼料プロ)に
おいて生産履歴管理作業の煩雑さを回避するため、生産者(コントラクター等)が保
有する圃場の地番、栽培品種(施肥量、農薬の散布情報等)が記載されている圃場台
帳と収穫調製時にしか得られない収穫時の熟度、圃場の状態、病害虫や雑草の被害程
度、フィルムの巻き数等の情報と圃場台帳とを簡易に統合するための生産履歴管理シ
ステムを開発した。
本システムは入力補助シート、フィールド端末機としてタブレット型 PC
(以下 TP)
またはバーコードリーダ(以下 BR)、移動基地局(ラベルプリンター、無線 LAN ア
クセスポイント)から構成されている。本システムを用いた生産履歴収集作業の流れ
とは、生産組織の事務所で収穫調製作業を行う圃場の情報(地番、圃場名等)と流通
-42-
基準で規定されている項目(熟期、圃場状態等)および、そのバーコードが付いた入
力補助シートを印刷する。収穫機のオペレータは作業開始前に入力補助シートの該当
項目にチェックし、ベールラッパのオペレータは補助シートを受取った後、TP また
は BR でチェック項目を読取り、移動基地局に無線伝送するとロールベールに貼付す
る商品ラベルが発行される(図 26)。なお、入力補助シートを利用することで、収
穫機とベールラッパが離れた場所で作業する場合においても、通信用端末等を増やす
ことなく、履歴情報の収集と受渡しができる。生産履歴を取得して管理する作業は、
これまでの作業に新たに加わる作業であるが、生産現場における情報の取得とラベル
貼付に要する時間は、本システムを導入することにより、人力作業による作業と比較
して約 1/3 に短縮できる。さらに、人力作業で取得した情報は事務所のパソコン等へ
入力し、管理する必要があり、この作業までを含めると、本システムの導入効果はよ
り大きくなる。
図 26.稲発酵粗飼料(イネ WCS )の生産履歴管理システムの構成
注)ラッパの作業者の項目選択は、バーコードからの読取り、PC 画面からのタップ操作のどち
ちらからでも行うことができる。
6.おわりに
イネ WCS は耕畜連携による流通をともなう粗飼料であり、これまでのような自給
飼料という概念から国産流通粗飼料として位置付けるためには、生産履歴が明確な飼
料として畜産農家に流通することが重要である。生産者にとっては、これまでの作業
に加えて新たな履歴管理作業が増えることになるが、生産履歴を的確に管理すること
は、畜産農家へ必要な情報を提示するだけでなく、劣化サイレージが流通した場合の
クレームに対する迅速な対応ができるとともに、今後の良質なサイレージを生産する
ために役立てることができる。さらに生産履歴を管理することは、広域流通に限らず、
WCS 用イネの生産面積の拡大にともなって、これまで以上に畜産農家が複数の生産
者からも安心して国産流通粗飼料を購入して利用できるようになる。
また、広域流通を推進するにあたって、最も問題となるのが輸送コストである。
前述のように広域流通においては、生産者自らが輸送することは困難であり、運送
業者へ委託する場合、流通コスト削減のためには、帰り便の有効活用や運送業者の
-43-
空期間等を活用するなどして、できる限り輸送コストの削減を図ることが必要であ
る。何れにしても、無駄な物(劣質サイレージ)は作らない、運ばないことが生産
コストや輸送コストの削減にとって極めて重要なことである。その他、イネ WCS
を TMR 素材として活用し、TMR センターを基軸として食品製造副産物等の未利用資
源や飼料用米、イネ WCS 等の国産飼料を混合して再梱包し、発酵 TMR として高付
加価値を付けた高栄養な国産飼料として流通させることも今後の課題である。
7.参考文献
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勉・石川哲也・千田雅之・石田元彦(2006)高品質な稲発酵粗飼料の調製が
可能な自走細断型飼料イネ専用収穫機、共通基盤成果情報
http://www.naro.affrc.go.jp/top/seika/2006/common/com06004.html
河本英憲・関矢博幸・押部明徳・小松篤司・福重直輝(2008)飼料イネロールベー
ルは「広々配置」すればネズミ食害を軽減できる、畜産草地成果情報
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/mouse_save.pdf
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カキタ・ヤンマー農機(株)(2007):汎用型飼料収穫機、畜産草地成果情報
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元林浩太・湯川智行・児島
ール運搬装置、農機誌
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70、72-78
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:飼料用カッティングロールベーラの開発、日草誌
49、
43-48
浦川修司・吉村雄志(2003b)
:飼料イネ用自走式ベールラッパの開発、日草誌
49、
248-253
浦川修司(2010)アンケート調査からみたこの 10 年間のWCS用飼料イネ研究と普
及の経緯.平成 22 年度飼料イネの研究・普及に関する情報交換会資料.畜産
草地研究所,那須塩原市,p63-76
浦川修司・松尾守展・喜田環樹(2011)イネ WCS の生産履歴管理システムの構築.
日草試 57(別):304
-44-
焼酎粕等を活用した発酵 TMR の調製・給与技術
九州沖縄農業研究センター
畜産草地研究領域
服部育男・神谷 充・神谷裕子・鈴木知之*
*現:畜産草地研究所
1.はじめに
近年、資源循環の意識の高まりや輸入濃厚飼料価格の高騰を背景に未利用資源の飼料化
が注目されている。九州地域を中心に生産される焼酎は、最近の焼酎ブームにより、生産
量が年々増加し、平成 20 年度では九州地域において約 53 万 kl の焼酎が生産された(国税
庁 2009)。それに伴って排出される焼酎粕は、宮崎県を例にとると焼酎 13 万 kl にたいし
て 23.3 万 t 発生している(甲斐 2007)ことから、原料や処理工程によって割合が多少異
なるとしても、九州地域だけで少なくとも約 95 万 t/年と推定される。従来、焼酎粕は産
業廃棄物として処分されていた。しかし、ロンドン海洋投棄条約批准に伴う国内法の改正
により、2006 年 4 月 1 日より海洋投棄が原則禁止となったことから、焼酎メーカは処理プ
ラントを建設し、処理を行っている。処理した焼酎粕は水分が減少し、栄養価が濃縮され
ることから、保存性、栄養価に優れ、飼料としての利用価値が高い。九州沖縄農業研究セ
ンターでは処理プラントから排出される焼酎粕濃縮液の飼料化について、調製・給与面か
ら検討を行ってきた。ここでは発酵 TMR 原料としての焼酎粕濃縮液の適性と利用技術に
ついて紹介する。
2.焼酎粕の処理と排出量
処理プラントの処理方法の一例をあげてみると、まず焼酎粕原液をスクリーンによって
固液分離し、ろ液部分の一部あるいは全部については加熱による濃縮処理を行い、固形部
分と一緒に乾燥され、飼料原料となり、配合飼料原料として利用されている(図 1)。し
かし、液体部分については乾燥化までに多くの化石エネルギーが必要なことから、1/4 程
度のコストで処理可能な濃縮液での飼料利用をメーカとしても検討してきた。現在稼働し
ている処理プラントは大きなもので 10 施設程度があり、全体の焼酎粕処理量は 1,190t/日
である(西岡 2010)。原料や時期によって変動はあるが、排出される焼酎粕濃縮液はおお
よそ 200t/日と推定される。
副資材
(フスマなど)
濃縮
生焼酎粕
濃縮液
固液分離
乾燥
脱水ケーキ
図1 焼酎粕の処理工程
-45-
乾燥品
3.焼酎粕の栄養価
焼酎粕の栄養価は原料によって大きく異なる。また、原料が同じでも生焼酎粕、濃縮液、
脱水ケーキ、乾燥品では栄養構成が異なる。飼料としての特性(表 1)は原料別にみると
麦、米由来の焼酎粕は粗タンパク質含量が 32-34%と大豆粕の 7 割程度含有している。イ
モ由来の焼酎粕は粗タンパク質含量が 20%前後で大豆粕の 5 割程度である。また、粗灰分
含量が麦、米と比較して高い値となっている。処理別にみると、麦由来の焼酎粕では生焼
酎粕と比較して濃縮液は粗タンパク質が高いが、その他の成分は同程度である。脱水ケー
キは粗脂肪含量が特異的に高い値になっている。イモ焼酎粕では濃縮液の粗脂肪含量が低
く、繊維が分離されているのでほとんどなく NFE が高い値になっている。逆に脱水ケーキ
は粗繊維含量が
高い値である。
乾燥品は副資材
の種類、混合割
合によっても異
なるので、分析
例として示す。
いずれも飼料と
しての利用はタ
ンパク質飼料の
代替として検討
されている。
表1 焼酎粕の飼料成分
乾物中(%)
水分 粗蛋白質 粗脂肪
麦 生
92.7
34.1
3.4
濃縮液
56.8
44.8
0.7
脱水ケーキ
68.3
24.8
16.3
乾燥品
4.4
32.2
4.8
米 生
94.2
59.4
10.9
濃縮液
72.5
41.1
3.3
脱水ケーキ
71.8
38.7
10.6
乾燥品
5
33.4
5.6
イモ 生
94.5
23.1
7.3
濃縮液
62.5
20.3
0.5
脱水ケーキ
75.4
19.8
6.3
乾燥品
4.5
20.4
2.3
大豆粕
11.7
52.2
1.5
NFE 粗繊維 粗灰分
51.5
3.7
7.4 堤ら(1992)
49.3
0.5
4.7 服部ら(2010b)
37.2
6.3
2.8 鮫島(2008)
46.8
7
4.7 大分畜試(1996)
2.3 鈴木ら(2011)
51.4
0.7
3.6 服部ら(2010b)
36.9
10.9
2.9 鮫島(2008)
53.3
3.4
4.4 西岡(2008)
48.2
10
11.5 犬童ら1976
64.7
0
14.5 服部ら(2010b)
40.6
28.7
4.6 鮫島(2008)
61.3
8.7
7.3 西岡(2008)
33.3
6.3
6.7 農研機構編(2001)
焼酎粕濃縮
液の栄養価について年間の変動を明らかにするために、原料が異なる 4 工場から経時的に
サンプリングし、飼料成分の変動を調査した(服部ら 2010a)。A 工場はほとんどが米を
原料にしていた。B 工場は麦とカンショが原料で、処理時期によってその比率は大きく異
なった。年間を通じて C 工場はカンショ、D 工場は麦のみを原料としていた(表 2)。
原料が単一の場合、年間で
変動が比較的大きいのは乾物
表2 原料構成
工場
A
B
C
率で、含量が多い粗タンパク
5月
米
麦
イモ
-
質、可溶性無窒素物は変動が
6月
麦2:米98
麦
イモ
麦
小さかったことから、飼料成
7月
米
-
イモ
麦
分は原料と乾物率を確認する
8月
米
-
イモ
麦
9月
米
イモ40:麦60
イモ
麦
10月
米
イモ
イモ
麦
11月
米
イモ90:麦10
イモ
麦
料が単一でない場合は粗タン
12月
米
-
イモ
麦
パク質は含量も多く、変動も
1月
麦10:米90
イモ10:麦90
イモ
麦
大きいこと、乾物率も変動が
2月
米
-
イモ
麦
大きいこと、また他の成分も
3月
米
-
イモ
麦
比較的変動係数が大きかった
4月
大豆2:麦2:米96
イモ13:麦87
イモ
麦
ことで、ほぼ特定できること
が明らかになった。一方、原
注:-, 未稼働等によりサンプル無し.
-46-
服部ら(2010a)
D
ことから、原料構成の確認と成分分析が必要であると考えられた(表 3)。
表3 焼酎粕濃縮液の飼料成分
工場
原料
乾物率 粗蛋白質
(%)
米
A
42.1
(%DM)
b
B
イモ・麦
33.1
(6.6)
a
(5.4)
C
イモ
48.6
D
麦
38.0
ab
44.5
(9.4)
NDFom
ADFom
ADL NDICP
(%DM)
(%DM)
(%DM)
(%DM) (%DM)
2.2
1.0
a
0.4
0.6
b
42.9
(80.7)
a
0.0
1.1
(29.8)
a
(8.5)
a
56.6
a
0.0
a
65.2
a
0.3
ab
49.3
c
(4.0)
a
6.6
7.3
d
14.0
b
(34.8)
b
0.4
(58.7)
(4.0)
(97.0)
3.8
(11.2)
(9.6)
(47.8)
c
(4.7)
b
(59.6)
(7.6)
(11.5)
粗灰分
(%DM)
(39.2)
(25.7)
20.4
NFE
(%DM)
b
35.0
c
粗繊維
(%DM)
c
50.5
(7.7)
粗脂肪
1.8
b
0.0
(107.0)
a
(90.6)
0.4
1.1
ADICP 推定TDN
(%DM)
b
(104.6)
a
0.0
0.0
(%DM)
b
1.5
(81.6)
a
(76.8)
4.8
(5.3)
84.1
b
(5.2)
c
0.0
a
0.0
a
0.0
0.0
a
0.0
a
77.3
ab
6.8
b
3.0
b
0.0
0.2
ab
0.1
a
84.8
(7.9)
b
b
(1.8)
a
0.0
85.7
a
(1.5)
(46.0)
(60.2)
(282.8)
注:同項目において異符号間に有意差あり(p<0.05, Tukey). 括弧内の数値は変動係数(%)を表す.
NFE;可溶性無窒素物,NDFom;中性デタージェント繊維,ADFom;酸性デタージェント繊維,ADL;酸性デタージェントリグニン,
NDICP;中性デタージェント繊維中の蛋白質,ADICP;酸性デタージェント繊維中の蛋白質,推定TDN;Weiss(1992).
(219.2)
b
(1.1)
服部ら(2010a)
牛への給与試験により栄養価を求めたところ、米、麦およびイモ焼酎粕濃縮液の乾物あ
たりの可消化粗タンパク質含量はそれぞれ 37.9、33.8 および 13.6%であり、可消化養分総
量(TDN)はそれぞれ 81.9、91.7 および 70.1%であった(鈴木ら 2011b)。
4.焼酎粕の保存性
焼酎の発酵はもろみ(酵母)によるアルコール発酵であり、その副産物としてクエン酸
が生産される(玉岡ら 1971)。そのため、その残渣である焼酎粕はクエン酸を含み、pH
は 4 前後である。生焼酎粕の水分は 93-95%であるため、そのままでは保存性が劣ること
が知られている。ギ酸を添加することで、保存性の改善が可能であるとの報告がある(大
塚ら 2007)。一方、脱水ケーキについては pH が低く、水分が 85.7-66.1%であることか
ら密封することで発酵は微弱であるが良質なサイレージとなり、長期保存が可能である。
表4 貯蔵条件が米焼酎粕濃縮液のpH、有機酸組成に及ぼす影響
水分
温度
条件
60%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
70%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
80%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
貯蔵期間
pH
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
4.8
4.8
4.9
4.9
4.9
4.7
4.8
4.8
4.8
4.8
4.6
5.5
5.5
4.6
4.7
有機酸組成(%DM)
Lact.
11.40
9.58
9.39
9.51
9.90
14.53
10.04
10.66
10.81
11.32
15.08
1.93
0.63
13.75
22.53
Acet. Prop. n-But. i-But N-Val. i-Val.
2.22
1.66
1.68
1.71
1.74
3.21
2.18
2.24
2.22
2.27
3.61
10.48
9.66
3.28
5.48
-47-
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.08
2.60
2.88
0.00
0.00
0.15
0.11
0.11
0.12
0.11
0.15
0.26
0.29
0.13
0.07
0.15
0.00
0.38
0.13
0.25
0.06
0.03
0.05
0.02
0.02
0.05
0.00
0.04
0.00
0.00
0.08
0.00
0.35
0.00
0.08
0.00 0.00
0.00 0.03
0.00 0.05
0.00 0.00
0.00 0.06
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.04
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.00
0.00 0.07
(鈴木ら 2011)
濃縮液についても同様に pH は 4 前後であり、かつ水分が 69-46%となる結果、水分活性
が 0.83-0.97 まで低下し、長期にわたる保存が可能である。米焼酎粕濃縮液を供試して、
濃縮度が異なる濃縮液(設定水分含量 80、70 および 60%)を異なる温度条件(30℃およ
び 5℃)および異なる環境(嫌気および好気条件)で 14 週間貯蔵したところ、設定水分 60
%および 70%の濃縮液では、pH、有機酸組成および微生物相の貯蔵中における変動はみら
れず一定した品質を保っていた。一方、水分 80%の濃縮液では 30℃で貯蔵した場合、乳酸
の減少、酪酸等の VFA が生成し pH が上昇した。また、5℃貯蔵においても、酵母あるい
は糸状菌の増殖が認められた(表 4、5)。以上の結果から、米焼酎粕濃縮液は水分 70%以
下まで濃縮されれば、3 ヵ月程度は安定して貯蔵できることが明らかとなった(鈴木ら
2011)。
表5 貯蔵条件が米焼酎粕濃縮液の微生物相に及ぼす影響
生菌数( LogCFU/gFM)
水分
温度
条件
60%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
70%
30℃
5℃
嫌気
好気
嫌気
好気
80%
30℃
5℃
1
嫌気
好気
嫌気
好気
貯蔵期間
一般細菌 大腸菌
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
0日
14 週
14 週
14 週
14 週
4.3
4.4
4.3
4.5
4.3
4.3
4.2
4.7
4.5
4.2
4.4
4.7
4.4
4.8
4.3
-1
2.0
4.0
-
検出せず
ホモ
ヘテロ
大腸菌
酵母 糸状菌
乳酸菌 乳酸菌
群
3.2
3.1
3.9
2.0
4.0
3.0
4.7
3.6
2.3
4.3
2.6
3.2
4.2
5.0
6.5
2.0
4.7
5.7
4.1
3.3
4.5
4.4
3.0
4.1
4.1
2.8
5.9
5.6
3.0
7.2
6.0
4.1
5.0
4.5
5.4
4.8
5.0
5.3
(鈴木ら 2011)
5.焼酎粕混合発酵 TMR の発酵品質
焼酎粕濃縮液のサイレージ発酵に影響すると考えられる成分についてみると、緩衝能はい
ずれもきわめて高い値であった。したがって、発酵 TMR の原料として用いる場合、発酵に
よる pH の低下を緩慢にさせる可能性があった。しかし、pH はいずれも 4.0 以下であり、発
酵品質を改善する酸添加剤のような働きも期待できると考えられた。単少糖含量は 9.0-23
%DM と高く、発酵 TMR の原料として用いた場合、発酵基質の供給源としての利用ができ
ると考えられた。しかし、その組成をみると 5 炭糖のアラビノースがほとんどであり、5 炭
糖はサイレージ発酵では乳酸菌によって乳酸と酢酸に変換され、望ましくない有機酸組成と
なる可能性がある(表 6)(服部ら 2010a)。これらの影響を明らかにするため、割合を変
えて焼酎粕濃縮液を混合して、発酵または非発酵 TMR の調製試験を実施した。
-48-
非発酵 TMR
表6 焼酎粕濃縮液の緩衝能、水分活性、pHおよび単少糖含量
工場
A
B
C
では焼酎粕濃
縮液を混合す
原料
緩衝能(mE/kg DM)
水分活性
pH
単少糖(% DM)
シュクロース(% DM)
グルコース(% DM)
キシロース(% DM)
ることで TMR
の pH が低下
し、調製後の発
熱を米、麦では
6 時間、イモ濃
縮液混合では
米
1041
0.94
3.9
18.7
0.6
1.7
1.7
14.8
アラビノース(% DM)
20 時間遅延さ
イモ・麦
1112
0.95
3.9
23.0
3.3
3.0
3.5
13.2
a
b
a
b
a
b
a
b
D
イモ
1358
0.88
3.9
22.5
1.9
1.5
3.6
15.5
ab
b
a
c
c
c
b
b
麦
1288
0.94
4.0
9.0
0.2
0.2
1.2
7.4
b
a
a
c
b
b
b
b
注:同項目において異符号間に有意差あり(p<0.05, Tukey).
ab
b
a
a
a
a
a
a
服部ら(2010a)
せた(図 2)。
発熱抑制のメカニズムは明らかでないが、焼酎粕濃縮液の混合は、非発酵 TMR でしばしば
問題となる変敗による養分や嗜好性の低下を抑制する効果が期待できると考えられた。
米
60
20%区
55
50
0%区
()
温 45
度 40
℃ 35
30%区
10%区
30
25
20
0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 調製後時間(hr)
麦
イモ
55
10%区
50
50
45
45
温
40
度
℃ 35
10%区
0%区
40
温
度 35
℃
30
0%区
20%区
()
()
30
20%区
30%区
25
25
20
30%区
20
0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 調製後時間(hr)
0 4 8 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 調製後時間(hr)
図2 焼酎粕濃縮液の混合が TMR 調製後の発熱に及ぼす影響
次に、米、麦濃縮液の混合割合を変えて調製した発酵 TMR(服部ら 2012)では、混合
割合にかかわらず、よく発酵した TMR が得られることが明らかとなった(表 7)。また、
発酵品質向上程度や好気的変敗を考慮すると乾物あたり 10~20%の混合が適していると考
えられた。一方、イモ濃縮液では、混合割合にかかわらず、フリーク評点で示される発酵
品質は優れているものの、発酵全体が抑制され、pH が高く、乳酸含量が低い TMR となる
ことが明らかとなった。そこで、米、麦およびイモ由来の濃縮液を乾物あたり 20%混合し、
飼料イネ WCS、オーツ乾草および濃厚飼料類を混合して、一般的に発酵 TMR 調製で用い
られるフレコンバッグで TMR を調製した(表 8)(服部ら 2010b)。TMR ミキサーへの
焼酎粕濃縮液の投入は汚泥用の水中ポンプで問題なく、他の材料ともよく混合できる。
-49-
表7 焼酎粕濃縮液の混合割合が発酵TMRの発酵品質に及ぼす影響
有機酸組成(%FM)
乾物率
フリーク
pH
1
2
乳酸
(%)
評点
C4C2+C3
0
49.9
4.11
2.67
0.53
0.01
97
米
10
48.4
4.08
2.96
0.70
0.01
98
20
49.6
4.17
2.81
0.58
0.03
91
30
48.2
4.20
2.57
0.47
0.04
91
麦
10
50.5
3.95
3.27
0.76
0.00
99
20
50.4
4.15
3.21
0.81
0.01
98
30
50.9
4.15
3.92
0.77
0.02
99
イモ
10
53.0
4.82
1.71
0.32
0.00
95
20
49.8
4.53
1.83
0.36
0.00
98
30
49.8
4.43
1.54
0.22
0.00
99
それぞれ、夏季と冬季に調製し、3週間と7週間貯蔵した値の平均値
1
酢酸+プロピオン酸.2酪酸,カプロン酸,吉草酸の合計(異性体含む).
(服部ら2012より作成)
濃縮液
混合割合
(%DM)
表8 TMRの組成(%DM)と緩衝能,pH,VBN
対照区 米濃縮液区 麦濃縮液区 イモ濃縮液区
飼料イネWCS
16
16
16
16
オーツ乾草
16
16
16
16
トウモロコシ
24
23
23
23
ビートパルプ
8
8
8
8
大麦
12
12
12
12
大豆粕
22
4
4
4
炭酸カルシウム
1
1
1
1
濃縮液
20
20
20
1
75.4
75.3
75.9
74.0
TDN (%DM)
1
18.3
18.3
16.5
13.1
CP (%DM)
可溶性炭水化物(%DM) 9.5
8.7
8.1
13.9
緩衝能(mEq/DMkg)
226
336
300
382
pH
5.8
4.9
4.4
4.7
VBN(mg/100gFM)
9.4
75.3
78.7
25.2
1
計算値.
服部ら(2010b)
TMR 調製時の緩衝能と
35
対照区
VBN は濃縮液の混合により
米濃縮液区
濃縮液を混合しない対照区と
比較して高まり、pH は濃縮液
温
度25
( )
の混合により低下した(表
30
℃
8)。貯蔵期間中の品温の推移
をみると、対照区では詰め込
み直後から上昇し、貯蔵 4 日
目にピークに達した。一方、
20
麦濃縮液区
イモ濃縮液区
外気温
15
0 5 10 15 20 25 30 35 濃縮液を混合した区の品温は
貯蔵日数(日)
外気温より高く推移したもの
図3 貯蔵中における発酵TMRの品温と外気温の推移
の、その上昇は緩やかでほぼ
対照区
-50-
米濃縮液区
麦濃縮液区
イモ濃縮液区
外気温
一定で推移した(図 3)。発酵品質についてみると対照区と比較して米、麦濃縮液混合区の
pH は低く、乳酸含量は高まる傾向があった。一方、イモ濃縮液混合区では対照区と比較し
て乳酸含量が低く、C2+C3 含量が高くなった。その結果、Flieg's score は対照区より低くな
った。乾物回収率は対照区と比較して、米、麦濃縮液混合区は高い値を示し、イモ濃縮液混
合区は低い値となった。以上の結果、米、麦濃縮液を発酵 TMR の原料として用いた場合、
発酵初期の発熱が抑制され、発酵品質は対照区と同等か優れており、乾物回収率が高まるこ
とが明らかとなった。一方、イモ濃縮液の混合は発酵初期の発熱は対照区より抑制されるも
のの、発酵品質が劣り、乾物回収率が低下するなど他と異なる様相を示した(表 9)。イモ
濃縮液は処理プラントの処理方式が数種あり、その処理方式によって、濃縮液の性状、組成
が異なることから、イモ濃縮液については今後詳細に検討する必要がある。
表9 発酵TMRの発酵品質と乾物回収率
有機酸組成(%FM)
処理
水分
pH
乳酸
(%)
C2+C3 1
C4- 2
b
b
b
対照区
51.7 3.8
4.37
1.15
0.23 a
a
b
a
麦濃縮液区
51.1 3.7
4.65
0.73
0.15 a
a
c
a
米濃縮液区
52.4 3.7
4.95
0.86
0.20 a
イモ濃縮液区
52.8 3.9 c
2.72 a
1.62 c 0.24 a
1
VBN3
Flieg's
score
(mg/100gFM)
51
125
123
66
a
c
c
b
2
酢酸+プロピオン酸. 酪酸,カプロン酸,吉草酸の合計(異性体含む).
72
82
78
44
評価
a
a
a
b
乾物回収率
(%)
良
94.1
優
96.6
良
97.1
可
92.0
服部ら(2010b)
b
a
a
c
3
Volatile Basic Nitrogen.
同列内で異符号間に有意差あり(p<0.05 Tukey法).
6.乳牛への焼酎粕濃縮液給与
鈴木ら(2010b)は泌乳牛において TMR 中に 20%混合されている大豆粕を米焼酎粕濃
縮液で置き換えた場合(TMR の TDN および CP 含量は同じ)、乾物摂取量、乳生産量お
よび乳成分は同じであるが、CP 消化率の低下と、血中および乳中尿素態窒素濃度の低下
を観察している。米焼酎粕濃縮液の結合性 CP(不消化の CP)含量は大豆粕に比べて高か
ったことから(CP あたりそれぞれ、4.5%および 1.3%)、米焼酎粕濃縮液は大豆粕並み
の CP 含量であるが、その消化性は大豆粕よりも低いことを報告している。田中ら(2010b)
はやはり米焼酎粕濃縮液を 20%含む TMR あるいは米焼酎粕濃縮液を含まない TMR を泌
乳牛に給与し、生産された牛乳のにおいに差はないことを報告している。
麦焼酎粕濃縮液については福岡県農業総合試験場で研究が行われており、麦焼酎粕濃縮
液を 0、10 および 20%含む TMR の発酵品質、および乾乳牛における嗜好性に差がみられ
ないことが示された(横山ら 2009)。また、TDN および CP 含量が同じで、麦焼酎粕濃
縮液を 0、10 および 20%含む TMR を泌乳牛に給与したところ、乾物摂取量、乳量および
乳成分に処理間差はみられなかったが、0 および 10%混合した場合に比べ、20%混合した
場合、CP 消化率の低下が認められた(森永ら 2010)。また、このときの牛乳の官能検査
では、20%混合した場合のみ微発酵臭が認められた。田中ら(2010a)もやはり麦焼酎粕
濃縮液を TMR に 20%混合した場合、
牛乳の風味に変化が認められる可能性を示している。
これらの結果から、麦焼酎粕濃縮液では CP 消化率および牛乳への風味の影響がネックと
なり、飼料への混合割合の上限は 10%とすべきであろう。
イモ焼酎粕濃縮液について鈴木ら(2010a)は乾物比 20%含む発酵 TMR あるいは、こ
-51-
れを含まないが TDN と CP 含量が等しい TMR を泌乳牛に給与している。その結果、乾物
摂取量および 4%脂肪補正乳量に差はみられず、CP 消化率も同程度であったが、イモ濃縮
液 TMR を摂取した乳牛では尿量が約 2 倍に増えることを観察している。これはイモ焼酎
粕の高いカリウム含量によるもので、実際、イモ焼酎粕濃縮液を含む TMR のカリウム含
量は 2.37%と、日本飼養標準乳牛(農業・食品産業技術総合研究機構 2007)で示されて
いる上限値 3%を下回っていたが、イモ焼酎粕濃縮液を含まない TMR(1.50%)よりも高
い値であった。日本の自給粗飼料は一般的にカリウム含量が高いため、イモ焼酎粕濃縮液
を利用する場合は特に全体のカリウム含量に注意して飼料設計する必要がある。イモ焼酎
粕濃縮液が牛乳の風味への影響について、鈴木ら(2010c)はパネルテストおよび味セン
サーによる検討を行い、給与飼料中の 20%までイモ焼酎粕濃縮液が混合されていても、こ
れらに影響は認められないことを報告している。イモ焼酎粕については脱水ケーキの排出
割合が高い。九沖農研の分析結果では、濃縮液に比べて繊維および粗脂肪が高いが濃縮液
で問題となるカリウム含量が低いことが示されている。今後は脱水ケーキについても利用
技術の検討を行っていく予定である。
7.肉牛への焼酎粕濃縮液の給与
肉牛への焼酎粕原液や乾燥焼酎粕の給与事例はあるが、濃縮液の給与事例は報告されてい
ない。イモ焼酎粕濃縮液は麦や米焼酎粕濃縮液と比較して CP 含量が低く、肥育牛への多給
が可能と考えられる。一方で、イモ焼酎粕濃縮液の TDN 含量は、肥育牛用の配合飼料より
も低いため、イモ焼酎粕濃縮液を配合する場合は他の TDN 含量の高い飼料原料で成分を調
整する必要がある。特に自給飼料で調整する場合、食品残さでは豆腐粕や米ヌカなど、飼料
作物では飼料米(玄米)などが適している。神谷らは肥育牛の仕上げ期 5 ヵ月間(2010b)
または肥育中後期 12 ヵ月間(2011)に、カンショ焼酎粕濃縮液をそれぞれ 30%、25%配合
した発酵 TMR で慣行飼料の 6 割程度代替したところ良好な枝肉成績が得られ(表 10、11)、
カンショ焼酎粕濃縮液を給与すると牛肉のビタミン E 含量が高まることを明らかにした(図
4)。また、胸最長筋の脂肪酸組成や血液性状にも問題は認められず、肥育牛用飼料として
利用可能であることを示している(神谷ら 2010a)。
表10 枝肉格付成績
頭数
と畜月齢
枝肉重量 (kg)
表11 飼養成績
仕上げ期給与
中後期給与
仕上げ期給与
中後期給与
対照区 試験区
対照区 試験区
対照区 試験区
対照区 試験区
6
28.0
511
6
28.5 NS
520 NS
5
29.8
516
6
29.9 NS
529 NS
胸最長筋面積 (cm )
ばらの厚さ (cm)
64
7.7
65 NS
8.0 NS
60
8.0
61 NS
7.6 NS
皮下脂肪の厚さ (cm)
歩留基準値
3.2
73.5
2.5 NS
74.4 NS
2.3
74.0
2.4 NS
73.6 NS
BMS No.
BCS No.
5.7
4.0
6.2 NS
3.8 NS
6.2
4.2
6.0 NS
3.8 NS
光沢
締まり
3.0
4.2
3.0 NS
4.2 NS
3.0
4.0
3.0 NS
4.0 NS
きめ
BFS No.
4.0
4.2
4.3 NS
4.2 NS
3.8
4.0
4.0 NS
4.0 NS
光沢と質
5.0
5.0 NS
4.8
5.0 NS
2
NS : 有意差なし.
-52-
頭数
乾物摂取量 (kg/頭・日)
配合飼料
6
6
5
6
8.0
3.3 -
8.1
2.8 -
0.9
8.8
0.9 NS
5.1 9.2 NS
1.2
9.2
0.4 4.8 8.0 NS
TDN摂取量 (kg/頭・日)
CP摂取量 (kg/頭・日)
NDF摂取量 (kg/頭・日)
7.0
1.1
2.4
7.3 NS
1.4 NS
2.2 NS
7.2
1.2
2.7
6.4 NS
1.1 NS
1.8 *
ADF摂取量 (kg/頭・日)
でんぷん摂取量 (kg/頭・日)
1.1
3.9
1.1 NS
3.1 NS
1.1
3.0
0.8 *
2.2 *
0.48
0.36 NS
0.69
0.63 NS
稲わら
TMR
合計
日増体量 (kg/日)
TDN : 可消化養分総量; CP : 粗タンパク質; NDF : 中性デタージェント繊維;
ADF : 酸性デタージェント繊維; * : P < 0.05; NS : 有意差なし.
8.糖蜜代替として配合飼料原料利用
2.5
現在、飼料工場で作られるペレット等の
対照区
試験区
配合飼料のほとんどに、嗜好性向上等を目
* P<0.05
2
的に糖蜜が添加されている。糖蜜は高価な
焼酎粕濃縮液で代替できれば、配合飼料の
製造コスト低減および飼料自給率の向上に
g 1.5
0
0
1
/g
m 1
mg/100g
ため、地域未利用資源である麦またはイモ
つながると考えられる。そこで、麦または
イモ焼酎粕濃縮液の添加による配合飼料の
0.5
品質への影響を確認し、乾乳牛および肥育
牛における麦またはイモ焼酎粕濃縮液の嗜
好性を糖蜜と比較検討した(神谷ら 2012)。
0
生肉当たり
粗脂肪当たり
図4. 胸最長筋のαトコフェロール含量(中後期給与).
肥育牛用配合飼料に糖蜜、麦またはイモ焼酎粕濃縮液を原物で 5%添加し、1 ヶ月貯蔵して、
貯蔵中の温度変化、貯蔵前後の pH、微生物相を比較し、貯蔵性を評価した。その結果、麦
焼酎粕濃縮液、イモ焼酎粕濃縮液、糖蜜の添加配合飼料における 1 ヶ月貯蔵後の品質は同
等であり、添加による貯蔵性への明らかな影響は認められなかった(表 12)。
表12 焼酎粕濃縮液の混合が配合飼料貯蔵中のpH、微生物生菌数の変動に及ぼす影響
微生物生菌数(logCFUg/FM)
pH
糸状菌 一般細菌 大腸菌群
大腸菌
酵母
6.3
3.3
2.0
4.1
2.9
1.0
対照区
6.1
1.8
3.3
4.2
2.0
1.0
糖蜜
調製時
6.0
2.8
2.7
5.1
2.1
1.0
ムギ焼酎
6.0
3.5
2.6
4.0
2.0
1.0
イモ焼酎
6.3
1.0
3.2
4.0
3.5
1.0
対照区
6.1
1.0
3.1
4.5
3.1
1.0
糖蜜
1か月後
6.1
1.0
3.2
4.4
3.5
1.0
ムギ焼酎
6.1
3.1
3.1
4.5
4.0
1.0
イモ焼酎
肥育牛では、黒毛和種去勢牛(肥育中期、平均体重 508kg)3 頭を供試し、肥育牛用配
合飼料(無添加)および糖蜜または麦焼酎粕濃縮液を原物で 5%混合した飼料を用いて、3
種類の供試飼料から 2 種類ずつ全ての組み合わせについて、一対比較法により嗜好性試験
を実施した。その結果、給与 23 時間後に、無添加と麦焼酎粕との比較では麦焼酎粕添加
飼料を多く摂取し、糖蜜と無添加では無添加飼料を多く摂取し、また麦焼酎粕と糖蜜では
麦焼酎粕添加飼料を多く摂取した(図 5)。
乳牛については、ホルスタイン種乾乳牛 4 頭(平均体重 602 kg)を供試し、破砕玄米に
糖蜜、麦またはイモ焼酎粕濃縮液のいずれかを原物で 5%添加した飼料を用いて、肥育牛
と同様に一対比較法での嗜好性試験を行った。給与 30 分後に、糖蜜とイモ焼酎粕ではイ
モ焼酎粕添加玄米を多く摂取し、糖蜜と麦焼酎粕では麦焼酎粕添加玄米を多く摂取した。
麦焼酎粕とイモ焼酎粕では、摂取量は同等であった(図 6)。
-53-
3.0
b
2.5
b
d
a
摂取量(kg)
摂取量(kg)
10
9
8
)g 7
(k 6
ハ
・ 5
・ 4
ロ
・ 3
2
1
0
a
c
無添加
麦
糖蜜
比較1
無添加
比較2
麦
2.0
1.5
1.0
a
0.5
b
b
a
0.0
糖蜜
糖蜜
比較3
イモ
糖蜜
比較1
図5 肥育牛嗜好性試験における23時間後の飼料摂取量
a,b:P<0.01, c,d:P<0.05
麦
イモ
比較2
麦
比較3
図6 乾乳牛嗜好性試験における30分後の飼料摂取量
a,b:P<0.01
さらに、飼料摂取量に及ぼす影響を明らかにするため、配合飼料への焼酎粕濃縮液添加割
合の異なる 4 種類の濃厚飼料(乾物ベースの添加割合 0%、10%、20%、30%)について、
黒毛和種肥育牛(去勢 4 頭、平均 16 ヵ月齢)をもちい、1 期 2 週間の 4×4 ラテン方格試
験で比較した(神谷ら
印刷中)。濃厚飼料と TDN 摂取量は 10-20%区で最も高値で
(quadratic、P < 0.05)、CP 摂取量は 10-30%区で高値であった(linear、 P < 0.01; quadratic、
P < 0.05)。飼料の乾物消化率は 10-20%区で最も高い傾向にあった(quadratic、P < 0.10)
(図 7)。尿中窒素排泄量は 10-20%区で最も高値であった(quadratic、P < 0.05)が、窒素
摂取量に対する尿中窒素排泄量の割合に違いはなかった。以上の結果から、 配合飼料への
焼酎粕濃縮液添加 10-20%で黒毛和種去勢牛において飼料消化性は高く、濃厚飼料摂取量が
10
2.0
8
1.5
6
1.0
4
0.5
2
0
粗飼料摂取量(kg)
濃厚飼料/TDN摂取量(kg)
増加する可能性が示された。
0.0
0
10
20
30
焼酎粕濃縮液添加割合(%)
図7 イモ焼酎粕濃縮液の給与が肥育牛の飼料摂取量に及ぼす
影響
濃厚飼料
TDN
粗飼料
以上より牛においては、麦およびイモ焼酎粕濃縮液は、糖蜜より嗜好性が良いと考えら
れ、肥育牛に対しては焼酎粕濃縮液を濃厚飼料に添加することで、摂取量が増加する効果
が認められた。ただし、実際に麦またはイモ焼酎粕濃縮液をペレット等の配合飼料に加工
した場合の嗜好性については、今後の検討が必要である。
-54-
9.まとめ
焼酎粕は資源量も豊富で、濃縮することで従来より格段に扱いやすい飼料資源となって
いる。しかし、廃棄物であることから、厳密な衛生管理や、エコフィード認証、あるいは
飼料登録などの法的な管理が一層重要である。なお、麦焼酎粕濃縮液については、暫定値
申請が承認され、飼料成分と栄養価が公定規格として定められる予定である(神谷ら
2013)。さらに輸送方法やコストなども含めた利用システムの構築が今後の課題である。
焼酎粕濃縮液はウシ用飼料として栄養価が高く、濃厚飼料の一部を代替することができ
るが、その原料やウシの用途によって給与上限や給与上の注意点は異なる。すなわち、乳
牛において、米焼酎粕濃縮液は大豆粕並みの栄養価を持つが、タンパク質の消化性は低い
ことに注意が必要である。麦焼酎粕濃縮液はタンパク質消化性の低さに加え、牛乳への風
味の移行が認められる。イモ焼酎粕濃縮液はカリウム含量が高く、カリウム含量が給与上
のボトルネックとなる。肥育牛ではイモ焼酎粕濃縮液を配合飼料中 18%程度の代替実績が
あり、飼料原料としての利用が期待される。
粕類は一般的に高栄養であるが、保存性、ハンドリングあるいは栄養上の特異性を持つ
場合が多い。本報告で示した焼酎粕濃縮液のように、その特徴を理解して発酵 TMR 原料
としての利用が進めば、生産費の抑制、飼料自給率や畜産物の安全性向上に寄与できるだ
けでなく、粕類の有効利用を通して、畜産業が地域産業に不可欠な存在になることにも貢
献できるであろう。
10.参考文献
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印刷中
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鈴木知之・神谷裕子・田中正仁・服部育男・佐藤健次(2010b)大豆粕の米焼酎粕濃縮液
への置き換えが乳牛の乳生産成績に及ぼす影響.日畜会報 81: 443-448.
鈴木知之・ 神谷裕子・ 田中正仁・ 服部育男・ 佐藤健次(2010c)カンショ焼酎粕濃縮液
を含む発酵 TMR は泌乳牛の飼料として利用できる.H21 年度九州沖縄農業研究成果
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鈴木知之・服部育男・田中正仁・神谷裕子・神谷充・佐藤健次・地下和志・福山満生・板谷
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田中正仁・ 鈴木知之・ 神谷裕子(2010b)泌乳牛用 TMR 素材としての米焼酎粕濃縮液.
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玉岡寿・田辺幾之助・大林晃・松村悦男・小林武一(1971)旧式焼酎醸造の微生物学的研究
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-57-
-58-
未利用資源を材料とした発酵 TMR の調製・給与技術
畜産草地研究所
家畜飼養技術研究領域
野中
和久
1.はじめに
完全混合飼料※(TMR)は、粗飼料、濃厚飼料、ミネラルなどすべての飼料原料を給与
家畜の要求量に合わせて混合した飼料であり、日本でも乳牛の群管理飼養増加にともなっ
て給与飼料の中心的な位置を占めるようになった。TMR の長所として、1)粗飼料と濃厚
飼料を混合した均一な飼料を給与することにより第一胃内の発酵が安定し、これによって
乳量、乳成分を高位安定させ、消化器病の発生を少なくできる、2)自由採食により乾物摂
取量を高めることができる、3)群管理飼養に対応した飼料給与ができる、4)飼料給与の
機械化が可能になり、給与作業の省力化が可能になる、5)乳期に対応した給与飼料の養分
濃度設定に容易に対応できる、などが挙げられる。一方、短所として 1)飼料混合用ミキ
サが必要、2)粗飼料等の細切が必要、3)泌乳期に応じた牛群のグループ編成が必要、と
いった問題はあるが、1)、2)については、近年増加傾向にあるコントラクターや TMR セ
ンターの活用により、飼料調製から混合・給与までの外部委託化が進展してきた。また、
この動きと連動して TMR の調製法も従来のフレッシュタイプ TMR から発酵 TMR へと変
貌し始めている。
発酵 TMR は、混合直後の TMR をフレコンバッグや細断型ロールベーラで再梱包・貯蔵
し、給与側の都合に合わせて開封して家畜に給与する技術であるが、その普及により、1)
個々の農家における飼料混合用機械・設備などの調達が不要になり、2)悪天候下での飼料
混合調製作業が回避され、3)夏場の餌槽内残飼の変敗・廃棄量が減り、4)採食量も増え
るなど、これまでの飼料調製給与面での問題点が克服されつつあり、農業現場でも発酵
TMR の有利性が認識され始めている。
ここでは、牛向けの飼料として普及が進んできた発酵 TMR や、飼料用米をはじめとす
る各種 TMR 素材について調製・給与に関する研究事例を紹介する。
※改訂草地学用語集(2000)に掲載されている「Total mixed ration(TMR)」の和訳は、
「完全混合飼料」で
はなく単に「混合飼料」であるが、①「TMR」という言葉は、牛の必要とする全ての栄養成分を完全に満
たす混合飼料(コンプリートフィード)の意味で捉えられていること、また、②一部の栄養素を含まない
混合飼料(セミコンプリートフィード)を表す場合には、
「Partial mixed ration
(PMR)」や「Partial TMR
(pTMR)」
といった用語が使われること等から、本稿では「TMR」を「完全混合飼料」と訳し使用する。
2.TMR調製技術の変遷
現在、主に TMR センターを通じて利用されている TMR は、フレッシュタイプ、発酵
TMR の二つに大きく分類される。フレッシュタイプは生の粕類やサイレージと濃厚飼料を
混合した TMR であり、地域賦存資源などの有効活用ができるものの、開封後の好気的変
-59-
敗が起きやすく調製後はできるだけ早く給与する必要がある。
このフレッシュタイプの保存性を高めるために開発されたのが発酵 TMR といえる。発
酵 TMR は、フレッシュタイプの TMR をサイロなどで数週間~数ヶ月嫌気発酵させたもの
で、1980 年代から研究開発が行われてきた。近年では、ポリエチレン製の内袋を入れたフ
レコンバッグでの脱気・梱包(写真 1)や、細断型ロールベーラでの梱包およびラップ被
覆など(写真 2)、搬送可能な形態で密封貯蔵する技術が格段に進歩したため流通が容易
になり、TMR センターの増加と相まって利用が増えている。発酵 TMR の貯蔵法には以下
のものがある。
写真 1
フレコンバッグでの梱包
写真 2
細断型ロールベーラでの梱包
(株式会社 那須の農)
(浦川 2005)
1)フレコンバッグ
ポリエチレン製の内袋をフレコンバッグに入れて、その中に TMR を詰め込む。密封す
ると発酵がはじまり炭酸ガスが発生するため、数日後に袋を開けてガス抜きをする。袋
に逆止弁を付けガスを自動的に抜く場合もある。その後、内袋は陰圧になるため、酸素
が入り TMR 表面にカビや酵母の発生する場合がある。そのため、特に夏場の長期間貯蔵
は避ける。近年は縦型の圧縮梱包装置により TMR を圧縮してポリ袋に入れ密封する方法
も使われている。これは、フレコンバッグに詰め込むだけの方式より貯蔵性は高まるが、
ガス抜きをする必要はある。
トウモロコシサイレージ用に開発され
た細断型ロールベーラを利用し、混合直後
の TMR をロールベールに梱包する方式で
ある。梱包密度(図 1)はフレコンバッグ
に比べて約 1.23 倍になり嫌気性が高まる
梱包密度(DMkg/m3)
2)細断型ロールベーラ
上、密封後の脱気作業が不要となる。現在
ではミキサ・細断型ロールベーラ・ラッピ
ングマシンを連結したシステムを導入す
フレコンバッグ
細断型ロールベール
図 1 発酵 TMR の梱包密度の比較
る TMR センターが増えている。
(喜田ら 未発表)
-60-
3)六面梱包
TMR の新しい梱包形態として、六面梱包ベールが開発され実用化されている(写真 3)。
六面梱包ベールは梱包密度が 390kg/m3DM とフレコンバッグ(200 kg/m3 DM:いずれも
畜草研での測定)の約 2 倍であり発酵品質や貯蔵性が高い。また、運搬時の利便性も高
く広域輸送に適したタイプの発酵 TMR といえる。
写真 3 六面梱包ベール
(株式会社 那須の農)
3.発酵TMRの特徴
これまでの研究から、発酵 TMR はフレッシュタイプ TMR に比較して様々なメリットを
持つことが明らかになってきた。以下に列記する。
1) 品質の安定性
発酵 TMR は嫌気貯蔵されているため保存性の高い事が特徴であり、特に細断型ロール
ベーラで梱包したものはフレコンバッグに比較して梱包密度が 23%高く(図 1)、発酵品
質も良好で、夏場に調製した場合でも 1 年間は良質なまま保存が可能であった(表 1)。
表 1 梱包形態の異なる発酵 TMR の発酵品質の推移(喜田ら 未発表)
梱包形態 貯蔵期間
水分
pH
乳酸
(%)
(%)
0日
56.8
5.3
0.51
7日
55.1
4.5
1.74
フレコン
トランス
14日
54.4
4.5
1.98
バッグ
28日
51.5
4.4
1.94
90日
54.8
4.5
2.28
0日
56.8
5.3
0.51
7日
53.7
4.6
1.70
細断型
14日
53.9
4.6
2.02
ロール
28日
51.5
4.6
1.92
ベール
90日
52.5
4.4
2.21
1年後
50.2
4.5
6.07
注)調製は2006年8月22日.屋外にて貯蔵.
酢酸
プロピオン酸
酪酸
VBN/TN
V-スコア
(%)
0.04
0.65
0.88
0.68
0.99
0.04
0.47
0.67
0.66
0.83
2.73
(%)
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
(%)
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
(%)
2.04
5.76
6.36
6.67
7.40
2.04
6.03
6.34
6.14
8.12
9.85
(点)
100
95
92
93
89
100
96
94
94
89
80
2)低・未利用資源の活用
品質の安定した TMR をいかに低価格で調製するかは大切な視点である。そこで、各地
域で発生する食品残渣(ジュース粕、ビール粕、トウフ粕、でんぷん粕、醤油粕、きのこ
-61-
廃菌床、茶飲料粕、コーヒー粕、パンくず、菓子くず等)や農産副産物(根菜類の茎葉、
規格外野菜等)といった地域賦存資源の利用が想定される。ところがフレッシュタイプ
TMR の場合、これら飼料を TMR 調製時まで長期間保存する必要があり、特に水分を多く
含むものは貯蔵中の変敗やカビの発生が危惧される。一方、発酵 TMR は各単味飼料を一
括混合調製して乳酸発酵させ嫌気貯蔵するため、変敗の危険性が低いというメリットがあ
り、地域で発生する低・未利用資源を有効に活用できる。
3)嗜好性の低い飼料の採食性向上
サイレージ調製が困難な高水分原料草は、発酵 TMR 調製時に濃厚飼料や乾燥した粗飼
料と混合することにより適正な水分調整が可能となる。また、刈遅れた乾草やワラなども
多汁質飼料や濃厚飼料と混合し発酵させることで一定の採食性が期待できる。さらに、機
能性成分を含むものの嗜好性が悪いといった飼料資源も発酵 TMR 材料として用いること
で有効に活用できる。一例として、緑茶飲料製造残渣を混合した発酵 TMR の嗜好性を調
査事例がある(額爾敦ら 2007)。緑茶飲料残渣はカテキンやビタミン E などの機能性成
分を含むが、カテキン(渋み)やタンニン(苦み)などの影響で嗜好性が悪いことが知ら
れている。そこで、トウモロコシサイレージ主体 TMR に緑茶飲料残渣を乾物で 0、5、10、
15 および 20%混合した発酵 TMR をそれぞれ調製し泌乳牛に給与したところ、フレッシュ
タイプでは 10%以上混合すると採食量が低下したが、発酵 TMR では 15%まで混合しても
採食量は変わらなかった。このように、トウモロコシサイレージなど嗜好性の良い飼料と
混合することで、嗜好性の低い機能性飼料の有効活用が期待できる。
4)開封後の好気的変敗抑制効果
発酵 TMR は、通常の TMR に比較して開封後の好気的変敗(二次発酵)が起きにくい。
三重県で行われた試験(平岡ら 2005)では、フレッシュタイプの通常 TMR の場合、調製
後すぐに発熱が始まり、経時的にカビ(糸状菌)や酵母が増殖して 24 時間後には乾物損失
率が 10%になった。一方、同一材料を用いて細断型ロールベーラで調製した発酵 TMR は、
開封 24 時間後でもカビや酵母が増加せず、pH や有機酸も安定した良質サイレージであり、
好気的変敗は認められなかった(表 2)。
表 2 好気的条件下での通常 TMR と発酵 TMR の特性推移(平岡ら 2005)
微生物数(cfu/gFM)
開封後
水分
pH
乳酸
酢酸
酪酸
VBN/TN
経過時間 (%)
(%)
(%)
(%)
(%)
乳酸菌
酵母
糸状菌
< 102
< 102
0h 37.8
6.1
0.7
0.1
0.1
1.8
10 6
3h 41.1
5.2
1.1
0.2
0.5
2.5
10 6
10 5
< 102
通常TMR
10 6
10 5
6h 42.5
5.1
1.2
0.2
2.0
2.4
10 6
10 6
10 5
12h 41.8
5.3
0.9
0.2
0.0
2.0
10 6
24h 44.0
5.3
0.9
0.1
0.1
2.8
10 6
10 6
10 5
< 102
< 102
0h 40.8
4.0
4.3
0.5
0.0
2.1
10 6
3h 40.9
4.0
4.1
0.5
0.0
2.0
10 7
< 102
< 102
発酵TMR
< 102
< 102
6h 42.1
4.0
4.2
0.5
0.0
1.8
10 7
< 102
< 102
12h 42.2
4.0
3.7
0.5
0.0
1.4
10 7
24h 42.8
4.1
4.4
0.5
0.0
1.5
10 6
< 102
< 102
注)発酵TMRは細断型ロールベーラで7月8日に調製し、29日間貯蔵した.通常TMRは8月6日に調製した.
項目
乾物損失
率(%)
2.6
7.5
6.4
10.0
0.2
2.1
2.4
3.4
さらに王ら(2008)は、ビール粕あるいはトウフ粕を主原料(原物重量比 50%)とし、
これに 7 種類の他原料を混合して発酵 TMR を調製した結果、開封後 1 週間経過しても発
-62-
熱せず、これを給与したヤギの乾物摂取量は低下しなかったことを報告している。
なぜ発酵 TMR は好気的変敗しにくいのか?発酵 TMR では貯蔵中にヘテロ型発酵が起こ
り、乳酸の他に酢酸、プロピオン酸、エタノールなどが生成されるが、それらのいずれか
が効果を及ぼしていると想像できる。そこで、内田ら(2013)はフレッシュ TMR あるい
は 14 日間貯蔵後に開封・水洗浄した発酵 TMR に、有機酸やエタノールを添加して好気的
条件下で貯蔵する実験を行った。その結果、無添加区、エタノール 3%添加区、乳酸 3%添
加区では、貯蔵 3 日目で 30℃以上の温度上昇が認められ好気的変敗は抑制できなかったが、
酢酸 0.3%添加あるいはプロピオン酸 0.3%添加を行った区では温度上昇が認められないこ
とを示し、これらが効果を発揮したものと報告している。また、内田らの試験では、28 日
間密封貯蔵した場合、無添加区であっても開封後 9 日間は温度上昇が認められなかったこ
とから、1 ヵ月以上の貯蔵を行い、十分な発酵期間を保つことで酢酸やプロピオン酸が生
成され、好気的変敗を抑制できることを示唆した。今後、TMR 材料の種類、混合比率、貯
蔵時の環境温度、付着している菌種など条件を変えた試験データの蓄積が必要であるが、
現象として発酵 TMR は開封後の品質劣化がフレッシュタイプより遅いため、飼槽内に残
っているエサの変敗や嗜好性の低下が危惧される夏季の飼料としても有効と考えられる。
4.TMRに利用される飼料の特徴
1)各種飼料の分類と特徴
現在、わが国で TMR 原料に利用されている主な飼料は以下のとおりである。
「繊維質飼料」粗飼料源として、チモシー、スーダングラス、イタリアンライグラスなど
の牧乾草が多く用いられているが、昨今は中国や韓国、中東の UAE など新興国での需要
急増に加え、本年度は最大産地であるアメリカでチモシー収穫時期の断続的な降雨により
昨年を上回る深刻な被害が発生していることなどから、産地価格は昨年以上に上昇するこ
とが懸念される。また、為替円安の影響も大きく、平成 24 年 1~4 月期で 33.7 円/kg だっ
た CIF 価格※は、平成 25 年同期には 40.5 円/kg まで高騰しており、今後は高価すぎて買え
ない、買いたくとも量がない時代に入ると考えられる。
※CIF 価格は輸入港渡し価格(Cost, Insurance and Freight の略:海上運賃、貨物保険料込み)のことで、港
での受け渡し以降は国内取扱業者の管理費や国内輸送費が上乗せされるため、農家段階の購入価格は CIF
価格より高まる。
ちなみに、畜産草地研究所(那須)での本年 4 月段階での乾草 1kg 当たり購入価格は、
US チモシー(プレミアム、CP8.1%相当品)が税込み 73.5 円、US アルファルファ(プレ
ミアム、CP19.1%相当品)が 55.7 円、AU オーツ(プレミアム、CP6.3%相当品)が 62.0
円まで上昇し、これまでにない危機感を実感している。そのため国産粗飼料の利用促進が
重要であり、特に都府県では、その第一候補として稲発酵粗飼料(イネ WCS)が挙げられ
る。イネ WCS の TMR への利用については後述するが、牧乾草の代替として充分に利用が
可能である。茶殻も繊維質飼料として利用されており、特に緑茶殻やウーロン茶殻などは
粗蛋白質含量も高い(約 30%DM)特徴がある。この他、きのこ菌床もこの範疇に入る。
-63-
「蛋白質飼料」ナタネ粕・大豆粕・ヒマワリ粕のように搾油後で脂肪が少ないものと、醤
油粕・トウフ粕・ビール粕のように脂肪を多く含むものがある。
「エネルギー飼料」米ぬか・綿実などがある。また、デンプン系ではデンプン粕・ジュー
ス粕・焼酎粕・麦茶粕などがあり、焼酎粕は蛋白質含量も高いため利用が増えている。こ
の他、規格外ニンジンをエネルギー+β-カロテン源として利用したり、バイオエタノール
蒸留粕(Distiller’s Dried Grain with Solubles: DDGS)をエネルギー+蛋白源として利用した
りする事例が出ている。また、トウモロコシ穀実の代替として飼料用米の利用が普及し始
めた。
2)エコフィードの有効活用
わが国の畜産は、濃厚飼料の 89%、粗飼料の 22%を海外に依存し、大多数の経営体が一
様な飼料給与を行っている構造といえる。平成 20 年をピークにした輸入穀物価格高騰は、
このような輸入飼料依存型の畜産経営を直撃し、厳しい状況を引き起こした。その後、輸
入穀物価格は落ち着きを見せたかに思えたが、ここにきてトウモロコシや大豆の国際価格
上昇や円安の影響から、濃厚飼料価格は史上最高値で推移している(乳牛用配合飼料小売
価格の全国平均は、平成 24 年 5 月 61.8 円/kg、平成 25 年 5 月 71.1 円)。このようなリス
クを回避して足腰の強い酪農を営んでいくため、輸入飼料の代替となるエコフィード※な
ど地域に存在する飼料資源の活用をこれまで以上に進める必要がある。ここでは、エコフ
ィードの利用を進めていくため、その可能性や留意点などについて項目ごとに個別事例を
挙げて述べる。
個々のエコフィードは成分的に偏りのある飼料であり、利用に当たっては成分と特徴を
しっかり把握し、どの飼料の代替として使うか(エネルギー源か?タンパク源か?繊維源
か?サプリメントか?)を明確にする必要がある。そして、代替しようとする濃厚飼料等
とのコストや乾物換算の栄養価を比較し、安全で且つ安ければ使うという姿勢が重要とな
る。
※「エコフィード」という単語は「食品製造副産物、食品卸売・小売業からの排出食品残さ、外食産業か
らの排出食品残さから製造される飼料」と定義されるが(平成 19 年に商標登録)、ここでは、野菜くずの
様な農産副産物等も含めた広い意味での食品副産物を「エコフィード」と記載する。
(1)エコフィードの購入コスト
エコフィードの最大のメリットは価格が安いことである。農水省が全国 255 件のエコフ
ィード製造業者を対象にした調査では、乾燥物の平均で 25 円/kg(配合飼料のおよそ半分)、
サイレージ(トウフ粕等)で 18 円/kg という結果であった(農林水産省資料 2010)
。しか
しながらここで注意すべきは、全てのエコフィードが安い訳ではなく、また、需要と供給
のアンバランスにより入手が難しいものもあるという点である。以下に例を示す。
●ビール粕:粗飼料と濃厚飼料の中間的な飼料で、乾物中の粗タンパク質(CP)含量が
27%と高く、粗脂肪(EE)含量 9%、TDN 含量 71%で、脂肪を含むタンパク質飼料であ
る。反すうに有効な NDF も 25%含む乳牛向け飼料といえる。しかしながら、近年は発泡
-64-
酒や第 3 のビールに押され生産量が減少している。また、ビール会社も独自にサイレージ
調製したものを販売し始めており、生粕の個人入手は困難な状況で、価格も上昇傾向にあ
る(平成 25 年小売価格平均 19.8 円/kg)。
●発泡酒粕:発泡酒粕は米やデンプン原料を多く使用しているため、可溶性糖類が多く、
繊維の持つ物理性はあまり期待できない。発生量もビールの 1/3 程度と少なく、供給量が
少ない現状である。ちなみに第 3 のビールは、製造方法がビールや発泡酒と異なり粕がほ
とんど発生しない。
●醤油粕:水分約 30%で 1 割程度の塩分を含むが、水分、塩分とも製造会社により異な
るため入荷時の成分分析が必要となる。平均値で CP 含量 31%、EE 含量 12%、TDN 含量
71%で、脂肪を多く含むタンパク質飼料に分類できる。乳牛の食塩要求量は飼料乾物中 1%
なので、原物 2~3kg が給与上限とされている。国内の醤油需要量は減少傾向にあるため、
発生量も減少し価格は上昇しつつある。大規模メーカーの醤油粕は発生量が安定している
ため、TMR センター等で良く利用されている。一方、地域の小規模メーカーの醤油粕は発
生量が少なく、運搬・貯蔵コストとの兼ね合いから取り扱いが難しいため、産廃処理にな
りがちな現状である。
(2)地域性・季節性のあるエコフィード
わが国で反すう動物用飼料(A 飼料)として利用できるエコフィードの中には地域毎に
特色のあるものが存在する。北海道や東北などでは農産加工副産物(ビート、にんじん、
馬鈴薯等)が、九州などの暖地では焼酎粕等が多く取り扱われている。これらの多くは高
水分で腐敗しやすく、輸送にはコストがかかるため地域内で利用されることがほとんどで
ある。また、これらの生産には季節性があり、通年大量消費には向かない短所があるが、
サイレージ化を行い、酪農家の共同 TMR 施設や TMR センターで利用することにより、安
価な飼料として利用可能である。中にはコストと栄養価の問題がクリアできれば広域流通
可能な飼料もあるため(関東で焼酎粕を使っている TMR センターもある)、他の地域でも
利用を検討する余地はある。
<北海道・東北の例>
●生ビートパルプ:製糖工程で出る絞り粕。一部は糖蜜と混ぜて乾燥成形し乾燥ビート
パルプになるが、生は乾燥に比べて安価なため工場近郊で利用されている。水分含量 83%
であるが、良質サイレージに調製可能。NDF 含量 66%、TDN 含量 72%で、良質繊維を含
むエネルギー飼料といえる。
●デンプン粕:CP 含量が低く(6%)、TDN 含量 76%の高エネルギー飼料である。デン
プン工場周辺の畑作地帯で良く利用されるが、水分を多く含み空気に触れると腐敗しやす
いため、サイレージ調製して保存する。
●ポテトピール:バレイショの加工工場から出る皮は、サイレージ利用することにより
繊維源・エネルギー源(TDN69%)として利用可能である。泌乳牛向け濃厚飼料中に 20%
まで混合できる。光に当たって緑化した部分はポテトグリコアルカロイド(毒性物質)を
含むため、原料の保存の良いものを放置せずすぐにサイレージ化する。
●スィートコーンパルプ:スイートコーンの加工工程で出る包葉、芯、一部子実(雌穂
-65-
重の約 50%)。水分を 80%以上含むが、排汁処理のできるサイロに詰め込むと良質サイレ
ージになる。成分は乳熟期のトウモロコシサイレージと同等で TDN 含量は 63~69%。
●リンゴジュース粕:生産地は東北各県の他、長野県に限定される。嗜好性は良いもの
の水分含量が多く変質しやすいので、ワラ、ヘイキューブ、ビートパルプ、ヌカ類などと
混合し、サイレージにすれば良質なものができる。
●ながいも(先端部分)
:ながいもは糖分よりもデンプンを多く含む。サイレージにする
場合には乳酸菌製剤を添加するか、乾燥ビートパルプのような糖分の多い乾いた材料を加
えて水分を調整すると良質な飼料になる。
●ニンジン:生ニンジンは水分含量が 90%と高
く、乾物中の CP 含量は 10%、ADF 及び NDF 含
量はともに 16%で、β-カロテンを約 900mg/kg 含
む。これをサイレージにしても β-カロテンは 2/3
程度が残る。サイレージにする場合、生ニンジン
の泥を落とした後に切断せずに詰め込んだ方が
発酵は良質である。また、刈り遅れトウモロコシ
やフスマ、乾燥ビートパルプ等と混合すれば良い
サイレージになる(写真 4)。β-カロテン源とする
写真 4 ニンジンサイレージ
場合、1 日に原物で 10kg 程度を給与すれば充分
である。
<暖地の例>
●焼酎粕:麦や米、芋などを糖化・発酵させ蒸留した残さ。固形物は乾燥、液状部は濃
縮することで保存性が向上する。CP 含量が高く、TDN 含量は材料により異なるが 66~92%
の範囲にある。濃縮液の pH は 4 程度と低く、TMR 材料として良く利用される。
●ミカンジュース粕:生の粕は水分含量が 82%と高いため、ワラ、ヘイキューブ、ビー
トパルプ、ヌカ類などと混合し、サイレージにすれば良質なものができる。TDN 含量が
79%と高く、エネルギー飼料として利用可能。β-カロテンなどの機能性成分も含んでい
る。生粕を多量に給与すると軟便になったり牛乳や肉が黄色くなったりする場合があるの
で注意が必要。
●カンショツル:主に暖地で発生する。水分含量が 87%と高いが、CP 含量は乾物中 13%、
TDN 含量 58%で牧草と同程度の栄養価といえる。高水分のため、サイレージ調製時には予
乾するか、ヌカやワラなど水分含量の低い他作物と混合調製する。細切したカンショと混
合すると発酵品質が良好になるという報告がある。
(3)今後、需要拡大の可能性があるエコフィード
エコフィードは、乳牛用飼料として古くから利用されている。表 3 に現在までに利用さ
れたことのあるエコフィードの例を示すが、A 飼料としての利用が想像できる物は既に多
かれ少なかれ利用されている。
-66-
表 3 A 飼料として利用されたことのある主なエコフィード
食品循環資源
製造粕類 ビール粕、発泡酒粕、豆腐粕、醤油粕、DDGS、焼酎粕、ウィスキー粕、デンプン
粕、ミカンジュース粕、リンゴジュース粕、ケールジュース粕、トマト搾り粕、タケノ
コ皮、茶がら類、生ビートパルプ、アン粕、スィートコーンパルプ、ブドウ酒粕、梅
酒漬け粕、廃糖蜜、コーングルテンフィード、タマリ粕、クエン酸発酵粕、パイナッ
プル粕、等
油粕類 大豆粕、綿実粕、ナタネ粕、ラッカセイ粕、アマニ粕、ゴマ粕、ヤシ粕、ヒマワリ
粕、サフラワー粕、パーム核粕、カポック粕、シャーナット粕、等
ヌカ類 米ヌカ、麦ヌカ、フスマ、等
デンプン食品関連 パン屑、菓子屑、炊飯米、うどん、そば、等
農産副産物
作物副産茎葉類 稲ワラ、麦ワラ、ソバワラ、トウモロコシ桿、マメ桿、バガス、ダイコン葉、カブ葉、
カンショツル、ビートトップ、ダイコン葉、ニンジン茎葉、カブ葉、ルタバガ葉、バレ
イショ茎葉、ラッカセイ茎葉、等
規格外農産物 米、小麦、大麦、エンバク、ライ麦、大豆、アワ、キビ、ソバ、ソラマメ、エンドウ、
ルーピン、綿実、カンショ、ナガイモ、ニンジン、ダイコン、キャベツ、ハクサイ、カ
ボチャ、等
その他
ビール酵母、キノコ廃菌床、バレイショ皮、ミカン皮、竹材、等
今後需要が伸びそうな飼料資源は、エネルギー(デンプン)源として飼料用米(屑米含
む)が、タンパク質源として焼酎粕および DDGS のようなアルコール蒸留粕や大豆(屑大
豆や飼料用大豆)、トウフ粕が、繊維源として竹材やキャベツ・ハクサイといった葉菜残さ
などが挙げられる。
●飼料用米:コメは籾米で給与すると大部分が消化されず糞に排泄されるため、加工処
理を行う必要がある。玄米は乾物中の CP 含量が 8.8%、TDN 含量が 94.9%(農業・食品
産業技術総合研究機構 2009)でトウモロコシ穀実の完全代替が可能。平成 23 年度の栽培
面積は、国の戸別所得補償制度の効果もあり前年の約 15 千 ha から約 34 千 ha に伸びてい
る。
●DDGS(Distillers Dried Grains with Solubles)
:バイオエタノール生産に伴い発生する副
産物で、原料は主にトウモロコシや米が使われる。固形物と濃縮蒸留残さを混合し乾燥し
た製品であるが、水分を吸収しやすいため冷暗所で保管する。トウモロコシ DDGS は乾物
中の CP 含量が 28.9%、TDN 含量が 93.4%と高く、タンパク質はルーメンバイパス性を持
つということで注目されている。わが国では、現在、精白米を原料としたバイオエタノー
ルプラントが国内数カ所で稼働しており、そこで発生する DDGS(CP50%、TDN75%)の
利用が期待される。
●大豆:大豆は乾物中に CP を 41%、EE を 21%含み、加工処理したものを飼料利用す
る。現状は輸入大豆の一部代替として屑大豆が利用されているが、東北農研や岩手県農業
研究センターにおいて飼料用大豆の栽培・利用研究が開始された。
●トウフ粕:水分は 80%と高いが、TDN 含量が 91%と高く、嗜好性も良好。生トウフ粕
は品質劣化が早いので、排出元でサイレージ化するなどの工夫が必要である。
●竹材:放任竹林対策として、粉末化やペレット化、解繊処理等で飼料化する研究が進
められているが、加工費がかかる。解繊処理竹材は稲ワラと同程度の TDN 含量で TMR の
-67-
粗飼料素材として利用可能。焼酎粕やヌカ類と混合しサイレージ化した事例もある。
●キャベツ・ハクサイ:葉菜の外葉などを中心とした残さは卸売市場や外食産業などか
ら大量に排出されるが、現在は主に産廃処理や堆肥化処理が行われている。CP 含量はキャ
ベツが 11%、ハクサイが 26%であり、TDN 含量も 65%程度はある。葉菜類は硝酸態窒素
を多く含むため、反すう家畜への給与に際しては、他の飼料と混合し、飼料全体の硝酸態
窒素含量が乾物当たり 0.1%未満になるよう調整する。なお、畜草研では葉菜の硝酸態窒素
を低減する微生物製剤を開発したが(特許出願中)、まだ市販化には至っていない。
(4)エコフィード利用に際しての留意点
エコフィードの利用に当たり、最も留意すべき点は安全性の確保であり、飼料安全法(「飼
料の安全性の確保及び品質の化以前に関する法律」)に基づく安全基準の遵守が重要である。
<A飼料に関する留意点>
わが国で牛、めん羊、山羊およびしか(鹿)を対象とした A 飼料は、牛海綿状脳症(BSE)
の発生防止のため、飼料安全法により牛乳や卵などを除く動物由来タンパク質などを含ん
ではならないと規定されている。そのため、①原料として動物由来タンパク質を使用しな
い食品副産物などのうち、製造後も施設内や保管、輸送などの過程で動物由来タンパク質
などの混入が起こらないよう管理されたものしか利用できない。また、②スーパーマーケ
ット、コンビニなどから回収された弁当などを原料とするもの、レストラン、ホテル、給
食、家庭などの調理残さや食べ残しは利用できない。一方、海産副産物などの重金属汚染
がニュースで取り上げられることがあるが、A 飼料の原料として魚介類は使用できないの
で、それらによる重金属汚染の危険性はさほど高くないと考えられる。なお、農産副産物
等を利用する場合は、飼料としての利用を前提とした農薬の選定、用法、容量が守られな
ければならない。
<夏季の貯蔵や混合に関する留意点>
エコフィードを混合した TMR を高温条件下で保管すると、内部の微生物叢(かびや大
腸菌など)が変化し牛の健康に影響を及ぼす場合がある。そのため、特に夏季に加水・調
製した TMR や高水分の TMR は、①長期保管を避け調製後 6 時間以内に摂取させる、②TMR
への加水を抑制する、③乳酸菌製剤やプロピオン酸などを添加する、といった対策が効果
的である。また、④TMR を再密封し貯蔵する「発酵
TMR」も有効である。なお、エコフィードは高水分
のものが多いため、TMR と同様にかび等の発生が危
惧される。給与までの期間、これらを単味で保管す
る場合には、乳酸菌製剤等を添加して完全密封しサ
イレージ化することがより良い対処法といえる(写
真 5)。
<嫌気性病原菌、かびの増殖防止>
写真 5 乳酸菌を添加してサイレ
嫌気性細菌には、大腸菌、サルモネラ、カンピロ
-68-
ージ化した豆腐粕
バクターなどの通性嫌気性菌やクロストリジウムなどの偏性嫌気性菌が含まれる。特に、
サルモネラは飲食物を介して経口感染する人畜共通の病原菌であり、家畜の疾病や畜産物
を通じて人の食中毒の原因となるため、「飼料製造に係わるサルモネラ対策ガイドライン」
に基づいた管理が必要となる。原料段階では、汚染のない飼料原料を入荷すること(原料
製造者の衛生管理状況の確認、専用容器などによる輸送)が必須である。これを飼料化す
る際には、製造施設や施設周辺のハト、ネズミ、ゴキブリ、ハエ、ホコリ、こぼれなどの
防除・除去を行い、清潔な環境を維持する。かびは、一般に高水分飼料や高温・高湿条件
下で発生しやすいため、原料の水分管理や雨水、結露などを避けるといった保管時の工夫
が必要である。防かび剤としては、飼料添加物に指定されているプロピオン酸、プロピオ
ン酸カルシウム、プロピオン酸アンモニウムがあり、必要に応じてこれらの添加を行う。
5.イネWCSおよび飼料用米のTMR素材としての利用
日本の国民一人当たり米の年間消費量は 1960 年の 115kg から 2000 年の 65kg まで急激に
低下し、食用米の栽培面積も 312 万 ha から 170 万 ha へと半減した。これに対応し水田を
維持して行くため、農林水産省では 1971 年から他作物への転換を図る目的で水田農業対策
を講じ、イネの飼料利用を積極的に進めている。2011 年からは戸別所得補償制度の本格実
施が始まり、イネ WCS や飼料用米の栽培面積は現在も増加傾向にある。
牛向けの TMR 素材として考えた場合、イネ WCS は粗飼料源として、また飼料用米はト
ウモロコシ穀実に変わる濃厚飼料中のエネルギー飼料として位置づけられる。イネ WCS
や飼料用米の利用に関する研究は 1980 年代から行われているが、近年になって、新たな品
種の開発や、第一胃内分解特性、加工形態別の消化性、低コスト調製・貯蔵・流通技術、
畜種別の給与上限の検討、組み合わせる蛋白質飼料の分解特性などの研究が進展した。そ
の成果については、
「稲発酵粗飼料生産・給与技術マニュアル」や「飼料用米の生産・給与
技術マニュアル」に取りまとめられているので、ここでは詳細な記述を省略することとし、
TMR 素材としてイネ WCS や飼料用米を利用する際の留意点等について解説する。
1)イネWCSのTMR利用(乳牛)
黄熟期に収穫調製したイネ WCS は、TDN 含量がおおよそ 52~55%、CP 含量が 7%、総
繊維含量 50%である。粗繊維の消化性は牧乾草に比べて低い傾向にある(表 4)。一方、
イネ WCS の粗飼料価指数(RVI)による物理性の評価値は牧乾草なみで(表 5)、嗜好性
は高い。また、硝酸態窒素濃度はトウモロコシやソルガムサイレージより低く、TMR に混
合する粗飼料源としては十分に牧乾草の代替が可能と考えられる。
表 4 種々の粗飼料の消化率と栄養価
消化率(%)
イネWCS*
粗蛋⽩質
粗脂肪
NFE
粗繊維
TDN(%DM)
54
60
66
53
54.0
**
チモシー乾草
51
50
58
57
54.9
イタリアンライグラス乾草**
46
48
58
59
53.7
56
45
58
58
54.7
42
41
60
65
54.6
**
オーチャードグラス乾草
スーダングラス乾草
***
*⻩熟期、**1番草開花期、***1番草出穂期.
-69-
⽇本標準飼料成分表(2009)
表 5 乳牛向け粗飼料の粗飼料価指数(RVI)
RVI (min/kgDM)
82
79
77
47
66
イネWCS
チモシー乾草
スーダングラス乾草
アルファルファ乾草
トウモロコシサイレージ
日本飼養標準・乳牛(2006)
RVI は飼料の形状(細断長)にも影響を受けるが、イネ WCS では切断長が長くなるほ
ど RVI が増加して、その咀嚼の効果で未消化子実の排泄量は減少する。しかし、切断長が
長くなると乾物摂取量が抑制されることから、乳量の低下を招く。これまで報告された試
験報告によると、適切な RVI を確保し、乾物摂取量、未消化子実の排泄量も考慮に入れた
イネ WCS の最適な切断長は 3.0cm 程度である(新出ら 2008)。なお、稲にはケイ酸が多く
含まれるため TMR ミキサで細切しながら混合するとミキサ刃の劣化の早いことが指摘さ
れていた。しかし、最近ではイネ WCS 用専用収穫機の登場により予め細切した稲が梱包
可能になったためこの問題点は克服されつつある。
(1)分娩後~泌乳最盛期牛向けのTMRへの混合量
出穂後 30 日刈取のイネ WCS(品種「クサノホシ」)を用いた泌乳前期の限界給与量につ
いて、広島県の研究事例がある(図 2)。イネ WCS の乾物混合割合を 25%と 30%にした
TMR を比較した場合、乾物摂取量、乳量とも分娩後 10 週までは 25%区が高く、乾物摂取
量の回復した分娩後 10 週以降は差が認められていない。そのため、泌乳初期の分娩後 10
週程度までは、代謝病の発生しやすいステージでもあり、乾物中に 30%以下での利用が推
奨される。
<乾物摂取量>
<乳量>
図 2 イネ WCS の配合割合を変えた TMR の給与試験成績(広島県畜産技術センター2006)
これまでの研究で、搾乳牛では 8~50%の籾が未消化のまま糞に排泄されることが明ら
かとなっている。原因は、子実が難消化性の籾殻に覆われているためであり、熟期が進む
ほど消化性は低下する。特に黄熟期以降では子実排泄率が 40%を超えることから、繊維の
消化性も考慮すれば、糊熟期(出穂後 15 日)~黄熟期(出穂後 30 日)での収穫が望まし
い。特に、完熟した籾は脱粒しやすいことから、子実排せつの傾向が強まる。また、泌乳
-70-
初期は、必要な乾物量が摂取できにくく、エネルギーバランスがマイナスになっているこ
とから、配合飼料 1kg 程度のエネルギーを増給する必要がある。
(2)泌乳中~後期牛向けのTMRへの混合量
泌乳中~後期の牛では、飼料乾物中に 30%程度まで給与しても乾物摂取量、乳量、乳成
分に他の輸入乾草と差がみられない。この時期の牛は、乾物摂取量が最大に達する時期を
過ぎ、乳量が減少し始めているため、エネルギー濃度の低い飼料でも食べきれる状態にな
っているためと考えられる。しかし、乳量が減っても食欲は旺盛な時期なので、エネルギ
ー摂取量が過剰となり過肥になる恐れもあるため、飼料設計は的確に行う。
(3)TMR設計上の留意点
イネ WCS を TMR に混合する場合、TMR 中のイネ WCS 割合が乾物で 20%以上になる
場合には、以下の点に留意する。
●イネ WCS の繊維は、物理性に富むが NDF の消化率は低いため、乾物摂取量の維持には
TMR 中の NDF 含量を乾物 31~33%とする。
●子実排せつによるエネルギー損失があるため、飼料中の NFC(デンプン)含量を 38~40%
に上げる。
●飼料全体の粗飼料割合は 5%程度やや低めに設定する。
●イネ WCS に組合わす粗飼料は、アルファルファ乾草や刈取時期の早い NDF 含量の低い
ものを使用する。
●イネ WCS の設定切断長は 3.0cm 程度にする。
2)イネWCSのTMR利用(肉用牛)
イネ WCS の CP 含量は 7%であり、牧草類と比較すると若干低い。肥育牛では、濃厚飼
料が多給されるので CP 含量の低さはあまり問題にならないが、粗飼料の給与量が多い繁
殖牛や育成牛では、イネ WCS を給与する際には蛋白質不足にならないよう給与設計上の
注意が必要である。
イネ WCS の物理性として、黒毛和種繁殖牛による RVI データが報告されており(表 6)、
イネ WCS はチモシー乾草よりも反芻等を促す物理性がやや高い。またイネ WCS の物理性
は稲ワラに近いが、稲ワラよりも消化性が良いので、特に肥育後期にイネ WCS のみを粗
飼料源として給与する場合は、反芻胃の機能を健全に保つためにも給与量が極端に少なく
ならないように注意する必要がある。
表 6 肉用牛向け粗飼料の粗飼料価指数(RVI)
RVI (min/kgDM)
71
78
64
イネWCS
稲ワラ
チモシー乾草
古澤ら(2004)
-71-
良質なイネ WCS は、肉牛に給与される稲ワラやチモシー乾草より豊富にビタミン E を
含んでいる。また、ビタミン E 含量の高いイネ WCS は稲ワラよりも多くの β-カロテンを
含む傾向にある。β-カロテンはビタミン A の前駆体であり、1mg の β-カロテンは生体内で
400IU のビタミン A に転換される。したがってビタミン A 制御型肥育にイネ WCS を用い
るためには、イネ WCS 中の β-カロテン含量の把握と、その低減技術が必要となる。β-カ
ロテン含量は飼料イネの品種や熟期によって異なり、乳熟期から完熟期にかけて急激に含
量が低下することが明らかになっている。また、β-カロテンは酸素や光によって酸化分解
することが知られている。そこで、サイレ-ジ調製の際に予乾処理を行うことにより、イ
ネ WCS の β-カロテン含量を減少させることが可能である。黄熟期に刈取り後、1 日予乾
してサイレージ調製すれば、β-カロテン含量が刈取り時の約 7 割に減少し、この際 α-トコ
フェロール(ビタミン E)も減少するものの、稲ワラより高い含量を保つことが報告され
ている(図 3)。したがって予乾処理を行い飼料中の β-カロテン含量を十分低減させること
が出来れば、ビタミン A 制御型肥育にイネ WCS を用いることが可能である。
図 3 予乾処理が飼料イネの ß-カロテンおよびα-トコフェロール含量に及ぼす影響
肉用牛向け TMR 素材としてイネ WCS を利用した研究については、山田ら(2012)が報
告している。その研究では、黒毛和種去勢牛を供試し、10~30 ヶ月齢の肥育期間に食品副
産物(発酵ビール粕と発酵トウフ粕混合品)とイネ WCS を混合した発酵 TMR を給与する
「TMR 区」と、乾草と配合飼料を給与する「対照区」を設け飼養試験を行った。発酵 TMR
の原料割合は、肥育前期用 TMR(10~20 ヶ月齢時に給与)は原物当りイネ WCS 30%、食
品副産物 40%、配合飼料 30%であり、肥育後期用 TMR(21~30 ヶ月齢時に給与)は原物
当りイネ WCS 20%、食品副産物 30%、配合飼料 50%であった(表 7)
。試験の結果、枝肉
重量や BMS No.等に TMR 区と対照区の差は認められなかった(表 8)
。また TMR 区は、
牛肉中へのビタミン E の蓄積により、牛肉の脂質酸化や肉色の退色が抑制された。従って、
イネ WCS を用いた発酵 TMR を黒毛和種去勢牛に肥育全期間給与することにより、牛肉中
のビタミン E 含量が増加し、冷蔵保存中の牛肉色素の変色防止および脂質酸化の抑制に効
果があることが示唆された。
-72-
表 7 イネ WCS を用いた発酵 TMR の飼料成分
乾物(%)
粗灰分(%DM)
粗タンパク質(%DM)
ADF(%DM)
NDF(%DM)
TDN(%DM)
ß-カロテン(mg/kgDM)
α-トコフェロール(mg/kgDM)
前期用
56
7
13
24
43
72
16
60
後期用
57
6
14
17
31
77
7
22
(配合飼料)
87
4
15
5
14
86
0.1
2
注)参考までに試験に用いた配合飼料の値を掲載した
山田ら(2012)
表 8 イネ WCS を用いた発酵 TMR の給与が枝肉成績に及ぼす影響
対照区
TMR区
枝肉重量 皮下脂肪 筋間脂肪
kg
cm
cm
428
2.3
6.5
440
2.1
7.5
バラ厚
cm
7.4
7.5
胸最長筋脂肪
%
29.0
28.7
BMS
No.
6.7
6.5
BCS
No.
3.5
3.3
BFS
No.
2.2
2.2
山田ら(2012)
なおこの試験では、肉質について特段の問題は認められなかったが、食品副産物の中に
は、果汁粕や野菜屑の様に ß-カロテン含量が非常に高い飼料も含まれるため、肥育牛に大
量に給与すると脂肪が黄色化する可能性もある。そのため、肥育牛に用いる発酵 TMR 素
材は、その特性や飼料成分の把握をしっかり行い、飼料設計等に十分留意する必要がある。
3)飼料用米の飼料特性と加工
(1)飼料用米の飼料特性
飼料用米の成分を表 9 に示した。玄米はトウモロコシ子実と比較して、粗繊維、粗脂肪
はやや低いものの、TDN、粗蛋白質および NFE 含量はほぼ同等である。
表 9 籾米、玄米およびトウモロコシ子実の化学成分組成
水分
粗灰分
粗蛋白
粗脂肪
粗繊維
NFE
TDN 牛
(%)
(%DM)
(%DM)
(%DM)
(%DM)
(%DM)
(%DM)
籾米
13.7
6.3
7.5
2.5
10.0
73.7
77.7
玄米
14.8
1.6
8.8
3.2
0.8
85.6
94.9
トウモロコシ
14.5
1.4
8.8
4.4
2.0
83.4
93.6
(日本標準飼料成分表 2009)
一方、籾米は粗灰分、粗繊維含量が高く、TDN 含量が低い。これはイネ WCS の子実の消
化性と同様に、籾の消化性が著しく低いことに起因する。従って、籾米をそのまま給与す
ることは避けるべきであり、牛への給与に当たっては、圧ぺん、粉砕といった物理的処理
-73-
を行う必要がある。表 10 には、飼料用米(「ホシアオバ」(籾米))を蒸気圧ぺん、挽き割
りおよび発芽処理した際の化学成分組成を示した。各処理を施しても繊維成分以外の粗蛋
白質やデンプン含量は変動しないことが伺える。一方、繊維含量は蒸気圧ぺん処理を施す
と無処理や他の処理よりも顕著に低下する。これは、蒸気圧ぺん処理の過程で籾殻の一部
が剥離するためと考えられる。
表 10
品種
飼料用米(籾米)の加工処理別化学成分組成
加工法
有機物
粗蛋白質
化学成分組成 (乾物中%)
粗脂肪
粗繊維
NDF
ADF
デンプン
アミロース
ホシアオバ
無処理
95.3
7.1
1.9
8.2
18.3
11.4
63.6
23.5
オシアオバ
蒸気圧ぺん
95.7
7.1
2.0
6.4
16.8
9.6
66.7
25.5
ホシアオバ
挽き割り
95.6
7.1
1.9
7.6
18.3
11.1
66.0
23.1
ホシアオバ
発芽処理
97.0
6.1
2.5
8.8
18.1
12.4
65.6
23.5
(宮地ら 2010)
(2)飼料用米の加工法別ルーメン内分解特性
①飼料用米の加工の必要性
飼料用米は、籾米、玄米とも圧ぺん処理や破砕処理のような加工を施さなければ牛の消
化性は低い。乾乳牛を用いた籾米「ホシアオバ」
(乾ら 2009)および玄米「北陸 193 号」
(関
ら 2010)の給与試験では、無処理の場合、未消化子実排泄が 30%および 25%認められ、TDN
含量は圧ぺんや 5mm 破砕、2mm 破砕処理したものと比較して大きく低下した(表 11)。
表 11 飼料用米の未消化子実排泄率および栄養価
籾⽶「ホシアオバ」
無処理
未消化⼦実排泄率(%)
TDN含量(%DM)
2mm
5mm
破砕
破砕
⽞⽶「北陸193号」
圧ぺん
無処理
2mm
5mm
破砕
破砕
圧ぺん
30.3
-
-
-
25.1
-
-
-
63.1b
83.2a
79.6a
81.0a
70.4b
92.5a
96.3a
94.0a
注1)籾⽶試験の飼料は乾物当たり籾⽶40%、イタリアンライグラスサイレージ56.8%、ビタミン
・ミネラル等3.2%を、⽞⽶試験の飼料は同じく⽞⽶40%、イタリアンライグラスサイレージ60%
を混合給与した。
注2)籾⽶、⽞⽶ごとに、異符号a、bを付けた数字間に5%⽔準の有意差あり.
また、「北陸 193 号」の籾米および玄米を供試した試験(浅井ら 2012)でも、未消化子
実排泄率は、無処理の場合、籾米で 39%、玄米で 17%であるのに対し、破砕処理を行うこ
とで双方とも 1%に減ることを確認した。このときの TDN 含量は、無処理の籾米で 48%、
玄米で 72%だったものが破砕処理によりそれぞれ 80%および 93%まで向上した。このよ
うに、加工処理により子実の未消化割合は抑制され、主要成分であるデンプンの消化性は
高まり、TDN 含量は向上することが示されている。
加工程度の違いについて、飼料用米デンプンのルーメン内有効分解率を蒸気圧ぺん処理、
2mm 破砕、5mm 破砕、無処理で比較した試験(宮地 2010)では、最も分解率が高かった
のは加熱処理を併用する蒸気圧ぺん処理であった。一方、浅井ら(2012)は、籾米および
玄米で 2mm 以上の粒の割合が低下するに従いデンプン消化率は向上し、TDN 含量は高ま
-74-
ることを示した(図 4)
。以上から、飼
100
95
90
蒸気圧ぺん処理と言えるが、経済性な
85
80
TDN(乾物%)
料用米の消化性が最も高まる加工法は
どの点から圧ぺん処理が困難な場合に
は、2mm 以下の粒となるよう破砕する
75
「北陸193号」
粉砕籾米
「北陸193号」
粗挽き籾米
70
必要があると考えられる。なお、破砕
65
60
粒度を 2mm に揃えて比較した飼料用
55
50
米と他の穀実のルーメン内デンプン分
45
40
解速度は、速い順に、
「エンバク・コム
「北陸193号」粉砕・粗挽き
玄米(粒度細、中間、粗)
「ホシアオバ」
無処理玄米
「きねふりもち」
胴割れ玄米
(破米率75%)
「北陸193号」
無処理玄米
「北陸193号」
無処理籾米
0
20
40
60
80
100
2mm以上の粒度%
ギ」>「オオムギ・飼料用米」>「ト
図 4 飼料用米の加工粒度と TDN 含量の関係
ウモロコシ」となることが示されてい
る(宮地ら 2010)。
(3)飼料用米のTMRへの混合割合(乳牛のみ)
飼料用米の TMR 利用については、これまで乳牛での試験成績が多いことから(肉用牛
の成績は分離給与が主体であり、TMR 給与は試験を現在実施中)、ここでは乳牛への TMR
給与を中心に解説する。
泌乳牛については、これまで、乳生産性を低下させず健康に飼養できる飼料用米の給与
上限に関する試験が多く行われている。最も多給した例は、2mm 以下に破砕した玄米を発
酵 TMR 中に乾物当たり 35%混合し、泌乳中~後期牛に給与した試験である(山本ら 2012、
関ら 2012)。この試験では、飼料用米を 25%あるいは 30%混合した場合と比べ、飼料給与
後の血液およびルーメン内容液性状は変わらず、35%まで混合割合を高められる可能性を
示唆した。しかしながら、飼料用米の品種・粒度の検討や、泌乳前期牛への給与試験が行
われていないため、現時点では全泌乳期間を通じた給与推奨値とは言い難い。
他方、調製や給与方法を工夫すれば泌乳全期間で十分利用可能な給与上限量として、発
酵 TMR 中に飼料用米を 25%混合した成績が出されている。
泌乳前期では、主なデンプン源として籾米(山本ら 2011:経産牛を供試)あるいは玄米
(関ら 2011:初産牛を供試)を 25%混合した発酵 TMR(表 12)を、図 5 の様に分娩 2 週
前から分娩後 10 週まで給与し、対照区との比較を行った。発酵 TMR の飼料成分(乾物中)
は、粗タンパク質 15%、NDF35~43%、TDN72~75%に揃えてある。分娩後 10 週間の飼
養成績をまとめると、乾物摂取量、乳量、乳成分、ルーメン内容液性状に対照区と差は認
められず、ルーメン内容液性状はアシドーシスが懸念される状況にはなかった(表 13)。
分娩14日前 分娩7日前
乾物給与量/体重
給与割合(乾物%)
チモシー乾草またはイネWCS
イタリアンサイレージライグラス
発酵TMR
粗飼料割合
分娩日
分娩1日後
3日後
5日後
7日後
9日後
11日後
2.0%
2.0%
2.3%
2.4%
2.6%
2.7%
2.9%
3.1%
3.2%
32.5%
32.5%
35.0%
77.3%
25.0%
25.0%
50.0%
67.5%
25.0%
25.0%
50.0%
67.5%
17.5%
17.5%
65.0%
57.8%
10.0%
10.0%
80.0%
48.0%
7.5%
7.5%
85.0%
44.8%
5.0%
5.0%
90.0%
41.5%
2.5%
2.5%
95.0%
38.3%
0.0%
0.0%
100.0%
35.0%
図 5 泌乳前期試験の飼料給与設定
-75-
表 13 泌乳前期試験(分娩後 10 週間)の成績
表 12 泌乳前期試験の発酵 TMR の構成
対照区1)
割合(乾物%)
22.2
23.2
21.2
20.9
乳量(kg/⽇)
42.1
43.2
34.9
33.4
対照区
籾⽶区
⽞⽶区
25
-
-
イネWCS
-
25
25
イタリアンライグラスサイレージ
10
10
10
圧ぺんトウモロコシ
15
-
-
圧ぺん⼤⻨
10
-
-
飼料⽤籾⽶(2mm以下に破砕)1)
-
25
-
ルーメン内容液性状
飼料⽤⽞⽶(2mm以下に破砕)2)
-
-
25
ビール粕
10
10
10
トウフ粕
10
10
10
その他3)
20
20
20
2)品種は「北陸193号」
3)その他には、フスマ、⼤⾖粕、ビートパルプ、糖蜜、ビタ
ミン、ミネラルが含まれる。
対照区2) ⽞⽶区
乾物摂取量(kg/⽇)
チモシー乾草
1)品種は「モミロマン」
籾⽶区
乳成分
乳脂肪率(%)
4.37
4.39
4.11
4.34
乳タンパク質率(%)
3.01
3.09
2.97
3.14
8.76
無脂固形分率(%)
4.34
4.41
8.54
MUN(mg/dl)
14.4
15.5
10.3
8
99
37
68
43
pH
6.9
7.0
6.6
6.6
総揮発性脂肪酸(mmol/dl)
8.6
8.5
8.5
8.6
酢酸/プロピオン酸⽐
3.1
3.2
2.9
3.0
体細胞数(千個/ml)
⾎液性状
GOT(IU/L)
70.0
69.3
49.0
47.0
BUN(mg/dl)
15.8
17.5
13.3
13.7
71.0
62.0
GLU(mg/dl)
T-CHO(mg/dl)
Ca(mg/dl)
P(mg/dl)
45.3
49.5
273.3
284.0
10.4
10.7
10.5
10.1
6.0
5.9
5.9
5.6
236.0 a 156.0 b
1)籾⽶区の対照、2)⽞⽶区の対照.
a,b:異符号を付けた数値間に5%⽔準の有意差あり.
泌乳中期~後期に関しては、多くの試験成績が得られているが、前述の泌乳前期向け発
酵 TMR と同一の飼料構成で、飼料用米の加工方法を「2mm 以下の破砕処理」と「蒸気圧
ぺん処理」の 2 種類とし対照区と比較した成績がある。結果は、調査全項目で処理区間に
差は認められず、籾米 25%混合では、乾物摂取量が 23.6~23.9kg/日、乳量が 36.0~38.1kg/
日(山本ら 2010)、また、玄米 25%混合では、乾物摂取量が 24.3~26.1kg/日、乳量が 40.7
~42.5kg/日(関ら 2011)であった。このときの乳脂率は 3.7%以上、無脂固形分率は 8.5%
以上であり、濃厚飼料中の圧ぺんトウモロコシと圧ぺん大麦を全量飼料用米で置き換えて
も遜色ない乳生産が可能であった。
以上、泌乳牛に対しては、現状、飼料乾物中に 25%混合が給与上限と考えられるが、泌
乳前期においては、家畜の採食性や産乳性を観察しながら、必要に応じて栄養補正や飼料
設計の変更を行うことが肝要である。
以上、これまでの研究事例から、飼料用米(籾米および玄米)を全飼料中に乾物換算で
25%混合しても、家畜の反応を観察した上で、必要に応じた栄養価の補正等、飼料設計・
給与法を適正に行えば、通常の飼料と遜色ない飼養成績が得られることが示された。
6.今後の展望
発酵 TMR は、前述のようにエコフィードなどを有効に活用してコストを低減できる。
しかしながら、これら資源の多くは品質保持のため一旦サイレージ化する必要性がある上、
近年では品薄で入手困難になるなど、個別農家では対応が難しくなっている。一方、TMR
センターでは、一括購入・発酵 TMR 調製・品質検査・流通という体系が構築されており、
コントラクターと TMR センターが連携して地場産の飼料を安定供給する動きも出ている。
例として、都府県ではイネ WCS や麦サイレージを、また北海道ではトウモロコシサイレ
-76-
ージや牧草サイレージを粗飼料源とし、それに低・未利用資源や濃厚飼料を混合した発酵
TMR が流通している。今後、輸入飼料価格の高騰や、農家の機械投資・労力軽減の面から、
このような飼料生産の外部化の流れは加速することが予想される。今後は、この流れを見
据えた産・学・官連携の課題として、発酵 TMR 材料の安定供給、季節の環境変化に対応
した発酵の制御、調製用機械の改良・開発、適正な給与技術の開発などの他、広域流通に
向けた品質チェック方法の整理・統一、流通価格の納得性の確保、トレーサビリティやハ
ンドリング技術の開発などに取り組む必要があろう。
安全・安心・安価な国産飼料の増産を進めるため、これら発酵 TMR の課題解決に向け
た技術構築を共に進めて行く必要性は高い。
7.参考資料
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:77.
額爾敦巴雅爾ら(2007)日草誌 52:232-236.
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構編(2007)日本飼養標準 乳牛 2006 年版.
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構編(2009)日本標準飼料成分表 2009 年版.
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構編(2013)飼料用米の生産・給与技術マ
ニュアル 2012 年度版.http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/ pamphlet/
tech-pamph/046203.html
古澤剛ら(2004)山口県畜産試験場研究報告 19:53-59.
平岡啓司ら(2005)日草誌 51(別)
:124-125.
乾清人ら(2009)日草誌 55(別):54.
丸山国美ら(1984)埼玉畜試研報 22:1-9.
宮地慎ら(2010)日草誌 56:13-19.
Miyaji M et al.(2012)Animal Science Journal 83:585-593.
日本草地学会編(2000)改訂草地学用語集.
農林水産省(2013)農業物価指数.
農水省畜産局流通飼料課長通知(1998)飼料製造に係わるサルモネラ対策ガイドライン.
農林水産省生産局(2010)エコフィードの推進について.
農水省消費・安全局長通知(2006)食品残さ等利用飼料の安全性確保のためのガイドラ
イン.
王福金・西野直樹(2008)日草誌 54(別):392-393.
関誠ら(2010)日草誌 56(別):63.
関誠ら(2011)日草誌 57(別):79.
関誠ら(2012)日草誌 58(別):68.
社団法人日本草地畜産種子協会(2012)稲発酵粗飼料生産・給与技術マニュアル.
内田豪ら(2013)日草誌 59(別):108.
山田知哉ら(2012)肉用牛研究会報 92:4-9.
山本泰也ら(2010)日草誌 56(別):188.
山本泰也ら(2011)日草誌 57(別):78.
山本泰也ら(2012)日草誌 58(別):67.
-77-
全国エコフィード推進行動会議(2009)エコフィードを活用した TMR 製造利用マニュア
ル.
全国食品残さ飼料化行動会議・配合飼料供給安定機構編(2009)食品残さの飼料化をめ
ざして.
-78-
エコフィードの飼料特性とそれを活用した
乳牛向け飼料設計
畜産草地研究所
家畜生理栄養研究領域
永西
修
1.はじめに
わが国の飼料自給率は 25%前後で推移しており、海外から多くの穀類を輸入している。
しかし、干ばつによる不作、バイオエタノールとの競合など飼料価格は高騰・高止まりし
畜産経営は深刻な影響を受けている。家畜生産費の半分近く占める飼料費の節減を図るこ
とは畜産経営の安定・強化に結び付くことから、飼料自給率向上に向けた取り組みが進め
られてきた。
エコフィードに関しては、平成 13 年度の食品リサイクル法(食品循環資源の再利用等の
促進に関する法律、平成 19 年には一部が改正)が施行され、食品を製造する際に発生する
食品廃棄物の抑制、減量化および再生利用の促進の面から、エコフィード利用に対する取
り組みが加速されてきた。平成 22 年度には食品産業から約 2,086 万トンの食品残さが発生
し、約 1,400 万トンが再生利用され、そのうち 75%が飼料として利用されている。さらに、
一定比率以上の食品循環資源を用いた「エコフィード認証制度」の創設、認証エコフィー
ドを用いて生産した畜産物としての「エコフィード利用畜産物認証制度」が創設された。
このようなエコフィード利用の取り組みが進められている中で、新たな飼料資源として小
麦ジスチラーズグレインソリュブル(牛、豚、鶏)、小麦・とうもろこしジスチラーズグ
レインソリュブル(豚)、エクストルーダー処理なたね油かす(牛)、加糖加熱処理なた
ね油かす(牛)、ココナツミルクかす(牛)、食品副産物(豚:熱風間接型乾燥装置、粗
蛋白質約 13%、粗脂肪 7%)、ぶどう酒かす(豚:赤ぶどう酒粕乾燥)、糖蜜ジスティラ
ーズグレイン(牛)、脂肪酸カルシウムなどの暫定値が定められ、日本標準飼料成分表 2009
年版には飼料成分、消化率および栄養価が掲載されている。
エコフィードの特徴としては、1)飼料成分ではタンパク質や脂肪が多く含み高栄養価が
多いものの、成分の偏りやバラツキがあり使い難い点がある。2)高水分であるため調製・
保存などハンドリングが難しい。3)産出量が少なく季節性があり、年間通じての入手が困
難である。があげられる。また、エコフィードには動物性タンパク質を含むものあること
から、牛へ給与しないように十分に注意しなければならない。本稿ではエコフィードの飼
料特性の評価と飼料として適正な給与を図るための給与のポイントについて紹介する。
2.主なエコフィードの飼料特性
1)タンパク質源としてのエコフィード
(1)ジスティラーズグレイン、ジスティラーズグレインソリュブル
トウモロコシ、ムギなど粉砕処理し、発酵・蒸留により燃料用エタノールに転換した後
の残さ部分が残留廃液であり、これを遠心分離した固体部分が Wet distiller grain である。
さらに乾燥させたものが Dried distiller grain(DDG)で、廃液を遠心分離機で濃縮し、DDG に
-79-
加えたものが Dried distiller grain with soluble(DDGS)である。DDGS は原料や製造法により
飼料成分や栄養価が異なるが、一般にトウモロコシに比べタンパク質、粗脂肪および可消
化養分総量含量が高い。また、アミノ酸組成でもリジン、メチオニン含量が高い。最近で
は DDGS の脂肪を抽出した低脂肪含量の DDGS も生産されている。日本標準飼料成分表に
はエタノール製造残さとして、ウイスキー残渣さと燃料用アルコール残さが記載されてい
るが、燃料用アルコール残はウイスキー残さより粗タンパク質含量が高い傾向にある。
(2)茶系飲料粕
ペットボトルの普及により茶系飲料の消費量が増加しているが、その製造工程で茶系飲
料粕が産出する。茶系飲料には緑茶、烏龍茶、麦茶などがあり、茶葉の処理工程や原料の
違いにより茶系飲料粕の飼料成分や栄養価も異なる。茶系飲料粕の粗タンパク質含量は緑
茶粕が 32%>烏龍茶粕 23%>麦茶粕 13%で、粗タンパク質の第一胃内有効分解率は緑 53%
茶粕が 72%>烏龍茶粕 49%>麦茶粕 66%、下部消化管の消化率は緑茶粕 88%、烏龍茶粕
である。このように、緑茶粕と烏龍茶粕は同じ茶葉を原料としているが、発酵を伴った烏
龍茶粕では酸性デタージェント繊維に窒素が多く含まれており、全体的に蛋白質消化率が
低い。一方、ヤギを用いて烏龍茶粕の消化率や栄養価を測定した試験では、麦茶粕の粗タ
ンパク質消化率は約 33%で、大麦の 72%(日本標準飼料成分表 2009 年版)に比べ大幅に
低く、これは麦茶を製造する工程で焙煎処理によりタンパク質がメイラード反応や変性を
起こすためと考えられる。
2)エネルギー源としてのエコフィード
(1)無洗米ヌカ
家畜の飼料として米ヌカが多く用いられているが、精米技術の進歩による無洗米が普及
している。無洗米は一般精米では残存するヌカを取り除いたものであり、その製造工程で
産出するヌカが無洗米ヌカ(日本標準飼料成分表 2009 年版では加熱はく離米ヌカと記載)
である。無洗米ヌカは精米工程で玄米表面をさらに削るため、一般の生米ヌカに比べ粗タ
ンパク質、粗脂肪およびデンプンを多く含有し、TDN95.4%、可消化エネルギー17.72MJ/kg、
代謝エネルギー15.34MJ/kgJ/kg の高エネルギー飼料である。
3.乳牛へのエコフィードの給与
乳牛が健康な状態で正常に発育、繁殖し、効率的な乳生産を行うためには、エネルギー、
タンパク質、ミネラルおよびビタミンを過不足なく摂取する必要がある。乳牛の栄養要求
量は維持、成長、妊娠(胎児の発育)および産乳について、必要な栄養素量を求め、合計
したもので、日本飼養標準では栄養要求量を 1 日当たりあるいは飼料中の各栄養成分含量
として示している。
1)タンパク質給与
(1)タンパク質要求量
日本飼養標準・乳牛 2006 年版ではより精密なタンパク質給与システムとして、粗タンパ
ク質要求量を示すとともに、分解性タンパク質から有効分解性タンパク質(ECPD)への
転換を図っている。乳牛が必要とする ECPD の飼料での適正含有率は、
ECPD(乾物中%)=0.131×TDN(乾物中%)+0.00106×乳量(kg/日)+0.577
とし
て求める。例えば、飼料の TDN 含量が 70%、乳量が 30kg/日の乳牛での ECPD は、
0.131×70+0.00106×30+0.577=9.77%
となる(表 1 参照)。
-80-
表1
乳牛のタンパク質および分解性タンパク質要求量
乳量(kg/日)
0
10
20
30
40
50
乾物摂取量(kg/日)
8.9
12.9
17.0
21.1
25.2
29.2
CP 要求量(乾物%)
6.7
10.5
12.7
14.3
15.5
16.5
60%
8.3
8.4
8.4
8.5
8.5
8.5
飼料の TDN
65%
9.0
9.1
9.1
9.1
9.1
9.1
含量(乾物
70%
9.7
9.7
9.8
9.8
9.8
9.8
中%)
75%
10.4
10.4
10.4
10.4
10.4
10.4
80%
11.1
11.1
11.1
11.1
11.0
11.0
有効分解性タンパク
質(乾物中%)
(日本飼養標準・乳牛 2006 年版より作成)
(2)タンパク質給与量
飼料のタンパク質はルーメンでの溶解性・分解性により分解性タンパク質(CPd)と非
分解性タンパク質(CPu)に分けることができる。ルーメンでのタンパク質の分解率は同
じ飼料であっても飼料の摂取量(通過速度)により異なる。
表2
主なエコフィードのタンパク質の有効分解率
タンパク質の有効分解率(粗タンパク質中%)
乳量(kg/日)
0
10
20
30
40
50
乾物摂取量(kg/日)
8.9
12.9
17.0
21.1
25.2
29.2
飼料通過速度
3.5
4.2
4.9
5.5
6.2
6.9
ビートパルプ
68.9
67.9
67.1
66.5
65.8
65.3
ニンジンジュース粕
73.9
71.1
68.7
66.9
65.1
63.4
赤あん粕
61.6
58.2
55.4
53.4
51.4
49.7
白あん粕
71.7
68.3
65.4
63.1
60.8
58.7
サツマイモ皮
77.0
75.1
73.5
72.2
71.0
69.9
ワイン醸造粕
69.4
66.5
63.9
61.8
59.7
57.7
麦茶粕
69.5
68.4
67.4
66.6
65.7
64.8
カボチャ(余剰品)
84.3
83.1
82.0
81.2
80.3
79.4
パン屑
68.4
64.9
61.8
59.6
57.3
55.3
ビール粕
50.9
47.5
44.8
42.8
40.8
39.1
カカオ皮
54.9
53.9
53.0
52.3
51.5
50.8
緑茶粕
77.7
75.0
72.5
70.6
68.6
66.7
烏龍茶粕
55.9
52.3
49.3
47.1
45.0
43.1
(kp%/時間)
永西ら(2000)、(2004a)、(2005)より作成
-81-
例えば、維持レベルの給与に比べて飼料摂取量が多いとルーメン内の通過速度は速くな
り、分解性タンパク質の割合が低下する。このように、飼料タンパク質のルーメンでの分
解率を一定の数値とするのではなく、飼料摂取量に応じてタンパク質の分解率を変化させ
たタンパク質の分解率を有効分解性タンパク質という。表 2 に主なエコフィードのタンパ
ク質の有効分解率を示した。エコフィードでは原料の違いのほか、加工・調製法により分
解率が異なることから、乳牛へのタンパク質給与を正確に行うためには有効分解率の実測
が望ましい。
一般に飼料のタンパク質の有効分解率測定はナイロンバック(ポリエステルバック)で
行われる。測定方法の一例を示す(図 1 を参照)。
a)フィステル装着牛を 2~3 頭供試し、馴致期間として 1~2 週間前から一定時間に一定量
の飼料を給与する。
b)ナイロンバック(40~60μm)に、乾燥して 2mm のメッシュが通過できるように粉砕し
たサンプルを一定量入れ、袋の口を閉じる。乾燥方法や粉砕粒度については、実験の目的
に応じて決定する。
c)ルーメン内に投入する時間は、最大で濃厚飼料が 48~72 時間、粗飼料は 72~92 時間を
目安にする。継時的にルーメンに投入することで、蛋白質の消失パターンを測定すること
ができる。
d)第一胃内への投入時間は、0(Washing
loss)、3、6、12、(18)、24、48、72、96 時
間などがある。一度にサンプルを第一胃内へ投入し、時間ごとに取り出す方法、時間ごと
にサンプルを投入し、一度に取り出す方法がある。0 時間については第一胃内に入れずに、
e.の操作に進む。
e)ナイロンバックを流水で十分に洗浄し、60℃で乾燥し重量を測定する。
f)第一胃内への投入時間(t 時間)での粗タンパク質消失率を D(%)として、
D(%)=a +b×(1-e-kdt)の式に代入する。パラメーター(a:可溶性画分、b:分解
性画分、kd:b の分解速度)を SAS 等の解析ソフトで計算する。なお、0 時間の消失率が
a%より大きくなる場合はラグタイム(lag time)を考慮する必要があり、以下の非線形回
帰式を用いる。
図1
ナイロンバック法による消失パラメーターの考え方
-82-
t(0)ラグタイム=(1÷kd)×log(b÷(a+b-WL(%)))
D(%)=A+B×(1-e-
c(t-t0)
WL:0 時間の消失率(%)
)
g)求められた a,b,kd の値から、ECPD(%)を求めるには、
ECPD(%)=a+b×kd÷(kd+kp)
kp:飼料の消化管内通過速度(%/時間)
なお、kp(%/時間)は、日本飼養標準乳牛 2006 年版では国内外の文献値から、kp(%/
時間)=0.1649×乾物摂取量(kg/日)+1.071 の式が用いられている。例えば、乳牛の乾物
摂取量が 8kg、16kg および 24kg での kp(%/時間)は順に 2.39、3.71、5.03 と計算できる。
また、kp の単位が(
/時間)と記載されている場合は 0.0239、0.0371、0.0503 と表記する。
2)脂肪の給与
乳牛飼料の粗脂肪含量の上限は 5~6%であるため、脂肪含量の高いエコフィードを用
いる場合は、脂肪含量の点から飼料中への混合割合について留意する必要がある。表 3
に主な油の脂肪酸組成を示した。搾油後の絞り粕の脂肪酸組成も油と同様であると考え
られる。オレイン酸など一価不飽和脂肪酸の一部が水素添加を受けることなく体脂肪に
蓄積されるなど、畜産物の品質にも影響すると考えられるため、共役リノール酸などエ
コフィードと畜産物の品質、機能的な効果についての検討も引き続き重要である。
表3
主な油の脂肪酸組成
飽和脂肪酸
一価不飽和
多価不飽和
n-3 系多価不
n-6 系多価不
脂肪酸
脂肪酸
飽和脂肪酸
飽和脂肪酸
米ヌカ油
18.8
39.8
33.3
1.2
32.1
大豆油
14.9
22.1
55.8
6.1
49.7
トウモロコシ油
13.0
28.0
51.6
0.8
50.2
綿実油
21.0
17.4
53.9
0.3
53.5
ナタネ油
7.1
60.1
26.1
7.5
18.6
パーム油
47.1
38.7
9.2
0.2
9.0
100g 当たりに含まれる量(g)
日本食品標準成分表より作成
3)繊維の給与と物理化学性
乳牛での粗飼料給与はルーメンアシドーシスの予防などルーメン機能の維持を図る点
で不可欠である。飼料の物理的有効性の指標として飼料の粒度と中性デタージェント繊
維含量を一体化した peNDF が考案されている(Mertens 1997)。これは飼料の中性デター
ジェント繊維含量に、1.18mm のふるい上の残った飼料の乾物重比率を掛けた値である。
また、日本飼養標準・乳牛(2006 年版)には Sudweeks らの報告(1981)や国内の文
献値をとりまとめた粗飼料値指数(RVI)が記載されている。一般にエコフィード由来の
繊維は消化速度が速くかつ粒度が小さいため、物理的な効果は一般の粗飼料由来の繊維
の 1/2~1/3 であると考えられており、NRC2001 年版では粗飼料以外の飼料での中性デタ
ージェント繊維の物理的効果を粗飼料の 1/2 としている。NRC2001 年では飼料の中性デ
タージェント繊維含量の推奨値を 25~28%に設定し、そこでの粗飼料由来の中性デター
ジェント繊維含量を 19%とし、粗飼料由来の中性デタージェント繊維含量が 1 ポイント
-83-
減少するごとに、飼料の中性デタージェント繊維含量を 2 ポイント増加することにして
いる。一方、日本飼養標準・乳牛(2006 年版)では給与飼料の中性デタージェント含量
が乾物摂取量、乳生産性および第一胃内性状の面から 35%が妥当であると判断している。
飼料の咀しゃく時間は飼料摂取量や飼料の加工・調製法、家畜の体格などによっても異
なるため、広範囲の飼料についてのデータ蓄積は十分なされていない。そのため、エコ
フィードを用いた飼料設計では、粗飼料の 1/2~1/3 の物理的有効性でだるとの飼料設計
を行うことが現実的な対応と考えられている。
5.おわりに
エコフィードの飼料利用を推進するためには、エコフィード利用の問題点をどう克服す
るかである。飼料成分の変動や偏りについては、いくつかのエコフィードを組み合わせて
飼料成分のバランスを整えロットによる変動を抑えることが重要である。また、エコフィ
ードは高消化性繊維を含み、デンプンなどの非繊維性炭水化物含量が少ないことから、エ
コフィードを穀類の代替として使うことで穀類給与によるアシドーシス発生などのリスク
を軽減することが期待できる。その中でエコフィードを用いた場合での飼料の繊維含量、
飼料摂取量、乳生産性、第一胃内性状、生産病の発生などをキーワードにした総合的な物
理的評価手法の開発が必要である。
6.引用文献
永西修・塚原昇・梶川博・寺田文典(2000)
養価
日本畜産学会報
麦茶製造副産物の第一胃内消化特性と栄
71:252-257
永西修・川島知之(2003) 無洗米エコフィードの第一胃内消化特性と栄養価 日本草地
学会誌 49: 471-476
永西修・吉岡勉・中島一喜・佐伯真魚・川島知之(2004a)カボチャならびにニンジンジ
ュース粕の反すう家畜用飼料としての特性
日本草地学会誌 50:360-365
永西修・柾木茂彦・佐伯真魚・川島智之・野中最子・中島一喜(2004b)物理化学的パラ
メータを用いた飼料の特性評価 日本草地学会誌 50: 399-407
永西修・黒岩力也・佐伯真魚・川島知之(2005)低・未利用食品エコフィードにおける
反すう家畜用飼料としてのタンパク質の特性評価 日本草地学会誌 51:281-288
Lammers B.P., D.R.Buchkmaster and A.J.Heinrichs(1996) A simple method for the analysis of
particle sizes of forage and total mixed rations. J.Dairy Sci. 79:922-928
Mertens D.R.(1997) Creating a system for meeting fhe fiber requirements of dairy cows.
J.Dairy Sci.80:1463-1481
Sudweekss E.M., L.O.Ely, D.R. Mertens and L.D. Sisk(1981) Assessing minimum amouts and
form of roughage in ruminant diets: Roughage value index system. J.Anim. Sci.
53:1406-1411
National Research Council(2001). Nutrient Requirements of Dairy Cattle, 7th rev. edi
National Academy Press Washington D.C.
農業・食品産業技術総合研究機構編
日本飼養標準・乳牛 2006 年版
農業・食品産業技術総合研究機構編
日本飼養標準・肉用牛 2008 年版
農業・食品産業技術総合研究機構編
日本標準飼料成分表・2009 年版
-84-
土地利用の高度化による飼料作物の安定多収栽培技術
畜産草地研究所
飼料作物研究領域
菅野
勉
1.はじめに
我が国の飼料自給率は現在、26%と低い水準にあり、近年の穀物価格の上昇は、我が国の
畜産経営を大きく圧迫している。このため、畜産経営の安定化のためには自給飼料の増産
が不可欠である。自給飼料を増産する方法としては、単収の向上と作付面積の拡大が考え
られるが、本稿では単収を向上させる方法について述べる。具体的には、第一に土地の高
度利用によって単収を向上させる多収作付体系について解説する。次いで、生産阻害要因
を克服し単収を向上させるという観点から、近年飼料畑において問題となっている主な雑
草を取り上げ、その防除技術について解説する。
2.我が国における飼料作物の単収の現状
具体的な栽培技術について述べる前に、まず、飼料作物の単収の現状について検討する。
我が国の飼料作物の単収の全国平均値は昭和60年代まで増加してきたものの、近年は停滞
傾向にある。作物統計(農林水産省2013)から都府県のサイレージ用トウモロコシの単収
データを抜粋し、最近5年間の平均を算出すると、その値は現物で10a当たり5,030kg/10aとな
る。この値より乾物収量を推定すると、その値は、乾物率25%換算で1,257kg/10a、28%換算
で1,408kg/10aと推定される。
一方、(独)家畜改良センター茨城牧場長野支所では、都道府県が行っている奨励品種
決定試験の結果をデータベースとして整備している。そのデータベースの利用の許可を得
て、2008年から2012年までの5年間に行われたトウモロコシに関する試験結果について地域
別(気候区分別)に全てのデータの平均値を算出した結果が表1である。最も単収の高い寒
冷地における乾物収量は約2.1t/10a、次いで温暖地が約2.0t/10a である。暖地においては、
普通作(年1作)の乾物収量は約1.9t/10a、二期作の乾物収量は1作目約1.8t/10a、2作目約1.5t/10a
である。これらの値は先に述べた現在の作物統計から推定される平均単収よりも高い値で
あり、いずれの地域でも新品種の活用や雑草防除法の見直しなどにより営農圃場において
単収を向上させる余地が大きいことを示している。
表1.サイレージ用トウモロコシの奨励品種決定試験等における地域ごとの乾物収量
地域
気候区分
作期
データ数
道東・道北
道央
東北、甲信越
関東、東海、中国
寒地限界地帯
寒地
寒冷地
温暖地
九州、四国
暖地
普通作(年1作)
普通作(年1作)
普通作(年1作)
普通作(年1作)
普通作(年1作)
二期作(1作目)
二期作(2作目)
71
542
901
1154
196
399
79
乾物収量
(kg/10a)
1184
1812
2073
1987
1923
1792
1512
(独)家畜改良センター茨城牧場長野支所が管理する奨励品種決定試験等のデータのうち、2008年から2012年に実施された
試験データをもとに計算した。
-85-
3.土地利用高度化のための多収作付体系
(1)作付体系の見直しの観点
年間の単位面積当たり収量の向上を考えた場合、1作当たりの収量が高い長大型飼料作物
の活用が重要となる。長大型飼料作物を活用した作付体系としては、寒地、寒冷地ではト
ウモロコシの年1作体系が、温暖地、暖地においてはトウモロコシ、ソルガムと冬作と組み
合わせる二毛作が代表的な作付体系であり、暖地においてはトウモロコシの二期作も行わ
れている(伊藤ら1989)
。これらの作付体系は我が国に通年サイレージ体系が定着した昭和
50年代に確立され、以来、継続して採用されてきた。しかし、近年、気候の温暖化と穀物
価格の上昇が同時に起こっており、こうした状況のもとでは温暖化した気象条件を活用し、
より集約的に飼料作物を作付けすることが考えられる。また、近年、畜産農家の労働力の
不足を解消するために、畜産農家に代わって飼料作物の作付け、収穫、調製を行うコント
ラクター(外部作業受託組織)が注目されており、今後の飼料作物の栽培技術を考えてい
く場合、コントラクターの活用を前提とした検討が必要と考えられる。ここでは、土地利
用高度化のための多収作付体系として、暖地における2年5作体系、温暖地におけるトウモ
ロコシ二期作体系、並びにトウモロコシとソルガムの混播栽培体系について解説する。
(2)現在検討が進められている多収作付体系
1)暖地における2年5作体系
2年5作体系に関する既往の報告としては、徳島県畜産試験場の桑原(1989)の報告があ
り、トウモロコシ(4月上旬~7月下旬)→トウモロコシあるいはソルガム(8月上旬~11月
中旬)→オオムギ(11月下旬~翌年5月中旬)→トウモロコシ(5月下旬~8月中旬) →エンバ
ク(8月下旬~12月下旬)といった作付体系により、年間の平均乾物収量3t/10a以上、TDN
収量2t/10a以上が得られることを明らかにしている。しかしながら、その報告においては、
1年目2作目のトウモロコシ収穫時における生育ステージは乳熟期から糊熟期であり、澱粉
収量を確保するという観点からは改善の余地が残されていた。
最近となり、九州北部(熊本県)と九州南部(鹿児島県)を試験地とし、2年5作体系の
生産力評価に関する研究が行われた(加藤ら2011、原田ら2012)。その結果、2年5作体系は
①トウモロコシ極早生~早生品種、②トウモロコシ晩生品種、③冬作オオムギ、④トウモ
ロコシ晩生品種、⑤夏作オオムギの組み合わせで最も収量が高く、この作付体系に適した
草種・品種の組み合わせと考えられた(表2)。また、2年5作体系では、従来の多収栽培で
あるトウモロコシ二期作に比較し、年間TDN収量が5%(九州北部)~10%(九州南部)高
かった(図1)。鹿児島県での現地実証試験の結果では、TDN1kg当たり生産費は2年5作体系
が62.7円/kg、二期作連年体系が67.0円/kgと試算され、2年5作体系の導入により生産コスト
の低減が可能なことが明らかにされた(原田ら2012)。
さらに、九州における飼料作物栽培においてはフタテンチビヨコバイが媒介するワラビ
ー萎縮症の被害が生じることがあるため(松倉・松村2009)、作付体系の検討にあたっては、
作付体系を構成する飼料作物がフタテンチビヨコバイの宿主とならないことや、ワラビー
萎縮症被害を受けないことが重要となる。試験の結果、夏作草種ではオオムギが最も被害
を受けにくいことや、萎縮症発生地域の冬作にはフタテンチビヨコバイの越冬宿主になら
ないイタリアンライグラスが適することが明らかとなった(松倉ら未発表データ)(表2)。
-86-
表2.暖地2年5作体系に適した草種・品種とその栽培条件
年
1年目
2年目
作期
草種・品種
栽培期間・条件
1作目
ト ウ モ ロ コ シ極 早生 品種 (九 州北 部)
4月上旬~7月下旬
~早生品種(九州南部)
2作目
トウモロコシ晩生品種(二期作用)
3作目
冬 作 オ オ ム ギ( ワラ ビー 萎縮 症が 予想 12月上旬~5月上旬
される場合はイタリアンライグラス) 単純積算温度1,500℃以上が望ましい。
4作目
トウモロコシ晩生品種
5月中旬~9月上旬
夏作オオムギ
9月中旬~12月上旬
単純積算温度1,300℃以上が望ましい。
5作目
8月上旬~11月下旬
*単純積算温度は0℃基準。(加藤ら2011、原田ら2012を要約)
図1.トウモロコシ二期作と2年5作体系のTDN収量の比較
(北部、南部とも2試験の平均、加藤ら2011、原田ら2012より作図)
2)温暖地におけるトウモロコシ二期作
我が国におけるトウモロコシ二期作は、従来、気象条件として10℃基準の有効積算温度
が2,400℃以上となる地域に適すると言われており(吉川・杉山1984)、九州等の暖地にお
ける栽培技術と考えられてきた。しかし、近年では岡山県の笠岡干拓において約200ha(述
べ面積約400ha)にも及ぶ大規模な二期作栽培が行われており(井笠農業普及指導センター
2011)、さらに、静岡県においては、2008年度より開始された沿岸部のコントラクター事業
の主要な作付体系としてトウモロコシ二期作が採用されている。これらはトウモロコシ二
期作が近年大規模に行われている例であるが、この他にも、関東地域では神奈川県、栃木
県、茨城県等において、先駆的な畜産農家によりトウモロコシ二期作が行われており、最
も北に位置する栽培事例としては、栃木県の小山市から栃木市にかけての栃木県南部でも
二期作が試みられている。しかしながら、関東地域のトウモロコシ二期作の事例では、2作
目におけるトウモロコシの登熟程度が不足し、収量・栄養価が不安定な状況にあり、栽培
適地のより詳細な検討と適品種等の検討が必要である。
これまで神奈川県において行われた研究により、次のようなことが明らかにされている。
関東南部においては1作目に相対熟度(RM)100–110の品種を4月10日頃までに播種して7月
下旬に収穫し、2作目にRM125–135の品種を8月5日頃までに播種して11月下旬から12月上旬
-87-
に収穫することにより、1作目、2作目ともに黄熟期収穫可能な栽培体系となる(表3)(折
原2011)。また、2作目品種がサイレージ調製に適するようになる乾物率の目安を28%とする
と、2作目の供試品種が乾物率28%となる有効積算温度(10℃基準)は1,130–1,300℃と幅が
あったものの、収量が高く乾物率の上昇が速やかであった2作目適品種の31P41、SH3817及
び30D44の3品種はいずれも1,200℃前後で乾物率28%になった。さらに、実規模での試験に
よりトウモロコシ二期作とトウモロコシ-イタリアンライグラス二毛作のTDN収量を比較
した結果、トウモロコシ二期作は、トウモロコシ−イタリアンライグラス二毛作と比較して
TDN収量が30%多収であった(図2右)(折原2012)。
一方、著者らは、トウモロコシ二期作が試みられている栽培北限の栃木県南部において
現地試験を実施し、次のような点を明らかにした。1 作目には、RM95–100 の極早生品種
を 4 月上旬に播種、7 月下旬に収穫し、2 作目には中生から晩生の品種を 8 月上旬に播種、
11 月中下旬に収穫することでトウモロコシ二期作が可能になる(表 3)。1作目が 7 月下旬
に黄熟期に到達するためには生育期間の有効積算温度として 1,010–1,040℃程度の有効積
算温度が必要であった。また、2 作目については、黄熟期収穫の目安をトウモロコシの乾
物率で 25%とすると、有効積算温度 1,200℃前後の条件で乾物率 25%前後となり、黄熟期
収穫が可能となる(図 3)。
また、栃木県南部の現地実証試験を行った酪農家圃場(W 牧場)においてトウモロコシ
-イタリアンライグラス二毛作とトウモロコシ二期作での年間乾物収量及び年間 TDN 収
量(それぞれ 2 年間の平均値)を比較した。その結果、年間の乾物収量は二毛作が 2,355kg/10a、
二期作が 2,494kg/10a で、二期作の乾物収量が 6%高く、年間 TDN 収量は二毛作が
1,512kg/10a、二期作が 1,677kg/10a で、二期作の TDN 収量が 11%高かった(図 2 左)。こ
うしたデータをもとに、W 牧場の条件(経営面積 5ha、乳牛飼養頭数 70 頭)で、二毛作の
み、及び二期作のみを行う場合を想定し、二毛作及び二期作を行った場合の年間平均の
TDN1kg 当たりの生産費を試算した。生産費算出に用いたデータは、TDN 収量の実測値、
W 牧場における生産費の聞き取り調査結果によるほか、既往のデータ(折原 2012 等)を
参考にした。その結果、トウモロコシ二期作の生産費(67.6 円/kgTDN)は二毛作(72.1 円
/kgTDN)に比較し、6%低いという結果が得られ、トウモロコシ二期作の栽培限界地帯に
おいても、二期作は二毛作に比較し、経済性という観点からも有効な技術であることが示
された。しかしながら、この試算では、二毛作、二期作ともに、TDN1kg 当たり生産費が
比較的高い水準にあり、その生産費の約 6 割が減価償却費だったことから、減価償却費の
低減が二毛作、二期作に共通した課題であることが示唆された。
表3.温暖地トウモロコシ二期作に適した品種とその栽培条件
地域
作期
草種・品種
栽培期間・条件
1作目
極早生品種
(相対熟度(RM)95~100)
2作目
サイレージ発酵品質重視 の場 合は 中生 8月上旬~ 11月 中旬 。有 効積 算温 度1,200 ℃で 乾物
品種、収量重視の場合は晩生品種
率25%前後となる品種を栽培。
1作目
極早生~早生品種(RM100~110)
4月上旬~7月下旬
2作目
中生~晩生品種(RM125~135)
8 月 上 旬 ~ 11 月 下 旬 ・ 12 月 上 旬 。 有 効 積 算 温 度
1,200℃で乾物率28%前後となる品種を栽培。
関東北部
関東南部
4月上旬~7月下旬
有効積算温度1,010~1,040℃必要。
*有効積算温度は10℃基準。(菅野ら2011、Kannoら2012、折原2010、2011を要約)
-88-
図2.慣行二毛作と二期作の TDN 収量
の比較(北部、南部とも2か年の試験の平均)
(折原 2012、菅野未発表データより作図)
図3.関東北部での2作目に供試した
4品種の有効積算温度(10℃基準)
と全植物体乾物率の関係
(試験地:栃木県小山市及び栃木市)
3)トウモロコシ・ソルガム混播栽培
トウモロコシとソルガムの混播栽培については、既に 1980 年代~1990 年代に九州地域
(横山ら 1982、柿原・福田 1988、中山・沢井 1989、尾形・石原 1989、古澤・田中 1998)、
関東地域(木原ら 1991、三井・富田 1991、三井 1995)、東北地域(八槻ら 1994)におい
て検討がなされており、現在では千葉県や茨城県におけるコントラクターの主要な作付体
系として採用されている。本節の冒頭でも述べたように、今後、コントラクターの重要性
がますます重要になってくると予想されることから、ここでは、コントラクター向けの重
要な省力的作付体系の一つとして、トウモロコシ・ソルガム混播栽培技術を紹介する。
トウモロコシ・ソルガムの混播栽培としては、夏~秋に 1 回の収穫のみを行う普通作期
で栽培される場合も多いが、ここで取り上げる栽培方法は、トウモロコシ・ソルガム混播
の 2 回刈り栽培である。栽培適地としては暖地から温暖地のうちの比較的気候の温暖な地
域が相当する。暖地・温暖地においても、夏冬それぞれの気象資源を最大限活用するには
夏冬二毛作体系が望ましいが、この体系では、春には一番草収穫と夏作の播種が、また、
秋には夏作の収穫と冬作の播種が集中する。これに対し、トウモロコシ・ソルガム混播 2
回刈り栽培では、春に混播で播種を行い、7 月下旬から 8 月上旬にトウモロコシ主体で 1
回目の収穫を行い、その再生してきたソルガムを 11 月頃に収穫する方法である。この方法
では二毛作で生じるような春と秋における収穫と播種の作業競合が起こらず、また、春の
1 回の播種で夏と秋の 2 回の収穫が可能になるというメリットがある。また、トウモロコ
シ二期作と比べても、二期作のような夏の 1 作目収穫と 2 作目播種の作業競合が生じず、
より省力的と考えられる。
次に本技術の栽培のポイントについて述べる(伊藤ら 1989、三井 1995)。まず、播種時
期は、トウモロコシの播種適期に準じ、平均気温が 10℃以上となる時期とし、地域によっ
て異なるが、おおよそ 4 月の中下旬に播種する。トウモロコシの品種は相対熟度が 110 日
–120 日の品種を用いる。早播きが可能な場合は RM120 日前後、播種が遅れた場合は RM110
日前後の品種を用いるようにする。ソルガムの適品種としては、低温時の発芽定着が良く、
一番刈りはトウモロコシが優勢になるものの、再生と晩秋の生育が良い品種が望まれる。
-89-
これまで、兼用型からソルゴー型が適するとされてきたものの、近年長野県畜産試験場に
より育成されたスーダン型ソルガム新系統「東山交 30 号」(平成 26 年品種登録出願予定)
は、収量性や再生力等の観点からトウモロコシ・ソルガムの混播栽培に適した系統として
有望と考えられており、今後、その普及が期待されている。播種量は、トウモロコシにつ
いては、単播と同様の播種量とする。ソルガムについては、10a 当たり 0.5–1.5kg の播種量
とする。刈取り時期は、トウモロコシを主体とする 1 回目の刈取りは 8 月中旬を目途に行
い、ソルガムの再生期間が十分確保できるようにする。これまでの試験結果ではトウモロ
コシの 1 回目の刈取り時期及びソルガムの再生期間確保の目安として、播種からトウモロ
コシ収穫までが 10℃基準有効積算温度で 1,200℃、1 回目播種から再生ソルガムの収穫まで
が 13℃基準有効積算温度で 500℃とされている(三井 1995)。こうした温度条件を満たす
地域がトウモロコシ・ソルガムの混播栽培の適地と考えられるが、近年育成された新たな
品種についても同様の基準が適用できるか今後の確認が必要である。また、千葉県におけ
る周年栽培体系の研究(三井・富田 1992)では、トウモロコシ・ソルガムを 4 月下旬に混
播し、8 月下旬に1回目、11 月中旬に 2 回目の刈取りを行い、その直後にライムギを播種
することで、翌年の 4 月下旬にライムギの収穫が可能になることを明らかにしている。近
年、温暖化が進行していることを考えれば、こうした周年栽培体系の可能性は高まってい
るものと考えられる。
4.近年問題となっている雑草種とその防除技術
(1)近年における帰化雑草の発生実態
1980 年代以降、我が国の輸入飼料の増加にともない、飼料に混入した種子に由来する雑
草が飼料畑に発生するようになった(清水 1996)。1993 年に草地試験場(現:畜産草地研
究所那須研究拠点)は飼料畑における帰化雑草の全国発生実態調査を実施するとともに、
当時、被害の大きかったイチビ、ショクヨウガヤツリ等の主な帰化雑草の防除法を提示し
た(農林水産技術会議事務局 1998)。しかし、近年、1990 年代の調査では必ずしも大きな
問題となっていなかった雑草の発生と被害に関する情報が寄せられるようになった。この
ため、畜産草地研究所では、2011 年から 2012 年にかけて各県の行政部局等を通じて振興
事務所、普及センターを対象に近年問題となっている 5 種の帰化雑草について発生実態や
被害状況に関するアンケート調査を行った。その調査結果は、畜産草地研究所技術レポー
ト 13 号「夏作飼料作物における帰化雑草の発生実態調査報告書」(佐藤 2013)にまとめら
れ、主な雑草種の特徴とその防除方法についても解説されているが、ここでは、その概要
と防除のポイントについて技術レポートを要約して紹介する。
発生実態の調査では、夏作飼料作物及び作付体系 5 類型において問題となると予想され
る帰化雑草 5 種(ワルナスビ、帰化アサガオ(アメリカアサガオ、マルバアサガオ、ホシ
アサガオ、マルバルコウ)、アレチウリ、オオブタクサ及びオナモミ類(おもにオオオナ
モミ))を調査対象とした。主に各県の普及機関単位でアンケート調査を実施し、発生の
有無、発生の程度と程度ごとの面積などについて、29 府県から回答を得た。全飼料作物・
作付体系を通じた全調査面積に対する発生程度「中:管内の圃場の 20%にみられる」以上
の面積の割合は、各帰化雑草で 5.9–20.4%であり、オオブタクサ、ワルナスビ、帰化アサ
ガオで高い値であった。また、これまで雑草の発生が少ないと考えられていたスーダング
-90-
ラスにも発生が認められていた。次項ではそれらの主要な雑草種について、防除のポイン
トを紹介する。なお、効果的な防除のためにはそれぞれの雑草種の有する生理・生態的特
性の理解が必要となるが、その詳細は技術レポートを参照されたい。また、引用文献につ
いても、本稿では防除の参考として最も重要と思われる文献についてのみ紹介しており、
関連する引用文献についても技術レポートを参照されたい。
(2)近年問題となっている主要な帰化雑草
1)ワルナスビ(Solanum carolinense L.)
ワルナスビはナス科の多年生植物で、我が国では島嶼部を除くほぼ全域に分布している。
飼料畑でみられる多くの帰化雑草が輸入種子に混入して我が国にもたらされたと考えられ
るのに対して、ワルナスビについてはその侵入経路がよく分かっておらず、様々な経路を
通じて我が国に侵入してきたものと推察される。主に根茎の断片で繁殖し、飼料畑では、
耕起・耕うんにより、切断された根により急速に拡大する。
ワルナスビは近年トウモロコシ畑で発生している雑草のなかで最も防除しにくい雑草で
あり、トウモロコシ用に登録されている土壌処理剤や生育期茎葉処理剤ではほとんど防除
できない。通年グラス体系(串田・谷田 2002)によりワルナスビを被陰するなど、耕種的
な防除法により生育を抑制するとともに、非選択制の茎葉処理剤を用いる必要がある。近
年、グリホサートカリウム塩を含んだ非選択制の茎葉処理剤(商品名:ラウンドアップマ
ックスロード、タッチダウン iQ)が飼料用トウモロコシ用に登録されたため、トウモロコ
シ収穫後に圃場に残ったワルナスビにこれらの剤を散布することで防除可能となる。8 月
中旬のトウモロコシ収穫後に再生したワルナスビに 10 月下旬にグリホサートを散布する
ことで、翌春のワルナスビの発生を大幅に抑制できることが明らかにされている(浦川・
小出 2002)。
写真2.アレチウリ
写真1.ワルナスビ
-91-
2)アレチウリ(Sicyos angulatus L.)
アレチウリは、米国北東部原産のウリ科の一年生雑草で、林縁、荒地、河岸、河川敷、
路傍、畑地、樹園地など、多くの場所に生育し、東北から九州までの多くの都府県で確認
されている。茎はつる性で 10m を超えることもあり、アレチウリが大量に発生した場所で
は他の植生が完全に被陰されて生育できなくなるため、特定外来生物に指定されている。
アレチウリは米国では日照時間が 14 時間以下になると花芽が形成され開花し、開花後約
30 日で種子が成熟すると報告されている。我が国においても茨城県つくば市で行われた試
験では 4 月下旬及び 5 月下旬にトウモロコシ早生品種(P3352)とアレチウリを同時に播
種したとき、アレチウリの果実成熟前にトウモロコシが収穫可能になったことが報告され
ている(高柳 1998)。以上のようなことから、アレチウリが成熟する間に収穫が可能とな
るトウモロコシの早生品種を用いることや、スーダングラスのように初夏には収穫が行わ
れる飼料作物を栽培することで、アレチウリの被害を抑えることが可能になる。また、ア
レチウリ種子は 16cm 以下の深さからは発芽しないという報告もあり、プラウによる深耕
も一つの耕種的防除法と考えられる。
アレチウリの化学的防除として、まず、播種後の土壌処理剤としてはアトラジンを含ん
だ除草剤(商品名:ゲザプリムフロアブル、ゲザノンフロアブル、ゲザノンゴールド)が
防除効果を有している。生育期の茎葉処理剤としては、海外ではアレチウリの発生初期に
ニコスルフロン(商品名:ワンホープ乳剤)またはアトラジンとベンタゾン(商品名:バ
サグラン液剤)を混合して防除可能であったとする報告(Johnson and Webb 1994)がある
ものの、ベンタゾンとハロスルフロンメチル(商品名:シャドー水和剤)の効果は十分で
なかったという報告もある。畜産草地研究所の行った現地試験では、ニコスルフロンに優
れた防除効果が得られている。なお、基本的なことであるが、除草剤散布では成分ごとに
総使用回数が決まっており、例えばトウモロコシへのアトラジンを含む薬剤の総使用回数
は1回であるため、アトラジンを含んだ剤を土壌処理剤として散布すると、生育期の茎葉
処理にはアトラジンを散布できない(他の雑草種においても同様の注意を要する)。
3)オオブタクサ(Ambrosia trifida L.)
オオブタクサは一年生のキク科草本で、草丈は 3m 以上になる。農耕地、果樹園、道路
沿いの溝、放棄地などで全国的に発生している。我が国ではこれまで圃場への侵入は報告
されてこなかったものの、最近、飼料畑で大発生し、トウモロコシの栽培が放棄される例
が起こるなど、今後の注意が必要である。
耕種的な防除法としては、早春にオオブタクサを出芽させてから耕起する方法がある。
また、オオブタクサの種子は冬期に埋土されないと土壌表面で枯死し、1 冬では土壌表面
の種子の 7 割が枯死し、2 冬を経過するとほとんどの種子が死滅することが報告されてい
る。こうしたことから、冬作を休閑できる場合は、トウモロコシ収穫後に耕起しないでお
くことで、土壌表面のオオブタクサ種子の密度を低下させることが可能と考えられる。
化学的防除法としては、まず、耕起前に出芽しているオオブタクサにグリホサートカリ
ウム塩を茎葉散布する方法が考えられる。次に、トウモロコシの播種直後の土壌処理剤と
しては、アトラジンが一定の効果があると考えられるものの、抑制効果が安定しない場合
もあることが知られている。生育期の茎葉処理剤としては米国ではアトラジンとベンタゾ
-92-
ンが利用されているものの、その防除効果は報告により異なる。また、ハロスルフロンメ
チル、あるいはニコスルフロン+他剤との混合で効果的に防除した例も報告されている。
栃木県内の事例では、オオブタクサの出芽初期にアトラジン・メトラクロール混合剤によ
り防除している例があるものの、葉齢が進むと効果が劣るとされる。さらに、米国でオオ
ブタクサの防除効果(Nolte and Young 2002)が確認されているアトラジン・S-メトラクロ
ール混合剤(商品名:ゲザノンゴールド)が我が国でも登録され、栃木県内の酪農家のト
ウモロコシ圃場で、その効果が確認された。また、トプラメゾンを含め生育期茎葉処理剤
(商品名:アルファード液剤)が飼料用トウモロコシに登録される予定であり、オオブタ
クサを含む広葉雑草の防除への活用が期待される。
写真3.オオブタクサ
写真4.トウモロコシと競合するオオブタクサ
4)オオオナモミ(Xanthium occidentale Bertolon)
オオオナモミは北米原産のキク科の一年生草本で、我が国では南東北~九州の野草地、
道路、道路沿い、河川敷、放棄地、飼料畑の畦畔など多くの場所に発生している。ここで
は、かつてよく見かけられたオナモミ(Xanthium strumarium L.)と合わせてオナモミ類と
して扱う。オナモミ類は果包にトゲがあり、葉の表面全体に毛腺をもち質感が粗く家畜が
あまり好まない。また、オナモミ類の種子や出芽直後の子葉にはカルボキシアトラクティ
ロシドという家畜に有害な物質が含まれている。我が国でも 2007 年に黒毛和種繁殖牛 4
頭が起立不能や神経症状を呈し、うち 1 頭が死亡した事例が発生しているが、この事例の
原因については確定診断に至らなかったものの、オオオナモミ種子が混入した野草の給与
が原因と疑われた(玉野ら 2009)。なお、この種子の毒性は出芽後に速やかに消失すると
されている。
オナモミ類の耕種的な防除法としては、オナモミ類が短日性であることを利用し、トウ
モロコシの早生品種を利用し、オナモミ類の種子が成熟する前にトウモロコシを収穫する
方法がある(萩野ら 1995)。また、プラウ耕で種子が発芽できなくなる 10cm 以下の深さ
に埋め込むことや、通年グラス体系で被陰することも効果がある。
-93-
化学的な防除法としては、トウモロコシ播種後の土壌処理剤としてアトラジンやリニュ
ロン(商品名:ロロックス水和剤)が有効であることが知られている。また、茎葉処理剤
としてはアトラジン、ベンタゾンが一定の効果があり、また、ニコスルフロンも他剤と混
合して優れた効果があることが示されている。
写真5.オオオナモミ
写真6.セイバンモロコシ
5)セイバンモロコシ(Sorghum halepense Pers.)
セイバンモロコシは、ジョンソングラスの名前で知られるイネ科の多年生の雑草である。
我が国では東北以南の各地に広がり、路傍、堤防、空き地、果樹園などに広くみられる。
種子繁殖と地下茎による栄養体繁殖で繁殖・拡大する。トウモロコシ栽培ではアトラジン、
アラクロールの土壌処理でセイバンモロコシの種子からの出芽を抑制できるとされている。
しかし、圃場に拡大したセイバンモロコシは地下茎から出芽していることが多く、アトラ
ジン、アラクロール等の土壌処理では防除できず、茎葉処理剤を用いる必要がある。ニコ
スルフロンの茎葉処理を行うことで防除でき(Steckel and Defelice 1995、Tweedy and Kapusta
1995)、特に、セイバンモロコシの草丈が 30–40cm までの時期に効果が高いことが知られ
ている。
5.おわりに
本稿では、多収作付体系として暖地 2 年 5 作体系、温暖地トウモロコシ二期作、及び省
力的なトウモロコシ・ソルガム混播栽培について述べ、また生産阻害要因としては雑草害
を取り上げた。しかし、言うまでもなく、実際の営農場面では圃場条件や利用可能な作業
機械、労力は様々であり、また、主要な生産阻害要因も雑草害のほか、湿害、獣害等、多
様である。本稿が地域ごとの気象条件、社会条件等に応じた多収栽培技術を検討する上で
何らかの参考になれば幸いである。なお、本稿で紹介した多収作付体系に関する試験結果
のうち、暖地における 2 年 5 作体系、及び温暖地におけるトウモロコシ二期作体系に関す
る試験結果は、平成 21 年度から 23 年度に実施された農林水産省の新たな農林水産政策を
-94-
推進する実用技術開発事業の委託課題「トウモロコシ二期作を基幹とする暖地・温暖地の
飼料作物多収作付け技術の開発」で得られたデータであり、課題実施に当たりご協力いた
だいた関係各位に感謝する。
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平成25年度
革新的農業技術に関する研修
「自給飼料の多収生産技術と未利用資源の飼料化技術」資料
編集・発行
独立行政法人
畜産草地研究所
TEL
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家畜飼養技術研究領域
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平成 25 年 9 月 4 日
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