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大きさの異なるロールベールに対応するベールグラブの開発[PDF:2.77MB]

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大きさの異なるロールベールに対応するベールグラブの開発[PDF:2.77MB]
大きさの異なるロールベールに対応するベールグラブの開発
徳島県立農林水産総合技術支援センター
畜産研究所
飼料環境担当
上席研究員
武内徹郎
1.はじめに
飼料自給率の向上を目的に、コントラクター組織は大幅に増加しており、高性能収穫
機械の開発と相まって、ロールベールサイレージを中心とした収穫・調製体系が確立さ
れつつある。
特にコントラクター組織は、従来の機械の共同利用組織をベースとした地域コントラ
クター的な形態に加え、JA による専門組織の設置、あるいは農業公社等の実施により、
生産地(飼料生産エリア)と消費地が離れているケースも見られるようになった。
さらには、ロールベールサイレージを県境を超えて広域に流通するケースもあり、自
給飼料とは言え、ロールベールサイレージが「商品」として扱われるようになってきた。
商品となればこれまで以上に品質管理が重要となり、収穫時の調製における基本的条
件も重要であるが、特に、広域流通を考慮すると調製後の管理(荷役作業)が重要となる。
荷役作業は圃場での積み込み、農家庭先で下ろすと言う工程であるが、広域流通では
ストックヤードを経由することが多く、その場合積み下ろしがさらに 1 工程増え、計 4
回、ロールベールグラブ(以下、グラブ)等でハンドルすることとなる。
ロールベールの直径は収穫調製機械により 85cm から 1.2m 前後のものが多く、本来
はそれぞれの直径に適したグラブで把持すべきであるが、「大は小を兼ねる」方式で作
業を行ってきた結果、必要以上にロールベールに変形を加える事が多くなっている。
荷役作業での品質劣化はこういった変形によるラップフィルムと材料間に発生する
空隙、あるいはラップフイルムの破損によ
るカビ(図 1)の発生であることを我々は認
識しており、ラップフイルムの大きな破損
であれば再ラップ、軽微な破損であれば補
修テープで対応している。
しかしながらここで問題となるのはハ
ンドリング時にスレ等によって発生する
ピンホールクラスの破損である(図 2)。
図1
97
変形跡に広がったカビ
これらは一連の作業中は気がつかず、見
えにくいことから放置されることが多い
が、空気は確実に侵入しており、カビや腐
敗を引き起こす原因となっている。
結果、開封して傷んだ箇所を廃棄するこ
ととなるが、「商品」とした場合のイメー
ジダウンは大きい。
本課題ではこの品質劣化リスクを低減
するためにこのグラブを開発した。
図2
ピンホール
また、前回の情報交換会の技術紹介にあ
った可変径式 TMR 密封装置(生研センター)の開発初期に「どのサイズのロールベー
ルでも対応できる(=把持できる)グラブを考えてみてよ」とのお誘いがあり、いわゆる
「ひな型グラブ」が存在したのも開発経緯としてあげられる。
2.試作したグラブの構造
試作したグラブは片開きであり、左側
のアームは固定とし、油圧シリンダーで
稼働する右アームに、連結したリンク構
造で中央のアームが追従するものである。
(図3)
左側のアームはどの径のロールに対し
ても一定の位置関係となる。左アームの
パッドをロールの左端に合わせると良好
に把持できる。(図4)
図3
120cm
最大開口位置
図4
構造図
90cm
アームの位置状況(接触面は改良機のもの)
98
75cm
開発当初は、ロールの接触面は点より
は線、線よりは面が圧力を分散できると
考え、把持部をパッド構造とした(図5)。
以上により、当初開発したグラブは異
なる直径(75〜120cm)のロールベールを
三方向からほぼ均等に把持でき、変形も
きわめて少なくなることを明らかにした。
しかしながらやや重い(228kg)ことと、接
触面の構造があまりに「面構造」だった
ため、把持能力を若干向上させる必要が
図5
あった。
試作初号機(パッド状接触面)
3.実用化に向けての改善
把持能力向上のため、当初は接触面(パッド)の素材を換えることで対応しようとした。
平たく言うとロールベール面への「引っかかり」が欲しかったため、パッド側の穴開
け、パンチングメタルの貼付け、あるいはラッピングマシンに使われているゴム素材の
帯を利用したが、逆にフイルムを破損することが多く、接触面を根本的に改善すること
となった。
最終的(現在まで)には、ロールベールと
の接触面をパイプ(外径 48mm)を用いた面
構造とした(図6)。これにより、当初のパ
ッドよりはロールベールに対して若干食
い込むこととなったが、それと引き換えに
引っかかりを得ることができ、把持能力を
高めることができた。
さらには構造の簡素化も図れ、総重量も
206kg と約 10%の軽量化が図られ、市販
図6
機種と遜色ないものとなった(図 7)。
99
改良型(パイプの面構造)
図7
トラクタへの装着状況
4.変形量の比較
変形量の比較は次のようにした。
把持前のロールの直径を 30°ごとに測
定し、その後、把持した状態で再度直径を
測定し、その値を把持前の値で除した扁平
率で変形量を求めた(図8)。
ここでは、細断型ロールベーラで調製さ
れた密度の高いコーンと、密度の低いイタ
リアンライグラスのロールベールサイレ
ージの変形量について、対照市販機(片開
き)との比較について記す。
細断型ロールベーラは T 社製 MR-810、
図8
変形量の測定方法
ロールベーラは RB900 で調製し、ラップ
は SW1100W で六層巻きとした。
対照機では、高密度なトウモロコシでも変形量は大きく、もっとも力のかかる部位で
は把持前の 88.8%にまで押され(潰され)、逆に、圧力が逃げる方向には若干伸びる傾向
が見られた。
一方、同一条件で把持した試作機では 94.3%にとどまり、変形量が少ないことが明ら
100
かとなった(表 1)
。
変形量測定後、3 日後に直径を再測定すると、ほぼ、把持前の直径に戻っていたこと
から、ラップフィルムからの空気の出入りがあった場合、試作機の方がその出入りが少
なく、発酵品質への影響が少ないことが予想された(表 1)。
イタリアンライグラスでも市販機で大きな把持変
型がみられ(図 9)、試作機の有効性が示された。しか
い、密度の低いロールでは、強い油圧で把持すると試
作機でも深くロールに食い込み、変形量が大きくなる
(表 2)ことから、ハンドリングには注意が必要である。
図9市販機による把持変形
(イタリアンライグラス)
101
5.発酵品質
発酵品質では、グラブによる差、あ
るいは把持時期による差は極めて少な
いことから、人為的にピンホール処理
し、品質劣化を経時的に調査すること
とした。
その結果、密度の低いイタリアンラ
イグラス(長なり)や、細断型で収穫
調製した飼料イネのロールベールサイ
レージでも、表面のカビに加え、ロー
ル内部深くまでカビの発生が認められ
図 10 飼料イネでの廃棄量(例)
た。
目視による除去(廃棄)量は 1 年経過したロールでも、乾物で最大3%程度であるが、
数値以上に見た目に多く、
「商品」としては印象があまり良くない (図 10)。
従って発酵 TMR(センター)では自給飼料のロール以上に丁寧な扱いが要求されるの
は想像に難くない。
102
6.コントラクターでの使用
県内コントラクターが飼料イネを収穫・調製する時に、試作機をホイルローダに取り
付け使用してもらった(図 11、12)。当コントラクターでは平時、両開きのグラブを使用
しているため、片開きの使い方に若干戸惑っていたものの、その後は特にトラブルもな
く使いこなしていた。
ハンドリングの感想については概ね良好な返事であり、「構造も魅力的」との意見を
いただいた。
図 11 コントラクターによるハンドリング状況
7.おわりに
ロールベールサイレージの流通を考慮する上で、品質劣化要因となる把持時の変形及
びカビ発生のリスクを低減するため、直径 75cm〜120cm のロールを極めて変形するこ
となく把持できるグラブを試作した。
我々は経験的に変形やピンホールが品質劣化に大きく影響を及ぼすことを認識して
いるが、具体的なカビの発生率、廃棄率、ピンホールの発生機序等については未解明な
部分が多く、今後、かなりのオ
ーダーでの調査・検討が必要で
あると思われる。
その発生要因等が明らかに
なる上で、今回の試作機が世に
出て、飼料自給率の向上にお役
に立てればと願っている。
図 12 試作グラブによる積み込み作業
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