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友情を培う力を育てる中学年道徳学習指導

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友情を培う力を育てる中学年道徳学習指導
研究主題
友情を培う力を育てる中学年道徳学習指導
~役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程を通して~
久留米市立三潴小学校
教諭
― 59 ―
野口
奈津子
要
旨
友情とは、相互の信頼の上に成り立ち、相手の人間的な成長を願い、
互いに励まし合い、高め合い、協力を惜しまない人間関係である。その
よ う な 友 達 関 係 は 、 ヒ エ ラ ル キ ー を 成 し て お り 、「 役 に 立 つ 」 関 係 、「 楽
しめる」関係を含む「お互いを思いやり、高め合う」関係の友達を友情
関 係 と 言 う 。 ま た 、 友 情 を 培 う た め に は 、「 自 己 理 解 力 」「 他 者 理 解 力 」
「 共 感 力 」「 表 現 力 」 の 4 つ の 力 が 必 要 で あ る 。
そこで、道徳学習において友情を培う力を育てるためには、登場人物
の気持ちを推し量ることができやすい役割演技が有効であると考えた。
これまでの指導の反省から役割演技の過程を明確にするために、役割取
得・役割演技・役割創造の一連の過程を学習指導過程の「深める」段階
に位置づける。役割取得とは、教師が登場人物になって身振り手振りを
したサイレントモデルを見取り、登場人物の気持ちを吹き出しに書く活
動である。役割演技とは、ペアで役割演技を行った後、全体で役割演技
を表現する活動である。役割創造とは、全体で役割演技のよさを交流し
た後、よさを取り入れた新たな役で演技を表現する活動である。
研究の成果としては、指導過程の「深める」段階で、役割取得・役割
演技・役割創造の一連の過程を位置づけたことは、より深く登場人物の
気 持 ち を 推 し 量 る こ と が で き ( 自 己 理 解 力 ・ 他 者 理 解 力 の 高 ま り )、 登
場 人 物 へ の 共 感 が 深 ま り ( 共 感 力 の 高 ま り )、 登 場 人 物 の 心 情 を 表 現 す
る力を高めること(表現力の高まり)につながり、友情を培う力を育て
ることに有効であることが分かった。研究の課題としては、教師のサイ
レントモデルを生かした役割取得の深め方や自己理解力、他者理解力な
どを高めるための構造的な板書の工夫のあり方などである。
― 61 ―
友情を培う力を育てる中学年道徳学習指導
研究主題
~役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程を通して~
久留米市立三潴小学校
目
Ⅰ
主題設定の理由・・・・・・・・・・・・・・・・62
1
Ⅴ
Ⅱ
1
具体的な構想
2
研究の全体構想図
Ⅵ
主題の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64
1
友情とは
2
友情を培う力とは
3
役割取得・役割演技・役割創造の
Ⅲ
研究の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
Ⅳ
研究の仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
Ⅰ
主題設定の理由
1
児童の実態の面から
研究の実際・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
1
実証授業の実際と考察
2
全体考察
Ⅶ
一連の過程とは
奈津子
研究の構想・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
2「友情を培うよさ」の面から
これまでの指導の反省から
野口
次
児童の実態の面から
3
教諭
研究の成果と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76
1
研究の成果
2
研究の課題
<参考文献>・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76
現代社会において人間関係の希薄化が進み、子ども達の豊かなかかわり合いが減ってきてい
る。その要因として、核家族化やテレビゲーム、パソコン、携帯電話などのメディアの発達、
地域社会との結びつきが弱くなっていること等があげられている。
そこで、本学級における児童の友達とのかかわりの機会の実態調査を行った。放課後、友達
と全く遊んでいない児童は、25 %いることが分かる。学校から帰って一番多く時間を使って
いるのがテレビの時間ということが分かる(図1)。「休日何をして過ごすことが多いですか。」
という設問では、「家族と出かける」「ゲームをする」という回答が多かった。休日、友達と
全く遊ばない児童は半数を超え、一方で3時間以上遊んでいる児童は 33 %存在する。よって、
友達と遊ぶ児童と遊ばない児童が二極化していることが言える。休みの日に友達と全く遊ばな
い児童が増えている一方で、2時間以上ゲームをしている児童が 31 %、2時間以上テレビを
見ている児童が 90 %存在している(図2)。これらのことから、本学級においてもメディアの
発達により、友達とかかわり合う時間の減少が見られ、そのことからも友達関係の希薄化が進
んでいることが言える。
〈休みの日はどのように過ごしていますか〉
〈学校から帰って何をしていますか〉
テレビ 04
60
ゲーム
24
34
友達と遊ぶ
34
25
0%
0時間
23
25
20%
40%
1時間未満
【図1
1時間
41
60%
80%
2時間
3時間以上
放課後の過ごし方
12
テレビ 04 6
6 3
ゲーム
6 3
友達と遊ぶ
100%
16
41
0%
20%
13
22
03 9
40%
1時間未満
【図2
対象:第3学年1組32人(2011年9月実施)
56
55
0時間
】
34
1時間
33
60%
2時間
休日の過ごし方
80%
3時間以上
】
対象:第3学年1組32人(2011年9月実施)
― 62 ―
8
100%
友達についての実態調査によると、94 %の児童が友達がいてよかったという経験をしてい
ることが分かる(図3)。「どんなときに友達がいてよかったと思ったか」という設問で一番多
かった回答が、「一緒に遊んでいるとき」であった(表1)。
「本当の友達とは」という設問で一番多かった回答が、「一緒に遊んでくれる人」、次に多
かった回答が「助けてくれる人」であった(表2)。また、自分の気持ちを理解してくれる友達
がいると実感していない児童は、9%存在している(図4)。これは、友達と一緒に遊んだりは
するが、精神的な面で支えてもらったり、やさしくしてもらったりする経験が不足しているか
らだと言える。
これらのことから、本学級児童は、友達の存在を「遊ぶ仲間」や「親切な行為をしてくれる
人」と捉えており、精神的なつながりの部分では弱いということが言える。しかし、成長に伴
って、自分の精神的な心の支えに友達の存在が欠かせないものになってくる。そこで、本研究
においては、友達の存在を「遊ぶ仲間」や「親切な行為をしてくれる人」と捉えるだけでなく、
友達を精神的な心の支えとなる存在として捉えさせるために、友達のことを理解し、信頼し、
友情を深めるための力の育成を図っていきたいと考える。
【表1
〈友達がいてよかったなと思ったことはありますか〉
対象:第3学年1組32人(2011年9月実施)
ない
6%
設問1
ある
94%
【図3
友達がいてよかったとき】
友達がいてよかった割合】
どんなときに友達がいてよかったと思いましたか
・一緒に遊んでいるとき
(41 %)
・遊びにさそってもらったとき
(20 %)
・助けてもらったとき
(13 %)
・「大丈夫?」と声をかけてもらったとき
(13 %)
・その他
(13 %)
対象:第3学年1組32 人(2011年9月実施)
【表2
〈友達はあなたの気持ちをわかってくれますか〉
少し
16%
あまり
0%
ぜんぜん
9%
とても
25%
本当の友達の捉え方】
対象:第3学年1組32人(2011年9月実施)
設問2
本当の友達とはどんな人のことを言うのでしょうか
・一緒に遊んでくれる人
(54 %)
・困っているときに助けてくれる人(16 %)
だいたい
50%
【図4
友達の気持ちの理解度】
対象:第3学年1組32人(2011年9月実施)
2
・声をかけてくれる人
(8%)
・仲良くしてくれる人
(5%)
・一緒に考えてくれる人
(5%)
・その他
(12 %)
「友情を培うよさ」の面から
根本橘夫(東京家政学院大学教授)は、友情を培うことは、以下のような点で子どもの成長の基盤とな
り、また発達を促進する機能を果たすと述べている。
(1)友達は喜びをもたらし、支えになる
友達と一緒にいることや友達との遊びは、愛情欲求、所属欲求、承認欲求、達成欲求など多
様な欲求を満たし、その結果楽しさや喜び、快感、充実感などの主観的な体験を子どもにもた
らす。
(2)友達は、体験を広げる
友達との関わりを通して、知識や関心の対象、空間、行動レパートリー、人間関係などが広
がる。
(3)友達は、自己の諸能力を高める
― 63 ―
友達づきあいの中で子ども達は知らず知らずのうちに知的能力、情意能力、社会的能力、各
種の身体的技能を高めていく。
(4)友達は、自己価値感をもたらす
あるがままの自分が仲間に受け容れられることが知らず知らずのうちに自己価値感をもたら
し、また、仲間との同一化は、あたかも自分の力そのものが拡大したかのような感覚を与え、
自信という面でも自己価値感を与えてくれる。
以上の四点から、友情を培うことは、子どもの成長の基盤をつくり、発達を促進する上から
も意義深いということが言える。
3
これまでの指導の反省から
約9割の児童は、役割演技をすることに抵抗感がないと感じている(図5)。また、約2割
の児童が、役割演技をすることで登場人物の気持ちが「とても分かる」、約6割の児童が「分
かる」と感じている(図6)。確かに、アンケート結果では、約9割の児童が登場人物の気持
ちが「とても分かる・分かる」と答えているが、本時のねらいに迫るための気持ちの推し量り
とは言えない。その原因は、教師が、役割演技の過程を十分に意識せずに指導を行っていたこ
とである。具体的には、役割演技を行わせる前に、登場人物の気持ちを吹き出しに書かせ、そ
の内容を台詞化し、その後に代表児に役割演技を行わせるという過程であった。道徳的価値の
追求・把握を図るためには、資料中の登場人物の気持ちを十分に推し量らせ、共感を深めるこ
とは、非常に大切なことである。そこで、児童が「とても好き・好き」と感じている役割演技
を生かして、登場人物の気持ちを推し量らせ、登場人物への共感を深めるためには、役割演技
の過程を明確にすることが大切であると考える。
〈劇を する と登場人物の気持ち が分かりますか〉
〈道徳の学習で役割演技を する のは好きですか〉
あまり好きでは
ない
9%
ふつう
9%
とても好き
19%
ふつう
41%
好き
31%
【図5
【図6
対象:第3学年1組32人(2011年9月実施)
主題の意味
1
友情とは
とても分か
る
25%
分かる
63%
役割演技の好き・嫌い】
Ⅱ
あまり分か
らない
3%
役割演技による気持ちの理解度】
対象:第3学年1組32人(2011年9月実施)
お互いを思いやり、お互いを高め
合う関係。このタイプは、「役に立
つ」関係、「楽しめる」関係も含む。
友情とは、相互の信頼の上に成り立ち、相手の人
間的な成長を願い、互いに励まし合い、高め合い、
協力を惜しまない人間関係である。前川あさ美(東京
時間や空間を共有するこ
とで楽しいという気持ちを
味わえる関係。
女子大学教授)は、友達には3種類あり、それは、ヒエラ
ルキーを成していると論じている。一番下は、役に
立つ友達である。この友達は、自分にとってなんら
ギブ・アンド・テイ
クの関係
かの得になるような存在であり、自分も相手にとっ
て何かの役に立っている。その上にあるのは、一緒
にいて楽しい友達である。時間や空間を共有するこ
― 64 ―
【図7
友情のヒエラルキー】
とで楽しいという感情を味わえる関係である。一番上に位置するのは、お互いを思いやり、お
互いを高め合う友達である。このタイプの友達は、下の段にある二つのタイプの友達関係にあ
るような「役に立つ」関係でもあれば、
「楽しめる」関係でもあるという(図7)。本研究では、
一番上に位置する親友を「求める友情」と考え、それを培うことをねらいとしている。
2
友情を培う力とは
友情を培うためには、4つの力が必要だと考える(図8)。
まず、
「自己理解力」と「他者理解力」の2つの力である。
「自
己理解力」とは、自分が友達に対してどのような感じ方や考
え方をもっているのか客観的に自己が理解する力である。「他
者理解力」とは、友達の感じ方や考え方を理解する力である。
自己理解、他者理解を繰り返すことによって、より深く友達
の感じ方や考え方を理解する力が高まっていく。そのことに
よって、友達の感じ方や考え方を自分のことのように感じる
力(共感力)も高まるのである。高められた「共感力」は、
「表現力」つまり、自分の感じ方や考え方を言葉や行動によ
って表現する力を高めていく。この4つの力は双方向的な流
れによって、さらに高まって行くと考える。それらの高まりに
【図8
友情を培う4つの力】
よって本研究で求めている友情関係が養われていくのである。
3
役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程とは
「役割取得」とは、役割演技を行う登場人物の役割を明確に把握させる活動である。この活
動は、①教師が登場人物になり、身振り、手振りをしたサイレントモデルを見取る活動②サイ
レントモデルを見取る活動後、登場人物の気持ちを吹き出しに表現させる活動などで構成する。
「役割演技」とは、児童が作成した吹き出しを台詞化し、場の状況に即した人物の役を演じる
活動である。この活動は、①ペアで役割を交代しながら役割演技を行う活動②ペア活動後、登
場人物の気持ちを全体の場で表現する活動などで構成する。「役割創造」とは、友達のよさを
取り入れて登場人物の役を演じる活動である。この活動は、①全体でよさを相互に交流する活
動②よさを取り入れた新たな人物の気持ちを演技で表現する活動などで構成する。
そこで、学習指導過程(「つかむ」
「深める」
「振り返る」
「温める」)の「深める」段階に「役
割取得・役割演技・役割創造の一連の過程」を位置づける(図9)。
以上のような役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程を位置づけ、友達の役割演技のよ
さを交流して取り入れることで、児童は登場人物の気持ちをより一層推し量り、共感を深める
ことができると同時に、登場人物の心情を表現する力も高まり、友情を培う力を育てることが
できるものと考える。
①サイレントモデルを見る。
①ペアで役割演技をする。
②吹き出しの続きに台詞を
書く。
②全体の場で役割演技を発表
する。
【図9
①友達の役割演技を見て、
よかったところを交流する。
②友達のよさを取り入れて、
再び全体の場で、役割演技を
発表する。
役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程】
― 65 ―
Ⅲ
研究の目標
本研究は、役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程を通して、友情を培う力を育てる中
学年道徳学習指導について明らかにし、その有効性を検証することによって、小学校における
道徳の授業の改善に役立てようとするものである。
Ⅳ
研究の仮説
指導過程の「深める」段階で、役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程を位置づけて、
登場人物の気持ちを推し量らせれば、登場人物への共感が深まると同時に、登場人物の心情を
表現する力も高まるので、友情を培う力を育てることができるであろう。
Ⅴ
研究の構想
1
具体的な構想
(1)深める段階において役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程を位置づける。
役割取得・役割演技・役割創造の過程
○教師がとも子になりき
<役割取得の段階>
深
①とも子役の教師がひろしに何か言っているときの身振
り、手振り(サイレントモデル)を見取る。
め
②「光夫くんを外してかとうなんておかしいわ。」の続
きの台詞を吹き出しに書く。
って演じているところ
を見せて、とも子の気
持ちを推し量りやすく
させるために。
る
※自己理解力、他者理解
・光夫くんも同じクラスのなかまだから、一緒にが
段
位置づける目的
力
んばろう。
・勝ち負けよりもみんなでがんばることが大切だよ。
階
<役割演技の段階>
○友達の言葉のよさを見
①ペアでとも子役、ひろし役になって役割演技をし、お
つけることで、より深
互いの言葉のよかったところを見つける。
くとも子の気持ちに迫
・「おなじクラスのなかまだから」の言葉がいいね。
らせるため。
・「仲間外しはだめ。」という言葉から強い気持ちが
伝わってきました。
※自己理解力、他者理解
力、共感力、表現力
③全体の場で役割演技を発表する。
とも子→「なかまはずしをしたら、かわいそうじゃない。」
ひろし→「光夫くんを入れたら、負けるじゃないか。」
とも子→「でも、光夫くんは同じクラスのなかまじゃない。
光夫くんと3人でがんばろうよ。」
○全体で交流したよさを
<役割創造の段階>
取り入れて再び全体で
①友達の役割演技を見て、とも子さんの気持ちがよく表
役割演技を発表させる
れている言葉でよかったところを交流する。
ことで、とも子の気持
・「同じクラスのなかまじゃない。」という言葉から、
ちに深く共感させ、ま
光夫くんを思いやる気持ちが伝わってきました。
た新たな役割を創造さ
②友達のよさを取り入れて、もう1度全体の場で役割演
技を発表する。
せるため。
※自己理解力、他者理解
力、共感力、表現力
― 66 ―
2
研究の全体構想図
役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程を通して、友情を培う力を育てる中学年徳学指
導のあり方に関する研究の全体構想を示す(図 10)。
〈友情を培う力身に付けている子ども〉
・友達への思いを表現することができる子ども
・友達の気持ちを推し量り、共感することができる子ども ・友達への感じ方、考え方を理解することができる子ども
<役割創造>
①役割演技のよさの交流
②よさを取り入れた全体
での役割演技
○道徳的実践への意欲づけ
○道徳的価値の自覚化
<役割演技>
①ペアで役割演技
②全体での役割演技
○道徳的価値の追求・把握
<役割取得>
○本時学習のねらいとする
価値へのの方向づけ
①サイレントモデルの見取り
②台詞づくり
児童の実態
【図10
Ⅵ
研究の実際
1
実証授業の実際と考察
第3学年1組
研究構想図】
資料「同じ仲間だから」(学校図書)
2-(3)友達と互いに理解し、信頼し、助け合う(11 月2日実施)
(1)ねらい
①
友達を仲間はずしにすることの不条理さの理解やその不条理さを自分から是正しようと
する態度を通して、友達を信頼し、助け合おうとする心情を育てる。
②
役割取得、役割演技、役割創造の一連の過程を通して、登場人物の気持ちの推し量りを
深めることによって、信頼・友情・助け合いの価値を意欲的に追求することができるよう
にする。
(2)抽出児の説明
抽出児A児・・・登場人物の気持ちを推し量り、より価値にせまった台詞を書くことができ、
登場人物になりきって、身振り、手振りを入れて役割演技をすることがで
きる。
抽出児B児・・・登場人物の気持ちを推し量って台詞を書くことができ、身振り、手振りを
入れて、役割演技をすることができる。
― 67 ―
【つかむ段階】
授業仮説1
「友達っていいなと思った時はどんな時か」のアンケート結果を提示したこと(写真3)
は、自分の体験を想起させ、本時学習のめあてをつかませる上で有効であったか。
T1:友達っていいなと思ったことはありま
すか。(写真1
アンケート結果①の
提示)
C(全員32人が「はい」と答える)
T2:それはどんな時ですか。
1位:「遊ぼう」と声をかけてもらった時
2位:「大丈夫?」と心配してもらった時
3位:助けてもらった時
(写真2
【写真1
アンケート結果①】
アンケート結果②の提示)
【写真2
T3:
アンケート結果②】
〈友達っていいなと思った体験を 思い出すことはできましたか〉
今日は、こんなす
てきな友達ともっ
となかよしになる
できた
28%
できなかっ
た
0%
ためには、どんな
心をもてばいいか
について、考えて
いきましょう。
【写真3
とてもできた
72%
アンケート①、②を
提示している様子】
【図11
友達っていいなと思った体験の想起の実態】
対象:第3学年1組32人(授業直後実施)
めあて
もっとなかよしの友だちになるためには、どんな心をもてばいいのだろうか。
授業仮説1の考察
授業直後に、「アンケート結果を提示することで、友達っていいなと思った体験を想起
することができましたか」というアンケートを行った。図 11 のように、72 %の子どもが
「とてもできた」、28 %の子どもが「できた」と答えている。よって、写真1・2のよう
なアンケート結果を提示したことは、友達っていいなと思った体験を想起させ、「もっと
なかよしの友達になるためには」という本時めあてをつかませることにつながったと考え
る。以上のことから、授業仮説1は有効であった。
【深める段階①】
授業仮説2
主人公とも子の内言語である(これくらいのけがならできるはず。でも、みつおくんが入
ったら―。)のダッシュの部分を取り上げ、この後とも子は、どんなことを心の中で思った
かを話し合わせたことは、みつおを学級対抗の競技に入れたくないと思うとも子の気持ちを
強める上で有効であったか。
T1:「これくらいのけがならできるはず。で C1:みんなから文句を言われてしまう。
も、みつおくんが入ったら―。」と思っ
― 68 ―
ているとも子さんは、この後、どんなこ A児:ビリになって、みんなにめいわくをか
とを言うのでしょうか。
けてしまう。
B児:光夫くんが入ったら絶対に負けてしま
う。
〈ダッシュの部分には、どんな言葉が入りますか〉
みんなに迷惑
をかける
20%
遅くなる
13%
文句を言われ
る
34%
負ける
33%
【写真4
ダッシュに入るとも子さんの気持ちの板書】
【図12
ダッシュに入る言葉の分類】
対象:第3学年1組32人(授業直後実施)
授業仮説2の考察
C1は、みつおを参加させれば負けるので、「みんなから文句を言われてしまう」と答え
ている。つまり、負けた結果のことまでも考え、みつおを学級対抗の競技に参加させること
を強く拒否している。また、C1と同様にB児も、みつおを参加させれば、「ぜったいに負
けてしまう。」と「ぜったい」という程度を表す副詞を付け、競技に参加させることを強く
拒否している。A児は、「ビリになって、みんなにめいわくをかけてしまう。」と自分が試
合に負けたくない気持ちよりもクラスのみんなに対して申し訳ないという気持ちからみつお
を競技に参加させることを拒否している。以上のことから、授業仮説2は、主人公とも子が、
みつおの競技参加を拒否する気持ちを強める上で有効であったと言える。
図 12 のように、授業直後のアンケートからダッシュに入る言葉が4種類あることが分か
った。よって、主人公とも子が、みつおを学級対抗の競技に参加させることを拒否する理由
の違いを分けて板書化を図れば(写真4)、参加を拒否する気持ちを一層明らかにすること
ができたと考える。
【深める段階②】
授業仮説3
主人公とも子の親友であるよし子からの手紙を黒板に掲示(写真5)し、さらに範読をし、
状況を明らかにした後に、とも子の気持ちについて話し合わせたこと(写真6)は、仲間は
ずしにされているよし子にみつおを重ね合わせ、みつおの辛い気持ちを推し量ったり(他者
理解)、「自分もみつおくんに同じことをしているかもしれない」と仲間はずしをしている
自分の気持ちを推し量ったり(自己理解)する上で有効であったか。
T4:手紙を思い出したとも子さんは、どんな C1:よし子さんのように、光夫くんを仲間
ことを考えたでしょう。
外しにしたら、悲しい思いをするだろ
う。
C2:よし子さんがかわいそう。
A児:自分も同じことをしている。
B児:仲間外しはよくない。
― 69 ―
わ た し 、今 と っ て も つ ら い の 。
・・
手紙を読んでいる様子
とも ちゃ んへ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【写真5
〈転校した親友よし子さんの手紙から主人公とも子さん
は、どんなことを考えたのでしょうか〉
仲間外しはよ くな
い
9%
よ し子さんがかわ
いそう
16%
みつおくんがかわ
いそう
16%
】
みつおくんもよ し
子さんと同じ気持
ちだ
40%
私も同じことを して
いる のかも
19%
【図13
よし子さんの手紙から考えたことの分類】
対象:第3学年1組32人(授業直後実施)
【写真6
とも子さんが考えたことの板書
】
授業仮説3の考察
図 13 に見られるように、56 %の児童は、親友よし子の手紙をもとによし子と光夫を重
ね合わせ、仲間外しをされていることでみつおが辛い思いをしている気持ち(他者理解)
を推し量っている。また 19 %の児童は、みつおの気持ち(他者理解)を通して、「自分も
同じことをしているのかもしれない」とよし子が仲間外れにされていることを、自分がみ
つおを仲間外しにしようとしていることに置き換えて考えることができている(自己理
解)。さらに、9%の児童は、他者理解や自己理解を通して、「仲間外しはよくない」と
いう考えにまで至っている。以上のことから、授業仮説3は、仲間はずしにされているよ
し子にみつおを重ね合わせ、みつおの辛い気持ちを推し量ったり(他者理解)、「自分も
みつおくんに同じことをしているかもしれない」と仲間はずしをしている自分の気持ちを
推し量ったり(自己理解)する上で有効であったと言える。
【深める段階③】
授業仮説4(役割取得の段階)
教師が、仲間外しをしているひろしに「みつおくんを外してかとうなんて、おかしいわ。」
と言ったあとのとも子の様子を言葉を発せずに、身振り、手振りだけで表現し(写真7
サイレントモデルの提示)、吹き出しにとも子の気持ちを書く活動を位置づけたことは、
書くことの抵抗を和らげ、且つ書く内容の方向を明らかにし、「みつおくんを仲間外しに
してはいけない。」という強い気持ちを抱かせる上で有効であったか。
T1:先生が「光夫くんを外してかとうなんて
おかしいわ。」と言った後のとも子さん
(サイレントモデルを見た感想)
A児:言葉も考えやすくなったし、演技の時
の様子を演じます。
の身振りの参考にもなった。
(おこった顔で手をふりながら、声を出さずに
B児:「負けたってみんなでやると楽しい
懸命にひろし君に言っている場面を演じる)
よ。」と言っている感じがした。
C1:ひろしくんに注意している感じがし
― 70 ―
て、みつおくんを仲間外しにしてはい
けないという気持ちが分かった。
〈サイレントモデルを見ることでとも子さんの気持ちを考えやすく
なりましたか〉
考えにくかった
0%
考えやすかった
34%
とても考えやす
かった
66%
【写真7
サイレントモデ
【資料1
A児のノート】
ルを提示している様子】
【図14
サイレントモデル提示の有効の有無】
対象:第3学年1組32人(授業後実施)
授業仮説4の考察
教師のサイレントモデルを見た児童の感想には、「ひろしくんを説得しようと一生懸命
やっている感じが伝わってきた」や「自分が演技をするときの参考にもなった」というも
のがあった。また図 14 のように、66 %の児童が「とも子さんの気持ちをとても考えやす
かった」、34 %の児童が「とも子さんの気持ちを考えやすかった」と答えている。また、A
児のノート(資料1)のふき出しには、「ひろしくんだって一人なかまはずれにされたり
したらいやなんじゃないの。みつおくんもきっと同じ気持ちだよ」と書かれていた。みつ
おを仲間外しにしてはいけないという強い思いが表れていることが分かる。以上のことか
ら、授業仮説4は、とも子さんの「みつおくんを仲間外しにしてはいけない。」という気
持ちの推し量りに役立ち、吹き出しに言葉を書かせる上で有効であったと言える。
しかし、児童の一部には、とも子の役割演技を行う際、教師のサイレントモデルで表現
した身振り、手振りを十分生かすことができなかった。このことから、教師のサイレント
モデルの提示後に、児童自身がサイレントモデルを行う活動を行えば、とも子の気持ちを
さらに推し量り、その推し量った気持ちを役割演技で表現することができたと考える。
【深める段階④】
授業仮説5(役割演技の段階)
主人公とも子役と仲間外しをしているひろし役のペアでの役割演技を行わせ、互いにと
も子の気持ちを伝え合ったことは、仲間外しにされて辛い思いをしているみつおの気持ち
を考え、ひろしを必死に説得しているとも子の気持ちを推し量らせる上で有効であったか。
T1:とも子さん、ひろしさん役になって、ペ
C1:なんだい、いいかっこするなよ、
アで役割演技をしましょう。演技後、と
も子さんの気持ちがよく表れてよかった
負けてもいいのかよ。
(ひろし役)
(優しい口調で、「みんなで」という言葉を
言葉を伝えてあげましょう。
強調して)
B児:みんなでやった方が楽しいよ。どうせ
ビリになったってみんなでやると楽し
いよ。しかも、負けてもチームワーク
が大切だよ。
(とも子役)
C1:「みんなでやった方が楽しいよ」とい
う言葉がよかったです。
【写真8
B児の役割演技の様子】
(B児の吹き出しの言葉に線を引く)
― 71 ―
C2:なんだい、いいかっこするなよ、
負けてもいいのかよ。
(ひろし役)
(相手の目を見ながら、強い口調で。だんだ
ん相手に近寄りながら)
A児:この競技は勝つだけじゃなくてチーム
みんなでがんばることが大切なんだ
よ。ひろしくんだって、一人仲間外れ
【写真9
にされたらいやなんじゃないの。光夫
A児の役割演技の様子】
くんもきっと同じ気持ちだよ。
〈ペアで役割演技をすることで、とも子さんの気持ちがわかりまし
たか〉
(とも子役)
分かりにくかっ
た
0%
C2:「チームみんなでがんばることが大切」
分かった
41%
という言葉がよかったです。
(A児の吹き出しの言葉に線を引く)
とても分かった
59%
【図15
ペアでの役割演技の有効の有無】
対象:第3学年1組32人(授業後実施)
授業仮説5の考察
A児は、「ひろしくんだって一人仲間外しにされたらいやなんじゃないの。」というよ
うに、ひろしにみつおの気持ちを考えるように促している。これは、自分がみつおの立場
になってみつおの気持ちを推し量ったからだ(共感力の高まり)と考える。また、B児は、
「みんなでやった方が楽しいよ。負けてもチームワークが大切。」というように、ひろし
に「みんなでやろう」という気持ちを必死に伝えている(表現力の高まり)。演技後にと
も子さんの言葉のよかったところに線を引かせることで、C1は、「みんなでがんばるこ
とが大切」、C2は、「みんなでやった方が楽しい」というとも子の気持ちに共感してい
ることが分かる。図 15 のように、ペアでの役割演技を取り入れたことで、59 %の児童が
とも子さんの気持ちを「とても分かった」、41 %の児童が「分かった」と答えている。
以上のことから、授業仮説5は、辛い思いをしているみつおの気持ちを考えて、必死に
ひろしを説得しているとも子の気持ちを推し量らせる上で有効であったと言える。
【深める段階⑤】
授業仮説6(役割創造の段階)
主人公とも子が、みつおを仲間外しにしてはいけない気持ちをよく表している言葉を全
体で話し合わせ、さらに、友達のよさを取り入れるために付け加え活動を行わせながら、
とも子役を創造させ、役割演技を行わせたことは、とも子の「仲間外しはよくない。みつ
おも同じクラスの仲間だから、みんなでがんばろう」という気持ちに深く共感させる上で、
有効であったか。
(全体での役割演技の発表が終了後)
T1:とも子さんの気持ちがよく表れている言
C1:「チームワークが大切だよ」という言
葉は、どんなところでしたか。
葉がいいです。
C2:「光夫くんがかわいそうだよ」という
言葉がいいです。
― 72 ―
T2:友達のいい言葉を赤鉛筆で書き入れまし
(全員がとも子役になり、一斉に役割演技を
ょう。
行う)
※下線は新しく付け加えた言葉(資料2)
(1回目より大きな声で。身振り、手ぶりを
大きくして。)
B児:なんで仲間外しにするの。(足踏み)
みんなで(手を広げる)やった方が楽
しいよ。どうせビリになったってみん
【資料2
なでやると楽しいよ。しかも、負けて
友達のよさを書き加えたノート】
T3:友達のよさを取り入れて、みんなとも子
もチームワークが大切だよ。光夫くん
さん役になってみましょう。
がかわいそうだよ。(とも子役)
T4:前でとも子さん役を発表してください。
教師:負けてもいいのかよ。
(ひろし役)
(1回目よりも大声でおこった感じで)
A児:この競技は勝つだけじゃなくてチーム
みんなでがんばることが大切なんだ
よ。(足をドンとならす)ひろしくん
だって、一人仲間外れにされたらいや
なんじゃないか。(足でドンとならし
ながら両手をふりおとす)
【写真10
(とも子役)
教師とA児の役割演技の様子】
〈友達の言葉のよさを取り入れて、再び役割演技をしたことで、と
も子さんの気持ちが1回目よりもわかりましたか〉
教師:でも、負けるぞ。
分かりにくかった
0%
(ひろし役)
A児:光夫くんもきっと同じ気持ちだよ。み
分かった
41%
つおくんがかわいそうだよ。(一歩足
とても分かった
59%
を前に出して、つめよる)
(とも子役)
【図16
二回目の役割演技の有効の有無】
対象:第3学年1組32人(授業後実施)
授業仮説6の考察
B児は、「光夫くんがかわいそうだよ」という言葉をつけ加え、床をけって音を鳴らし
たり、手を回したりして身振り・手ぶりが大きくなっていた。A児も、「光夫くんがかわ
いそうだよ」という言葉をつけ加え、床をけって音を鳴らしたり、手をふり下ろしたり
して身振り・手ぶりが大きくなっていた。最初と比べて怒っている口調にもなっていた。
これは、友達の演技を見て、よさを交流したことで、自分とはちがう新たな役割を取り入
れ、さらに深くとも子に共感して二回目の役割演技を行ったからだと考えられる(共感力、
表現力の高まり)。図 16 のように、59 %の児童が、友達のよさを取り入れて再び役割演
技をしたことで、とも子の気持ちが一回目のときより「とても分かった」、41 %の児童が
「分かった」と答えている。以上のことから、授業仮説6はとも子の「仲間外しはよくな
い。みつおも同じクラスの仲間だから、みんなでがんばろう」という気持ちに深く共感し、
また新たな役割を創造させる上で有効であったと言える。
― 73 ―
【振り返る段階①】
授業仮説7
教師が、「友達っていいなカード」をもとに、友達にしてうれしかったこと(Cさん→
Dさん)、友達にされてうれしかったこと(Dさん→Cさん)の 両面から子ども達の日
常生活での具体的な姿を紹介したことは、友達との関わり方を振り返らせ、友達と助け合
うことの心地よさを共有する上で有効であったか。
T1:友達っていいなカードを紹介します。
【Cさん】
タイヤとびをしていたら、
A児:Cさんみたいに、人のためにいろんな
【Dさん】
努力をしていきたいと思いました。
タイヤとびをしている時に、
B児:Cさんは本当にやさしくて、人のこと
Dさんがタイヤから落ちまし
タイヤから落ちて泣いていた
た。「だいじょうぶ?」と声を
ら、Cさんが「だいじょう
かけて、おんぶをして連れて
ぶ?」と言って、おんぶして
C1:Cさんは、Dさんにいいことをしてい
行ったら、Dさんが笑顔にな
くれたので、すごくうれしか
たから、わたしもいいことをしたいで
ったので、よかったです。
ったです。Cさんは、やさし
す。
を思っているんだね。
いなあと思いました。
授業仮説7の考察
A児は「人のために色んな努力をしていきたい」、C1は「わたしもいいことをしたい」
というように、これからの自分の姿を考えることができた。それは、Cさんがしたことが
Dさんにとってすごくうれしいことで、価値があるということを感じることができたから
である。また、Dさんが笑顔になることで、優しくしたCさんもうれしい気持ちになると
いうことを感じることができたからである。以上のことから、授業仮説7は友達との関わ
り方を振り返らせ、友達と助け合うことの心地よさを共有する上で有効であったと言える。
【温める段階①】
授業仮説8
教師が、高校時代のビデオや友達からもらった実物の手紙を見せながら、友達に助けて
もらった体験を話したことは、友達と励まし合い、助け合うことのよさを実感し、これか
らの実践意欲を高める上で有効であったか。
(教師の高校時代のビデオを流す)
C1:よしえさんがいたから、先生は部活を
T1:ブラスバンド部をやめようと思って、悩
続けられたんだと思います。よしえさ
んでいたとき、同じ部活の大親友のよし
んはいい人だなと思いました。
えちゃんから手紙をもらいました。(手
C2:友達っていいなと思いました。
紙の一部を読む)その手紙のおかげで、
部活をやめずに最後の演奏会に出ること
C3:悲しんでいる友達がいたら、ぼくも励
ができ、うれしかったです。よしえちゃ
ましたいと思いました。
んと友達になれて本当によかったです。
授業仮説8の考察
教師が高校時代のビデオや友達からもらった実物の手紙を見せながら話したことで、児
童全員が興味を持って話を聞き、教師の高校時代の話の中に入りこむことができた。そし
て、C1やC2のように、友達のよさを十分実感することができた。また、C3の「悲し
んでいる友達がいたら、ぼくも励ましたい」というように、これからの実践意欲をもつこ
ともできた。以上のことから、授業仮説8は、友達と励まし合い、助け合うことのよさを
実感し、これからの実践意欲を高める上で有効であったと言える。
― 74 ―
2
全体考察
(1)「友情を培う力」について
授業前のアンケートでは、
「友達がいてよかったと思ったことがある」と答えていた児童は 94
%で、その内、41 %の児童が、「一緒に遊んでいるとき」と答えていた。授業後の同じアンケ
ート(表3)では、
「友達がいてよかったと思ったことがある」と答えた児童は 100 %であり、
その内訳の内容にも変化が見られた。「教えてもらったとき」「応援してもらったとき」など
は、新しく付け加わった内容であり、この内容は友達に対する自己理解力の高まりの姿と考え
られる。
「本当の友達の捉え方」のアンケートでは、授業前では、54 %の児童が、「一緒に遊んでく
れる人」と回答していた。授業後の同じアンケート(表4)では、40 %の児童が「困ってい
るときに助けてくれる人」、21 %の児童が「大丈夫?と声をかけてくれる人」、13 %の児童が
「悲しいときに励ましてくれる人」と答えており、友達の存在を「遊ぶ仲間」や「親切な行為
をしてくれる人」と捉えるだけでなく、精神的な心の支えとなる存在として捉えている。この
ことからも友達に対する自己理解力・他者理解力が高まっていると考えられる。
図 17 では、47 %の児童が友達は自分の気持ちを「とても分かってくれる」と答えており、
授業前の 25 %より 22 %高くなっている。このことから、他者の気持ち推し量ることができる
他者理解力の高まりが見られる。さらに図 18 では、69 %の児童が友達との仲が「とても深ま
った」、31 %の児童が「深まった」と答えていることから、自己理解力・他者理解力が高まっ
たことにより他者への共感力も同様に高まったと考えられる。以上のことから、本研究を通し
て、友情を培う力を育てることができたと考える。
【表3
友達がいてよかったとき】
【表4
対象:第3学年1組32人(2011年12月実施)
本当の友達の捉え方】
対象:第3学年1組32人(2011年12月実施)
設問1どんなときに友達がいてよかったと思いましたか。
設問2 本当の友達とはどんな人のことを言うのでしょうか。
・遊びにさそってもらったとき (33%)
・困っているときに助けてくれる人 (40%)
・助けてもらったとき
(25%)
・「大丈夫?」と声をかけてくれる人 (21%)
・教えてもらったとき
(12%)
・悲しいときに励ましてくれる人(13%)
・応援してもらったとき
(10%)
・遊びにさそってくれる人
(8%)
・優しい声かけをしてもらったとき
(10%)
・一緒に遊んでくれる人
(8%)
・一緒に遊んでいるとき
(5%)
・ 分からないときに教えてくれる人 (6%)
・遊びに入れてもらったとき
(5%)
・気持ちを分かってくれる人
(2%)
・ いけないことをきちんと注意してくれる人(2%)
〈友達はあなたの気持ちをわかってくれますか〉
〈1学期と比べて、友達との仲が深まりましたか〉
あまり
6%
少し
6%
かわらない
0%
深まった
31%
ぜんぜん
0%
とても
47%
とても深まった
69%
だいたい
41%
【図17
友達の気持ちの理解度】
【図18
対象:第3学年1組32人 (2011年12月実施)
友情の深まり具合】
対象:第3学年1組32人 (2011年12月実施)
― 75 ―
(2)「役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程」について
アンケート調査では、図 19 から分かるように、役割演技が「とても好き」と答えている児
童は 34 %。図 5 の 19 %より 15 %高くなっている。また、「好き」と答えている児童は 50 %
で図 5 の 31 %より 19 %高くなっている。その理由は、「演技を自分でやったり、見たりした
ので、気持ちがよく分かる」「演技の後に、いいところを言ってもらうのがうれしい」などで
ある。また、図 20 から分かるように、役割演技をすると登場人物の気持ちが「とても分かる」
と答えている児童は 72 %。図 6 の 25 %より 47 %高くなっている。
さらに、各段階における授業直後の聞き取り調査では、①役割取得の段階:「登場人物の様
子が分かったので、吹き出しに主人公の気持ちを書きやすくなった」②役割演技の段階:「ペ
アの人から言葉のいいところを言ってもらうと自信をもって発表できる」「ペアで役割演技を
すると緊張しないで発表できる」③役割創造の段階:「友達のいいところを言ったりしたこと
で自分が考えていなかった気持ちに気づいた」「友達の演技や言葉のいいところを自分の中に
取り入れたりできた」「全体で友達の役割演技のいいところを話しあった後に、もう一度役割
演技をしたことで、一回目の演技の時よりも登場人物の気持ちを考えることができた」と述べ
ている。アンケート調査及び授業直後の聞き取り調査から、児童は、登場人物の気持ちを推し
量り、共感を深めたことが伺える。共感の深まりは、登場人物の視点に立った推し図りの深ま
りであると同時に友情を培う4つの力の高まりとも考えられる。具体的な力の高まりは、部分
考察に記載している子どもの姿から読み取れるものと考えている。
以上のことから役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程を取り入れたことによって、登
場人物の気持ちをより一層推し量ることができるために、登場人物への共感を深めることがで
き、登場人物の心情を表現できる力が高まって、友情を培う力を育てることができたと考える。
〈道徳の学習で役割演技をするのは好きですか〉
ふつう
16%
〈役割演技を する と登場人物の気持ち が分かりますか〉
あまり好きで
はない
0%
ふつう
3%
とても好き
34%
分かる
25%
あまり分からな
い
0%
とても分かる
72%
好き
50%
【図19
役割演技の好き・嫌い】
【図20
対象:第3学年1組32人(2011年12月実施)
Ⅶ
研究の成果と課題
1
研究の成果
役割演技による気持ちの理解度】
対象:第3学年1組32人(2011年12月実施)
○「深める」段階で、役割取得・役割演技・役割創造の一連の過程を位置づけたことは、自己
理解・他者理解をくり返しながら登場人物の気持ちを推し量り、登場人物への共感を深める
と同時に登場人物の心情を表現できたため、友情を培う力を育てる上で有効であった。
2
研究の課題
○教師のサイレントモデルを生かした役割取得の深め方。
○自己理解力、他者理解力などを高めるための構造的な板書の工夫のあり方。
〈参考文献〉
1.文部科学省「小学校学習指導要領解説
道徳編」東洋間館出版社(2008 年 8 月)
2. 児童心理「友だちづきあいが大切」(2006 年 5 月).児童心理「友だちができない子」(2009 年 11 月)
金子書房
3.道徳教育「本当の友情とは」明治図書(2004 年 6 月)
4.栃木県教育委員会「望ましい人間関係を構築する能力を育成するための指導・援助の在り方」(2005 年)
― 76 ―
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