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看取り研修会講演抄録2(実践発表、星 主任看護師)
平成 26 年度 第2回 看取り研修会 3 多職種連携研修会 講演抄録2 実践発表 (1) 「施設の看取りについて」 特別養護老人ホーム美雪園 主任看護師 星 佳子 私は、美雪園で主任看護師をしております星と申します。 最近、エンディングノートや終活という言葉があちらこちらでよく耳にするようにな ったのですが、本日も大勢の方が看取りについてということで集まり、看取りへの関心 が高いことが伺えます。 看取りの話を始める前に美雪園の紹介をします。詳細はお手元の資料NO.2をご覧 ください。 美雪園は約 100 名の方が生活されております。嘱託医は中島拓先生で週2回、診察のた め来園されます。 入所されている方ですが、施設の中だけでとどまらないようにご家族の協力を頂きな がらご自宅 へ帰ったり、お家の田んぼも見に行きます。ラーメンの出前を取ったり、 外出して回転寿司に行って好きなネタを頂いたりします。地域の祭りに参加してご家族、 ご近所の方と楽しく過ごしたりもします。体調を崩された時は、電話ですけれどもご家 族に報告します。ご家族や近所の方との絆がいつまでも保たれるように職員が生活の場 を意識して介護を提供させていただきます。ご家族、地域の方の協力があってこそ、入 所者の方の楽しみも生まれます。 美雪園の生活の場での看取りですが、詳細についてはお手元の資料でご容赦ください。 今年度、去年4月~今日現在で 14 名の方がお亡くなりになりました。全ての方が美雪 園で最期を迎えました。 本日のお話しです。2つ目のテーマですが、看取りは決して穏やかな最期の方ばかり ではありま せん。私たちが教えていただいたことをお話しします。 美雪園で穏やかに最期を迎えた方の紹介です。 Aさん、去年の夏、老衰で永遠に旅立ちました。享年 81 歳。Aさんはおととし秋に入 所されました。美雪園に入所されますと、人生の終末をご本人はどう迎えたいのか、ご 家族はどう迎えさせたいのか、お気持ちを語っていただきます。Aさんのご家族は、延 命治療はせず美雪園での看取りをご希望されました。入所後1ヶ月を目途にご家族と中 島先生と面談を行っていただきます。具合が悪くなった時、食べられなくなった時のこ とをご家族内で必ず話し合っておくようにと中島先生がお話しをされます。Aさんのご 家族は「食べられなくなっても管は希望しません。 」 「先生と美雪 園にお任せします。 」 「苦しまないで逝ってほしい。 」とご意向を 示されました。 お嫁さんは普段から面会に来られると、時間の許される限り Aさんの側に寄り添ってくださいました。食欲が落ちてもお嫁 さんがお手伝いをすると食べてくださいました。ご家族の力には敵いません。Aさんは 夏の始まり位から体力低下が目立つようになりました。 いよいよ看取りの時期と考えられる時、眠っている時間が長くなります。食事の量も減 ります。食べてもむせることが多くなります。Aさんの場合も同様でした。 多くのご家族が不安に思うのは、「食べないとどんどん体が痩せて細ってしまうこと。」 「水分を取らないと脱水になって苦しいのではないか。」「それなら点滴をすれば元気に なるんじゃないか。 」そういったことのようです。中島先生は自然に食べられなくなって きた方に、 「体が受け付けられる量を遙かに超えた栄養剤の点滴を無理に入れても、体が 求めていなければ体がむくみ、かえって体に負担をかけます。 」と説明されます。 看取りの時期に入ったかどうかは、先生が判断されます。ご家族と先生で看取り期の 面談を行っていただきます。職員も同席させていただきます。このとき先生は、ご家族 の気持ちを尊重されます。 「最後は美雪園で」 、「入院させてほしいんです」 、 「栄養補給の ために絶対に管を入れてほしい」、「お家で本当は看取りたい」など選択は様々です。大 切なご家族を看取る際に最期、どこでどのように迎えたいか、お医者さんに委ねるだけ ではなく、ご家族にもこうしてほしいというふうに決断していただきます。 ご家族がいつでもご本人との時間を過ごせるように、宿泊できる環境も整えます。 Aさんは8月に入り、さらに体調を崩しました。8月4日、中島先生の診察結果、肺 炎と肺に水がたまる状態でした。8月5日、中島先生との面談の席でご家族は入院を希 望されました。同席された孫娘さんが、本人を見て切なくなり、その日のうちに入院と なりました。病院では毎日点滴治療です。ご高齢で血管がもろく、また点滴が嫌で手を 動かし、何度も何度も点滴を差し替えました。8月7日、職員が面会に伺うと「注射を 3回もした。この針、早く取ってくれ。点滴はもう嫌だ。 」そう仰いました。この頃、嫁 さんは、点滴や栄養補給のための管を入れることは、 「本人の苦痛となるので望んでない」 と病院の先生とお話しされていました。8月 15 日、お嫁さんと嫁いだ娘さんが退院に向 け、美雪園に相談に来られました。退院すると言うことは、そのまま食べられなければ 死を意味するわけですから、ご家族の覚悟が伺えます。 8月 19 日午前、Aさんは看取りの方針を決め、退院されました。午後、お嫁さんに中 島先生とで最期の看取りをどうするかの面談をしていただきました。 「顔色は良くても栄 養はいきません。最期まで園で看させていただきます」と中島先生。お嫁さんも了解さ れました。ご本人にとって負担となる飲み薬、検査、全て中止です。 Aさんは昔、愛犬を飼っていました。愛犬との散歩が日課だったそうです。この写真 は職員の愛犬クウちゃんとの対面です。亡くなる数日前にも対面しました。Aさんはク ウちゃんのことをしっかりと覚えていて、とても喜ばれました。お写真は元気な頃のA さんです。 退院して3日目。午前中に短時間ですが、お風呂に入りました。午後、介護士が「呼 吸がおかしい、なんだか様子が違うから早くお嫁さんに連絡して。今じゃないと間に合 わない気がする。」と看護師に報告。お嫁さんは仕事中でしたが早めに切り上げ、来園さ れました。それまで大きく見開いていた目が、お嫁さんが到着すると待っていたかのよ うに優しいお顔になりました。永遠のお別れです。お嫁さん、私にも分かりました。 「私 を待っていてくれたんですね。 」とお嫁さん。Aさんの病院でのつらい治療をやめて、と いう思いをご家族は尊重されました。生命の長さに着目した最期の迎え方ではなく、苦 痛に留意しながら残された日々を精一杯生きる生命に対するご家族を前に、職員もほん の少し身にしみたと思います。後にお嫁さんは「終わったと思うんだけど、考えたら私、 まだ自分の両親が居るんです。終わってなんかいなかったんですよね。 」とお話しされて いまいた。 家に帰りたいというご本人の思いに少しでも寄り添えるよう、看取り期であってもご 家族の御協力を頂き、自宅に外出されることもあります。夏にお亡くなりになったAさ んはごく短時間でしたが、ご自宅に帰られました。入所前に介護をされていたお孫さん が、今か今かと玄関の前にAさんを待っていてくれました。離れて暮らしていてもご家 族にどれだけ愛され、大切に思われているかわかります。ご家族と愛犬に囲まれ懐かし い時間を過ごされました。園に戻られてからも始終笑顔でした。老衰で徐々に食事がと れなくなり、普通に眠っているような姿で最期を迎える、いわゆる天寿を全うする看取 りが美雪園でできる看取りなのかと考えていました。 次は慢性の呼吸器の病気で、「息が苦しい」と訴え続けた方と、がんの末期で苦痛と試 練の恐怖を抱えていた方の職員が教えていただいたことのお話をします。 医師より「看取りの時期に入った」と判断されましたが、とにかく苦しむ方がいらっ しゃいました。夜間帯、施設は看護師は不在ですから、ご本人が苦しむ様子をみかねて 「美雪園じゃ何もできない。入院治療が妥当じゃないか」そう言う方もいました。 しかし、苦しくても「病院ではなく美雪園で看取ってほしい」と希望される家族もい ます。がん末期の方においては心の拠り所としている職員の存在がいました。 「恐怖はあ るけれど美雪園で看取ってほしい」、「美雪園が最期まで自分の生きる場所」と仰いまし た。中島先生から「ご家族が美雪園で看取ってほしいと希望されるんだよ。病院の看護 師さんだって、最期は側について声をかけてさすってやることしかできないんだよ。君 たち、施設ではそれができないの?」と言われました。必要なのは職員の覚悟、死を受 け入れる意思、治療目的とした病院で過ごすより美雪園でできることはたくさんあるは ずです。最善を尽くしての看取りを決めました。24時間体制の介護は美雪園でさせて いただきますが、ご家族にも支えていただきます。職員にしかできないことと、ご家族 にしかできないことを整理して、その協力の下、施設での看取り介護は成り立ちます。 苦痛を訴える方の看取りを通して教えていただいたことは、病気や症状に向き合って きてその人に向き合う意識を変える、命に向き合う意識がより強くなっている、介護の 基本でした。怖がらずに手をさすり、声をかけること、人はどんなに弱っても耳は聞こ え、手肌のぬくもりは感じます。傍らにいて何もできないと辛くなったとしたら、それ は、 「元気になってほしい」 、「苦しまずに逝ってほしい」という願いがあるからです。心 のどこかで最期の日を「いつなんだろう?今日なんだろうか?」ただただ待っていたの かもしれないと考えさせられました。そうではなく、ご本人がこうしたいという思いを 職員も協力して側に寄り添い、今を一緒に見つめることが大事なんだと教えていただき ました。人生を締めくくる最期の時、その方を思うご家族や職員がしっかりと寄り添い、 このお二人を看取らせていただき、職員の決心は固まりました。繋いだ手を離しません。 看取り 手をさすり 目をくばり 耳を傾ける。 「看取り」という文字の中に手・目・耳 の文字が入っていること、お気づきかと思います。心の点滴をすることが看取り。 皆さんはどのように最期を迎えたいですか? 美雪園は家族会があり、年に1回ご家族と 一緒に看取りについて勉強会を行っております。 本年度は、自分の大切な人との別れの体験と、自 分ならどこで、誰の傍で、どんな風に息を引き取 りたいか語り合いました。死の話を意味嫌い、避け るのではなく、生きている延長線上の当たり前の こととして捉えます。 最期の死、そこをしっかりと見定めることが、 私たち、私自身の今を大切に生きることに繋がる と考えます。 あるご家族から「家に戻りたいけどベッドがない、食事や排泄など介護のこと苦しん だらどうするのか自宅で最後まで支えるには仕事もあるし、不安も強い。 」とご相談があ りました。「自宅の布団の上で看取りたい。」気持ちは揺れ動きます。最期は家で看取り たいと退所された方がいらっしゃいました。人間が持った力というのは計り知れません。 退所されてから、ベッドも買いました。ご家族から「美雪園に戻れないか」とご相談が ありました。その頃は訪問看護体制がしっかりと出来ていませんでした。しかし、ご家 族は覚悟を決め、支えきりました。 退所という形を取らずに、美雪園に籍をおきながらのご自宅での看取りを希望する方 もいると思います。どの段階で自宅に帰るか、遠方に帰る方もいらっしゃいます。先生 の訪問診療、施設の職員が排泄、清潔といった介護の支援を実際にどこまで提供できる のか、これからの大きな課題です。 看取りの時期に合っても、人を元気にするのは地域です。地域との絆が断たれない分、 もっともっと視野を広げていきたいと思います。 坂を緩やかに下ってきた方が以前の状態に戻ることは難しいです。カロリーなど関係 なく、食べられるものを食べられる分だけ食べて頂く。食べさせないから終えるのでは なく、終えるから食べられなくなる。食べられなくなったら、眠るように静かに息を引 き取る。自然な最期のあり方ではないでしょうか。施設で最期を迎えることが最良かど うか分かりませんが、自宅と施設の暮らしを近づけるよう支援したいと思います。大切 なのは、ご本人のためにどうすれば良いか、一生懸命考えること。それは、ご家族にと っても職員にとっても同じです。 最後に本日の発表について、快く同意してくださいましたAさんのご家族を始め、美 雪園で最期を迎えられた全ての皆さんに感謝します。ご清聴ありがとうございました。