...

1. 案件の概要 国名:チュニジア国 案件名:沿岸水産資源の持続

by user

on
Category: Documents
19

views

Report

Comments

Transcript

1. 案件の概要 国名:チュニジア国 案件名:沿岸水産資源の持続
評価調査結果要約表(和文)
1. 案件の概要
国名:チュニジア国
案件名:沿岸水産資源の持続的利用計画
分野:水産-水産資源管理
援助形態:技術協力プロジェクト
所轄部署:農村開発部
協力金額(評価時点):約 5.18 億円
2005 年 6 月 22 日~ 先方関係機関:農業水資源省漁業養殖総局(DGPA)、農業水資源省農
協力期間 2010 年 6 月 21 日
業普及訓練局(AVFA)、漁業職業訓練センター(CFPP)、国立海洋科学
(5 年間)
技術研究所(INSTM)、農業水資源省地域農業開発事務所(CRDA)、農
水産業連合会(UTAP)、漁業生産業者協会(GIPP)、港湾局(APIP)
日本側協力機関:特になし
他の関連協力:特になし
1-1 協力の背景と概要
チュニジア国では、順調な社会経済発展を遂げてきたが、その一方で、都市中心の北部と農漁村中
心の南部の経済格差が拡大しており、これら地域間の格差の是正は、チュニジア政府が優先的に解決
すべき問題となっている。チュニジア南部は、塩水湖が点在する砂漠地帯であり、一部にオリーブが
栽培される他は、漁業が主な産業として住民の生活を支えてきた。しかし近年、一部の大小トロール
漁業の参入により過剰漁獲と藻場の破壊が進んだため、底魚資源が著しく減少している。南部沿岸域
では、急速な漁獲量の減少により、漁民約 2 万 2000 人及び周辺産業に従事する住民の生活が脅かされ
ている。沿岸漁業の生産量は、1989 年の 4 万 6082 トンから 2000 年以降の 2 万 6000 トン水準にまで
低下している。地中海のゆりかごに例えられ、地中海南部沿岸資源全体の産卵場、育成場と考えられ
るガベス湾では、藻場植生の約 90%が喪失しているといわれてきた。このような状況により、今後も
持続的に沿岸漁業が行われ、住民の生活を維持・安定させていくためには、沿岸漁業資源の回復が必
要不可欠となっている。ガベス湾に分布する藻場を回復し資源を安定化させることは地中海沿岸諸国、
特に北部アフリカ諸国にも広く貢献するものである。
これに対しチュニジア政府は、2002 年から 2006 年までの第 10 次 5 ヵ年国家経済開発計画及び第
10 次農業開発計画において、漁獲努力量と開発可能な水産資源の均衡を維持することを優先課題とし、
既に、操業規制や漁獲努力量規制等の行政措置を行ってきている。しかし現状では、漁民組織や地域
住民と行政機関との連携が不十分であること、積極的な漁場環境復元措置がとられていないことから、
目に見える成果が得られていない。また、規制措置を行う一方で、漁民が生活を維持するために代替
収入源を確保するなどの取り組みがなされていないため、結果として規制が遵守されていない状況に
ある。
本技術協力プロジェクトは、2005 年 6 月から 5 年間の予定で開始し、沿岸零細漁民の参加と協力の
下、持続的に漁業資源を利用・管理し、生活を維持・安定させることができるような漁業(資源管理
型漁業)及びその実施体制を提案することを目指している。今回、プロジェクトの残りの期間が約 6
ヶ月となったことから、終了時評価を行うことになった。
1-2 協力内容
(1) 上位目標
チュニジア南部沿岸地域を中心として、漁民参加による底魚資源の持続的利用に向けた資源管理モ
デルが普及される。
(2) プロジェクト目標
漁民参加のもと、底魚資源の持続的利用に向けた資源管理モデルが、プロジェクト対象地域で複数
形成される。
(3) アウトプット
1) プロジェクト対象海区において、漁民参加による藻場の保全・再生が実証される。
2) 試験的な資源増殖活動が促進される。
3) 漁民の収入多角化事業の試行結果をもとに、収入源多角化のための行動計画が作成される。
4) 周辺諸国に対し、包括的沿岸資源管理の実践に向けた技術交流が推進される。
(4) 投入(評価時点)
日本側:
JICA 専門家派遣:9 分野 12 名、本邦研修受入:計 9 名、機材供与:29.6 百万円(2009 年 11 月
時点までの供与実績)、ローカルコスト負担:81.8 百万円
相手国側:
カウンターパート配置:プロジェクト・ダイレクター1 名、プロジェクト・マネージャー2 名、
カウンターパート 19 名、 ローカルコスト:1,748,725 チュニジア・ディナール、
土地・施設提供:プロジェクト事務所など
i
2. 評価調査団の概要
調査者
総括:
杉山俊士 独立行政法人国際協力機構 国際協力専門員
水産資源管理: 畔野尚史 日本エヌ・ユー・エス株式会社 環境設計ユニット
協力計画:
田中博之 独立行政法人国際協力機構 農村開発部 畑作地帯グループ
畑作地帯第二課 調査役
評価分析:
道順 勲 中央開発(株)海外事業部
調査期間
2009 年 11 月 30 日~2009 年 12 月 23 日
評価種類: 終了時評価
3. 評価結果の概要
3-1 実績の確認
アウトプット 1「プロジェクト対象海区において、漁民参加による藻場の保全・再生が実証される。」
・指標 1) サイト内の藻場の保全面積が拡大する。(142.6 km2)
終了時評価時点における保全面積合計は、505.5km2 であり、目標値(142.6 km2)を大きく上回って
いる。
・指標 2) 漁民が藻場の保全・再生事業の計画及び実施に継続的に参加する。
人工魚礁設置が高い漁場保全効果を示したこともあり、多くの漁民がお金あるいは物品(人工魚礁
の製作や設置作業における無償労働)の提供を通じて人工魚礁設置活動に寄与している。その結果、
終了時評価時点で計 5,103 個の人工魚礁が設置されるに至っている。また、漁民は継続的にワークシ
ョップに参加している(ワークショップへの参加延べ人数は 1838 人)。
アウトプット 2「試験的な資源増殖活動が促進される。」
・指標 1) 放流する種苗の数が増加する。(40,000 尾/年)
スズキ及びヘダイの種苗を毎年放流しており、その合計放流数は 2007 年以降目標の 40,000 尾/年を
上回っている。
・指標 2) 種苗生産実験を継続している対象種の数が増加する。(4 種)
上述のとおりスズキ及びヘダイの種苗を年間 4 万尾生産する能力を身につけている。その他ウシノ
シタとキダイの 2 種が種苗生産技術開発の対象として選定され、主として親魚育成技術開発から着手
されている。なお、ウシノシタとキダイの種苗生産技術開発は、その途上にあり研究の継続が必要で
ある。
・指標 3) 3 つのマニュアル(種苗生産技術、放流技術および放流評価手引き書)が作成される。
3 つのマニュアルが作成された。
アウトプット 3「漁民の収入多角化事業の試行結果をもとに、収入源多角化のための行動計画が作成
される。」
・指標 1) 漁民の収入多角化のためのセミナーが継続的に開催される。
2006 年 8 月以降 8 回のセミナーが開催されている。
・指標 2) 養殖試験区画が拡大する。(2 実験サイト)
ザラット及びアカリットにおけるアサリ養殖試験、ケルケナにおけるスポンジ(海綿)の養殖試験
が行われている(合計 3 実験サイト)。
・指標 3) 対象とする漁民組織及び行政機関によって、(漁船漁業以外の)収入源の確保のための行動
計画が作成される。
アサリ養殖試験及びスポンジ養殖試験を通じて得られた成果や知見を活用しつつ、収入源多角化活
動計画の作成が進められている。プロジェクト終了時までには、完成する予定である。
アウトプット 4「周辺諸国に対し、包括的沿岸資源管理の実践に向けた技術交流が推進される。」
・指標 1) チュニジア側が周辺諸国の水産行政官、技術者等に対し、沿岸水産資源管理について紹介
する。
プロジェクト活動とその成果を近隣国に普及することを目的として、2009 年 6 月にセミナーが実施
された。招聘先の国は、アルジェリア、エジプト、モロッコ、モーリタニアとイタリア国の 5 ヶ国の
計 16 人で、水産行政関係者、水産研究者、漁民代表者等である。また、チュニジア国内の関係者が約
70 人参加した。この他にも、各種の技術交流が実施された。
プロジェクト目標「漁民参加のもと、底魚資源の持続的利用に向けた資源管理モデルが、プロジェク
ト対象地域で複数形成される。」 (注:本プロジェクトにおける沿岸水産資源管理モデルとは、水産
資源の持続的安定と漁民の生活の安定・向上を目的とする複合的な活動(漁業規制、資源増殖、漁場
環境の保全、漁民や地域住民の参加促進)による、漁場管理のための包括的アプローチを指す。)
ii
沿岸水産資源管理活動において、漁民及びカウンターパート機関が継続的に協議機会を持ち、漁民
が意志決定に参加していること、そして、漁民の自主的漁業規制を始めとする漁民の組織的な資源管
理活動等の漁民の正の意識変化が見られること、さらに、本プロジェクトにおいて適用・試行したア
プローチ(アウトプット①から③、①人工魚礁設置を通じての藻場及び漁場の保全、②水産資源増殖
(種苗生産と放流)、③収入源多角化(アサリとスポンジの試験養殖、水産物加工可能性調査))が、
資源管理のアプローチとして有用性があること、あるいは将来的な適用ポテンシャルを示しているこ
とから、プロジェクト目標の達成度は高いと判断する。
・指標 1) 漁民組織、地域住民と行政組織が、包括的沿岸水産資源管理の計画・実施・評価を共同し
て行うために、定期的な協議の場が設けられる。
漁民が参加するワークショップやセミナーが 57 回開催されている。さらに、プロジェクトの残り期
間中、さらに 4 ヵ所程度、プロジェクトサイト以外の地区でワークショップが開催される予定になっ
ている。
・指標 2) 藻場の保全・回復及び水産資源保護のための、漁民の自主的漁業規制の行動が見られるよ
うになる。(注 2)
(注 2: (漁場の利用方法すなわち)人工魚礁周辺での漁業の自制や稚仔魚のリリ
ースといった行動の変化を測定する。4 サイトの中で行動の変化が見られた海区数によって、達成度
を評価する。
)
アジムでの網漁業から延縄漁業への転換やザラットでの採取した小さな貝の放流等が見られる。
3-2 技術的課題
3-2-1 藻場保全・再生
人工魚礁の設置が藻場で操業する違法底曳網(KIS)を排除する点で効果的であることが確認できた。
それ以外の効果として、岩礁性魚類の蝟集効果やタコなどの資源の再生産の場として寄与する可能性
を示唆する結果が得られた。一方、環境攪乱等魚礁の負の影響も考えられるため、今後チュニジア側
の研究機関と行政機関によるモニタリングを継続する必要がある。移植試験は海草の活着にはいたら
ず課題を残すものの、その活動を通じてチュニジア側では行政を含めて、人工的に藻場を再生するこ
との困難さ、現在ある藻場の貴重性について認識し、藻場保全意識の啓発が行われ、将来の保全計画
の策定につながった点は、プロジェクトの成果である。3-2-2 資源増殖
試験的な種苗生産と放流が実施され、スズキとヘダイに関しては、生産及び放流に関する INSTEM へ
の技術移転は完了し、新たな養殖対象種(ウシノシタとキダイ)の種苗生産については今後も研究が
継続される予定である。
再捕情報の報告率をあげるための漁民や流通業者への周知と放流種苗の再生産への寄与を確認する
上で調査項目に性別および生殖腺の重量と熟度判定を加えることが必要である。放流効果として、「再
生産への寄与」と放流種苗の成長に期待した「漁獲増」が考えられる。スズキで 1,300g の個体が再捕
されており、再生産の可能性が示唆された。放流効果を実現するためには、今後チュニジア側で漁業
管理を含めた計画的な放流事業及びモニタリングの実施が望まれる。
啓発活動の一環としての種苗放流もチュニジア側が主体的に実施できるようになり、市民への啓発が
今後も継続されることが期待される。
3-2-3 収入源多角化
収入源多角化計画策定に向けて、アサリとスポンジの養殖試験が実施され、養殖の可能性について
示された。現実的なシナリオを作成するためには今後、既存の食料加工業の強化や新たな商品開発な
どを含めた、地域の漁家経営状況を踏まえた収入多角化の可能性調査と事業化にあたっての課題点の
抽出を継続する必要がある。
3-2-4 漁民の変化
漁民の本プロジェクト活動への参加を通じて、以下のような意識や行動変化が見られる。
1) 漁民が人工魚礁投入場所選定等における協議プロセスに参加し、行政と協力した。2) マハレ
ス地区漁民が人工魚礁の運搬と投入のための資金を作りに参画した、110 個の魚礁投入を行った。3)
ザラット地区の 95%の漁民が漁獲物を寄付して、それを売った資金で 1000 個(約 340 トン)の魚礁を
設置した。4) ザラット地区では、JICA 型の魚礁(200kg)をベースに違法トロール漁船に動かされ
ないよう 1 トンの魚礁を開発した。5) アジム地区では寄付用の箱を設置し、各漁民が取った魚を寄
付し、それを売った資金で 120 個(約 120 トン)の魚礁を設置した。6) アジム地区では UNDP から魚
礁設置のための資金 5 万ドルを得た。7) アジム地区では段階的に延縄漁へ転換している。延縄漁が
刺網の網漁業に比較して、漁場環境にやさしいという認識を持っている。8) アジム地区では、漁民
が、沿岸警備隊に協力して違法トロール漁船を監視し、通報している。
iii
3-2-5 行政の変化
行政側の意識や活動の変化として以下の事例が確認できた。
1) 行政側が魚礁投入プロジェクトの実施段階において漁民と協議する場を設け、お互いに意見交
換しながら実施内容を決定するというプロセスをとるようになってきた。2) プロジェクトの 4 年目、
5 年目の活動はほとんどチュニジア側の予算で実施されている。3) ケルケナ島カラタンでは CRDA ス
ファックスが独自資金で大型トロールの違法操業によって移動できない重量 700kg、船の航行にじゃ
まにならない魚礁を開発し、投入した。4) アジム地区では、AVFA が主催した漁民へのプロジェクト
成果の報告会に市長が参加し、発言した。5) ザラット地区では、市長が環境保護活動を主導してお
り、漁民の集まりにも参加し、発言するなど漁民の活動に対して積極的にサポートする姿勢を示した。
3-2-6 プロジェクト成果の拡大
プロジェクト活動を通じて、既述の 3-2-4 項や 3-2-5 項のとおり行政機関、研究機関及び漁民の
意識と行動が変化し、協力関係を醸成しつつあることは、本プロジェクトの最大の成果である。今後
この関係を維持・発展させることは、チュニジアにおいて効果的な資源管理を実施していく上で非常に
重要である。
3-3 評価結果の要約
(1) 妥当性:高い
チュニジア国南部地域では、漁業及び農業が主たる生計手段である。しかし、水産物の過剰開発及
び違法な操業のため、水産資源が減少し、漁獲量も低減傾向にある。そのため、チュニジア政府は、
水産資源の保全とその持続的な開発を、重視している。また、我が国及び JICA の重点支援事項との整
合性がある。本プロジェクトのコンポーネントを実施するうえで、参加型アプローチを導入しつつ進
めたことで、漁民及びチュニジア側カウンターパートが、水産資源管理に積極的に取り組むことにつ
ながっている。
(2) 有効性:高い
既述のとおり、水産資源管理に係る複数のアプローチ(保全、増殖、収入多角化)が実践され、検
討された。その結果、沿岸水産資源管理に係るこれらアプローチの効果があること、あるいは将来的
ポテンシャルを有することが確認された。プロジェクト対象地区において、これらアプローチが組み
合わされて資源管理モデルとして実施されている。このような観点から、成果ならびにプロジェクト
目標の達成度は高いと判断する。
(3) 効率性:満足できる水準
チュニジア側、日本側とも本プロジェクト活動への投入(人員面、資金面、機材等)のタイミング
や量は、概ね適切であったと思われる。特に、プロジェクト活動の円滑な進捗に寄与した要因の一つ
は、関係者、すなわち、チュニジア側の行政機関、専門機関、研究機関と漁民間の間での良好な協力・
協働関係が築かれたからである。参加型アプローチを導入した結果、プロジェクト地区の漁民がプロ
ジェクト活動に積極的に参画している。本邦研修については、カウンターパートの知識を高めるだけ
でなく、今後の活動についての展望を得る上で大変良い機会となり、プロジェクト活動促進に大いに
寄与している。なお、日本人専門家の派遣は、そのほとんどが短期ベースであるが、派遣期間がもう
少し長ければ、また、カウンターパートが日本人専門家滞在期間中、プロジェクト活動に専念できれ
ば、本プロジェクトの効率性がさらに改善されたであろうとの意見があった。
結論としては、本プロジェクトの効率性は、満足できる水準であると判断する。
(4) インパクト:
将来、上位目標が達成される見通しがある。また、多くのプラスのインパクトが見られる。
主なインパクトは、1)本プロジェクトの枠組み外での人工魚礁設置が顕著に進んでいること、2)ア
サリ養殖の次段階のパイロットプロジェクトがチュニジア政府主体で開始されたこと、そして、3)漁
民や政府関係者の意識・行動においてプラスの変化が見られること、である。
(5) 自立発展性
チュニジア側の沿岸水産資源管理への取り組みについては、下記のように、その政策面、本プロジ
ェクト実施関係機関の関与・役割と予算配分の観点、そしてカウンターパートの技術的能力の面で、
自立発展性が確保されると考える。
iv
1) 政策面
チュニジア政府は、第 11 次国家開発計画(2007-2011)において、水産分野における重要事項として、
水産資源の保全・管理を掲げている。
2) 制度・組織面:
本プロジェクトに参画した行政機関及び専門機関は、それぞれの制度・組織体制を基礎に、水産セク
ターの開発・振興を行っていく、明確に定義された役割と責任を有している。そして、これら機関間
の協力・協働関係も構築されている。現在、プロジェクトの JCC が関係機関間の調整メカニズムの役
割を担っているが、これはプロジェクト終了後も維持される公式なメカニズムではない。そのため、
沿岸水産資源管理に関する関係機関間の公式な調整メカニズムを構築することが求められる。
3) 財務面:
チュニジア側カウンターパート機関は、本プロジェクトに対して十分な資金を配分してきた。特にプ
ロジェクトの後半 2 年間の多くのプロジェクト活動は、チュニジア側の資金を用いて実施されてお
り、今後も資金が手当てされる見込みである。
4) 技術面:
プロジェクトの後半期間、
日本人専門家の投入量を少なくしてプロジェクト活動が実施された。なお、
チュニジア側カウンターパート職員の多くは、それぞれが所属する機関に勤務し続けると考えられ
る。
3-4 効果発現に貢献した要因
(1) 計画内容に関すること
特になし
(2) 実施プロセスに関すること
1) プロジェクト関係者の取り組み意欲の向上
参加型アプローチの導入によるプロジェクト関係者の意識・行動の変化に加えて、報道関係者の取材
や農業大臣のプロジェクトサイト視察、海外からの視察者受け入れが、間接的に、漁民やカウンター
パート機関の本プロジェクトへの取り組み意欲を向上させる要因となっている。
2) 藻場の再生活動について
初年度の現地調査の結果、藻場消失の主な原因は、水質汚濁による透明度の低下であることがわかっ
た。透明度の低い藻場消失海域に海草を移植しても効果が望めないこと、また、日本のアマモ再生技
術をそのままチュニジアのアマモには適用できないことから、藻場再生活動から藻場・漁場の保全活
動へと重点がシフトされ、保全活動が拡大した。適切な軌道修正であったと考える。
3-5 問題点及び問題を惹起した要因
(1) 計画内容に関すること
1) 種苗放流
プロジェクト開始前は、種苗生産施設の改修によって、20 万尾程度の放流用種苗生産を実施するこ
とが想定されていた。しかし、プロジェクト開始当初に、INSTM Monastir の取水設備の能力や施設
面積等の制約のため、5 万尾程度の生産施設に改善することが限度であることが判明し、それに応じ
た施設改修工事が行われた。その影響もあって、計画上、種苗放流は試験的事業としての位置づけと
なっている。
2) 水産加工分野の技術移転
この分野の JICA 専門家の派遣期間が 1.0 ヶ月であったため、必要な成果を出すには短かった。なお
その後、現地再委託により水産物加工可能性調査が実施され、報告書が作成されたことで、今後の取
り組みに向けての基礎資料となっている。
(2) 実施プロセスに関すること
カウンターパートならびに準カウンターパートの配置は、人数的には十分なものであるが、プロジ
ェクト活動への参加が限定的で、実質的には、代理のスタッフがプロジェクト活動に従事しているケ
ースもあり、そのようなカウンターパートに対する技術移転は限定的なものになったとの JICA 専門家
v
からの意見もある。
3-6 結論
既述のとおり、アウトプットならびにプロジェクト目標の大半の指標達成度が高いことから、プロ
ジェクト目標は、プロジェクト期間中に達成すると判断される。また、カウンターパート機関間の調
整・協力関係の強化、政府機関と漁民コミュニティ間の信頼醸成、漁民の組織的な資源管理活動への
取り組み等、本プロジェクトの主要関係者に水産資源管理の実現に向けたプラスの変化を引き起こし
ている。本プロジェクトの達成度に関する分析・評価に基づき、合同評価チームは、R/D に記載の計
画どおり、本プロジェクトを終了させることが適切であるとの結論に至った。
3-7 提言(当該プロジェクトに関する具体的な措置、提案、助言)
チュニジア側関係機関が JICA 専門家の支援も受けつつ以下の項目について活動を行うことを提言
する。
(1) 沿岸水産資源管理に関する関係機関間の公式な調整メカニズムの構築
水産資源の効果的な管理のためには、政策立案、法整備、研究、研修・普及、関係者との協議、組
織化等、多くの活動が必要である。チュニジアにおいて、これら活動は、DGPA、INSTM、AVFA、UTAP、
GIPP、CRDA や CTA 等、多くの機関により実施されている。
そこで、水産資源管理の計画から実施までのすべての過程の調整・実施を促進するために、関係機
関間の調整メカニズムの構築が必要である。
現在、プロジェクトの JCC がこの役割を担っているが、これはプロジェクト終了後も維持される公
式なメカニズムではない。そのため、沿岸水産資源管理に関する関係機関間の公式な調整メカニズム
を構築することを強く提言する。
(2)プロジェクトの成果である関係者の意識や行動等質的変化の記録
本案件において、関係者の「質的」な変化に関するいくつかの事例を 3-2-4 項や 3-2-5 項に記載し
ているが、これら情報の継続収集を行うことを提言するとともに、他の水産資源管理案件においても
これら情報の収集・記録が望ましい。
(3)プロジェクトの経験の編集
本プロジェクト活動を通じて水産資源管理に関する以下の有益な知識・経験が蓄積されている。
•
水産資源管理・保全のための人工魚礁の効果的利用
•
水産資源増殖のための種苗放流
•
行政と漁民組織の協働
•
干潟資源の効果的利用
これら知識・経験は、チュニジア国における水産資源管理政策の促進や同様の水産資源管理の課題
を抱えている国々に対して有益な情報となる。
そこで、プロジェクトの専門家によりプロジェクト成果を編纂し出版することを提言する。
なお、その図書の言語は公用語であるアラビア語とし、より広く活用されるためにフランス語の要約
を含むものとする。
(4)全国内関係者向けにプロジェクトの成果を紹介するセミナーの開催
漁民組織の積極的な参加がプロジェクトの成功の要因である。漁民組織は水産資源管理の重要な関
係者であり、活動の成果を共有することともに、本プロジェクト終了後の水産資源管理活動を決定す
るプロセスに取り込むことも重要である。
そこで、以下の目的で全国セミナーを開催することを提言する。
•
主要関係者へのプロジェクトの成果の紹介
•
本プロジェクト終了後の資源管理活動の検討
(5)プロジェクトの広報の実施
全国セミナー開催の際には、より効果を高めるため、プレスリリース等の広報を行うことを提言す
る。
(6)ガベス湾の包括的な水産資源管理の実施
プロジェクトでは、5 つのサイトで様々な資源管理方策を実施した。これは、各サイトの条件におい
て、個別管理方策の実証試験をしたといえる。これは、サイトごとの漁業管理に貢献した(クラスタ
ー管理)。
これは、包括的管理のための重要なステップである。しかし、クラスター管理や個別の管理方策だけ
vi
による水産資源管理には限界がある。例えば、複数地域の漁民に利用されている漁場の管理は複数地
域の漁民を巻き込む必要があるし、貧しい漁民組織に対する漁業規制を行う際には、その経済的な負
の影響を最小限とするために、代替収入源の提供を併せて行う必要がある。
漁民や行政機関が違法漁業対策を第一の課題と考えることは当然である。しかしながら、これへの過
度の注視は、一般の漁業活動が適切なものなのか、漁獲努力が資源状況に対して適切なのか、といっ
た他の重要な課題を見逃すことにつながる。
現在の一般の漁業活動が乱獲を招いている場合、違法漁業のみを問題としてもガベス湾の水産資源管
理を適切に行うことにはならない。
これらを踏まえると、プロジェクト活動の次のステップは、次の活動等によるガベス湾全域の包括的
な水産資源管理の枠組みを構築することである。
•
水産資源管理計画の実現性及び社会的影響の評価のための漁民組織の社会・経済調査。
•
資源管理活動の必要性を示すための経済的に重要な魚種の水産資源状況の毎年の評価。これ
は既存の漁業情報・統計により実施する。
•
既存の漁業規制(禁漁の期間、最小採取サイズ等)の改正の必要性を判断するための定期的
なレビュー。
•
適切で統制の取れた人工魚礁設置のためのガイドラインの作成。
•
水産資源管理の計画、実施、評価、改定の過程への更なる関与を促進する参加型漁業管理の
強化。
•
各地域の水産資源管理計画からなるガベス湾全域の水産資源管理計画の策定。
•
代替収入源、収入源の多角化や水産資源増殖活動を含む包括的な水産資源管理方策の実施。
3-8 教訓(当該プロジェクトから導き出された他の類似プロジェクトの発掘・形成、実施、運営管理
に参考となる事柄)
(1)プロジェクトの成果である関係者の意識や行動等質的変化の記録
「量的」な達成度(資源管理実施水域の面積、投入された人工魚礁の数、漁獲量の増加等)のみで
は、水産資源管理の適切なモニタリング・評価を行うことはできない。
水産資源管理活動が継続的に実施されるためには、関係者の意識や行動といった「質的」な変化が
必要であり、これら関係者の「質的」な変化を収集・記録することは有益である。
また、そのような情報は、水産資源管理を他の地域に展開する際に有益な情報となる。
vii
Fly UP