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Rett 症候群者における接近行動の展開過程

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Rett 症候群者における接近行動の展開過程
東北大学大学院教育学研究科研究年報
第59集・第1号(2010年)
Rett 症候群者における接近行動の展開過程
笹
原
未
来*
川
住
隆
一**
本研究では、Rett 症候群者の外界の事物に対する接近行動の展開過程を取り上げ、そこでみら
れた対象者の行動変化に関わる要因について検討を行なった。対象者には、事物に対し“近づいて
見る”といった行動が頻繁に発現するものの、手を伸ばす行動(リーチング)の発現はみられず、
係わり手のガイダンスに対しても緊張状態を示す様子がみられた。したがって、対象者の接近行動
は“近づいて見る”以上の展開に至りにくかった。しかし、対象者にとって発現が容易な全身の運
動調整による事物への働きかけを促す中で、対象者には前進や上体の前傾によって事物に触れる様
子がみられるようになっただけではなく、手を伸ばす、係わり手に手を支えられた状態で手を伸ば
す、係わり手のガイダンスによって事物を操作する、といった行動が発現するようになった。本研
究では、対象者の事物に対する接近行動の展開過程について整理し、検討を行なった結果、身体の
安定性を保つことに対する負荷を軽減するような支援がリーチングを出現しやすくすること、対象
者の指向性を重視することが運動調整の高次化および係わり手の支えやガイダンスの受け入れにお
いて重要であることが示唆された。
キーワード:Rett 症候群、接近行動、リーチング、事例研究
Ⅰ.問題と目的
Rett 症候群とは、1966年にウィーンの小児科医 Andreas Rett によって報告された主に女児に発
症する進行性の神経疾患である。Hagberg, Aicardi, Dias and Ramos(1983)によって一疾患単位
として確立されて以来、医学的な症例報告や状態像を明らかにしようとする研究が数多くみられる
ようになった(Coleman, Brubaker, Hunter, & Smith, 1988; Haenggeli, Moura-Serra, & De
Lozier-Blanchet, 1990; Perry, 1991; Van Acker, 1991 等)
。現在、DSM-Ⅳ-TR においては、広汎
性発達障害として位置づけられている。
Rett 症候群児(者)においては、通常、生後6か月から18か月の間に発達の遅れや退行が認め
られるようになることが知られている(Rett Syndrome Diagnostic Criteria Work Group, 1988)。
*教育学研究科
**教育学研究科
博士課程後期
教授
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Rett 症候群者における接近行動の展開過程
そして、その後、知的側面、運動面、コミュニケーションに重度の障害を呈するようになり(Hetzroni & Rubin, 2006)
、
「結果として重度・重複障害(profound and multiple learning difficulties)
と運動障害(physical disabilities)をきたすようになる」
(Lewis & Wilson, 1998)
といわれている。
また、Rett 症候群児(者)においては、発症前に獲得していた目的的な手の使用が減退し、手叩
きや手こねといわれるような手の常同運動(stereotypic hand movements)が発現することが最大
の特徴として挙げられている。中畑・藤田(1994)の調査によると、6歳から18歳までの Rett 症
候群児105名のうち、103名に手の常同運動が認められ、Lindberg(2006)も、調査対象である39
名の Rett 症候群児(者)全員に手の常同運動がみられることを報告している。ただし、こうした
手の常同運動は常時行なわれている訳ではなく、場面によっては一時的に減少あるいは消失し、逆
にストレスを感ずるような状況においてはより顕著になること(Van Acker, 1991)、視覚や聴覚
を通して外界の情報を摂取している状況のように、注意が他のものに向けられている時には一時的
に減少あるいは消失すること、睡眠中には出現しないこと(Lindberg, 2006)等が指摘されている。
また、川住・石川(1995)は、Rett 症候群児にみられた手の常同運動の“休止”に着目し、移動
運動に伴う外界の変化に対する視覚的注意の持続的生起や心身のリラックスを常同運動の休止を導
いた要因として挙げている。このように、手の常同運動については彼女らの動揺や緊張、あるいは
注意の集中やリラックスといった心理的状態の現れとして、状況との関連の中で捉えることが必要
である。
また、運動系の障害の出現、手の目的的な使用の減退は、外界の空間や事物を探り、確かめ、情
報を摂取することに困難を生じさせることから、手の目的的な使用を促す取り組みもこれまでにな
されてきている(富永,1994; Sullivan, Wigram and Lawrence, 2005)
。さらに、運動系の障害は
外界への働きかけにおける失敗経験や無力感をもたらすことから、彼女らの情緒の発達、アイデン
ティティ、自己イメージにも影響を与えるといわれている(Lindberg, 2006)。川住(1991)は、
Rett 症候群児が接近し、接触した事物を仲立ちとした係わり合いの経過を報告しているが、彼女
らの指向対象に対する働きかけをたすけ、外界探索を促そうとするこうした取り組みは、彼女らが
外界を意味のある世界として構成し、行動を拡大していく上で重要であるのみならず、外界の事物・
事象に働きかけ、変化を引き起こすことを通し、自己効力感を高めていく上でも極めて重要なもの
であると考えられる。しかしながら、Rett 症候群に関する研究は、依然として医学的側面からの
検討が多く、教育的側面からの研究の蓄積が十分になされていないとの指摘もあり(有野・小島・
池田,2001;山下,2002)
、教育実践研究のさらなる蓄積が必要であると考えられる。
本研究で取り上げる対象者は、外界の事物に対して手を伸ばして触れる、操作するといった行動
の発現がむずかしい Rett 症候群者である。対象者には、事物に対し“近づいて見る”といった行
動が頻繁に発現するものの、それ以上の行動展開がみられず、接近行動の終止に至ってしまうこと
が多かった。また、接近対象への接触・操作に向けた係わり手のガイダンスに対しても緊張状態を
示したことから、外界に対する指向性の行動は“近づいて見る”状態にとどまりがちであった。し
かし、係わり合いの経過の中で、前進や上体の前傾といった全身の運動調整によって接近対象に向
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東北大学大学院教育学研究科研究年報
第59集・第1号(2010年)
かう行動がみられるようになり、そうした行動によって接近対象との関わりを深める中で、手を伸
ばすといった行動も発現するようになった。さらに、係わり手に手を支えられた状態で対象物に向
かって手を伸ばす、ガイダンスによって事物を操作するといった行動が発現するに至った。本研究
では、そうした係わり合いの経過から、対象者の接近行動の展開過程を明らかにし、対象者にみら
れた行動変化に関与したと思われる要因について検討を行なう。
Ⅱ.方
法
1.対象者
Sさん(以下、Sと記す)
。19歳(2006年10月当時)
。女性。Rett 症候群。
(1) 感覚系
玩具や人に視線を向けて接近する、動いている人を追視する等の様子がみられる。段差のあると
ころでは、足元に目を向け、足を上げる様子がみられる。また、周囲で物音がすると、動きを止め、
音のした方向へ顔を向ける様子がみられる。ぬいぐるみを持ち上げて呈示すると、顔や腕で触れ、
毛触りを楽しむ様子がみられるが、事物に対し、自ら手を伸ばして触れるといった様子はほとんど
みられない。
(2) 運動系
自力移動が可能であるが、つま先立ちの状態で移動するため、足取りは不安定である。階段の昇
降も可能であるが、足取りが不安定であることから、普段は手を支えられた状態で昇降する。膝が
痙直した状態であり、脚を自在に曲げ伸ばしすることはむずかしい。自力で椅子に座ることができ
るものの、座った際の反動で背面の壁に頭を打ち付けてしまうことがあり、着席には介助を要する。
腕は肘を曲げ、手を軽く握るようにして体幹(胸部や腹部)に当てていることが多い。歩行の際
には腕を体幹から離し、腕でバランスをとる様子がみられる。リラックスしている時には、腕を下
におろしている様子がみられるが、緊張が高まると、徐々に腕を挙げ、胸のあたりに両手を当てる
ことが多い。以前は食べ物の載ったスプーンを持ち、口に運ぶといった操作が可能であったが、次
第にそういった動きが難しくなり、現在では介助を要する。事物に対し移動運動及び上体の前傾に
より接近するものの、手を伸ばして触れるといった様子はみられない。また、手指の微細な運動を
介した事物操作はむずかしい。
(3) コミュニケーション
視線、表情、発声、手の動き、移動運動等から、係わり手がSの思いを推測することが重要であ
る。また、詳細は後述するが、緊張が高まると、口を硬く結びうつむく、衣服を繰り返し強く握る、
身体を小刻みに震わせるといった様子がみられる。
受信については、
「おいで」
「∼へ行くよ」等の音声言語に対応した行動発現がみられる。セッシ
ョン終了間際に、「そろそろおしまいだよ」と声をかけると、戸惑ったような表情、あるいは不満
そうな表情を浮かべつつも、ドアの方向へ移動する様子がみられる。写真カードを提示すると、写
真と実物を見比べる様子がみられる。係わり合いの場であるプレイルームの写真を提示すると、プ
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レイルームの方向に視線を向け、笑顔を浮かべて早足で移動する。係わり手の声がけに応じるかの
ように「ハーイ」といった声を発することがある。家ではほしいものに対して手を伸ばすことがあ
るとのことである。
(4) その他
緊張が高まると、両手で衣服を強く握る動きを繰り返す、口を硬く結びうつむく、身体を小刻み
に震わせるといった様子がみられる。こうした様子は、移動が制限された着席時や、手をとって事
物に触れさせるようなガイダンス時にしばしばみられる。また、周囲の状況が不意に変化すること
によって、緊張の高まりが生じることもある。物に足をぶつける等の驚いた時には、激しく笑い出
す様子がみられる。
2.係わり合いの概要
筆者ら(以下、A)による教育的対応は、2006年10月から、月に1回の割合で、大学内のプレイ
ルームで行なわれた。1回の係わり合いは1時間半程度である。係わり合いの場面は、保護者の承
諾を得てビデオカメラで撮影した。係わり合いの場面には、A、母親の他に複数名が同席し、協力
しながらSへの働きかけを行なった。
3.分析の方法
係わり合いの場面をビデオカメラで撮影するとともに、係わり合い終了後には、記述記録を作成
した。記述記録は、Sの行動と周囲の状況、Aの働きかけを関連づけながら、時系列に沿って作成
した。
また、作成した記述記録から、Sの接近行動および接近対象についての記述を抽出し、Sの接近
行動の発現頻度とその対象、接近行動発現後の行動展開の変化について、数量的資料の収集を行な
った。分析対象は、ビデオ撮影を開始したセッション2(以下、S2 と記す)からS31までの計30
セッションである。毎回のセッション時間にばらつきがみられたたことから、プレイルーム入室後
70分間を分析対象とした。
Ⅲ.結
果
1.係わり合いの経過の概要
(1) 係わり合い当初の様子
係わり合い当初、Sは室内にあるぬいぐるみや玩具に視線を向けて近づくと、上からそれらをじ
っと見つめた。AはSの様子を窺いながら、Sが視線を向けていると思われる事物に触れたり操作
してみせる、あるいは持ち上げてみせる等の働きかけを行なったが、Aが持ち上げてみせた事物に
対してSが手を伸ばす様子はみられず、むしろ、SはAの働きかけを避けるかのように、目を閉じ
て俯く、身体の向きを変える、玩具の傍を離れるといった行動を示した。また、状況の変化やAの
動きによって、勢いよく身体の向きを変え、その場を離れることもあった。このように、Sは玩具
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に対して自発的に接近する様子を示すものの、接近対象について“近づいて見る”以上の展開は生
じにくく、発現した接近行動も容易に終止してしまう様子が見られた。
しかし、 そうした状況においても、対象への接触が短時間ではあるがみられることがあった。
例えば、Sが視線を向けていると思われるぬいぐるみをAが持って立つと、Sはぬいぐるみの前に
立ち、上体を前傾することで、頬でわずかにぬいぐるみに触れた。触れると一旦はその場を離れる
ものの、Sは繰り返しぬいぐるみに近づき、ぬいぐるみに向かって前進することによって腕で触れ
る、通り過ぎる際に腕でかすめる、上体を前傾することによって腕で触れるといった様子を示した。
また、Sがぬいぐるみに対して強い関心を抱いているようであったことから、Aが別のぬいぐるみ
をテーブル上に用意すると、上体を前傾することで顔を近づけたり、胸部や腹部に当てた腕で触れ
る様子がみられた。さらに、Sの接近に合わせて、Aが「ふさふさ∼」と言いながらぬいぐるみで
Sの顔をくすぐると、Sは笑顔を示した。このように、Sは移動運動によって事物へ近づいた後、
さらに前進したり上体を前傾させることで触れようとする様子を示すことがあった。
ただし、AがSの手をとってぬいぐるみに触れさせようとすると、Sは徐々に身体を固くして緊
張状態を示し、却ってSの行動展開を妨げる結果となった。また、ぬいぐるみ以外の事物や、粗大
な全身運動によって触れることが困難な小さな事物に対しては“近づいて見る”以上の展開が生じ
にくかった。したがって、セッションの後半になると玩具の置いてあるテーブルの周りを何周も歩
いて回り続けるというように、活動の飽和をきたしていることを示すかのような様子もみられた。
(2) 全身の運動調整による接近対象への働きかけとリーチングの発現
先述したようなSの様子を受け、Sが発現しやすい前進や上体の前傾といった粗大な運動によっ
て対象への働きかけを実現できるよう、S3 以降状況の改変を行なうこととした。例えば、Sの接
近した事物をテーブル上に並べる、あるいはSの接近に合わせて持ち上げるというように、Sが接
近し、触れやすい位置にSの接近対象物を移動させることとした。また、ボーリングのピンをテー
ブル上に並べる、ブロック玩具を組み立てて置くというように、前進あるいは上体の前傾によって
Sが対象物に触れ、変化を生じさせることができるようにした。さらに、Sが接近対象への働きか
けを実現した場合には、同様の運動によって働きかけられるような事物を呈示し、Sの接近対象の
拡大を図ることとした。
このような対処を行なう中で、積み上げた大型ソフトブロックに向かって前進することで腕で押
す、並べられたボーリングのピンを上体の前傾によって倒す(S4)、高く組み立てられたブロック
玩具を前進あるいは上体の前傾によって押し倒す(S7)
、スイッチ付ドームアローン(i WANT 社
製)のスイッチを上体を前傾することで体幹に当てた腕や手で押し、音楽を鳴らす(S8)
、キーボー
ドの鍵盤を押す(S8)といった行動がみられるようになり、対象への全身の粗大な運動調整によ
る働きかけが少しずつ展開するに至った。
ことに、ブロック玩具に対しては繰り返し接近する様子がみられ、Sは前進あるいは上体の前傾
によって、組み立てられたブロックを押し倒す、あるいは押し潰すといった行動を頻繁に発現する
ようになった。それに伴い、次第にセッションのほとんどの時間をブロック玩具への接触・操作に
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費やすようになっていった。このように、ブロック玩具を用いた活動に熱心に取り組む中で、Sの
ブロック玩具への働きかけは次第に巧緻化していった。すなわち、腹部から手を離し、腕を下にお
ろすことによって手の甲でブロックを押し潰す(S17)、腕を腹部から離し、ブロックの上に手を
掲げて、手の平で上から押し潰す(S20)というように、手を体幹から離し、対象物に向かって伸
ばすというように、事物に対するリーチングが少しずつみられるようになっていった。
(3) Aが手を支えた状態でのリーチングの発現とガイダンスの受け入れ
Sの手をとって接近対象に触れさせるようなガイダンスはSの緊張を引き起こすことが多かった
一方で、Sの手を下から支えるようにSと手をつなぐこと自体は係わり合い当初から可能であっ
た。 Sの歩行が不安定であったことから、AはしばしばSと手をつなぐようにしてSの身体を支
えてきた。しかし、係わり合いの経過に伴い、SはAの手を支えとするだけではなく、Aとつない
でいる手を自ら伸ばし、事物に触れるようになっていった。そうした行動は、まず、Aと手をつな
いだ状態でブロック玩具に向って歩き、つないでいる手を前方に伸ばしつつ歩みを進め、手の甲で
ブロック玩具に触れる、といった形で現れた。AがSの手を支えているような状態においては、A
が動きを誘導しなくとも対象に向って手を伸ばすことが比較的なめらかに展開するようであった。
当初は、Aと手をつないだ状態で室内を移動し、そのまま対象に向って歩みを進める中で手を伸ば
すことがほとんどであったが、次第に、Aの「一緒にやりますか?」という提案に応じてAの手に
自らの手を重ねる、あるいは“助け”を求めるかのように、Aの手に自らの手を重ね、手を伸ばす
というように、対象に向かうためにAと手をつなごうとする場面もみられるようになっていった。
さらに、S17においては、Sがブロック片の入った大きな箱(35㎝×50㎝×30㎝)の中をじっと
見つめていたことから、「作ってみる?」と提案したところ、SはAの手を離したり緊張を生じさ
せたりすることなく、Aの積極的なガイダンスを受け入れ、ブロックを組み立てるといった活動が
成立するようになった。ガイダンスによる事物操作が可能になったことを受け、Aはブロック玩具
以外の事物に対してもSに手を伸ばすように積極的に誘ったり、ガイダンスによる接触・操作を打
診することとした。こうした中で、ブロック以外の事物に対しても、Aと手を繋いだ状態であれば
自ら手を伸ばす様子がみられるようになり、スイッチ付ドームアローン(i WANT 社製)のスイ
ッチを押して音楽を鳴らす(S18)、ミュージックビーズチェーン(i WANT 社製)に向かって手
を伸ばし、チェーンに触れて音楽を流す(S18)、Aの積極的なガイダンスを受け入れ、Aの手を
離すことなく、ビー玉転がしにビー玉を入れるといった活動も一緒に行なうことが可能となってい
った。
2.接近対象及び接近行動発現頻度の変化
(1) 接近対象の変化
Table 1 は、Sの移動運動による接近行動の発現回数と接近対象数の推移を示す。Table 1 中の
それぞれの数字は、移動運動による接近行動の発現回数をセッションおよび対象ごとに示したもの
である。Sの接近対象は、移動運動、視線、表情、上体の前傾等の行動から、Table 1 の31種に分
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類することができた。接近行動の発現回数は、Sが移動運動(歩行)によって近づき、対象に背を
向けて離れる、あるいは他の事物への接近行動を発現することをもって1回としてカウントした。
なお、Sの接近対象について明確に特定できない場合には、分析対象から除外した。また、人に対
する接近もここでは除外した。
全セッションを通じてSが最も頻繁に接近したのはブロック玩具であり、S2 以外の29セッショ
ンで発現が認められ、その発現総数も最多となっている。S14、S16、S17においては、ブロック
玩具以外の事物への接近はみられず、Sがブロック玩具に強い興味・関心を抱いて活動にとり組ん
でいたことが推察される。次いで多くみられたのはぬいぐるみであった。ぬいぐるみに対しては前
半において接近が多くみられ、中盤には少なくなる傾向にあることが分かる。S19においてぬいぐ
るみへの接近が再び増加しているのは、この日のセッションにおいて、それまでにSが見たことの
ない2種類のぬいぐるみが室内に置かれていたためであった。その後のセッションにおいても、発
現回数こそ少ないもののぬいぐるみに対する接近は多くのセッションにおいて発現し、帰り際にな
るとやり残していたことを思い出したかのようにぬいぐるみに近づき、触れる様子がみられた。
また、係わり合いにおいて、AはSの接近対象の拡大をめざし、Sが興味を示しそうな事物をそ
の都度呈示してきたが、SはAが用意した新たな事物に対しては積極的に接近していることが示さ
れている。さらに、移動運動による接近後、対象への何らかの働きかけが実現した事物については、
その後のセッションにおいても接近行動の発現が認められている。一方、“近づいて見る”以上の
展開が生じなかった事物については、その後次第に接近がみられなくなっていることが分かる。そ
うした事物の中には、Sが熱心に見ていた事物もあった。例えば、ままごと玩具については、S2
において頻繁に接近し、Aがままごと玩具をテーブル上で回転させると、Sは接近を繰り返しなが
ら、熱心にその様子を見つめ、笑顔を浮かべていた。しかし、以後のセッションにおいては、まま
ごと玩具への接近はそれほどみられていない。このように、“近づいて見る”以上の展開が生じな
かった事物については、次第に接近がみられなくなる傾向にあることが示されている。
さらに、係わり合いの経過に伴い、Sの接近行動の発現回数は減少傾向にあることが分かる。例
えば、S2 においては、ぬいぐるみに対する接近行動が42回、ツリーチャイムに対する接近行動が
3回、玩具箱に対する接近行動が2回、ままごと玩具に対する接近行動が11回発現しており、合計
すると58回の接近行動の発現がみとめられる。さらに、S4 においては、12種の事物に対して合計
102回の接近行動を発現していることが示されている。しかし、その後、Sの接近行動の発現回数
は減少し、S17においては、1回のセッションにおいてブロック玩具に対する接近行動が3回発現
したのみであった。このことは、経過に伴い、Sが接近対象のもとに留まり、長時間に渡って活動
に取り組むようになったことを示している。また、Sの接近行動の発現回数はS18以降再び増加す
る傾向にあることが示されているが、その後のセッションにおいては再び減少傾向がみられ、S27
にはブロック玩具に対して7回、ぬいぐるみに対して2回、ビー玉転がしに対して3回となってい
る。
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Rett 症候群者における接近行動の展開過程
Table 1
接近行動の発現総数と接近対象数の推移
(2) 接近行動発現後の展開様相
歩行による事物への接近後、Sはさらに前進する、あるいは上体を前傾させるといった粗大な運
動調整によって接近対象への接触・操作を展開し、経過に伴って、手を伸ばして触れる、Aに手を
支えられた状態で手を伸ばして触れる、Aのガイダンスによって事物に触れ操作するといった行動
も次第に示すようになった。そこで、Sの事物への接触・操作行動について、その発現回数をカウ
ントするとともに、その発現様相に基づいて、①前進や上体の前傾といった全身の運動調整によっ
て体幹や体幹に当てた腕や手で事物への接触・操作に至る、②手を体幹から離し、伸ばすことによ
って手で事物への接触・操作に至る(リーチング)、③Aが手を支えた状態で自ら手を伸ばし、事
物への接触・操作に至る(Aと手をつないだ状態でのリーチング。手の動きはSが主導)、④Aの
積極的なガイダンスによって事物への接触・操作に至る(SはAの手を軽く握り、Aが主導する動
きに合わせて自らの手をAの手に添えているような状態。実際の対象操作はAが行なっている)、
のいずれかに分類した。
Fig. 1 は、前進や上体の前傾といった全身の運動調整によって接近対象への接触あるいは操作が
発現した回数とその内訳を示したものである。これによると、Sは係わり合い開始当初から、ぬい
ぐるみやツリーチャイム、ソフトブロックといった事物に対し、前進や上体の前傾といった全身の
粗大な運動調整によって働きかけを実現していることが分かる。ブロック玩具を介した活動が係わ
り合いの主要な活動として展開し始めたS7 以降、そうした行動の発現対象はもっぱらブロック玩
具が中心になっていくが、S15にかけては前進あるいは上体の前傾による接近対象への接触・操作
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の発現回数が増加傾向にあり、ブロック玩具以外の事物に対しても、前進や上体の前傾によって働
きかけを実現していることがわかる。
Fig. 2 は、リーチングによる接近対象への接触あるいは操作が発現した回数とその内訳を示した
ものであり、Fig. 3 はAに手を支えられた状態でのリーチングによる接近対象への接触あるいは操
作が発現した回数とその内訳を示したものである。これらによると、リーチング、手を支えた状態
でのリーチングは係わり合い当初にはそれほど多くみられず、Fig. 1 と併せて検討すると、Sの接
近対象への働きかけは、もっぱら前進や上体の前傾といった全身の粗大な運動調整によっていたこ
とがわかる。
また、Fig. 2 によると、S7 以降、対象物へのリーチングがしばしばみられるようになっているこ
とが分かる。こうした行動はもっぱらブロック玩具に対して発現しているが、ぬいぐるみやキーボー
ド、スイッチ付ドームアローン、ツリーチャイムに対しても、そうした行動の発現がみとめられる。
Fig. 1 全身の粗大な運動調整による接近対象への接触・操作行動の発現回数と内訳
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Fig.2 リーチングによる接近対象への接触・操作行動の発現回数と内訳
Fig. 3 手を支えられた状態でのリーチングによる接近対象への接触・操作の発現回数と内訳
さらに、Fig. 3 によると、S16以降、Aに手を支えられた状態でのリーチングによって接近対象
に触れるあるいは操作しようとする行動も頻繁にみられるようになっていることが分かる。Aに手
を支えられた状態でのリーチングも、リーチング同様にもっぱらブロック玩具に対して発現したも
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のであったが、次第にブロック玩具以外の事物に対しても、Aに手を支えられた状態で手を伸ばす
様子がみられるようになっていることが示されている。このように、自発的なリーチング、あるい
はAに手を支えられた状態でのリーチングがみられるようになるのに伴い、全身の粗大な運動調整
に伴う働きかけが減少傾向にあることが Fig. 1 に示されている。
Fig. 4 はガイダンスによる接近対象への接触あるいは操作が発現した回数とその内訳を示したも
のであるが、これによると、ガイダンスによる接近対象への接触・操作行動が、S17以降飛躍的に
増加していることが示されている。これは、ガイダンスによるブロック玩具の組み立てが実現した
ことを契機とし、AがSにガイダンスによる事物操作を積極的に打診するようになったことによる
ものであるが、このことは同時に、ガイダンスによる事物への接触・操作において、Sの緊張がみ
られなくなったことをも示している。
Fig. 4 ガイダンスによる接近対象への接触・操作の発現回数と内訳
*はSに緊張が生じていたことを示す。
Ⅳ.考
察
係わり合い当初から、Sは移動運動によって事物に近づく、上体を前傾し、上から覗き込むよう
にして対象を注視するといった様子を示していた。しかしながら、移動による接近後、Sが手を伸
ばして対象に触れようとする様子はみられず、発現した接近行動は“近づいて見る”以上の展開に
至りにくかった。しかし、係わり合いの経過に伴い、全身の運動によって触れるだけではなく、自
発的なリーチングやAに手を支えられた状態でのリーチングがみられるようになり、ガイダンスに
よる接触・操作も可能となっていった。 以下では、こうしたSの行動変化に関与したと思われる
要因についての検討を行なう。
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Rett 症候群者における接近行動の展開過程
一般に、事物へのリーチングは、姿勢の安定性の獲得に伴い発達することが知られている。竹下
(1999)は霊長類の対象操作の発達について姿勢との関連で検討を行なう中で、
「両手の運動の協調
と分化の発達には、両手を自由に使用できる条件、すなわち、両手ともに身体保持や位置移動に関
与することのない姿勢の発達が大きくかかわっている」と述べている。また、山崎(2008)は、乳
児の伏臥位におけるリーチングについて観察を行ない、リーチングによる接近対象への到達を可能
にするため、乳児は転倒しない範囲の安定性を保ちつつ、身体を不安定な状態へ移行させなければ
ならないことを指摘している。さらに、竹下(2008)は、乳児のあおむけ状態におけるリーチング
の発現についても、重力に抗して自らのあおむけ姿勢を調整することが必要であることを指摘して
いる。このように、対象に手を伸ばすといった行動が発現するためには、姿勢の安定性を保つこと
から腕を自由にする必要がある。
一方、Sにおいては、歩行が可能であるもののその足取りは不安定であり、立ち止まっている時
にもつま先立ちの状態でいることがほとんどであった。そのため、Sの身体はふらついていること
が多く、上体や腕によって身体のバランスを保っている様子がみられ、Sの腕や手は身体の安定性
を保つ上で大きな役割を担っていた。着席時にはSの緊張が高まる場合が多いことから、自由に移
動できる立位の状態での係わり合いを進めてきたが、Sにとっては立位を安定して保つための調整
に多大な努力を要し、そのために、体幹から手を離し、対象に向かって伸ばすといった運動の発現
が困難であった可能性が考えられる。したがって、Sが身体の安定性を保ちつつ、対象に向かおう
とする際には、まず前進や上体の前傾といった全身の粗大な運動として現れたものと考えられる。
こうしたことから、Sの対象に向かって手を伸ばす行動を促すには、姿勢の安定性を保つことに
対する負荷を軽減するような支援を行なうことが重要である可能性が示唆される。乳児を対象とし
た Rochato & Goubet(1995)の研究においては、座位をとることができない乳児の姿勢をサポー
トし、バランス維持に要する負担を軽減させることにより、自立座位の可能な乳児と類似したリー
チングフォームがみられるようになったことが示されている。また、Rett 症候群児への対応にお
いても、対象者の体幹を支えて安定させることによって、自発的で俊敏な手の運動がみられたとの
報告がある(Wigram and Lawrence, 2005)
。先にも述べたように、Sとの係わり合いにおいても、
AがSと手を繋いだ状態でSの手を支えていると、Sは自ら対象物に向かって手を伸ばす様子がみ
られた。この場合、Aの支えがSの身体のバランスを保つための運動調整をたすけ、対象物に向か
って手を伸ばすといった運動を生じやすくすることに寄与した可能性が示唆されよう。
ただし、Sの手を支えた状態でのリーチング、そしてガイダンスといった身体接触を伴う援助に
ついては、係わり合いの経過に伴って徐々に成立してきた経緯がある。係わり合い当初から、Sの
手を支えることは可能であり、SはAの手を握ってそれを支えとしながら移動していたが、SがA
と繋いでいる手を対象に向かわせることは稀であり、対象への接触・操作はAと繋いでいる手以外
の身体部位によってなされていた。また、係わり合い当初は、ガイダンスに対して緊張状態を示す
ことも多かった。このことは、身体接触を伴う援助を行なおうとする場合には、そうした動きを受
け入れてもらえるような関係性が構築されているか否かを十分に意識しなければならないことを示
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東北大学大学院教育学研究科研究年報
第59集・第1号(2010年)
唆していよう。
また、経過に伴い、Sは少しずつ手を体幹から離して伸ばすといった行動を発現するようになっ
たが、こうした行動の発現回数はそれ程多くはなく、その発現時間も極めて短いものであった。し
かし、例え一瞬であったにせよ、身体の安定性を保ちつつ、その維持から手を自由にすることが可
能になったことは、Sの運動調整の高まりとして捉えることができる。Lindberg(2006)は、Rett
症候群児(者)への対応において、新たな技術を教えることやその改善に焦点化するよりもむしろ、
彼女らの行動欲求を重視し、可能な運動を利用することの重要性を指摘している。そして、彼女ら
が自身の欲求に基づいた行動を繰り返し行なう中で、その行動が改善していくであろうと述べてい
る。Sにおいても、事物に向かって手を伸ばすといった行動は、Sが頻繁に接近し、熱心に活動に
とり組んだブロック玩具に対する行動としてまず顕著にみられるようになったものであった。この
ことは、指向性を重視すること、そして可能な運動による事物への働きかけを重視することが、能
動的な運動調整を促進し、状況に応じた運動を発現する上で重要な視点であることを強調するもの
である。また、Sの母親の話によると、Sがこれだけ長時間、そして長期間に渡って集中し、熱心
に活動に取り組む様子は他ではみられないとのことであり、こうしたことからも、Sの指向性を重
視した取り組みの重要性が支持されるであろう。
最後に、Sの接近行動の拡大に寄与する条件についての検討を行なう。Table 1 に示したように、
Sの接近対象は多岐に渡っており、Sは室内の様々な事物に対して接近行動を発現していた。Sは
玩具だけではなく、ロッカーやその日たまたま置かれていた段ボール箱といった事物に対しても積
極的に近づく様子を示した。こうしたSの行動は活動場所であるプレイルーム内を確かめようとす
る姿として捉えることができよう。しかし、その後の経過をみてみると、Sが接近対象に何らかの
働きかけを実現し得た場合には、その後のセッションにおいても接近がみられる一方、“近づいて
見る”状態に留まった事物に対しては、たとえSが熱心に見ていた事物であったとしてもその後の
セッションにおいて接近がみられなくなる傾向にあることが示された。つまり、Sの接近行動はそ
の時々の興味・関心に方向づけられているだけではなく、対象との関わりの展開の有無によって大
きく規定されるものであるといえる。このことは、Sが接近した対象への働きかけを実現できるよ
うな対処を行なうことが、Sの接近行動の発現をさらに促したり、接近対象を拡げていく上で極め
て重要であることを示唆していると考えられる。
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東北大学大学院教育学研究科研究年報
第59集・第1号(2010年)
The Process of Approaching Behavior in a
Girl with Rett Syndrome
Miku SASAHARA
(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)
Ryuichi KAWASUMI
(Professor, Graduate School of Education, Tohoku University)
The purpose of the present study was clarify the process of approaching behavior of a girl with
Rett Syndrome. At first, she approached and looked at various objects. However, she had great
difficulty interacting with the object she looked, and the assistant's guidance made her nervous.
Therefore, we attempted to promote her interaction with the objects with her gloss motor behavior
without assistant's guidance. She became able to touch the objects with her upper body and arms
by walking or bending the body forward. And she became able to reach out for the objects, furthermore, to accept the assistant's support and guidance. On the basis of the above results, we
examined the importance of giving assistance to her for keeping her balance and promoting her
reaching out for the objects, focusing on her interests in order to promote her motor activities and
to establish a communicative relationship so that she accept the assistant's guidance.
Key Words : Rett syndrome, approaching behavior, reaching, case study
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