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サンフランシスコ市郡(The City and County of San Fran

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サンフランシスコ市郡(The City and County of San Fran
Ⅶ 自由研修
11月 10日(月)∼11月 13日(木)
<サンフランシスコ市郡(The City and County of San Francisco)>
自治体国際化協会 松波紫草(愛知県)
サンフランシスコ市郡の概要及び環境に配慮した交通施策について
2006 年 9 月、カリフォルニア州のアーノルド・シュワルツェネッガー知事が「カリフォ
ルニア州地球温暖化対策法」に署名し、地球温暖化問題への取り組みが本格的に始まった。
この法案は、2020 年までに温室効果ガスの排出量を 1990 年と同等の水準まで削減すること
を求めている。これに合わせ、サンフランシスコ市郡でも、環境局が同年 12 月に基準を策
定した。これは州の基準よりも厳しく、2012 年まで同水準までに削減することとなっており、
これを実現するための公共交通利用に関する具体的施策を San Francisco Municipal
Transportation Agency(SFMTA:サンフランシスコ市交通局)において策定中である。
サンフランシスコ市は人口 77.7 万人、カリフォルニア州第 4 の都市である。その近郊の都
市を含めたサンフランシスコ湾の湾岸地域とともにサンフランシスコ・ベイエリアを形成す
る。対岸のオークランドなどを含めた都市圏の人口は約 400 万人、南岸のサンノゼなどまで
加えたサンフランシスコ・ベイエリア広域都市圏の全体の人口は約 700 万人で愛知県とほぼ
同じ人口規模である。また、ハイテク産業の集積地としても知られている。このベイエリア
の中心であるサンフランシスコ市は全米一公共交通機関が発達したまちでもある。7 マイル
四方の市内には通勤・通学用の路面電車、地下鉄、市内を網羅するバス(環境にやさしい電気
自動車とバイオディーゼル自動車)、中距離用通勤列車の BART、長距離移動用の CALTRAIN、
そして有名なケーブルカーと様々な公共機関が整備され、また、自動車においてもポートラ
ンドと同様の自動車共同利用システムの Zipcar(民間)やサンフランシスコ市が運営する City
Carshare がまちの中で見られた。Zipcar については、市内の Zipcar 支社を訪問し、マネー
ジャーの Jennifer Payne-Sleight 氏から説明いただいた。この共同利用システムとレンタカ
ーについては、①保険やガソリン等全てが最初から料金に含まれている、②乗り捨てはでき
ないため、借りた場所に返す必要がある、③利用登録により Zipcard を入手すると、その後
はインターネットによる簡単予約でサービスを提供するすべての地域(全世界)で利用が可能、
④営業所を訪れる必要がないため、原則 24 時間営業である、⑤貸出車両が住宅地や公共交
通に近い場所に駐車してある点で大きく異なる。このシステムは 2000 年にサービスを開始
し、ボストンやニューヨークなどの大都市では徐々に広まりつつあるが、行政との連携がな
かなか進まないため、今後は SFMTA にも呼びかけを行い、何らかのパイロットプロジェク
トを立ち上げたいとのことであった。
このまちの移動における公共交通利用は約 31%、その他に、自家用車利用 40.5%、Carpool
「安全で円滑な人
10.8%、徒歩が約 9%、自転車利用 2.1%の割合となっている。交通局では、
の移動」を目指し、公共交通について見直し(TEP(Transit Effective Project))を行い、公共
交通の信頼性の向上、移動時間の短縮、既存のバス停の位置やルートの見直しや新設、また、
サンフランシスコ・ベイエリアのその他の交通機関とのアクセスの向上についても検討を行
っている。Transit Effectiveness Project Manager(移動効率化プロジェクト課長)の Lulu
Feliciano 氏によると、2 年前から始まったこのプロジェクトは、現在、市内 80 のコミュニ
−47−
ティへのヒヤリングや、交通量調査等を終え、地図上での新たなる線引きが始まったところ
である。特に、ハイブリッドバスの走行による温室効果ガスの排出の削減やバス停の道路上
での位置(道路の中央に設置することで、乗客昇降時の停車及び発車がスムーズになる)によ
り交通渋滞による旅行時間の延長が軽減される効果が出ているとのことであった。また、こ
れら計画の策定や調査の実施に当たっては、交通局主導で月に1度の部局横断の会議が設置
され、警察、消防、道路建設局、交通局が一堂に会し、また、必要な場合には地域のコミュ
ニティの代表にも参加を呼びかけ、お互いの情報共有による効率化に努めている。
(1)自転車利用施策について
サンフランシスコ市郡は自転車利用
全米一の割合(米国全体の利用率が平
均 0.4%、サンフランシスコ市郡 2%)
を誇っている。実際に自転車をレンタ
ルし、この自転車道を 20km 以上走行
したが、途中、自転車に乗ったままで
は登れない坂に何度も出くわし、驚く
べき普及率という印象であった。この
高い自転車利用率を支えているのが
San Francisco Bike Coalition という
( 参 加規模 10,000 人超 ) 市民団体 と
自転車専用道路
YMCA(ボランティア団体)である。彼らは選挙において多数派として大きく力をふるうため、
SFMTA ではこの市民団体と協力して様々な計画を進めているとのことであった。自転車プ
ログラム室の James Shahamiri 氏によると、SFMTA では「Engineering、Education、
Enforcement、Encouragement」の 4 つをテーマに積極的に自動車から公共交通や自転車へ
の転換を図る施策を進めている。例えば、1989 年のサンフランシスコ大地震では、多くの高
速道路が倒壊したが、サンフランシスコ市郡では、この高速道路の復旧を放棄し、それに代
え、公共交通とうまくリンクした大通りや公園、自転車道を整備し、その結果、交通渋滞が
軽減されただけでなく高速ガード下の犯罪の一掃にも繋がった。また、米国では道路標識や
道路上の表示は連邦政府により同じ規格が定められている。その一方で、サンフランシスコ
市郡では、現在この規格にない「新しい標識」の提案を連邦政府に行い(州を通じて)、新た
な国家基準を自ら先導しているとのことであった。現在進行中の新施策は、市内 10 か所の
交通量の多い場所での自転車専用レーンを緑色に塗装することにより、ドライバーに自転車
専用道路を意識させ、無意識のうちに専用レーンに侵入することを防ぐものである。この結
果については、現在データを収集中であるが、事故の削減等に大きく貢献しているとのこと
であった。
サンフランシスコ市郡には、3種類の自転車用道路基盤が整備されている。1つ目は Bicycle
Path と呼ばれる自転車専用道路(37km)、2 つ目は Bike Lane と呼ばれ、車道上に設置され
ている自転車専用レーン(72km)、そして最後に Sighed Bike Route と呼ばれる自動車及び自
転車が同じ道路上をのる共用レーン(225km)である。将来的には、街の中心の Market Street
への自動車の乗り入れの全面禁止を実施する市長構想もあり、各交差点に設置された
−48−
Intelligent camera(高機能カメラ)の情報を元に、走行台数をカウントし、特にダウンタウン
において、自転車が有効な移動手段であるという結論を導こうとしている。自転車用基盤の
整備については、利用者へのルールの周知に非常に苦労している。特に Bike Lane と Sighed
Bike Route は自動車が走行する同じ道路上に整備され、事故が多発するため、
「Coexist(自
動車と自転車の安全な共存のための)キャンペーン」を官民あげて取り組んでいる。最近の大
きな課題は、多くの外国人観光客が、自転車の走行ルールを知らないまま利用することであ
る。短期の滞在者には、各メディアによる広告のみでは情報が行きわたらないため、各自転
車レンタル会社に対して、道路交通の規則等を事前に説明するように指導している。また、
自転車は法律上、自動車と同じカテゴリに分類されている一方で、交差点における信号無視
が非常に多い。起伏に富んだ地形が特徴のこの地域では、坂の上から自転車が駆け降りる速
度は自動車のそれとほとんど変わらないことから、特に歩行者との接触が深刻な交通事故を
引き起こす。そのため、SFMTA は、所管する公共交通の広告を利用して、自転車の安全な
乗り方の広報を行ったり、土曜日に無料の親子安全教室を開催したり、事故の多い交差点で
は自転車専用信号の設置も始めている。また、自転車の有効利用のため、Washington DC
と同様、自転車の共同利用を行っている(最初の 30 分は無料)が、こちらは市役所が委託した
民間会社が共同利用ステーションや貸出自転車へのラッピング広告事業を行うことで、維持
管理に公共予算を使用しない成功事例となっている。愛知県においても、万博記念公園から
リニモ沿線藤が丘にかけて、自転車で移動できるまちを目指しているが、これほど大規模な
計画はかなり難しいため、金門橋やサンフランシスコ湾沿いの景観の良い大通り等の大きな
観光資源をもつサンフランシスコならではとの印象を持った。
(2)交通局における障がい者対策について
米国においては 1990 年に ADA 法(Americans with Disabilities Act:障がいをもつ米国人
に関する法律)が施行され、連邦政府の法律の下、公共交通のアクセスビリティの向上(バリ
アフリー化)が義務づけられた。サフランシスコ市郡においても、文化遺産として古い車両を
改造できないケーブルカーを除く全ての公共交通機関で、障がい者用の Ramp(プラットホー
ムと車両を繋ぐスロープ)や、駅へのエレベータの設置、また路面電車の停留所の改造等が行
われている。また、さらに障がいが重いために、公共交通サービスを利用できない住民のた
めに、タクシーや予約制のシャトルバンを利用したサービスも提供している。サンフランシ
スコ市郡の公共交通のアクセスビリティの向上については、実際の利用対象を含む市民の代
表からなる Advisory Committee(諮問委員会)の提案を参考にしつつ施策を進めている。
SFMTA の障がい者サービスプログラム室のマネージャーの Annette Williams 氏によると、
サンフランシスコ市郡には、身体障がい等の理由により、移動に不自由がある市民が申請(イ
ンタビューが行われ、障がいの重さにより認定か否かの判断が下される)を行うことにより、
公共交通機関の運賃の割引や、廉価でのドア to ドアの移動サービスを享受できる制度がある。
このサービスについては、タクシーによる送迎、事前予約によるリフト付き大型バンサービ
ス、小型バスのグループ利用の 3 種類から選択することが可能で、約 15,000 人がこのサー
ビスを利用している。この認定を受けると、顔写真の入った割引対象者用の TransLink(サン
フランシスコ・ベイエリア全域の公共交通機関で使用できる IC 共通乗車券)が発行され、こ
れをセンサーにかざすことで、自動的に割引料金が引き落とされる仕組となっている。ただ
−49−
し、この仕組はドア to ドアのサービスには対応しておらず、今年度から市内 2社のタクシー
会社で磁気カードを使った自動引き落としの実証実験を開始する予定である。ここで、その
他の公共交通機関で利用できる IC カードとの共通化について質問したところ、現在、米国
におけるタクシー会社のクレジット決済方法が、ヨーロッパや日本ほど IC 化が進んでいな
いため、タクシー会社に追加投資を負担させないためにも、磁気カードによる実験から取り
組むとのことであった。停留所の改良や、基盤整備については、交通局が直営で取り組んで
いるが、ドア to ドアのサービスについては、交通局が入札により選定した民間企業に申請受
付、割引券販売、利用ガイダンスの開催等すべての運営を委託している
(3)交通情報管理について
サンフランシスコ市郡は地形的制約により、これ以上の道路の拡幅建設や新設が難しい一
方で、朝、夕のピーク時には交通渋滞が発生し、旅行時間の遅延が発生する。交通局では、
交通量の把握のため、
各信号機に高機能カメラと GPS を利用した Raiser detector(検出装置)
を設置し、その情報を交通情報センターがリアルタイムで収集し、移動を円滑にする情報提
供と制御を行っている。SFgo Program(交通情報管理室)マネージャーの Cheryl Liu 氏によ
ると、サンフランシスコ市郡では 400 か所に設置されている信号機はダウンタウン地域に集
中している。光ファイバーで接続されている信号機は、各カメラや検出機器のデータにより
自動制御(青信号の延長等)を行う機能があり、緊急自動車の通行をスムーズにしたり、横断
歩道の歩行者が渡り終わるまで歩行者用信号を延長したりしている。2 年前に開通した
StreetCar の新路線では、専用レーンの設置に加え、その進行にあわせて、青信号が自動的
に延長される仕組を導入したため、自動車と交差点を共有しているのにも関らず、交通渋滞
の影響を受けにくくなっている。
(4)サンフランシスコ市郡における駐車場施策について
サンフランシスコ市郡では、国内外からの旅行者が多く、不案内なドライバーが駐車場を
探す回遊行動により渋滞が発生している。SFpark(駐車場対策室)マネージャーの Jay
Primus 氏によると、
この回遊による交通渋滞の回避のために、
駐車場情報掲示板(満空情報、
駐車可能台数)、パーキングメータの設置及び既存パーキングメータへのパーキング
Detector(検出装置)の新設を急ピッチで進めている。新しい駐車場システムは交通情報セン
ターと無線通信を行い、ドライバーに対しインターネットを活用したリアルタイムな情報提
供を行っている。また、このデータにより、今まで把握できなかった利用時間や頻度を割り
出すことが可能となり、新しい設置計画を立てる際の大きな指標となっている。ただし、現
在私設の駐車場との連携がないため、今後これらを巻き込むことで、さらなる渋滞回避策を
検討する必要がある。
<オレゴン州ポートランド市(Portland, Oregon)>
自治体国際化協会
榊 伸一郎(八戸市)
1 ポートランド市の概要
ポートランド市は、米国オレゴン州の北西部に位置する、同州最大の都市であり、州の経
済・産業の中心である。人口は約 60 万人弱であるが、ポートランド都市圏では約 230 万人
−50−
となり、その人口は年々増加している。一
方で、自然も豊かであり、古くからバラの
産地として有名であり、
観光も盛んである。
ポートランド市と周辺の都市圏は、米国内
で唯一の直接民主制による地方議会である
「メトロ」によって管理されている。
「メト
ロ」では、土地の開発・利用や交通計画、
ごみ処理などを行っている。また、コンベ
ンションセンターや動物園などの行政施設
の管理も行っている。
ポートランド市の景観
2 マルトノマ郡庁舎におけるリサイクル促進
マルトノマ郡では、本庁舎及び郡の管理施設におけるリサイクルの推進に努めている。庁
舎及び関連施設から出されるごみの処分費は、住民からいただいた貴重な税金であるという
認識のもと、職員のごみ減量・リサイクル教育に力を入れている。具体的には、次のような
ことが挙げられる。
まず 1つ目は生ゴミの堆肥化である。これは庁舎内では行えないので、業者に委託して行
っている。回収業者はその生ゴミを堆肥として販売することで収益が得られるので、庁舎か
らの収集費用は非常に低く抑えられているとのことである。ちなみに最も多くの食品廃棄物
を排出する施設は、郡の刑務所である。生ゴミに付随する紙類・アルミホイールなどのごみ
を減少させるため、ごみの出ない昼食作り競争などを庁内で実施している。
2 つ目は、不要な備品の再利用である。ある部署で不要な備品が発生した場合、まず庁内
LAN などを使って、他の部署に対して不要になった備品の再利用を呼びかける。それでも引
き取り先がない場合は NPO などに寄付している。これとは少し異なるが、古くなったノー
トパソコンなども、庁内でまとめて集めて、回収業者へ引き渡しているとのことであった。
3 つ目は、庁舎内各課及び郡施設ごとにおけるごみ排出量、リサイクル率のチェックであ
る。これを四半期ごとにまとめて発表し、どの部署でごみ排出量が多いか、リサイクルに取
り組んでいるかが数値で示されるようにしている。なお、ごみ排出量及びリサイクル率の低
さについて、どちらもワースト 1 位は郡の刑務所であるという。
この他、毎月 1 回各部局と会議をひらき、より一層のごみ減量及びリサイクル率の向上を
訴えているとのことである。
3 ポートランド商工会議所
ポートランド市を含むポートランド都市圏が活動の範囲となっている。主要な収入は他の
商工会議所と同じであり、会員からの会費がほとんどである。ポートランド市及び「メトロ」
からの補助金等は全くもらっていない。
現在、当会議所ではいわゆるスモールビジネスの育成に力を入れている。その具体的な活
動は次のとおりである。
1 つ目は、低価格で事務所を貸すことである。これは、小さな企業では事務所の賃借料の
−51−
負担が大きいことから、商工会議所で援助を行うものである。
2 つ目は、朝食・昼食会の開催である。会員同士の交流・意見交換の場を提供するととも
に、講師を招いて勉強会を行っている。
最後に、州および市当局に対して、零細企業に対する税制面での配慮を要求している。ま
た、土地開発に対する許可も柔軟に対応するよう要求している。
これらのスモールビジネス育成に加え、現在立地している企業が逃げていかないように努
力することも、極めて重要な活動である。ポートランド港からの輸出先上位 3 カ国は、カナ
ダ・日本・中国である。したがって日本との関係は非常に重要であるとのことであった。
4 Metro Sustainability Center(メトロにおけるリサイクル政策)
メトロは、ポートランドエリアの住民により運営される地域政府である。ポートランド市
を含むマルトノマ郡・クラッカマス郡・ワシントン郡の 3つの郡を管轄範囲としている。メ
トロには、住民によって選出された 7 人の委員による評議会が存在し、この評議会でメトロ
における各課長を指名する。
メトロにおけるリサイクル率は 60%に達しており、これは全米でもサンフランシスコに次
いで 2 番目の高さである。リサイクルの方法としては、各家庭に 1 つずつカートを置き、そ
れにリサイクル対象物をまとめて入れるやり方である。種類ごとに分別することは正しいこ
とであるが、それだと住民にとって手間がかかってリサイクル率が伸びなかったため、1 つ
のカートにすべていれて回収する方法に変えたとのことである。
また、各家庭からの食品廃棄物いわゆる生ゴミについては、コンポストによる堆肥化を推
し進めている。生ゴミを含むごみの収集は有料であるため、費用を最小に抑えるため、ほと
んどの住民がコンポストによる堆肥化をしているという。それでもごみは発生するため、最
終的にはポートランドから片道 4 時間かけて、東オレゴンの小さな町の最終処分場へ搬入し
ているが、この収集・搬送コストも結局は住民の負担であるため、一層のごみ減量化を目指
している。
<カルガリー市(Calgary, ALBERTA, CANADA)>
広島市 竹河 信裕
カルガリー市の概要
カルガリーは、カナダの中西部に位置し、その都市圏に約百十万人の人口をもつ都市であ
る。1988 年に冬季オリンピックを開催した都市として有名であり、また、それに合わせて北
米で初めて Ctrain と呼ばれる LRT(Light Rail Transit)を導入し、以後北米の都市交通政策
に大きな影響を与えた都市でもある。私は、政治や経済の中心地から離れ、広島市とほぼ同
じ規模のカナダの都市がどのような公共交通機関をもち、どのように運営しているのかに興
味を持ち、カルガリーを自由研修の目的地に決めた。カルガリーの公共交通機関の中心的役
割を果たしているのは、LRT、BRT(Bus Rapid Transit)及び両者を補完するバス路線である。
これらを運営するカルガリートランジットの担当者に話を聞き、また、実際に現地を視察す
ることで、以下のような点を学んだ。
−52−
(1)トランジットモール
市街地のメインストリートである7ア
ベニューは、自家用車やトラックなどが
締め出され、LRT とバスの専用道路であ
るトランジットモールとなっている。こ
れにより地下化や高架化など多額の費用
をかけることなく、市街地での電車やバ
スのスムーズな運行を確保している。ま
た、街の中心部に存在するトランジット
モールは、公共交通機関優先の街づくり
のシンボルにもなっている。
7 アベニューを走る LRT とバス
(2)パーク・アンド・ライド
郊外の LRT や BRT の駅には、パーク・アンド・ライドのための無料の専用駐車場が整備
されており、利用者は自宅から郊外の駅まで自家用車で通い、そこからは LRT や BRT で中
心市街地へと通っている。この結果、カルガリーの中心市街地は、他の北米の都市よりも少
ない道路や駐車場しか必要とせず、高密度でコンパクトな街となっている。このことは、市
街地の治安の維持やインフラ投資の効率化、固定資産税の税収増など様々なメリットをもた
らしている。
(3)インフラ整備の戦略性
カルガリーの属するアルバータ州では、1980 年代に公共交通機関建設のために、カルガリ
ーとエドモントンにほぼ同時期に州政府から補助金が与えられた。エドモントンは、大部分
が地下化された鉄道を建設する道を選択し、カルガリーは、できるだけ地上部分を走る LRT
を建設することを選んだ。その理由は、1 キロあたりの建設コストを抑えることにより路線
の総延長を伸ばし、LRT の恩恵を受ける市民をできるだけ増やすこと、また、それにより公
共交通機関優先の政策に対する支持を得ることにあった。
実際に、
カルガリーは、
市民の LRT
に対する支持をとりつけ、これまでに新たな路線や既存の路線の延長を実現している。
(4)合意形成に向けた努力
カルガリーでは、公共交通機関の整備が遅れていた南東部の地区に新たな LRT 路線の建
設が計画されている。新路線の建設は、多額の費用の発生と地区の住民の生活に大きな変化
をもたらす。そのため、新路線建設に対する市民の理解と合意を得ることが必要となる。そ
こで、LRT の新路線を導入する前に、初期費用が比較的少なく済む BRT を LRT の新路線計
画とほぼ同じ路線に沿って整備し、パーク・アンド・ライドや高頻度の便数、中心市街地へ
の直通運転などの LRT の利便性を BRT によって住民に実際に経験してもらい、将来的な
LRT の新路線建設に対する市民の理解と合意を得る努力がなされている。さらに、BRT の
導入自体についても、説明会を数多く開催して、市民の理解と合意を得る努力がなされてい
る。実際に説明会を見学する機会を得たが、BRT の導入計画と説明会の開催についての案内
を事前に対象地区の全世帯に送付し、
説明会では計画に携わるコンサルタントやエンジニア、
市の担当者などが市民に対して直接説明し、市民の意見や提案を口頭やアンケートなどの形
で受け入れるなど、計画について市民と積極的に対話する姿勢がとても印象に残った。
−53−
<イリノイ州シカゴ市(The City of Chicago, State of Illinois)>
自治体国際化協会 工藤 奈津子(札幌市)
1 シカゴ市の概要
シカゴ市はイリノイ州の州都であり、五大湖の一つであ
るミシガン湖の湖岸に広がる人口 3百万人を擁する全米第
3 の都市である。別名ウィンディ・シティと呼ばれ、ミシ
ガン湖から吹きつける強い風により冬季は厳しい寒さとな
る。多くの観光客が訪れるシカゴ市は文化の街として大き
な魅力を発揮しているだけでなく、2008 年大統領選挙の際
にはオバマ氏の本拠地として選挙戦の戦略基地となり、投
票日の 11 月 4 日には市を代表する公園であるグラント・
パークにおいて歴史的な大統領選出演説が行われるなど、
選挙戦勝利後の熱が冷めない中での訪問となった。
シカゴ市の様子
2 Chicago Convention & Tourism Bureau(シカゴコ
ンベンション・観光協会)
シカゴコンベンション・観光協会は民間の非営利団体であり、運営資金はイリノイ州ホテ
ル税の一部と民間企業等のメンバーシップ会費によって構成されている。
観光誘致とともに、
コンベンション事業の点でシカゴは大変成功しており、コンベンションセンターであるマコ
ーミックプレイスは 2007 年に新館がオープンするなどさらに規模を拡大している。成功の
要因としては、航空路線をはじめとして全米からの交通の便が良いこと、また宿泊施設等が
充実していることがあげられる。コンベンション事業によるシカゴへの経済効果は毎年数十
億ドルにも上るとのことである。また、海外からの観光客数が急激に伸びている原因として
は、ヨーロッパを中心に民間業者へ誘致を委託していることに加え新たな空港路線が就航し
ていること、これまでの人気観光地に次ぐ新たな観光地として人気を集めていることが挙げ
られる。当協会では複数言語によるパンフレットの作成を行っている他、ホームページは開
くと各言語に自動的に翻訳されるように設定されてあり、海外でシカゴへの観光を考えてい
る人にとっては大変有効である。さらに、2016 年のオリンピック候補地として誘致活動に力
を入れている。
3 City of Chicago / Department of Streets and Sanitation(シカゴ市道路衛生局)
シカゴ市道路衛生局は、ごみ収集、道路維持、ネズミ駆除、落書きの除去、放置車両の撤
去等の他、冬季は除雪・融雪を行う。当局はシカゴ市 911 センター内に事務所を構えており、
約 3 百台にもなる作業用車には無線や GPS など最先端機器を搭載して道路管理を行ってい
る。
積雪量が平均して 1メートル以下のシカゴ市では、
除雪よりも融雪を中心に行っており、
とくに中心市街地では積雪状態が継続しないよう、常に路面が見えている状態を保つことが
原則になっている。2007 年は寒波と大雪が集中し、費用が 38 万ドルに上った。除雪・融雪
事業については、民間会社への委託を行わず、当局職員が対応にあたっている。これも、ブ
−54−
ルドーザーなど大型車を使用する必要がない融雪作業が中心であるため、
可能なことである。
また、突然の吹雪や大雪により大型車で除雪をする必要が出た時は一時的に民間委託するこ
ともあるということであった。一番印象に残ったことは、911 センターに事務所が入ってい
るため市内に設置されているカメラを使って常に道路状態を確認して、転倒などの事故連絡
にすぐに対応できるようにしている点である。その中心にあるのは冬季の道路管理は安全の
問題だという考えであり、市民の要請にすぐに応えられるように努めているとのことであっ
た。
4 City of Chicago / Office of Tourism(シカゴ市文化局観光課)
シカゴ市観光課の特徴としては、文化振興の側面から観光客誘致を促進しようとしている
点である。前述のシカゴコンベンション観光協会との関係を尋ねたところ、シカゴ市観光課
では夏季と冬季の年 2 回、市をあげての観光テーマを企画するなどソフト面での観光推進を
行っている。たとえば、2006 年夏季には「シルクロード・シカゴ」というテーマを設定し、
ホテルや美術館などに呼びかけ、無料で参加できるアクティビティを考え出してもらったり、
著名人にテーマに沿った公演を行ってもらったりして、全体としてシルクロードに関連した
観光イベントを開催した。民間が参加する場合を含め、どのイベントもすべて無料で行うこ
とによって、文化の街というイメージを喚起し、結果として観光客誘致に結びつけるのがね
らいということだ。また、観光課職員はわずか 7 名であるが、常に新しい企画を生み出す創
造性を持つ人であることが必要であり、お話を伺った職員の方は自らがミュージシャンとし
て活動しており、そのような多様な背景が新鮮な企画に結びつくとのことである。
5 Park District(シカゴ公園区)
シカゴ公園区は、起源を1894年に遡り、現在
の形で公園区化されたのが1974年である。公園
区では市が管理するミレニアム・パーク以外の
552の公園と220以上の公園内施設(複数の美術
館、植物園を含む)を所有し管理・運営を行って
いる他、39kmに渡る湖岸地域のオープンスペ
ースも公園区の管理下にある。事業としては、
グリーンスペースと健康へのメリットを訴え、
年4回各月ごとの公園内での定例的なスポーツ
リクリエーションプログラムの案内
リクリエーションプログラムの企画・提供を行
うことが中心である。厳しい冬で有名なシカゴの公園の冬季利用について伺ったところ、冬
期間はクロスカントリーやスケート、ホッケーなどのウィンタースポーツを導入する他、演
劇や冬季に楽しむ植物のイベントなど屋内イベントの充実を図るとのことであった。また、
年1回の市を挙げてのスポーツフェスティバルも冬季に行われる。
−55−
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