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宇宙の始まり、そして未来 - 宇宙理論研究室
宇宙の始まり、そして未来 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 須藤 靖 つくばエキスポセンター秋季プラネタリウム記念講演会 2009年10月3日 14:00-15:00 @つくばエキスポセンター 今回の話の内容 1. 宇宙は137億歳: 宇宙には始まりがある 2. 宇宙は加速しながら膨張している: 宇宙の主成分はダークエネルギー 3. 星空が見えなくなる?: 予想される宇宙の未来 4. 夜空のムコウ: 天文学とは? 1. 宇宙は137億歳 宇宙には始まりがある let there be light 旧約聖書 創世記 天地創造 初めに、神は天地を創造された。 地は混沌であって、闇が深淵の面に あり、神の霊が水の面を動いていた。 神は言われた。 「光あれ。」 こうし て、光があった。 カリフォルニア大学 バークレー校のロゴ 宇宙の始まり? 始まりがあるとすると なぜ始まったのか? 始まりの前は何だったのか? を聞きたくなる 「神様なしで」このような難問を避けるには、 始まりも終わりもなくずっと同じ状態のまま 生まれては死ぬ、を無限に繰り返す のどちらかだと考えたほうがずっと自然 にもかかわらず宇宙は137億年前に始 まったことは観測的に確か ハッブルの法則の発見 エドウィン ハッブル (1889-1953) 遠方の銀河はその距離に比例した速度で 遠ざかっていることを発見 (1929年) http://www.mtwilson.edu/History ハッブルの法則の意味:膨張する宇宙 宇宙が全体として膨張している観測的証拠 ある銀河がたまたま我々から遠ざかっている のではない 我々が爆発する領域の中心にいるのでもない 宇宙そのものがあらゆる場所で全体として膨 張している ハッブルの法則と宇宙年齢 ハッブル定数の逆数は 宇宙年齢の目安 v d H 0 = 70 km/s/Mpc ≈ 1 /(140億年 ) 1 d d = ≈ 140億年 tH = = v H 0d H 0 後退速度が一定 ならば、d/vだけ 過去に遡れば宇 宙全体が一点に 集まる 宇宙には始まりがある!進化する! 宇宙の歴史 38万年 2億年 137億年 宇宙膨張によって密 度と温度が下がる 現在 CM MB B温 温度 度 C ゆら らぎ ぎ ゆ 軽元素合成 宇宙 宙の の誕 誕生 生 宇 宇宙の再電離 t 光が支配する宇宙 から物質が支配する 宇宙へ 宇宙 宙の の大 大構 構造 造 宇 銀河団の形成 銀河の形成 第一世代 天体の誕生 量子ゆら ぎの生成 t≒3分: 軽元素(ヘリウム) 合成 t≒38万年 :電離した宇宙が 中性化 (陽子+電子 から 水素原子) t≒4億年:第一世代天体の 誕生 t≒10億年 ~ 137億年: 星 形成(重元素合成)、銀河・ 銀河団形成 あらゆるものは宇宙のなかで誕生と 死を繰り返す:宇宙での物質循環 イラスト: 羽馬有紗 我々は星の子供! 宇宙の歴史は我々の体に刻まれている かに星雲 1054年に起こった 星の爆発の痕跡 の観測データ 人間の体をつくっている元素は、137億年前の 宇宙で生まれ、数十億年ほどに星々の中で合 成され、その後宇宙を旅してきた その星はずっと前に爆発して今はない ではその前は? ~特異点定理と 古典論の限界~ 英国のロジャー・ペンローズとスティーブン・ホーキング によって、一般相対論によれば初期特異点(宇宙の始 まり)が存在することが証明された(1970年)。 しかしそのような初期宇宙では現在知られている物理 学はそのままでは成り立たないと考えられている より進んだ物理学(量子重力理論)の完成を待たなくて は、本当の意味での宇宙の始まりは理解はできない つまり宇宙がなぜ始まったかはわかっていない 2. 宇宙は加速しながら膨張している 宇宙の主成分はダークエネルギー 宇宙の大きさ 宇宙の加速膨張 万有斥力? 宇宙定数? 暗黒エネルギー? 一般相対論の破綻? 時間 宇宙ってどうなっているんだろう? 見えない先はどうなっているのか 古代エジプト 仏教 古代インド イラスト: 羽馬有紗 みんな知りたいのに答えが(まだ)ない謎 宇宙は何からできているか? もう一つの地球はあるか? 生物はどうやって生まれたのか? 宇宙を見る目の進歩 (1) 地上5m望遠鏡+写真乾板 100万×人間の眼 宇宙を見る目の進歩 (2) 地上4m望遠鏡+CCD: 100×写真乾板 宇宙を見る目の進歩 (3) ハッブル宇宙望遠鏡 宇宙を見る目の進歩 (4) ハッブル宇宙望遠鏡+CCD: 1000×地上望遠鏡 遠くの宇宙は 過去の宇宙 137億年 10億年 4億年~7億年 宇宙の誕生 宇宙マイクロ波背景輻射 第一世代天体 原始銀河 銀河宇宙 宇宙の組成と宇宙膨張の未来 宇宙膨張の観測を通じて宇宙の成分がわかる ハッブルの法則をもっと遠く(=もっと昔)まで調べる 宇宙の サイズ ? 宇宙の サイズ ? 等速膨張 減速膨張 高密度(重力が強い)宇宙 低密度(重力が弱い)宇宙 時間 時間 宇宙の サイズ 加速膨張 ? 宇宙の サイズ 万有斥力が働く宇宙 時間 高密度(重力が強い)宇宙 加速収縮 ? 時間 宇宙のダークエネルギー 宇宙の主成分: 全エネルギーの4分の3 ダークマターとは異なり、空間的に局在しない 例えば、本来何もないはずの真空自体が持っているエネル ギーのように、宇宙全体を一様にみたしている 宇宙の加速膨張源: 実効的に「万有斥力」 1917年にアインシュタインが導入した宇宙定数はその一例 正体は不明 ダークエネルギーは、いまだ理解していない新 たな物理学を探る重要な道しるべ 宇宙はダークエネルギーで満ちている 宇宙は膨張している(1927年) その膨張速度は加速している(1998年) 宇宙を加速させている原因がダークエネルギー 宇宙最大の謎 宇宙の組成観 の変遷 1990年代 ダークエネルギー 21世紀初頭 1980年代 バリオン以外の 1970年代 ダークマター 光を出さない バリオン 星・銀河 (バリオン) z 重力レンズ:ダークマター z 超新星:ダークエネルギー z マイクロ波背景輻射: ダークマター、ダークエネルギー 宇宙の96パーセントは正体不明 宇宙の サイズ 宇宙の加速膨張(1998年発見) 減速膨張 万有斥力? 宇宙定数? ダークエネルギー? 一般相対論の限界? 137億年 ガリレオもアインシュタインも知らなかったこと 時間 万有引力をおよぼす正体不明の物質(ダークマター) 万有引力ではなく万有斥力をおよぼす「正体不明の何 か」がもっと大量にある(ダークエネルギー) 答えは誰も(まだ)知らない、でもわくわくする疑問 3. 星空が見えなくなる? 予想される宇宙の未来 予想もできない将来があるかも 最初に起こるのはどれだろう 地球文明の破滅 (いったん発達した文明は、 伝染病、核戦争、資源の枯渇などの要因で 不安定) 実験室での人工生物の誕生 もう一つの地球、宇宙、生命の発見 地球外生物の天文学的発見 地球外文明からの交信の検出 高度に発展した地球外文明の有無を知る ことは、我々の未来を知ることに等しい 宇宙に終わりはあるか? 「始まり」があるのならば、「終わり」もあるはず 文明の終わり: 人類(文明)はそれよりはるか以前 に、疫病、核戦争、資源の枯渇などによって実質的 に消滅しているであろう 地球の終わり: 50億年後には、太陽は地球の公転 軌道ほどのサイズの赤色巨星になり、地球は飲み込 まれる 宇宙の終わり: ダークエネルギーがすべてを決める 無限に膨張を続ける ⇔ 宇宙の密度が0に漸近する空虚 な宇宙? やがて収縮に転じる ⇔ 初期特異点のように密度が発散 し、それ以後の時間発展が記述できない宇宙? 宇宙の未来 日経サイエンス 2008年6月号 The End of Cosmology ? L.M.Krauss & R.J.Scherrer 宇宙の未来 日経サイエンス 2008年6月号 The End of Cosmology ? L.M.Krauss&R.J.Scherrer 50億年前 50億年後 宇宙の加速膨張始まる 太陽が一生を終え、地球を飲み込む 天の川銀河とアンドロメダ銀河が衝突 1000億年後 超銀河形成、他の銀河は視界から消える 100兆年後 恒星が燃料を使い果たして消失 1037年後 物質を構成している陽子が崩壊 4. 夜空のムコウ 天文学をする心 この青空のムコウに何があるのだろう アイザック・アシモフ著 「夜来る」 恐ろしい暗闇が訪れた 我々は宇宙の中心 我々は何も知らなかった イラスト: 羽馬有紗 2000年に一度しか夜が来ない“地球”の人たち 自分たちの“地球”と宇宙との関係は? 国立天文台ホームページより 2009年7月22日 皆既日食 「我々は何も知らなかった」 33 理科(科学)の目的 テストで良い成績をとるためではない 難しい質問を出して、その理由を無理やり 教えるためでもない 興味が持てないことを無理やり覚えさせる のでもない 世の中が不思議な謎にあふれていることに 気づく 答えはわからなくてもいい 自分で考えることの楽しさを伝えたい 答えを知るより、謎に気づく心が大切 眼は、いつでも思った時にすぐ閉じることが できるようにできている。 しかし、耳のほうは、自分では自分を閉じる ことができないようにできている。 なぜだろう。 (大正十年三月、渋柿) 寺田寅彦 1878年11月28日~1935年12月31日 高知県出身 東京帝国大学物理学教授 役に立たなくてもいい! 面白い疑問ならいいじゃない! 「耳がなぜ自分では閉じられないか」がわかったとし ても何かの役に立つとは思えない ほとんどの科学者は、役に立つからやっているので はなく、面白いと思うから、楽しいと感じるから研究 している 答えを知らないことは恥ずかしくない 不思議なことなのにそれを不思議であると気づかな い鈍感さこそ恥じるべき 誰も答えを知らない疑問を見つけたらすばらしい 「不思議さ」を大切にする 残念ながら、大人になると不思議だと思う気持ち を忘れてしまう 携帯電話やカーナビはなぜ動作する? なぜ眉毛は生えている? 死んだら「心」はどうなってしまう? 宇宙の果てには何がある? どんな大人だって子供の頃があった (でもそのことを覚えている人はほとんどいない) サンテグジュペリ「星の王子様」の書き出しの文章 「わかったつもり」の大人にだけはならないで 「わかったつもり」の大人にだけはならないで この青空の向こうに何かがあるはず この星空の向こうにも何かがあるはず この銀河宇宙の果てに何があるのだろう Seldner, Siebers, Groth, and Peebles, 1977, AJ, 82, 249.