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CrossRef をめぐる動向

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CrossRef をめぐる動向
CrossRef をめぐる動向
科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)が
CrossRef に正式参加。
1.はじめに
電子ジャーナルの歴史は 1980 年代にまで遡ること
2002 年 10 月現在,CrossRef に参加している出版社
の数は 150 社以上に達し,6,400 タイトル以上の電子
ができるが,1990 年代に入り,インターネットの爆発
ジャーナル,500 万件を越える論文をカバーしている。
的な普及と電子出版技術の進展に伴い,電子ジャーナ
今のところ,CrossRef の対象資料は,雑誌論文に限
ル 刊行タ イ ト ル 数は 劇的な 増 加を 見せ て い る 。
られているが,将来的には,百科事典,教科書,会議
Ulrich's によれば,現在約 27,000 タイトル以上のタ
録等のコンテンツも統合していく予定であるという。
イトルが刊行されている。また,米国研究図書館協会
なお,CrossRef というのはあくまでサービス名称であ
(Association of Research Libraries: ARL)のディ
り,その管理運営には非営利団体である出版社国際リ
レクトリによれば,査読付き電子ジャーナルの数は,
ンキング連盟(The Publishers International Linking
2002 年には 5,451 タイトルに達している。
Association, Inc.: PILA)が当たっている。
こうした電子ジャーナルの普及とともに,複数の論
CrossRef に参加するには,雑誌や論文の年間刊行数
文の引用関係をそのまま画面上でたどり,相互に参照
に応じた会費を払う必要がある。また,CrossRef のシ
されている論文間を行き来しながら論文の本文にまで
ステムに論文を登録し,CrossRef から DOI を検索する
アクセスできるような仕組みを求める利用者の声が高
際にもその都度使用料がかかる。なお,利用者が
まってきた。そもそも学術論文とは,以前に発表され
CrossRef のリンキング・サービスを利用する際は無料
た学術論文の成果をあるときは引用し,またあるとき
である。
はそれに批判を加えながら,新たな学問的地平を切り
3.リンキングの仕組み
開いて行くという研究活動の成果であり,ひとつの論
(1)DOI
文が独立して存在し得るものではない。それゆえ,こ
CrossRef は,いわば電子論文間の交換機の役割を果
うした引用論文間のリンキング機能を求める声が上が
たすサービスであるが,この機能を実現するためにデ
るのも至極当然のことであろう。
ジ タ ル ・ オ ブ ジ ェ ク ト 識 別 子 ( Digital Object
出版社も引用論文リンキングの重要性を早くから認
識しており,自社の電子ジャーナルに含まれる論文間
Identifier: DOI)を援用している。
DOI とは,電子版 ISBN のようなものであり,電子化
のリンク付けについては早期に実現していた。
しかし,
されたオブジェクト(著作物)に付与される識別コー
電子ジャーナルを刊行する出版社がその数を増すにつ
ドである。図書や雑誌の単位だけでなく,その中に含
れて,複数の出版社のジャーナルを横断するリンキン
まれる章,論文,表など,どんな単位にでも付与でき
グ・システムに対する要求が新たに生まれてくること
る。また,出版物に限らず,音楽・映像データにも適
となった。そしてこの期待に応えるために開発された
用できるとされている。
のが CrossRef である。本稿では,CrossRef をめぐる
DOI システムは,
「オブジェクト識別子(DOI)
」
,
「DOI
経緯と現状,その仕組み,今後の課題と展望について
から URL への変換を行うディレクトリ・サーバ」
,
「オ
概観する。
ブジェクトが保存されている出版社等のサーバ」の 3
2.経緯と現状
つの要素から構成されている。
まず,CrossRef の誕生から今日に至るまでの経緯を
年表風に追ってみよう。
1999 年 11 月 16 日に,欧米の主要出版社 12 社が引
用論文からフルテキストへのリンキング・システムを
開発することに同意。
同年 12 月 9 日,このシステムは CrossRef と名づけ
られる。
2000 年 6 月 5 日,10 出版社の 2,700 タイトルから
130 万件の論文メタデータを収集し,リンキング・サ
ービスを開始した。
2002 年 5 月,日本の科学技術振興事業団が提供する
DOI は管理機関が発行する出版社コードであるプレ
フィックスと,出版社がオブジェクトに付与する固有
の識別コードであるサフィックスとから成る。
例えば,
D-Lib Magazine の 2001 年 5 月号に掲載された,Amy
Brand の 論 文 "CrossRef Turns One" の DOI は ,
"10.1045/may2001-brand"である。ここで 10 は管理機
関コ ー ド で , 国 際 DOI 財 団 ( International DOI
Foundation: IDF)を示す。1045 は出版社コード。こ
こまでがプレフィックスで IDF が付与するコードであ
る。
「/」以下の部分がサフィックスで,D-Lib Magazine
が与えた固有の識別コードである。
ディレクトリ・サーバは,利用者の求めるオブジェ
する可能性がある。もちろん,図書館が所蔵する冊子
クトの DOI を受け取り,それをオブジェクトの所在場
体雑誌の論文もそのひとつである。ここから派生して
所である URL に変換して送り返す役割を果たす。DOI
くるのが,いわゆる「適切コピー」と呼ばれている問
は恒久的に不変の識別子として登録されており,URL
題であり,すなわち,ある特定の図書館の利用者を最
に変更があった場合には,出版社がこのサーバ上の
も適切なコピーに導くにはどうしたらよいか,という
URL をメンテナンスすることになる。
課題である。
利用者がオブジェクトそのものにたどり着く過程は,
以下のようになっている。
(ⅰ)DOI ボタンをクリックすると,ディレクトリ・
サーバに DOI が送出される。
(ⅱ)ディレクトリ・サーバは DOI を受け取り,そ
れを URL に変換してブラウザに送り返す。
(ⅲ)ブラウザは,URL を認識し,それに基づき出版
社等のサーバにアクセスする。
(ⅳ)出版社等のサーバからオブジェクトそのもの
「適切コピー」の問題を解決するためには,各図書
館が自らの利用者にとって最適なコピーへのリンクを
設定する,つまりリンクのローカライゼーションが必
要となる。CrossRef のリンキング・システムは DOI の
仕組みを利用しているが,DOI と URL との関係は基本
的に 1 対 1 であるために,図書館が自由にリンク先を
選択することは技術的に困難である。
この課題に対処するために,オープンリンキングの
標準規格として注目されている OpenURL
(CA1482 参照)
が送られてくる。
のフレームワークを援用することにより,利用者にと
(2)CrossRef によるリンキング
って最も有効なリンク先を図書館が設定できるような
まず,CrossRef に加盟した出版社は,DOI のプレフ
ィックスの割り当てを受ける。電子ジャーナルに含ま
仕組みを取り入れようという試みも行われている。
(2)リンクの恒久的有効性
れる論文毎に,プレフィックスを含むユニークな DOI
CrossRef のリンキング・システムの基盤となってい
を創出し,論文の書誌的なメタデータと論文の所在場
る DOI は恒久的な識別子であり,将来にわたって変更
所を示す URL に結びつける。出版社は,DOI,メタデー
されることはあり得ない。しかしながら,DOI に結び
タ,URL がセットになったレコードを CrossRef のメタ
つけられた URL とその背後に存在する論文コンテンツ
データ・データベース(MDDB)に送る。CrossRef 側は,
そのものの維持管理に責任を負っているのは,あくま
論文毎の DOI と URL を DOI のディレクトリに登録する。
で出版社であり,出版社側の都合により,コンテンツ
一方,引用文献へのリンク情報を設定しようとする
の所在場所が移動する可能性がありうるのである。出
出版社は,
引用文献の書誌情報を MDDB の検索処理プロ
版社が DOI と URL の対応付けの更新を怠れば,DOI の
グラムであるレファレンス・リゾルバーに送出する。
自動転送機構は直ちに機能不全に陥る。この問題への
レファレンス・リゾルバーは MDDB のデータベースを検
対応として,CrossRef は JSTOR や Astrophysics Data
索して該当文献の DOI を返す。こうして,出版社は電
System(ADS)といった電子ジャーナルのアーカイビン
子ジャーナル刊行プロセスの一環として,CrossRef シ
グ・サービスとのリンクを開始しているが,抜本的な
ステムに登録されている引用文献へのリンク情報を付
解決策は電子ジャーナルの長期保存という,より高次
加することが可能となるのである。
の文脈のなかで模索されるべきであろう。
以上のような仕組みによって,利用者がある出版社
(3)全文検索サービス
の論文を閲覧し,その引用論文をクリックすると,そ
CrossRef に参加する出版社が提出する論文書誌メ
の論文の出版元の如何にかかわらず,即座に当該論文
タデータ,URL,及び DOI が蓄積されたメタデータ・デ
をその場で閲覧することができる,というサービスが
ータベース(MDDB)は,学術論文情報の宝庫である。
実現することになる。
CrossRef は,この情報をもとにした全文検索サービス
4.課題と展望
を検討中である。MDDB に蓄積された論文の URL を起点
(1)適切コピー(Appropriate Copy)の問題
にして,全文を自動収集し,それを索引化することに
今日の電子的な情報環境下では,同一論文の全文情
より全文検索サービスを提供しようという構想のよう
報が複数の場所に存在するということが常識化してい
である。もし実現すれば,各参加出版社は,自身のウ
る。例えば,出版社のサーバ,アグリゲーター(電子
ェブサイトに検索ボックスを設置し,利用者はそこか
情報統合サービス提供業者)のサーバ,あるいは図書
ら他の参加出版社が提供する全ての論文の全文を検索
館のローカルサーバに,同一論文のコピーが複数存在
することが可能になるという。
こうしたサービスが現実のものとなれば,出版社は
自社の電子ジャーナルに付加価値を加え,全文へのア
クセス環境を向上させることができる。一方,利用者
時実象一 引用文献リンクプロジェクト CrossRef 情
報管理 43(7) 615-624, 2000
Brand, Amy. CrossRef Turns One. D-Lib Magazine 7(5),
にとっても,単一のインターフェイスから複数の出版
2001
社が提供する電子ジャーナルを論文単位で統合検索で
[http://www.dlib.org/dlib/may01/brand/05brand.
きる環境が実現することになり,きわめて価値の高い
html] (last access 2002.10.14)
サービスとなる可能性を秘めている。CrossRef は,既
Walker, Jenny. CrossRef and SFX: complementary
に出版社,図書館員,研究者,ベンダーを対象として
linking services for libraries. New Library World
市場調査を行っており,肯定的な反応を得ているとの
103(1174) 83-89, 2002
ことである。
Hane, Paula. CrossRef Considering Full-Text Search
しかしながら,
このような全文検索が誕生した場合,
既存の索引・抄録データベースの存在価値は著しく低
下するおそれがある。CrossRef には,いくつかの大手
の索引・抄録データベース供給業者も参加しており,
このサービスが実現するかどうかは,こうした業者と
の利害関係をいかに調整できるかにかかっているので
はないだろうか。
5.おわりに
CrossRef は,学術雑誌の引用文献のリンキングにと
どまらず,今後さまざまな電子コンテンツ間のナビゲ
ーションシステムの核となる可能性を秘めており,電
子的情報資源へのアクセス環境の向上を標榜する図書
館も,
その動向については等閑視することができない。
ところが,現在 CrossRef を運営する PILA には提携
機関として,マサチューセッツ工科大学図書館や米ロ
スアラモス国立研究所図書館を含む約 50 の図書館が
含まれているものの,理事の顔ぶれを眺めてみると,
全て営利出版社あるいは学会系出版社の代表者で占め
られており,図書館関係者は 1 人も含まれていない。
CrossRef は,今後の学術情報流通システムにとって
要となるサービスのひとつである。
こうしたサービス,
あるいはそこに蓄積された貴重なデータを一部の出版
社の占有物にさせないためにも,CrossRef の動向につ
いては,常に図書館員による注視が必要であり,また
その将来の方向性についても図書館サイドからの積極
的な提言が求められているのである。
お じろこういち
(千葉大学附属図書館:尾城孝一)
Ref: CrossRef. [http://www.crossref.org/] (last
access 2002.10.14)
DOI.
[http://www.doi.org/]
(last
access
2002.10.14)
鎌倉治子 DOI(デジタル・オブジェクト識別子)国立
国会図書館月報 455 32-35, 1999
Service. Infotoday NewsBreaks & Conference
Reports 2002.5.28
[http://www.infotoday.com/newsbreaks/nb0205282.htm] (last access 2002.10.4)
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