...

「鉄道GIS」を構築 Case Study

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

「鉄道GIS」を構築 Case Study
Case Study
【導入事例】580
ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社
【 導入事例 】
580 ● ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社
Vol.124
総延長7,500キロの線路平面図を
最新鋭CADで電子データ化
立体画像の
「鉄道GIS」
を構築
導入の狙い
線路平面図の電子データ化を
出発点とする
「鉄道GIS」の構築
導入システム
『AutoCAD
Map 3D』
『Autodesk
MapGuide』
『ArcView』
導入効果
図面管理と保守・資産台帳データ
ベースとの融合による一元管理
グループ全体の生産性の向上
Google Earthの仕組みに線路平面図・沿線設備の情報などを重ね合わせた画像配信システム
「グーグルアース&レールウェイ」
鉄道の土木、保守や沿線の施設・設備等の資産管理に欠かせない線路平面図。東日本
旅客鉄道株式会社では長年紙図面を使用していたが、総延長7,500キロメートルを
カバーする線路平面図は約4,800枚にも及び、保管の手間はもちろん、支社や外部
USER PROFILE
ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社
●業種:鉄道関連の総合コンサルタント業
●事業内容:鉄道関連の土木・建築・設備・
電気・運輸計画などのコンサルティング
委託先がそれぞれに図面を更新するため、更新情報が共有されにくいという問題もあ
った。そこでJR東日本の100%子会社であるジェイアール東日本コンサルタンツ株
式会社は、すべての線路平面図の電子データ化を実現。さらに高精度衛星写真や3次
元地形モデルなどと組み合わせた立体画像の
「鉄道GIS」
を構築した。
●従業員数:575名
(2009年4月1日
現在)
CADとGISをシームレスに連携させ「鉄道GIS」
を構
築したジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社
2009年6月取材
“鉄道総合技術”
の
スペシャリストとして発展
門の一部を分離させる流れの中で、
JR東日本の建設工事部門から独立し
て発足した。
ジェイアール東日本コンサルタンツ
当初は鉄道の土木工事の設計を主
株式会社(以下、J R C)は、東日本旅
な業務としていたが、その後、建築や
客鉄道株式会社(以下、JR東日本)の
設備・電気など、幅広い分野のコンサ
100%子会社として1989年に設立
ルティングを手掛けるようになる。事
された鉄道関連の総合コンサルタン
業領域の拡大とともに業績も右肩上
ト会社である。1987年の旧国鉄の
がりで伸び、社員数も約500人にま
分割民営化に伴い、JR各社が事業部
で増加した。
23
Case Study 【導入事例】580
ICT事業本部 部長
小林 三昭氏
「最初は、大塚商会さんはOAの会社という
イメージがあったのですが、お付き合いを重
ねる中で、建設分野をはじめとする技術系
のソリューションにも優れていることを知りま
した。今後も小回りのきくサポートをお願い
したいですね」
24
同社の強みは、運転設備やダイヤ
ルに、視覚的にイメージしやすいよう
編成など運輸計画のコンサルティング
に作り上げている。通常の保線や土木
を手掛けている点だ。鉄道関連のコン
建設、構造物資産管理に便利なだけ
サルタント会社は多く存在するが、運
でなく、万一の災害時には、乗客を安
輸計画まで支援できるノウハウを持っ
全に避難させたり、迅速に復旧工事を
た会社はJ R C以外にないという。土
行ったりするのに役立つ情報である。
木・建築・設備・電気から運輸計画まで、
その「鉄道GIS」構築を支えたのが、
同社がキャッチフレーズとして掲げる
大塚商会が提供した
『AutoCAD MAP
「
“鉄道総合技術”
のスペシャリスト」
3D』
や『Autodesk MapGuide』
をは
ならではの守備範囲の広さだ。
じめとするITツールだった。
また、JRCは、鉄道関連業務のIT支
援をいち早く行ってきた。親会社であ
るJ R東日本はもちろん、私鉄や第3
セクターなど、さまざまな鉄道会社の
日本初の
「鉄道GIS」
開発に
『AutoCAD MAP』
を採用
土木設計や線路の保守、施設・設備等
「鉄道G I S」構築は、親会社である
の資産管理を合理化するためのI Tソ
J R東日本の膨大な紙の線路平面図・
リューションを提案してきた。2009
停車場平面図を電子化する作業から
年4月には、同業務を担当するIT事業
スタートした。
本部をICT事業本部に再編。ICTソリ
従 来 の 保 線 や 土 木 工 事にお い て
ューションを活用して日本の鉄道運営
は紙の線路平面図が活用されていた
を支援する体制を確立した。
が、JR東日本の場合、線路の総延長
同社が手掛けた代表的なI C Tソリ
7,500キロメートル、駅数にして約
ューションが、日本初の「鉄道GIS」で
1,700駅を網羅する線路平面図の枚
ある。
数は約4,800枚にも及んだ。1枚で
国土地理院によれば、GIS(地理情
も5〜10メートルある紙の平面図は
報システム)
とは、
「地理的位置を手掛
保管スペースの確保や管理が容易で
かりに、位置に関する情報を持ったデ
はなく、必要な線路平面図を見つけ出
ータ
(空間データ)
を総合的に管理・加
すのにもひと苦労だった。
工し、視覚的に表示し、高度な分析や
紙の線路平面図のもうひとつの大き
迅速な判断を可能にする技術」とされ
な問題は、更新情報が集約されず一元
ている。
化しにくい点だった。旧国鉄の分割民
JRCが開発した「鉄道G I S」は、位
営化の流れの中で、JR東日本の土木
置情報を入力するだけで、その場所
建設業務や保線業務などは次々と分離
の線路状況や、架線、信号、その他の
され、アウトソーシング化していた。
「土
施設や設備の配置状況など複合的な
木建設会社や保線会社などが、それぞ
情報が確認できる。さらには、線路周
れの作業後に図面を更新しても、その
辺の地形図や道路・建築物の状況が
情報が共有されず、どれが最新の情報
確認できる地図情報、3次元デジタル
なのかがわからない状況でした」
と語る
化した高解像度衛星写真などを重ね
のは、
「鉄道GIS」構築に携わったICT事
合わせ、現場の状況をできるだけリア
業本部 部長の小林 三昭氏だ。
【 導入事例 】
580 ● ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社
Vol.124
これらの課題を一気に解決するた
め、4,800枚もの紙の線路平面図を、
1枚の電子地図に集約するプロジェク
トがスタートしたのが2 0 0 3 年 のこ
と。JR東日本の12支社や土木建設、
保線の外部委託先から線路平面図を
JRCに集め、図面のスキャニングを行
い、同じ場所の複数の図面に書かれた
情報を電子データとして入力・集約す
るなど、1年がかりで電子地図を完成
よって航空写真と合わせてGISデータ
させた。
のまま、社内Webに配信したのです」
線路平面図のCADデータ作成・編
と小林氏はC A Dソフトの利用につい
集には、
『AutoCAD MAP 3D』の
て語る。
前身である
『AutoCAD MAP』を活
用した。このシステムを採用した背景
JR東日本が、土木関係図面用の標準
Google Earthの
3次元地形図をいち早く応用
CADとしてAutodesk社製を指定し
完成した「鉄道GIS」は、すぐさま役
ていたこと」を挙げている。
立つことになった。
JR東日本では、2000年に土木関
完成後間もない2004年10月に起
係の図面を全面CAD化していた。そ
きた新潟県中越地震で、上越新幹線が
の際、C A Dの世界標準として普及し
史上初の脱線事故を起こした際に、
「鉄
ているAutodesk社製のシステムに
道GIS」が威力を発揮したのだ。
統一すれば、親会社のJR東日本はも
従来まで線路平面図は現地の支社
ちろん、JRCや土木建設、保線などの
が管理しているため、災害の際に他の
につ いて小 林 氏は、
「 親 会 社で ある
外部委託先も、余分な追加投資をせ
地域から入る支援部隊が平面図を入
ずに、一元的なフォーマットに沿って
手するには困難を要した。しかし、線
データ共有が可能となると判断。これ
路平面図や周辺の地形図などを合成
がAutodesk社製を標準CADに指定
した電子地図を東京であらかじめ用
した理由だった。
意したおかげで、現地が混乱する中で
『AutoCAD MAP』はスキャンデ
も、支援部隊による迅速な救助・復旧
ータのCAD化や、そのCAD図面に座
作業が実現できたのである。地震から
標系を割り当ててG I Sデータへ変換
2カ月後には上越新幹線の運転が再
する機能を兼ね備えているところが、
開。これは、記録的な早期復旧であっ
採用の大きな決め手だった。
たという。
「当社の『 鉄道G I S 』は、国土地理
突 然 の 災 害 が 、図ら ず も「 鉄 道
院が測量した日本の座標系と世界の
GIS」の有効性を業界内外に強く印象
座標系に基づいて設計されています。
づける結果となった。さらにこの経験
『AutoCAD MAP』で作成した電子
から災害対策にはより広域な情報の
地図を『Autodesk MapGuide』
に
ニーズがあると認識。より便利な「鉄
以前は紙で管理していた線路平面図・停車場平面図。保
管スペース確保や情報の共有・更新など問題が多かった
25
Case Study 【導入事例】580
道GIS」を目指して、JRCの開発が加
は、今のところGoogle Earthによる
速した。2007年度には、九州旅客鉄
3次元の地形図に、2次元の線路平面
道株式会社(JR九州)が管轄する全線
図を重ね合わせているため、線路の
2,100キロメートルの「鉄道GIS」化
高低差(トンネルや橋梁部分)などを
を終了。2008年度には四国旅客鉄
正確に表現することはできていない。
道株式会社(JR四国)が管轄する全線
「『AutoCAD MAP 3D』は高さデ
800キロメートルの線路平面図の電
ータも設定できるので、将来的に線路
子化に着手した。
平面図も3次元化して、より実際の状
さらに2007年には、線路平面図な
況に近い3次元地図を作り上げること
どの2次元地図情報と3次元デジタル
は可能です。しかし実際の業務上では
化された高解像度衛星写真とを組み
こちらの方が使いやすい面もあるの
合わせた「グーグルアース&レールウ
です」と小林氏は語る。現場で利用す
ェイ
(Google Earth & Railway)」
る人々の利便性を考慮しながら、今後
を完成。Google Earthの日本版が
も改良を重ねていくという。
発表される以前から、同社がその機能
鉄道の保線や土木建設、災害時の
に注目して作り上げた傑作だ。
復旧といった用途を想定して開発され
通常のGoogle Earthよりもさらに
た「グーグルアース&レールウェイ」だ
高解像度な衛星写真・3次元地形デー
が、3次元で地形や建物が表示される
タを搭載することで、線路周辺の地形
点に着目して、観光用パンフレットの
や建物がリアルに描き出されるため、
ジオラマ画像に活用されるなど、予想
災害時の復旧作業や線路を中心とす
外の用途も広がっている。
る都市計画など、さまざまな用途に利
「電力会社によるダム建設や、河川
用できる。しかも、設計や建築、土木
管理などの公共事業に至るまで、鉄
などの専門知識がない人でも直感的
道の枠を超えて活用を求める声が広
に操作でき、現場の実際の状況がイメ
がっています」と小林氏は驚きを隠さ
ージしやすいのが大きな特長である。
ない。
「鉄道G I S」から発展したJ R C
「グーグルアース&レールウェイ」による表示例。設
備の保守管理以外にも都市計画やマーケティング
に活用できる
のICTソリューションは、鉄道のみなら
ず、日本のあらゆるインフラを支える
鉄道のみならず
日本のインフラを支える力に
プラットフォームとなりそうだ。
「グーグルアース&レールウェイ」の
提供する大塚商会への期待も大きい。
構築においても、
『AutoCAD MAP
小林氏は、
「大塚商会さんは、建設分
3D』の存在は不可欠であった。
野の技術支援に強いという印象を持っ
「
『AutoCAD MAP 3D』
で作成した
ています。今後も有益なご提案を期待
CADデータは、
『Google Earth』
をは
したいですね」
と要望を語った。
JRCの事業発展に不可欠な手段を
じめとするさまざまなGISのフォーマッ
トに変換できます。これも
『AutoCAD
MAP 3D』
を選んだ大きな決め手でし
た」
と小林氏。
「グーグルアース&レールウェイ」で
26
ジェイアール東日本コンサルタンツ株式会社のホームページ
http://www.jrc.jregroup.ne.jp/
Fly UP