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CFA 協会ブログ
No.63
2012 年 6 月 20 日
ソーシャル・インパクト・ボンド:再犯率を内部収益率に転換
Social Impact Bonds:Turning the Recidivism Rate into an Internal Rate of Return
ウスマン・ハヤット、CFA
受刑者の再犯率引き下げに投資することでリターン
そのような債券がどう機能しているかの例として、エ
を上げることは可能でしょうか。
クレス氏は、世界初のソーシャル・インパクト・ボン
投資という経済活動と受刑者が犯罪を繰り返すとい
う社会問題との間に関連性があるか否かは必ずしも
明らかではありませんが、先の問いに対する答えは
「可能」です。実際に、いわゆるソーシャル・インパ
クト・ボンドという債券によって実現しており、これ
はインパクト・インベスティングとして知られる非常
にニッチな分野で進んでいる革新的な仕組みです。投
資専門家がこうした金融商品を学習できるよう、CFA
協会では 2012 年 5 月に行われたトビー・エクレス
(Toby Eccles)氏とのビデオ・インタビューを録画しま
した。エクレス氏はロンドンを拠点とする非営利団体、
ドと言われるピーターボロ・ソーシャル・インパク
ト・ボンド(Peterborough social impact bond)を上げ
ています。この債券は 2010 年に英国ピーターボロ刑
務所における受刑者の再犯率の問題に取り組むため
に発行されました。英国では再犯率が 70%を超える
刑務所があると言われています。犯罪と処罰のイタチ
ごっこのような悪循環の中でコストも嵩み多くの人
生が台無しになっている一方、そのコストの埋め合わ
せのために納税者の金が費消されるという、受刑者や
政府、社会を巻き込んだ、ひとつの失敗事例となって
いるのです。
ソーシャル・ファイナンスの創設者兼開発担当ディレ
ソーシャル・インパクト・ボンドを通じて、投資家が
クターであり、英国においてソーシャル・インパク
特別目的事業体に拠出した資金は、軽い刑に服してい
ト・ボンドの開発を構想段階から導入に至るまで主導
る受刑者に対するカウンセリングなど一連の活動に
しています。
充当されます。受刑者向けの活動による再犯率低下の
このインタビューで、エクレス氏は、「ソーシャル・
インパクト・ボンドとは本質的に、受刑者の再犯率低
下など社会問題の改善成果に対して政府が支払いを
約束する、政府と特別目的事業体との間の契約である」
と説明しています。ソーシャル・インパクト・ボンド
は、投資家に投資を通じて社会問題に向き合う機会を
与えてくれます。投資家は、他人のために寄付するこ
程度に応じて、投資家は政府から支払いを受け、これ
で最終的には投資元本を回収し収益を得るのです。つ
まり、これがピーターボロ・ソーシャル・インパクト・
ボンドが受刑者の再犯率低下を投資家に対する内部
収益率 internal rate of return (IRR)に転換する仕組みな
のです。エクレス氏の説明によれば、ピーターボロ・
ソーシャル・インパクト・ボンドを通じて、投資家は
とと自己のためだけに金銭的利益を求めること、すな
500 万ポンドの資金を投じ、受刑者への教育活動が成
わち経済的リターンと社会的リターンを上手く両立
功すれば、8 年間で最大 13%の IRR を見込んでいる
させることができます。
日本 CFA 協会
とのことです。受刑者と連携し、そして成果を評価す
1
るためには時間が必要であるため、この債券は現在も
ソーシャル・インパクト・ボンド、より一般的に言え
まだ進行中です。
ばインパクト・インベスティングには、総じて課題が
実施した活動によってどのくらい再犯率が低下した
かを測定することが、ピーターボロ・ソーシャル・イ
ンパクト・ボンドにおいて重大な要素となります。再
犯率の測定は、こうした活動の恩恵を受けている受刑
者(実験群)と恩恵を受けていない同じような犯罪歴
の受刑者(対照群)に対して行います。そして、実験
群の再犯率が対照群よりも 10%以上低下した場合に
のみ、政府は投資家に支払います。
多いことも明らかです。しかしながら金融サービスの
専門家たちの多くが多発している不手際に対して酷
評されている現状、ソーシャル・インパクト・ボンド
の潜在的な社会的効用は新鮮な息吹さえ感じます。こ
うした金融商品は、ファイナンスが社会問題を単に生
み出すだけではなく、解決の一助となれること、また
インベストメント・バンカーやエクレス氏が言うとこ
ろの「改心したインベストメント・バンカー」がこう
した解決策の一端を担うことができることを示して
この仕組みに関わる当事者すべてにインセンティブ
いるのです。
があります。投資家は、経済的利益を得ながら社会問
題の解決に取組むという投資機会があります。一方、
活動を担っている業者は活動に必要な資金を調達で
執筆者
きます。また、政府は後々非効率だとされる可能性の
ウスマン・ハヤット(Usman Hayat, CFA)
ある活動に支払いを行うことが無駄遣いとなるリス
CFA 協会のイスラム金融と ESG のディレクターとし
クを避けることができます。政府にはまた、有罪判決
て、イスラム金融と社会的責任投資を担当。
に持ち込んで収監するために費やす資金を節約でき
(翻訳者:中山 桂、CFA)
る機会も見込まれます。
こうした活動により再犯率を引き下げることに成功
英文オリジナル記事はこちら:
すれば、受刑者や社会全体を含めてすべての人がその
http://blogs.cfainstitute.org/investor/2012/06/20/soci
恩恵を受けます。もし再犯率が下がらなければ、すべ
al-impact-bonds-turning-reoffending-rate-into-intern
ての人にとって損になりますが、最も直接的に経済的
al-rate-of-return/
損失を被るのは投資家です。
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事
投下元本が危険にさらされるため、ソーシャル・イン
を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版およ
パクト・ボンドは従来の意味では債券ではないことに
び英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版
注意が必要です。投資家にとってはむしろ株式投資、
の内容が優先します。
より具体的に言えば投資期間が長期間で流動性のな
いプライベート・エクイティ投資に近いといえます。
おそらく「ソーシャル・インパクト・パートナーシッ
プ」という名前の方がこうした仕組みにふさわしいで
しょう。
今回エクレス氏が示したのは犯罪司法に関する事例
ですが、ソーシャル・インパクト・ボンドは教育や住
宅などそれ以外の問題にも対応することができます。
日本 CFA 協会
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