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100 - 島津製作所
④ 高速度ビデオカメラが とらえた未知の現象 飛び散っていく破片の 周囲に風船のように広 がっているのが衝撃波。 破片よりも早く広がる ことがわかる。 (影写真 法により撮影) 爆発などによって生じる衝撃波。 音速を超える速度で伝わる圧力波を、島津の 高速度ビデオカメラがとらえた。 このビデオカメラは、日本の科学技術の発展 に大きく貢献すると期待されている。 弾がアルミ板を 貫通する瞬間 ﹁ガガーンッ!﹂ 轟音のあと、巨大なステンレスのカプセ ルを開けると、そこには、高速飛行体が 貫通した穴が開いたアルミ板があった。 ここは、東北大学の流体融合研究セン ター、学際衝撃波研究実験棟、﹁衝撃波﹂と ﹁高速衝突現象﹂ 研究の世界有数の拠点だ。 轟音を上げた装置は二段式軽ガス銃と 言 い、 世 界 で 有 数 の 性 能 を 示 す 装 置 で、 火薬の爆発でピストンを駆動して水素や ヘリ ウ ム な ど 軽 ガ ス を 高 温 高 圧 に 圧 縮 し、そのエネルギーを変換して飛行体を 超高速にまで加速する装置である。この ガス銃は、全長約 m 近い大型装置であ る。 ・ 2 5キ ロ メ ー 10 3 する速度だ。 これは北海道から沖縄まで約 分で縦断 トル、空気の音速の約 倍に達した。 飛行体の速度は、秒速 この装置から射出された、ポリカーボ ネートの円筒に封入したアルミニウムの 20 15 切り取った衝撃波 100万分の1秒で 衝撃波 5 13 「みる」真実を見つめる島津の技術 垂直に置いた 枚のアルミ板に衝突し た飛行体は、すさまじい衝撃で 枚目の 枚目の ミリ厚のアルミ 2枚目 使用済みの人工衛星やその切り離しでで このような高速度現象は、宇宙空間で は日常的に起こる。地球周りの空間には、 音速の 倍 の 倍速の 速度で 音 速 の 10 度で移動する物体を撮 移 動する物体を撮影 影 わりの1枚しか撮影できなかったのだ。 度が最高だった。つまり、 始めの1枚と終 それも従来のものでは、秒間1万コマ程 音速現象はぶれてしまう。高速度ビデオ から 実験棟も打ち上げられる予定だ。その安 スステーション建設が進められ、日本の 壁を貫通してしまう。現在、国際スペー 宇宙構造物に正面衝突したら、容易に外 場合でいえば、ジェット戦闘機よりも高 つ撮影できる性能を持つ。冒頭の実験の がら、最高で100万分の1秒に1枚ず 用のビデオと大差のないサイズでありな たものである。カメラ本体だけなら家庭 映像を、約 これを支援する高速衝突実験は不可欠 で、同時に計測法の開発も急務だ。通常 ている。 全性を確保するために、外壁の構造、材 速度ビデオカメラ HPV 1 - で撮影した 万分の1秒間隔で抜き出し カ メ ラ と い う 専 用 の カ メ ラ が 必 要 だ が、 と長過ぎて瞬間を記録できないため、超 30 質や厚さなど緻密な計算と実証が行われ ロメートルで周回している。この破片が リとよばれる残渣が速度毎秒 きた微小破片、隕石など、スペースデブ コマ 飛行体が激突したアルミニウム板をとりだしたところ。1枚目には 見事な穴が空き、2枚目には激しい衝突でできた変形、変色が生々し く残る。 ここに掲載した連続写真は、島津の高 のビデオカメラのコマ間隔は秒間 1枚目 キ く語る。 献が期待できます﹂と高山和喜教授は熱 る。 日 本 の 科 学 技 術 の 進 歩 に 大 き な 貢 識なしに、高速度現象を容易に撮影でき 非常に大きい。しかも高速撮影の専門知 ﹁ こ の 一 瞬 を 動 画 像 で 記 録 し た 意 義 は、 分解して記録した。 1万分の1秒。カメラはその瞬間を時間 最初の1コマから最後の100コマ目 の画像が撮影されるまでの経過時間は約 板をへこませ砕け散った。 板を貫通し、 1 7 ③ 5 2 2 10 14 現象を記録する装置である。 追いかけることができる。まさに刹那の 速で移動する弾を、実に約3ミリ刻みで 10 ② 画面左端の飛行体が音速の10倍で飛んでいる。 1枚目のアルミ板に当たる寸前。 高速度ビデオカメラHPV-1 アルミ板 (2枚目) ポリカーボネートの円筒 に封入したアルミニウム の飛行体。 貫通から10万分の1秒後の様子。激しい衝撃が広 がっていく様子がわかる。 飛行体がアルミ板を貫通する瞬間。小さな爆発が 確認できる。 ① 13 6 全長約20mのガス銃と呼ばれる大型装置の左端から射出する。 飛行体は秒速3.25kmでガス銃の管の中を飛行する。 ニ段式軽ガス銃の観察窓 タンク状の装置のなかに は厚さ2mmのアルミニ ウムの板が立ててある。 アルミ板(1枚目) 高速度ビデオカメラ撮影で撮影した高速飛行体の連続写真(影写真法で撮影)資料提供:高山和喜教授 時・空計算尺「Gulliver」 :島津理化器械(株)http://www.shimadzu-rika.co.jp/ 宇宙の広さや宇宙の起源からの時間の長さを身近なものの大きさや時間に置き換えて考えることのできる計 算尺「Gulliver」 。太陽系が生まれてから1年としたら、人類の祖先が生まれてからまだ数時間しかたっていな いといった具合に置き換えられる。同じ換算でいくと、実時間で1時間前後が、高山教授らが研究している 100万分の1秒の世界にあたる。 (和田昭允博士考案) 身近にある衝撃波現象 ー光を照射して、気泡 を作り、その気泡運動 以上の血管を切ること メスの開発が進めら れ、臨床治療応用を目 超新星爆発でも衝撃波が発生する。また、 の高速度ビデオカメラは、連続100コ の画像計測は不可能でした。島津製作所 治療法が開発されている。 させて、短い治療時間で血行を再建する さらに血管の内部で 水ジェットを発生しそれを脳血栓に作用 石を破砕除去する方法や、痛み治療が日 通させ、微小破片を吸引するので、溶解 年度 年度︶の助成を得て行われ、現 的研究拠点形成プログラム︵平成 ∼平成 在、その成果の実用化を進め、早く社会 に還元しようとしている。 7 13 身近にある衝撃波現象 を援用して微小な間欠 水 ジ ェ ッ ト を 発 生 し、 教授の研究対象は衝撃波で、これは爆 発など瞬間的にエネルギーが解放された なく、生体軟組織を切 これを用いて、 ・2㎜ とき現れる、﹁音速を超えて伝わる波﹂で、 開できる極めて微細な 高山教授は、この装置が市場に現れる のを待ち望んでいた。 瞬間的な圧力上昇を伴う。 ま た、 高 速 物 体 が 衝 突 す る と き に も、 衝撃波が現れる。人為的な原因ばかりで ﹁ 衝 撃 類 似 現 象 ﹂ が 知 ら れ て い る。 人 や マの記録に成功し、初めてこの要求を満 指している。 車の流れ、噂の伝播やパニックの発生と はない、自然界にも衝撃波現象が現れる。 広がりは、これを記述する数学的なモデ うことも少なくない。 各臓器から出血するといった副作用を伴 剤 を 大 量 に 投 与 す る こ と に な り、 術 後、 硬かったり、溶けにくかった場合、溶解 を溶かす治療が行われているが、血栓が たしてくれました。衝撃波の実験研究で、 脳血栓などが原因で脳梗塞を発症した 場合、現在、血栓融解剤を投与して血栓 これは画期的な性能です﹂ ︵高山教授︶ 衝撃波が 衝撃波が医療に革新をもたらす 医療に革新をもたらす 衝撃波の研究は意外なところにも活か されている。医療分野では、水中で体外 ﹁これまで私たちは、瞬間光源を使った 常の治療法となり、ガン治療へ応用が試 剤の使用はほぼ不要になる。 高 山 教 授 ら が 行 な っ て い る 実 験 で は、 から衝撃波を生体中に収束させて腎臓結 衝撃波を援用する水ジェットで血栓を貫 静止画像写真で衝撃波現象を記録し、ス みられている。 たとえば、東北大学医学部脳神経外科 教室との連携で、細管内でパルスレーザ 行中だ。 さらに進んだ衝撃波の医療応用研究が進 ションで衝撃波のダイナミックスを解明 これらの研究は、国際的に高い水準の 現 在、 東 北 大 学 の プ ロ ジ ェ ク ト 研 究、 先進医工学研究機構 ︵TUBERO︶ では、 研究組織の育成を促す文部科学省の中核 ーパーコンピュータを使ったシミュレー ﹁音速を超える波﹂を捉えること だが、 は容易でなかった。 野での世界の第一人者である。 の基礎と学際応用研究を推進し、この分 学のハイライトで、高山教授は、衝撃波 の性質を示す。衝撃波現象の解明は動力 ルは確立されていないが、衝撃波と類似 爆発的な火山噴火や雷鳴、宇宙空間では 0 12 しました。さらに二重露光ホログラフィ ー干渉法などを開発し、衝撃波を伴う高 速現象を高い空間分解能で精密計測がで きるようにもなりました。しかし100 万分の1秒以下の高い時間分解能で動画 16 「みる」真実を見つめる島津の技術 東北大学 名誉教授 高山 和喜 工学博士 1940年、北海道生まれ。東北大学高速力学研究所 (現 流体科学研究所)の助教授などを経て、1986 年東北大学高速力学研究所教授、1988年同研究所 衝撃波工学研究センター(現 流体融合研究セン ター)長。2000年、文部省中核的拠点形成プログ ラム、衝撃波学際研究拠点代表を務める。2003年、 定年により退官。現在、東北大学先進医工学研究 機構教授。衝撃波研究の長年にわたる成果が評価 され、2000年権威あるドイツの「エルンスト・マ ッハメダル」を授与された世界の第一人者。2003 年国際衝撃波ジャーナル編集長、2005年国際衝撃 波研究会会長 ために 科学技術立国として 科学技術立国として今後も発展していく 今 後も発展していくために ﹁特に、医療応用では、微小視野での遅 い現象でも、高倍率で撮影するときには、 実際の記録速度は毎秒100万コマの高 速度ビデオカメラが必要です。島津の高 速度ビデオカメラは過剰露光や露光不足 などの非常に悪い照明での撮影にも耐え る特徴を備え、撮影後にコンピュータで 画像コントラストの再構 築 が で き ま す。 こ の よ う に衝撃波医療の基礎研究 の 分 野 で も、 こ の 高 速 度 ビデオカメラのはたす役 割は非常に大きくなりま す。 ﹂ ︵高山教授︶ 現 在、 ナ ノ テ ク 分 野 の 可 視 化 で は、 高 倍 率 で の 静 止 画 撮 影 が 中 心 だ。 し か し、 時 代 の 要 請 は、 ナ 現象であった高速に伴う ﹁これまで想像の世界の すます速くなります。 きる高速撮影の速度はま 高い時間分解能で計測で 視 野 の 現 象 を 高 倍 率 で、 し て い る。 こ の と き 微 小 する方向に移行しようと ながります。島津の高速度ビデオカメラ への道が開かれ、画期的な製品開発につ る高度な性能を持った機器、装置の設計 ょう。その結果、独創性を強く主張でき 学技術全般を活性化することになるでし の基本を支えるばかりでなく、日本の科 また、研究着想を展開させ、設計の学門 に飛躍的な発展をもたらします。それは 材料力学に代表される動力学の実験研究 す﹂ ︵高山教授︶ ことを、一研究者として切に願っていま 目を向け、日本の技術を世界に発信する 界の島津として、この分野の製品開発に 測されます。島津製作所がこれからも世 品が続き、性能競争が激化することも予 すことになります。一方、すぐに類似製 欠くことのできない計測装置の役を果た 先 進 科 学 技 術 立 国 と し て 発 展 す る 上 で、 しての価値だけではありません。日本が ノテク現象の動きを計測 未知現象の解明が進めば、 は、単に日本が初めて実用化した装置と 島津の高速度ビデオカメラHPV-1は、最高で毎秒100万 コマの超高速で動画を撮影できるビデオカメラだ。近畿 大学の江藤剛治教授が開発した独自のCCDを用い、電気 制御で100コマを連続してCCDに記憶させ、撮影終了後 一気に処理することで、従来の問題点であった「処理に よるタイムラグ」を一掃。これまでほぼ未知の世界であ った、100万分の1秒の世界をビデオ映像として記録す ることに成功した。 高速度現象を捉えたいという要望は、学術機関ではも ちろん、さまざまな製造業にもある。エンジンなど内燃機関の燃料噴射や、プリン ターのインクジェット噴霧の瞬間。ゴルフクラブがインパクトの瞬間にどう変形す るのかなど、100万分の1秒でしかわからない現象は数多い。 「もっと速く、もっときれ いにというご要望もいた だいています。今後さら に優れた性能を実現する ために、開発を進めたい と考えています」 (分析計測事業部 新規事業開発グル ープ 近藤泰志課長) そ の 成 果 は、 流 体 力 学 や 13 8 100万分の1秒を動画でとらえる 高速度ビデオカメラHPV-1 http://www.shimadzu.co.jp/products/test/products/video/