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ウクライナ政変以後の世界—プーチン大統領の思惑とロシア

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ウクライナ政変以後の世界—プーチン大統領の思惑とロシア
ユーラシア研究所・緊急シンポジウム(2014年4月21日、立正大学)
「ウクライナ危機はなぜ? 世界は変わるのか?」
ウクライナ政変以後の世界
プーチン大統領の思惑とロシアの行方
石郷岡 建
ロシアのプーチン大統領は、
本当に暴君で、危険で、世界
秩序の破壊神なのか? ―――
欧米社会の理解とマスコミ報道への疑問
では、ウクライナで何が起きたのか?
――五つの異なる問題
①ウクライナの政変騒ぎ
⇒ウクライナ国内の東西対立問題
②クリミア半島のロシアへの編入
⇒民族自決か?領土保全か?
③ロシアと欧米の対立
⇒新たな冷戦か? ロシアの孤立か?
④世界秩序の行方(G8の時代は終わったか?)
⇒文明の対立か? 歴史の終わりか?
⑤日本の立ち位置(中露接近を積極的に阻止をすべきか?)
⇒米国依存か? 独自外交か?
ドニエプル川を中心とするクライナ地形図
西=カルパチア山脈、東=ロシア森林地帯、
北=森林と沼沢地、南=ステップと黒海、
ソ連崩壊後のウクライナの行政図
―24州2都市(キエフ・セヴァスーポリ)
リヴィーフ
テルノーポリ
キエフ
ハリキフ
ルハンスク
イヴァノ・
フランキフスク
カルパチア
ドネツク
オデッサ
クリミア
セヴァストーポリ
ウクライナ危機をめぐる疑問?①
①ヤヌコーヴィッチ政権は欧州統合に反対だったか?
⇒ウクライナの歴代大統領はすべて欧州統合を叫び、同大統領も例外ではなかった。
②なぜ、ヤヌコーヴィッチ大統領は、欧州連合との連合協定調印を延期したのか?
⇒国内の設備・製品をEU基準にあわせるのには膨大な資金が必要だが、EUの支援は数億ユーロしか示されなかった。
(現在のウクライナ債務は1460億㌦、短期債務は650億㌦、外貨準備は200億㌦)
③なぜ、プーチン大統領は150億㌦もの金を出したのか?
⇒ロシアにとって、隣国ウクライナの経済危機は深刻な影響をもたらし、座視はできなかった。
ウクライナはガス代の未支払いが増加させていた。さらに、ウクライナに渡した金は、ロシアに戻ってくる金でもあった。
④ロシアはユーラシア同盟の創設を目指し、欧州を目指すウクライナに圧力をかけたのか?
⇒プーチン大統領はオブザーバー資格の加盟を説明し、ロシア、欧州同盟、ウクライナの3者の協議を提案していた。
ヤヌコーヴィッチ大統領は、欧州とロシアと両方の統合へ参加したいと発言していた。
⑤ロシアと欧州は、ウクライナの統合を巡って駆け引きを繰り広げたのではないか?
⇒ロシアと欧州とは、統合について、異なった考え方を持っていた。
欧州は理念に基づく統合で、価値観の一致を求め、参加資格に厳しい基準を設けた。
一方、価値観の多様なユーアシア地域では、厳しい参加資格を設けず、ゆるやかな統合を目指した。
結果的に、ユーラシアでは、様々な統合組織が台頭し、各国は複数の組織に同時加盟することを当然とした。
しかし、欧州同盟は、ロシアか欧州か、どちらか一つを強制し、結果的に、ウクライナの東西分裂を招いた。
ウクライナ危機をめぐる疑問?②
⑥プーチン大統領は、ウクライナの加盟を前提として、ユーラシア同盟構築を目指していたのでは?
⇒ユーラシア同盟は、躍進する東アジア、特に中国への対抗策であり、ロシアの東側を固めるのが最大の課題だった。
⑦欧州同盟は、どの程度ウクライナの加盟に熱心だったか?
⇒欧州同盟は、近い将来のウクライナの加盟を考えていなかった。加盟が実現するとしても、かなり将来のことで、ウクライ
ナへの積極的な資金援助・支援に賛成する国も少なかった。ギリシアなど加盟国支援などで手がいっぱいだった。
⑧なぜ、反政府デモが起きたのか?
⇒最大の問題は経済不振、生活困難で、ヤヌコーヴィッチ政権への政策批判、および汚職・腐敗への怒りだった。
その意味では、世界経済危機以来、世界各地に広がっているデモ・反乱騒ぎと同じ構造だ。
(例、ギリシア、エジプト、チュニジア、リビヤ、シリア、イラン、タイ、トルコ、ボスニア――)
⑨親ロシアとされる東ウクライナは欧州統合に反対なのか?
⇒東ウクライナの大多数の住民は欧州への統合による豊かな暮らしの実現には賛成で、反対はしていない。
しかし、その統合により、ロシアとの政治、経済、文化的紐帯が分断されるのには反対だった。
⑩ロシア系住民とは、どういう人たちなのか?
⇒ロシア系住民とは、ロシア語を日常に話す人々で、民族的には、ロシア、ウクライナ、カフカス、ユダヤなど様々である。
ロシア語を通じて、ロシア文化との絆が強く、宗教的には、ロシア正教会のロシア語のミサに通う人々だった。
米国マトロック元駐露大使の言葉
―ウクライナとは、何か? その基本情報。
☆ソ連崩壊後の独立22年が過ぎたが、いまだに、ウクライナのアイデ
ンティティを作り上げ、国民をまとめる指導者がでていない。
☆ウクライナは国家形成をしているが、まだ、国民形成はできていない
⇒(Ukraine is a state but yet a nation)
①現在のウクライナ領は第二次大戦後、外部の者によって作られた。
②ウクライナの住民は異なる言語、歴史経験を持ち、はっきりした境界線はない。
③ロシアとの友好的な関係抜きに、繁栄した健全な統一国家には決してなれない。
④ロシアは、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟の阻止に関しては何でもすると何度も警告をしている。
⑤ロシアは下記の三つの条件を満たすならば、ウクライナが欧州同盟と協力して政治経済システムを近代化する
ことに反対はしない。
❶反ロシアを基本とする国家を作らない。
❷ロシア系住民は社会・文化・言語に関し、他の住民と同等の権利を持たせる。
❸段階的な欧州への統合はウクライナのNATO加盟を意味するものではない。
⑥今のところ、ウクライナの過激な民族主義者たちは三つの条件を受け入れる気持ちはない。
そして、米国は、ロシアの呪いの対象となっている過激派を多目にみるか、または、奨励する政策をと ってい
る。不公平かもしれないが、これが現実だ。
米のマトロック元駐露大使の助言
―では、ウクライナに関して、何を考えるべきか?
①ウクライナに関係するものは、今回の危機をウクライナ支配の
競争だと考えるべきではない。
②オバマのプーチンへの警告は果たし状を突き付けたに近かった。
政治的な誤りばかりでなく、人間心理を理解していない。
③ロシアはウクライナの分断を望んではいない。ウクライナの権力
構造に関する東部の友人への支援か、もしくは、最大でも、隣
国への必要と思われることに関して、米国によって阻止されるこ
とはないとの信号を送っているだけだ。
④ウクライナは州別に様々に分かれているのが現実で、国家統合
するのならば、すべての政党を集めた連合政府を樹立すべきだ。
各州知事は中央の任命ではなく、直接選挙で選出する連邦制
度へと転換すべきだ。
⑤領土保全は重要だが、唯一の原則ではない。米国はコソヴォ、
南スーダン、エリトリア、東チムールで原則を破っている。
国家主権に関しても、米国はパナマ(ノリエガ将軍事件)、グレ
ナダ(米国人人質容疑事件)、イラク(大量破壊兵器所持疑惑)
などで、原則を破っている。
ラヴロフ外相の3原則
「ウクライナの安定を崩したのはロシアではない」
(英ガーディアン紙への投稿記事)
①ウクライナ全地域の法的権利と利害を保証した
憲法改革の実施。
(ロシア語の第二公用語化など南東ウクライナ住民の保
護)
②欧州安保体制を結び付ける役割としてのウクラ
イナの軍事ブロック非加盟の法的保証。
(ウクライナのNATO非加盟の確認)
③非合法軍事組織の「右派セクター」など、ウクラ
イナ過激派のすみやかな活動停止。
(反ロシアの西ウクライナ強硬派組織の排除)
プーチンの新ドクトリン
―反プーチン派のルシコフ元下院議員の批判的解釈
①ロシアはもはや西側を信頼すべきパートナーと見ていない。
(西側は冷戦時代もどきの封じ込め政策を続けている。西側がロシアをグローバルな影響力を弱体化させる決定を行っている。ロシア
は盗まれているのではなく、強奪されている。ロシアは、これからは、この厳しい現実をもとに行動する)
②ロシアはもはや、ヨーロッパの一部とではない。(ロシアは民主主義を目指すが、だが別のタイプだ)
③国際法はもはや規範システムではない。
(国際法は強国がその利害にあうように自由に選ぶ選択のメニューにすぎない。ロシアはもはや強力な国家になった。米国と同様に自らのダブル
スタンダードを見せびらかす権利を持つ。弱いウクライナは、その権利を持たない)
④プーチンの新ドクトリンは旧ソ連の全領土に適用される。
(ロシアの歴史的遺産というあいまいな考えのもとで支配空間を広げることができる。旧ソ連空間の主権は、クレムリンが戦略的利害をどう考える
かによる。旧ソ連諸国がNATOもしくはEUに加盟したり、軍事基地を提供するならば、ロシアは行動に移す。ただし、NATO加盟のバルト三国
は対象外。ロシアは欧米のルールに従うのではなく、自らのルールを作る)
⑤ウエストファリア条約に謳われた国家主権と領土保全の原則は強国のみに適用さ
れる。
(大国リーグは安全保障その他が保証される。 しかし、小国リーグは保証は少ない)
⑥国際機構は、今後、大きな役割をしない。
(大国はこれら国際機関を無視する。米国とその同盟国がこの20年間、
国連安保理を無視して、軍事行動を行ってきたように。新ドクトリンは基本的に世界の新しいバランスを土台にしている。西側の軍事・経済力
は劇的に低下しており、今後も低下し続ける)
ロシアの戦略問題専門家
ルキヤノフ氏の見解①
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<米露関係>
米国は、ウクライナ問題には関心がない。
米国は、冷戦終了後の結果の見直しを許さない。
米国は、中東問題などを考えると、ロシアとの協力関係を維
持せねばならない(ロシアが米国と敵対関係に入ると、中東
の国際関係は一変する)。
ロシアが西側と離れると、中露関係の強化が加速するという
見通しは無視できない。
米国にとって、中露の連合樹立はもっとも避けねばならない
事態である。
しかし、オバマ政権への批判は高まっており、中間選挙が
近付いている。
米国は、ロシアに経済的な依存していない。だから、対露制
裁に厳しい態度をとり、どの国が世界経済を本当にコント
ロールしているのか、世界に見せつけることはできる。
ロシアの戦略問題専門家
ルキヤノフ氏の見解②
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<欧露関係>
欧州は経済的にロシアに依存し、米国とは反対の立場にある。
欧州は、仲介者としての政治的能力がないことを見せつけた。
結局、欧州同盟は米国の翼下に入る。
それでも、欧州はウクライナ救済のため、費用を出さざるを得ない。
ドイツは欧州の政治指導者として、影の主役の立場から表舞台に
主役として登場する。
<NATO>
NATOはソ連崩壊後、初めて新しい役割を見出した。
しかし、NATOでは、どの国も軍事費増大を望んではいない。
NATOは、アフガンからの撤退ルートになるロシアのウリヤノフスク
基地使用の行方について、ひとことも言及せず、黙っている。
NATOの東方拡大の可能性は少ない。旧東欧諸国は心理的な保
証を求めたが、実際の安全保障は求めていなかった。
NATOは、ウクライナ、モルドヴァ、グルジアへの軍事協力拡大する
が、誰も、ロシアとの軍事対立関係に入ることを求めてはいない。
ロシアの戦略問題専門家
ルキヤノフ氏の見解③
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<アジア・太平洋地域>
今回のもう一人の敗北者は日本だ。
日本はG7メンバーとして、厳しい対露批判せざるを得なかった。
しかし、ウクライナの運命より対露関係の行方の方が重要だ。
韓国も同じ様な立場にある。
中国は明らかに有利な立場にあり、「バランスの取れた現実主義」
のモデルを見せつけた。
中国は、公式にはロシアを支持していないが、ウクライナ問題でロ
シアが敗北することも望んでいなかった。
中国は、ロシアが東へとシフトする機会を利用したいと考えている。
中国は、ロシアとの戦略強化につながる計画に喜んで金を出す。
中国は、米国との戦略的競合関係に入る2020年代までに、ロシア
との新しい政治・軍事関係の構築を目指すことを計算している。
中国は、日露の和解を防ぎ、領土問題でロシアの支持を勝ち取るこ
とを目指している。
ウクライナの政変の意味
―世界史的な変化の始まりとの主張(下斗米さんの講演他)
★『文明の衝突』(ハンチントン)ⅤS『歴史の終わり』(フクヤマ)
「冷戦終了で、新しい文明的な(地政学的な、価値観の)衝突が
始まる」との考え方と、「自由・民主主義の勝利により、イデオロ
ギー対立はなくなり、歴史は終わった」という主張の対立。
→ハンチントンの主張が勝った?
★ウクライナの騒乱は、カトリック教会的と東方正教会的の対立お
よび衝突。異なる宗教・文化観の世界は共生できない?
→グローバル価値観の時代の終わり?
★新しい東西対立は21世紀の大きな流れとなるのか?
→「新冷戦が始まった」との主張。
→西の欧州と東のロシアの永久的な戦いの始まり?
→米露が世界を支配する力はなく、少なくともロシアが超大国と
して世界をにらみを利かせる時代は終わったとの主張。
→東西対立の主人公はロシアではなくて、中国だという主張も。
プーチンは、何を考えているのか?
―第三期大統領就任後の大きな思想の転換。
• 「冷戦以後、想定された一極世界は成り立たなかった」
(2007年2月、ミュヘン安保会議演説)
• 「世界が今日、直面していることは、深刻な制度危機であり、グ
ローバルな再編成だ」
(2012年1月、大統領選前の論文)
• 「ソ連崩壊20年間に築かれたシステム(一極)は終わり、今日」
“従来の極”(米)はグローバルな安定を維持する能力がなく、
“新しい中心”(中)は、その用意がない
(同)
• 「近い将来、決定的な年になる。事実上、全世界の分岐点となり、
根本的な変化の時代に突入するか、震撼とする時代となるかも
しれない」
(2012年12月、大統領教書演説)
• 「21世紀のロシアの発展のベクトルは東方への発展だ」
(同)
• 「われわれは世界的、地域的超大国の地位を求めない。ただ、
リーダーの仲間に入ることは目指す」
(2013年12月、大統領教書演説)
プーチンの発言の背景
―クリミア半島編入決定の裏にある思想。
• 米一極世界は来なかったし、もう来ないと考える。
→米国の力の後退→G7の後退→G20の時代→G8脱退も辞せず
→中国の台頭への懸念と対処の必要性。
• ロシアは欧米と価値観が一致せず、別の道を歩む。
→グローバルな価値観の否定→「米例外主義」の否定
→欧米普遍的価値観の否定
→ユーラシア地政学的価値観の主張。
• 近い将来、世界に大きな変化が起きると考える。
→多極化世界→多極間の紛争のひん発→不安定な時代の到来。
• ロシアは東へとシフトすべきだと考える。
→ユーラシア主義の主張→アジアへの傾倒→極東シベリア開発の主張。
世界システム(覇権国交代)論
循環運動としての長期サイクル(モデレフスキ)
新旧大国の対立
米中衝突?
①世界大国体制の確立
④グローバルな戦争
米国一極体制
②正統性の喪失
米一極支配の揺らぎ
多極化世界
米中欧?露?
③力の崩壊
浦野起央「国際関係史」勁草書房参照
プーチン大統領の哲学・世界観
政策
極東・シベリア開発
ユーラシア主義論
グミリョフ
多極化世界論
覇権国交代論
ダニレフスキー
哲学・戦略
国家主義論
イリイン
極東シベリア開発は21世紀
のロシア国家の優先事項だ。
世界の政治経済の中心は欧
米からアジアへ動いている
=(パワーシフト論)
米国一極世界は来なかった。
古い極(米国)の終焉であり、
新しい極(中国)は何も用意が
出来ていない=(多極化論)
世界は地球規模の地殻学的
再編成を伴った深刻な体制危
機に直面している=(世界シ
ステム論)
国家利害はすべての利害に
優先する=(国家主義)。
安定し、強い国家こそが繁栄
の基礎=(大国主義)。
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