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中国が北朝鮮支援をやめない事情

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中国が北朝鮮支援をやめない事情
PHP総合研究所からの主張
前田宏子 (PHP総合研究所主任研究員)
中国が北朝鮮支援をやめない事情
「血の友誼」の義務感は消えた
デノミネーション実施によって、国内経済が混乱に陥っている北朝鮮に対し、中国でも懸
念が高まっている。一方、二〇〇九年四月、北朝鮮は中国の反対もきかず「六カ国協議」を
離脱、五月には核実験を強行し、中朝関係は冷え込んだ。
それでも中国は、秋ごろから再び積極的に政府高官を訪朝させ、両国関係の修復と北朝鮮
の六カ国協議への復帰を促している。中国には、北朝鮮政策を変更できない事情があるから
である。
北朝鮮が二度目の核実験を強行したあと、中国国内でも北朝鮮政策を見直すべきではない
かという議論が起こった。中国の支援を受けながら、その要望を聞かない北朝鮮に対する中
国民衆の目も厳しかった。北朝鮮に対する不満の一部は、北朝鮮支援を続けながら、その行
動を制御できない中国政府にまで向けられた。
だが結局、北朝鮮を支援するという中国の方針は維持された。ただし、その理由は朝鮮戦
争を共に戦った「血の友誼」への義務感からなどではなく、後述するように中国自身の国益
に基づくものである。実際、外交部の秦剛・報道官は、核実験後の定例記者会見で「(どち
らかが攻撃を受けた場合、もう一方が軍事援助を行なうことが取り決められている)中朝友
好協力相互援助条約はいまでも有効なのか」という質問に対し、回答を避けた。
北朝鮮の核保有は中国にとってもリスクをはらむものである。たしかに、いまの北朝鮮が
核兵器を用いて中国を攻撃する可能性は低い。むしろ中国は、北朝鮮が核を保有することに
よって、日本や韓国、台湾などが核保有や軍備増強の方向へと進むことを脅威と考えている。
オーストラリアのローウィ研究所が中国で行なった世論調査では、「中国にとって北朝鮮は
脅威である」と回答したのはわずか一五%、「脅威でない」と答えたのが八一%だったのに
対し、「日本が核を保有しようとすれば脅威となる」との回答が六一%であった。
また、短期的には北朝鮮が中国に敵対する意図がなくとも、北朝鮮の体制の変化、崩壊、
朝鮮半島統一などが起こった際、朝鮮半島に核兵器が存在することは、中国にとってけっし
て望ましいことではない。
難民流入の脅威
さらに、最近では北朝鮮が問題を起こすと、国際社会が中国に対し「責任ある大国」とし
て北朝鮮の行動を是正するよう求めるようになっている。中朝関係が順調なときは、中国は
北朝鮮との交渉を外交カードとして用いている面もないではないが、
ひとたび北朝鮮が国際
社会から非難を浴びるような行動を起こすと、
国際社会からの圧力と北朝鮮との関係のあい
だで板挟みとなり、頭痛の種を抱えることになるのである。
そのようなとき、中国は「中国の北朝鮮に対する影響力はそれほどない」と弁解する。だ
が、中国が行なっているエネルギーや経済支援を引き締めれば、北朝鮮は大打撃を受けるは
ずだ。それでも北朝鮮への支援をやめられないのは、中国にとって北朝鮮にまつわる脅威が
他にあるからである。
まず、北朝鮮が混乱に陥って難民が押し寄せてくるというシナリオが、中国にとって最も
具体的かつ現実的な脅威である。北朝鮮情勢が緊迫すると、そのたびに中朝国境付近の警備
が強化される。難民が流入してくれば、経済的コストはもちろん、朝鮮族が多く住む地域に
北朝鮮の人々が押し寄せることによって、政治的不安定がもたらされる危険もある。
さらに、北朝鮮は中国にとって、韓国に配備されている米軍への防壁となっている。北朝
鮮の崩壊や朝鮮半島統一が起こった際に、三八度線以北に米軍が展開するような事態は何と
しても避けたい。中国にとっては、北朝鮮の崩壊を防ぎ、北朝鮮に中国の影響力が及ぶよう
にしておく必要があるのである。
いま、北朝鮮は国際社会、というよりアメリカとの対話を望む姿勢を見せ、中国は積極的
にその仲介を行なっている。日本が北朝鮮の核・拉致問題に取り組んでいく際、北朝鮮とさ
まざまなパイプを有する中国との協力は、情報収集のうえでも、また北朝鮮を安定させるた
めの政策を立案・実施するうえでも重要である。
とはいえ、中国が北朝鮮に厳しい政策をとることに消極的であるため、時に日中の方針は
衝突する。しかし、時代とともに、中朝関係も内側では変化が生じており、それが実際の政
策に影響を及ぼす日も来るかもしれない。その兆候が表れたとき速やかに対応できるよう、
中朝関係の実態に注意を払っておくべきである。
雑誌『Voice』二〇一〇年四月号掲載
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