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基調講演
基調 講演 『未来を創るグリーン経済』 京都大学大学院 経済学研究科 教授 植田和弘 植田 和弘 (うえた かずひろ) 京都大学大学院経済学研究科教授 中央環境審議会総合政策部会・地球環境部会臨 時委員。前環境経済・政策学会会長。 持続可能な発展の環境経済政策や財政システム について長年研究。著訳書に『サスティナビリティ の経済学』『環境経済学』『廃棄物とリサイクルの 経済学』など多数。 基調講演 未来を創るグリーン経済 植田 和弘 2012年6月4日 報告の概要 • イントロダクション:Rio+20 1.持続可能な発展 2グリーン経済と持続可能な発展 ~基本的概念とUNEPの問題提起~ 3.グリーン経済をいかに実現するか ~環境経済学・環境経営学における議論と事例から~ 4.未来を創るグリーン経済へ ~地球温暖化防止で考える~ 2 イントロダクション 3 イントロダクション 1992年リオサミットからの20年を振り返って 1956年 水俣病の公式確認 1970年 公害国会、米国EPA(1969年NEPA) 1971年 環境庁設立 1972年 ストックホルム会議(国連人間環境会議) 1980年 World Conservation Strategy 1987年 Sustainable Development(ブルントラント委員会) 地球温暖化問題とはじめとする地球環境問題群 1992年 リオ・サミット 1997年 京都議定書(COP3) 2002年 ヨハネスブルグ:Rio+10 2006年 Stern Review Economics of Climate Change 2008年 Financial Crisis 2012年 Rio+20 4 RIO+20の主要テーマ 本日の中心テーマ ① 持続可能な開発・発展(SD)及び貧困 撲滅の文脈におけるグリーン経済 SDを実現し貧困を撲滅するには、環境と経 済を両立させるグリーン経済への移行が 不可欠(グリーン経済はSD実現の手段) ② 持続可能な開発のための制度的枠組 持続可能な開発の推進には国連を中心に持続可 能な開発のための制度の強化・効率化、特に環境 ガバナンスの強化が必要。 持続可能な開発理事会の設立、国連環境計画 (UNEP)の専門機関化の可能性も議論。 出所)外務省資料を基に作成 5 持続可能な開発(発展) 6 持続可能な発展(SD)の基礎 グリーン経済はSD実現するための手段とされ る。では、真の目標であるSDとは? 3要素(ecological prudence, 世代間衡平、社会 的衡平とりわけ南北間衡平) SDの定義(をいかに具体化するか) World Conservation Strategy(1980) 「将来の世代が自らのニーズを充足する能力 を損なうことなく、現在の世代のニーズを満た すような開発(発展)」(1987、ブルントラント委 員会) 7 SD概念具体化の試み① <ハーマン・デーリー> デーリーの3原則 ① 人間活動に伴う廃棄物は、環境容量の範囲内でなけ ればならない ② 人間社会が消費する再生可能資源の量は、再生可 能な範囲でなければならない ③ 人間社会が消費する再生不能資源の量は、消費した ことで減少した再生不能資源のストックに伴う機能が 再生可能資源によって補われる範囲内でなければな らない 自然界と人間社会との間の関係を持続可能にす るために守らなければならない原則であり、エコロ ジーの絶対性を原則化 8 SD概念具体化の試み② <パーサ・ダスクグプタ>SDとは福祉(=生活の 質(QOL)、well-being)の持続的向上 Well-being=Quality of Lifeとは何か ①福祉の構成要素(constituents)と ②福祉の決定要因(determinants) 「持続可能な発展のために、各世代は、前 の世代から受け継いだ生産的基盤と少なく とも同じだけの生産的基盤を後続世代に残 すことが必要になる。」 生産的基盤とは、資本資産ストックと制度。 9 SDの判定:生産的基盤はどう変化しているか 持続可能な状態 現世代の生産的基盤 資本資産ストック の総量と制度 次世代の生産的基盤 資本資産ストック の総量と制度 非・持続可能な状態 減耗分 資本資産ストック の総量と制度 資本資産ストック の総量と制度 10 生産的基盤=資本資産と制度 資本資産ストックと制度の具体的な中身 資本資産ストックとは? 人工資本 人的資本 知識 自然資本 持続可能か否かを判断す るためにはこれらの「価 値」を測ることが必要 価値=市場価値では不十分 制度とは? 上記の資本資産を使 いこなす仕組み 資産の量×社会的生産性 つまり「資本資産の影の価 格」の計測が必要 11 グリーン経済とは? ~基本的概念とUNEPの問題提起~ 12 グリーン経済の定義 • UNEP(国連環境計画)の定義 環境リスクと生態上の希少性を大幅に減 少させつつ、人間の福祉(well-being)と社 会的公平さを向上させる経済 ※グリーン経済の定義は各機関・国によって様々 な解釈が存在。概ね、持続可能な開発を達成する 手段であり、各国の開発レベルや優先課題を考慮 して、それぞれに発展されるものであるという理解 には現段階で合意が可能。(IGES) 出所)IGES(2012)ゼロドラフトや各国意見から見えてきたリオ+20におけるグリーン経済の論点 UNEP(2011)Towards a GREEN ECONOMY Pathways to Sustainable Development and Poverty Reduction 13 グリーン経済の意義 グリーン経済は単に経済のグリーン化が図ら れれば良いというわけではなく、それが貧困の 撲滅につながり、持続可能な発展に資するも のでなければならない。 環境を破壊しつつ成長する経済」から「環境を 保全しつつ豊かさを実現する経済」への転換 が目指されているのであり、地球環境問題と南 北問題という、人間社会が21世紀に積み残し た2つの大きな課題の解決を目指すもの。 14 UNEPグリーン経済レポートにおける議論 UNEP(国連環境計画)では、 、 世界金融危機の後、2008 年10月よりグリーンエコノ ミーイニシアティブを開始。 2011年2月にリオ+20にも関 連した、グリーン経済の方 向性を示したレポート『グ リーン経済をめざして:持続 可能な発展と貧困の撲滅 への道筋』を発表。 出所)UNEP(2011)Towards a GREEN ECONOMY Pathways to Sustainable Development and Poverty Reduction 15 UNEPグリーン経済レポートのメッセージ 世界のGDPの2%(年間約1.3兆ドル)を、環境 にやさしい投資と主要な10セクターに投資す ることで、低炭素かつ資源効率の高いグリー ン経済に向けた移行を指導することができる としている。また、これらの投資により、環境 や資源を巡る状況を改善することができるだ けでなく、経済も効率化し、雇用を増やすこと もできるとしている。 主要な10セクターは次頁の2つ大別される。 出所)UNEP(2011)Towards a GREEN ECONOMY Pathways to Sustainable Development and Poverty Reduction 16 UNEPグリーン経済レポートのメッセージ 自然資本への投資 農業、漁業、水、森林等の自然資本への投資につい ては、現状の投資のあり方を転換することで、環境資 源の状態を改善しつつ、貧困削減など経済への寄与 を高めることができるとしている。 資源・エネルギーの効率化への投資 再生可能エネルギーに加え、建造物、製造業、廃棄 物管理、輸送、観光、都市などで用いられている資 源・エネルギーの効率化への投資により、現状では資 源・エネルギー多消費型になっている経済行為を効率 化する方向へと変更し、自然資本の再生と活用する ための投資を拡充することで、雇用を生み出し、経済 を再生する。 出所)UNEP(2011)Towards a GREEN ECONOMY Pathways to Sustainable Development and Poverty Reduction 17 UNEPグリーン経済レポートの示唆 誰がどのようにしてそうした投資先の変更を 進めていくのか? それを担う経済メカニズムはいかにあるべき か。 産業構造のスムーズな移行をどうすべきか (次頁参照) 等 具体化に向けては様々な論点が提起され る。 出所)UNEP(2011)Towards a GREEN ECONOMY Pathways to Sustainable Development and Poverty Reduction 18 UNEPグリーン経済レポートの示唆 グリーン経済への移行で、新規雇用が創出され、経時的には「ブラウン」 経済の雇用における損失を超える 一方では旧産業から新産業へのスムーズな移行のための取組が必要。 出所)UNEP(2011)Towards a GREEN ECONOMY Pathways to Sustainable Development and Poverty Reduction 19 グリーン経済をいかに実現するか ~環境経済学・環境経営学における議論と事例から~ 20 グリーン経済への移行方法 技術革新や技術 開発の方向性の 転換 グリーン経済 ブラウン経済 2つの方法 社会や経済 の仕組の変革 21 技術革新や技術開発の方向性の転換 ポーター仮説(米・ハーバード大学 マイケル・E・ポー ター教授) 環境政策が技術革新を促し、その結果製品や企業の競 争力が高まる。環境政策を経済や経営にマイナスな要素 ととらえるのではなく、戦略的に用いてイノベーションを起 こし、技術開発力を高めることで経済や経営の基盤を強 化しようとするとしている。 (1)環境政策の強化が企業の投資機会を拡大させる ⇒(2)企業の技術革新を促進する ⇒(3)長期的に規制の費用を相殺し、さらに規制費用を上回る (環境改善や環境保護の便益以外の)利益が生まれる 22 技術革新や技術開発の方向性の転換 我が国における自動車産業の排ガス対応 米国では1970年にマスキー法案(米国大気清浄法改 正案)により、乗用車の大気汚染物質の排出を1/10ま で削減する法案が提出された。 米国メーカーは猛烈に反対し、法律の実施時期が延 期。日本では同様の法律を1978年に導入(日本版マ スキー法) その間、日本企業は上記基準を達成に向けた技術開 発に取組、技術革新に成功。 結果として、自動車の国際競争力の大幅な向上につ ながった。 23 技術革新や技術開発の方向性の転換 ポーター仮説は一般的に成立するか? ポーター仮説の成立について膨大な実証研究が行われて いる。Runar Brannlund and Tommy Lundgrenらによる約20 年間のポーター仮説に関する研究の総括によると、 ポーター仮説の成立するケースはいくつかの難しい条件 が揃った、まれなことであり、政策的に実現することは、針 の穴を通すような難しい技と言わざるをえない。 しかし、確かに実現することがあり、それは技術の非連続 的変化を生み出す市場の出現や投資が行われた時であ る。経営者や投資家のアニマル・スピリット(合理的に説明 できない不確定な心理)に依存するのかもしれず、政策と の相互作用について、さらなる検討が必要とされる。 出所)『Runar Brannlund and Tommy Lundgren, Environmental Policy Without Costs? A Review of the Porter Hypothesis, International Review of Environmental and Resource Economics』2009,3: 75-117 24 技術革新や技術開発の方向性の転換 示唆 ポーター仮説の実証事例からは、グリーン経済へ の技術革新や技術開発の方向性の転換は、環境 規制を単に導入したいだけでは発生しないことが 明らかになっている。 このため、この観点からグリーン経済を推進するた めには、技術の非連続的変化を生み出す市場 の出現や投資を引き起こす経営者や投資家の アニマル・スピリットに依存も含めた、政策との 相互作用についても検討が必要。 出所)『Runar Brannlund and Tommy Lundgren, Environmental Policy Without Costs? A Review of the Porter Hypothesis, International Review of Environmental and Resource Economics』2009,3: 75-117 25 社会や経済の仕組みを変える 環境税制改革の先駆的取組(ビンズヴァンガーによる ・エコロジカル税制改革の紹介(ドイツの事例) 二重の配当論) 1980年代の西ドイツでは、緑の党が結成されるなど、 環境意識の急速な高まりがみられると同時に、高い失 業率に悩まされてきた。 当時の通説では、環境の保全と雇用の拡大は両立し 得ないと考えられていた。(環境と雇用のトレードオフ) ビンズヴァンガーは、これに対して、環境も雇用も人間 生存に不可欠であり、いずれも達成できる方途を探求 した。 26 社会や経済の仕組みを変える 「二重の配当論」とは、環境税による環境改善の達成 という配当に加えて、税収の使途を工夫することによっ て、もう一つの配当を得ようとするもの。 ・エコロジカル税制改革の紹介(ドイツの事例) 炭素税の導入やエネルギー税の増税により得られた 税収を、社会保険料の軽減に用いて雇用を増やそうと するものであった。 こうした環境税制改革が、ドイツを含む、欧州の少なく ない国々で進行した。 環境税制改革は、その国や社会が何を解決すべき課 題と考えているかによって、その内容が変化する。環 境税収の使途については、別の考え方もありうる。 社会像のグランドデザインの下で行われることが必要。 27 未来を創るグリーン経済へ ~地球温暖化防止で考える~ 28 環境経済戦略の基本理念 地球温暖化防止を新しい未来社会をつくる挑戦 的課題と位置づけ、低炭素型の技術、まちづく り、ライフスタイル、ビジネスモデル等を先導的 に創出していくことに、日本の役割があることを 国内外に明示する。(新しい発展パターン) 中長期の明確で意欲的な削減目標(確実性) 温暖化防止に取り組むことが競争力をたかめる 温暖化防止の取り組みが日本の社会経済問題 の解決にも寄与(雇用、地域経済、未来産業) 29 環境経済戦略の推進方策 日本経済の環境保全(低炭素)型構造改革 炭素に価格を・・動機付けと公正な費用負担 グリーン・ニューディール・・・低炭素型社会の 基盤整備(social common capital) 温暖化防止のものづくりとまちづくり 創造性のある産業(研究開発)と地域(分権) 創造力と享受力のストック化 地域からregional ecological economy 30