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S-343 技術指導:大豆栽培におけるさび病のコントロールについて(2

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S-343 技術指導:大豆栽培におけるさび病のコントロールについて(2
技術指導:大豆栽培におけるさび病のコントロールについて(2)
開催日時:2012 年 10 月 3~4 日
開催場所:オキナワ移住地
対象者:ボリビア農牧技術センター(CETABOL)、コロニア沖縄農牧総合協同組合(CAICO)、サン
フアン農牧総合協同組合(CAISY)の技術者
分科会指導内容:
1. 今回は、実験室での病理診断手法を強化し、より効果的に短時間で葉の病気を診断するため
の方法を改善、さらに圃場における葉、茎、根の病気を識別し、地域の生産者によって普段
行われている農薬等の使用効果を確認すること。
2. 10 月 3 日の午前中、大豆栽培における病気について、特に茎や根に見られる病気について
指導を行った。CETABOL の技術者 2 名と CAISY の技術者 2 名が参加した。
3. 同日午後、葉の病気を診断して殺菌剤の効果をみる方法を改善するために、CAICO 試験場
を訪問した。さらに、前回訪問時に、FUNDACRUZ が開発した品種の認可検査農地にはフ
ィトフトラ病の症状が見られたが、生き残ることができた植物は健全に生育していた。
4. 10 月 4 日の午前中、サンプルの取り扱いに関する実験室での作業方法、研究室のモイスト
チャンバーの使用を含む作業方法、ならびに菌株の分離時の留意点および方法に関する指導
を行うため、CETABOL の温室と実験室を視察した。
5. 実験室の視察後、通常行われている農薬等の散布方法は実際にはどの程度効果があるかデモ
ンストレーションするため大豆栽培の農地で実験を行った。方法として、植物の下部、中部
および上部に濾紙を置いて 2,000 リットルの燻蒸消毒器で農薬を散布した。その結果、植物
の上部に置いてあった濾紙は充分に、中部の濾紙は中程度に湿ったのに対し、下部の濾紙は
あまり湿らなかったという農薬散布範囲の結果が得られた。病気が最も発生しやすい植物下
部まで農薬は届いていないことが確認されたため、農薬散布頻度を上げる必要があることを
示した。
6. 実験後、前回、登熟期にさび病が発生していた、生産者ヒガ・トオル氏の大豆栽培圃場を観
察した。今回成熟期にあった「カルデナール(cardenal)」と「ミラグローサ(milagrosa)」品種
や「アサイ(asaí)」品種を観察した。畝溝が狭く草丈の高いカルデナールやミラグローサ品
種に比べ、中程度の草丈のアサイ品種は健康状態が良かったが、全品種でさび病の発生率が
高かった。
7. 生産者のヒガ・トオル氏は、クリプトン(CRIPTON)殺菌剤を油で割ってアサイ品種とミ
ラグローサ品種に散布していた。燻蒸消毒が 2 回行われたところでは、殺菌剤による効果が
高いことが分かった。
今後のテーマ:
1. 大豆における病害虫に関する研究の計画を立てるため、植物病理学研究室と分離室の両方を
訪問し、いくつかの変更を提案した。
2. 2012 年冬現在、農場で発生している病害虫のコントロール実験結果を分析した。
3. 新品種導入に関して、CETABOL と農協が共同で生産者に指導する必要がある。
4. CETABOL 植物防疫担当者は、
(種苗会社 FUNDACRUZ が開催する)新品種に関する病気の
診断に関する研修に参加する必要がある。CETABOL に温室設置の計画があるため、同じく
土壌病の分離方法や植物の細菌感染予防、また温室作業に関する(外部の)研修へ参加する
ことを指導した。
S-343
その他:
大豆栽培における葉の健康状況の診断につい
て説明する頼則氏
CETABOL 試験場での圃場見学
濾紙を使った農薬の使用効果の確認
CAICO 試験場での圃場見学
実験室での作業方法の説明
頼則氏が提案した大豆栽培における診断のため
の植物病理学の温室モデル
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現地技術研修
テーマ:大豆栽培における病気のコントロール
開催日時:2013 年 2 月 4 日~5 日および 2 月 13 日
開催場所:ボリビア国 サンタクルス県 ワルネス郡 オキナワ移住地
対象者:CAICO(コロニア沖縄農牧総合協同組合)、CAISY(サンフアン農牧総合協同組合)の生
産者および技術者
指導者名:頼則忠志博士
現地技術研修の内容
ブラジル国農牧研究公社の支援により、CAISY 協同組合の技術者 2 名(ママニ・ハイメ技師および
イシザワ・オスカル技師)と CETABOL(ボリビア農牧技術センター)の技術者 2 名(フアイノカ・
マリルス技師およびキユナ・ハビエル技師)は、植物病理学の分野で 40 年間のキャリアを誇り、大
豆栽培における病気のエキスパートである頼則忠志博士の指導下で研修を受ける機会に恵まれた。
今回の研修のテーマは、種子病理(シード病理)と病原菌の診断である。生産者との圃場見学には
27 名が参加した。参加者の内訳は、生産者 19 名、CAICO 協同組合の技術者 6 名および CETABOL
の技術者 2 名である。以下、博士の報告である。
CETABOL での研修
1 日目(2013 年 2 月 4 日)
2013 年 2 月 4 日に、CETABOL の第一実地エリアの大豆やトウモロコシ畑での研修を行うため、午
前中、CETABOL の試験展示圃場で、種苗や大豆栽培に関連する技術を販売している多数の会社の
様々な管理方法や品種を見学した。
午後、スライドで種子や土壌にある病原菌によって伝染する病気についてのプレゼンテーションを
行い、最も一般的な病気の重要な特性を詳細に説明した。その後、実験室で種子の病理検定のため
の作業方法についてのワークショップを行った。
- 病原体による病気の発生確率を増やすため、収穫が 10 日以上遅れたもので質の劣った種
を使用する。
- ペトリ皿、適切に消毒された濾紙、実験室材料を取り扱うためのピンセットの消毒に使
われる 10%次亜塩素酸ナトリウムの消毒剤など、モイストチャンバーに種を入れるため
の実験器具が必要である。
- 温度を 20~25℃に設定し、12 時間ごとにモイストチャンバーを光の当たる所と光の当た
らない陰に交互に置き、7 日後の時点でサンプルの状態を確認する。
- 種子の病理検定の作業をする場合は、実験室での作業と圃場での栽培を併行して実施す
る。
実験室での研修後、下記の特性を持つ種をモイストチャンバーに入れた。
1.
質の良いムナスカ品種の大豆種
2.
質の悪いムナスカ品種の大豆種
3.
質の良いトルネード品種の大豆種
4.
質の悪いトルネード品種の大豆種
モイストチャンバーに入っているサンプルの状態確認は、研修 2 日目の 2013 年 2 月 13 日に行う。
同様に、 病原菌の挙動を分析するために、圃場と温室で同じサンプルの種を蒔いた。
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添付写真(1 日目)
CETABOL の試験展示圃場見学
実験室でのシード病理学のための作業方法についてのワークショップ
実験の対象となった種のサンプル・12 時間ごとにモイストチャンバーを光と陰に交互に入れた紫外
光施設
オキナワ移住地の生産者との圃場訪問
2 日目(2013 年 2 月 5 日)
今回は、オキナワ第 1, 2, 3 移住地の生産者とともに、圃場を訪問した。参加者は 27 名で、その内訳
は生産者 19 名、CAICO 農協の技術者 6 名および CETABOL の技術者 2 名である。
実施したアドバイスは以下のとおりである。
・農薬の最終の使用の際は、1 ヘクタールあたり 1 リットルのカルベンダジムとトリアゾール
の入ったストロビルリンの散布が有効である。
S-346
・農薬のオルケスタやクリプトンを使用した圃場を見学し、散布効率が向上していることが
確認できた。しかし、ブラジルで使われている最も良い殺菌剤の一つであるにもかかわらず、
オルケスタが使用された農地の二つの区画では大豆のさび病の再感染が見られた。
・試験場で、去年フィトフトラが発生していた品種があり、今年はさほどの攻撃性を見せて
いないが、この病気の発生指標として、この品種を常に使用するように指示した。
・農薬の使用量は少なくても良いが、散布の際は風が強い日が良い。
・土壌病を避けるために良好な根張りの他に、いつものように、栽培法の確立、苗の間隔や
密植、作物のローテーションなどが重要である。
・圃場中は、さび病と褐色輪紋病の被害はさほど見られなかったが、これは、オキナワ移住
地のある地方は気温が 35~37℃の高温であるためと推測した。気温が非常に高いと、病気が
発生しても進行はせず、胞子は発芽することはできない。
添付写真(2 日目)
オキナワ移住地および CAICO 試験場への生産者訪問
フィトフトラが発生しやすいビエンベニーダ品種とフンダクルースが開発したウラカン新品種
CETABOL での研修
3 日目(2013 年 2 月 13 日)
今回は、CAISY 農協と CETABOL の技術者 2 名が参加し、病原体診断の適切な方法を学ぶためにモ
イストチャンバーに入っていたサンプルの状態確認を行った。診断の結果としては、アルテルナリ
ア、大豆フォモプシス腐敗病、コウジカビ、紫斑病と腐生菌の一つであるテンペ菌が認められた。
大豆炭疽病による感染は推測されていたが、実際に確認はできなかった。その理由としては、空中
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細菌によって感染するように収穫が 10 日以上遅れた種を使用したことが考えられる。
その後、温室で蒔いたサンプルの診断を行い、質の良い種と質の悪い種との発芽率の違いが明らか
であったが、発芽率の低下に悪影響を与えている病原体の確認ができなかった。
最後に、実地エリアでの栽培の診断を行い、同様に質の良い種と質の悪い種との発芽率の違いが明
らかだったが、温室と違ってここではフザリウムによる種の発芽率の低下が見られた。
午後、ミラグローサ、ポテンシア、トルネードの 3 品種を見るために、生産者マツド・カオル氏の
農地を見学し、5 日前にトリアゾールの入ったストロビルリンの散布が行われたにもかかわらず、ト
ルネード品種にはかなりの被害をもたらしているさび病が確認できた。
大豆褐色輪紋病や大豆細菌葉枯病による症状が見られたが、栽培のこの段階(R5.2-5.3 期)では、
もはや効率性への影響はないと推測された。
添付写真(3 日目)
モイストチャンバーで培養してから 9 日後の種のサンプルと双眼実体顕微鏡で行われたサンプルの
状態確認
温室で蒔いた質の良い種と質の悪い種
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実地エリアでのサンプル栽培の診断で明らかになった質の良い種と質の悪い種との発芽率の違い
診断が行われ、発芽率の低下に悪影響を与えた病原体の確認
生産者マツド・カオル氏の農地での大豆褐色輪紋病と大豆細菌葉枯病による発生が確認できたポテ
ンシアやミラグローサ品種
現地技術研修の反省点・改善点
今後のテーマ又は要望
•
大豆品種ガーデンでの植物病理学に基づく診断
•
シード病理学による診断
•
大豆における葉のための殺菌剤の実験結果
参加者のコメント
•
頼則博士からのサポートは大変重要であると考え、1 年に数回来てくださっているにもかか
わらず、生産者たちは、毎回圃場訪問に参加している。見学する度に新しい発見があり、博
士が実施している実地エリアでの病気コントロールの診断と各々の品種のフォローアップ
が非常に重要である。
その他:
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6.5.2 柑橘類
6.5.2.1 基本情報
目的
1.1
日系農業者の農業技術等の向上に資する技術研修の対象国の要望を踏まえ、
現地において研修を実施した。アルゼンチン国日系移住地ハルディン・アメ
リカの温州ミカン生産者からは、既に本事業の当初より温州ミカンの立ち枯
れ病の技術指導者の派遣要請があった。一方、アルゼンチン国には日系農協
組織がないため、今回の機会を活用し、日本より専門家を派遣し、本事業へ
の参加を促し、他の国との日系農協関係者との連携交流強化も考慮し、実施
することとした。
1.2
期間
2012 年 10 月 4 日~10 月 19 日(14 日間、移動含む)
1.3
場所
アルゼンチン国ミシオネス州
1.4
技術指導者
高木信雄(元愛媛県果樹研究センター
1.5
研修内容
柑橘類の栽培指導および温州ミカン立ち枯れ病対策指導
1.6
参加者の人数
39 名
みかん研究所所長)
ガルアーぺ日本人会・ガルアーぺかんきつ組合、INTA(アルゼンチン国立試
験場)、ケーブルテレビ
6.5.2.2 研修日程詳細
日
日程
曜
内容
1
10 月 4 日
木
成田発→シアトル着
2
10 月 7 日
日
シアトル発
3
10 月 8 日
月
シウダ・デル・エステ着→ハルディン・アメリカへ移動
4
10 月 9 日
火
現場把握・指導(講演)内容打ち合わせ
5
10 月 10 日
水
現地視察(日系農業者ミカン園の視察・指導)
6
10 月 11 日
木
講演
7
10 月 12 日
金
8
10 月 13 日
土
休日
資料整理(報告書作成)
移動(ハルディン・アメリカ→イグアス)
9
10 月 14 日
日
移動(イグアス→ピラポ)
10
10 月 15 日
月
移動(ポサーダス→ピラポ)、現場把握・指導内容打ち合わせ
11
10 月 16 日
火
接木・剪定・土造り(追肥)の指導
12
10 月 17 日
水
13
10 月 18 日
木
機内
14
10 月 19 日
金
日本帰国
移動(ピラポ→シウダ・デル・エステ)
シウダ・デル・エステ発
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6.5.2.3 研修受講者リスト
2012 年 10 月 11 日
No.
氏名
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
Jorge R. Fiege
Jacinto E. Martinez
David H. Nevendorf
Gobriel Falcón
Pizzihi Daddo
Tada Mariano
Iida Luis
Takamatsu Yasumi
Yaco Mazal
Tomas Haberve
Elena Ferreira
Victor Giensewicz
Akira Kikue
Schulz Oho
Krausemann Jorge
Agostini Juan Pedro
Acuña Luis
Luis Fissore
Benitez Oscar Rafael
飯田竜介
山田哲士
Matsunoshita Angel
所属
COOP TABACALERA
COOP TABACALERA
Coop Tabacalera de Misiones(ミシオネスタバコ協同組合)
Vivero Citrus El Dorado(柑橘苗木エル・ドラド社)
Citricola 社職員
生産者
生産者
生産者
Ministerio del Agricultura
INTA MONTECARLO
生産者
生産者
生産者
Productor
Productor
INTA Montecarlo
INTA Montecarlo
Productor
Cooperativa Tabacalera de Misiones
農業
農業
生産者
2012 年 10 月 16 日
氏名
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
星川 孝
池田貴幸
工藤敏夫
幸坂佳次
野中孝之
矢野栄蔵
中古味寛
正岡 清
大泉里美
楠瀬尊志
楠瀬ロベルト
福田謙助
徳永史江
徳永俊一
正岡清一
伊沢政明
竹重矢野眞次
所属
イグアス移住地
イグアス移住地
イグアス移住地
イグアス移住地
ラパス移住地
ピラポ移住地
ピラポアカカラジャ
ピラポアカカラジャ
ピラポ 17km
ピラポアカカラジャ
ピラポアカカラジャ
ピラポアカカラジャ
ピラポ中央
ピラポ中央
ピラポアカカラジャ
ピラポ 13km
ピラポ 13km
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6.5.2.4 派遣専門家報告書
(1) 指導した内容のポイント
1) 2)について、以下の内容でパワーポイントも使用して講演した。
1) 温暖化と枝枯症
(ア) 温州ミカンの枝枯症の調査と原因究明
・10 月 11 日に山田氏と菊江氏(移住地の技術指導に携わり、過去の JICA の調査にも熟知している)お
よび柑橘組合長のビクトル氏と 4 園地を調査した。
・そのうち 3 園地で枝枯症の発生は甚大で、生産性は著しく低下し、温州ミカンの経営は岐路に立って
いると感じた。この症状の発生の特徴は興津早生、日南、豊福など移住地が導入した早生系温州に発生
が多く、他品種ではほとんど発生しておらず品種特異性がある。また 4~5 年生の開花が結実樹齢に達す
る時期に発生し、成木樹では発生が軽度であるなど、枝枯症は木の生理ステージとの関わりがある。
・土壌細菌病に対して
20 年ほど前日本の学界などでは枝枯症は土壌細菌病と報告があったと記憶している。当地のミカン技術
指導者の山田氏によると、発症はウイルスフリー苗でも起こり、発生樹においてもウイルスは検出され
ず、根や土壌もとくに問題なかったという。ウイルスに関しては INTA の病理学者も検出されないと言
っていた。
実際現地で症状を観察すると、まず樹冠上部の枝が枯れて、枯れ枝が全体に広がり、最後に株元から新
芽を発生しようとするが 2~3 年後には、立ち枯れ状になる。発生が認められる木の根を観察したところ、
細根は健全であった。立ち枯れ状になった木をゆすってもぐらぐらしない。日本においてもしばしば立
ち枯症が観察されるが、排水不良、天牛、もんぱ病などで根の障害で地上部の生育が不良になった場合
には木がぐらぐらして、木は倒れることが多い。温州委縮やトリステーザのウイルス症も 4~5 年生で発
生することが多いが、多くは導管がやられて根の生育が不良となって、木をゆするとぐらぐらするなど、
アルゼンチンの立ち枯れ症とウイルス症とは発生症状は類似の点もあるが枯死に至る過程は異なる。
すなわち枝枯症の発生は根の障害が原因で地上部が枯れるのではなくて、地上部に発症の原因があって
二次的に根が枯れると推測された。
・強光による高温障害:①次に訪れたフィソラ氏の園地は周囲が松林に囲われ、園内にも雑木が立って
いるが、それらの木で遮光された興津早生は全て健全であるのに対して、遮光されていない木は多かれ
少なかれほぼ 100%枝枯症が発生して生育が不良であった。数ヘクタールもある園地全体にこうした傾
向が明瞭に観察された(写真 1)
。このことは枝枯症が強光による高温障害が枝枯症の原因であることを
如実に語っていた。
②ビクトル氏の園は西北に面した緩傾斜で、興津早生の 4 年生の木が東西に列植えされ、総じて省力栽
培で管理は粗放で樹勢はよいほうでなくて、枝は独立して徒長し枝葉密度が低い。枝枯症は西北側から
発生し、日陰部の南側は新葉が発生して枝枯の程度は軽いことから、この園でも強光による高温障害が
枝枯の原因であることが観察された。
③最後に訪れた山田氏園はウイルスフリー苗でせん定や摘果等栽培管理の行き届いた園で、枝葉密度は
高く葉どうしで遮光し合っている。この園では枝枯症の発生はほとんど見られなかった。すなわち日本
で実施されている着花過多防止の肥培管理技術と樹勢が強制になるウイルスフリー苗は、枝枯症の発生
防止に効果が高いことが示唆された。
S-352
(イ) 発生原因の解析
我々は以前柑橘の蒸散作用と葉や果実温度を調査し、温州ミカンの熟度や果皮障害との関係を明らかに
した(平成 4~6 年日本園芸学会発表要旨参照)
。これらの結果はアルゼンチンの早生種の温州ミカンの
枝枯症の発生原因の究明に大いに参考になる。
・温州みかんで発生が多い理由
温州ミカンはもともと温帯に起源を発するためオレンジなどに比べて温度要求度が低くて比較的寒い日
本でも生育が可能である。その一方で高温には弱く、早生温州や極早生は日本でも日焼け果が発生しや
すい。亜熱帯から温帯地域で栽培されるかんきつは夏季には高温にさらされるが、高温に対して葉の気
孔からの蒸散作用で枝葉や果実が高温にならないように温度調節し、体積当たりの表面積が小さい果実
や枝は葉で遮光して高温にならないようにする。
温州ミカンはオレンジや亜熱帯原産のポンカンやオレンジと温州みかんとの交配種のとデコポンなどの
タンゴール類に比べて蒸散能力低く、さらに温州ミカンの中では早生種は晩生品種よりも蒸散能力が低
く、樹体温度が高まりやすい。高温障害は体積当たりの表面積が小さい太枝や 8 月から 9 月の果実に日
焼け症が発生するが、日焼け果の発生は柑橘品種の中でも温州ミカンに発生が多く、とくに早生系の極
早生や早生温州で発生が顕著である。
当地で導入した早生温州や極早生温州は蒸散能力が低くて高温障害が発生しやすい品種であることが柑
橘の中でも特異的に枝枯症が発生した理由である。なお日本においては温暖化が進行して温州みかんで
は結実不良で隔年結果性が増大し、秋季の降雨で果皮障害が発生するなど温暖化で栽培上の問題も多く
なっている。
・4~5 年生で発生する理由
早生系品種は結実樹齢に達する期間が短く 3 年生で着花しはじめ 4~5 年生になると着花が増える。しか
も剪定しなかったり、窒素肥料不足の園ほど枝葉の生長(これを栄養生長という)が不良な木ほど着花
(同じく生殖成長)が増加する。花が増えると新葉の発生が顕著に減って旧葉だけとなり葉密度が低下
して、開花後初夏の高温に枝がさらされる。しかも旧葉は新葉に比べ蒸散能力が低く枝が高温になりや
すい。着花が過多となって旧用比率が高まった木では、夏季には 40℃近くまで上昇し 42℃以上に長時間
遭遇すると酵素が失活して枝葉が枯死する。新葉がよく発生する苗木や、葉密度が高まる成木では樹体
温度が高まりにくくて、枝枯症の発生が少ない。
・珠心胚系統導入の不運
因果的なことであるが、この地域は広島県出身の山田氏が 50 年くらい前に珠心胚系統の興津早生を、ま
た 10 年くらい前に熊本県から珠心胚の豊福など、珠心胚系統の早生種を多く導入した経緯がある。珠心
胚系統は、枝や根の α アミラーゼ活性が高く、貯蔵澱粉を糖化して表年には一層着花過多にし、裏年に
は新梢を一層徒長させる。
ちなみに 17 年前の菊江氏との出会いで再会のきっかけとなったのは、珠心胚でない宮川早生と興津とで
は枝枯症が興津のほうが多いという興味深い事実であった。私有の無加温ハウス(アルゼンチンの温度
と同程度)栽培のアンコール(興津早生のように徒長する)は当地の枝枯症とまったく同じ症状が発生
していたのに対して、マーコット(宮川早生のように枝葉が混み合って徒長しにくく、コンパクトな樹
形となる。
)には枝枯症がほとんど発生しなかった。
温暖化が進行すると隔年結果性が増大するが、当地も年平均気温が 22 度から 24 度くらいまで上昇して
いるという。温暖化に対して珠心胚系統は隔年結果が大きい。そのために 4~5 年生で旧葉ばかりで花が
過剰に着花した独立した徒長枝が開花後、35 度(今年 9 月にはしばしば 35 度以上になったという、日
本でも 30℃以上になるが)までも数回上昇して、高温障害が発生して枝葉が枯れる。
当地の枝枯症が解決できなかった背景には、世界的に温暖化が進行する中で、高温障害に対する温州ミ
カンの生理、品種間差異等の知識不足と導入品種の因果的な不運が重なった結果であるといえよう。
S-353
以上のことから高温障害による枝枯症が珠心胚の早生系温州みかんで多く、また開花期に達した 4~5
年生で特異的に発生する原因が理解できる。
(ウ) 対策
①着花過多防止と新葉を発生させる
剪定
気温が高い当地では春梢の発生密度は低いが春梢は長く徒長し枝葉密度が低い。そのため光が長時間あ
たる陽葉が増えて日陰の陰葉の割合が減る。陽葉が増えると花が増え、新葉が減って、旧葉の割合が増
す。したがって植え付け後の 2~3 年生の苗木では、初夏に摘芯して夏枝を多数発生させて枝葉密度を高
めて、枝葉相互で遮光し合うようにする。そうすると陰葉の割合が増え、生殖成長を遅らせ着花を抑制
できる。
3 年生の秋あるいは 4 年生の春に剪定を実施して着花を抑制する。
5 年生以降の成木では、従来の樹冠内に光を当てる間引き剪定でなくてトッピングを行い樹冠上部に新
葉を発生させ、樹冠内は枝葉密度を維持させる。その目安となる葉面積指数(樹冠専有面積当たりの葉
の重なり程度)を 8 くらいに維持する。
施肥:新用の発生を促進するため、春肥や初夏の追肥を窒素主体で施用する。
ウイルスフリー苗の利用:樹勢が良好で新葉が発生しやすく結実初期の着花が少ないウイルスフリー苗
を利用する。
②遮光
植え方:東西の列植えより南北は植え間を狭くして南北の列植えにすると木相互が重なりあって遮光さ
れる。木が混み合ってから間伐する。
遮光ネット:3~4 年生時には遮光ネットあるいは布などで樹冠上部を遮光して、着花を抑制し、着花過
多樹では開花後遮光する。
2) 温暖化と消費に対応した品種の紹介
日本の品種の紹介
温暖化と消費の変化する中で、農水省や愛媛県で開発して注目される品種を紹介した。日本も年平均気
温が 1℃以上上がって、温州ミカンは隔年結果性が増大し、また果皮障害も発生するなど高品質安定生
産が難しくなっている。その一方で暖化を逆手にとって、愛媛県や農水省が開発した温州ミカンとオレ
ンジの交配種のタンゴール類や、地中海や亜熱帯で生産されるブラッドオレンジを導入したり、グレー
プフルーツ類似の河内晩柑の生産も増やし、春期から初夏の供給量を増やしている。温暖化の中で日本
の食スタイルも変化し、これらの品種はスウィーツやジューススタンドへの需要の増加にも対応できる。
この時期(10 月)は北半球ではかんきつ生産の端境期であるが、シアトルの市場においてもオーストラ
リア産のブラッドオレンジのモロがヴァレンシアオレンジよりも 3 倍程度高価に販売されているのを紹
介し、近年のアントシアニン系のワインやブルーベリーが流行であり、それを有するブラッドオレンジ
中でも亜熱帯で高品質のモロの生産は可能性が高いのではないかと推薦した。
またアジアに起源を有するタンカンは潰瘍病にも強くて、特徴ある香りもあることから当地に適性が高
いと紹介した。
(2) 指導の成果と指導分野に関する今後の課題あるいは今後さらに指導が必要な事項
・温州ミカンの枝枯症が現地園の調査から高温障害であると断定できた。そうした結論は我々の温州ミ
カンの蒸散能力がオレンジや文旦類に比べて低く、葉温が高まりやすいとういう事実から容易に導かれ
る結論である。
S-354
・枝枯症発生する 3~6 年生の期間は、耕種的な対応として花を少なくして新葉の発生を促進させる剪定
法が必要である。愛媛県では温州ミカンや伊予柑においてこうした場合、花肥や細かい剪定が実施され
るが多大な労力を要する。そのため当地において、温度が高くて省力的な剪定法を試験する必要がある。
・私は今後当地でモロの産地化が強く関心がある。
(3) 専門家の所感意見
・20 数年前私の周辺の専門家がこの問題に当地に指導に行き、学会などで枝枯症は原因不明の土壌細菌
病と報告されていた。17 年前ミネオシスの柑橘農家菊江氏が宇和島市に研修に来られ土日に私の農園で
摘果作業をしつつ枝枯症について語り合った。その時私の見解を聞いた現地の菊江氏がぜひ指導に来て
ほしいとずっと要望され、今回、ようやくその機会を得た。現場の観察より、これが高温障害であると
確信できた。
・私は愛媛の柑橘を見ていた臨床医であるが、気象やかんきつ生理に通じ、フロリダ大学や、シシリア
のかんきつ研究所らと品種やブラッドオレンジについて相互に情報交換していた経験があった。両者と
もフロリダやシシリアの柑橘産業の指導的立場にあって愛媛の私と同じ立場であった。
・17 年前行っていたならと残念である。菊江氏も 72 歳でリタイアし、若い後継者はみかんの将来を悲
観しており、ある若い後継者はワイン用ブドウを、若い沼田氏はステビアの導入を考えていた。多雨の
当地のブドウの品質は乾燥地のそれに負けるし、山ブドウならどうだとも助言した。同行した湘南香料
大崎専務によるとステビアも採算が合わないという。当地の温州みかんは生産者も園地も多くが疲弊し
ている。そうした日本人組織の中で、今からも温州みかんで立て直しあるいは世界の柑橘事情に合わせ
てオーストリアのようにモロ等を導入して産地を再生するには、当地域との情報交換したうえで早急な
支援が必要であろう。
柑橘も人同様病気が出れば的確に原因究明する必要があり、問題解決が遅れると致命的となることはこ
の事例でもわかる。
今回のアルゼンチンへの調査は、ベテランみかん栽培家の松浦氏と、大手企業へジュース素材を供給し
ている湘南香料㈱の大崎専務(化学が専門)も同行した。枝枯症についてそれぞれの意見も聞けてより
確信できた。また世界のジュース加工情勢も大崎氏(秋田工場、シアトル工場を有し、シシリアのレモ
ンやカリホルニアのネーブルオレンジを輸入しているなど)から紹介できて、当地の農家の関心も極め
て高かった。
S-355
興津早生
南香
タンカン
S-356
6.5.3 IPTDA 人工授精
6.5.3.1 基本情報
1.1
目的
日系農業者の農業技術等の向上に資する技術研修の対象国の要望を踏まえ、
現地において研修を実施する。日系農協の一部では、換金農産物として栽培
作物と共に家畜(主に肉牛)も取り扱っており、家畜の計画的な増産、増収
を進めている中、人工授精が行える技術者の数が不足しており、人材の育成
が急務となっている。一方、対象国ではブラジルが、人工授精の技術につい
ては進んでおり、優良精子の販売等、ビジネスとして進んでいる。日系農協
での人工授精技術者の育成と共に、中南米でのブラジルの指導的役割を促す
ことも考慮し、今回の技術指導を実施することとした。
1.2
期間
2013 年 1 月 14 日~1 月 18 日(5 日間)
1.3
場所
ブラジル国 IPTDA(農業技術普及交流センター)
1.4
技術指導者
オウロフィノ(Ouro Fino)社
1.5
研修内容
肉牛の人工授精
1.6
参加者の人数
15 名(ブラジル 13 名、パラグアイ 2 名)
6.5.3.2 研修日程詳細
日数・日付
研修内容
1
1 月 14 日(月)
全日:人工授精についての講義
2
1 月 15 日(火)
午前:講義
午後:実習
3
1 月 16 日(水)
全日:実習
4
1 月 17 日(木)
午前:人工授精の有効性についての講義
午後:実習
5
1 月 18 日(金)
午前:実習
午後:研修終了試験(オウロフィノ社より研修終了証明書授与)
6.5.3.3 研修受講者リスト
研修生一覧
No.
氏名
出身国・所属
1
Marcelo Massami Uzumaki
ブラジル:ジュアゼイロ農業協同組合
2
Edson Shinji Matsuzaki
ブラジル:トメアス総合農業協同組合
3
Elton Daisen Takaki
ブラジル:トメアス総合農業協同組合
4
Atsuko Elizabeth Ito
パラグアイ:イグアス農業協同組合
5
Kentaro Fernando Odi
パラグアイ:ピラポ農業協同組合
S-357
6
Ana Laura Figueredo Carvalho
ブラジル:グアタパラ移住地の生産者
7
Jadson Oliveira Soares
ブラジル:グアタパラ移住地の生産者
8
Gustavo Antônio D’ercule
ブラジル:グアタパラ移住地の生産者
9
Marina Emi Yoshioka
ブラジル:グアタパラ移住地の生産者
10
Taína Cartiano Luciano
ブラジル:グアタパラ移住地の生産者
11
Letícia do Nascimento Falsarella
ブラジル:グアタパラ移住地の生産者
12
Marina Testa Moura de Carvalho
ブラジル:グアタパラ移住地の生産者
13
Letícia Pirani Lellis
ブラジル:グアタパラ移住地の生産者
14
Shiro Kondo
ブラジル:農業拓殖協同組合中央会
15
Mesias da Cruz
ブラジル:グアタパラ移住地の生産者
S-358
6.5.3.4 派遣専門家報告書
JATAK 農業技術普及交流センター(IPTDA)現地研修報告
OURO FINO 社人工授精講習会
日時
2013 年 1 月 14 日(月)から 1 月 18 日(金)
場所
IPTDA 内 OURO FINO 社研修施設
参加者
15 名
目的 人工授精師資格取得
講習会概要 人工授精に関する理論と実践を学ぶ
第 1 日目
午前 11 時までに集合して宿舎に入る。CKC 関係の外部研修生は前日 Ribeirão Preto 市の空港に到着、ホ
テルに宿泊していたので IPTDA の送迎により時間までに着き、Guatapará その他の研修生と昼食まで自
己紹介と懇談をする。Guatapará 農牧会社経営の社員食堂で昼食後、午後 1 時から Auditório に着席して
人工授精に関する理論学習が始まった。講師は Rafael Rodriguês Corea 氏である。
開会式には OURO FINO 社の現地責任者 VANDER 氏から説明があった。
OURO FINO 社では年間を通じてこの講習会を行い、毎週 15 人の研修生を受け入れているとのこと。又
畜産の品種改良を行い肉牛と乳牛の優良品種作出に努めている。年間 50 万頭分の精子供給を行っている。
又 8 万レアルもする受精卵を販売している。50 ha の試験圃場を持ち、従業員等に供給する野菜圃場が 6
ha あることなどの社会貢献活動について説明があった。
講習生の自己紹介の後、理論学習が開始された。パラグアイから参加した伊藤さんは、最初はポルトガ
ル語が聞き取れず苦労したが、後半はかなり普通に理解できたようである。最終日に筆記試験があり、
60 点以下は不合格だと言われた。
講義内容については後述するが、初日は午後 6 時に講義終了。当地の研修生は帰宅を認められ、明朝 8
時に集合するように言われる。夕食は 6 時半には食堂に準備されているとのことであった。
第 2 日目
宿舎から下の実習場に移動して、Gustavo 氏より人工授精の実際の講習を受ける。最初は液体窒素の入
った-196℃の容器から精液のチューブを取りだして上部をカミソリの刃で切り落とし、35℃のお湯に
20 秒浸して解凍し、専用の管に差し込み注入する手順を訓練した。生きた精液を規定の時間内に正確に
子宮に注入するには、細心の注意と手際の良さが必要 である。
午後からも実習場に戻る。屠殺場から入手した雌牛の生殖器が作業台の上に 20 個程並べられていた。授
精管に見立てたプラスチックの管が手渡され、生殖器の内部に手を突っ込んで子宮頸管を探り、管をそ
の奥まで差し込む訓練をした。ゴム手袋を使い清潔に留意して行うよう教えられる。いろいろな種類の
生殖器があり、穴の大きいものや狭いものなど多種多様であった。
第 3 日目
今日はいよいよ実際の雌牛に対して人工授精を行う訓練が始まった。8 頭の雌牛が身動きできないよう
に枠の中に固定して尻尾を縛り、訓練が始まった。最初に外部をきれいに洗い、紙で拭き清潔にするこ
と。Guatavo 氏がまず実演して注意点を指示した後、研修生はゴム手袋を使って肛門に手を差し込み、
手の平を掬うようにして子宮頸管を探り授精管を膣に差し込んで子宮の入り口に授精する。2 人一組で
協力しながら交代で作業を行うが、授精管が子宮に到達したかどうか確信が持てず、Gustavo 氏を呼ん
で確認してもらった。2 時間程で雌牛を交代させ更に訓練を行う。出血している雌牛もいて、研修生の
ために本当に有難うと感謝する。
S-359
午後からは Gado Elite の牛舎に移動して、ネローレ種の品種改良された最高級の優れた牛を見せてもら
う。1 頭 10 万レアル以上の子牛がたくさん大切に飼われていた。大雨の中を宿舎に戻る。
第 4 日目
午前中は IATF という発情期統一による人工授精についての講義があった。ホルモン剤の利用によるも
ので、Sincogesto を膣に挿入して 8 日間放置する。その時に Sincodiol を 2 ml 筋肉注射しておく。そして
挿入物を取りだす時に Sincrocio を 2 ml と Sincro eCG を 1.5 ml 混ぜて注射して発情期を統一する。更に
24 時間後に Sincrodiol を 1 ml 注射しておく。粘液を見て発情期を確認し更に 24 時間から 30 時間後に人
工授精を実施する。
この方法は牛群ごとの管理が容易であり、牛群の揃いと品質の統一が可能になる。
ホルモン剤を利用すれば受胎率が向上し、人件費の節約になる。
午後は実習場で雌牛に精液を注入する訓練が行われた。女性のなかには連日の実習で腕が腫れて痛いと
言う人もいた。
第 5 日目
午前中は実習場で IATF のためのホルモン剤の挿入の訓練を行った。Sincogesto は 3 回まで使用できる。
冷凍容器から精液を取りだし解凍して人工授精器に差し込む訓練を再度行って実習は終了した。Gustavo
氏と牛群にお礼を言って、上の講義室に戻り試験をする。1 時間程で講習全体についてのアンケートと
筆記試験が行われた。質問は 10 問あり、答案用紙に答えを記載した。採点結果は 10 点から 6 点までで、
研修生全員が Cravinhos 市にある OURO FINO 社本社で社長の署名による Certificado を頂いた。
昼食後本社に移動して工場見学を行う。本社の従業員は 600 人で、畜産用医薬品や Febre Aftosa の予防
薬を生産していた。工場内は空気の洗浄まで注意が払われ、品質管理が徹底的に行われていた。Certificado
を頂いた後、記念写真を撮って動物学科の女子学生たちとお別れした。
CKC グループは IPTDA の宿舎に戻り、荷物を整理して移住地内の食堂の Restaurante Mel で IPTDA 役員
や農事部のメンバー10 人と共に夕食懇談会を行う。自己紹介を行い講習会の経験を述べて、友好的な集
いであった。
再開を約束して研修生は Ribeirão Preto 市のホテルに向かい、翌朝空港から無事にそれぞれの地に戻った。
まとめ
IATF(ホルモン剤利用による発情期統一による人工授精)とは:
人間による授精の歴史としては、1332 年にアラビアで馬に対して行われた記録がある。正確に人工授精
が記録されているのは 1784 年に Lazaro Spallazani 氏により犬の精子が採集された後で雌犬に授精させた
のが始まりである。精液の冷凍保存が可能になって世界中に普及し、ブラジルでは現在雌牛の 7%(約
百万頭)が人工授精によって分娩している。これは肉牛と乳牛を合計した数字であり、割合では僅かに
肉牛が上回っている。
人工授精が可能になったことにより、品種改良は非常に急速に進んだ。技術としては精子の雌雄分離に
よる繁殖や体外受精卵を借腹の雌牛に受胎させる方法、又は受精卵の 4 分割による大量の増殖など技術
の革新は穀物種子の品種改良に劣らず発達している。優良な雄牛の精子と優良な雌牛との交配は、理想
的な品種作出のために研究されている。
ホルモン剤使用による発情期の一致は牛群の管理を容易にし、効率を高めている。人工授精師の需要も
日増しに高まってきている。実際には発情期を見分ける能力が必要で、その兆候が表れている雌牛を分
離し 12 時間後に授精させることが必要である。人工授精により雄牛は不必要となり、飼育作業員や雌牛
の事故が減少する。
精液の冷凍と解凍には細心の注意が必要で、作業場を清潔にし、必要な道具が必要な時に利用できるよ
う準備しておかなければならない。人工授精師並びに作業補助員は、自らと雌牛の衛生に留意し清潔を
保たなければならない。又一頭一頭の記録を付けることにより、正確な情報を得ることができる。
S-360
人工授精の講習会を通して畜産技術の進歩を学んだので、今後の営農に取り入れていきたいと思う。
人口授精研修コース参加者
人口授精に関する理論
人口授精の説明
人口授精の実習
実習
修了証書
S-361
6.5.4 土壌物理性
6.5.4.1 基本情報
1.1
目的
日系農業者の農業技術等の向上に資する技術研修の対象国の要望を踏まえ、
現地において研修を実施する。ボリビア国日系入植地では、近年、長年の耕
作により、含有有機物の減少、表土の硬化、保水性・排水性の低下などの土
壌物理性の劣化が問題となってきており、将来的には持続性を持った営農が
困窮することが予想されている。また、日系入植地の技術的サポート機関で
ある CETABOL(ボリビア農牧技術センター)では、これらの問題に対処す
る専門分野が弱い。一方、現在同国では、本事業の一環として大豆さび病対
策のための現地技術研修を実施しており、上記問題への対応のため、この機
会を活用し、計 4 回を計画していた大豆さび病現地指導の 1 回分を土壌保全
関連の技術指導として INTA
(アルゼンチン農牧技術院)より技術者を招聘し、
CETABOL 職員および周辺農家を対象に技術指導を実施することとした。
1.2
期間
2013 年 1 月 28 日~1 月 31 日(4 日間)
1.3
場所
ボリビア国 CETABOL(農牧技術センター)
1.4
技術指導者
アルゼンチン国
1.5
研修内容
作物と土壌の関係の正しい把握を通じての持続性を持った営農の確立
1.6
参加者の人数
37 名(CETABOL 職員および周辺農家)
Rodolfo C Gil(INTA:アルゼンチン農牧技術院技術者)
6.5.4.2 研修日程詳細
日数・日付
研修内容
1
1 月 28 日(月)
午後:地域の技術者、CAICO および CAISY との会合
2
1 月 29 日(火)
全日:土壌水分計の使用方法の実習と実演
3
1 月 30 日(水)
全日:CETABOL の実地エリアにて機材の実演
土壌物理性に関する研修
4
1 月 31 日(木)
全日:オキナワ第 1, 2, 3 移住地の生産者とともに視察
6.5.4.3 研修受講者リスト
専門家派遣指導実施日:2013 年 1 月 30 日
指導実施場所:CETABOL
氏名
No.
所属
1
Tsutomu Ota
CAICO
2
Pablo Kikuyama
CAICO
3
Javier F. Lanco M.
Okinawa-2
4
Fernando Kikuyama
Okinawa-2
5
Hugo Kikuyama
Okinawa-2
6
Erick Tsukayama
Okinawa-1
7
Hugo Oyakawa
Okinawa
8
Yukitaka Shomida
Okinawa-1
9
Iver Eguez Osinaga
Okinawa-1
10
Tomoaki Yara
CAICO
11
Mitsunobu Inoue
Okinawa-1
S-362
12
Carlos Carrizales
Okinawa-1
13
Juan Ramón Paz Roca
Okinawa-1
14
Oscar Ishizawa T.
CAISY
15
Jaime Mamani Arce
CAISY
専門家派遣指導実施日:2013 年 1 月 31 日
指導実施場所:Okinawa 1, Okinawa 2, Okinawa 3
氏名
No.
所属
1
Yonny Cruz
CAICO
2
Juan Carlos Cartogena
CAICO
3
Tomohide Tsukayama
Okinawa-2
4
Kaoru Tamashiro
Okinawa-3
5
Yasuhiro Nakamura
Okinawa-3
6
Tomohiko Onoga
Okinawa-2
7
Sakae Asato Miyasato
Okinawa-3
8
Yasuyuki Sadoyama
Okinawa-2
9
Kazuhiko Ishiki
Okinawa-1
10
José Miguel Gonzales
Cetabol
11
Yusaku Hosokawa
CAICO
12
Yasushi Nakamura
Okinawa-3
13
Florentino Vedia Flores
Cetabol
14
Bautista Camama Rivero
Cetabol
15
Kenji Bravo
CAICO
16
Tamashiro Taminato
Okinawa-3
17
Juan Cesari
Cetabol
18
Ronald Diaz T.
Cetabol
19
Grover Efrain Guaygua
Cetabol
20
Chinen Ryoshin
Okinawa-2
21
Moritoshi Arakaki
Okinawa-3
22
Shingo Tsukayama
Okinawa-2
S-363
6.5.4.4 派遣専門家報告書
現地技術研修
テーマ:土壌の物理的性質に関連して
開催日時:2013 年 1 月 28 日~31 日
開催場所:ボリビア国サンタクルス県 ワルネス郡 オキナワ移住地
対象者:生産者(22 名)、CAICO(コロニア沖縄農牧総合協同組合)(5 名)、CAISY(サンフア
ン農牧総合協同組合)(2 名)、CETABOL(8 名)
合計 37 名
指導者名:ロドルフォ・C・ヒル(農学修士)
現地技術研修の内容:
イントロダクション
土壌の物理性研究により、水分の浸透、土壌の硬化、雨水の保持、収穫残留物の分解速度等を解
明することができる。結果として、得られた知識、データにより、作物の栽培における問題や土
壌の問題を原因とする事象を解決する技術開発が可能となる。
根拠
土壌物理性研修の要請の動機は、数年前から日系人や一般の生産者の畑で、土壌表面の硬化や非
常に小さい保水性、遅い水分浸透、有機物の含有量低下などの問題が見られるようになったこと
である。このことより、CETABOL は土壌物理性に関する技術指導を行うため、ロドルフォ・ヒ
ル専門家を招聘した。
目的

診断と提案を目的とした農地の調査パラメータの評価と手法の確立
期待される結果

土壌物理性観察のための理論と実践的ツールの入手

土壌の物理性診断を生産者が要請できる体制をつくる
研修の展開
研修は 1 月 28 日午後、地域の技術者と CAICO、CAISY との会合で、専門家に地域の現状、土壌の
特徴、生産者の畑で見られる目視される問題などの情報を提供した。その中で、地域の生産者も同
行しての、オキナワ第 1, 2, 3 移住地の技術巡回について提案された。巡回の目的は、現状に適した
判断し、問題点を明らかにし、また畑でどのように正しく診断するかにある。
29 日には専門家から提供された土壌水分計(水分浸透、透水係数を測定する機器)の使用方法の実
習と実演が行われた。この機材の持つ利点は、迅速かつ限られた土壌表面から最小範囲で、土壌を
乱すことなく直接計測ができる点である。また、操作も簡単でデザインもシンプルであり、衝撃に
も強い素材で、研究にも、また診断や生産者の畑への助言にも大変役に立つものである。
30 日は CETABOL の実地エリアで機材の実演が続けられた。
その後、31 日に予定されていた生産者への実演用の材料を準備した。
引き続き土壌物理性に関する研修を行い、最終日(31 日)にはオキナワ第 1, 2, 3 移住地の生産者と
ともに、視察が行われた。
生産者からの関心は高く、多くの質問が専門家に寄せられた。専門家からのコメントは、以下のと
おりである。
S-364

粘性土の土壌 1 メートルは 400 mm の水を貯える。うち、130 mm を作物が利用し、そのう
ち容易に利用可能なのは 70 mm である。

孔隙が大きい場合の土壌はその構造にもよるが、孔隙が小さい場合の土壌は、どのように
管理するかによって保水性が決まる。小孔隙の直径を 10 分の 1 に縮めると、水分浸透は
10000 分の 1 に減少する。同様に、大孔隙を改善すれば、水分浸透に同様の良い効果がある。

粘性土は膨張と収縮の力学的作用があり、理論的には、亀裂が発生することで、土壌硬化

土壌含有の有効水分は作物の種類によって、以下のとおり変化する。
を防ぐことができる。しかし砂地の土壌ではその作用は働かず、容易に硬化する。

-
トウモロコシ:1 mm の水で 24 kg 生産する
-
大豆:1 mm の水で 9 kg 生産する
最後に専門家より、アルゼンチンに生産者グループのようなものを作ってはどうかと提案が
あった。これは、生産者がグループを形成して、グループとして技術者を雇用し、予め生産
に関する問題の解決策を検証するワークショップを開催する。続いて、各グループは 3 年の
プロジェクトを行い、最終的にそれを継続するかどうか、グループで検討するというもので
ある。
現地技術研修の反省点・改善点
-
生産者が地域の専門家や技術者に同行して視察に参加するよう、彼らの関心を集めるための
戦略が必要である。
今後のテーマ又は要望
-
検査された畑で改善が見られたかどうかを判断するため、決められた期間内のデータを評価
する。
-
オキナワおよびサン・フアン・デ・ヤパカニの畑の土壌物理性診断のための研修
参加者のコメント:
-
研修期間を 5 日に増やすと良い
-
土壌物理性のテーマは入植地では新しく重要であり、継続して必要となる
その他:
研修の写真
土壌の特徴の説明、大豆畑、オキナワ
土壌の浸潤と透水性の機材実演
第 3 移住地
S-365
土壌の保水量の説明
土壌の特徴の説明、トウモロコシ畑、オキ
ナワ第 2 移住地、CETABOL の実地エリア
圧縮問題の説明、トウモロコシ畑、オキナワ
第 2 移住地、CETABOL の実地エリア
重埴土(粘土質、埴壌土)についての
説明、大豆畑、オキナワ第 1 移住地
S-366
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