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フランス日本語教師会便り - e-AEJF

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フランス日本語教師会便り - e-AEJF
フランス日本語教師会便
フランス日本語教師会便り
日本語教師会便り
Association des Enseignants de Japonais en France
第 31 号
さて、いつものように前号よりの2ヶ月間の活動報告をしま
会員の
会員の皆様
すと、11 月 27 日に第 23 回定例勉強会が予定通りパリ日本文化
会館で行われました。前回に続いて今回もまたグルノーブルよりい
新年明けましておめでとうございます。
らしてくださった竹内泰子先生をお迎えしての勉強会でした。
日本人とフランス人のメンタリティーの違いがどのように会
12 月 26 日に南アジアで起こった津波の大災害で 2004 年の年
話に反映しているか、フランス人に日本語を教える教師として
が暮れ、2005 年の年が明けました。とはいえ、会員の皆様には
心得ておくといいのではないでしょうか。参加会員の勉強会報
お元気でよいお年をお迎えになられたことと存じます。 « 雨
告が載っていますので、ご一読ください。
降って地固まる »の喩えのように、この天災を契機にお互い助
け合いの精神で人類平和が築かれることを祈りたいものです。
次に、フランス日本学研究会(SFEJ)が 2 年毎に開催する
また、もっと身近なところでは、私どもの生活の糧であり、心
日本学研究学会が今年はストラスブール/コルマールで 12 月 17
の糧である日本語教育がさらに発展しますよう、いろいろな活
日から 19 日にかけて盛大に行われました。講演ならびに分科
動を通して、今年も一緒にがんばりましょう。そして、本年が
会にての多数の研究発表より構成された密度の高い学会でし
皆様にとって実りの多い年となりますよう、お祈りいたします。
た。AEJF 会員の 7 名の方が «文学 »と «言語・コミュニケーシ
ョン »の分科会で発表されました。また、最終日の 19 日には
私たちの会も来る 5 月で設立 8 年になります。本誌とともに
SFEJ の総会が行われ、国際交流基金日本語事業部の岡部長が
会員名簿を同封いたしましたが、会員数も 130 名に上っていま
基金の日本語教育政策について説明された後、最後に AEJF 会
す。会員の皆様、また諸機関の暖かいご支援により活動も順調
長の石井が会の紹介と日本語教育の重要性を訴えてまいりま
に行えています。また、対外的にも私たちの会はその存在が認
した。
められるところとなりました。会員の皆様方の積極的なご協
力・ご参加によりここまで成長することができました。フラン
AEJF の今後の活動としては、次回勉強会を予定通り 2 月 5
スにおける日本語教育の振興に貢献すべく、会の活動内容をさ
日(土)にパリ文化会館で行います。今回は数年前に何回にも
らに充実したものにするよう役員一同労力を惜しまない所存
わたりご講演いただいた、 かの有名な« 重箱文法 »の江副隆
ですが、会員皆様からのさらなるご支援を心より期待いたして
秀先生を久しぶりにお迎えしての勉強会です。新宿日本語学校
おります。よろしくお願いいたします。
がエキスポラングに参加するべく江副先生がパリにいらっし
ゃいますので、その機会に勉強会をお願いしました。斬新でユ
年頭に当たり、会の今年の抱負をお話ししますと、第一に、
ニークな江副先生の文法、特に “構成語”という独特な概念
フランスにける日本語教育の年来の懸案であった、日本語のバ
と新しい視点からの動詞分類を中心にお話いただきます。大い
カロレアの諸問題、アグレガシオン(Agrégation
にご期待ください。勉強会の要旨をお読みになり、皆様のご参
de langue et
culture japonaises ) の 定 期 的 な 設 置 、 日 本 語 の CAPES
加をお待ちしております。
(Certificat d’Aptitude au Professorat de l’enseignement du
second degré) の開設、などの制度的な問題、さらに日本語教
また、オルレアン大学で行われる今年度のシンポジウムにつ
育の内容的な問題をフランス日本研究学会(SFEJ)とともに、そ
いては、
皆様にはすでに案内状を 12 月にお送りいたしました。
の解決・改善に向かって努力して行きたいと思います。第二に
すでに発表あるいは参加を申し込まれた方もいらっしゃいま
は、国際交流基金・パリ日本文化会館に本会が全面的に協力し、
すが、申し込まれていない方はお早めにお願いいたします。実
フランスにおける日本語能力試験実施に大いに貢献したいと
行委員の国村千代さんとともどもお待ちしております。
思います。どちらも非常に重要な課題です。腰をすえて取り掛
それでは、次回勉強会でお目にかかるのを楽しみにしており
からなければならないことですので、皆様のご協力をお願いい
ます。
たします。
役員一同(文責
1
石井陽子)
象について質問した時に、回答は、他者の力が加えられないで
お 知 ら せ
起こった動詞で答える」という訳のわからない説明をしなけれ
ばならなくなるのではないだろうか。
このオーソドックスな発想の場合、初級の学習をしてしばら
2004-2005 年度 第 24 回定例勉会
くしてから自動詞・他動詞の勉強に入ることになる。すると、
学生は実に難しい学習の局面に遭遇しなければならないこと
日時:2005 年 2 月 5 日(土)
になる。そこで、学習者の負担を軽減するために初級の一番最
14 時 30 ~16 時 30 分
初の段階から、「開く・開ける」とか「閉まる・閉める」のよ
会場:パリ日本文化会館
うにセットで教えてしまう方が後ではるかに効果があがるこ
101bis, quai Branly, 75740 Paris
とがわかる。こうした教授法のことまで含め、今回の講座をや
(地下鉄 6 号線、Bir-Hakeim 下車)
って見たいと思っている。
プログラム
☞
テーマ:構成語と新しい動詞分類
講師
すでに参加したいと連絡をいただいている方もいらっし
ゃいます。参加される方が多くなりそうですので、会場準備の
:江副隆秀 (新宿日本語学校)
ため、できる限り事前に参加を希望する旨をお知らせいただけ
たら幸いです。
要旨
「日本語の助詞は二列」については、既に、フランスでの研
2004- 2005 年度 勉強会プログラム
予定)
勉強会プログラム (予定
予定
修会で説明したことがある。今回は、「日本語の助詞は二列」
という考え方を持ち込むと、助詞の数が急激に減り、現在、助
◆
詞と呼ばれているものの多くが「品詞構成語」に変わってしま
読書会
テキスト:未定
うということについて述べてみたいと思う。また、この考え方
担当:天満伸子
の延長には、自動詞・他動詞と呼ばれるような関係ではない、
2005年6月26日(土)
日本語独特の動詞の組み合わせができることを説明してみた
パリ日本文化会館
い。
日本では、電車の車掌さんがドアを閉める時に、しばしば「ド
第 7 回フランス日本語教育
フランス日本語教育シンポジウム
日本語教育シンポジウム
アが開きます」とか「ドアが閉まります」と言う。そこで、「開
く」とか「閉まる」という言葉を調べると、多くの場合、「自
フランス日本語教師会 主催
動詞」という説明が付く。「自動詞」を調べると「自動詞の場
期日:2005年5月6日(金)- 7日(土)
合は、自然力の影響などで出来事が起こったのであって、そこ
会場: Université d ‘Orléans, Faculté des sciences
には人間などの意志(意図)は含まれていない」(「初級を教
1, rue de Chartres, BP 6759,
える人のための日本語文法ハンドブック」97p スリーエー・ネ
45067 Orléans Cedex 2
ットワーク、2000)のように書かれているのが普通だ。
テーマ:
しかし、電車のドアが自然に開いたり、閉まったりしたので
「日本語教育の地平線 – 外国語を学ぶもののまなざし」
は危なくて電車に乗っていられない。要するに、これは、情報
► 講演:宮崎 里司 教授 (早稲田大学)
の数で動詞が変わるのであって、情報が一つの場合は、「○○
Chantal CLAUDEL 助教授(Université Paris 8)
が開く」とか「○○が閉まる」になり、情報が二つだと「○○
星 亨 日本語講座主任講師(ケルン日本文化会館)
が××を開ける」とか「○○が××を閉める」と考えた方が自
► ワークショップ
然ではないかということになる。そうなると「電気、消した?」
► 研究発表・実践報告
と言う質問に対し、「消えているよ」とか、「鍵かけた?」と
言う質問に対し「かかっているよ」という会話が存在すること
参加および発表申込み締切り:2005 年 3 月 20 日
が普通であると理解できる。
申し込みと問い合わせ:国村千代
8, rue Saint Martin du Mail, 45000 Orléans, FRANCE
もし、これを先ほどの自動詞・他動詞という説明でしようと
すると、あたかも他動詞で質問した時に、自動詞で答えるとい
Tel : +33 02 38 62 35 81
うことになってしまう。
Fax : +33 02 38 41 73 25 « à l’attention de Mme Chiyo
KUNIMURA »と明記の上、お送りください。
それでは、「他者の力が加えられることによって起こった現
2
事務局より
Email : [email protected]
会員の皆様には案内状ならびに申し込みが 12 月に郵送されて
➢ 年会費納入について
おります。皆様のご参加をお待ちいたしております。
年 会 費 は 31 ユ ー ロ で す 。 同 封 の 納 入 書 と と も に 小 切
手 を 事 務 局 ま で お 送 り く だ さ い 。な お 、小 切 手 受 取 人 は
国際交流基金「
国際交流基金「みんなの教材
みんなの教材サイト
教材サイト」
サイト」
AEJF で す の で 、 ご 注 意 く だ さ い 。
英語版の
英語版の開設
未 納 の 方 に は 未 納 通 知 が 同 封 し て あ り ま す の で 、即 刻
お支払いくださいますよう、お願いいたします。
国際交流基金より以下のお知らせが事務局に届きました。
➢ 本年度の会員証が同封されています。この会員証を
「みんなの教材サイト」は 2002 年5月にまず日本語で開設さ
提 示 し ま す と 、 書 店 《 Culture Japon》 に て 書 籍 を 10%
れましたが、英語圏での利用を促進するために、今回英語版
割引で購入できます。
(http://jpf.go.jp/kyozai/English/index.php) が 2004 年 12 月 16
Culture Japon : パ リ 日 本 文 化 会 館 1 階
日に開設されました。ここにお知らせいたします。
101 bis, quai Branly, 75740 Paris
Tel : 01 45 79 02 00
AEJF ホームページ
➢ 教師会のメーリングリストでも情報をお届けするこ
ホームページアドレス:http://e.aejf.free.fr
と が あ り ま す 。メ ー ル ア ド レ ス が 変 更 さ れ た 場 合 に は 必
(始めの «e» は Email の «e»)
ず 事 務 局 ま で そ の 旨 を お 知 ら せ く だ さ い 。そ の 場 合 、
“ l”
パスワード(mot de passe):mdpaejf
(英 字 の エ ル )か“ 1 ”( 数 字 の イ チ )、“ o”( 英 字 の オ ー )
ホームページ上の「archives」には「教師会便り」全号が保存
か “ 0 ”( 数 字 の ゼ ロ )、“ - ” か “ _ ”、 を 明 確 に し て く
されており、このページは会員でないと見られません。このペ
だ さ い 。ま た 、変 更 し て い な い の に メ ー ル で 情 報 を 受 け
ージへのアクセスは上記のパスワードを入力してください。
ていない方はもう一度メールアドレスを事務局までお
ホームページをより充実したものにするため、皆様のご意見を
知らせください。
お待ちいたしております。
➢ 会員名簿の所属機関欄の機関名はイニシャルではな
日本語教育関連サイト
日本語教育関連サイト
く 完 全 な 機 関 名 称 を 記 入 し た い と 思 い ま す の で 、ご 協 力
ください。
日本語教育に関するサイトは数限りなくあると思いますが、本
会と関係のあった下記のサイトをまず掲載いたします。その他
➢ 2002 年 5 月 に 本 会 が 発 行 し た 「 フ ラ ン ス 日 本 語 教 育
推薦したいサイトがありましたら、事務局までお知らせくださ
No.1」( 第 1 回 ~ 第 3 回 シ ン ポ ジ ウ ム 発 表 論 文 集 ) を ま
い。
だお受け取りになっていない方は事務局までご連絡く
http://www.kanjionline.com
ださい。一部差し上げます。
わが会のホームページを作成し
てくださっているサンテスさん(M. Jean-Pierre SINTES)の
サイト
勉強会・
勉強会・学会 報告
http://language.tiu.ac.jp 読解学習支援システム「リーディン
グ・チュー太」
(川村よし子)
http://www.tiu.ac.jp/org/labo/link/japanese/step1.html
http://www.f.waseda.jp/hosokawa/
第 23 回 定例勉強会 報告
早稲田大学 細川英雄先生のサイト
http://www.sla.purdue.edu/academic/fll/JapanProj/IME/inde
テーマ
テーマ:日仏対照会話分析と
日仏対照会話分析と日本語教育
x.html
講師:
講師:竹内泰子 グルノーブル スタンダール大学
スタンダール大学
http://www.sla.purdue.edu/fll/personal/hatasa.html
パデュー大学と畑佐先生のサイト
報告 ドゥラリウ恵子
ドゥラリウ恵子
http://www.jpf.go.jp/kyozai/「みんなの教材サイト」国際交
流基金日本語国際センター
http://www.e-aje.org
11 月27日、パリ日本文化会館に於いて竹内先生による「日
ヨーロッパ日本語教師会
仏対照会話分析」の講義を伺った。
3
今回の勉強会では実際の会話例、日本人の男性同士、フラン
6ème Colloque de la Société Française
des Etudes Japonaises ( SFEJ ) に参加して
参加して
ス人の男性同士、日本人の女性同士、フランス人の女性同士、
日本人とフランス人の女性同士をもとに以下の 3 点に重点を置
き比較分析を展開された。
1
話者交代
2
あいづち
3
意見が違う場合
1
寺脇 泰子
12月16日午後、Strasbourg の空港に降り立つ。フラン
ス南西部 Albi とは、構えが違う。ドイツ的情緒が漂っていると
日本人の男性同士の会話例をヴィデオを通し観察し確認
感じたのは私だけだろうか。
できたことは、話し手と聞き手の役割が明快であるということ
である。聞き手は声もジェスチャーの控えめなのに対し、話し
本来なら、フランス日本研究学会の例会は2年毎に Paris で
手は相手の反応を確認しながらゆっくりと話を進める。その構
開催されるらしいが、今年はここ Strasbourg 。今夏、バカン
造は開始「なんか・・・」から始まり、事の説明、自分の思っ
ス中に素通りしただけのこの町、前日到着幸いと、小じんまり
たことを経て「だから・・・」で結論を出し終了に至る。話者
とした愛想の良いホテルに身を置くなり、足早に街へ赴く。
交代時にはしっかりと間を取り、聞き手も相手の話の終了を確
街頭は、 marchés de Noël で人盛り。しばれるような寒さに
認した上で行われる。この1つのフロアに要する時間が、日本
vin chaud ならず、 jus de pomme à la cannelle でポッと暖
人の場合は平均 30 秒から、2,3 分というのに対しフランス人に
まる。La
於いては平均長くても 30 秒と話者交代が頻繁であり、発話の
夜を 満喫した。
重なりも見られ大変に転回が速い。
2
共感、疑問、発見等のあいづちは日本人女性の場合は平
12月17日午前、Université Marc Bloch( UMB) にて
均2秒毎でありフランス人の女性の平均4秒に対しかなり頻
Colloque 開幕。
繁の行われているといえる。
3
Cathédrale, le Grand Sapin と Noël 気分最高潮の
今 回 の 開 催 に 際 し て は 、 Centre d’Etudes Japonaises
日本人の特徴としては、たとえ意見が違ってもはっきり
D’Alsace (CEJA) と こ の 大 学 の Département d’Etudes
と同意を示さない状態に留め、相手の意見に歩み寄るという形
Japonaises との2人3脚の成果によるところ大である。UMB
を取る事により意見の違いを示す。それに対しフランス人の場
大学長、CEJA 会長、SFEJ 会長の挨拶に始まり、初日のテー
合は最後までそれぞれの考えを主張する。
マ、 “Le corps dans les arts de la scène” のもとに、東大の松
岡心平氏の開会講演、"日本芸能の身体の革命者としての世阿弥
以上ざっと内容を取り出してみたが、普段聞きなれているフ
"と題して、動十分心
ランス人の会話と日本人の会話も細かく分析してみると面白
動七分身説("花鏡" 世阿弥中期の能楽論
集)は、大変興味深く、共鳴すること多大。彼のあくまでも、古
い。聞く事を教育された日本人と主張する事を教育されたフラ
来からの伝統重視の構えに。
ンス人の差が鮮明に理解できる。先日ラジオで、パリ市内でカ
ウンセラーに通う日本人が圧倒的に増えており、その理由とし
一方、京都の立命館大の八村、赤間両氏の古典芸能のデジタ
てフランス人の攻撃的な言葉に傷付いているということが報
ル化と銘うった、近代技術を駆使した、日本芸能の後世への伝
道されていた。これは常に全体の中の一人として他人との調和
承を図る姿勢に、東は東京、西は京都の東西論議に花が咲き、
を保つという国民性の中で生きてきた日本人にとって、相手の
芥川賞作家の平野啓一郎氏も交えて,益々、議論が盛んになっ
意見を単なる情報として受け入れる事がいかに難しいことか
たいいところで、時間切れ。心地よい余韻を残して,街へ繰り
という事を物語っているように感じた。同時にこの我々が作り
出す。
上げてきた日本の文化を、今度はフランス人にどのように伝え
るかという事を考えるとき、今回のテーマは日本語教育に携わ
夕食は学食と言えば、大学を卒業して以来、久々の事。教師
る私達一人一人がさらに追求していくべき問題なのではない
会のメンバーや顔見知りの友人達と歓談しながら、食後は、小
だろうか。
雨の中を Strasbourg 見物。不思議なもので、皆と一緒なら、
雨も気にならず、Théâtre の Bar で一息暖まる。
以降、バスで Colmar まで移動。
12月18日午前、CEJA の設備の揃った、緑豊かな会場で
Art,
Société,
Littérature,
Economie, Histoire,
4
Langue
et
Communication,
Art du Spectacle と各 session に分か
れて、研究発表が始まる。
本題に入って、もうテープ収集は終わられたのですか。今回
まず驚くのが、ほとんど全員が流暢な日本語を操る。
は、初級と中級の差をどう考えるか。という点でご意見を伺い
社会、経済、歴史などを主に回った。良く研究準備されている
たいのですが。いつも、OPI の前には、マニュアルを頭に入れ
ものが大半であるが、中には理論詰めの現実離れ、表面的な知
て、テープや CD で典型的な例を聞きなおして自分の展開をイ
識のものもあり、少し残念であった。
メージして臨むようにしているのは、私も同じで、テスターに
なったといっても、毎日インタビューするわけではないので、
夕方まで発表は続き、昼食には、かの有名な Choucroute aux
これを繰り返さない限り、できたことができなくなるという点
fruits de mer と粋な計らいの bûche。 夕食には、打ち上げと
で、運動能力のような部分もあるように思うのです。
いう感覚で、各テーブルに vin rouge, blanc が配置され、
初級と中級の大きな差は、どんな文で話すことができるかど
fromage, déserts, café と l’Ecole de l’Assomption は俄かに、
うか、という点を私は指標にしています。被験者が、私の質問
レストランへと早や変わり。
を理解できても、はい、いいえ、でしか答えられない、あるい
は、質問文を鸚鵡返しに答えにする時は、自分で文を作ってる
後、日本独自の舞踏の創始者、土方巽の夏の嵐、上映。熱い
とは言えませんね。その後、選択疑問文や、どこへ、なんで、
議論が夜11時半頃まで続く。
という疑問文を使って、文で答えられるような質問設定をする
のですが、初級学習者は、ほとんどの場合、語を発するだけで、
12月19日午前、SFEJ の Assemblée Générale に引き続
き、国際交流基金日本語事業部長の基金の方針の説明、次にフ
まとまりのある答えをすることができません。失敗例ですが、
ランス日本語教師会の紹介が石井会長より行われる。
答えを求めるのを急ぐばかりに、私が質問を出し続ける尋問の
ような状況が生まれてしまうこともありました。OPI で初級と
ジュネーブ大の二宮氏の閉会講演、思想家、批評家、詩人で
判定した学生に教え始めてみると、質問を理解できて練習問題
もある保田與重郎についてであるが、途中帰路、アルビでは珍
で文を作ることができるのに、会話で文が出てこないのは、ど
しい大雪の中、空港まで急ぐ。
うしてだろうと考えるようになり、今では初級の初めから、習
幸い、飛行機にも乗り遅れず、無事家路に着いた。
った文が会話でどう現れるかと意識して練習をするようにな
りました。
今回初参加であったが、日本研究の各分野に精通した人々と
また、中級では文を作れるという点から、逆質問と呼ばれる
の出会い、交流の場であり、各人の気持ち次第で、得られる事
被験者が私に向かって、質問をするよう促すという設定も、効
も多いと思う。また刺激にもなろう。
果があると思います。ただし、多くの場合、被験者は初対面で
思い切って参加して、良かったと思っている。
日本人と話したことがないことも多いので、答えにつまってし
特に、CEJA のスタッフには、お世話になった。
まうという場面を作ってしまって、困惑させてしまったことも
この場を借りて、お礼を言いたい。
ありました。文化的な側面から考えれば、知らない年長者に、
質問はあまりしませんね。困った被験者は、何歳ですか。フラ
ンスが好きですか。と逆に私が答えに窮するような質問をして
O P I コーナー
きて、自分の年を言いたくない自分に気が付いたり。
私の初級、中級のレベルわけのひとつの考えをまとめてみま
したが、萩原先生はどうお考えですか。テープの提出日も近づ
OPI 日 記
いて、お忙しいでしょうが、お返事いただけたら
うれしく存
じます。
11 月 15 日
それでは
また。
内田陽子
萩原先生
パリでは、お目にかかったのに、ほとんどお話できなくて残
11 月 28 日
念でした。たまにパリに行く機会があると、あれもこれもと欲
拝復
張りになって、今回は、グランパレで日本の屏風絵と浮世絵の
内田陽子先生、御元気そうで何よりです。私の方は昨日の勉
展覧会があって、浮世絵の出現とその作者のスタイルの発展が
強会に合わせてまたパリに来ていまして、都会の良い刺激を受
一つの流れとして見えたこと、そして、これだけのコレクショ
けています。
ンがフランスに集まるほどのオリエンタルブーム、19 世紀のフ
この間、学生達から OPI を採集し、練習段階の課題であるテ
ランスがアジアをどう捉えていたのか、考えさせられるもので
ープを 4 本、即ち規定通りに 8 人分の OPI を、トレーナーの山
した。
内先生宛てに 11 月 25 日付けで送りました。まずその経緯を報
5
告致しましょう。
な文を自発的に生成出来るかどうかという点に顕著に現れる
私が受講したワークショップが 6 月 16 日から 19 日まででし
という点です。仰る様に「質問を理解できて練習問題で文を作
たので、練習段階にしては随分遅いと思われることでしょう。
ることができるのに、会話で文が出てこない」初級の学生は、
ですが、私が ACTFL に資格取得の申請書を郵送したのは、規定
習い覚えた表現の再生を越えた、自律的な発話のシステムを頭
通り、ワークショップ受講から 45 日以内の 7 月 25 日で、ACTFL
に確立出来ていないからではないでしょうか。言ってみれば補
がそれに応えてメールで説明をくれたのは、申請書の日付けか
助輪付きの自転車に乗っている様に、自分で姿勢を保って走っ
らきっちり 1 箇月後の 8 月 25 日でした。ACTFL によると、私の
ているのではないからでしょう。
提出期限は 8 月 25 日から 3 箇月だそうなので、私は締め切り
また、私の被験者でやり難い年齢層と感じた人は、まだ特に
を守って練習段階のテープを提出出来たことになります。
いません。私としては、例えば年輩の恐れ多い先生に被験者を
既に 9 月、ボルドーで超級の 2 人分が録音出来ていたので、
御願いする様なことになれば、かなりやり難そうな気がします。
今回の提出のためには超級以外の OPI を集める必要がありまし
逆に被験者が話し難いことの無い様、私の方はいつも努めてに
た。
こやかに話しているつもりですが。
私は学生達の利益を考え、2 年生以上の学生達に「1 月の前
ところで、今回の OPI 採集も、ロールカードは殆ど日本語 OPI
期試験を前に、口頭試験の模擬試験をしよう」と謳って、11 月
研究会作成のものを使いました。しかし、「口頭試験では日本
17 日から 20 日までの 4 日間、私の空き時間に 1 人 30 分の予約
語以外は話さないように」と事前に学生に注意しておいたので、
を取る形で OPI を実施しました。学生達には「これは非公式な
ロールカードも敢えて日本語版だけを使い、ロールプレイの内
練習であって義務では無い」と断っておき、授業に来ていない
容が分からない場合も日本語だけで説明しました。そのために
学生にまでは周知徹底しませんでしたが、それでも充分な人数
時間を取られることが多かったので、次回からは、「インタヴ
が集まりました。予約して来なかった不埒な奴等や、直前にな
ュー中、フランス語は厳禁」として、ロールカードは素直に英
って辞退した控え目な人等がいたものの、合計 33 人の OPI が
語版を使おうかと思います。
採れました。皆、真剣に挑んでくれました。
また、初の試みですが、超級かどうかを試すためのロールプ
採集した OPI は全部繰り返し聞いて慎重に判定し、学生達に
レイの一環として、以下のロールカードを自作しました。
は私の判定を与え、その基準も説明しました。OPI の概念自体
「あなたは日本の社会についてレポートを書くために資料を
は学生達に語っていませんが、私の判定が客観的な絶対評価で
集めていますが、良い本が見付かりません。先生にそのことを
あることは分かってもらえたと思います。
相談して、先生から良い本を借りて下さい。
」
参考までに、私が判定した学生達のレベルの内訳を学年別に
これは、私が現実に於いても被験者にとって先生であるため
示してみましょう。
に、どちらに取っても感情移入し易い設定でした。
2 年生:17 人
それと、トレーナーの山内先生の本からも次の傑作ロールプ
(初級ー中:7 人、初級ー上:6 人、中級-下:1 人、中級ー中:
レイを使わせてもらいました。
2 人、上級ー下:1 人)
「あなたの親友の B さんは、
かなりのヘビースモーカーです。
3 年生:12 人
あなたはたばこが嫌いなので、一緒にいるときに B さんがたば
(初級ー中:3 人、初級ー上:5 人、中級-下:2 人、中級ー中:
こを吸うことももちろんいやなのですが、しかし、それよりも、
1 人、上級ー下:1 人)
B さんの健康のことが心配なのです。たばこがよくないもので
4 年生:4 人
あることを説明して、なんとかして B さんにたばこをやめさせ
(中級ー上:1 人、上級ー下:1 人、上級ー上:2 人)
てください。」(山内博之. 2000.『ロールプレイで学ぶ中級か
2、3 年生は大半が初級の域を出ませんが、プロヴァンス大学
ら上級への日本語会話』アルク. p.133.)
では口頭表現の授業時間が少ないこともあり、止むを得ない結
兎も角も今回は練習段階なので、上手に出来て無難に判定し
果なのです。尚、4 年生で上級ー上の 2 人は日本で 1 年間の交
た自信作の OPI よりも、判定に散々悩んだ苦戦の OPI を選んで
換留学を経ているので、流石に突出している感がありました。
山内先生に送りました。間違えていたら指導を仰ごうと思いま
内田先生が問題提起なさった様に、私にも、レベルの境界上
す。大きな間違いを犯している可能性もありますが、まだ自分
で判定に迷った OPI が幾つかありました。特に上級の下か中級
の判定回路を修復出来ると思って、提出後はくよくよ考えない
の上かの人、中級の下か初級の上かの人については、インタヴ
様にしています。
ュー中も録音を聞き直した後も、どちらなのかと逡巡し、判定
それでは、アヌシーは寒くなっていくでしょうが、良い冬を
を出すまで何度もテープを聞き直すこともありました。
御迎え下さい。
話題となっている中級と初級の差について言いますと、今回
敬具
の採集を通じて思いましたのは、二つのレベルの差は容認可能
萩原幸司
6
12 月 12 日
ともあって、自分のインタビューを聞きながら何度落ち込んで
萩原先生
しまったことか。
ずいぶん寒くなってきましたがお元気ですか。
初級と判断される学生にとっては、このようなテストを受け
今週末から年末休暇が始まります。雪が降って寒いクリスマ
るのは初めてだったり、日本人と対面で会話した経験すらない
スがやってくるかしら、と話題になるのはスキー場の多いこの
場合が多いのですから、インタビューで、緊張して上がってし
地方の会話ですね。天気予報や、雪の状態などが日常会話のテ
まうのは当然のことですね。そこで、話しやすい環境を作ろう
ーマになるのは、地域の性格だと思いますが、エクスでは、ど
とはするのですが、インタビュー者は外国語話者との会話にな
んな風に会話が始まるんでしょう。外も歩けないほどのミスト
れている好意的な相手であってはならない、と分かっていても、
ラルにはもう出会われましたか。こちらも北の山から吹き降ろ
つい教室の中のように過剰に親切になるという自分の態度が
す風が冷たくて、体中が凍りつくような日が年に何回かありま
出てきて、失敗して反省させられながら学ぶことが多かったよ
す。でも冬至を過ぎると、太陽の出る位置が毎日少しずつ移動
うに思います。OPI の中で、被験者の発する聞き取りにくい、
していくので、日の出を見ながら、春が近づくのを意識すると
あるいは間違って使われている言葉を、わからないふりをして、
いうかなり原始的な生活を送っています。
聞きなおすのが思ったよりも難しく、日常の会話でどんなに
最初のサンプルテープの提出が終わったそうで、よかったで
「助け舟」といわれる会話者同士の推測や言葉捜しの助け合い
すね。おめでとうございます。短期間にたくさんの方とインタ
が無意識に使われているのか気づかされました。OPI 判定には
ビューをなさったようで、うまくいきましたか。OPI のインタ
文法的な間違いを数え上げることはしないし、インタビュー中
ビューは 30 分以内と決められていますが、その後の聞き直し
に相手の言葉を訂正することはありませんから、判定とは直接
がインタビュー時間だけは最低かかり、判定ができないと聞き
は関係しませんが、授業では助詞や言葉の間違いなどを、適切
なおすことで加えて随分時間がかかりますね。私の時は、その
に訂正することは重要だと確信したのも OPI の結果だと思いま
上よくできたものを原稿に起こして文字で読んで評価してみ
す。その結果、どんな間違いが見られるのか知るためにインタ
たら、聞くだけの場合よりも、インタビューとしてよくない部
ビュー的な会話を使って、その結果の有効なフィードバックの
分がより明らかになって、悩んでしまったことが多くありまし
方法を考えて実践するようにしています。
た。勉強会で OPI を聞く場合は、スクリプトの有無にかかわら
今回は、中級と上級の間の差は何かと書くつもりでいたので
ず、かなり正確に判断できるようになったと思うのですが、自
すが、インタビューをすること、から私が学んだことを書き連
分のこととなると非常に悩んでしまうものですね。山内先生か
ねているうちに長くなってしまいました。よろしかったら
らのフィードバックが楽しみですね。どんなコメントや指摘を
原先生のご意見伺わせていただけませんか。師走という言葉通
下さるのか、また教えてくださいね。
りお休みの前でお忙しい毎日でしょうが、お返事いただければ
私が最初のサンプルテープを準備した時は、友人の大学の学
萩
うれしいです。風邪に気をつけて、お元気でお過ごしください。
生を借りて、インタビューの練習兼採集をしましたが、同じ日
内田陽子
にたくさんの学生とすると、集中力がどんどん落ちていくのが
12 月 31 日
自分で感じられ、質問の内容が悪くなるような気がして、今は
拝復
少しずつ採集する方法にしています。
内田陽子先生、こんにちは。こちらは先日僅かに雪が降りま
OPI に関しては、実践と失敗矯正で学ぶことが多いと思いま
したが、それでも比較的温暖な気候で過ごし易い冬です。何度
す。まず、自分のがテスターとして、どういう態度を取るか。
かマルセイユに行った時はいつも海からの風に煽られました
いい聞き手であることが、インタビューを進めやすくする術で
が、エクサンプロヴァンスには静かな空気が漂い、勉強に集中
はないかと思っていたために、私の相槌が多すぎたり、被験者
出来る良い環境だと思います。
の話題に強く反応しすぎて、ワッハッハという自分の笑い声が
内田先生のコメントに関して先ず思いましたのは、私は高橋
テープから再生されて、それに赤面したり。音声採集のマイク
清彦さん(註:元欧州日本語 OPI 研究会事務局長であられ、本
を被験者の前に置いておいたにもかかわらず、私の声の方が圧
会の会員でもあられる大先輩。御本人の意向により筆者は「先
倒的に大きかったことから、この声の大きさで被験者の緊張さ
生」とは呼んでいない)の御勧めに従い、敢えて多くの被験者
せてしまったのかもしれない、と後悔したことも度々ありまし
に対し立て続けに OPI を採ってみましたが、これが実に良い経
た。
験だったということです。
高橋さんはこれを
「マラソン OPI 採録」
と名付けておられます。
そして、話題の選び方も、被験者のおはこ(専門分野)でな
くても、詳しく
即ち、前の被験者に対する自分の出来具合を反省する間も無く、
深く、追求していける話題に出会いたいと考
次々と被験者に対応していると、自分では機械的にインタヴュ
えすぎて、らせん状に深めていくはずなのが、ただ単に執拗に
-を続けている様になり、そこで自分の OPI の様式が確立出来
聞いているだけで、まるで警察の尋問のようになってしまうこ
7
ていくという作戦です。私はこの「マラソン OPI 採録」を通し
授業で
授業で使ってみよう!
ってみよう!
て、取り掛かり始めた頃の肩の力が抜け、次第に落ち着いた対
アイデア広場
アイデア広場
応が出来る様になったのを実感しました。
また、私もインタヴュー中、被験者の間違っている発言を、
担当 グルノーブル大学
グルノーブル大学
分からない振りをして聞き直す難しさに直面しました。被験者
東伴子
にとっては、いい加減な発話も私が理解してくれるだろうとい
う甘えがあるのでしょうが、会話に於けるそうした依存関係が
あけましておめでとうございます。今年もこのアイデア広
絶たれると、発話する方は重苦しくなってしまいがちです。更
場で、皆様の日本語教育のさまざまな体験・アイデアを共有し
に被験者が心苦しく見えたのは、表現に躓き「……は日本語で
ていきましょう。ご協力お願いします。
何ですか」と発話途中で私に質問して、私が答えずに「何のこ
数年前から「ビジターセッション」という言葉が日本語教育
とですか」と聞き返した時です。インタヴュー後の授業で、如
の現場でしばしば聞かれるようになってきました。現場報告や
何なる場合も私が教えなかった理由を説明し、被験者の戦略と
研究論文も増えています。しかしフランスの教育機関では「授
して語彙の言い換えを試みる様に説きました。しかし、話を聞
業は教師がひとりで教室の前に立ってするもの」という考え方
いていない人はまた同じ失敗を繰り返すでしょう。
が根強いせいか、まだあまり浸透していないようです。また関
さて、中級と上級の差について、私がはっきりと意識しまし
心があっても、実際どのようにやったらいいのかわからないた
たのは、羅列散文的な発話の連続と、言い始めから言い終わり
め、なかなか実行に移せないという先生も多いのではないでし
まで矛盾を感じさせ無い談話との差でした。
ょうか。
中級の域を出ていないと私が判断した人は、文がかなり正確
グルノーブル大学で今年度日本語の授業を担当してくださ
であっても一文ずつしか考えられていないので、文の接続が極
っている二人のレクトリスの先生は、積極的に「ビジターセッ
めて稚拙なのです。端的に言うと、説明や叙述をする際、話が
ション」をプログラムに組み入れ、効果をあげています。 こ
前後したり、行為者の視点が不自然に代わったり、包括的な捕
の貴重な体験を、アイデア広場で今回と次回の2回にわたって
らえ方と細部の描写が脈絡無く入れ替わったりして、最後迄話
ご紹介しましょう。
せないことも多いです。
これに対し、上級に達していると私が認めた人は、説明や叙
「ビジターセッション」
ビジターセッション」(その
(その1
その1)
述をする際、2文か3文先の内容まで想定して文を言い出し、
グルノーブル スタンダール大学
スタンダール大学
最後の文迄一貫して段落をまとめているということが見て取
永井涼子
れました。
今回、ご紹介させていただくのは、「ビジターセッション」で
その上超級話者になると、先の文だけでなく先の段落も考え
られているということだと思いました。これは一般的に言って、
す。ビジターセッションとは、その大学に通う日本人留学生を
授業に招き、会話相手やタスクのアシスタントをしてもらい、
自分の思考を相手に理解させる手続きが出来ているというこ
とでしょう。私は、OPI に独特な、段落のまとまりである複段
行うクラス活動を指します。海外のいくつかの国や、日本にお
落の概念をこの様に理解しています。
ける日本語教育の現場で取り入れられている手法です。実際に、
私が日本の大学および大学院に在籍しているときも、留学生セ
ところで、先日提出した練習段階のテープに対し、トレーナ
ンターの授業にボランティアとして参加していました。
ーの山内先生からの御批判はまだ頂いていませんが、私は来年
早々、大学で前期試験の一環として口頭試験を実施することに
ここでは、ビジターセッションの授業例として、グルノーブ
なっています。そこでは一先ず、自分のテープ収集のことは忘
ル大学の授業で今まで行ったビジターセッションの内容を、反
れ、教師として試験であるインタヴューに集中し、採れたイン
省や感想も交えながらご紹介したいと思います。
まず授業例の紹介ですが、ここでは初級、それも日本語を習
タヴューの中から、判定が間違え様の無い典型的な OPI を各々
のレベルで抜き出してみようと思っています。戦略的に言って、
い始めたばかりのクラスにおけるビジターセッションを 2 例、
資格認定段階で問題なのは、判定の難しい人を見事に裁いてみ
扱います。2 例とも、昨年の 9 月から日本語を始めた学生のク
せた OPI よりも、如何にして、誰が聴いても間違え様が無い典
ラスで、授業進度も同じくらいのところで行いました。2 例の
型的な人の OPI を提出するかでしょう。ですから今度は、その
違いは、クラスにおける日本語の位置です。1 つのクラスは、
意味で無難な OPI を、要求された8本分揃えることに全力を尽
日本語を専攻しているクラス、別のクラスは、自由科目として
くそうと思っています。
日本語を履修しているクラスです。同レベルの異なる 2 例を扱
それでは、寒気には御気を付けて、良い御年を御迎え下さい。
うことで、クラスにおける日本語のニーズに合わせたセッショ
敬具
ン例としてご紹介できれば、と思います。
萩原幸司
まず、日本語専攻のクラスにおけるビジターセッションを取
8
り上げます。このクラスでは、形容詞を導入した際にビジター
を行うことができ、タスクの目的はほぼ達成できました。
セッションで“プレゼンテーションタスク”を行いました。
次に、自由科目として日本語を選択しているクラスのビジタ
このタスクの目的は、形容詞をはじめとした既習項目を使っ
ーセッションの授業例をご紹介します。このクラスでは学期末
て文を作ること、人前で発表する経験、人の発表を聞く経験を
のクラスにビジターセッションを取り入れました。内容は、自
させることです。つまり既習項目を応用するタスクです。
己紹介を中心とした復習会話です。日本人留学生には、学生の
次にタスクの方法ですが、25 人ほどのクラスを 5 人 1 グルー
会話の相手をお願いしました。20 人強のクラスを 5、6 グルー
プの 5 グループにわけて行いました。各グループに、扱うテー
プにわけ、その中に日本人に 1 人ずつ入ってもらい、自己紹介
マとテーマに関連する写真を与え、それを商品と仮定してプレ
の復習を兼ねて、自由に会話をしてもらいました。
ゼンテーションを行い、グループごとに出来を競いました。
日本語専攻のクラスと違い、彼らは学習時間も少なく、会話
例えば、あるグループのテーマが“車”だとします。そうす
を授業内に積極的に取り入れられませんでした。また、一般の
るとトヨタやルノーの車の写真を印刷した用紙を与え、学生は
方や遠くの大学の学生もおり、日本人と触れ合う機会があまり
その車の説明を考えます。形容詞を使った説明はもちろん、
「日
ありません。そこで、復習と日本人に慣れることを兼ねて、今
本の車です」
「150 万円です」などの、国の名前や値段といった、
回のビジターセッションを行いました。何度もこのようなビジ
今まで習った項目も加えて自由に考えさせます。そしてグルー
ターセッションを重ねることで、今年度が終わるころには、日
プ内で発表の練習を行った後、グループの代表者が全員の前で
本人と知っている限りの日本語で自然に話せるようにしたい、
プレゼンテーションを行います。聞いている学生は、どのプレ
というのが目標です。それは理系の学生が多く、中には研究者
ゼンテーションが一番よかったか判断して投票し、一番得票数
や留学生として日本に行く人も少なくないので、文法の詳しい
が多かったグループが勝ち、ということになります。
説明より実生活で使える日本語を学ぶことが、授業で求められ
このタスクにおける日本人留学生の役割は、各グループに 1
ているからです。
人ずつ入って、学生の発表原稿の作成を手伝い、発表の練習を
事前準備は、前例と同じく授業前に日本人留学生と打ち合わ
みるということです。教師一人では全グループの原稿のチェッ
せを行いました。そこで学生の様子や今回のセッションの趣旨
クや、新しい語彙を教えること、発表の練習にコメントするこ
を伝えました。また今まで習った項目をリストアップし、渡し
とが不可能だからです。また教師に頼らず、学生たち自身で考
ました。学生には特に事前準備を課すことはしませんでしたが、
えてほしいという意図もあり、このタスクをビジターセッショ
彼らは教科書やノートを見ながら、一生懸命取り組んでいまし
ンで行いました。今回のタスクをビジターセッションにした目
た。知りたい言葉があっても日本人留学生には聞かず、わざわ
的は、教師一人では達成困難なタスクを日本人に手伝ってもら
ざ私に英語かフランス語で質問し、日本人留学生には日本語で
い、できるだけ学生たちの手で達成することでした。
質問していました。日本人留学生とは、できるだけ日本語で話
私が行った事前準備としては、日本人留学生に授業前に集ま
したいという彼らの熱意が伝わってきました。
ってもらい、今回のタスクの目的や内容を伝えました。その際、
セッションの様子は、日本語専攻の学生に比べ、最初はとて
今まで習った形容詞や習った文型、使ってほしい文型をリスト
もおとなしかったです。ですが、日本人の話す日本語がわか
アップした紙も渡しました。授業内では、日本人はその紙を見
る!と感じた途端、自分の知っている語彙や文型をフル活用し
ながら学生をリードしていました。学生には特に事前準備を課
て、会話に取り組んでいました。セッションが終わるころには、
すことはありませんでした。
かなり積極的に会話に取り組むようになっていました。今回は
セッションの様子ですが、グループ内で積極性のある学生を
会話時間が余ったら、特別に少しフランス語を交えながら話し
中心に活発な活動が行われていました。学生は「言ってみたい」
てもいいと伝えましたが、学生はできるだけ日本語を使おうと
と感じた語彙をすぐに教えてもらえて、それを言うことができ
試みていました。また、日本人と話すという積極的な動機付け
るのが嬉しくて仕方ないらしく、積極的に質問をしていました。
で復習を行ったので、学生全員が習ったことを使えていたと思
また、今まで授業中では指摘されなかった発音などを指摘され、
います。その点で、セッションの目的は達成できたと思います。
今までよりも慎重に話すように心がけていました。発表の場面
セッションは以上のような内容で進めました。セッション後
では、写真の提示の仕方や声の大きさまで、グループの仲間か
のフィードバックについてですが、日本語専攻クラスでは、考
ら細かい指示がとんでいて、とてもおもしろかったです。新出
えた発表原稿の内容を宿題としてまとめさせました。日本語自
語彙はフランス語で注釈を入れるなど、発表をよりわかっても
由科目のクラスでは、特にフィードバックは行いませんでした。
らえるような工夫もところどころに見られました。中には「こ
今回はタスクというよりは、「会話の体験」という趣旨が強か
のかばんはおいしいです」という冗談も入れたものもありまし
ったためです。また内容が復習の会話ということもありました。
た(冗談だとわかるように、かばんの写真をかじっているジェ
ビジターセッションの反省ですが、まず良かった点を挙げま
スチャーまでついていました)。全体的に積極的なセッション
す。第一に、学生がとても嬉しそうに取り組んでいました。教
9
師には遠慮して聞けない小さい質問をしたり、自分の話す日本
学 校 紹 介
語が日本人に通じるということを実感したりして、後の学習意
欲の大きなプラスとなったと思います。また、自分の知ってい
る日本語を工夫して、意思疎通をするという経験ができたので
Université de CergyCergy-Pontoise
はないでしょうか。言葉は工夫次第で、少ない語彙数でもコミ
黒田 昭信
ュニケーションがとれます。それを学生に実感してもらえたと
思います。そして、教師一人ではできない大掛かりなタスクも、
日本人留学生に来てもらい、間接的にコントロールすることで、
ヴァル・ドワーズ県セルジー・ポントワーズ市内にあるセル
ジー・ポントワーズ大学は、パリ北西二十五キロほど、パリ中
達成することができました。
心部からRERで約三十分のところに位置しています。同大は、
しかしながら、もちろん問題点もありました。それらの原因
としては、日本人留学生が間に入ることで教室のコントロール
パリ市内諸大学での過剰な学生数を、パリ近郊に分散させるこ
が難しくなったこと、また日本人留学生への情報の不足などが
とで減少を図るという構想によって、1991年に、法律、経
挙げられます。自分自身がボランティアとして授業に入ってい
済・経営、言語、文学・人文、科学・工学の五学部(UFR)を
た経験からも、日本人留学生は、ビジターセッションでどうい
擁して設立された、まだ若くて発展途上にある大学です。
うことをどのようにするのか明確な説明がないと、何をすれば
現在日本語教育が行われているのは言語学部のみ、それが始
いいのかわからず、そのグループは授業に関係のない雑談など
まったのも昨年度からで、まだ二年経っておりません。専任の
に流れがちです。実際、自由科目のクラスでそのような状態に
日本語教員はおらず、日本語及び日本に関する授業はすべて非
陥っているグループも見受けられました。それは、授業に飛び
常勤講師によって賄われています。日本語教育に関する統括責
入り参加してくれた日本人留学生のグループでした。つまり、
任者もいない同学部での日本語教育の位置づけはまだきわめ
その日本人に対しては十分な事前説明を行うことができなか
て不安定と言わざるをえず、また私自身、昨年度後期途中、急
ったのです。
遽フランスを離れることになった前任者から、慌しい引継ぎを
受けただけで、いくつかの日本語授業を担当することになり、
日本人留学生に対する説明は、セッションの最終目標などに
も触れて細かく行ったほうがいいのではないかと思います。ま
同学部で教え始めてからまだ九ヶ月余りですので、この文章も、
た初級の場合は、自分が利用してほしい文型や、既習項目をか
同大での日本語教育の内容紹介というよりも、日本語教育をめ
ぐるフランスの大学のあり方に関する、一事例についての、一
いつまんで紙に印刷して渡すのも大きな脱線を防ぐ一方法で
しょう。そうすることで、ある程度の自由をきかせつつ、クラ
非常勤講師の私的な現状報告としてお読みいただければ幸い
スをコントロールできるのではないでしょうか。
です。
教師は一つのグループに入るのではなく、全体をまわって様
同大言語学部内には、選択科目の一つとして、週一回一時間
子を見、各グループを助けたり、時にグループに入って一緒に
半(通年)あるいは三時間(前期のみ)の日本語入門クラスが
考えたりするほうがいいと思います。日本人留学生も教師に助
それぞれ一つずつ開設されており、私は後者を担当しておりま
けを求めることができるし、学生も教師が見ているということ
すが、これについては、すでにこの「教師会便り」でも紹介さ
で適度な緊張感を持ってセッションに臨むことができます。
れている他大学での同種のクラスとおよそ同様のことをやっ
ており、特にご紹介するほどのこともないと思われますので、
ビジターセッションは、目的やレベルによってかなり様相が
変わると思います。ですが楽しく日本語を使える機会の一つで
ここでは、今年度かぎりで閉鎖される、つまり開設されて僅か
あり、日本人留学生にとっても、学生にとっても、友だちを作
二年で消滅するLLCE(Langue, Littérature et Civilisation
る機会になります。つまり授業外で日本語に触れる機会を与え
Étrangère) の英語・日本語コースについて、当事者である学
生たちから聞いたその経緯をかいつまんでご報告することに
るという役割も担っているのではないでしょうか。また外国語
いたします。
環境にいる学生にとっては、自分たちの学習の成果を実感する
ことができる充実した時間になるでしょう。これからも様々な
昨年度の登録期、法律、経済、経営等の分野における外国語
工夫を重ねつつ、ビジターセッションを取り入れた授業を行っ
運 用 能 力 に 重 点 を 置 い た L E A (Langues Étrangère
ていきたいと思います。
Appliquée)の一コースとして、英語・日本語コースが開設され
るとの大学側からの説明を受けて、十数人の学生が同大に入学
それでは、また次号まで。
手続を取りましたが、結果として同コースは開設されず(この
間の経緯については詳らかにしません)、同時に開設された、
言語、文学、文化教育に重きが置かれたLLCEの英語・日本
語コースへの登録を余儀なくされました。学生たちは、翌年度
10
はLEAの英語・日本語コースが開設されるかもしれないとい
本語教育の現状について説明しながら、三人で話し合うことか
う期待を持って(持たされて、と言ったほうが正確かも知れま
ら授業を始めました。コースとしては消滅することが確定して
せんが)登録したようですが、年度後半になってその可能性が
いるのですから、来年度以降、セルジーに残るにせよ、他大学
きわめて乏しいことがはっきりすると、それでなくても大学側
に移るにせよ、本人たちが何に関心を持ち、何を勉強したいの
の誠意を欠いたと言わざるをえない対応に不満を持っていた
かをはっきりさせないことには、授業の組み立て様がなかった
わけですから、当然のことと思いますが、大方やる気を失って
からです。それぞれ関心領域も将来の希望も違うこと、日本人
しまったようです。そんなことは何も知らずに後期途中から引
学生に外国人向けの日本語授業をしても意味がないこと、フラ
き継いだ私は、当初、何とも沈滞した教室のムードに戸惑い、
ンス人学生の日本語能力はまだ初歩的な段階にとどまってい
かつそれを不可解に思いましたが、事情がわかってみれば、無
ることなどを勘案して、二人にとって有益な授業にするために
理もない話と学生たちにすっかり同情してしまった次第です。
はどうしたものかと思案した結果、フランス人学生のためには、
日本語教育に関しては専任教員の中に直接の責任者がおらず、
会話(ネイティヴ二人による個人授業という贅沢さ!)、漢字
授業内容については、全体として統一したカリキュラムも評価
(基礎漢字約400字の習得が目標。その間、日本人学生の方
の基準もなく、担当する三人の非常勤が、横の連絡もなく、そ
は漢字検定の勉強や、日本語での小論文の作成)、本人が特に
れぞれ授業を行っていただけというのが実状だったようです。
関心があるという俳句及び日本の短詩型文学についての日本
しかし、この間、学生たちはただ手を拱いていただけではな
語あるいはフランス語による口頭発表と議論、日本人学生のた
く、学部長、さらには学長にまで直談判に及び、LEA英語・
めには、本人が強い関心を持つ日本における差別問題について
日本語コースの開設を求める請願運動を起こしましたが、残念
のフランス語による口頭発表と議論、そして両者のためには、
ながら効を奏さず、結果はむしろ反対に否定的な方向に傾いて
日本の歴史、文化、社会、思想、宗教などについて、毎回私が
しまいました。そして、昨年度LLCE英語・日本語コースに
異なったテーマを選んでフランス語で講義するということを
登録していた学生たちのほとんどは、ボルドーなど他大学のL
前期の基本的なプログラムとすることにしました。授業の合間
EA英語・日本語コースに移るか、セルジー・ポントワーズ大
には今後の二人の進路について話し合うこともしばしばあり、
学内の他のコースに登録し直すかして、そこを去ってゆき、今
前期は何か進路相談室のようでもありました。
年度の同コースに登録した学生は、たった二名ということにな
前期の終わりも近づいた十二月に入って、二人の再三に渡る
ってしまいました。これも新学期直前の九月半ばに入ってよう
学部長との直談判の甲斐あって、学部長自らソルボンヌのLE
やくはっきりしたことで、学科責任者から電話で、この残留し
A英語・日本語コースの責任者に掛け合い、幸いなことに、来
た二名のためにコースを存続させる必要があるのだが、担当で
年度ソルボンヌの同コースのLICENCEへの二人の受け
きるかとの打診が私のところにあったのが授業開始二週間ほ
入れが両大学間で確約されました(もちろんセルジーでDEU
ど前、正式に依頼があったのはその一週間前という有様でした。
Gの必修単位をすべて取得していることが前提ですが)。これ
明らかに、これは残る学生がいたからやむを得ず取られた措置
でようやく二人の気持ちも落ち着き、勉強にも本腰を入れられ
で、もしいなかったならば同コースは自然消滅ということにな
る体勢が調いました。というわけで、後期は、来年度から二人
っていたのでしょう。たった二名の学生のために、非常勤とは
がソルボンヌでついていけるように、そこでの授業内容を踏ま
いえ教員を雇うということは、経理的には破格の扱いになりま
えながら、授業を組み立てていくつもりです。二人には、ノエ
すから、当局側がぎりぎりまで決定を遅らせたのもその意味で
ルの休み前に、これも勉強の一環だとして、ソルボンヌでの授
はわからなくはありませんが、以上の経緯からして、同大言語
業内容についての情報収集を休みの間にするように言ってあ
学部が日本語教育に積極的な姿勢を持っていないことは、もは
ります。
や火を見るよりも明らかでしょう。当然のことして、今年度同
ヨーロッパとアメリカのことしか考えていないかのような
コースへの一年生の募集はなし、来年度そのLICENCEが
大学首脳陣の構想からして、今後セルジー・ポントワーズ大学
開設されるという話もありません。
で日本語教育がにわかに積極的に展開されていくとは到底思
入学当初の期待とは裏腹なこのような状況の中、残った二人
えませんが、逆にそのような場所だからこそ、フランスの大学
の学生は、今後の進路について不安を抱えたまま、新学期開始
における日本語教育の現状について、いわば裏側から、一つの
を迎えました。一人は小学校の数年間をフランスで、中学高校
覚めた観察が可能になるとも言えます。そのような状況をよく
は日本で教育を受けた日本人で、もう一人は高校から日本語を
認識した上で、それと闘いつつ、自らの問題意識を明確にし、
勉強していたフランス人。月曜日に集中して五時間日本語関係
モティベーションを高め、日本語及び日本文化・社会を勉強し
の授業がある(他に一時間文法の授業あり、これはフランス人が
ていこうとしているこの二人を、微力ながらサポートしつつ、
担当)のですが、それらを担当している私は、この二人が今後の
その進路を見守っていきたいと思っております。
進路をどうするつもりなのか、私が知る範囲での他大学での日
11
同時に同科の研究生となり、受験の準備を始めました。
コ ラ ム
翌年再び院生として日本言語文化専攻に登録しましたが、文
化や日本語学に関する授業も豊富であったものの、重い必須科
目の大部分は、やはり、教育実習・視覚教材作成・統計学など、
日本語教師、
日本語教師、私の場合
日本語教育に直接関わるもので占められていました。私自身は、
文化研究の方により興味を持っておりましたので、論文テーマ
伴映恵子
にも日本語教育は選びませんでしたが、一方で、学科で学んだ
ものを現場で生かしてみたいという気持ちも強く、当時2年毎
私が初めて外国語教育というものに興味を持ったのは、大学
に公募が出ていた、国際交流基金主催の海外青年教師派遣に応
に入ってフランス語の授業を受けたときでした。イエズス会が
募してみました。もちろん派遣先はフランスです。
経営する同大学では、教育を第一の使命とする聖職者の先生方
それから1年後、パリに派遣されました。派遣校は、16区
が5~6人のチームを組み、完全直接法によるフランス語教育
のラ・フォンテーヌ中学・高校と8区のラシーヌ高校の2校で
に従事しておられました。他の大部分の学生たちと同様、当時
した。ラシーヌ高校の日本語の授業には、同校の生徒のみなら
ごく一般的であった文法訳読法による英語教育に慣れていた
ず、日本語に興味のあるパリ在住の生徒なら誰でも登録するこ
私には、視聴覚教材をふんだんに利用し、文字に全く頼らない
このようなフランス語教育が、大変新鮮なものに思われました。
とはいえ正直なところ、最初から余裕のある姿勢で授業にのぞ
とができたため、比較的モチベーションの高い生徒たちを相手
に、それまでの学習経験を生かすことができました。一方、日
系家庭に知られるラ・フォンテーヌ校では、担当した生徒の多
めたわけではありません。勘の悪い私は、先生方の意図が咄嗟
くが日仏カップルの子弟であったことから、従来の日本語教育
には理解できず、とんちんかんな返答で教室中を笑わせること
をそのまま適用することには無理がありました。その上、中学
もしばしばでした(それが、将来日本語を教える上で、学習者
生相手の授業は、日本語教育以前に、しつけ・教師の威厳など
の立場になって考えるためのいい体験となっていることは間
の問題がからんでくるので、私自身がフランスの教育をうけて
違いないでしょう)
。しかし一方で、そのチーム教育とは別に、
いないだけに、かなり苦しいものがありました。フランスでは
文法の授業も行われていたので、徐々に勘も養われ、直説法教
日本以上に、中学生と高校生との間で、精神的成長度に大きな
育に対する恐怖感も薄れていきました。
隔たりがあるように感じられました。派遣期間が終了し、翌年
このように大学の語学授業は大変充実感のあるものでした
パリ7大学に雇っていただいたときには、授業のやり易さにほ
が、私は仏文科に所属しておりましたので、3年目に入ると、
っと安堵のため息をついたほどでした。
文学系の授業が幅をきかせ始め、残念ながら、語学の授業はか
パリ7大学に勤めたのは4年間ですが、連続的ではなかった
なり減少しました。そこで、その欠けた分は飯田橋の日仏学院
ので、その期間は、97年から2004年にわたりました。そ
の授業で補うかたちになりましたが、ここでもやはり、授業の
の間、会話や作文・読解など、様々な授業を担当し、とても実
魅力に取り付かれました。とくに教科書が優れていたというこ
りある経験をさせていただきましたが、以下に、その年月を振
ともないし、ほかに特別な教材が用いられていたわけでもあり
り返って強く印象に残った事柄をお伝えします。
ませんが、教師の人格が滲み出るような授業が、教科書の内容
日本の経済危機に逆らうように、その数年の間にもパリ7大
をより興味深いものにしているという印象を受けました。
学の学生数は夥しく増加していましたが、変化は数だけではな
しかし大学時代は、このような体験を日本語教育に結び付け
いように思われました。昔も今も、日本語を学ぶ学生が日本に
ることもなく、卒業後は地元名古屋に戻り、国立大学の大学院
興味を持っていることに違いはないのでしょうが、私が同大学
で、仏文研究を続けました。ちょうどその頃、同大学院の文学
に勤め始めた頃は、普段なかなか日本人と接する機会に恵まれ
研究科に、日本言語文化専攻という科が設置されたという情報
ず、会話の授業でも自信なげに日本語を話す学生が多かったの
を手に入れました。当時名古屋ではすでに、学部から日本語教
ですが、最近は、授業外でも物怖じせずに日本語を使う学生が
育に力を入れている大学もありましたが、この日本言語文化専
急激に増えたようです。その多くは、日常生活のなかで日本人
攻は、学部を持たず、とりわけ経験豊かな社会人を対象として
と関わっているのでしょうが、それだけではなく、今の学生た
いる点、また、日本語教育を含め、広い意味での文化研究が可
ちは、インターネットなどを通じて、日本の社会現象や若者文
能であるという点に、特色がありました。私は、フランス語教
化にじかに触れることで、日本という国を、以前のように遠く
育を受けた当時、授業の面白さは、教授法という技術面だけで
から眺めるのではなく、非常に身近な存在として親しみを抱い
はなく、先生方の教養の深さに大きく依存しているということ
ていることが察せられました。異国趣味から共感への移行とで
を実感していましたので、日本言語文化専攻の特色には強く惹
もいえるでしょうか。最近、世界のグロバリゼーションという
かれるものがありました。そこで、仏文の修士過程を終えると
言葉がよく聞かれますが、世代差があるとはいえ、日本語学習
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者のタイプもまた、このグロバリゼーションの影響で明らかに
いていますが、言葉を教えながら、学習者たちが見せる異文化
変化しているのだと思います。それはまた、フランス人自身の
への慄きや好奇心そして共感などに立ち会うことは、ときには
変化をも反映しているのかもしれません。このような現場に立
教えること以上の喜びを感じさせてくれるものだと思ってい
ち会うことができるのも、日本語教師の特権といえるのではな
ます。
いでしょうか。現在もいくつかの学校で教鞭を取らせていただ
了
フランス日本語教師会便り第 31 号
発行:2005 年 1 月発行
発行人:フランス日本語教師会
Association des Enseignants
de Japonais en France (AEJF)
2,impasseArchin,
92240Malakoff
Tél:0146550422/Fax:0146573944
Email :[email protected]
http://e.aejf.free.fr
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フランス日本語教師会便り第 31 号
発行:2005 年 1 月発行
発行人:フランス日本語教師会
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