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自動車の運転者が 表示する標識
生活知識情報 「くるま社会」 をより安全に~ 第 16 回 知っておきたい 身の回りのマークのいろいろ 自動車の運転者が 表示する標識 12月は1年間のうちで交通事故が最も増える 時期。今回は、 「くるま社会」の中で大切な 役割を果たしているおなじみの4つのマーク について紹介します。 重光 純 Shigemitsu Jun ライター・エディター。省庁発行の広報誌の編集に長年携わる。 みなさんもよくご存じでしょう。 街なかでよく見かける、車に貼られた4種類 の標識。通称「若葉マーク」 「よつ葉マーク」な 普通自動車免許を取得して1年未満の人を対 どと呼ばれ、大変なじみのあるものばかりです 象に表示が義務づけられているこの標識の目的 が、これらのマークを表示するということには、 は、 「初心者が運転している」ということを周 どのような意味があるのでしょうか。 囲の運転者に知らせて注意を喚起し、初心運転 道路交通法(以下、道交法)71条5号の4 者に対する保護義務を課すことと、初心運転者 には「危険防止のためやむを得ない場合を除い 本人に対し、正しく謙虚に運転するよう自覚を て、これらのマークを表示している車両に対す 促すことの2つです。 る無理な幅寄せや、後方車がマークを表示して 初心運転者は、 木に例えるとまだ若葉の段階。 いるとき十分な車間距離が保てないような状況 その若葉がすくすくと大きな木に育つように、 では無理に進路変更、割り込みをしないこと」 優良運転者になってほしいとの願いが、この標 との旨が定められています *1。つまり、これ 識のデザインには込められました。色は、若葉 らの標識には、表示している運転者本人に対す の緑と、夜間でもマークが目立つよう反射しや る自覚を促すだけでなく、周囲の運転者1人1 すい黄色が合わせて使用されています。 人に対しても、表示車両の保護義務を課し、 「思 「よつ葉」 「もみじ」を見たら 高齢運転者への思いやりを いやりある運転マナー」を求めるという役割が あるのです。 高齢の運転者が起こす事故数の増加には「加 「若葉」をつけた初心者は 正しく謙虚に 周囲は注意を えられたことを踏まえ、1997年度に導入された 初心運転者標識(図1)は、免許を取得した 高齢運転者標識(図2)の意図も初心運転者標 ばかりで運転が未熟な初心運転者の事故率が大 識と同様に、高齢者が運転していることをマー 変高いことなどから、1972年度に導入されたも クの表示によって知らせることで、周囲の車両 のです。すでに40年以上が経過しているので、 へ注意を促し、高齢運転者を保護することにあ 齢に伴う身体機能の低下が影響している」と考 2013.12 国民 生 活 16 生活知識情報 ります(70歳以上対象) 。 図1 初心運転者標識 現在、こちらは運転者本人への表示義務はあ 道交法71条の5第1項による。初心運転 者が普通自動車を運転する際に表示が義務 づけられ、表示を怠った場合、4,000円の 反則金、行政処分点数1点。悪質な場合に は2万円以下の罰金。 りません。しかし、警察庁の調べによると、こ の標識の表示率は2008年9月時点で75.4%と 高いものになっています。今後、運転者がさら に高齢化していくことを考えると、ますます見 図2 高齢運転者標識(左・旧デザイン、右・現行デザイン) かける機会は増えそうです。 なお2011年に変更された新デザインは、高齢 者が幸せに過ごせるような思いやり、 譲り合い、 真心のある交通社会への願いを込めて、幸福を 道交法71条の5第2項による。現行デザインは、旧デザイン に対するさまざまな意見があったことから、部外有識者によ る検討委員会において検討され、変更された。なお、旧デザ インの標識も、当分の間は使用可能。表示は努力義務。 象徴するよつ葉のクローバーの中に、シニアの 「S」の文字を配置したものです。 図3 身体障害者標識 社会のバリアフリー化に 伴って誕生した標識も 道交法71条の6第2項による。条件を付 されて運転免許を受けている身体障がい者 が運転していると知らせることで、周囲に 注意を喚起し、運転者を保護することが目 的。表示は努力義務。 また、わが国においてもノーマライゼーショ ン*2の意識が高まるなかで、さらに2つのマー クが誕生しました。2002年導入の身体障害者 図4 聴覚障害者標識 標識(図3)は、愛情ややさしさなどを表現する 道交法71条の6第1項による。交通状況 の認知をすべて視覚で行うことにより、周 囲の運転者による幅寄せなどに対する危険 の発見が遅れるおそれがあることから、標 識表示によって周囲の運転者への注意喚起 をし、対象者を保護することが目的。表示 を怠ると、行政処分の対象となる(4,000 円の反則金、行政処分点数1点)。 ハートのかたちが集まってよつ葉のクローバー ができているというイメージで作成されました。 表示義務はありませんが、運転に影響を及ぼすお それがあると運転者自身が判断する場合、表示す す取り組みはますます求められています*3。 るように努めなければならないとされています。 また聴覚障害者標識(図4)は、2001年の道 近頃では、センサーや制御技術の進歩によっ 交法改正で聴覚にかかる運転免許の欠格事由が て車の安全性は高まってきています。とはいえ、 廃止されたことを受け、その後行われた安全運 事故防止はドライバー1人1人の安全意識が基 転と聴覚の関係などに関する調査研究結果の検 本です。ささやかなやさしさや譲り合いが、よ 討期間を経て、2007年の道交法改正で導入され り良い交通社会の発展につながります。これら ました(施行は2008年) 。表示を怠ると道交法 のマークを運転中に見かけたら、より安全な運 違反になります。白で縁取りした緑の地に黄色 転を心がけてください。 いチョウのデザインは、夜間でも識別しやすい *1 初心運転者等保護義務の違反者には行政処分点数1点と反則金 (中・大型車7,000円、普通車・二輪車6,000円、小型特殊5,000円) が科せられる。比較的軽微な違反の場合、反則金を納めることで 裁判所による審判が免除されるが、悪質で違反がより重い場合は 刑事処分となり、裁判所が決めた額の罰金が科せられる(5万 円以下)。 よう反射材が使用されています。 2012年の全国の交通事故の発生件数は66万 5138件でした(月別発生件数では12月が6万 *2 北欧から始まった社会福祉理念の1つ。障がい者や高齢者なども、 社会の中で他の人々と同じように生活し活動することが社会の本 来の望ましい姿であるという考え方。 2609件と最多) 。発生件数の推移をみると、2004 *3 「平成24年中の交通事故の発生状況」(警察庁交通局) 年の95万2709件をピークに毎年減り続けては 取材協力:警察庁 いるものの、より安全な「くるま社会」をめざ 2013.12 国民 生 活 17