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2012年秋学期度進化経済学レジュメ 参考用 - C-faculty

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2012年秋学期度進化経済学レジュメ 参考用 - C-faculty
n Evoeco
進化経済学 http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~aruka
2010年9月
1
中央大学商学部教授・有賀裕二
Copyright :Prof. Dr.Yuji Aruka
システミックリスクの回避はできるか?
¢ 
¢ 
なぜ経済学が昨今の金融危機を予測できなかったのかは一般人
には理解しがたいであろうが、この疑問は英国女王さえも例外でな
かった。英国女王は2008年11月に昨今の金融危機をなぜ経済学
が予測できなかったかを不思議に思いLondon School of
Economicsの経済学者たちにその原因を尋ねたそうである。
2009 年7月、2人の経済学者Professors Tim Besley and Peter
Hennessyが代表してその返事をした。
— 
果たして問題の所在はいずれにあったのでありましょうか?皆実力ど
おり自分たちの職責を正しく果たしたと見てよいと存じます。成否を普
通に判断すれば、皆しばしば手際よく成し遂げてきたのであります。失
敗は、集合的に積み上げたときに一連の不均衡の相互に関連を見抜
くことができなかったことにあるのですが、この関連については、どの当
局者も管轄権限のないものでありました。これに、群衆心理と金融・政
策のグルたちの持説とが組合わさりますと、危険なレシピが出来てしま
います。個々のリスクはサイズが小さいという判断は正しいのですが、
全体としてのシステムにかんするリスクは巨大でありました。
2
進化経済学者の反応
¢  この手紙の公開直後に、Geoffrey
Hodgson(University of Hertfordshire, UK)が取りま
とめ役となって10人の進化経済学や制度派経済学者
はいわゆるセコンドオピニオンを作成し、2009年8月10
日付けで意見書を女王へ送った。この意見書はG.M.
Hodgsonのメーリングリストを通じて直接筆者に送られ
て来た。要点は経済学が数学的審美にのみ耽溺したこ
とが誤りであるとしている。この手紙はつぎのセンテンス
から始まる。
— 
”We are writing both in response to the question you
posed at the London School of Economics last
November – concerning why few economists had
foreseen the credit crunch – and the answer to you
from Professors Tim Besley and Peter Hennessy
dated 22 July.”(10 Leading British Economists Write
to the Queen)
3
n Evoeco
経済合理性とは?
4
ネットショップの価格分散の衝撃
¢  http://kakaku.com/
¢  デジタルカメラIXY
n Evoeco
¢  水野貴之の研究
¢  25,000-40,000円の幅で取引
¢  最安値グループで購入は全体の30-40パーセントにす
ぎない。
¢  ギッフェンパラドックスが広範に見られる。
5
5
最後通牒ゲームと合理解の異常性
— 
人間の脳は間違いを犯すばかりでなく、「合理解」をつねに望むとはかぎらない。
— 
— 
— 
最近、認知科学では、「合理的選択」に脳のどの部位が関与するかを解明してきている。
VMPFC : the ventromedial prefrontal cortex (前頭葉腹側正中)とFPC : the
frontopolar cortex (前頭葉最後通牒ゲーム Ultimatum Game
前頭極)の障害のある患者は功利主義的選択(最後通牒ゲームの「不公正に見える」経済的合
理解)への強い選好を示す。
— 
— 
n Evoeco
— 
「あなたは100万円を渡される。100万円のうちいくらかは友人に渡さないといけないが、友人
が貰う金額を拒否するなら、あなたも取り分を失う。さて、あなたはいくら友人に渡したらよいの
か?」
Koenigs et al., Nature446 (2007)によれば、VMPFCの障害のある患者は情緒的な選択
の傾向がある。
以上、Koenigs, M. et al. (2007)およびKoenigs, M.,and Tranel, D. (2007)を参照。
6
6
助け合い
¢  チンパンジーは義理堅かった…助け合いの姿、世界初
の実証 京大
2009。10。14 10:26相手の要求に応じてステッキを手渡すチンパンジー(手前)=京大霊長類研究所提供
¢ 
自分への見返りがなくても、他者からの要求に応じて手助けするチンパンジーの行動特性を、京都大学霊長類研究所など
の研究チームが確認した。チンパンジーが互いに助け合って行動することはこれまで知られていたが、同チームは世界で初
めて、実験を通じてそのメカニズムを実証的に解明。研究成果は14日付の米科学誌「プロスワン」(電子版)に発表された。
¢ 
研究チームは、手が通るほどの穴が空けられた隣接する2つの透明な小部屋にそれぞれチンパンジーを入れて実験。一
つの部屋の外壁にストローがあれば飲めるジュース容器を取り付け、室内にステッキを置く一方、もう一つの部屋にはストロ
ーを用意し、室外のステッキがあれば取れる距離にジュース容器を置いた。
¢ 
3組の母子など計9頭について、5分間様子を見る実験を計24回行ったところ、穴を通してステッキやストローを渡す手助
け行動が約60%の確率で確認でき、うち約75%は、相手が手を差し出すなどの要求行為に応えて渡していた。
¢ 
さらに、3組の母子だけを対象に、一方の部屋にステッキかストローを置く実験を行ったところ、約90%の確率で要求され
れば道具を渡すことがわかり、見返りがなくても道具を渡す行動特性が確認された。一方、相手の要求行為がなくても渡すこ
とはほとんどなかったという。
¢ 
n Evoeco
¢ 
http://sankei.jp.msn.com/region/kinki/kyoto/091014/kyt0910141309001-n1.htm
7
7
3人の子供で17頭の馬の遺産を分ける方法
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
村の長老が1頭馬を連れてきて18頭にして、長男には9頭、
次男には6頭、
三男には2頭を配分した。そこで長老は1頭余った自分の馬
を持ち帰った。
この例題は2008年12月の忘年会の席で滝田賢治教授(中央
大学法学部政治学科)
より教えられた。哲学者の叔父さんから聞き半世紀近く解法
がわからないでいた。
この例題はRobert Aumannが2000年の時を経て解いた「タ
ルムードの解」と同じ問題であることはすぐにわかる。
8
8
配分原理
¢  条件付きの「権利が完全に満たされない場合(割り切れ
n Evoeco
ない)の配分原理」
¢  条件: 長男は1/2以上、次男は1/3以上、三男は1/9以
上
¢  配分2つのステップで計算される。
¢  (1)最低保証額
¢  (2)残余均等配分
9
9
最低保証額と残余均等配分
¢ 
最低保証額
— 
— 
— 
— 
— 
¢ 
n Evoeco
— 
長男は1/2以上、次男は1/3以上、三男は1/9以上
このとき、まず最低保証は
長男 17/2=8.5 整数8頭しか受け取れないので0.5の損 次男 17/3=5.67 整数5頭しか受け取れないので0.67の損
三男 17/9=1.9 整数1頭しか受け取れないので0.9の損
長男8頭、次男5頭、三男1頭を最低保証額と呼ぶ。
残余均等配分
— 
— 
— 
— 
— 
— 
この配分の余りは
17-(8+5+1)=3
なので、余りの3頭を長男、次男、三男に1頭ずつ再配分する。
このとき、依然として、
長男9頭 > 次男6頭 > 三男2頭
で、順序不変性が維持されている
10
10
なぜ長老の登場が必要か?
残余均等配分には 最後通牒ゲームの原理が利用されている。つまり、相手がオフ
ァーする額が1頭であっても、自分の馬が1頭増える以上、拒絶するのは馬鹿であると
いう原理。
¢ 
この原理が守られるならば、1頭でももらえない側はかならずオファーを拒否する、そし
て、拒否された場合、オファーする者の配分も没収される。
¢ 
したがって、没収する人が必要。これが 長老。
¢ 
長男が余り3頭すべてを要求するなら、長老は、次男と三男に1頭でも配分しないかぎ
り、長男の持ち分も没収する、と言う。
¢ 
その結果、馬の例では1頭を分割できないので、3頭のうち2頭を次男、三男に1頭ず
つ渡さないといけない。
— 
n Evoeco
¢ 
この原理は馬の場合、再分割ができないという条件のためにうまく働く。しかし、1万円の場合
1円を渡せばよいということになって奇妙な結果が発生するであろう。
11
11
エージェントの役割の固定性・特殊性
¢  遺産配分
— 
人為的に演出されたゲームの場長老の登場 長老は財産
没収権限を含む絶対的な自由裁量権を持つ。
相続人 最後通牒でのみ選択の自由を持つ。
n Evoeco
— 
¢  囚人のディレンマ(とくに反復ゲーム)
— 
— 
エージェント役割の固定性 過去の記憶、階層的意思決定
を制限
エージェント情報構造の特殊性 情報フィードバックによる
先手と後手の選択
12
12
戦略プロファイルの1次独立性
¢  相関均衡を議論するとき戦略プロファイルの1次独立性
n Evoeco
の仮定が必要であること、そのような仮定が必要になる
と、実験経済学が仮定するような諸仮説が元のゲーム
構造の解をかならずしも支持できなくなる可能性が出て
くる。
¢  Norio Kono, Kyoto Economic Review 2008, 2009
¢  クールノーの複占市場均衡解は囚人のディレンマ解。
ここで、シュタッケルベルグの先手の仮定を入れると、デ
ィレンマ解が変位することに注意。
13
13
経済学が顧みないディレンマ ¢ 
ルソーの鹿狩りゲーム
— 
¢ 
n Evoeco
— 
これは政治学者が昔から議論してきましたが、経済学者は知らん顔。し
かし、最近、サンタフェ研究所のSamuel Bowlesが強調。
鹿を追うときは二者は協力関係、しかし、鹿が見つかる前に、ウサギが現
れた場合、ウサギは1人で追うことができる。
保証ゲームのディレンマ
— 
作付けのディレンマ。Samuel Bowlesは幼少期をインドで過ごした。貧
しい社会での作付けの期日をいつにするかのディレンマ。
14
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エージェントの互換性
と統計力学的モデリング ¢  Aruka,
Y., and Akiyama, E.(2009): Non-selfaveraging of a two-person game with only
positive spillover: a new formulation of
Avatamsaka’s dilemma, Journal of Economic
Interaction and Coordination, vol.4.2, pp.135-161
n Evoeco
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シュタッケルベルグ・プレイヤー
シュタッケルベルグは複占市場解の先手解で著名。
¢  エージェントの情報構造は先手と後手の選択の自由により一
変する。
¢  情報フィードバックによる先手と後手の選択はdynamic bilevel optimization with feedback informationによって
解かれる。
¢  シュタッケルベルグはプレイヤーの相互作用について一般
的枠組みで論じて、複占市場で16の市場解があることを指
摘した。
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
Viertes Kapitel. Die Ordnung der dyopolistischen Marktpositionen 1. Generelle
Analyse, von Stackelberg(1934, 1952) , s.44-53.
Marktform und Gleichgewichit (Market Structure and Equilibrium), Wien und
Berlin, Springer, 1934; (English translation 1952) H.von Stackelberg,The Theory of
the Market Economy, Oxford University Press, Oxford, UK.
16
16
SEQUENTIAL STACKELBEG
INFORMATION STRUCTURE
n Evoeco
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17
n Evoeco
タルムード破産問題と提携ゲーム
18
ミシュナの配分表
¢  ある人が亡くなり、遺産を上回る負債が残った。債権者たちはこの
— 
n Evoeco
人の遺産をどのように配分すべきか。驚くべきことに、こうした問題
はすでにイスラエルの古代の教典『タルムード』において理論的な
配分法が示唆されていた。このような配分法はタルムードの基であ
る律法『ミシュナ』に述べられていることから、ミシュナの配分表と呼
ぶ。Aumann and Maschler(1985)はこの問題をゲーム理論の立場か
ら解明した。
鈴木光男(1994)『新ゲーム理論』勁草書房、第16章「破産問題」参照。Aumann,
R. J., and Maschler, M.(1985), Game theoretic analysis of a bankruptcy problem
from the Talmud, Journal of Economic Theory, 36, 195-213.
19
19
設例
¢  遺産額
— 
以下の例で E = 100, 300, 450の場合をそれぞれ考察する。 Dとする。D = d1 + d2 + d3 = 100+300+500 = 900 ここで diは債権者 iの債権額。
n Evoeco
¢  負債額
— 
Eとする。 ¢  ミシュナの配分表の原理は
— 
— 
¢ 
遺産額が小さいとき E = 100 < D/2で、均等配分
遺産額が大きいとき E = 450 = D/2で、比例配分
となっている。しかし、 E = 300のときは、いずれの配
分原理でもない。この事例の配分はどんな原理から引き
出されたのか一見したところ判別できない。これは実は
CG法によって導出されたものであることがわかる。
20
20
ミシュナの配分表
債権者2の債
権額
債権者3の債
権額
配分原理
遺産E
d1=100
d2=300
d3=500
100
100/3
100/3
100/3
均等
300
50
125
125
不明
450
50
150
250
比例
n Evoeco
債権者1の債
権額
21
21
順序保存性
債権総額は
—  100+300+500 = 900
—  d1 + d2 + d3 = D
¢ 
であるので、遺産 Eが 100、 300、 450、 ···899では当然、債権者全員が債権額面どおりの受取りをする
ことはできない。議論のため、債権者の債権額を低い方から番号順に並べ替える。
—  0 ≤ d1 ≤ d2 ≤ d3
¢ 
このとき、債権者に配分される額 xiをつぎのように順序保存性と単調性を満たすように決めると、ミシュ
ナの配分表が導かれることがわかる。
¢ 
順序保存性
—  (1) 0 ≤ x1 ≤ x2 ≤ x3 —  (2) 0 ≤ d1 − x1 ≤ d2 − x2 ≤ d3 − x3
¢ 
を満たすとき、 (1)を受取額の順序保存性、(2)を不足額の順序保存性が保たれると言う。実際、表 1より
以下が成り立つ。
—  受取額の順序保存性 0 ≤ 50 ≤ 125 ≤ 125
—  不足額の順序保存性 0 ≤ 100 − 50 ≤ 300 − 125 ≤ 500 − 125
n Evoeco
¢ 
22
22
単調性
d =(d1, d2, d3)が与えられたとき、遺産額 E
が大きければ大きいほど、各債権者の受取額 xiは大きく
なる可能性がある。
¢  債権ベクトル
— 
単調性 ∂E /∂xi ≥ 0
実際、ミシュナの配分表の第 1列 100/3, 50, 50を取れば、E
= 100 < 300 < 450にたいして 100/3≤ 50 ≤ 50が成立っている。
よって、単調性が満たされている。
¢ 
n Evoeco
— 
∂E /∂x1≥ 0.
23
23
CG解法:2人破産問題のCG法
Contested Garment Principleの解法を略してCG法と呼ぶ。
¢ 
債権者は 2人 i =1, 2とする。債権者 1が最低保証される受取額は、遺産 Eから「残り
の債権者 2の要求額」を控除したものである。実際、
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
v(1) = E − d2; 0 if E − d2 ≤ 0
である。v(1)は債権者 1にとっての最低保証額である。
n Evoeco
¢ 
一般に、これを特性関数 v(j)[債権者 jにとっての最低保証額 ]を用いて表す。
v(j) = max{E − di, 0}
¢ 
ゆえに、
—  E ≤ d2 → v(1) = 0
—  E ≥ d2 → v(1) = E − d2
—  E ≤ d2 ≤ d1 → v(2) = 0
—  E ≥ d2 ≤ d1→ v(2) = E − d1
¢ 
d1 ≤ d2であるので、 0 ≤ E − d2 ≤ E − d1
24
24
残余均等配分
債権者 1は自分の最低保証額のほかに 2人の最低保証額の残余 E− (v(1) + v(2))を 2人で均等
に分割したものを受け取るとする。このとき債権者 1の受取額 x1はつぎのようになる。
¢ 
x1 = v(1) + ½{E− v(1) − v(2)}
¢ 
= ½ v(1) − ½ v(2) + ½ E
— 
— 
— 
— 
E =0 → v(1) = 0, v(2) = 0 ⇒ x1 =0
E = d1 → v(1) = 0, v(2) = 0 ⇒ x1 = ½ d1
E = d2 → v(1) = 0, v(2) = E− d1 ⇒ x1 = ½ d1
E = d1 + d2 → v(1) = d1, v(2) = d2 ⇒ x1 = d1
¢ 
債権者 2も自分の最低保証額プラス 2人の最低保証額の残余の半分を受け取るとする。
¢ 
x2 = v(2) + ½ {E− v(1) − v(2)}
n Evoeco
¢ 
= ½ v(2) − ½ v(1) + ½ E
¢ 
— 
— 
— 
— 
E =0 → v(1) = 0, v(2) = 0 ⇒ x2 =0
E = d1 → v(1) = 0, v(2) = 0 ⇒ x2 =d1
E = d2 → v(1) = E− d1, v(2) = 0 ⇒ x2 = d2 − ½ d1
E = d1 + d2 → v(1) = d1, v(2) = d2 ⇒ x2 = d2
25
25
2人破産問題と CG法 D1 =1, D2 =2
n Evoeco
26
26
3人破産問題のCG法
2行に戻る。2人破産問題の CG法を拡張
して 3人のケースに適用する。
¢  債権者 1は、自分の最低保証額のほかに、 3人の最
低保証額の残余 E− (v(1) + v(2) + v(3))を 3人で均
等に分割したものを受け取るとする。このとき、債
権者 1の受取額 x1はつぎのようになる。
¢  つぎの2つのステージがある。
¢  ケース 1
¢  配分表の第
n d1/2 < E < D− n d1/2
¢  ケース
— 
n Evoeco
— 
2
E > D− n d1/2 27
27
ケース1
¢  3人全員の受取額が
— 
E ≥ d1/2 × 3
300 ≥ 100/2 × 3
¢  のとき、債権者
1は交渉ゲームから脱落する。
n Evoeco
— 
xi = d1/2 以上になったとき、つまり、
¢  En−1
= En − d1/2
¢ 
= 300 − 50
¢  を残りの債権者 {2, 3}で均等分割する。ゆえに、
— 
— 
— 
x1 =50
x2 = 125
x3 = 125
28
28
ケース2
¢  E
≥ D − d1/2 × 3
— 
750 ≥ 900 − 100/2 × 3
— 
D − E = 900 − 750
n Evoeco
¢  このとき、不足額
¢  を均等配分すればよい。ゆえに、
— 
— 
— 
x1 = d1 − (D −E)/3
x2 = d2 − (D −E)/3
x3 = d3 − (D −E)/3
¢  上述のCG法、つまり、残りの債権者たちによる残余均等
は残りの債権者たちが提携 coalitionを形成していること
を意味する。3人の債権者は以下の提携を形成すること
ができる。
29
29
n Evoeco
ディレンマと期待値
30
喜劇王グルーチョマルクス
¢  A
— 
n Evoeco
great comedian of
20C. Groucho Marx
once said: he would’nt
join any club that
would have him as a
member.
グルーチョ・マルクス. He is a
man quite different from Karl
Marx.
¢  To
follow a similar
strategy in serach for a
relationship would
obviously result in
frustration.
¢  It is very difficult,
apparently, for eager
persons to disguise
their eagerness.
31
スタジアムの比喩と共倒れ
STADIUM METAPHOR
¢  All
— 
n Evoeco
spectators leap to their feet to get a better
view of an exciting play, only to find the view no
better than if all had remained seated.
¢  The aggregate outcome of individually
rational behavior is markedly different
from what people hoped.
Frank, ibid., p.189.
32
32
逆選択ADVERSE SELECTION
¢ When
n Evoeco
a trading opportunity is presented
to heterogeneous group of potential
traders, those who accept it will be
different and in some specific sense, worse
on average, than those who do not.
¢ Adverse selection is the process by
which “undesirable” members of a
population of buyers or sellers are more
likely to participate in a voluntary
exchange.
33
33
レモンの原理LEMONS PRINCIPLE
the used cars that are for sale are
of lower quality than the used cars that are not
for sale;
¢  中古車=レモン:
レモンの原理はアカロフGeorge Akerlof が示した。
¢ 
n Evoeco
— 
Akerlof, G.,“The Market for ‘Lemon’”,Quarterly Journal of
Economics,1970.
participants in dating services are
generally less worth meeting than others.
¢  道徳的危険Moral Hazard : 保険は「危険な人」ほど
入りたがる??
¢  結婚相談所:the
— 
「道徳的危険」とは、保険を掛ける人が保険の対象となる財など
を守る努力を怠ること。
34
34
中古財の価格 問題
¢ 
問題
— 
¢ 
n Evoeco
新しい携帯電話に故障がある確率は全携帯電話のうちz である。消費
者は危険にたいして中立的であり、故障のない携帯電話を3 万円と評
価する。携帯電話は1 年間は新品同様に評価される。いま新品の携
帯電話が2 万円で売りに出されており、1 年前の品を扱う中古市場で
は1 万円で売りに出されている。このとき、故障の製品が出る確率z は
何パーセントか。
8携帯電話の市場は実際にはmoral obsolesce が激しい。つまり、1 年前の
欠陥のない商品は、仮に物理的減耗がないとしても、流行遅れとなるがゆえ
に安くしか評価されない。設問はこの事実を無視している。なお、この設問
はFrank,ibid.,p.198 のアイディアを借用してつくったものである。
35
35
中古財の価格 解答
¢ 
解答
— 
— 
n Evoeco
— 
「携帯電話は1 年間は新品同様に評価される」にもかかわらず、中古
市場に出される電話には欠陥があると考えることができる。「レモンの
原理」により、中古市場に出される携帯電話はすべて欠陥品になる。
よって、中古品の値段は欠陥品の値段であり、中古品個数は新品中
古を含む全電話個数のうちz の比率であると推定できる。一方、新品
個数は1-zの比率である。さらに、消費者は危険中立的であるため、値
段と満足評価は比例関係にある。ゆえに、新しい携帯電話の値段は、
たんに「数学的期待値」によって評価される。
20000 = 10000z + 30000(1 − z)
をz にかんして解けばよい。
36
36
自動車保険の例題
¢  危険なドライバー:
— 
n Evoeco
高いプレミアム(掛金)を支払うことに
魅力を感じる人は「危険なドライバー」である。
¢  安全なドライバー: 「安全なドライバー」には通例「保険
料」は高すぎると感じる。保険を使用せず「自家保険
self-insurance」で対処した方が安くすませることができ
る。
¢  ところが、保険料を下げれば、ますます危険な人の加入
が増えるので、保険会社は料金を下げるわけにはいか
ない。
¢  結局、良好なドライバーは保険を敬遠し、高額の保険に
は危険なドライバーだけが加入するという潜在的傾向が
発生しうる。
実際には、安全なドライバーは、万一の危険を主観的に高く評価する傾向が
あるので、現行料金のまま、保険を解約することはないであろう。
¢  「危険にたいする態度」によって選択が非対称的である
ことから、市場が効率的に機能しない潜在的傾向がある。
37
37
n Evoeco
期待効用とアレのパラドックス 38
保険機構の発生
¢  保険は、耐え難いリスクを制度(保険機構制度)をつうじ
n Evoeco
て集合的にrisk shareする方法である。
¢  集合的なrisk-sharing として、ほかにjoint-stock
companies, racehorse syndicates などがある。
39
39
保険のコスト-ベネフィット分析
¢ 
公平なギャンブル: 期待値ゼロのギャンブルをfair gambleでと呼ぶ。
¢ 
保険加入者全体でみて次式が成り立たないと、保険会社は不公平な
ギャンブルを行なっていることになる。
— 
¢ 
(1/2)20000 + (1/2)(−20000) = 0
個人が得るベネフィット− 個人が支払う保険料= 0
n Evoeco
— 
— 
保険会社が支払うベネフィット=保険会社が徴収する掛金
しかし、保険会社は販売活動を含む会社運営のため一般管理費
administrative costs をベネフィットから差し引かねばならない。平均
的にみれば、
— 
— 
個人が得るベネフィット≠ 個人が支払う保険料
である。これを少々、不公平なギャンブルである。
40
40
危険回避的選好
不公平なギャンブルの購入: 「公平なギャンブル」は選好さ
れるとはかぎらない。人々は保険購入により、少々不公平な
ギャンブルを支持する。
¢  危険回避的選好: 保険購入によりリスクをヘッジできない場
合、ビッグチャンスを与えるギャンブルを回避する傾向がある。
これは人々が「危険回避的risk-averse」である証拠とされ
る。
¢ 
n Evoeco
— 
That most people prefer a small unfair gamble (buying insurance) to
much larger fair one (taking their chances without insurance) is often
cited as evidence that most people are riskaverse.
¢ 
Frank, ibid.,p.203.
41
41
不確実性下の意思決定
¢ Economic
decision made under
uncertainty are essentially gambles. — 
Sometimes your choice is between two
alternatives that equally risk (the choice,
for example, between two blind dates);
Other times it will be between a littleknown alternative and a relatively
familiar one (for instance, the decision of
whether to transfer to another university or
to stay where you are).
¢ 
n Evoeco
— 
Frank, ibid., p.192.
42
42
コイン投げの例題
¢ 
コイン投げの例題
— 
— 
¢ 
¢ 
n Evoeco
— 
1. 表が出たら2 万円配当、裏が出たら100 円損失
2. 表が出たら2 万円、裏が出たら1 万円損失
3. 表が出たら200 万円、裏が出たら100 万円損失。ただし、負けた場合、
10 年払いで返済することが許される。
Frank, ibid.,p.192
コイン投げの確率分布
— 
— 
{表が出る確率p、裏が出る確率1 –p}={0.5,1 –0.5}であるので、各々
のケースの数学的期待値expected valueは次式で計算される。
数学的期待値 p ×配当+ (1 –p) ×損失
43
43
経済学的期待効用の必要性
¢  数学的期待値が正であることが、かならずしもギャンブ
ルに参加するに足る十分な条件とはならない。
ケース1の期待値:
¢ 
— 
ケース2の期待値:
¢ 
— 
(20000 − 100)/2= 9950
n Evoeco
— 
(20000 − 10000)/2= 5000
ケース3の期待値:
¢ 
( 2000000 − 1000000)/2= 500000
¢  第3
のケースは期待値は大きい。しかし、気軽に参加で
きる「賭け」ではない。
44
44
アレALLAIS のパラドックス 例題
¢ 
あなたはつぎの二種類のクジを引くことができる。
— 
クジI :
— 
クジI’ :
¢ 
¢ 
{0 万円の確率、200 万円の確率} = {0.1, 0.9}
このとき、あなたの期待効用は
— 
— 
¢ 
{0 万円の確率、100 万円の確率} = {0, 1}
n Evoeco
¢ 
クジI ではu(100)
クジI’ では0.1u(0) + 0.9u(200)
もしもあなたがクジI の方を選ぶならば次式が成り立ってい
る。
— 
0u(0) + 1u(100) > 0.1u(0) + 0.9u(200)
45
45
クジの期待効用
¢  つぎの新たなクジが与えられたとしよう。
クジII:
¢ 
— 
{0 万円の確率、100 万円の確率} = {0.8, 0.2}
クジII’:
¢ 
n Evoeco
— 
{0 万円の確率、200 万円の確率} = {0.82, 0.18}
¢  もしもクジII’
を選んだならば、期待効用計算でみれ
ば、次式が成り立っていなければならない。
— 
0.8u(0) + 0.2u(100) < 0.82u(0) + 0.18u(200)
46
46
アレのパラドックス
¢  これは次式とまったく同値である。
—  u(100) > 0.9u(200)
—  u(100) < 0.9u(200)
¢ 
n Evoeco
¢  例題の特徴
—  フォンノイマン-モルゲンシュテルン効用: u(0) = 0
—  u(100) > 0.9u(200) [あなたがクジI を選んでいる。]
—  0.2u(100) < 0.18u(200) [あなたがクジII’ を選んでいる。]
0.2u(100) < 0.18u(200)の両辺を0.2で除す。
¢  クジ{I、I’}
での選好とクジ{II、II’} での選好では、適用さ
れた選好関係が反対になっていることがわかる。これを
「アレのパラドックス」と呼ぶ。
— 
アレはフランス人でノーベル経済学受賞者。Allais, M.
(1953)“Lecomportement de l’homme rational devant le risque, critique
des postulats et axiomes de l’´ecole am´ericaine” Ecoometrica,
21,503-546.
47
47
アレのパラドックスの構造
「アレのパラドックス」は、「期待効用理論」の結論を「実際の決定」
に一貫して適用できないことを示している。
¢  クジ{I, I’} : クジI からクジI’への移動は100 パーセント→90 パー
セント
¢ 
¢ 
クジ{II, II’}: クジII からクジII’ への移動20 パーセント→ 18 パ
ーセント
— 
¢ 
1 −90/100= 0.1
n Evoeco
— 
1 −18/20= 0.1
「クジI からクジI’への移動」による確率変化と「クジII からクジII’
への移動」による確率変化は同比率である。
48
48
リスクと利得のトレードオフ
¢  平均的人間はαを失うことを回避する。
—  α≻β
n Evoeco
¢  リスクの回避性向:
—  α: 「絶対確実に手に入る100 万円を10 パーセント失う可能性」
—  β: 「20 パーセントしか確実性のない100 万円を10 パーセント失う可能性」
¢  確実性効果:
—  a: 「絶対確実に手に入る100 万円10 パーセント失う可能性」のコスト —  b:「20パーセントしか確実性のない100 万円を10 パーセント失う可能性」のコ
スト
—  a >> b
¢ 
これは心理学者のKahneman とTversky によって「確実性効果certainty effect」
と呼ばれた。
49
49
ヒューマンネイチャーと経験的認知
— 
— 
n Evoeco
— 
このように考えれば、人は、通常、リスクと利得のトレードオフ、
つまり、リスクを犠牲にして利得を増大させるか、利得を犠牲に
してリスクを選好するということになる。こうした考慮は、期待
効用理論のほかに「経験的知識にもとづいた調査」を必要とする
であろう。
As a general rule, human nature obviously prefers certainty to risk.
At the same time, however, risk is an inescapable part of the
environment. People naturally want the largest possible gain and the
smallest possible risk, but most of the time we are forced to trade
risk and gain off against one another. When choosing between two
risky alternatives, we are forced to recognize this tradeoff explicitly.
In such cases, we cannot escape the cognitive effort required to
reach a sensible decision.
Frank,ibid.,p.207.
50
50
学部選びと期待効用 問題
¢ 
問題
— 
— 
n Evoeco
— 
あなたの効用関数はu(y) = √y である。つまり、あなたは危険回避的である。
さて、2つの学部甲、乙がある。甲学部に行けば権威を得ることができ、超
一流の就職先に行けて生涯所得にして9 億円の所得を稼ぐ可能性がある
が、その確率は70 パーセントである。甲学部で習得できる学識は使い道が
限られ良い就職先に行けない場合、生涯所得は最悪の2億2500 万円にな
る。一方、乙学部に行けば社会的権威を得ることは稀だが、ほどほどの就
職が可能で確実に平均的な生涯所得6 億2500万円を得ることができる。
(1) このとき、期待効用理論にしたがって、あなたはどちらの学部を選ぶか。
(2) あなたは「確実な所得を失う可能性」をどう評価するか。
51
51
学部選びと期待効用 解答
¢  解答
¢ 
甲学部を選んだときの期待効用:
n Evoeco
— 
第1 の問いについてのみ答える。
EU甲= 0.7・√900,000,000+ 0.3・ √ 225,000,000
¢  = 25, 500
¢ 
— 
乙学部を選んだときの期待効用:
¢ 
— 
EU乙=1・ √ 625,000,000 = 25, 000
「期待効用理論」によれば、甲学部を選ぶのが正しい。
52
52
期待効用と甲学部の期待値
期待効用関数は凹関数
2関数の差
n Evoeco
53
n Evoeco
ディレンマとナッシュ均衡
54
囚人のディレンマ 2人バージョン
¢  条件
c > a > d > b c+b<2a
0 > −2 > −3 > −5を代入すればよい。
¢  (強)支配戦略:
— 
— 
相手のプレイヤーが如何なる戦略を取ろうとも、自分の戦略集合のな
かで、絶対的に有利な戦略がある。
上記の場合、これは第2 戦略である。
n Evoeco
— 
— 
第2プレイヤ
第1プレイヤ
戦略1
戦略2
戦略1
(a, a)
(b, c)
戦略2
(c, b)
(d, d)
55
55
ナッシュ均衡
¢ 
ナッシュ均衡:
— 
なコンテキストで議論で
きる。
¢  一つのゲームにナッシュ
均衡は複数あり得る。
¢  無限にナッシュ均衡があ
る場合、華厳ゲーム
— 
— 
n Evoeco
— 
戦略変更により、すでに各
プレイヤーの選択戦略によ
りいったん確定した関係か
ら、乖離しようとすると、
不利になるならば、その関
係はナッシュ均衡である。
J. Nash ノーベル経済学
賞 映画Beautiful Mindで
紹介される。
¢  ナッシュ均衡はいろいろ
Aruka(2001)
Akiyama and Aruka(2005)
56
華厳ゲーム
B
¢ 
¢ 
裏切り
協調
裏切り
(0, 0)
(1, 0)
協調
(0, 1)
(1, 1)
n Evoeco
A
戦略
ナッシュ均衡が無限個存在する。
完全従属ゲームである。
— 
— 
— 
ノイズは一斉に協調を導くが、TFT(Tit for Tat)戦略が必要。
とくに2期前の記憶付パブロフ戦略
Aruka, Y., “Avatamsaka Game Structure and Experiment on the Web,” in
Aruka, Y. (ed), Evolutionary Controversies in Economics, Tokyo: Spinger, 2001,
pp.115-132. Akiyama, E., and Aruka, Y., “Evolution of Reciprocal Cooperation
in the Avatamsaka Game,” in Namatame, A., Kaizoji, T., and Aruka, Y. (eds.),
The Complex Networks of Economic Interactions: Essays in Agent-Based
Economics and Econophysics, Heidelberg: Springer Verlag, 2006, pp. 307-320.
57
57
歌劇トスカのディレンマ
警察署長
スカルピア
¢ 
¢ 
Blank bullet
Live bullet
Bed
(50, 50)
(−600, 500)
Stab
(500, −600)
(−500, −500)
n Evoeco
歌姫トスカ
戦略
歌劇トスカの例題の場合、ゲームは1回かぎりのゲームで、前回のゲー
ム結果を参照しながら、ゲームの繰り返しを考えることは適当でありませ
ん。
いまの例題では、古今東西の戯曲が好む「絶対的な愛」とか「マフィアの
オメルタomerta」のような制裁がないかぎり、いったん陥ったディレンマ
から脱する道はありません。⇒ 教科書第10 章
58
58
囚人のディレンマ 経済例題
¢ 
— 
¢ 
n Evoeco
¢ 
寡占市場: 製造業のようないくつかの産業では、市場をわずか数企業
だけで集中的に支配していることがあり、このような市場と企業を寡占
市場と寡占企業と呼ぶ。
複占市場: 2企業だけで市場を支配できるような場合を「複占
duopoly」と呼ぶ。
複占市場は米国の航空機製造のボーイング社とロッキード社のようなケース。も
っとも戦闘機売り込みを想定するとなると、相手は政府になるので、正常的な需
要理論はあてはまらない。
とにかくほぼ定性的に同水準の商品を提供できる2社が市場を独占し
て、互いに広告をつうじて競争(非価格競争)を展開するような情況を
想定する。
— 
便宜のため、2企業に番号を付して、企業1、企業2と名付ける。
59
59
経済例題 利得表
¢  寡占企業は価格支配力をもち、価格設定をつうじて需
n Evoeco
要をコントロールする。そのための価格政策として、高価
格政策や低価格政策がある。企業1も企業2も互いに価
格戦略を所与として行動する。
¢  販売拡張のため、両企業ともに広告支出が必要となる。
—  広告支出が増加すれば販売は拡張する。しかし、広告支出の過大な増大は結
局はその企業の利潤を悪化させる。
企業2
—  さらに2企業が同時に広告すれば、1企業だけが広告する場合と較べて、各企
業にとって販売増加の効果はきわめて低くなる。
企業1
戦略
価格戦略
広告戦略
価格戦略
(200, 200)
(50, 300)
広告戦略
(300, 50)
(150, 150)
60
60
支配戦略
¢  両企業とも、自己の利得最大化の観点からは、競争相
n Evoeco
手が価格戦略だけをとろうが広告戦略をとろうが、広告
戦略をとることが最良策。
¢  このような戦略をゲームの理論では「支配戦略
dominant strategy」と呼ぶ。
¢  ゲームの均衡は「支配戦略」によって特徴づけられる
「支配戦略均衡」になる。
¢  こうして、企業1と企業2は「囚人のディレンマ」の情況に
陥る。
61
61
協調か抜け駆けか
¢ 
市場における提携形成: 2企業は、合法か違法かは別問題として、たがいに提携を形成す
ることが可能。両企業とも広告戦略はけっして採用しないという提携によって、両企業とも、
最悪の情況(150,150) から利潤(200, 200) に引き上げることができる。
¢ 
抜け駆け(提携のディレンマ): 競争相手が提携を遵守してくれさえすれば、お互いに相
手を裏切ることが魅力的になる。実際、「抜け駆け」により提携が保証する利潤200 よりも魅
力的な300 の利潤をつかむことができる。この可能性があるかぎり、疑心暗鬼が生じ、結局
は「囚人のディレンマ」の情況から脱却することができない。
¢ 
問題(「抜け駆け」禁止の制裁の可能性):
— 
n Evoeco
¢ 
囚人例題: 2人の囚人は互いに情報交換により「結託あるいは提携coaltion」を形成するこ
とができない。→非協力ゲーム
上記2企業が提携を破棄した場合に罰金を支払うことに同意したとせよ。この罰金の額をいくらにし
たら、各企業は「抜け駆け」することを躊躇するであろうか。
62
62
いじめspiteの例題:非対称な行動
クジβ
自分の戦略1
(200, 200)
(200, 200)
自分の戦略2
(201, 150)
(199, 50)
「囚人のディレンマ」で相
手に抜駆けされたときは、
自分が損した金額の補償に
こだわる。
¢ 
一方、相手を蹴落とすこと
に特化する人間が存在する
か?
¢ 
クジのどちらを好むか?あ
るいは、どちらがプレイヤ
ーにとって面白いか?
n Evoeco
クジα
¢ 
63
チキンゲーム、別名タカハトゲーム
¢  純粋戦略はタカハト共存であり、どちらかがタカ戦略、他
— 
— 
— 
n Evoeco
方がハト戦略をとることで、均衡状態または に落ち着く。
一方、各プレイヤーが、タカ戦略を1/3、ハト戦略を2/3の
比率で混合戦略を行えば、
(1/3)(−2) + (2/3)(2) = 2/3,
(1/3)(0) + (2/3)(1) = 2/3
均衡状態に落ち着く
第2プレイヤ
第1プレイヤ
戦略1
戦略2
戦略1
(-2, -2)
(2, 0)
戦略2
(0, 2)
(1, 1)
64
64
タカハトゲームの利得集合
¢  利得の集合は図のように凸集合であることがわかる。
n Evoeco
65
65
コーディネーションゲーム
¢ 
n Evoeco
¢ 
タイプライターのキー配列は現在、ローマ字部 分の最上段は左端
から “QWERTY”になっている。しかし、アーサーの発見 によれば、
Dvorak 型キー配列というのがあって、プロのタイピストにとって はこ
ちらが大いに選好されていた。製造業者もタイピストも Dvorak 型を
選 ぶというのが第一種の均衡状態である。
ところが、歴史的には、キーボード 配列は Qwerty 型になっている。
この歴史的に選ばれた状態は第 2 種の均衡 である。そして現在、
均衡であるが社会は低い厚生水準の罠にはまっている。
66
66
コーディネーションゲーム
利得表と利得集合
(Typist)
(Manufacturer)
Dvorak
Qwerty
Dvorak
(10, 10)
(4, 4)
Qwerty
(4, 4)
(6, 6)
n Evoeco
第1プレイヤ
第2プレイヤ
67
n Evoeco
共有地の悲劇
とリプリケータ・ダイナミクス
68
共有地の悲劇:
囚人のディレンマN人N戦略バージョン
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
村に皆が牛を放牧ですることができる共有地commonsがある。
牛を放牧する農家の数が少ない初期状態では、放牧農家の収益は、飼育する牛の
数を増やすとき、収益は確実に増加する。
この高収益が誘因となって、他の農家も参入し、放牧される牛の全体数が増加する。
放牧牛の全体数が増加すれば、牛が一頭あたり食べることのできる草の量が減少
し、結局、共有地全体の環境が悪化する。
最終的に、農家世帯あたりの収益は、牛の数を増やしたとしても、当初の高収益を
確保できないばかりでなく、共有地の草が食つくされて放牧牛全体が死滅する脅威
にさらされる。
農家が4世帯のみ、農家一世帯が飼育できる牛の最大数3頭としたときのシミュレー
ションを以下に掲載する。
69
69
「共有地の悲劇」の利得変化
— 
— 
各農家iの収益は次式のようになっているとき、共有地の悲劇のディレンマが発生し
ている。
— 
— 
— 
— 
xi = qi{16 − (q1 + q2 + q3 + q4)} − 2qi
= q1(16 − q1 −2 q1) − q1 q2 − q1 q3 − q1 q4
q1にかんして2乗項 −q1qjはqjとともに急増
ゆえにqjの増加とともに収益はxi急減
牛数 0
i以外
農家の
放牧牛
の総数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
戦略1
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
戦略2
24
22
20
18
16
14
12
10
8
6
戦略3
33
30
27
24
21
18
15
12
9
6
n Evoeco
¢ 
鈴木光男(1994)『新ゲーム理論』勁草書房
Hardin、 G。 R。(1968)、 “The Tragedy of the Commons”、 Science、 162、 1243-1248
70
70
利得の等高線図
n Evoeco
n 65
71
71
ディレンマ発生の実装構造
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
したがって、共有地の悲劇の設定では、利己的動機が優先されるかぎり、避けること
ができない。
¢ 
牛の数の増加は、他の農家の所有する牛の初期値に依存するので、牛分布の初期値の状
態によっては、収益の低落を招く。
上記方程式
¢ 
— 
¢ 
n Evoeco
¢ 
各農家の収益は、その他の農家のとる戦略がいかなる場合でも、私利の観点から、牛の数
を最大限3頭まで増やすことが得策である。
牛の数2(戦略2)は牛の数1(戦略1)を強支配strictly dominate している。
牛の数3(戦略3)は牛の数1(戦略1)を強支配strictly dominate している。
牛の数3(戦略3)は牛の数2(戦略2)を弱支配weakly dominate している。
xi = q1(16 − q1 −2 q1) − q1 q2 − q1 q3 − q1 q4
は、自乗項qi2 と相互作用項qiqj の項を含む非線形方程式であるので、xiの値は単調に
変化しない。これはいわゆるリプリケータダイナミクスである。
72
72
リプリケータダイナミクス
¢  集計は「1タス1は2以上の影響を生み出す」ことであるが、
— 
n Evoeco
非線形現象の方は予測しにくい影響の創出に貢献する。
つまり、規則的か不規則的かはさておき、循環的変動の
原因となる。毛皮を販売するハドソン湾会社の1世紀に
及ぶ記録によれば、オオヤマネコX(t)と野うさぎY(t)の
毎年tの収穫高は循環的変動を起こしていた。
オオヤマネコは野うさぎを とするので、オオヤマネコは捕食者、野う
さぎは被食者である。オオヤマネコと野うさぎが遭遇する回数が高けれ
ば、オオヤマネコが にめぐり合えるチャンスが増大し、その結果、オ
オヤマネコの増殖の可能性が増大する。しかし、オオヤマネコがあまり
に増殖しすぎると、野うさぎを食べつくしてしまい、結局、オオヤマネ
コの群れ自体も減少してしまう。このチャンスを利用して、今度は、野
うさぎの増殖が開始されるであろう。 73
73
捕食者-被食者システム
¢ 
うさぎの出生率、死亡率である。
Y(t+1)=Y(t)-δY(t)+βY(t) - cX(t)Y(t)
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
オオヤマネコの増殖率(出生率)をb、死亡率をdとして時間tを通じて一定とする。このとき、
オオヤマネコの群れの変動を次式で記述する。
X(t+1)=X(t)-d X(t)+bX(t) これだけでは線形システムを表すにすぎない。非線形現象をつくるために捕食者と被食
者の相互作用の項を導入する
オオヤマネコが野うさぎを捕食する効率cを2回の遭遇に付き1回とすると、c=0。5である。
cも時間を通じて一定とする。このとき、オオヤマネコが野うさぎを捕食する平均回数は
cXYである。つまり、捕食者と被食者の相互作用は非線形項として表示される。こうしてオ
オヤマネコの群れにかんする非線形差分方程式を得る。
X(t+1)=X(t)-d X(t)+bX(t) +cX(t)Y(t) 同様にして、野うさぎの群れについても非線形差分方程式を得る。ここで、δ、βはそれぞれ野
¢ 
74
74
オオヤマネコの群れにかんする
非線形差分方程式
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
オオヤマネコの群れにかんする非線形差分方程式
X(t+1)=X(t)-d X(t)+bX(t) +cX(t)Y(t) 野うさぎの群れについても非線形差分方程式
ここで、δ、βはそれぞれ野うさぎの出生率、死亡率である。
Y(t+1)=Y(t)-δY(t)+βY(t) - cX(t)Y(t)
いま定義した捕食者-被食者システム{X(t), Y(t)}は、実際、ハドソン湾会社の 記録の
とおり、解析上,キツネと野うさぎの循環的変動を生み出すのである。 つまり、非線形
現象はそのまま動力学的な時間発展の経路を生み出す。
捕食者 -被食者モデルは別名、二人の発見者の名前にちなんでロトカ-ヴォルテラ方
程式とも呼ばれる。
生物学,経済学で進化ゲームを記述する基礎モデルとして用いるとき、リプリケータダ
イナミクスと呼ばれる。
75
75
捕食者-被食者システムの実データ
n Evoeco
76
76
n Evoeco
相互作用と複雑系
77
相互作用とエネルギー支出
¢ 
複雑適応系の提案者であるJ.Holland教授
— 
経済物理学者B. Roehner教授
— 
n Evoeco
¢ 
原始生物が自己を維持するのに自分以外の他者との相互作用に多大なエ
ネルギーを支出している。
接触と相互作用の最大化原理は、物理的に見ると、エネルギー最小化の一
般化として捉えることができる。こうして、低エネルギーの状態へ向かうという
ことは、混合を作り上げる分子間の大域的相互作用を最大化するものと解釈
できる。物理ではエネルギーの概念ははっきりしているが、エネルギーが定
義されない社会システムのような状況でも、この原理は使用できるであろう。
¢ 
この考え方はAruka and Mimkes(EIER、 2(2006、145-160))の考え方と共通している。
78
78
水とエタノールの混和
¢ 
— 
— 
n Evoeco
通常の理想液体の混合では、標準的なエントロピーは増大する。ところ
が、水とエタノールの混合では、エントロピーを減少させる高度に秩序
だった再配置がつくられる。つまり、水とエタノールの混合はある特別な
秩序を生み出す過程である。これは、簡単な器具を用いて実験ですぐ
に確かめることができる。
たとえば水20mlとエタノール20mlの混合によって体積は40ml以下に収縮
する。アルコールの濃度にもよるが10パーセントくらい縮むのである。
水とエタノールのそれぞれの温度は二十数度であるが、混合の結果、混合
した液体の温度が5度くらい上昇する。実験では90パーセントの純度のア
ルコールが用いられた。
79
79
相互作用強化の理由
¢ 
n Evoeco
エタノールと水が分離されている状態は高エネルギー状態である。混合によっ
て放熱され低エネルギー状態に転化する。エタノールと水の混合は、エタノー
ルの組成の特殊性から水と親和性が高く、大域的に融解することができ、強い
結合状態が作り出される。
80
混合の分子式
¢ 
n Evoeco
¢ 
物理化学的にみると、水H2Oとエタ
ノールC2H5OHの混合は、低位のエ
ネルギー状態への進展する様は混合
を合成する分子間の大域的相互作用
を最大化する。エタノールは鎖式飽
和炭化水素であるアルカン (alkane)
の一種で、アルカンの一般式は
CnH2n+2 で表される。
エタノールの分子は、( i )アルカン
に似た 線分CH3−CH2 、( ii ) 水に
似た線分の端点OHの2つの線分か
ら合成されている。このような構造
になっているために、エタノールは、
水和殻を吸引すると同時に、強力な
水素結合を形成する。ここでは厳密
な分子数計算は必要ない。重要なの
はエタノールが持つ( i )、( ii )のよ
うな双対的行動である。
81
社会システムにおける混和性と言語
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
水とエタノールの混合例のような分子の相互作用は社会システムに存在す
るであろうか?まず言語に着目して、単語や文字が特有なルールにしたが
って相互作用することを見よう。
この観点から、次の並列が存在する。
異なる単語が別のほかの単語と結合する規則<−−>液体における分子
言語Aの単語(または表現)が言語Bに浸透するとき、どういうことが発生し
ているのであろうか?その単語が他の言語の単語と十分なリンクを展開す
るなら、統合されることになろう。たとえば、“week−end”、“ciao”はフランス
語に統合された。また、そうでないなら、究極的には脱落する。たとえ
ば、“railway”は19世紀末にはフランス語で多用されていたが結局は統合
されることなく、むしろ、“chemin de fer” or “train”が使用されることにな
った。
82
82
複雑系の特徴
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
Erdi(2007)によれば複雑系にはつぎの諸特徴がある。
(a) 循環的ネットワークと因果性を持つ。
(b) 有限時間内の特異性発生という特徴を持つ。たとえば、株価変
動のように閾値を超える極端な正のフィードバックを持つケースで
有限時間内に強い反動を伴う補償的プロセスが同伴する。
(c) ベキ分布を発生させる自己組織化過程という特徴を持つ。
複雑系はCircular and network causality、 Finite time
singularity、 Self-organized complexityから分析できる。
83
83
べき分布の発見
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
20世紀末には、自然現象としては発見できなかったべき分布(パレ
ート分布)が社会経済システムの諸現象の中で頻繁に見出され、
べき分布を形成する機構が複雑系を生み出す確率過程して議論
されるようになった。
無限の分散を持つべき分布はたとえばAmazonの売り上げデータ
で見出される。この例では平均的代表的顧客ではなく少数ではあ
るがマニアックな顧客をターゲットにすることで収益向上が起きる、
つまり、確率的に小さい事象でも継続的にマーケティングすること
で大きな収益が約束される。
こうした新しい認識の背後には確率事象を確率過程として捉えると
いう考えが不可欠である。
84
84
n Evoeco
非線形力学と経済モデリング
85
用語法
¢  ダイナミクスの訳は脈絡に応じて力学、動学、動態などと
n Evoeco
使い分ける必要がある。また、非線形経済動学となると、
文字通り、非線形力学と経済動学という用語を成分とす
る複合的な造語である。
¢  集合的に記述すれば、
¢  非線形経済動学={ 非線形現象、力学};
¢  力学={自然、社会・経済}
¢  の二層構造になっている。
¢  一方、進化経済学で重要なシュンペータ理論は、
¢  三層の経済理論={{{静学}、動学}、社会動態論}
¢  からなるが、ここにもダイナミクスが2つの層のなかに入っ
ている。
86
86
マクロ経済の非線形加速度原理
¢ 
n Evoeco
¢ 
非線形経済動学の誕生に因むモデルの古典は加速度原理である。
Yを生産するのに望ましい資本RはvYで与えられ、資本Rと実際の
資本Kとの差vY-Kを0にする制御の力学を埋め込むと、Yの変動
に応じてKの追加的投資が加速度的に誘発される。この調整を少し
修正してみる。
いまKがRに等しいならば調整は行わないが、Rが不足するならば
つねに極大の投資率を実施する。一方、RがKを超過するならば、
つねにKの廃棄を一定率で行うとする。新しい調整過程は非対称的
であり、投資行動を非線形化したことになる。これが一番単純な非線
形加速度原理である。このとき、ただちに、無限に繰り返される非正
弦的振動が生成されるのである。
87
87
学際的発展 ¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
安定的でも不安定的でもない経済循環、つまり、リミットサイクルを
設計する鍵は非線形性にある。この発見はGoodwin (1951)の功
績である。Arrowsmith and Place(1982,184) グッドウィンが非線形加速度原理として用いた2行程振動子(レイリ
ー方程式に似た3次関数)は、投資の上方限界と下方限界を必要
としていた。のちに電気工学者ル・コルベーエLe
Corbeiller(1960)は下方限界を除去してもリミットサイクルを生成す
ることに成功し、これを「グッドウィン特性をもつ振動子」と命名した。
このように非線形経済動学は草創期より学際的な連携で展開され
たのである。
88
88
解説の手順
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
まず、非線形現象の例題を用いて非線形力学の初等的解説を与
える。非線形力学系は20世紀末、カオス力学系として興隆したが、
これと並行して経済動学でもカオス経済動学のモデリングの興隆を
迎えた。
しかし、シュンペータ社会動態論の観点から見ると、社会・経済シス
テムの進化的モデリングの開発としては非線形確率過程の力学が
重要である。
そこで、マスター方程式や非線形ポリア壺過程の応用例を呈示し、
社会動態のゆらぎ研究のための進化的モデリングの可能性につい
ても言及する。
89
89
力学系:CONSINE(X)が生み出す力学系
n Evoeco
90
90
閉軌道
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
cosineの写像が生み出す力学系と同様に、ロトカ-ヴォルテラ方程
式も離散力学系を生み出す。
初期値x=x0を与えると、力学系はこの初期値を通過する軌道を意
味する。この場合、軌道は任意の時点から未来にたいしても一意的
に定まる。
実際、2次元のモデルになるが、出生、死亡率を落とした一番単純
な力学モデルから、「ロトカ-ヴォルテラ定理の平衡点と座標軸を除く
すべての軌道は閉軌道である」ことが従う。
ただし、リミットサイクル(極限周期軌道)は存在しない。
91
91
ロトカ-ヴォルテラ方程式の1次積分
n Evoeco
92
92
カオス力学系
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
同じ非線形写像であっても、上記の初等関数とは異なる写像もある。
たとえば、ロジスティック写像Lやテント写像Tがある。
xn+1= L(xn)= 4xn(1-xn)
(4)
xn+1=T(xn)=1-|1-2xn|
(5)
これらの写像が生成する力学系はカオスを生み出し、無限に展開さ
れる軌道上の各点は遊走的に振舞い、一意的に未来を予測すること
ができない。 Xの時間発展は初期値x0のわずかな変化によって激
変する。これらの写像は「引き延ばしと圧縮」の繰返しという単純な定
型的な規則であるが、それがかえって予測不可能なカオスの振る舞
いを生み出すのである。
低次元の差分力学系でカオス(低次元カオス)を発見する十分条件
は、リー-ヨーク定理により周期3を発見することであることがわかって
いる。
93
93
ロジスティック写像とカオス
¢  xn+1=
n Evoeco
L(xn)= 3.8xn(1-xn)
¢  初期条件x0=0.4, 係数a=3.8
94
94
n Evoeco
カオス経済動学
95
20世紀末に、非線形経済動学を華やかに彩った経済変動モデルにカオス経済
動学がある。経済活動の相互作用が非線形現象を生み出すが、相互作用は定
型的行動により生み出されるとする。このとき、経済システムに予測がきわ
めて困難な景気変動、つまり、カオス的変動が生成されるである。
マクロ経済変動とリミットサイクル
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
リミットサイクルは安定的でも不安定的でもない経済循環である。以
下、グッドウィンの「賃金シェアと雇用比の動学モデル」
Goodwin(1990)でリミットサイクルとカオスの生成の相違を解説す
る。
「雇用比νが高ければ賃金シェアuも高い」という定型的関係を適
当なパラメータc, βを用いて微分方程式
u ={β/(1-ν)-(cβ+ga)} u
(6)
で表す。ここで技術進歩による労働生産性の増加gaは賃金シェア
を低める。
一方、「賃金シェアuが高ければ雇用比νは低くなる」という定型的
関係を想定する。ここで、労働生産性の増加gaのほかに労働力の
自然増加gnは雇用比νを低めるように作用する。この関係を適当
なパラメータαを用い微分方程式
ν ={ 1/(α+u)-(1+ga+gn) }ν
(7)
で表す。
96
96
景気循環とリミットサイクル
¢  連立常微微分方程
n Evoeco
式{(6),(7)}は、賃
金シェアと雇用比
の相互作用の時間
展開を与える。
¢  この解の軌道は、
初期値に依存する
が、多くの場合、
u−νの平面で円
状の閉軌道、つま
りリミットサイク
ルを描く。
v
0.54
0.52
0.425 0.45 0.475 0.5 0.525 0.55 0.575
u
0.48
0.46
97
カオス的経済変動
¢  マクロ経済成長の2次元連立常微分方程式体系{(6
),
n Evoeco
(7)}をつぎのように「差分化」してみる。
¢  ut+1/ut=bνt
(8)
¢  νt+1/νt=-ut+a(1-νt)
(9)
¢  この差分方程式体系は両辺にそれぞれut,νtを乗じれ
ばわかるように非線形相互作用項utvtを含んでいる。図
はa=4, b=3。258, u0=0.5,ν0=0.55を選んだときのシミュ
レーション結果である。
98
98
カオスアトラクタ
¢ 
ここで、点の集まりが吸
引周期点の集合を形成し
ている。この集合内はカ
オス状態と想定できる。
こうしてリミットサイク
ルを与えるモデルはカオ
ス生成のモデルに変換で
きた。
n Evoeco
v
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.5
1
1.5
2
2.5
u
99
n Evoeco
線形モデリングと非線形モデリング
100
戦闘モデルとビジネス法則
¢ 
対立する二軍{x, y}の戦闘力学モデルとして著名なランチェスターモデルはビ
ジネス法則を生み出す。
n Evoeco
101
ランチェスターモデルと硫黄島の戦闘
n Evoeco
102
102
米軍の戦闘能力の推移
n Evoeco
103
103
日本軍の戦闘能力の推移
n Evoeco
104
104
日本軍が兵力増強を行った仮想ケース
¢  米軍は上陸6日までに19000名の兵力増強を行った。
n Evoeco
仮に日本が上陸7日までに米軍が行った新規兵力追加
と同じ兵力増強を行ったと仮定する。
105
105
線形死亡過程のマスター方程式
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
出生-死亡過程についてはすでに言及したが、確率的な遷移の可能性は考慮していなか
った。いま2タイプの群れαとβがあり、それぞれ個体は異なる状態Aと状態Bの間を往来
できるとする。
ある時点で状態Aにいる個体はm個、状態Bにいる個体はn個であり、その確率をP(m,
n)とする。この状態(m, n)の遷移は4種あり、
n+1 →n; n →n-1; m→m-1; m+1 →mである。
例題の正規軍の戦争モデルでは相手方に寝返る可能性を除外できるので、遷移の可能
性を制限できる。
殊に、遷移n →n-1は遷移率a、遷移m→m-1は遷移率bで定数であるとする。このとき、
P(m, n)の時間変動は「線形死亡過程のマスター方程式」となる。
P= amP(m,n+1) –(am+bn)P(m,n) + bnP(m+1,n)
このような状態遷移が背景にあると考えれば、ランチェスターモデルの変数Xt、Ytは、遷
移率a, bを利用して確率的な平均値として解釈できる。
106
106
非線形確率過程への一般化
¢  一般の確率過程モデルでは、もはや戦闘は固定的なメ
n Evoeco
ンバーによらずに、寝返りは自由としてよい。さらに出生
率、死亡率が定数でなくなれば、確率過程は線形から
非線形になる。これらの考慮は社会変動の遷移に見合
っている。社会状態は流入と流出で釣合いを保って存
続する箱とみなせるであろう。
¢  こうして、社会動態論は、マスター方程式を利用すること
により、いっそう現実的な変動を記述できるようになる。
107
107
非線形ポリア壺過程
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
アーサーArthur(1994)は、産業組織の動態理論の分析ツールとし
て新たな非線形確率過程を開発した。
白、赤、緑、青などの色の無限の収容能力がある壺があり、その中
にあるボールを1個取り出したとき、同じ色のボールを1個、壺に追
加する。ボールの色はつぎの追加が行われるとき未知であるが、あ
る色の確率は壺のなかにある色の現行の比率に依存する。ある色
のボールの個数の比率が増加することにより同じ色のボールをもう
一つ追加する確率が上昇するならば、この系は正のフィードバック
をもつことが論証できる。
この確率過程こそ一般化されたポリアの壺過程である。Arthur,
Ermoliev, and Kaniovski(1983)
108
108
ポリア壺モデルの収束
n Evoeco
109
109
収益逓増と経路依存
現行の比率を確率に写像する非線形関数を与えたとき、壺にボ
ールを追加し続けたとき、定義上の各色の比率の極限を求めたい。
極限は、各色を追加する確率が定義域上のその色の比率に等し
いような値の集合(不動点)に落ち着く。
¢  ある特定の色の比率の増大が自己強化的に進行することは、産
業内である特定企業の収益やシェアが増大し続けることに喩えら
れる。収益逓増が経路依存的に発現するのである。ポリアの壺過
程の解析は、そうした不動点集合が複数あることを許すことが証明
した。
¢ 
n Evoeco
110
110
社会・経済のゆらぎの研究
非線形性はゆらぎの主要な要因である。また、異質的エージェ
ント間の相互作用の多くは、他者に溶け込んで自己強化的に
凝集しようとする力と他者を隔離しようと力が併存することにより、
発生する。その結果、ゆらぎのようなマクロ状態の急速な変化
が起きたりする。
¢  「ゆらぎの研究」は進化経済動態理論の重要な課題の一つで
あり、この解析こそ非線形経済動学の新たな課題である。マス
ター方程式に基づくアイディアはますますこの研究に不可欠な
ものとなっている。
¢ 
n Evoeco
111
111
自己組織性 SELF-ORGANIZATION
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
しかし、自然科学者は自己組織化をより厳密に使用する。自己組織化には、 保存的自己組織
化と散逸的自己組織化の2つがある。前者では分子などの移動の状態で全ては常に拡散平衡
へと向かい、形あるものは全て壊れる。しかし、 後者では、ある分岐点(臨界点)を通過すると、空
間的、時間的に分子は離れていても秩序を形成する。これがプリゴジンのいわゆる「散逸構造
論」である。その後、臨界点の自己組織化研究が進展する。
これにより、以下のことが明確になった。
(1) 相互作用のある大規模で複雑な系は臨界状態へと自己組織する傾向がある。
(2) 臨界状態ではゆらぎがしばしば連鎖反応を誘発することがあり、系の無限 個の要素にも影
響を及ぼす。
自己組織臨界現象はフラクタル性を伴う複雑性の一種である。この点に着眼 して株価変動の解
析を行ったパイオニアーがマンデルブローであり、経済物理 学の誕生に貢献した。
→(関連する項目)相転移、自生的秩序、散逸構造、フラクタル、分岐、ゆらぎ、経済物理学
112
112
ロックイン LOCK-IN
¢ 
n Evoeco
¢ 
ある経済システムが最終状態に到達する前の劣位の局所的均衡
に閉じ込められ たり、最終状態(不動点)が複数あるときどれか 1 つ
に結果が固定され続けたりすること。ロックインの原因は複数均衡
であり、結果は確率的自由度をもち システム全体の長期にかかわ
る性質が決められてしまう。結果を事前に予測できないということが
ロックインの特徴である。
過去に QWERTY キー配列、軽水炉、ガソリン機関へのロックイン
が周知である。 →(関連する項目)複数均衡、経路依存性、市場過
程
113
113
複数均衡 MULTIPLE EQUILIBRIA
一番簡単な 2 人 2 戦略ゲームにおいもナッシュ均衡はしばしば
複数見出される。複数均衡の選定メカニズムはタイプライターキ
ーボード配列の盛衰を論じた P.David,”Clio and the
Economics of QWERTY”,1985 によって一躍有名になった。
¢  均衡選定は社会慣行による場合もあるが、一方、確率選好による
選定メカ ニズムによる場合もある。複雑系では均衡の結果を事前
に予測できることは稀である。
¢  →(関連する項目)ナッシュ均衡、選択(淘汰)、非協力ゲーム
¢ 
n Evoeco
114
114
n Evoeco
ホランドの複雑適応系
115
ホランドの複雑適応系
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
遺伝アルゴリズム GA:Genetic Algorithm は、スケーリングによる
淘汰 圧力の同定を行い、変異・交叉・淘汰の過程をコンピュータに
よってシミュ レートして最適解の探索を行うことができる。これは突
然変異の研究に大い に影響を与えている。
遺伝アルゴリズム Genetic Algorithm で名高いホランド John
Holand は、 複雑適応系 Complex Adaptive System(cas) の解
説で、cas の基本的特長 として4つの性質と3つの機構の計 7 つ挙
げている。
<4つの性質> 集計、非線形生、ネットワークフロー、ニッチ
<3つの機構> 名札付けによる調整選別(タッギング)、 内生的モデ
ル(スキーマ)、 多様なコピー形成
116
116
<4つの性質>
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
集計 aggregation: ミクロエージェントの集計により、メタエージェントと し
て集計的な性質が発現する。なぜ、集計が高度に適応的な性質を形成 す
るのか?
非線形性 nonlinearity: 剛球とふつうのボールが衝突によって吸着する
例 では衝突確率は積の形で現せるが、ふつうのボールが 2 種類あれば、
ロ トカ-ヴォルテラモデルのような非線形モデルで表現できる。非線形性 が
強いと、線形の平均化の概念は役立たない。
ネットワークフロー flows: ネットワークフローが形成されるとき、乗数効 果
が働く。さらに、そこに、「商品による商品の生産」のようなネット ワークがあ
ると、リサイクル効果の利用が重要になってくる 。リサイ クルは系の成長に
貢献する。
多様性 diversity: 多様性はニッチ niche 形成と不可分である。偶然に
多様 性が生じるのではない。時代は異なり生息する種も異なるのに、物的
に 同一のニッチに同一のパターンが形成されるというパターン形成の神秘
がある。また、生物、無生物を問わず「模倣」の神秘が至ることころで 観察
される。
117
117
<3つの機構>
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
名札付けによる調整選別(タッギング)tagging: ビリヤードで、物的
に同 じ種類のボールを色づけするだけで、回転を区別できる。この
種のフイ ルタリングにより、メタエージェント、メタメタエージェントの
階層を 形成することができる。
内生的モデル(スキーマ)internal model: 動的システムでは、予
測力を 伴うモデルが必要である。生物、無生物を問わず、コンテク
ストにかん して予測力があるかどうかが、存続に決定的な影響を与
える。
多様なコピー形成 building blocks: それぞれの器官が組み合
わせにより多 様な系を作り上げる結果、エージェントはつねにこれ
までに経験したこ とのない系に遭遇することになる。エージェントに
とって、経験から新 しい事態の構文解析を行う必要が起きる。構文
解析の手段の 1 つとし て遺伝的アルゴリズム Genetic
Algorithm が考えられる。
118
118
タッギングと集計
n Evoeco
119
119
複雑適応系 CASと適応的エージェント
以上が、ホランドの複雑適応系 cas が有する 7 つの基本的特
長である。ホラ ンドが真剣に取り組んできたのは、「繰り返しが行
われるが、階層が深くなっ て進化していく環境」にたいする適応
である。彼自身の言葉を借りれば、
¢  Perpetual novelty is the hallmark of cas
¢  であり、ある cas の適応的エージェントは学習によってつねに変
わっていか ねばならない。この意味で、複雑適応系問題は、免
疫系での抗原-抗体の問題 に直接、対照させることができる。
¢ 
n Evoeco
120
120
クラシファイアシステム
n Evoeco
121
121
タグとクラシファイア
n Evoeco
122
122
クラシファイア循環
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
クラシファイア循環はつぎのステップの反復である。
1. 環境からメッセージを受け取りメッセージリストに加える。
2. それぞれのクラシファイアのもつ条件をメッセージリストにたいして照 合し
て、条件がただちに少なくとも 1 つのメッセージにより満たされるかどうか調
べる。
3. 2 つの条件がともに満たされるクラシファイアはすべて競争に参加し、勝
ちを収めたクラシファイアはそれらのメッセージをメッセージリストに投函する。
4. 効果器に向かうメッセージはみな実行される。 5. 今までの循環から得られ
たメッセージリスト上のすべてのメッセージは消去される。
各ルールの強度を s と書く。強度 s(r) はそのルール r の過去の平均的有
用 性を表す数値。高い強度のルールが、条件specificityが満たされるとき、
競争で勝ち 残るであろう。
123
123
条件の特定性
条件の特定性 specificity を、条件を満たすメッセージ数の
逆数で測る。♯ の数が多ければ多いほど、特定性の度合
いは低くなる。ルール r の特定性を spf(r) で表す。
¢  ルール r の値付けを
¢  Bid(r) = c · s(r) · log2[spf(r)]
¢  で表す。過去の有用性 s(r) が大きく、現在の状況の情報
数 spf(r) が大きい ならば、値付けは高くなる。
¢  高い値付けをするルールが競争で有利になる。
¢ 
n Evoeco
124
124
ルール強度の調整
¢ 
n Evoeco
¢ 
クラシファイアの競争における「ルール強度の調整」は、バケツリレー
アル ゴリズム bucket brigade algorithm に基づく。なお、新ルー
ルの創出は「遺 伝的アルゴリズム GA(Genetic Algorithm)」に基
づく。以下、バケツリレー アルゴリズムによるルール強度の調整過程
を述べる。
信頼度割当て (credit assignment)
ルールが競合する体制は
供給者 条件を満たすメッセージを送信するルール群 消費者 送信
メッセージを満たす条件をもつルール群から成り、勝ち残るルール r
には支払い Bid(r) がなされ、強度 s(r) を増強 することができる。
125
125
メッセージを投函する権利への支払い
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
Bid(r) は「メッセージを投函する権利への支払い」を意味する。勝ち残る
ルール r の強度 s(r) は、その値 Bid(r) の額だけ支払うため、s(r) −
Bid(r) に減少する。
勝ち残るルールがそれまでの支払いを取り戻す方法はこのルールに支払
い をしてくれる消費者を獲得することである。
システムが環境から利得を受け取る時点でルールが活性化する(環境から
の利得がシステムに影響を与える経路)。
利得が生じるとき、その瞬間時点で活性化しているルール群に配分され、
それらのルールが強度を増す。
システムは、類似の状況のなかで活性化が継続しているとき、バケツリレー
アルゴリズムを信頼して、舞台設定ルールの強度増強の分布を決めなけれ
ば ならない。
126
126
バケツリレーアルゴリズム
¢ 
¢ 
¢ 
n Evoeco
¢ 
クラシファイア C′ は C の消費者であり、C′′ の供給者であるような例題を 示す。
クラシファイア C′ は t でクラシファイア C からメッセージを受け取り、そ の対価として Bid = 12 を支払う。クラシ
ファイア C′ の時点 t での強度は 120 から 108(=120-12) に減少する。一方、クラシファイア C は、クラシファイ
ア C′ からの支払いにより、強度を 100 から 112 に増強する。
クラシファイア C′′ は t + 1 でクラシファイア C′ からメッセージを受け取 り、その対価として Bid = 16 を支払
う。クラシファイア C′′ の時点 t + 1 で の強度は 160 から 144(=160-16) に減少する。一方、クラシファイア C
′ は、 クラシファイア C′′ からの支払いにより、強度を 108 から 124 に増強する。
以上のプロセスは、供給者の供給者が利益を受け、さらに初期の舞台設定 ルールまで利益を受けることを説明し
ている。
127
127
利益配分構造のダイナミクス
¢ 
n Evoeco
¢ 
以上のプロセスは、供給者の供給者が利益を受け、さらに初期の
舞台設定ルールまで利益を受けることを説明している。
供給者は、メッセージを効果器に通すと、その状態の消費者ルー
ルを利得 に向かった経路から分岐させるように環境状態を変えて
しまう可能性がある。 このとき、消費者は優勢になれない。その分
岐により消費者にその消費者ルー ルを使用する消費者群から支
払いを受け取れないようになるからである。分岐させる供給者ルー
ルはさらに優勢になれない。優勢化の初期段階にいるからである。
128
128
n Evoeco
複雑ネットワーク
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ネットワークによる互恵
スケール不変性の欠陥と抑制
ネットワークによる互恵
¢ 
n Evoeco
¢ 
ネットワーク互恵network reciprocityのディレンマ緩解・解消プロ
トコル研究がある。ネットワーク互恵に着目し対戦相手の匿名性を
減殺するディレンマ緩解・解消プロトコルを研究し異質的な「複雑ネ
ットワーク」 で「協調のサポート効果」を検証し、ディレンマ緩解・解
消プロトコル研究しようとするものである。実社会では、相手とどのよ
うにつきあうか(ゲーム戦略)に加え、つきあう相手の選び方(ネット
ワーク改変戦略)も各個人で様々であり、同時に進化する。
つまり、ゲーム戦略とネットワーク改変戦略の共進化過程を分析す
ることになる。社会のネットワークでは、同質的なランダムネットワー
クとは異なり、ネットワークのリンクの張り方に「強力な互恵」を創出
してディレンマを解消することが可能である。 社会システムは各種
のネットワークから構成されている。ネットワークのデザインは重要
な課題なのである。
130
130
スケール不変性の欠陥と抑制
¢ 
「スケール不変性」があるならば、ノードの次数の巨大なクラ
スターが存在する反面、次数の小さいクラスターが数多く存
在するであろう。これをWWW(World wide Web)の事例で
見ると、次数の小さいクラスターが故障しても、ネットワーク全
体にそれほど大きな影響は生じない。故障したクラスターを
取り除いても、代替経路を容易に探索することができるし、大
きな結合次数を持つクラスターの連結性が変わるわけでない。
— 
こうして系全体の平均経路長(平均最短距離)はほぼ変化しない。
つまり、この意味で、ネットワークは「頑健」である。しかしながら、い
くつかある結合次数が大きいクラスター(WWWの例ではハhub)
の一つが攻撃されただけで故障した場合には、それだけで、ネット
ワークは解体されてしまう可能性に晒されている。後者の意味で、
ネットワークは「脆弱」でもある。したがって、スケール不変なネットワ
ークは頑健性と脆弱性を同時に併せ持っている。以上はスケール
不変なネットワークの両義的な特徴である。 ゆえに、ネットワークの
結合次数分布がスケール不変性を満たすならば、このネットワーク
にある種の「システミックリスク」が発生することが知られている。
131
6 次の隔たり(SIX DEGREES OF
SEPARATION) ¢ 
¢ 
¢ 
「アイヒマン実験」で著名になったスタンリー・ミルグラム
Milgram(1967)は、1967年に、カンザス・ウィチタに住む60人を選
んで「友達の輪」を通じて彼らが全く知らないマサチューセッツ・ケ
ンブリッジの神学生の妻に手紙を送るように依頼した。
実際に到達したのはわずか3通のみであったが、最短4日で届いた
ものがあったという。初回の実験の成功率は極端に低かったが、そ
の後の試行を積み重ねることによって成功率は35パーセントとなっ
た。
後続の研究者では成功率97パーセントまで高めた例があるという。
ミルグラムの調査は、出発点から最終到達点に至るまでに経由す
る友達の人数は平均6人であった。この仲介者の平均数6名を「6
次の隔たりsix degrees of separation」と呼んだ。
— 
実験過程で多くの人が経由点として利用するある特定の節がしばしば登場
する。このハブに相当する節をミルグラムはfunneling効果と呼んだ。
132
スモールワールドネットワーク
¢ 
¢ 
ノード数20、リンク数3、再結合確率0.5のケース。ノード2とノード14は直接のリンクはないが間接
的に2->20->1->-4でリンク数3で結びつく。ノード3とノード14についても同様で3->4->2->8でリ
ンク数3で結びつく。
"Small World Networks" from The Wolfram Demonstrations Project: http://
demonstrations.wolfram.com/SmallWorldNetworks/. Contributed by: Felipe Dimer
de Oliveira.
133
スモールワールド性
¢  「6
次の隔たり」が実現されるとき、「世界は狭い」というこ
とになる。この意味での「スモールワールド性」は平均最
短距離とクラスター係数かんする2つの条件によっては
じめて保証される。
¢  平均最短距離Lが小さい。
¢  ネットワークのクラスター係数Cが大きい。
134
平均最短距離 ノード間が最短距離で繋がっているとしてそれを距離1とおき、
それらの距離で繋がっているノード同士のペアのすべてにつ
いて平均した距離を平均最短距離average nearest(or
shortest) path lengthと呼ぶ。このシステムの平均最短距
離はシステム内のノードの総数Nに対して相対的に短い。つ
まり、Nの増加に比例してL が巨大になることはない。
¢  L ∝ log N
¢  換言すれば、この条件は平均結合次数<k>がネットワークの
ノード総数Nに対して小さいということである。
¢  <k> ≪ N
¢  これは単に多くのノードはが一部のノードと繋がっていること
を示しているだけである。したがって、この条件だけで特定目
標への最終的到達が保証されるわけではない。
¢ 
135
クラスター係数
¢  k個の辺で繋がる他のk個のノードを持つ頂点を考察す
る。この選ばれたノードの最短距離にあるノードは頂点
同士が完全に連結したクラスターを形成するとするこの
とき、ノード間の辺の数はk(k − 1)/2。この辺の数が最
大数である。これらのk個の頂点に実際に存在する辺の
数と最大数k(k − 1)/2との比がこのノードのクラスター係
数である。これにたいして、全ネットワークのクラスター
係数は全頂点のクラスター係数の平均として定義される。 ¢  C(k)=Σk’Σk”{(k’-1)(k”-1)/<k>N} p(k)p(k”)
¢  クラスター係数は現実の各種のネットワークで0.1から
0.7程度と言われる。
— 
辺がランダムに選ばれるランダムグラフではクラスター係数
はノード総数が増加するにつれて0に漸近する。
136
富の不平等の拡大
庶民の生活にとって貨幣は交換手段としてしか重要性を持たないと言って
よい。これは次の数字を見れば一目瞭然である。
¢ 
G. William Dunhoff教授 (カリフォルニア大学サンタクル—ズ校社会学部教
授)のホームページ
¢ 
¢ 
¢ 
http://sociology.ucsc.edu/whorulesamerica/power/wealth.html
に’Who rules America’ というページがあるが、そこに米国の富の構造が
詳しく紹介されている。2007年時点の推計で、富の分布ではボトム85パー
セントの人々は全体の15パーセントの富しか保有していない。さらに興味
あることに、正味金融資産ではボトム80パーセントの人々は全体の7パーセ
ントしか保有していないのである。もっともこの事実は米国ではこの半世紀
それほど大きく変わったわけではない。
別の出典となるが、2000年時点で世界の富裕トップ1パーセントの内
訳は米国37パーセント、日本27パーセントであった。出典はJames B.
Davies, Susanna Sandstrom, Anthony Shorrocks, and Edward N. Wolff
(2009), The World Distribution of Household Wealth, NBER Working
Papers 15508。
137
¢ 
ベキ分布とスケール不変性
¢ 
¢ 
¢ 
¢ 
138
¢ 
すぐに見るように、ベキ分布はある事象の発生の分布f(x)がつぎの
ようにベキ則に従っている。
f(x)=x-α
ベキ分布ははスケール不変性という性質を持ち、いくらでも大きな
事象の発生を許容する。 この分布には分布の偏りを特徴付ける平
均的な尺度(スケール)とないのである。「ネットワークの次数分布の
スケール不変性」を述べる前に、ベキ分布のスケール不変性を述
べる。ベキ乗で表せる状態がはフラクタル(自己相似)である。実際、
α>0 としてf(x)=x-αにx/bを代入すれば、
f(x/b) = (x/b)-α = (bα)(x-α)
が成り立ち、スケールが異なってもx-αというx依存性は変わらない。
市場経済システムのスケール不変性
Eugene Stanley等の経済物理学者たちは「価格変動のフラクタル性(ある
いはカオス性)」に着眼して、大きな価格変動の分布が正規分布では補足
できずパレート-レヴィPareto-Lévy分布(△x-α, 0<α<2)により近似できる
こと、裾野の端にあたる大偏差にたいしては(△x-3)の当てはまりがよいこと
などを発見した。 スタンレーはまた企業資産成長率の分布の標準偏差が
企業資産の値 K ごとにK-0.15とスケールされることを計測した。
¢ 
一方、Okuyama, Takayasu, and Takayasu(1997)は、企業の所得分布でジ
ップの法則Zipf lawが成り立つことを示した。たとえば日本の4000万円以上
の所得Iを申告している約8万社のデータ(1997年度)を解析すると累積分布
でlog P(≧I) ~I-1が成り立つ。 さらに、これらは過去30年をつうじても成り
立つことがわかる。要するに、現代の経済システムにはいくらでも大きな企
業や価格変動が起きる可能性に取り囲まれている。 ¢ 
ベキ分布の分散は数学上無限大であるが、われわれは有限のデータしか
持たない。適当なシミュレーションにより、どのような平均と標準偏差のとき
にベキ分布に近い分布が形成されるかを調べることができる。これをZipf分
布のケースで示す。
139
¢ 
ジップの法則シミュレーション
140
¢ 
"Power Law Tails in Log Normal Data" from The Wolfram Demonstrations Project:
¢ 
http://demonstrations.wolfram.com/PowerLawTailsInLogNormalData/
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