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米国ネットビジネスの本質 - Nomura Research Institute
NAVIGATION & SOLUTION 2 米国ネットビジネスの本質 井上和久 米国では、情報技術の進展によるデジタル化・ネットワーク化の波が、従来の ビジネス慣行や業界構造にさまざまな変化をもたらしている。 デジタル化・ネットワーク化は、企業の販売戦略や価格戦略の自由度を高める 一方、顧客・企業間の情報格差縮小と企業の独占力低下をもたらし、顧客中心の カスタマイズ型・継続サービス型ビジネスを主流に押し上げた。ネットワークの 双方向性を活かして顧客価値を相互作用で高めるような「場」を提供するサービ スも出現した。さらに、ネットワークビジネスの信用・配送・決済面での弱さを 補完すべく、宅配や店舗のような伝統的チャネルとの融合も活発化している。 企業は、インターネットを万能と盲信することなく、顧客価値を高めるための 優れた「道具」の1つと認識して、インターネットを活用すべきである。 Ⅰ デジタル化・ネットワーク化 が促進するモノと情報の分離 め手となる重要な要素である。 価格情報、商品属性情報が限られている と、的確な商品選択ができないため、消費 1 情報の重要性と消費者・ 企業間の情報の偏在 26 者はコスト(サーチコスト)を支払っても より多くの情報を入手しようとする。通常、 商品やサービスの購入は、購入判断とい このコストの限度額は、不動産や車を購入 う意思決定過程と、判断後の実際の購入手 する場合と日用品を購入する場合を比べれ 続きとに分けられる。一般に、購入判断の ば明らかなように、対象となる商品の重要 際には、価格情報、商品属性情報(商品の 性(通常は金額)に比例する。 内容)といった「情報」に基づく分析が必 従来、情報はモノに付随していることが 要となる。これらの情報は、購入判断の決 多かったため、情報は売り手である企業側 知的資産創造/2000年10月号 に偏在しており、広告に見られるように、 双方向コミュニケーションにより商品に関 企業は販促情報だけを積極的に開示する傾 する口コミ情報が活発に流通する。 向がある。したがって、中立な情報や、企 これにより、客観的な評価情報だけでな 業にとって不利な情報は流通しにくい。ま く、主観的な評価情報も容易に得られるよ た、消費者が直接店に行かないと詳しい情 うになる。コミュニティ内ではむしろ、企 報が得られないということはよくあるが、 業にとって不利な情報など、企業からは自 それ自体、企業の方が情報に関して優位な 発的に発信されにくい情報が活発に流通す 立場にあることを示している。 る傾向がある。この段階になると、消費者 は商品選択に際してかなり充実した情報を 2 モノ・情報の分離と 得ることができる。 情報の流通 デジタル化・ネットワーク化の進展は、 モノと情報を切り離して情報部分だけを流 Ⅱ 販売戦略・価格戦略の自由度 を高めるデジタル化 通させることを可能とした。 価格情報が開示されると、消費者は、特 1 総合・分解戦略の3つの軸 にコモディティ(日用品)化された商品の 企業は、デジタル化・ネットワーク化に 場合、直接店に出向かなくても価格比較が よって商品、特にデジタルコンテンツを組 可能となる。これは、消費者の情報獲得コ み合わせて提供したり、従来は組み合わせ ストの激減につながる一方、価格競争の激 た形でしか提供できなかったものをばらば 化やコモディティ化の進展をもたらし、情 らにして必要なものだけを提供したりする 報格差に基づく差別化は通用しなくなる。 ことが可能となった。これにより、提供形 また、詳細な商品属性情報の開示が進むと、 態の自由度が高まり、より消費者のニーズ 消費者は、購入に先立ってより的確な商品 に合致した商品・サービスを適切な価格で 情報を得られるようになり、自分の嗜好に 提供することができる。このような戦略を 合致する商品を選択できるようになる。 総合・分解戦略と呼ぶ。 さらに、評価機関や消費者団体、マスコ 総合・分解戦略の軸としては、商品、顧 ミ(新聞、雑誌)などが情報の仲介者とな 客、時間の3つが考えられる(次ページの って消費者の情報を収集・整理し、客観的 図1)。 な分析を行って中立な立場で商品やサービ 商品を軸とした戦略では、企業は、さま スの評価情報を提供するようになると、消 ざまな状況に応じて複数の商品をバンドリ 費者は、より多角的な視点で商品を分析す ング(パッケージ化)したり、アンバンド ることができ、より自分の嗜好に合った商 リング(個別販売)したりする。たとえば、 品を選択することが可能になる。 販売単価の低いソフトウェアが大量にある 一方、情報技術、特にインターネットの 場合、一つ一つのソフトウェアを個別に販 ウェブ技術は情報発信を身近なものとした 売する労力を考えると、さまざまなソフト が、消費者の自発的な情報発信が盛んにな ウェアを1枚のCD−ROMにまとめて単一 ると、コミュニティが自発的につくられ、 価格で販売するという総合戦略の方が効率 米国ネットビジネスの本質 27 を販売し、契約の範囲内であれば利用者が 図1 総合・分解戦略の3つの軸 社内で自由に複製できるようにすれば、売 顧客 り手・買い手双方の事務手続きなどを大幅 に削減することが可能となる。このサイト サイト ライセンス (総合) ライセンスは、顧客を軸とした総合戦略と いえる。 時間を軸とした戦略は、顧客の現在およ 単品販売 (分解) 店頭販売・ASP (分解) び将来のキャッシュフロー(現金収支)に 商品 対するニーズによって使い分けられる。雑 誌の販売を例にとれば、消費者が自分の興 定期購読・ 受託開発 (総合) 味のある記事が記載されているときだけ選 アンバンドリング (分解) バンドリング (総合) んで購入できる書店での販売が分解戦略で あり、割引はあるが消費者が一定期間必ず 購入しなければならない定期購読契約は時 時間 間に関する総合戦略といえる。 注)ASP:アプリケーション・サービス・プロバイダー また、ソフトウェアを例にとれば、受託 開発や売り切り型のソフトウェアパッケー 的であり望ましい。 ジ販売が総合戦略であり、ASP(アプリケ また新聞は、それをさまざまな記事がバ ーション・サービス・プロバイダー)サー ンドリングされた商品とみなすと、消費者 ビスと呼ばれる、ソフトウェアを利用者が 1人当たりの配達コストが高いために、多 必要な期間だけ利用料徴収方式で提供する 種多様な記事をひとまとめにすることで、 レンタル型のサービスは分解戦略である。 できるだけ多くの購入者を獲得しようとい う総合戦略をとっているといえる。 一方、インターネット上で記事検索を可 サービスの統合 能にして記事単位で販売するオンラインサ デジタル化によってコンテンツ(情報の ービスにより、過去の特定の記事だけを読 中身)のコモディティ化が進むと、コンテ みたいという個別ニーズに対応することが ンツ産業にとっては、いかに自社コンテン できる。これは、デジタル化・ネットワー ツの付加価値を高めるかということが競合 ク化で可能となった分解戦略である。 他社との差別化の鍵となる。コンテンツを 顧客を軸とした戦略も、状況や顧客のタ 28 2 付加価値の向上とコンテンツ 提供する企業は、数値データ、文書、画像、 イプによって使い分けられる。たとえば、 音声といったさまざまなコンテンツを統合 ソフトウェアの場合、小口であれば個別に してコンテンツの魅力を相対的に高めた 販売する分解戦略を採用するかもしれな り、統合されたコンテンツに迅速かつ容易 い。しかし、大口顧客で同一社内に多数の にアクセスできるといった利便性を加味し 利用者が存在する場合には、そのソフトウ たりすることで、利用者を自社のコンテン ェアの利用権をまとめたサイトライセンス ツに引きつけておこうとする。 知的資産創造/2000年10月号 なお、一般に、コンテンツを網羅的に収 マーケティング活動に基づいて大量見込み 集して統合するためには莫大な投資が必要 生産を行うのが通例であった。製品価格は となるため、コンテンツの統合は、参入障 原価に基づいて企業側の裁量で決定され、 壁を高めて競争を相対的に緩和するという 消費者は価格を与えられたものとみるわけ 効果もある。 だが、これは企業側がある程度独占力を持 っている状況と考えられる。また消費者は、 Ⅲ 情報の非対称性の解消と 顧客中心主義への転換 企業が定めた価格の妥当性について、客観 的な情報を十分に得ることができないのが 通常である。 1 情報流通の促進がもたらす 市場構造の変質 情報の流通が促進されると、これまで売 しかし、情報の流通速度が高まり、モノ から分離したさまざまな情報が得られるよ うになると、消費者は自己の嗜好に基づい り手企業側に偏っていた情報が均質化して て製品や売り手を選択しようとするため、 情報の非対称性が解消し、市場構造の変質 従来の売り手企業の独占力は低下し、むし につながる。 ろ情報を握る消費者の交渉力が強くなる傾 コンテンツのデジタル化は、それにより 向がある。 複製コストが劇的に下がるため、コンテン 情報が均質化してくると、情報格差を利 ツのコモディティ化を促進する。一方、ネ 用したビジネスは成り立たなくなる。従来、 ットワーク化は、それによりコンテンツの 「インターミディアリー」と呼ばれる中間 流通コストが劇的に下がるため、情報の流 業者は、リスクをとって大量の在庫を引き 通速度を高め、やはりコンテンツのコモデ 受ける役割を果たしていた。ところが、コ ィティ化を促進する。 ンテンツのデジタル化やネットワーク化が たとえば、非常に多額の資金を投下して 進むと、消費者は情報過多に陥る傾向があ コンテンツのデジタル化を行っても、差別 り、いかに多くの情報を得るかよりも、そ 化できずに同様のコンテンツが競合してく のなかから消費者にとって適切な情報をい ると、両者は苛酷な価格競争に陥ってしま かにすくいとるかが主眼となる。 う。つまり、限界コストがゼロに近いため、 すなわち、情報流通速度が高まり、顧客 価格は限りなくゼロに近づく。「ブリタニ 側に必要な情報が集まるようになると、単 カ百科事典」のコンテンツは、マイクロソ に消費者へ商品を流すだけの販売チャネル フトのCD−ROM百科事典「エンカルタ」 である売り手主導の従来型インターミディ との価格競争に陥った。前者は、品質では アリーはもはや存在価値がなくなり、買い 圧倒的な優位性を有するにもかかわらず、 手主導である顧客支援型の新たなインター 当初2000ドル程度だった価格が数十ドルに ミディアリーが必要となる。 まで下落し、1999年末にはついにインター ネット上で無償公開するに至った注1。 ところで、これまでは、製造業は消費者 の嗜好パターンを予測して製品を企画し、 2 進化するインターネット エージェント 典型的な顧客支援型インターミディアリ 米国ネットビジネスの本質 29 ーとして、消費者のショッピングを支援す Ⅳ サービス業化する製造業界 るインターネットエージェントがあげられ る。その萌芽といえるのが、商品を特定す 1 製造業界の構造変化 るだけでインターネット上の価格情報を収 消費者のニーズが多様化してくると、単 集し、比較表にして提示してくれるという にモノを作って売るだけでは消費者を満足 価格比較サービスである。 させられなくなり、顧客情報を分析してニ 単純な価格の比較ができるだけでも消費 者にとって有益だが、消費者のショッピン ーズに合致した商品を継続的に消費者に提 供していくことが必要となる。 グを支援するインターネットエージェント 消費者が本来必要としているのは商品そ に期待される役割は、単なる価格情報の収 のものではなく、その商品に内包されるサ 集と比較にとどまらない。最近では、イン ービスであるという考え方もできる。たと ターネットエージェントが急激に進化し、 えば、パソコンについて考えてみると、多 消費者の嗜好に合わせて必要な商品属性情 くの消費者にとってパソコンは手段であっ 報をつねに更新し、価格以外の要素も加味 て目的ではない。ワープロや表計算ソフト した総合的な評価に基づいて、商品や売り を使いたい、インターネットでネットサー 手の選択と推薦を行うサービスまで登場し フィンをしたい、電子メールで友人とコミ ている。 ュニケーションがしたい、などの具体的な たとえば、アールユーシュア(RUSure) 目的があってパソコンを買うのが通常であ などのサービスでは、特定の商品の情報を る。したがって、パソコンの性能や機能な つねに監視して、消費者の嗜好に合わせて どは、この使用目的に合致するように選択 売り手の取捨選択まで行い、適切な売り手 することが重要となる。 を推薦する。 自動車についても、自動車そのものより さらに進化したインターネットエージェ も、それが提供する利便性、たとえば人や ントの例としては、ネクスタグ(NexTag) モノを輸送するというサービスを提供する があげられる。同社のウェブサイトでは、 のが主眼である、という考え方ができる。 消費者が買いたい商品や種類を指定する 今後、製造業界がますますサービス業化 と、売り手企業ごとに価格だけでなく在庫 を迫られるという点については、後述する の有無も表示される。消費者が入力したジ ソフトウェア業界と同様である。しかし、 ップコード(日本の郵便番号に相当)に基 ソフトウェアが無形資産であるのに対し、 づいて送料や州税額(州外取引であれば免 製造業界の取り扱う製品は基本的に有形資 税)を計算し、その消費者にとっての総コ 産であることに注意する必要がある。消費 ストに基づく価格比較結果を提示してくれ 者の嗜好の違いにより、有形資産の所有に る。さらに、表示された総コストを参考に 対する独特の効用も存在するケースがある 消費者が自分の希望価格を表明し、売り手 ため、必ずしもサービス化一辺倒となるわ が興味を示せば、電子メールで売り手と1 けではない。 対1で価格交渉ができるのである。 たとえば、実際に車の所有が消費者にも たらす効用は、必ずしも輸送サービスがも 30 知的資産創造/2000年10月号 たらす効用に等しいわけではない。高級車 を所有していることによるステータスや、 の転換により顧客発の立場で考えた。 同社は、消費者の嗜好や利用目的がさま 自家用車の手入れをすることによる満足感 ざまなため、部品構成の選択肢を顧客に与 などを無視してはならない。 えてパソコンの受注生産を実現した。デル このような観点からすると、製造業者に の受注生産の仕組みのポイントは、完全な は、顧客とより密接に結びついて顧客の嗜 注文製作ではなく、規格化と親切なガイド 好やニーズを継続的に分析し、各顧客のニ により自分用のパソコンの製造を容易に低 ーズを満たすサービスを包含した商品を的 コストで実現していることである。このよ 確かつ迅速に作り上げ、単発的ではなく顧 うなセミオーダー型の受注生産方式であっ 客のライフスタイルの変化に応じて継続的 ても、「自分だけのパソコン」というオー にサービスを維持していくという、「顧客 ダーメイド的な印象を与え、顧客の満足度 発」の発想が重要となる。一方、製造業者 を高める効果があると考えられる。 とサプライヤー(供給業者)との関係も、 デルはさらに、部品のサプライヤーを統 従来の系列関係から、柔軟性があり緊張感 合化して独自のサプライヤーネットワーク の高い、対等で自発的な関係に変化してい を構築し、厳しい評価基準を設けて品質、 くと考えられる。 柔軟性、同社のビジョンの理解度などの観 点からサプライヤーを厳選できる体制を整 2 仮想統合でサービス業に進化 したデルコンピュータ パソコンは陳腐化が激しいため、旧来の えた。デル自身が顧客との接点を押さえて おり、顧客中心にサプライヤーを統合して 最適なサービスを提供している(図2)。 レディーメイド・大量生産方式では限界が 各サプライヤーからみれば、巨大な顧客 あると考えられる。また、在庫リスクが高 基盤を持ち安定的な大量発注をしてくるデ いため、在庫の最小化が競争力の源泉とな ルは大口の優良顧客である。一方、デルは る。デルコンピュータは、この問題を発想 サプライヤーを機動的に変更することがで 図2 顧客中心にサプライヤーを統合するデルコンピュータ 従来の製造業者の 位置づけ 消費者 製造業者 製品 サプライヤー群 デルコンピュータの 位置づけ 注文 嗜好 デルコン ピュータ 部品 消費者 製品 サプライヤー群 米国ネットビジネスの本質 31 きるため、サプライヤーに対して強い交渉 を利用するという選択肢が消費者に与えら 力を持っている。したがって両者は、資本 れることで、自動車を製造して消費者に売 提携などによる系列関係では実現しえない るという従来の大前提が崩壊してしまうか ような緊張感のある関係を保持している。 らだ。したがって今後は、自動車メーカー 自身がカープールサービスの提供主体とし 3 サービス業化を模索する 自動車業界 欧米では、「カープール」というサービ れ、そうなれば自動車製造業界のサービス 業化が急速に進展することになる。 スが浸透し始めている。これは予約システ 2000年2月、米国の三大自動車メーカー ムにインターネットを活用して、ライフス (フォード・モーター、GM、ダイムラーク タイルや状況に応じて自動車を短時間レン ライスラー)が、部品調達のためのインタ タルできるようにしたサービスで、従来の ーネットベンチャー(COVISINT)を共同 レンタカーよりもきめ細かく日常的なニー 設立することを発表した。これにより当該 ズに対応でき、タクシーやバスなどといっ 3社は、競合企業であるにもかかわらず、 た公共交通機関の機能までも一部代替する 部品を規格化・共通化して部品のコモディ ものである。たとえば、デートをしたいと ティ化を進めつつ、オークションメカニズ きには2人乗りのスポーツカー、キャンプ ムを利用してサプライヤーの価格競争を激 に出かけるときにはランドクルーザー、家 化させ、大幅なコスト削減を実現する狙い 族で買い物に出かけるときには大きめのセ である。 ダン、などの選択の幅が与えられる。 32 て積極的に関与していくことも十分考えら この構想は、各自動車メーカーが、旧来 カープールサービスは、自動車を輸送サ の部品による製品差別化をあきらめ、より ービスの手段と位置づけ、状況とニーズの 顧客サービスに近い領域で勝負していくと 変化に応じたサービスを提供する仕組みで いう戦略変更のメッセージであろう。一方、 ある。これが本格的に浸透すれば、多くの 部品のサプライヤー側は、コスト競争力と 消費者は自動車を資産として保有する必要 品質が問われ、激しい市場原理にさらされ がなくなるため、事実上、自動車保有のア るため、淘汰が進むと考えられる。しかし、 ウトソーシング(外部委託)が可能にな この苛酷な競争に勝ち残れば、1社にとど る。もちろん、自動車を所有している状態 まらない大量受注を獲得でき、大幅な売り に近い理想的なサービスを実現するために 上げ増が期待できる。 は、日本におけるコンビニエンスストアの サービス業化によって製造業者が顧客 ように、カープール拠点をあらゆる場所に 側・サービス側にシフトするということ 設置しなくてはならないという課題は残っ は、顧客との接点を重視して顧客に近づく ている。 ということであり、これは販売委託体制か このようなカープールが今後急速に浸透 ら直販体制への移行に拍車をかけるだろ していくならば、それは自動車製造業界に う。製造業者は今後、小売業者や代理店と レンタカーが登場したとき以来の衝撃を与 いう既存の販売チャネルとの衝突を回避し えるだろう。自動車を買わずにカープール つつ、いかに直販と並存させていくかが課 知的資産創造/2000年10月号 題となるだろう。 ASPの登場は、アプリケーションシステ ムのサービス化を意味している。顧客企業 Ⅴ 個別・継続サービス化と構造 変化が進むソフトウェア業界 は、アプリケーションシステムを自社で開 発したり、購入して自社の資産として保有 したりする必要はなくなり、莫大な初期投 1 モノからサービスに変質する ソフトウェア これまで、ソフトウェアはサービスとい うよりモノとして扱われてきた感がある。 資のゆえに長期にわたってそのシステムに 束縛されるというリスクは低くなる。これ は資産の変動費用化であり、アウトソーシ ングの一種と考えることもできる。 本来、ソフトウェアは継続的なサービスを 今後は、ソフトウェア業界全体を巻き込 提供するものであり、利用者はそこから継 んだ垂直統合の動きが加速し、業界知識を 続的に対価を得るが、会計上は資産として 武器に各業界に特化したニッチなASPが登 計上され、減価償却されていくのが通例で 場すると考えられる。このようなタイプの ある。 ASPの付加価値は、顧客ニーズに的確に対 一方、情報技術に必ずしも明るくない利 応できる柔軟性と専門性に集約される。 用者が増加してくると、システム開発側が コストに関する情報を有しているという情 3 オープンソースの意義 報の非対称性のゆえに、顧客発ではなく開 ソフトウェアのソースコード(開発情 発側の論理で価格決定されるという状況と 報)を自発的に公開するという思想は、米 なる。 国の学術ネットワークを中心に早くから生 ソフトウェアは無形資産であるため、所 まれていた。パソコン通信の普及やその後 有すること自体の効用はほとんどゼロであ のインターネットの進展によって、自分の る。当然、サービス化はより徹底的に進む 開発したソフトウェアを無償または低額で はずである。このためソフトウェア業界で 配布するフリーウェアやシェアウェアとい は、製造業界のサービス化よりもドラステ う配布形態も定着した。 ィックな構造変化が起こると考えられる。 シェアウェアは、むしろデジタルコンテ ンツの複製・流通コストが低いというコス 2 ソフトウェア業界の構造変化 ト構造を利用して、薄利多売または初期開 ソフトウェア産業における新たな潮流 発コストの回収を意図した商業形態とみる が、ASP(アプリケーション・サービス・ ことができ、あくまでも商業ソフトウェア プロバイダー)の登場である。ASPサービ の一種と考えられる。一方、無償だがソー スは、前述のように、デスクトップや企業 スコードが公開されていないフリーウェア 内ネットワーク上にインストールされてモ は、ボランティア的側面が強いが、品質に ノとして存在するのではなく、さまざまな 対する不安が残る。ソースコードをオープ 機能やサービスをインターネット経由で継 ンにすることは良い品質のシグナルであ 続的に提供するアプリケーションシステム り、逆は逆であると考えられるからだ。 のレンタルのようなサービスといえる。 結局、ソースコードがオープンでない場 米国ネットビジネスの本質 33 合には、無償であることと品質や利便性と かしは許されず、より優れたソースコード の間にトレードオフ(二律背反)関係が存 が公開されればそれ以前のソースコードは 在すると考えられる。 捨て去られるという意味で、実力主義の世 一般に商業ソフトウェアの場合、革新的 な機能を提供して多数の利用者を獲得し、 界が形成されている。この事実が、ある意 味で品質の高さを担保している。 業界標準としての地位を確立することが成 オープンソースの台頭は、ソフトウェア 功の常道であった。また、他社に模倣され 関連企業に対して、長期的にはソフトウェ にくくするため、ソフトウェアにさまざま アの付加価値の源泉について再考を強いて なブラックボックスを組み込んだうえで、 いるということであり、現在のアプリケー 利用者を独自の機能に慣れさせたりファイ ションソフト業界の産業構造に大きな影響 ル仕様を独自のものにしたりすることで、 を与える現象である。オープンソースは、 それを業界標準にしてブラックボックスに これまでの商業ソフトウェアだけでなく、 依存する体制を確立してしまう。そうすれ 無償だがソースコードが公開されていない ば、利用者は互換性の問題などからそのソ フリーウェアとも大きく異なる優れた性質 フトウェアを使わざるをえなくなる。 を持っている。このため、業界横断的に広 しかし、このような形で独占的な地位を く適用可能なOS(基本ソフト)やオフィス 確立しても、一営利企業の人的資源には限 ツールのような基本的な汎用ソフトウェア 界があるため開発の機動性に欠け、結果的 の領域では、今後はオープンソースが主流 に利用者の不満を高める場合も多い。 になっていくと考えられる。 一方、リナックス(Linux)などのソー スコードを無償で公開しているオープンソ ースのソフトウェアの場合、インターネッ Ⅵ 新たな市場と「場」―― コミュニティとオークション トを利用して地理的、時間的な障壁を超え た仮想的な開発体制が維持されており、多 コミュニティはさまざまな情報交換の 数のプログラマーの自主的な参加によって 「場」である。一方、オークションは、最 プロジェクトが維持されている。 適な価格を見つけ出すメカニズムを内包し オープンソースのメカニズムで重要な点 た、売り手と買い手の双方向コミュニケー は、プロジェクトの統制をできるかぎり緩 ションの「場」であり、コミュニティの一 くする分散的な組織運営にすることで地理 形態であるといえよう。 的、時間的な制約を取り払い、優秀なプロ グラマーの空いた時間など断片的に生じる 貴重な資源をうまく活用することに成功し 広げるイーベイ ていることである。この方式では、開発の オークションは、買い手と売り手が一堂 重複が生じるリスクがあるものの、頻繁に に会して、売り手の提供する品物(競売 成果をリリースして公開することで、この 品)に対して買い手が入札額を提示し、最 リスクを最小化している。 も売り手にとって魅力的な入札額を提示し さらに、オープンであるため妥協やごま 34 1 オークションの可能性を 知的資産創造/2000年10月号 た者だけがその品物を入手することができ る、という単純な売買の仕組みである。そ 図3 「場」を提供しビジネス基盤に発展するイーベイ の歴史は古いが、非常に効率良く透明性と 納得性の高い方法で売買を成立させること ができる市場メカニズムである。 コミュニティ情報 ビジネスアイデア インターネットを利用した本格的なオン 評価情報 ラインオークションは1995年に始まった が、消費者同士の個人売買の場としてのオ 売り手 価格情報 商品属性情報 イーベイ 評価情報 ンラインオークションを提供して成功した のがイーベイ(eBay)である。オンライン 買い手 ビジネスアイデア コミュニティ情報 オークションは、だれでも参加でき、時間 や地理的な制約がないため、多くの売り手 や買い手を容易に集めることができる。イ ーベイでは、1999年末時点で約1000万人の 登録会員がおり、99年の1年間で約120万 注2 点の品物が売買されている 。 るようになっている。売り手にはオークシ ョンを成功させるために魅力ある商品を真 買い手にとっては、売り手が多いほど品 剣に提供しようという動機づけを与える一 ぞろえが豊富なため欲しい品物を見つけら 方、買い手は気軽に参加できるため、買い れる可能性が高まるというメリットがあ 手の数を増加させる効果がある。 り、売り手にとっては、買い手が多いほど イーベイは、つねに自由かつ柔軟な発想 高く売れる可能性が高まる。そのため、ネ で取引が行われるように、自身は「場」の ットワーク規模の巨大さがますますイーベ 提供に徹し、自らの中立性を非常に重視し イを利用する動機づけとなっている。 ている。したがってイーベイは、売買が成 イーベイでは、コンピュータ技術を駆使 した革新的な工夫が凝らされている。買い 立した後の配送・決済や金銭授受について は基本的には関与しない。 手が支払い上限額を入力しておくと、その また、早くからコミュニティの重要性を 情報をもとにイーベイのコンピュータが自 認識し、顧客である買い手と売り手が自由 動的に最適戦略を実行するという代理入札 に意見を交換できるような雰囲気を醸成し 機能がその一例である。 てきた。参加者はイーベイだけからでなく イーベイの収益構造は、①安価であるが このコミュニティからも充実した支援を得 安定的な手数料、②成功報酬(落札価格の ることができるため、それがさらなる顧客 一部)、③オプションだが高マージンのサ 増加に寄与している。さらに、イーベイと ービス収入(特別に自分のオークションを いう一種の基盤を利用したさまざまなビジ 目立たせたい売り手のための「フィーチャ ネスに関するアイデアがコミュニティのな ードオークション」と呼ばれる機能の利用 かで提案され、実証・報告されてきた。こ 料)――という3つの基盤からなる。いず ういった動きが、他の顧客やイーベイ自身 れも売り手側からだけ料金を徴収し、買い の新たなビジネスにつながるという好循環 手側は全く無料でオークションに参加でき を生み出している。 米国ネットビジネスの本質 35 このように米国では、市場規模の拡大と まう。つまり、航空会社にとっては、空席 顧客の自由なアイデア交換に触発される形 率をゼロ(すなわち稼働率を100%)にす で、自然発生的にイーベイがビジネス基盤 るようにうまく価格をコントロールするこ として定着しつつある。イーベイのビジネ とが重要となる。 スの幅と可能性は、当初からは想像できな いほど拡大している(前ページの図3)。 航空会社はできるかぎり事前に空席率を ゼロに近づけてその状態を確定したいと考 たとえば、処分に苦慮する過剰在庫を持 えるので、たとえばキャンセルできない航 つ小売店や卸売店が新たな小売りチャネル 空チケットは多少安く売ってもよいと考え として利用したり、小売店が自己の小売り るだろう。同様に、出発までの期間が短く チャネルで安く売るための商品仕入れの場 なるほど売れる可能性(時間価値)は低く として利用したりするなど、ビジネス顧客 なるので、本来は価格を下げても売りさば の利用が増加している。 きたいと考えるかもしれない。 また、広告にも利用されている。イーベ しかし実際には、出発までの期間が短い イの知名度の高さから、イーベイに出品す ほどディスカウントチケットの価格は上が ることで多くの潜在顧客にアクセスするこ っていく。これは、経験的に、出発日が迫 とが可能となるため、自社のウェブサイト っても特定の出発日のチケットに固執する の情報をリンクして、自社へ誘導する例が ような消費者は一般に購買意欲が高いはず 増えている。イーベイを広告として利用す で、売り手の収益を高めるためには高い価 るのは、マスコミなどに高額な広告料を費 格を設定した方がよいからであろう。ただ やすよりも有効といえるかもしれない。 し、この方針は、同時に売れ残りのリスク さらに、最近では一歩踏み込んで、イー が伴い、出発間際になると、単位当たりの ベイ上でビジネスを行う小規模企業を支援 コストを割るようなディスカウント価格で する「パワーセラー」というサービスが開 あっても売った方がましという不良在庫チ 始された。これは、顧客支援のアウトソー ケットが発生する可能性が高い。 シングサービスで、定評のあるイーベイの このようにして発生するいわゆる不良在 顧客支援を自社サービスの中に組み込むこ 庫チケットは、従来の販売チャネルのなか とができる代わりに、月額の固定料金プラ では扱いにくいうえに、価格をどの水準に ス売上高の一定割合をイーベイに支払うと 設定すればほぼ確実に売れるのかがよくわ いうものである。 からないという問題がある。そこでプライ スライン・ドット・コムは、インターネッ 36 2 独占的市場の非効率性の隙間 ト上で消費者に購入したい航空チケットの を突いたプライスライン 条件と価格を入力させ、その入札額を今度 旅客航空サービスのコスト構造はユニー はサプライヤーとして参加している各航空 クな特徴を持つ。飛行機の運航コストはほ 会社に提示し、応札を打診するという革新 ぼ一定であり、収容可能人数も決まってい 的なシステムを開発・導入した。 るので、空席分の航空チケットはいったん 同社のシステムは「需要集計システム」 出発してしまえばただの紙切れになってし と呼ばれ、米国で特許を取得しているが、 知的資産創造/2000年10月号 このスキームの実体は、買い手が売り手に ットワークをオープン化することでネット オークションを仕掛けるいわゆる逆オーク ワークを巨大化させれば、情報の流通速度 ションモデルである。プライスラインのサ を上げるとともに、自社サービスへの参加 ービスは、上述のような在庫チケットをう 者を広く集めることができる。一方、この まく売りさばくのに絶大な効果を発揮し、 なかにあっても、一部の情報をうまくコン 大成功を収めた。現在では、多くの航空会 トロールしてサービスや価格の個別化につ 社が同社のサプライヤー側のネットワーク なげていくことも重要な戦略である。 に参加している。 プライスラインの逆オークションの例で プライスラインは、航空チケットに続い は、航空券の入札という部分ではインター て同様の性格を持つ産業、すなわち、在庫 ネットで広く情報を公開して巨大ネットワ を持ち越すことができず、つねに稼働率を ークの効果を享受する一方で、完全な価格 100%にしようとするレンタカー、ホテル の個別化を実現して売り手・買い手両者の などの産業に注目し、順次参入している。 満足度を維持するために、航空会社側のネ 同社のターゲットとなる産業の共通点 ットワークはクローズドなものとし、また は、供給は限られているが確実な需要予測 成立した売買の情報は当事者だけに知らせ が不可能なため、従来の販売チャネルだけ るというように、巧みに情報をコントロー では稼働率を100%にすることが困難で、 ルしている。 時間の経過とともに価値が大幅に下がるた 第Ⅲ章第2節で触れたネクスタグでも同 め、ディスカウント幅の大きい商品在庫の 様である。買い手や売り手をうまく引き合 供給がある程度期待できるということであ わせようとしている段階では情報をすべて る。また、陳腐化の激しい生鮮食料品やコ オープンにしているが、いったん買い手と ンピュータ機器、モデルチェンジが頻繁に 売り手が価格交渉の段階に入ると、1対1 行われる自動車なども、一定期間内に売り のやりとりになるように工夫されている。 さばく必要があるという意味では、同じ性 質を持っていると考えられる。 Ⅶ インターネットの位置づけ その他にも、コモディティ化された商品 を扱っており、ブランド選好のない需要が 相当程度存在する産業がターゲットになり 1 インターネットの弱さと 補完サービス うる。具体的には、同社が最近参入したグ 企業は、より顧客ニーズに適合したサー ローサリー(食品雑貨品)、ガソリンなど ビスの提供を目指さなければならないが、 である。これらの商品は、ホテルやレンタ これを追求していくとインターネットの カーなどとは若干性質が異なり、ある程度 「弱さ」が露呈してくる。たとえば、①顔 の在庫コストを見込んだ大量生産や大量仕 が見えない取引相手が信用できるのかどう 入れがされているため、仮にディスカウン かという問題、②個人の小口取引における ト価格であっても数をさばいた方が望まし 代金決済の問題、③インターネットで購入 いと売り手が考えるような商品である。 手続きがすべて完了しても、実際の商品を インターネットへの接続など、自社のネ 物理的に配送しなければならないようなケ 米国ネットビジネスの本質 37 ース、④デジタルコンテンツであっても、 の記事検索、②表示画面や記事のジャンル ダウンロードに膨大な時間がかかるため、 のカスタマイズ、③電子メールによるお知 CD−ROMなどを物理的に配送する方が適 らせ機能、④電子メールによる記者へのフ 切であるケース――などである。 ィードバック、⑤話題となっているテーマ これらの問題に対処するための、新たな に関するディスカッションフォーラム―― ビジネスが出現している。信用付与という など、紙媒体では実現できないさまざまな 観点では、中立な評価機関や情報セキュリ 機能が提供されており、相互補完的に利用 ティサービス、「エスクローサービス」と することができる。 呼ばれる売り手の信用リスクをいったん引 き受けて買い手に代わって代金決済を行う サービスなど、さまざまなサービスが提供 の融合 されるようになってきた。小口決済につい インターネットの問題点のもう1つの解 ても、大手銀行のウェルズ・ファーゴが電 決策は、物理的なオフラインチャネルとの 子小切手の手段を提供し始めるなど、金融 融合による補完である。実際には、宅配チ 面でのインターネットの弱さをカバーする ャネルや店舗を利用して、商品決済や金融 サービスが充実しつつある。 決済の機能を補強する。その実現のために ところで、文書を読むという行為の場合、 は、自己の投資によりこのようなチャネル 画面で見続けるのは肉体的につらいため、 を新たに構築するほか、オフラインチャネ 同じ内容でも紙媒体の方が快適である、と ルを持つ既存企業と提携する、あるいはそ いった根本的な問題がある。文書の場合、 のような企業を買収する、という方法が考 検索が可能である、さまざまな情報のリン えられる。最近では、既存企業がオンライ クや動画・音声等のマルチメディアコンテ ンチャネルを手早く自己のビジネスに取り ンツとの融合によって表現力を高められる 込む手段として、オンライン企業を買収す など、デジタルコンテンツだからこそ実現 るというケースも相次いでいる。 できる付加価値がある。 38 2 伝統的な資産と仮想的な資産 実際にオフラインチャネルを融合してい しかし、一方で紙媒体の快適さは譲りが る例としては、ウェブバンのように特定の たいものがある。ビジネス戦略的には、紙 地域を対象に自ら宅配チャネルを構築して 媒体でコンテンツを提供すると同時に、そ いる例があげられる。同社は、ビジネス戦 れを補完する機能をウェブ上で実現し、相 略上、宅配チャネルを付加価値の源泉とし 互に補完し合う内容とするのがよい。 て重視しており、インターネットでは希薄 たとえば、「ウォールストリート・ジャ になりがちな顧客との直接のふれあいの場 ーナル」の場合、会員制のウェブサイトで として利用するため、アウトソーシングし は紙媒体と基本的には同じコンテンツが提 ていない。宅配チャネルや顧客基盤は、ま 供されているが、ウェブ上では記事がリア さに付加価値の源泉であり、ウェブバンは、 ルタイムで更新されており、記事ごとに関 自社の宅配チャネルを他社の配送チャネル 連記事、企業の詳細情報、株価など豊富な として活用するというビジネスについても リンクが用意されている。他にも、①過去 積極的である。 知的資産創造/2000年10月号 一方、店舗を活用している好例として、 く将来は、インターネットそれ自体はあく 前述のプライスラインがあげられる。同社 までもコミュニケーションや情報発信・情 は、首都圏のスーパーストアをネットワー 報流通の手段として活用されるのであっ ク化して新たな店舗網を作り上げ、グロー て、便利な道具としてわれわれの生活の中 サリーの決済の場として利用しているほ に組み込まれていくにすぎない。 か、最近ではガソリンスタンドをネットワ ネットワークビジネスに従事する企業だ ーク化し、逆オークションによって決まっ けでなく、企業は、インターネットの力を た価格で、会員が最寄りのガソリンスタン 盲信することなく、冷静な目を持って顧客 ドで購入できるようにするなど、革新的な 価値を向上するための優れた道具の1つと アイデアを実現している。 して、インターネットを活用しなければな らない。 3 「道具」としての インターネット インターネットが、販売戦略・価格戦略 の自由度を高め、ビジネスに新たな可能性 注―――――――――――――――――――――― 1 英国ブリタニカが「ブリタニカ百科事典」の コンテンツを無償公開したのは、同社のビジ ネスモデルを変更し、新たにブランド力と品 を切り開いてきたことは間違いない。しか 質の高さをうまく利用して広告やより専門的 し一方で、本章で触れたようなインターネ なコンテンツの有償利用から収益を得ようと ットの弱さがあることも無視してはならな する狙いであり、厳密にいえば、単純に価格 い。 がゼロになったとはいえない。 電話が登場した時、電話は世の中に革命 2 イーベイのオークションサイトでの売買成立 件数は、業界2番手であるヤフーのそれの約 的な変化をもたらし「電話経済」が到来す 10倍、3番手であるアマゾン・ドット・コム るとまでいわれたが、実際にはそのような のそれの約100倍の規模である。一方、日本で 大げさなものではなく、電話は生活を便利 は、イーベイは知名度が低いために伸び悩み、 にするコミュニケーションの道具の1つと 以前からポータルサイトとして知名度が高か して定着した。現在、電話はなくてはなら ったヤフーのオークションサイトが圧倒的な 会員数を集めている。 ない水や空気のような存在となっている。 IT(情報技術)革命、インターネット革 著者――――――――――――――――――――― 命、インターネット経済といった言葉の氾 井上和久(いのうえかずひさ) 濫により、インターネットが経済の中心に 投資情報サービス部上級コンサルタント なるかのごとく喧伝されているが、おそら 専門は情報経済学 Copyright (C) 2000 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. 米国ネットビジネスの本質 39