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核融合炉製造におけるTAKADAの取り組み
技術・製品の紹介 核融合炉製造における TAKADA の取り組み 1.はじめに 時間 1 秒以上が必要と言われる. 2011 年 3 月 11 日の東日本大震災により発生した福島 核融合炉の利点は,以下の通りである. 第 1 原子力発電所の事故は,日本のエネルギー政策を根本 ・核分裂反応のような連続反応がない. から覆すこととなった.日本の発電エネルギー供給は,石 ・高レベル放射性廃棄物が継続的には余り生じない. 油に大きく依存していたが,度重なる石油ショックの経験 ・自然界の無尽蔵の重水素,トリチウムを活用できる. から,その代替として石炭,天然ガス,原子力の割合を増 ・CO2を放出しない.等 加させてきた.エネルギー白書 2010 においては,原子力 その反面,巨大施設が必要であり,また,1 億 K もの高 による供給率は全体の 10.4%(2008 年度)を占め,更な 温のプラズマを閉じ込めるための技術的課題を克服する る増加を目標としてきた.しかし,今回の事故により,そ 必要がある. の目標達成への方向性を無くしつつある. 原子炉は核反応の種類から,核分裂炉と核融合炉に分け 3.日本における核融合炉研究開発と当社の工事実績 られる.核分裂炉(原子力発電)は,重い原子であるウラ 核融合炉の炉心プラズマの実現を目指し,各国において ンやプルトニウムの原子核分裂反応を利用する方法であ 研究がなされてきたが,世界を常にリードしてきたのが, り,高レベル放射性廃棄物を発生させる.これに対して, 日本原子力研究所(現;(独)日本原子力研究開発機構)で 核融合炉は,軽い原子である水素や三重水素(トリチウム) 行われた JT-60 である.JT-60 は,1985 年に運転を開始 による核融合反応で発生するエネルギーを利用する方法 し,その後エネルギー増倍率 1.25 を達成し,プラズマ温 であり,高レベル放射性廃棄物を発生させない.そのため, 度等で世界最高値を達成してきた.(独)日本原子力研究開 原子力の活用方法として早くから注目されていた. 国 際 熱 核 融 合 実 験 炉 ( ITER : International Thermonuclear Experimental Reactor )は,核融合が 発機構は,現在,ITER の技術目標達成の支援研究として, この JT-60 を再利用した JT-60SA を建設し,2015 年度 からの実験開始を計画している1). エネルギー源になり得るかどうかを科学的かつ技術的に 当社は,1966 年に東海村原子力研究所に燃料再処理試 実証することを目的とした国際共同研究開発プロジェク 験装置を製作納入したことが,原子力発電装置製作の第一 トである.フランスのカダラッシュに 2018 年完成を目指 歩であり,この JT-60 の建設工事においては,中性粒子 して実験炉を建設し,翌 2019 年にファーストプラズマを ビーム駆動装置架台製作据付工事や 2 次冷却設備配管工 実現する見込みで,2026 年頃にはトリチウムの原子核を 事等を受注し,携わってきた. 真空容器内で融合させ,1 億 K 程度のプラズマ状態で磁場 に閉じ込め,出力 50 万 kW の核融合燃焼試験を行う計画 である.日本は,その中でプラズマを閉じ込めるための超 14m 伝導コイルおよびその構造物の製作を担当している. 当社は,現在,八幡支社において,事業主体(独)日本 原子力研究開発機構殿,元請会社 新日鉄エンジニアリ ング(株)殿から ITER の超伝導コイル用導体製造を受注 b.TF コイル し,製作,検査から出荷までを行っている.これまでの (独)日本原子力研究開発機構殿における当社の工事実 績を含め,今回取り組んでいる ITER の超伝導コイル用 導体製作の概要を説明する. 2.核融合炉の概要1) 核融合反応で発電するには,臨界プラズマ条件を満足し a.超伝導コイル なければならず,エネルギー増倍率(Q 値;投入したエネ ルギーと核融合反応で発生したエネルギー比率)が 1.25 以上必要である.また,発電炉として使用するには,プラ ズマ温度 1 億 K 以上,密度 100 兆個/cm3 以上,閉じ込め 40・核融合炉製造における TAKADA の取り組み c.CS コイル 図1 超伝導コイル (提供:日本原子力研究開発機構) TAKADA TECHNICAL REPORT Vol.22 2012 ⑥圧縮成形 ライン棟 製品棟 ⑦仮巻取り ⑨出荷 製造棟 ④ケーブル受入れ ⑧最終検査 ① 管材 受入 ②開先加工・仮付け ③溶接・NDI ⑤ケーブル引込 超伝導室 図2 ITER 若松工場の概略図,全景写真および作業手順概要2) 表1 TF ジャケットの材質および寸法 4.ITER 超伝導コイル用導体の製作 ITER において新日鉄エンジニアリング(株)殿が製作 する機器は,図1に示す超伝導コイルの内,トロイダル磁 名称 材質 外径(mm) 内径(mm) TFジャケット SUS316LN 48.0 単長(m) 44.2 13 場コイル(以下 TF コイルという)用導体である.新日鉄 エンジニアリング(株)殿は,2010 年 1 月に北九州市若松区 ジャケット内径 44.2mm ケーブル・ラップ 向洋町に「若松 ITER 工場」を設立し,ここで TF コイル 用導体 37 本(総長 23km)の製作を行う予定である.当社 中心チャンネル は,TF コイル用導体の製作,検査から出荷までの作業につ いて受注し,同工場設立と同時に,製作を開始した.工場 サブ・ケーブル・ラップ の概略図,全景写真および作業手順の概要を図2に示す. TF コイル用導体の形状を表1および図3に示す.単尺 ケーブル外径 41.6mm 13m のジャケットを自動溶接でつなぎ,760m の長尺ジャ 図3 TF コイル用導体の形状 ケットを完成させる.その内部にケーブルを引き込み,圧 (提供:日本原子力研究開発機構) 縮成形,仮巻取り,最終検査後,出荷する.溶接完了後に ジャケットの内部にケーブルを通すが,ジャケットとケー また,今回の材質は前述のとおり窒素を含有しており, ブルのクリアランスは 2.6mm であり,ジャケット完成後 溶接中に窒素ガスが発生しブローホールを形成させるこ の直線性と内面突起となる溶接ビード形状の精度が品質 とが懸念された.このため,適正溶接電流範囲の上限電流 のポイントとなる. 値で自動溶接することやタングステン突出し長さを短く しアークの集中性を向上させることで,溶接中に発生する 5.長尺ジャケット製作における技術的課題と当社の対応 長尺ジャケット製作における技術的課題は 4 項で述べ 窒素ガスの外部放出の促進を図り,ブローホールの形成を 抑制できた.放射線透過試験は,ほぼ 100%合格している. たが,(独)日本原子力研究開発機構殿からの仕様は,溶接 後の曲がりは 1mm/10m 以下,内面突起は 0.2mm 以下で 6.まとめ ある.ジャケットの材質は,強度をあげるため窒素を含有 2011 年 7 月末時点で,18 本のコイルを完成させ,工程 した SUS316LN であるが,溶接欠陥のない溶接を行わな 上も問題なく出荷できている.TF コイルの製作完了は ければならない.また,内面突起の仕様を満足させるため 2013 年 6 月末であり,遅延することなく進めていきたい. に,溶接継手におけるジャケット内面を 0.2mm シーニン 人工太陽と呼ばれる ITER 実現に,当社が関わっている グ加工している. ことを誇りに思い,技術の向上に精進していく所存である. 溶接するにあたって,当社が半導体産業分野におけるク 最後に,執筆にあたりご協力いただいた(独)日本原子力 リーンパイピング溶接技術で研究を重ねてきた「溶接部形 研究開発機構および新日鉄エンジニアリング(株)ITER 状に影響を与えるオーステナイト系ステンレス鋼配管材 プロジェクト部の皆様に感謝申し上げます. に含有する S 量」について言及し,その影響をおよぼす S 量の境は 5ppm であることを提案した.溶接部が内面に 0.2mm を超えて突起しないように,S 量を考慮し自動溶 接条件を設定している. TAKADA TECHNICAL REPORT Vol.22 2012 炭矢 芳男(営業本部 営業企画部) 参考文献 1) 国際熱核融合実験炉 ITER ウェブサイト 2) 新日鉄エンジニアリング(株)殿 ご提供資料 核融合炉製造における TAKADA の取り組み・41