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こちらで - 服部倫卓のロシア・ウクライナ・ベラルーシ探訪
ビジネス最前線 Interview カリーニングラードと日本を結ぶ琥珀の道 ㈱ベオルナ東京 代表取締役会長 高羽 照久さん はじめに ベオルナ東京は、小粒ながら、ロシア・カリーニングラード産の琥珀の輸入・販売会社 として、日ソ/日ロ経済関係の歴史に大きな足跡を残してきました。そして、ロシアとの 琥珀ビジネスを事実上自ら切り拓いてこられたのが、高羽照久会長です。琥珀が静かなブ ームとなる一方、カリーニングラードも何かと話題になることが多い昨今ですので、お忙 しい会長にとくにお願いをして、インタビューと相成りました。現地事情に詳しい商品部 貿易担当部長の徳安清篤さんにも同席していただき、情報の補足をしていただきました。 今回の企画の発案者であり、仲介の労もとってくださった立正大学経済学部の蓮見雄教 授も加わり、話に大いに花が咲きました。 ロシア東欧貿易調査月報2006年2月号 25 Business Front Line ━━まず確認させていただくと、ベオルナ東京さんの主要業務は、主としてロシアのカリーニング ラード州から琥珀を輸入して、それを日本で販売するということですね。 そのとおりです。ただし、輸入したものを加工して販売しています。カリーニングラードか らの琥珀の輸入は1964年から手がけていますが、最初の15年くらいは一部を再加工するだけで、 大部分は輸入した琥珀をそのまま売っていました。今は、ほぼ100%、日本人の好みに合わせて 我々がデザイン・加工したものです。 原料の琥珀の輸入は、約90%がカリーニングラード州からです。うち、7割くらいが「カリ ーニングラード琥珀コンビナート」から買い付けているもので、残りの3割はカリーニングラ ード州にある中小のメーカーから買っています。 ━━琥珀の加工はベオルナさんが自らやってらっしゃるのですか。 私どものグループ会社で、岩手県の久慈市にある「久慈琥珀」という会社があり、石に関し ては同社の加工部門で加工しています。金具などの付属品は東京の本社でやっています。 ━━久慈市は、リトアニアのクライペーダ市と姉妹都市なんですよね。余談ですが、1991年にソ連 の治安部隊がリトアニア共和国の独立運動を武力制圧した事件が起きた時、久慈市の職員の方 が非常に心配されて、「私たちはどうしたらいいでしょう」と弊会に電話をしてきたことがあります。 たまたま私が電話をとったので、よく憶えています。 久慈市とクライペーダ市はベオルナが取り持った琥珀の姉妹都市です。 もともと、久慈では琥珀が採れますので、岩手県の工業誘致の説明会があった時に、先方か らぜひ当地に進出してほしいと熱望され、それで1981年に久慈琥珀株式会社を設立いたしまし た。 そして、久慈市の姉妹都市候補を探した際に、我々としては琥珀のつながりということでカ リーニングラードはどうかなと思ったのですが、久慈とは街の規模が違いすぎるし、そもそも ソ連時代はずっと閉鎖都市でした。そこで、ソ連大使館に相談に行ったところ、当時のソロヴ ィヨフ大使が、やはり琥珀の産地であるクライペーダ市ではどうかと提案してきて、それで縁 組が決まったという経緯があります。 26 ロシア東欧貿易調査月報2006年2月号 ビジネス最前線 ちなみに、私どもは1991年に日本でリトアニア物産展を企画し、まだソ連邦の一共和国だっ たリトアニアから展示品が発送されたのですが、その直後にリトアニアの独立騒ぎが起き、そ うした混乱から貨物がシベリアで紛失してしまうという事件がありました。どうにか貨物は発 見され、日本に到着した時にはリトアニアは独立国になっており、これが日本で輸入通関され たリトアニア貨物の第一号になったわけです。 ━━さて、琥珀製品は、日本のどのようなところ向けに販売するのですか。 主たる販売先は高級百貨店です。百貨店のテナントに卸すというケースもあれば、文化紹介 も兼ねて「琥珀展」を開催し、そこで販売するというケースもあります。それ以外にも、呉服 店や、時計・宝飾店にも供給しています。 ━━琥珀以外にも、べっ甲なども取り扱われているそうですが、売上に占める琥珀の割合は? 現在は琥珀が85%以上になっています。べっ甲は微々たるもので、あとはイタリアン・ゴー ルド・ジュエリーがほとんどです。 弊社は1960年設立ですが、当初は「長崎鼈甲」という社名で、べっ甲製品を専門に取り扱っ ていました。ただ、べっ甲が将来輸入禁止になるということは、早くから認識していました。 そこで、代替商品を探したところ、硬度、質感、色が似通った琥珀にたどり着いたというわけ です。その産地がソ連邦のバルト海沿岸だったので、ロ東貿さんの前身である日ソ東欧貿易会 に斡旋をお願いして、取引相手を探してもらったという次第です。1964年に全ソ連宝石輸出公 団と、ソ連産琥珀製品・原材料の総輸入専売代理店契約を締結しました。すでに申し上げたよ うに、現在はカリーニングラード琥珀コンビナートから買い付けています。 実は、かつて我が国では誰も琥珀に見向きもせず、ソ連側がバーター取引で出してくるもの を日本側がしかたなく引き取っているという状況でした。それならば我々が直接買って商売に しようということになったわけです。 ━━カリーニングラード琥珀コンビナートというのは、現在も依然として国営企業のままなのでしょ うか。 ロシア東欧貿易調査月報2006年2月号 27 Business Front Line カリーニングラード州 の琥珀採掘現場 (ベオルナ東京提供) 採掘部門と加工部門に分かれていて、採掘部門は重要な資源を取り扱っているということで 依然として国営です。加工部門は民営化されていて、採掘部門から原料の琥珀を買っています。 採掘場はバルト海に面したヤンタールヌィというところにありますが、海岸地域ではすでに 掘り尽くしてしまって、現在では少し内陸に入ったところで採掘しています。 ━━先日ポーランドのグダンスクに行く機会があったのですが、カリーニングラード以上に立派な 琥珀製品で溢れかえっていました。 それはカリーニングラードから闇ルートで原料が流出しているからです。社会主義時代はグ ダンスクに行ってもひどい琥珀しかありませんでしたが、今や様変わりしました。ロシア人よ りもポーランド人の方が器用な面があるようで、今日では良い加工品が生み出されていますの で、我が社でも買っています。ポーランド人には米国をはじめ移民の世界的ネットワークがあ りますので、それでグダンスクが琥珀の流通拠点のようになっているわけですね。 ━━実態は別として、公式的な制度上は、ロシアからの琥珀の輸出には規制があるのですか。 輸出する際には輸出ライセンスが必要です。これまでには盗掘や密輸などが横行した時代も ありましたが、現在は徐々に正常化の方向に向かいつつあります。 28 ロシア東欧貿易調査月報2006年2月号 ビジネス最前線 琥珀を選別し加工する 現地の従業員たち (ベオルナ東京提供) カリーニングラード州の新知事にボース氏が就任したことにより、今後のカリーニングラー ドの改革と発展が期待されます。それにより、今後ますますポーランド・リトアニアを含む汎 バルト琥珀圏の中核としてコンビナートの存在が脚光を浴びることでしょう。 ━━ロシア国内での加工は、やはり技術的・デザイン的に稚拙なことは否めないのでしょうか。 そういう傾向はありましたが、私たちが色んな刺激を与えた結果、かなり改善しました。近 い将来、私どもの久慈琥珀の技術者を現地に派遣して、技術交流を計画しています。確かにこ れまでのところポーランドに先行されていましたが、ロシアにも優秀な人材は多く、加工でも 追い上げつつあります。これからはロシアがおもしろくなってくるのではないかと考えていま す。 もっとも、日本は世界最大の琥珀の消費国であり、加工技術も我々の方が進んでいますので、 彼らは日本を見ています。したがって、最近ではロシア側が我々の製品を買いたいと言ってき ております。やはり、我々が40年間培ってきたデザインや金具といったものは、簡単には真似 できないものですので。 私どもは、 「琥珀の間」で有名なサンクトペテルブルグのエカテリーナ宮殿に、琥珀製品のシ ョップを開いております。外国人観光客だけでなく、ロシア人にもよく売れています。宮殿に は他の店もありますが、お客さんが圧倒的に多いのは我々のところで、観光シーズンの夏場な ロシア東欧貿易調査月報2006年2月号 29 Business Front Line どは大変な賑わいです。また、最近カリーニングラードの琥珀博物館で琥珀製品のデザイン・ コンテストがあり、それに我々が出展したことがきっかけで、この博物館か、または市内に一 緒にショップを出さないかといったオファーも受けています。 ━━ところで、ベオルナさんは1992年に「バルチカ・ベオルナ」という100%出資の現地法人をカリ ーニングラードに設立されています。この現法はまだ続いていますか。 バルチカ・ベオルナが存続したのは5年間ほどで、すでに閉鎖されています。 ご存知のとおり、ソ連時代には長らく、外国人はカリーニングラードに入れませんでした。 それが1990年前後に開放され、しかも100%外資の現法設立が可能になったということで、この チャンスに是が非でも現地に拠点を築きたいと考え、バルチカ・ベオルナを設立したわけです。 現法では、ロシア人を4人雇いました。現法の役割としては、琥珀コンビナートがこれから どうなっていくのかといったことが不透明でしたので、そうした点を中心に情報収集などに当 たらせました。州や市の行政府の動きをウォッチしたり、琥珀博物館や文化団体とのパイプを つなぐという意味もありました。 バルチカ・ベオルナは閉鎖してしまいましたが、その名残として、現在もカリーニングラー ドに出張所を設けており、ロシア人の駐在員を一人置いています。 ━━現在は、サンクトペテルブルグに御社の「支社」があるとうかがっておりますが。 支社は3年前に設立したもので、エカテリーナ宮殿博物館のなかに所在しています。これは 現地法人ではありませんが、しかるべき登録を済ませておりますので、営業活動を行うことが できます。ただ、支社長はロシア人でなければなりません。今のところ日本人スタッフはいま せんが、近い将来派遣する必要性が出てくるかもしれません。 ━━サンクトペテルブルグでは、エルミタージュ博物館にもショップをおもちだそうですし、モスクワ のウクライナ・ホテルにもお店があると聞いています。これらのショップでは、ビジネスとして充分に 成り立つくらいの売上が上がっているのでしょうか。それとも、現状ではアンテナショップ的な位置 付けですか。 30 ロシア東欧貿易調査月報2006年2月号 ビジネス最前線 カリーニングラード州の 保養施設にある琥珀ピ ラミッド。セラピー効果が あり、療養に用いられる とのこと。琥珀を呼び物 にしたツアーも企画して いるという。 (ベオルナ東京提供) 売上高は今のところ我々の期待を下回っていますが、人件費や場所代などのコストが日本ほ ど高くないので、利益はしっかり出ています。売上を拡大するためには、やはり日本人スタッ フがいて、きめの細かい営業をやることが必要でしょうね。それはこれからの課題です。 あるいは、モスクワの店や、これから開設するかもしれないカリーニングラードの店は、形 のうえではサンクトペテルブルグ支社の管轄下に置くとしても、実際のマネージメントは東京 から行うといったことも考えていかなければならないかもしれません。 ━━最後に、御社はロシアとの文化交流事業に大変力を入れておられます。そうした文化事業は、 必ずしも直接的な利益には結び付かないはずですが、それでも文化にこだわる理由は何なのか、 教えていただけますか。 これは私の持論ですが、国家間の関係で政治が先行してしまってはだめであり、人間と人間 の触れ合いということで言えば文化こそが大事です。そして、文化の交流がビジネスの環境を つくってくれます。琥珀文化を通じて日ロの経済交流に貢献するというのが我が社の理念です。 現実的な話をすれば、我が社の場合、琥珀を日本に売るという課題があり、そのためには否 応なしに、ロシアの文化を日本に紹介せざるをえなかったわけです。その際に最も手っ取り早 いのが、エカテリーナ宮殿の「琥珀の間」を日本に紹介することでした。 1990年に我が社は、カリーニングラード琥珀博物館から国宝級の置物などを借り出し、東京・ 大阪で展示会を開催しました。その成功で、ベオルナの名前はソ連側に知れ渡り、在日ソ連大 ロシア東欧貿易調査月報2006年2月号 31 Business Front Line 使館も文化というものの影響力の大きさに驚いていたようです。その後、ソ連/ロシアの博物 館関係者に人脈を広げることもできました。琥珀には琥珀酸というものがあって人間の身体に 効用があることが知られていますが、そういった科学的な情報なども提供してもらえるように なりました。このような人脈や情報から、ビジネスチャンスが生まれてくるわけです。 我が社は今後とも、規模は小さくても、琥珀に関しては世界のナンバーワンをめざしてまい ります。 (2005年12月19日、聞き手:ロシア東欧経済研究所 調査役 服部 倫卓) ベオルナ東京さんは、以下のような多くのショップをもっていらっしゃいます。 お近くにお出かけの際は、ぜひお立ち寄りになってみてください。(編集部) 株式会社ベオルナ東京 http://www.beoluna.co.jp 赤坂ショップ 東京都港区赤坂5-4-12 Tel:03-3585-7115 地下鉄千代田線赤坂駅⑦番出口より出て右隣 久慈琥珀博物館 http://www.kuji.co.jp ショップ、「リトアニア館」を併設 岩手県久慈市小久慈町19-156-133 Tel:0194-59-3831 サンクトペテルブルグでのショップ エカテリーナ宮殿1号店、2号店 エルミタージュ博物館1F、2Fショップ内 コンスタンチン宮殿隣接ホテル「バルトの星」1F モスクワでのショップ ホテル「ウクライナ」1Fショップ 32 ロシア東欧貿易調査月報2006年2月号 ビジネス最前線 赤坂ショップの店 内の 様子。 と くに 女性にはお薦め。 ショップで売られて いるバラエティー 豊かな商品。海洋 深層水と琥珀を配 合した「琥珀の森 石鹸」など。 ロシア東欧貿易調査月報2006年2月号 33