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錬鉄の魔術使いと魔法使い達 ID:65502

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錬鉄の魔術使いと魔法使い達 ID:65502
錬鉄の魔術使いと魔法
使い達
ホロウメモリア
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
その日、アルバス・ダンブルドアは二つの予言を聞いた。
七月の末に、闇の帝王を打ち破る力と可能性を秘めた子が生まれる、どちらかが生き
ている限り、他方は生きることないと。
遥か遠き地より無限の贋作を担いし者がくる、その者は正義の体現者にして数多の世
界にて人を守りし抑止の守護者と魂を等しくすると。
それを聞いたダンブルドアは、片方の予言のみを魔法省にて管轄することにし、片方
は自身のうちに留め、自らが組織した集団の中でも、一部の人にのみ伝えた。
11年後、物語は始まる。
処女作及び初心者です。誤字脱字には気を付けます。
連載は不定期になると思います故、温かく見守っていただけると幸いです。
尚、筆者に対する誹謗中傷を書くのは構いませんが、その他の人に対するものは断固
拒否させていただきます。ご了承ください。
こんなの衛宮士郎じゃない、弓兵じゃない、ハリポタじゃない、認められないという
方、荒らしの類いはブラウザバックをお願いいたします。
注︶添付している画像はあくまでサンプルであり、予め書いておきますが、私めは絵
が下手です。
目 次 2. 出 会 い と 列 車 の 旅、組 分 け 4. 飛 行 訓 練 と 真 夜 中 の 決 闘 3. 授業初日 │││││││
110
9. G a m e s b e g i n
8. ク ィ デ ィ ッ チ シ ー ズ ン 到 来 幕間. 追憶 そして⋮⋮ ││
7. エミヤシロウとは │││
めての ││││││││││││
6. 説 教 と 新 た な 絆、そ し て 人 生 初
5. ハロウィーンの夜に ││
146
M e r r y C h r i s t m a s バレンタインの騒動 │││││
四月馬鹿企画 │││││││
137
162
205 195 183
Two century passe
d IFルートその① │││
賢者の石
0, プロローグ │││││
設定 小噺 ★ ││││││
1. 漏 れ 鍋、そ し て ダ イ ア ゴ ン 横 丁
││││││││││││││
!!
56
73
77
97
221
12
34
1
│
1 0. G a m e s e n d. A n
d....... ││││││││││
11. 学期末最後の日とクリスマス
プレゼント ││││││││││
1 2. 空 き 教 室 の 鏡 そ し て
⋮⋮⋮⋮ │││││││││││
13. ノルウェー・リッジバック・ド
ラゴン ││││││││││││
1 4. 禁 じ ら れ た 森 で の 出 来 事 15. 罰則のその後 ││││
1 6. 仕 掛 け ら れ た 罠 ︻前 編︼ 1 7. 仕 掛 け ら れ た 罠 ︻後 編︼ 330
18. 二つの顔をもつ男 ││
19. 事件のその後 ││││
20. エピローグ │││││
設定 Ⅱ ★ ││││││││
Extra story │││
秘密の部屋
0. プロローグ ││││││
1. ドビーの警告 │││││
2. 隠れ穴と突然の来訪者 │
3. 父 vs 子 │││││
415 402 385 371 358
481 465 456 449
239
247
267
282
318
342
231
293
│
4. 試合後と書店にて │││
5. 汽 車 内 の 会 話 と 才 能 の 片 鱗、そ
して報告 │││││││││││
6. 岩の心の初授業 ││││
7. ハ ロ ウ ィ ン 夜、危 険 の 始 ま り 8. 狂ったブラッジャー ││
9. 夜 中 の 会 話 と 決 闘 ク ラ ブ 1 0. 蛇 語 と ポ リ ジ ュ ー ス 薬 1 1. リ ド ル の 日 記、そ し て 新 た な
被害者は⋮⋮ │││││││││
12. アラゴグとの邂逅 ││
1 5. バ ジ リ ス ク と 日 記、新 手 14. 秘密の部屋 │││││
徒 ││││││││││││││
1 3. 嵌 ま る ピ ー ス、誘 拐 さ れ た 生
625
664 647
16. 神話よ再び │││││
17. 帰還 ││││││││
18. エピローグ │││││
0. プロローグ ││││││
アズカバンの囚人
設定 │││││││││││││
E x t r a s t o r y Ⅱ + プ チ
735 717 698
684
494
532 510
554
605
755
775
542
571
589
│
1. マージの大失敗 │││
2. 誓いをここに │││││
3. 汽車の中で ││││││
4. ﹁地獄﹂の再現と占い │
5. 疑問と誇り高き生き物 │
6. ク ィ デ ィ ッ チ で の 出 来 事、大 臣
との邂逅 │││││││││││
7. 守護霊魔法 ││││││
8. 忍びの地図 ││││││
9. その後とプレゼント ││
1 2. シ ビ ル・ト レ ロ ー ニ │ の 予 言
│││││││││││││││
13. 彼の名は ││││││
14. 降臨 ││││││││
15. 勝敗 ││││││││
16. 真・守護霊召喚 │││
1 7. ク ィ デ ィ ッ チ 優 勝 戦、開 幕 956 943 929 922 912
1 8. Q u i d d i t c h F i n
al │││││││││││││
19. エピローグ │││││
炎のゴブレット
0. プロローグ ││││││
991 983
1000
10. 帰還者と襲来者 │││
971
824 813 802 790 780
883 874 860 849 835
1 1. V S レ イ ブ ン ク ロ │ 900
│
1. ワールドカップと襲撃 │
2. 闇 の 印 と 校 長 の お 知 ら せ 1011
3. 愚者と来校者 │││││
4. 炎のゴブレット ││││
5. 第一の課題 ││││││
'
h y n d d r a i g g o c h. 7. R w y
n c r e d u y r
n y d d r a i g g o c h 6. F r w y d r y n e r b y
105910451035
1022
1068
1078
│
Merry Christmas
その日は朝から雪が深深と降り、一面には銀世界が広がっていた。
森の木々は葉っぱの代わりに、雪化粧を纏っている。
冬木の郊外に広がる森林、その中央に聳える城屋敷の窓からは、暖かな光が漏れてい
た。
﹁紅葉様達が起きる前に、朝食を用意しておきましょう﹂
れていた。左から順に白、赤、桃、緑の靴下が、暖炉の上にぶら下がっていた。
その部屋では二人のメイドが部屋を飾り付け、4つの大きめの靴下にプレゼントを入
﹁あとはこれを⋮⋮これで良し﹂
﹁ん、はいセラ﹂
﹁リーゼリット、そちらをお願いします﹂
Merry Christmas
1
・
﹁ん、私はツリーのてっぺんに着ける星を出しとく。今年はシルフィの番﹂
﹂
?
のは、あと一度か二度ぐらいだろう﹂
﹁私もそう長くは生きられん。恐らく、こうして皆で聖夜と聖誕祭を祝うことができる
れた。片手で収まるほどの小さな包みだ。
老人、アハト翁はそう呟くと、懐から小さな包みを4つ取り出し、靴下にそれぞれ入
﹁そうか、なら﹂
﹁はい。剣吾様はともかく、他の御三方は未だ安く御休みになられております﹂
﹁アハトでよい。曾孫達はまだ起きぬな
﹁﹁おはようございます、ユーブスタクハイト様﹂﹂
﹁ほう、中々綺麗だ﹂
人は、部屋の内装を見て顔を綻ばせた。
二人が話をしていると、一人の男が入ってきた。年老い、長い銀髪を背中に流した老
﹁ええ、お願いします。それとリーゼリット、シルフィ様です﹂
2
﹁ユーブスタクハイト様⋮⋮﹂
﹁くれぐれも曾孫達には云わぬように。まあ剣吾は気づいておるかも知れんがな﹂
アハト翁はそう言うと、クツクツと含み笑いを漏らした。
本当に変わったものだ。
メイドの一人であるセラはそう思った。二十余年前までは妄執に囚われ、血族を血族
と思わぬ冷徹な人間だった。
しかし、裏切り者と言われていた衛宮切嗣とその養子が特攻してきたあの一週間、そ
の後は本当に同一人物かどうか疑いたくなるほど、いい方向に人が変わった。
イリヤお嬢様もたった十日だけだったが、実の父親と過ごせて幸せそうだった。切嗣
が亡くなったあとも、その養子である衛宮士郎の存在によって、お嬢様の心は救われた。
出来損ないとしてしか扱われなかった自分とリーゼリットも、一人の人間として扱わ
れた。それがどんなに嬉しかったか。
﹂
セラが物思いに耽っていると、アハト翁が質問をしてきた。
?
﹁旦那様と桜様は厨房に。お嬢様と凛様は大広間の飾り付の仕上げをしております﹂
﹁シロウ達は
Merry Christmas
3
﹁なるほど、なら私は広間に行くかな﹂
アハト翁はそう言い、部屋を後にした。セラとリーズリットも、各々の仕事に戻った。
│││││││││││││││
﹂
!
は、早朝から鍛練をしていたが。
冬木四兄妹と呼ばれる四人は、九時頃に食事部屋へと降りてきた。長男である剣吾
﹁うむ。おはよう、そしてメリークリスマス﹂
﹁おお︵大︶じいじ、おはよう
﹁﹁﹁おはようございます、大お爺様。そしてメリークリスマス﹂﹂﹂
4
﹁あら、皆おはよう。そしてメリークリスマス﹂
クリスマス﹂
︶﹂﹂﹂
﹁父さんと母さんも、凛ねえも桜ねえも、セラさんにリズさんもおはよう。そしてメリー
﹁﹁﹁おはようございます︵おはよう
﹁さぁ。先ずは朝食にしようか﹂
﹂
﹁俺は何もないですよ。イリヤと凛と桜は
﹁私たちも予定無しよ﹂
﹂
同時に、子供達がプレゼントを開封するのを眺めていた。
望で同じ机に着いて食事をするようにしている。食事は和やかに進み、皆食後の休憩と
桜に案内され、皆は各々の席につく。セラとリーゼリットはメイドであるが、皆の希
﹁皆の席はこっちよ﹂
﹁そうね。士郎の言う通り、先に済ませましょうか﹂
!
?
﹁寧ろ仕事を入れてきたら末代まで祟るわ﹂
?
﹁そういえば皆、このあとの予定は
Merry Christmas
5
﹂
凛が物騒な発言をするが、慣れたものである。
﹁子供達は
シィもきくのー
!
﹁なら決まったな。皆で行こうか﹂
﹁モーちゃんのうたキレイ
!
いるときは自然体で過ごせるよう心掛けている。
思っていないことを理解している。彼らの伝承を伝えることこそすれ、せめてこの街に
この街の人々は、衛宮夫妻を英雄として讃えていると同時に、彼らが特別扱いを快く
ていた。
た。道行く人々は、彼らに軽く会釈をし、そのまま自分のことに戻るという行動をとっ
時刻は昼過ぎとなり、衛宮一家とアハト翁、二人のメイドは冬木会館へと移動してい
城屋敷の中は二十年前とは違い、暖かな空気に満ちていた。
﹂
﹁はい、今日のコンサートは私も参加するので﹂
﹁ああ、冬木少年少女合唱団のコンサートがあったな。紅葉も所属していた﹂
﹁私は一時から冬木会館に行きます﹂
?
6
冬木会館に着くと、紅葉と桜は控え室へと向かい、あとの面子は一般観覧席へと移動
した。
このコンサート、クリスマスに開かれるというのもあり、このときばかり冬木少年少
女合唱団は、児童聖歌隊と言われていた。そして歌唱力も非常に高いので世界的にも有
名となり、今や﹁東方のウィーン合唱団﹂とも言われている。故に、そのコンサートに
はテレビ局のカメラや、他ならぬウィーン合唱団の面子も観覧に来ている。
ブザーが鳴り、観覧席は光が落ち、代わりにステージかライトアップされた。三十人
余りの少年少女が、ステージ上に並ぶ。指揮者と伴奏の合図で、最初の曲が始まった。
因みに伴奏は、冬木教会の担当シスターのカレン・オルテンシアである。
空気に飲み込まれていった。それ程に歌は魅せるものがあった。
ゆっくりとした静かな曲は、一気にこの空間を支配した。観覧席にいた人々は、その
I am the end and the beginning⋮⋮﹂
I am the night, that will be dawn
I am the light before the morning
﹁I am the day, soon to be born
Merry Christmas
7
き
星
よ
は
し
こ
光
の
夜
り
﹁Silent night, Holy night
救
い
の
御
子
All is calm, All is bright
ぶ
り
と
た
や
ね
も
す
の
う
く
中
Sleep in heavenly peace,⋮⋮﹂
い
Sleep in heavenly peace,
眠
に
Holy infant so tender and mild
ま
Round yon Virgin Mother and Child
は
蝋燭を持ち、息を整えている。そして指揮者の合図で伴奏が始まった。
で指揮者に呼ばれ、一人の少女がステージの前の方に歩き立った。一人立つ紅葉は手に
数曲歌い、少しの紹介の後、また数曲歌い、あっという間に最後の曲となった。ここ
グロリア インエクセルシステオ⋮⋮﹂
グロリア インエクセルシステオ
たえなる調べ 天より響く
﹁荒野の果てに 夕日は落ちて
8
最後の曲である﹁きよしこの夜﹂は、紅葉の独唱から始まり、二番は数人、三番は更
に人が増え、四番五番で観覧に来ていたウィーンの子達も共に歌うという大合唱となっ
た。観客の中には、涙を流すものもいた。
﹂
陳腐な表現になってしまうが、まさに歌だからこそなし得る、魔法のような空間が、冬
木会館ホールに形成されていた。
││││││││││││
﹂
!!
モーちゃんキレイ
﹁紅葉お姉さま、キレイだった
﹁モーちゃんキレイ
!!
コンサートも無事に終わり、皆口々に紅葉に労いの言葉をかけていた。紅葉本人は恥
!!
﹁すばらしい歌だったぞ、紅葉よ﹂
Merry Christmas
9
10
ずかしそうだったが。
時刻は黄昏時である夕方。人々は各々の聖夜を過ごすため、家路に着いている。
衛宮一家も例外ではない。毎年クリスマスと新年は、郊外の城屋敷で過ごしているの
で、そろそろ戻らなければならなかった。
因みに剣吾が生まれた時は衛宮邸で過ごしていたが、パパラッチによるプライバシー
侵害もあったため、それ以来城屋敷に場所を移している。
冬木市立火災慰霊公園を通ったとき、急にシルフィが立ち止まった。次いで紅葉、華
憐、剣吾と立ち止まり、ある一点を見つめていた。士郎達もその方向に顔を向けると、そ
の顔を驚愕に染め、次いで柔らかく微笑んだ。
その昔、黄昏時は生と死の世界が混ざりあうと言われていた。寂しい雰囲気が感じら
れるのは、一重に死者の思念が現世に来ているからだとも。
今、衛宮一家の視線の先には、四人の朧気な人影が写っていた。夕日が差し込む方向
に四人は立っているので、シルエットしかわからなかったが、忘れもしない懐かしい人
たちだった。
ある人はこれを奇跡と称するだろう。ある人はこれを幻覚と一蹴するだろう。
だがこのとき、魔導を志す彼らはこれを奇跡と称した。そして各々の胸のうちに止め
た。
消えた。
四人の人影は、その背中を柔らかく微笑みながら見送り、日没と共に光の粒となって
歩き出した。末っ子は人影に一度振り返り、小さく手を振った。
男はそう呟き、そして人影に背を向けた。妻たち、子供達もそれに倣い、城屋敷へと
﹁大丈夫だ。俺は、俺達は前を歩いている﹂
Merry Christmas
11
以来、この日をローマカトリック教会では祭日としているそうだ。
うになった。
が西暦270年の2月14日で、バレンタイン司祭は聖バレンタインとして敬われるよ
無論この行為は皇帝の怒りをかい、ついに司祭は処刑されてしまった。この殉教の日
を結婚させた。
婚を禁止していた。バレンタイン司祭はこれに反対し、皇帝の命に反し多くの兵士たち
一説によると、当時の皇帝クラウディウス2世は、強兵策の一つとして兵士たちの結
バレンタイン司祭は3世紀のローマの人である。
まずはバレンタイン司祭について記述しよう。
るまでである。
ある。一つ目はバレンタイン司祭について。もう一つは今日のバレンタインデーにな
バレンタインデーについて話すには、まず二つは知っておかなければならないことが
バレンタインの騒動
12
バレンタインの騒動
13
ではここでもう一つ、今日のバレンタインデーになるまでについて軽く記述しよう。
初期の聖バレンタインデーは、司祭の死を悼む宗教的行事であった。
しかし時代が移り変わると共に、14世紀頃からは若い人たちが愛の告白などをする
ようになった。
一説には、2月が春の訪れとともに小鳥もさえずりをはじめる、愛の告白にふさわし
バレンタインデー
い季節であることから、この日がプロポーズの贈り物をする日になったともいわれてい
る。
これが今でに言う﹃愛 の 日﹄である。
日本ではこれに加え、1970年代後半から、女性が意中の男性にチョコレートを送
る習慣が根付いた。そしてそれと対になる、ホワイトデーなる日も設けられている。
ホワイトデーに関してはここでは割愛しよう。
日本型バレンタインデーが始まった理由は諸説あるが、一番有力なのは、とある製菓
会社が﹃意中の異性にチョコレートを送る﹄、ということが書かれた広告を新聞に載せた
ことだろう。
まぁ最近では異性だけでなく、友人同士で交換したり、自分に買う人もいるが。
14
さて話は変わるが、冬木でもこの話は例外ではない。無論教会もあるので、クリス
チャンの中には馬鹿馬鹿しいと一蹴する人もいる。
しかしこの日は学生のとっては一大イベントであり、とりわけ男子は朝からソワソワ
と落ち着きのないものが多いだろう。
これはそんな少年時代を過ごした男の当時と、今を生きる少年の話。
Part1
Side シロウ
時は第五次聖杯戦争が終わった直後。
本来の三つの道とは違い、この世界では5日で終結した。よってバレンタインデーま
でには終わっており、冬木は日常を取り戻している。
バレンタインの騒動
15
その日は誰もが浮かれていた。まぁバレンタインデーだから仕方がないといえば仕
方がない。
さて、ここ穂群原高校でもバレンタインにチョコを渡す人はいる。意中の相手だった
り、お世話になっている先生、部活のメンバーだったりと様々だ。貰って喜ぶ者、貰え
ずに涙を流す者が学舎には溢れている。
しかしここで一際目を惹き付ける三人がいた。
柳洞一成、間桐慎二、そして衛宮士郎の三名である。
柳洞一成は言わずもがな、柳洞寺の跡取りにして生徒会長、加えて容姿もそれなりに
上の方なので、人気があるのも頷ける。
間桐慎二は元から女子の人気は高かったが、冬木で起こった聖杯戦争を境に、無論一
般人は聖杯戦争については知らない、嫌みな性格は多少鳴りを潜め、さらに人気が上昇
することになった。
衛宮士郎は容姿も勉学も身体能力も⋮⋮いや、身体能力は別として、平々凡々にカテ
ゴリされる人間だが、そのお人好しさから意外にも人気は高かった。
加えて、聖杯戦争を境に髪は真っ白、瞳は銀色、肌は麻黒く変化したことから、より
一層生徒達から注目されるようになった。
穂群原の教師陣は、衛宮士郎の肌と髪の変化に関して黙認している。
それは元々その変化の兆しが確認されており、さらに義姉がそもそも日本人ではない
ので、そういうこともあると、さして重要視はしていなかった。
中には士郎が、10年前の冬木大火災中心地の唯一の生き残りと知っている者がい
た、というのも理由の一つだろう。
だか生徒達はそうもいかない。
彼氏や意中の相手がいる者はともかく、学内でも人気のある男子生徒が、様変わりし
た外見になっていれば、どのようになるかは幾つか想像出来るだろう。反感を買うもの
も確かにいたが、殆どは﹃プラス﹄方向に印象がいった。
再度述べるが今日はバレンタインデー。何が言いたいかといえば、
﹁衛宮先輩、どうぞですー﹂
﹁え、衛宮君。こ、これを⋮⋮﹂
﹁はい、衛宮君﹂
16
と、なることだ。
上記男子生徒三名は既に中型の紙袋を二つ消費し、早くも三つ目を取り出している。
慎二はともかく、士郎と一成にチョコを渡す者は、紛れもなく勇者だろう。何故なら
﹂
ば、彼らから少し離れたところから、鬼嫁達︵笑︶が睨み付けているからだ。
﹁⋮⋮何でまた今年はこんなに
男子三名は普段通りである。
﹂
義理も入ってるんだろ
﹁というより、全て義理じゃないのか
﹁まぁそうだと思うが﹂
﹁まぁいいんじゃない
﹂
﹁それは俺にもわからん。今朝は態々寺にまで来る者もいた﹂
?
?
もらえるだろう。
この空気の中、チョコを渡すことがどんなに勇気のいることか、非常によくわかって
う、この二人が睨み付けているのである。
その空間を睨み付ける、姉御肌の女子弓道部主将と学園のマドンナ。もう一度言お
?
?
﹁はいはい、鈍感は黙ってろ﹂
バレンタインの騒動
17
と、そこで勢いよく教室の後方の扉が開いた。
そして中に入ってくる銀髪の少女、衛宮士郎の姉である、イリヤスフィール。このあ
﹂
﹂
との展開を予想した悪友二人は、その場からそっと離れた。
どーん
ほしが見えたスター
﹁シローウ
﹁ほし
!?
!!
をとり、展開を見守っている。
﹂
?
なによ﹂
﹁ちょっとイリヤ、何してるのかしら
﹁あら、リンじゃない
﹁なによって、あなたねぇ﹂
?
?
﹁私はシロウと親睦を深めているの。あなたには関係ないでしょ
﹂
れを見て真っ先に立ち上がり、現場に歩みよる学園のマドンナ。クラスの皆は少し距離
イリヤは士郎に全体重をかけたタックルをかまし、士郎もろとも床に倒れ込んだ。そ
﹁ウェヘヘ∼♪ シロウだ∼♪﹂
!?
!!
18
イリヤの挑発的な物言いに、凛の顔は険しくなった。彼女らをよく知るものは、二人
の後方にアクマとコアクマを幻視しただろう。クラスの皆はアクマは知覚できなかっ
たが、これが真の修羅場と察した。
だが甘い。まだあと一人足りない。
﹂
﹁⋮⋮っつつ。とりあえずイリヤ、ちょっと退いてくれ﹂
﹁ええ∼﹂
﹁いつまでも床に寝てられないから、な
﹁むぅ∼﹂
・
⋮⋮二つ聞こえた。
・
・
そのとき、ブチリッと何かが切れる音が二つ聞こえた。
・
た。そしてその膝の上に、イリヤは飛び乗って座った。
イリヤはむくれつつも士郎から降りる。士郎は一つ息をつき、椅子を立て直して座っ
?
﹁クスクスクス、イリヤさんちょっとオイタが過ぎますよ∼♪﹂
﹁⋮⋮何してるのかしらチミッ子﹂
バレンタインの騒動
19
﹁あらなに二人とも
羨ましいの
?
﹂
?
士郎の運命やいかに
余談だが、寺の跡取り次男坊は、姉御肌の主将から理不尽な折檻を受けていた。
!!
すぐ行くよ、なんて言葉が聞こえてくる。
渦中の衛宮士郎はというと⋮⋮悟りきった顔をして、天井を見上げていた。親父もう
ろう、ハッキリ言って心臓に悪すぎる。
﹃スーパーアクマ大戦﹄がすぐ目の前で勃発しているからである。これだけでわかるだ
様に顔を青くしている。理由はわかるだろう。
いつの間にいた間桐桜も交え、三つ巴の修羅場が繰り広げられていた。見物客は皆一
﹁アハハハ⋮⋮♪﹂
﹁クスクス笑ってゴーゴー♪﹂
﹁ウフフフ⋮⋮♪﹂
20
Part2
Side 剣吾
蛙の子は蛙とは、こう言うことを言うのだろうか
?
20年ほど経過した冬木の街、穂群原中学ではどこかで見た光景が広がっていた。
﹁先輩
これどうぞ
﹂
!!
﹁﹁﹁⋮⋮剣吾の奴、羨ましい﹂﹂﹂
!!
﹁間桐君、はいどうぞ﹂
﹁はい、剣吾君﹂
バレンタインの騒動
21
衛宮士郎の長男である衛宮剣吾と、間桐慎二の長男である間桐悠斗は、父親同様非常
に人気があった。しかし間桐悠斗はともかく、剣吾に関しては、貰ったチョコは全て義
理と思っていた。
﹁今年も大漁だね、剣吾﹂
﹁悠斗ほどじゃない﹂
﹁いやいや、君には負ける﹂
渦中の男二人は、周りの嫉妬の視線も気にすることなく、べちゃくちゃと駄弁ってい
﹂
る。その机の上には、それぞれに満たされた中型紙袋が二つ、新たに取り出された空の
﹂
日本人らしからぬ外見だがらだろ
紙袋が一つ置いてある。
﹁あれだろ
﹁お前ハーフじゃないの
?
﹁まったく、何話してるの
﹂
﹁いや、母さんはドイツと日本のハーフ。即ち俺は日本人の血が濃いのだ﹂
?
?
22
?
俺たちが駄弁っているなか、一人の女子生徒が近づいてきた。
柳洞綾音、柳洞一成と美綴綾子の娘であり、俺ら冬木御三家四兄妹の幼馴染みである。
﹂
最近は綾子姉さんに似てきたのか、後輩や同級生からは姉御と⋮⋮
﹁剣吾、何か言った
﹂
何か悠斗のと違うような⋮⋮﹂
﹁ほい、これ間桐と剣吾の﹂
﹁おう、ありがと⋮⋮う
﹁おんなじよ﹂ ?
﹁流石、愛しのかイデデデデテ
﹁ヨケイナコトイウナ﹂
!?
⋮⋮自分で言ってて悲しくなってきた。
くそう、俺将来こいつの尻に敷かれる自信がある。
﹁よろしい﹂ ﹁何もないです、マム﹂
?
﹁おっ、ありがとう﹂
バレンタインの騒動
23
﹁⋮⋮マム・イエス・マム﹂
﹁剣吾∼
テ メ ロ ッ ソ・ エ ル・ ド ラ ゴ
あとで覚えておいてね
﹂
?
今なら父さんの気持ちも、少しだけわかるかもしれない。
?
?
﹁おーい、バカスパナいる∼
﹂
というか綾音、お前エル・ドラゴ知ってたのか。
か
綾音といい、妹達といい、母さん達といい、俺の周りには変に鋭い女性しかいないの
⋮⋮なんでさ。
?
俺からしてみれば、﹃太陽を落とした女﹄のほうが合うと思うんだが。
の。
﹃穂群原の巴御前﹄と言われている。その二つ名は、他校にも知れ渡っているほどのも
母親譲りの実力と姉御肌っぷりに加え、そして時折顔を覗かせる淑やかぶりにより、
綾音は穂群原中の女子弓道部主将。
﹁んじゃ、あたしは昼練に行くから﹂
24
﹁⋮⋮そのバカスパナってのはやめろ。それにそれは父さんの学生時代のあだ名だ﹂
蒔寺葵。穂群原中陸上部のスプリンター。
今は一人だが、よく他の二人と一緒におり、
﹃陸上部三人娘﹄と呼ばれている。なんで
も母親同士も昔からの付き合いで、母親達も﹃陸上部三人娘﹄と呼ばれていたとか。
電話
﹂
それにあたしとあんたの仲じゃん
﹂
﹁いいじゃん あたしのお母さんも士郎さんをそう呼んでたらしいし。だからあたし
もあんたをそう呼ぶ
?
!!
﹁どんな理屈だよ⋮⋮ん
﹂
?
?
?
?
誰から
?
いとのこと。だから必然的にヴィルとの会話は、ドイツ語か英語、フィンランド語にな
因みにヴィルヘルムは日本語が話せない。多少は理解できるらしいが、それでも難し
でいたが。
俺は机の上の筆箱に、携帯を立て掛けて通話を開始した。何故か葵と悠斗も覗き込ん
かも映像電話と来たものだ。
葵と話していると、電話がかかってきた。それはヴィルヘルムからの着信だった。し
﹁え
バレンタインの騒動
25
そっちは夜中だろう
﹂
まぁわかったけど、場所は
﹂
る。今はエーデルフェルトの影響で、専らフィンランド語で話すけど。
﹁どうした
?
﹃仕事だ。エルメロイからの依頼でな﹄
﹁今からか
?
﹂
!?
る﹄
﹁え
ちょっ、まっ
﹂
!?
メールも確認した。内容は魔術使用の許可であり、セラさんと桜ねえ、母さんで結界を
暫く放心していたが気を取り直し、椅子から立ち上がった。序でに母さん達からの
そうぼやいてしまった俺は、悪くないはずだ。
﹁⋮⋮うそーん﹂
ブツッ
﹃ではな、五分後だ﹄
?
﹃冬木市民には、お前と私の力を隠さなくていいと、エルメロイと万華鏡から言われてい
﹁⋮⋮はぁ
﹃お前は動かなくていい。場所はその学校の校庭だ﹄
?
?
26
張るそうだ。
なんかこの街オンリーだけど、こういった隠蔽に関してかなりいい加減な気がする。
周りから好奇心てんこ盛りの視線に晒されながら、俺は校庭に移動した。すでに学校
の敷地には結界が張られている。流石母さん達、仕事がはやい。
五分後にヘリが学校に到着し、ヴィルが戦闘服を着て降りてきた。かくいう俺も戦闘
﹂
服を着ているけど。周りの視線なんて気にしてられない。
﹁⋮⋮それで
﹁ワームホール
⋮⋮ああ、成る程﹂
よると、第二魔法の産物ではないそうだ﹂
﹁エルメロイの話では、この学校の真上に、ワームホールが開いているらしい。万華鏡に
?
?
うでもあり、魚類の特徴を持つ、全長12メートルほどの生き物だった。
ワームホールは徐々に大きくなり、一匹の大きな生き物を落とした。それは蜥蜴のよ
﹂
﹁調査のために使い魔を放ったが、どうも食われたらしい。そうとうな大きさのようだ﹂
?
﹁そう話してる間に、やっこさんの登場だぜ
バレンタインの騒動
27
何だそれは
﹂
﹁⋮⋮ゲ○ラに似ているな﹂
﹁ゲス○
?
ナ
イ
ト
﹂﹂
!!
りに左右に色が分かれたヴィルのみが立っている。さて、始めますかね。
新緑色の竜巻が俺達を包み込み、立ち上る。竜巻が晴れたときには俺はおらず、代わ
﹁﹁憑依結合
ユ
﹁ふんっ⋮⋮そうだな、相棒﹂
﹁んじゃ、キバッて行きますか、相棒﹂
これで基本方針は決まった。最良でもとのワームホールに帰す、最悪殺す。
﹁どちらにせよ、あの獣には罪はないか﹂
その匂いに誘われた、と考えるのが自然かもな﹂
﹁なんでここに出たかは知らないけど、もし○スラと同じなら、チョコが好きなはずだ。
﹁⋮⋮そうか﹂
が﹂
﹁日本の特撮に出てくる、巨大海獣の一つだよ。まぁ、こいつは実物よりも一回り小さい
?
28
﹁な、何だあのでっかいの
﹂
﹂
!?
は、半分こになっちゃったー
﹁今の竜巻とあの怪物はなに
﹁ふ、二人が一人に
﹂
!?
!?
﹃⋮⋮早く終わらせよう﹄
⋮⋮やり辛い。エルメロイさんは何を考えているんだ。
!?
気絶させた生き物を多量のチョコレートごとワームホールに投げ込むと、穴はひとり
││十分後 目の前で雄叫びを上げる生き物に罪はないから、俺達は名乗りをせずに駆け出した。
﹁⋮⋮そうしよう﹂
バレンタインの騒動
29
でに閉じた。もう何も起こらないと判断した俺達は、憑依を解いて二人に戻った。
⋮⋮あ︵汗︶﹂
?
﹂
?
﹂﹂
?
﹁さて剣吾、キリキリ吐いてもらおうか﹂
いやえっと⋮⋮これはだな、その⋮⋮﹂
柳洞綾音と蒔寺葵である。なんでこの二人かって
﹁ウェイ
﹁﹁なに
? !?
ご想像にお任せします。
﹁士郎さん達の子供だから想像はしてたけど、あたし達に隠し事なんて生意気だねえ﹂
そして人混みの一番前にいるのは勿論、
な派手なことが起こり、尚且つそれを解決したのがこの学校の生徒となれば尚更。
いつの間に俺達は囲まれていた。生徒教師問わずにだ。そりゃそうだ、目の前であん
﹁あれ
﹁確かに、それよりあれはいいのか
﹁⋮⋮ったくエルメロイさんも、人使いが荒いよな﹂
30
﹁ええ⋮⋮おいヴィル、っていない
﹁赤マントならあそこ﹂
い。
﹂
!?
﹂
いていったようである。それに結界も解除されていることから、母さん達は帰ったらし
二人が指差す方向には、既にヘリに乗って退散するヴィルの姿が。いつの間に俺を置
!?
﹁ダディャアナザン、オンドゥルルラギッタンディスカッ
﹁﹁こっち向け﹂﹂
﹂
!?
ロード・エルメロイⅡ世はこれを見越していたのか
かげで鎮圧された。
わからん。
ヴィルの情報や俺の情報を求めて追いかけ回されることになった。だが、綾音と葵のお
それと何故かこの騒動のあと、俺とヴィルのファンクラブが堂々と作られてしまい、
?
反感を持たれることもなく、自然と受け入れられた。
結局洗いざらい、俺に関してだけ吐かされた。が、俺の両親のこともあってか、特に
﹁ウェイッ
バレンタインの騒動
31
うん、ホワイトデーと誕生日に美味いお菓子を送ろう。そう言えば朝にはジニーさん
からも届いていたし、今年は本気を出すかね。
┃┃ とある場所
?
るし﹂
﹁ゼ○、子供の方がが握りしめてるのは何だ
﹂
﹁ったく世話やかせやがって、この水生蜥蜴は。しかも幸せそうに親子揃って寝てやが
﹁ようやく見つけましたね、○ロ﹂
﹁あっ、こんなところにいたのか﹂
32
﹁ん
ああ、確かこれはチョコだな。なんでも地球のお菓子らしい。親父の話による
﹂
の親のケツの方頼むわ。弟君は子供の方﹂
﹁だから私は焼き鳥ではない
?
﹁わかった﹂
をいわないとな﹂
なら、機会があれば礼
﹁ま、なんでもいいじゃねえか。さっさとこいつを元の世界に戻そうぜ。焼き鳥、そっち
﹁なるほど、惑星エスメ○ルダにはないものですね﹂
と、原料はゲ○ラの好物の植物の実だとよ﹂
?
!!
﹁⋮⋮もしかしたら、こいつの迷い込んだ先は、別次元の地球
バレンタインの騒動
33
四月馬鹿企画 ある日、衛宮士郎はいつものように土蔵で鍛練に勤しんでいた。時間帯は夜中、家族
は既に寝静まっており、起きているのは士郎だけである。
思えば色々と変わった人種になったものだ。妻を三人めとり、四人の子供にも恵まれ
ている。聖杯戦争に参加していた頃には、考えもしなかった未来だ。間違いなく、今の
彼らは幸せと言えるだろう。
ふと蔵の奥に目を向ける。
そこには一つの大きな魔法陣が刻まれている。聖杯戦争の折に使用した、サーヴァン
ト 召 喚 用 の 陣 で あ る。あ れ は 非 常 に 濃 い 五 日 間 だ っ た。士 郎 が セ イ バ ー を 召 喚 し 出
会ったのも、この陣の前だった。彼女の鞘は、今でも自分の体に溶け込んでいる。
物思いに耽りつつ、士郎は陣を指先で優しく撫でた。
﹁⋮⋮﹃座﹄で会うことができたら、そのときは返さねばな﹂
34
すると突如、魔法陣は光を放ち始めた。
﹂
!?
魔力を注いでないし、詠唱もしてないぞ
!?
⋮⋮成る程。
ブ。
早朝と相違点が多く挙げられた。そして目の前に広がるのは、修理しかけの電気ストー
気がつけばまた土蔵にいた。しかし自分の土蔵とは物の配置が異なり、加えて時刻も
││││││││││││││││││││
咄嗟に士郎は陣から離れようとしたが、無情にも光に飲み込まれてしまった。
﹁何
四月馬鹿企画 35
﹁ここは平行世界の私の家、というわけか。どう思うかね、衛宮士郎君
﹂
?
﹂
﹁いかにも。む
?
どうやら家主が来たようだ﹂
?
﹂
故かサーヴァント三名が駆け込み、戦闘体勢をとった。
﹁あんた、何者
﹁返答次第では、この場で排除します﹂
?
﹁そうは思わんかね
﹂
あげくのはてに、隻腕の士郎に気がついていないときた。
のほうがまだマシだ。
い場合、ほぼ確実に誤った方向に話が進むぞ 精々アーチャーのように警戒するだけ
?
?
やれやれ、なんでセイバーと若い凛は好戦的なのだろうか
相手が敵意を有してな
が勢い良く開かれた。そしてこの世界の衛宮士郎、遠坂凛、間桐桜、イリヤ、そして何
士郎と銀のメッシュの入った隻腕の衛宮士郎が床に座って話をしていると、土蔵の扉
?
か
﹁そうなんじゃないのか まぁ俺の家でもないけど。あんたも別世界の衛宮士郎なの
36
?
﹂
﹂
先輩がもう一人
﹁いや、知らないよ。俺に聞くな﹂
﹁えぇッ
﹁それに一人は腕が⋮⋮﹂
﹂
⋮⋮ふむ、中々にいい気分だ。
﹁なにっ
﹁いや、もう一人いるから四人だ。なぁ、アーチャー
﹁いや、正確には三人だろ
!?
こ
こ
?
士郎
﹂
﹂
﹂
⋮⋮そうだな。じゃあ客間に来てくれ。あんた達も俺なら、場所はわかるだろ
﹂
う
﹁え
﹁ちょッ
!?
?
?
﹁とりあえず土蔵から出ないか
こんなところで話し込むこともないだろう﹂
だがまぁそれは置いておこう。今は彼らに敵対しないことを伝えねばなるまい。
のも一興だ。これは癖になりそうだ。
別世界とはいえ、アーチャーには色々としてやられたからな、ここらで奴をからかう
?
?
!?
!?
!?
?
﹁そうだな。この世界の衛宮士郎、それでいいか
四月馬鹿企画 37
﹁先輩
﹂
﹁⋮⋮本気ですか、シロウ
!?
﹂
理したいから時間が惜しい。
﹁こちらの情報は、出来うる限り開示しよう。君もそれでいいか
﹁まぁそれが最善だろうな﹂
﹁というわけだ。こちら二人は敵対の意思はないのだが⋮⋮﹂
?
﹁⋮⋮むさ苦しいな﹂
と、ここでメッシュの衛宮士郎がぼそりと呟いた。
座っている。
の衛宮士郎はちゃぶ台を囲んでいる。他の面子も、それぞれこの世界の衛宮士郎の側に
現在セイバーとライダーは、いつでも仕掛けれるよう俺達の後ろに立っており、四人
暫くこの世界の面子が議論していたが、結局客間に通された。
﹂
家主の言葉に異議を唱える面々。まぁわからなくもないが、こちらとしても情報を整
?
38
﹂
むさ苦しいとは失礼な。
﹁君もその一人だぞ
チャー
﹂
﹂﹂﹂
貴様ら
﹁﹁﹁ブフゥッ
﹁なっ
﹂﹂
﹁﹁そこの赤い不審者だな﹂﹂
アー
﹁ああ、一番むさ苦しいのは⋮⋮﹂
﹁ぐぅ、わかってるよ。でも大人のあんたが一番⋮⋮いや、違うな﹂
?
否定させんぞ
?
!?
!?
﹂
﹁⋮⋮余計なお世話だ﹂
?
面で。それからアーチャーよ、そんなにしかめ面をしていてはだな。
ふむ、このメッシュの衛宮士郎とは気が合うかもしれんな。主にアーチャーを弄る方
﹁ぐぅ⋮⋮﹂
﹁﹁あ
? !?
﹁皺が取れなくなるぞ
四月馬鹿企画 39
﹁いや、もう手遅れだろ
﹂
?
﹂
!!
﹂
!!
それにしても、
カーの世界もそうらしい。世界はたった一つの﹃if﹄でこうも変わるのだな。
成る程、繰り返される四日間か。私の世界ではそんなことは起きなかった。フェイ
終了までの情報を開示した。そしてこの世界の事情を説明された。
とまぁこんな感じでアーチャーをフェイカーと共に弄りつつ、俺達は最低限聖杯戦争
﹁私は﹁﹁いや、お前はいいや﹂﹂オイッ
まぁ呼ぶときは﹃贋作者﹄と呼んでくれ﹂
フェイカー
﹁じゃあ次は俺だな。俺も別世界の衛宮士郎。たぶんスミサーとも別の存在だと思う。
人もいればややこしいだろうから、呼ぶときは﹃鍛冶師﹄と呼んでくれ﹂
ス ミ サー
﹁さて、言うまでもないと思うが、私は衛宮士郎だ。この世界とは別世界の存在、まぁ四
おっと、また脱線してしまった。本題に入ろう。
﹁オイッ
﹁そうだった、気付かずにすまない﹂
40
﹁アーチャー、お前はずっと現世に
﹁だが
﹂
﹂
﹁いや、聖杯戦争が終わったときに一度﹃座﹄に戻ったのだが⋮⋮﹂
?
﹂
?
か。
?
カーにもな﹂
﹁さて、仮に知っていたとしても、私からは話すことはせんよ。無論衛宮士郎にもフェイ
﹁⋮⋮スミサー、貴様何か知っているのか
﹂
成る程、早速良い方向に影響が出たみたいだな。私達の行動が、少しでも実を結んだ
消え失せ、黄昏の空は快晴になっていた。あれはどう言うことなのだ
渡す限りに青々とした草が生え、宙に浮かぶ歯車は錆びて地に落ち、空を覆い隠す雲も
﹁⋮⋮驚いたことに、
﹃座﹄が変容していた。雑草も生えない荒野だったはずなのだが、見
?
﹁⋮⋮﹂
﹁まぁわからなくはない﹂
﹁そっか﹂
四月馬鹿企画 41
アーチャーは未だ疑わしそうな視線を向けてくるが、私はそれに微笑みを返し、受け
流した。流石にこれは話してはならない、所謂禁則事項ってやつだろうからな。
と、横から私の着流しの裾が引っ張られた。目を向けると、この世界のイリヤが興味
津々な目をして、私とフェイカーを見つめていた。
︶﹂﹂
﹂
﹂
因みに言うと、私は着流しに黒足袋、フェイカーは黒のチノパンにグレーの半袖を着
ている。
︵む
﹁ねぇねぇ聞いていいかしら
﹁﹁ん
﹁二人は自分の世界で何をしてるの
?
﹁ん
何か話せないことでもあるのか
﹂
?
⋮⋮どうやらこの世界の衛宮士郎は、少々鈍いらしい。まぁ話を聞く限り、まともに
?
私達の現状か。はてさて、どこまで話して良いものやら。
?
?
?
42
アー
チャー
魔術の世界に踏み入れたのは、極々最近の話みたいだから、仕方がない⋮⋮のか
﹂
﹁いや、どこまで話して良いものやらと思ってな﹂
﹁なんでだ
赤い不審者のよう
?
きてるんだぞ
﹂
に死んだ後に現界しているのなら多少は良いかもしれないけど、俺やスミサーはまだ生
﹁考えてもみろ。もし余計なことを話して抑止が動けばどうする
?
?
﹁下手すればこの世界だけでなく、私達の世界も滅びの対象にされかねんからな﹂
?
残念ながら、私は聖杯戦争が始まるまで、気づくことができなかった。今でこそ幸せ
だ。
が私と異なるのは彼には師がいたことと、聖杯戦争前に間桐の﹃闇﹄を滅していたこと
どうやらフェイカーは私と同じく、聖杯戦争前からイリヤと和解していたらしい。だ
いてフェイカーから話し始めた。
の人間関係を軽く話すことにした。そしてこの世界のセラが入れたお茶を飲み、一息つ
だが何も話さないというのもあれなので、フェイカーと色々と話し合い、私達の周囲
﹁⋮⋮そうなのか﹂
四月馬鹿企画 43
だが、桜は辛い経験を何年も重ねていただろう。
そしてこれは驚いたが、フェイカーは三枝を伴侶に選んだらしい。なんでも中学生の
頃からの縁で、聖杯戦争を経て結ばれたようだ。
俺も彼女と関わりがあるが、どちらかと言えば友人という立ち位置にいる。むしろあ
の﹃陸上部三人娘﹄のなかでは剣吾のこともあって、蒔寺と最も関わりがある。
本当に世界変わればなんとやら、だな。
中だな。次はスミサーの番だぞ
﹂
﹁承知、と、その前にお茶のお代わりをいただけるか
﹁どうぞ﹂
?
?
﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮はっ
﹂﹂﹂﹂
﹁さて、何から話すか迷うが最初に言っておく。私は子持ちだ﹂
私はセラが入れたお茶のお代わりを煽り、喉を潤した。
﹁ありがとう、セラさん﹂
﹂
﹁⋮⋮とまぁこんなとこだ。この腕も聖杯戦争でやられたけど、今は師匠が義手を製作
44
?
﹁へぇ⋮⋮﹂
私がそう言うと、客間の空気が凍りついた。フェイカーを除いて、皆が一様に固まっ
﹂﹂﹂
た。というかフェイカーよ、お前なかなか肝が据わっているいるな。
﹁﹁﹁すみません、何て言いました
﹂
!!
をしてきた。
?
﹂
リンもサクラも押し退けてね﹂
?
﹁イリヤさん、それは聞き捨てなりません
!!
﹁あら、私に決まってるじゃない
﹂
しばらく客間は混乱に包まれていたが、やがて落ち着きを取り戻し、今度は凛が質問
いやはや愉快愉快、まさに愉悦。
﹁貴さ⋮﹁ああ、赤い不審者と違ってな﹂⋮オイッ
﹁そっか。どうりで赤い不審者と違って落ち着きがあるわけだ﹂
﹁だから私は子持ちだ。四人いて一番下はこの前一歳に、一番上はもうすぐ十四だ﹂
?
﹁へ、へぇー。スミサーは随分と甲斐性があるのね⋮⋮因みに誰と
四月馬鹿企画 45
﹂﹂﹂
﹁私はいないので関係ないですね、ええそうですとも﹂
﹁お、おいお前ら⋮⋮﹂
﹁﹁﹁士郎︵シロウ︶︵先輩︶は黙ってて︵下さい︶
﹁⋮⋮酷い﹂
な、ここらで止めるとするか。
?
﹂﹂﹂
﹁ああ∼すまないが、三人とも違うぞ
﹁﹁﹁へっ
﹁﹁﹁﹁はいぃッ
さ、三人とも
まぁそれは驚くだろうな。
!?
﹂﹂﹂﹂
﹁まぁその⋮⋮なんだ。実はイリヤと凛、桜の三人なんだ﹂
?
﹂
まぁこの光景をしばらく見ているのも悪くないが、変に諍いが起きるのは嫌だから
キーは家主なのに底辺と。
⋮⋮ 成 る 程。こ の 世 界 の 衛 宮 士 郎 は 私 よ り も 鈍 感 な の か。そ し て 家 庭 内 ヒ エ ラ ル
!!
46
!?
﹁そうだ、これが写真だ。あと凛よ、ガンドを飛ばすのは止めろ﹂
ガンドを飛ばそうとしてきた凛を牽制しつつ、私は懐から一枚の家族写真を取り出し
た。この写真は、ちょうどシルフィの一歳の誕生日に撮影したものだ。
お前
私が渡した写真は凛に引ったくられ、そして全員で舐めるように眺めていた。
⋮⋮どうでもいいがアーチャーよ、貴様にそんな目をされる筋合いはないぞ
の場合は行く先々で女を引っかけて⋮⋮おっとこれは禁則事項だな。
﹁⋮⋮なんか複雑﹂
﹁イリヤさん、すっごく綺麗になってます﹂
?
と、またしても着流しの裾が引っ張られた。
た。
何か多少空気が重い気がするが、気のせいか いや気のせいだ、気のせいだと決め
⋮⋮子供たちは可愛らしいです﹂
﹁先程話を聞いてましたが⋮⋮いざ私がいないのを見せられると、何ともいえませんね。
四月馬鹿企画 47
?
ああ、そうだ﹂
﹁ねぇねぇ、この二人がそっちの私との
﹁ん
﹂
?
﹁絶対に結ばれる、とは言わないのね﹂
!!
﹁無責任なことは、あまり言いたくないのでな﹂
﹁ふーん、まぁいいわ。ねぇねぇ、子供たちのことを聞かせて
﹁いいぞ。私の前に立つ少年は剣吾と言ってな、息子は⋮⋮﹂
﹂
﹁あくまで私の話だよ。この世界でその可能性がないわけではない﹂
まぁこのときの私は、近い将来そうなるとは考えてもいなかったが。
ら、その世界の行く末を死ぬまで見届けなければな。
だが私は別世界の存在、おいそれと手を出す訳にはいかん。世界の流れを変えるのな
ないみたいだがな。
この世界のイリヤを見る限り、本家とはあまり上手くいっていないのだろう。険悪では
片や妻として、片や姉として本家とも円滑な関係を結び、未来を手にしている。だが
物憂げな表情を浮かべる、この世界のイリヤ。そうなるのも仕方がないか。
﹁⋮⋮そう﹂
?
48
そこからはフェイカーを含めた皆から、子供に関する質問を浴びせられた。ただ子供
達の魔術に関する問いは、全て黙秘の姿勢をとった。無論私に関する質問もあったた
め、私と凛、桜が英雄になっていることは黙秘した。
そしてこの世界の昼少し前、セイバーと手合わせを終えた後に、私とフェイカーの体
か透けはじめた。
﹁⋮⋮どうやら﹂
﹁時間みたいだな﹂
私とフェイカーは誰に言うこともなく、ぼそりと呟いた。この世界の皆は、一様に残
念そうな表情を浮かべる。
アーチャーは相変わらず仏頂面だが。
﹂
?
﹁まぁお前がそれでいいのなら構わんが。少しは笑顔を浮かべてみろ、そうすれば多少
﹁ふん、余計なお世話だ﹂
﹁先程も言ったが、皺が取れなくなるぞ
四月馬鹿企画 49
は世界の見え方が違ってくるぞ
﹁⋮⋮善処しよう﹂
れんよ。
﹂
﹁あの⋮⋮スミサーさんとフェイカーさんは⋮⋮消えるんですか
﹂
そう、それでいい。仮令英霊となったあとでも、そうしかめ面をしていては幸せは訪
?
私とフェイカーは言葉を紡ぐ。
﹁そもそも俺達は別世界の存在だ。むしろこうなることは必然だぞ﹂
﹁消えるんじゃない。帰るのさ、元いた場所に﹂
だから私とフェイカーは、安心させるように笑顔を浮かべた。
ている。
桜がおずおずと聞いてくる。他の面子も言葉には出さないが、皆が心配そうな顔をし
?
50
﹁この世界の俺、お前はお前の道を進むんだ﹂
﹁焦らなくていい、遠回りしていい。お前が、お前とアーチャーが抱いた想いは、決して
間違いではないのだからな﹂
もう足は殆ど消えている。
﹁一人だけでできることなんて多可が知れてるからな﹂
らった﹂
﹁迷 っ た と き は 立 ち 止 ま る の も 大 切 だ。私 も 何 度 も そ う し た し、何 度 も 皆 に 助 け て も
上半身も殆ど消えかけている。
﹂
最後に彼らに、この言葉を送ろう。
﹁⋮⋮なんだ
﹂
﹁夢を持て﹂
﹁⋮⋮え
?
?
﹁衛宮士郎﹂
四月馬鹿企画 51
﹁英雄に、正義の味方になりたければ夢を持つんだ。そして、誇りも。忘れるな﹂
﹁﹁おはようございます、お父さん︵お父様︶﹂﹂
﹁ああ⋮⋮おはよう、みんな﹂
﹁起きたか、父さん﹂
こんできた。息子は壁に寄りかかり、こちらを眺めている。ああ、俺は帰ってきたのか。
意識が浮上し、目が覚める。見慣れた天井、時刻は朝の九時頃、三人の娘が顔を覗き
││││││││││││││││││││
フェイカーの言葉を最後に、私達二人はこの世界から消失した。
﹁いつかまた会うことがあれば、そのときは茶でも飲もう﹂
52
﹁おあよう、パパ﹂
﹁シィちゃん、華憐ちゃん。お母さんたちを呼んでくれる
﹁﹁はーい︵あーい︶﹂﹂
﹂
?
﹂
﹂
﹂
紅葉の言葉に応え、二人が出ていった。体を起こすと、戸口にいた剣吾が近づいてき
た。
﹁父さん、大丈夫なのか
﹁本当だよ、紅葉。剣吾、俺はどうなったんだ
﹁本当ですか
﹁ああ、特に違和感はない﹂
?
﹂
﹁まったく、ヒヤヒヤさせないでよね﹂
?
ると、魂だけが英霊のような形であの世界に連れていかれた、ということになる。
俺は剣吾に質問した。どうもあの後、こちらの世界では昏睡状態だったらしい。とな
?
?
﹁シロウ、大丈夫なの
四月馬鹿企画 53
﹁目が覚めて良かったです﹂
そこでイリヤ達が部屋に入り、俺に異常がないか検査を受けた。結果としては、幸い
何も異常は見つからなかったようだ。
﹂
まだ皆は朝食を食べてなかったらしく、ちょうど俺の目も覚めたから食べることに
なった。
﹁⋮⋮士郎さん、楽しそうですね﹂
﹁そうね﹂
﹂
﹂﹂こらこら、廊下は走るなよ
﹁む、そう見えるか⋮⋮いや、中々に面白い体験をしたものでな﹂
﹂
﹁あら、どんな体験したの、シロウ
﹁シィたちも聞きたい
モーちゃん抱っこ∼﹂
!!
!!
?
﹁そうだな、なら食べながら聞かせよう﹁﹁ワーイ
﹁あーい
﹁ほれ、おぶされ﹂
﹁ふふふ、はいはい﹂
﹁お兄様、おんぶ﹂
!!
?
54
四月馬鹿企画 55
廊下を進んでいく四兄妹。それを優しく見つめ、ゆっくりと後を追う一人の男と三人
の妻。
今日も冬木は日本晴れ。頬を撫でる春先の風は、とても優しく心地好いものだった。
デ ス イー ター
Two century passed IFルー
これは、かの戦いから200年経過した世界の話である。
しかし歴史は繰り返される。
モートの死亡により終結し、魔法界、マグル界ともに平和を勝ち取った。
集団を中心とした反対組織による激突。双方ともに多大な犠牲者を出した末、ヴォルデ
と呼ばれた集団と、アルバス・ダンブルドアが組織した〟不死鳥の騎士団〟と呼ばれた
最強の闇の魔法使いと恐れられていたヴォルデモート卿と彼が率いた〟死喰い人〟
1998年、魔法界の命運を左右する戦いがホグワーツで起こった。
トその①
56
Two century passed IFルートその①
57
││││││││││││││││││││
≪聞こえるか、ホグワーツに立てこもる者達よ。俺様はヴォカントモールテン郷だ。
今俺様は貴様らの頭に直接語りかけている≫
ヴォカントモールテン
頭に鳴り響く、寒気を感じさせる冷たい声。近年稀にみる闇の魔術を極めた魔法使い
は、自らの名を〟死を呼ぶ者〟と名乗り、幾人もの手下を従えて魔法界を蹂躙した。
魔法族至上主義を掲げ、自らに逆らうものは容赦なく殺害してきた彼に対し、人々は
昼夜怯えながら過ごしていた。
今や書物上の存在として語られる英雄マリナ・ポッターも、100年を生きた末に大
往生して今はこの世にいない。そしてその遺体、墓の所在は誰にも知られていない。
書物に書かれている通りの活躍をしたのならば、このような闇の魔法使いはすぐに片
づけられただろう。しかし今はもういない存在を求めても、何の慰めにもならない。
同様に、魔法界に伝わるある伝説も頼ることが出来ない。
││求めよ、さらば救いは与えられん。汝、真に助けを求むとき、彼の者は必ず来る。
﹂
彼の者は常世全ての救世主。彼の者は世界の守護者。心せよ、汝真に正しき行いをせし
時、彼の者の救いを賜る。
﹁ねえシャルル、作戦はあるの
﹂
!!
きは止したほうがいい。俺様も魔法族の血が流れることは望まない≫
≪さて、お前たちは何やら俺様達に対抗しようと企てているみたいだが、無駄なあが
めている。だから今は俺たちが行動するしかない。
く。教員たちとヴォカントモールテンに対する反対勢力、〟竜の頭〟は学校の防御を固
七年間行動を共にしてきた友人たちが指揮を執り、順に幼い子たちから逃がしてい
﹁じゃあそうしましょう。みんな聞いて
あるから。あそこの店主は知り合いだからな﹂
﹁⋮一先ず下級生は外に逃がそう。〟必要の部屋〟から〟ホッグスヘッド〟に続く道が
?
58
Two century passed IFルートその①
59
奴の演説は続く。
≪そこでだ、これから一時間時間をやる。その間に逃げる者は逃げ、戦うものは英気
を養うといい。一時間だ≫
そう言って奴は念話を切った。さて、1時間でどれほどの準備を整えられるかわから
ないが、やるだけやってやろう。名前も知らないご先祖様は、自分の持ちうるもの全て
を用いて危機的状況を打開したという。ならば、俺もやれるだけやる。
≪さて。聞こえているか、エミーユよ。今俺様は貴様にだけ話しかけている≫
突如俺の頭に響く声。一年の時に偶然奴の計画を阻んで以来、目の敵にして俺を執拗
に殺そうとしてくる。俺の運のなさはどうも先祖譲りらしく、問題に巻き込まれるのは
慣れてしまった。
そしていま、重なりに重なった結果、魔法界を左右する抗争へと繋がる間接的要因に
なってしまった。
≪貴様だけは俺様が手ずから殺す。首を洗って待っていろ≫
一方的に宣告され、念話が切れた。今の俺の実力では、奴に勝つことは到底かなわな
いだろう。奴に勝つためには⋮⋮。
ふと〟必要の部屋〟の隅っこに目を向ける。そこには不可解なものが置いてあった。
この部屋は何度も使ったことがあるが、いままでこんなものを見たことがない。
そこには小さな台座があった。中央には木彫りの杯のようなものが置かれ、九枚の
カードが囲んでいた。其々に剣士、槍兵、弓兵、騎乗兵、魔術師、暗殺者、狂乱者、復
讐者、救世主の絵が描かれていた。
一見何の変哲のない普通のカード。しかし俺にはこれらが、何か重要なものに思えて
仕方がなかった。とりあえず一番しっくりとくる弓兵と救世主、復讐者のカードを手に
避難は終わったわ
﹂
取った。意味はないかもしれない、だがせめてものお守りとして懐に入れた。
﹁⋮⋮シャルル
!!
﹁今残ってるのは成人した人と、わざわざ来てくれた人たちだよ﹂
!!
60
Two century passed IFルートその①
61
友 人 二 人 が 知 ら せ に 来 て く れ た。幸 い 二 人 に は こ の 台 座 に 気 づ い て い な い ら し い。
俺は二人に礼を言い、部屋に集まる集団の元へと向かった。
残り四十分、準備をしよう。
││││││││││││││││││││
結論から言うとどちらも犠牲者が続出し、戦いは一旦小休止を置くことになった。奴
の軍勢は禁じられた森の奥へと籠り、こちらはボロボロになったホグワーツの大広間で
治療等を行っている。犠牲者の中には、俺が懇意にしていたもの、俺を擁護してくれた
62
ものもいた。
≪エミーユよ、聞こえているか
ならば決闘に応じたら
≫
それこそ負ける可能性が高くなってしまう。奴は俺が死
ば今以上に死傷者が出てしまう。それは俺の望むところではない。
さてどうするか。ここで奴の言葉を無視すれば、再び総力戦になるだろう。そうなれ
一方的にまた宣告され、さらには場所まで頭に映し出された。
せよう。条件を飲むのなら準備を済ませ、一時間以内にここに来い≫
様のもとに来い。一対一の決闘で決着を付けよう。俺様が敗れた暁には軍勢を撤退さ
≪このままでは互いにジリ貧だろう。そこでだ、貴様に提案する。これより一人で俺
頭に再び奴の声が聞こえてくる。
?
考え事をしていると、気が付けば俺は湖の畔にいた。そういえば、校長室の肖像画の
必要がないと考えたのだろう。
んだあとのことを言わなかった。ということは自身の勝利を確信しているゆえに、言う
?
・
・
一つ、アルバス・ダンブルドアの墓もここにあった。
この六年間、ダンブルドアの墓は
視線を横に移すと、果たしてそこには二つの墓があった。一つはダンブルドアの墓で
相違ないだろう。ならばもう一つは誰のだろうか
た。
何度も見たことあるから、近くにもう一つ会った記憶はない。俺は気になって近づい
?
?
何が書かれているかを読み取れた。
ることも構わず、その苔を出来るだけ取り除く。そしてあらかた取れたとき、ようやく
視線を下げると、百年の月日で張り付いた苔に隠れ、何やら文字が見えた。手が汚れ
て、そして誰が彼女の墓を守っていたのか。真相はわからない。
方を十字架のような剣で囲まれていた。誰が張ったのかもわからない結界を誰が用い
それにここに張られている結界は俺たちの魔法とは異なるもので、墓を囲むように四
ツにあり、さらに隠蔽までされてるなんて誰が判るだろうか
まさかの人物だった。あちこち探しても見つからなかった曽々祖母の墓。ホグワー
﹃救世の聖女、マリナ・ポッター、ここに眠る﹄
﹃偉大なる大魔法使い、アルバス・ダンブルドア、ここに眠る﹄
Two century passed IFルートその①
63
たことだ。何故俺は忘れていたのだろうか。
残っている可能性を手繰り寄せて最良の結果を導き出す。物心ついた時からやってい
とである。だがそれでも、望みがないわけではない。限りなくゼロに近い可能性でも、
そうだ、俺はヴォカントモールテンに実力は劣っている。それは考えるまでもないこ
諦めるな、か。
に、体と心の奥深くに言葉が染み渡った。
墓の足元にはそう書かれていた。言葉の一つ一つに魔力が込められているかのよう
みなさい﹄
一抹でも望みが残されてるのなら、決して諦めてはいけません。自分を信じて、前を進
の力が及ばないことなど山ほど出くわすでしょう。でも打開する可能性があるのなら、
力を持つものは、それ相応の責任が伴います。生きていくうえで理不尽なこと、自分
諦めないで。
状況であるかは、死したみである私にはわかりません。ですがこれだけは伝えます。
孫であり、一定条件を満たした人だけが見つけることができます。あなたがどのような
﹃これを見ているということは、貴方は私の血を継いでるのでしょう。私の墓は私の子
64
Two century passed IFルートその①
65
懐から三枚のカードを取り出す。物言わぬカード、でも確かに俺の手にあるカード。
俺は手元に弓兵のカードだけを残し、残り二枚を墓においてその場を離れた。
杖を抜き、右手に持って森の中を歩く。俺が敵のもとに向かっていることは他の人に
は知らせていない。この場、そしてこれから向かう場には俺一人しかいない。自然と左
手に持ったカードを握る。その拍子に指先が切れ、血がにじみ出た。
一瞬、カードから弱い鼓動が感じられたが、それもすぐに収まった。気のせいだった
のだろう。
││││││││││││││││││││
どれほど歩いたのだろうか。長い時間歩き続けると、開けた場所に出た。今は夜のた
め、森の中には光が一切ない。しかし、木々の隙間から差し込む星々の光や、満月の光
によって動くものは分かることが出来た。
言うや否や、杖をひらりと振るうヴォカントモールテン。とっさに近くの木に隠れる
﹁さて、始めようか﹂
い。死喰い人よりももっとたちの悪い奴らだ。
うな。昔の〟死喰い人〟と呼ばれた奴らとは違って、この取り巻き達には忠誠心がな
て、奴はさしの勝負を提示したけど、取り巻きにとってはそんなことどうでもいいだろ
ヴォカントモールテンはクツクツと笑い、取り巻きも嫌なニヤニヤを浮かべた。さ
﹁そうか、そうか一人か﹂
﹁お望み通り、一人で来たぞ﹂
﹁⋮来たか﹂
66
と、緑の閃光が木に当たって霧散した。
﹂
!!
ヴォカントモールテンを含めて4人、全員が死の呪いを放ってくる。木を陰にしつつ、
木の陰から飛び出し、無言で四本の失神呪文を放つ。うち三つが敵にあたり、残りは
しゃべりつつも攻撃の手を緩めない奴ら。こうなったら先に取り巻きを眠らせよう。
﹁待つの面倒だし﹂
﹁早く終わらせりゃいいじゃん﹂
﹁邪魔をするなと言ったはずだ﹂
れ、周りを見る。予想通り、取り巻きの一部が数名、こちらに杖を向けていた。
互いに呪いを飛ばしていると、意図しない方向からも呪いがきた。咄嗟に木の影に隠
の森を駆け抜け、辺りを照らす。
から飛び出し、木から木へと走り移りながらこちらも魔法を飛ばす。緑と赤の閃光が夜
ヴォカントモールテンが叫ぶ。無論こちらも逃げてばかりではいられない。木の陰
﹁逃げるだけか
Two century passed IFルートその①
67
さらに二人の取り巻きを失神させた。残る取り巻きは一人。
しかし俺の運はここで尽きた。
取り巻きの一人が放った拘束呪文にあたり、魔法で生成されたロープに縛られてし
まった。
﹁⋮死ねない﹂
?
﹁ふん、往生際の悪い奴だ﹂
﹁死ねないって言ったんだよ﹂
﹁何か言ったか
﹂
目だ。俺は⋮俺自身を貫くためにも、ここで負けるわけにはいかない。
だがせめて、せめて奴に一泡でも吹かせなければ、俺は敗北してしまう。それだけは駄
ヴォカントモールテンが杖を俺に向け、近づいてくる。次の一手で俺は死ぬだろう。
﹁俺様一人でけりをつけたかったが、仕方がない。さて、覚悟はいいかエミーユよ﹂
﹁ようやく捕まえた。ったくちょろちょろしやがって﹂
68
奴は俺を一瞥し、杖を掲げた。
﹂
貴様ぁ⋮⋮﹂
おらぁ
!!
﹁ぐっ
!?
動かせなくなった。
!!
たところか≫
≪この絶望的な状況で、諦めなかっただけ良しとしよう。流石は彼女の子孫、といっ
ことが出来れば。
再度こちらを睨みながら杖を掲げる。もう何もできない。せめて指一つでも動かす
﹁小賢しい真似を⋮さっさと死ねぇ
﹂
に奴の気力を逸らせた。しかし悪あがきもここまで、全身金縛り呪文を使われ、指一つ
体を無理やり動かし、ヴォカントモールテンの脛を蹴り上げる。それによって一時的
!?
﹁ッ
Two century passed IFルートその①
69
突如辺りに響く声、しかし誰かが話したわけではない。この場にいる人間で、あのよ
﹂
うな渋い声を出す人間はいない。とすると誰の声なのだろうか。
﹁誰だ
﹁な、何だ
﹁眩しい⋮
﹂
﹂
太陽のように輝いたカードは一度更に眩しく輝き、やがて光っていたのが嘘のように
取り巻き達が叫ぶ。
!! !?
やがてカードの光は強くなり、太陽のように輝きだした。
前の場所で滞空していた。
を断ち切り、ヴォカントモールテンと取り巻きを吹き飛ばし、身を起こした俺から一歩
懐から光が漏れ出し、輝くカードが一枚飛び出した。カードは俺を縛る呪いとロープ
俺の懐だけだった。
ヴォカントモールテンが叫ぶが、誰も応える者はいない。唯一反応を示したものは、
!!
70
輝きを失った。
光が収まった先にはカードではなく、一人の男が立っていた。
││その男は、光が差し込まない夜の森でもわかる白髪と白い外套を身に付けてい
た。
││その男は、日本の武士が着ていたような腰の鎧を身に付けていた。
││その男は、見たものを引き付けるような白黒の双剣を両手に持っていた。
﹂
!!
そして男は外套を外し、双剣を弓を引き絞るようにして構えた。
﹁さて、何者かと問われれば答えに迷うが。一応答えておこうか﹂
﹁もう一度聞く。お前は何者だ﹂
いぶるようにして答えた。
ヴォカントモールテンが再び叫ぶ。目の前に立つ男は皮肉気な笑みを浮かべ、もった
﹁貴様、何者だ
Two century passed IFルートその①
71
も呼ばれている﹂
﹁私は通りすがりの魔術師。世界によっては〟錬鉄の英雄〟とも、〟正義の体現者〟と
72
賢者の石
近所からどう見られるかを考えると、育てるという選択しかなかった。
しく玄関におかれていたのだった。無論無視し、施設に預けることもできたがその場合
これが11年前に崩れ去ってしまった。ポッター夫妻は死に、その娘が押し付けよろ
そういった一方的な拒絶の意識を持っており、関わろうとしなかった。
な自分たちがマトモでなくなる﹂
﹁ポッター夫妻と親戚であると知られてはどうなるかわかったものではない。マトモ
口に出すことはない。それは彼らのなかで暗黙の了解となっていた。
しかし、彼らにも秘密はあった。一家のなかではポッター夫妻に関することは決して
めないことでとおっている。そして一家は自分たちは﹁マトモ﹂であると豪語していた。
プリペット通りに住むダーズリー一家は、世に言う摩訶不思議な事象は断固として認
Side others
0, プロローグ
0, プロローグ
73
Side Marinna
11年前、私の両親は死んだらしい。死因を引き取りさきの叔父叔母に聞いたが、は
ぐらかされてばかりだった。覚えているのは緑色の閃光と女性の悲鳴、そして高笑い。
なぜそれしか覚えていないのか、なぜ思い出せないのか。考えてもわからない。微睡
﹂
みに身を任せながら考えていると、物置を叩く音がした。
﹁いつまで寝てるんだい。さっさと起きな
今日はダドリーの大切な誕生日なんだからね
元気にしてるかな。
君。確かフィッグさんの家に居候してたはず。
そういえばあの変わった東洋のきれいな白髪︵はくはつ︶の男の子。シロウ・エミヤ
開けである。
たたないと、この11年で学んだ。ならばあとは行動するのみ。長く、憂鬱な1日の幕
わかったものではない。 基本的に、叔父叔母の言うことを聞いていれば余計な波風は
我が従兄弟のダドリーの誕生日か。正直面倒臭い。でも起きなくてはなにされるか
!
!
74
Side が・・・
肉体が6歳なっているだなんて誰も思わないだろう
なんでさ
!
この世界に来て5年。飛ばされるとき、何かしら修正が来るとは覚悟してはいたんだ
???
窓磨きをしてほしいんだよ。あともしかしたらこのあとマリナが来るかも ?
入学許可証らしい。さて、いよいよ行動するときがくる、
そしてもうすぐ、手紙が彼女と俺に届くはずだ。ホグワーツとやらの魔法魔術学校の
正直他にどうしようもなかったのでその話を条件付きで受けることにした。
この世界の仕組みを教えられ、あまつさえもう一人の予言の子を守って欲しいときた。
という。少々、いやかなり胡散臭い出で立ちだったため警戒していたが、予言の中身と
何もない空間が虹色に輝きながら裂け、そこから俺が出てくるのが見え、やって来た
しい。
られた。何でもこの世界の魔法使いらしく、予言で東洋の少年が来ると言われていたら
まあ嘆いても仕方がなかったからいろいろ模索していると、一人の老人から声をかけ
幸い魔術回路はそのまま、礼装もサイズ違いがバックに入れられてはいたが。
!
﹁シロウや、ちょいと手伝ってくれないかい
0, プロローグ
75
76
しれないから、クッキーを一緒に焼いてくれないかい﹂
おっとつい回想に夢中になってしまった。
さて、家主のフィッグさんも呼んでいることだし、いくとしよう。しかし窓磨きか。
ふむ、俺を手こずらせたくばこの三倍の汚れを持ってこい
!
がすべて開通することになる。
未来の自分との刹那の対面と対話を経て、記憶の一部を読み取ってしまい、魔術回路
り着く。
しかし聖杯の泥に触れてしまい、一時﹃﹄に繋がり、果ては守護者エミヤの座にたど
第4次聖杯戦争の終わり、本来ならば記憶を失って切嗣に救助される。
本作品の彼は少々特殊。
◎ 衛宮士郎 以後表記と呼称はシロウ
設定 小噺 ★
設定 小噺 ★
77
78
原作同様切嗣の養子になるが、自らが体験したことを切嗣に話し、己が魔術を鍛えあ
げる毎日となる。
五年たったとき、最後の機会として切嗣に連れられ、アインツベルンに特攻する。ア
ハト翁に何度も改心を促し、休みなく一週間かけてようやく説得に成功。︵因みにこの
時切嗣もイリヤと和解。三日後に安堵した顔で永眠。︶第5次聖杯戦争をもって聖杯を
解体、浄化する方針を立てる。
三家のうち遠坂はこれを了承、間桐は拒絶し独断専行を行う。
聖杯戦争で邪杯にされそうになる桜を士郎と凛で救出、言峰の協力のもと蔵硯を本体
もろとも消滅に成功する。
一段落ついた矢先に、アーチャーが強制契約解除。自分殺しをして自らの存在を消す
ために、衛宮士郎と殺し合いを繰り広げる。
しかしUBWルート同様、衛宮士郎の姿に原初の自分の願い、第4次聖杯戦争の地獄
で切嗣に救われる前の願い、切嗣との誓いを思い出し、敗北を認める。
その後、一旦衛宮邸に戻ることになったが、天の杯のための衣を取りに行くため、イ
リヤはアハト翁と共に郊外のアインツベルンの城に向かうことになった。
また、桜救出においてライダーとも和解、協力関係となる。
しかし翌日、郊外のアインツベルンの城にて、もう出現しないはずの影が現れる。拠
設定 小噺 ★
79
点を構えていたイリヤを逃がすために、バーサーカーが囮となり、汚染される。急報を
聞き、駆けつけたシロウ一行は汚染されたバーサーカーと遭遇。アーチャーの活躍によ
り命のストックを半分まで削り、その技量をコピーして体に覚えさせたシロウとセイ
バーによって残りのストックを終わらせる。
バーサーカーを倒し、イリヤを任された直後にイレギュラーの8体目のサーヴァント
たる英雄王が顕現し、急襲。マスターであった言峰と共にイリヤを拐い、十年前の地獄
を再現しようと企て、大聖杯のある柳洞寺の地下空洞へと向かった。
追いかけたシロウ一行は、アンリ・マユを誕生させる際に言峰と英雄王をアーチャー、
セイバー、凛、桜、ライダーと協力し、これを討ち取る。
なお、その他のサーヴァントは泥に飲まれて既に消滅。
誕生したアンリ・マユを、害をなす前にイリヤとアハト翁の協力のもと、皆で消滅さ
せる。
この時に、その成果が﹁世界﹂に認められ、凛、桜、士郎は死後に正規英霊として座
に招かれることが確定。アーチャーは衛宮士郎が死ぬまで、代わりとして正規英霊エミ
ヤシロウとなり、その後、1人格として融合することが決まった。
エミヤシロウは、自分殺しこそ果たせなかったが、結果的に守護者の無限殺戮地獄か
ら解放されたことにより、衛宮士郎と和解。他の英霊と共に座に還った。
80
アインツベルンは士郎らの語り部として、後世に語り継ぐ使命を新たに背負うことと
なる。
その後凛と桜、イリヤと共に、時計塔、万華鏡、血と契約の姫君、殺人貴、人形師と
巡り合い、戦場を転々とした果てに、最終的に封印指定となる。万華鏡の卒業試験とい
う名目のもと、凛の初平行世界運営として、この世界に渡ってきた。因みに封印指定を
受けたとき士郎は怒ることなく、変わりに怒り狂う万華鏡と妻達、黒のお姫様を宥める
のに必死だったとか。
らっかひんぷん
元 の 世 界 で は 衛 宮 士 郎 は 錬 鉄 の︵ま た は 剣 製 の︶英 雄、凛 は 万 華 鏡 の 女 傑、桜 は
落花繽紛の聖母として語り継がれている。彼が世界を渡る直前に無銘の剣を投影して
凛に渡したが、凛のネックレスの宝石を鍔に嵌め、桜のリボンを柄に巻き、イリヤの髪
で作った組ひもを柄頭に結びつけて、現在は柳洞寺に納められている。
なお、性格は元祖万華鏡や黒のお姫様たちのせいで、少々愉快なことになっている。
具体的には、他人をからかうのが好きだとか。
原作と違い、自身を省く思考はそれほど持っておらず、自分を守れない人間が大切な
人たちを、他の人たちを守ることはできないと考えている。
イリヤとの間には長男の衛宮剣吾。その妹シルフェリア・フォン・アインツベルンを。
凛との間に娘の華憐︵オルテンシアとは無関係︶。桜との間に娘の紅葉をそれぞれにも
設定 小噺 ★
81
うけてる。
外見はUBWラストの髪を下ろしたアーチャーと同じ。世界を渡って肉体が6歳に
なっても、髪の色は白、肌は麻黒いまま。
セイバーにアヴァロンは返却しようとしたが断られ、そのまま聖杯戦争が終了。体に
埋め込まれたままである。
○ 能力
固有結界:無限の剣製
術者の心象世界を現実に侵食させ、具現化する魔術の大禁呪。
今回はUBW2015の後期エンディングのような世界。
心眼︵真︶:詳しくは自己検索でお願いします。
執事スキル:EX
その他、アーチャーが持つ能力は一通り保有。
82
○ 戦闘スタイル
本作品の衛宮士郎は状況や必要に応じて3つの戦闘スタイルを自在に変更している。
刻印として体に術式を体に刻み込み、瞬時のスタイル変更を可能とした。刻印は背中に
刻まれている。
ガーディアン:
2015UBWの回想に出てくる、守護者エミヤのようなスタイル。主に潜伏、狙撃、
軽い戦闘を行う際の服装。ただし、外套には令呪の模様付き、黒の布地。
起動詠唱は﹁刻印接続・起動、形態変化・守護者﹂
アーチャー:
その名前の通り、サーヴァントアーチャーとしての赤原礼装と戦闘スタイル。
起動詠唱は﹁刻印接続・起動、形態変化・弓兵﹂
設定 小噺 ★
83
ゼロオーバー:
いわゆるGOリミテッド/ゼロオーバーのスタイル。これは英雄王で言う、慢心の欠
片もない一生涯に一度あるかないかの本気モード。士郎自身はどのスタイルでも本気
オ ー ル・ス タ ン デ ィ ン グ バ イ
ア
ウェ
イ
ク
ン
リミット/ゼロオーバー
だが、自らの理想を捨て置いてでも成し遂げたいモノ、護りたいモノがあるときのスタ
イル。
起動詠唱は﹁全刻印接続・起動、最終戦闘形態・臨界/零点突破﹂
基本的にガーディアンスタイルで行動。三大魔法学校対抗試合︵以後表記はT.
W.T︶、ハリポタ七巻の最終決戦はアーチャーかリミテッドゼロを使用させる予定。
本来型月では、人々の信仰により魂が精霊の域にまで祀りあげられ、英霊となるとさ
れている。世界との契約や信仰の力が弱いと、抑止の守護者となるとされている。
本作品ではそれに加えて、生きている間に人類、または世界に害なす事象を未然に防
ぐ、もしくは最小限の被害に押さえつつ、確実に元凶を消滅させるなどをすると、
﹁世界﹂
に認められることになり、英霊となることができるようになる。しかし、そういったこ
84
とはとても零に近い確率でしか発生しないため、本作品の衛宮士郎と凛、桜はある意味
異常ととれる。イリヤは一応資格はあったがそれを望まず、アハト翁はいろいろやらか
していたため、そもそも資格はなかった。
○ 各キャラクターへの印象
マリー:
娘みたいな感覚。紅葉に雰囲気がにている。
ダドリー:
ワガママ坊主。親の教育が悪い家庭の極端例。何度か説教をしたことにより、少し対
人関係かマトモになったことを安堵中。けど太りすぎ。ダイエットしろ。
愉快な仲間たち:
虎の威を借る狐ども。とるに足らない。
バーノン:
ダドリーの親。子がかわいいのは同じ子持ちとしてわからなくはないが、甘やかし過
ぎ。マリーをいじめるな。太りすぎ。ダイエットしろ。
ペチュニア:
設定 小噺 ★
85
素直に慣れないマリーの叔母。影でいろいろ世話を焼くならもっとオープンにすれ
ば楽になるだろうに。
ロン:
優しい家族に囲まれる気の許せる同級生。弟みたいな感覚。きれいな赤毛が少し羨
ましい。
ウィーズリー一家:
暖かい家族の見本。きれいな赤毛が羨ましい。いろいろな面で腐れ縁になると予想。
ハーマイオニー:
聡明な子。雰囲気が凛や華憐に似ている。アクマにはならないだろうと安心してい
る。
◎ マリナ・ポッター 以後表記はマリー
86
原 作 ハ リ ー の 立 場 に い る 少 女。ダ ー ズ リ ー 一 家 か ら の 扱 い は 基 本 的 に は 原 作 通 り。
性格は少し純粋過ぎる面有り。
外見はfateエクストラのザビ子が一番近い。目は親譲りの緑色。髪の色は真っ
黒。髪型はザビ子のように毛先にウェーブはかかっておらず、ストレートかポニテであ
る。原作ハリーが額に傷痕を残しているのに対し、マリーは左側鎖骨の少し上辺りに稲
妻形の傷痕がある。
原作のハリー・ポッターほど精神が幼くはない。目下最大の夢は当たり前の幸せな家
庭を持つこと。当たり前=幸福という考え方をしている。自分が幸せになるという夢
は、士郎が気まぐれで聞かせた自身の過去︵無論、人物の名前はぼかしている。︶を聞い
た際に決めたもの。
好きな食べ物は、シロウがたまに作ってくれるお弁当。
○ 各キャラクターへの印象
設定 小噺 ★
87
シロウ:
ア
ヴァ
ロ
ン
気 に な る 幼 馴 染 み。お 兄 ち ゃ ん み た い。シ ロ ウ の 膝 枕 は 全て遠き理想郷。恋 愛 感 情
なし
けてもらいたい。
伯 父。お デ ブ。親 豚。い つ も 理 不 尽 な 理 由 で い じ め て く る。一 度 シ ロ ウ の 説 教 を 受
バーノン:
でも最近態度が変わってきたから考え直し中。
愚従兄弟。おデブちゃん。豚みたい。いつもいじめてきて、いつか仕返しする予定。
ダドリー:
嫌い。最初にあんなこと言わなければ仲良くしようかと思ったのに。
マルフォイ:
もののため、気にせず。
仲の良い同性の友達。ロンへの視線に違和感。否定的なものでなく、むしろ好意的な
ハーマイオニー:
魔法世界の最初の友達。気を許せる同級生。恋愛感情なし。
ロン:
?
88
ペチュニア:
叔母。いじめては来ないが、態度が冷たい。けどダドリーのお古をできるだけ綺麗に
したあと身繕いったり、ダドリーを甘やかしつつ、自分にも少し情をかけているのを感
じて混乱。漏れ鍋に行く前に、自分を大切に思ってくれていたことを知り、好印象に変
化。 ◎ ダーズリー一家
基本的に原作通り。ただし、ペチュニアは原作に比べて柔らかめ。姉に対する自分の
拒絶は、羨望の裏返しと自覚している。マリナにやっていることは見る人が見れば、た
だのツンデレ。
父、バーノンはでっぷりとして豚のよう。ひげを生やしていて息子love。マリナ
は自分のマトモさを崩す元凶として嫌ってる。
息子ダドリーはバーノンを小さくしてひげを生やしていない感じ。要するにチビ豚。
マリナは格好のいじめ対象だったが、最近は思い直し中。シロウは恐ろしい紅いの魔
設定 小噺 ★
89
王。
母ペチュニアは骸骨と思えるほどガリガリ。この人ちゃんと食事とってるのか
ダ
もうひとつの予言で詠われた平行世界の少年。自分程度ではわからないほどの力を
ダンブルドア:
議な東洋の少年。
自分たちの髪を誉めてくれたいい子。にじみ出る穏やかさと優しさが印象的な不思
ウィーズリー一家:
同級生とは思えないほどの落ち着きを持っている。気の許せる親友。
ロン:
◎ 他の人たちからのシロウの印象
かったため、どう対応すればいいかわからない。
ドリーはかわいい息子。マリナは大切な姉の忘れ形見だが、最期まで姉と仲直り出来な
?
持ちつつ、それを制御できる計り知れない存在。信頼できる人物。
マグゴナガル:
今まで出会ったことない存在。ゴーストたちが頭を下げいたことから、彼がただ者で
:
はないと推測。
⋮⋮⋮⋮︵ ゜д゜︶ハッ
﹂
ニー。スパナの似合う白髪の少年。ホワイトヘアーの家政f
へ し 折 っ た。気 が つ い た ら い つ の ま に か 教 室 や 学 校 を 掃 除 し て い る。東 洋 の ブ ラ ウ
愉快な仲間たちを唯一止められる存在。家事全般が得意で、何度も教師の心を無意識に
壊れたものをすぐに修理してまた使えるようにしてくれる、頼れる生徒。ダドリーと
ホグワーツに行く前まで通っていた学校の生徒と先生たち:
りなくなる。初めて心の底から恐怖した存在。
決して敵対してはならない存在。刃向かったが最後、命や分霊箱がいくつあっても足
???
﹁バトラーと呼べっ
!
!!
90
設定 小噺 ★
91
小噺 その1
Side マリー
﹁なぁエミヤ、お前ってどこに住んでるの
﹂
い。けど敢えて明かすとすれば、オレは居候の身だよ。﹂
﹁ふむ、こちらもいろいろと事情があってな。おいそれと話すことはできな
今は教室にいない。
が、等の本人はそ知らぬ顔で食事を続けている。因みにダドリーと愉快な仲間たちは
止めて耳をすましている。
この言葉をクラスのある男子が発した途端、教室内は静かになった。皆が皆、作業を
?
どうやらフィッグさんの家に居候しているのは秘密らしい。
何でだろう
?
92
﹂
﹁っと、オレのことより早く食事を済ませたほうがいい。また連中がいろい
ろとやってくるだろう。君たちもいちゃもん付けられたくないだろう
いつもシロウに怒られているのに、何で懲りないんだろう
くる声が聞こえる。
まだいろいろと聞きたいけど今日はここまでみたい。愚従兄弟グループが近づいて
?
だ。
恐らく存分に甘やかされてきたのだろう。でなければここまで酷くはならないはず
らしているマリーとは大違いだ。
全く懲りないものだな、ダドリーたちは。親にどう育てられたんだか。同じ家で暮
Side シロウ
あの体の動かし方、いつか教えてくれないかなぁ。
ていたけど、シロウは軽く避けてた。
結局ダドリーたちは集団でシロウを囲んで、いろいろといちゃもん付けて殴りかかっ
?
設定 小噺 ★
93
ふむ、今日は少しお灸を据えるか。
閑話休題
﹁﹁﹁﹁すみませんでした﹂﹂﹂﹂︵︵︵ ;゜Д゜︶︶︶ガクガクブルブル
悪がきだけでなく、マリーを除いたクラスメ
今は悪がき共は正座をしている。さすがに毎日毎日やられてはこちらも我慢ならん
ものだ。
しかし何故ここまで怯えるのだろうか
イトまでも震えている。オレはただにこやかに説教しただけなのになぁ。紅い魔王
それは遠坂だろう。いや、あれはアカイアクマだった。
さて、教師も来たことだし、あとは、任せるとしよう。
小噺 その2
?
?
94
Side マリー
﹁今日のこの時間は世界の国々について勉強しましょう。﹂
先生が地球儀を持って授業をしているけど、正直一番聞きたいのは日本についてだ。
シロウはそこで生まれたみたいだし、知らないことを知るのはなんか新鮮。
﹂
﹁そ う い え ば エ ミ ヤ 君 は 日 本 人 で し た よ ね。も し よ け れ ば 日 本 に つ い て、
皆に簡単な説明お願いできるかな
先生が珍しくシロウに頼みごとしてる。でもナイスです先生、私も知りたい
ほら、他のクラスメイトも目を輝かせてる。
﹁わかりました。ではお時間拝借します。﹂
!
?
それにお弁
そこからは一コマまるまるシロウの日本解説だった。けど新鮮なモノが多くてもっ
ちょっと待って
と知りたいって思いが出てくる。
あれ
?
確かシロウは私と同い年だよね。何であんなに英語が上手なんだろう
当も美味しいし。
?
?
﹂
﹁エミヤ君、ありがとう。ところでエミヤ君はどうしてそんなに英語が上手なの
もしゃべれる言語はあるの
これまたナイスタイミングです先生、私も知りたかった
他に
?
付きました﹂
﹁ああ、これは今の居候先に住む前に世界中を回っていたので料理と一緒に自然と身に
!
?
あ、先生固まっちゃった。先生料理下手だもんね。それに世界中って、子供が回れる
の
?
せます﹂
トガル、オランダ、ロシア、中国、アラビア、その他主要な言語は日常会話程度なら話
﹁言語については、日本語のほかに英語、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポル
設定 小噺 ★
95
96
あ、クラスメイトも固まっちゃった。
先生はまるで某ボクサーのように、
﹁真っ白に燃え尽きたぜ・・・﹂
状態になっちゃってる
天国のお父さん、お母さん。どうやら私の幼馴染みの男の子はすごい規格外みたいで
す。
明日のジ○ーってなに
?
あれ
?
まだ時間があるらしい。私の荷物を見た叔母さんは何を思ったのか、私に新しい服と靴
約束の週末になり、私たちはロンドンにいた。どうやら待ち合わせをしているけど、
私、叔母さんがダドリーを叱るところを初めて見た気がする。
らく初めて叱られたのだろう、ダドリーは呆然としていた。
案の定ダドリーが自分も行くと駄々をこねたが、叔母さんはそれを許さなかった。恐
そりゃそうだ。今までこんなこと一度もなかったから、私も唖然とした。
には叔父さんも唖然としていた。
何と私2、3日ぶんの服を用意させ、週末にロンドンに行くといってきたのだ。これ
そして今日、更に驚くことがあった。
妙にそわそわして落ち着きがなく、叔父さんもダドリーも怪訝そうな顔をしていた。
この前、ホグワーツってところから手紙が来た途端、叔母さんの様子が変になった。
Side マリー
1. 漏れ鍋、そしてダイアゴン横丁 1. 漏れ鍋、そしてダイアゴン横丁 97
98
を買ってくれた。
やっぱり叔母さん変だ。いつもはこんなことしないのに。今まではダドリーのお古
を繕ったものしか貰えなかったのに。もしかして私は施設に捨てられるのだろうか
グリッドも困惑していた。
叔母さんと話をしていたけど、突然叔母さんがハグリッドに頭を下げた。これにはハ
みたい。
そう考えていると、髭もじゃの大男が近づいてきた。ルビウス・ハグリッドって名前
?
﹁⋮⋮この子をお願いします。姉の忘れ形見を、ホグワーツまで無事に送り届け
てください⋮⋮﹂
⋮⋮聞こえた。
蚊の羽音のように小さな、小さな声だったけど
目からたくさん水が出てきて止まらない。
確かに聞こえた
なんでだろう
この感じ・・・・・・嫌じゃない。
でも不思議。少し軽くなった感じがする。
?
1. 漏れ鍋、そしてダイアゴン横丁 99
叔母さんはまるで逃げるように、足早に立ち去っていった。
Side ハグリッド
驚いた。
あのダドリーっちゅう息子を見る限り、リリーとは大違いのコチコチマグルと思って
いたんだが、まさか頭を下げるとは。
マリーは泣いているし、こりゃさっさと漏れ鍋に行くに限るな。もう一人の男の子も
待たせとるし。
しかしマリーは年相応な感じ、まぁ少し純粋な感じがするが、だがあのシロウっちゅ
う少年。同い年のはずなのに、妙に達観してるっちゅうかなんちゅうか。
まぁダンブルドア先生が信頼なさっとるし、大丈夫だろう。
さぁ、そろそろ行こうか。
100
この俺様が心底恐怖するなど
Side 何だアレは
!
???
何だ
あの白髪の極東の小僧は
あの小娘に呪詛返しされたときは保険があったから、まだ大丈夫だった。だがヤツは
!
!
アレは、あの小僧はまずい
敵対すれば最後、命がいくつあっても足りなくなると
!
アレに関わるとロクなことにならない。最小限に留めるべきだと。
彼奴には言い含めなければ。
だが、アレを見てるとこちらの推測が正しい感覚になってしまう。
い。
いや、それはない。人一人、ましてや子供一人が世界を背負うことができるはずもな
まるで一つの世界を背負っているような、そんな存在だ。
あの白髪の小僧は確実に計り知れない何かをその内に持っている。
!
俺様は今ほとんど魂だけの存在だからわかる。
!?
1. 漏れ鍋、そしてダイアゴン横丁 101
Side シロウ
ふむ。どうもあのターバンの中から邪な気配を感じるな。
だが殺意と同時に恐怖心も感じられる。推測する限り、あの男の体にはあの男自身の
魂と別の魂が宿っているか。
もしや、アレがダンブルドア校長の言っていた例の⋮⋮
何であれ、この場で仕掛けることはないだろうが、警戒するにこしたことはないだろ
ようやくハグリッドがきたか。マリーも一緒にいるな。目元が晴れているが、泣
うな。
む
なかったぞ⋮⋮
うか。遠坂のうっかりは酷かったが、時間に関しては聖杯戦争以来決してうっかりをし
しかしハグリッドよ。時間は守ってくれ。予定より30分遅れるとはどうなんだろ
いたのか。だが少しすっきりとした顔になっている。なら心配することはないか。
?
Side マリー
でもシロウ、ずっとターバンの男の人を見つめてるけどどうしたんだろう
確かにお
漏れ鍋に入ると沢山の人に囲まれた。少し怖かったからハグリッドにしがみついて
シロウがいる
皆の顔を見ると、なかには見覚えのある人が何人かいた。
あ
シロウも魔法使いだったんだ
!
︵マリーは既に自分が魔法使いであるとハグリッドに教えられています︶
!
!
ると突然壁が動きだして目の前が開けた。
⋮⋮すごい⋮⋮
開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろうか
?
!
す
?
見たことのないお店が
何やらぶつぶつと呟きながらレンガの壁を傘で叩いているけど何してるんだろう
ハグリッドに連れられて、私とシロウは漏れ鍋の裏路地に入っていた。ハグリッドが
まぁいっか。
な。
どおどしててちょっと不思議な感じのする人だったけど、気になるほどじゃなかったし
?
102
商店街よろしく、たくさん並んでいて目移りしてしまう。
シロウもビックリしているみたいで目を見開いていた。
とりあえず物色は後回しにしてグリンゴッツ銀行に行くことになった。何でもゴブ
リン達が経営している、世界中に支店のある魔法界唯一の銀行なんだって。もう建物か
らして立派だよ。 ただシロウが隣でずっと、
な
?
あとオレのいた世界ってどういうことだろう
まぁいっか。
?
一般家庭が持ってる資産じゃない気がします。ちょっと私には多いです。
だけど⋮⋮お父さん、お母さん。お二人はどんな仕事なさってたんですか
明らかに
トロッコに乗って、地下深くにある私の金庫に行ってとりあえずお金をひきだしたん
?
ってぶつぶつ呟いていたけど、大丈夫かな 人酔いでもして気持ち悪くなったのか
デサナンデサナンデサナンデサナンデサナンデサナンデサ・・・・・・﹂
かったのに何でこんなにいるんだよなんでさなんでさなんでさなんでさなんでさナン
﹁・・・なんでこんなにも普通に幻想種がいるんだおかしいだろオレがいた世界にはいな
1. 漏れ鍋、そしてダイアゴン横丁 103
?
104
次にハグリッドの用事を終わらせて︵あの小さな包みはなんだったんだろう
に戻ると、士郎はマグルお金をカウンターで両替した。
Side シロウ
うん、ガリオン金貨三枚入れていこう。
かった。
あ、募 金 箱。聖 マ ン ゴ ー ⋮⋮ な ん だ ろ う
︶地上
と り あ え ず 病 院 へ の 寄 付 っ て こ と は わ
お金も持ったから、あとは道具を買いそろえるだけだね。
通じない雰囲気をまとってた。
やっぱりゴブリンたちはお金とかに関してはきっちりしてるんだね。交渉とか一切
?
元の世界では、固有結界からこぼれた投影、強化、解析ぐらいしかまともに魔術を使
だけとなった。ここでオレに一抹の不安がよぎった。
途中取り乱してしまったが、一通りオレとマリーの道具を買い揃えてあとは杖を買う
?
1. 漏れ鍋、そしてダイアゴン横丁 105
うことができなかった。万華鏡でさえ匙を投げそうになるほど、他の分野に適性がな
かった。
もし、この世界でもマトモに魔術を使えなかったらどうしよう。こちらの魔術はおい
それと使うことはできない。間違いなく異端扱いを受けるだろう。そうなれば、受けた
マリー護衛依頼が完遂できなくなる。
そうこう考えているうちに、オリバンダー杖店に着いた。もういいか、鬼が出るか蛇
が出るか。運命に任せよう。
店に入ると老人が、恐らくこの人がオリバンダー老なんだろう、嬉しそうな表情でマ
リーの杖を見繕い始めた。
何本も何本も試した結果、柊に不死鳥の尾羽根の杖に決まったようだ。だが驚いた。
何と例の闇の魔法使いと兄弟杖らしい。兄杖がマリーの両親を殺し、マリーの首に稲
妻形の傷をつけたのか。なんて因果なんだろうな。
それからハグリッドと2、3言交わしたあと、オレの順番になった。
オレを見た瞬間、オリバンダー老は目をこれでもかと見開き、﹁もしかすると、まさ
か・・・・﹂と呟いて奥へと引っ込んだ。しばらくして杖の箱と比べ、大きめの箱を持っ
てきた。何故だか懐かしい感じがする。
開けるとそこにはアゾット剣が納められていた。
﹁これは、凛の⋮⋮﹂
﹁これは私が五年ほど前、杖の材料を探す際にある男から預かっていました。﹂
オリバンダーは続ける。
﹁その男は万華鏡の様に輝く短剣を腰に携えていた。そして私を見つけるやいな
やこちらに近づき、こういった。
私に預けた。
?
まったく、至れり尽くせりだ。
万 華 鏡 の 老 師、は っ ち ゃ け 爺 さ ん と は 思 っ て い た が。ま さ か こ こ ま で す る と は な。
ね、エミヤ様。彼の言っていた少年とは。﹂
それはあなた以外は使えないよう術式が組み込まれていると。あなただったのです
すかな
そういってこの短剣を、少々私が知るものと趣が異なりますが、アゾット剣でよいで
﹃いずれお前の店に、白髪の東洋の少年が訪ねてくる。その時これを渡してくれ﹄と。
106
1. 漏れ鍋、そしてダイアゴン横丁 107
﹁それからこちらの手紙を。彼から預かっていたものです。あなたならその封を
解き、中が読めるようになると。﹂
そういってオリバンダー老はマリーの杖の料金だけ受け取り、店の奥へと引っ込んで
しまった。
幕間 手紙 遥か遠き世界より
┃┃ 士郎。これを読んでるってことは、無事大師父から受け取ったようね。
私なりにあなたを送った世界について調べたけど、私たちの世界とは魔法形態が違う
ことはもう把握してるでしょう。
あなたのことだから自分はここの魔術も使えないのか不安に思ってるでしょうけど、
それは杞憂だから安心して。多少は苦労するでしょうけど、魔力さえあればその世界の
108
魔術は使えるわ。
あと、そちらの世界でも英霊や守護者の概念があることが確認できたわ。けど恐らく
古い文献ぐらいにしかのってないし、その存在を知る人も数える程度しかいないでしょ
う。
もしかしたら運悪くそれを悪用する人が出てくるかもしれない。その場合、あなたが
まず最初に対処を任されると思うわ。そうならないよう祈っとく。
さて、あなたのことだからまた一人で突っ走ろうとするのでしょうね。
でも肝にめいじておきなさい。
あなた一人でできることなんてそう多くない。私や桜、イリヤでも一人でできること
なんて少ないわ。
だからね、士郎。一人でもいい。二人でもいい。あなたが背中を預けることができる
人を、もしくはあなたの安寧となる人を作りなさい。守る人がいるあなたは自分は勿
論、他の誰にも決して負けはしない。
私の第二魔
最後に、その世界で幸せになりなさい。私や桜、イリヤがいるからあなたは変に負い
目を感じてるでしょう。私たち3人をかこってる時点で今更じゃない
切るわよ。
法が完璧になったら娘たちを連れていずれ遊びに行くけど、幸せになってなかったら捻
?
1. 漏れ鍋、そしてダイアゴン横丁 109
じゃあここら辺で。みんな元気にしてるわ。あなたも無茶しないように。
凛 ┃┃
クしてくる
!
っと、ハグリッドが呼んでる。今日はいよいよホグワーツに行く日。とってもワクワ
た。とってもぽかぽかして落ち着いたなぁ。
それに一回だけ添い寝を頼んでOKもらったから一緒に寝たんだけど、安心して寝れ
ウの寝顔を覗いてみたんだけと、うん。ちょっと可愛いと思ったのは内緒。
部屋も子供ってことを配慮したのか、シロウと同室だった。一度少し気になってシロ
について色々と教えてくれた。
それから私たちは漏れ鍋に2泊した。店主のトムさんはとても親切で、私に魔法世界
Side マリー
2. 出会いと列車の旅、組分け
110
2. 出会いと列車の旅、組分け
111
││││││││││││││││││││
入
?
﹁ほれマリー、そしてシロウ。9と3/4番線の切符だ。遅れるんじゃねぇぞ
学初日から遅刻なんて嫌だろう﹂
9と3/4番線
9と3/4番線なん⋮⋮て⋮⋮﹂
そういって私たちに切符を渡してきた。9と3/4番線か。
あれ
﹁ハグリッド、この切符おかしくない
?
﹁そうだね。取り敢えずシロウの言う通り、移動しよっか。ちょうどあそこにそれ
生はいる。時間もある。オレたち側の人達がいるかもしれん﹂
﹁まぁ立っていても仕方がない。取り敢えず動こう。なに、オレたち以外にも新入
なっていた。
顔をあげると、そこにはシロウしかいなかった。いつの間にかハグリッドはいなく
?
?
112
らしき家族がいるみたいだし﹂
私が指差す先に、綺麗な赤毛の家族がカートを押していた。梟も一羽連れている。
﹁毎年毎年ここはマグルが多いわね。いらっしゃい、9と3/4番線はこっちよ﹂
ビンゴ。
﹁どうやら当たりだな。マリーの勘もなかなか侮れん﹂
?
えへへ。シロウに誉められた。
少し観察していよう。どうやってプラットホームに行くんだろう
﹁パーシー先に行って。続いてフレッドとジョージよ﹂
なに
どういうこと
?
最初のお兄さんが柱に向かっていったけど、瞬きした途端姿が消えていた。
え
?
?
2. 出会いと列車の旅、組分け
113
今度はよく見ようと、ふざけていた双子を注視した。
うちのロンもそうなのよ﹂
けどまたいつの間にか消えていた。シロウも驚いている。こうなったらあの女の人
に聞くしかない。
すみませーん。
﹁あら、お嬢ちゃんたちも新入生
そういって女の人は傍らの男の子を示す。
﹂
一人でやらないと。いつ
﹁あ、はい。よろしくお願いします。えっと⋮⋮その⋮⋮﹂
やっぱり緊張する。シロウがこっちを見ているけど、ダメ
までもシロウにおんぶだっこはいけない。
﹁プラットホームへの行き方が知りたいのですけど、どうすればいいのですか
!
言えた。ちゃんと言えた。少し自信が着いた。女の人は優しく微笑むと丁寧に教え
?
?
114
てくれた。この人、いい人だなぁ。
﹁っとこんな感じね。後ろの男の子も大丈夫
﹂
﹁ええ、大丈夫です。ありがとうございます﹂
?
それとも何かの病気
﹂
﹁よかった。ところであなた、顔を見る限り東洋人だと思うんだけれど、その髪の毛
と肌は元々
?
﹁いえ、気にしないでください。私から見れば、皆さんの赤毛は綺麗で少しうらやま
﹁あ、ごめんなさい。軽々と聞いていいことではなかったわ﹂
彼は苦笑しながら言った。
なんともありませんよ﹂
を重ねてしまいまして。結果髪は色が抜け落ち、肌は麻黒い色に変化したんです。体は
﹁いえ、病気ではありません。髪は元々赤銅色で肌は普通だったんですが、少々無茶
シロウの髪と肌か。
?
2. 出会いと列車の旅、組分け
115
しいです﹂
嬉しいわ。あ、そろそろプラットホームにいかないと。手順は
あ、それは私も思った。みんな綺麗な色だよね。
﹂
﹁まぁ、ありがとう
覚えてるわね
!
ると外からガラスを叩かれた。見ると、先ほどの女性がいた。
汽車内は幸いコンパートメントが一つ空いていた。マリーと共に乗り込み、窓辺に座
Side シロウ
いた。
そういって私たちは柱を通り抜けた。抜けた先には、真っ赤な汽車が私たちを待って
﹁﹁はい、大丈夫です。いってきます﹂﹂
?
116
﹁さっきぶりね。私たちの髪を誉めてくれてありがとう、他の子達も聞いて喜んで
いたわ﹂
そういいつつ、オレたちにサンドイッチを差し出した。
﹁フレッドとジョージに渡そうとしたんだけど、断られちゃって。あなたたちは見
る限りお昼持っていないようだし、よかったらどうぞ﹂
せっかくのご厚意だ、いただこう。その時、コンパートメントの扉が開き、先ほどロ
他はどこもいっぱいで﹂
ンと呼ばれていた少年が入ってきた。
﹁ここ入ってもいい
断る理由がない。
﹁あら、ロン。ちょうどよかったわ。はい、これはあなたの﹂
?
2. 出会いと列車の旅、組分け
117
そういってさらにサンドイッチを一つ差し出した。ロンは渋りながらもそれを受け
取った。
すると女性の隣にいた少女、恐らく末っ子だろう、が突然泣き出した。どうやら自分
も行きたいとグズっているらしい。女性もロンもあたふたと動揺している。
⋮⋮はぁ。
﹁ほら、これで顔を拭くといい。泣き顔で見送られても、君のお兄さんたちは困惑す
るだろう﹂
そういって少女の頭に手をおく。少女は、はっとした顔でこちらを見る。
この一年はその準備期間だ。次にお兄さんたちに会うときに、あっと驚
﹁何も今生の別れという訳ではない。それも君を見る限り、来年君もこの列車に乗
るのだろう
できるだけ優しく、諭すように言葉を紡ぐ。そしてマリーがそれに続いた。
かせるようになるためのな﹂
?
118
﹁そうそう。それに笑顔で見送られるほうが、私たちも嬉しいんだよ。その笑顔が
私たちを元気付けてくれるんだ。一年を何事もなく過ごして、また帰ってくるために。
次もまた、帰ってくるために﹂
少女は俯いていたが、目を擦ると今日見た中で一番の笑顔を見せてくれた。女性も同
様に優しく微笑んでいた。
ついに汽車は動きだし、ホグワーツへ出発した。
Side シロウ
取り敢えず自己紹介と相成った。
﹁僕、ロン・ウィーズリー。ロンって呼んで﹂
﹁私はマリー。マリナ・ポッター﹂
マリーの紹介を聞いた途端、ロンが驚愕していた。そりゃそうだろうな。世間ではマ
2. 出会いと列車の旅、組分け
119
何故オレを見ている
リーは﹁生き残った女の子﹂だからな。
む
?
﹁私はシロウの髪は好きだよ
綺麗な白色をしてて﹂
れる。ロンは良い母親を持ったな。
ドイッチを三人で食べた。ふむ。冷えてパサついてはいるが、子を思う母の情が感じら
時間も時間だったから昼食を食べることになり、ウィーズリー夫人からもらったサン
うつるものさ﹂
﹁それはマリー。君が昔から見てきたからだろう。初めて見る人にとっては奇妙に
?
まぁ全て話しているわけではないが、嘘ではない。
﹁ああ、君のお母さんには話したが、色々と無茶をしてな。こうなったのだ﹂
﹁じゃあシロウって呼ぶね。シロウは東洋出身だったんだ﹂
﹁オレは衛宮士郎。姓がエミヤ、名がシロウだ。呼びやすいほうでよんでいい﹂
⋮⋮ああそうか。
?
120
﹁これ美味しいね、シロウ。ロン。私これ好き
筆談となった。
﹃マリーっていつもこんな感じなの
﹄
﹂
メントに入ってきたときに既にマリーはオレの隣に席を移動している︶、自然と会話は
しばらくしてマリーがオレの膝を枕にして寝息をたて始めたので︵ロンがコンパート
めか、若干顔を赤らめていた。
るものがあったのだろう。ロンはその言葉に驚いていたが、母親の料理を誉められたた
元々感受性が人より高いマリーのことだ。恐らくサンドイッチになにかしら感じ入
!
す感じがするんだけど﹄
﹃シロウと話してて思ったんだけど、本当にシロウって同い年 まるで年上と話
てこういう言動をしているのだろう﹄
﹃純粋なんだろうな。少し愛情に飢えているきらいがあるが、それが無意識に働い
﹃なんだか無邪気というか、無垢というか。素直な子だね﹄
﹃ああ、昔から。といってもオレがこの子と関わり始めたのは4年ほど前なんだが﹄
?
?
2. 出会いと列車の旅、組分け
121
﹃さ て、も し か し た ら 年 上 か も し れ ん し、生 意 気 な 小 僧 な だ け か も し れ ん ぞ
⋮⋮⋮⋮掃除が大変そうだ。
はや城ではないか。
いや、元の世界の時計塔も大概だとは思っていたんだが、それを超えるぞアレは。も
な。
らく船に揺られていると、ついに学校が見えてきた。見えてきたんだが⋮⋮⋮⋮デカイ
因みにオレ以外のメンバーはマリー、ロン、そしてディーンという少年だった。しば
込んで目的地へ向かうことになった。
やがてホグワーツ駅に着くとオレたち新入生はハグリッドに連れられ、ボートに乗り
カボチャケーキを作ってみるか。
てくれた。あまり菓子類は食べない方だが、この世界の菓子類はなかなか面白い。今度
途中車内販売が来たが、販売員の女性もマリーを一目みて状況を察し、筆談で応対し
﹃ふーん。そうなんだ﹄
よ﹄ まぁ、世界中を転々としていたからな。それ相応に心が早く育ってしまったのだろう
?
122
Side マリー
建物に入ると、厳格そうな女の人が待っていた。マグゴナガルって名前の先生らし
い。この人が副校長なんだ。いかにも先生って感じだな。
そしていかにも魔女ですって格好をしている、トンガリ帽子とか長いエメラルド色の
ローブとか。先生は準備があるらしく、少し連絡をしたあと、広間にいっちゃった。
すると一人のブロンドの生徒が声を発した。
﹁マリナ・ポッターがいるって話は本当だったんだな﹂
ブロンドの子がそう言うと、みんながざわつき始めた。
なんか嫌だな、この感じ。
2. 出会いと列車の旅、組分け
123
私別に有名になりたくてなった訳じゃないのに。
ブロンドの子が続ける。
﹁僕はマルフォイ。ドラコ・マルフォイ。良かったら僕が君にいい友達の作り方を
教えてあげるよ﹂
私の気も知らないでペラペラしゃべってる。この偉そうなしゃべり方からして相当
自分の家柄や自分に自信があるみたいだけど。
﹁少なくとも、そこの赤毛でのっぽでみすぼらしい⋮⋮ペラペラ﹂
あ、流石にカチンときた。会って間もない人に上から目線でしゃべられた挙げ句、私
の友達をばかにするなんて。いい加減うっとうしくなってきた。どうやって黙らせよ
うか。
そう考えていると、突然大きな音がした。
そちらを見ると、シロウが壁を拳、裏拳って言うのかな 、で叩いていた。いや、本
人は叩いているつもりらしい。
パラパラと落ちてるんだもん。
だって叩いたところを中心に壁が陥没してヒビが蜘蛛の巣のように広がって欠片が
?
本人は何事もなかったように手をヒラヒラさせて埃を払ってる。そしてニヒルな笑
みを浮かべて、
うん
﹂
﹁いや、失礼。小五月蝿い羽虫がいたものでね。潰そうとしたんだがついつい力を
入れすぎてしまったようだ。いやはやこの壁、存外脆いと思わないかね
と言った。
私
てる。
も漏らしそうなほど怖がってガタガタ震えてちゃってるし。ロンでさえ怖がっちゃっ
ほら、みんなが怯えちゃったじゃん。ブロンドの子、マルフォイだっけ、なんて今に
でもね、シロウ。普通は子供は勿論、大人でも無傷で壁を割ることはできないよ
?
?
?
のようなニヒルなものじゃないし。
怒られたダドリー曰く、
﹂
ダドリー関係で慣れてるから大丈夫。シロウが説教をするときに浮かべる笑顔は今
?
﹁魔王が見えた。あの笑顔の後ろに恐ろしい紅い魔王が見えた
!
124
2. 出会いと列車の旅、組分け
125
ってレベルらしい。そのとき珍しく私に助けを求めてきてたなぁ。自業自得だから
無視したけど。
大きな音⋮⋮が⋮⋮﹂
とそこへマグゴナガル先生が戻ってきた。
﹁何事ですか
ていまいまして。後で修復しておきます。自分が蒔いた種ですし﹂
あ、自分で修理するんだね。
そういえば前の学校でもストーブとか空調とか時計とかを直していたっけ
?
きたよ。
ああ、ここでもシロウがブラウニーって呼ばれる日が来るの、そう遠くない気がして
せいで学校の教師を含めたみんなから東洋のブラウニーって呼ばれてた。
その
﹁いえ、五月蝿い羽虫がいたもので潰そうとしたのですが。ついつい力を入れすぎ
ほら先生も固まっちゃった。
?
まあ色々とあったけど、ようやく大広間に私たちは入った。天井を見上げると、満天
が広がっていた。
﹁マリナ・ポッター
﹂
!
スリザリン、ロンはグリフィンドールという具合に次々と決まっていった。
博識の女の子、ハーマイオニーって名前らしい、はグリフィンドール。マルフォイは
そして組分けが始まった。
ださい。では始めます﹂
ます。帽子が寮の名前を発表するので、言われた新入生は指定された寮の席に座ってく
﹁これから名前を呼ばれた人から順に前の椅子に座り、この組分け帽子を被ってもらい
なるほど、そうだったんだ。綺麗な天井だなぁ。
﹁魔法でそう見せているのよ。﹃ホグワーツの歴史﹄って本に書いてあったわ﹂
126
2. 出会いと列車の旅、組分け
127
あ、私の番だ。大広間がざわついている。やっぱりこの感じは好きになれないな。む
しろ嫌だな。
帽子を被ると、頭に声が聞こえた。
[ほうほう、なかなか面白い子だ。内に大きな力を秘めている。が、同時に揺るがな
特別な力は要らないかなぁ。だって当たり前が一番幸せなことじゃん。
い心も持ち合わせているな。さて、どうしようか]
大きな力
[いやにあっさりとしているな]
そうだね。
く、君一人を残してしまうことになってしまった]
なことに巻き込まれることになる。お前さんのご両親も同じだ。彼らの意思と関係な
[殊勝な心掛けだな。だが力を持つということは、本人の意思と関係なく、さまざま
私はそれでいいと思う。
?
128
]
確かに悲しいよ
?
寂しいよ 胸をかきむしって
?
?
帽子さんはわかるでしょう
大声で泣き叫びたいよ
でもね
[ん
?
]
?
その過程でどんなに辛いことがあっても、絶対に意味があるから。自分が歩いてきた
うん。たとえ力がなくても大丈夫。私は私の信じた道を歩いて幸せになる。
ではないと言うのだね
[⋮⋮親は敵討ちよりも幸せを願うと。力だけが全てでないと、君自身を形作るの
の話してくれたお話を思い返すと自然とそう思えてくるんだ。
この11年間、いろんなことがあったけど、シロウを見てたり、昔読んだ本やシロウ
なって。
遺して逝く人たちが一番願っているのはね、遺してしまう人の幸福なんじゃないか
?
?
道は決して間違いじゃないって信じれるから。
君の寮は⋮⋮]
!
[⋮⋮わかった。よろしい
﹂
!!!
目をしていた。
﹁シロウ・エミヤ
!!!
周りを見渡すと驚いたことに、たくさんのゴーストたちが静まり返ってシロウを凝視
だろうか。
シロウの名前が呼ばれた途端、大広間が静かになった。たぶん初めての東洋人だから
﹂
みを浮かべていた。コウモリのような真っ黒の服を着た人も、無表情だったけど優しい
先生たちの机を見ると、ダンブルドア校長がとても温かい、見る人を安心させる微笑
てくれた。
言われた寮の席に向かうと、ロンをはじめとしてたくさんの人が拍手と一緒に出迎え
﹁グリフィンドール
2. 出会いと列車の旅、組分け
129
130
していた。
その目から尊敬というか、恐れというか⋮⋮いろんな感情がないまぜになっているの
がわかった。どうしたんだろう
Side シロウ
何か不都合でもあったか
?
名前を呼ばれたので椅子に座り、帽子を被る。すると頭の中に直接声が響いてきた。
?
[さて、君の寮⋮⋮は⋮⋮⋮⋮]
どうした
?
む
?
2. 出会いと列車の旅、組分け
131
まさか。
]
[これは、そんな⋮⋮君は⋮⋮いや貴方はまさか⋮⋮⋮⋮]
ッ
[貴方はまさか、抑止の守護者なんですか
[しかし、それではこれほどの⋮⋮⋮⋮ッ
まさか
]
!?
今は並行世界の別私が、世界と契約して守護者となった私が座で代理人を務めてい
いても座に招かれることが決まっている。
元いた世界でやったことが偶然﹁世界﹂に偉業とされ、死後に英霊としてどの世界に
察しの通りだ。私はそもそもこの世界の人間ではない。
!?
さて帽子の質問だが、答えは当たりであり、外れでもある。
流石に気付くか。
て み れ ば 亡 霊。魂 の 残 り 香 み た い な も の が 未 練 な ど に よ っ て 具 現 化 し た よ う な も の。
そういうことか。それなら幽霊たちがあのような目をするのも頷ける。あれはいっ
?
!!
る。
[⋮⋮なんとおそれ多い⋮⋮]
]
後がつかえている。今は寮の選考を優先してくれ。
[この事は校長に報告しても
[⋮⋮ わ か り ま し た。で は 貴 方 の 寮 を 伝 え ま す。と い っ て も 最 初 か ら 決 ま っ て ま し
も交えて話す。あの男は一見怪しい雰囲気を纏っているが、信用できる。
後日互いの時間が重なるときに校長と副校長。そうだな、あのコウモリのような教師
ああ、頼む。そちらの方が話が早くすむ。
?
﹂
た。貴方の信じるもの、信じたもの、その生き様。文句なしの⋮⋮⋮⋮]
﹁グリフィンドール
!!!
132
2. 出会いと列車の旅、組分け
133
Side マグゴナガル
私は今日という日を生涯忘れないでしょう。
彼の組分けのとき、この城にいる全てのゴーストたちが、大なり小なり畏怖と敬意を
込めた目を彼に、シロウ・エミヤに向けていた。そして寮が発表された途端一斉に整列
し、頭を垂れていた。
驚くなんてものではない。
今でこそ日本はよくお辞儀をすると伝わってはいますが、それでも私たちには浸透し
ていない。
ましてや古き時代を生きたゴーストたちは、そのほとんどが頭を垂れることが特別な
意味を持つ時代の人たちだ。
これには生徒たちは勿論、教師たちも呆然としていた。彼が歩く様は、彼が生きてき
た道を表すかのようなものでした。
﹂
﹂
幕間 ゴーストたちの会話 ︵食事のあと、皆が寝静まった時間︶
﹁見ましたか
﹁しかと見た。まさか⋮⋮﹂
﹁ええ、見ました。男爵殿は
?
﹁彼が噂の⋮⋮﹂
﹁﹁﹁﹁彼の者のような存在を拝謁することになろうとは。﹂﹂﹂﹂
﹁ええ﹂
?
134
2. 出会いと列車の旅、組分け
135
﹁間違いないでしょう﹂
﹁その行いが﹃世界﹄に偉業として認められ﹂
﹁座と呼ばれる次元に招かれし存在﹂
﹁英霊と呼ばれる者たちの一人﹂
﹁または世界と契約して守護者となったか﹂
﹁いずれにせよ、彼は既に至っている﹂
﹁我輩たちがが頭を下げたとき、嫌そうな顔をしていたが⋮⋮﹂
﹂
﹁きっと彼は見返りがほしくて、英雄になろうとして至ったのではないのでしょう﹂
﹁いつでも世のため、人のために動いていたのだろう﹂
﹁そして彼はそれを誇ることはない﹂
﹁ところでヘレナ殿。先ほどから黙っているが、どうした
﹂﹂﹂
﹁⋮⋮⋮⋮荒野を﹂
﹁﹁﹁荒野
?
﹁空には無数の歯車が浮かんでいた。荒れ果て、命の息吹きが何一つ感じられな
﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮﹂﹂﹂
われた、黄昏時の世界に﹂
﹁あの少年を見たとき、一瞬。ほんの一瞬だけ、私は荒野にいました。分厚い雲に覆
?
136
い荒野には、数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの無限の剣が乱立していた。火の粉の舞うそ
の世界の中心に⋮⋮彼に似た青年が⋮⋮⋮⋮無数の剣に貫かれたまま大地に立ち、前を
﹂﹂﹂
見据えて⋮⋮⋮⋮﹂
﹁﹁﹁ッ
﹁ええ、そうですね﹂
﹁⋮⋮せめてこの城にいる時だけでも、心を休ませていて欲しいものだな﹂
いのを、必死に耐えているような。そんな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮わかりません。ただものすごく、その背中が悲しかった。まるで泣き叫びた
﹁⋮⋮いったい彼は何を見てきたのだろうか﹂
!!
しばらくすると少し荒い息をしながら、シロウは壁から手を離した。
ど、今のシロウは結構きつそうな顔をしている。
いることが、普通ではないことがわかる。みんな当たり前のように魔法を使っているけ
ていた。魔法世界に関わってからそんなに時間は経ってないけど、いまシロウがやって
たからよくみると、淡い緑色の線がシロウの手を中心にして、電気回路のように広がっ
そう小さな声で呟き、壁に手を当てて目を閉じた。シロウの手先から何か流れを感じ
﹁ふむ、時間がないな。⋮⋮解析・開始﹂
ト レ ー ス・ オ ン
る。誰か先輩を探すかどうか考えていたら隣にいたシロウが、
ナガル先生。初日から遅れたとなれば、ものすごく怒られることなんて目に見えてい
だけど⋮⋮。道に迷った。初日から遅刻。加えて授業を担当するのが寮監督のマグゴ
次の日から授業だったから朝食をとったあとに、シロウと変身術の教室に向かったん
Side マリー
3. 授業初日
3. 授業初日
137
138
﹁はぁ、はぁ⋮⋮フゥ、大体わかった。しかし少し遠いな⋮⋮﹂
シロウ曰く、ここから何フロアか上の少し遠いところに目的の教室があるみたい。普
通に歩けば、確実に遅刻コースまっしぐらだそう。やっちゃったなぁ。初日から遅刻と
か運が無さすぎるよ。はぁ、この先私は無事学校生活送れるのだろうか。なんて一人嘆
いているとシロウがこちらに近づきつつ、
﹁なに、普通に行けばだ。普通にな﹂
しかもこれってお姫様抱っこってのじゃ⋮⋮
と言いながら私を横抱きに⋮⋮⋮って、ええええ 何で私シロウに抱っこされてる
の
え
ふわわわわわあああああああ
!?!?
!?
﹁口を閉じてろ。舌を噛むぞ。怖かったら目を瞑っていい﹂
!?
Side ロン
る男子生徒が早朝に確認されたという。
その日、叫ぶ女子生徒とそれを横抱きにして、廊下と吹き抜けの壁を高速で走り抜け
?
3. 授業初日
139
﹂
いま僕は変身術の教室にいるんだけど、シロウとマリーがまだ来ていないことに気付
いた。もう少しで授業が始まるのに大丈夫かなぁ。
﹁ねぇシェーマス。マリーもシロウも朝食の席にいたよね
?
﹂
﹁確かにいた。マリーは僕の隣にいたし、確かディーンの隣にシロウがいたでしょ
﹂
﹁うん、いた。道に迷ったのかな
あれ
﹂
﹂
﹁何か聞こえなかった、ディーン
﹁えっなにが
﹁僕は何も、ネビルは
﹁僕はかすかに叫んでる声が﹂
?
?
﹂
?
?
┃┃┃┃┃┃┃┃┃ ∼∼∼∼∼∼∼⋮⋮⋮⋮┃┃┃┃┃┃┃┃
﹁シロウはともかく、マリーはありそう﹂
?
?
﹂
┃┃┃┃┃┃┃┃ ぁぁぁぁぁぁぁ⋮⋮⋮⋮┃┃┃┃┃┃┃┃┃
﹁あ、聞こえた﹂
﹁今のマリーの声じゃない
﹁あと何かを蹴る音が﹂
?
ところで二人ほど足りない気が⋮⋮﹂
とそこへマグゴナガル先生がこちらに近づいてきた。
﹁何を話しているんですか
!?!?
?
ふわわわわわあああああああ
ズザザザッ
!!
ガッ
﹁⋮⋮あふぅ∼⋮⋮﹂
!!
に合ったみたいだしな。む
みんなどうした そんな狐に摘ままれたような顔を
﹁それについてはすまない。時間が惜しかったものでな。次からはそうしよう。幸い間
﹁シ⋮⋮シロウ⋮⋮今度やるときは先に言って⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ふぅ、ギリギリ間に合ったか。マリー、着いたぞ﹂
140
?
?
3. 授業初日
141
して﹂
残る二人の同級生は片方が抱き抱えられ、もう片方が恐ろしい速さで駆け込むという
形で登場した。そしてシロウは、僕たちが呆然としている理由が心底わからない、とい
う顔をしていた。
拝啓隠れ穴にいるお父さま、お母さま、妹のジニー。僕の友達はとんでもない身体能
力の持ち主みたいです。
気をとりなおして、先生は授業を始めた。
﹁変身術は魔法の中でも屈指の複雑さと危険を併せ持つ分野です。不真面目な態度で
受ける人は、容赦なくこの教室から出ていってもらいます。﹂
そう前置きして先生は机を豚に変え、また元に戻した。それを見た僕を含めたみんな
は早く試してみたくてウズウズしていたけど、あの前置きをするだけあって、さんざん
複雑なノートをとったあとに、マッチ棒を針に変える練習をした。みんな全然できな
かったけど、ハーマイオニーだけいいとこまでいっていた。マグゴナガル先生は、彼女
のマッチ棒がいかに光沢を放ち、尖っているかを誉め、グリフィンドールに五点加点し
た。
142
とここでまたしてもシロウがやらかした。
まずシロウが取り出した杖は、僕らのような木製ではなく、金属製の短剣状のもの
柄に宝石。短剣状の杖。確か昔呼んだ本に同じ感じの物が出てきたような気
だった。そこから既にみんなの目を引いていた。
あれ
がする。何だっけ
?
のは、ハーマイオニーがまるで親の敵でも見るような目でシロウを見ていたことだっ
元に戻せない。先生はこの事について触れないようにし、授業を再開した。気になった
度マッチ棒をシロウに渡してやらせると、今度は小さな矢に変化した。しかもこれまた
した。針じゃなく、ナイフに。そして先生が戻そうとしても戻らない。仕方なくもう一
ここまでは良かった。けど次の瞬間、マッチ棒は細身の投げナイフのようなものに変化
マグゴナガル先生がシロウに変化させてみるよう言うと、シロウは実践して見せた。
シロウはアゾット剣を使うのかぁ。今じゃあ珍しいどころか相当レアな人だろうな。
た。魔 法 族 な ら 一 度 は 聞 い た こ と の あ る 魔 法 道 具 だ よ。で も 実 物 を 見 る の は 初 め て。
そう言ってシロウは杖を優しい目で見ていた。そうだ、アゾット剣っていうんだっ
﹁ええ、知り合いがオリバンダー老に預けていたみたいで﹂
た﹂
﹁それはアゾット剣ですね、ミスター・エミヤ 過去の錬金術師たちが使用してい
?
?
3. 授業初日
143
た。
Side マリー 次にあった魔法薬の授業は地下牢であったけど、スリザリンと合同授業だった。別に
スリザリンは嫌いではないんだけど、ほとんどの人が自分の家を鼻にかけているみたい
で、偉そうに振る舞っていた。マルフォイが、組分けの前にあったことを所々自分に都
合の良いように寮監に言ったらしく、その寮監のスネイプ先生が授業の担当だったの
で、シロウはいろいろ言われていた。が、これを論破。ついでにマルフォイに説教をし
ていた。マルフォイの様子を見る限り、怖がっていても刃向かっていただけまだダド
リー達のほうがマシな気がした。
その時のやり取りがこんな感じ。
﹁そういえば組分けが行われる前とはいえ、東洋からのお客様が生徒を脅したとき
144
く﹂
﹂
﹁それには少々誤りがあります。故に訂正させていただく﹂
﹁ほう
?
日本にはこのような言葉がある。﹃いつまでも、
?
﹂
を放棄するな﹂
一人で何とかするしかなかった。他人のことを頼るなとは言わない。だが、考えること
一度や二度では収まらん。オレの例は極端なものだが、回りに味方がいない状況では、
オレは五年前まで世界を転々としていた。その過程でテロや犯罪に巻き込まれたのも、
﹁今の話はこいつだけに限ったことではない。皆にも、無論オレにも言えることだ。
そして今度は部屋全体を見渡し、
目を見るぞ
あると思うな、親と金﹄。今のうちに自分で考え、行動するよう心がけねば、いずれ痛い
は親が全て何とかしてくれたのか
﹁お前は自分でどうにかしようと考えはしないのか それとも今まで自分の失態
そう言ってシロウは今度はマルフォイに目を向け、
に⋮⋮﹂
る。だが、私は脅した訳ではありません。加えて勝手に怯えたのはそこの彼です。それ
﹁私 は た だ 壁 を 叩 い た だ け。力 加 減 を 誤 っ て 壁 を 破 壊 し か け た こ と は 反 省 し て い
?
?
3. 授業初日
145
うん、色々と聞きたいことは多々あるけど正論だったね。スネイプ先生も何か思うこ
とがあったのか、あのあと何も言わずに授業を始めたし。マルフォイはとても憎々しげ
にシロウを見つめてた。
結構いい先生だと
けど魔法薬の授業、なかなか面白かった。今度スネイプ先生のところに行って色々と
教えてもらおう。
でも何でスリザリン以外の生徒はスネイプ先生を嫌うんだろう
思うのになぁ。
?
普通先生の言う通りにできなかったら減点ないし注意されるは
﹁理解した。つまり君はオレの扱いがおかしいと、そういうのだな
?
﹂
最初から何も変わらないのならともかく、先生が言ったことと違うこと
﹁ええ、そうよ
ずでしょう
!
やったのならなおさら
!
?
弾するのは間違いだ。
今の言い方はない。自分ができたのはいいけど、だからといってできなかった人を凶
﹂
と先生の対応が納得いかないらしい。シロウはどう対処すればいいか考えてるみたい。
先程からハーマイオニーがシロウに突っかかってる。何でもシロウの変身術の結果
どうせならとみんなで向かうことになったけど。
お昼からは飛行訓練の授業が外であるみたい。またスリザリンとの合同授業らしい。
Side マリー
4. 飛行訓練と真夜中の決闘
146
﹂
﹁⋮⋮はぁ﹂
﹁なに
﹁ッ
なにを⋮⋮﹂
そう多くないのだ﹂
もない。いかに優秀な教師から教えを受けようと、それを即座に理解実践できる人間は
﹁いや、何もそこまで完璧に拘らなくてもよかろう。オレたちはまだ魔法に関わって間
?
優しく諭すように言葉を繋げる。
﹁それは⋮⋮﹂
と、行動に矛盾が生じるのは致し方のないこと。聡明な君ならわかるだろう﹂
﹁まだ齢11なんだぞ、オレたちは。四半世紀も生きていない若造だ。不完全であるこ
!!
﹁⋮⋮ッ
あなたに私の何がわかるというの
﹂
!?
﹂
?
ハーマイオニーは反論しようとしてたけど、結局何も言わずに足早に外に向かって
!!
性が存在する。今から片意地を張っても疲れるだけ。いずれ潰れてしまうぞ
﹁不完全で何がいけないのだ。矛盾だらけで何がいけないのだ。その数だけ夢が、可能
4. 飛行訓練と真夜中の決闘
147
行った。シロウはその後ろ姿を悲しそうに見つめてる。でも、
﹁大丈夫だよ。たぶんハーマイオニーも頭ではわかってる。昔何があったか知らな
いけど﹂
そう、私はそう思う。するとシロウは自嘲するような笑みを浮かべて、
でしょう 他人を頼ることは悪いことではないって。頼り過ぎるのはダメなんだっ
﹁一人で何でもかんでも背負い込む必要はないんだよ、シロウ。シロウも言ってた
には自然と口が動いていた。
と呟いた。悲しい。シロウにそんな悲しい顔を浮かべてほしくない。そう思った時
﹁⋮⋮ままならんものだな﹂
148
シロウは目を見開いていたけど、次の瞬間には優しい目をして私の頭に手を乗っけ
て。ここにはロンも、先生たちも、私もいる。シロウは一人じゃないんだから﹂
?
4. 飛行訓練と真夜中の決闘
149
た。
﹁全く、自分が言ったことを忘れるとはな。ありがとう、マリー﹂
そう言って今度は私の頭を撫で始めた。少しでもシロウの気持ちが軽くなったのな
ら嬉しいな。
あっシロウの撫で撫で、結構気持ちいい。
Side シロウ
全 く、ど う し て オ レ の 回 り に は こ の よ う な 強 い 女 性 が 多 い の だ ろ う な。一 度 ア ー
チャーと話し合いしたいものだ。
まぁいい。取り敢えず今は授業に向かうか。
元の世界ではとある宝具を使わねば空を飛べなかった。しかもそれらは剣の類いで
150
はなかったから魔力消費が激しく、あまり多用できなかった。だから今回の飛行訓練は
なかなかに興味引かれる。
指定された場所に行くと、鷹のような目をした教師、マダム・フーチが箒を並べて待っ
うんともすんとも言わない。
ていた。先生は我々に箒の横に立ち、上がれと念じるよう指示した。ふむ、やってみよ
う。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮あれ
か。
?
﹁ミスター・エミヤ。何をしているのですか
﹂
て拒絶された。そして気付けば作業が終わってないのはオレだけだった。仕方がない
⋮⋮なんでさ。いやいやおかしいだろう。もう一度触れようとしたら、火花を散らし
拒絶された。大事なことだから二度言った。
そう思い、箒に触れようとしたら、火花を散らして拒絶された。箒に火花を散らして
がない。少し調べてみるか。
丈夫と思うが、ネビルでさえ箒は反応をしている。だがオレのはまるで屍のように反応
同じ一年のなかではあまりできない方と言われている、オレは単純に度胸がつけば大
ちょっと待ておかしい。
?
まさか﹂
﹁いや、どうやら箒に拒絶されているみたいで﹂
﹁箒が拒絶
こった。なんでさ。
﹁仕方がありません。ミスター・エミヤは見学という形でよろしいですね
﹁ええ、わかりました﹂
?
少なくとも盾やサンダルに比べたら確実に。
そのまま空高くへ⋮⋮ってまずい
振り落とされた
仕方がない。
あいつ箒を御しきれていない。あのままでは振り落とされかねん。と思った矢先に
!!
かっのだろう。ネビルが焦ってフライングしてしまった。
さて、マダム・フーチの笛の合図で地を蹴るよう指示されたが、置いていかれたくな
見るものだろう
やはり箒で空を飛ぶということには少なからず憧れがあった。誰も子供の頃には夢
少々、いやかなり残念だ。
﹂
そう言ってフーチ先生の前で実際に見せ、他の箒に取り替えたが案の定同じことが起
?
?
!
4. 飛行訓練と真夜中の決闘
151
152
オレは懐に入れていた変身術の失敗であるナイフを握ると、ネビルの服目掛けて投擲
した。
ナイフが服のみを貫通し、スピードが落ちたところを魔術で強化した跳躍でネビルの
そばまでいき、抱き抱えたのちに地面に着地した。ネビルを確認したが、どうやら気絶
してしまったようだ。
﹁フーチ先生。ネビルを医務室に連れて行きたいのですが﹂
﹁私もついていきましょう。皆さんはそのままで。ちょっとでも空を飛んだらホグ
ワーツから出ていってもらいます﹂
そう言ってオレとともに医務室へ向かった。
ところ変わって医務室
﹂
﹁幸い気絶しているだけで外傷の類いはありません。一体どうやって助かったので
すか
?
医務室担当のマダム・ポンフリーが聞いてきたので、魔術のことはぼかしつつ正直に
答えた。
いやフーチ先生がそばで睨み付けていたからではないぞ
﹁一体何をやっているのですか
﹂
人の先輩を見つけた。何やら話しているが、マリーの顔が優れない。
事情聴取を受けたのちに大広間へ向かっていると、マリーとマグゴナガル、そして一
?
と言った。⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮は
!
﹁クィディッチってなんですか
まさか変なグループなんじゃ﹂
なるかもしれないと思っただけで決して邪な気は⋮⋮﹂
﹁君がもしかしたらグリフィンドールのクィディッチチームのとんでもない逸材に
﹁誤解です、ミスター・エミヤ、ミス・ポッター
私達はただ⋮⋮﹂
﹁先生たちがさっきから私の体をなめ回すように見てくる。はっきり言って怖い﹂
そう言いつつ近づくと、マリーがすごい速さでオレの後ろに回り込んだ。そして、
?
?
?
4. 飛行訓練と真夜中の決闘
153
154
﹁﹁違う︵違います︶
﹂﹂
そうこう言い合っているとマルフォイに絡まれた。
い。
規則ばかり重んじていたらどうしても貫きたいこともできなくなるし、何より息苦し
たけど、正直よくわからない。
途中ハーマイオニーが悪いことをして褒美をもらった気でいるのかと説教をしてき
チームにスカウトされるってのは余程のことらしい。
何 で も ク ィ デ ィ ッ チ は 魔 法 界 で 屈 指 の 人 気 を 誇 る ス ポ ー ツ ら し い。一 年 で 学 校 の
ネビルの思い出し玉騒動の顛末をロンとシロウに話すと、ロンはとても驚いていた。
Side マリー
どうでもいいが、オレを挟んで言い合いしないでくれ。
!!
﹁この学校での最後の食事かい、ポッター
﹂
﹁⋮⋮む。違うよマルフォイ。あのあと罰則受けると思ったら違ったし﹂
?
﹂
!
Side シロウ
うな。まぁ一応行ってみよう。
時間と場所は真夜中のトロフィールームだけど⋮⋮たぶんマルフォイは来ないだろ
くことにした。
私は乗り気じゃなかったけど、ロンを放っておいたら暴走しそうだったので着いてい
た。
ロンがマルフォイに、私がクィディッチの選手になったと言うと、決闘を申し込まれ
カウトされたんだぞ。やーい
﹁そうだぞマルフォイ。マリーはあのあとグリフィンドールのクィディッチチームにス
4. 飛行訓練と真夜中の決闘
155
156
時刻は真夜中。案の定ロンとマリー、そしてそれを止めようとしたハーマイオニーが
寮を抜け出した。
ある程度予想はできる。奴は来ないだろうな。そういう人間だ。自らの指定した場
所に来るだけ、まだ間桐兄のほうがマシだろうな。
⋮⋮⋮⋮しかしいやに帰ってくるのが遅い。
帰ってきたか。どうやらネビルがいっしょらしい。
あれから一時間は経過したが、全く帰ってくる気配がしない。まさか事故にでもあっ
⋮⋮む
﹁全くもう
﹁誰
あの人たちは本当に﹂
ってシロウ
あなた何してるの
﹂
?
﹁そう、ならあなたからもあの人たちに言ってくれないかしら あの人たちのや
﹁いや、同輩が夜に部屋を抜け出したのだ。気になってここで待っていたのだよ﹂
?
﹁ようやく帰ってきたか。ずいぶんと遅かったな﹂
!
ハーマイオニーに背を向ける形で椅子に座った。
たが。身勝手だな。どれ、少し話をするか。
ハーマイオニーがマリーたちに付き合っているとこちらの身が持たないといってい
?
!?
?
ることなすこと⋮⋮﹂
どうして
﹂
﹁すまんがそれはできない﹂
﹁ッ
!
は思うぞ﹂
そう言いつつ、ハーマイオニーに近づく。
﹁正義感が強いのは構わない。けどそれだと息がつまらんのか
﹁あなたには関係ないわ﹂
﹁ああ、関係ないな。だが見ていて心配なのだ﹂
オレは言葉を続ける。ハーマイオニーは顔を俯かせている。
?
にも見えなくはない﹂
そうやっていつも上から物を言って、まるで私達を子
﹁少々見ていて危なっかしい。それにお前自身が回りに対して壁を作っているよう
﹂
﹁一緒に抜け出している時点で君も同罪だ。あの二人を悪く言う権利はないとオレ
!!
﹁⋮⋮あなた本当になんなの
?
4. 飛行訓練と真夜中の決闘
157
﹂
供のように。現に私達は子供だけど、あなたも同じ年のはずでしよう
何がしたいの
!?
あなた本当に
?
﹂
!
!
﹂
﹁⋮⋮あなたがそうやって他人と関わろうとするのはなんで
授業のときに言った、世界中を回った経験
?
﹁⋮⋮そう﹂
﹁馬鹿げたものだろう
それもこの間魔法薬の
自分でも甘いと思ってる。だがずっとそうしてたのでな。お
﹁いや、オレ自身のエゴだ。みんなに笑っていて欲しいというな﹂
?
?
いをさせてしまったようだ。すまない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮すまなかった。どうやらオレも周りが見えてなかったらしい。君に不快な思
たのだな。
オレは相手がどんな思いを持っているかを考えず、他人に自分の思いを押し付けてい
ハーマイオニーが憤ってオレに言った。そしてその言葉を聞いてようやく気付いた。
の何がわかるというの
﹁何も知らないくせに知ったような口をきかないで 今朝もいったけど、あなたに私
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
158
いそれとすぐには変えられんのだ﹂
﹁⋮⋮あなたが何を思って私たちに関わろうとするかは大体わかったわ。だから少しだ
け、あなたの言うように周りを見てみる﹂
﹁わかった﹂
﹂
そして二人ともそれぞれの寝室に向かう。っとその前にだ。
﹂
﹁すまないハーマイオニー。最後に一ついいだろうか
﹁なに
?
﹁あの子と、マリーと仲良くしてやってはくれないか ここに来る前に在籍していた
?
らくして、
ハーマイオニーは何も言わない。だが真剣に考えている顔をしていた。そしてしば
許せる人を求めている﹂
学校では、少し事情があってあまり仲のいい友人がいなかった。あの子も無意識に気の
?
﹁⋮⋮ええ、いいわ。私もあの子と仲良くしたいと思っていたし﹂
4. 飛行訓練と真夜中の決闘
159
と言ってくれた。そして更にこうも言った。
﹂
本人が見ていないところで、色々とやるようなタイプの。周りの世話
?
ばかりして自分のことを疎かにしちゃダメよ
?
じゃあおやすみなさい。また明日﹂
!
説教してくれる
フフフフフフフハハハハハハハハハハハハハ
︵黒笑︶
!
!
さて、マリーの説教は後日にしょう。次はロニー坊やの番だ。たぁっっっっっぷりと
のだ。
い意味で強い女性がオレの周りに多い。願わくば、互いにこのままいい関係でいたいも
全く、ハーマイオニーはどことなく凛や娘の華憐に似ている節があるな。本当に、い
﹁ああ、おやすみ﹂
﹁よろしい
﹁⋮⋮⋮⋮ククク、そうだな。ああ、肝にめいじよう﹂
?
な人でしょう
﹁それはあなたもよ 今改めてシロウと話していて思ったけど、あなた結構世話好き
160
4. 飛行訓練と真夜中の決闘
161
説教を
!
今回の真夜中寮の抜け出しの元凶よ
!
嘘・即・捻切る、だ
!
さぁ、ロナルド・ウィーズリーよ
受ける覚悟は十分か
!
5. ハロウィーンの夜に
Side マリー
﹂
次の日の朝、ロンに挨拶したらすごく丁寧に返された。具体的には、
﹁おはよう、ロン。よく寝れた
何があったの
⋮⋮な⋮⋮⋮⋮え
まさかね
?
結局ロンはそれから一週間、悟りを開いたような雰囲気だった。あとその間に、少し
?
聞 こ え て き た な ぁ。ま る で ダ ド リ ー が シ ロ ウ に 悪 さ を し て 説 教 を 受 け た と き の よ う
!!
?
そう言えば昨晩、寝る前に男子部屋から﹁殴ッ血KILL
﹂って声と誰かの悲鳴が
って感じ。そしてロンはまるで菩薩のように柔らかい笑みと雰囲気を纏っていた。
ることができました﹂
﹁おはようございます、マリーさん。今日も天気がよろしいですね。ええ、ぐっすりと眠
?
162
5. ハロウィーンの夜に
163
だけハーマイオニーと仲良くなれた。そしてシロウともハーマイオニーは仲良くして
た。
何があったかは知らないけど、やっぱりみんな仲良しでいる方が楽しいよね。
僕はロンだぞ、間違えるな
一月ほど何事もなく、ハロウィーンを迎えた。先輩たちの話では晩御飯がすごいらし
い。楽しみだなあ。
Side ロニー坊や
誰がロニー坊やだ
!
おい
!
オニーがいた。どうも好きになれないんだよなぁ、この子。
妖精魔法の授業だったんたけど、レイブンクローとの合同だった。でも隣にハーマイ
しなかった。
まぁそれはさておき。午前中は普通に授業を受けたけど、午後の授業があまり気乗り
!
164
っと、先生が教壇に立った。それにしてもフィリットウィック先生は小さいなあ。何
でも妖精族の一人って話らしいけど。
今日は浮遊呪文を練習しますよ 皆さんの前に羽が一
?
﹁こんにちは、皆さん
の動きはビューン・ヒョイッ
﹂
いいですかヒョイッ
ですからね
!
いいですかヒョイッ
ですからね
昔
?
﹁ウィンガーディアム・レビオサー﹂
﹂
﹁呪文は﹃ウィンガーディアム・レビオーサ﹄です。では皆さん、やってみましょう
!
とやった生徒がいて教室にバッファローを呼びだ
ですよ
ヒョイッ ではなくショイッ
してしまいましたからね
?
そんな生徒がいたんだ。そして先生、声が高いね。
!
!
枚ずつ配られているでしょう。それを今日は魔法で浮遊させてみようと思います。杖
!
?
!
みんなが練習を始めた。よし僕も、
!
?
5. ハロウィーンの夜に
165
でも動かない。
やけになって杖を振るけど何も起こらない。とハーマイオニーが、
﹁﹃ウィンガーディアム・レビオーサ﹄﹂
そして成功させた。あの得意気な顔、とても腹が立つ。
﹃レビ
?
あなたのは﹃レビオサー﹄﹂
﹂
﹁ちょっと待って、ストップストップ あなた呪文間違えてるわ。いい
オーサ﹄よ
﹁そんなに言うのなら自分がやってみろよ。ほらどうぞ
と言ってきた。カチンときた。何だよ偉そうに。
!
そういうとハーマイオニー一つ咳払いをし、呪文を唱えた。
?
?
166
﹂
!
射出されて羽を弾き飛ばし、机に刺さった。
うん、刺さった。見事に矢の様にに刺さった。スタンッ
!?
机に刺さった
!
こ な い だ の 変 身 術 と い い、ど う し て そ う な る の お か し い で
スッゴい攻撃的に魔法がかかってるじゃん
!?
!
怖 い よ な に
しょう
!
!
い。
本人に聞いてみたところ、変化させようとも射出しようとも思っていなかったらし
!
って音をたててキレイに
そして今まさに呪文の失敗で爆発しようとしていたシェーマスの羽に向かって射出、
で矢のように狙いを定めた。
けど羽は高速で空中にあがって鋭利な形状になり、妙な金属光沢を放ちながら、まる
いいんだ。
呪文を完璧に唱え、杖も、いや短剣も正しく振るった。ここまではいい。ここまでは
とここでもまたまたシロウがやってくれた。
何だか面白くない。急激にやる気がなくなった。
皆さん見てください、グレンジャーさんがやりました
﹁オオー、よく出来ました
!
グレンジャーさん、お見事です
グリフィンドールに十点
!
!
フィリットウィック先生も驚きすぎて何も言えないみたいだった。
けなのにこんな攻撃的になるなんて﹂
﹁⋮⋮⋮⋮なあハーマイオニー、マリー。オレ泣いていいかな。普通に羽を浮かべるだ
﹁だ、大丈夫よシロウ。少し失敗しただけだって︵汗︶﹂
﹂
﹁そ、そうだよシロウ。魔法が使えただけでもラッキーじゃない。私なんてそもそも羽
も動いてないんだよ
﹁オレ、いつか誰かを怪我させそうで怖い⋮⋮﹂
?
Side シロウ
うん、同情するよシロウ。
﹁﹁⋮⋮⋮⋮﹂﹂
5. ハロウィーンの夜に
167
168
﹁﹃いい、レビオーサよ。あなたのはレビオサー﹄偉そうに、だからあいつ友達がいな
いんだよ﹂
授業が終わって寮に荷物を置きにいく途中、ロンがそういっていた。
だがあいつはその後ろに当の本人が、ハーマイオニーが後ろにいることに気付いてい
ない。マリーがロンを諌めようとしたが遅かった。
ハーマイオニーは泣きながら足早に去っていった。流石にロンも気付き、ばつが悪く
なったらしい。
微妙な空気のまま、大広間に向かうことになった。
しかし先程から胸騒ぎがする。今夜なにか起きる、そんな予感がする。一応もしもの
ために布石を打っておこう。なにかあってからでは遅い。
﹂
オレは寮から持ってきた自分の魔力を込めた宝石を一つ取り出し、マリーに差し出し
た。
﹂
﹁マリー、少しいいか
﹁なに、シロウ
?
﹁いや、なに。少し胸騒ぎがしてな。君にこれを﹂
?
5. ハロウィーンの夜に
169
﹁これ、飴玉
じゃあないよね。﹂
う、うん。⋮⋮⋮⋮コクン。これ何なの
﹁ほ、宝石
﹂
﹁オレの魔力を込めた宝石だ﹂
﹁え
﹂
﹁いや、違う。とりあえず、噛まずに飲み込んでくれ﹂
?
?
﹁え
ん∼と⋮⋮あ、なんかシロウと繋がってる﹂
﹁問題ない。すでに体に取り込まれているはずだ。なにか流れを感じるか
!?
?
どこでもできる﹂
﹁要するに、ホグワーツ内で私とシロウがテレパシーできるってこと
﹁そういう認識でいい﹂
┃┃ こんな感じでな ┃┃ おお、すごい ﹁なにかあったときはこれで伝えてくれ﹂
﹁うん、わかった﹂
﹂
﹂
﹁簡易的に君とオレとの間にパスを繋いだ。念話であれば、この城程度の広さなら
?
?
?
170
﹁では大広間に行こう。ああ心配しなくても、心のうちまではわからないから安心
しろ﹂
﹁はーい﹂
そうして食事と相成ったが、やはりハーマイオニーはいなかった。
人 外 の 気 配 だ
何でもトイレにこもって泣いているらしい。ロンはさらに気分悪そうな顔をしてい
る。
﹂
ま ぁ そ う だ ろ う な。自 分 の 言 葉 で 人 を 傷 つ け た と な れ ⋮⋮⋮⋮ む
とッ
﹁トロールがぁぁぁあ
!?
そう言ってクィレルは地に倒れ、気絶した。
﹁トロールが⋮⋮校舎内に⋮⋮お伝えしなければと⋮⋮⋮⋮﹂
そう叫び、クィレルが大広間にに駆け込んできた。途端、広間の中は静寂に包まれた。
!!
!?
瞬間、大広間は混乱と悲鳴で満たされた。皆が逃げ惑い、収拾がつかなくなっている。
いつもは動じないマリーも、流石におろおろしていた。
仕方がない。
変身術で作ったナイフを使うか。確認したが爆散させることが可能みたいで、破片も
残らずに魔力に還るらしい。オレはナイフを天井に投げる。
ブロークン・ファンタズム
そして、
﹃壊 れ た 幻 想﹄
ナイフを爆発させるのと、ダンブルドア校長が杖で爆竹を鳴らすのは同時だった。広
間の中は一斉に静まる。
へ﹂
﹁生徒は速やかに寮に戻りなさい。監督生は下級生の引率を、先生方はワシと共に4階
5. ハロウィーンの夜に
171
どうやら教師陣は侵入禁止の4階の部屋に行くそう。オレはダンブルドアとアイコ
さぁこちらへ
僕は監督生だ
みんな集まればトロールなど恐るるにあ
ンタクトを図った。彼はこちらに気付き、小さく頷いた。
パーシーが、
らず
﹂
!
!
﹁みんなこっちに集まって 焦らないで
!
かねんぞ
┃┃ マリー、聞こえるか
┃┃ なに、シロウ
?
しといて⋮⋮ ┃┃ すまないが、オレは一人で動く。監督生のパーシー・ウィーズリーにはごまか
?
まぁいい。それよりも今は、
?
ても余計な犠牲が増えるだけだろう。それにその発言は下手したら余計な慢心を生み
下級生を安心させようとしているのはわかるが、戦闘経験の無いものがいくら集まっ
と言っていた。
!
!
172
5. ハロウィーンの夜に
173
私達も今別の場所にいる
!
!
嫌な匂いがしたらすぐに隠れることが
ハーマイオニーに知らせてあわよくば一緒に寮に行
どこにいる
┃┃ 待って、シロウ
┃┃ なんだと
ロンも一緒にいるよ
┃┃ 3階の女子トイレに
いいな
┃┃ わかった すぐにそちらに行く
こうと
!
!
あっ、ちょっ、シロ⋮⋮
できる場所に身を隠せ
┃┃ え
!
どこに行く
戻ってこい
シロウ
!
﹂
!!
﹁シロウ
!
オレはマリーとのパスを便りに、女子トイレ向かった。
パーシーが叫んでいるが無視だ。それどころではない。
!
ん。だが、一介の生徒が対処できるような類いの相手ではないことは自ずとわかる。
通信を一方的に切り、オレは走ります。トロールがどれ程の大きさと強さかは知ら
!?
!
!
!
!?
!
!
廊下を全力で駆け抜ける。T字路が見えてきたときに、嫌なドブの匂いと大きな影が
見えてきた。あそこか
フェ イ ル ノー ト
キ ー ス タ ン ド・コ ン プ リ ー ト
ス タ ー ト ア ッ プ・ガ ー デ ィ ア ン
白髪は自然とかきあげられ、オールバックとなる。左手に持つは英雄トリスタンの
﹃│││刻印接続・起動、│││形態変化・守護者。﹄
まっていた。周りに人はいない。ならば、手加減の必要はない。
よし、まだ女子トイレには行っていなかった。俺たちは互いににらみ合いながら止
トロールが棍棒を引きずりつつ、こちらを睨み付けていた。
T字路に差し掛かり、左を見ると、いた。灰色の肌をした、身長五メートルほどの
!
﹃│││投影・開始﹄
ト レ ー ス・ オ ン
りによく動くが、無駄に図体がでかいから狙いやすい。
トロールは雄叫びをあげ、棍棒を振りかざしながらこちらに突進してくる。巨体のわ
それが合図となった。
ブーツ。ガーディアン・スタイル、起動完了。
﹃無駄なしの弓﹄、そ の 贋 作。慣 れ 親 し ん だ 袖 無 し の 革 鎧 に 黒 の 外 套。黒 の レ ギ ン ス に
174
頭に描くは十二の剣の設計図。一片のムラもなく、完璧に描く。
│││ 剣を弓につがえる。相手の間合いまで残り3秒 │││
│││ 剣を捻り、細く長く作り替える。残り2秒 │││
と飛び、外れる
│││ 敵︹的︺を見据え、弓を打ち起こし、引き分ける。残り1秒 │││
トロールの間合いに入ると同時に弦を放れる。十二の剣弾は疾ッ
ことなく全てトロールに突き刺さった。
両太もも、両脛、両肩、両腕、腹、水月、喉、額。
﹁全十二射皆中。目標殲滅完了﹂
!
全てを射抜かれ、息絶えたトロールはドウッ と音をたてて後ろに倒れる。これで問
題ないだろう。あとはマリーのところn、
┃┃ シロウ
!!
┃┃ マリーか、どうした
?
5. ハロウィーンの夜に
175
!
176
まさかもう一匹いたのか
┃┃トロールが女子トイレに
何だと
!?
耐えていてくれ
!!
!
いつトロールが一体だけど言われた
急いで
┃┃ すぐに着く
┃┃ お願い
間抜けかオレは
!!
!!
スネイプ、クィレルを見かけたが無視だ
◆
構っている余裕は無い
!!
全身を強化し、全速力で女子トイレに向かう。途中で同じ方向にいくマグゴナガル、
!?
!
!
!?
!
﹁今のは、ミスター・エミヤ
﹁ええ﹂
﹂
﹁と、とと、とにかく。いい急ぎましょう、二人共
﹂
きに壁を蹴って移動するようなことができる人は、彼以外この学校にはいません﹂
﹁いえ、今のような動きが。廊下を全速力で走りつつ、角を曲がったり他人を追い越すと
﹁まさか、それはあり得ん。生徒たちは今は寮に﹂
?
!
な顔をしていた。
し、マリーがトロールに捕まれた状態で宙吊りになり、ロンが杖を構えていたが絶望的
女子トイレの入り口の大扉を蹴り飛ばすように開けると、ハーマイオニーは腰を抜か
◆
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
5. ハロウィーンの夜に
177
178
マリー、動くなよ
﹂
どうやら浮遊術で棍棒を奪ったはいいが、トロールが取り返してしまったようだ。な
らば、
﹁ロン、どけ
!
ト レ ー ス・ オ ン
﹁マリー、ロン
動けるならハーマイオニーを連れて脱出しろ
﹂
!
巨大な剣を数本投影し、剣の壁を作ってトロールの足止めをする。
﹃│││投影・開始﹄
を掴む腕を切り裂く。トロールは苦悶の声をあげ、マリーは無事脱出した。
弓を破棄して両の手に干将・莫耶を投影し、トロールの棍棒を切り払いつつ、マリー
!
るのだ。ただデカイだけの剣を使った壁だから、この足止めもあまり持たないのに。
マリーは頷き、ハーマイオニーのもとに向かうがロンは突っ立ってる。何をやってい
!
﹁ロン、急げ
﹂
死ぬつもりか
﹁君はどうするんだ
﹂
﹂
!!
さっさといかんか
さっさと逃げろ
君を置いては行けない
﹂
!!
!!
﹁お前たちが逃げたらオレも隙をみてあとを追う
!!
!
!
!
かならない
﹁シロウ
﹂
﹁出口が・・・
﹂
﹁どうした、マリー
!!
﹂
仕方あるまい。
!
に渡した。
﹃カラド・ボルグ﹄の一突きを防いだと言われる黄金の盾﹃オハン﹄を投影し、マリー
しい。クソッ
どうやらトロールが剣の壁を壊そうとする余波で、出口が瓦礫に塞がれてしまったら
!
!
!!
仲間意識が強いことと他人の心配をするのは立派なことだ。だが今、それは邪魔にし
チィッ
!
!
﹁ダメだ
5. ハロウィーンの夜に
179
180
﹁そいつの陰に隠れてろ。他の二人もだ
﹂
マリーの筋力を度外視していた。まさかここで﹁うっかり﹂をやらかすとは
しまった
マリーは心得たとばかりに盾を構えるが、彼女は盾を重そうに抱えていた。
!
ト レ ー ス・ オ ン
バ レッ ト ク リ ア
頭に描くは剣の設計図。その数、二十七。
ロー ル ア ウ ト
﹃│││工程完了、│││全投影、待機
!
オレを中心にプラズマが走り、頭上の空中に二十七の剣が投影される。
﹄
﹃│││投影・開始。 │││憑依経験。│││共感終了。﹄
よし、これでいい。ならば今のうちに。
抱えてマリーのもとへ行き、マリーに代わって盾を構えた。
トロールが剣の壁を壊していく。時間がない。だが、そこでロンがハーマイオニーを
!
!
5. ハロウィーンの夜に
181
ロンとハーマイオニーはその光景に唖然としていた。
出口では先程の三人の教師たちが瓦礫をどけ、中に入ろうとしている。
フリーズアウト
トロールを遮る剣の壁もあまり持ちそうにない。
﹃│││停止解凍﹄
ついにトロールは最後の邪魔な剣を払い、こちらに向かって突進してくる。同時に出
﹂﹂
口の瓦礫も払い除けられ、教師たちが駆け込んできた。が、彼らは絶望的な顔を浮かべ
た。
﹁﹁ミスター・エミヤ︵エミヤ君︶
﹁﹁シロウ
﹂﹂ マグゴナガルとクィレルが叫ぶ。トロールとオレの距離、あと八メートル。
!!
ロンとハーマイオニーも叫ぶ。距離、残り五メートル。
!!
182
だが、マリーは黙ってこちらを見ていた。その目は、大丈夫なんだね
た。だからオレはただ頷く。残り三メートル。
ソ ー ド バ レ ル・フ ル オ ー プ ン
﹄
マグゴナガルとロン、ハーマイオニーが顔を反らす。
﹃│││全投影連続層写
、と問うてい
?
あとに残ったのは頭から血を被ったオレと、無数の瓦礫、そして沈黙だけだった。
た。血飛沫をあげながらトロールは背中から倒れた。
二十七の剣に全身を文字通り蜂の巣にされたトロールは、既にその命を終わらせてい
トロールに向かって射出された剣は、吸い込まれるようにトロールの全身を貫いた。
剣が走る、走る、疾る、疾る、はしる、はしる、ハシル、ハシル。
!!!
6. 説教と新たな絆、そして人生初めての
Side シロウ
ふむ⋮⋮臭いな。トロールの血がここまで匂うとは。いやはや臭いのは体臭だけか
と思えばなかなかどうして、これは体を石鹸まみれにしてもとれんかもしれん。
大丈夫ですか
トロールを串刺しにしている剣と﹃オハン﹄の投影を破棄すると、マグゴナガルが鬼
気迫る表情でこちらにきた。
それにこれはどういう状況なのですか
﹂
い や に 冷 静 だ な。い つ も の 彼 な ら ば 気 絶 し て い る は ず だ が。
スネイプも努めて冷静でいようとしている。
?
それに妙に目が冷たい。今まで以上に警戒しておこう。
ク ィ レ ル は ⋮⋮ ん
!
!?
!
怪我はしてませんか
!?
どうやらマグゴナガルは混乱しているらしい。
!?
﹁ミスター・エミヤ、ウィーズリー ミス・ポッター、グレンジャー
6. 説教と新たな絆、そして人生初めての
183
さて、そろそろマグゴナガルの話を聞かねば。
﹁⋮⋮聞いているのですか、ミスター・エミヤ あなたは一体何をしたのですか
あ
!?
あ、はい、わかりました﹂
?
吃りながら、
﹁わ、私には、な、なな何も
?
ここで一時的アーチャーの口調にする。
﹁ええ。校長を含め、今あげた三人だけです。それに⋮⋮﹂
と聞いてきたが、正直信用ならん。
﹂
オレの一言でマグゴナガルは冷静さを幾分か取り戻したらしい。ここでクィレルが
﹁⋮⋮クドクドクド。え
﹁それについてはこのあと直ぐ、スネイプ先生とダンブルドア校長を交えて説明します﹂
の剣は、あの盾は、まるで最初からそこになかったかのように⋮⋮﹂
!!
184
﹁正 直 貴 様 の よ う な 人 種 は 信 用 な ら ん。貴 様 の よ う な 類 い の 人 間 は い く ら か 見 て き た
が、誰もが仮面を被り、その下に醜いものを隠していた。貴様がそうでないとは言い切
れん﹂
オレの突然の口調の変わり様とその内容に皆が目を見開いていた。が、同時にスネイ
プはどこか感心するような視線をオレに向けていた。
生徒は寮にいるはずでしょう
﹂
!
﹁なぜあなた方がここにいるのですか
しかし、ここでハーマイオニーが口を開いた。
マグゴナガルが三人を叱る。三人ともどう答えようか迷っているな。
!
マグゴナガルはそう前置き、マリー、ロン、ハーマイオニーに顔を向けた。
﹁⋮⋮それは一先ず置いておきましょう。それよりも﹂
6. 説教と新たな絆、そして人生初めての
185
﹁私の責任です﹂
﹂
?
グリフィンドール二十点減点です。ミス・グレンジャー、
!!
﹁あなたたち二人も、行動が軽率過ぎます。止めようと説得することは正しいことです。
は残りの二人に目を向ける。
マグゴナガルの言葉に従い、ハーマイオニーはこの場を去っていった。マグゴナガル
決してこんなことはしないよう。今回のことは他言しないように﹂
あなたには失望しました。さぁもう寮にお帰りなさい。今回は無事でよかった。次は
危険にさらしたのですよ
﹁ミス・グレンジャー、何てことを。あなたは自分の命だけでなく、他のひとの命までも
リーもロンも唖然としている。
⋮⋮驚いた。まさかハーマイオニーが教師に嘘をつくとは誰が思っただろうか。マ
身の程を知らず、独断で行動しました。他の二人は私を止めようと、説得にきたのです﹂
﹁私の責任です。授業で習ったことを応用すれば、私でもトロールをどうにかできると。
﹁ミス・グレンジャー
186
ですがどなたか教師に報告することもできたでしょう﹂
まぁ正論だな。
事後とは言え、こう言われるのは仕方がない。二人も顔をうつむかせている。
﹁よって十点ずつ、お二人に差し上げます。さぁあなたたちも寮にお帰りなさい。他の
生徒は夕食の続きをしています。あなたたちも今回のことは他言しないように﹂
そう伝え、二人に帰るように言う。二人もそれに従い、この場から出ていった。最後
にマグゴナガルはオレに顔を向けた。
﹁この女子トイレのトロールを始末する前に、同じフロアでもう一体トロールを討伐し
その判断に、こちらも依存はない。だがその前に、
かいましょう。あそこなら盗聴される心配もありませんから。﹂
﹁ミスター・エミヤ。あなたについてはこのあと話が有るようですし、早急に校長室に向
6. 説教と新たな絆、そして人生初めての
187
ました。こいつよりも少し大きい。後処理を頼んでいいでしょうか。﹂
﹁ありがとう﹂
に気付くと駆け寄ってきて、
中でハーマイオニーがいるのを見つけた。どうやら私達を待っていたみたい。こちら
マグゴナガル先生に言われたので、私とロンはグリフィンドール寮に帰っていた。途
Side マリー
⋮⋮⋮⋮⋮⋮やはり臭いな。
そうしてオレたちは校長室に向かった。
ください。さぁ今は校長室へ。セブルス、行きましょう﹂
﹁なんと、もう一体いたのですね。迅速な制圧を感謝します。後始末はこちらに任せて
188
6. 説教と新たな絆、そして人生初めての
189
と一言いっていた。ロンも私も気にしないように言い、三人で寮に帰った。多分私達
はこのとき初めてお互いに歩み寄れたと思う。
私達は自然と友達になった。ただ、ハーマイオニーのロンを見る目が少し気になった
けど。
帰る途中、廊下が封鎖されていた。そこにいたフィリットウィック先生によると、ど
うやら十二の剣で急所を串刺しにされたトロールの死体があったらしい。
誰がやったかは知らないけど、当事者の私達以外に知られる前に、後始末をするみた
いだ。
⋮⋮絶対シロウだ。ロンもハーマイオニーも納得した顔だった。
私達三人はたぶん一緒のことを考えてる。﹃シロウに弓か剣を持たせたら、そこらの
魔法使いは成す術なくやられる﹄と。敵にまわしたら命がいくつあっても絶対に足りな
いと。
私達は少々遠回りをして寮に戻った。
談話室に入ると先輩同輩関係なく、こちらに集まってきて質問をしてきた。でもマグ
ゴナガル先生に口止めされていたので、その旨を話すとみんな渋々ながらも納得して夕
食に戻った。ロンのお兄さんで監督生のパーシー以外は。
思えばホグワーツで初めて顔を合わせたときから何となく好きになれなかった。
ロンやそのお兄さんである双子のフレッドとジョージとは違って冗談が通じず、それ
はまだ生真面目ということで許せるけど、監督生ということが誇らしいのか、何かにつ
けて自分が自分がと目立つようにする。
あれだ。
将来権力者の見てくれだけが良い戯れ言にいいように踊らされる典型的な人間の匂
いがする。
今もしつこくこちらに質問をし、あわよくば説教をしようとしている。正直とてもう
ざったい。
マグゴナガル先生から口止めされていると説明したし、軽率な行動も反省もしてい
る。話せるコトは全て話しタのに、それでモまだ聞いテくル。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮アァ、ホントウニ。
句してこちらを見ている。
談話室は水をうったように静かになった。ロン、ハーマイオニー、そしてパーシーは絶
自分でも驚くほどの低く、冷たい声が出た。楽しいおしゃべりの声で満たされていた
﹁⋮⋮ウルサイナ﹂
190
﹁⋮⋮さっきから黙っていればギャーギャーと。やれ本当のことを話せだの、やれ自分
は監督生だから知る義務があるだの。お前はそんなに偉い人間なのか﹂
パーシーは口をモゴモゴさせてなにか言おうとしているが、関係ない。
﹁私はいったはずだ。寮監のマグゴナガル先生から口止めされていて、話すことはでき
ないと。お前の耳は飾り物か。お前は寮監よりも偉いのか﹂
﹂﹂
?
﹁ッ
君は
﹂
馬鹿も休み休みに言え、戯けが。
簡単な言葉で言うとしゃべるな、黙
そもそも大広間での発言はなんだ。皆が集まればトロールなど恐るるに足らず
れと言ったのだ。
﹁口を閉じろと言ったはずだ。理解しているか
!
だ。少し考えればわかるだろう。もうお前に話すことはないし、お前の話を聞く気も毛
私を含めた戦闘経験の無いものがどんなに沢山いようと、余計な犠牲が増えるだけ
?
?
!!
﹁違うのならその耳障りな口を閉じろ。お前が今やっていることは完全な越権行為だ﹂
﹁﹁マリー
﹁そ⋮⋮それは﹂
6. 説教と新たな絆、そして人生初めての
191
頭ない。それと⋮⋮﹂
それから私は談話室を見渡して、
Side others
その日、私は初めてキレるということをした。
初めてのハロウィーンを台無しにしてしまったから。
ハーマイオニーは私をおってきた。二人にも申し訳ないことをした。ホグワーツでの
そ う 言 っ て 私 は 寝 室 に 向 か っ た。後 ろ で な に か 騒 い で い た け ど 無 視 し た。ロ ン と
﹁せっかくの楽しい夕食を台無しにして申し訳ない。部外者は早々に立ち去る﹂
192
﹁おい
おい
マリー、ロン、ハーマイオニー 戻ってこい
﹂
!
まだ話は終わってないぞ
!
!
いった。
一人立っているパーシーに、その弟たちである双子のフレッドとジョージが近づいて
パーティーはそのままお開きとなってしまった。
パーシーが怒鳴っていたが、結局三人はそのまま寝室にいったらしい。ハロウィン
!! !
﹁フレッドの言う通りだぜ
俺達も心配だったからお前の言いたい
もうこれ以上何もわからねぇって。やめとけよ。ロンも
ハーマイオニーも同じこと言っていただろ
こともわかるけど﹂
﹁⋮⋮⋮⋮僕がしつこく詰問したことは確かにやり過ぎた。それは反省している。けど
﹁だな。それにあのときのマリー、どことなくシロウと似たような雰囲気してたし﹂
﹁いやまあ、流石にマリーがキレるとは思ってなかったけど﹂
﹁違うんだフレッド、ジョージ。 それもあるけど、僕が言いたいのは先ほどの態度だ﹂
?
?
と﹂
﹁パ ー ス。今 マ リ ー 本 人 か ら 言 わ れ た だ ろ う が。マ グ ゴ ナ ガ ル 先 生 に 口 止 め さ れ て る
6. 説教と新たな絆、そして人生初めての
193
﹂
それを差し引いてもあの態度は看過できるものじゃない﹂
﹁一度互いに頭を冷やしたほうがいいぜ
!!
フレッド、ジョージ
!!
﹁そうそう。今はひとまず、ほらパース。これ飲んで落ち着けよ﹂
?
ブホッ ゲボッゴボッ
﹂
!?
!
﹁ああ、ありがとう。⋮⋮⋮⋮
何を飲ませた
!
それは俺達がマグルの世界で購入した物を色々と混ぜた特性ドリンクだ
なんだこれは
﹂
﹁あ、それ
ぜ
?
﹁待て
お前たち
﹂
!
﹂
!
そして夜は更けていく。
﹁待たないか
﹁﹁あーばよー、パーシー﹂﹂
!
﹁何でもシロウの生まれた日本じゃちょうど俺達ぐらいの年のやつが遊びで作るとか﹂
?
!
194
7. エミヤシロウとは
Side シロウ
今オレたちは校長室にいる。各寮と同じで合言葉を言う必要があった。その合言葉
がなかなかふざけたものだったが。なぜ菓子の名前なんだ。しかも海苔煎餅だと
開いた口が塞がらんかったわ。
まぁそれはさておき、そろそろ話を始めるか。トロールの血については、匂いを含め
?
てダンブルドアが消してくれた。そしてマグゴナガルもスネイプも早く話せとばかり
にこちらを見つめている。オレは口調をアーチャーのように変えて話はじめた。
マグゴナガルがいい、続けた。
﹁ではまず私から﹂
﹁まず、質問に答えます。ものによっては同時に説明もします﹂
7. エミヤシロウとは
195
﹂
﹁あの剣はなんですか それにあの三人が持っていた黄金の盾は、そしてあなたの格
好は
?
?
?
世界の人間ではありません﹂
どういうことですか
?
﹁﹁なっ
平行世界
﹂﹂
!?
そもそも基盤が違います。
私が使っているのは元々私の世界で魔術と呼ばれているもの。この世界の魔法とは
投影で作ったものです。
﹁話を続けますね。あのときトロールを仕留めた剣と、あの三人を守っていた盾は、私が
界の住人なのだから。
それもそうだろう。いま彼らの目の前にいるのは確認さえされていない、もしもの世
句していた。
ダンブルドアは知っていたため特に反応はなかったが、スネイプとマグゴナガルは絶
!?
訳あって元の世界にいることができなくなり、この世界にいます﹂
﹁そのままの意味です。私は無限に連なる平行世界のうち、その一つに住む人間です。
﹁この世界の人間ではない
﹂
﹁わかりました、説明と一緒に話します。まず前提として話しますが、そもそも私はこの
196
この世界の魔法基盤は、当人にとって最も相性のいい触媒、不死鳥の尾羽根やユニ
コーンの毛ですね、を通して簡易的な概念として行使すると私は考えています。ガンド
と似て非なるもの、と。
で、私の使う魔術とは体にある魔術回路と呼ばれる擬似神経を用いてそこから生成さ
れる魔力を直接、または間接的に使用して神秘を行使するものです。例えば古代ギリ
シャのコルキスの王女メディアの術とか﹂
ここで一度言葉を切るとダンブルドアを含め、三人とも信じられない目をしてオレを
見ていた。
今の話が本当なら、オレは失われた古代魔術を今のところ唯一行使できる存在という
ことになる。
﹂
しばらくして、今度はスネイプが口を開いた。
?
師も現れます。私もその一人です。私の属性は﹃剣﹄﹂
属性から成ります。ですが稀にこの五大属性では再現できない特異な属性を持つ魔術
﹁私がマトモに使える数少ない魔術の一つです。魔術には基本的に﹃地水火風空﹄の五大
﹁先程お前の言った投影。それはなんだ
7. エミヤシロウとは
197
﹁成る程、変身術や妖精魔法で刃物の特徴をもつ結果は、あなたのその剣の属性が関係し
ているのかもしれませんね﹂
﹁全てを魔力のみでだと だがそうであれば長持ちはしないはずだ。魔力はいずれ気
材質、姿形を全て己の魔力で補い、贋作を作り出す魔術を指します﹂
﹁そうです、話を戻します。投影とは自らのイメージを元にして物の基本骨子から構成
198
う﹂
﹁ではあの剣についてはどう説明する
?
剣の要素を持つ武具、剣は勿論槍や戦斧、槌などは本物と何ら遜色の無い贋作が造れ
﹁あれが私の異常性の一つです。
﹂
いしか使われない、マイナーなものです。刃物を作っても紙一枚切れれば良い方でしょ
﹁ええ、その通りです。ですから本来は儀式などで一時的にレプリカが必要なときぐら
たようだ。
なかなか鋭いな、スネイプは。マグゴナガルもダンブルドアもそれに簡単に思い至っ
のは難しい﹂
化し、強度もそれほど強くはならない。それに人の頭では、完璧なイメージを浮かべる
?
ます。イメージに綻びがなければ、強度も本物のそれと同等。さらに言えば、再構成不
能まで破壊されるか私が破棄しない限り、半永久的に存在し続けます﹂
ここでオレの異常性をようやく理解したのだろう。三人とも目を見開いている。だ
ほうぐ
がこれで終わりではない。
﹁あの黄金の盾は宝具と呼ばれるもの。過去の英雄たちが持つ武具や逸話、伝説が力を
もった究極の幻想。
例を挙げるとすれば、この地で有名なのは騎士王アーサーのエクスカリバーやクラン
たとえ
の猛犬のゲイ・ボルグあたりがその類いはです。あの盾はカラド・ボルグの一撃を傷一
つなく防いだ盾、オハンの贋作です﹂
﹂
?
マグゴナガルがそう呟くのも仕方がないか。元の世界でもそのようなことはよく言
﹁何て出鱈目な⋮⋮﹂
﹁ええ﹂
あったとしても、いくらでも造れるのかのぅ
﹁と言うとシロウ。君は魔力さえあれば剣の属性を持つもの、仮令それが宝具とやらで
7. エミヤシロウとは
199
われていた。そして封印指定を受け、愛する人たちと離れてしまうことになった。
﹂﹂
?
﹃彼方より厄災が来る。それは魔法界、非魔法界を選ぶことなく、振り撒かれるであろ
ムの女性は、低くしゃがれた声で話しはじめた。
マグゴナガルが﹁シビル⋮⋮﹂と呟いていたが、知り合いだろうか。するとホログラ
女性が、ホログラムのように浮かび上がった。
ダンブルドアはそれを二回ほど杖で叩くと、大きな丸縁眼鏡をかけたトンボのような
具らしい。
憂いの篩と言うらしく、注ぎ込んだ記憶を保存、再確認することが可能となる魔法道
アはそれを無視して、一つの不思議な光を放つ盆を持ってきた。
ダンブルドアの発言に、スネイプとマグゴナガルが疑問の声をあげたが、ダンブルド
﹁﹁ダンブルドア先生︵校長︶
今の説明でようやく納得がいった﹂
﹁成る程のぅ。11年前にあの予言を聞いたときはいまいちよくわからなんだ。じゃが
200
う。それを止め得るは、無限に連なる世界の調停者たる万華鏡が系譜、錬鉄剣製の英雄
のみ。その英雄、無限の贋作を担いし者なり。その英雄、遥か彼方の世界にて、抑止の
守護者となりし者と同じ魂をもつ。今より先、錬鉄の英雄が遥か彼方よりきたる﹄
おそらくダンブルドアの記憶だろう。
予言については前もって聞いてはいたが、まさかアーチャーと同じ魂を持つ別人であ
⋮⋮﹂
る こ と も も 言 っ て い た と は。そ し て こ こ で も 厄 介 事 に 巻 き 込 ま れ る の だ な。
⋮⋮⋮⋮⋮気が滅入る。
﹁よ⋮⋮抑止の守護者と⋮⋮⋮⋮同じですって
?
﹁この者は既に至っております。守護者ではなく、英霊に﹂
今まで黙っていた組分け帽子が一言いった。
マグゴナガルとスネイプが、本気で恐怖した表情を浮かべてオレを見ていた。ここで
﹂
?
﹁こ⋮⋮この男が⋮⋮⋮⋮錬鉄の英雄⋮⋮だと
7. エミヤシロウとは
201
﹁﹁ッ
﹂﹂
!!
﹂
?
いはあまり好きではありませんから﹂
﹁わかりました﹂
﹁我輩も了解した﹂
﹂
﹁最後に一つ聞かせてくれんかのぅ﹂
﹁なんでしょう
﹁あなたたちが外道に堕ちない限り、私はあなたたちに刃を向けることはしません﹂
?
?
﹁君はわしらの敵になることはないんじゃな
﹂
﹁それと今後についてですが、今まで通りの生徒と教師の関係でお願いします。特別扱
﹁⋮⋮⋮⋮相わかった。好きにするとよい﹂
だけ記憶操作させてもらいます。今はまだ、あの子たちは知るべきではない﹂
﹁来るべきそのときに。今日のことについては、マリーたちの中からオレのやったこと
﹁それはいつ頃なんじゃ
ていただきます。いずれ私自身のことは話します。今はまだそのときじゃない﹂
﹁いろいろと言いたいこと、聞きたいことはあるでしょう。だが今回はここまでにさせ
﹁⋮⋮なんと⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ゴーストたちが頭を垂れていたのはそういうことでしたか﹂
202
﹁それを聞いて安心した。いってよい﹂
﹁ではこれで失礼します﹂
﹂
たが
では今回の騒動についての判断です。
﹁先ほどミスター・エミヤは生徒と教師の関係のままを望むとおっしゃいましたね
ああ、あれは⋮⋮﹂
﹁え
?
す。しかしながら理由があったことは理解しましたが、あなたの教師に対する態度が悪
トロールを二体、迅速に対応したことにより、グリフィンドールに三十点差し上げま
?
?
﹁ところでミスター・エミヤ。先ほどクィレル先生に対してなかなかの暴言と口調でし
7. エミヤシロウとは
203
かったことでグリフィンドールから十点減点します﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮解せぬ。
寮に戻ってよろしい﹂
﹁今回はこれで済ませます。が、次回以降は書き取りの罰則も課しますのでご理解を。
﹁なんと⋮⋮﹂
204
た。少年はそこで意識を閉ざした。
流れ込んできた。そして少年は目の前にいる青年が、可能性未来の自分であると悟っ
て、ただ前を見据えていた。そのとき少年の頭に、自分のであって自分のでない記憶が
つ剣だった。そして少年の見つめる先には、一人の青年がいた。体に何本もの剣を刺し
少年は荒野に立っていた。回りには草木は生えておらず、唯一あるのは無限につき立
│││
流していた。まるで救われたのは少年ではなく、自分であるかのような顔をして。
く伸ばす。そしてその手が落ちるところに、一人の男がその手を握りしめた。男は涙を
そうな顔をしながら少年は歩く。雨が降り、炎は消えた。少年も倒れ、天に片腕を力な
広がる。数多の苦しみの声が響き渡る中を、一人の少年が歩いている。耳を塞ぎ、悔し
目の前に広がるのは炎の海。地獄とはこういうものだと言われているような光景が
幕間. 追憶 そして⋮⋮
幕間. 追憶 そして……
205
│││
病院の一室に少年はいた。回りにも、炙り出された生き残りがいた。そこに一人の男
がやって来た。男は自分と施設のどちらを選ぶか少年に聞いた。少年は男についてい
くことにした。男はそれを承諾し、受け付けに向かう前に一言言った。
﹃僕は衛宮切嗣って言うんだ。僕はね、魔法使いなんだよ﹄
この日から、少年は﹁衛宮士郎﹂となった。
│││
少し大きく成長した少年、衛宮士郎とその養父である衛宮切嗣は、ある一室にいた。
そこには美しくもおどろおどろしいステンドグラスがはめられている部屋だった。そ
の中心にユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンはいた。そこでは時間がいくら
経過したかわからないほど、長い間口論していた。
﹃そのためにあんたらは、無関係の人が巻き込まれることを容認するのか﹄
﹃知れたこと。︽天の杯︾成就は、我らアインツベルンの使命﹄
﹃あんたらが︽天の杯︾を求める理由はなんだ﹄
206
ユスティーツァ
﹃アインツベルンの崇高な使命の前に、有象無象などどうでもよい﹄
貴様らのような裏切り者が、我らアインツベルンの使命に口を出すのか
﹃おまえらがそうすることを冬の聖女は本当に望んでいるのか﹄
﹃黙れ
﹄
!
﹄
﹄
!
それがなんだと聞いてるんだ
⋮⋮⋮⋮⋮⋮それは⋮⋮﹄
があるはずだろう
﹄
!
﹄
ユスティーツァ
本当の理由を見失ってるんだよ
﹄
!
!
!
﹃あんたらのその行いが、冬の聖女の想いを汚してるとわからないのか
﹃黙れ
│││
!
﹄
﹃今すぐに返答できなかったのが答えだ あんたらは天の杯を求めるあまり、求めた
﹃それは
!
﹃さっきから聞いていれば使命だのなんだの。使命云々の前にその天の杯が必要な理由
﹃なに
つもりだ
﹃黙るのはあんただ、ユーブスタクハイト おまえらは天の杯を手に入れて何をなす
!
?
!
!!
﹃⋮⋮⋮⋮黙れ⋮⋮﹄
幕間. 追憶 そして……
207
﹃我らは⋮⋮天の杯を⋮⋮⋮⋮﹄
まれているのだろう 娘のイリヤにあっても不思議ではない。正直相当不本意だが、
とすることもね。確かアインツベルンの用意する聖杯にはユスティーツァの記憶も刻
﹃お前たち、アインツベルンが天の杯を求めていることまでは否定しない。それを使命
208
﹃﹃なんだ︵なに︶
﹄﹄
﹃⋮⋮⋮⋮衛宮切嗣、衛宮士郎よ﹄
│││
﹃⋮⋮⋮⋮わかった﹄
イリヤに刻まれているユスティーツァの記憶を確認しよう﹄
?
きにことを成そう﹄
端に終結したため、魔力が安定してない。そう遠くない時期に五回目が始まる。そのと
﹃聖杯は解体、浄化する。遠坂、マキリにも協力を仰ぐ。だが、第四次聖杯戦争は中途半
﹃そうか、それでどうするんだ﹄
を﹄
﹃⋮⋮⋮⋮すまなかった。そして感謝する。我々に、もう一度思い出させてくれたこと
?
﹃わかった。イリヤは﹄
﹃あの子のことは気にせんでよい。戦争が終われば体が動かなくなってしまう。が、今
﹄
人形師にコンタクトを取り、肉体を用意してもらってる。あれを使えば、人並みの命を
得て、人と同じように成長できるようになる﹄
﹃それを聞いて安心した。彼女を日本に連れて帰っても
﹃構わない。好きにせよ﹄
﹃わかった﹄
﹃またね、ユーブスタクハイトさん﹄
﹃アハト翁で構わない﹄
?
彼は自分は子供の頃、正義の味方になりたかったと二人に話す。やめた理由を士郎と
けていた。衛宮切嗣はもう長くない。
そして彼らの元に戻った長女、イリヤスフィール・フォン・E・アインツベルンは腰か
真夏の夜。満月輝く空のした、冬木のとある日本家屋の縁側に、衛宮士郎と衛宮切嗣、
│││
﹃わかった、アハト翁﹄
幕間. 追憶 そして……
209
イリヤは聞いた。正義の味方はエゴイストだと。自分が味方したものしか助けること
ができないと。そして、自分自身と自分の大切な存在を守ることができる人が他人を
救ったとき、初めて正義の味方になるのだと。士郎はしばらく考え込み、言った。
知っていた。
﹄
﹃⋮⋮なら私は士郎が一人にならないようにずっといる。﹄
﹃イリヤ⋮⋮
﹄
﹃だってキリツグはずっと一人だったからなれなかったんでしょう
死ぬまで一緒にいる。一人で無理なことも、二人なら大丈夫
﹃イリヤ姉、それは﹄
﹄
!
?
?
﹃じゃあ士郎が見た通りの人生にならないって言える
?
なら私は士郎と
養父と義姉が悲しそうな顔をする。この二人は士郎の記憶を見て、その果ての一つを
﹃﹃士郎︵シロウ︶⋮⋮﹄﹄
自分の未来の一つをもう見たから﹄
﹃大丈夫、わかってるから。それが茨の道で、報われないかもしれないって。だって俺、
﹃士郎、それは⋮⋮﹄
よ。切嗣のいう正義の味方に﹄
﹃そうか、それならしょうがないな。うん、しょうがないから俺が代わりになってやる
210
だから任せて、キリツグ。私達二人でキリツグの夢を叶えてあげる
﹃⋮⋮⋮⋮できない﹄
﹄
﹃そうでしょう
から
?
寝ちゃったの
?
┃┃ 安心した⋮⋮ どうしたの
?
衛宮切嗣はそう呟き、その目を閉じた。
?
イリヤが呼びかけるが、その目を開けない。衛宮切嗣は、静かにその命の火を消した。
﹃⋮⋮キリツグ
﹄
﹃⋮⋮そうか、わかった。⋮⋮⋮⋮ああ、本当に⋮⋮﹄
そこで衛宮切嗣は心底穏やかな顔をした。
!
│││
に流れていた。
イリヤは父の遺体にすがり付き、嗚咽をもらす。衛宮士郎の顔には、一筋の涙が静か
人でやりたいこと沢山あるのに⋮⋮⋮キリツグの⋮⋮⋮⋮お父様の馬鹿⋮⋮﹄
﹃⋮⋮バカよ、キリツグは。本当に大馬鹿。まだ話したいこと、聞きたいこと、士郎と三
幕間. 追憶 そして……
211
212
数年が経過し、士郎が高校二年となった冬の日の夜。第四次聖杯戦争から十年を迎え
たその年、遂に第五次聖杯戦争が始まった。士郎は甲冑の少女、セイバーのサーヴァン
トを伴っていた。士郎は初め、セイバーを召喚したときに、聖杯の真実を伝えた。養父
が聖杯を破壊した理由をしり、セイバーはやるせない顔になっていた。今回の目的を伝
えて協力を仰ぐと、しばらく考慮したのち、これを承諾した。
そして今、目の前には無数の蟲がいた。聖杯の解体、浄化に反対したマキリが独断で
動き、遠坂からの養女であり、後輩である間桐桜を聖杯の贄として邪杯にしようとして
いた。これには遠坂も黙ってはおらず、現当主で同級生の遠坂凛がどこかで見た白髪肌
黒の青年、アーチャーを伴い、士郎とイリヤに協力を申し込んできた。
無論士郎たちはこれを承諾し、蟲とその手を本体である間桐蔵硯の始末を運営である
言峰綺礼に仰いだ。言峰綺礼は利害の一致を理由に士郎らと共に間桐を襲撃し、間桐桜
の救出と間桐蔵硯の消滅を達成した。この事からマスターが桜だったこともあり、ライ
ダーのサーヴァントが味方に加わった。
安心したのもつかの間、突如アーチャーが凛との契約を破棄した。全ては衛宮士郎を
抹殺するため。アーチャーの正体は、やはり平行世界にて抑止の守護者となった衛宮士
郎本人だった。アーチャーは他ならぬ自らの手で衛宮士郎を殺し、守護者の座から自分
を消そうとしていた。
十年前の大火災の跡地に出来た公園で、そこから始まったのは二人の剣製による殺し
﹄
!
あい、心と心のぶつかりあいだった。
﹄
﹃貴様のような人間が誰かのためになど、思い上がりも甚だしい
﹃なんだと
のなど何一つない
これを偽善と言わずして何と言う
そうだろう、衛宮士郎
﹄
!
!
!
!
あの炎の中、衛宮切嗣の顔があまりにも幸せそう
!
﹄
!!
!
﹄
俺は俺の意思で正義の味方になると願った 十年前のあの地獄の日、自分
想は、ただの借り物だ
だったから、自分もそうなりたいと思っただけだ お前の正義の味方になるという理
が傲慢ということもわからずに
﹃はじめから自分のない者が、世のため人のためなどという理由で走り続けた それ
アーチャーは士郎だけでなく、アーチャー自身も断罪するかのように声を荒らげる。
!
﹃そうさ 誰かを助けるということが綺麗だから憧れた だが自らこぼれ落ちたも
!
!
!
以外の助けを求める声を俺は、俺達は振り払って歩き続けた
!
た世界、固有結界の中で彼らは戦っていた。
り、分厚い雲に覆われた黄昏の荒野。守護者エミヤシロウの心象風景を現実に具現化し
戦いの舞台はいつの間に、無限の剣が乱立する世界へと移っていた。空には歯車が回
!
﹃違う
幕間. 追憶 そして……
213
﹃今でも覚えている。俺は願った この地獄をどうにかしてほしいと願った
自分
!
だった。﹄
ではどうにもできないあの状況を打開してほしいと、だが結局救われたのは俺達だけ
!
!
そしてあの月夜の晩に呪いを残した。﹄
!
﹄
﹃それは詭弁だ
﹃詭弁じゃない
﹄
﹃⋮⋮⋮⋮黙れ﹄
﹄
お前が殺したものにしか目を向けてなかっんた
アーチャー、お前は今までどれだけ救ってきた
﹃何を今さら。数えきれないほどだ﹄
﹄
﹃その人たちにお前は目を向けたか
んじゃないか
﹃⋮⋮⋮⋮まれ﹄
?
﹃たとえ殺した中に自分の大切な存在がいても構わず切り捨てた。違うか
?
!
﹃黙れ
﹄
﹃なぜ大切な存在を切り捨てた。なぜ救ってきた人びとに目を向けなかった﹄
?
! !!
?
﹄
﹃呪いじゃない。最初は借り物だ。 だがだからこそそれを貫き通せば本物になるんだ
男とでもいうようにな
﹃そうだ。だからこそ衛宮切嗣は幸せそうな顔をしていた まるで救われたのはあの
214
!!
俺達が
俺の大切な人たちは、思いは、決してなくしたりは
﹄
﹄
たとえ自分の未来が報われなくても、偽りのものだったとしても
﹃俺は切り捨てない、無くさない
しない
そこまでだ、消えろォ
抱いた思い、あの日の誓いは、決して間違いなんかじゃないから
﹃ッ
!
!!
!!
!!
!
﹃協力しろというか。一度裏切ったオレに﹄
﹃俺はまだやるべきことがある。この聖杯戦争を、止める﹄
﹃⋮⋮お前の勝ちならばなぜ止めをささない﹄
﹃⋮⋮俺の勝ちだ、アーチャー﹄
敗は決した。
だがアーチャーの最後の攻撃は当たらず、士郎の剣がアーチャーを貫いた。ここに勝
!!
しかし翌日、郊外のアインツベルンの城にて現れるはずのなかった影が出現、バー
ることは時間的にキツいため、その晩は城に泊まると報告する。
独行動をとることになる。その日のうちに郊外のアインツベルンの城から衛宮邸に帰
一旦衛宮邸に戻ることになったが、天の杯のための衣を用意するために、イリヤは単
そして二人のシロウは聖杯戦争を終わらせるため、再び手を取り合った。
﹃⋮⋮成る程な、理解した﹄
﹃お前がアーチャーだからじゃない。お前がエミヤシロウだからこそだ﹄
幕間. 追憶 そして……
215
サーカーが汚染される。イリヤからの急報を聞き、駆けつけたシロウ一行は、バーサー
カーと遭遇。アーチャーの活躍により、バーサーカーの命のストックを半分まで削り、
残りのストックをシロウとセイバーによって終わらせる。そのときに、バーサーカーか
らイリヤを託される。
士の王たるセイバーがその聖剣を解放して見事英雄王を葬り去った。士郎も桜、凛、イ
シロウは固有結界を展開し、機動力に長けたライダーがそのなかで天馬を召喚させ、騎
た。自然とサーヴァントはギルガメッシュへ、マスターたちは言峰と対峙した。エミヤ
追いかけた先、大聖杯のもとでは、言峰綺礼と英雄王ギルガメッシュが待ち構えてい
る柳洞寺の地下空洞へと向かった。
ターであった言峰と共にイリヤを拐い、十年前の地獄を再現しようと企て、大聖杯のあ
だがここでイレギュラーの八体目のサーヴァントたる英雄王が顕現し、急襲。マス
偶然にも養父と同じ言葉を遺し、バーサーカーは去った。
﹃⋮⋮感謝する。⋮⋮⋮⋮安心した⋮⋮﹄
﹃ああ、もちろんだ。俺に、俺達に任せてくれ﹄
﹃主を頼む。この戦、最後まで共にいることができなかった、私の代わりにも﹄
﹃ああ﹄
﹃衛宮士郎といったか﹄
216
幕間. 追憶 そして……
217
リヤのバックアップのもと、言峰を破る。
しかしアンリ・マユの生誕は止められず、再び災厄が振り撒かれようとしていた。こ
こで士郎が初めて固有結界を展開し、その中でもう一度セイバーの聖剣を使用させ、漏
れ出た呪いを一掃した。そしてユーブスタクハイトとイリヤが中心となり、凛の宝石魔
術、桜の虚数魔術も応用させ聖杯を完全に浄化、解体した。
残ったサーヴァントたちが座に還るなか、アーチャーに何やら異変が生じ、刹那意識
を失う。目をさますと、驚いたことに守護者の任から解放されたと知らされた。そして
エミヤを経由して、士郎、凛、桜、イリヤに守護者でなく、正規の英霊となるか世界か
ら聞かれた。士郎はそれを受諾、凛と桜は英霊となっても士郎を支えるために受諾し
た。イリヤは信仰の不足から三人を守護者にすることを防ぐために、アインツベルン一
同で語り部の使命を負うこと宣言し、英霊となることを拒否した。エミヤは結果として
守護者から解放されたことを理由に、士郎と完全な和解をした後、他のサーヴァントと
共に座に還った
こうして第五次をもって聖杯戦争は終結した。
│││
218
時は経ち、数えきれないほどの出会いと別れがあった。魔術師の総本山である時計
塔、封印指定の人形師、殺人貴と真祖の吸血姫、黒の姫君に万華鏡の魔法使い。そして
弱き人々を救うために、世界を渡り歩く先で出会った人々。
愛しき人たちもできた。四人の子にも恵まれた。いつしか士郎は世界から﹁錬鉄の英
雄﹂と呼ばれるようになった。だが時計塔が士郎の魔術隠蔽のいい加減さと士郎の魔術
の異端さを指摘し、遂に封印指定となってしまった。やはりというべきか、万華鏡が
黙っているはずもなく、士郎は異なる平行世界に送られることとなった。
指定の日、自分の家族だけでなく、近隣の人びと、故郷の人びとも見送りに来ていた。
士郎は一番早くに生まれたイリヤとの子、長男の剣吾に妹たちを守るよう言う。凛がい
ずれ家族全員で遊びに行くと言った。そして桜、イリヤとも口を揃えて言った。
これから行く世界でも幸せになれ、と。
俺は愛する人たちに見送られ、世界を去った。
Side 夢を見ていました。
少女のみたもの
いました。その手を握る一人の男性。ああ、良かった。そういう思いが顔だけでなく、
やがて炎は数えきれない命の灯火と共に消えました。少年は倒れ、天に腕をのばして
いました。
な顔をしていました。助けを求める人に手を伸ばすことができない悔しさが滲み出て
見渡す限りの炎。地獄の再現のような光景のなかを一人で歩く少年。彼は悔しそう
???
﹂
身体中か溢れていました。
!?
の中を歩いていた少年は⋮⋮シロウではないのか。
そう言えば夢のなかの少年、自分のよく知る幼馴染みとよくにていた。まさか、あの炎
今の夢はなんだろう。とても恐ろしい、それでいて最後は救われるような夢だった。
﹁⋮⋮はっ
幕間. 追憶 そして……
219
うぷ⋮⋮﹂
!!
知りたい。シロウがあの地獄の先、男性に救われた先で何を思い、何を感じたのか。
度を変えたりはしないけど。
し自分の推測が正しければ、シロウは何者なのだろうか。それを知ったところで私は態
あの地獄を思い出す。吐き気が込み上げるけど我慢する。嫌な汗が止まらない。も
﹁⋮⋮ッ
220
金のスニッチが捕まえられると試合が終了する。加えてスニッチを獲得すると、一気に
やったら試合が終わるのかというと、ここでシーカーが重要になる。クィディッチは黄
基本クワッフルで獲得する点数は十点であり、試合終了時間は存在しない。ではどう
レイヤーは黄金のスニッチを捕まえることが仕事である。
のチームに当てることを仕事とする。そして残ったシーカーだが、このポジションのプ
ターは棍棒を使い、プレイヤーを箒から落とそうとするブラッジャーを弾く、または敵
の い ず れ か の 輪 に 通 し て 点 数 を 取 る。キ ー パ ー は そ れ を 阻 止 す る ポ ジ シ ョ ン。ビ ー
三名のチェイサーはクワッフルを使い、相手の陣に立つ先に輪のついた三つのポール
キーパーとシーカーが一名ずついる。
プレイヤーは各チーム七名で構成され、それぞれチェイサーが三名、ビーターが二名、
の世界でいうサッカーのようなものだ。
さくてすばしこい黄金のスニッチ、この三つのボールを用いて行われる。いわばマグル
チームが箒にのり、赤のクワッフル、全自動の妨害玉である黒のブラッジャー、一番小
クィディッチとは、魔法界において屈指の人気を誇るスポーツ競技である。2つの
8. クィディッチシーズン到来 8. クィディッチシーズン到来 221
222
百五十点獲得できる、いわば逆転の手段であると同時に相手との決定的な差をつけるも
のでもある。
だが試合終了方法なだけはあり、捕まえるのは少々骨がおれる。先述のようにスニッ
チは小さく、卓球玉程度の大きさである。そして何よりも速くすばしこい。そしてブ
ラッジャーの様な猪突猛進の動きではなく、非常にトリッキーな動きをする。長ければ
一日探しても見つからないこともあり、過去には一つの試合に一週間近くかかったこと
もあるらしい。
さてこのクィディッチだが、ここホグワーツでも各寮に一つずつチームが存在してい
る。そして寮対抗で試合を行い、その獲得点数がそのまま寮に加算されるシステムであ
る。そんな理由もあり、クィディッチの試合があると、生徒は勿論、教師陣も観戦に向
かう。だが生徒が選手であるため、最終学年である七年生が卒業し、そのなかに選手が
いると翌年から欠員が出てしまう。今年のグリフィンドールがその類いだった。しか
も欠員は試合の要であるポジションのシーカー。
グリフィンドールチームのキャプテンであったウッドは二年生以上から一番骨があ
り、上手い生徒を選抜しようと考えていた。だがそこに思いもよらぬことがあった。な
んと一人の一年生が飛行訓練中に初心者とは思えない技術を見せて、それを見たグリ
フィンドールの寮監であるマグゴナガル教授が直々にスカウトしてきたのだ。
喜ばないはずがない。件の生徒を間近に見たが、シーカーに相応しい、動きが速そう
な体格をしていた。後日改めて箒に乗るところを見せてもらったが、マグゴナガル教授
がスカウトするのも頷ける技量だった。改めてその一年生マリー・ポッターをチームに
入れたことは正しかったと実感した。
他のチームメイトも交えて本格的な練習にも参加させたところ、皆もマリーの入団に
両手を上げて喜んでいた。
ハロウィンの騒動も落ち着き、本格的な冬が到来した十一月上旬。ホグワーツでは
クィディッチシーズンが到来したことにより、生徒教師問わずに熱気が溢れていた。特
に今年は例年と違い、皆落ち着きがなかった。それは学校じゅうで噂が流れていたから
であった。
│││ 今年は異例の一年生選手がグリフィンドールで試合に出る。何でもその一
年生は先生とチームキャプテンが直々のスカウトを受けたらしい、と。
そして今年の第一戦はグリフィンドール対スリザリンである。皆がソワソワするの
もわからなくはないだろう。そして今日はその第一戦。噂の当人であるマリー・ポッ
ターはというと、
⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ヤ バ い お 腹 痛 い 食 べ 物 入 ら な い 緊 張 す る ト イ レ 行 き た い 誰 か 助 け て お 願 い ブ ツ ブ ツ
8. クィディッチシーズン到来 223
結構ナィーブになっていた。
Side マリー
今日は初めての試合がある。しかも魔法界で人気のクィディッチの。私のポジショ
ンは一番の要のシーカー。今までしっかり練習していたし、プレゼントされた最新式の
現 時 点 最 速 の 箒﹁ニ ン バ ス 二 〇 〇 〇﹂に も 体 は 慣 ら し て あ る。そ れ は 問 題 な い。で も
⋮⋮⋮⋮
緊張しないほうがおかしいよ﹂
?
﹁ありがとう、ロン。でもいい﹂
﹁マリー、少しは食べたほうがいいよ
﹂
今けっこう気が滅入ってる。食事も喉を通らない。
スポーツの試合だよ
﹁だってマグルの世界でもクラブ活動に所属してなかったのに、いきなりすごい人気の
224
?
﹁トースト一口だけども﹂
﹁ハーマイオニーもありがとう。でも本当にいいんだ﹂
二人とも心配してくれているのは本当にわかる。でも今は本当にヤバい。
﹁マリー、一度深呼吸してみるといい。お決まりの方法だけど効果はある﹂
パーシーがアドバイスしてきた。
あの日の翌日、一度頭を冷やして考え直すと、私けっこう失礼なことをしていた。そ
れにパーシーがあんなにしつこく詰問してきたのも、心配だったからだとわかる。弟と
その友人が非常事態にいなかったのだ。普通は心配する。なぜか私とロン、ハーマイオ
ニーはあの夜、トイレで何があってトロールが処理されたのかなんか霞がかったような
感じで覚えていないけど。
ま ぁ そ の 事 も 踏 ま え て パ ー シ ー に 謝 罪 し た。だ っ て 私 に 非 が あ っ た し。そ れ 以 降、
パーシーとは良好な関係を築いている。今のようにちょっとしたアドバイスをくれる
ぐらいに。
﹁まぁ落ち着く落ち着かないはあるが、一先ず皿にとったものはちゃんと食べておけよ
と、そこで隣のシロウから、
ダメだった。実践したけど効果が薄いみたい。どうしよう。
﹁うん。⋮⋮⋮⋮⋮⋮フゥ⋮⋮⋮⋮ダメだ、やっぱり喉を通らない﹂
8. クィディッチシーズン到来 225
でないと材料を作った人、送った人、料理を作った人に失礼だからな﹂
詰め込んだり掻き込んだりしません。下品だしね。
お皿にのっている食べ物を無理やりお腹に入れる。あ、ちゃんと丁寧に食べたよ
といっていたけど私ニハキコエナイ。
﹁﹁﹁シロウの言うことは聞くのか⋮⋮﹂﹂﹂
ロンとハーマイオニー、パーシーが
﹁⋮⋮⋮⋮食べる﹂
と言われた。うん、正論だ。
?
﹁私も見たことないわ。どうなの、シロウ
﹂
?
せていたから﹂
?
﹁可愛いものや生き物をモフモフすること﹂
が落ち着く方法、それは⋮⋮
ロンとハーマイオニー、シロウの会話を聞いていたパーシーが私に質問してきた。私
﹁そうなのか。マリー、君はいつもどうしてたんだい
﹂
﹁オレが記憶している限り、殆どないな。マリーは基本的に自分で自分の心を落ち着か
?
僕は初めて会ったときから見てないけど﹂
﹁ねぇシロウ。マリーって今までこんなにナィーブになったことあるの 少なくとも
?
226
﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮what
い。他にはないのか
﹂
﹂﹂﹂﹂
﹁君がいつもどうしてるかはわかった。だが残念ながらこの場にはその類いのものはな
や生き物はないし。
みんながとても困惑した顔をしている。それはそうだろう。今この場に可愛いもの
﹁いや、三回も言わなくてもわかるから﹂
﹁可愛いものや生き物をモフモフすること﹂
﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮えーっと⋮⋮﹂﹂﹂﹂
﹁可愛いものや生き物をモフモフすること﹂
?
﹂
﹂
﹁どうした
?
うん、やっぱりこれは落ち着く。特にシロウの膝の上というのが。周りから生暖かい
デモ私ニハ関係ナイ関係ナイ。
その瞬間みんなが ︵ ゜д゜︶ポカーン とした。
私はそう言ってシロウの返事を聞かずに、シロウの膝の上に頭をのせた。
﹁ちょっとごめんね
失礼します﹂
シロウが聞いてきたけど、あまり思い当たるものが⋮⋮⋮⋮あ、一つあった。
?
?
?
﹁シロウ
8. クィディッチシーズン到来 227
視線で見られている感じがするけど、無視無視。心の平穏を優先させなきゃ。ああ、安
心する。
Side シロウ
はぁ⋮⋮⋮⋮昔から甘え癖はあったが、まさかここでそれが出るとは。一時期成りを
潜めたから年相応になったのかと思いきや、ただ抑えていただけだったんだな。こうも
人目を憚らずに甘えてくるのは、どことなくイリヤや娘のシルフィに通じるところがあ
る。あの二人も大勢の人がいる場で堂々と引っ付いてきたものだから、息子の剣吾が呆
れた顔をしていたのは懐かしいものだ。
⋮⋮⋮⋮さて、そろそろ現実逃避はやめにするか。流石に周りの視線が痛い。マリー
にいたっては寝息をたてはじめている。
﹁⋮⋮うにゅう﹂
﹁こら、マリー。起きろ﹂
228
﹂
﹁ほら、このあと試合があるんだろう 時間までに控え室に行かねばならんし、君はユ
ニフォームに着替えてもいない。ここで寝ては遅刻するぞ
初試合が寝てて欠席なぞ笑い話にもならん。ほら、立って﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ぅん⋮⋮もうちょっとだけ﹂
⋮⋮⋮⋮まったく、ここまで甘えん坊だったか、この子は
﹁自分で歩きなさい﹂
﹁シロウ、おんぶして﹂
﹁控え室まで着いていってやるから。ほら﹂
﹁うぅ⋮⋮⋮⋮暖かいからやだ⋮⋮﹂
﹁本当に遅刻するぞ
?
?
﹂なんて声をよく聞いたし、いったいこの
ただ口調がどことなくオレ似ていたらしい。変な影響を与えて
!!
イオニーもロンもそんな目でこちらを見るな。グリフィンドール生だけじゃなく、レイ
というか、いい加減みんなはその生暖かい視線をこちらに向けるのはやめろ。ハーマ
なければいいのだが。
子は何をしたんだ
子を聞くと、
﹁悪魔が⋮⋮⋮⋮桃色の悪魔が
だが聞いた話によるとハロウィンの日の夜、パーシーにキレたらしい。そのときの様
?
?
?
ブンクローやハッフルパフ、果てはスリザリンの上級生までも同じような目をしている
だと
?
8. クィディッチシーズン到来 229
230
おい、そこの双子のウィーズリー兄弟、そしてリー・ジョーダン
メラで写真撮ろうとするな、新婚夫婦言うな
砂糖吐くな、カ
!
なくていいのかよ 走って行くから大丈夫
問題ありすぎだ ジョーダンはここの実況をするな
!?
﹁新婚
!
お前も早く実況席に行けよ
っていつの間にマリーが背中に⋮⋮⋮⋮⋮⋮まったく。
てる
!
!
というかパーシー、お前は彼女がいるはずだろう
ああもう、みんな砂糖吐くな
!
それとこれとは話が別
お前まで砂糖吐いてどうする
!
!
さん、いらっ○ゃ∼い﹂じゃないわ それ日本のテレビ番組だろうが、なぜお前が知っ
丈夫だ、問題ない
そういう問題なじゃないだろ 大
何が﹁エミヤ夫妻のおなーりー﹂だ というかお前ら選手と実況だろうが、移動し
!
?
!
!
!
?
なんでさぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああああ
!!!!
?
!
9. Games begin
Side マリー
いとは限らない。当たるとどれだけ痛いんだろう
してる。それと練習中はブラッジャーに当たることは無かったけど、本番でそうならな
ユニフォームを着る前に比べると、幾分か気持ちが楽になっているけどやっぱり緊張
もフレッドさんとジョージさんはふざけていてウッド先輩に怒られていた。
ン・ウッド先輩の激励を受けたのちに先輩を先頭にして歩いている。ちなみに控え室で
私は今、他の選手と一緒にクィディッチフィールドに向かってる。控え室でキャプテ
!!
?
﹂
﹂
私は隣にいるアンジェリーナ先輩に聞くことにした。
どうしたの、マリー
?
?
サーのポジションの一人。ちなみにフレッドさんとジョージさんは二人ともビーター
アンジェリーナ・ジョンソン先輩、フレッドさんとジョージさんと同学年で、チェイ
﹁なに
?
﹁アンジェリーナ先輩、一つ聞いて良いですか
9. Games begin!!
231
だよ
なんでもウッド先輩曰く、双子のウィーズリー兄弟は人間版ブラッジャーと
個と合わせて四個襲ってくるようなものだし。
﹁ブラッジャーって当たるとどうなるんですか
﹂
ブラッジャーに当たるとか、
言っても過言ではないらしい。敵からしたら恐怖だよね。実質ブラッジャーが玉の二
?
﹂
?
骨を折った
?
思ってた。でもその実、ものすごいバイオレンスな競技みたい。私大丈夫だろうか
シロウがこの場にいたら、
ね。いつまでも泣き言いってられないし。
そんなこんなしているうちに、フィールドの入口に着いた。もう腹をくくるしかない
?
何だろう。クィディッチってプロレスとかアメフトに比べたら、比較的安全な競技と
⋮⋮⋮⋮うん、聞かなければ良かった。
挙げ句、一週間後に目が覚めたらしいわよ﹂
ね。ウッドが初めてブラッジャーを食らったとき、それが頭らしくてね
﹁⋮⋮⋮⋮試合前に言うのもどうかと思ったけど、いった方が気を付けるようになるわ
﹁けど
⋮⋮⋮⋮﹂
そ う ね ぇ。う ー ん、私 は い つ も 当 り 所 が 良 か っ た か ら、痛 い だ け で 済 ん だ わ。け ど
﹁そんな丁寧じゃなくて、もっと砕けた態度で良いわよ
?
?
232
﹃そのような泣き言、聞く耳持たん﹄
って言われそう。
フィールドから聞こえてきたリー・ジョーダン先輩の実況を合図に、私達選手は箒に
跨がって空へ昇った。
ン vs グリフィンドール
両チーム選手の入場です
ジョーダン先輩の実況がフィールド全体に響き渡る。
﹄
﹃今年の注目はなんと言っても、ホグワーツ史上最年少選手であるマリー・ポッター
!!
良妻賢母になりそうなホグワーツ女子生徒、にて共にベスト3にランクインしています
ちなみにマリー選手は普段の様子から、妹・弟にしてみたい新入生ベスト10、将来
!!
!!
楽しみですね
一人です なんでもキャプテンのウッドが直々にスカウトしたとか。今後の活躍が
ホグワーツでは知らない人はいないでしょう、東洋からの新入生と並んで話題の生徒の
!!
!!
﹃さあ今年もやって参りましたクィディッチ・ホグワーツ杯、今年の第一試合はスリザリ
9. Games begin!!
233
それに旦那って誰のこと
いず
おっと怖い旦那さんが観客席からこちらを睨んでいますので、ここら辺にしときま
私知らないよそんなの
?
す﹄
何そのランキング
!?
出てそうだし。
あ、でもシロウの奥さんになる人、けっこう苦労しそう。なんかシロウ、女難の相が
れは誰かのお嫁になる予定だけど、今はまだそうなりたいと思う人はいないかなぁ。
!?
!!
バトラー
⋮⋮⋮⋮︵ ゜д゜︶ハッ
﹂
!
選手
!!
!!
スリザリンの妨害を華麗に避け、ブラッジャーの襲撃を難なくかわします
!!
﹃クワッフルが投げられ、試合開始です 最初にボールを取ったのはアンジェリーナ
飛び回ったあと、何処かに消えてしまった。そしてフーチ先生がクワッフルを構える。
た。ブラッジャーは勢いよく飛び出し、スニッチは私とスリザリンのシーカーの周りを
フーチ先生がフィールドの中央に出てきて、クワッフル以外のボールを競技場に放っ
ですね﹄
⋮⋮⋮⋮何か聞こえましたが気のせいでしょう。さて、そろそろ準備ができたみたい
﹁執事と呼べ
!!
さって、今やシロウはホグワーツのブラウニーやら白 髪の家政f ホワイトヘアー
を掃除している姿や早朝に鍛練している姿がみられるようですね。彼の見た目も合わ
﹃ちなみにもう一人話題の東洋からの新入生、シロウ・エミヤ君ですが、ホグワーツの城
234
﹄
いやはや綺麗に飛びますね、何度か誘いましたがまだ一度も彼女は僕とデートしてくれ
ません﹄
﹃ジョーダン
﹄
かいます、キーパーが構える。そして⋮⋮⋮⋮ゴール
です
グリフィンドール、十点先制
!!!!
﹃ただの余興ですよ、先生。さて、アンジェリーナ選手、スリザリンのゴールポストに向
!!
意識を切り替える。速くスニッチを見つけないといけないから。
アンジェリーナ先輩が得点した。ついつい嬉しくてその場で回ったけど直ぐに私は
!!
しかしかわした
そしてそのままシュート
!!
だがウッドがセーブしました 流
!! !!
!!
シュートだ
ゴール
グリフィンドールさらに十点追加です
!!!!
﹄
!!
ア リ シ ア、
!!
が動き始めた。
アリシア先輩がさらに十点得点した。けど喜びもつかの間、ついにスリザリンチーム
!!
リ ザ リ ン の ゴ ー ル ポ ス ト に 右 へ 左 へ 動 き な が ら 向 か い ま す。い け っ
そしてクワッフルはグリフィンドールのアリシア・スピネットへ。アリシア選手、ス
石ホグワーツでも他に見ない名キーパーです
!!
持って真っ直ぐウッドに向かいます。そこでフレッドがブラッジャーを打ち込む
﹃変 わ っ て 攻 撃 は ス リ ザ リ ン で す。キ ャ プ テ ン の マ ー カ ス・フ リ ン ト が ク ワ ッ フ ル を
9. Games begin!!
235
まず最初に向こうのキャプテンのマーカスさんが、ビーターでもないのに棍棒を使っ
てブラッジャーを打ち込み、ウッド先輩にぶち当てた。当り所が悪かったらしく、ウッ
ド先輩はそのまま落下、地面で気絶してしまった。
そこからスリザリンは得点を重ねる。無論こちらも得点を重ねたし、マーカスさんの
反則で得たペナルティも決めたけど、今は六十 対 六十の同点になってる。
さらにはこちらのチェイサーに執拗にマークして、観客席のヴェールに誘導して落下
今スリザリンのポールの足元に光る物があったような⋮⋮。
させたりした。しかもそれを悪いと思っていないようでたちが悪い。
あれ
もう一度目を凝らすと、いた スニッチが飛んでる。私は直ぐに最高速度に達する
?
チャンス
よ う に 身 を 屈 め て 一 気 に 加 速 し た。向 こ う の シ ー カ ー は ま だ 気 付 い て い な い。今 が
!
タックルを食らわせてきたのだ。
え た。そ し て 横 を 見 る と 驚 い た。ブ ラ ッ ジ ャ ー か と 思 っ た ら な ん と マ ー カ ス が 私 に
と思ったら急に衝撃が横から来た。危うく箒から落ちそうになったけど、なんとか耐
!
一歩間違えると死ぬ高さに今私はいる。死ぬかもしれなかったんだよ
貴方人を殺
何 て 言 っ て 離 れ て い っ た。冗 談 じ ゃ な い。こ ち ら は 箒 か ら 落 ち そ う に な っ た の だ。
﹁わりぃわりぃ、豆つぶみたいにちっこくて見えなかったわ。アハハハハハッ﹂
236
?
しそうになったんですよ
﹃ジョーダン
﹄
﹃ええー、誰が見てもはっきりと分かるインチキのあと⋮⋮﹄
なった。
輩 の 手 元 が 狂 っ て シ ュ ー ト は 外 れ て し ま っ た。そ し て そ の ま ま ス リ ザ リ ン の 攻 撃 に
その後、グリフィンドールにペナルティスローが与えられたけど、アンジェリーナ先
?
いい加減にしないと⋮⋮﹄
を小さいって⋮⋮小さいって⋮⋮⋮⋮⋮⋮
ウフフフフ⋮⋮⋮⋮クスクスクスクス⋮⋮⋮⋮
御手
ええ、ええ。誰にでもあるような間違いでしょうね、スリザリンでしたら。それに私
シーカーを殺しそうになりました。誰にもある間違いですよね。きっと⋮⋮⋮⋮﹄
﹃ハイハイわかりました。ええースリザリンのチェイサーは危うくグリフィンドールの
﹃ジョーダン
﹃ええー、大っぴらで不快なファールのあと⋮⋮﹄
!!
!!
さてマーカスさん、そしてスリザリンの選手の皆さん。覚悟は宜しいですか
?
9. Games begin!!
237
洗いは済ませましたか
神仏様へのお祈りは フィールドの隅でみんな揃ってガ
タガタ震えて命乞いする心の準備は宜しくて
?
?
?
気にしないでおきましよう﹄
﹃⋮⋮⋮⋮なんかグリフィンドールのシーカーから何やら黒いオーラが漂ってますが、
238
あの目、まるで何かに暗示
?
うとしている。まさかな⋮⋮⋮⋮。
が箒のコントロールを失ったのではない。誰かがマリーの箒に干渉して箒から落とそ
けると、マリーが箒のコントロールを失っていた。いや、正確には違うだろう。マリー
そこで回りから悲鳴が聞こえ、ある一点を皆は指差していた。オレもそちらに目を向
をかけているような⋮⋮⋮⋮。
一心に一点を無表情に見つめている。何をしているのだ
まぁそれはそれとして。先程から気になっていたが、クィレルの様子がおかしいな。
たくもない。
⋮⋮⋮⋮気のせいだと思いたい。オレと関わる女性がみんなアクマになるなんて考え
一瞬懐かしくも恐ろしい雰囲気がマリーから感じられたが⋮⋮⋮⋮気のせいだろう
Side シロウ
10. Games end. And.......
10. Games end. And.......
239
そう思い、再びクィレルのいた観客席を見ると、近くのスネイプが何やらブツブツと
呟いていた。クィレルは相変わらず無表情にマリーを見つめているもう一度マリーを
確認すると、箒の動きが収まりはじめていた。恐らく、クィレルとスネイプのどちらか
が箒に干渉し、もう片方が解呪しているのだろう。正直、今までの様子から、前者がクィ
レル。後者がスネイプと判断できる。
だが目的がわからん。それになんとか穏便にことを済ませる必要がある。どうすれ
ばいい。
と、ここで隣で観戦していたロンとハーマイオニーの会話が聞こえてきた。
﹂
?
﹁私に任せて﹂
﹁だとすれば僕達はどうすればいいの
﹂
﹁何かしている⋮⋮⋮⋮箒に呪文をかけてる﹂
ロンが双眼鏡を覗きこむ。
﹁うむ﹂
﹁ハグリッド、双眼鏡借りるよ﹂
﹁スネイプよ、見てみなさい﹂
﹁何がだよ
﹁思った通りだわ﹂
240
?
10. Games end. And.......
241
そう言ってハーマイオニーは自分の席を離れ、スネイプの元に向かった。二人とも
クィレルまでには目が向かなかったようだな。だが、今の状況を打開できるのなら任せ
よう。オレが手を出すと確実に負傷者が出かねん。今はハーマイオニーを信じるとし
よう。
しばらくすると、スネイプたちの観客席で騒ぎが起こった。口の動きを見るに、どう
やら小火騒ぎらしい。クィレルとスネイプの両方の目がマリーから逸れた。同時にマ
リーは片腕で捕まっていた箒に乗り直し、一直線に加速した。
あの状況でもスニッチを探し、尚且つ体制を立て直した直後に捕まえに行くとは。あ
る意味精神面がしっかりしているな。スリザリンのシーカーも漸く気付いたようだが、
あれはマーカスか。またマリーにタックルを食らわせたな、懲りないやつめ。
遅い。既にマリーがスニッチを捕まえられる距離にいる。
む
口を押さえて、吐くのか
この場で
?
いやまさ
?
怪我しても擦り傷程度だr⋮⋮⋮⋮ん
何をしているのだ、マリーは
黄金に光るスニッチを。
かな⋮⋮⋮⋮。だがマリーはその場で吐いた。
?
?
今度ばかりはマリーも地面に投げ出された。だが幸い地面すれすれの高さだったため、
?
﹁あいつは掴んだんじゃない、飲み込んだんた
﹂
﹄
試合
!!
な。それ見ろ、フーチ先生に叱られた。
やはり悪いことはすべきではないな。
Side マリー
何やらキナ臭くなってきた。
何せ自分達の所業を棚にあげた発言だから
しかしあのとき、クィレルは何をしていた
?
﹁スネイプだったんだよ、僕たち見たんだって﹂
?
スリザリンチームの首を絞めかねんぞ
マーカスが喚いているが、マリーは何もルール違反をしていない。むしろ今の発言は
!
!!
!!
終了です、二百四十 対 九十 でグリフィンドールの勝利
﹃マリー・ポッターがスニッチを掴んだ グリフィンドールに百五十点追加
242
試合のあと、私の箒がおかしくなったことについて、ロンとハーマイオニーから、ハ
グリッドの小屋で説明を受けていた。シロウは横で黙って聞いている。ハグリッドも
一緒にいる。
﹂
?
﹁ハーマイオニーも見たんだ、君の箒に呪いをかけてたんだよ﹂
﹁馬鹿な、スネイプはこの学校の先生だぞ なぜマリーに呪いをかけなきゃならん
﹁僕たち見たんだよ。ハロウィンの日の夜にに、スネイプが足に怪我していたのを﹂
?
守っているものを盗ろうとして﹂
ハグリッドがビクリと大きく震えた。
三つ首の犬がこの城にいるのか
?
ケルベロスのような
だったこと。その金庫は、私とシロウがハグリッドと一緒に行った、小さな小包しかな
ハロウィンの少し前に、グリンゴッツに強盗が入ったけど、襲われた金庫は既に空
した。
そして私はロンとハーマイオニーの推測を聞き流しながら、シロウに事の次第を説明
?
﹁なんでフラッフィーをお前さんたちが知っとるんだ
﹁待て、三頭犬とはなんだ
﹂
?
﹁あ、そういえばシロウにはいってなかったね﹂
?
﹂
﹁え え、き っ と 三 頭 犬 の 裏 を か こ う と し て 噛 ま れ た の よ。何 か 知 ら な い け ど あ の 犬 が
10. Games end. And.......
243
かった金庫だったこと。それから真夜中に抜け出したときに道に迷い、偶然入り込んだ
部屋が立ち入り禁止の部屋だったこと。そこにいたのが三つ首の犬だったこと︵可愛い
と 思 っ た の は 内 緒︶。そ し て そ の 足 元 に 引 き 戸 が あ っ た こ と。偶 然 と は 思 え な い こ と
を、要点を纏めながらシロウに説明した。
話を聞いたシロウは暫く考えていたけど、何も言わずにただ、
﹁わかった﹂
とだけいった。そして私と一緒にハグリッドたちの所に戻った。
﹂
┃ ┃ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ っ た ギ リ シ ャ 人 の や つ か ら 買 っ た ん だ。そ し て 俺 が ダ ン ブ
﹂﹂
ルドア先生に貸した、守るために⋮⋮﹂
﹁﹁何を
﹁もうこれ以上聞かんでくれ、重大機密なんだ。﹂
﹂
﹁でもハグリッド、スネイプがそれを盗もうとしたんだよ
﹁だからそれはないと言っとるだろう
呪いをかけてい時はね、対象から目を逸らさないのよ 私
たくさん調べたからわかるの﹂
?
ハグリッドもロンたちも一歩も譲らない。
?
?
﹁ハグリッド、知ってる
?
?
244
でも待って
るんじゃ
あのとき、箒にぶら下がりながら周りを見ていたけど、スネイプ先生はも
目を逸らさないのが必要条件の一つとすれば、近くにいたクィレル先生にも当てはま
?
もしかすると、私達とんでもないことを見落としてるんじゃ⋮⋮⋮⋮
なく、なんだか物凄く冷たい目をしながら、瞬きせずに私を見ていた。
ちろん、クィレル先生もこちらを一心に見つめていた。いつものオドオドした感じじゃ
?
﹁﹁ニコラス・フラメルって人が関係してるんだね︵のね︶
た。
﹂﹂
そう言ってロンはシロウを、ハーマイオニーは私を有無を言わさず引きずっていっ
?
れはダンブルドア先生とニコラス・フラメルだけが⋮⋮﹂
すようなことは絶対せん。フラッフィーが守っているものについても忘れるんだ。あ
﹁なんでマリーの箒があんな動きをしたかは知らん。だがスネイプ先生は生徒に手を出
﹁﹁でも⋮⋮﹂﹂
じょる。フラッフィーのことについてはもう忘れるんだ。﹂
﹁いいかお前さんたち、よく聞け。お前さんたちは知らんくていいことに首を突っ込ん
10. Games end. And.......
245
246
⋮⋮⋮⋮ ハ グ リ ッ ド。も う ち ょ っ と 口 を 固 く し た 方 が い い と 思 う よ
のに、もったいない。
お茶とお菓子を貰ったならお礼言わないと失礼だよ
自 分 に 腹 を
それに私、まだ飲みかけだった
立てるのはいいけど、それなら改善しなくちゃ。あとロンとハーマイオニー。二人とも
?
モフしよう。
仕方ない、今度ハグリッドの小屋にいたファング、少し大きな黒いハウンド犬をモフ
?
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
時は師走半ば、外の眺めは一面の銀世界。
故川端康成氏の名作の序文にある言葉がある。
﹁かわいそうに、クリスマスなのに帰ってくるなと言われている哀れな生徒がいるとは
ンとの合同授業。グリフィンドールの生徒はげんなりとした様子で授業を受けていた。
クリスマス休暇が明日に迫った学期最後の授業は、魔法薬であった。加えてスリザリ
る。
た。だがそうもいかない部屋もある。魔法薬の授業の教室である地下牢がその例であ
け抜けていく。教室も似たようなものだが、それでも人がいるだけ幾分かマシであっ
だが、授業はしっかりと受けなければならない。廊下は冷え込み、生徒達は足早に駆
皆がクリスマスを待ち望み、休暇が来ることを楽しみにしていた。
だよう。
流石に学舎にはトンネルはないが、夜が明けた窓からの眺めは、正に雪国に迷いこん
﹃国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。﹄
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
247
ね﹂
マルフォイが嫌みったらしくマリー達を見ながら言う。他のスリザリン生徒もニヤ
﹂
ニヤと嫌な笑いを浮かべながら、マリー達を盗み見ている。だが、当のマリー達はとい
うと、
﹂
﹁先生、ヤマアラシのトゲが足りないので、予備の材料を少し頂いていいですか
﹁どれだけ足りんのだ
﹁5本一束ほど﹂
Side マリー
大して気にもしていなかった。というかそもそも聞こえていないようだった。
﹁ありがとうございます﹂
﹁ふむ、それならそこの棚の上にある。そこの椅子を使っていい﹂
?
?
248
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
249
ああ本当に寒い。最後の授業が火を使う授業でよかった。魔法薬の中でも火を使わ
それ
ないものもあるから、今日がそんな薬ならどうしようかと思った。材料はスネイプ先生
が快く譲ってくださったし、あとは指示通に煮込んで撹拌して完成だ。
なんかスリザリンの子達がニヤニヤしながらこちらを見てたけど何だろう
にマルフォイがなんか言ってたけど、どうでもいいや。
あ れ
な ん か 騒 が し い ⋮⋮⋮⋮ あ ら ら。マ ル フ ォ イ が 余 所 見 し て て 失 敗 し ち ゃ っ
いって思う。
楽 し い な。な ん か 料 理 み た い で ワ ク ワ ク す る。い ず れ は 自 分 で 色 々 と 調 合 し て み た
の色になった。成功だね。いやー杖を振るのも魔法使いっぽいけど、私はこっちの方が
さて、トゲを刻んですりおろして、粉末を大鍋に入れて混ぜる。おお、言われた通り
?
ハグリッドが樅の木を背負って歩いていた。
地下牢を出ようとすると、大きな樅の木が足を生やして動いていた。うん、間違い。
業が終わった。
まぁそんなこんなで、私の魔法薬の完成度でグリフィンドールに十点貰って最後の授
ない、基本部分の失敗だし。大体火を使うのだから注意しないと。
たか。自業自得だね。スリザリンに甘い、と言われてるスネイプ先生も流石に擁護でき
?
﹁やぁ、ハグリッド。手伝おうか
﹂
?
あれは従兄弟のダドリーよりも酷い。ダドリーも他人
?
﹁ウィーズリー、小遣い稼ぎかい 卒業したら森番として雇ってもらったらどうだい
って言ってた。うん、そこら辺はきっちり線引きしていたんだね。
つの家族については何も言わない﹂
﹁僕が気に入らないのはそいつ本人だけであって、そいつの家族じゃない。だからそい
があったけど、
をいじめたりしていたけど、家族までは貶めたりしなかった。あとで理由を聞いたこと
ういう育ち方したんだろう
らしくなった。私にちゃんとした家族がいないと嘲り、さらには他の人も嘲る始末。ど
そこにマルフォイが来た。あのクィディッチの試合以来、マルフォイは更に嫌みった
﹁すみませんけど、そこ退いてくれませんかね﹂
﹁おお、ロンか。いや、ええ。俺一人で大丈夫﹂
250
?
そしたら少しはそのみすぼらしい身形もマシになるだろうよ﹂
?
﹁黙れ、マルフォイ。それ以上言ってみろ。許さないぞ﹂
﹂
﹁何だい 僕は親切にいってあげてるのに。君たち家族にとっては森番の小屋も宮殿
みたいなものだろう
?
﹂
?
双方とも、もういってよろしい﹂
﹁そうか、わかった。喧嘩両成敗だ、グリフィンドールとスリザリンから共に五点減点。
﹁マルフォイがロンとその家族を侮辱したんです。だから私も止めませんでした﹂
﹁何を言ったのだ
見過ごせないことをマルフォイが言ったので﹂
﹁すみません、スネイプ先生。喧嘩は禁止されているのはわかってるんですが、それでも
スネイプ先生が来た。うん、これは好都合。
﹂
ロンがマルフォイに掴みかかり、今にも殴ろうとしたそのとき、
?
?
﹁ウィーズリー、何をしている
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
251
スネイプ先生はそう言って去っていった。うん、やっぱ話せばちゃんとわかってくれ
る先生だよ。なんかロンが ﹁僕らと扱いが違うような﹂ って言ってたけどそれは違
因みにマルフォイは、自分の行動を減点対象にされたことにショックを受けて
うと思う。みんながスネイプ先生を毛嫌いするから不当な扱いを受けるんじゃないか
なぁ
いるみたいで突っ立ってた。
?
きいツリーだった。
﹂
﹁お前さん達、休みまであと何日だ
﹁明日から休みだよ
?
﹁そうだね﹂
﹁あ、そういえば⋮⋮⋮⋮マリー、ロン、シロウ。図書館に行きましょう﹂
?
﹂
叔母の家でもクリスマスツリーはあったけど、あれとは比べ物にならないほど豪華で大
リーがあり、フィリットウィック先生とマグゴナガル先生が飾り付けをしていた。叔父
私 達 は ハ グ リ ッ ド と 一 緒 に 大 広 間 に い っ た。す る と 正 面 に は 大 き な ク リ ス マ ス ツ
﹁ほれ、元気を出せ。一緒においで。大広間がすごいぞ﹂
252
﹁ん
明日から休みなのに勉強するのか
﹂
?
どこに⋮⋮⋮⋮ってシロ
? !?
そのモップはどこから取り出したの そして何か床を掃除し始
?
めたし、本当にブラウニーだね。
ウ何をしてるの
うん、ここはシロウと戦略的撤退を⋮⋮⋮⋮っていない
あ、嫌な予感。また二人ともシロウと私をつれていく空気だ。
﹁ニコラス・フラメルについて僕たちは調べてるんだ﹂
﹁違うの、ちょっと調べものをね﹂
?
﹂
?
か﹂
んですよ。ですからこう、なんと言うんですかね ツイツイ癖というかなんと言う
﹁ああいや、日本の学生はですね、自分の学舎は自分で掃除をするように教育されている
﹁⋮⋮⋮⋮なに
てきまして。気がついたらこうしてモップを握っていて⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ああ、フィルチさん。こんにちは。いえね、この泥んこを見ると何かこう、ウズウズし
﹁小僧、何をしている﹂
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
253
?
へえそうなんだ。そういえば私達当たり前のように土足で歩いているけど、掃除する
人がいなかったらこの城は酷いことになっているだろうね。それじゃあ私も⋮⋮
でも⋮⋮⋮⋮﹂
?
?
以来ペチュニア叔母さんが、マージ叔母さんが来るたびに、フィッグさんの家に私を
に行ったこともある。
ダーをしてるんだけど、いつも私に必ず一匹けしかけてきた。足を何度も噛まれて病院
から、帰って来ない方がいいって書いてあった。マージ叔母さん、ブルドッグのブリー
なんでも今年のクリスマスにマージ叔母さん、バーノン叔父さんの妹が来るみたいだ
そういえばペチュニア叔母さんから手紙が来ていたっけ
拒否されちゃった。まぁいいか。次から自分でやればいいし。
﹁⋮⋮⋮⋮わかりました﹂
﹁早く失せろ﹂
﹁え
﹁いらん、さっさと失せろ﹂
お手伝いしようかと﹂
﹁こんにちは、フィルチさん。シロウの今の話に私も思うことがありまして。ですから
﹁小娘、お前まで何を﹂
254
預けていた。うん、正直助かった。もともとこのクリスマスは帰るつもりはなくて、ホ
グワーツに残るつもりだったけど、帰らなくていい理由が増えて安心している。
あと手紙の最後に、怪我と病気に気を付けるよう書かれていたのを読んだときは、不
覚にも泣きそうになった。うん、私叔母さんに嫌われてなかったと改めて実感出来たと
きだった。
┃┃ ⋮⋮⋮⋮⋮⋮ゃあハグリッド、またね。ロン、行きましょう﹂
そう思いつつ、私はハグリッドに手を振った。
も。
うでもいいけど、お願いだから問答無用で連れてかないで。せめて一言言ってね二人と
そう言ってロンとハーマイオニーは、私とシロウを引きずって図書館に向かった。ど
﹁またね、ハグリッド﹂
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
255
Side シロウ
まったく、若い子達はエネルギーが有り余っているのか
調べものをするのは良いが、しらみ潰しなのはどうかと思うぞ
プのことを疑っているみたいだしな。
﹂﹂
それにまだスネイ
ああもう、見
そもそも魔法使いではないのだが。
ルだろう なんでハーマイオニーは近代のことが書かれている書物を漁っている
あれは14世紀の錬金術師だぞ
そしてロンもだ。何故に現代の著名な魔法使いの本で調べてるんだ
ていてじれったい。
﹁﹁なに
?
が白であることは間違いな⋮⋮⋮⋮おい、お前たちが調べているのはニコラス・フラメ
い。とするとやはり怪しいのはクィレルといったとこか。確信は持てないが、スネイプ
あのあと個人的に聞いたが、スネイプは箒にかけられた呪いの解呪に努めていたらし
?
?
﹁ニコラス・フラメルって錬金術師じゃなかった ほら賢者の石を作ったことで有名
?
?
?
?
﹁ねぇねぇ二人とも﹂
256
な。確かマグルの世界でも彼についての本も出てた記憶があるし﹂
?
⋮⋮⋮⋮⋮⋮マリー、君はなんと言うか、すごいな。二人が必死に探している情報を
﹂
あっさりと言うとは、しかも魔法界で知ったのではなく、マグルの本に書いてあったと
なって、ロンなんて唖然としているぞ
﹁だって二人とも私達の話を聞かなかったでしょう
いたし﹂
が。まぁいい。
問答無用で私達をつれまわして
?
﹁じゃあ私は明日から実家に戻るけど、三人ともお願いしていい
﹂
まうのも仕方のないこと。むしろマリーが少し成熟しすぎている気がしないでもない
まああの二人は少し視野が狭い気がしないでもないな。まぁ若いゆえ、突っ走ってし
﹁﹁⋮⋮⋮⋮ごめんなさい﹂﹂
﹁それに教えてくれるもなにも、思い出したのはついさっきだし﹂
﹁﹁う⋮⋮⋮⋮﹂﹂
?
?
?
﹁ねえマリー。どうして今まで教えてくれなかったの
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
257
﹁﹁﹁うん︵ああ︶﹂﹂﹂
置いてあった。ロンとシロウも既にいる。ただシロウの服装を見るに、この寒いなか外
あれから数日が過ぎ、クリスマスになった。着替えて談話室に行くと、プレゼントが
Side マリー
こうして夜が更けていき、冬季休暇が始まる。
﹁賛成﹂
﹁ならそろそろ大広間に行こう。時間もいい頃だ。晩餐に向かおうか﹂
話は纏まったな。
﹁私も自分なりに調べておくから﹂
258
で鍛練をしてきたらしい。ノースリーブの黒いシャツと黒いジャージのズボンを着て
いる。そしてソファーの傍らに、日本の木刀を二本立て掛けていた。元気だねぇ。
﹁おはようシロウ、ロン。メリークリスマス﹂
﹁おはようマリー、メリークリスマス﹂
﹁ああマリー、おはよう。メリークリスマス﹂
私は二人に挨拶したあと、シロウのもとに向かった。
﹂
?
先ず私が開けた包みはハグリッドからだった。木彫りの縦笛で、息を吹き込むと、ま
そうして私達はプレゼントをあけはじめた。
﹁﹁うん︵ああ︶﹂﹂
﹁いいよ気にしないで、それよりプレゼント開けちゃおう﹂
﹁あ、そうなんだ。二人ともありがとう﹂
﹁ああ、あれはオレ達三人へのプレゼントだよ。君が起きるのを待っていたんだ﹂
﹁ねぇ、あのプレゼントの山ってなに
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
259
るで梟の鳴き声のような綺麗な音色が響いた。
次に手に取ったのは、ダーズリー一家からだった。
マグルのお金
変な形
﹂
!
﹁いつもありがとうございます﹂
﹁なにそれ
﹁これあげる﹂
送り主をみると、納得がいった。
?
ロンが物凄く喜んでいたのがおもしろかった。
?
さて、次の包みは。あれ これもダーズリー一家から
う
?
?
ンピースだった。今まであの家族から貰ったもので、一番嬉しいものだった。因みに今
か喧嘩の勝ち方の手引き書。ペチュニア叔母さんからは、真新しい白の裾長、長袖のワ
ペチュニア叔母さんとダドリーから別に送られていた。中身はダドリーからが何故
?
なんで二つもあるのだろ
そう書かれていた手紙の裏には、五十ペンス硬貨がテープで貼り付けられていた。
﹃お前の言付けを受け取った。クリスマスプレゼントを同封する﹄
260
着てるのは、ホグワーツに来る前に叔母さんが買ってくれた桜色のワンピース。
更にプレゼントを開ける。すると今度はロンが物凄く驚いていた。
﹂
﹂
﹁シロウとマリーが今持っているプレゼント、送り主知ってる﹂
﹁へ
?
﹁ほう
?
ンブレムが胸についている。シロウのは⋮⋮⋮⋮赤
紅
の袖に、残りは真っ黒な
?
を 象 っ た ブ ロ ー チ の よ う な も の。そ の 目 の 部 分 に 小 さ な 赤 い 宝 石 が は め ら れ て い た。
そう言って私とロンに、シロウが包みを渡してきた。なかを開けると、ロンには獅子
﹁ああそうだ、マリー。ロン。君たちにこれを﹂
セーターだった。それを見てシロウは懐かしそうな顔をしていた。
?
包みを開けると、真新しいセーターが入っていた。私のは白い下地に桜色で獅子のエ
に送るなんて。しかも僕のより気合い入ってるし﹂
﹁それ、僕のママからだよ。でも、あーあ。まさかウィーズリー家特製セーターを君たち
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
261
私にはネックレスが入っていた。
た﹂
﹁え
シロウが作ったの
﹂
!?
﹁何を言う
﹂
できないことなど山ほどあるぞ
﹂
?
?
﹂
?
夫婦剣の片割れだ。もうひとつ箱に入っているだろう
﹂
﹁ああ、それは中華剣の一つでな。伝説の鍛治師夫婦が鍛えた名剣をもとにして作った
に赤い宝石がはめられていた。
形をしていたからだ。それにその装飾がけっこう凝ったもので、恐らく鍔にあたる部分
そう、それは気になっていた。見た感じ剣であるのはわかるけど、まるで鉈のような
なに
﹁あまり信じれないなあ。ところでマリーのネックレスにぶら下がっているの、あれは
?
﹁ねぇシロウ。君ってできないことあるの
﹁ああ、少し地下牢を借りてな。これでも彫金には少し自信はある﹂
?
﹁ロンのそれは、マントを止めることができる。裏には太陽のルーンを彫らせてもらっ
262
?
箱を改めて見ると、確かにもうひとつ入っていた。こちらには黄色い宝石がはめられ
ていた。
だ。いつかマリーが心に決めた人が出来たときに、その残りの片割れを渡すといい﹂
﹁その夫婦剣はな。どんなに離れていても互いに引き合うという性質を持っていたそう
﹁わかった。ありがとう、シロウ﹂
﹁僕も、ありがとう﹂
﹁どういたしまして﹂
因みにハーマイオニーには、ロンのと鏡写しの獅子のブローチを送ったらしい。本当
にシロウは器用だよね。
そして私は最後のプレゼントに手を伸ばした。何だろう、すごく軽い。開けてみる
﹂
と、キラキラしたマントのようなものが出てきた。
それを見てロンが目を見開いた。
それ透明マントだよ
!
﹁僕それ知ってる
!
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
263
﹁﹁透明マント
﹂﹂
マリー、羽織ってみて
﹂
!
謎を残したものになった。
今年のクリスマスは、今まで生きてきたなかで最高のものだったと同時に、いくつか
送り主の名前も書かれていない。いったい誰からだろうか。
﹃君のお父さんから預かっていた。君に返すときが来たようだ。上手に使いなさい﹄
シロウに言われて手紙を拾い上げると、こう書いていた。
﹁手紙が落ちたぞ﹂
た。⋮⋮⋮⋮驚いた。首からしたがない。本当に透明になってる。
ロンに言われてマントを羽織る。けど何が違うのかわからないから鏡の前に移動し
!
?
﹁きっとそうだよ
264
﹁ん
どうした
﹂
﹁その大きな宝石みたいなの何
?
とても綺麗だけど﹂
﹁ふーん。じゃあその手紙の写真は 何かシロウに似ている子供が何人か映ってるよ
の相手と交信できる魔法アイテムさ。謂わば水晶玉のようなものだ﹂
﹁ああ、これは知り合いのハッチャケじいさんからもらったものだ。これを使えば特定
?
?
﹁そういえばシロウ。僕さっきから気になっていたけど﹂
11. 学期末最後の日とクリスマスプレゼント
265
?
うな⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
?
シロウってば
﹂
!
のはいかん﹂
﹁あっ。ちょっと待ってよシロウ
!
﹁⋮⋮⋮⋮さて、朝食を食べに行くとしようか。いくら休暇中とはいえ、不健康に暮らす
﹁本当に
﹁世話になった人たちの写真だ。今何をしているかは知らん﹂
266
隠れる
それならこのマントは使えるのではないだろうか
正直差出人のわか
?
に見回りしているのは管理人のフィルチさんだけ。この広い城を一人で見回るとなる
ら今は他にない。しかも現在時間は夜中ごろ。よほど夜遅く寝る先生じゃない限り、夜
らないアイテムを使うことに抵抗があるけど、これほどぴったりなアイテムは残念なが
?
に残る手段は隠れて入ることだけ⋮⋮⋮⋮ど⋮⋮
のサインが必要、入学したての一年生がもらえることはないだろう。となると、最終的
棚しかない。けどあそこは先生の許可がないと入れない。しかも許可を貰うには先生
書館の普通の本棚には大した情報の書いてある本はないだろう。となると閲覧禁止の
そういえば、ニコラス・フラメルや賢者の石についてまだ調べていなかった。でも図
く育ってきたから、当たり前と言えば当たり前だけど。
んの目的で。考えても心当たりがなかった。まぁこの11年、魔法とはなんの関係もな
その日の夜、私は透明マントが気になって寝れなかった。誰が送ったのか、何故、な
Side マリー
12. 空き教室の鏡 そして⋮⋮⋮⋮
12. 空き教室の鏡 そして…………
267
と、同じ場所に来るのはそうとう時間がたってからのはず。ならば行動するのは早いほ
うがいい。
私は急いで着替えて ︵クリスマスプレゼントに貰ったセーターとワンピースね ついでに寒いから白のストッキングも、あれ 何だか私白ずくめ
?
︶ 、透明マントと
?
カンテラを持って談話室に降りた。幸い一年生女子部屋には私しかいなかったから他
?
⋮⋮⋮⋮シロウなの
﹂
の人を起こす心配もなかった。暖炉の前を横切って出入り口に向かおうとすると、
誰ッ
?
﹁⋮⋮⋮⋮やはり行くのだな﹂
﹁ッ
!?
﹁ああ。それで
何しに行くのだ
?
﹂
シロウがパジャマじゃなくて普段着のユニ○ロでソファに座っていた。
!?
﹁うん、そう﹂
﹁だが大丈夫なのか
﹁音は消せないってこと
﹁その辺は気を付けるとしか言えないかな﹂
?
?
﹁ああ、その通りだ﹂
足音とか呼吸とか﹂
そのマントは確かに便利だが⋮⋮﹂
﹁賢者の石についてか﹂
﹁うん、これから図書館に行こうと。閲覧禁止の棚のところに﹂
?
268
﹂
﹁そうか⋮⋮⋮⋮ならオレも着いていこう﹂
﹁ふぇ
﹂
?
﹁誰だ
﹂
けど早く棚に戻すことが最善と思い、すぐに棚に戻した。
叫びをあげているからだった。運良くすぐに閉じたため、雄叫びはあまり響いていない
なぜなら開いた瞬間シロウが本を閉じたからだ。理由はすぐにわかった。その本が雄
シロウと打ち合わせている。手頃な本をひとつ取り上げ、開いた。いや、開こうとした。
止と言えるような怪しい本が何冊も並んでいた。今晩は試しだからすぐに帰る予定で
マントを脱いで、ランタンをその上に重石代わりにおく。棚を見ると、流石は閲覧禁
たどり着くことができた。
だったからなんなく移動できた。途中で誰とも会うことはなく、私達は閲覧禁止の棚に
そ し て 私 と シ ロ ウ は 図 書 館 に 向 か っ た。マ ン ト は 二 人 で 被 っ て も 大 丈 夫 な 大 き さ
﹁じゃあお願い﹂
﹁ああ、オレも気になっていたしな﹂
﹁⋮⋮⋮⋮いいの
ることぐらいならわかる﹂
﹁幸い比較的にオレは気配に敏感だ。ならば誰とまではわからんが、何かが近づいてく
?
!
12. 空き教室の鏡 そして…………
269
しまった、フィルチさんがきた いったいどこからきたの
し、急いでこの場を離れないと
!
!
シロウも驚いている
!?
あれはクィレル先生の声
﹁知らないとは言わせませんぞ
あとはスネイプ先生
﹁な、なんのことだか﹂
﹂
?
合のときの冷たい目を見たせいか、クィレル先生は今一つ信用出来ない。それよりも今
まるでスネイプ先生がクィレル先生を脅しているよう。でもあのクィディッチの試
ではありますまい﹂
﹁しらばっくれるのも程々にですぞ 我が輩を敵に回すとどうなるか、知らないわけ
?
?
?
﹁な、何故あなたが、こ、ここここに﹂
了承したのか、小さく頷いて移動を始めた。と、
フィルチさんの気配も遠ざかり、寮に戻ろうとシロウに目配せした。シロウもそれを
と私にマントをかけてその場から離れた。
忘れてしまい、床に落として割ってしまった。でも構っている暇はない。急いでシロウ
急いで透明マントを被ったけど、ここでまたやらかしてしまった。ランタンの存在を
﹁逃げても無駄だぞ。見つけ出してやる﹂
270
は寮に帰るのが先決だ。私とシロウはその場から離れたけど、運悪く進行方向にミセ
ス・ノリス、フィルチさんの飼い猫がいた。この猫、何の恨みがあるのか、いつも私を
執拗に追いかけてくる。基本的に動物ならどんなものでも好きだけど、この猫だけは好
きになれない。
とりあえず、見つかる前に移動しようと思ったけど、またまた運悪く後ろにフィルチ
さんが近づいてくる気配がする。八方塞がりかと思った途端、後ろから急に引っ張られ
て、一つの部屋に入った。
あの猫と管理人がいなくなるまでここにいる︶
?
いる形跡がある﹂
﹁長らく使われていない、というわけではないみたいだな。定期的に誰かが出入りして
⋮⋮⋮⋮
い。机 や ら 椅 子 や ら が、積 ま れ て 壁 際 に 集 め ら れ て い る。で も 妙 だ。何 て 言 う か こ う
落ち着いた後今自分たちがいる場所を確認した。どうやら使われていない教室みた
汗が吹き出した。せっかくお風呂に入ったのに、残念。
で、一息ついて私達はマントを脱いだ。とても緊張していた状態がとけたのか、一気に
アイコンタクトで会話して、私達はじっとしていた。ようやく気配が離れていったの
︵わかった︶
︵マリー、静かにしていろよ
12. 空き教室の鏡 そして…………
271
﹁そうだね、それにどんなに見積もっても一年たつかたってないかしか放置されていな
い﹂
﹁だな。埃のつもりかたがまだ新しい﹂
改めて部屋を見渡す。確かに誰かが定期的に出入りしている雰囲気がある。ふと部
屋の隅っこ、窓側とは反対の壁際に大きな鏡が置いてあった。シロウも気になったみた
いで二人で近づいていった。鏡をのぞきこむと⋮⋮⋮⋮ッ
﹂
?
﹂
?
﹁マリー、鏡に刻まれている文を読んでみろ﹂
﹁シロウ
﹁⋮⋮⋮⋮なるほどな⋮⋮⋮⋮﹂
シロウがこちらに問いかける。鏡に写る人たちもにこやかに頷いていた。
﹁マリー
﹁私のお父さんとお母さんなんだね⋮⋮
嗚呼、この人たちが⋮⋮⋮⋮
ていた。私と同じ緑の目と黒い髪をした男性。私と似ている長い髪と目鼻立ちの女性。
人々の顔を良く見る。そして気がついた。私の両隣に立っている男性と女性は私に似
もない。でも確かに鏡には沢山の人たちが写っていた。もう一度のぞきこむ。今度は
⋮⋮⋮⋮ お か し い。今 は こ の 部 屋 に 私 と シ ロ ウ 以 外 は い な い は ず。ゴ ー ス ト の 気 配
!?
272
﹂
﹃すつう、をみぞの、のろここ、のたなあ、くなはで、おか、の
﹁鏡に刻まれている文
?
?
﹂
﹂
こ、校長先生
﹂
﹁そうだろうな。さて、それで点数はいかほどですか、ダンブルドア先生
﹁ふぇ
ふぇえええええええ
!?
﹁⋮⋮⋮⋮よく気がついたのう﹂
﹁え
!?
?
﹂
﹁なるほどのう。さて、シロウとマリー。君たちの推測だが、正解じゃ。その鏡はのう、
﹁ぁぅぁぅぁぅう⋮⋮⋮⋮﹂
﹁気配がしましたから。透明になって気配を消しても、生きている以上察知できますよ﹂
?
?
いたんだね﹂
﹁うん、そうだよ。⋮⋮⋮⋮そっか⋮⋮私は気づかないうちに親に会いたいって願って
?
?
﹁恐らくそうだろう。先程の言葉から推測するに、マリー。君は両親を見たのでは
﹂
今私たちが見ているのは、私達が気づかないうちに、心の奥底で望んでるものってこと
﹁えっと、
﹃私は、貴方の、顔、ではなく、貴方の、心の、望みを、写す﹄。ということは
る﹂
﹁逆から読んでみるといい。そうすれば意味も、この鏡に写っているものの正体もわか
なにこれ
たなあ、はしたわ﹄
?
12. 空き教室の鏡 そして…………
273
人々の心の奥底の強い望みを写す﹂
は探さないことじゃ。良いな、二人とも
﹂
あ、ひとつだけ聞いても大丈夫だろうか
﹁﹁わかりました﹂﹂
?
?
?
?
﹁⋮⋮あの、先生。一つお聞きしてもよろしいですか
﹂
﹁今夜ここで見たことは他言してはならんぞ 明日にはこの鏡を別の場所に移す。鏡
﹁確かに、普通ならそうなりますよね﹂
﹁そうじゃのう﹂
﹁目の前に理想の自分が写っているゆえに、ですね﹂
き合わなくなり、いつしか気が狂い始める。そんな鏡でもあったのじゃ﹂
﹁見る人の望みを写すものだから、何人もの魔法使いが虜になってしまった。現実と向
ダンブルドア先生が話だす。
﹁この鏡はのう⋮⋮﹂
ようやく私も落ち着いてきた。どうやら怒られる雰囲気ではないみたい。
そうシロウは一人ごちるのを、ダンブルドア先生はどこか悲しそうに見つめていた。
⋮⋮死んだはずの切嗣が凛や桜、イリヤやその子供たちと写っていたわけだ⋮⋮
じいさん
﹁なるほど、やはりそうでしたか。どうりで⋮⋮⋮⋮﹂
274
﹁よかろう、一つだけじゃ。どうしたのじゃ、マリー
せんか
﹂
﹂
﹁私のあの透明マント。送り主に心当たりがないのですが、先生は何か存じてはおりま
?
﹁﹁はい。おやすみなさい、ダンブルドア先生﹂﹂
意外と悪ガキだったんで
?
シロウなんて隣で呆れているし、私けっこう恥ずかしい⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮お父さん、貴方学生時代何をしていたんですか
そうダンブルドア先生はクスクス笑いながら話していた。
がわかったよ﹂
﹁あれは実に便利なマントじゃな。君の父君が夜な夜なキッチンに忍び込んでいた理由
﹁そうだったんですか。お父さんが⋮⋮⋮⋮﹂
に渡すことにした﹂
﹁ああ、あのマントは君の父君がわしに預けていたのじゃ。じゃから君の入学を機に君
?
しょうか
?
﹁さぁもう夜も遅い。早く寮に戻りなさい﹂
12. 空き教室の鏡 そして…………
275
﹂
私達は透明マントを被って、真っ直ぐ寮に帰った。途中誰にも会わなかったのは、恐
﹂
さっきのことについて聞きたいんじゃないの
﹂
らくダンブルドア先生が何かしたからだろう。何事もなく、談話室に戻ってきた。
﹁そういえばマリー﹂
どうしたのシロウ
シロウが話かけてくる。
﹁なに
﹁別に大丈夫だよ
﹁⋮⋮⋮⋮君は、たとえ泡沫の幻想であったとしても。今回両親に会えて良かったか
?
﹁⋮⋮⋮⋮いや、やっぱいい﹂
?
﹁大丈夫だよ。それよりもシロウ﹂
今度は私の番だね。
?
﹁ああ。それはオレの大切な人たちで、オレが手放してしまった人たち。次はいつ会え
﹁シロウが見たもの、凛や桜、イリヤって言ってたけど。その人たちって
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮そうか。わかった。すまないなマリー、デリカシーの無いことを聞いて﹂
られる。幸せな家族を持つっていう夢をね﹂
い。今晩お父さんとお母さんに会えたから、私はようやく胸を張って私の夢を追いかけ
夢。でもだからこそ、私は将来生まれてくるだろう私の子供に同じ寂しい思いはさせな
﹁⋮⋮⋮⋮うん。大丈夫だよ。今シロウがいった通り、鏡でみたのは未来永劫叶わない
?
?
?
276
るかわからない人たちだ﹂
﹂
﹁そうなんだ。ねぇシロウ﹂
﹁なんだ
﹁シロウはその人たちと離れ離れになって、悲しい
・
・
と、それからあいつと約束したからな﹂
・
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮悲しくないと言えば嘘になるな。だがそれでも前に進み続けると、彼女たち
?
?
﹂
?
﹁⋮⋮うん﹂
今も、そしてこれからも前を進むんだ﹂
﹁オレは大丈夫だ。オレが歩んできた道は、決して間違いなんかじゃない。そう信じて
﹁シロウ⋮⋮﹂
いでどうする
し、オレが前を進み続けると信じてオレを送りだした。なら、オレがあいつらを信じな
﹁⋮⋮⋮⋮そんな悲しそうな顔をするな、マリー。あいつらはいずれ会いに来ると約束
赤い外套を着けた白髪の男の人のような。
ように見えた。まるで、あのハロウィンの日からよく見るようになった、夢に出てくる
そう語るシロウの顔は、どこか悲しそうに、まるで泣きたいのを必死に我慢している
﹁シロウ⋮⋮⋮⋮﹂
12. 空き教室の鏡 そして…………
277
﹁⋮⋮⋮⋮少し難しい話だったな。さぁもう寝よう。明日もまだ休暇中だか夜更かしは
いかん﹂
そう考えつつ私は微睡みに身を任せ、やがて眠った。
それで少しでもシロウの支えになるのなら⋮⋮⋮⋮
自分もその人たちを信じると。なら私がすべきこと、それは私もシロウを信じること。
シロウは大丈夫といっていた。シロウの大切な人たちがシロウを信じてくれるから、
そうして私達はそれぞれの寝室に戻った。
﹁ああ、おやすみ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮わかった。おやすみなさい、シロウ﹂
278
12. 空き教室の鏡 そして…………
279
夢をみた
そこは荒野
分厚い雲に覆われた黄昏の空
無数に浮かぶ大小様々な錆びた歯車
命の息吹か感じられない地面に突き立つ無限の剣群
悲しい世界の中心に立つのは、赤い外套を纏った白髪の青年
280
体
潮
は
は
剣
で
鉄、
出
来
心
┃
て
は
い
る
ガ
ラ
┃┃ I am the bone of my sword ┃┃
血
詩が聞こえる
度
の
戦
┃
場
を
越
┃
え
て
不
ス
┃
敗
Steel is my body, and fire is my blood ┃┃
幾
この悲しい世界を
の
一
度
の
敗
走
は
な
く
唯
の
一
度
も
理
解
さ
れ
な
い
I have created over the thousand blades
┃┃
唯
あの青年の心を
の
者
は
常
┃
に
独
り、
剣
の
┃
丘
で
勝
利
に
酔
┃ ┃ Unknown to death. Nor known to life
┃┃
彼
悲しい心をそのまま表した詩
う
Have withstood pain to create many weapons
┃┃
12. 空き教室の鏡 そして…………
281
故
に
そ
の
┃
生
涯
ここがそうなのだろう、彼が独りでいる世界
は
┃
きっ
と
剣
に
で
┃
意
┃
来
味
て
は
い
な
た
UNLIMITED BLADE WORKS 出
く
Yet those hands will never hold enything
┃┃
体
意味のない人生。そんなの悲しいを通り越して辛い
の
''
そ
So as I pray ┃┃
その横顔は、私の知る人によく似ていて⋮⋮⋮⋮
苦痛に歪み、それでも前を見据える彼
そして私の目の前で赤い外套の青年は、体の至るところから剣を生やした
''
13. ノルウェー・リッジバック・ドラゴン
Side シロウ
﹂
を満喫してきたようだな。オレはどうだったろうか ちゃんと子供たちと過ごす時
目の前には休暇から帰ってきたハーマイオニーがいる。顔を見るかぎり親との時間
﹁さて、私がいない間に調べれた
?
間を作っていただろうか 戦場での暮らしが長すぎてあまり思い出せない。そうだ
?
282
のだ。むしろロンのような子が普通だろう
まぁ頼まれ事を失念するのは誉められ
﹁まぁ今はその辺でな、ハーマイオニー。君もそうだがまだまだ遊びたい盛りの子供な
オニーはさぞかし般若のように見えているのだろう。
すっかりニコラス・フラメルと賢者の石について忘れていたみたいだし、今のハーマイ
さて、そろそろロンに手を差し伸べてやるか。まぁマリーやオレはともかく、ロンは
な、今度あの子らがこちらに来たとき時間を作るとするか。
?
?
たことじゃないが﹂
﹁⋮⋮⋮⋮クドクドクドクド、ええそうね。そろそろ許してあげましょう﹂
助かった、という顔をしているロンを置いてオレたちは情報交換をしたが、賢者の石
に関してもニコラス・フラメルに関しても基本的に情報量は変わらなかった。まぁ14
世紀はまだ一般にも魔法の類いが信じられていた時代、彼の者の話が広く伝わっていて
も不思議ではない。だが賢者の石に関してはもしかしたら詳しく書かれている本があ
るかもしれない。そう結論付けたオレたちは、図書館へ移動した。
図書館で意外な人物に出くわした。ハグリッドが何やら本を2、3冊抱えて出てきた
のだ。正直ハグリッドは本とは無縁の人と思っていたから驚きは大きい。ロンがハグ
リッドに話しかける。
﹂
?
とを考えちゃおらんか
﹂
?
⋮⋮⋮⋮なんでオレの回りにはこんな妙に鋭い人たちばかりなのだ
?
﹁おお、お前たちか。ちょいとな、調べものを。それからシロウ、お前さん何か失礼なこ
﹁やあ、ハグリッド。何してるの
13. ノルウェー・リッジバック・ドラゴン
283
﹁いや、何も考えておらんよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮そうか、ならええ。じゃあな﹂
そう言ってハグリッドは逃げるようにこの場を去っていった。怪しいな。何かを隠
している。言っては悪いがハグリッドはその性格のせいか、隠し事が下手だ。あんな動
きをしていれば明らかに、私は隠し事をしています、と言ってあるようなものだ。
﹁あれ、ドラゴンの本だ﹂
ロンが呟く。聞き捨てならない単語が聞こえた。
﹂
待て、ドラゴンはこの星最古の幻想種ではないのか この世界に
は普通にドラゴンが蔓延っているのか
﹁ドラゴンだと
?
本に書いてあったわよ
﹂
﹁でもドラゴンって一般魔法使いの間じゃ取引禁止じゃなかった
?
確か私が前読んだ
ているんだ。その関係でハグリッドの持っていた本を読んだことがあるんだよ﹂
﹁シロウどうどう、落ち着いて。チャーリー兄さんがルーマニアでドラゴンの研究をし
?
?
284
?
﹁君 色 ん な 本 を 読 む ん だ ね。恐 ら く ハ グ リ ッ ド は ど こ か か ら 手 に 入 れ た ん だ よ。で も
ハーマイオニーのいった通り、禁止されている。それにドラゴンその物を貰ったら、こ
﹂
んなこそこそしても直ぐにバレる。多分ハグリッドは卵を貰ったんだ﹂
﹁じゃあハグリッドは貰った卵をここで孵そうとしてるってこと
?
う﹂
﹁え
﹂
あ、不味い﹂
﹂
﹂
﹁多分そうだと思うよマリー。賢者の石は一端置いておいてハグリッドのところへ行こ
﹁なに
?
﹁こんな大声で話していい内容だっけ
?
﹁あ、ありがとうシロウ⋮⋮って人払い
﹂
はオレもハグリッドのことを言えないな。さて、さっさと移動するか。
ふぅ、危ない。人払いの結界を張ってはいたが、うっかり口が滑ってしまった。これ
﹁⋮⋮⋮⋮何だかはぐらかされた気がしないでもないけど、今は急ぎましょう﹂
?
?
﹁なんでもない、ハグリッドのところに行くのだろう
なら急ごうか﹂
﹁心配ない、人払いはしていたから誰にも聞かれていない﹂
?
?
﹁そうだね。ところででロン
13. ノルウェー・リッジバック・ドラゴン
285
Side マリー
てぇことは他の三人もいるのか
﹂
私達は今ハグリッドの家の前にいる。時間帯は夕方、まだ夕食までは時間がある。ロ
﹂
ンが先頭に立ってノックをした。
ロンか
﹁ハグリッド、今いい
﹁あ
?
?
﹂
﹁ええ、そうよ
?
り、鍋の中の何かを熱している。そして机の上には図書館のものだろうドラゴンの本が
小屋に入ると熱気が私達を襲ってきた。よく見ると暖炉の火ががゴウゴウと燃え盛
﹁﹁﹁﹁お邪魔します︵邪魔する︶﹂﹂﹂﹂
﹁ああー、その⋮⋮今は⋮⋮⋮⋮まぁええか。入れ﹂
?
?
286
﹂
﹂
置いてあった。ということは、あの鍋に入ってるのはロンの予想通り、ドラゴンの卵っ
てことだ。
﹁ハグリッド、その鍋に入ってるのはなに
﹁あー、まぁええか。パブで貰ったもんだ。ドラゴンの卵﹂
﹂
?
?
?
﹁やっぱりそうか。ねぇ、まさかと思うけどここで育てるつもり
もう孵るのか
?
?
﹁ところでハグリッド、このドラゴン種類は何
﹂
シロウが感慨深げに呟いている。確かに私も驚いている。
﹁⋮⋮⋮⋮まさか人生で見た数少ない幻想種の種類にドラゴンが加わるとは﹂
く皹が一つ入ったあと、黒い小さなドラゴンが一体孵化した。
し、机の上に置いた。卵らしきものは内側からコツコツと音を立てている。そして大き
ハグリッドは熱い熱いと言いながら鍋の中から黒い大きな楕円をした球体を取りだ
﹁ああー、その⋮⋮お
13. ノルウェー・リッジバック・ドラゴン
287
﹂
?
ハグリッド、それってとても凶暴なドラゴンなんだよ
﹁これはノルウェードラゴンの一つでな。確かノルウェー・リッジバックだったかな
﹂
﹁ノルウェー・リッジバック
!?
⋮⋮⋮⋮あれ
何か私、この子に懐かれちゃってる
?
⋮⋮⋮⋮可愛い。
酷いことをするようなひとじゃないから﹂
﹁⋮⋮⋮⋮だからこのドラゴンは危険なんだって
大丈夫だよ、チャーリーはそんな
とりあえず頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めていた。
?
た。そしてドラゴンは私のシャツとセーターの間に入り込んで顔だけを出した。
つの間にか私に引っ付いていた。そして出来るだけシロウから距離を置こうとしてい
今のうちにドラゴンをよく見とこうと視線を戻したら⋮⋮⋮⋮赤ちゃんドラゴンがい
ニーもそれに加わった。私とシロウは完全に蚊帳の外になっていた。仕方がないから
ロンがハグリッドに、兄のチャーリーのところに預けるように説得し、ハーマイオ
!!
﹁私もロンに賛成よ。ドラゴンって最終的にはとても大きくなるんでしょう そうし
!!
288
?
たらハグリッドはどうするの
﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ じ ゃ が こ の 子 は 生 ま れ た ば か り だ ぞ
⋮⋮⋮⋮﹂
﹂
﹂
﹁おおマリー、お前さんはわかってくれるか
こ の 子 も 今 は 親 と ⋮⋮ 一 緒 が
なら⋮⋮⋮⋮﹂
ハ グ
この子生まれたばかりだし、可愛いし﹂
になる。なら今のうちにしかるべきに場所に預けるのが得策だろう。
でも大きくなったらそうも言ってられないだろう。今は可愛くても大人なれば危険
のだ。固まらない方がおかしい。
ンは孵した本人ではなく私に懐き、加えて大人しく今は私の膝の上で丸まって寝ている
あ、ハグリッドがこっちを見て固まった。仕方がないだろう。だって赤ちゃんドラゴ
?
?
﹁ハグリッドの気持ちはよくわかるよ
﹁⋮⋮⋮⋮なんだマリー
?
ゴン初心者でしょ
﹂
リッドのことだから自分が躾るって言うと思うけど、ハグリッドは私たちと同じでドラ
﹁で も そ れ は 今 だ け。こ の 子 が 大 人 に な っ た ら 危 険 な こ と に は 変 わ り な い よ
?
!
?
?
﹁ねぇハグリッド
13. ノルウェー・リッジバック・ドラゴン
289
?
﹁⋮⋮⋮⋮じゃが﹂
?
それで予定の週末が来たけど、問題が生じた。透明マントには体の大きさの関係上、
の。
ちょい焦がされちゃうみたい。私が行くと膝の上に乗ってスヤスヤと眠るのに、変な
バートって名前にしたらしい、の世話をすることになったけど、髭や髪の毛をちょい
グワーツに秘密裏に受け取りに来るらしい。ハグリッドはその間だけドラゴン、ノー
数日後にチャーリーさんからロンに手紙が届いた。どうやら今度の金曜日の夜に、ホ
││││││
モフモフはできないけど。うん、来年梟じゃなくて蜥蜴をペットにしようかな。
専門家に任せるのが一番だね。それにしても、このドラゴン可愛いなぁ。鱗が固いから
結局ハグリッドは暫く唸っていたけど、渋々了承した。うん、やっぱりこういうのは
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
今後二度と会えないって訳じゃないんだしさ﹂
﹁なら、ちゃんとドラゴンのことをわかっている人に預けるのが一番じゃない 何も
290
三人までしか入れなかった。そこにシロウが、
めに引き返した。
ロンの兄であるチャーリーの遣いにノーバートを渡したのち、オレたちは寮に戻るた
Side シロウ
る。私達は指定された場所に急いで向かった。
素通りされていた。何をしているのか知らないけど、これで本当に安心して行動でき
た。途中先生の一人とすれ違ったけど私達は勿論、なんと堂々と歩いていたシロウまで
のに、そこにいないような感覚になった。これなら大丈夫だろうと思い、私達は出発し
そう言ってシロウが目をつむって暫くすると、不思議なことに目の前にシロウがいる
﹁オレはマントが無くてもある程度は大丈夫だ。だから君たち三人が被るといい﹂
13. ノルウェー・リッジバック・ドラゴン
291
292
ッ
不味い、あいつら油断して透明マントを忘れている。オレは急いで来た道を戻
同罪だからな。
識阻害の結界を解いてマグゴナガルのもとに向かった。夜中に抜け出したのはオレも
オレはマントを懐にしまいこみ、殺人貴に教わった気配を出来るだけ殺す呼吸法と認
お前も同罪だろうに。
たのだろう。だがあの顔は完全に自分のことが眼中にないな。夜中に抜け出したのは
なるほどな。大方マルフォイがどこかから情報を仕入れ、マグゴナガルに告げ口をし
なったのがその横でニヤニヤと嫌な笑いを口元に浮かべているマルフォイの姿だった。
ち は 寮 監 で あ る マ グ ゴ ナ ガ ル 捕 ま っ て い た。大 蔵 ご 立 腹 の 様 子 だ っ た。そ し て 気 に
り、透明マントをとってまたマリーたちのもとへ戻った。だがときは既に遅し。彼女た
!!
14. 禁じられた森での出来事
Side マリー
﹂
﹁まったく何てことですか 一晩に生徒がこんなにも抜け出すだなんて、これまで無
かったことです
!
腹が立つ。
﹂
更に一人につき五
!
ちは一年生だから多少は見逃されるとでも 罰則を与えます
十点減て⋮⋮﹂
!?
!!
私は今この子たちの⋮⋮⋮⋮ってミスター・エミヤ
!?
﹁マグゴナガル先生、落ち着いてください﹂
﹁何ですかミスター・エミヤ
!
それとも自分た
も出ているからだろう。けど隣に立つマルフォイのニヤニヤとした嫌な笑顔が無性に
マグゴナガル先生は相当ご立腹のようだ。私も含め、自分の管轄寮から違反者が四人
!
﹁グリフィンドール生がこんなことをして恥ずかしくないのですか
14. 禁じられた森での出来事
293
﹁まずは深呼吸をして、それからお茶をどうぞ﹂
何であなたまでここにいるんですか﹂
さっきまで私達といたはずだよね、多分。
﹁⋮⋮って違います
?
?
ど当のスネイプ先生は、マルフォイを一瞥してマグゴナガル先生に今回の処分を一任し
た。途中でスネイプ先生とすれ違い、マルフォイはいつも通り先生に助けを求めた。け
の言葉に驚いていた。けど先生の有無を言わせない空気に飲まれて大人しくついてき
マルフォイは自分まで連れていかれるとは思っていなかったのか、マグゴナガル先生
ミスター・マルフォイ、あなたもです﹂
﹁⋮⋮わかりました。では変身術の教室へ行きましょう。あそこが一番近いですから。
こだと先生も含めてみんな凍えてしまいます。⋮⋮私は大丈夫ですが⋮⋮﹂
﹁それに関してはきちんと説明させていただきます。とりあえず移動しませんか こ
!
きたの
いや、マグゴナガル先生フツーにお茶を飲んでるけど。シロウ、それどこから持って
﹁いえいえ﹂
﹁え、ええ⋮⋮⋮⋮フゥ⋮⋮⋮⋮ズズッ⋮⋮⋮⋮ありがとうございます﹂
294
てそのまま去って行った。この場には不相応だけど、マルフォイの絶望した顔を見たと
き ﹁ざまぁみろ﹂ と思った。
変身術の教室につくとマグゴナガル先生は教卓の椅子に座り、私達五人はその前に並
んで立っていた。マルフォイは不満げだったけど、他の私達は違反をしたという自覚は
あったため、特にこれといった反発はない。
シロウは再びお茶を差し出し、机の上にポットとソーサーを置いた。うん、本当にど
こから持ってきたの
?
しかもさっき作ったんだ
もまぁ悪びれもせずにそんなこと言えるもんだ。親の顔が見てみたい。けど正直に言
はまぁまぁ、私達を悪者にして自分はいい子ぶりッ子しているような内容だった。よく
その言葉を皮切りに、マルフォイがその自慢の舌を回してしゃべり始めた。その中身
﹁ありがとうございます。⋮⋮ズズッ⋮⋮さて、今回のことを説明してください﹂
!?
﹁どうぞ、ハーブティーです。夜も遅いため、少し薄めに仕上げています﹂
14. 禁じられた森での出来事
295
うとマルフォイの証言は、お世辞にも信用できるようなものじゃない。仮に私達が当事
﹂
、と聞きたくなるほどにシロ
者じゃなかったとしても、その内容では信頼を得ることは難しいと思う。
﹁⋮⋮⋮⋮というわけです﹂
﹁わかりました。あなた達から何か言いたいことは
﹁では私から﹂
そう言って今度はシロウが反論を始めた。
いやいや出てくる出てくる。どこかに台本でもあるの
﹁わかりました。ではあなたたちの処分をいいます﹂
のは事実。罰則は受けます﹂
﹁⋮⋮⋮⋮というわけです。ですが如何なる理由があっても、許可なく夜間に寮を出た
眼光で黙らされていた。
因みにマルフォイが何度か口を挟もうとしたけど、マグゴナガル先生とシロウの鋭い
にも非があるように言っているため、尚の事信憑性を増している。
るものだから、マルフォイの言い分よりも信憑性がある。更にそれに加えて、自分たち
ウの口から言葉が出てくる。しかも質の悪いことに、真実を織り混ぜて虚言を吐いてい
?
?
296
いよいよ処罰内容か。どうなるんだろう。
﹁あなた達五人は一人につき二十点ずつ減点です。それから罰則を受けてもらいます﹂
二十点か。最初の五十点と比べると随分と優しい処分になった。
これはシロウの証言に感謝すべきだね。本当ならもっと酷いことになっていたかも
だから。グリフィンドールから八十点減点されて、スリザリンが寮対抗の点数競争で
トップになる結果になったけど、頑張ればまだなんとかなる点数だ。巻き返すことはで
﹂
きる。ただ、その前に上級生たちに謝罪しないと。私達のせいでトップから落ちてし
まったんだし。
﹁ええそうですが﹂
罪です﹂
﹂
﹁無論です。如何なる理由があっても、許可なく夜間に寮を出たのは事実。あなたも同
﹁まさかと思いますが、僕も含まれているので
?
?
﹁失礼ですが先生、今五人とおっしゃいました
14. 禁じられた森での出来事
297
298
自分だけ助かるとでも思ってたの
先生のその言葉にマルフォイは撃沈していた。
いやいや当然でしょう
イは本当に甘ちゃんだね。
││││││
まったくマルフォ
?
ように痛み始めていた。医務室に行ったけど、呪いによる傷跡だから薬ではどうしよう
緑色の閃光が光る夢を見たときしか痛むことの無かった左鎖骨の少し上の傷跡が、疼く
無かったけど、私には少し、いやかなり問題が起きていた。物心がついてからこのかた、
それから2、3日なにも連絡が来ないで過ぎていった。周りでは特に変わったことは
るようにと注意された。正論だったので、素直に返事をした。
ることはなかった。ただパーシーからは、今度からはマグゴナガル先生か自分に連絡す
たと伝えられてあり、パーシーにもそれは伝わっていたため、さほど白い目では見られ
にもお叱りを受けた。ただグリフィンドール生の先輩方も抜け出す正当な理由があっ
夜が明けて朝食に向かう前に、私達は先輩方に謝罪してまわった。監督生のパーシー
?
もない、と医療担当のマダム・ポンフリーに言われた。
なったらいらっしゃい﹂
﹁一応痛み止めの薬はあるけど、多分効かない。どうしても我慢できなくて気分が悪く
そういわれたので、今は我慢している。けど何故かクィレル先生の授業のときは、疼
くようなものではなく、けっこう激しい刺すような痛みが走る。とりわけ後頭部を見た
ときが一番痛い。でも授業は受けないといけなかったから、仕方なく先生から一番離れ
ている出入口近くに座っている。ロンとハーマイオニー、シロウにも相談してるけどい
い答えは得られなかった。
そんなこんなで日にちが過ぎて、ついにマグゴナガル先生から罰則の通知がきた。何
でも今日の夜、森のある方の出入口にフィルチさんがいるから、そこに集合するらしい。
他の四人も同じ罰則を受けることになっているみたい。
そして夜、指定の場所に行くと確かにフィルチさんがいた。全員集まると、フィルチ
さんを先頭に歩き出した。
﹁今の罰則は甘すぎる﹂
14. 禁じられた森での出来事
299
﹁ほう
というと
﹂
?
のその反応に気を良くしたのか、いつもに比べて少し饒舌になった。
フィルチさんがそう切り出し、何故かシロウが興味を示した。フィルチさんはシロウ
?
﹂
?
あ、それって確か1945年に終わった第二次世界大戦の話だ。確か日本に核爆弾が
ら逃れるために一定年齢以下の子供は地方に疎開することになっていました﹂
﹁まだその頃はマグル世界で世界規模の戦争が起きていた時代。親はともかく、戦火か
﹁ほう
﹁いえいえ、俺の母国も4、50年ほど前まで似たようなものがありまして﹂
﹁そうだ、わかっているな﹂
のですか﹂
﹁なるほど。きつい罰を与えて恐怖を刻み込み、二度とやらないように体に覚えさせる
ている。もう一度使えるようにきれいに磨いてな﹂
普通、親指に専用の手錠をかけて上から吊るしたりな。今でもわしの部屋に道具は残っ
﹁昔は書き取り何て甘いものはなかった。例えば悪いことをした生徒に鞭を打つなんて
300
二つ落とされたって学校で習った。ハーマイオニーはマグル出身だからか、何の話かわ
かったみたい。でもロンとマルフォイはちんぷんかんぷんみたいだ。
﹁ただ日本は小国。大地主や当時牛耳っていた政治家の内の汚い奴ら、軍の汚いお偉い
さん以外は殆ど食料のない時代だ。それに聞いた話だと疎開先では酷い扱いを受けて
﹂
いたらしい﹂
﹁それで
!
少し前までやっていたことだ﹂
﹁小娘、それは今のお前達の常識だ。この国でも連帯責任はないが、棒で何度も打つのは
はその言葉にかぶりをふった。
ハーマイオニーは怒った様子で歩きながらそう言った。けどフィルチさんとシロウ
﹂
棒で何度も体を殴るというものだったそうだ﹂
て罰則は連帯責任として、当事者以外も受けていたらしい。一番有名なのは、太い木の
﹁やはり抜け出す生徒も多かったようだ。しかし大半が連れ戻され、罰を受ける。そし
?
﹁それって虐待じゃない
14. 禁じられた森での出来事
301
﹁当時はそれが常識だったのさ。時代が移り変わることによって、親たちからの反発が
増えて今のようになったのだ。今でも少し探したら、体罰をやっている学校は出てくる
だろう﹂
森﹂に入るの
?
﹁全員おるか
ほんじゃいくぞ﹂
これからこの森に入ることになると。
フ ィ ル チ さ ん は ニ ヤ ニ ヤ し な が ら 城 に 戻 っ て 行 っ た。そ の 顔 を 見 て 私 は 確 信 し た。
﹁ほれ、着いた。さっさと行け﹂
?
持って私達を待っていた。もしかして私達、これからあの立ち入り禁止の﹁禁じられた
し ば ら く 歩 く と 私 達 は ハ グ リ ッ ド の 小 屋 の 前 に 着 い た。ハ グ リ ッ ド は 何 故 か 弩 を
なんかフィルチさんとシロウが仲良くなっている気がするけど気にしないでおこう。
﹁こちらもいろいろとありましたから﹂
﹁それにしても小僧、お前なかなか話がわかりそうなやつだ﹂
302
﹁ちょっと待って﹂
﹂
それにとても危険だって聞いて
マルフォイがハグリッドを止める。心なしか、その顔はひきつっていた。
﹁まさかと思うけど、僕たち森に入るの
﹁そうだ、今回の罰則は俺と一緒に森に入る﹂
﹁嫌だよ、だって⋮⋮⋮⋮森には狼男がいるんだろ
る。父上の耳に入ったらなんて言われるか⋮⋮﹂
?
?
﹂
!!
﹂
?
﹁そうだ、入る前に伝えておく。最近森に生息するユニコーンが何者かに殺されて、血を
るってことは、今回はけっこう危険な内容なの
﹁ねえハグリッド。ただ森に入るだけならこんなピリピリはしないよね。それを持って
いる。だから私はハグリッドに思いきって聞いてみた。
いつものハグリッドらしくないきつい言葉だった。気のせいか、空気がピリピリして
然のことだろう。それが嫌ならさっさと荷物を纏めてこの学校から出ていけ
﹁だったら最初から校則違反をしなけりゃええんだ。悪いことをしたら罰を受ける、当
14. 禁じられた森での出来事
303
吸われることが多発している。今日はその調査だ。二手に分かれて森の中に入る。何
じゃあもう片方は
かあったら空に火花を打ち上げろ。そんで俺が行くまで隠れてじっとしてるんだ﹂
﹁二手に分かれるってことはどっちかにハグリッドがいるんだね
﹂
﹂
れに何だか不気味な感じがする。
﹂
﹁ハグリッド、一ついいか
﹁なんだ、シロウ
?
ユニコーンを殺すこと事態が罪深いこと。そういえば聞いた話だと、ユニコーンは純
﹁そうなのか﹂
﹁俺にはわからん。じゃがユニコーンを殺すこと事態が罪深いものなんだ﹂
?
?
﹁ユニコーンを殺して何の得があるのだ
﹂
て私の組に分かれて森に入った。森は暗く、外よりもいっそう肌寒さが感じられた。そ
そうして私達はマルフォイ、ハーマイオニー、ロンの組とハグリッド、シロウ、そし
﹁ファングについてもらう﹂
?
?
304
潔の女性の膝で昼寝をするらしい。それ以外では滅多に姿を見せることはほぼないそ
うだ。気性が意外に荒いとも聞くけど、純潔の女性を好むあたり一応純粋な生き物なの
かな。
もしかして何かあったの
突然森の別の方角で赤色の火花がうち上がった。あれはハーマイオニー達の入った
ほうだ
!?
怒ってる。まさかと思うけど⋮⋮⋮⋮
!
て驚かせたらしい。勿論二人はパニックに陥り、ハーマイオニーが上に火花を打ち上げ
をしたみたい。わざとロンとハーマイオニーから遅れるように歩き、後ろから忍び寄っ
ハグリッドはカンカンに怒ってる。話を聞くと、どうやらマルフォイが質の悪い悪戯
﹂
皆を連れて戻ってきた。良かった、無事だったみたい。でもハグリッドは何だかすごく
ハグリッドはそう言って弩を構えて火花の上がった方へ進んでいった。暫くすると、
﹁二人ともここにいろ、俺が見てくる﹂
!
﹁信じられん、どういう育て方をされとるんだこの小僧は
14. 禁じられた森での出来事
305
たそうだ。悪戯をしたマルフォイ本人はというと、ちっとも反省している様子はない。
﹁⋮⋮⋮⋮妙な真似はするな。したら最後、お前の首が体と永久に離ればなれになると
た。因みに刃のある方を。
に悪戯をしようとしたけど、行動する前にシロウがマルフォイにアゾット剣を向けてい
そうひっそりと言葉を交わして、私達はまた分かれた。マルフォイは暫くすると私達
﹁うん、何かあったらすぐに伝えるから﹂
﹁任せろハグリッド。この馬鹿は俺達が見張っておく﹂
﹁すまんな二人とも。でもお前さん達ならあの馬鹿も妙なことはしないだろう﹂
えることができるだろう。
まぁこの組み合わせが妥当か。シロウならマルフォイになんかさせる前に取り押さ
俺とこい﹂
﹁すまんがメンバーを変える。シロウとマリーはその馬鹿と組んでくれ。あとの二人は
306
思え﹂
流石にその脅しが効いたのか、マルフォイはすぐに大人しくなった。時々シロウの目
がマルフォイを見ているのも理由の一つだろう。
暫く歩いていると少し拓けた場所に出た。今日は満月だったから、こういう拓けた場
それに見たところ既に死んでいる﹂
所はけっこう見えるものなんだ。ふとある一本の木の根本に目がいった。よく見ると
何かがその身を横たえてる。
﹁あれは⋮⋮⋮⋮ユニコーンか
﹁な、なな、何を言って⋮⋮﹂
﹁ぎゃあああああああああ
﹂
!?!?
音がする。その影はユニコーンの血を飲んでいた。
ると、その首もとに頭に当たる部分をくっつけていた。よく耳を澄ますと、何かを啜る
突如そこに一つの黒い大きな影が忍び寄ってきた。その影はユニコーンに覆い被さ
?
﹁シロウ、マルフォイ。あれ﹂
14. 禁じられた森での出来事
307
308
マルフォイが叫び、ファングは吠えながら走って逃げてしまった。私は足が動かな
かった。全身が怖さに震え、逃げるどころじゃなかった。影がこちらに顔を向ける。
そのとき、首が引きちぎられたのかと錯覚した。今まで体験したことのない激痛が首
筋の傷跡を襲った。私はその場に膝をついた。自分が叫んでいるのか唸っているのか
わからない。一つだけわかるのは、シロウが必死に私に声を掛け、私は影からできるだ
け離れようともがきながら後退りしていることだった。
影が立ち上がり、こちらに近づく。一歩一歩こちらに来る度に痛みは激しくなる。そ
のとき、シロウが私と影の間に立った。その背中を見たとたん、私は意識を手放してし
まった。
Side シロウ
謎の影がこちらに顔を向けた途端、マリーが突然首もと、鎖骨あたりを抑えて叫び出
マリー
﹂
した。声からしてとてつもない痛みを伴っていることがわかる。
オレがわかるか
!
﹁マリー、意識を手放すな
!
オレは左腰の鞘からアゾット剣を抜き、影に向けた。影はそれを見て動きを止めた。
ら気を失ったらしい。影は止まらずこちらに近づいてくる。
するとマリーは叫び声をあげなくなり、静かになった。一瞬だけ目を向けると、どうや
うに後退りしている。原因はあの影か。そう確信したオレはマリーと影の間に立った。
何度も声をかけたが、マリーは答えない。それどころか、必死に影から距離を取るよ
!
影は一瞬だけ躊躇する気配を見せたが、その懐から杖を取りだしまた近づいてきた。
らの攻撃動作をした暁には、貴様の命の保証はしない﹂
こちらに近づくことは許さん。もしその場から一歩でも此方に近づく、またはなにかし
﹁人語を解するなら警告だ。貴様が何者であろうと、マリナには近づかせん。それ以上
14. 禁じられた森での出来事
309
﹁マリー、大丈夫か
マリー
﹂
?
﹁⋮⋮⋮⋮う⋮⋮ん⋮⋮⋮⋮シロウ
﹂
﹁マリー、オレがわかるか
?
﹁良かった、覚えてはいたか﹂
﹂
端、急に傷痕が痛くなってそれで⋮⋮﹂
わかるよ。確か私、変な黒い影がこっちに顔を向けた途
﹁⋮⋮うん、シロウでしょ
?
?
?
一先ずは安心か。オレはマリーに駆け寄り、体を抱き起こした。
に躍り出た。影は剣を避け、蹄の主から逃げるように空を飛んでいった。
残りの4本も奴に向けて射出すると同時に、蹄の音が高速でこちらに近づき、影の前
た。 影は杖から銀に光る魔力の盾を作り出したが剣はそれを砕き、影の足元に突き刺さっ
切っ先は全て影に向いている。それを見て奴も動きを止めた。まず一つを射出させる。
オレは無銘の、だが魔力を掻き消す力をもつ剣を5本、空中に投影して待機させる。
﹁魔法使いか。警告はした。ならばその命、捨てるということでいいのだな﹂
310
﹁ねぇ、あのあとどうなったの
﹁あれは⋮⋮﹂
あの影は
﹂
?
﹁⋮⋮あなたは
﹂
きた。それは琥珀色をした体をもつ、ケンタウルスだった。
静かな透き通る低い声と共に、蹄の音をたてながらこちらに別の大きな影が近づいて
﹁マリナ・ポッター。影はこの場から去った﹂
?
﹁私はフィレンツェ、この森に住むケンタウルスの一人だ﹂
?
﹂
﹁ケンタウルス。ケイローンのいた時代から今まで生き残ってきた、と考えればいいか
14. 禁じられた森での出来事
﹁先程の影のことか
﹂
いま、この森は危険だ。一刻も早く出た方がいい﹂
﹁そうとってくれて構わない。マリナ・ポッター。そしてこの星の護り手となりし者よ。
?
?
が殺されていることがその証だ﹂
﹁それもある。いま、この森は不気味な闇が蔓延っている。純潔の象徴たるユニコーン
311
﹂
フィレンツェはそうオレたちに説明する。マリーは落ち着いたのか、オレの腕に捕
まってはいるが、自力で立てるまで回復している。
﹁⋮⋮あの影は、何でユニコーンの血を飲んでいたのですか
?
生を与えられる。呪われながらの生、生きながらの死だ﹂
それを求めているのは
?
﹁そうなんですか⋮⋮⋮⋮でもいったい誰が⋮⋮﹂
それが持つ力は
?
ている。
そこに別の声が聞こえ、別のケンタウルスが姿を現した。こちらは深い焦げ茶色をし
﹁その可能性もなきにしもあらず、です﹂
生きていたとすれば、オレたちが見たのは⋮⋮⋮⋮﹂
かヴォルデモートは死んだのではなく、消えた。もしヴォルデモートが肉体を失っても
﹁⋮⋮ホグワーツで守っているのは賢者の石。それは不老不死にさせる命の水の源。確
﹁今ホグワーツに守られているのは
﹂
純潔の象徴たるユニコーンを殺すだから。その血が口に触れた瞬間、その者は仮初めの
﹁ユニコーンの血は、死の淵にある者を行き長らえさせる力を持つ。だがそれは罪だ。
?
312
私はともかく、貴方が人の子の前に姿を現すなど珍し
﹁お初にお目にかかる、この星の護り手となりし者よ。そしてマリナ・ポッター。私はベ
イン﹂
﹁﹁初めまして﹂﹂
﹁ベイン、どうされたのです
い﹂
てきたのだろう。
いうケンタウルスだったという話だ。今ベインの言った占星術も、遥か太古から行われ
ケンタウルスは昔から人よりも博識と聞く。彼のヘラクレスの師匠もケイローンと
﹁そうですか﹂
﹁星が、今宵は彼らに協力するようにと﹂
?
手という名ではない。オレは衛宮士郎。好きなように呼んでいい﹂
﹁いや、問題ない。道案内さえしてくれればオレがついていく。それとオレは星の護り
背に乗りなさい﹂
﹁そうですね。星の護り手よ、そしてポッター家の娘よ。私かフィレンツェ、どちらかの
﹁とりあえずこの者たちを一刻も早く森の外へ。今はその方が安全です﹂
14. 禁じられた森での出来事
313
﹁ではシロウと。ベインもそれで良いですか
Side ???
﹂
﹂
妙な胸騒ぎを覚えながらオレたちは森の外へ行き、ハグリッドたちと合流した。
する。
ている。先程の疑問とオレの推測。間違っていなければ、近いうちに何かが起こる気が
そうしてオレ達は森の中を駆け出した。マリーはオレが抱えながら森の外へ向かっ
がないので﹂
﹁私は、シロウに抱えて貰います。ご厚意は嬉しいですが、流石に捕まっていられる自信
?
?
﹁構いません。ポッター家の娘はどうしますか
314
何なのだ、あの極東の小僧は
ご主人様
┃┃ それは違うぞ
一本も当たることはなかった。
きた。盾が容易く破られるほどの威力だった。しかし狙いが悪かったのか、こちらには
ところがあの小僧は杖も使わずに空中に剣を何本も出現させ、更にこちらに射出して
法を行使することなどわけない。だがそれでも杖の存在は重要になる。
ちらが見たことも聞いたこともない魔法を使ってくる。熟練の魔法使いなら無言で魔
なに危険とは考えていなかった。だがハロウィンのときといい、今回といい、やつはこ
ご主人様があいつには気を付けろ、絶対に近づくなとおっしゃっていたが、私はそん
!?
ご主人様
それは真ですか
?
┃┃ やつの剣は外れたのではない。やつはわざと剣を外れるように放ったのだ
?
?
14. 禁じられた森での出来事
315
316
┃┃ 間違いない。やつは端からこちらに当てるつもり等なかったのだ
随分と舐められたもn⋮⋮
┃┃ いや、舐めてなどいないだろう。
というと
う。言うなれば、やつは古文書に出てくる英霊や守護者の類いと見ていい
┃┃ お前とは違い、俺様は肉体を持たない。だからやつの異常性がわかってしま
そんな⋮⋮あの小僧がそんな力を
る
のだろう。恐らく俺様は勿論ダンブルドアでさえも、やつが本気になればすぐにやられ
┃┃ あの小僧にとって、俺様たち魔法使いを殺すことなど赤子の手を捻るようなも
?
14. 禁じられた森での出来事
317
そ⋮⋮んな⋮⋮
┃┃ 今回お前が生還できたのは、ある意味あのケンタウルスの邪魔のお掛けだ。奴
に対抗するには同じ英霊か不老不死しかないだろう。一刻も早く賢者の石を手に入れ、
命の水を飲まなければならない。
はい、ご主人様
15. 罰則のその後
Side マリー
あの罰則の日から数日、傷痕はまだ疼くように痛んでいた。それからときどき﹃闇の
魔術に対する防衛術﹄の授業で、クィレル先生の目が冷たく光るように感じられる。表
﹂
情と口調は今までと変わらないから、尚一層違和感を感じられる。
﹁最近なにも音沙汰がないけど、石は大丈夫なのかな
葉を聞いて思ったけど、まだスネイプ先生を疑ってたんだ。少し視野が狭い気がする。
廊下を歩きながらぼやくロンに、ハーマイオニーはそう答える。ハーマイオニーの言
いはずよ﹂
﹁少なくともダンブルドア先生がいる限りは、
﹃例のあの人﹄もスネイプも手出しできな
?
318
﹁ねぇ二人とも﹂
﹁﹁なに︵なんだい︶、マリー
私﹂
﹁あの先生はないぜ
﹂﹂
いつもの様子を見てみろよ﹂
﹁ずっとスネイプ先生を疑ってるようだけど、クィレル先生も結構あやしいと思うな、
?
瞬きせずに﹂
私は思わないわ﹂
?
そう思っているところにシロウが、
視野を広げさせようか。
むう、結構頑固だな。一度信じたものはテコでも変えないのか。さて、どう説得して
﹁クィレル先生がそんなことをする度胸があると思う
﹁あの先生だからあまりのことに固まっただけだって﹂
方を見てたんだよ
﹁だってクィディッチの初戦のことだけど、クィレル先生もすごく冷たい目をして私の
﹁ええ。あんなにビクビクしてる先生が石を盗むなんて﹂
?
?
﹁見た目だけで物事を判断するのは、オレはお薦めしない。例えば、だ﹂
15. 罰則のその後
319
そう言ってシロウは近くの階段に足を一歩踏み出した。すると階段だったそこは瞬
く間にスロープ状の通路に変化した。校内にいくつかある仕掛階段の一つだった。
﹂
?
そう言って軽く2、3度二人の頭に手を当て、二人から離れた。
て、オレが今言ったことを頭の片隅にでもいいから置いてほしい﹂
イプを疑っているのだろうし、マリーも理由があってクィレルを疑っている。だがせめ
﹁別に全てを疑え、と言っているわけではない。お前達もそれなりの理由があってスネ
く手を置いた。
ではないみたいだ。シロウはその二人の様子を見て一つ溜め息をつくと、二人の頭に軽
シロウの説明を聞いて一応は理解したみたいだけど、二人はまだ完全に納得したわけ
﹁ええ⋮⋮まぁ﹂
﹁⋮⋮うん﹂
ないのだ。それはわかるだろう
﹁一見普通と変わらない階段もこんな感じだ。目に見えるもの全てが真実という訳では
320
﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮むぅ⋮⋮⋮⋮⋮⋮シロウの撫で撫で。何でかわからないけど羨ましい。
﹁⋮⋮シロウ。前々から思ってたけど、あなた本当に私達と同い年
﹁実は僕らよりも二十歳以上年上だったりとか
﹂
それは私も思ってたけど⋮⋮⋮⋮シロウの撫で撫で、羨ましい。
﹁僕も思った。何か真面目な話をするときのパパと雰囲気がそっくりだよ﹂
?
あったら私も欲しいわよ、三十年後ぐらいに﹂
?
﹂
﹁病気で体の成長が遅いぶん、寿命が長いとか
﹂﹂
﹁何その全世界の女性を敵に回す薬
﹁﹁それとマリー、顔が怖いよ
?
知れんぞ
﹂
﹁さて⋮⋮な。もしかしたら見た目以上の年齢かもしれんし、ただの生意気な餓鬼かも
⋮⋮⋮⋮ハッ Σ︵゜Д゜〃︶ いけないいけない、私としたことが。
?
﹂
?
﹁実は薬とかで体を若返らせてるとか
?
15. 罰則のその後
321
?
シロウはニヤリと口の端を歪めながら悠然と大広間に歩いていき、私達はそのあとを
追った。その後ろ姿が一瞬、ほんの一瞬だけ夢の中の青年に重なって見えた。けど気の
せいだろうと思い、頭からその思考を一旦振り払った。
もう学年末テストが終わり、あとは結果を待つだけなので午後は特に予定はない。手
応えはあったので、全て合格にはなっているだろう。そして今は春真っ只中なため、外
はちょうどいい暖かさである。天気も晴れており昼寝に最適なコンディションだ。こ
こにシロウの膝枕があったら確実に安眠コースに入る。そんなことを考えながら、私は
大広間で昼食を摂った。うん。野菜と卵のサンドウィッチ、うまうま。
さて昼食も終わり、私達は四人でぶらぶらと歩いていた。ニコラス・フラメルと賢者
の石に関しては粗方調べてしまったため、特にやることもない。それにしても今日は暖
かい。そういえばノーバートが生まれた日も、春先にしては暖かかった。確かハグリッ
﹂
急に大声をあげて﹂
﹂
ドがポーカーの景品代わりに知らない相手から貰って⋮⋮
﹁ああー
私ったら何で気がつかなかったの
!?
﹁マリーどうしたのさ
﹁なんて間抜け
!
?
!?
322
﹁マリー。一人合点してないで説明してくれる
﹁うん、ええと⋮⋮﹂
﹂
﹂
それにそもそもドラゴンの卵を持
﹁⋮⋮⋮⋮ハグリッドは前々からドラゴンが欲しいって言ってた。そこに都合よくドラ
何かしゃべっている可能性があること。
けど、彼は結構ガードが緩いこと。そのことから、今回ノーバートの卵をくれた相手に、
入ったこと。狙われたのはハグリッドが持ち出したもの。そしてハグリッドには悪い
それから私は説明を始めた。私とシロウがグリンゴッツに行ったその日に、強盗が
?
ゴンの卵を持ち歩いている人が出てくると思う
ち歩くのは禁止されているはずでしょう
?
?
﹂
?
シロウの言葉を聞いて、私達はハグリッドの小屋へ走り出した。運良くハグリッドは
﹁ならこれからの予定は決まったな。幸い彼の小屋はここから近い﹂
﹁うん。こんなこと偶然にしてはおかしいもん﹂
ツ関係者が犯人って言いたいんだね
﹁じゃあマリーはその相手が前々からハグリッドのことを知っていて、尚且つホグワー
15. 罰則のその後
323
﹂
いた。小屋の前に腰かけて、縦笛を吹いていた。
茶でも飲むか
﹁ハグリッド。聞きたいことがあるの﹂
﹁おお、お前達か。なんだ
﹁相手の外見とかしゃべった内容とか﹂
﹁ハグリッド。ノーバートの卵を貰ったときのことを覚えてる
﹁今日はお茶はいいや。また今度一緒に飲もう﹂
?
﹂﹂
?
﹂
を聞かせりゃ直ぐに寝んねしちまう⋮⋮⋮⋮おおい四人とも。どこにいくんだぁ
﹂
に比べたらフラッフィーなんて、手懐け方さえわかればお茶の子さいさいってな。音楽
﹁そりゃそうだ。三頭犬なんて珍しいからな。それでな、俺は言ったんだよ。ドラゴン
﹁﹁フラッフィーに
と以外はわからなんだ。じゃが奴さん、フラッフィーに興味を示してたな﹂
﹁外見っちゅうか顔はわからんかった。フードを深く被っていたからな、男っちゅうこ
の隣で黙って聞いている。
ロンとハーマイオニーが中心になって、ハグリッドに質問を被せる。私とシロウはそ
?
?
324
?
私達はハグリッドの言葉を聞いた瞬間、城へ向かって走り出した。そして誰もいない
だろう廊下にたどり着くと、立ち止まって息を整えた。シロウは平然としていたけど。
﹁まずいよ。ハグリッドが三頭犬の出し抜き方を教えちゃった﹂
﹁ダンブルドア先生に報告した方がいいかもしれないわ﹂
﹂
ハーマイオニーとロンがそう言い、歩き出そうとした。けどシロウは立ったままだっ
た。
どうかしたの
?
﹁シロウ
?
﹁ダンブルドア先生への報告は
理するために一人になりたい﹂
﹂
﹁それは君らに任せる。オレが気になっているのも今回のことだからな。少し情報を整
?
オレは一人で行動する﹂
﹁いや、大丈夫だよマリー。すまないが三人とも、少し気になることができた。夕食まで
15. 罰則のその後
325
ハーマイオニーとロンは渋っていたけど、シロウの顔は真剣そのものだった。だから
私は夕食までに戻ってくるように約束させて、シロウに一人でいっていいように伝え
た。
﹁マリー、ありがとう。二人も、また夕食のときに﹂
シロウはそう言い、走り去っていった。
﹁さあロン、ハーマイオニー。私達も早くいこう﹂
私達も歩き出したけど、肝心なことを思い出した。私達は誰も校長室の場所を知らな
﹂
い。とりあえず、色んな場所を探してみようと歩き回ってたら、マグゴナガル先生に見
つかった。
﹁あなたたち、こんなところで何をしているのですか
﹁あ、マグゴナガル先生﹂
?
326
ちょうどいい。マグゴナガル先生なら校長室の場所を絶対に知っているはず。
﹁実は校長先生にお話がありまして﹂
﹁緊急なんです﹂
﹁直ぐに話さないといけないことなんです﹂
上から順に私、ロン、ハーマイオニーと先生に畳み掛ける。マグゴナガル先生も初め
は面食らった表情を浮かべたけど、直ぐに普段の顔に戻した。
今日はできませんよ﹂
﹁あなたたちがどういった要件で校長先生に話があるかは知りませんが、いずれにせよ
﹁でも先生。実は⋮⋮⋮⋮賢者の石についてのお話なんです﹂
マグゴナガル先生はいつもの調子で私達と応対する。そこでロンが、
﹁校長はつい先程、魔法省からの呼び出しで急遽ロンドンへ出発なさいました﹂
﹁そんな⋮⋮﹂
15. 罰則のその後
327
そう言うと、流石にその答えは予想していなかったのか、マグゴナガル先生は手に
持っている教材を地面に落とした。そしてそれを直ぐに拾わないことから、かなり驚い
ている。
と、それを妨害するためには私達も夜中に寮を抜け出す必要がある。なら今度も三人で
ということは、今この城にいる犯人が石を持ち出すには絶好の機会だろう。だとする
ダンブルドア先生がいない。
マグゴナガル先生はそう言い、歩き去っていった。
ら今日はもうここら辺でおさめなさい﹂
﹁くどいですよ、ミスター・ウィーズリー。明日には校長もお帰りになられます。ですか
﹁⋮⋮でもマグゴナガル先生﹂
ることはお薦めしません。というより今すぐ手を引き、忘れることを薦めます﹂
﹁⋮⋮あなたたちが何故石のことを知ったかは聞きません。ですが、今後この事に関わ
﹁それは⋮⋮秘密です﹂
﹁何故⋮⋮その事をあなたたちが⋮⋮﹂
328
15. 罰則のその後
329
透明マントを被り、シロウには悪いけど単独でついてきてもらうしかない。今度見つか
れば、罰則どころじゃすまなくなるため、慎重に動かないといけないだろう。私はそう
考えてロンとハーマイオニーには直接、シロウには念話で私の考えを伝えた。
三人ともそれを了承して、皆が寝静まった頃に談話室に着替えて集合することに決
まった。
行動するのは今夜。少しだけ胸騒ぎを覚えつつ、私達は時間が過ぎるのを今か今かと
待ち続けた。
16. 仕掛けられた罠 ︻前編︼
Side マリー
真夜中。
女子部屋の私とハーマイオニー以外は寝静まった頃に、私達は談話室に降りた。ロン
は既にそこにおり、シロウは気配を既に消してこの部屋にいるらしい。全員が揃ったた
﹂
め、私達は寮の出口に静かに向かった。が、
﹁また抜け出すつもり
?
﹁ネビル
君だったのか﹂
見た。その人物は⋮⋮⋮⋮ネビルだった。
突然ソファの影から声が響いた。私達は身構え、声の主がソファから立ち上がるのを
?
330
﹁もうこれ以上寮の点数を下げさせる訳にはいかないよ。それに今度見つかれば、最悪
退学になっちゃう﹂
ネビルの声は震えている。でも真っ直ぐこちらを見つめていた。
﹁ネビル。僕らはどうしても行かなきゃならないんだ﹂
﹁だとしても見つかれば終わりじゃないか。僕は君たちに退学になってほしくない。だ
﹂
から⋮⋮僕は君たちを止める﹂
!!
ハーマイオニーがポケットから杖を取りだし、ネビルに向けて呪文を放った。正確に
﹁ネビル。本当にごめんなさい﹂
ビルには悪いけど、私達も引くことはできない。
い。でも石が奪われるのと私達の退学を天秤にかけるなら、石の方が重要だ。だからネ
ロンは我慢の限界が近づいてきたのか、耳が赤くなってきた。ネビルの気持ちは嬉し
﹁ネビル
16. 仕掛けられた罠 【前編】
331
は放とうとした。けどその前に、シロウがどこからともなくネビルの前に躍り出て、そ
眠
れ
の目を真っ直ぐ見つめて一言、
﹁somno﹂
と呟いた。
途端ネビルは力が抜けたようにぐったりと床に倒れ込みそうになり、シロウに支えら
﹂
れてソファに寝かされた。そしてどこからともなく毛布を取りだし、ネビルに掛けた。
その時間、僅か5秒だった。
﹁ねぇシロウ。あなたいったい何をしたの
すれ違うことはなく、進入禁止の例の部屋に辿り着いた。
ニーに杖を戻してもらい、シロウを除いた三人でマントを被って移動した。幸い誰とも
とをしたんだろう。とにもかくにも、これで寮から出れるようになったからハーマイオ
たぶん、初試合の日のクィレル先生かスネイプ先生のやっていたことと同じようなこ
﹁眠るように暗示を掛けた。心配ない。朝には目が覚める﹂
?
332
扉を開けると、やはりフラッフィーがいた。眠っている状態で。
﹁やっぱりだ﹂
ロンが言う。
﹁スネイプかクィレル先生がもう既に石に向かってるんだ。ほら﹂
ロンの指差した先には、勝手に音楽を奏でているハープがあった。ハープが動いてい
何だか妙に静かな気が⋮⋮
る間はフラッフィーが起きることはないので、急いで床の扉を開く。中は暗く、先が見
えなかった。⋮⋮⋮⋮あれ
けを見ていた。そして顔を三つの頭全てから舐められた。辛うじて後方に見える尻尾
でもおかしい。確かにフラッフィーは顔をこちらに向けている。けど正確には私だ
は止まっている。フラッフィーが目を覚ましてこちらを見ていた。
私達は顔を上げると、目の前にはこちらを無言で見つめる6つの目があった。ハープ
?
なにこの状況
?
は⋮⋮⋮⋮パタパタ振っていた。
⋮⋮⋮⋮え
?
16. 仕掛けられた罠 【前編】
333
﹁そうだね﹂
﹁ならオレが先にいこう﹂
そう言えば前回この子を見たときも吠えられ
本当に何なのこの状況
?
Side シロウ
ちゃったんだね⋮⋮⋮⋮
フィーは捨てられそうな子犬のような目をしていた。⋮⋮⋮⋮私そんなに気に入られ
そう言ってシロウ、ハーマイオニー、ロン、私の順番で下に降りた。そのとき、フラッ
?
私今度は三頭犬に懐かれちゃった
てはいなかった。⋮⋮え
?
﹁今のうちに降りた方が良さそうね﹂
334
穴に落ちた先は、何かの植物の上だった。ロンは安心したような声をあげたが、オレ
﹂
は嫌な予感が脳裏を掠めた。すると突然、蔓が足に巻き付いた。中々に強い力だ。
﹁何だよこれ
でしまう。
動かな
!
﹂
これは﹃悪魔の罠﹄よ 動けば余計に締め上げられるわ
ければ解放してくれるわよ
!
ンは完全にパニックに陥り、オレ達の名前を呼びながらジタバタしている。そして余計
ると、蔓の下の固い床に落とされた。ハーマイオニーもすぐあとに落ちてきた。だがロ
ハーマイオニーが叫ぶ。オレとマリーはハーマイオニーの忠告通りにじっとしてい
!
!
せることしかできない。宝具や黒鍵を使えば手はあるが、今使うと他の三人を巻き込ん
いかのどちらかが有効だったはず。一番確実なのは燃やすことだが、生憎オレは爆発さ
ロンが叫ぶ。オレの予想が正しければ、この類いの植物は強い光を当てるか、動かな
!?
﹁皆動かないで
16. 仕掛けられた罠 【前編】
335
﹂
に強く蔓が体に巻き付いていく。このままだと本当に絞め殺されかねん。
﹂
﹁ハーマイオニー。こいつに光や爆発、炎の類いは効くか
﹁ええ効く。でも薪が無いわ
﹁ならば⋮⋮﹂
子供には早すぎる。
気に似ている。オレはハーマイオニーを然り気無く二人から遠ざけた。まだ十一歳の
⋮⋮⋮⋮あ、この雰囲気はヤバイ。オレが凛、イリヤ、桜から説教を受ける前の雰囲
ロンがそう言うと、マリーが無表情でロンに近づいた。
﹁ふう、落ち着いたお陰だ﹂
物はロンを床に落とし、燃えた箇所を自分で切り離して動かなくなった。
黒鍵に刻まれているのは﹃火葬式典﹄。そこから炎が上がり、蔓を燃やす。耐えかねた植
オレは黒鍵を投影し、植物に投擲した。できるだけロンから離れた場所に突き刺す。
!?
?
336
﹁⋮⋮ねえロン﹂
﹁なんだいマ⋮⋮リー
﹂
﹁ロンが助かったのはハーマイオニーの知識とシロウの機転のおかげだよ
﹁うっ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ロンが言うべきことは
﹂
たお陰ってのは違うんじゃないかな
﹂
﹂
﹁私達が下に落ちたのを見て心配になってパニックになったのはわかる。でも落ち着い
?
?
?
﹁ハーマイオニー、シロウ。ありがとう﹂
?
同じく、何か聞きたそうな顔をしている。まぁ何を聞きたいかわかってはいるが。
マリーが声をかけてきた。ロンは気がついてはいないが、ハーマイオニーもマリーと
﹁ねぇシロウ﹂
話がつき、オレ達は移動を始める。と、そこに
﹁﹁どういたしまして︵気にするな︶﹂﹂
16. 仕掛けられた罠 【前編】
337
﹂
?
﹁でも⋮⋮﹂
﹁二度は言わない﹂
﹁⋮⋮いつか話してくれる
?
るのは、羽をつけた様々な種類の鍵。部屋の真ん中にひとりでに静かに浮かぶ一本の
な無数の羽音が聞こえる。オレ達は目配せをし、まずオレが中に入った。目の前に広が
突き当たりにはまた扉が一つあった。生き物の気配はない。だがカサカサいう小さ
オレはそう言葉を紡ぎ、二人は承諾した。そして先を行くロンを追った。
﹁然るべきその時に、必ず﹂
ねば。
してくれと語っていた。⋮⋮まったく、どうもオレはそう言う目に弱いらしい。精進せ
マリーがこちらをじっと見つめる。その目はオレに、今は聞かないけどいつか必ず話
﹂
﹁すまないが今は話せん。今は胸のうちにとどめておいてくれ﹂
﹁さっきの燃える剣。あれって何なの
338
箒。部屋の奥にはまた別の扉がある。オレのあとから残りの三人が入り、状況を確認し
ていた。
﹁これは⋮⋮⋮⋮﹂
﹁恐らくこの中の一つだけが本物の鍵なのだろう。それを箒に乗って捕まえると﹂
あ の 片 方 の 羽 が 折 れ 曲 が っ た や
﹁あら、意外に簡単じゃない。幸いここにはうちの寮のシーカーがいるし﹂
﹁だね。あとは本物のを見つけるだけだ﹂
つ﹂
﹁二 人 と も 他 人 事 の よ う に ⋮⋮⋮⋮ あ れ じ ゃ な い
た。恐らく強引に捕まれたのだろう。さて、
マリーの指差す方向をみると、成る程。確かに一際古びて羽の折れ曲がった鍵がい
?
﹂﹂
君を襲ってくるだろう。ハーマイオニー、ロン。﹂
﹁﹁なに︵なんだい︶
?
?
﹁君らは火花でできるだけダミーを打ち落とすんだ。できるか
﹂
﹁マリー、油断はするな。オレの予想が正しければ、君が箒を手に取った瞬間にダミーが
16. 仕掛けられた罠 【前編】
339
﹁ええ、できるわ﹂
﹂
?
﹁これで第二関門突破だね﹂
で開けて鍵を離すと、本物はまた宙を羽ばたきだし、ダミーもこちらを襲わなくなった。
ダミーの数が半分程に減ったとき、ついにマリーは本物を捕まえて箒を降りた。急い
で切り払う。撃ち抜かれ、切り払われた鍵は床に落ちて、為す術なく転がっていた。
いく。オレは壁や柱を蹴って移動し、ダミーや火花の流れ弾を魔力を通したアゾット剣
ロンとハーマイオニーはできるだけマリーに当てないように、火花でダミーを落として
本 物 は 必 死 に 羽 ば た い て 逃 げ て い る。オ レ 達 残 り の 三 人 は 計 画 通 り に 行 動 を 始 め た。
マリーは箒へ近寄り、その手に持つ。瞬間、ダミーの鍵が一斉にマリーを襲いにきた。
まぁとにかく、方針は決まった。
﹁私もよ﹂
﹁最近シロウのその発言と行動に驚かなくなった自分が怖いよ﹂
には調度いい﹂
﹁オレは切り払う。幸いここは天井が程よい高さだし、柱も多い。壁を蹴って移動する
﹁できるけど、シロウは
340
﹁恐らく今のは妖精魔法の一つ。となれば、この関門はフィリットウィック教授のだろ
う﹂
﹁フラッフィーがハグリッド、﹃悪魔の罠﹄が薬草学のスプラウト先生ね﹂
そう推測し、オレ達はまた次の部屋へ入った。
そこには二十はある石像が規則正しく並んでいた。石像が立つのは、白と黒のマス模
様が書いてある床の上。石像も白と黒の色をしている。もしやこれは⋮⋮
第三関門。それは部屋一杯に広がる大きな盤で行うチェスゲームだった。
﹁これは魔法使いのチェスだ。それも特大の﹂
ロンが言う。
﹁チェスだ﹂
16. 仕掛けられた罠 【前編】
341
のだ。例えばナイトは騎乗兵であるとか。そして相手方の駒をとる際、結構バイオレン
ばし、動かすものである。しかも駒の形は人形、それぞれのポジションに順応した形な
ひとがた
ている。加えて魔法界のチェスは、当に自分が軍師になったかのように駒へと指示を飛
まさ
前述の通り、チェスの歴史はとても古いため、魔法界非魔法界に関係なく広く広まっ
それはさておき。
がある。
欧がチェスならば、このシャトランガがアジアに広まったものが将棋であるという見方
由して欧州に伝わったものがチェスとなった、という説が最も知られている。因みに西
元となったとされるインドの﹃シャトランガ﹄と呼ばれる盤上遊戯が、ペルシャを経
前のインドへと遡る。
でもそれは変わらない。ルールもマグルの世界と同じである。その歴史は遥か昔、紀元
チェスと言えば、十と六の駒を扱う戦略ボードゲームを皆は想像するだろう。魔法界
Side シロウ
17. 仕掛けられた罠 ︻後編︼
342
スなことに、駒が持つ道具、クイーンやキングは玉座、僧侶は杖などで対象の駒を破壊
するというものである。
さて、今オレ達の目の前に広がるのは、駒の大きさが自分等よりも遥かに大きいチェ
ス盤だ。無論その大きさの駒を人が動かせるはずがない。材質がポリエチレンでもな
い限り。だが残念ながら駒の材質は、正真正銘石であり、それぞれが持つ道具は金属製
﹂
少なくとも敵方、白の駒とのゲームに勝たなければ、先に
ときたものだ。オレの予想が正しければ、これは本当に特大の魔法使いのチェスなのだ
ろう。
は進めないだろうが﹂
﹁無論プレイするよ。けど、ここは僕に任せてくれる
?
か二人と試合したけど、お世辞にも上手とは言えない。駒が動かないマグルのチェスな
﹁理由はマリーとハーマイオニーが、悪いけどチェスがうまいとは言えないんだ。何度
の理由があるのだろう。だからオレ達は黙って先を促した。
珍しくロンが自分から行くといった。彼がここまではっきりと言うのなら、それなり
?
﹁⋮⋮さて、どうするかね
17. 仕掛けられた罠 【後編】
343
らともかく、駒自体に意志がある魔法使いのチェスには、二人は向いていない。シロウ
はどうかわからないけど﹂
駒が、ポーンを二歩動かした。その時、ハーマイオニーが不安そうな声をあげる。
﹁ねぇロン。まさかと思うけどこのチェス、あのちっちゃなチェスみたいなものなの
?
に破壊した。破片の一つがオレの足元に転がってきた。
して前に進めた。次の瞬間、敵方のポーンはこちらのポーンを、轟音をたてながら派手
ハーマイオニーの言葉にロンはしばらく考え込み、様子見としてポーンを一体、囮と
﹂
故かオレがキングとなった。そしてゲームが始まった。先ずは先攻である敵方の白の
ンに立った。マリーがビショップ、ハーマイオニーがルーク、ロンがナイト、そして何
不要を質問した。結果は必要。そこでオレ達は、それぞれロンが指定した駒のポジショ
ロンはそう言うと近くの、あれはナイトだな、の駒までいき、ポジションの変更の要
ないといけないと思う。ちょっとあの駒に聞いてみる﹂
﹁成る程ね。あと僕の予想だけど、たぶん僕たちが何かの駒に直接変わってゲームをし
﹁いや、オレは軍師向けではない。精々尖兵がいいところだよ。あとは狙撃手か﹂
344
﹁⋮⋮その通りだよ、ハーマイオニー。これは誤魔化しようもなく、あのちっちゃなチェ
スがそのまま大きくなったものだよ﹂
ロンの言葉にマリーとハーマイオニーは息を飲み、顔を少し青くさせた。オレもある
程度は予想していたが、さすがにこれは当たり所が悪ければ、重傷になるだろう。
それからは駒をとってはとり返すゲームとなった。マリーやハーマイオニーがとら
れそうになるのを、ギリギリ気がついて回避するという場面も、少なくはなかった。だ
が、ロンは駒をとられつつも、確実に白の陣営を追い詰めていた。そしてまた数手がす
ちょっと待って。う∼ん⋮⋮﹂
ぎ、今目の前でマリーと対を為すビショップが、白のクイーンに破壊された。
﹁あれ
﹁⋮⋮そっか。やっぱりか﹂
﹂
ロンが考え込むと、敵のクイーンはロンに顔を向けた。
?
﹁ねえロン。一人合点してないで教えて
?
17. 仕掛けられた罠 【後編】
345
﹂
﹁⋮⋮わかった。次の手で僕が駒を進めると、敵のキングにチェックをかけることがで
きる﹂
﹁⋮⋮ロン。お前まさか﹂
﹁どういうことよ、シロウ
﹁まさか⋮⋮ロン
﹂
聞いてくれ。僕が前に進むと、クイーンが僕を取
あなた自分を犠牲にする気
﹁これしか今は考えられないんだ
!?
!
ロンは既に覚悟を決めた顔をしている。なら止めても無駄か。
はこれしかない。これがチェスなんだよ﹂
﹁急がないともう石が盗られているかも知れないだろ わかってくれ、二人とも。今
﹁でもそしたらロンは⋮⋮﹂
ができる﹂
りに来る。そしたらマリーの進路ができてキングにチェックメイトを掛けて勝つこと
!
!
な。だがロンはナイト、妨害は殆ど意味を為さない。ならば⋮⋮﹂
は障害を排除するか、妨害を置かなければならない。向こうのキングは動けないから
﹁つまりだ。ロンが今の手で前に進むと、キングをとれる位置に来る。となれば、向こう
?
346
﹁二人ともそこまでだ。ロンは既に覚悟を決めている。なら止めても無駄だ﹂
﹁⋮⋮シロウ、ありがとう﹂
お前の判断を尊重したのだ。事が終われば説教だからな﹂
﹁勘違いはするな。オレは納得した訳ではない。だが今はそれしか方法がない。だから
そう、納得した訳ではない。誰かを犠牲にする、そんなやり方はどれだけ時間が経と
うと認められない。それはオレがオレだから。だが犠牲によって何かが為されるとい
うのもまた事実。幸い今回のチェスでは怪我こそすれ、死ぬことは無いだろう。だから
今は無理矢理納得することにした。
ニーが息を飲み、ロンの元へ行こうとした。
た。ロンはその余波で気絶したらしく、地面でぐったりと転がっていた。ハーマイオ
動きだし、ロンの元へ近づいた。そしてロンが兵士の代わりに乗っていた馬を破壊し
ロンは自分の位置を指定し、キングにチェックをかけた。すると向こうのクイーンが
﹁⋮⋮お手柔らかにお願いします、シロウさん。さて⋮⋮﹂
17. 仕掛けられた罠 【後編】
347
﹁動くな
﹂
オレは一喝し、ハーマイオニーを止める。
!!
ここならば一応は安心だろう。そしてオレ達は扉を開けて、先へと進んだ。
だった。オレ達は白の駒が並ぶ壁までロンを抱えて移動し、ロンを壁に持たせかけた。
そう悟ると、オレ達はロンの元へ急いだ。幸い怪我の類いはなく、気絶しているだけ
勝った。
掛けた。相手のキングはその王冠をとり、マリーの足元へ投げた。
オレがマリーに呼び掛けると、マリーは一つ頷き、盤上を移動してチェックメイトを
﹁ゲームはまだ続いている。マリー﹂
348
17. 仕掛けられた罠 【後編】
349
Side マリー
扉を開けた先の廊下をしばらく進むと、酷い臭いが鼻をついた。まるでしばらく掃除
をしていない、腐った溝のような臭いだ。この臭いは嗅いだことがある。ハロウィンの
日に女子トイレに浸入したトロールと全く同じ、鼻が曲がるような臭いだ。目の前の扉
を開けるのは躊躇したけど、シロウが先に開けて入った。
部屋は今までで一番広く、入り口近くには、ハロウィンのときよりも更に大きなト
ロールが、ノックアウトされた状態で転がっていた。正直助かった。いまこのときに、
トロールの相手はしたくなかった。私達は目の前にある先へと進む扉に差し掛かると、
部屋の奥の方、暗くてよく見えないところから、鎖を引きずる音が聞こえてきた。重々
しい足音もする。
⋮⋮⋮⋮まさか、まだトロールがいたの しかも音からしてそうとう大きいだろう
ジーンズ、その上にジャージを着ていた。
の服装は、さっきまでと大きく違っていた。さっきまでのシロウはユニ○ロのシャツに
そう思った矢先、私達の前に、一つの大きな背中が出てきた。シロウだった。けどそ
る。私も怖い。まだ死にたくない。
し、複数いる。私達だと死んでしまう。ハーマイオニーも顔を真っ青にして震えてい
?
け ど 今 は 黒 の レ ギ ン ス に 金 属 の 留 め 金 の つ い た 黒 の ブ ー ツ。黒 の 袖 無 し の レ ザ ー
アーマーに、不思議な紅いマークのついた黒の外套を纏っていた。その後ろ姿は、騎士
のようにも見えた。
だ﹂
?
は更に増して硬質である雰囲気を放ち、体のパーツバランスは私達に近くなっている。
出てきた二体のそのトロールの姿は、私の見たことのあるトロールじゃなかった。体
してトロールは姿を現した。
足音が近づいてくる。そして溝の様な臭いじゃなく、血生臭い臭いが漂ってきた。そ
﹁シロウはどうするの
﹂
﹁恐らく、この先にはもう危険なものは、最後の部屋以外は無いだろう。二人なら大丈夫
ぐと部屋の奥を見つめて構えた。
そう言うと、シロウはその両の手に白黒の双剣をどこからともなく取り出し、真っ直
﹁マリー、ハーマイオニー。この先の仕掛けと石は任せた。ここはオレが受け持とう﹂
350
そこに転がっているトロールの様に、頭が異様に小さいというわけではなくなってい
た。更に加えて、その身には鎧を纏い、武器はまるでモーニングスターの様に棘のつい
た、特大のメイスを携えていた。
明らかにその二体のトロールは改造され、更に強力そうになっていた。普通のトロー
ルでさえ大人の魔法使いは対処に苦戦すると聞く。ならば、それが改造されればどうな
るか、想像に難くない。
﹁⋮⋮⋮⋮し、シロウ⋮⋮あれは⋮⋮﹂
﹁ああ、改造されているな﹂
だろう
だからお前たちが先の仕掛けを破っている間に、オレがこいつらを何とかす
﹁オレは大丈夫だ。それに、万一お前たちが帰ってきても、こいつらがいては安心できん
いつの間に私達の頭に、シロウの手が置かれていた。
に、今の状況は絶望的だった。頭にちらっと諦める思考が過った。でもそれは束の間、
私とハーマイオニーは、恐らく今は絶望した様な顔をしているだろう。それほどまで
﹁そんな⋮⋮﹂
17. 仕掛けられた罠 【後編】
351
?
る﹂
シロウはこちらを安心させるような、柔らかな微笑を顔に浮かべていた。その顔を見
﹂
て、私は悟った。ああ、もうこれ以上は言っても無駄だな、と。
﹁本当に、本当に大丈夫なの
﹁ああ、オレを信じろ﹂
ずしてかかってこい
その体の堅さ、体力は充分か
﹂
!
シロウを信じるといったのだ。なら先に進むだけ。私とハーマイオニーは一つ頷き合
というシロウの声と、トロールたちの雄叫び、そして地鳴りが聞こえた。でも私達は
!
の一度も敗走はない。改造トロールたちよ、これより貴様らが挑むは剣戟の極致。恐れ
﹁改造されたトロールとやりあうのは初めてだな。だがどんな相手でも、この身にただ
屋の中から、
シロウのその強い言葉に、私達は渋々納得し、先へと進んだ。ドアを閉めるとき、部
?
352
うと、廊下を進み、その先にある扉を開いた。
扉の先に広がるのは、少し小さめの教室ぐらいの部屋と、その真ん中に設置されてい
る、複数の小瓶の置いてある長机だけだった。私達が机まで歩いていくと、その四方を
取り囲むように、色とりどりの炎が燃え上がった。私達は机の周りしか、今は動けない
状態だった。
ふと机を見ると、小瓶以外に一枚の羊皮紙が置かれていた。私はそれをハーマイオ
ニーにみせた。途端、ハーマイオニーは目をキラキラとさせて、その紙に書かれている
文章を読み始めた。
﹂
!!
﹂
?
﹂
!!
!!
うん、絶対賢者の石についてすっぽ抜けてる。
それからハーマイオニーは嬉々として論理のすごさについて語り始めた。⋮⋮⋮⋮
なものと考える人が多いけど、それは違う
﹁これは魔法の仕掛けじゃない。論理よ、パズルだわ 魔法使いの中には論理は不要
﹁なんなの
﹁これ、これすごいわ
17. 仕掛けられた罠 【後編】
353
﹂
﹂
⋮⋮⋮⋮。⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
!?
﹂
!!
﹁⋮⋮⋮⋮
﹁
﹁⋮⋮⋮⋮フゥ⋮⋮⋮⋮喝ッ
!!
﹁それはこれ﹂
﹁じゃあ後ろに戻るためのは
﹂
﹁わかったわ。あの小さな黒い小瓶は先に進むための薬よ﹂
きた。どうやら謎は解けたらしい。
ない。しばらく待っていると、ハーマイオニーは指をパチリと鳴らしてこちらに戻って
り来たりしていた。正直パズルの類いは苦手だから、今はハーマイオニーに任せるしか
それからハーマイオニーはブツブツと呟き、時折小瓶を指差しながら机の前をいった
﹁⋮⋮⋮⋮ごめんなさい﹂
せないと﹂
﹁ハーマイオニーがどれだけ論理が好きなのかはわかった。でも今は早くことを終わら
!?
!!
354
?
ハーマイオニーは黒い小瓶の右隣にある別の小瓶を指差した。
﹂
﹁ならハーマイオニーがそれを飲んで。私が先へ行く﹂
﹁マリー
﹂
?
息をついた。ついでに片手を額にあてていた。
ハーマイオニーはしばらく私の顔をじっと見つめていたけど、やがて一つ大きなため
﹁うん。私は大丈夫﹂
﹁大丈夫なの
ア先生にフクロウ便で知らせて欲しい﹂
の部屋だと私は思うんだ。だからハーマイオニーには戻って、シロウたちとダンブルド
﹁たぶんこの先にはヴォルデモートか、その手下がいると思う。そして次の部屋が最後
?
﹁あ、あはは⋮⋮﹂
てきてるわね、本当に﹂
﹁⋮⋮⋮⋮まったく、そんな顔されたら何も言えないじゃない。あなた段々シロウに似
17. 仕掛けられた罠 【後編】
355
﹂
笑い事じゃないわよ、と言いながらハーマイオニーはやれやれと首を振ると、今度は
絶対に無茶はしないで。無事に帰ってきなさい。わかった
真っ直ぐ私の目を見てきた。
﹁いい
?
じゃあ⋮⋮﹂
!
?
﹁ええ、気を付けて﹂
﹁じゃあ行ってきます﹂
一歩踏み出すと、果たして炎の熱さは襲ってこず、服や髪の類いも一切燃えなかった。
がなく、冷たい氷を飲んでいるような感触だった。そして先へと続く道を塞ぐ黒い炎へ
そして私達はそれぞれの小瓶を手にとり、その中身を一気に飲み干した。私の薬は味
﹁よろしい
﹁わかった﹂
よ。それを忘れないで﹂
﹁ならあなたは大きな妹かしら とにかく、石も大事だけどあなたの命はもっと大切
﹁⋮⋮ハーマイオニー、まるでお姉さんみたい﹂
?
356
私達はそれぞれの方向へと歩き出し、目の前の扉を潜った。その先はまた廊下が続い
ていた。先を進むごとに、首筋の傷跡がズキズキと痛み出す。敵がこの先にいると私は
わかった。廊下の端へとたどり着くと、そこには扉があった。傷跡の痛みも激しくなっ
てきた。私は一つ深呼吸をして、一思いにその扉をあけた。
目の前には少し下る階段があり、それは小さな広間へと続いていた。広間の中心に
は、クリスマスの日の夜に、ダンブルドア先生から探さない様に注意された﹃みぞの鏡﹄
が置かれ、その前には一人の男がいた。
ああ、やっぱり。
うな雰囲気を纏ったクィレル先生だった。
鏡の前に立っていたのは、いつものオドオドした雰囲気ではない、冷たく凍りつくよ
﹁その通りだ﹂
﹁あなただったんですね。クィレル先生﹂
17. 仕掛けられた罠 【後編】
357
18. 二つの顔をもつ男
﹁よくわかったな。あの黄色い猿の入れ知恵か
﹂
﹁クリスマスの夜にあなたの声を聞きました。それからスネイプ先生の声も。言葉だけ
しでも邪魔をしなければ。
た。恐らく、いや確実にあの﹁みぞの鏡﹂が賢者の石を手にする鍵なんだろう。なら少
クィレル先生、もう先生は要らないか、は鏡に目を戻すと、それをじっと見つめてい
な。誰もこ、こんな、か、かわいそうな、ど、どもりのクィレルを疑わないだろう﹂
イプを疑ったか。まぁわからなくもない。彼は一見怪しげな雰囲気を纏っているから
﹁東洋人はみんな猿だよ。特に極東の島国の猿はキィキィ五月蝿い。それにしてもスネ
せん﹂
﹁他の二人はスネイプ先生を疑っていたみたいでしたが。それとシロウは猿じゃありま
﹁あの猿じゃなかったか﹂
﹁いえ、クィディッチの初戦のときから何となく﹂
?
358
を聞けば、スネイプ先生が脅しをかけているようにも聞こえるやり取りを﹂
﹁ああ﹂
クィレルは私に顔を向けずに返事をした。
﹁実に厄介な男だよ、スネイプは。クリスマスのときもそうだが、その前にも奴には邪魔
をされた。ハロウィンのとき、トロールを城に入れたのは私だ。皆が騒いでいる間に石
を奪うつもりだったが⋮⋮﹂
クィレルはこちらに一切顔を向けていない。けどその口調は、明らかに苛立ちが込め
られていた。
?
君を殺せなかった﹂
﹁あなたのトロール
﹂
そのせいで、三頭犬はスネイプを噛み殺し損ねたばかりか、あの猿のせいでトロールは
ままいけば、三頭犬がスネイプを噛み殺していたのに、そこにマグゴナガル教授がきた。
﹁あの男、スネイプは真っ先に私を疑った。そして三頭犬の前で私を問い詰めた。あの
18. 二つの顔をもつ男
359
﹁さよう。私はトロールに関しては特別でね。意のままに操ることも改造することも自
在さ﹂
たのさ﹂
半巨人って誰のこと
?
﹁おや、知らなかったのか ルビウス・ハグリッドは人と巨人の間の子だよ。魔法は効
まさか⋮⋮
ても、三頭犬だけはどうにもならなかった。だからあの半巨人を騙して情報を聞き出し
﹁私が改造したものだ。だがそれでも苦労した。トロールや他の仕掛けはどうにかでき
﹁じゃあここに来るまでの二体は⋮⋮﹂
360
﹂
﹁御主人様は今は力を蓄えなければならない。いくら命の水で復活するとしても、それ
﹁ならユニコーンの血は
男から情報を引き出す必要があった﹂
﹁全部私だ。御主人様の復活に、どうしても賢者の石が必要だったからね。あの馬鹿な
﹁じゃああの卵も﹂
ドラゴンとか﹂
きづらいが、気性は巨人寄りだ。だから危険な生き物を好む傾向があるんだよ。例えば
?
?
までに力尽きれば意味がない。御主人様は常に私と共にいらっしゃる。あの御方は偉
大だ。馬鹿馬鹿しい正義論を持っていた私に、真に正しいことはなんたるかを教授して
くださった。だから私はあの御方のために、ユニコーンの血を飲んだ。さて⋮⋮⋮⋮﹂
そこでクィレルは杖を一振りすると、私の体は金縛りにあったかのように、動かなく
なった。
ければならないのでね﹂
﹁お喋りはここまでだ。君にはじっとしていてもらおう。私はこの興味深い鏡を調べな
口も動かすことが出来ないので、喋りかけることも出来ない。
処だ
何故見つからない
﹂
!!
い。そのとき、
クィレルが鏡に向かって吠える。どうやら石が手に入らずに、イライラしているらし
!!
﹁ああ、見える。見えるぞ。御主人様が命の水を飲み干し、復活なさる姿が。だが石は何
18. 二つの顔をもつ男
361
┃┃ その子を使え
﹂
謎の声が突然響いた。
﹁御主人様
ここに来い
﹂
!!
┃┃ その子を使うのだ
﹁わかりました。ポッター
﹁さぁ言え
何が見える
﹂
!!
た。途端、私のポケットに重たいものが入った。そっと気づかれないように布の上から
赤く光る石を取り出した。そして一度ウィンクをすると、そのまま石をポケットに戻し
底怯えた表情を浮かべていた。と、突然鏡の中の私は微笑み、スカートのポケットから
今の私は、言われた通りに鏡を見るしかなかった。鏡に映る私は、とても情けない、心
!!
クィレルが杖を再び振ると、私の意に反して体はクィレルの隣へ歩いた。
!!
?
362
確かめると、ゴツゴツした固い石が入っていた。
何が見えた
﹂
図らずも、私は賢者の石を手に入れてしまった。
﹁言え
!!
﹂
﹁大人になった私が、子や孫たちに囲まれているのが﹂
とにかく今は嘘をつかなければ。
﹁⋮⋮私が見えました﹂
!!
!!
謎の声が響き、私は足を止めざるをえなくなった。
┃┃ その子は嘘をついている。
私は、できるだけバレない様に慎重に後ろに下がった。しかし、
クィレルは私を後ろに追いやると、再び鏡の前に立った。今がチャンス。そう思った
﹁どけ
18. 二つの顔をもつ男
363
﹁この有り様をみろ﹂
﹂
首筋の傷跡が激しく痛む。間違いない。この人がヴォルデモートだ。
﹁マリナ・ポッター⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ヴォルデモート﹂
鼻、そして紅く光る二つの目。その瞳孔は蛇のように縦長だった。そうか、この人が。
の下には果たして、クィレルの後頭部にもう一つの顔があった。青白い肌に蛇のような
声の言葉に、クィレルはターバンをほどいた。何メートルあるか分からないターバン
┃┃ それを話すだけの力はある。
﹁御主人様。それにはまだ力が⋮⋮﹂
!!
本当のことを言え
!!
┃┃ 俺様が話す。直に話す。
﹁ポッター
364
低くしゃがれた、しかし力のこもった声が顔から発せられる。それは先程から響いて
いた声と同じだった。
﹁11年前、お前に呪いを跳ね返されてからこの様だ。そこらの塵と同じ、風が吹けば、
それだけで消えてしまいそうな弱い存在になった。だがクィレルに憑いてからは、着実
に俺様は力を蓄えていった。俺様のためにとこいつはユニコーンの血も飲んでくれた。
いい僕だよ﹂
ヴォルデモートは言葉を続ける。
﹁言ってくれるねぇ﹂
﹁嫌です。渡しません﹂
やっぱりバレてたか。けど私もはいどうぞと渡すわけにはいかない。
わかった。さて、そのポケットの中にある石を渡してもらおうか﹂
﹁そして俺様は自らの肉体を取り戻すのに、賢者の石から精製される命の水が有効だと
18. 二つの顔をもつ男
365
ヴォルデモートはクツクツと含むような笑いを、私を見ながら漏らした。
その石を渡せば、命は助けてやる﹂
?
る状態とはいえ、本人がいる。
?
﹂
﹁あなたは今のようになる前、そして復活したあとは何をするつもりですか
﹁知れたこと。この世界を我が手に納める﹂
﹁それは魔法世界、非魔法世界に関わらずに
?
﹂
きから、どうしても本人の口から聞きたい事があった。今、目の前には他人に憑いてい
ヴォルデモートがもしかしたら生きている、と漏れ鍋でハグリッドから聞かされたと
﹁まぁいいだろう﹂
﹁⋮⋮⋮⋮一つだけ聞かせて下さい﹂
いだろう
は俺様の前に立ち塞がったがために、死ぬことになった。両親の死を無駄にしたくはな
戦ったがね。次はお前の母親だった。大人しくお前を差し出せばよかったのに、あの女
﹁お 前 の 両 親 も 最 期 ま で 俺 様 に 刃 向 か っ た。俺 様 は ま ず お 前 の 父 親 を 殺 し た。勇 敢 に
366
﹂
そのようなことはあってはならない﹂
﹁そうだ。そもそも何の力もないマグル風情に、何故力を持つ我々が隠れ忍ばねばなら
ん
﹁⋮⋮⋮⋮本当に
わかったことがある。
﹁理解したか。なら話は早い。その石を﹁渡しません﹂⋮⋮⋮⋮何だと
?
ないように、目を向けないようにしている。
﹂
の一瞬だけ、その目に悲しみが感じられた。ヴォルデモートはそれに無意識に気がつか
は私にはわからないけど、それだけはわかる。彼が自らの野望を語るとき、一瞬。ほん
そう。彼、ヴォルデモートは自分の本当の願いに気がついていない。それが何なのか
!!
﹂
私の言葉に満足したのか、ヴォルデモートは上機嫌な表情を浮かべた。ああ、確かに
﹁⋮⋮⋮⋮わかりました﹂
﹁それこそが俺様の最終目標。マグルを排除し、力ある魔法族だけの世を作ることがな﹂
?
?
﹁あなたにこの石は渡しません。自分の本当の願いに気がついていない、あなたには
18. 二つの顔をもつ男
367
﹁⋮⋮小娘風情が⋮⋮﹂
殺しても構わん
﹂
クィレルとヴォルデモートの目に、怒り、憎しみ、怨み等の負の色が浮かび上がった。
石を奪え
!!
﹂
﹁口で言っても聞かないか。クィレル
﹁御意
!!
﹁何をしている
早く石を奪え
小娘を殺せ
﹂
﹂
!!
﹂
﹁しかし御主人様。手が、私の手が
﹁なら魔法を使え
!!
!!
!!
ら、目を開けてクィレルの方を見た。彼の右手は爛れて、次いでボロボロと崩れ始めた。
けどクィレルも一緒に苦悶の声をあげていた。手を離されると少し痛みが引いたか
ず目をつむり、叫び声をあげた。
押さえつけられた。首を捕まれた瞬間、傷跡が燃えるような痛みに襲われた。私は思わ
炎の壁に阻まれた。気配がしたため振り返ると、目の前にはクィレルがおり、私は床に
ヴォルデモートがそう言うと同時に、私は出口に向けて走り出した。しかし目の前を
!!
!!
368
!!
ヴォルデモートの言葉に、クィレルは残った左手に杖を持って、呪いを唱え始めた。
私は咄嗟にクィレルの元へ近づき、その顔と左手をむんずと掴んだ。
﹂
!?
なくなり、私はどっと疲れが押し寄せてきて、そのまま眠ってしまった。
たかのように霞は跳ね返り、私はその衝撃で後ろへと倒れ込んだ。霞はそのまま消えて
あげながら私に向かってきた。しかし私に触れるか触れないかのところで、壁に阻まれ
顔をした霞のようなものが、形作られているところだった。そしてその霞は、雄叫びを
殺したのはクィレルであって、ヴォルデモートではない。恐る恐る振り返ると、人の
でも私は思い出した。
から出口に向かった。
その場に座り込んだ。しばらく立てなかったけど、ようやく立って歩けるようになって
命を奪った、という感覚もあったけど、それ以上に終わったという感情が私を支配し、
れた。クィレルは末期の声をあげながら、服だけを残して塵となって消えた。
掴んだ左手と顔は、右手と同じように爛れて、そして古い瓦礫のようにボロボロと崩
﹁ギィアアアァアァアアァァァアアアッ
18. 二つの顔をもつ男
369
370
眠りにつく前に最後に見聞きしたのは、首もとで淡く光る、二振りの剣の形をしたペ
ンダントと、私の名前を呼ぶ誰かの、安心するような声だった。
19. 事件のその後
Side マリー
意識がぼんやりと覚醒してきた。目を開けると、まだ周りの様子はわからず、ただ朝
と昼の間の時間ということだけがわかった。一度瞬きをすると、目の前に眼鏡が確認で
きた。もう一度瞬きをすると、目の前にダンブルドア先生の顔があった。
﹁おお、目が覚めたかのぅ﹂
先生は、見る人を安心させるような柔らかな笑みを浮かべてそう言った。私は上半身
を起こし、周りを見渡した。どうやら医務室のベッドに寝かされていたらしい。足元の
机には山のようなお菓子が置かれていた。
﹁君を心配する者達からの見舞いの品じゃよ﹂
19. 事件のその後
371
ダンブルドア先生は言った。
病み上がりの心臓に
?
リーは噎せ返っていたのを覚えてる。あ、それよりも。
うわぁ⋮⋮センブリ茶って確かそうとう苦かった記憶が。私は結構好きだけどダド
はそのお茶を気に入っていたようじゃが﹂
を飲まされておったのぅ。確か﹃センブリ茶﹄じゃったか。パーシー・ウィーズリー君
悪い、ということでシロウ君に取り上げられておった。そのあとにとても苦そうなお茶
ラッカーを連発したりする﹃騙し杖﹄の最高傑作じゃったかな
﹁何 で も 手 に 取 れ ば ゴ ム の ネ ズ ミ 等 に 変 わ っ た り、杖 の 先 か ら 特 大 の 爆 発 音 の な る ク
ダンブルドア先生はクスクスと笑いながら愉快そうに語っている。
具を送ろうとして、シロウ君に制裁を加えられていたのぅ﹂
ドールの先輩達からじゃ。確か双子のウィーズリー兄弟は自分達が作った悪戯魔法玩
﹁ミスター・ウィーズリーやミス・グレンジャーからのは勿論、他の寮の子やグリフィン
372
﹁先生、あのあとヴォルデモートはどうなりました
﹁マリーや、少し落ち着きなさい﹂
﹁あ⋮⋮はい、すみません﹂
﹁え
砕いたのですか
﹁さよう﹂
﹂
石は大丈夫何ですか
﹂
?
確か先生の御友人のはず﹂
﹁よいよい。まず石じゃがのぅ。あれは砕いてしもた﹂
?
﹁それでは、ニコラス・フラメルはどうなるのですか
?
﹁ならその人たちがもう十分だと感じたときは⋮⋮﹂
量じゃ﹂
とその妻は既に十分な命の水を蓄えておる。あの者たちの身辺整理をするには十分な
﹁おお、ニコラスを知っとるのか。君はよく調べてことに当たったようだね。ニコラス
?
?
線引きしていたのか。ヴォルデモートと言えば。
間を作るために不老不死になる。ヴォルデモートとは違い、フラメル夫妻はそこら辺を
そうなのか。ただただ生きることを求めるのとは違い、身辺整理を完遂するだけの時
﹁そうじゃな。彼らは死ぬことを選ぶじゃろう﹂
19. 事件のその後
373
﹁先生、ヴォルデモートはどうなりました
﹂
私がそう聞くと、ダンブルドア先生は真面目な顔と目をした。
?
が製作したとか﹂
﹁これはクリスマスのとき、シロウがプレゼントにくれたものです。何でもシロウ自身
﹁どれどれ。⋮⋮⋮⋮これは⋮⋮⋮⋮﹂
のペンダントは炎の光とは別の淡い水色をした光を放っていた。
私は首もとに架かっている剣のペンダントを取り出し、先生に見せた。あのとき、こ
﹁恐らく、これのお陰かと﹂
こで奴が何かに弾かれた様になり、 どこかへと消えた﹂
ぎ鏡の部屋に向こうた。じゃがどう足掻いてもあやつと君の間には入れなかった。そ
法省に着いたときにわしの本当にいるべき場所がどこか気がついたんじゃ。そして急
﹁生きてはいるじゃろう。霊魂のような存在になってはおるがな。あのとき、わしは魔
374
先生にペンダントを渡すと、興味深い目をしてそれを物色した。そしてその目を今度
は驚愕に染めた。
﹂
﹁これは⋮⋮何と⋮⋮﹂
﹁何かわかりましたか
すか
﹂ふえ
﹂
シロウはあのとき一人でトロールの相手をしていました 怪我は無いんで
無事なん⋮⋮﹁オレはここにいるが
?
!
シロウに助けて貰った。⋮⋮⋮⋮あ。
成る程、だからあのときヴォルデモートは壁に当たったかの様に弾かれたのか。また
﹁そうですか⋮⋮﹂
う﹂
じゃが直接触れる攻撃、殴るや蹴るや絞めるじゃな、には効果はないと見ていいじゃろ
﹁⋮⋮ わ し の 推 測 に 過 ぎ ん が、こ の ペ ン ダ ン ト は 呪 詛 や 魂 憑 を 防 ぐ 力 を 持 っ て お る。
?
声のした方を向くと、ベッドの横の椅子にシロウは腰かけていた。見たところ怪我は
?
!
?
﹁先生
19. 事件のその後
375
ないみたい。良かった。
?
﹂
﹁そ、そういえば先生﹂
﹁どうしたのじゃ
﹁おお
それを聞いてくれるのは嬉しいのぅ あれはわしが考えた中でも中々のア
!
イデアなのじゃ。あれはのぅ。﹃手にいれたい﹄と思った者だけが鏡から石を取り出せ
!
をした。ああ、これが一番聞いてほしかったんですね。
話を逸らすのと、純粋に疑問に思ったことを私が聞くと、先生はとても嬉しそうな顔
?
?
﹁私はどうやって鏡から石を取り出せたのでしょうか
﹂
ア先生は生暖かい眼差しでこちらを見ていた。余計に恥ずかしい。
いる間に無意識に握っていたみたい。急に恥ずかしくなって手を離した。ダンブルド
シロウに言われて目を向けると、私はシロウの左腕を握りしめていた。どうやら寝て
が痺れている﹂
﹁さて、そろそろその手を離してくれないか 正直ほぼ一日、結構強く握られていて腕
376
﹂
るのじゃ。良いか
ものじゃろう
﹁ええ、中々﹂
﹁どうじゃ、シロウ
﹂
﹃使いたい﹄ではなく﹃手にいれたい﹄じゃ。どうじゃ
このペンダント然り、採点はどんなものかのう
?
中々の
?
﹂
たシロウは苦笑していた。
﹁何故私にそれを
?
ントを作ることは困難じゃ。じゃから君に聞いたのじゃよ﹂
﹁君は曲がりなりにも﹃製作者﹄じゃろう
熟練の魔法道具製作者でもこれ程のペンダ
ダンブルドア先生は目をキラキラとさせながら、シロウに採点を求めた。それを聞い
?
?
?
?
今回のマリーのように、偶然取り出してしまうパターンが起こってしまいます。ですの
﹁まず鏡から。中々に頓知の利いたものだと思います。しかし、少々詰めが甘いかと。
シロウはそう言いながら椅子に座り直し、姿勢を正した。
﹁⋮⋮本当に食えないお人だ、あなたは﹂
19. 事件のその後
377
で、百点満点中八十五点ですね﹂
﹂
?
ます﹂
﹁成る程成る程。今度は製作過程を見せてもらってもいいかのう
﹂
﹁構いませんよ﹂
﹁私もいい
﹁いいとも﹂
百味
!?
?
﹁さぁさぁ質問は終わりじゃ。そろそろお菓子に移ってはどうかのう ほっ
?
片方を彼女が選んだ大切な人に渡すことにより、その人と彼女により強固な守護を与え
概念や悪霊、魂憑から装着者を守る簡易的な概念武装です。そして二振りの剣のうち、
﹁ペンダントに付加した力は大方先生の推測通りです。それは余程強力ではない限り、
﹁ほうほう﹂
ンダントですが、九十五点です﹂
﹁申し訳ありませんが、性分でして。やるからには徹底的にが我々の流儀です。さて、ペ
ダンブルドア先生は結構残念そうな表情を浮かべていた。
﹁辛口じゃのぅ﹂
378
ビーンズではないか
﹂
じゃ。じゃがこれなら大丈夫そうとは思わんかのう
﹂
﹁わ し ゃ 若 い 頃 不 幸 に も 耳 く そ 味 に 当 た っ て の ぅ。そ れ 以 来 好 ま ん よ う に な っ た の
味を判断出来ないというおまけ付き。
芽キャベツや臓物といった変なものまである。本当に百味なのだ。しかも外見色では
本当に色んな味のあるゼリービーンズで、レモンやリンゴのような普通の味もあれば、
先生が目を止めたのは百味ビーンズと呼ばれる魔法界のお菓子だった。このお菓子、
!!
?
﹂
ダンブルドア先生は私とシロウにも一粒ずつ渡し、自身も一粒口に放り込んだ。途端
に噎せかえった。
!?
因みに私はレモン、シロウは血だったみたい。血の味って⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮先生、御愁傷様です。
﹁何とゲロ味じゃ
19. 事件のその後
379
先生が出ていったあと、シロウはお菓子のゴミを片付けたり、マダム・ポンフリーと
一緒に医務室の掃除をしていたりしていた。その間、私は何もしゃべらなかった。頭の
中をぐるぐると纏まらない思考が絡まっていた。しばらくしてシロウは再びベッドの
脇の椅子に座った。
﹂
﹁うん
?
⋮⋮⋮⋮﹂
﹁今思うと他に方法があったんじゃないかって⋮⋮⋮⋮殺しちゃう以外の方法が他にも
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁自分を守るために無我夢中でやったけど、結果的にクィレルを殺しちゃったんだ﹂
てもいいと思った。シロウは黙って私の話を聞いている。
なぜだかわからないけど、シロウには話しておかなければと思った。シロウなら話し
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮⋮⋮人を殺しちゃった⋮⋮﹂
﹁私ね
?
﹁⋮⋮⋮⋮ねぇ、シロウ﹂
380
話しているうちに涙が溢れては落ち、ベッドに染みを作っていた。止めることの出来
ないそれは、次々とベッドに落ちた。
﹁⋮⋮厳しいことを言うが﹂
シロウが口を開いた。
﹁起きたことは変えられない。失ったものは戻ってこない。奪い、奪われたものは返ら
ない。それが命ならば、尚更。その者の顔を、名前を忘れることはあってはならない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮うん﹂
﹂
?
な笑みを口許に浮かべて、とても優しい眼差しで私を見つめていた。
顔を俯かせていた私の頭に、暖かい手が乗せられた。顔を上げると、シロウが柔らか
﹁ふえ
﹁⋮⋮⋮⋮だが﹂
19. 事件のその後
381
﹁失ったもの、置き去りにしたもの、奪ってしまったもののためにも、君は生きなければ
ならない。決して生き急がずに、生きて生き抜いて、君の思いや願いを遂げるのだ。君
﹂
⋮⋮⋮⋮シロウ﹂
の信じるもの、信じたもの、信じていくもののためにも﹂
﹁
﹁ん
!!
ß
私が泣いている間、シロウは歌を歌っていた。決して上手いとは言えないけど、柔ら
ass ich so traurig bin; ∼♪﹂
﹁ Ich wei
nicht was soll es bedeuten,D
ことが無いほどの大きな声をあげながら泣いた。
に涙が溢れては落ちていった。私はシロウの肩に顔を押しあて、泣いた。今まで出した
らか、シロウの言葉は私に何の妨げもなく浸透していった。すると私の目から滝のよう
シロウの言葉からして、シロウも今までに人の命を奪ったことがあるのだろう。だか
限界だった。
﹁ゴメン、少しだけ⋮⋮﹂
?
382
19. 事件のその後
383
かで暖かく、包み込まれるような優しい歌だった。確かローレライって歌だったはず。
私はその歌を聴きながら、いつの間にか眠ってしまった。
Side シロウ
泣き疲れて眠ったか。無理もない。
十一の少女が殺しを自覚するのは酷だろう。オレは十七のときに初めて殺しをした
が、魔の道に幼少の頃から踏み入れていたから、ある程度の覚悟はあった。慣れるもの
ではなく、今でも人を殺すのは躊躇われるが。だがこの子はつい一年前まで、そのよう
なものとは無縁だった。その心労をオレはわかってやることは出来ない。
せめて今は心安くあらんことを。
オレはマダム・ポンフリーに一言告げて寮に戻ることにした。その道の途中、ダンブ
ルドア先生とすれ違った。そしてオレの背中に彼から声をかけられた。
﹁エミヤシロウ。君は本当にわしらの敵に回ることはないのじゃな
応に返すことにした。
﹂
この学校の生徒ではなく、オレという存在に対する問いかけだった。だからオレも相
?
オレもそのまま無言で寮に向かった。
オレの答に理解をしたのか、ダンブルドアは無言で去っていった。
﹁以前にも述べた通りだ。あなたたちが外道に堕ちない限り﹂
384
いつもやってるじゃないかって
違うよ
の寮のトップの点数のところのエンブレムが、大広間の天井から吊るされて飾られるみ
まぁそれはともかく、学年末試験は全て無事にパスし、今日は一年最後の日だ。四つ
いつもは答えは聞いてないから。
?
?
レスが溜まった。いつもはしないけど、シロウに膝枕を頼んで昼寝をするぐらいに。
に揉みくちゃにされて質問攻めにされていただろう。学期末までの数日は本当にスト
鬱陶しかった。たぶんシロウがすぐそばで鋭い視線を周りに向けてなかったら、私は皆
ンはいつも見舞いに来てくれた。退院したあとは暫く好奇の視線に悩まされた。正直
あれから2、3日経過し、私は無事に退院した。その間、シロウとハーマイオニー、ロ
Side マリー
20. エピローグ
20. エピローグ
385
386
たい。そして晩御飯も豪勢だとか。グリフィンドールは結局点数は加算が微々たるも
のでしかなく、今年もスリザリンか優勝らしい。その原因を作ったのは自分達だったか
ら、罪悪感がある。先輩方からは気にしないように言われたけど、やはり申し訳ない気
持ちはあった。
因みにマルフォイと愉快な仲間たちが、魔法の練習とかいって私に呪いをかけようと
したけど、シロウのペンダントで跳ね返されて自分にかかっていた。その分の減点と罰
則はキッチリ受けていた。
スネイプ先生から。
まぁそれは今晩わかるか。
けどそれでもトップを保つスリザリン。二位の私達グリフィンドールと何点差があ
るんだろう
││││││││││
?
﹁また一つ、年が過ぎた﹂
夜、晩餐会が始まる前にダンブルドア先生の話があった。一年の締めくくりをするた
めの校長先生の話だ。
﹁今年は色々なことが起こったが、点数の発表をしよう。
一位、スリザリン、四百八十五点。
二位、グリフィンドール、三百二十五点。
三位、レイヴンクロー、三百二十点。
四位、ハッフルパフ、三百十点。
という結果になっておる﹂
点数のが発表された途端、スリザリンの席から歓声が上がった。他の寮の人たちは非
常に面白くない顔をしている。やはりあの私達の減点が響いたのか。
行いの加点をまだしておらんのでのぅ﹂
﹁よしよし、よくやったスリザリン。よくやったスリザリン。しかしのぅ。つい最近の
20. エピローグ
387
ダンブルドア先生の言葉に、スリザリンは少し落ち着きを取り戻した。けどマルフォ
イと愉快な仲間たちは、未だにニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてこちらを見ていた。あの
呪詛返し以来、更にも増して嫌みになった。いったいどこまで嫌みになるのだろう
あと前を向かないと。
?
ローの席の人たちからは緊張した空気が出ていた。
イは何が起こっているかわからないという顔をしていた。ハッフルパフとレイヴンク
ダンブルドアがそう言った途端、グリフィンドール席から歓声が上がった。マルフォ
わしは彼に四十点与えよう﹂
﹁彼はここ最近、見ることがなかった素晴らしいチェスゲームを見せてくれた。そこで
まずはロンの名前が呼ばれた。本人はポカンと口を開けている。
﹁さて、加点を始める。まずはロナルド・ウィーズリー﹂
388
﹁続いてハーマイオニー・グレンジャー﹂
ダンブルドア先生の声が響き、大広間はまた静まり返った。
いた。よって彼女に四十点与える﹂
﹁成人した魔法使いでも、解き明かすこと少々骨が折れる難題を、見事な論理で解決に導
ダンブルドア先生がそう言うと、またグリフィンドール席から歓声が上がった。スリ
ザリンとグリフィンドール以外の寮からは、更に緊迫した雰囲気が漂っている。
﹁次にマリナ・ポッター﹂
あ、わたしだ。
グリフィンドール席からは爆発のような歓声が上がった。ハッフルパフとレイヴン
﹁近年稀に見ない、その勇気と行動に敬意を表し、四十点与える﹂
20. エピローグ
389
クローの人たちの目は、爛々と輝いている。
﹁最後にシロウ・エミヤ﹂
スリザリンも加わればいいのに、と。
ているスリザリン以外の生徒のほとんどか彼を称えていた。けど私は思う。この輪に
それも五点前後の。それが今回は一気に二十点も加点された。彼の空回りぶりを知っ
今 ま で に 余 り 点 数 の を 稼 い で い な か っ た。薬 草 学 の と き に た ま に 加 点 す る ぐ ら い だ。
スリザリン以外の席から歓声が上がり、ネビルは皆に揉みくちゃにされていた。彼は
い。ネビル・ロングボトムに﹂
を省みずに仲間に立ち向かうには、更に勇気が必要じゃ。そこでわしは二十点授けた
﹁数多の脅威に立ち向かう勇気は、素晴らしいもの。しかし仲間のことを思い、自らの身
ダンブルドア先生は言葉を続ける。
﹁勇気にも色々ある﹂
390
あ、シロウの番だ。途端、大広間はしん、と静まり返った。まるで埃が一つでも落ち
れば、その音が響くのではないのか、というほどに。
たら尚更。更にそのうちの二体が違法に改造されていれば﹂
﹁熟練の魔法使いでも、トロールを相手にとることは難しい。それが一体でなく、三体い
結構ヤバイ内容の話なんじゃ
?
ダンブルドア先生のその言葉で、大広間にどよめきが走った。というかダンブルドア
先生。それ言っていいのですか
?
来るまで世界中を回っていたことを知っている。レイヴンクローもハッフルパフも、一
ダンブルドア先生の話は続く。グリフィンドール生は殆どが、シロウがホグワーツに
故じゃろう﹂
命の駆け引きが行われる世界にいたが故、命を奪い奪われることの意味を知っていたが
ハロウィンのトロール騒動のときと同じように。それは彼自身が今までにそのような、
﹁じゃが彼は被害が出ても自分以外に出ないようにし、これら三体を見事に鎮圧した。
20. エピローグ
391
年生は知っている。そして、命の駆け引きが日常的にあったことも聞いている。
﹁あのご老体、本当に食えないお人だ。こちらは言うつもりなかったのにアッサリと言
ば、
当のシロウはというと、何とも言えない表情を浮かべていた。その心情を言うとすれ
フォイと愉快な仲間たちはもはや阿呆面としか言えない顔をしていた。
たことに。それぞれ歓びの声をあげていた。スリザリン生は冷めた表情を浮かべ、マル
に立ったことに。レイヴンクローとハッフルパフは、スリザリンがトップから滑り落ち
それほどまでに大きな歓声と拍手だった。グリフィンドール生は自分達の寮がトップ
した。もしも大広間の外に人がいたら、花火に一斉着火したのかと勘違いするだろう。
一瞬大広間を静寂が包み込んだ。そして次の瞬間、大きな歓声と拍手が大広間を満た
点授ける﹂
るという覚悟のもと、トロールの相手をした。その覚悟と信念に敬意を捧げ、彼に五十
の命、自分の命にその違いはない。彼は必ず生きて帰るという信念、仲間たちを必ず守
﹁命というのは一度失われてしまえば、そこまでじゃ。二度も三度も存在しない。仲間
392
いやがった﹂
といったところか。シロウの近くにいた双子のフレッドとジョージは、自作の騙し杖
からクラッカーを何度も鳴らしていた。シロウの背面に座っていたレイヴンクローの
先輩生徒の数人はシロウを称え、そしてハッフルパフの先輩とレイヴンクローの先輩、
グリフィンドールの先輩が一人ずつ三人組を作り、ロン、ハーマイオニー、私とシロウ
を肩に乗せた。
だ。そこにハグリッドが近づいてきた。
いた。私とシロウは勿論、ロンとハーマイオニーも同じコンパートメントに乗る予定
時間はあっという間に経過し、私達は荷物を纏めてホグワーツ特急に乗るための駅に
まり、夜はふけた。
ンブレムは、グリフィンドールのエンブレムに変わった。興奮冷めやらぬ中、宴会は始
ダンブルドア先生はそう言って杖を振ると、天井から吊るされていたスリザリンのエ
﹁さて、わしの計算が間違っていなければ、飾りを変えねばならんのう﹂
20. エピローグ
393
﹂
?
﹂
?
﹁お前さん一枚も持っておらんかったじゃろう
を撫でていた。
そんで⋮⋮おおっと﹂
抱き締めた。ハグリッドにもそれは伝わったようだ。とっても優しい手つきで私の頭
それ以上はいらなかった。私はありったけの感謝を込めてハグリッドの大きな体を
?
それは私の両親が写っている写真の数々だった。今年一年の物も入っている。
そう言ってハグリッドは、分厚い革張りの本のようなものをくれた。中を開けると、
んへのプレゼントじゃ﹂
﹁ちょいと昔の馴染みに頼んでな、集めとったもんがついに完成したんだ。ほれ、お前さ
﹁どうしたの
﹁そいつぁ嬉しいこった。おおそうだ。マリーや、お前さんに渡すものがある﹂
﹁夏休み手紙送るね
﹁おう探したぞ、お前さん達﹂
﹁あ、ハグリッド﹂
394
﹁さあ、そろそろ出発だ。早く汽車にお乗り。また直ぐに会える﹂
ハグリッドはそう言って、私達を送り出した。コンパートメントについたあと、私と
ハーマイオニーとロンの三人は窓から顔を出した。シロウは座席に座ったまま窓から
外を眺めている。大きな汽笛を鳴らして、ホグワーツ特急は動き出した。私達はハグ
リッドに手を振った。シロウは片手を少し顔の横に挙げて、ハグリッドに挨拶してい
た。ハグリッドは私達が見えなくなるまで、手を振り続けていた。
それから私達はコンパートメントの中で、チェスをしたり、この一年を振り返ったり
﹂
﹂
して過ごした。そこで私は気になっていたことをシロウに聞くことにした。
﹁ん
﹁あの三体のトロール、どうしたの
?
は、部屋の奥まで誘導し、再び鎖で繋いだ﹂
﹁普 通 の や つ は ノ ッ ク ア ウ ト し て い た か ら 特 に 何 も し て い な い。改 造 さ れ て い た 二 体
﹁あ、それ僕も聞きたい。僕気を失ってたし﹂
?
﹁ねぇ、シロウ﹂
20. エピローグ
395
﹁本当
﹂
?
﹂
?
﹁確かにそうね﹂
﹁なんでさ⋮⋮﹂
?
子の女の子もいた。
降り、駅員の誘導でマグル世界に戻ると、ロンのお母さんがいた。その隣には、あの末っ
楽しい時間はあっという間に過ぎ、汽車はキングス・クロス駅に到着した。汽車から
までは、指摘しないことにした。
く嘘のようなものをではないと私は感じた。だから、私はいずれシロウが教えてくれる
てないけど、たぶんシロウは嘘をついてる。でもそれは知られては不味いって感じでつ
まぁそう思われても仕方ないかな
あとロンとハーマイオニーの二人は気がつい
﹁いやだって、フレッドやジョージに対する制裁とかみてたら﹂
﹁オレはそんなに信用ないか
﹁証人がいるなら本当のことみたいだね﹂
﹁シロウの言っていることは本当よ。私も見たし﹂
﹁ああ﹂
396
帰ってきたわ
ほらあそこ
﹂
!
﹁おかえりなさい。忙しい一年だった
﹂
﹂
もしかしてシロウは、私とシロウからという名義でプレゼント送ってたの
とマリーからのプレゼント喜んでいたわ。私も嬉しかったわよ﹂
あれ
なら来年は私がやろう。
?
するわ。夫も二人に会いたいといっていたし﹂
﹁よかったら二人とも夏休みの最後の方、うちに泊まりにこない 家族も改めて紹介
?
﹁どういたしまして。うちの子供達の友達なら家族も同然よ。ジニーも夫も、シロウ君
﹁私もマリーも、あの日初めて会ったばかりなのに、本当にありがとうございました﹂
た。とても暖かくて嬉しかったです﹂
﹁いえ、楽しい一年でした。クリスマスプレゼントのセーター、ありがとうございまし
?
ウィーズリー夫人は女の子をたしなめつつ、こちらに近づいてきた。
?
﹁あっママ
!
仮令顔見知りでもよ
﹁ジニー、指差すのは失礼よ
?
!
20. エピローグ
397
?
﹁迷惑でなければ、喜んで﹂
﹂
?
﹁準備はいいか
ならさっさと帰るぞ﹂
いものになりそうだと感じた。
は、少しだけ帰るのが楽しみだった。それに隣にはシロウがいる。今年の夏休みは楽し
帰るのは憂鬱だった。でも叔母さんの思いやダドリー意外な真っ直ぐさを知ってから
バーノン叔父さんはさっさと車に向かってしまった。いつもプリベット通りの家に
?
﹁﹁ただいま﹂﹂
﹁シロウ、マリーや。二人ともお帰り﹂
さんがいた。
に向かった。外にはダドリーとペチュニア叔母さん、バーノン叔父さん、フィッグ叔母
私達はウィーズリー夫人達とハーマイオニー一家にに挨拶を済ませたあと、駅の出口
﹁ええ、楽しみにしていてね
﹁私もマリー共々、宜しくお願いします﹂
398
20. エピローグ
399
季節は夏、空は雲一つない快晴。
青い蒼い空は、吸い込まれそうなくらい広かった。
To be continue...
400
Side ダンブルドア
わしは英霊や守護者というものを、心の内で少しだけ侮っていたのかもしれん。
魔法省からホグワーツへと戻り、急いで鏡の間へと向かったとき、チェスの部屋を出
て次の部屋へと向かう廊下で、血生臭い、強烈な匂いを嗅いだ。嫌な予感が頭を駆け抜
け、わしは急いで次の部屋の扉をあけた。そこに広がっていた光景を見て絶句した。
まず目に入ったのが床に転がる、トロールの小さな頭じゃった。次にわしを襲ったの
20. エピローグ
401
は、噎せ返るほどの血の匂い。そして最後に目に入ったのが、三体のトロールの死体の
中心に立つ、血を被り、外套と鎧と白い髪を血で濡らしたエミヤシロウの姿じゃった。
トロールの死体は、首を跳ねられたものは仰向けの状態で。改造されていた二体のう
ち一体は、体を右半身と左半身に縦に割られた状態で。残りの一体は口から首の後ろへ
と剣を貫通させられ、壁に縫い付けられていた。共通しているのは、最低でもそれぞれ
に五本の剣が刺さっていたことじゃった。そして彼は息を上げず、平然としていた。恐
らく一割も力を出していないじゃろう。
マリーを連れ出し、一日経過して彼女が目覚めて事後説明をしたのちに、もう一度エ
ミヤシロウに問いを投げ掛けた。結果は以前と同じじゃった。
改めてわしは思う。彼が我々の敵に回らずにいて良かったと。
妹。紅葉と華憐は異母妹。
冬木御三家、四兄妹の長男にして最年長。士郎と同じく魔術使い。シルフィは実の
郎と剣吾の﹁E﹂はアインツベルン、イリヤと後述のもう一人の﹁E﹂は衛宮を指す。
父に衛宮・E・士郎、母にイリヤスフィール・フォン・E・アインツベルンを持つ。士
シロウ世界移動時、14歳
︵イメージvoice, 宮○真守︶
◎ 衛宮・E・剣吾
けんご
設定 Ⅱ ★
402
設定 Ⅱ ★
403
父と母達が世界を守る英雄ならば、自分は大切な人や街を泣かせない人になるため
に、日々修行中。一言で表すならハーフ・ボイルド。本人もそれを肯定しており、むし
ろ誇っている。
目標は父、及び話に聞いている平行世界の守護者の父。
好きな言葉と信念は、﹁Nobody is perfect. だからこそ人生と
いう名のゲームは面白い﹂
外見はぐだ男。が、虹彩はイリヤ譲りの赤色。髪は光の当たり具合で、朱にも銀にも
見える。性格は士郎の温和さと芯の強さ、イリヤのからかい好きと愛情深さを併せ持
つ。士郎程ではないが、やはりお人好し。母達からは色々な意味で、士郎二世と言われ
ている。
要するに、その気質と外見が士郎以上にイケメン寄りなことから、結構フラグをたて
ている。加えて無自覚鈍感も士郎なみ。家事技術はまだまだ士郎には遠く及ばないが、
バトラー
............あ︵汗︶﹂
一般専業主婦に迫る腕はある。
二代目家政f﹁執事だ
魔術特性は﹁属性付加、憑依﹂
している。理由は万華鏡に﹁おもしろい﹂の一言で気に入られたから。
魔術は最初はイリヤに。次いで士郎、凛を経由して、現在は万華鏡ゼルレッチに師事
!!
404
魔術属性は五大元素の﹁火﹂
﹁風﹂に加えて、イレギュラーの﹁鋼﹂
﹁変質﹂を持つ。身
体強化魔術は士郎以上の腕を持ち、槍や棒や銃の才能がある。しかし、弓は士郎に数段
劣る。
たまに凛の仕事に着いていき、実戦経験を積んでいる。
魔術は完成しているので、あとは技量をあげるだけ。
五大元素のいずれかの属性を持つ魔術師なら頑張ればできないことはないが、独特の
発想の魔術を使うため、万華鏡から特別に専用魔術アイテムを授かる。ピンポン玉程の
直径と、厚さ2cm程度の宝石型のアイテムであり、それを用いれば、自身が持たない
属性の魔術も使用及び組み合わせ可能になる。
だが、体に異様に負担がかけられるため、連続の使用は出来ない。加えて、使用時間
ジョーカー
は十分にも満たないため、使い時を間違えれば面倒なことになる。このチートのような
魔術は、文字通り﹁切り札﹂なため、本人も使用は控えている。
使用魔術は戦闘に特化したものであり、肉体や武器に属性を付加させて相手に当てる
のが基本。投影は﹁鋼﹂の要素を持つものなら、槍や棒、剣などの刃物は士郎レベルま
でできる。ただし、宝具の投影は出来ない。槍や棒、双身剣と銃の扱いは現時点でシロ
ウに並ぶが、その他はまだまだ遠く及ばない。
宝石型アイテムはバックル、左腕ブレスレット、右足ブーツ踝、使用武器に装着でき
設定 Ⅱ ★
405
る。基本的にはバックルに着けている。
士郎同様に固有結界を所持し、十分だけ展開できる。
戦闘時の服装は、﹁仮面ラ○ダー THE NEXT﹂のホッパー1号が仮面を着け
ず、赤ではなく銀のマフラーをしたようなもの。左腕にはブレスレット、右足ブーツ踝
には足輪がついている。この二つとバックルには小さな窪みがある。ベルトは、﹁仮面
ラ○ダー電王﹂のベルトが一番デザイン的に近い。
切り札を使うときは、﹃ウルトラマンネクサス・アンファンス﹄のような外見になる。
ただし、ウルトラマンのような顔にはならない。
他の血統がいい︵笑︶プライドしかない魔術師たちからは、というか時計塔の大半の
魔術師からは、
﹁四代目のエミヤ﹂
﹁﹃厄災のエミヤ﹄の四代目﹂
﹁面汚しの三代目﹂など
と畏怖と侮蔑を込めた二つ名がつけられているが、万華鏡や冬木御三家の人々が怖いた
め、面と向かって言う輩は、余程の馬鹿以外はいない。
士郎の封印指定の数少ない反対者であったロード・エルメロイ2世からは、ちょく
ちょく依頼や手伝いを、講義を報酬として受けている。
ルヴィアや柳洞一成からは、娘の許嫁にしようと企まれている。
○ 各キャラクターへの呼称
・士郎 ↓ 父さん ・イリヤ ↓ 母さん ・シルフェリア ↓ シルフィ ・紅葉 ↓ 紅葉
・華憐 ↓ 華憐
・凛 ↓ 凛ねえ
・桜 ↓ 桜ねえ
・万華鏡 ↓ 師匠、爺さん、はっちゃけジジィ
◎ シルフェリア・フォン・E・アインツベルン 父に衛宮・E・士郎、母にイリヤスフィール・フォン・E・アインツベルン、兄に衛
シロウ世界移動時、2歳。
︵イメージvoice, 阿澄○奈︶
406
設定 Ⅱ ★
407
宮・E・剣吾を持つ。通称シルフィ。
冬木御三家、四兄妹の末っ子で三女。剣吾は実の兄。紅葉と華憐は異母姉。
魔術の存在は知ってはいるが、まだ習得も修得もしていない。
魔術特性及び属性はイリヤと同じ。加えてイレギュラーの﹁鋼﹂を持つ。本人は自覚
がないが、剣と暗示の才能がある。
外見はまさしく小さなイリヤ。きめ細やかな銀髪に赤い瞳。性格は純真無垢であり、
アクマ成分は持っていない。が、今後の育ちかた次第で二代目小悪魔になるかも。少し
だけブラコン、ファザコンの気がある。家族はみんな大好き。その外見と人格で﹁冬木
の雪の精﹂と密かに言われている。
イメージで言うと、
﹃プリズマ☆イリヤ﹄におけるパウンドケーキ対決で、士郎の回想
に出てきた幼少イリヤが近い。
○ 各キャラクターへの呼称
・士郎 ↓ パパ
・イリヤ ↓ ママ
・剣吾 ↓ にぃに、お兄ちゃん
・紅葉 ↓ モーちゃん
・華憐 ↓ カーちゃん
・凛 ↓ リンちゃん
・桜 ↓ サーちゃん
まとうもみじ
・万華鏡 ↓ じぃじ
◎ 間桐紅葉 に見合わない母性愛を持っている。だが怒らせると怖い。下の妹達が離れた年齢なの
外見は小さな桜、瞳は士郎譲りの琥珀色。桜のアクマ成分半減。性格は温和で、年齢
魔術は桜に師事している。まだ完成していない。
て、イレギュラーの﹁影﹂﹁鉄﹂を持つ。更には士郎に並ぶ弓の才能がある。
魔術特性は桜と同じ。属性は﹁虚数﹂でない変わりに、
﹁水﹂
﹁空﹂の五大元素に加え
冬木御三家、四兄妹の二番目で長女。
父に衛宮・E・士郎、母に間桐桜を持つ。剣吾とシルフィとは異母兄妹。
シロウ世界移動時、12歳。
︵イメージvoice, 早見○織︶
408
設定 Ⅱ ★
409
で、責任感も強い。母達と父、兄は唯一と言っていいほど甘えれる相手。剣吾に対して
は少々我が儘になることも。だがブラコンではない。
○ 各キャラクターへの呼称
・士郎 ↓ お父さん
・桜 ↓ お母さん
・剣吾 ↓ お兄さん
・シルフェリア ↓ シィちゃん
・華憐 ↓ 華憐ちゃん
・イリヤ ↓ イリヤ母さん
・凛 ↓ 凛母さん
・万華鏡 ↓ お爺様
とおさかかれん
◎ 遠坂華憐 ・紅葉 ↓ 紅葉お姉様、紅葉お姉ちゃん
・剣吾 ↓ お兄様、兄様
・凛 ↓ お母様
・士郎 ↓ お父様
○ 各キャラクターへの呼称
すならチビ凛。けど可愛いもの好きなど、年齢相応な面も。
きょうだい
外見は小さな凛。性格もアクマ成分もそのまま。瞳は士郎譲りの琥珀色。一言で表
なる片鱗を見せている。因みに二人目は母の遠坂凛。
魔術は凛と万華鏡に師事している。まだ未完成ながら、三人目の第二魔法の使い手と
供。更には八極拳の才能がある。
魔術特性及び属性は凛と同じ。加えてイレギュラーの﹁鉄﹂を持つハイブリッドな子
冬木御三家、四兄妹の三番目で次女。
父に衛宮・E・士郎、母に遠坂凛を持つ。剣吾、シルフィ、紅葉とは異母兄姉妹。
シロウ世界移動時、8歳。
︵イメージvoice, 植田○奈︶
410
設定 Ⅱ ★
411
・シルフェリア ↓ シルフィ
・イリヤ ↓イリヤ母さん
・桜 ↓ 桜母さん
・万華鏡 ↓ 大師父
◎ イリヤスフィール・フォン・E・アインツベルン
士郎の義理の姉にして妻一号。剣吾とシルフィの実母。隠居したアハト翁に変わる、
冬木御三家、アインツベルン現当主。もっぱら戦闘よりも心のケアと救済をやってい
た。剣吾を身籠ってからは、それに一気に母性愛が加わり、桜に並ぶ﹁冬の聖女﹂とし
て世界中に伝わっている。即ち、英霊となることを拒否したのにも関わらず、自らの行
いで英霊となることになった。ただし戦闘はしない。
外 見 は ア イ リ ス フ ィ ー ル に よ く 似 て い る。と い う か そ う 言 わ れ て も 違 和 感 が な い。
現在は衛宮邸を利用して託児所を営んでいる。また、主婦や主夫対象の子供との接し方
412
講座を月一で開き、毎月予約は一杯になるそう。冬木以外からも予約が来るほどに、人
気のセミナーである。
また、アインツベルンを古今東西の英雄豪傑を伝える家として再建したので、手始め
に絵本や小説、図書館や幼稚園や小学校での読み聞かせなどを行っている。イリヤの書
いた絵本や小説は日本だけでなく、世界中の言語に翻訳されて売られている。その中に
は、士郎達のことを書いた物もある。
家事の腕は士郎や桜に劣るものの、そこらの主婦は一蹴する程の腕。料理は士郎の影
響で和食が得意。冬木二大母。
◎ 間桐桜
士郎の妻二号。紅葉の実母。士郎同様、最も新しい英霊の一人。冬木御三家、間桐の
らっかひんぷん
現当主。虚数魔術の使い手であるが、もっぱら戦闘よりも救済と心のケアを中心にやっ
ていたので、世界中から﹁落花繽紛の聖母﹂と呼ばれている。
戦闘時の服装は、GOの﹁イマジナリ・アラウンド﹂と同じ。
家事の腕は相変わらず高く、士郎に次ぐ腕を持つ。料理は洋食が得意。
設定 Ⅱ ★
413
現在は冬木の小学校の教師をやっている。生徒からは男女問わず、悪戯もされないほ
ど慕われている。冬木二大母。
◎ 遠坂凛
士郎の妻三号。華憐の実母。士郎同様、最も新しい英霊の一人。冬木御三家、遠坂の
現当主。五大元素全ての属性を持ち、二人目の第二魔法の使い手。要するに二代目万華
鏡。士郎と共に戦闘と救済を主にやっていたので、世界中から﹁万華鏡の女傑﹂と呼ば
れている。
戦闘時の服装は、GO﹁フォーマルクラフト﹂と同じ。体もちゃんと育ってる。
家事の腕は、イリヤと同程度。料理は中華が得意。うっかりは相変わらず。現在は魔
術師として東奔西走している。
第二魔法を修得したことによってルヴィアとの競争には勝利し、その他の宝石の系譜
との差もついたが、ルヴィアの一族とは魔術絡み以外では非常に良好な関係を築いてい
る。ただし、剣吾とルヴィアの娘が許嫁になることは、あらゆる手を尽くして阻止して
いる。柳洞一成の娘に関しては、既に剣吾がフラグを建てているので、本人の意思に任
414
せている。
先述の通り、衛宮邸は現在託児所となっている。無論イリヤ一家の住居も兼ねてい
る。近隣の両親共働きで、小学生低学年以下の子供を預かるようになっており、一応料
金はとっているが通常託児所にかかる料金の半分以下価格。
ア
ル
ト
ルー
ジュ
夜 は 間 桐、遠 坂 全 て 揃 っ て い つ も 過 ご し て い る。た ま に 万 華 鏡 や 藤 村 組、
血と契約の姫君、ルヴィアゼリッタなども訪ねてくる。
現在冬木の街には、柳洞寺と冬木大火災跡地公園、図書館、市役所前に士郎と凛と桜
の像が立てられている。図書館にはその三人のに加えてイリヤの像もある。
Extra story
まずは没ネタ、おふざけから。
時系列はメチャクチャです。
ネタその1: 森での罰則
﹁魔法使いか。警告はした。ならばその命、捨てるということでいいのだな﹂
俺は目の前の影に警告し、剣を一本射出した。影は杖から銀の盾を出したが、出され
た剣は魔力を掻き消すもの。そのまま盾を砕き、その足元に...
グサリ
﹂
!?
﹁あ、しまった﹂
﹁ギャアアアアアアアアアッ
Extra story
415
刺さらずに影に刺さった。地に倒れた影からは、霞のようなものが立ち上って来たの
﹂
で、霊魂に有効な剣を投影し、切りつけた。
﹁グアアアアアアアアアアッ
ハリー・ポッター、これにて完結
流石にふざけすぎました。
ぷっす
!
力を掻き消すもの。そのまま盾を砕き、その足元に...
俺は目の前の影に剣を一本射出した。影は杖から銀の盾を出したが、出された剣は魔
﹁魔法使いか。警告はした。ならばその命、捨てるということでいいのだな﹂
ネタその2: 森での罰則, take2
!!
!?
416
﹁あ⋮⋮﹂
刺さらずに、代わりにケンタウロスの体に刺さった。序でに残りの三本も。目の前に
割り込んできたケンタウロスは息絶えた。オレも影も、しばらくなにもせず、ただただ
突っ立っていた。
ネタその3: 変身術の授業
が一匹ずつ配られた。そしてそれぞれ杖を取り、カナブンに杖を振ったけど、やっぱり
黒板を用いてマグゴナガル先生が複雑な解説をしたのちに、生徒それぞれにカナブン
﹁今日はカナブンからボタンを作ります。黒板を見てください﹂
Extra story
417
上手くいったのはハーマイオニーだけだった。マグゴナガル先生はハーマイオニーの
それではミスター・エミヤ、やってみてください﹂
出来を褒め、グリフィンドールに十点加点した。
﹁他の方々はどうですか
﹁はい﹂
﹁はい
?
﹂
ウに試させた。シロウがアゾット剣を振ると、カナブンはボタンに変わった。
マグゴナガル先生が杖を一つ振ると、牡丹はカナブンに戻った。先生はもう一度シロ
﹁⋮⋮失敗ですね。確かにボタンですが、ボタン違いです﹂
?
﹁へ
﹂
......花の牡丹に。
こらないと思っていた。そしてシロウのカナブンはボタンに変わった。
た要素を持つものは無く、まあ術後も尖った物になるわけでもないので、変なことは起
シロウは返事をしてアゾット剣をかまえ、振った。私達は油断していた。今日は尖っ
?
418
......猪の肉に。
﹂﹂
﹁なんでさ⋮﹂
﹁﹁はい
ここはどこだ⋮⋮﹂
かり、その姿を変えた。
﹂
﹁最初に言っておく
﹁俺、参上
﹂
!!
﹂
ねぇねぇここで踊ってもいい
﹁俺の強さにお前が泣いた
﹁オオーみんなおっきい
答えは聞いてない
﹂
!!
!!
﹁降臨、万を辞して﹂
!
?
!!
なんかよくわからない小さな六人の鬼に。しかも赤青黄色紫白黒と本当に色とりど
?
三度めの正直とばかりにシロウはアゾット剣を振った。そしてカナブンに魔法がか
﹁⋮⋮もう一度やってみてください。術は確かにかかってはいますから﹂
?
﹁千の偽り万の嘘。お前、僕に釣られてみる
Extra story
419
り。
﹁もはやボタンの要素ないじゃないか、誰だよお前たちは
﹂
涙は、これで拭いとき﹂
﹂
僕はウラタ○ス。そこのお嬢さん可愛いねぇ。僕に釣ら
言っとくがオレは最初っから最後までクライマックスだぜ
﹁デネ○です。これお近づきの印のデ○ブキャンディー﹂
﹁オレはモモ○ロス
﹁先輩あとがつかえてるよ
﹂
﹁わいはキン○ロス。わいの強さは泣けるでぇ
﹁ジークという。下々の者、よろしく頼む﹂
﹁ウラちゃん次々。僕はリュウタロ○だよ﹂
れてm﹂
!!
、とシロウは涙を流しながら叫んでいた。黄色い
﹁別の意味で泣きたいわアアアアアアアッ
オルゥゥゥトォォォォォオオオ
!?!?
か軽そうで嫌だな。赤いのは結構好感が持てるかも。白いのは上から目線だけど義理
なに飴を配っていた。他の四人は好き勝手に喧嘩をしていた。机の上で。青いのは何
本のカラステングっていうのがつけてそうなお面をつけているのはマイペースにみん
一本角を生やした筋骨隆々の小さな鬼みたいなのは、シロウに小さな紙切れを渡し、日
!!!!
!!
?
!!
!?
420
堅そう。紫のは結構可愛い。
オルトって誰なんだろう
以上、マリーの日記より
すみませんでした。
﹂
!!
?
殺しても構わん
!!
ネタその4: 最後の部屋、鏡の前
石を奪え
!!
﹂
!!
ヴォルデモートがそう言うと同時に、私は出口に向けて走り出した。しかし目の前を
﹁御意
﹁クィレル
Extra story
421
炎の壁に阻まれた。気配がしたため振り返ると、目の前にはクィレルがおり、私は床に
押さえつけられた。首を捕まれた瞬間、傷跡が燃えるような痛みに襲われた。私は思わ
ず目をつむり、叫び声をあげた。
けどクィレルも一緒に苦悶の声をあげていた。手を離されると少し痛みが引いたか
早く石を奪え
小娘を殺せ
﹂
﹂
ら、目を開けてクィレルの方を見た。彼の右手は爛れて、次いでボロボロと崩れ始めた。
﹁何をしている
﹁なら魔法を使え
﹂
﹁しかし御主人様。手が、私の手が
!!
!!
と同時に、一筋の赤い方光が通り過ぎ、クィレルの眉間ど真ん中に刺さった。それは
ただ一言シロウの声が頭に響いた。私はなにも考えず、無意識に体を横にずらした。
┃┃ 右に避けろ
私は咄嗟に彼のもとへ行き、その顔を掴もうとした。そのとき、
ヴォルデモートの言葉に、クィレルは残った左手に杖を持って、呪いを唱え始めた。
!!
!!
!!
422
真っ黒な捻れた剣だった。
クィレルは末期の声を上げることなく、この世から去った。
11歳の子供にはちょいときついかな。という訳でボツ。
﹂
!!
殺しても構わん
!!
ネタその5: 最後の部屋、鏡の前
石を奪え
!!
﹂
﹁クィレル
!!
ず目をつむり、叫び声をあげた。
押さえつけられた。首を捕まれた瞬間、傷跡が燃えるような痛みに襲われた。私は思わ
炎の壁に阻まれた。気配がしたため振り返ると、目の前にはクィレルがおり、私は床に
ヴォルデモートがそう言うと同時に、私は出口に向けて走り出した。しかし目の前を
﹁御意
Extra story
423
﹂
サイテイ
痴漢
﹂
﹂
ロリ○ン
﹁キャァァアアアアッ
﹁なっ
﹁変態
そんなつもりは⋮⋮﹂
﹂
﹂
真性の淫魔がー
﹁女の子押し倒しておいて今更言い訳
﹁なッ
!!
エミヤシロウ
﹂
それは誤解d﹁ほう 貴様か。マリーに変態行為を働いている真性
ここに淫魔が
﹁ち、違うぞ
﹁誰かー
ノ
!!
!!
!!
!?
﹁おい、やめろ
モ
のケダモノは﹂なっ
ダ
﹂
!? ?
!? !! !?
﹁な、ななな、なな
﹁天誅﹂
﹂
!?
!?
﹁ウワアアアアアアアアアア
﹂
だろう数の剣が、剣先を全てクィレルに向けて浮遊していた。
クィレルが驚愕の声を上げると、シロウは右腕を一振りした。すると空中に三十は届く
ケ
!!
!?
!?
!?
!?
!!
424
シリアスが台無しなのでボツ。というよりマリーさんのキャラじゃない気がするの
で。
ネタその6: ハロウィンのトロール騒動
女子トイレに入ると、まさにトロールがマリーを叩き潰そうとしていたところだっ
た。オレは咄嗟に剣を投影し、トロールの腕を切りつけ、マリーを連れて離脱した。マ
リーをロン達のところに移すと、オレはすぐにマリーとは逆方向の壁へと向かった。今
トロールの注意はオレに向いているからだ。
﹂
!!
オレもすぐに行く
!!
た。
ロールの頭に投げつけた。剣はトロールの口に入り、そこから首の後ろにかけて貫通し
の注意はオレではなく、マリー達に向いてしまった。オレは咄嗟に手に持った剣をト
そう伝え、オレは巨大な剣を数本投影し、トロールの足止めをした。しかしトロール
﹁三人とも今のうちに出口に行け
Extra story
425
ブロークンファンダズム
スプラッタ過ぎたのでボツ。
ルの三人の教師陣だった。全員こちらをジト目で見つめるというおまけ付きで。
のは、頭からトロールの血を被ったマリー達三人と、マグゴナガル、スネイプ、クィレ
もう大丈夫という感情が大きく、マリー達のことを失念していた。オレの目に入った
﹁ふぅ、間一髪だったな⋮⋮あ︵汗︶﹂
血が噴水のように吹き上がった。
ついいつもの癖で剣を爆発させた。結果、トロールの口から上は吹き飛び、そこから
﹃壊 れ た 幻 想﹄
426
ここからは挿入話です。それではどうぞ。
その1: 談話室にて, 時系列:クリスマス
私達がプレゼントを開封したあと談笑していると、フレッドとジョージ、パーシーが
部屋に入ってきた。パーシーは普段かけていない眼鏡をしている。そして三人ともイ
ニシャルの入った栗色のセーターを着ていた。
﹁おっ、マリーも起きてきたのか﹂
﹁おはようさん、マリー﹂
﹁メリークリスマス、マリー﹂
フレッドとジョージは私達のセーターと皆のセーターの違いを指摘し、パーシーはそ
﹁母さんは身内にもそうだけど、それ以外には特に力を入れるから﹂
﹁けどマリーとシロウのほうが上等だな﹂
﹁見ろよ、マリーとシロウもウィーズリー家特製セーターを着てるぜ﹂
﹁おはようございます、そしてメリークリスマス﹂
Extra story
427
の理由を説明した。
﹂
!!
﹂﹂
!!
まないと。
シロウ、ストレス溜まってるのかな 今はクリスマス休暇なんだからしっかりと休
んでさなんでさナンデサナンデサ⋮⋮﹂
間のごちゃ混ぜドリンクといいどこからそんな情報を仕入れてくるんだよなんでさな
﹁⋮⋮それ日本の漫才だろうが何でお前たちがそれを知ってるんだよおかしいだろこの
ブツ言ってる。
叩くという動作つきで。それを見ていたシロウが頭を抱えて俯いていた。なんかブツ
フレッドとジョージのボケにロンが盛大に突っ込んでいた。しかも胸板を手の甲で
﹁間違えられてるじゃん
﹁﹁二人合わせてグレットとフォージだ
﹁ああ、お袋はちゃんと俺たちがどっちかをわかっているからな﹂
﹁けど心配ないぜ﹂
428
?
しばらくしてシロウが持ち直すと、フレッドとジョージはシロウに質問をしていた。
﹂
なんでも前々から気になることがあったみたい。
﹂
﹁なぁなぁシロウ、聞いていいか
﹁どうしたんだ
?
﹂
?
そして俺たちにも教えてくれない
﹁それは僕も興味があるな﹂
﹁﹁どうやってんだ
﹂﹂
﹁普通は二人以上いないと運べないものを軽々と持ち運んでるらしいし﹂
けじゃあないんだろ
﹁たまにシロウがもうスピードで走ったりしているとこ見るけど、普通に走っているわ
?
を上っていたのがいい例だ。
﹂
校舎の壁を破壊して傷一つなく平然としていたことや、授業初日に壁を蹴って吹き抜け
ていた。確かに私も気になってた。シロウの身体能力は色々とおかしい。入学初日に
ウィーズリー四兄弟に迫られて、その異常ともいえる身体能力の秘密について聞かれ
?
?
?
﹁実は僕も気になってたよ。 どうやってるの、シロウ
Extra story
429
﹁オレ自身の素の力もあるが、単純に魔力で強化しているだけだぞ
﹂
?
﹂
?
﹁いいじゃん
﹁いいじゃん
ん﹂
﹂
﹂
!?
るよね。パーシーはインドア派っぽいからそうでもないのかな
﹂
﹁ああ、たぶんな﹂
﹁いいじゃん
﹁いいじゃん
﹂
!! !!
?
あ。パーシーと私以外が食いついた。まぁ三人とも男の子だから、そういうのに憧れ
﹁﹁﹁マジ︵本当︶
﹂﹂﹂
﹁オレのやり方は少々特殊で君らには教えれないが、似たようなことはできるかもしれ
!!
!! !!
﹁﹁すげーじゃん
﹂﹂
﹁その通りだパーシー﹂
かい
﹁肉体を魔法で強化しているってことか。それによって筋力が爆発的に上がるってこと
430
﹁具体的には
﹂
耐えられない﹂
﹂﹂﹂
﹁だが、そのためにまずは肉体の基礎能力が高くないとダメだ。でないと肉体が負荷に
﹁﹁﹁すげーじゃん
!!!!
生徒も集まっていた。
見せてきた。パーシーが代表して読み上げた。いつの間に私達以外に寮に残っていた
は羊皮紙と羽ペン、インクを取りだして何やら書き込み始めた。数分後にそれを私達に
き、一人でも冷静な人がいると話が円滑に進むよね。パーシーの質問に対して、シロウ
三人ともそわそわして落ち着きがないから、パーシーが質問している。こういうと
?
フレッドとジョージの言葉にクィディッチのチームメンバー、そして何人かの先輩達
﹁だな、ジョージ﹂
﹁なんだ。それなら出来ないことはないな、フレッド﹂
?
?
⋮⋮⋮⋮。これを一日でするのか
﹂
﹁何 々 素 振 り 三 百 回、肩 幅 腕 立 て 伏 せ 五 百 回、腹 筋 五 百 回、背 筋 五 百 回 e t c
Extra story
431
﹂
も頷いていた。でも私は知っている。何せ五年間早朝のシロウの鍛練を見てきたから。
﹁いや、一時間でだが
﹁﹁いや、そりゃねぇだろ
﹂﹂
?
?
﹂﹂﹂﹂﹂﹂︵゜m゜;︶
﹁﹁﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮は
?
﹂
﹁何を驚いている
?
﹁﹁﹁﹁﹁またまた﹂﹂﹂﹂﹂
?
﹁シロウの言うことは本当だよ
﹂
﹁お、マリー。お前からも言ってやれよ。冗談きついって﹂
﹁みんな、ちょっといい
﹂
﹁いや、冗談じゃないが﹂
みんなシロウの言うことは質の悪い冗談だと思っているみたい。
﹁冗談きついぜ﹂
﹁いくらシロウでもそれは無理だって﹂
﹁﹁﹁﹁ウンウン﹂﹂﹂﹂︵゜︳゜︶︵。︳。︶︵゜︳゜︶︵。︳。︶
?
432
?
﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮は︵゜д゜︶
﹂﹂﹂﹂
﹂
﹂
﹂
今日は少し遅く起きたからな。2セットしかできなかった﹂
﹁私の知る限り五年間ずっとやって来たから。ねえシロウ、今日は何セットやったの
﹁うん
﹁はい。こんな感じだよ、みんな
私とシロウの会話に、みんな呆然としていた。
﹁ふむ。良ければみんなも明日から一緒にしないか
﹁﹁﹁﹁結構です﹂﹂﹂﹂
﹁そうか、残念だ。フレッドとジョージ、ロンはどうだ
﹁﹁遠慮しとくわ﹂﹂
﹂
?
?
な目をしていた。少しそれが可愛いと思ったのは秘密。
フィンドールでは、シロウは異常体質の持ち主ってレッテルが張られて、更に悲しそう
み ん な か ら 断 ら れ て シ ロ ウ が 少 し だ け 寂 し そ う な 目 を し て い た。こ の 日 か ら グ リ
?
?
?
?
﹁僕も止めとく﹂
Extra story
433
その2: ライバル, 時系列: 漏れ鍋の二日目
私とシロウ、ハグリッドの三人は朝食を食堂で食べていた。シロウは相変わらず鍛練
をやっていたらしく、今は簡素な黒のノースリーブと黒のレギンスをはいている。朝食
はトーストとトマトサラダ、そして豆のスープだった。
事の発端はその豆のスープだった。
シロウはその豆のスープを一口食べたとたん、目を見開いて無言で食べ進めた。そし
﹂
て全て飲み終わると一息ついて、バーカウンターまで歩いて行った。
﹂
﹁シロウは何をしちょるんだ
﹁さあ
守っていた。
私とハグリッドは、シロウの突然の行動に首を傾げていた。そしてシロウの行動を見
?
?
434
﹁店主殿はいらっしゃるか
﹂
﹂
﹁はい、私が漏れ鍋のマスターのトムです﹂
﹂
﹁豆のスープを作ったのはあなたですか
﹁ええそうですが、何か不都合が
客さんも、その行動を驚きの表情で見つめている。
確かにシロウは料理が上手
そう考えていると、シロウは鬼気迫る表情でトムさんに顔を近づけた。私達以外のお
いけど、店主に文句っていっていいの
もしかしてシロウ、スープの文句でも言うのだろうか
?
?
?
?
?
﹂
!!
!?
!!
い、という思いをみんな持っているだろう。ハグリッドなんて目が点になっている。
や、まさかのスープの調理課程を聞くということをしたのだ。今までの緊張感はいった
途端食堂中の椅子からお客さんがずっこけ落ちた。クレームをつけるのかと思いき
いしい豆のスープです
﹁どうやって作っているのですか 是非教えて頂きたい 私が食したなかで一番お
Extra story
435
﹁私からはお教えできませんねぇ。見るのは自由ですが﹂
トムさんはニコニコしながら厨房へと引っ込んでいった。その言葉を聞いたシロウ
は、獰猛な猛禽類のような目をして部屋に行き、着替えて手を洗って厨房に向かった。
﹁盗むのは自由ということか。フフフフ⋮⋮⋮⋮﹂
低い声でシロウは呟いていたけど、そこまでのことのなの
﹂
ロウ自身も料理を振る舞っていたのもある。
﹁店主殿、どうだろうか
﹁なんと
﹂
﹁ん∼中々ですね。けどまだ足りないものがありますね﹂
?
﹁そう言えばあなたの手際を見て思いましたけど、ずっと料理をしてきていますね
﹂
?
!?
何が得意なんですか
?
それからはキッチンの方とお客さんは盛り上がっていた。豆のスープだけでなく、シ
?
436
ここには醤油など、和食に
﹁和洋折衷いけます。ですがそのなかでも和食が一番得意ですね﹂
﹁なるほど、なら今日の夕食はあなたが作ってみませんか
﹂
必要な調味料は一通り揃ってますしね﹂
﹁本当ですか
?
││││││││││
﹁是非やらせていただきます
﹂
﹁ええ、日本の調味料は繊細な味をつけるのに重宝しますから﹂
!?
!!
﹁少年、美味しかったぞ﹂
﹁とってもヘルシーで旨かった﹂
﹁もういっそのことトムと二人で漏れ鍋やったらどうだ
?
しさだと思った。それにシロウの料理は食べるとほっとするんだよね。
お客さんにも中々好評だったみたい。私は何度か食べているから、いつも通りの美味
﹂
﹁和食ってのは癖が強いって思っていたが、中々美味だ﹂
Extra story
437
﹁ふふふ。お見逸れしましたよ、シロウ君﹂
﹁いえいえ、トム殿にはまだまだ敵いません﹂
﹁﹁アッハッハッハッハッハッ﹂﹂
トムさんとシロウは、お互いに笑いながら握手を交わしていた。でもその目は二人と
も笑っていなかった。気のせいではないだろう。ハグリッドは冷や汗を流していたし。
二人ともまるで、己の全てを出して競いあえるライバルを見つけたような、そんな激
料理人じゃないよね
?
しい火を灯した目をしていた。
﹂﹂
うっかり失念していたけど、二人とも魔法使いだよね
﹁﹁HAHAHAHAHAHA
そろそろ静かにさせないと近所迷惑になっちゃうね。
!!
?
438
その3: Side , 時系列: ???
見たところ一般人じゃないな﹂
ト、コートの下は派手な色のスーツという出で立ちだ。
もう片方は、いかにも怪しい紫色のロングコートに金髪の上には同色のシルクハッ
ストという出で立ち。
俺は中折れハットを被り、黒いスラックスにネクタイ、白のカッターシャツに黒のベ
とある街の秋の夜、俺は一人の男と向かい合っていた。
???
???
?
話さ﹂
﹁貴様のような猿に語ることはない。それに話したところでお前たちには理解できない
﹁お前、誰だ
Extra story
439
シルクハットの男はそう言って宝石を二つ、右手の指に挟んだ。
﹁ほう 僕のことをわかるとは、君も同業者かい
﹁どうでもいい。何しに来た
﹂
けどいただけないな。あのよう
﹁どこが関係ないんだい この街は遠坂の管轄だろう それにこの街の猿共は英雄
﹁関係ない人々を巻き込むつもりか﹂
ボラを。これ以上調子に乗る前に、潰しにきたのさ。この街ごとね﹂
﹁君も同業者なら知ってるだろう
?
?
?
極東の猿ごときが第二魔法を修得したとか言う大
な陳腐な家系や猿たちと一緒にしないでくれ﹂
?
﹁貴様、魔術師か。しかも宝石。遠坂やエーデルフェルトとは別の家系だな﹂
440
として奴等を称えているらしいじゃないか
目障りなんだよね、正直。それに﹂
猿の街の一つや二つ、消えても問題ないだろう
?
﹁理解したなら退いてくれないか 僕は忙しいんだよ。君のような身の程を知らない
といったのだ。
男の言葉は頭にきた。散々見下した挙げ句、虫を殺すみたいな感覚で街の人々を殺す
?
?
?
?
お猿さんと会話してあげただk﹁退かない﹂⋮⋮何だと
て起動するだけで戦闘準備は完了だ。
イミテーション
メタルランス
﹁やっぱ猿には言葉は通じないか。なら先に死ね
﹁投影開始、鋼の長槍﹂
﹂
﹂
俺は父さんと同じように、刻印として体に礼装の類いを刻み込んでいる。魔力を流し
める。戦闘形態﹂
セッ ト アッ プ
﹁退かないと言ったのだ。人々を、この街を泣かせる奴は俺が許さない。俺がお前を止
?
男が投げてきた二つの宝石を、術が発動する前に切り砕く。
!
﹁ぬっ
猿風情が
﹂
パ ワー セッ ト
!!
﹂
猿に加えて面汚しだったとは﹂
五月蝿い
!!
﹁その面汚しの猿に攻撃を防がれたお前は
?
﹁さっきから猿しか言ってないな。全身強化﹂
!?
?
﹁何だと
﹁言い忘れていた。俺は魔術師ではない。魔術使いだ﹂
Extra story
441
俺は投影した槍を構え直し、男と向き合った。
一度防いだぐらいで調子に乗るなぁ
﹁魔術使い、衛宮・E・剣吾。お前の業を数えよう﹂
﹁この青二才がぁ
!!
﹂
﹂
﹁ぐう、舐めるなぁ
?
今度は宝石を握り締めてこちらに殴りかかってきた。
!!
﹁生きていたのか
﹁ぐっ⋮⋮ゴホッ⋮⋮﹂
﹂
こいつずっと部屋にこもっていて、戦闘経験はろくにないな。
情けない。
を自分で食らっていた。
の軌道がハッキリと見えていたため、全て弾き返した。要するに、魔術師は自分の魔術
魔術師は今度は全てよ指の間に宝石を挟み、こちらに投擲してきた。だが、俺にはそ
!!
442
そう言えば凛ねえやルヴィアさんが言っていたな。最近の魔術師は格闘が必須だと
か。試しにこいつのパンチを受けたが、片腕で止められた。
軽すぎる。
肉体を強化はしているのだろうが、それにしてはペラッペラだ。おおかた自分には格
闘は必要ない、魔術だけでなんでもできると思い込んでいたのだろう。
僕は一族で最も強いし才能があるんだぞ それが
まさにお前の事を指す﹂
!?
﹁な、何故僕の攻撃が防がれる
こんな面汚しなんぞに﹂
﹂
﹁﹃井の中の蛙、大海知らず﹄ってのは知ってるか
﹁何だよ⋮⋮何なんだよ貴様は
?
!?
!?
われた俺が編み出した魔術の一つ。
術。だが五大元素の属性を持っていれば、誰でもできる筈のものだ。師匠に面白いと言
俺は持っている自属性のうち、﹁風﹂を右足に付加させる。これは俺が編み出した魔
い。属性身体付加﹂
ダイレクト・エンチャント
れても、一度外の世界に出れば厳しい現実が待っている。あの世でじっくりと学んでこ
﹁通りすがりのこの街を護る魔術使いだ。覚えなくていい。小さな限られた場所で威張
Extra story
443
貴様
!?
まさか﹃厄災のエミヤ﹄の四代
!!
﹂
その体に直接属性を纏わせる魔術は
!? !?
シ
ン
グ
ル
ド
ラ
イ
ブ
属性、身体、強化臨界﹂
﹁ひっ、ヒィィィァァァアアアアアッ
!?
﹁ヒィッ
﹂
く、来るなぁ
﹁ハァァアアア
﹂
﹂
!?!?
!?!?
﹁オデノカダダハボドボドダァー
!!!!
!?
俺は強化を維持したまま走りだし、そして飛び上がった。
いのに、こいつはそれを持たずに挑んできた。呆れる。
魔術師が戦闘をするということは、命を奪い奪われる覚悟を必ず持たなければならな
本当に情けない。
げながら逃げ出した。
右足の風が新緑色の光を放ち、身体中が最大まで強化されたとき、魔術師は悲鳴をあ
﹂
﹁厄災とは言ってくれる。この街にとっては、貴様のほうがよっぽど厄災に相応しい。
目か
﹁ッ
444
ドロップキックの要領で蹴り飛ばすと、奴は末期の声をあげながら爆散して消えた。
リフォメーション
まったく、どんなやつが相手であれ、命を奪うのは慣れないものだ。
﹁ふぅ。戦闘終了﹂
戦闘服を解除してもとの服に戻す。そしてベルトに取り付けてる帽子を外し、被り直
す。今はまだまだ帽子に被られている状態だ。帽子は一人前の男の証、いつか必ず似合
う男になる。
ハリケーン・ストライク
まぁ父さんに見つかるといつも取り上げられてしまうんだが。それに相棒からも受
けが悪い。そんなに似合わないか
?
いや、ないな。
ええ終わりましたが、本当に師匠の系譜の一族なんですか
﹂
それにしてもあの蹴り、名前決めるとするかな。 疾 風 の 蹴 脚なんてのはどうだろう
か
﹁師匠ですか
?
﹁まあな。当時はエーデルフェルトと並ぶ芽のあった弟子だったんだがな﹂
?
?
﹁終わったか﹂
Extra story
445
﹁なるほど、長い年月の間に落ちぶれたと﹂
﹁え
﹂
﹂
!!
はい
?
んだ
﹂
なんでここにいるんだ
﹁にぃにだ∼スリスリ∼♪﹂
﹁へ
﹂
﹁あら、聞いてなかったの
﹁か、母さんまで
あ、うん﹂
﹂
﹂
は小さなリュックを背にからっている。母さんは少し大きめのバッグを地面に置いて
何が何だかわからないまま、俺は母さんから小さな荷物を渡された。よく見ると、妹
﹁え
﹁お仕事お疲れ様。それとはい、これ持ってくれる
?
?
?
?
?
?
?
唐突に俺の足元に小さな女の子が抱きついてきた。俺の妹なんだが、何故ここにいる
?
﹁にぃに∼
﹁何はともあれ、ご苦労だった。さて報酬だが⋮⋮﹂
446
いた。
因みにそれらは、師匠があるときの仕事の報酬でくれたもの。凛ねえの家にある、第
二魔法を応用した収納箱と同じで、見た目以上の荷物が収まる。
﹂
予定では早く家に帰って晩飯食
さて、そろそろ現実逃避はやめるか。俺が把握しないままに、話は進んでいる。俺一
人だけが蚊帳の外にいる状態だ。どうなってんだ
う筈だったのに。
﹂
﹁ありがとう。シィちゃん、こっちいらっしゃい﹂
﹁はーい
何がどうn﹁では万華鏡殿、宜しくお願いします。﹂って、は
?
?
﹂
!?
師匠は腰から万華鏡のように輝く短剣、あれが宝石剣か、を抜いて一振りした。する
﹁相わかった﹂
﹁母さん
? !!
と俺と母さんと妹の三人の足元に大きな魔法陣がっておい
!?
﹁いってこい﹂
﹁師匠
Extra story
447
﹂
こんのはっちゃけジジィがぁぁぁぁああああああ
!!
そして俺たちは飛ばされた。
!!!!
﹁じぃじ∼、いってきまーす
448
秘密の部屋
マリーは夏休みにこの家に帰ってきたとき、バーノン・ダーズリーによって、魔法関
ぶ、はダーズリー一家の親戚であり、魔法使いでもある。
番目に小さい部屋で、羊皮紙の上に羽ペンを走らせていた。マリナ、以降はマリーと呼
ところでこの家にはもう一人住人がいる。その人物、マリナ・ポッターはこの家で二
仕上げをしている。
バーノンは上機嫌にダドリーの蝶ネクタイの調整をし、ペチュニアは豪勢なケーキの
いた。
ネクタイを着用し、バーノンの妻であるペチュニアは、サーモンピンクのドレスを着て
でっぷりとした男性、この家族の家主であるバーノンと息子のダドリーはスーツと蝶
いた。
プリベット通り4番地のダーズリー一家の家は、落ち着きのない空気が場を満たして
ある夏の日の夕方。
0. プロローグ
0. プロローグ
449
450
係の一切を取り上げられてしまった。
物置の中に押し込め、鍵を掛けるまで徹底して、マリーを魔法から遠ざけた。そのせ
いで、マリーはホグワーツ魔法魔術学校から出された宿題が手付かずとなってしまい、
それどころか家の敷地から出ることもできなかった。唯一の救いは念話でのみ、シロ
ウ、シロウ・エミヤと会話できることだった。
しかしここで驚くことが起きた。
なんと同じく夏休みだった従兄のダドリーが、物置を開けて魔法関係の道具を少しず
つマリーに返し始めたのだ。
マリーは始め唖然としたが、有り難くそれを感謝し、宿題に手を付けることができる
ようになった。本に興味を示さないダドリーも、私が使わない教科書を読むなどもして
いた。
一度その現場をペチュニア叔母さんに見られてしまった。けど叔母さんはそれを咎
めることなく黙認し、果てはバーノン叔父さんに見つからないよう注意するということ
に。
それはともかくとして、それらの経緯で、マリーはシロウと念話で話ながら、最後の
宿題の仕上げをしていた。
﹁マリナ・ポッター
﹁来るのが遅い
﹁応接間に﹂
﹂
ワシが呼んだらすぐに来るんだ
﹂
﹂
?
れたことがある。いったいこの人は何がしたいのかわからない。
怒られ、それで引き返している途中に呼ばれたから急いで向かうと、今度は遅いと言わ
それにこの前、そろそろ呼ばれると思って、叔父さんの元へと行ったら呼んでないと
!!
部屋に入ると、バーノン叔父さんはダドリーの髪をとかしつけていた。
へと向かった。
でもここで無視をすると、何をされるかわかったものでもないため、急いでリビング
う。これで何度めだろうか。いい加減耳にタコができそうだ。
階下からバーノン叔父さんの呼ぶ声がした。大方このあとの予定確認をするのだろ
!!
⋮⋮これでもすぐに来たのですが。
!!
﹁全員集合だ。今から今夜の確認をする。まずはペチュニア
0. プロローグ
451
バーノン叔父さんに話を振られた叔母さんが即座に答える。
﹁その通りだ。ダドリー
﹂
﹁コートをお預かりするんだ﹂
めの晩ごはんを私に食べさせるため、既に用意されていた。内容は今夜のご馳走と同じ
叔父さんが上機嫌に語っているところに、叔母さんから食卓へと連れていかれた。早
に合うかもしれん﹂
﹁全くもってその通りにしろ。これは大事な商談だ。うまくいけば夜中のニュースに間
﹁⋮⋮部屋に籠り、音をたてないで大人しくします﹂
きた。不愉快な感情が出てくるけど、それを押さえ込んで答える。
ダドリーの確認が終わると、まるでゴミを見るかのような目付きで叔父さんは問いて
?
?
﹁正しくその通りだ。それで⋮⋮
﹂
﹁メイソン御夫妻を手厚くおもてなししますわ﹂
452
メニューだった。味わいつつも、できるだけ急いで行儀良く口に運んだ。マナーって大
切だよね。
そこに玄関のベルが鳴った。もしかしてメイソン御夫妻のご到着
叔母さんが応対し、誰かと一緒に戻ってきた。麻黒い肌、真っ白の髪。鷹のような、そ
でも叔父さんは怪訝そうな顔をしていたことから、たぶん違うのだろう。ペチュニア
?
﹁ま、まぁそうだが﹂
﹂
﹂
れでいて優しさがにじみ出る鋼色の目。この一年でぐっと伸びた身長。ざっと165
cm。って、
何でシロウが
﹂
えええ
!?
﹁久しぶりだな、マリー﹂
﹁え
﹂
﹁私が呼びました﹂
﹁な、なんだ
!?
﹁マリーのお目付け役にと。バーノンもその方が安心でしょう
?
突然のシロウの登場に、ペチュニア叔母さん以外が呆気にとられていた。加えてダド
?
?
?
﹁ぺ、ペチュニア
0. プロローグ
453
リーは少しだけ顔を青くしていた。シロウはゆっくりとバーノン叔父さんへと近付い
た。
﹂
?
﹂
﹁⋮⋮青い。だがいい青さだ﹂
﹁え
?
?
﹁ダドリー、君は今スポーツをやっているか
﹂
ていた。シロウはダドリーを暫く見つめると、口許に柔らかな笑みを浮かべた。
それからシロウは、ダドリーに顔を向けた。それによってダドリーは、少しだけ震え
貫禄が感じられる。気のせいじゃないよね。
バーノン叔父さんはシロウにたじたじになっていた。どうも今のシロウからは、妙な
﹁あ、ああ﹂
した。よろしくお願いいたします﹂
﹁はい。こんな成りですが、日本人です。外見は世界中をまわっている間にこうなりま
﹁う、うむ。日本人か
﹁お初にお目にかかります。シロウ・アインツベルン・エミヤと申します﹂
454
﹁い、いや
﹂
﹂
﹁そうか、ならボクシングはどうだろうか
﹁えっと、どうして
﹂
﹁筋肉のつきかただよ。正しく練習すれば、君は必ず良いボクサーになる﹂
?
?
?
ベッドの上で跳ねていた。
コウモリのような耳をつけ、テニスボール程大きい目をした茶色い生き物が、私の
しかし、そこには先客がいた。
私とシロウは急いで階段をかけあがり、私の部屋へと入った。
そこにまた玄関のベルが鳴った。今度こそメイソン御夫妻がいらっしゃったらしい。
たから、今は簡単なものなら作れるし。
いをした。何もしないっていうのは嫌だしね。それに叔母さんの手伝いをし続けてか
男性陣が話をしている間に私は晩ごはんを食べ終え、食器を片付けて叔母さんの手伝
させる癖がある。
に、手をワキワキとさせている。ダドリーは機嫌が良いとき、どちらかの手をワキワキ
シロウの発言に戸惑いながらも、ダドリーは悪い気はしなかったようだ。その証拠
﹁そ、そう﹂
0. プロローグ
455
1. ドビーの警告
部屋にいた奇っ怪な生き物を確認した途端、シロウが何やら膜みたいなもので部屋を
包みこんだのを感じた。生き物もそれに気がついたようで、こちらに顔を向けた。そし
て恭しく頭を下げた。
﹂
?
﹁下僕妖精。つまり、ブラウニーのようなものか
﹂
﹁似て非なるものでございます、東洋⋮⋮の⋮⋮﹂
?
生き物、ドビーはキィキィ声でそう言った。妖精の一人なのか。
﹁ドビーでございます、屋敷下僕妖精のドビーです﹂
﹁⋮⋮あなたは
﹁マリー・ポッター。なんたる光栄﹂
456
シロウの質問に対してドビーは答えたけど、シロウを見た瞬間、大きな目を更に大き
く見開いた。そして神様に礼拝するように床に膝をつき、何度も頭を床に打ち付けた。
﹂
!!
﹂
﹁も、もも、申し訳ございません このドビー、貴方様に対してなんたるご無礼を
﹂
﹂ガンガンッ
﹂ガンガンッ
ドビーってば﹁大丈夫だ﹂⋮⋮え
ドビーの悪い子
音をたてないで
そう一声叫び、頭をガツガツと床にって
﹁ドビー待って
﹁ドビーの悪い子
!!
ドビーの悪い子
﹁お願いだから音をたてないで
﹁ドビーの悪い子
!!
!!
?
!!
!!
!!
!!
!!
!!
!!
!!
﹂ガンガンッ
こえるがな﹂
﹁そうなの
?
﹁ああ。だからいい加減頭を打ち付けるな﹂
!!
﹁遮断結界を張った。こちらからの音と衝撃は漏れることはない。向こうからの音は聞
1. ドビーの警告
457
シロウの言葉で漸くドビーは動きを止め、話をすることになった。私とシロウはベッ
ドに座り、ドビーには椅子に座ってもらった。まぁこのとき、またドビーが頭を打ち付
けていたけど。
﹂
﹂
﹂
どうやら今の主人に対して不忠な思考や発言をすると、自分で自分をお仕置きしなく
てはならないらしい。
﹁いい加減本題に入るぞ﹂
﹁そうだね。ドビー、話って
﹂﹂
﹁はい、実は⋮⋮マリー・ポッター。今年はホグワーツに戻ってはなりません
﹁﹁⋮⋮は
﹂
﹁恐ろしい、非常に恐ろしい罠が仕掛けられております
﹁⋮⋮その罠とは
ウが握っていた。
ビーの腕に絡み付いて、ドビーの動きを強制的に止めてしまったのだ。布の端は、シロ
に 突 進 し、ま た ヘ ッ ド バ ン キ ン グ を し た。い や、し よ う と し た。突 然 真 っ 赤 な 布 が ド
シロウが質問すると、ドビーは突然唸りだした。そして椅子からかけ降りると、箪笥
?
!!
?
!!
?
458
﹁確信はなかったが、妖精でも男なら効くのだな﹂
﹂
?
﹂
これは﹃マグダラの聖骸布﹄だ。対男性用拘束具だな﹂
﹁⋮⋮シロウ、それは
聖骸布
﹁これか
﹁へ
!?
?
﹂
何か落ち
﹁これは動きだけでなく、能力も封じる。だから魔法を使っても無駄だぞ、ドビー
﹂
?
シロウの言葉に、ドビーは泣きそうになっていた。少しやり過ぎ⋮⋮ん
た
それを見てはダメです
私はドビーの汚れた服から落ちた、何かの束を拾い上げた。
ダメです
!!
﹁ッ
!!
?
?
ええ∼⋮⋮それってキリスト教の信者が耳にしたら絶対に怒り狂うと思うよ、たぶん
﹁ああ﹂
?
?
!!
1. ドビーの警告
459
ドビーがキィキィ声で叫ぶけど、私は無視してそれを見た。それは私宛に届くはず
だった、友人たちからの手紙の束だった。
﹂
?
?
ドビー、お前だったとはな﹂
﹂
⋮⋮マリー・ポッター
﹁⋮⋮ねぇドビー。これってどウいうコト
﹁ひっ
﹁答エて
!?
﹁⋮⋮聞いていい
﹁⋮⋮なんでしょうか
?
﹂
﹁私が外に出ようとしたら急に扉が閉まったのも、脚が扉に挟まれたのも、庭に出ると何
?
﹂
ば、ホグワーツに戻りたくなくなると思い、全て回収していたと。
でも私はこの家にいたほうが安全であるため、こうして妨害したと。手紙が届かなけれ
私がドビーに問い詰めると、ドビーは渋っていたけど、やがて細々と話し出した。何
?
﹂
﹁⋮⋮やはりな。おかしいと思い、何かに妨害されているとは思ってはいたが。まさか
460
﹂
故かバスケットボール大の鉄球が飛んできたのモ、全部あなたのやったコト
﹁⋮⋮﹂
﹁コ タ エ ナ サ イ﹂
私が詰問すると、ドビーは小さく首を縦に振った。
﹂
﹂
﹂
?
やろうと思えばゴムの球
!!
﹁何でそンナことしタノ
﹂
﹁⋮⋮マリー・ポッターは⋮⋮ここにいた方が安全なのです
﹂⋮⋮マリー・ポッター
人間ってね
﹁⋮⋮それで私が死んだら意味がないでしょう
でも殺せるんだよ
﹁そんな、殺そうだなんて滅相も﹁知ってる
?
?
?
?
?
おかしくないことを、平然とやっているのだ。
去年から思ってたけど、魔法界って危険認識がかなりおかしいよ。普通なら死んでも
?
?
?
場で私が咄嗟に避けてなかったら死んでたよ
﹂
﹁たががゴムボールで死んじゃうんだよ なのに貴方が投げたのは大きな鉄球。あの
1. ドビーの警告
461
﹁⋮⋮﹂
﹂
?
彼はこん
?
なんてされたくない
私は﹃生き残った女の子﹄である前に、一人の人間なんだ
﹂
!!
さんの上品︵笑︶な笑い声が響いてくる。私が深呼吸していると、シロウがドビーに話
熱くなったところに、シロウからブレーキが掛けられた。階下からは、バーノン叔父
﹁そこまでだ。落ち着け、マリー﹂
!
﹁私はみんなの人形じゃない。ヴォルデモートから生き残った、というだけで特別扱い
なんだ。
結局ドビーはマリー・ポッターではなく、
﹁生き残った女の子﹂を死なせたくないだけ
なことしないだろう。
の子﹂だからここまでしている。ならもし私に片親、両親が残っていたら
ドビーは黙りこくって私の話を聞いている。私は思う。ドビーは私が﹁生き残った女
るけど、貴方がやってるのは、私に決められたレールを歩けと言ってるのと一緒よ
の。私の生き死を他人に管理されたくない。人生に忠告やアドバイスをするのはわか
﹁私のことを思って行動したのはわかった。その気持ちは嬉しい。でも私は迷惑してる
462
しかけた。
﹁さて、ドビーよ。お前の想いは理解した﹂
﹁⋮⋮はい﹂
もらいたい﹂
﹁だがこの通り、本人は迷惑しているのが現状だ。故に、今後そのようなことはしないで
﹁⋮⋮しかし﹂
﹂
﹁こ れ で も 降 り か か る 火 の 粉 を 払 う ぐ ら い は で き る。そ れ と も ⋮⋮ 私 が 信 用 な ら ん か
い。仕方ないから宿題の仕上げを、シロウに手伝ってもらいながら終わらせた。
何だかどっと疲れが押し寄せてきた。でもメイソン御夫妻は、まだ応接間にいるらし
ビーは指をパチリと鳴らして帰っていった。
えずはドビーは何もしない、ということで話はつき、シロウはドビーの拘束を解くと、ド
シロウの質問に、ドビーは大きな耳をパタパタさせながら、首を横に振った。とりあ
?
﹁ああ、そうだ。明日の昼頃、ウィーズリー家のパーシーとモリーさんがオレ達を迎えに
1. ドビーの警告
463
そうなの
来るそうだ﹂
﹁え
﹂
?
﹁ありがとう﹂
﹁ああ、だから準備しておけよ
?
ペチュニアさんには報告してある﹂
ロウは返事をし叔母さんの元へと向かった。
メイソン御夫妻は漸く帰ったらしく、下からペチュニア叔母さんに呼ばれた。私とシ
﹁はーい﹂
れ物がないようにな﹂
﹁礼はいらん。そのまま新学期までウィーズリー家のにお邪魔することになるから、忘
?
464
レも子沢山だと思ってはいたが、それを越えるぞ
荷物の整理をしているとすぐに夕食の時間となった。が、流石に人数が多いため、外
ニーにも連絡をいれることになった。
詰めてきた。それに関しては、ただ妨害を受けていたことのみを伝え、後程ハーマイオ
車から降車すると、ロンが駆け寄り、オレとマリーに手紙の返事がなかった理由を問い
まぁそれはともかく、オレ達は四時ごろにはウィーズリー家の家、
﹃隠れ穴﹄に着いた。
?
それにしてもウィーズリー家、五兄妹以外にあと二人成人した子どもがいるとは。オ
ながら、目的地へと向かった。
れ穴﹄へと向かった。既に昼食は食べていたため、パーシーの運転でモリーさんと喋り
ることもなく、オレとマリーはウィーズリー家の車、フォード・アングリアに乗って﹃隠
め、彼らの家には、ダドリーとペチュニアさん以外はおらず、下手に場がややこしくな
昼前に、モリーさんとパーシーが車できた。バーノン・ダーズリーは仕事でいないた
2. 隠れ穴と突然の来訪者
2. 隠れ穴と突然の来訪者
465
﹂
に机を出して食べることになった。そこに家主のウィーズリーさんが帰ってきた。ふ
む、挨拶をせねばな。
﹁やぁやぁただいま諸君
﹁﹁﹁﹁おかえりなさい﹂﹂﹂﹂
﹂
﹁いや∼今日も疲れたよ。でもお客さんが来るからな、張り切って終わらせてきた
で、君たちが
馬鹿な⋮⋮何故
!?
しかに子供らにも受け継がれている。まさに暖かな家族のみほ⋮⋮ッ
魔術の気配だと
!?
!?
だったのだな。他人が世間でどう言われてようと、全てを受け入れる包容力。それはた
成る程、ウィーズリー一家のこの暖かな空気。その大本はアーサーさんとモリーさん
アーサーさんはそうにこやかに言い、着替えにいった。
こにいる間はリラックスしていると良い。特にマリー、君も色々と大変だろうからね﹂
﹁これはこれは、初めまして。私はアーサー・ウィーズリーだ。この子達の父親だよ。こ
﹁初めまして、マリナ・ポッターです。マリーとお呼びください﹂
﹁お初にお目にかかります、シロウ・アインツベルン・エミヤです﹂
?
!!
!
466
隣に立つマリーも、その敏感な感性から何かが来ることを察知したらしい。隠れ穴か
らウィーズリー夫妻も駆け出してきた。夫妻は子供らを後ろに下がらせ、オレと同じ
く、庭のある一点を見つめていた。既に杖も準備している。
オレは懐に手を入れ、黒鍵を一本用意した。魔術の気配が大きくなる。オレは黒鍵を
取り出し、いつでも投擲できるように構えた。マリーはウィーズリー兄妹のところまで
下がらせている。
思わずオレは構
突然空間に球状の亀裂が入った。そして地面に大きな魔法陣が形成され、虹色の輝き
を放ち始め⋮⋮って、はい これは万華鏡の世界移動の術式じゃ
えを解いてしまった。
?
﹂
﹁⋮⋮色々と聞きたいけど、何で父さん子供になっているんだ
﹂
﹂
オレが構えを解いたことにウィーズリー家とマリーが訝しんでいたが、それもすぐに
?
表情を驚愕に変えた。オレも目が飛び出すかと思った。
ギュ∼
!!
﹁ほらほらシィちゃん、走らないの。久しぶりねシロウ、元気だった
!!
魔法陣の光が消えた途端、幼子がオレの足にしがみついて頬を擦り付け、銀髪赤目の
?
?
﹁わーい
2. 隠れ穴と突然の来訪者
467
美女が少し大きめの荷物を持って幼子についてき、最後に中折れハットを被った少年が
出てきたのだ。間違えようがない。
オレの妻であるイリヤと息子の剣吾、娘のシルフェリアだった。
﹂
﹂
剣吾もそうだけど、てっきり万華鏡殿が話しているかと﹂
﹁な、何故
﹂
成功だな
﹁何も聞いてないぞ
﹁カッカッカッ
!!
?
あァァァァァアアアアッ
﹁⋮⋮剣吾﹂
﹁⋮⋮わかってる﹂
﹂
﹁﹁さぁ、お前の罪を数えろ
﹁今更数えられるか
!!
﹂﹂
!!
!!
家族の後ろには、高笑いしている貫禄のある老人の姿が。あのハッチャケ爺の仕業か
!!
?
﹁あら
?
468
オレと剣吾は手に武器︵刃もちゃんと付いている︶を取り、高笑いを続けるクソ爺に
突進していった。全てはあの爺に制裁を加えるため、オレ達は手加減無しで向かって
いった。
┃┃ 数分後⋮⋮
﹁万華鏡殿、てっきり彼らには話を通しているかと﹂
﹁なに、あやつらの驚く顔が見たくてな﹂
カンラカンラと笑うクソ爺のすぐ側で、オレと剣吾は地に倒れ伏していた。シルフェ
リア、シルフィはオレと剣吾の顔をつついたり、引っ張ったりと好き放題だ。
﹂﹂
﹁カッカッカッ
﹁﹁クソッ
!!
二万年早い
!!
﹂
も
呼
ん
で
く
れ
﹁ハァ⋮⋮フゥ⋮⋮その時は⋮⋮﹁ぐに∼﹂⋮⋮ほへおよんへふれ、父さん﹂
俺
﹁ハァ⋮⋮ハァ⋮⋮あのクソ爺⋮⋮﹁ぷにぷに﹂⋮⋮いつか絶対に泣かす⋮⋮﹂
2. 隠れ穴と突然の来訪者
469
!!
暫くしてオレ達も回復し、唖然としているウィーズリー家のみんなと、マリーに自己
紹介することになった。オレ以外の皆が、一列に並ぶ。
!!
﹁衛宮・アインツベルン・剣吾です﹂
﹂﹂﹂
﹁シィはシルフェリア・フォン・エミヤ・アインツベルンだよ
﹁は、はあ﹂
エミヤ
﹁ど、どうも﹂
﹁﹁﹁ん
?
﹂
?
?
﹁まぁわからないでもないけど。万華鏡殿、話しても大丈夫ですか
﹂
﹁う⋮⋮だ、だがなイリヤ。こんな成りのオレの話なんて、そうそう信用できないだろう
﹁やっぱりシロウは説明してなかったのね﹂
あ、そういえばオレはまだ12才という設定だった。まずい、これは非常にまずい。
?
﹂
﹁初めまして、イリヤスフィール・フォン・エミヤ・アインツベルンです﹂
470
﹁うむ、この者達なら大丈夫だろう﹂
﹁ですって、シロウ﹂
﹂﹂﹂
ウェヘヘヘ∼﹂⋮⋮食事前だから要点だけ話そう。その
﹁だ、だがな⋮⋮﹁パパー、抱っこー﹂⋮⋮ハァ⋮⋮﹂
﹁﹁﹁パ、パパ
あと、質問に答える﹂
﹁おいで、シルフィ﹁わーい
﹁⋮⋮やっぱりシロウ、年上だったんだ﹂
﹁僕漸く納得いったよ﹂
﹂
経過して、マリー、ロン、ウィーズリー夫妻がまず復活した。
オレが話し終えて皆の顔を見ると、心の整理がついてないようだった。2、3分ほど
等は、全て元の世界の技術であること等々、話しても大丈夫だろう内容は、全て話した。
が六歳まで若返り、実年齢は三十路に入っていること。オレが普段使っている身体強化
れなくなり、別の平行世界に渡ることになったこと。偶々この世界にきたが、その時体
それからオレは、実はもしもの世界の出身であること。とある事情で元の世界にいら
!!
!?
﹁私たちとあまり変わらないのでは、アーサー
?
2. 隠れ穴と突然の来訪者
471
﹁そうだね、モリー。まさか息子の友人が⋮⋮ダンブルドアはこの事を
﹂
?
﹁えっと、あの。シロウ⋮⋮さん
﹂
﹁君はこの世界で何かしよう、ってわけで来たんじゃないんだね
﹂
その言葉に最初に反応したのは、イリヤだった。
﹁ちょっと。その言い方はないんじゃない
﹂
戒するのもわからないでもない。だからイリヤ、その怒気を抑えてくれ﹂
﹁仕方がないさ。ここではつい12年前まで、誰も安心できない世の中だったんだ。警
?
?
﹁じゃあお言葉に甘えて、僕から質問が一つだけある﹂
﹁シロウで良い。君もその方が呼びやすいだろう。それに敬語もいらんよ﹂
?
の包容力だな。と、復活したパーシーがこちらに近づいてきた。
アーサーさんがそう言い、隣のモリーさんもにこやかに頷いた。やはりすばらしい程
﹁成る程⋮⋮ダンブルドアが信頼なさっているなら、私たちから何も聞くことはないよ﹂
﹁ええ、既に知っております﹂
472
﹂プンプンッ
オレはイリヤを宥めつつ、パーシーの方へと顔を向けた。当のパーシーはシルフィか
このお兄ちゃんパパを苛める
ら突っかかられて困っているが。
﹁にぃに
!!
﹂
?
﹁それより今はメシ食おうぜ
﹁俺たち腹が減って﹂
﹁そうね、そうしましょう﹂
﹂
とジョージの腹がなった。まだ夕食を食べていなかったな。
パーシーはオレの答えに納得したのか、それ以上は聞いてこなかった。と、フレッド
﹁⋮⋮そうか。わかった﹂
﹁大丈夫だよ、シルフィ。さて、君の質問だがパーシー。オレにそのつもりは毛頭ない﹂
﹁むぅ∼﹂頬っぺた膨らませ
﹁苛めてないから。少し難しい話をしているだけだよ﹂
!!
﹁ええ、わかりました。イリヤ達は
?
2. 隠れ穴と突然の来訪者
473
﹂グゥ∼∼∼∼
﹁シィとママは食べた
﹁は
﹂
!!
﹂
若干頬が赤いような気がせんでもないが。
?
えっと⋮⋮どなたですか
﹁あの⋮⋮﹂
た。気のせいか
と、地面に膝をついている剣吾の元に赤毛の少女、ロンの妹のジニーが近寄っていっ
ぞ、剣吾よ。
吾が依頼をこなしている間に、イリヤ達は食べ終えたのだろう。⋮⋮気持ちはわかる
シルフィの言葉に剣吾が反応すると同時に、剣吾の腹が鳴った。成る程、どうやら剣
?
﹁ウェ
?
﹂
でもそれは⋮⋮﹂
?
﹁ママ、大丈夫
?
﹁え
一緒に夕食食べませんか
﹂
﹁はい。よ、よろしくお願いたします。そ、それでですね。その⋮⋮もしよければ、い、
﹁あ、うん。よろしく﹂
﹁ジネブラ・ウィーズリーです。ジニーと呼んでください﹂
?
474
?
﹁問題ないわ。てことであなたもどう
﹁しかし⋮⋮﹂
﹂
隣には、ロンとジニーが⋮⋮って、やはり気のせいでないか。
オレの隣には、イリヤとマリー、シルフィはイリヤの膝の上だ。向かいに座る剣吾の
フィには、お茶と茶請けを用意した、オレがな。
イリヤ達も席につき、漸く夕食となった。万華鏡は既に帰っている。イリヤとシル
悲しくなってきた。
た。オレも息子も、女性には勝てないのだな。特に裏表のない、純粋な厚意には。何か
剣吾は渋っていたが、結局モリーさんの言葉攻めに敗れ、夕食を共にすることになっ
?
﹂
?
﹁ま、父親の血を強く引いたんでしょう﹂
﹁確か一成の娘もだろう
﹁しかもこの世界における、あなたの友人の妹﹂
﹁﹁剣吾、また一人落としたのか︵のね︶﹂﹂
﹁ええ、間違いなくそうね﹂
﹁なぁイリヤ、あの子﹂
2. 隠れ穴と突然の来訪者
475
﹁うぐ⋮⋮﹂
イリヤの口撃が地味に痛い。まぁこれに関しては、剣吾に任せるしかないな。オレか
らは下手に手は出せないし。
﹁アハハ
そうね、マリーの言う通り
﹂
!!
どうしたんだ
﹂
﹂
?
な、何
?
﹁ん
﹁ふぇ
!?
?
アーサーさん、家の息子がすみません。
し、フレッドとジョージはニヤニヤしている。
モリーさんは自然と顔を綻ばせた。アーサーさんとロン、パーシーは複雑そうな顔を
らを見るな。っと、ジニーが顔を赤くしながら剣吾に手拭きを渡した。オレとイリヤ、
まさかの挟み撃ち、オレのライフはもう残り少ない。剣吾、お前は同情する目でこち
﹁ぐっ、言わないでくれ、マリー﹂
!!
﹁シロウ、イリヤさんのお尻に敷かれてるね﹂
476
﹁﹁あらあら、なにも
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
﹁
﹂﹂
∼∼∼∼︵//////︶カァー﹂
﹁﹁ニヤニヤ︵ ゜∀゜︶﹂﹂
?
﹂
﹁⋮⋮剣吾君﹂
﹁は、はい
﹂
﹂
︵;OwO︶ ダディイッデルンディス
﹁ジニーを泣かせたら許さないからな﹂
﹁ウェイ
﹂
!?
?
!!
﹁いいな
? !?
﹁は、はい
って嗚呼嗚呼、またシ
こでパーシーが手を伸ばして剣吾の肩を掴んだ。気のせいか、少し力が入ってるような
双子のニヤニヤ笑いに止めを刺され、ジニーは撃沈し、食べ物を口に運び始めた。そ
!!
?
⋮⋮パーシーよ、君はもしかしなくても、シスコンなのか
?
2. 隠れ穴と突然の来訪者
477
﹂
ル フ ィ に 突 っ か か ら れ て る。シ ル フ ィ は ど う も パ ー シ ー が 気 に 入 ら な い み た い だ な。
この子が他人を気に入らないとは、珍しい。
﹁そういえばイリヤさん達は、今夜どうするんですか
モリーさんがイリヤに質問をした。確かに、今晩どうするつもりだったんだ
﹂
?
﹂
﹁ならうちに泊まっていかない
部屋は何とかなるわ
﹂
でも一週間程いますよ
﹁え
﹁大丈夫よ
アーサー
﹂
うもオレ達家族は、百パーセント善意の口撃に弱いらしい。あれよあれよといううち
イリヤも剣吾同様渋っていたが、ウィーズリー夫妻の波状口撃にやはり撃沈した。ど
?
?
﹁勿論ですとも。是非とも泊まってください﹂
!!
?
!!
?
﹁わかったわ。ええシルフィは兎も角、私と剣吾は慣れてるから﹂
﹁ならあなたも敬語とさん付けはいらないわ。それにしても野宿
﹁近くの宿を探そうかと、無ければ野宿をします。あと敬語とさん付けはいりませんよ﹂
?
?
478
に、部屋割りも決まってしまった。
剣吾とロン、フレッドとジョージが同じ部屋に入り、イリヤはマリーとジニーと同じ
剣吾も、フレッドとジョージにオレのことを話さないで
部屋。オレはパーシーとシルフィと同室になった。頼むイリヤ、どうかオレの幼少の頃
あの双子に聞かれると、色々とネタにされてしまう。
の話を暴露しないでくれよ
くれよ
?
﹁流石に疲れたのだろう。けっこうはしゃいでいたからな﹂
﹁うにゅ⋮⋮パパとおねんね⋮⋮﹂
は床にマットを敷いて寝転がり、シルフィはオレの上に乗っている。
そんなこんなで入浴も済ませ、俺達は床に入った。パーシーは自分のベッドに。オレ
?
﹁くぅ∼∼∼⋮⋮﹂zzz
﹁ハハハ﹂
﹁言わないでくれ。オレもまさか体が六歳まで若返りするとは思わなかったのだ﹂
よね﹂
﹁⋮⋮前に言った、見た目が全てではないって言葉。あれはシロウ自身が体現している
﹁少なくとも十四年は親をしていたのだ。であれば自然とな﹂
﹁こうしてみると、シロウがお父さんと呼ばれても不思議じゃないね﹂
2. 隠れ穴と突然の来訪者
479
シルフィがオレの左腕に頭をのせ、寝息をたて始めた。
﹁なに、時間はまだあるさ﹂
﹁⋮⋮パパ⋮⋮だいすき⋮⋮﹂
?
ついた。
別の部屋で騒ぐフレッドとジョージ、剣吾とロンの声を聞きながら、オレ達は眠りに
﹁ああ、おやすみなさい。﹂
﹁まったくだ。おやすみ、パーシー﹂
﹁父親冥利に尽きるんじゃない
﹂
﹁そうだね。まだ色々と聞きたいけど﹂
﹁寝たな。なら俺達も寝るとするか﹂
480
3. 父 vs 子
明くる朝、いつも通り早くに目が覚めた。シルフィはオレの上に覆い被さるようにし
て、熟睡している。パーシーは普段の几帳面さから想像できないほど、寝相が悪いらし
い。布団を蹴飛ばしている。シルフィは蕩けそうな顔をして、口をだらしなく緩ませて
いる。
むぅ、シルフィを見ていると罪悪感が湧いてくるな。それほどにまで、寂しい思いを
させていたのか。こちらにいる間は存分に甘えさせてやるか。
そう思いつつトレーニングウェアに着替え、シルフィを寝たまま抱き抱えて階下に向
かった。イリヤとモリーさんは既に起床していたようで、オレはシルフィを二人に預け
て外へ出た。庭でストレッチをしていると、同じく着替えた剣吾も来た。
お互い無言で日課をこなしていると、続々と皆も起きたようで、着替えて此方を見物
していた。シルフィも起きたようで、今はマリーの膝の上に座り、此方を見ている。
﹂
?
﹁⋮⋮毎度毎度思うのだが、見ていて楽しいか
3. 父 vs 子
481
﹁う∼ん、わかんないな。正直昔から見ていたから私の習慣なのかもね﹂
﹁二人とも終わった
﹁終わりました﹂
﹁ええ、私も﹂
﹂
﹁そう、なら着替えて手伝って
﹁﹁了解︵した︶﹂﹂
?
?
で、外に机を出して食べるようだ。朝食のメニューはイリヤが中心に作ったらしく、和
モリーさんとイリヤに言われ、オレ達は急いで服を着替えた。やはり人数が人数なの
﹂
朝食の前に水で流すかな。剣吾もそうとう汗をかいているみたいだし。
見物人に声をかけつつ、オレと剣吾は互いの日課を終わらせた。少し汗をかいたか。
﹁それに二人とも喋る余裕もある﹂
﹁剣吾までやってるし﹂
﹁⋮⋮シロウが前言っていた鍛練内容。あれ本当だったんだな﹂
﹁そうか﹂
482
風なものになっている。む、オレがいない間にまた腕を上げたか。いずれ追い越される
のでは
たして口に合うだろうか
美味しいわ、イリヤ
これはどうやって作ったの
﹂
因みにこれはどう作ったの
?
﹁
﹁ああ、これはこの食材をこうしてね
﹁ああ、これはね⋮⋮﹂
﹂
?
!!
?
そういえばこの世界では、マリー以外に和風料理を食べさせたことはなかったな。果
?
﹁あい
おくちキレイ
﹂
﹁ああ、キレイになった﹂
?
﹁⋮⋮シロウがお父さんやってる﹂
!!
﹂
んん、これでだいじょうぶ
?
﹁うむぅ
?
!!
こっち向いて﹂
る剣吾が気にならない程に夢中になっている。って。
母親達は料理談義に入ったか。他の皆も気に入ってくれたようだ。ジニーも隣に座
?
!!
﹁ほらシルフィ、口の周りについてるぞ
3. 父 vs 子
483
﹁でも学年は僕らより下なんだよ
﹁﹁不思議だぜ﹂﹂
フレッド、ジョージ
﹂
?
から。
﹁そういえば剣吾君
﹂
﹁何ですか、マリーさん﹂
﹁剣吾君とシロウってどっちが強いの
﹁あ、僕も気になってた﹂
﹁僕もだな﹂
﹁﹁俺も﹂﹂
﹂
吾よ。そういう同情する目でこちらを見るな。良いのだ、凛のうっかりには慣れている
のまわりは汚すが、あとは大丈夫そうだな。イリヤ達の教育が良いお陰だろう。⋮⋮剣
聞こえてるぞ、ウィーズリー四兄弟。不思議とは失礼な。しかしシルフィも、多少口
?
こちらをほうっているが、アーサーさんとジニーも興味津々な目でこちらを見ている。
マリーの質問に、ウィーズリー四兄弟が食いついた。モリーさんとイリヤの母親陣は
?
?
484
﹁さぁ、わからないです。父さんじゃない﹂
﹂
﹁昔は兎も角、今は体格が余り変わらないからな。試さねばわからんだろう﹂
﹁じゃあメシのあとに本気で試合したら
﹁﹁いや、それはやめた方がいい﹂﹂
ジョージの一言で場が盛り上がる。が、
?
﹂
﹂﹂﹂﹂
﹂﹂
オレと剣吾の一言で、皆が疑問の目を向けた。マリーは何かを察したようだ。
﹁﹁﹁﹁⋮⋮は
﹁﹁ここらが更地になるぞ︵なりますよ︶
﹁オレ達が本気でぶつかり合ったら﹂
﹁ちょっと色々とありまして﹂
?
?
?
﹁どうしてだ
3. 父 vs 子
485
そうなのだ。いつもは万華鏡が結界を張ってくれるから良いのだが、結界がないと確
実に更地を量産する。オレ達が本気でぶつかる、ということはそれを意味するのだ。そ
﹂
こで暫く頭を捻っていた剣吾が、何かをひらめいた顔をした。
﹁そうだ父さん、固有k⋮⋮﹁﹁駄目だ︵よ︶﹂﹂⋮⋮え
た。って、オレは誰に説明してるんだ
﹂
あ れ 以 来 魔 術 が 完 成 す る ま で 使 用 禁 止 だ っ
﹁だが純粋な体術ならば大丈夫だろう。アーサーさん、少し広い場所はありますか
オレは先に行ってる﹂
﹁向こうの方が大丈夫だよ。私も気になってたものでね。是非とも見せてくれ﹂
﹁というわけだ、食べ終わったら用意しておけよ
﹁⋮⋮ハァ。男の子って本当に⋮⋮﹂
?
?
?
?
17歳のときに使っただろうって
オレとイリヤの言葉に、剣吾は暫く渋っていたが、やがて理解はしたようだ。自分は
﹁父さんまで⋮⋮﹂
﹁それにお前はまだ若い。失敗したときのことを思うと、まださせられん﹂
﹁あれは矢鱈に見せるものじゃないわ。こちらでも禁呪に入るものよ﹂
?
486
イリヤは呆れた表情を浮かべつつ、食べ終えた人の皿をモリーさんと片付けて、小さ
な麻袋を片手に下げて着いてきた。オレは着替えて、剣吾が来る前に木製の槍を一本、
二振りの木剣を投影しておいた。剣吾も着替えてくると、オレから槍を受け取り、少し
離れて構えた。
﹁ジョージ、剣吾が勝つ方に夕食一品﹂
﹁じゃあ俺はシロウに一品な﹂
双子は賭けをしているようだ。正直やめてほしいが、金が絡んでないだけマシか。剣
吾は槍先を下に向け、オレは両腕をだらんと下げるようにして剣を構える。
﹂
?
﹁⋮⋮一流の戦士が相対するとき、互いに打ち負かすという気合いのようなものが、私達
﹁⋮⋮あなたたちはまだ経験したことがないと思うから、わからないのも当然よね﹂
﹁僕もだ。父さん達は
﹁僕はわかんないよ、マリー﹂
﹁⋮⋮なんだろうね、パーシー、ロン。この変な圧迫感は﹂
3. 父 vs 子
487
第三者には圧力として感じるんだ﹂
﹂
?
り終えたらしく、こちらに戻ってきた。
それじゃあこれから三分、始め
!!
﹁準備はいいわね
?
イリヤの掛け声と共に、オレは前へと駆け出した。
﹂
入る。剣吾も同じようで、オレから一切目を離さない。イリヤも、認識阻害の結界を張
ウィーズリー一家の会話も次第に聞こえなくなり、オレは目の前の剣吾はのみが目に
ラスの熟練者同士の決闘じゃないと⋮⋮彼らは一体⋮⋮﹂
﹁でもそれでもこれ程迄に荒々しいものでもない。これ程のレベルは、ダンブルドアク
﹁それは魔法使いの決闘でも同じよ
488
Side マリー
まずはシロウが動いた。
突然消えたと思ったら、剣吾君と真正面からぶつかってた。
剣吾君、今の反応できたの
まさか、シィちゃんには見えているの
それとも見えてないのは私だけ
?
シィちゃんはいつもの愛らしい笑顔を引っ込めて、真剣な表情で目を動かしている。
か気になり、顔を覗き込むと、更に驚愕した。
ていき、どこにいて、何をしているかわからない。膝の上のシィちゃんには見えてるの
そこからは何をしているか、わからなかった。木がぶつかり合う音が右に左にと移っ
づいた。
それからシロウは一度後ろへと飛ぶと、回り込むようにして猛スピードで剣吾君に近
?
﹁安心しろ。私にも見えてない﹂
﹁﹁父さん︵パパ︶⋮⋮﹂﹂
﹁言うな、ジョージ﹂
﹁⋮⋮フレッド﹂
3. 父 vs 子
489
?
﹁母さんにも見えないわ﹂
どうやら見えてないのは私だけではないみたいだ。ウィーズリー一家のみんなも見
えないらしい。ジニーも何が何だかわからない、という顔をしている。私は気になっ
﹂
﹂
て、シィちゃんに話しかけた。
マーちゃん
﹁シィちゃん﹂
﹁なに
﹁シィちゃんには見えてるの
?
がにぃにだよ
パパがにぃにをえいっ
って押したの﹂
!!
Side out
どうやらシィちゃんには見えてるようだ。エミヤ家って一体⋮⋮
?
﹁うん。にぃにとパパが、木の棒でガツンってやってるの。いまあっちにとんでったの
?
?
490
3. 父 vs 子
491
Side back to シロウ
何度か槍と剣が交差し、剣吾は大振りの足払いをかけてきたから、オレはそれを跳ん
で避けた。そして宙にいる状態で、木剣を剣吾のがら空きな背中に叩き付けた。
だが剣吾もそう甘くはなかったようで、足払いの勢いを利用して槍を背に回し、オレ
の一撃を防いだ。
オレは剣を交差させて無理矢理押し込み、剣吾はそれを流そうとして後方へと飛んで
いった。
体勢を立て直した剣吾は獰猛な笑みを浮かべ、こちらに突進してきた。攻勢は剣吾へ
と移り、ありとあらゆる箇所に突きを放ってくる。オレは二本の剣を駆使し、突きを受
け流していく。
また足払いを出してきたので、切りもみ宙返りをしつつ、オレは剣吾から距離を取る。
しかし剣吾はそれを予想していたらしく、オレが地につくと同時に再び猛攻を重ねてく
る。
高跳びの要領で空へと上がった剣吾は、空中で切りもみ回転をし、その遠心力で加速
した槍をオレに叩き付けてきた。オレはそれを二本の剣を交差させて防ぐ。そして一
度はね除け、蹴りを出すが剣吾は槍で防ぎ、再度叩き付けた。
オレはバックステップでその一撃をかわし、次いで出される蹴りをも避ける。すると
剣吾はオレから距離を取り、クラウチングスタートの体勢を取った。
あれは⋮⋮蒼き槍兵のランサーの投擲の体勢。まさか剣吾は槍を投げるのか
﹁カァァァアアアアア
﹁ツェァアアラアアア
﹂
ゲ
イ・
ボ
ル
ク
入る。オレは右肩に剣を担ぎ、狙いを剣吾の槍に定め、全身を強化する。
る体勢に入る。剣吾は体を弓のように反らし、そのバネを利用して槍を投げ出す体勢に
オレは剣の柄頭を組合せ、武器の形状を双身剣にした。そしてオレも地上から投擲す
槍の投擲。あいつ、完全にスイッチが入ってる。
間違いない。あれはランサーの﹃突き穿つ死翔の槍﹄と同じ動きで出される、渾身の
と跳び上がった。
剣吾は先程よりも更に笑みを濃くし、一気にトップスピードで走り出し、そして空へ
?
﹂
せ、そして二本とも粉々に砕け散った。しかしまだ試合は終わっていない。
互いに全力で槍を投擲する。槍は互いにぶつかり、一瞬だけ球状の衝撃波を発生さ
!! !!
492
オレは強化したまま走り出し、一気に剣吾との距離を詰めた。そして空手の基礎技の
三分経過よ﹂
1つ、正拳突きを地についたばかりの剣吾の腹へとつき出す。
!!
久しぶりの親子対決は、オレの勝利という形で終わった。
かったようだ。
オレは剣吾の腹に拳が当たる直前で止める。剣吾はオレの最後の突きに反応できな
イリヤのやめが掛かる。
﹁そこまで
3. 父 vs 子
493
4. 試合後と書店にて
寸止めした拳を引くと、剣吾は大きく息をしながら地に座り込んだ。汗も滝のように
﹂
﹂
かいている。そうとう疲労がきたのだろう。今日は昼はスタミナのつくメニューにす
何すんだ父さん
﹂ゴツンッ
るか。だがその前に、だ。
﹂
﹁剣吾﹂
﹁ん
﹁そぉい
﹁オンドゥルッ
﹁うっ⋮⋮﹂
﹁何すんだ、じゃない。全く、スイッチが入ってたぞ
!?
!!
?
﹂
ところだった。オレとの試合を楽しむのはいいが、周りが見えなければ話にならんぞ
﹁オレが咄嗟に投擲に切り替えてなかったら、ここらに巨大なクレーターが出来上がる
?
!?
!!
494
?
﹂
﹁そうよ 今回はシロウが何とかしたけど、そもそもここは人様の土地なんだからね
﹂
あなたそれ失念してたでしょう、剣吾
﹁にぃに。やりすぎはメッだよ
?
?
くわからなかったよ﹂
﹁それにしても、シロウ君に剣吾君。君たちすごいね。私達は君らが何をしているか、全
に告げた。
を下げた。アーサーさんとモリーさんは戸惑いつつも、にこやかに気にしないよう剣吾
オレとイリヤの説教、そしてシルフィの止めの一言に、剣吾はウィーズリー一家に頭
﹁⋮⋮ウィーズリー一家の皆さん、やり過ぎてすみませんでした﹂
?
?
められるようなものではない。
のだろう。だがオレ達の試合は、負け=死、の殺し合いなのだ。余り、いや、決して誉
いの決闘がどのようなものかはわからないが、正しく騎士道のように、礼節に則ったも
アーサーさんとモリーさんは手放しにオレ達を称賛するが、正直対応に困る。魔法使
﹁魔法使いの決闘とは比べ物にならない程の戦いだわ﹂
4. 試合後と書店にて
495
と、マリーとジニーがタオルを持ってこちらに近寄ってきた。因みにイリヤからは、
﹂
麻袋から取り出した水筒を既に受け取っている。
﹁はい、シロウ。汗かいたでしょ
﹁ああ、ありがとうマリー﹂
あ、どうもです、ジニーさん﹂
?
それが今回の罰だ。
!?
﹁オンドゥルルラギッタンディスカッ
﹂
後ろから剣吾の助けを求める声がしたが、無視だ無視。オレと同じ経験をするがいい。
オレはパーシーと剣吾、シルフィを置いて他の面子と共に、隠れ穴へと戻っていった。
さて、そろそろ着替えて昼食の準備をするか。
らしくなるようだ。まぁオレとしては、彼女が義理の娘になるのは吝かではないが。
おや、早速アピールか。ジニーは活発な少女らしいのだが、どうも恥ずかしいとしお
﹁い、いえ⋮⋮﹂
﹁ウェ
﹁け、剣吾さん。よければこれを使ってください⋮⋮﹂
?
496
﹁剣吾君、こっちを向きたまえ﹂
﹂
!!
な。イリヤも目を丸くしていたし。
で、だ。
気を付けてはいたんだが、オレとマリー、剣吾は発音を間違えてしまい、
﹃夜の闇横丁﹄
ノクターン
から出てしまう、煙突間の空間転移のようなものらしい。これは凛が見たら発狂ものだ
この煙突飛行、中々便利なのだが如何せん、発音が少しでも違うととんでもない場所
昼食を食べたのち、オレ達は煙突飛行という方法で、
﹃ダイアゴン横丁﹄へと向かった。
││││││││││││││││
﹁にぃにをいじめるなー
4. 試合後と書店にて
497
と呼ばれる陰湿な街道の、とある店に出てしまった。幸い店から出たときにハグリッド
と偶然出くわしたため、オレ達三人は、集合場所である﹃漏れ鍋﹄へと辿り着くことが
できた。この夜の闇横丁、どうやらダイアゴン横丁のすぐ隣に位置するらしい。
漏れ鍋に入ると、既に皆は揃っていた。客はオレ達一行以外は、今はいないらしい。
ハグリッドも休憩がてら、マスターのトムさんに紅茶を頼んでいる。と、イリヤの膝の
上のシルフィのもとに、トムさんがアイスを持っていった。あとで代金を払わねば。
そういえば、ダンブルドアから個人的な手紙が来ていたな。何でもマリーの護衛料と
して金を振り込んだとか。ご丁寧にオレ名義で金庫をつくり、鍵まで送ってきた。あと
で確認しておこう。
まぁそれはさておき。
﹂
!!
成る程な。
﹁いえいえ、子は宝ですから。子供の笑顔は、見る人を幸せにしますからね﹂
﹁すみません、わざわざ﹂
﹁ありがとう、おじちゃん
﹁はいお嬢さん、アイスクリームだよ﹂
498
これはこれは、お久し振りです、シロウさん﹂
﹁トムさん﹂
﹁おや
﹂
!!
﹁ええ、はい⋮⋮ん
すみません、今なんと
﹂
?
今、トムさんから聞き捨てならない言葉が放たれた。
?
﹁おやおや、やはりシロウさんのご息女でしたか﹂
﹁あっ、パパきたー
﹁ええ、お久し振りです﹂
?
子さんかな
﹂
⋮⋮ バ カ な。看 破 し た と い う の か
?
何 故 わ か っ た
ウ ィ ー ズ リ ー 一 家 も マ リ ー
?
?
いる。シルフィはアイスクリームに夢中になっているが。
も、イリヤでさえも、目が飛び出るのではというほどに目を見開き、顔を驚愕に染めて
?
﹁この子はシロウさんの娘さんでしょう それからあなたの後ろに立つ少年。彼は息
4. 試合後と書店にて
499
﹁⋮⋮なぜ
﹂
﹂
﹁おじちゃん、アイスクリームありがとうございました
﹂
﹁おやおや、どういたしまして。美味しかったかな
﹁うん、すっごく
子は宝、か。
を渡した。
﹂
﹂
求めてきた。オレは断る理由もないし、何より彼の厚意に感謝しているため、快くそれ
結局トムさんは代金を受け取らなかった。その代わりにと、オレが持つレシピを一品
?
!!
﹁ええ、ありがとうございます﹂
﹁ふふふ、ああ安心してください。言いふらしたりはしませんよ﹂
﹁⋮⋮やはり色々と凄い人です、あなたは﹂
﹁見た目と技量が釣り合ってませんでしたから。何となく想像はしてましたよ
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
﹁面影、ですね。あとは一年ほど前に見た、料理の手際から﹂
?
﹁それは良かった﹂
!!
?
500
Side マリー
トムさんの洞察力には本当に驚いた。まさか一目で剣吾君とシィちゃんが、シロウの
子供ってわかるなんて。みんな唖然としてたよ、勿論私も。
まぁそれはさておき、私達は再びダイアゴン横丁の喧騒に足を踏み入れた。一年前と
変わらず色とりどりで、人で賑わってる繁華街に、剣吾君に肩車してもらってるシィ
どうしたんだ、イリヤ
﹂
ちゃんは、目をキラキラと輝かせていた。
﹁ん
?
い住みやすい世界だろうな﹂
﹁ああ、それはオレも感じた。魔術師ならともかく、魔術使いにとっては、これ以上にな
﹁この世界の魔法界って、私達と違って暖かい﹂
?
﹁⋮⋮不思議ね﹂
4. 試合後と書店にて
501
502
シロウとイリヤさんが真面目な話をしているのが聞こえた。話の内容からすると、シ
結構頻繁に私が見る、一人の男の人の
ロウ達がいた世界は、物凄く物騒で排他的みたい。
もしかしてその過程であれを見たのかな
そしてこの人が人気の理由。ファンの人の会話によると、なんでもチャーミングなス
きたものだ。
書だった。この人、そしてこの人の書く本は、巷で大流行らしい。しかもとても高価と
今年の教科書、基本呪文集以外は、全てギルデロイ・ロックハートと呼ばれる人の著
も出会ったので、私達は結構な大所帯となった。
アンド・ブロッツ書店﹄へと、教科書を買いに向かった。途中でハーマイオニー一家と
ゴブリンが経営するグリンゴッツ銀行からお金を引き出し、私達は﹃フローリッシュ・
結局私は、今回もシロウに聞くことができなかった。
いうかのように、私はその質問を言葉に出せなかった。
てか、聞こうとする前に、私自身が躊躇ってしまう。まるでまだ聞くのが早い、とでも
初めて夢を見た日から何度も、シロウに男の人について聞こうと思った。でもどうし
ふとシロウの後ろ姿が、その男の人と重なった。
夢。紅い外套を纏って剣の丘に独り立つ、悲しい男の人の記憶のようなものの。
?
マイルが素敵なんだとか。私はそうは思わないけど。ハーマイオニーもジニーも、胡散
臭げだった。
それに正直変な感じがする。この人、笑顔は仮面を張り付けたような感じで、その裏
には汚いものが隠れてそう。加えて一冊手に取ったけど、中身はスカスカ、まるで他人
の手柄を自分のもののように語る、いわゆるペテン師の香りがした。
﹂
その事をシロウとイリヤさんに言うと、二人とも感心するような目を私に向けた。
﹁シロウ、この子将来有望なんじゃない
マリー
﹂
﹂
﹁そう。シロウがそこまで言うということは、いい想いと答えを持っているのね。ねぇ
﹃力﹄について、充分過ぎるほどの答えを持っているしな﹂
﹁ああ。本人に自覚はないが、人としても、魔法使いとしてもいい人間になる。加えて
?
﹁はい
﹂
無くさないようにね
!!
﹂
るということは、それが本当に素晴らしいものだという証よ。だから、努々その想いを
﹁私は、あなたがどんな想いを持っているかわからない。でもシロウが手放しに称賛す
?
?
﹁はい、何でしょう
4. 試合後と書店にて
503
?
どうやらシロウの奥さんに認められたみたい。何だろう
すっごく嬉しい。
?
うとした。
?
﹁⋮⋮もしや、マリナ・ポッターでは
﹂
ら、意気揚々と出てきた。私達は興味がなかったため、さっさと退散した。いや、しよ
人が登場し、サイン会をするようだ。ロックハートは仮面のような笑顔を振り撒きなが
すると突然、書店の中で黄色い歓声が上がった。何でもギルデロイ・ロックハート本
か。
て二人を止めようとしたけど、逆に押し込められていた。曰く、
﹁宿代と性分﹂なんだと
んは、なんとシロウとイリヤさんが出費した。アーサーさんとモリーさんは驚き、慌て
その後、私とハーマイオニーは自分で教科書を購入したけど、ウィーズリー一家のぶ
イリヤさんが何か言ってたけど、声が小さくてよく聞こえなかった。まぁいっか。
﹁うーん、この子なら四人目になっても私はOKかな﹂
504
ロックハートがそう一言発すると、私は誰かに強い力で腕を引っ張られた。そしてシ
ロウ達から引き離された。誰が引っ張っているか見ると、カメラを構えた小柄な人だっ
離してください
﹂
﹂
﹂
た。気がつけば私の回りは人で囲まれていた。
﹁ッ
﹁いやです、離して
﹁日刊予言者新聞、一面大見出し記事ですぞ
!!
﹁さぁこちらへ
﹂
一緒に写真を撮ろう
﹁いやです、離して
﹂
﹂
!!
さぁ、さぁ
!!
!!
!!
力を込めて抵抗した。なんとロックハート本人も私を引っ張っていたのだ。
暫く抵抗していると、誰かもう一人私の腕を掴んできた。目だけ向けると、私は更に
ましげな目を私に向けていた。全く羨ましい状況ではない。
んで、ペテン師と写真を撮られなければならないのか。周りの人も私を助けず、逆に羨
強い力で引っ張る人に、私は必死で抵抗した。記事なんてとんでもない。誰が好き好
!!
!!
!!
﹁そう恥ずかしがらないで
!!
4. 試合後と書店にて
505
﹁いや
﹂
﹂
お願い、離s⋮⋮﹁﹁おい︵ちょっと︶
!!
﹁何でしょうか、マダム
!!
﹂﹂⋮⋮ッ
!!
シロウ
!!
イリヤさん
!!
ろに回った。少しだけ落ち着いたので、改めて周りを見渡した。
シロウとイリヤさんの気迫に、カメラマンは私の腕を離した。私は急いでシロウの後
﹁﹁離せ︵離しなさい︶﹂﹂
﹁いや、しかし記事の写真が⋮⋮﹂
﹁先ずは彼女の腕を離せ﹂
でもエミヤ一家、シィちゃんまでもが、ロックハートに対して冷たい目を向けていた。
大多数の魔女はロックハートの仮面にメロメロになっていた。
直った。シロウの目が少しだけ険しくなった。周りを取り囲んでいた魔法使いのうち、
イリヤさんを見たロックハートは、仮面のような笑顔を張り付け、イリヤさんに向き
待たせているらしい。
私達がジタバタしてるところに、エミヤ一家がやって来た。ウィーズリー一家は外に
?
506
何人かの魔法使い魔女たちは、シロウとイリヤさんに釘付けになっていた。顔を青く
﹂
﹂
して震えてる人もいる。ロックハートは気がついていないようだけど。
﹂
﹁いったいどうされたのですか、マダムにミスター
﹂
単に恥ずかしかっただけでしょう
マリー
﹂﹂﹂
まさか
﹁あなた、この子が嫌がっていたのがわからないの
﹁嫌がる
﹁﹁﹁⋮⋮は
﹁そうでしょう
?
がりと済ませるだろう。
﹁ほらほらお嬢さんも、そんな怖い顔を﹁キライッ
﹂⋮⋮はい
﹂
?
絶し、私にしがみついてきた。シロウとイリヤさん、剣吾君の纏う空気が更に冷たく
ロックハートは今度はシィちゃんに話しかけた。でも言葉の途中でシィちゃんは拒
!!
何を言っても、自分に都合の良いようにしか解釈しない。恐らく私の無視も、恥ずかし
ロックハートは馴れ馴れしく﹁マリー﹂と呼んできた。だから私は無視した。この男、
?
?
?
?
?
?
?
4. 試合後と書店にて
507
なった。
﹂
このウソつきの
!!
﹂⋮⋮え
﹁何を言って⋮⋮﹁シィこのひとキライッ マーちゃんいじめる
ひと、シィだいっきらい
?
たくないのか、私にしがみついて離れない。顔も足に抑えつけてる。
﹁そんな恥ずかしがらないで﹁それ以上この子に近づくな⋮⋮﹂⋮⋮ひっ
!?
いったい何に怒っているのですか
﹂
外に運び出されている人もいる。それほどまでに、三人は怒っていた。
﹁み、ミスター
?
この期に及んで、まだシロウ達が怒る理由がわからないらしい。この人馬鹿なの
?
?
シロウもため息を一つついた。
ようやくシロウとイリヤさん、剣吾君の殺気に気がついたようだ。目を回して倒れ、
﹂
人懐っこいシィちゃんがこれ程嫌うとは、余程のことなのだろう。その証拠に顔も見
!!
!!
508
な応対をしているのが気になった程度で、その日はそれ以上何も起こらなかった。
その後、薬問屋でマルフォイ父子と出くわしたけど、マルフォイ父がシロウ達に丁寧
エミヤ一家は軽蔑した目でロックハートを一瞥し、私を連れて書店の外へと出た。
﹁⋮⋮わからないか。ならその程度の人間、ということだ。みんな、行こう﹂
4. 試合後と書店にて
509
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
Side マリー
それから数日は何も起こることがなく、私とシロウはシィちゃんの相手をしながら、
ジニーを見習いなよ。
ロンの宿題とジニーの予習を手伝った。ロン、休みの終盤に焦るなら初めからやっとこ
うね
そして勉強以外も何も事件は起こらず、シロウが剣吾君の帽子を取り上げたり、
?
﹂
それ俺の∼⋮⋮﹂
﹁何か言ったか
!!
﹁うそーん⋮⋮﹂
﹁はいはい。これはお預かりね﹂
﹁だろうな。イリヤ、これを頼む﹂
﹁いえ、何も言ってません﹂
?
﹁おぁっ
﹁まったく、お前はまた帽子を被って。お前にはまだ早い﹂
510
﹂
シロウがシィちゃんのボディープレス、﹃トペ・アインツベルン・パート2﹄をくらっ
﹂
て悶絶することになったり、
どーん
!!
星が見えたスターッ
﹁パパー
﹁星
!?
!!
あ、ジニーさん。どうしたの
﹂
突っかかられて皆から白い目で見られたり、
﹁ウェイ
﹁え
あ、どうもありがとう。美味しそうだね﹂
﹁ええっと⋮⋮こ、このクッキー良かったらどうぞッ
?
ないはずだけど⋮⋮﹂
﹁あ、行っちゃった。俺避けられてる でもクッキー貰えるってことは嫌われてはい
!!
?
﹁い、いえ⋮⋮﹂
?
﹂
剣吾君にジニーがアピールして、その都度パーシーが過剰に反応してシィちゃんに
!?
﹁あ、あの⋮⋮﹂
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
511
?
︵;OwO︶ パ、パーシーザン
﹁逃げるべし
﹁待ちたまえ
﹂
﹂
﹁にぃにをいじめるなー
﹂
﹂
﹂
ナ、ナズェミテルンディス
?
を受けたり、
母さん
﹂
﹁アハハハ、剣吾。何してるのかな
﹁げっ
にぃには
﹂
?
一緒に探そうか
﹂
﹂
﹁あ、あああ、ああぁぁぁああああああ⋮⋮
﹂
﹁ちょ∼っとお母さんとO☆HA☆NA☆SHI☆しましょうか
!?
?
?
﹁あれ
﹁どこだろうね
?
!?
?
!?
?
﹂
﹂
フレッドとジョージの悪戯に剣吾君が参加して、イリヤさんにバレて一時間以上折檻
!?
﹁けーんーごークーン⋮⋮ジニーに何したのかな⋮⋮
﹁ウェイ
?
﹁聞かせてもらおうか⋮⋮ジニーに何をしたぁ
!?
﹁﹁﹁﹁⋮⋮パーシーは馬に蹴られるといいよ﹂﹂﹂﹂
!!
!! !!
!!
512
﹁うん
マーちゃんとさがす
﹂
!!
﹁ん
そうかね
?
﹂
﹁すみません、カートが言うことを聞かなくて﹂
?
﹂
てて横に倒れてしまった。周りの人達の視線が痛い⋮⋮。
けど何故か柱に阻まれてしまった。私の荷物を乗せたカートは柱にぶつかり、音をた
した。
と向かった。ウィーズリー一家を先行させて、続けて私とシロウの順番で柱を通ろうと
九月一日、私達はキングスクロス駅からホグワーツ特急へと乗るために、目的の柱へ
も優しい表情でそれを眺めていた。
紅いネックレスはシロウが身に付けていたけど、余程大事なものなんだろう、とって
もう一つ別のネックレスを渡していた。
き、剣吾君がシロウに綺麗な紅い宝石と、同じく紅い宝石のついたネックレス、そして
そしてイリヤさん達は、新年度か始まる前日に元の世界へと帰っていった。そのと
といったふうに、何事もなく平穏無事に過ぎていった。
!!
﹁君たち、何をしているんだ
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
513
?
一応出発までまだ時間はあるから、それまでに解決すれば大丈夫
近くにいた車掌さんから話しかけられたけど、何とか誤魔化した。いったいどうして
通れないんだろう
だろうけど。
﹂
?
﹁シロウ
何してるの
ゾット剣を中心にして広がった。
ながら地面に差し込み、何やらブツブツと呟いた。すると何か膜のようなものが、ア
私がそう考えていると、シロウがアゾット剣を取りだし、周りから見えないようにし
?
ルレッチさんの短剣のような神々しいものではなく、禍々しい輝きだった。
その短剣は刃の部分が歪な形をしていて、且つ虹色の光沢を放っていた。ただし、ゼ
暫くするとシロウは手を離し、変わりに変な短剣を取り出した。
今回は辛そうな顔はしていない。
じく、シロウの手を中心にして、淡い緑色の線が蜘蛛の巣のように、柱一面に広がった。
シロウはそう言うと、片手を柱に当てて目を閉じた。すると一年前のホグワーツと同
﹁認識阻害、及び遮音結界だ。少し待ってろ﹂
?
514
シロウは慎重にその短剣を、柱のある一点に触れさせると、パキンッと何かが割れる
ような音が小さく鳴った。
きたものだ。一応夫妻には警告し、何かしら手を打つことで理解はしてもらった。無
それにジニーの荷物に、魂憑道具の類いが紛れ込んでいた。しかも怨霊悪霊の類いと
だろう。
あれが仕掛けた術式だけを解呪することはできたが、ホグワーツでも色々とやって来る
何かしてくるとは思っていたが。あの下僕妖精、やはり妨害してきたか。とりあえず
Side シロウ
シロウはホッとしたような表情を浮かべ、私を連れて柱へと入った。
﹁これでよし。妨害していたものだけを解除した。他のに触れなくて良かった﹂
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
515
論、納得はしてもらってないが。
だが得体の知れないものである以上、こちらからも手出ししようがないということ
は、夫妻もわかっているらしい。娘を頼むと二人から頼まれた。
そのようなことがあったあと、俺とマリーは、ロンとハーマイオニー、ジニーと同じ
コンパートメントに座り、昼食を摂っていた。無論昼食はモリーさんの作ったサンド
ウィッチである。
﹂
﹂
﹂
昼食を食べ終わり、皆でデザートを食べているとき、ハーマイオニーがオレに質問し
てきた。
どうした
﹁ねぇシロウ。聞いていい
﹁うん
﹁何でマルフォイのお父さん、ルシウスさんはシロウとイリヤさんに丁寧だったの
?
ていた。
オニーも、漏れ鍋でオレ達の関係について説明している。流石の彼女も声をあげて驚い
ハーマイオニーは、薬問屋での一件について気になっていたようだ。因みにハーマイ
?
?
?
516
﹂﹂﹂﹂
﹁ああ、恐らく姓名を聞いたからだろう﹂
﹁﹁﹁﹁名前
が貴族だったことの証なのだ﹂
てことは言い方が悪いけど、没落したってこと
﹂
﹁ああ、イリヤの名字に﹃フォン﹄というのが入っているだろう
﹁昔
?
あれはその昔、自分
?
?
族の家督は長男が受け継ぐだろう
?
オレの返答に、皆得心がついた表情を浮かべた。っと、そうだ。
﹁﹁﹁﹁へぇ∼﹂﹂﹂﹂
ではあるまいよ﹂
﹁そういうことだ。マルフォイ家は魔法界の貴族。そういった話を知っていても不思議
﹁で、自分が貴族出身であると証明するために、そういったミドルを設けたのね﹂
たら追い出されたのだ。土地を分けられたりしてな﹂
﹁だが兄弟姉妹が生まれることもある。今はどうか知らないが、昔は長男以外は成人し
﹁確かに﹂
﹂
﹁いや、そうではない。この﹃フォン﹄とかは所謂分家筋の証明だ。今でもそうだが、貴
?
﹁そうね﹂
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
517
?
﹁⋮⋮へっ
﹂
﹁ああそれと、それは剣吾が作ったものだぞ﹂
﹁へぇー、ありがとうございます﹂
﹁効果はマリーが実証済みだ﹂
がロンのお守りを見たとき、若干嬉しそうにしていたが、無視した。
オレがそう言うと、三人はそれぞれ自分のお守りをジニーに見せた。ハーマイオニー
マイオニーも同じようなものを持ってるぞ﹂
﹁お守り、護 符のようなものだ。呪詛返し、魂憑防御の力がある。マリーもロンも、ハー
タリスマン
﹁シロウさん、これは
﹂
ソードの形をしており、柄頭には黄色い宝石がはまっている。
オレは懐からネックレスを取りだし、ジニーに渡した。ネックレスは西洋のロング
﹁ジニー、君にこれを渡そう﹂
518
?
﹁今度は会ったらお礼を言っておけ﹂
オレの発言にジニーは顔を真っ赤にし、両手で顔を覆ってアウアウ言っていた。う
む、良いことをした。マリーとハーマイオニーはそんな彼女に生暖かい視線をむけ、ロ
ンは我関せずとばかりに菓子を食っていた。
﹂
パーシーよ、ここら辺ロンを見習ったほうがいいぞ
﹁ちょっと俺達の席に来てくれないか
?
?
﹁これは
﹂
があった。
フレッドとジョージのコンパートメントの机には、大きな盆とそれに乗った多量の砂
ジの席に向かった。
せたいものがあるらしい。オレは皆をコンパートメントに残し、一人フレッドとジョー
そのとき、フレッドとジョージがオレ達のコンパートメントに来た。何でもオレに見
?
﹁なあなあシロウ﹂
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
519
﹁﹁まぁ見てろって﹂﹂
双子はそう言うと、杖を掲げてブツブツと呟き始めた。すると盆に淡い青色の光の線
﹂
が走り、砂を取り囲んだ。そして線は複雑に絡み合い、一つの陣を形成し始め⋮⋮って、
おい。
﹁まさか
﹂﹂
!!
﹁いずれはもっと凄いのを作るぜ﹂
﹁今はこんぐらいしかできないけど﹂
ゴーレムは片腕を上げ下げしていたが、数秒で元の砂に戻った。
双子の声と共に、盆の上には高さ10cm程のゴーレムが出来上がっていた。その
﹁﹁砂のゴーレムの出来上がりってな
﹁まだ形も歪だし、大して動かせないけど﹂
﹁ああ、剣吾に教えてもらってな﹂
?
520
凄い。
何が凄いかって、オレ達の世界の術式を、自分達用に応用する力が凄い。彼らはテス
トの点数が悪いとモリーさんは嘆いていた。なんてことはない。彼らにとって、勉学は
簡単すぎてやる気が起きないだけなのだ。彼らは天才的な頭脳を確実に有している。
﹂
?
﹂﹂
!?
﹂﹂
!!
﹂﹂
!!
め、オレは自分のコンパートメントへと戻った。
まったく、とんでもなく良い収穫だ。だが余り人前で使わないように彼らに言い含
﹁﹁いょっしゃああああッ
﹁ホグワーツに着いたらな﹂
﹁﹁是非教えてくれ
﹁ああ、使い魔の魔術だ。お前たちならそれを使えるかもしれん﹂
﹁﹁マジで
﹁ふむ、成る程。ならばオレからも一つ、教えようか
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
521
522
│││││││││││││││
マリーたちには
ホグワーツに到着し、オレ達は奇妙な四足の生き物がひく馬車に揺られ、一年生とは
別に城へと向かった。それにしてもこの生き物、いったい何なのだ
見えていないみたいだが⋮⋮
向け⋮⋮オレは顔を思わずしかめた。
そのまま食事は終わり、新年度開始の校長の挨拶となった。改めて視線を広間の前に
だけをオレに向け、小さく頷いた。話が早くて助かる。
ようで、両隣に座るマグゴナガルとスネイプに、二言三言耳打ちした。二人は一度視線
彼もこちらに気がついたので、オレはアイコンタクトをとった。ダンブルドアも察した
食事の途中、オレは教職員用テーブルの中央に座るダンブルドアに、視線を向けた。
大広間につき、組分けもジニーが無事グリフィンドールに決まり、宴となった。
?
スネイプの隣の防衛術教員の席に、ロックハートが座っていた。
スネイプは物凄く嫌そうな顔をしている。他の教職員も、余り良い顔はしていない。
何人かの女生徒は、彼の仮面にうっとりとしているが、オレと近しい者達は、皆大なり
小なり顔をしかめている。マリーに至っては、オレの陰に然り気無く隠れようと必死
だ。
それからは地獄だった。
聞きたくもない奴の話が長々と続き、最早話を聞いてるのは奴のファンだけだ。あと
は真面目な子らか。ハーマイオニーは嫌そうな顔をしつつも、奴の話を聞いていた。
ようやく話も終わり、各自寮に向かうことになったが、オレはパーシーに一言告げ、入
寮のための合言葉を教えてもらい、校長室へと向かった。石像の前で暫く待っている
と、ダンブルドアとマグゴナガル、スネイプの三人がやってきた。
﹂
場所は校長室内へと移り、オレはダンブルドアが座るデスクの前に立った。他の二人
は、彼の両隣に立っている。
﹁先ずは急なお呼び立て、申し訳ありません﹂
﹁よいよい﹂
﹁貴方から話すということは、余程のことなのでしょう
?
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
523
﹁早速本題に入ろう﹂
やはりこの三人は素晴らしい。
﹂
?
﹂
?
﹁こちらも注意を払っておきましょう、セブルス﹂
での最善の判断だ﹂
﹁いや、護符をつけるだけでも随分と違う。エミヤの判断は間違ってはおらん。現時点
﹁ええ。一応護符は渡していますが、果たしてどれ程効果があるか⋮⋮﹂
アは一人、考え込むような顔をした。
オレの報告に、三人は少しだけ表情を変えた。が、すぐにもとに戻した。ダンブルド
﹁それは真かの
ることは間違いありません﹂
﹁解析をかけましたが、今一読み取れませんでした。ですが、強力な悪霊怨霊が憑いてい
﹁それはどれ程の
﹁はい。ではまず、ジニー・ウィーズリーの荷物の中に、魂憑の物が紛れています﹂
524
﹁無論です﹂
やはり報告して間違いではなかったな。この三人が警戒するのなら、最悪の事態は避
けられるやもしれん。一応これも渡しておこう。
﹁ほっ
これは
﹂
﹂
﹁鋼の⋮⋮鳥ですか
?
﹂
?
﹁﹁﹁うむ︵ええ︶﹂﹂﹂
﹁ええ、ですので取り扱いには注意を﹂
流石はスネイプだ、鋭い。
﹁材質は⋮⋮剣か
﹁ほうほう、これは便利じゃのう﹂
うことができます。勿論、私も所持しております﹂
﹁私の使い魔です。杖を向け、念じるだけで使えます。急な連絡などは、この鳥の間で行
?
?
﹁皆さんにはこれを﹂
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
525
ダンブルドアは机上に鳥を置き、あとの二人はローブの袖口に入れた。
﹂
?
﹁何ですって
﹂
﹂
?
二人はそう言い、校長室を後にした。行動も早いな。それにこの城と外回りをそれぞ
﹁我輩は城の外回りを﹂
﹁では私は城内の防衛強化をします﹂
﹁﹁わかりました﹂﹂
頼んでもよいか
﹁相わかった。もしものことを思い、警戒を強化しよう。セブルス、マグゴナガル先生、
い、曖昧な状況です﹂
﹁魂憑きといい、警告といい、関係ないとは言えません。同時に関係しているとも言えな
?
起こると﹂
﹁夏休み中、とある下僕妖精が警告をしてきました。今年、ホグワーツで恐ろしいことが
﹁ふむ、なんじゃ
﹁それからもう一つ﹂
526
れ一人でやるとは、二人とも魔法使いとして相当の実力者なのだろう。そしてその更に
上にたつのがダンブルドアか。果たして彼の実力はどれ程なのだろうな。
実力といえば、だ。
﹁⋮⋮校長先生﹂
﹁今はわし等しかおらん。楽にして良い﹂
﹂
?
に就きたがらなんだ。彼以外のう﹂
?
﹁うむ﹂
﹁成る程な。で、結局奴か﹂
難しい気がしての﹂
﹁少し彼には辛抱させとる。セブルスは実力は申し分ないのじゃがのう、少し生徒には
﹁他にいないし、仕方なく奴を雇ったのか。スネイプ教授はダメなのか
﹂
﹁君の言いたいことはわかるよ。じゃが去年のようなことがあったからか、誰もこの職
二人が出ていって暫くして、疑問に思ったことをオレはダンブルドアに聞いた。
﹁ではお言葉に甘えさせていただく。防衛術の教師だが、他に人選はなかったのか
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
527
﹁世知辛いな﹂
﹁ピクシー
悪戯好きの小妖精か
﹂
﹁いかにも。悪いが灸を据えてやってくれぬか
?
﹂
?
﹂
?
ならば寮の点数には響かないな。
﹂
ど う や ら 城 の 防 御 強 化 は 粗 方 終 わ っ た よ う だ。し か し マ グ ゴ ナ ガ ル が 許 可 す る の か。
そ こ へ 仕 事 が 終 わ っ た マ グ ゴ ナ ガ ル が 再 び 入 っ て き た。後 ろ に は ス ネ イ プ も い る。
﹁む
﹁構いませんよ
﹁私としては構わんが⋮⋮マグゴナガル教授が何と言うか﹂
?
?
﹁確かピクシーを持ち込むというように報告がある﹂
﹁一番目から奴か⋮⋮急激にやる気が無くなる﹂
目は⋮⋮ああ。
二人して大きな溜め息をつき、温くなった紅茶を煽った。そういえば明日の授業一発
﹁まったくじゃ﹂
528
﹁ええ、私は構いません﹂
﹁我輩もだ﹂
﹁⋮⋮わかりました。ではそのように﹂
さて教職員三名、その中でも校長と副校長から許可をもらったのだ。ならばできる範
囲で手加減はしない。
﹁うむ⋮⋮ほっ
﹁⋮⋮あ︵汗︶﹂
妻
娘
﹂
?
つい言ってしまった
三人の中では、オレは12歳という設定のはず
し、しまったぁぁぁぁぁあああああ
い
不味い、非常に不味
!!
?
﹁⋮⋮やはりその実は大人でしたか﹂
!!
﹁まぁ想像はしていたのう﹂
!!
!?
?
﹁では明日はそうします。奴め、オレの妻と娘にまで手を出そうとしやがって﹂ 5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
529
﹁子供がいるとは思ってはいなかったが﹂
まさか三人ともオレが子供でないと予測ずみ
嘘だろ
?
え
?
ければ弄られると⋮⋮
イリヤと凛に通じるものがあるのだ。オレの本能が警鐘を鳴らしている。早く逃げな
何がヤバイかというと、今のダンブルドアの顔は、オレを弄るネタを見つけたときの
ヤバイ。
ダンブルドアの目がキラッと光った。
﹁ほほう、子持ちのう﹂
?
﹂
!?
結局オレはイリヤと凛、桜のことを話す羽目になった。そして彼女等との間にできた
思わず昔の口癖が出てしまった。
﹁なんでさ
﹁聞かせてもらおうかのう。老人は楽しい話が好きなのでな﹂
!!
530
が子供達の話も。流石に妻が三人いることには驚いていたが、何故か皆納得していた。
なんかそれはそれで複雑だ。
オレは色々な意味で疲れはて、寮の部屋に着くと級友と話すこともなく、着替えずに
ベットに入り、深く寝入った。
しかしスネイプ。まさか年下だったとは驚きだ。
︵スネイプは二巻時点で推定年齢33∼35、本作シロウは現時点で精神年齢39です︶
5. 汽車内の会話と才能の片鱗、そして報告
531
なんて考えていると、教室の前の方から黄色い歓声があがった。どうやらロックハー
が多い気がしないでもない。
授業はレイブンクローとの合同である。どうでも良いけど、レイブンクローって女の子
の席は、ファンの女の子達が集まっている。本当にキャイキャイと五月蝿いな。因みに
私とシロウ、ロンにハーマイオニーは教室の後ろの席に座り、始業を待った。前の方
ほうがよっぽどマシである。
正直全く期待していない。彼の授業を受けるなら、フィルチさんと校内全てを清掃する
まぁそれは兎も角、二年次授業一発目である﹃闇の魔術に対する防衛術﹄に関しては、
鱈に写真を撮るのはやめて欲しいかな。本人には悪気ないのはわかるんだけどね。 とき、コリンって子がカメラを手に挨拶をしてきた。基本良い子とは思うんだけど、矢
明くる朝。朝食を終わらせ、気の進まない一時限目へと向かった。そう言えば朝食の
Side マリー
6. 岩の心の初授業
532
トが出てきたようだ。
皆さんに会えて嬉しいですよ
﹂
今年からここホグワーツで﹃闇の魔術に対する防衛術﹄を教える
ことになった、ギルデロイ・ロックハートです
﹁初めまして皆さん
?
子生徒。本当に下らない。
﹁では授業を始める前にテストを。時間は十分、それでは始め
!!
○, ギルデロイ・ロックハートが誕生日に貰って嬉しいものは
ことは
﹄
○, ギルデロイ・ロックハートが今まで成したことで、あなたが最も偉大だと思った
?
?
たくなった。机にヘッドバンキングしなかった自分を褒めたい。テスト曰く、
自動的に配られた羊皮紙を受け取り、表へ返して⋮⋮私はその羊皮紙を即座に燃やし
﹂
案の定仮面の様なスマイルで得意気に語るロックハート。そしてそれにヤられる女
!!
!!
﹃○, ギルデロイ・ロックハートの好きな色は
6. 岩の心の初授業
533
?
こんなのが100問も続くのだ。燃やしたくなる私の気持ちも解るだろう。
時間の無駄以外の何でもないので私は別の羊皮紙を取り出し、スタミナを付けるのに
良さそうな、そして健康に良さそうな食材をピックアップしていった。
なんでも従兄のダドリーがボクシングを始めるみたい。手紙が珍しく届いたし、しか
も本人直筆の。なら折角打ち込めるモノを見つけた従兄をサポートしたい、という気持
ちが湧くのも不思議ではない。
私は自分の作業をしつつ、隣に座るシロウの回答を盗み見た。そして思わず吹き出し
そうになった。曰く、
などなど。いやはや、容赦ないですねシロウさん。
ことは成る程、確かに偉業である﹄
○, 人の妻と娘に色目を使い、精神的に咎められたにも関わらず、それを反省しない
○, 嘘。
﹃○, 嘘。
534
﹁時間です
それでは回収します﹂
それに目を通し始めた。 ロックハートの声と共に、テスト用紙は自動的に回収された。そしてロックハートは
!!
目な顔をした。
を教卓の上に置いた。籠はガタガタと揺れている。そしてロックハートは珍しく真面
案の定私たちの机はスルーし、一通りテストのチェックを済ませると、布を被せた籠
るだろうけど。
ウの筆跡だ。ロックハートの笑顔が引き吊ってる。自業自得だね、まぁたぶんスルーす
フムフムと値踏みするように羊皮紙を点検し、ある一枚で止まった。あっ、あれシロ
た。どうやら列毎に点検しているらしく、ついに私たちの机へと来た。
ロックハートは教室の中をグルグルと歩き回りながら、テストの回答を吟味してい
うだ﹂
どの書物に書いていたのに。﹃狼男との大いなる山歩き﹄を読む必要がある子もいるよ
﹁ちっちっちっ。皆さん勉強不足ですね。私の好きな色はライラックだと、あれほど殆
6. 岩の心の初授業
535
﹂
君達に降りかかる火の粉を払う手段を教えるのが、私の役目です。
例えば、こんなのとかね
!!
何してるの
ああ、これから騒動起きるかもしれんからな。その対策準備だ。
┃┃ シロウ
?
┃┃ うん、なに
┃┃ いや、これは違う。今回は燃やさないよ。少し頼まれていいか
┃┃ また燃えるの
?
┃┃ オレが動いたら、ロンとハーマイオニーと共に、教室の全ての窓と扉を閉めて
?
?
?
┃┃ ん
?
を燃やすときに使ったのと同じもの。
その手にはアンバランスな剣が一本握られていた。確かあれは、数ヶ月前に﹃悪魔の罠﹄
ふとカチャリという小さな音が、隣から聞こえた。気になってシロウの方を見ると、
で騒いでいる。
小悪魔のような小さな生き物が、何十匹も入って暴れていた。籠から出せとキィキィ声
ロックハートはそう言って籠の布を取っ払った。籠の中には青色をした、妖精の様な
!!
﹁さぁ気を付けて
536
くれ。鍵までしっかりと。
┃┃ うん、わかった。
シロウと念話で話した内容を、ロンとハーマイオニーにも筆談で伝えた。二人ともそ
﹂
れを快く了承した。その間にもロックハートの話は進む。
﹁コーンウォール地方のピクシー小妖精
かった。
シ ェ ー マ ス が 妖 精 を 見 て 笑 っ て い た。し か し ロ ッ ク ハ ー ト は 真 面 目 な 顔 を 崩 さ な
?
下になった。
けたけど、次の行動でそれが帳消しになり、私のロックハートに対する評価はどん底以
へぇ。馬鹿とは思っていたけど、たまにはマトモなことを言うんだね。一瞬見直しか
見た目に騙されないほうがいい﹂
﹁笑えるのは今だけだよフィネガン君。コイツらは見てくれは小さいが、中々に凶悪だ。
6. 岩の心の初授業
537
﹁さて、では見せてもらいましょう。君達のお手並みをね
に向かい、言われたように鍵まで閉めた。
﹂
﹁ほらほら捕まえてみなさい。たかがピクシーなんでしょう
﹂
て教室に放出された。シロウが動いたのはそれと同時だった。私たちは急いで扉と窓
ロックハートはそう言うと、突然籠の扉を開けた。果たして、籠の中のピクシーは全
!!
﹂
!!
ロックハートは呪文を唱えたけど、なにも起こらなかった。それどころか、ピクシー
﹁﹃ピクシー虫よ、去れ﹄
ペ ス キ ピ ク シ ペ ス テ ル ノ ミ
流石に不味いと思ったのか、ロックハートは杖を取り出した。
り上げられる事態が起こった。
好き放題だ。もう大混乱だった。その中でネビルがピクシーに耳を引っ張られ、宙に吊
教室の中ではピクシーが大暴れし、生徒達の教材を破ったり、インク瓶を割ったりと
?
538
に杖を取り上げられてしまい、自分の事務室に逃げ込もうとした。でもそれは叶わな
かった。
全ての窓を閉めたシロウが、例の剣を投擲してロックハートのすぐそばに突き刺し
た。偶然かどうかはわからないけど、その剣はロックハートの影に刺さっており、ロッ
シロウの髪がオールバックになってる。
クハートはバランスの悪そうな体制で動きを止められていた。
気のせいだろうか
﹁こ、これはいったい
﹂
?
!?
暫くピクピクと痙攣していたけど、やがて霧散した。
徒たちも、皆一様にシロウを見ている。教卓の上に切り捨てられたピクシーの死骸は、
途端、教室の中が冷水を打ったかのように、しんと静まり返った。ピクシーたちも生
た。
ゾット剣で切り捨てた。そのとき出たピクシーの青い血が、シロウの顔に少しかかっ
シロウは低い声でそう言うと、すぐ近くにいたピクシーを一匹、何の躊躇もなくア
結果を﹂
﹁﹃影縛り﹄。まさかここで役に立つとはな。お前はそのまま見ていろ。お前の不始末の
6. 岩の心の初授業
539
540
それが合図になった。
教室にいる全てのピクシーが、奇声をあげながらシロウに殺到した。でもシロウは意
に介することもなく、殺すたびに血を浴びながら、ピクシーを次々に屠っていった。
あるピクシーは首を分断され、あるピクシーは脳天から縦に切り割られ、あるピク
シーは首から下を潰され、あるピクシーは顎から上が潰れた。一分も経つことなく、教
室のピクシーは一匹を残して全滅した。
残り一匹のピクシーは、恐怖に駈られて逃げ出そうとしたけど、すぐにシロウに刺さ
れて絶命した。そのときアゾット剣の刃先は、ロックハートの眉間から僅か2cmのと
ころにあり、ロックハートはその一匹のピクシーの血を、その顔に浴びていた。
ロックハートは顔面蒼白になっていた。シロウは無言で血の付いた刃を拭うと、ロッ
クハートの影に刺さっている剣を抜いた。そしてそのまま教室の窓と扉をあけ、教室か
ら出ていった。私とロン、ハーマイオニーも荷物を纏めて教室から出た。
その日を境に、ホグワーツ内のファンからのシロウの評価は、駄々下がりとなった。
曰く、
現実をみようよ。
があるかどうかは知らないけど、自分だけ逃げようとした人をよく庇えるね。もう少し
などなど。冷たい視線をその身に受けることになった。いやね、ロックハートに実力
ロックハート様の顔に泥を塗った﹂
ギルデロイ・ロックハートの授業を潰した。
﹁ギルデロイ・ロックハートの授業で調子にのった。
6. 岩の心の初授業
541
だとしたらドン引きだ。
?
もしかし
?
ここで問題が起こった。
た。どうやらマルフォイの父親が購入したみたい。
て。しかもスリザリン選手の全員が最新最速の箒、﹃ニンバス二〇〇一﹄を所有してい
それにしても驚いた。まさかマルフォイがスリザリンのシーカーになっていたなん
まぁそれは兎も角。
てロックハートって変態さん
る。もしかしてロックハート、態とシロウから説教を受けようとしてるの
て、その都度シロウに沈黙させられていた。しかも授業のあとに毎回説教を受けてい
因みに防衛術の授業は、ロックハートが何度も本の内容を元にした寸劇をやろうとし
ションの確認をしたりと、毎日勉学以外でも忙しい。
ンドールチームのシーカーなので、放課後にチームメイトと練習したり、フォーメー
ハロウィンが近づくと同時に、クィディッチシーズンも近づいていた。私はグリフィ
7. ハロウィン夜、危険の始まり
542
7. ハロウィン夜、危険の始まり
543
マルフォイは金の力でチームに入ったのだろう。ハーマイオニーがそれについて、グ
リフィンドール選手は才能で選ばれていると反論した。そこでマルフォイはハーマイ
オニーに、
﹃穢れた血﹄と罵った。﹃穢れた血﹄とは、魔法族の血がない、純粋なマグル
から生まれた魔法使いに対する、最低な侮辱だ。
その侮辱を聞いた私たちグリフィンドール選手は、全員が杖を取り出そうとした。で
も瞬きしたときには、目の前からマルフォイは消えていた。
一瞬だった。
マルフォイの姿が消えたと思ったら、シロウによって壁に押し付けられていた。その
方向にいち早く目を向けたのは、夏休みにシロウの動きを見た人たちだけで、他の人は
何が起こったかわかっていなかった。
マルフォイは顔面蒼白になって、シロウに命乞いをしていた。シロウの顔には表情が
考えたくもない。
なかった。それほどにシロウは怒っていた。そのときマグゴナガル先生が駆けつけな
かったら、マルフォイはどうなってただろう
が重かったけど。
憶に新しい。マルフォイもシロウも罰則を受けていた。ただ、マルフォイの罰則のほう
クィディッチの今年初練習の日は、そのまま練習をせずにお開きになったことは、記
?
でもそんな嫌なことばかりではない。
なんと私に新しい家族ができたのだ。その生き物は、ハグリッドが偶々森で見つけて
保護したらしい。でも今まで見たことも聞いたこともない生き物だった。博識のマグ
ゴナガル先生やスネイプ先生、ダンブルドア先生でさえ知らない生物。どういうわけ
か、私になついてしまったので、ならいっそのことペットにしようということになった。
で、その生き物はというと、
ものに決められた。そして付いた名前が﹃ハネジロー﹄。因みに他の候補は、
﹃パム︵b
名前は私とロン、ハーマイオニーにシロウの四人が候補を出し、この子が気に入った
てことで家族になった。
みたら、なんと人間の8歳知能は普通に有していて、これならペットという扱いは、っ
そして驚きなのが、私たちの言葉を理解、応答が出来る高スペック。一度テストして
な尻尾。
な耳に大きな青い目。パタパタと羽ばたく翼。体に入る黒い縞模様。そしてフワフワ
ダックスフント程の大きさで、全身は基本黄色のふわふわな毛に包まれている。大き
﹁パムパム∼﹂
544
y.シロウ︶﹄、
﹃ブルー︵by.ハーマイオニー︶﹄、
﹃ウィング︵by.ロン︶﹄といった
ものだった。
﹁ハネジロー、おいで﹂
﹁パムパム∼、マリーと散歩﹂
パタパタと飛んできて、私の腕に収まるハネジロー。結論、可愛い。
ハネジローの登場によって、グリフィンドールの寮内だけでなく、ホグワーツ内がほ
ね。因みにハネジローの大好物はピーナッツ。
行く。しかも男子トイレ。寝る時間帯も私たちと一緒。もうペットなんて言えないよ
ハネジローは基本的に私たちと同じものを食べるし、なんとトイレも態々お手洗いに
そうなのだ。
﹁しかも生活能力は人間と然程変わらないときた﹂
﹁ええ、今でも驚きが治まらないわ﹂
﹁本当に不思議な生き物だよね﹂
7. ハロウィン夜、危険の始まり
545
んわかな雰囲気に包まれるようになった。スリザリンの生徒でさえ、女生徒はハネジ
ローの影響で他寮差別を控えるほど。ハネジローって凄い。
それに、日中は基本的に自由に行
そんなハネジローを連れて今はお散歩中。ハネジローに自由に行動させて、私が着い
ていく形を取ってる。だってその方がいいじゃん
動させてるし。
る。私はニコラスさんと呼んでるけどね。
しい。そのことから、ホグワーツの生徒からは﹃ほとんど首無しニック﹄と呼ばれてい
の悪い斧を使って処刑されたせいで、首の皮一枚だけ繋がったままゴーストになったら
ニコラスさんはグリフィンドールのゴースト。何でも亡くなるときに、とても切れ味
と、そこにゴーストのニコラスさんと出会った。
?
ニコラスさんは明るく返事をしてくれたけど、どこか空元気を出している感じがし
﹁おお、これはこれは。ご機嫌ようマリー殿、そしてハネジロー殿﹂
﹁パム、コンニチハ﹂
﹁ニコラスさん、こんにちは﹂
546
﹂
た。先程からウンウンと頻りに唸って悩んでいる様子だ。
﹁ニコラスさん、どうされたんですか
﹁パム∼、悩み事﹂
ニコラスさんは言葉を濁す。
﹁ああ、いや。大したことでは無いのですが⋮⋮﹂
?
?
自分等のような生者がいても、場違いにはならないだろうか
?
絶命日パーティーって言うのか。たぶん参加者はほぼ全員ゴーストだろう。そこに
ですぞ﹂
ば来ては下さらんか 無論ご学友もハネジロー殿も一緒に来ていただいても大丈夫
﹁左様。それでゲストを呼ばねばならんのです。すみませんがマリー殿、もし宜しけれ
﹁は、はあ。絶命日、ですか﹂
開くのです﹂
﹁⋮⋮実は来週末、丁度ハロウィンの日が私の絶命日でして。その記念のパーティーを
7. ハロウィン夜、危険の始まり
547
いやはや嬉しいことだ、是非いらしてくだされ﹂
!!
生には、絶命日パーティーに参加する旨は伝えてあるので、大広間には行かない。
で、パーティーから退場し、私たちは寮に向かっていた。パーシーとマグゴナガル先
嫌そうにしていたけど。
見ると畏怖したような視線を向け、同時に羨望と敬服した態度を示していた。シロウは
因みにパーティー参加した、ホグワーツの外からきたゴーストたちは、シロウを一目
てからそれを食べることにした。
用のものしかなかったけど、寮にシロウが軽食を用意したみたいだから、私たちは帰っ
結論から言うと、他の三人もハネジローもパーティーに参加した。料理はゴースト専
えていった。
どうやらニコラスさんの機嫌は良くなったようだ。彼はそのまま壁をすり抜けて消
﹁おお、それは誠ですか
﹁そうですか。なら喜んで参加させていただきます﹂
せんぞ﹂
﹁確かに参加者にはゴーストが多い。ですが生きてるか死んでるかなど、余り気にしま
548
﹂
﹂
┃┃ ⋮⋮す ⋮⋮殺す
﹁なに
﹁どうしたの、マリー
﹂
﹁⋮⋮何か声が⋮⋮﹂
﹁声だと
﹁⋮⋮﹂
﹁僕も何も﹂
三人とも聞こえないの
﹁いえ、私は﹂
!!
┃┃ ⋮⋮殺す⋮⋮殺す⋮⋮
?
?
﹂
顔をしていた。ハネジローは私の肩に降りてじっとしている。
こえる。ハーマイオニーとロンはきょとんとした表情を浮かべ、シロウは何か考え込む
おかしいな。私には今はっきりと聞こえた。ついでに何かが這い進むような音も聞
?
?
﹁ほら、また
7. ハロウィン夜、危険の始まり
549
﹂
!!
誰かが殺される
┃┃ ⋮⋮殺す⋮⋮殺す
﹁
!!
﹁⋮⋮蜘蛛
﹂
⋮⋮この際ロンの蜘蛛嫌いは置いておこう。それよりもこの状況だ。他に何か情報
﹁あ、いやその⋮⋮僕蜘蛛が苦手で⋮⋮﹂
?
?
﹁何で外へ逃げて⋮⋮ロンどうしたのよ
﹂
た。小さな蜘蛛が列を成して外へと向かっている。
何で床がこんなことに。手掛かりを探すために周りを見渡すと、奇妙なものを見つけ
廊下を走っている途中、その床が水浸しになっているのに気がつき、私は足を止めた。
ロウは私に並走している。
ちが呼び止める声が聞こえるけど、私は無視した。ハネジローは私の背中に捕まり、シ
私は今の声を聞き、その声の向かった方向に走り出した。後ろからハーマイオニーた
!!
550
はないのだろうか
?
文字
﹂
﹁マリー、壁、モジ﹂
﹁壁
?
ハネジローに言われ、壁を見た。そこには鮮やかな赤で、壁に文字が書かれていた。
﹁パーム﹂
?
あれは⋮⋮ッ
人影はない。
ん
﹂
﹁⋮⋮そんな﹂
?
﹁なんで
?
!?
めようとしている感じだった。誰かが無理矢理書かされたのだろうか
でも近くに
文章はあとの方にいくと、何を書いているかわからなかった。でもどこか書くのを止
﹃秘密の部屋・開か・たり。継承┃┃敵┃┃つけ・﹄
7. ハロウィン夜、危険の始まり
551
?
﹁⋮⋮石化してるな﹂
フィルチさんの飼い猫、ミセス・ノリスが石になり、壁のランプに引っ掛かっていた。
そこに夕食を終えた生徒がやって来た。
不味い。
今のこの状況は、端から見れば私たちがやったように見られる。それだけは避けた
い。でも現実は無情か、後ろからも前からも生徒の集団が来てしまった。そして皆壁の
文字と石化した猫を見てざわめき出した。
罪が立証されたので、私たちはそのまま寮に戻った。
たちの映像が流れた。まずハネジローのその力に物凄く驚いたけど、同時に私たちの無
そのときハネジローの目が青く光り、その目からホログラムのようにここ数時間の私
て、先生たちの制止も聞かずに私を連行しようとした。
に質問をした。猫を石にされたフィルチさんは冷静でなくなり、私を犯人と決めつけ
マルフォイは壁の文字をみて、私たちに言いはなった。教師たちも駆け付け、私たち
﹁秘密の部屋、継承者、敵。成る程ね。次はお前たちだぞ、﹃穢れた血﹄め﹂
552
7. ハロウィン夜、危険の始まり
553
それに継承者って何だろ
それにしても、秘密の部屋か。まさかドビーが夏休みに言っていた危険って、これの
こと ということは、今回で終わりではないってこと
う。謎は深まるばかりだ。
?
?
?
全校生徒が観客席に座って試合を観戦している。とりあえず、今は問題ないだろう。今
なんせ今は今年初めてのクィディッチの試合中だ。スリザリン対グリフィンドール。
まぁ今の時間はその心配はないだろうが。
うには注意せねば。
判断するには情報が足りん。もう少し時間を置くとしよう。せめて死者がでないよ
警告したのはまさかこの事か
それに壁の中から感じられた不気味な気配に、マリーのみが聞き取れた声。ドビーが
のモノ。魔眼かどうかはわからん。
効力が弱体化されたような感覚だ。であれば、本来の効力ならば、確実に命を奪う類い
石化こそしていたが、どうにも違和感がある。ライダーの石化魔眼とは違う、本来の
あの猫。
Side シロウ
8. 狂ったブラッジャー
554
は、な。
スリザリンの得点です
九〇対三〇でスリザリンがリード
﹄
!!
﹃またまたゴール
!!
?
﹁マリーはいったい何をしちょるんだ
﹂
かろう。グリフィンドールが勝つためには、早くにスニッチを捕まえるしか有るまい。
営は、グリフィンドールと負けず劣らず力がある。であれば、こうなるのも偶然ではな
ていれば、厳しい戦いになる。加えてマルフォイは兎も角、スリザリンのチェイサー陣
やはり箒のスペック違いが大きいか。いくら才能があろうとも、箒のスペックが劣っ
!!
いようだ。
ブラッジャーが一つ、執拗に追いかけている。見る限り、マリー以外は一切狙っていな
るが、スニッチを見つけた訳ではないらしい。理由はすぐに判明した。彼女の後ろから
ハグリッドの声が聞こえ、俺はマリーに視線を向けた。マリーは全速力で飛行してい
﹁パム∼﹂
8. 狂ったブラッジャー
555
﹁誰かが細工したにちげぇねぇ﹂
マリーに当たったらどうするの
﹂
﹂
?
﹁僕が止める﹂
﹁ダメ
﹁じゃあただ見てるだけって言うのかい
!!
﹁そうだ
・
・
こ
﹂
こ
だとしたら奴め、まだ諦めていなかったか。
・
シロウ、君なら落とせないかい
?
?
﹁そう⋮⋮ん
今あなた弓って言った
﹁気のせいだ﹂
﹂
は ぁ。最 近 凛 の う っ か り が 感 染 っ た の で は な い か
?
とすチャンスか。
本 気 で 心 配 に な っ て き た。
まぁそれは兎も角、今は見ていることしかできないだろう。試合が終わったときが射落
?
?
﹁あんなに複雑に動かれては難しいな。それに観客席では狭くて弓も構えられん﹂
!!
僕妖精の仕業か
り、じっとマリーを見ている。それにしてもマリーだけを狙う、か。まさかまたあの下
ハグリッドとロン、ハーマイオニーが隣で騒いでいる。ハネジローは俺の頭の上に乗
?
556
Side マリー
なんで
された。そこでキャプテンのウッドがタイムアウトを取った。
!?
﹂
のせいか、もう片方のブラッジャーに手が回らず、グリフィンドール選手が何度も妨害
とジョージが代わる代わるブラッジャーを弾き飛ばすけど、全く効果がない。しかもそ
試合が始まって暫くするとブラッジャーが一つ、しつこく私を狙ってくる。フレッド
?
﹁何をしている。ブラッジャーに妨害されてアリシアがゴールできな⋮⋮ウォッ
8. 狂ったブラッジャー
557
まさかのタイムアウト中のブラッジャーによる襲撃。これ不味いんじゃ
えず私は一人でどうにかする旨を伝え、フィールドに戻った。
やっぱり。
とりあ
私はスニッチを探しながら、ブラッジャーを避けていた。ん∼今一集中できないな。
さて、と。
に戻った。
それを必要最小限の動きで避ける。他のメンバーも渋々了解したみたいで、フィールド
フィールドに戻ったら、みんなじゃなく私目掛けてブラッジャーは襲ってきた。私は
?
﹂
マ
たぶん端から見れば、私は曲芸をやっているように映るだろう。スリザリンの観客席か
らは指差して笑う生徒たちが見えるし。
バレエの練習かな、ポッター
そこにマルフォイがやって来た。
﹁何してるんだい
?
まさかマルフォイ、私を挑発することに気をとら
口許に嫌∼なニヤニヤ笑いを浮かべて、マルフォイは私を挑発してくる⋮⋮ん
!!
ならば好都合
!!
ルフォイの耳元、あれはスニッチ
れて気がついてない
?
?
?
558
8. 狂ったブラッジャー
559
私は再び襲ってきたブラッジャーを避け、マルフォイ向けて突進した。
マルフォイは私の急な行動に驚き、脇に避けた。序でに私を襲ってきたブラッジャー
に巻き込まれそうになっていた。でも私はそれを気にすることなく、逃げるスニッチを
追いかけた。マルフォイも気がついたらしく、私を追ってきた。それに着いてくる形で
ブラッジャーも迫ってくる。
私とマルフォイ、ブラッジャーはスニッチを追いかける過程で、カー・チェイスなら
ぬモップ・チェイスを繰り広げた。ところでカー・チェイスやバイク・チェイスってカッ
コいいよね。でも残念ながら私たちの跨がっているのは箒だ。モップだ、モッピーなの
だ。正直少しダサイと思う。まぁロマンがあるけど。
あぶみ
それは兎も角、暫く私とマルフォイでデットヒートを繰り広げていると、マルフォイ
が ど っ か に 飛 ん で い っ た。ど う や ら 箒 に 付 い て い る 鐙 の 様 な も の が 何 処 か に 引 っ 掛
かったらしく、地面でのびていた。
邪魔者もブラッジャーだけになったので、一気に私は加速した。手を伸ばせばスニッ
チに届く範囲まで追い付いた。このとき私はブラッジャーのことを刹那忘れ、右手を伸
ばした。
一瞬のことだった。
伸ばした右腕は、後ろに付いていたはずのブラッジャーのあり得ない加速によって打
ひしゃげる
ち 抜 か れ た。骨 の 拉げる 嫌 な 音 が し て、私 は 激 痛 に 襲 わ れ た。腕 が 千 切 れ た と 錯 覚 し
た。でも同時に、まだ左腕があるという思考もあった。
今は地面から高さ五十センチ程の位置。箒から落馬しても擦り傷で済むだろう。な
ら考えるまでもない。私は左腕を伸ばし、今度こそスニッチを掴んだ。けどやはりと言
うべきか、私はバランスを崩して、箒から落馬した。
逆転勝利だ
よく頑張ったぞ、マリー
﹄
!!
!!
!!
た。フレッドが最初に駆け付け、手に持つ棍棒で弾いたけど、また戻ってきた。
私はこれから無様と思われようと気にせず、地面を横に転がってブラッジャーを避け
今度は頭を狙ってきている。冗談じゃない。こんなところで死ぬなんてとんでもない。
何故なら試合終了にも関わらず、先程のブラッジャーがまだ私を襲ってきた。しかも
でも一瞬その動きを止めた。
私の元に走ってきた。気のせいか、シロウの姿は見えなかったけど。
行きたい。フィールドにいたチームメンバーと、観客席にいたグリフィンドール生が、
ジョーダンさんの実況がフィールドに響いた。ああ、やっと終わった。早く医務室に
!!
﹃マリーがスニッチを掴んだ 試合終了です 九〇対一八〇でグリフィンドールの
560
そのときだった。
ふとグリフィンドールの観客席に、人影が見えた。大きな黒い弓を構えている。そし
てその人影が一瞬銀色の光を放った。
次の瞬間、再び襲ってきたブラッジャーは、銀に光る流れ星に打ち抜かれた。そして
そのまま地面に縫いとめられた。
縫いとめた物の正体は、極々普通のロングソード。ということは、射落としたのはシ
ロウなのか。こんな出鱈目な狙撃力を持つのは、シロウ以外に私は知らない。
ブラッジャーは暫くもがいていたけど、すぐに眩い光と轟音、そして突風に包まれた。
私たちはみんな、それが鎮まるまで各々を庇った。光と風が収まり、ブラッジャーが縫
い止められていた場所を見ると、半径三メートル程のクレーターがあった。
再び人影の方に顔を向けたけど、誰もいなかった。でもなぜかあれはシロウだという
﹂
確信があった。何はともあれ、一先ず一件落着だ。早く医務室に行きたい。
?
﹁え、なに
﹂パシャ
?
?
﹁珍しいのはわかるし、悪気がないのはわかるけど、今は写真はやめてね
それ、結構
﹁うん、腕が折れてるだけ。他は何ともない。早く医務室に行こう。それとコリン﹂
﹁マリー、大丈夫
8. 狂ったブラッジャー
561
不愉快な気分にさせるから﹂
﹁え
﹂
﹁あ、先生
ダメ
﹂
!!
?
か、指先さえもピクリとしなかった。気のせいか、ペシャリと潰れているようにも見え
突然右腕に襲う違和感。嫌な予感がして、動かそうとした。でも右腕は上がるは愚
何かやりきった表情を浮かべている状態だった。
えた。私も突然のことで反応が遅れ、気がつけばロックハートが私の右腕に杖を向け、
ハーマイオニーとは逆方向、折れた右腕の方から声が聞こえ、誰かが止める声も聞こ
!!
﹁安心したまえ、私が治してあげよう﹂
ら。ここで素直に謝罪が出来るから、根は本当に良い子なんだろうね。
るだけ安心させるため、微笑みを浮かべた。序でにコリン君に行動を抑えて貰いなが
ハーマイオニーが心配げに問いかけてくる。他の皆も心配そうだ。だから私はでき
﹁よろしい﹂
﹁あ、その、ごめんなさい﹂スッ
562
る。
レーターではなく、陥没地だ。
地面はロックハートを真ん中にして、半径二メートル程の陥没地を形成していた。ク
一気に引っ込んだ。
クハートの胸ぐらを掴んで地面に押さえ付けていた。その光景を見て、私は黒いモノが
ホグワーツの制服ではなく、いつか見た黒い軽鎧に黒い外套を纏ったシロウが、ロッ
に地鳴りと地響きがした。みんなして発信源に顔を向け、そして絶句した。
そのドス黒いモノが首まで来たとき、目の前のロックハートが突然消えた。そして次
た。真っ黒いモノが、身体の奥底から沸々と沸き上がってくる。
した物凄く不快な笑いを振り撒いている。私の中の何かが、プツンと音を立てて切れ
私の右腕は、文字通り﹃骨抜き﹄にされていた。それをやった当の本人は、ヘラヘラ
と好き勝手に動く。ロックハートは、もう折れてはないでしょう、なんてほざいている。
ロックハートは誤魔化すようにそう言い、私の右腕を持ち上げた。腕はビョンビョン
﹁ああ⋮⋮ええと⋮⋮まぁ偶にはこういうことも、ええと、ありますね、はい﹂
8. 狂ったブラッジャー
563
﹁ひ、ヒィッ
﹂
﹁懺悔の言葉は済んだか
﹂
﹁ヒァァア、あぁあアアアァァああ⋮⋮
?
!?
﹁エミヤ
そこまでだ
﹂
!!
たけど。
﹂
を剥いて気絶している。夏休みの試合を見ていたメンバーは、比較的平気な顔をしてい
一連の出来事を見ていた殆どの人が、顔を青くして震えていた。ロックハートは白目
陥没した地面は、ひび割れながら再び隆起した。
シロウの拳は突き刺さった、ロックハートの顔のすぐ横の地面に。
スネイプ先生の声が響き渡るのと、シロウが拳を降り下ろすのは同時だった。そして
!!
べ、声すらもでないほど恐怖していた。
シロウはそう言って自由な右拳を振り上げた。ロックハートは絶望した表情を浮か
﹁⋮⋮消えろ。いつもいつも貴様は余計なことを⋮⋮﹂
!?!?
564
﹁抑えろ。お前が犯罪者になることを皆は、あの子は望んではおらん﹂
スネイプ先生の言葉に、シロウは無言で拳を引き抜いた。そして深い溜め息を一つつ
いた。立ち上がったシロウは、スネイプ先生に向き直り、そして皆に顔を向けた。若干
数名が少し後ずさった。
﹁すまない。我知らず感情的になってしまった﹂
シロウはそう言うと、頭を深々と下げた。周りの人たちは、また別の意味で唖然とし
ていた。一連の行為と今の言動のギャップが激しかったからだろう。まぁわからなく
もないけど。シロウは頭をあげると、またスネイプ先生に向き直った。
﹁わかりました。謹んでお受けします﹂
魔法は禁止だ﹂
ルから二十点減点、そして罰則はこのフィールドを週末に一人で元に戻すことだ。無論
﹁ふむ、ならば教師に対する暴行並びにフィールドの破壊行為。よってグリフィンドー
﹁やってしまったことの責任は取ります。如何様にも﹂
8. 狂ったブラッジャー
565
シロウはスネイプ先生から罰則を言い渡され、また深く頭を下げた。
みんな罰則の内容にショックを受けてるね。何て理不尽な罰則なのだろう、って。で
もシロウのことを少しでも知ってる人たちは、何て優しい罰則なのだろう、と思った。
だって夏休み、剣吾君との試合で荒れたウィーズリー家の庭を、剣吾君と二人がかり
とは言え、たった三十分で元に修復したのだ。今回の損害は、それに比べたらまだマシ
な方。下手すれば十五分程度で終わるかも。
そして私は、スネイプ先生とシロウの小声でのやり取りを聴き逃さなかった。
﹁マリー、立てるか
﹂
﹁正直言うと気力がない﹂
?
リン以外の一年生とロックハートのファン以外だね、は私たちから距離をとった。
シロウは頭をあげると、私に近づいてきた。シロウに近しい人たち以外、ジニーとコ
﹁すみません﹂
﹁狂ったブラッジャーを鎮めたことに、グリフィンドール十点加点だ﹂
566
﹁そうか﹂
﹁運んでもらっていい
﹂
?
││││││││││││││││││││
ファンの子達に医務室に運ばれた。
私の着替えを持ってきて貰うよう頼み、医務室へと私を連れていった。ロックハートは
シロウは私を抱えあげると︵勿論お姫様抱っこ︶、ロンに私の箒を、ハーマイオニーに
﹁了解した﹂
8. 狂ったブラッジャー
567
﹂
﹁骨折を治すのならば簡単ですが、骨を元に生やすとなると⋮⋮﹂
﹁先生、治るんですよね
こ
定喉が焼けるように辛かった。
こ
﹁今日は医務室に泊まってもらいます。良いですね
﹁はい﹂
﹁よろしい﹂
﹁パムパムー、マリー、心配﹂
﹂
喉が辛い奴だよ。でも飲まないと治らないので、私は我慢してそれを飲み干した。案の
からい
薬は無色透明なんだけど、シュワシュワと泡をたてている。うん、これ絶対飲んだら
ニー。
シロウもマダム・ポンフリーの隣で準備を手伝っている。流石はホグワーツのブラウ
医療担当のマダム・ポンフリーさんは、入院準備を整えながら、私に薬を差し出した。
﹁ええ、勿論。結構痛みますけどね﹂
?
﹁わかってますよ、あなたもここにいて良いです﹂
﹁パーム、アリガトウ﹂
?
568
マダム・ポンフリーは基本的に皆に対して素っ気ない。
でも恐らく、生徒の安全健康を一番考えているのは、確実にこの人だろう。だから私
はマダム・ポンフリーの言いつけに、素直に従った。
﹂
それからマダム・ポンフリーは見舞いに来た人︵何故かシロウを除く︶を寮に返し、
﹁ここは騒ぐ場所じゃありません、さぁ帰って
さらに運ばれてきた患者を診察し、
!!
薬の刺激に試合の疲労で、私は夕食代わりのシロウ作の軽食を摂ったあと、すぐに睡
てくれた。
フィスに戻った。因みに私の着替えは、ハーマイオニーとアンジェリーナさんが手伝っ
ロックハートが目覚めると、ファンの子達共々医務室から追い返し、そして自分のオ
寮に戻りなさい﹂
﹁ミスター・マルフォイ、あなたは唸らなくていいです。もう大丈夫。仮病は止めて早く
8. 狂ったブラッジャー
569
眠に入った。
夜遅く。
ふと妙な感覚が体を襲い、私は目が覚めた。今回はシロウはいないみたい。右腕は薬
が効いているのか、鈍痛がした。ハネジローは私の隣で眠ってる。
まぁ兎も角、ハロウィンの夜と同じ感覚がしたので、私は上体を起こして耳を澄まし
た。
またあの声だ。そして壁の中を何かが進むような音。不気味な感じ、逃げる蜘
┃┃⋮⋮引き裂いてやる⋮⋮殺してやる⋮⋮
ッ
﹂
┃┃⋮⋮殺す⋮⋮殺す⋮⋮殺す⋮⋮殺す
﹁どーも
!!
蛛たち。全てハロウィンの夜と同じだ。声は壁を通り、天井に移動している。
!!
の寝ていたベッドの上に立っていた。
声を追って、視線をそのまま前に向けると、そこにはあの屋敷下僕妖精のドビーが、私
!!
570
9. 夜中の会話と決闘クラブ
﹂
Side マリー
﹁⋮⋮ドビー
た。
?
﹁はい﹂
﹁あの暴走したブラッジャー、あれあなたの仕業
﹁⋮⋮はい﹂
﹂
私が寝ていたベッドの上に、ドビーは立っていた。そして悲しそうな表情をしてい
﹁マリー・ポッターはホグワーツに来てしまった﹂
?
﹁ドビー、一つ聞かせて﹂
9. 夜中の会話と決闘クラブ
571
もう私に干渉しないって﹂
私の質問に、ドビーは顔を俯かせて返事をした。やっぱりそうか。だとすると、その
﹂
理由は夏休みのときと同じ。それならば、
﹁じゃあ駅の入口を塞いだのも
﹁⋮⋮はい﹂
﹁⋮⋮ハァ。ドビー、あなた約束したよね
﹁⋮⋮﹂
けさせた。そして私の目を見させた。
?
﹁夏休みに、私とシロウと約束したよね
﹂
﹁ッ
﹂
?
滅相もありません
ですがドビーめはマリー・ポッターの安全のために⋮⋮
!!
?
!!
!!
﹁じゃあ何で あなたにとって、私達との約束はそんなにすぐに破って良いものなの
﹁⋮⋮はい﹂
﹂
私の問い掛けにドビーは黙りこくる。でも私はドビーの顔を両手で挟み、こちらに向
?
?
572
﹁入口を塞ぐのは兎も角、ブラッジャーは確実に私の頭を潰そうとしてたよね
﹁そ⋮⋮それは⋮⋮﹂
﹂
?
﹂
﹂
﹁私 言 っ た よ 人 間 は た か が ゴ ム の 球 で 命 を 落 と す っ て。忘 れ た わ け じ ゃ な い よ ね
﹁も、勿論ですとも
?
﹂
ど、一個人として約束することは出来る
﹁はい、勿論です
﹂
?
﹁序でに言っとくけど、もし今後やったらたぶん、シロウに殺されると思うよ
じゃなく、本当に﹂
?
!!
﹁それは⋮⋮確かに﹂
脅し
後は絶対こんなことしないで。私はドビーの御主人様じゃないから命令はできないけ
?
ドビーの気持ちは嬉しいけど、私にとっては迷惑なの。だから今
ことの心配はないみたいだね。
ドビーは大きな耳をパタパタさせながら、頻りに頷いていた。良かった、忘れっぽい
!!
?
﹁もう一度言うよ
9. 夜中の会話と決闘クラブ
573
ドビーとはそのあと、一つ二つ会話をした。やはりと言うべきか、ドビーが私をホグ
ワーツに戻したくなかったことに、今回の石化騒動が関係してるらしい。流石に詳しい
ことほ話せなかったみたいだけど。
ドビーは私に念入りに警告して帰っていった。それと廊下の方から、複数の人たちが
来るのは同時だった。
私は急いでベッドに寝転がり、狸寝入りをした。
どうやらポンフリーさんとマグカゴナガル先生、そしてダンブルドア先生らしい。何
かを運んできたようだ。
てポッターの見舞いに行こうとしたのでしょう﹂
医務室に来る途中で
?
コリンが石化
?
?
この子が構えているということは、中にネガがあるのでは
?
﹁カメラは
﹂
﹁ええ、コリン・クリービーです。近くに葡萄が一房落ちていたことから、寮を抜け出し
﹁この子は確かグリフィンドールの⋮⋮﹂
﹁生徒がまた襲われました。今回も石化しています﹂
574
薄目を開けて見ると、ダンブルドア先生がコリンの手から、カメラを抜き取って裏蓋
﹂
を開けた。ポンッ、シューと言う音を立てて、カメラからは火花と煙が立ち上った。
﹁⋮⋮熔けてる﹂
﹁ダンブルドア先生、これはいったい⋮⋮
?
││││││││││││││││││││
ダンブルドア先生の重苦しい声が、妙に耳に残った。
﹁⋮⋮それはの。秘密の部屋が開かれたということじゃ。再びのぅ﹂
9. 夜中の会話と決闘クラブ
575
576
それから数日過ぎ、私は無事に退院した。
シロウたちには、ダンブルドア先生の言っていたことを伝えてある。﹃再び﹄という言
葉にロンとハーマイオニーは疑問を抱いたらしく、ならばハロウィンの日に何か知って
そうな雰囲気を出していた、マルフォイから直接聞き出そうということになった。
でもただでは聞き出せないので、マルフォイが信を置いている人物に成り代わること
になった。
そこで使うのが﹃ポリジュース薬﹄という魔法薬だ。何でも薬に対象の身体の一部分
を混ぜることにより、その対象に一時的に変身出来るらしい。魔法って便利だね。
まぁ方針が固まったところで、私達四人は三階の女子トイレ、
﹃嘆きのマートル﹄と呼
ばれるホグワーツ女子生徒のゴーストが取り憑くトイレで、ハーマイオニーを中心にし
て調合していた。
でもその薬が出来るまで一ヶ月。その間は何もできない。私達はその間も自分達な
りに、秘密の部屋について調べていたけど、大して良い情報は得られなかった。
9. 夜中の会話と決闘クラブ
577
更に三日ほど経過したとき、大広間前の掲示板にチラシが張り出された。なんでも週
末、明日の昼間に、
﹃決闘クラブ﹄を開くらしい。担当の教師は、ロックハートにスネイ
プ先生。まぁスネイプ先生がいらっしゃるなら、滅多なことは起こらないだろう。そう
考えた私は、いつもの四人で出ることにした。
Side シロウ
さて、週末になったが、大広間の中は片付けられ、中央に細長いステージが設置され
ていた。恐らく、この上で実演が成されるのだろう。
ステージの上にロックハートが立つと、ファンの子達が一斉に前の方に陣取った。因
みにオレは、部屋の壁の出っ張りに腰掛けてる。ハネジローはオレの直ぐ下に立つマ
リーの頭の上だ。そのマリーの両脇を、ロンとハーマイオニーが陣取っている。まぁ十
分に見えるし、いいだろう。
私の姿が見えますか
?
⋮⋮よろしい﹂
?
私の声が聞こえますか
!!
﹂
!!
﹂
!!
を持っている。成る程、予想はしていたが、彼は中々の手練れだな。
テージ上にあがってきた。いつものコウモリのようなマントは脱いでおり、右手には杖
ロックハートが紹介すると、奴が立つ場所とは逆のステージ端から、スネイプはス
当者、スネイプ先生です
﹁今回は、私ともう一人の教員が担当します。それではご紹介しましょう、もう一人の担
ロックハートは言葉を続ける。
さんに学ばせるために、﹃決闘クラブ﹄を臨時で開くことにしました
﹁最近物騒なことが、立て続けに起きていますのでね。そこで校長先生が、自衛の術を皆
つ女生徒に渡した。女生徒はファンの一人らしく、とても幸せそうな顔をしている。
ロックハートは声を張り上げて確認を取ると、マントを肩から外してステージ脇に立
﹁皆さん
578
﹂
﹁それではまずは私と彼が、デモンストレーションを行います
なんてしませんよ
大丈夫です、死んだり
!!
エクスペリアームス
﹁﹃武 装 解 除﹄ ﹂
!!
光が飛び出し、ロックハートに直撃、そのままぶっ飛ばした。ロックハートはステージ
ロックハートが三数えるのと同時に、スネイプの杖がひらめいた。杖先からは赤い閃
!!
﹂
くように顔の横に右手に持つ杖を構え、左手はロックハート向けて伸ばしている。
構えた。ロックハートは気取ったような構え方だな。対するスネイプは王道な、弓を引
それから二人は互いに背を向け、それぞれステージの四分位点で互いに向けて、杖を
成る程。決闘と言うだけはあり、騎士然とするのが自然か。
置へと移動させ、そして深く礼をした。
二人同時に杖を顔の前に構え、それをゆっくりと切り払うように、身体の斜め下の位
ロックハートは意気揚々とそう述べ、ステージ中央に立ち、スネイプと向き合った。
!!
﹁三つ数えたら、決闘の始まりです。⋮⋮一⋮⋮二⋮⋮三
9. 夜中の会話と決闘クラブ
579
の上に大の字で寝ていたが、数秒後に起き上がった。
彼と並ぶ実力者はそうそういないだろう。
そして互いに杖を取り上げる練習です
﹂
!!
!!
杖を取り上げるだけですよ
﹁さて、では二人一組を作ってください
いいですか
?
なんてないぞ
?
組み、ロンはハーマイオニーと組んでいる。さて、オレは⋮⋮ハブられた。⋮⋮悲しく
ロックハートがそう言うと、皆して二人一組を作りはじめた。マリーはマルフォイと
?
を貫いている。それにしてもスネイプの杖捌き、中々に鋭いな。これは本気になれば、
ロックハートはそう言いつつ、ステージに落ちた自分の杖を拾った。スネイプは無言
まぁ私がその気になれば、返すことはできますが﹂
も ス ネ イ プ 先 生。生 徒 に 合 わ せ て 武 装 解 除 か ら 教 え る と は、い や は や 感 服 し ま し た。
﹁え、ええー今のは武装解除呪文です。ご覧の通り、私は杖を奪われました。それにして
580
﹁おや
ミスター・エミヤ
相手がいないのですか
?
﹂
?
うとしようか。
﹁なら私が相手をしてあげましょう
!!
?
﹃加減がわからないから、様子見するわ﹄
﹃構わん、思いっきりやれ﹄
﹄
ふとスネイプと目があった。その瞬間、俺達はアイコンタクトで会話を行った。
る視線を向けられていた。
られろ﹂という嫌悪の籠った視線を向けられ、あとは好奇心、ロックハートの冥福を祈
の視線が、オレとロックハートに向けられた。ファンの子達からは、
﹁ロックハートにや
ロックハートはそう言って、オレをステージ上に連れて行った。すると広間にいた皆
さあさあこちらへ﹂
オレを見つけたロックハートが、話しかけてきた。そうだな、こいつに相手してもら
﹁⋮⋮ええ、まぁ﹂
?
﹃スネイプ、こいつやって良いか
9. 夜中の会話と決闘クラブ
581
﹃よかろう﹄
以上、使用時間0.5秒のアイコンタクト。さて、オレも準備するか。
ローブが邪魔だったから床に脱ぎ捨てたが、ハネジローがそれをマリーのもとへ持っ
﹂
﹂
ていった。オレは腰の鞘からアゾット剣を引き抜き、逆手に持つ。ローブはマリーが畳
んで手に持っている。
﹂
﹁ロックハート先生﹂
﹁何でしょう
﹁ええ、それで大丈夫です。今回は試しなので、礼は要りませんよ
﹁呪文は﹃エクスペリアームス﹄で良いんですよね
?
﹁⋮⋮一
﹂
!!
出し、左手を肘裏に添える。
ロックハートはそう言って杖を構えたので、オレも剣を構えた。剣を握る右手を前に
?
?
582
ロックハートの声が響く。ふとオレと近しい者たちが、オレの後ろを指差している。
﹂
何があるのだ
﹁⋮⋮二
?
﹂
エクスペリアームス
﹁⋮⋮三
し、騒ぎ出す。だから何だと言うのだ。
更にロックハートのカウントは続く。広間にいた殆どの生徒が、オレの後ろを指差
!!
!!
!!
して壁に叩き付けられた。
ハートの額に直撃した。ロックハートはそのまま﹃ウルトラC﹄の要領で後ろに飛び、そ
その二本の剣は、一本はロックハートの右手に直撃して杖を弾き、もう一本はロック
石ではなく、オレの後方から二本の真っ赤な光の剣が飛び出した。
オレがロックハートのカウントと共に、呪文を唱えた。するとアゾット剣の柄頭の宝
﹁﹃武 装 解 除﹄ ﹂
9. 夜中の会話と決闘クラブ
583
⋮⋮なんでさ。
Side マリー
閃光が剣の形だし、一回の呪文で二発出るし、そ
ロックハートが壁に叩き付けられた瞬間、大広間は静けさに支配された。というかそ
れ以前に、シロウの呪文って何なの
かったみたいだった。ロックハートはシロウの呪文について誉め、次に自分の相手をす
とりあえず、ロックハートはすぐに起き上がった。どうやら打ち所が良く、気絶しな
もそも杖先から出てないし。虚空から発射されるって。
?
る人を探し始めた。シロウとは誰も組みたがらない。まぁわからないでもないけど。
﹁ならば、我輩が行こう﹂
584
﹁スネイプ先生
﹂
﹁どれ、ミスター・エミヤの実力が知りたくなった。エミヤ、相手をしてもらえるか
﹁はい、大丈夫です﹂
?
か、試してみたいって思いが感じられた。気のせいだよね
?
﹂
さっきのスネイプ先生の言葉、スネイプ先生自身の力が、シロウにどこまで通用する
でも気のせいかな
何人かのスリザリン生徒が、シロウをボコボコにするよう野次を飛ばしていた。
ら、みんな自分のことではなく、スネイプ先生とシロウに意識が向いてる。
シロウはそう言うと、スネイプ先生と一緒にステージ上にあがった。先程のことか
?
?
二人はステージの中央で礼をしたあと、互いに離れて杖を構えた。
﹂
!!
今回は気がついた人が多い。
ロックハートがカウントを始める。そしてまたシロウの後ろの空間が、歪み始めた。
﹁⋮⋮一
9. 夜中の会話と決闘クラブ
585
﹁⋮⋮二
﹂
ウを見つめる。
﹂
エクスペリアームス
﹁⋮⋮三
プロテゴ・フラクタル
﹂
!!
また一枚壊れた。更にノックバックを受けてる。
盾が一枚壊れた。スネイプ先生が少しノックバックを受けてる。
先生の盾を貫こうと、ぶつかってる。
つかり合いで、私達の杖が共鳴を起こすように振動する。シロウの光の槍は、スネイプ
途端、物凄い衝撃と風が巻き起こった。皆が後ろに少しズラされた。膨大な魔力のぶ
瞬きする間に、槍と盾はぶつかった。
ち出された。そしてスネイプ先生の杖からは、七枚重ねの銀色の盾が投射された。
シロウが武装解除呪文を唱えると、槍は真っ赤な光を放ち、スネイプ先生目掛けて射
﹁﹃武 装 解 除﹄ ﹂﹁﹃多 重 防 壁﹄
!!
剣の次は槍なんだね。スネイプ先生は気がついているのだろう。集中するように、シロ
更にカウントは続く。空間の歪みはやがて形作られ、一本の無色透明な槍になった。
!!
!!
586
一気に三枚が壊れた。スネイプ先生は二、三歩後ずさる。
﹂
盾が一枚一枚破壊されるたびに、魔力の胎動が起こる。大広間の窓が、壁が、天井が
振動し、音を立てている。
﹁な⋮⋮なんなのよ、これは
﹁あ⋮⋮あああ⋮⋮﹂
﹂
盾がまた一枚破壊され、最後の一枚になった。その一枚も、ヒビが入り始める。
イプ先生の近くにいた人が、一番酷そうだ。
魔力の煽りを受けた生徒は、一人、また一人と酔っ払い、地面に座り込む。特にスネ
!!
!!!!
ハァァァアアアアア
!!
なかったのだろう。
近くにいたロンの杖は、今の衝撃で真っ二つに折れた。恐らく魔力の胎動に耐えきれ
音を立てて爆散した。生徒たちは差があれど、皆後方に吹っ飛ばされた。
スネイプ先生が力を込めた。盾と槍が拮抗する。そして槍と盾は、眩い光と暴風、轟
﹁ッ
9. 夜中の会話と決闘クラブ
587
588
ただ、シロウ作の護符を持っていたメンバーは、ロンの杖を除いて、少し後ずさるだ
けで済んだ。大広間の窓は全て割れ、生徒たちはそのほとんどが、膨大な魔力の胎動で
酔っていた。
そしてその発生源にいた二人は、シロウは杖を構えたまま立っており、スネイプ先生
は片膝をついて、大きく肩で息をしていた。
10. 蛇語とポリジュース薬
Side マリー
大広間は、スネイプ先生の荒い息遣いだけが響き、あとは風が入り込む音しかしな
かった。
﹂
?
きた。と、大広間の外から、マグゴナガル先生が駆け込んできた。
スネイプ先生とシロウが会話をしている。その声で、一人、また一人と現実に戻って
﹁今回は魔力を込めましたので。ですが、流石に私もこうなるとは﹂
﹁⋮⋮ああ、大丈夫だ。それにしても流石だな、エミヤ。防ぐことに手一杯だった﹂
﹁スネイプ先生。大丈夫ですか
10. 蛇語とポリジュース薬
589
﹂
?
!?
﹁⋮⋮まさか
﹂
﹁ええ。そのまさか、です﹂
﹂
﹁⋮⋮わかりました。ミスター・エミヤ
﹁はい、何でしょう
﹁よろしい、さて﹂
﹁⋮⋮すみませんでした﹂
﹁余りやり過ぎないよう、お願いしますね
?
?
﹂
マグゴナガル先生はシロウに注意をしたあと、大広間に杖を向け、ヒビの入った壁に
?
?
﹂
生、最後に広間を見渡し、再びスネイプ先生に視線を戻した。
マグゴナガル先生はスネイプ先生の言葉に、まずシロウに目を向け、次にスネイプ先
﹁少々力を使いすぎまして﹂
か
﹁今のはいったいなんですか まるで地震のような⋮⋮セブルス、何をしてるのです
590
天井、割れた窓を綺麗に修復し、大広間を後にした。あらら。シロウの規格外さって、先
﹂
生方には知られてるんだね。まぁ去年のトロールのこともあるから、仕方がないと言え
ば、仕方がない。
﹁では今度は生徒同士でやってみようか。ああ、ポッターにウィーズリー。どうだね
ろう。
に使われてるユニコーンの毛で、辛うじて繋がっている状態。流石に使うのは不味いだ
になった。で、私とロンが指名されたけど、ロンの杖はさっきの余波で折れた。今は芯
ステージの上から二人が降りたあと、ロックハート先生によって生徒同士でやること
?
漫才のようなやり取りが、隣で行われている間に、私の相手はマルフォイに決まった。
﹁⋮⋮お願いします﹂
﹁⋮⋮新しい杖の代金は、オレに払わせてくれ﹂
﹁あ、いやいいよ。これもお下がりだし﹂
﹁⋮⋮ロン。すまない﹂
10. 蛇語とポリジュース薬
591
﹂
私とマルフォイはステージの中央に立ち、互いに杖を構えた。因みにハーマイオニー
﹂
は、スリザリンのミリセントって女の子とペアを組み直した。
﹁あら、残念ね﹂
宙
を
れ
オリジナル・スペル
﹂なっ
﹂
武装解除よりは弱いし。
踊
因みに今回もロックハートのジャッジで決闘を始める。
?
⋮⋮一⋮⋮二 ﹁﹃エヴァーテ・スタティム﹄
!?
﹁杖を構えて
!!
マルフォイがフライングで私に呪いを飛ばした。マトモに食らった私は宙を舞い、後
!!
たんだよね。この際ここでお披露目しようか
そういえばシロウにも言ってないけど、威力は大したことないけど﹃独 自 魔 法﹄を作っ
し全て武装解除以下の攻撃力しかない呪文を、思い浮かべる。
互いに挑発し、それからそれぞれステージの端に立つ。私の頭の中には攻撃用、ただ
?
﹁怖いか、ポッター
結構ワクワクしてるわ。怖いのはあなたじゃないの
﹁いいえ
?
﹂
﹁まさか
?
?
592
方へと吹っ飛ばされた。スリザリン生たちは、皆一様にニヤニヤとした嫌な笑いを浮か
べていた。呆れた、卑怯な手ばかり使って、貴族が聞いてあきれる。
れ
射
ち
﹂
?
私は立ち上がりマルフォイに杖を向けた。彼は驚いた顔をしてる。ただ吹っ飛ばし
乱
ただけで、勝った気になってるの
﹁﹃フリペンド・ブライン﹄
﹂
!! !!
うなるか。
シンガン、球の大きさと固さはスーパーボールほどである。それが連続掃射されたらど
今、私が出しているのは、飛行スピードは卓球マシンほどであり、連射スピードはマ
吹き飛ばすのはわけない。
いため、威力などが最大になれば、陶器製の壺を壊すのは勿論、金属甲冑をバラバラに
当てる、本当にボールを当てるだけのような魔法である。が、飛ぶスピードはかなり速
元々フリペンド自体は大した魔法ではない。何の呪力もない光球を撃ちだし、対象に
球程の大きさの光球が、マルフォイ目掛けて連続掃射される。
ロックハートの制止を聞かず、私はオリジナル・スペルを発動させる。杖先から卓球
﹁二人とも武装解除だけです
10. 蛇語とポリジュース薬
593
﹂
武器を奪うだけdアバババババババババババババッ
﹁アバババババババババババババッ
﹁マリー、落ち着いて
と、こうなる。
﹂
!!
蛇
よ
杖を向けた。
よ
﹂
!!
たら大事だ。
蛇は、そのまま動き出す。確かコブラは、強力な毒を持っていたはず。誰かに噛みつい
マルフォイの杖の先から、全長70cm程のコブラが出てきた。ステージに出された
﹁﹃サーペンソーティア﹄
出
マルフォイは暫く床に座り込み、ゼェゼェ言っていた。けど、再度立ち上がり、私に
ウも驚いているみたい。やったね
周りの皆は、目を見開いている。スネイプ先生は感心するような顔をしている。シロ
無視することにした。
十秒ほどで連射は終わった。なんか途中で誰か巻き込んだ気がしないでもないけど、
!!
!!
!!
594
﹁二人とも動くな、我輩が追い払おう﹂
﹁いや、私にお任せあれ﹂
蛇
よ
去
れ
﹂
というゴムの弾け
スネイプ先生が歩き出すけど、ロックハートがそれを制止し、蛇に杖を向けた。
ロックハートの杖先から閃光が飛び、蛇に直撃した。パァンッ
!!
ようで、近くの生徒に、ターゲットをとった。いけないっ
┃┃ 手を出すな。去りなさい。
┃┃ 魔力に還りなさい。ここはあなたのいるべき場所ではない
私は蛇に向けて声を発した。蛇は動きを止め、私に顔を向けた。
!!
る音と共に、蛇は宙に打ち上げられ、そのまま落下した。また失敗してる。蛇は怒った
!!
﹁﹃ヴォラーテ・アセンデリ﹄
10. 蛇語とポリジュース薬
595
蛇は渋るように床に頭を落とし、舌をちらつかせる。
┃┃ 還りなさい
﹂
な目を向けている。私、何かした
﹁えっと⋮⋮皆どうしたの
?
周りを見渡すと、私と余り接点のない人たちは、寮の所属に関係なく、私に同じよう
ンに顔を向けた。けど、彼は私を恐れるかのような目で見ていた。
もう大丈夫だ、そう思った私は、襲われそうになったハッフルパフの生徒、ジャスティ
いった。
今度は強く言った。蛇は諦めたのか、光を放ち、マルフォイの杖の中に吸い込まれて
!!
マイオニーとシロウもいる。私達はそのまま暫く廊下を歩き、とある曲がり角で立ち止
ら引っ張られ、大広間の外へと連れていかれた。引っ張っていたのはロンだった。ハー
本気でわからなかった私は、皆に問いかけた。でも誰一人答えない。突然私は後ろか
?
596
まった。
蛇
語
語
使
使
い
い
﹂
﹁君﹃パーセルマウス﹄だったの
蛇
﹁私がなんだって
﹂
?
﹂
﹁わかんないよ。仮にそうだとしても、今回が初めてだもん﹂
ハーマイオニーが説明を入れる。でも今一ピンとこない。
﹁﹃パーセルマウス﹄。蛇と話ができる人よ﹂
?
﹁今まで経験ないの
?
﹁何で皆あんな顔をしてたの
﹂
﹁それは⋮⋮サラザール・スリザリンが蛇語使いだったからよ﹂
?
い。だから、もし私が蛇語を話したとしたら、今回が初めてだ。
そう。仮に蛇と話せたとしても、私は今まで蛇とコミュニケーションをとったことな
﹁うん﹂
10. 蛇語とポリジュース薬
597
﹁ただそれだけ
﹂
?
﹁今、秘密の部屋の騒動が起こってるでしょう そして狙われてるのは、スリザリンの
598
?
もって思うわ﹂
﹂
﹁そうだよ。もしかしたら皆君をスリザリンの曾曾曾曾孫だと思うぜ
﹁そんな
﹂
継承者の敵。ならあなたがそのつもりが無くても、皆あなたがスリザリンの継承者か
?
と言ってくる人間もいた。正直ストレスが溜まった。いつも美味しいと感じる食事も、
普通に廊下を歩いているだけで、皆脇に逸れていく。中には自分は純血だから襲うな、
その日から私は、校内の大多数の人たちから、疑いの視線に晒されることになった。
シロウは重々しく言葉を紡いだ。
﹁パム∼⋮⋮﹂
なくはないのだよ、マリー﹂
﹁彼の者は何百年も前の人間だ。確率的には、その血を牽いているということは、あり得
!?
全くの無味に感じられた。
救いがあるととすれば、ウィーズリー一家やシロウ、ハーマイオニーは変わらず私に
接しており、グリフィンドールの同級生や、何人かの他寮生も私を疑っていないという
ことだ。
﹂
﹁下∼に下に、スリザリンの継承者様のお通りだ∼﹂
﹁者共、頭が高い
シーが近づき、二人に注意をする。
フレッドとジョージがふざけて私の両隣に立ち、ふん反りかえって歩く。そこにパー
!!
﹁ふざけるな
﹂
だいたい剣の魔王って﹁呼んだか
﹂﹂﹂﹂
お仕置きを⋮⋮って、なんだその格好は
﹁﹁﹁﹁ブフゥッ
!!
!?
!!
﹂あ、シロウ丁度よかった。二人に
﹁そうだそうだ。牙を生やした手下と、剣の魔王と一緒にお茶をお飲みになるのだ﹂
﹁おい、どけよパーシー。マリー様は行かねばならぬ﹂
10. 蛇語とポリジュース薬
599
?
やって来たシロウを見た瞬間、周りにいた人たちも含めて吹き出した。いつものシロ
ウからは想像できない、非常に奇抜な格好をしていたのだ。
上半身は裸、両腕両足にはゲートルのように黒い布を巻き付け、左右の腰に二本ずつ、
背中に二本の合計六本の剣を身に付けている。
下半身は大きな紅い布を巻き付け、靴は履いていない。そして全身には奇妙な模様が
描かれており、頭には腰布と同じ色の布を巻き付けている。
﹂
そして背中には何故かお地蔵様を背負っていた。ハネジローはシロウの肩に乗って
いる。
﹁し、シロウ。その格好はいったい⋮⋮
﹁オレはシロウではない。剣の魔王だ﹂
m9︵^▽^︶﹂﹂
!!
らしていた。因みに双子は同じような格好をして、先生とパーシーから怒られていた。
騒ぎを聞き付けたマグゴナガル先生が来たけど、その厳格そうな顔を歪め、視線を反
シーを除き、バカ笑いをした。
シロウの発言と出で立ちに、双子はゲラゲラとバカ笑いし、周囲の生徒たちもパー
﹁﹁ブヒャヒャヒャヒャッ
?
600
こんな感じで、確かに味方もいた。もし彼らがいなかったら、私はどうなっていただ
ろう。想像したくもない。
でも数日後。蛇に襲われそうになったジャスティンが、ゴーストのニコラスさんと共
に、石化した状態で見つかり、更に疑心に晒されるはめになった。
月日は過ぎてクリスマスを経由し、被害者は更に二人増えた。その内の一人は、パー
シーの彼女さんだったらしく、その日からパーシーは沈みこんだままだった。
そこに漸く、ポリジュース薬が完成した。今はまだ冬季休暇中。マルフォイは学校に
残っていた。
今回、秘密の部屋について、何かしら知っていると思われるマルフォイから、情報を
引き出すために、彼に近しい人たちに変装することになっている。その変装に、ポリ
﹂
ジュース薬は絶対に欠かせないアイテムだ。
?
﹁すまんがオレは実行の日の夜、校長に呼び出されている。三人だけに任せる形になる
﹁じゃああとはクラッブとゴイルか﹂
﹁私はミリセント・ブルストロード。ローブに彼女の髪が付着していたわ﹂
﹁結局誰が何を飲むの
10. 蛇語とポリジュース薬
601
が﹂
﹁じゃあ私がクラッブのを飲むね。ロンはゴイルで﹂
﹁わかった﹂
クラッブとゴイルの髪の毛はまだ採取していなかったので、今夜採ることにした。因
みに二人とも学校に残っている。
私達は少し強めの眠り薬で三人を眠らせ、薬の効く一時間のみ、彼らと入れ替わるこ
とになった。ただ、そのまま薬を飲ませるわけにはいかないので、私達はマドレーヌに
それを仕込み、待ち伏せした。
大広間の外にマドレーヌを二つおき、魔法で空中浮遊させる。これはクラッブとゴイ
ル用だ。ミリセントはハーマイオニーがどうにかするみたいで、そちらは任せた。
それにしてもシロウ、校長先生の呼び出しってなんだろう
?
た。
⋮⋮うん。この子たち馬鹿なのかなぁ
普通あんな怪しく浮いてるものに、躊躇な
躊躇もなくそれを手に取り、かぶり付いた。そしてすぐに眠り薬が効き、その場に倒れ
実に幸せそうな顔をしながら出てきた。そして宙に浮くマドレーヌを見つけると、何の
私が考え事をしていると、大広間から大量のマフィンを抱えたクラッブとゴイルが、
?
602
く手を出しはしないけど。
まぁ計画はうまくいったので、私達は髪の毛をそれぞれ一本採取し、三階女子トイレ
の個室に押し込めた。そしてハーマイオニーからコップに入ったドロリとした薬を受
け取り、髪の毛を投入した。
薬は私のは褐色となり、ロンはカーキ色、ハーマイオニーは黄土色になった。
それじゃあ⋮⋮﹂
試しに声を発すると、声までもクラッブになっていた。
ラッブとなった。
なく膨張と収縮を繰り返し、私の体を大きくしていった。そして数秒後、私の外見はク
暫く気持ち悪いのが続くと、今度は私の表面が泡立ち始めた。泡は決して弾けること
なったけど、私はそれを堪えた。
体 が 内 側 か ら 焼 け る よ う だ。絶 え 間 な く 吐 き 気 が 私 を 襲 う。中 の も の が 出 そ う に
れ個室に駆け込んだ。
⋮⋮うん、不味い。もう一杯なんて決して言わない。ロンとハーマイオニーはそれぞ
?
効果は一時間だけ、忘れないでね
?
私達は薬を一気に飲み干した。
﹁いい
10. 蛇語とポリジュース薬
603
604
なんか複雑。私女の子なのに。
まぁ取り合えず成功だ。ロンもゴイルの姿になり、個室から出てきた。でもハーマイ
オニーはトラブルが起こったらしく、結局私とロンの二人だけで動くことになった。
結論から言うと、大した収穫はなかった。
新しくわかったのは、前回部屋が開かれたのは五十年前。そのときマグル出身の女生
徒が一名死亡、たったそれだけだ。部屋に潜む怪物については、何一つ判明しなかった。
そしてハーマイオニーだけど、どうやら彼女が使ったのはミリセントの髪の毛じゃな
く、猫の毛だったらしい。ハーマイオニーは顔は猫になり、毛がはえ、尻尾まで付いて
いた。
ポリジュース薬は、動物の毛を使用してはいけない、人間の一部のみである。けど
ハーマイオニーは猫だった。
そのせいで、一時間経過しても変化は解けることなく、寧ろ毛玉を吐いたりと酷かっ
たので、私達は彼女を医務室に連れていった。マダム・ポンフリーには、魔法の失敗で
こうなったと伝えてる。間違いではないし。
結局ポリジュース薬を使った今回の調査は、ほぼ無駄骨となった。
試しにインクを一滴、適当に開いたページに落とした。すると、インクはみるみる内
ドル﹂って書かれている。ということは日記帳か。
おらず、どのページもまっさらだった。裏表紙には金文字で﹁トム・マールヴォロ・リ
その日の夜、皆が寝静まった頃に机に向かい、本を開いた。中には何一つ書かれては
査することにした。
シロウには、怪しいものには手を出すなって言われてるけど、今回私は独断で自己調
も関わらず、乾いた状態だった。
に浸かっていたのを拾った。その本は拾い上げたとき、推測結構な時間水中にあったに
マートルのいる三階の女子トイレに、黒革表紙の本が一冊、マートルの逆流させた水
あ、でも一つだけ変なことがあった。
のといないのとでは、だいぶ差がでる。
未だ秘密の部屋の化け物に、皆は怯えているけど、それでもいつものメンバーがいる
ハーマイオニーも無事退院し、私達の日常は少しだけ戻った。
11. リドルの日記、そして新たな被害者は⋮⋮
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
605
に吸い込まれ、またページはまっさらな状態になった。ページを捲ったりしたけど、裏
写りしたり染みになった様子はない。
今度は余分なインクを落とし、自己紹介文を書いてみた。
私は一抹の望みを掛けて、更に文を書き込んだ。
十年前。偶然かはわからないけど、秘密の部屋の開かれた年と同じだ。
労賞なるものがある。そこには、このトム・リドルの名前も刻まれていた。年は確か五
そう言えば、ホグワーツで素晴らしい働きをした生徒に贈られる、ホグワーツ特別功
ということは危険物なのだろう。
何と返事が返ってきた。でも少しだけ掠れていた。首もとのネックレスが淡く光る。
﹃初めまして、マリナ・ポッター。僕はトム・リドルです。﹄
た。
すると私の文字は間もなく吸い込まれ、代わりに私のではない文が浮かび上がってき
﹃私は、マリナ・リリィ・ポッターです。﹄
606
﹃あなたは秘密の部屋について、何かご存知ですか
﹃はい﹄
返ってきたのは肯定。
がってきた。
﹄
・
・
せっかくの手掛かりが無駄になったと落胆していると、ページに更に文が浮かび上
ならばとそれについて教えてくれるか書き込んだ。しかし返答は否だった。
?
担架に乗せられていたのは、誰かの遺体だった。しかも女性のものだ。いきなり嫌な
りと力無く垂れていた。
運ばれてきた担架をじっと見つめている。白い布が被せられたそれからは、右腕がだら
どうやらここはホグワーツらしい。目の前の階段を見上げると、一人の青年がいた。
い輝きを放ち始めた。私はその中に吸い込まれ、気がつけば周りが白黒の世界にいた。
そして日記のページは勝手に捲られ、真ん中ほどで止まった。そして本ののどが、眩
﹃見せることならできます。﹄
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
607
﹂
ものを見せられたけど、私は我慢して青年に近づいた。
﹁すみません、あなたがトム・リドルですか
﹁リドルかね
こちらに来なさい﹂
彼は暫く城内を歩き回ると、ある一つの扉の前で立ち止まり、そして杖を抜いた。扉
私はそのままリドルの後を追うことにした。
ダンブルドアに呼ばれた青年、リドルは彼の元へと行き、二言三言話すと立ち去った。
ちらへと顔を向けると、そこには今より少しだけシワの少ないダンブルドアがいた。
ふと階上から声が響いた。それは随分と若々しいが、聞いたことがある声だった。そ
?
そう判断した私は、大人しくことの成り行きを見ることにした。
はできても、干渉することはできない。
それに日記は私に見せると言った。であるなら、ここは誰かの記憶の中、私は見ること
そこでふと気が付いた。この世界で色を持っているのは私だけ、あとは全て白黒だ。
しかし青年はこちらを見ない。それどころか、私の声が聞こえているかも怪しい。
?
608
こ
こ
へと耳を寄せ、中の音を聞いている。私も聞き耳を立ててみた。
﹁おいで。お前さんを城内から出さなきゃなんねぇ。アラゴグ、こっちに﹂
⋮⋮今の声、それにしゃべり方。まさか。
そのときトムは、その扉を勢いよく開いた。中の人物は、同時に何かの鍵を掛けてい
た。
﹂
!!
﹁コイツじゃねえ
コイツは何もしてねえ
﹂
!!
﹁だが真っ先に疑いがかかるのは君だよ。さぁ、そこをどいて﹂
!!
﹁ハグリッド、噂は本当だ。女生徒が一人、何者かに殺された﹂
﹁トム、おめぇ⋮⋮﹂
やっぱりハグリッドか。トムはハグリッドに杖を向けていた。
﹁トム
﹁ハグリッド﹂
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
609
﹁嫌だ﹂
﹂
制
開
封
﹁どくんだ、ハグリッド
﹁嫌だ
強
﹂
!!
﹁﹃システム・アペーリオ﹄
!!
蛛
よ
去
れ
﹂
﹂
!!
そこまでだった。
そしてリドルはハグリッドを今回の犯人と断定し、そのままつき出すことを告げた。 ハグリッドは追いかけようとしたけど、再びリドルに杖を向けられ、動きを止めた。
去っていった。
リドルの杖から再び閃光が飛ぶが、蜘蛛は辛うじてそれを避け、そのまま何処かへと
﹁﹃アラーニャ・エグズメイ﹄
蜘
が、ものすごい素早さで出てきた。蜘蛛はそのまま部屋の外に走り出した。
蓋を破壊した。すると箱の中からは、タランチュラが可愛く思えるほどの大きな蜘蛛
リドルが杖を振ると、杖先から閃光が飛んで、ハグリッドの背後にあった箱に直撃し、
!!
610
視界は再び眩い輝きに埋め尽くされ、気がつけば私はもとの時代、自分の座っていた
椅子にまた座っていた。日記は閉じられている。
確信した。この日記はそうとうな危険物だ。
私は急いで日記を布にくるみ、私用の使っていない、ベッド脇の小棚の奥に仕舞いこ
んだ。これは使うたびに飲み込まれる。私の本能がそう告げていた。明日、今見たこと
も含めて、シロウとロン、ハーマイオニーに報告しよう。私はそう考え、遅い眠りにつ
いた。
明くる日、新学期初日の授業が終わったあと、私は三人に昨晩のことを話した。
﹂
﹂
﹂
シロウは始め、顔をしかめていたけど、話が進むと何やら考え込み始めた。
﹁なに
?
﹁箱から出てきたのは、確かに蜘蛛なのだな
?
﹁蜘蛛に
秘密の部屋じゃなくて
?
﹂
﹁うん。それにハグリッドがその蜘蛛に関係あるみたい﹂
?
﹁⋮⋮一ついいか
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
611
?
﹁うん、だって秘密の部屋の﹃ひ﹄の字も掠らなかったし﹂
る
﹂ウェイッ
﹂
ってね﹁毛むくじゃらだと
?
?
?
最近毛むくじゃらのおかしなやつを見なかった
俺のことか
!?
首を横に振った。
?
﹁⋮⋮一人怪しい奴はおるが、まぁええ。お前さん達も、余り遅くまで外にいるなよ
最近は物騒だからな﹂
まぁ取り合えず私とロンとハーマイオニーは即座に否定し、シロウは少し間を空けて
剣吾君のような反応をした。
ロンは後ろにいたハグリッドに気づかなかったらしい。突然声をかけられて、まるで
?
?
﹁ならいっそのこと聞いてみようぜ お茶を装ってさ。やぁハグリッド、教えてくれ
ぱっと顔を上げた。
四人して黙って考え込んだ。暫くすると、ロンは名案が浮かんだとでも言うように、
﹁まぁ、そうだけどさ⋮⋮﹂
612
ハグリッドはそう言うと、
﹃肉食ナメクジ強力駆除剤。マンドレイク用﹄と書かれた容
器を片手に、温室の方向に去っていった。
﹂
シロウならある程度対処がわかるかもしれないし﹂
?
﹁二人とも
部屋が荒らされてる
﹂
!!
私達四人はその言葉を聞くと、すぐに走り出した。流石にパーバティは疲れているの
!!
暫く荒い息を繰り返すと、鬼気迫る形相で私とハーマイオニーに顔を向けた。
しながら立ち止まった。
すると前の方から、同級生のパーバティが走ってきた。そして私達の前で、息を切ら
私達はそのまま寮に向かった。
﹂
あ、うん。今は小棚の奥にある。ヤバイものだと思ったから布にくるんで﹂
﹁⋮⋮マリー。日記は今何処に
?
﹁わかった。すまないが、それをオレに渡してはくれないか
?
﹁いいよ
?
﹁ふぇ
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
613
で、シロウが抱えていたけど。そして男子二人は談話室に待たせ、私達女子は急いで部
屋に入った。
中は散々たる状況だった。
あらゆるものがひっくり返され、壊され、荒らされていた。私の小棚も例外ではない。
嫌な予感がしたので、まず最初に小棚に向かった。
﹂
?
﹁
﹂
﹂
?
!!
誰の日記
?
﹁そんな⋮⋮
﹁そして見つけた。リドルの日記が盗まれている﹂
﹁何か⋮⋮重要なものを探していた。それ以外考えれない﹂
いた。そして発見した。
ハーマイオニーとパーバティは話している。私はその間に小棚の中を丁寧に調べて
﹁でも何のために
﹁⋮⋮これ、犯人はグリフィンドール生しかいないわ。それも女生徒だけよ﹂
614
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
615
そう、トム・リドルの日記が盗まれていた。誰かは知らないけど、恐らくその日記に
魅せられた人が、この事態を作り出したのだろう。
私は談話室に降りていき、二人にことの次第を説明した。ロンはショックを受けた顔
をした。シロウは再び何か考え込む表情をうかべ、そして袖から出した金属製の小鳥に
何事か話し、そのまま談話室から出ていった。
そのときのシロウは、何か切羽詰まった表情をしていた。
││││││││││││││││││││
更に日数は過ぎ、今日は今年何度目かのクィディッチのゲームデイだ。今日の勝敗
は、今年のクィディッチ優勝がかかる、非常に重要な試合だ。
私は控え室から他の選手と一緒に、ピッチへと向かう通路を歩いていた。ロンは試合
前にシロウからハチミツレモンを持たされ、選手に振る舞っていたので一緒にいる。因
みに言うと、シロウとハーマイオニーは調べものがあるとかで、あとから観客席に向か
うそうだ。
と、通路の向こうからマグゴナガル先生が走ってきた。とても慌てた、そしてショッ
クを隠せない顔をしている。
﹂
!?
かる試合なのだ。私も先生の発言に驚きを隠せない。
マグゴナガル先生の言葉に、ウッドは非難めいた声をあげた。仕方がない。優勝がか
﹁そんなッ
﹁この試合は中止です﹂
616
﹁緊急事態です。皆さんは着替えずに寮に戻って。ポッターとウィーズリー三兄弟は私
と共に﹂
マグゴナガル先生はそう告げると、そのまま私達を伴って歩き出した。ジョーダンさ
んのアナウンスで、観客席の生徒達も寮に戻るよう告げられる。
最初私達五人は何処に向かっているかわからなかったけど、暫く歩くと医務室に向
かっているのがわかった。
なんだろう、とても嫌な予感がする。
医務室につくと、ある二つのベッドに案内された。マダム・ポンフリーがさその二つ
の間に立ち、沈痛な顔をしている。⋮⋮まさか。
!?
﹁﹁ハーマイオニーッ
﹂﹂
そこに横たわっていたのは⋮⋮
マグゴナガル先生はそう言うと、まず片方のベッドのカーテンを開けた。
﹁ショックを受けると思いますが⋮⋮﹂
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
617
﹁﹁石化してる
﹂﹂
今までの被害者と同じく、石化していた。
ハーマイオニーだった。
!?
?
﹁⋮⋮嘘だろ⋮⋮﹂
私は予想が違うことを願った。でもそれは、更に上をいく状態で裏切られた。
一つはハーマイオニーだった。ならもう一つはまさか⋮⋮
ゴナガル先生は、そのまま隣のベッドに移動した。
先生が聞いていたけど、私達は首を横に振った。全く何の心当たりがなかった。マグ
﹁⋮⋮何か心当たりはありますか
﹂
マグゴナガル先生は小机の上の、小さな手鏡を手に取った。
﹁⋮⋮彼女は図書館の近くで発見されました。脇にはこれが⋮⋮﹂
618
﹁ありえねぇ﹂
﹁誰がやったんだ⋮⋮﹂
﹁ああ⋮⋮そんな⋮⋮シロウ
﹂
状態で眠ってるシロウだった。石化はしていない、でも包帯には血が滲んでいる。
カーテンが捲られた先には、苦しそうな表情を浮かべ、頭以外全身を包帯で巻かれた
!?
マグゴナガル先生は重々しく言葉を紡ぐ。
す。彼はその怪物に、大きな顎で一噛みされたようです﹂
が、襲撃者の保有する毒を、サンプルとして私達に⋮⋮敵はとてつもなく大きな怪物で
﹁彼は発見されたとき、まだ意識がありました。犯人を聞き出す前に眠りにつきました
シロウは⋮⋮犯人と戦ったのだろうか⋮⋮
て襲撃者の物と思われる血痕も﹂
﹁彼はグレンジャーから少し離れたところで。付近では戦闘の形跡がありました。そし
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
619
そこにダンブルドア先生が、医務室にやってきた。そして私達の元へと近づいてき
た。
﹂
?
﹁そんなッ
じゃあシロウは
﹂
!!
﹂
?
﹁いえ、私はただ包帯を巻いただけです。恐らくこれは彼自身の治癒力でしょう﹂
なっておる。ポピー、薬を塗ったのかのう
分は経過しておるが、未だ死んではおらん。それに少しずつじゃが、出血量も少なく
﹁本来ならば、じゃ。だがシロウは何でか抗力を持ってるようでの。襲撃から推定30
思わず声を上げたら、マグゴナガル先生に諌められた。
﹁ポッター、落ち着いて。まだ話は終わってないですから﹂
!?
の悪いことに、傷も塞がらん﹂
﹁うむ。あの毒は、本来ならば五分とかからぬ内に、対象を死なせるものじゃ。加えて質
﹁それは何なのですか
﹁毒の効力がわかった﹂
620
どうやら話を聞く限り、シロウは死なないらしい。今はスネイプ先生が、急いで血清
を作っているらしい。
一先ず安心し、でも悲壮感を隠せないまま、私達はグリフィンドール寮に向かった。
寮に着くと、マグゴナガル先生が手に持った巻き紙を開き、内容を声に出して読み始
めた。
﹁あの⋮⋮ハーマイオニーとシロウがいませんけど⋮⋮﹂
なことが続けば、そうせざるを得ません﹂
﹁残念ながら現在ホグワーツを閉校する、という話も出ています。私達も、今後このよう
た。
先生は再び紙を巻くと先ほどの厳しい表情を崩し、悲しさを隠そうともしない顔をし
での行動は、決してしないように。例外は認められません﹂
教師が必ず一人付きます。クラブ活動、クィディッチも無期限禁止です。それから一人
﹁生徒は本日より、6時以降は食事を除き、寮の外に出ないこと。日中間の教室移動は、
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
621
同級生のパーバティが、マグゴナガル先生に問いかけた。その質問に周りのみんな
も、そういえばと二人の姿を探した。
﹂﹂﹂
﹁⋮⋮ミス・グレンジャーは今回の被害者の一人となりました﹂
﹁﹁﹁⋮⋮え
﹂
﹂
﹁あのエミヤが
﹁嘘だろ⋮⋮﹂
﹁なんだって
﹁⋮⋮ミスター・エミヤは⋮⋮今回の襲撃者と戦闘を行い、意識不明の重体です﹂
寮のみんなはショックを受けた声や、顔を浮かべる。
﹁そんな⋮⋮﹂
?
た人たちは、シロウが規格外人物と認識し、ダンブルドアの次に無敵の存在では
と
シロウの重体宣告に、グリフィンドール生はどよめきだした。決闘クラブの顛末を見
?
!?
各々推測を立てていた。
?
622
そんな彼が重体となるほどの犯人。絶望は並々ではない。
﹂
﹂﹂﹂﹂
﹁⋮⋮ミスター・エミヤが⋮⋮消えました﹂
﹁﹁﹁﹁⋮⋮はい
﹂
﹂
と、そこにマダム・ポンフリーが慌ただしく転がり込んできた。何やら緊急事態のよ
ミスター・エミヤは
う。もしかしてシロウになにか
﹁み、ミネルバ
!?
?
と共にいなくなったのです
!!
!!
れ落ちる。
私は気がつかないうちに、床に座り込んでいた。視界が歪み、暖かいものが目から流
たらしい。
ダンブルドア先生だけでなく、様々な先生が捜索したけど、一切の手掛かりが無かっ
まだ動ける体でないのに⋮⋮いったい何処へ⋮⋮﹂
﹁もぬけの殻です ベッドには血の付いた包帯だけが残されており、新品の包帯三巻
﹁何ですって
!? !?
?
!!
﹁お、落ち着きなさいポピー。エミヤに何かあったのですか
11. リドルの日記、そして新たな被害者は……
623
624
その日、エミヤシロウは行方不明となった。
12. アラゴグとの邂逅
Side マリー
全てが灰色に見えた。
ハーマイオニーが石化し、シロウが行方不明になった日、私はいつの間にかベッドに
寝ていた。周りには心配そうに私を見つめる同級生がいた。
ハネジローも私の側から離れなくなった。食べ物の味も感じられない。無気力に過
ごす毎日。フレッドとジョージの馬鹿げた悪戯にも笑えない。ただただ秘密の部屋に
ついて、時間があれば食事をとることなく調べていた。そんな私に、同級生や教師陣は
休むように言った。
﹂
?
﹁ミス・ポッター、今日は休みたまえ。そのような状態で我輩の授業を受けさせるわけに
﹁いい。大丈夫﹂
﹁マリー、1度休んだ方が良いよ。もう朝と昼を抜かしてるだろ
12. アラゴグとの邂逅
625
はいかん﹂
けてしまった。
ただ、何処にいるかは依然判明せず、手紙を持ってきたシロウの使い魔も、その場で砕
最近行方不明だったシロウから手紙がきて、ちゃんと生きていることが確認できた。
ハネジローと一緒に、大広間へと向かっていた。
ハーマイオニーが襲われて以来、石化事件が起きないある日の午後、ロンと肩に乗る
罪していた。自業自得だ、かける情けはない。
因みに言うと、ロックハートはそのあとすぐに全ての小人を回収し、被害者全員に謝
ら私の被害は殆ど無かった。
し、最大出力のオリジナルスペルをぶち当てただけで、そいつは大人しくなった。だか
その日に変な小さい小人が付きまとってきたので、少し廊下の向こうまで蹴り飛ば
かった。
バレンタインデーにロックハートが何やらまた騒動を起こしていたけど、どうでも良
そんな状態が二月続いた。
﹁大丈夫ですから﹂
626
シロウとのラインも、受け取り拒否をしているのか、辿ることはできない。でも今は
生きていることを知れただけで十分だった。
それ以来、食事と休養は十分にとってる。今も昼食を食べに行くところだ。
歩いている間、私は無言で考え事をしていた。行方不明のシロウについてわかるの
は、世界を移動したのではないということ。何故なら、世界を移動するときに感じられ
⋮⋮あ﹂
﹂
る、ゼルレッチさんの独特の力の流れを感じなかったからだ。だからシロウは、確実に
この世界にいる。
どうしたの
﹁クモ
?
﹁⋮⋮ロン
﹂
久しく見る光景だ。
ハネジローに話しかけられ、壁をみた。ここ最近見ていなかった蜘蛛の行列だった。
?
?
﹁パム、マリー﹂
﹁ん
?
﹁かーべ、クモ﹂
12. アラゴグとの邂逅
627
﹁⋮⋮うぇ∼⋮⋮﹂
﹁ごめん、でも今は我慢してもらえる
﹁⋮⋮うん﹂
﹂
﹁⋮⋮ロン﹂
﹁なに
﹁今晩ハグリッドの所にいこう﹂
?
﹂
小屋の前まで誰にも会わず、無事に扉までたどり着いた。ノックすると、中から弩を
編みにして先をリボンで結んでる。
みに髪はこの一年で長くなり、背中までかかるようになって少し邪魔なので、今は三つ
その夜、二人でマントに入り、できるだけ静かにハグリッドの小屋へと向かった。因
﹁⋮⋮お父さんの透明マントを使いましょう﹂
﹁いいけど、どうやって抜け出すのさ
﹂
は、我先にと行列をなし、外に向かって逃げ出していた。
何でまた。今回は今までのように、変な声は聞こえてこない。にも関わらず蜘蛛たち
?
?
628
構えたハグリッドが出てきた。
﹁そこにいるのは誰だ。言っとくがこちらには武器があるぞ﹂
ハグリッドは警戒したまま声を発する。あ、マントを脱ぐのを忘れてた。矢を放たれ
たくなかったので、私達は急いでマントの中から出てきた。途端ハグリッドはホッとし
た顔を浮かべた。
﹁何だお前さんたちか。入れ、丁度茶を入れたとこだ﹂
ハグリッドに促され、私達は小屋に入った。因みにハネジローは私のベッドで寝てい
る。今回は連れてこなかった。
ハグリッドはカップにお茶を注いでいたけど、その手は震えていた。
﹁ああ、聞いた。なんてことだ⋮⋮﹂
﹁ハグリッド、ハーマイオニーとシロウのこと⋮⋮﹂
12. アラゴグとの邂逅
629
ハグリッドはぼやきつつ、お茶を私達に差し出した。私とロン、ハグリッドは、暫く
﹂
黙ってお茶を飲んだ。そしてカップの中のお茶を飲み干したあと、早速本題に入ること
にした。
!?
こんなときに
!?
﹁ねぇハグリッド、聞きたいことが⋮⋮﹁こんばんは、ハグリッド﹂ッ
︶
こ、この声はダンブルドア先生
︶
︵早く、マントに入れ
︵うん、ロン
!!
要するに権力というものの味をしめている。この人、自分にとって都合の悪いことから
この人、そうとう高い地位におり、尚且つ権力を御しきれずに逆に踊らされている。
このおじさんを見て、私は漠然と感じた。
んが入ってきた。
ハグリッドの小屋にダンブルドア先生と、見たことのない、小柄で小太り気味なおじさ
私達は小声で話し、自分達のカップを持って、急いでマントに入った。入ると同時に、
!!
!?
630
目を背け、現実を直視しないタイプだ。
﹁ハグリッド、状況が良くない﹂
おじさんが喋り出す。
なに
︶
︵パパのボスだ︶
︵え
?
進む。
!!
﹁また俺をアズカバンに連行するのか
また何もしてねえのにあんな思いをさせられ
﹁現に被害者が出ておるんだ。これは暫定的な処置なんだ、わかってくれ﹂
﹁まさか、また俺を疑ってんのか
﹂
ロンがギリギリ聞き取れる程の声でおじさんの説明をする。その間にも彼らの話は
︵コーネリウス・ファッジ、魔法省魔法大臣。イギリス魔法界のトップだ︶
?
﹁状況は五十年前と同じだ﹂
12. アラゴグとの邂逅
631
!!
るのか
﹂
!!
﹂
?
﹁バカな
こんなときにか
﹂
!?
﹁⋮⋮成る程のう﹂
﹁委員会全員の署名があります﹂
!?
そう言ってルシウスさんは、巻き紙を一つ取り出し、ダンブルドア先生に差し出した。
﹁教育委員会を代表しましてね。これを⋮⋮﹂
﹁ルシウス、何しにきた
﹁こんばんは、皆さんお揃いで﹂
と、再び扉が開かれた。入ってきたのはマルフォイの父親、ルシウスさんだった。
者として今回も関わっていると決めつけているようだ。
激昂するハグリッドをダンブルドア先生が宥める。対する大臣は、ハグリッドが前科
﹁だがダンブルドア⋮⋮﹂
﹁ハグリッド、落ち着きなさい。わしは君を信じとる﹂
632
どうやら重大なことらしい。ハグリッドと大臣の驚きようが普通じゃない。
また死者がでてもいいのか
﹂
﹁正気か いまダンブルドア先生が出てっちまったら、ホグワーツのマグル生まれ全
員が被害にあうぞ
!?
⋮⋮絶対気づいている。目が笑ってたもん。
ダンブルドア先生はほんの一瞬だけこちらに視線を向け、出口に向かった。
が与えられる﹂
う。じゃが一つだけ、覚えておくが良い。ホグワーツでは助けを求めた者にのみ、それ
﹁よいよい。ハグリッド、良いのじゃ。委員会がそう言うなら、わしはそれを受諾しよ
!?
!?
ハグリッドもそう言い、ダンブルドア先生についていった。
わかる。俺が言いたいのはそれだけだ﹂
﹁もし本当のことを知りたければ、蜘蛛の後を追いかけりゃええ。そうすりゃちゃんと
12. アラゴグとの邂逅
633
﹁おっと、俺がいない間ファングに餌をやっといてくれ﹂
ハグリッドはそうつけ足し、今度こそ小屋から出ていった。他の面子もそれに続き、
小屋から出ていった。
﹂
マントを被ったまま窓から外を確認し、皆の姿が見えなくなってから、私達はマント
を脱いだ。
壁には、また小さな蜘蛛が行列をなしている。
﹁⋮⋮ロン﹂
﹁わかってるよ、蜘蛛の後を追いかけたいんでしょ
﹁うん﹂
?
まぁどうでもいいけど。
?
小屋から出るといつの間にか来てたのか、ハネジローも待機してた。蜘蛛の行列は、
ニーは撃ち抜かれたのかな
外に出た。何だかんだ言いつつも、こうやって男らしいとこ見せるから、ハーマイオ
何で蝶々じゃなくて蜘蛛なの
、なんてぼやきつつも、ロンはカンテラに灯をともし、
﹁嫌だけどついてくよ。なんかマリー一人だと心配だ﹂
?
634
少なくとも30分は歩いている。
森の中までつづいている。私達は蜘蛛を踏みつけないように気を付けながら、森の中へ
入っていった。
どれ程歩いただろうか
帰るときどうしよう
非常に心配だけど、それでも私達は先を進んだ。
普通の街中なら30分は大したことないが、森の中での30分は最悪命取りになる。
?
に入っていっている。
暫く進むと、開けた場所に出た。その向こうには大きな穴がある。蜘蛛たちはその中
?
がいるのだろうか
しゃがれた、年老いた声が響いた。耳に聞こえたわけではない。念話のように、直接
┃┃ ⋮⋮誰だ⋮⋮
?
何となく蜘蛛達がそう言ってるのがわかった。ということは、あの穴の中にアラゴグ
︵アラゴグ⋮⋮アラゴグ⋮⋮︶
12. アラゴグとの邂逅
635
頭の中に話しかけられている感じだ。
┃┃ ⋮⋮ハグリッドか
?
ハグリッドのご友人の﹂
?
┃┃ 然り。ハグリッドはわしが卵の頃から大事に育ててくれた。それだけでなく、
﹁はい、初めまして。あなたがアラゴグさんですね
成る程、先程から話しておるお前が、マリナ・ポッターか。
┃ ┃ い か に も。こ の 目 は も う 光 を と ら え る こ と は 出 来 ぬ。だ が 音 は ま だ わ か る。
﹁⋮⋮あなたは、もしや目が﹂
ロンは私の隣で顔をひきつらせていた。
眼は、白く濁っている。
姿を表したのは、軽くワゴン車程の大きさはある、巨大な大蜘蛛だった。その八つの複
すると穴の奥から、何かが蠢く音と関節の軋む音、空気が動く音が聞こえた。そして
声に対し、私はそう応じた。 です﹂
﹁いいえ。ハグリッドの友人のマリナ・リリィ・ポッター、そしてロナルド・ウィーズリー
636
わしのために嫁も見繕ってくれた。そのお陰でこうして子にも恵まれている。
アラゴグの言葉に、上から何匹もの大蜘蛛が、糸を引きながら降りてきた。殆どがイ
ングリッシュマスティフに迫る程の大きさだ。即ちそうとうデカイ。
┃┃ して人の子よ。何故わしらの前に出てきた。
きた。
ここからは慎重に話を進めなければならない。下手をすると、私とロンとハネジロー
は、この子たちの夜のおやつになりかねない。
ます﹂
┃┃ なんだと
支えなければ、何でも良いです。情報を教えていただけませんか
﹂
﹁私達はハグリッドの無実を証明すべく、秘密の部屋の情報を集めています。もし差し
?
﹁その日から五十年経ったつい先程、再びハグリッドが濡れ衣を着せられようとしてい
┃┃ そうだ。あの小僧のせいでハグリッドは無実の罪に問われた。
﹁五十年前、ハグリッドが濡れ衣を着せられたことはご存知だと思います﹂
12. アラゴグとの邂逅
637
?
私は今の状況を、出来るだけ誤解されないよう丁寧にアラゴグさんに説明した。彼は
暫く黙っていた。その間にも、彼の子供たちは包囲網を少しずつ、でも確実に縮めてく
る。
﹂
┃┃ わしらはその話を決してしない。だが敢えて言うとすれば、そこに潜む怪物は
わしらにとって忌むべき存在であることだ。
﹁忌むべき存在。つまり、天敵ってことですね
┃┃ そうだ。
成る程。だいたい解った。これで怪物の正体に一歩近づいた。
﹁貴重な情報をありがとうございました。では私達はこれで﹂
┃┃ 帰るのか
?
┃┃ 先程から疑問に思っていたが、貴様らは本当にハグリッドの友なのか
﹁え、ええ。早くハグリッドを連れ戻したいですし﹂
﹁え、ええ﹂
?
?
638
ま、不味いかも。このままだとおやつタイムルートにまっしぐらだ。
┃┃ 証明するものは
飛び出した。
今ここで攻撃すべきか悩んでいると、先程から私の服の中に隠れていたハネジローが
を構える。ロンも、破損箇所をスペロテープで辛うじて繋げている杖を取り出した。
私は頭の中に攻撃用の呪文を、いくつか思い浮かべた。そしてポケットに入れてた杖
周囲の蜘蛛達も、包囲網を縮めてきた。ロンは泣きそうな顔をしている。
?
┃┃ む
その声は、ムーキットか
﹁パーム、アラゴグ、ひさしぶり﹂
?
だったのね。
周りの蜘蛛達は、動きを止めた。というかハネジロー、あなたアラゴグと知り合い
?
﹁パムパムー﹂
12. アラゴグとの邂逅
639
┃┃ お前の友だと
アラゴグさんはそう言うと、再び穴の中に戻っていった。もう話すことは無いのだろ
┃┃ 早く行け
﹁パーム﹂
﹁⋮⋮ありがとうございます。ハネジローもありがとう﹂
リナ・ポッターよ。
┃┃ 今回はムーキット、ハネジローに免じて見逃す。だが心せよ。次はないぞ、マ
﹁⋮⋮あの﹂
ハネジローは私の元に戻ってきた。
カチカチ鳴らした。すると私達を囲んでいた蜘蛛達は、再び木の上に登っていった。
ハネジローの言葉に、アラゴグさんは黙りこんだ。暫くすると、アラゴグさんは鋏を
﹁パーム、マリー、いってる、ホントウのこと﹂
?
﹁パム、ハネジロー、マリー、ともだち﹂
640
う。長居するとお夜食コースになるので、私達も退散することにした。
でも帰り道がわからない。とりあえずどの方向から来たかは覚えていたから、その方
向に歩き出した。
途中から私達の前を、一匹のレトリバー大の蜘蛛が歩き始めた。歩く途中で止まって
こちらを確認したり、歩くペースをこちらに合わせている。恐らく道案内をしてくれて
いるのだろう。私達は黙ってその蜘蛛についていった。
行きの半分ほどの時間で、ハグリッドの小屋に到着した。ロンは非常にホッとした顔
をしている。まぁ苦手な蜘蛛がとても大きく、加えてあんなに沢山いたのだから無理も
ないだろう。
しい。
30秒程すると、蜘蛛はバスケットボール大の糸玉を差し出してきた。私にくれるら
先をモゾモゾと後ろ足でいじり始めた。
私がお礼を言うと、道案内してくれた蜘蛛はカチカチと鋏を鳴らした。そしてお腹の
﹁ありがとう。あなたのお陰で無事に出れたわ﹂
12. アラゴグとの邂逅
641
﹁ありがとう、大事にするね
﹂
だということ。たぶん蛇関係のね﹂
﹁やっぱりハグリッドは無実だったことと、秘密の部屋の怪物は、蜘蛛の天敵となる存在
ロンが聞いてくる。今回確信できたのは二つある。
﹁ねぇ、結局何がわかったの
﹂
蜘蛛は再度鋏を鳴らし、そのまま森の中へと去っていった。
に髪を結んでいたリボンを、この子の足に結びつけた。
この子なりの友好の証なのだろう。だから私はありがたく受けとることにし、代わり
?
?
642
12. アラゴグとの邂逅
643
││││││││││││││││││││
それから二、三日経過した。
石化の被害者はあれから増えていないけど、シロウは未だ行方知れずだった。でも教
師陣にも彼が無事に生きていることは、スネイプ先生とマグゴナガル先生経由で伝わっ
ているらしい。
グリフィンドールの生徒も、マグゴナガル先生経由でそれを知り、一先ず安堵してい
た。
そんなとき、また寮に生徒が集められた。でも今回は、マグゴナガル先生の顔が綻ん
﹂
﹂
でいる。ということは、きっと良いニュースなのだろう。
﹁皆さんに朗報です﹂
﹁犯人が捕まったのですか
﹁クィディッチが再開されるんですね
と、パーシーがマグゴナガル先生に近寄っていった。
への第一歩が踏み出されたのだ。嬉しくないわけがない。
マグゴナガル先生がそう言うと、談話室は歓声に包まれた。それはそうだ。事件解決
るでしょう﹂
熟するようです。このまま順調にいけば、今週辺りにも、石になった生徒達を蘇生でき
﹁違います。ですが、薬草学のスプラウト先生によると、もう間もなくマンドレイクが成
皆口々に質問するけど、マグゴナガル先生は首を横に振った。
?
?
644
﹁先生、それでシロウに関しては
﹂
れた使い魔の魔術で独自に調査したらしいけど、足取りは掴めなかったそうだ。
どうやらシロウはまだ見つからないらしい。フレッドとジョージも、シロウに教えら
認できただけでも行幸です﹂
﹁残念ながら手掛かりの﹃て﹄の字もありません。どこに行ったのやら、生きていると確
に、マグゴナガル先生は少し残念そうな顔をした。
パーシーの質問が聞こえたのか、少し談話室の興奮が抑えられた。パーシーの質問
?
﹁ですが彼は30分以上は耐えたどころか、普通では考えられない速度で傷口が治癒し
マグゴナガル先生の説明に、皆は黙って意識を向けた。
ます﹂
﹁⋮⋮通常であれば彼の受けた毒は、対象を5分以内に毒殺し、加えて傷の治癒も阻害し
12. アラゴグとの邂逅
645
てました。ですから希望はまだあります﹂
マグゴナガル先生はそう言うと、寮を後にした。
先生が出ていくと、談話室は先程とは別の空気で支配された。
﹂
﹁シロウって本当に⋮⋮﹂
﹁あいつ人間か
?
⋮⋮みんな後でシロウの折檻をうけるよ
﹂
何だかんだでシロウはそういうのに敏
﹁怪物の毒に耐えられる人間って、世界中探してもエミヤぐらいじゃね
?
事件発生から半年、ようやく希望の光が見え始めた。
感だし。
?
646
石化した人間の見舞いは意味がないって言われてるけど、それでも顔を見たくなるの
か、見舞いには行ってないらしい。
それにここ2ヶ月、まともにハーマイオニーの元に行ってない。ロンも私を気遣って
かないことも出来る。
引率はロックハート。うまく丸め込めば、ロックハートをやり過ごすことも、授業に行
それはいってしまえば、サボるには持ってこいの授業であることを示す。そして今の
か、窓の外を眺めるかしている。
授業だ。でも担当のビンズ先生は一本調子で講義をするので、殆どの生徒は寝てしまう
魔法史とは、その文字通り魔法界の歴史を学ぶ授業であり、唯一ゴーストが担当する
魔法史の教室へと向かっていた。
マグゴナガル先生から朗報があった次の日、私とロンはロックハートの引率のもと、
Side マリー
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
647
は仕方がないと思う。
﹂
?
やつ
全然、何でも⋮⋮﹂
?
?
﹁先生、無理は禁物です。部屋に戻って一息ついては
﹁⋮⋮だがねぇ﹂
﹂
ことをやることが多かった。まぁバレンタインのようなことはしていたけど。
何故か授業は﹃忘却術﹄をメインにやり、課題は一切なし。なんというか、マトモな
しなくなった。
︵自身の著作の寸劇︶、変なテストをさせられたりしたけど、クリスマス過ぎた辺りから
そういえば最近彼の授業も変だ。始まったばかりの頃は、変な寸劇をやらされたり
ロックハートは焦るように言葉を繋ぐ。でも少し様子がおかしい。
﹁いや、何でもありませんよ
﹁最近先生の顔が窶れてる見たいですが⋮⋮﹂
﹁なんだい
﹁⋮⋮ロックハート先生﹂
648
ロンの言葉にも渋る。珍しい、こんなに真面目なロックハートは初めてみる。
わかった、ならお言葉に甘えさせてもらおうか﹂
﹁もう次の教室まで近いので、僕ら二人で大丈夫です﹂
﹁⋮⋮そうかい
ロックハートはそう言うと、足早に自分の事務室へと去っていった。
?
﹂
?
文字に結んだ。
合わせた。先生は私達を見つけると、これ以上結べないだろうと思わせるほど、口を一
私達は方向転換をして、医務室に足を向けた。が、暫く進むとマグゴナガル先生と鉢
もん﹂
﹁そりゃわかるさ。あの蜘蛛と会う前からだけど、医務室の前を通る度に目を向けてた
﹁うん、よくわかったね﹂
う
﹁ちょっと最近変だけど、まあいいか。それよりマリー。これから医務室に行くんだろ
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
649
﹁あなたたち、ここで何をしてるのです
﹂
!!
可します、ポッター、ウィーズリー。ビンズ先生には私から伝えておきます。マダム・ポ
﹁そうでしょうとも。一番辛いのは、被害者の最も親しい人達に決まってます。ええ許
マグゴナガル先生は静かに口を開いた。気のせいか、目の端に光るものが見える。
﹁⋮⋮そうでしょうとも﹂
私はマグゴナガル先生にそう言った。暫く誰も動かず、誰も口を開かなかった。
﹁あの日から私達は、一度も彼女の元に行けてません﹂
ジと見つめた。
しどろもどろになるロンに代わり、私が応対した。マグゴナガル先生は、私をマジマ
﹁ハーマイオニーの﹂
﹁あ、えっと⋮⋮様子を見に⋮⋮﹂
650
ンフリーには、私から許可がでたと言いなさい﹂
予想外にもマグゴナガル先生から許可が出たので、私達は一度会釈してその場を後に
した。後方からは、小さく鼻をかむ音がした。
医務室のマダム・ポンフリーも仕方がないという顔をし、ハーマイオニーのベッドへ
と通してくれた。ただ、石化した人には何を言ってもわからないとは言われたけど。
ベッドの横に立つと成る程、確かにマダム・ポンフリーの言ったとおり、ハーマイオ
ニーは私達が来たかどうかもわかっていない。私はハネジローが持ってきた花を花瓶
に生け、ベッド脇に置いた。ロンは枕元の椅子に座っている。
ハーマイオニーの右手は顔の前、左手は立った状態だろ垂らしてある位置で、硬く固
まっていた。触っても生物特有の柔かさと温かさがない。
ふと握る手に違和感があった。ハーマイオニーの左手は、何かを握りしめていた。ど
しそうな顔をしている。
私はハーマイオニーの左手を握りながらそう言った。ロンも相づちを打つように、悲
﹁今ほどあなたの力を貸してほしいと思ったことはないわ﹂
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
651
うやら丸められた紙らしい。
﹂
﹁⋮⋮ロン﹂
﹁なんだい
﹁本当 ⋮⋮取り出せるかい
僕はマダム・ポンフリーから見えないように壁にな
﹁⋮⋮ハーマイオニーが何かを握りしめてる﹂
?
?
﹁読める
﹂
﹁な ん と か。こ れ は ⋮⋮ 怪 物 の 説 明
?
⋮⋮猛毒を持つ牙⋮⋮大蛇の怪物、バジリスク。大蛇だって
﹁まさか⋮⋮これって﹂
﹂
⋮⋮ 蜘 蛛 が 逃 げ る ⋮⋮ 雄 鶏 の 鳴 き 声 が 命 取 り
ら、医務室から出て少し離れた廊下で改めて読んだ。
とったらしい。小さな活字が並んでいる。流石にここで読むわけにはいかなかったか
ロンに言われ、私は丁寧に紙を取り出した。何かのページをハーマイオニーが破り
るから﹂
?
?
﹁間違いない。ハーマイオニーは一足先に答えに行き着いてた。それにシロウは戦闘を
?
652
したから知ってるはず﹂
﹁バジリスクって確か、視線だけで人を殺すんじゃ
何で誰も死んでないんだ
﹂
?
戦闘をしたなら直接見たはずじゃあ⋮⋮いや、シロウなら魔眼の効果を
レイブンクロー生は床の水面、ジャスティンはニコラスさん越しに、コリンはカメラだ﹂
﹁それは⋮⋮誰も直接は見てないんだ。ハーマイオニーは鏡、ミセス・ノリスと他二人の
?
た。蜘蛛に関しても、アラゴグさんは自分達の天敵だと言っていた。でも⋮⋮
確かハグリッドが、いつのまにか雄鶏が殆ど殺されたって、ハロウィン前後に言って
成る程、この怪物なら辻褄があう。
かなかったかは知らないけど﹂
﹁ええ、そうね。でも完全には防げなかったから、重傷を負うことになった。何で毒が効
防ぐ、何らかのアイテムを持ってても不思議じゃないね﹂
﹁シロウは
?
﹁え
⋮⋮パイプ
?
﹂
?
っ
?
?
そうか、パイプか だから私は壁の中から、私だけ声が
﹁うーん⋮⋮あ、ここにハーマイオニーの筆跡が﹂
間の身長ぐらいよ
﹁それならどうやって移動してたの シロウの傷からして、少なくとも体の太さは人
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
653
!!
!!
でもど
!!
聞こえたんだ。私が蛇語を理解してるから﹂
﹂
?
﹁⋮⋮っ
﹂﹂
ねぇロン。私一つ思い付いたんだけど﹂
﹁奇遇だね、僕もだ﹂
﹁﹁﹃嘆きのマートル﹄が何か知ってるんじゃない
﹁やっば君もそう思ったか﹂
が、次々に繋がっていく。私達はこのあとマートルの所に行く計画を立てた。
みるみるうちに、パズルのピースが嵌まっていく。今まで断片的に判明していたもの
﹁彼女がそのとき出た唯一の死者の可能性が高くなる﹂
﹁それにもしマートルが死んだとき、それが五十年前らへんなら⋮⋮﹂
﹁ええ、彼女はトイレを住みかにしてるわ。配管については彼女が一番知ってると思う﹂
?
!!
があるはずだ。
そう、問題は入り口がどこにあるかだ。蛇用の通路が有るなら、人用の入り口と通路
うやって探す
﹁じゃあホグワーツのパイプは秘密の部屋に繋がってると考えられるわけだ
654
﹃生徒は全員、寮に戻りなさい。教職員は至急、三階女子トイレへと続く廊下に集まって
ください﹄
突如校内アナウンスが響いた。マグゴナガル先生の切羽詰まった声が聞こえた。
﹁こんなときに、また事件かよ﹂
こう。マートルのトイレのすぐ近くだし﹂
﹁現場に行きましょう。もしもの為に透明マントを持ってるから、それに入って話を聞
私達は現場まで走った。途中からマントを羽織り、現場が見えて且つ会話が聞こえる
場所で立ち止まった。すぐに教職員は集まった。
マグゴナガル先生が嘆く。指し示す壁には、いつかの夜のように、赤い血で文章が書
れたのです﹂
﹁ご覧ください、スリザリンの継承者がまた伝言を残しました。生徒が一人、部屋に拐わ
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
655
かれていた。今回は潰れている箇所が少ない。
﹃彼女・白骨は、永遠に秘密の部屋に眠る┃┃う﹄
?
いったい誰が拐われたのですか
彼女⋮⋮白骨⋮⋮女生徒が拐われたの
﹁誰なんですか
﹁⋮⋮ジニー・ウィーズリーです﹂
?
言っていた﹁あの∼﹂
ギルデロイ
﹂
?
﹂
﹁すみません。ついウトウトとしてしまいまして、今到着しました。⋮⋮してこれは
﹁適任者だ﹂
﹂
?
?
﹁生徒を家に帰しましょう。ホグワーツはもう終わりです。ダンブルドアはいつもそう
ネイプ先生は、無表情を崩していなかったけど、内心ショックを受けているだろう。
生たちは、皆一様にショックを受けている。取り分けマグゴナガル先生が酷かった。ス
ロンがヘナヘナと、力無く座り込んだ。かくいう私も、立つことがやっとだった。先
?
656
﹁は
﹂
私
﹂
?
﹂
?
か。
ロックハートはたじたじになってる。成る程、他の教職員も止めないあたり、厄介払い
遅 れ て き た ロ ッ ク ハ ー ト に、ス ネ イ プ 先 生 と マ グ ゴ ナ ガ ル 先 生 の 波 状 口 撃 が 襲 い、
ください﹂
﹁名案です。ではギルデロイ、あなたにお願いします。拐われた生徒を連れ戻して来て
﹁へ
出番ですぞ、ロックハート殿
﹁なんと適任者だ。生徒が一人、怪物に拐われた。それも秘密の部屋に、ここはあなたの
?
?
﹁⋮⋮そんな⋮⋮ジニーが﹂
ら離れた。
ロックハートはそう言うと、事務室へと去っていった。私はロンを立たせ、この場か
﹁⋮⋮わかりました。では部屋に戻って支度をします﹂
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
657
﹁ロン、しっかり。まだジニーが死んだと決まったわけじゃない
﹂
!!
にもフクロウ便で通達をしなければならない。
厄介払いも済みましたし、あとは生徒に伝えることをまとめなくては。ダンブルドア
Side マグゴナガル
後方からはマグゴナガル先生が叫ぶ声が聞こえたけど、気にせずに先を急いだ。
ロンは気を持ち直したらしく、立ち上がって歩き出した。私もロンについていった。
﹁⋮⋮わかった﹂
﹁ロックハートの所にいこう。そして私達が知ってることを話して、彼についていく﹂
﹁⋮⋮うん﹂
658
﹁寮監はそれぞれの寮へ行き、生徒に荷物を纏めるように言いましょう。明日の汽車を
手配します。それから⋮⋮﹁失礼、少しよろしいだろうか﹂すみませんが、今大事な話
⋮⋮を⋮⋮﹂
⋮⋮私は夢でも見ているのだろうか
は、驚きすぎて腰を抜かしている。
﹂
毒 は
鼓膜が破
!?
﹁⋮⋮な
鼓膜が
!?
﹂
﹂
傷 は
彼の姿を確認した教師陣は、私も含めて口を半開きにしている。フィリウスに関して
套を軽鎧の上に羽織り、私達の目の前にいる。
ここ最近姿が確認されず、生きていること以外何も判明しなかった彼が、真っ赤な外
?
﹁な ん で 貴 方 が こ こ に い る の で す か 今 ま で ど こ に い た の で す か
れるイヤードラム
!?
!?
?
﹁お、落ち着いてくださ⋮⋮﹁落ち着いてられますか ﹂ウォッ
!?
!?
!?
!?
﹁な⋮⋮なな⋮⋮﹂
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
659
とりあえず色々と問いただしたい。どこで何をしていたのか。体は大丈夫なのかと
色々と。
﹁⋮⋮はっ、そうでした﹂
﹂ 彼の一言で、場の空気が引き締まった。
﹁⋮⋮ジニーが拐われたのですね
﹁⋮⋮ええ、秘密の部屋に﹂
?
どういうこと
﹂
﹁我輩も警戒していたが、このようなことに﹂
﹁ミネルバ
?
﹁あとで説明するわ、ポピー。それで、あなたは
?
?
既に戦闘態勢に入っている。それ故の外套と軽鎧だった。
私は、疑惑の視線を向けてくる他の教師陣を一旦無視し、彼に話しかけた。今の彼は、
﹂
﹁⋮⋮っつつ⋮⋮とりあえず今はこの伝言でしょう﹂
660
﹂﹂﹂
﹂﹂
﹁部屋の場所は検討が付いています。怪物はバジリスクです﹂
﹁﹁﹁な
﹁﹁バジリスクだと︵ですって︶
﹁お前はこれから
のか。
﹂
ら、ポッターとウィーズリーが、陰で話を聞いていたことになる。また彼らが行動する
まったくあの二人はすぐに首を突っ込む、何てぼやいている彼。その言葉が本当な
﹁ええ、秘密の部屋に向かいます。あの二人も、話を聞いていたみたいですし﹂
?
う﹂
﹁ええ、片目は私が潰しました。それに傷を負わせているので、奴も万全ではないでしょ
!?
!?
﹁ならば尚更⋮⋮
﹂
ニーを助け出せても、バジリスクがいれば全員が助かる可能性が低くなります﹂
﹁いえ、オレが行きます。バジリスクは傷を負っていますが、まだ生きています。仮にジ
﹁いや、我輩が行こう﹂
﹁教師を一人、付き添いに。私が行きましょう﹂
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
661
!!
﹁申し訳ありませんが、私も伊達に一度戦ったわけではありません。奴には魔法の類い
は効きませんから、皆さんだと相性が悪い﹂
﹂
﹂
彼の言うことは正論だった。バジリスクは、魔法に対する耐久性が高い。例え教師が
三人以上いても、無力化することは難しい。
﹁⋮⋮申し訳ありません。お願いしてもよろしいですか
﹂﹂
﹁承りました。スネイプ先生、スプラウト先生﹂
﹁﹁なんだ︵なんですか︶
﹁石化した生徒たちを、お願いします。もうそろそろ薬が出来るのでしょう
﹁うむ。あと少しの過程で出来る。さすれば、生徒は甦生可能だ﹂
﹁そちらは私達に任せなさい﹂
﹁わかりました﹂
﹁ああ、忘れていた。スネイプ先生﹂
彼はそう言うと、ロックハートの事務室へと足を向けた。しかし、途中で足を止めた。
?
?
?
662
﹁む
﹂
﹂
⋮⋮ああ、遠慮はいらん。思うままにやれ﹂
さて、私は他の教師たちにどう説明しましょうか
?
う。伊達に英雄になったわけではない、ということでしょう。
彼はそう言い残すと、今度こそ闇に消えていった。彼がいるなら、一先ずは安心だろ
?
?
﹁別に、怪物は倒してしまっても構わんのだろう
﹁
!!
﹁ククッ、了解した﹂
13. 嵌まるピース、誘拐された生徒
663
14. 秘密の部屋
Side マリー
ロックハートの事務所に着いた。少し扉に耳を近づけて中の音を聞いたけど、何も聞
こえない。まさか逃げた
そう思った私とロンは、問答無用で扉を開けた。
?
ロックハートは中にいた、しかし椅子に座り込んで頭を抱えている。私達が来たこと
にも気がついていない。
誰だ
﹂
⋮⋮ああ、ポッターにウィーズリーか﹂
﹁⋮⋮ロックハート先生﹂
﹁ッ
!?
﹁⋮⋮先生、何をしてるんですか
!?
部屋は散らかってる。開いたトランクが床に投げたされており、中にものを出し入れ
?
664
﹂
﹂
僕の妹はどうなるんです
した形跡がある。今も中のものを全部出したのか、床の上にぶちまけられていた。
﹁⋮⋮先生、これは
﹁⋮⋮﹂
ロンの質問に無言を貫くロックハート。
﹁⋮⋮まさか逃げようとしているのですか
﹂
?
﹁⋮⋮﹂
か
﹂
﹁防衛術の先生が逃げ出すんですか こんな非常事態に
﹁答えろよ
?
?
?
﹁⋮⋮ロックハート先生、正直に答えてください﹂
ロンが怒号をあげる。しかしロックハートは無言のまま、顔を俯かせていた。
!?
!?
﹁⋮⋮﹂
14. 秘密の部屋
665
﹁⋮⋮なんだね
﹁⋮⋮そうだ﹂
﹂
﹂
最後はさも自分の手柄であるかのように、世に公表した。そうですね
﹁⋮⋮そうだ﹂
﹂
﹁では何で、今ここで私達に忘却術をかけて逃げる、何てことをしないんですか
?
?
ちの前に立った。
﹁私が何の役に立つと
部屋の在処も知らない、忘却術しか能のない私が
﹂
?
いいでしょう
﹂
﹁部屋に関しては、私達が手掛かりを掴んでいます。それに、大人の付き添いがいた方が
?
私の言葉に、ロックハートは力無く顔を上げた。ノロノロと立ち上がった彼は、私た
﹁話したくないなら、話さなくても良いです。でも私達についてきてもらいます﹂
﹁⋮⋮﹂
﹂
れ以外何もできなかったから。他人の手柄を本人から聞き出し、その後忘却術をかけ、
﹁授業でいやに詳しい﹃忘却術﹄の解説をなさったのは、あなたがそれを極めたから、そ
?
?
﹁あなたの著書、全て他人の手柄ですね
666
?
私の言葉に、ロックハートは渋々納得し、ロンに杖を預けた。そして私達はマートル
のいるトイレに向かった。ハネジローは、今回ばかりは寮に待機させた。
﹂
トイレに着くと、案の定マートルはおり、すすり泣きをしていた。でも私達に気かつ
今度はなに
くと、漂い近づいてきた。
﹁またあなたたち
?
る
﹂
﹁少し話をしたくて。失礼かもしれないけど、あなたが死んだときのことを教えてくれ
?
は、若干色がついた。
私がそう言うと、マートルは途端に嬉しそうな顔をした。ゴースト特有の銀色の体
?
﹂
丁度五十年前よ、ここで死んだの﹂
﹁五十年前
!!
﹁ええそう
!!
あの当時も今のような事件があったわ。私はその日、同級生からメガネ
!! ?
たわ
﹁ぉおおおう、あなたがそれを聞いてくるなんてね あれほど恐ろしいことはなかっ
14. 秘密の部屋
667
・
のことで苛められて、ここの個室で泣いていたの。そしたら声が聞こえてきた。外国語
﹂
﹄って。そして⋮⋮死んだの﹂
みたいだったわ。嫌なのがそれが男の声だったってこと。だから私は扉を開けてこう
!!
どうやって
言ったの、﹃出ていけ
﹁死んだ
?
金縛りにあったと思ったらフワッて浮いて⋮⋮幽霊に
!
マートルは先程までの啜り泣きはどこに行ったのか、機嫌良くそう言った。
﹁その蛇口、ずっと壊れっぱなしよ﹂
い。試しに蛇口を捻るけど、水は出てこなかった。
マートルが目を見たという手洗い台まで近づいた。一見普通の手洗い台と変わらな
の死に方、バジリスクに一睨みされたのだろう。
間違いない、マートルは秘密の部屋の事件で、唯一亡くなった女生徒だ。そして彼女
マートルはそう言うと、再び啜り泣きながら漂い始めた。
なった﹂
だけ。それに睨み付けられて
﹁知らないわ。覚えているのはそこの蛇口の辺りに、大きな黄色い目が二つあったこと
?
668
﹂﹂
﹂
蛇口の横には、本当に小さくではあるが、蛇の彫刻が彫ってあった。間違いない。こ
﹂
こが秘密の部屋の入り口だ。
﹂
﹁何か蛇語で言ってみたら
﹁蛇語って⋮⋮開けって
?
﹁うん、そ﹁その必要はない﹂⋮⋮え
﹁﹁⋮⋮はい
?
?
⋮⋮うそ⋮⋮なんで⋮⋮
﹂
!?
なんで君がここに
﹂
﹁どうやら、一足先にお前たちがいたか﹂
?
﹁み、みみ、み、ミスター・エミヤ
!?
秘密の部屋のことが一瞬頭から吹き飛んだけど、すぐに頭は冷えた。今はジニーを優
⋮⋮遅い、遅いよ⋮⋮
﹁毒も抜かし、傷も癒し、鈍った勘を取り戻していたからな。あと少しモノを作ってた﹂
!?
﹁シロウ
14. 秘密の部屋
669
ま、マリー
﹁わ、わかった﹂
これでよし。さてと。
どうした
﹁で、蛇語を使わなくていいって
﹁ああ、それはだな。こうする﹂
﹂
﹂
﹂
先しないといけない。私は最低限伝えることを伝えるため、無言でシロウに近づいた。
ッ
?
﹁む
﹂
?
﹁⋮⋮あとでO☆HA☆NA☆SHIだからね。逃げないでよ
﹁は、はい
﹁⋮⋮シロウ﹂
!?
!!
?
た。形状からして、下まで滑り降りるらしい。それにしてもシロウ、修理はどうするの
パァンッ、という軽い音と共に、手洗い台は綺麗に崩れ、大きなトンネルが姿を現し
シロウは手洗い台にいき、手を当てた。そして少し腰を落とすと、一瞬だけ力んだ。
?
?
?
670
﹂
﹂
﹁⋮⋮こんなものか。修理はことが終わればオレがする。ロックハート﹂
﹁な、なにか
﹁お前はオレと共に、下見役として降下する。わかったな
﹁⋮⋮わかった﹂
いる。私とロンもベトベトを落とした。
先に降りていたシロウとロックハートは既に立ち上がり、余分なベトベトを落として
ち上がってもお釣が来るほどの、人工と自然が合わさった洞窟に私達はいた。
う長く滑った。たぶんここは学校の何キロもしたに存在するのだろう。成人男性が立
ベトベトするパイプを一分ほど滑ったあと、私達は広い空間に投げ出された。そうと
トンネルに入り、滑り台のように降下した。
暫くすると、シロウから念話が入った。どうやら降りても大丈夫らしい。私とロンは
活してるから、連絡手段は心配ない。
まず二人が降り、大丈夫なら私達が降りるということになった。シロウとの念話も復
?
?
﹁⋮⋮みんなにはこれを渡しておこう﹂
14. 秘密の部屋
671
シロウはそう言い、ロンとロックハートにはブローチを、私にはバレッタを渡してき
た。ブローチは西洋両手剣の形、バレッタは七枚の花弁のついた花の形をしている。
床に転がってるの、あれはなんだろう
込んでいる。そうかもう夜なのか。
ん
﹁⋮⋮三人とも、そこにいろ﹂
?
物体を見た。
シロウは指示を出すと、床に転がる物体に近づいた。私は今たっている場所からその
?
暫くすると、より広い空間に出た。そしてどこかに亀裂があるのか、月明かりが差し
た。
シロウはそう言い、先に進んだ。続いて私、ロン、最後尾にロックハートが後を追っ
相乗効果で、動きが鈍る程度に止まるだろう。まぁ、目を見ないのが一番だが﹂
﹁これを着けていれば、最悪目を見ても石化に止まる。ロンとマリーは、元々の護符との
672
⋮⋮緑色に輝いている。そして長い、15メートルは軽くあるだろう。そして特徴的
な形状、鏃のようなの先端。それは巨大な蛇の脱け殻だった。
﹂
﹁⋮⋮新しいな。ここ最近脱いだ皮だろう﹂
﹁そこまでわかるものなのかい
面には数匹の蛇の彫刻が、円と壁を繋ぐように張り付いている。まるで鍵だ。
そのまま進むと行き止まりとなり、目の前の壁には丸い人工物が嵌められていた。表
はそのまま先を急いだ。ロックハートは若干腰を引いていたけど。
まあ脱け殻立ったのは良かった。生きていたらどうしようかと思ったよ。私達四人
﹁そ、そうなの⋮⋮﹂
だときに裂けたものではない。オレが切りつけたものだ﹂
﹁確定付ける要素はいくつかあるが、一番わかりやすいのは、ここの傷口だな。奴が脱い
?
岩盤が崩れたらヤバイし﹂
?
﹁そうだな。頼んだぞ、マリー﹂
﹁流石にここは蛇語を使うよ
14. 秘密の部屋
673
私は前に立ち、彫刻を見つめた。
┃┃ 開け
自然と蛇語が出た。すると全ての蛇は頭をすぼめ、円形の装飾は扉のように開いた。
先が繋がっている。
私達は扉をくぐり抜け、その先にあった梯子を降りた。そして目の前の光景に唖然と
した。
蛇を象った彫刻が左右にずらりと並び、まるで謁見の間に続くよう。そして奥には大
広間ほどの空間が形成され、正面には巨大な老人の顔が彫り出されていた。そして顔の
﹂﹂
前に寝そべる、一人の影。
﹁﹁ジニー
大丈夫
﹂
!?
﹁ロン、シロウ
!!
何で落ちてきたはわからない。
私とロンは、走り出した。と、突然岩盤が崩れ落ち、私と他の人たちが切り離された。
!!
674
﹁ゴホッゴホッ
だ、大丈夫だ
﹂
!!
﹁なに
﹂
﹁こちらは気にするな﹁アイタッ﹂お前は邪魔だロックハート、下がってろ。マリー﹂
!!
かった、間に合った。
と、ジニーのネックレスが少し強めの光を放った。まさか、日記が干渉しているの
﹁ッ
⋮⋮トム・リドル﹂
せてもらった﹂
﹁初めまして、マリナ・ポッター。会えて嬉しいよ。君と話したいから邪魔者と切り離さ
!?
?
ジ ニ ー は 日 記 を 抱 え て い た。顔 は 青 白 く、体 は 少 し だ け 冷 た い。で も 息 は あ る。良
私はシロウに言われ、ジニーの元に急いだ。
﹁うん、わかった﹂
共に脇に退いとくんだ﹂
﹁この岩塊をどけるのは、流石にオレでも時間がかかる。その間に、出来るだけジニーと
?
﹁彼女は目を覚まさないよ﹂
14. 秘密の部屋
675
私の目の前には、五十年前と変わらぬ姿のトム・リドルがいる。そのリドルによって、
私は一人にさせられたらしい。でもおかしいな、五十年前に学生だったのなら、今は老
体の筈。
⋮⋮成る程、あの日記か。ということは今回の黒幕は
バジリスクを﹃穢れた血﹄達にけしかけたのは、他でもないジニーだ﹂
?
⋮⋮日記を介して、か﹂
!?
﹁ほう 頭は回るようだね。その通りだよ。馬鹿な小娘は日記にのめり込んだ。彼女
﹁ッ
﹁少し違うかな
﹁あなたが今回の騒動の根元ですね﹂
676
リドルは甲高い声をあげて高笑いした。それは誰かを彷彿させるような、嫌な笑い方
彼女の意識を乗っ取り、秘密の部屋の怪物を解き放った﹂
﹁だが、小娘が日記を使ってくれるお陰で、僕は徐々に力を付けていった。そして何度も
リドルは苛立たしげにそう言うが、それはすぐに治まり、上機嫌な顔をした。
の馬鹿馬鹿しい話に合わせるのは苦痛だったよ﹂
?
だった。
よ。本当ならほぼ実体化できるはずなのに。それに僕に流れ込むはずの力も、予想より
﹁だが、理由はわからないが、小娘は何度か途中で僕を追い出した。今も僕は不完全だ
少ない。まるで何かに阻まれているようだ。
﹂
まぁそれはさておき、日記を怪しんだ彼女は、日記をトイレに投げ捨てたんだ。だが、
そこで君が現れてくれた、他でもない君が
ないみたい。そうか。だから壁の文字は、途中で潰されたりしていたんだ。それに彼が
どうやらリドルは、剣吾君のネックレスに阻まれていたことには、まだ気がついてい
!
﹂
黒幕だということは、バジリスクは彼に呼ばれるまでは来ないのだろう。それにしても
⋮⋮
?
返せた
なぜ傷一つで済んだ
?
疑問は尽きないよ﹂
法使い、ヴォルデモート卿の呪いを跳ね返した人間だ。それも赤子のときに。なぜ跳ね
﹁そりゃ気になるさ。小娘の話に何度も出てきたからね。闇の帝王と呼ばれし偉大な魔
﹁なぜ、そこまで私が気になるの
14. 秘密の部屋
677
?
﹁そこまで気にすること
ヴォルデモートはあなたよりあとに出た人間でしょう
T o m・ M a r v o l o・ R i d d l e
﹃トム・マールヴォロ・リドル﹄
I a m L o r d V o l d e m o r t
文字を書き終えると、今度は杖を一振りし、文字順を並べ替えた。
﹃私はヴォルデモート卿だ﹄
⋮⋮そういうことか。
﹁⋮⋮あなたが、過去のヴォルデモート﹂
﹂
?
マリー、答え
リドルはそう言い、懐から取り出した杖で、空中に文字を書き出した。
﹁ヴォルデモートは、僕の過去であり、現在であり、未来なのだよ﹂
私のその返答に、リドルはニヤリと嫌な薄ら笑いを浮かべた。
?
﹁その通り。僕がいつまでも﹃穢れた血﹄の父親の名前を使うと思うか
?
678
﹂
だから僕は自分で自分に名前をつけた。いずれは誰もが恐れる、世界
は﹃否﹄だ。なぜサラザール・スリザリンの血を引く母の姓でなく、父親の名前を使わ
ねばならない
一の闇の魔法使いの名前を
かったの
﹂
﹁大 い な る 力 に は、大 い な る 責 任 が 伴 う。ダ ン ブ ル ド ア 先 生 か 他 の 人 た ち に 言 わ れ な
!
?
﹁いや 僕は一応優等生だったものでね。誰も言ってこなかったさ。ああ、でもダン
?
成る程、ダンブルドア先生はリドルの本性をわかっていたのか。
ブルドアは終始僕を信頼しなかったね。五十年前の事件からは特に﹂
?
かったの
﹂
笑わせないで。ならどうしてあなたはホグワーツを乗っ取れな
世界一ならダンブルドア先生をも下せる筈でしょう
?
?
かる音がした。
私の言葉に、リドルの顔は醜悪なものに変わった。彼は怒っている。遠くで何かぶつ
?
あなたが世界一
中で世界一は、ダンブルドア先生だと思ってる。
﹁君をがっかりさせるけど、誰が世界一と思うかは一人一人違う。現に私は、魔法使いの
14. 秘密の部屋
679
のことも、あの人は既にお見通しでしょう﹂
!!
﹂
!!
?
アが助けに寄越したのはそれだけか
唄い鳥に、古帽子じゃないか
!!
﹁そしてそれは、古い﹃組分け帽子﹄。クッククッ、クハハ、ハハハハハ ダンブルド
﹁不死鳥⋮⋮﹂
﹁成る程、ダンブルドアの不死鳥か﹂
﹁⋮⋮この鳥は
﹂
元に使い古され、摩りきれた帽子を落とし、私の肩に留まった。
鳥が、孔雀のような尾羽を靡かせながら、私のもとへと舞い降りてきた。そして私の足
なび
突如、美しい歌声が聞こえた。発生源に顔を向けると、美しい赤い色をした白鳥程の
い
﹁ダンブルドアを必要とする人がいる限り、あの人が本当の意味でいなくなることはな
﹁だが奴は僕の記憶に過ぎないものによって追放され、この城から消え去った
﹂
﹁あなたはダンブルドアを恐れている。強力な力を持っても、それは変わらない。今回
680
﹂
!!
!!
リドルはツボに嵌まったらしく、暫く甲高い笑い声をあげていた。でもなぜか、私は
この帽子が重要なものと感じられた。
一頻り笑って落ち着いたのだろう、リドルは口の端を歪めつつも、笑いをやめた。そ
して老人の顔に手を翳し、蛇語を発した。
┃┃ スリザリンよ、ホグワーツ四強のうちで最強のものよ。我にはなしたまえ。
リドルがそう言うと、地鳴りが響き、老人の口がゆっくりと開きだした。あの奥に、バ
ジリスクがいるのか。
リドルは口の端を歪めたまま、私に向き直った。私はジニーを抱えている。
を二度もはね退け、ダンブルドアから精一杯の武器をもらったマリー・ポッターとお手
サラザール・スリザリンの継承者たるヴォルデモート卿と、不思議な守りで未来の僕
﹁ふん、まぁいいさ。それよりマリー、少し揉んでやろう。
﹁なんとかするわ。手がない訳じゃない﹂
彼女は死ぬ﹂
﹁小娘を連れ出すか。まぁ無駄だろう、もう暫くしたら、僕が再び生を受ける代わりに、
14. 秘密の部屋
681
合わせ願おうか﹂
成る程、リドルは私とバジリスクを戦わせるつもりか。でもそれは叶わない。老人の
口は八割がた開いている。
⋮⋮ッ
﹂
!! ?
﹂
!!
なんだこの地鳴りは
﹂
!?
だと思ってる人がここに﹂
お願い
﹁戦士として、だと
﹁シロウ
﹃壊 れ た 幻 想﹄
ブロークンファンタズム
!!
!?
﹁いいえ、いるわ。ダンブルドアは確かに世界一の魔法使い、でも私が戦士として世界一
﹁はっ、ここには君以外誰もいないじゃないか
ニーを連れて出来るだけ隅に行く。そして日記を破壊する方法を考えること﹂
﹁あなたには再度悪いけど、バジリスクと戦うのは私じゃないわ。私がすべきことは、ジ
682
私がジニーを抱えて横に飛び、そう叫ぶと同時に、後方にあった崩れた岩盤の山は吹
き飛び、真っ赤な人影が飛び出し、私とリドルの間に立った。
彼は私に背を向け、リドルと今完全に開いた口を睨み付ける。不死鳥は私の肩から離
れ、彼のそばに滞空した。
﹁遅くなった。待たせたな﹂
14. 秘密の部屋
683
15. バジリスクと日記、新手
Side シロウ
ロンとロックハートはマリーの元に向かわせている。一応ロックハートに、簡易的な
遮断結界を張るアイテムを渡しているから、瓦礫等の心配は要らないだろう。
今、オレの目の前には、一人の半透明な青年がいる。背丈はオレと変わらないか、い
や、オレが12歳にしては高すぎるだけか︵現在165cm︶。
成る程、話は聞こえていたが、こいつが⋮⋮
﹁ッ
何が可笑しい
﹂
!!
は、まさにこういうことか。クククッ⋮⋮それに随分と生にしがみつくと思ってな。い
﹁いや失礼。先程の口上と君の見てくれを比べるとね。いやはや、名前負けしていると
!?
﹁スリザリンの継承者。まぁ大層な肩書きだな。⋮⋮ふっ﹂
﹁そう。そしてこの人が﹂
﹁トム・リドル。過去のヴォルデモートか﹂
684
や、それはオレと変わらないか
﹂
﹁貴様⋮⋮先程から言わせておけば
何者だ
﹂
!!
?
﹂
﹁通りすがりの魔術師兼魔法使い見習いだ、覚えなくていい。それと、だ。お前は邪魔だ
ふむ、オレが何者か、か。そうだなぁ、ここは剣吾の口上を真似してみるとしよう。
!!
触、あれは以前より少しばかり硬くなっているな。
轟音をたてながら、蛇は壁に激突した。が、まだ意識はあるらしい。それに蹴った感
クの要領で蹴り飛ばした。
バジリスクが姿を現したので、全身を強化して鎌首をもたげた蛇の頭を、ボレーキッ
!!
﹁ッ
﹂
!!
そうか⋮⋮貴様がバジリスクの目を潰したか。だが無駄だ
!!
まだ右目がある
!!
が、潰れた左目は治せなかったようだな﹂
﹁成る程。脱皮をして成長することによる治癒の促進、加えて体の強度も増したか。だ
15. バジリスクと日記、新手
685
﹂
﹁いや、今しがた潰されたぞ
﹁なにっ
﹂
?
﹃鳥 と 小 僧 に 構 う な 小 娘 共 を 殺 せ
死鳥によって潰されていた。
﹄﹂
﹁ク ソ ッ、あ の 鳥 め
﹁﹁うん︵わかった︶
﹂﹂
﹂
匂 い で 嗅 ぎ 出 す ん だ
!!
﹁何を命じたかは知らんが蛇よ、お前の相手はオレだ。お前たち、伏せろ
!!
バジリスクは吹っ飛んだ先でのたうち回っていた。オレが以前潰し損ねた右目は、不
!?
再び奴を蹴り飛ばし、今度は両の手に持った剣で切りつけた。
予想より硬い﹂
が、折れたのはオレの二本の剣だった。
!!
﹁ッ
バカめ、バジリスクは二ヶ月前より更に強力になっている
!!
!!
﹁クハハッ
その強さ
オレの指示でマリー達は伏せたことにより、蛇の尾は彼女らの上を通過した。オレは
!!
!!
!!
!!
686
と硬さは二倍以上さ
る。
﹂
﹂
ト レ ー ス・オ ン
とは全て弾かれた。宝具を使えばすぐに終わるが、ここの岩盤が崩れ落ちる可能性があ
今度は弓を投影し、矢の速射を行った。が、こちらも一、二本浅く刺さっただけで、あ
﹁⋮⋮巨体のわりによく動く。││投影開始﹂
に回避したが、奴もすぐに方向転換してこちらに向かってきた。
リドルの声に答えるように、バジリスクは突進してきた。前よりも素早い。オレは横
!!
!!
これを
!!
││解析開始
まった、銀の片手直剣だった。オレはそれを受け取り、反射的に解析を行った。
マリーが叫び、ロンが何か銀に輝くものを投げてきた。それは柄に大きなルビーの嵌
﹁シロウ
15. バジリスクと日記、新手
687
││憑依経験、共感終了。
││基本骨子、解明。
││構成材質、解明。
││全工程完了。
⋮⋮成る程。
ゴブリン製の金属、そして切った対象の力を吸い、更に強力になるのか。だか神秘性
﹂
が低いな、概念武装といったところか。だが、だ。これは上手く使えば、中々に強力な
武器になる。
﹁ク、クククッ﹂
﹁小僧、何が可笑しい
﹁いやなに、この剣は素晴らしい一品だと思ってな。さてトム・リドルよ、一つだけ忠告
いる。不死鳥は、オレの傍らで依然滞空している。
突然笑いだしたオレに、リドルと蛇は首を傾げる。マリー達も不思議そうな顔をして
?
688
だ﹂
﹁なんだ
﹂
べた英雄王ギルガメッシュでさえ、そうだったのだからな
﹂
!!
?
オレはリドルにそう言い放ち、剣を自らの肩に刺した。
なにし⋮⋮
Side マリー
﹁シロウ
!!
﹂
﹁慢心が過ぎれば、必ず手痛いしっぺ返しを貰うぞ 何せ彼の人類で初めて、世界を統
?
!?
15. バジリスクと日記、新手
689
突然シロウは自分に剣を刺した。自殺するつもりなの
私はシロウな駆け寄ろうとして、でも足を止めた。
わからないけど、シロウの持つ剣は、先程よりも更に輝きを増しているようだった。
何故ならシロウは、依然として不敵な表情と目をしていたからだ。そして何でだかは
!?
見 れ ば わ か る だ ろ う
貴 様 の 目 は 飾 り 物 か ね
剣からは不思議な力を感じた。まるでシロウから力を吸いとっているかのよう。
﹁小僧、何をしている﹂
﹁自 分 に 剣 を 刺 し て い る だ け だ が
﹂
?
あ∼あ、バジリスクとリドルが怒った。
?
﹁さて、反撃開始といこうか﹂
暫くすると、シロウは剣を引き抜いた。肩の傷は、みるみるうちに塞がった。
発してない
先程からはぐらかすような応答ばかりするシロウ。さっきから思ってたけど、態と挑
?
?
690
シロウはそう言うと、再び飛び出した。
口をアホみたいにポカーンと開けて唖然としてる。
私とロンは、シロウの人外的な身体能力を見慣れてるけど、確かロックハートは初め
て見るんだっけ
﹁馬鹿なッ
﹂
!?
﹂
何なのだその剣は
スクの体に、長い切り傷が刻まれた。
シロウは突進してきたバジリスクを避け、その体を切りつけた。すると今度はバジリ
?
?
?
れなのかも。
⋮⋮ん これ使えるんじゃない
ない。
これならリドルの日記を破壊できるかもしれ
ウがバジリスクの顔を切りつけたとき、何かがこちらに飛んできてた。もしかしたらこ
ふと私の足元に目を向けると、牙のような物が落ちていた。そういえばさっき、シロ
スクの体は傷だらけになり、体のあちらこちらから血が流れている。
シロウはリドルを挑発しつつ、バジリスクに攻撃を重ねる。あれほど硬かったバジリ
?
!?
﹁お前に教える必要はなかろう
15. バジリスクと日記、新手
691
﹁そんな⋮⋮ありえんッ
﹂
視線を向けた先には、剣を振り下ろしきった体勢のシロウと、体の半分まで脳天から
視線を向けると、流石の私も茫然とした。
リドルの悲鳴のような声が聞こえ、私の意識は現実に戻された。彼の睨み付ける先に
!?
という轟音をたて、バジリスクの亡骸は床に倒れた。
切り割られたバジリスクだった。
ドゥッ
!!
﹂
﹂
!!
!!
が倒されれば、僕でさえ制御できない怪物が待っているんだ
﹁⋮⋮辞世の句は詠み終えたか
﹁さぁ
?
げた。
私は日記をジニーの手から引き抜き、地面に押さえる。ロンは牙を構え、高く振り上
リドルが皮算用をしている間に、私とロンは示しあわせた。
﹂
何のことだ
?
﹁辞世の句だと
?
?
﹂
﹁⋮⋮バジリスクは倒された。だがもうすぐ僕は復活する 更に言えば、バジリスク
692
﹁ッ
よせ、止めろォ
﹂
!?
覚めた。リドルの日記は、中に潜む亡霊ごと破壊された。
リドルは耳をつんざくような声をあげ、最後は爆散して消滅した。同時にジニーも目
て牙を刺した。
末魔の声をあげるなか、ロンは一度牙を引き抜いた。そして再度、今度は更に力を込め
途端に響き渡る叫び声。まるで血のように日記から溢れる黒のインク。リドルが断
私達はリドルが再び立ち上がる前に、日記に牙を突き立てた。
はシロウ製︶結界に阻まれ、吹っ飛ばされた。
リドルは気がつき、こちらに走りよってきた。でもロックハートの張った︵アイテム
!?
良かったぁ⋮⋮﹂
!!
ている。かくいう私も、安心して腰が抜けそうだった。
ロンは起きたジニーを、力強く抱き締めた。ロックハートもホッとした表情を浮かべ
﹁ジニー
﹁こ⋮⋮ここは⋮⋮﹂
15. バジリスクと日記、新手
693
しかしジニーは状況を把握したらしく、顔を青ざめさせた。
﹂
!!
かった。
?
私に渡してきた。
?
何で私に
?
よ。さてジニー﹂
﹁君かロンのどちらかが出したのだろう なら君らが持っていてくれ。刃には触るな
﹁え
﹂
バジリスクと自身の血が付着した剣を片手に、シロウは歩み寄ってきた。そして剣は
﹁わ、私⋮⋮何てことを⋮⋮﹁ジニー﹂⋮⋮ヒック、シロウさん
﹂
ロンが私の手元と部屋の奥を指し示すけど、ジニーはしゃくり上げて見向きもしな
ん
﹁ジニー、大丈夫だよ。リドルはいなくなった。バジリスクもシロウが倒した、見てごら
﹁あ、ああ⋮⋮そうだ、私⋮⋮﹂
694
?
﹁ヒック⋮⋮はい
﹂
﹁ここで寝ていては、風邪をひくぞ
﹁⋮⋮﹂
﹂
そういえばさっきリドルが、バジリスクを倒せば次の化け物が来ると言っていた。そ
を向けると、老人の顔に大きな亀裂が入っていた。
ところが数歩も歩かないうちに、地面が激しく揺れ、後方から大きな音がした。視線
その後に続いて出口に向かった。不死鳥は私達の上を、ゆったりと飛んでいる。
シロウに促され、ロンに支えられながら、ジニーは立ち上がり、歩き出した。私達も、
流石は未来のお義父さん、義娘の扱いをわかってらっしゃる。
﹁⋮⋮はい﹂
﹁こんな居心地の悪い場所で話し込むことはないだろう。出るぞ﹂
?
?
れを彼は制御出来ないとも。亀裂の奥で、複数の光る目が見えた。
﹂
?
﹁急いで出口に向かえ。決して振り返るな﹂
﹁シロウ
﹁⋮⋮マリー﹂
15. バジリスクと日記、新手
695
﹁まさかシロウ﹂
﹂
?
そしたら今度こそシロウは⋮⋮﹂
!?
一旦退いて態勢を立て直して⋮⋮﹂
!!
﹁﹁シロウ
﹂﹂
!!
いておかねばならん﹂
話は後だ、今は聞く耳持たん
!!
﹁でも⋮⋮﹂
﹁いいから走れ
﹂
﹁今、こいつを野放しにすれば、死者負傷者は数えきれないほど出る。そうなる前に、叩
!?
か、先程までおろしていた前髪も、後ろに逆立ってオールバックになっている。
でもシロウは溜め息を一つつくと正面に向き直り、白と黒の双剣を構えた。本気なの
している。
私だけじゃない。ロンもジニーも、ロックハートでさえも、シロウが残ることに反対
﹁シロウさん⋮⋮﹂
﹁そうだよ
﹁ダメだよシロウ
﹁悪いがこの中で、奴の足止めをして生き残る可能性があるのは、オレだけだ﹂
﹁君は囮になるのか
696
シロウがそう言うのと同時に、ついに老人の顔は崩れ落ちた。
崩れた瓦礫の向こう、大空洞から姿を現したのは、頭が九つある怪物だった。全身は
青緑色の鱗で覆われている。九つの頭は全て等しい大きさで、十八の黄色い眼球は、全
てこちらを睨み付けていた。
あれはテュポーンとエキドナの子供
昔本で読んだことがある。大陸に伝わる神話、ある男が神から受けた試練の一つで退
治した怪物。名前は⋮⋮
!?
で、大英雄ヘラクレスに退治されたはずだぞ
﹂
!?
!?
﹁⋮⋮馬鹿なッ 何故、ヒュドラがいるのだ
15. バジリスクと日記、新手
697
16. 神話よ再び
Side マリー
﹁お前たち、急いで出口に向かえ
﹂﹂﹂
!?
﹂
本当は私だって嫌だ、シロウを残して行きたくはない。でもこのまま残れば、シロウ
いのなら、尚更﹂
﹁⋮⋮私達は、早くここから出なきゃいけない。シロウが生き延びる可能性を高くした
﹁﹁﹁マリー
﹁⋮⋮行こう﹂
すまで、決して止まることはない。
私はようやくわかってしまった。彼は止まらない。私達が逃げ切るか、あの怪物を倒
シロウはそう言うと、ヒュドラ目掛けて飛び出した。
!!
698
の足手まとい以外何でもない。だから私は、私達は走った。
﹂
脱け殻のところまで来たとき、一際大きな地鳴りと地響きが起きた。
﹁危ない
﹁ケホッケホッ⋮⋮ロン、ジニー、大丈夫
﹂
?
所に、上から岩が降り注ぐ。どうやら先程の衝撃で、天井が崩れたらしい。
突然後ろから突き飛ばされた。強い力だったから、私は前方に転がった。私がいた場
!!
⋮⋮うそ﹂
﹁ゴホッゴホッ、僕とジニーは大丈夫だ。ロックハート⋮⋮は⋮⋮﹂
?
い。
いた。幸い呼吸があるから、生きてはいるみたいだ。けど、いつまで持つかはわからな
岩が落ちた場所、そこでは右半身が埋もれたロックハートが、頭から血を流して寝て
が認識してくれなかったけど、徐々に状況を把握した。
ロンの視線の先を見たとき、私はあまりのことに絶句した。最初は目に写るものを頭
﹁え
16. 神話よ再び
699
そこに再度大きな地鳴りと地響きがした。今回は天井は崩れなかったけど、その代わ
りに秘密の部屋のほうから何かが飛んできた。その何かは、部屋とこの空洞を遮る壁を
突き抜け、私達の側に打ち付けられた。
その何かは、血だらけになったシロウだった。
ち、血が⋮⋮キュウ⋮⋮﹂
!?
私の頭に、﹁あきらめる﹂の五文字が浮かんだ。
だろう。
ろうと、壁を崩そうとしていた。不死鳥がいるけど、この子だけでは太刀打ちできない
部屋のほうから、ヒュドラの勝ち誇るような咆哮が響く。そして自分が通れる穴を作
い。
う。ロックハートはこのままでは助からない。シロウもこれでは、助かる見込みは低
ジニーはシロウとロックハートの惨状を見て気絶、私とロンは恐らく顔面蒼白だろ
﹁ヒッ
﹁そんな⋮⋮﹂
﹁あ⋮⋮ああ⋮⋮﹂
700
を受けてしまった。ヒュドラのそれは、バジリスクとは比べ物にならないほど強力てあ
鶴翼三連を叩き込んだが、徒労に終わってしまった。加えてそのとき奴の牙が掠り、毒
いずれにしても、宝具の真名解放には、僅かに魔力が足りそうにない。せめてと思い、
ない量なのか。
ぎたか、はたまたオレが子供に戻ったことで、最大魔力量が減っており、全盛期に充た
伝説に違わぬ凶悪さだ。何度首を切り飛ばしたことか。あの銀の剣に力を吸われす
Side シロウ
そのとき、私の耳に一つの声が聞こえた。そちらに顔を向けると、彼が立っていた。
﹁⋮⋮不死鳥よ﹂
16. 神話よ再び
701
702
り、動きが鈍ったところにやられた。
あばら
奴の尾に吹き飛ばされ、壁を突き抜けて地面に叩きつけられた。恐らく、最低でも肋
を二本はやられているだろう。
地面に横たわり、朦朧とする意識で霞む視界に、真っ赤な鳥の影が見えた。遠くで
ヒュドラの咆哮が聞こえる。
オレは意識を手放した。
◆
気がつくと、俺は夜の森にいた。木々の葉は全て枯れ落ち、地には雪が降り積もり、今
も粉雪が静かにちらつく。俺はヒュドラに吹き飛ばされ、暗い洞窟にいたはず。それが
このような場所に、アインツベルンの森に似ている場所にいる。
┃┃ 諦めるのか
後ろから声が響いた。低く渋い、体の奥底まで染み渡る、懐かしい声だった。
┃┃ お前は、諦めるのか
﹁いや、まだだ。あの子達を帰すまで、死んでも食らいつく﹂
俺は答えながら、体ごと後ろを向いた。
ベ
ター
ベ
ス
ト
前方には鉛色の大男が、大理石から削り出したかのような大剣を携え、無言で立って
いた。
┃┃ ではお前はどうする
のために、前に突き進む﹂
﹁無論、俺も生きる。俺はあいつとは違う。最善の結果ではなく、最良の結果を掴む。そ
16. 神話よ再び
703
俺は男の問いに答えた。男は何も言わなかった、が、俺の近くに歩み寄ってきた。
┃┃ あのとき、あの子を守ると誓ったときと変わらない、良い目だ。消滅するとき、
止めとなったお前の刃とお前自身に、我が思いを魔力に重ねて託したのは正解だったよ
うだ
男はそう語ると、俺の目の前に大剣を突き刺した。
┃┃ この先、このような奇跡は二度と起きないだろう。お前にこれを託す。お前の
行く道に立ち塞がる、数多の壁を打ち砕く力となろう
最後まで口を開かずに語った男は、俺に背を向けて森の奥へと歩き出した。
男の思いは伝わった。
男は一度足を止めたが何も言わず、今度こそ去っていった。
﹁⋮⋮イリヤを、守ってくれてありがとう。彼女は今も、元気にしている﹂
704
16. 神話よ再び
705
狂気に侵されて尚、冬の少女を守り続けた彼の英雄の祈りは、時を越え、世界を越え
て届けられた。ならば俺も応えよう。
目の前の剣を手に取る。膨大な情報が流れ込む。同時に大英雄の思いも流れ込む。
いつしか周りは真っ暗な空間に変わっていた。それでも情報は流れる。
全てを受け止めよう。
衛宮士郎の敵は自分自身、思い浮かべるは最強の自分。ならば、膨大な情報に負けは
しない。
そして俺の視界は白で埋め尽くされた。
◆
意識が浮上する。
月明かりのみが差し込む洞窟に、俺は寝そべっていた。近くに不死鳥が佇み、腕と胸
の傷口に、真珠のような涙を落としていた。不死鳥の涙は、驚異的な回復力を有してお
り、バジリスクの毒をも癒すという話だ。
先程までの体の鈍りが取れた。ということは、傷とともに、ヒュドラの毒をも癒した
のか。
ぐ。これで失血等の心配は無いだろう。一つのあるとすれば、
﹃幻
痛﹄ぐらいだが、そ
ファントムペイン
剣を造り、ロックハートの右手足を切り落とす。不死鳥はその傷口に涙を落とし、塞
を以てしても、治ることはないだろう。
オレはロックハートに重なる岩をどけた。幸い奴は生きているが、潰れた右手足は涙
ジニーはオレとロックハートの惨状を見て、気絶したようだな。
ロックハートは⋮⋮成る程。ロン達の身代わりになったな。
とロンがこちらに顔を向けるが、今は無視した。
オレは立ち上がり、鳥に声をかけた。鳥は一声歌うと、俺の肩に舞い降りた。マリー
﹁⋮⋮不死鳥よ﹂
706
れは奴の精神力次第だ。
﹁こいつを先に医務室へ。その後はこの子達だ、頼めるか
﹂
?
﹂
﹂
え
なんで
﹂
オレの問いに不死鳥はまた一声歌い、ロックハートを掴んで飛びさっていった。さ
て、と。
﹁シロウ、大丈夫なの
シロウ⋮⋮さん
!?
﹁さっきまで血だらけだったよね
﹁う、ううん⋮⋮あれ
?
かったため、三人を残した。だが、このままでは余波に巻き込まれるだろう。
この三人をどうしようか。正直ロックハートが五体満足なら良かったが、そうでな
?
!?
!?
?
﹁あのヒュドラは倒さねば止まらん。だからオレは行く﹂
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
﹁⋮⋮三人ともよく聞け。一応オレは不死鳥の涙のおかげで、傷も毒も癒えた﹂
16. 神話よ再び
707
﹁無茶だよ
か。
﹂
マリーが即座に否定する。同時に部屋のほうの壁にヒビがはいる。もう時間がない
!?
で内側からやられてしまう、諸刃の剣である。
凛の宝石とは違い、純粋な魔力ではないので、飲んだオレが制御できなければ、一発
一時的にその属性が使える、一種のドーピング剤のようなものだ。
この宝石は、剣吾の﹃火﹄と﹃風﹄の属性魔力が込められており、オレが飲むことで
す。
壁から十五メートルほどの場所に立ち、オレは懐から真っ赤な大きな宝石を取り出
間ができていた。加えて空間は横にも広く、戦うには十分な広さだった。
先程天井が崩れたからか、元から地上に空いていた穴と繋がり、地上に続く大きな空
オレはそう言うと、マリー達の制止を聞かず、部屋のほうに向かった。
出るなよ。非常に危険だからな﹂
﹁オレは大丈夫だ、秘策もあるしな。それより、オレが良いと言うまでこの岩場の陰から
708
だが迷うことはない。
奴の首は切っても再生する。大英雄もその甥に、ヒュドラの傷口を松明の火で焼き塞
がせたという話だ。
残念ながら今この場には、それを頼める剣吾も凛達もいない。ならば、初めから使用
する武器に炎を纏わせればいい。魔術師ならば、足りないものは他所から持ってくるの
だ。
オレは宝石を一飲みした。途端、体の内側から焼かれるような痛みが走る。純粋な攻
撃力のみを孕んだ剣吾の魔力は、オレを内側から蹂躙した。
﹂
視界が赤くなる。己の魔力とせめぎあう。だが。
!!
そして魔力は鎮まった。オレの中で一つとなり、体を駆け巡る。
暴れる魔力を抑え込む。体が熱を持つが、無視をして抑える。
中を見守る者達、元の世界で愛した人達のためにも、ここで負けるわけにはいかない。
衛宮士郎は、他の誰にも負けてもいいが、自分には負けられない。だが、今自分の背
そうだ。
﹁⋮⋮ここで、やられるわけにはいかない
16. 神話よ再び
709
壁の亀裂が広がる。あと三秒ほどで壁は崩れ、ヒュドラが襲いかかるだろう。そして
この十五メートルの距離は、奴にとってはギリギリ間合いの内側、突破と同時にこちら
に向かうだろう。
思考をクリアに、残りの魔力を見ると一発勝負。
しっ て い る
創造理念、基本骨子、構成材質、制作技術、憑依経験、蓄積年月の再現。固有結界は
ト レ ー ス・ オ ン
使用不要、そもそも魔力量が足りないし、奴に最適な宝具を、オレは今記録した。
炎となる。両袖が焼け落ち、皮膚も焼ける。だがそれでも全て注ぎ込む。爆炎はいつし
大剣に剣吾の魔力を注ぎ込む。刀身は火炎を纏い、大剣を取り巻く疾風によって、爆
﹁⋮⋮行くぞ﹂
せよう。
のままでは、オレにこれを扱うことはできない。ならば、彼の者の怪力をも複製してみ
左手を上に掲げ、まだ虚空の未だ現れぬ剣の柄を握り締める。想像を絶する重量、今
﹁││投影、開始﹂
710
か紅蓮の焔となり、岩の大剣は炎の剣となった。
壁の奥からヒュドラの咆哮が響き、亀裂が広がる。
┃┃ 三
地鳴りは止まず、寧ろ激しくなる。今の疲弊したオレの体では、限界を超えない限り、
ト リ ガ ー・ オ フ
奴を一刀のもとに切り伏せるのは困難。
壁が崩れ、遂にヒュドラが姿を現す。その九つの頭、十八の双眼。全てに狙いを定め、
┃┃ 二
脳内に九つの斬撃、二十七の魔術回路を総動員させ、前を見据える。
る。
故に限界を超える。限界を超えたとき、初めて見えてくるものが、掴み取れる力があ
﹁││投影、装填﹂
16. 神話よ再び
711
セッ
ト
ナインライブス・ブレイドワークス
大英雄の御技を、今ここに解き放つ。
﹁全工程投影完了。││ 是、射 殺 す 百 頭
まま寝転がる体勢となった。
﹂
倒れず、誰かから支えられた。そしてそのままゆっくりと下ろされ、何かに頭をのせた
流石に無理が祟ったのか、全身の力が抜け、オレは後ろに倒れこんだ。が、地面には
あ、不味い。完全にガス欠だ。
ヒュドラは完全に沈黙した。刀身の炎は消え、剣は魔力に還って霧散する。
埋めた。
より、ヒュドラの上の岩盤が崩れ落ちる。岩は全てヒュドラの上に落ち、その体を地に
九つの斬撃はヒュドラの首を全て落とし、纏う炎で切り口を焼き塞ぐ。斬撃の余波に
迫り来る高速を、神速を以て叩き、切り伏せる。
!!
712
﹁⋮⋮隠れていろと言った筈だが
﹂
﹁⋮⋮わかってる。でも心配だったから﹂
﹁そうか。すまないが、暫くこのままでいいか
力が入らん﹂
?
?
げた。
シロウが何かを飲み込み、暫く喘いだあと、考えられないほどの大きな剣を片手に掲
シロウが部屋の方に行ってからすぐ、僕らは岩陰から状況を覗き見ていた。
Side ロン
るはずだ。
不死鳥が帰ってくるまで、このまま魔力を回復させよう。幸いすぐに動けるようにな
﹁うん、お疲れ様﹂
16. 神話よ再び
713
前からシロウの身体能力はおかしいとは思っていたけど、流石に今回は開いた口が塞
がらなかった。身長の1.5倍はある剣を、あんな軽々と持つことなんて、普通はでき
ない。
更に驚くことに、剣は紅く輝く炎を纏い始めた。同時に僕らがいるところに、すごい
﹂﹂
熱風が流れ込んできた。それとほぼ同時に壁が崩れ、ヒュドラがシロウに襲いかかっ
た。
﹁﹁シロウ
改めてシロウの規格外さを知った。そして本能的に、これは知られてはいけないもの
雄のようだった。
り伏せたのは、伝説に語られる、九つ頭の蛇神。シロウの立つ様は、神話に出てくる英
剣を振り切ったシロウは真っ赤な腰布をはためかせ、力強く立っている。その剣が切
まるで神話の一コマのようだった。
なっていた。
が剣を振り終えたときには、ヒュドラの頭は全て切り落とされ、その体は岩の下敷きに
僕とマリーは思わず叫んだ。でも瞬きしたときには、既に全部終わっていた。シロウ
!!
714
16. 神話よ再び
715
とわかった。シロウが表に出るのを嫌がっている、そう漠然と感じた。
・
・
まぁ流石にマグルの﹃関銃機﹄とかだったらやられるかも知れない
・
それにしても、本当に彼は凄いと思う。魔法界とマグル界を含めて、彼が最強なので
はないだろうか
けど。
だろう
魔法使いが杖を振って呼び寄せるのとは、若干違うような気がする。だって
前から思っていたけど、剣吾もシロウも虚空から剣や槍を出すよね。どうやってるん
あっ、剣が消えた。
?
あっ
ヤバイ、シロウが倒れる
ようやく終わりを告げた騒動に安堵の息を漏らしながら、僕とジニーは暫く目の前の
⋮⋮もう少しここにいようか。
はとても神秘的に写った。
どうやら疲れて力が入らないらしい。上から差し込む月明かりと相俟って、僕の目に
ま膝枕の体勢になった。
いつのまに移動していたのか、マリーが後ろからシロウを支えていた。そしてそのま
咄嗟に前に出ようとしたけど、その必要性はなかった。
!!
あんなふうに、粒子になって消えることはないし。
?
!?
716
光景を見ていた。
17. 帰還
Side シロウ
十分ほどすると不死鳥が舞い戻り、岩陰からロンとジニーも出てきた。というか二人
とも、出歯亀決め込んでいたの知っているからな。ジニーはともかく、ロンはあとでシ
メる。
それから、部屋にいたときから気がついていたが、針金の小さな鳥がいるな。おおか
た、フレッドとジョージが、使い魔で捜索、ついでにずっと見ていたのだろう。
最悪寮のみんなも見ているかもしれん。ウィーズリー三兄弟以外の寮の面子は、記憶
操作したほうがいいだろう。
ていった。中々に大きな空洞だったので詰まることもなく、全員すんなりと出ることが
オレはそう言うと立ち上がり、不死鳥に三人を掴まらせ、そのまま上にあく穴を登っ
﹁不死鳥、三人を頼む。オレは一人で登れる﹂
17. 帰還
717
出来た。針金の小鳥もすぐ近くにいる。
﹂
﹁疲れているかもしれないが、報告に行く必要があるだろう。不死鳥よ、案内を頼めるか
718
オレたち四人が泥まみれ、ヘドロまみれの状態︵余談だが、オレはそれに両腕の火傷
オレはノックをして、ドアを開いた。
ゴナガルの部屋の前に着いた。
かったから、あの三人も来るだろう。オレたちは無言で不死鳥の後を追い、そしてマグ
オレはそれだけを言うと、三人を伴って不死鳥についていった。小鳥も城の方へ向
も一緒に持ってこい﹂
ナガルの元に行け。それからもしこいつを介して見たものを記録しているのなら、それ
﹁こいつを介して聞こえているだろう。フレッドとジョージ、パーシーの三人は、マグゴ
けた。
オレの言葉に不死鳥は一声歌った。了承したのだろう。オレは小鳥の方にも顔を向
?
﹂﹂
と血まみれが加わる︶で部屋に入ると、始めは沈黙が支配した。
﹁﹁ジニー
﹁身勝手だな﹂
﹁理事たちに戻ってくれと言われてのう﹂
﹁戻ってこれたのだな﹂
吸を繰り返している。オレはダンブルドアの元へと近づいた。
ナガルには一応報告をしていたが、やはり不安だったらしい。ダンブルドアの隣で深呼
部屋の奥には、ダンブルドアとマグゴナガルが並び立ち、こちらを見ていた。マグゴ
めた。あとから三兄弟も続く。
暖炉の前で俯いていたウィーズリー夫妻はジニーに駆け寄り、二人して末娘を抱き締
!!
締められた。
オレとダンブルドアが話していると、後ろからモリーさんに、ロンとマリーごと抱き
﹁ホッホッホッ、まぁそう言ってやるな﹂
17. 帰還
719
﹁あなたたちがこの子を助けてくれた
いったいどうやって
﹂
?
こで何をしていたのですか
﹂
言わないといけませんか
﹂
いなくなった二ヶ月、ど
く二人とも無事に帰ってこれたな。オレだと蜘蛛を全滅させかねん。
ないので、その部分は二人に任せた。流石に大蜘蛛に会いに行ったのには驚いたが、よ
マリーとロンとオレは、全てを語った。流石にオレのいない二ヶ月に関してはわから
か、その剣の血の半分は、オレの血なんだよな、あとで拭き取っておこう。
マリーはデスクの上に、古い帽子と血にまみれた剣、リドルの日記を置いた。という
マグゴナガルがボソリと呟く。
﹁私達全員が、それを知りたいと思っています﹂
!!
﹁成る程、よくわかりました。それで、ミスター・エミヤは
﹁む
?
?
流石に見逃してくれないか。
﹁当たり前です﹂
?
?
720
オレは居住まいを正し、みんなに向き直った。序でに言うとマリーよ、少し顔が怖い
ぞ。
それに養生
どこでですか
﹂
﹁その二ヶ月は、養生と魔法具の制作をしていました﹂
﹁魔法具
?
?
いったのですか。では食事は
﹂
﹁どうも。あとでポピーに渡しておきます。しかし成る程、それで新品の包帯を持って
でにけっこう出血するので包帯を変えたりと。あ、これ毒から作った血清です﹂
かったので、自分なりの治療を行いました。傷口からの毒物の除去から始まり、それま
にいました。まぁボロボロが過ぎたので、一部改修しましたが。血清を待つ余裕が無
﹁何処かは言いませんが、ホグワーツのとある場所から続く抜け道の先、ボロボロの屋敷
?
?
アは、暫くそれを見つめていたが、その顔を驚愕に染めた。
オレがそう言うや否や、マリーとロンはそれを差し出す。マグゴナガルとダンブルド
成品は、ロンとマリーが身に付けています﹂ ﹁近くのパブで。アルバイトをしながら魔法具に必要なものを揃えたりしてました。完
17. 帰還
721
﹁のぅシロウよ。これは彼らが身に付けているものと﹂
ですか
﹂
﹂
﹂
﹁それに関しては⋮⋮フレッド、ジョージ。あるか
二人とも
﹁﹁もちろん﹂﹂
﹁え
﹁見た方が早いでしょう
?
?
?
せぬよう、きつく言っておかねばなるまい。
ちゃっかりヒュドラとの戦いも見ていたのか。これはもう、こいつらが使い魔を悪用
かった。
うか二人とも、バジリスクとぶち当たる少し前から見ていたのか。なら何故報告しな
プロジェクターのように壁に映像が映し出され、原理は知らんが音も出ていた。とい
フレッドとジョージは持ってきた水晶玉を、部屋の真ん中に置き、それに杖を向けた。
?
?
﹂
﹁わかりました。では次にですが、いったい全体どうやって、全員生きて戻ってこれたの
﹁おお、何と⋮⋮。成る程のぅ、これ程のものなら、時間がかかるのは仕方あるまい﹂
ることで、バジリスクの魔眼をもある程度防げます﹂
﹁ええ、それ一つでは大して力はありませんが、彼からが元々身に付けているのと合わせ
722
ぎょうこう
﹁⋮⋮バジリスク以外にもいたのですか。しかもヒュドラ﹂
﹁流石に予想外でしたので。正直、倒せたのは僥 倖でしょう﹂
﹁そうですね﹂
これに関しては、ダンブルドアもマグゴナガルもホッとしている。ウィーズリー一家
は、四兄弟を除いて全員口を半開きにしている。一応夏休みに力の一端を見せていたと
はいえ、流石にこれは驚くのも仕方がないか。
まぁそれは置いておこう。問題はジニーだ。
残念ながら、日記が破壊された今、ジニーが操られていたと証拠付けるものはない。
その話が信じられなかった場合、彼女は最低でも退学になるだろう。果たしてどうすべ
きか。
ダンブルドアが口を開く。
﹁わしが気になるのは﹂
17. 帰還
723
﹁ヴォルデモート卿が、どうやってその子に魔法をかけたかじゃの。わしの個人的な情
報によれば、あやつは今アルバニアにいるらしいが﹂
い﹂
﹁⋮⋮リドルの洗脳を阻害したのは、剣吾の護符です。お礼は今度、息子に言ってくださ
﹁いえ、それでもあなたは娘を助けてくれた。ありがとう﹂
﹁これ、でしたね。申し訳ありません。任せろと言っておきながら、このような事態に﹂
﹁じゃ、じゃあ。年度初めにシロウ君の言った魂憑とはまさか⋮⋮﹂
ダンブルドアは日記を取り上げ、しげしげと眺めた。
﹁成る程のぅ⋮⋮ふむ、見事じゃな﹂
﹁ヴォルデモートはここの生徒だったとき、この日記を書きました﹂
ダンブルドアの疑問にマリーが答えた。
﹁その日記です﹂
724
いつも言い聞かせてい
アーサーさんとモリーさんは頷くと、ジニーに向き直った。ジニーは未だ涙を流し続
けている。
﹁⋮⋮ジニー。パパはお前に何も教えなかったと言うのかい
ただろう フレッドとジョージが作ったもの以外で、﹃脳みそがどこにあるかわから
?
﹂
?
まま⋮⋮﹂
ウさんも襲われて行方がわからなくなって⋮⋮私どうしたらいいかわからなくて、その
使ってた。でもクリスマスあたりから怖くなって、シロウさんに預けようと。でもシロ
﹁ママの用意した本の中にそれがあって、てっきりママが買ってくれたと思って、つ、
ジニーはしゃくりあげながら言う。
﹁わ、私知らなかった﹂
とママに言わなかったんだい
ないのに、自分で考えることができるもの﹄を信用してはいけないって。どうしてパパ
?
﹁ミス・ウィーズリーはすぐに医務室に行きなさい﹂
17. 帰還
725
ダンブルドアが話を中断させ、出口までツカツカと歩み寄り、ドアを開いた。
﹂
?
﹁もちろん﹂
しいですね
﹂
﹁ポッターとエミヤ、この場にいませんが、ウィーズリーの処置は先生にお任せしてよろ
﹁うむ、頼んだ﹂
﹁わかりました、キッチンにそのことを知らせに行きます﹂
う
﹁のう、ミネルバ。今回のことは、盛大に祝う価値があるものと思うのじゃが、どうかの
現在部屋には、オレとマリー、マグゴナガルとダンブルドアしかいない。
の手紙を、ダンブルドアから依頼されたから、家族とは別にフクロウ小屋へと向かった。
ジニーは家族に連れられ、医務室に向かった。ロンはハグリッドを返してもらうため
きたのじゃ﹂
いつもそれで元気が出る。もっと年上で賢い魔法使いでさえ、あやつにたぶらかされて
﹁苛酷な経験じゃったろう。罰はなし。安静にして熱いココアでも飲むとよい。わしゃ
726
?
ダンブルドアがそう答えると、マグゴナガルは部屋から出ていった。それにしても
オレにしがみつかんでも良かろう。
﹁処置﹂か。まぁ確かに、オレたちは数百の規則を粉々に破ったからな。だがマリーよ、
﹁心配せんでも、君たちはそれに見合う結果を導きだした。罰はないよ、君たちには﹃ホ
グワーツ特別功労賞﹄が授与される。それにそうじゃな⋮⋮一人につき百五十点ずつ、
グリフィンドールに与えよう﹂
いや、オレはそのなんたら賞はいらんのだが。まぁ罰は無いようだし、一先ず安心か。
気になっていたんだが、フォークスよ、何故オレの頭をつつく
?
成る程、不死鳥フォークスがあの場にいたのは、そういう理由か。それとさっきから
してくれたと思う。でなければ、フォークスは君のところに呼び寄せられなかった﹂
﹁さて、マリー。まず君に礼を言おう。﹃秘密の部屋﹄の中で、君はわしに真の信頼を示
17. 帰還
727
﹂
﹁⋮⋮先生、一ついいですか
﹁なんじゃ
﹂
?
﹁何故、私は蛇語を話せるのでしょうか
?
﹂
?
﹂
のように選択し、生きてきたかということじゃ﹂
﹁あくまであるだけじゃよ。大事なのは、どんな力を持っているかではない。今までど
﹁それじゃあ、私はスリザリンの適性がある、ということですね﹂
だ。その力の一部が移ったのなら、あるいは⋮⋮
ヴォルデモートはスリザリンの直系の子孫、ならば奴が蛇語を話せるのは自然なこと
蛇語を理解し、話すことができる。
マリーはスリザリンの直系の血族ではない。にも拘らず、スリザリンの専売特許たる
成る程、そう考えれば辻褄が合うな。
﹁ヴォルデモートの⋮⋮力の一部
に、自らの力の一部を移してしまったのじゃろう。本人が意図せずしてのう﹂
﹁⋮⋮わしの推測にすぎんが、それは十一年前、ヴォルデモートが君を殺し損ねたとき
?
728
成る程な。確かに自分が何者かを示すには、有する能力ではなく、生き様見せること
が大切だ。だがダンブルドアよ、オレをちら見しながら言うな。反応に困る。
﹁もし君がグリフィンドールの者であるという証が欲しいのなら、この剣をよく見ると
いい﹂
ダンブルドアはそう言うと、マグゴナガルの机の上の剣を取った。その剣の腹には、
﹃ゴドリック・グリフィンドール﹄と刻まれていた。
﹁真のグリフィンドール生だけが、思いもかけぬこの剣を帽子から取り出せるのじゃ﹂
ダンブルドアの言葉に、マリーは安堵の表情を浮かべた。
と、そこで部屋の扉が勢いよく開かれた。結構乱暴に開かれたため、扉は壁に跳ね
返った。そしてルシウス・マルフォイが、小さな生き物を連れて入ってきた。
︵⋮⋮成る程。こいつがお前の主人だったのだな、ドビーよ︶
17. 帰還
729
その小さな生き物はドビーだった。彼はオレとマリーに気づくと、頻りに日記とルシ
ウスの間で視線を動かした。
ふむ、こいつが全ての元凶か。マリーも気づいたみたいだ。
まったく、息子のドラコ・マルフォイといい、こいつといい。蛙の子は蛙だな、この
親にしてあの子あり、か。
話はついたらしく、ルシウスは入るときと同じように荒々しく出ていった。マリーは
ダンブルドアの許可を得て日記をつかみ、ルシウス・マルフォイを追いかけていった。
﹂
まぁ奴もこんなところで問題は起こさないだろう。
﹁⋮⋮さてシロウよ。君は何をしておるのじゃ
まったく、大事な話をするというのに。
?
﹁ふむ、後年に誰かが紛れ込ませたか。はたまたスリザリン本人がバジリスクと共に入
﹁部屋にヒュドラがいた理由、なにか思い付くか
﹂
﹁いや、面白いからもう少しこのm﹁おいジジイ⋮⋮﹂フォークス、その辺での﹂
﹁気づいていたなら止めさせろ。つつかれすぎて禿げる﹂ ?
730
れていたか﹂
﹁出来れば後者でありたいものだ。だがそれでも、ヒュドラが今の世にいることが理解
できんな。あれは大英雄に退治されたはずだが﹂
﹁恐らく、純粋なヒュドラではないのじゃろう。改造して人工的に造られた、と見るほう
が筋道が通る﹂
﹂ ﹁昨年のトロールといい、今回のヒュドラといい。マッドサイエンティストしかいない
のか
﹁それで、ギルデロイはどうなったのじゃ
﹂
?
?
﹁態々聞かなくても、あなたなら開心術で見れるんじゃないか
﹂
ダンブルドアは紅茶を一口飲むと、改めてオレに向き直った。
﹁さてのぅ⋮⋮﹂
?
﹂
﹁君 自 身 が わ し 以 上 の 閉 心 術 を し て お い て よ く 言 う わ い。も し や 先 程 の 仕 返 し か の う
17. 帰還
?
やっていけるかは、正直私にもわからん﹂
﹁さて、どうだろうな。まぁ、それは置いておこう。奴のことだが、再び魔法使いとして
731
﹁というと
﹂
?
﹁⋮⋮わかった﹂
﹁来年の防衛術はどうする
﹁あんたは阿呆か
﹂
﹁そうじゃのう⋮⋮君が教えてみるかの
?
﹂
してマリーの靴下が片方ない。加えてドビーの足元には、破壊されたリドルの日記。
通常ではこのような事態はあり得ないが、ドビーは片手に靴下を握りしめている。そ
おかた、マリーに危害を加えようとし、ドビーに吹き飛ばされたか。
暫く歩くと、ドビーとマリー、そして少し離れたところで倒れるルシウスがいた。お
のままマグゴナガルの部屋を後にした。
最後は軽口たたきあったが、これはこれで話は終わりという合図でもある。オレはそ
﹁ホッホッホッ、年寄りの軽い冗談じゃ﹂
?
?
﹂
﹁あとは奴の精神次第だ。もし奴が死を望むなら、そのときはオレが介錯しよう﹂
﹁そうか﹂
ている。寧ろ内臓が無事だったことが奇跡だ﹂
﹁まず奴の杖だが、秘密の部屋で紛失した。加えて奴の右半身は、内臓を除いて全て潰れ
732
﹂
﹂
マリーがルシウスをはめて、ドビーを自由にしたか。
﹁ルシウスさん、何をしているのですか
﹁ああ。ミスター・エミヤか﹂
﹁こんなところで寝ていては、風邪をひきますよ
﹁⋮⋮余計なお世話です﹂
?
﹁⋮⋮流石は妖精族、か﹂
﹂
﹁勿体なき御言葉です、エミヤ様。ところで一つお聞きしても
﹁ん
﹂
ルシウスはそう吐き捨てるように言うと、足早に去っていった。
?
?
﹁あなた様の体に溶け込んでいるもの、それはもしや﹂
?
フリットウィックはまだ気がついていないしな﹂
?
ません﹂
﹁何と、我らの間でも有名なあの方にお会いしたのですか。わかりました、決して他言し
このままだ。他言無用で頼むぞ
﹁想像の通りだよ。あいつに返そうとしたが、逆に持っていろと言われてな。それ以来
17. 帰還
733
ドビーは蝙蝠のような耳をパタパタさせながら、頻りに頷いていた。普通にオレの頼
﹂
みを聞いているが、そういえばドビーはもう自由だったな。
﹁ドビーはこれからどうするの
⋮⋮さようなら。偉大な魔法使い、マリナ・ポッター。さようなら。彼の者の
!!
ドビーは指をパチリと鳴らし、消えていった。
遺志を継ぎし英雄、シロウ・エミヤ。またいつか﹂
﹁はい
﹁そうなの。良い出会いがあるといいね﹂
﹁次の主が見つかるまで、世界を見て回ろうかと思っております﹂
?
734
18. エピローグ
Side シロウ
医務室に着くと、まずはベッドで寝付いているウィーズリー兄妹が目に入った。ジ
ニーの枕元には、アーサーさんとモリーさんが腰掛けている。
石化した生徒が寝かされていたベッドは、全て空になり、綺麗に畳まれていた。とい
うことは、マンドレイクの薬が完成し、生徒が元に戻ったのだろう。
オレはウィーズリー夫妻に軽く会釈をし、一番奥にあるベッドへと向かった。その
ベッドはカーテンで仕切られ、外から見えないようになっている。
誰も医務室に来る気配がなかったので、オレはそのカーテンを開いた。そこに寝てい
たのは、右手足を失ったロックハートだった。目は覚めているらしく、開いていた。
﹁⋮⋮ミスター・エミヤ
﹂
﹁⋮⋮どうやら、目が覚めたみたいだな﹂ 18. エピローグ
735
?
﹁ああそうだ。自分の状況がわかるか
﹂
?
﹂
?
﹂
﹁⋮⋮それで これからどうするつもりだ
復帰できるかはわからんぞ
魔法はそのあとでも良いさ。もしく
悪いが、お前がこの先魔法使いとして
?
は、ただのギルデロイ・ロックハートさ。ただの一人の男だよ﹂
⋮⋮ふむ。
こいつの顔に憂いはない。ということは、今の言葉はこいつの本心だろう。この学校
ホ グ ワー ツ
﹁ああ。詐欺師のギルデロイ・ロックハートは、秘密の部屋で死んだ。今ここにいるの
﹁⋮⋮そうか﹂
は、今度は他人の手柄じゃなくて子供用の絵本を書いたりね﹂
﹁そうだねえ⋮⋮しばらく世界を見て回ろうか
?
?
?
⋮⋮本当に変わったものだ。一年前からみれば劇的ビフォーアフターだな。
﹁⋮⋮いや、生きているだけでいい。それだけでも有難い﹂
﹁死にたかったのか
﹁⋮⋮右手足がなくなってるね。あのときの落盤か。⋮⋮生きていたのか﹂
736
での一年は、こいつを良い方向に変えたみたいだな。
オレは投影で義足を作った。といっても、ちゃんとした物を装着するまでの、一時し
のぎにすぎないが。
﹁餞別だ。出来れば一月以内にちゃんとしたものに付け替えろよ﹂
﹁悪いね、ありがとう﹂
奴の礼には応じず、オレはそのままカーテンを閉めた。奴がこれからどうするかは奴
次第、これからじっくりと見極めるとしよう。
どこに行くのですか
﹂
さて、急いで大広間に行くか、朝食には間に合うだろ⋮⋮
あ⋮⋮﹂
﹁ミスター・エミヤ
﹁え
な、何故だ
?
オレに覚られず、近づいてきたというのか
?
!?
!?
?
マダム・ポンフリーはアサシンか
!?
18. エピローグ
737
?
それに、
関係ないが、前から思っていたのだが、マダム・ポンフリーはセラにそっくりだ。
﹂
﹁不死鳥の涙で傷や毒が癒えても、体力まで回復するわけではないのですよ
﹂
そんな火傷を負った両腕でどこに行くのですか
﹂
﹁い、いやこれはだな
﹁問答無用です
?
!!
は、オレに向かって合掌していた。
というか見ていたのなら助けてくれ
いやだ
?
なんでさ
!?
オレはそのまま医務室に連れ戻された。いつの間に起きていた双子のウィーズリー
!!
?
738
Side マリー
本当に色々有りすぎて、朝御飯を食べに行く体力もなかった。何か食べるにしても、
先に睡眠をとらないと行動できない。私は真っ直ぐグリフィンドール寮へと向かった。
寝室に着くと、私のベッドの上にはパジャマが畳んでおいてあったので、直ぐにそれ
流石に疲れちゃった﹂
に着替えた。ハネジローは私を待っていてくれてたようで、ベッドの上に腰かけて私を
見ていた。
﹁ただいま、ハネジロー﹂
﹁パーム、オカエリ﹂
?
私も眠気が襲ってきたので、抵抗せずに身を委ねた。
ぐに眠りに落ちた。
と、隣に入ってきた。この子も私達が心配だったのだろう。安心したのか、私の隣です
私がそう言うと、ハネジローはパタパタとベッドから離れた。そして私が布団を被る
﹁うん。ごめんけど、早速寝ていい
18. エピローグ
739
740
◆
風がふく。
命の息吹が感じられない、真っ赤な荒野。
草木の代わりに、地面に突き立つ無限の剣群。
分厚い雲に覆われた、黄昏の空。
その空に浮かぶ、大小様々な歯車。
嗚呼、私はまたここにいるのか。
私は、何度も見てきた悲しい世界を、改めて見回した。でも今回は今までと少し違っ
た。
まず、喧しいまでの剣戟が聞こえた。そしてその方向に顔を向けると三人の人がお
り、そのうち二人は、互いにぶつかり合っていた。
対峙しているのは赤銅色の髪の少年と、白髪の青年。二人とも何処かで見たような白
黒の双剣を構え、互いに激しく論争し、剣を叩きつけていた。
私は二人の側により、青いドレスの上に甲冑を纏った女性の隣に立った。闘う二人の
男は、二人とも知っている誰かの面影があった。
二人はとても近い者、下手すれば同一人物と言えると感じた。互いが互いを一番理解
﹂
しているからこそ、互いが互いの存在を認められない、故に意地と意地がぶつかり合っ
ている、そう漠然と感じた。
﹁そうだ、誰かを助けたいという願いが綺麗だったから憧れた
!!
これを偽善と言わず、何と言う
青年が吠え、少年に猛攻を仕掛ける。少年は防ぐことしかできない。
男は断罪する。少年を、他でもない自分自身も。
!?
!!
﹂
﹁故に、自身からこぼれ落ちたものなど何一つ無い
18. エピローグ
741
た
そして傲慢にも走り続けた
﹂ !!
いた。まるで、青年の断罪が、女性自身も裁いているかのように。
﹁それが苦痛だと思う事も、破綻していると気付く間もなく、ただ走り続けた
﹂﹂
青年の剣は少年の剣を弾き飛ばし、そして少年の腹に突き刺した。
﹁﹁シロウ
!
赤銅色の髪の少年は、本当の意味での若い頃のシロウ。そして白髪の青年は、シロウ
いや、気づかなかったふりをやめさせられた。
思 わ ず 声 を あ げ て し ま っ た。甲 冑 の 女 性 も 叫 ん だ。そ し て 声 に 出 し て 気 が つ い た。
!?
﹂
女性の目は前髪に隠れて見えなかった。でも、その口元は半開きになりつつも歪んで
ふと、隣に立つ女性に顔を向けた。
!!
﹁この身は誰かのためにならなければならないという、強迫観念に突き動かせられてき
742
そ
が至る可能性のある、未来のシロウ。そう考えると、嵌まらなかったパズルのピースが、
自然と組合わさった。
﹂
初めから救う術を知らず、救うものを持たず、醜悪な正義の体現者
﹁そんな偽善では誰も救えない。否、もとより、何を救うのかも定まらない。見ろ
の結果がこれだ
が⋮⋮貴様の成れの果てと知れ
!!
願いしか抱けぬと言うのなら、抱いたまま溺死しろ
!!
大人のシロウの顔は、酷く歪んでいた。
私は聞こえていないとわかっていても、反論しようとした。でもできなかった。
!!
!!
大人のシロウはそう叫ぶ。
﹂
誰もが幸福である世界など、空想のお伽噺だ そんな
た。それほどに目の前に倒れるシロウを、何とかして助けたかった。
手はシロウをすり抜けた。私は今いる場所が、シロウの記憶の中であることを忘れてい
大人のシロウは、子供のシロウを切り飛ばした。咄嗟に駆け寄って触れたけど、私の
!!
!!
﹁その理想は間違っている
18. エピローグ
743
憎しみ、怒り、怨みが詰まった表情、でもその目は、哀しみ、絶望、後悔、孤独といっ
たものを孕んでいた。
大人のシロウが何を見てきたかわからない。でも彼は、生きている間、もしかしたら
死んだ後も嫌なもの、私が想像できないものを嫌と感じられなくなるほど見せつけられ
﹂
た。故に自分を殺したくなるほど憎んだ。
﹂
﹁⋮⋮ざけんな﹂
?
⋮⋮シロウ
﹁なんだと
﹁え
?
だと
﹁なに
ふざけるな
﹂
!? !?
それはお前だけだ
!!
﹂
﹁俺の願いが、俺の想いが、間違っているだと 救うものを、守るべきものを持たない
いた。
そちらに顔を向けると、異常としか言えない回復力で、傷がどんどん塞がるシロウが
すぐ近くから声が聞こえた。
?
744
!!
?
十年前のあの地獄の日、
たしかに俺は﹃正義の味方﹄に憧れた 切嗣の憧れた正義の味方に
!!
だがな、俺は俺の意思で正義の味方になると願った
﹁ああ、そうだ
な
!!
!!
﹂
!!
﹁違う
﹂
分もそうなりたいと願っただけ
﹁その考えがそもそもの間違いだ お前はあの男の余りにも幸せそうな顔を見て、自
今度は自分自身の手で人々を救うと
非力な自分のかわりに、あの地獄をどうにかしてほしいと。そして生き延びた暁には、
!!
﹂
!!
!!
ついには彼らは二人とも、死に体になっていた。
次々に傷を負っていく。お互いが防御を二の次にし、その心を叩きつけていた。
先程までとは違い、今度はシロウが優勢だった。シロウもだけど、大人のシロウも
再び剣戟が走る。言葉を、互いの心をぶつけ合う。
!!
﹁⋮⋮何を﹂
﹁じゃあ、お前は救ってきた人々に目を向けたか
﹂
﹁何を今更、数えきれないほどに決まっているだろう﹂
﹁⋮⋮なぁアーチャー。お前は今まで何人救ってきた﹂
18. エピローグ
745
?
シロウの質問に、大人のシロウ、アーチャーは答えを窮した。
ああ、そうか。
アーチャーは命を救うことだけを見ていた。だから助けた人の心までは救えず、逆に
お前が殺したものにしか目を向けてなかっんた
助けられなかった人々だけを見てしまった。
故に歪んでしまったのだ。
﹂
﹁その人たちにお前は目を向けたか
んじゃないか
﹂
﹂
俺達が
俺の大切な人たちは、思いは、決してなくしたりは
たとえ自分の未来が報われなくても、偽りのものだったとしても
﹁俺は切り捨てない、無くさない
﹁黙れ
﹁なぜ大切な存在を切り捨てた。なぜ救ってきた人びとに目を向けなかった
﹁⋮⋮黙れ﹂
?
しない
!!
!!
!!
!!
!!
﹂
﹁た と え 殺 し て い く 人 々 の 中 に 自 分 の 大 切 な 存 在 が い て も 構 わ ず 切 り 捨 て た。違 う か
﹁⋮⋮⋮⋮まれ﹂
?
?
746
﹂
抱いた思い、あの日の誓いは、決して間違いなんかじゃないから
そこまでだ、消えろォ
!!
!!
﹂
!!
その髪は重力に逆らわず、オールバックではなくなっていた。何よりも、その顔は満
そしていつもの場所に、大人のシロウが立っていた。
ない快晴だった。柔らかな風は、頬を優しく撫でた。
て地面に転がり、それにはとても小さな花々が咲いていた。そして空は青く、雲ひとつ
草も生えない大地には、見渡す限りの草原が広がっていた。大小様々な歯車は、錆び
でも今までとは決定的に違うものがあった。
今度は私は、また剣が突き立つ世界にいた。
そこで急に目の前の光景は変わった。
た。まるで憑き物が落ちたかのように。
局降り下ろされなかった。それどころか、アーチャーの顔は穏やかなものになってい
剣が刺さる前、アーチャーはシロウに止めをさそうと、白の剣を振り上げた。でも結
そうしてシロウの剣は、アーチャーの腹を貫いた。
﹁ッ
18. エピローグ
747
748
たされたような、穏やかな表情を浮かべていた。
そうか。
未来のシロウは、どれ程の時間がかかったかわからないけど、ちゃんと救われたのか。
私はそれがわかって、非常に安心した。何故か知らないが、涙が流れ落ちた。
ふと目の前のシロウは、私に顔を向けた。
その顔は最初は驚きが浮かび、でもすぐに柔らかな微笑みを浮かべた。
その笑みを見た瞬間、夢の中なのに強い眠気に襲われた。でも嫌な眠気ではなく、む
しろ心地よいものだった。
私はそのまま眠気に従い、意識を手放した。
ブラックアウトするとき、低く優しい声が聞こえた気がしたが、何を言っていたかま
ではわからなかった。
18. エピローグ
749
Side シロウ
結局あのあとポンフリーに捕まり、両腕は包帯でグルグル巻きにされた。﹃使用禁止﹄
と丁寧に注意書までして。
絶対にそうだ。ポンフリーは絶対に平行世界のセラだ。俺の勘が告げているし、彼女
のオレへの態度と瓜二つだ。
どうしてオレの周りには、こうも強い女性が多いのだろうか
一度本気でアーチャーと話し合いたいものだ。
まぁそれはさておき。
今日はマグルの世界に帰る日である。
月日はあっという間に過ぎ、また一年が経過した。
れていたが。
年通り実施された。まぁ今年に限っては、判断が甘いとオレはダンブルドアから知らさ
そして学年末テストだが、事件解決が3月だったため、石化した生徒は補習を受け、例
を授与された。正直オレはいらなかったが。
結局その日の夕食のとき、オレとロンとマリーは、
﹃ホグワーツ特別功労賞﹄なるもの
?
だがオレは、今度の夏休みは忙しくなると感じていた。理由の一つに、昨日凛から連
絡があったことが挙げられる。
たわ﹄
﹁ククッ、そうか﹂
?
だ﹂
﹃そう﹄
本当にどういう意味で聞いてきているのやら。
っと、そうだ。聞きたいことがあったのだった。
?
﹄
﹁少し気になったことだが、そちらでは一年程度しか時間が経過していないのだろう
﹃ええそうね。あなたは
?
﹂
﹁どういう意味で聞いているかは知らんが、今護衛を依頼されている子は、とてもいい子
﹃フフフッ。ところでそっちにいい子はいたの
﹄
﹃そう。まぁイリヤ達が一度行ったらしいし、あんたについては、あまり心配してなかっ
﹁⋮⋮ああ、こちらは問題ない﹂
750
﹁こちらでは七年過ぎている。どうもズレが生じているようだ﹂
﹃ああやっぱり。まぁでも、最近は経験も積んでるし、今後はそういう移動におけるズレ
は少なくなると思うわ。だから心配しなくても大丈夫よ﹄
﹁そうか﹂
﹃ええ﹄
ま ぁ そ れ な ら 安 心 だ な。ま だ 凛 た ち が 若 い の に、オ レ だ け 爺 に な っ て し ま う の は
少々、いやかなり嫌だ。
そっちに行くわ﹄
﹃ところで話は変わるけど、今度の夏休み、あなたにとっては今から過ごす夏休みね、に
﹂
?
は思うが。なんでまた
しかもその面子ということは、御三家関係の用事か
﹂
?
冬木でなにかが起こったわけじゃないわ﹄
﹃まぁそうね、でも安心して。今回の訪問の目的は、あなたの護衛を助けるものだから。
?
﹁む。まぁ剣吾も紅葉もいるし、たしか城にセラとリズがいるから子供たちは大丈夫と
﹃いいえ、私と桜、そしてイリヤよ。子供たちは留守番ね﹄
﹁一人でか
18. エピローグ
751
﹁それを聞いて安心した。いつだ
﹂
?
まぁ魔術関連だとは思うがな。
?
﹁おかえりマリー、シロウも﹂
﹁叔母さん、叔父さん、ダドリー。ただいま﹂
ないらしい。
迎えにはウィーズリー夫妻とダーズリー一家がいた。今年はフィッグさんは来てい
く感じるマグル世界の喧騒に頬が緩む。
汽車は順調にロンドンに到着し、オレたちはキングス・クロス駅に出た。少し懐かし
流石に﹃射殺す百頭﹄に関しては黙秘させてもらったがな。
補習を受けていたので、大して説明する時間が取れなかったのだ。
汽車の中では、石化していたハーマイオニーにより細やかな説明をしていた。彼女は
か
その言葉を最後に、通信は切れた。オレの護衛に役立つというが、何をするのだろう
﹃ええ、それじゃ﹄
﹁相わかった。待っている﹂
﹃そっちの一週間後ぐらいかしら。二週間ほど滞在する予定よ﹄
752
﹁おかえりなさい﹂
﹁ただいま戻りました。ダドリーも、随分と逞しくなったな﹂
オレの大切な人々を脅かすのであれば、オレは剣となって迎え撃とう。
だが何が起ころうと、オレは立ち向かう。この身はただの一度の敗走はない。
恐らくそう遠くない未来に、大きな騒動が起こるだろう。
が小さく見える。
空は晴れ、青い空はその限りを知らずに広がっている。だがその遥か向こうに黒い雲
ウィーズリー一家に挨拶し、オレたちは外へ出た。
の少しだけ柔らかくなっている。まぁ、未だにマリーは好きになれないらしいがな。
この一年でダーズリー一家も少し変わったのだろう。バーノンの纏う雰囲気が、ほん
﹁まぁね﹂
18. エピローグ
753
754
To be contine...
あの二人を裏切り、今も
!!
今度こそ殺す
!!
┃┃ ⋮⋮見つけた。ついに見つけた
のうのうと生きているあいつを
!!
Extra story Ⅱ +プチ設定
その一:剣吾の仕事 時系列:二年目終了後の夏休み
Side 剣吾
ボロボロのビル群、瓦礫の積み重なる道、見渡す限りの死体の山。その向こうには、ゾ
グー
ル
ンビのような人々が、唸り声をあげながらゆっくりと歩いてくる。
ここは死都。後天的に吸血鬼となった死徒によって、食屍鬼が多量に生み出された
町。目の前の死体は、俺が倒したグールの山だ。
﹂
現在俺はエルメロイさんの依頼で、死都の制圧をしていた。⋮⋮一人で。
ったく相棒はまだか
!!
!?
﹁流石に一人はキツいだろ
Extra story Ⅱ +プチ設定
755
愚痴を溢しながらも、襲いかかるグールを次々にほふっていく。死体には火が有効で
はあるんだが如何せん、こいつらを処分したあとには元凶の死徒を倒さねばならない。
なので余計な魔力は使えないのだ。
普通これ
この死徒、主を殺して成り上がったばかりの屑である。ついでに言えば、その主は俺
と少し親交があった死徒だ。ある意味これは弔い合戦と言えなくもない。
それにしても、なんで今回に限って﹃教会﹄の面子は出払っているのだ
まぁ結構な大金が入るからいいんだが、俺じゃない普通の
魔術師、ああ母さんたちは除いてな、だったら五分で死ぬぞ
はあいつらの仕事だろう
?
配はない。本当に何人いるんだよ
しかもいつのまにか囲まれてるし。
先程からおかしいと思ってたんだが、まさかこいつら倒した個体も復活してないか
?
まぁとりあえずは前の集団を片付けるか。
味い。
そんなことがあり得るかは知らんが、もしそうだとしたら、本当に相棒がいないと不
?
そうこう考えながら戦闘を続け、既に一時間が経過している。グールがいなくなる気
?
?
そう考えて走り出したとき、目の前の集団は全て誰かに撃ち抜かれた。
﹁⋮⋮ったく遅いぞ﹂
756
﹁すまない。使い魔を出してはいたんだが﹂
﹁その使い魔より早く到着していたら世話ないと思うが
﹁む、確かに﹂
﹂
?
トは見当たらない。
無言で外套を広げるヴィル。その裏にはポケットはなく、ライダースーツにもポケッ
﹁⋮⋮﹂
﹂
いでドイツ出身。今はルヴィアさんの所に、妹共々間借りしているらしいが。
こいつの名前はヴィルヘルム、愛称はヴィル。俺の仕事仲間であり、俺と同じ魔術使
の下には真っ黒なライダースーツの様なものを着ており、所々をベルトで締めている。
身長よりも長い、真っ赤な外套を身に纏い、同色のバンダナを頭に巻いている。外套
を止めている。
そんな軽口を叩きつつ、ハンドガンの銃弾を装填する男。先の銃撃で、グールは動き
?
﹁そういや携帯に連絡すれば態々使い魔を⋮⋮ちょい待ち、お前持ってる
Extra story Ⅱ +プチ設定
757
﹁⋮⋮信じられない﹂
か
妹さんのライラや、ルヴィアさんとこのシェリアにあれほど言われていたのに
﹁了解。んじゃまぁ、行きますかねぇ
﹂
﹁ああ、さっさと鎮圧しよう。こちらの準備は出来ている﹂
﹁⋮⋮まぁいいか。この話は後にしよう﹂
?
てきた。
実に素晴らしいよ君達
﹂
!!
﹁いや∼素晴らしい
!!
三十分ほどで、全てのグールが駆逐された。そして通りの向こうから一人の男が歩い
の方も、銃から火炎弾を連射しているので、問題はない。
ているため、切つけると同時に対象を燃やしている。復活の心配はないだろう。ヴィル
俺は槍を、ヴィルは銃を構え、次々にグールをほふっていく。今回は槍に火を纏わせ
!!
?
若干悲しそうな目で、ヴィルは外套をハラリと落とす。こいつまだ持ってなかったの
﹁⋮⋮﹂
758
男は拍手をしながら歩いてくる。真っ白なスーツは汚れひとつなく、その目は俺の赤
アーティスト
とは違う、血のような真っ赤な色。僅かに口から鋭い犬歯が覗く。
﹁⋮⋮剣吾、こいつがそうか﹂
﹁ああ。今回の元凶の死徒だよ﹂
﹂
どこからどう見ても私は芸術家だよ。特に今回は力作だ、素晴らしい
﹁⋮⋮狂ってる﹂
芸術だっただろう
?
そんなこと、俺は許容できない。
だが、こいつをこのまま野放しにしていると、いくつもの命が消え去ることになる。
いるのだろう。それを否定する権利は誰にもない。
こいつは精神からぶっ壊れている。いや、こいつ自身は自分を芸術家と本気で思って
﹁ああ、早く終わらせよう﹂
?
﹁なんでだい
﹁⋮⋮芸術家とは、聞いて呆れる﹂
﹁死徒なんて下品な言い方はやめてほしいな。私は芸術家だよ﹂
Extra story Ⅱ +プチ設定
759
ア ハ ハ ハ ハ ハ
?
無 理 無 理、
!!
﹂
﹂
私 を 倒 す こ の 至 高 の 芸 術 家 で あ る 私 を
何百年経っても無理だよ
﹁ん ∼
?
﹁さて、どうだかな。ヴィル、準備はいいか
!!
?
ナ
イ
ト
﹂﹂
!!
体はない。その代わり、ヴィルの方に若干の変化がある。
新緑色の竜巻が俺達を包み込み、立ち上る。そして竜巻が晴れたときには、既に俺の
﹁﹁憑依結合
ユ
まさに俺とヴィルだけのオリジナルだ。
も、同じことを出来る魔術師や魔法使いはいないだろう。
集める。これは俺とヴィルの二人が揃って始めて出来る魔術。恐らく世界中を探して
俺はヴィルの後ろに立ち、その背中に両手を当てる。そして互いにその場所に魔力を
﹁ああ﹂
﹁よし。それじゃ行こうか、相棒﹂
﹁ああ、シンクロ率は既に最低ラインを突破している。あとは起動詠唱だけだ﹂
?
760
真っ黒な長髪は右半分が銀色になり、バンダナも外套も銀色になっている。ライダー
スーツは左は黒のままだが、右半分は新緑色になっている。そしてヴィルの首もとから
は、槍の形をしたペンダントがぶら下がっている。
これは俺の﹃憑依﹄の魔術を鍛えた結果、偶然にも修得したオリジナル。もし万華鏡
と母さんたちの庇護がなければ、確実に封印指定ものの魔術である。
この状態のとき、ベースはヴィルの体になるので、基本的にヴィルの主導、ヴィルの
魔術を中心に使う。だがこれに加えて、俺は憑依したまま俺の力を使える。
要するに、ヴィルが苦手な投影も難なく使用が可能であるし、俺の属性や編み出した
技も使用可能である。おいそこ、チート言うな。
因みに言うと、このときでも俺は会話可能。ヴィルのペンダントを介して会話してい
る。無論俺の声は、ヴィル以外にも聞こえている。
﹂
!!
﹄
!?
﹃っとと悪い。それじゃあ﹄
に振り回されては疲れるぞ﹂
﹁落ち着け。はっきり言うが、こいつは一人では何もできない人種のやつだ。一々言葉
﹃んだと
﹁フフフッ、見てくれが変わった所で意味はないさ
Extra story Ⅱ +プチ設定
761
││十分後
﹁お前の言った通り、口だけのやつだったな﹂
?
﹁で、仕事はこれで終わりか
﹂
﹂
その力が加わった火の蹴りなので、まぁ復活はしないだろう。
どと相性がいい。
序でに言えば、ヴィルは生まれつき破魔の力を持っているため、こういった吸血鬼な
ロップキックをぶち当てたら、雄叫びをあげながら爆散した。
目の前には塵の山があった。この塵はさっきまで死徒だったもの、火を纏わせたド
﹁ああ、こうもあっさり終わるとは。厄介なのはグールだけだった﹂
!!
﹁﹃さぁ、お前の罪を数えろ﹄﹂
君達も私の芸術の材料にしてあげるよ
!!
そして俺たちの拳が交わった。
﹁私に罪はないさ
762
﹂
﹁ああ、あとはエルメロイに報告するだけだ。私が使い魔で⋮⋮﹂
﹁いや、いい。俺が報告するからお前は帰っていいぞ
が早い。エルメロイさんの携帯番号は知っているしな。
こいつの使い魔だったら、絶対に俺たちの方が早く到着する。なら俺が連絡したほう
?
?
どしたの、お兄ちゃん
?
﹁⋮⋮ライラ、シェリア﹂
﹁ん
﹂
││後日、フィンランドのエーデルフェルト邸
に帰った。
俺たちはそのまま別れ、俺は時計塔に、ヴィルはフィンランドのエーデルフェルト邸
﹁⋮⋮了解した﹂
﹁結果は連絡する。報酬はきっちり半分こだからな﹂ Extra story Ⅱ +プチ設定
763
﹁どうしましたの
﹂
││そのときの日本、冬木の衛宮邸
母さんたちは
?
﹁ただいま∼。あれ
﹂
てその次の日の少年は、非常にゲンナリとした表情を浮かべていたとか。
その日のエーデルフェルト邸からは、二人ぶんの少女の歓声が聞こえたという。そし
﹁電話屋はどこだ﹂
?
?
るそうです。何でもお父さんの仕事の少し手助けをしに行くとか﹂
どんな世界だったの
?
﹁ああ、成る程ね。マリーさんの護衛か﹂
﹁お兄様、確かこの前シルフィと一緒に行ったんでしょ
﹁じゃあ飯の準備をしながら話すか﹂
﹂
﹁お兄さん、お仕事お疲れ様です。お母さんたちは、二週間ほどお父さんの所に行ってく
﹁にぃにおかえり∼。ママたちはお出かけだよ﹂
?
764
いつも通りの平和な日常がひろがっていた。
!?
時系列:二年目クリスマス
その二:クリスマスの一時
﹂
に行っていたか話を聞きにくると﹂
﹁あ、今夜綾音姉さんがくるそうですよ あと葵姉さんも。確かお仕事の一週間、どこ
柳洞と蒔寺が
!?
⋮⋮ひろがっていた。
﹁げぇ
Extra story Ⅱ +プチ設定
765
?
766
Side マリー
最近色々と物騒だけど、ついにクリスマスがやってきた。
今年はシロウに頼み、クッキーの作り方を教えてもらい、隠れ穴に送った。去年はシ
ロウが、私達二人からという名聞でウィーズリー家にプレゼントしていたため、今年は
私がすると言ったのだ。
というわけで、モリーさんには手作りクッキーを、アーサーさんには簡単なマグルの
機械を送った。
幸いペチュニア叔母さんの手伝いをしていたからか、特に失敗することなくクッキー
は出来上がった。
アーサーさんは相当なマグルオタクで、マグル製品を集めては分解組立をやっている
らしい。序でにちょこっと改造したり。
今回送った機械は、その納屋の中にはなかったものだから、きっと喜んでくれるはず
だ。
クリスマスの朝、着替えて談話室に向かうと、既にロンとシロウは起きていた。そし
て去年と同じように、床にプレゼントの山が置かれていた。
去年と少し違うのは、今年はハーマイオニーやジニーがいることかな
﹁ああ、おはよう﹂
﹁みんなおはよう、そしてメリークリスマス﹂
ていた。
そして相変
わらずシロウは鍛練をしていたらしく、腰かけるソファには二本の木剣が立て掛けられ
?
﹁お、今年はちゃんと俺達だな﹂
とが書かれていた。
た。ダドリーからは手紙が入っており、学校のボクシングクラブでうまくいっているこ
ダーズリー一家からは今年は一つだけで、中には叔母さんの作ったお菓子が入ってい
イオンの大きな刺繍が施されている。サイズもピッタリで、とても暖かかった。
まずウィーズリー家からは、真新しいセーターだった。今年は赤の下地に、黄色でラ
私達は挨拶を済ませ、プレゼントを開いた。
﹁﹁﹁おはよう、マリー﹂﹂﹂
Extra story Ⅱ +プチ設定
767
俺
﹂﹂
!!
﹁お袋も今年は間違えなかったぜ﹂
俺
﹂
!?
をしていた。
余談だけど、夕食の席に何故か八ツ橋が置いてあり、シロウが机にヘッドバンキング
日だけは、秘密の部屋の恐怖を忘れることができ、楽しい一日を過ごせた。
その後私達はチェスをしたり、外で雪合戦をしたりと、休みの一日を満喫した。その
気に入ったみたいだ。
きさから見るに、アゾット剣用の鞘なのだろう。シロウ早速身に付けており、どうやら
製のショルダーホルスターの様なものを、ウィーズリー夫妻から貰っていた。形状と大
そういえばシロウは今年、セーターをもらっていなかったな。その代わり、なんか革
ウは相変わらず部屋の隅でブツブツ言っていたけど。
双子のボケにロンがつっこみ、ハーマイオニーとジニーはクスクス笑っていた。シロ
﹁またかよ
﹁﹁お前がグレッドでお前がフォージだ
768
Extra story Ⅱ +プチ設定
769
設定
◎ ヴィルヘルム・リヴァイアス
魔術使い。年齢は14歳。外見イメージは、金の具足と手甲を着けていないヴィンセ
ント・ヴァレンタイン。
両親は死亡。妹が一人いる。
6歳のときにとある魔術師に誘拐され、それから六年の間実験浸けにされていた。他
にもサンプルにされた子供はいたが、生き残ったのはヴィルヘルムのみ。
12歳のときに、ルヴィアと剣吾、両親により救出されるが、このとき両親は魔術師
に殺される。
元々はイレギュラーの﹃影﹄の属性のみを有していた。だが実験によって後天的に
剣吾単体で使用する切り札の﹃極 致﹄、ヴィルヘルム単体で使用するリミッター解除
エクストリーム
ルヘルムと一時融合し、爆発的な力を得る。
剣吾とヴィルヘルムの、二人が揃って始めて出来る魔術。剣吾が自分の肉体ごとヴィ
○ 憑依結合﹃ユナイト﹄
もしっかりと締める。髪は戦闘時以外は後ろで括っている。
普段着はスーツを模した服装で、ジャケットの代わりにベストを着用、無論ネクタイ
はお察しください。
性格は冷静沈着だが、時折天然ボケが入り、加えて不器用である。デリカシーの有無
ぞれ9発、計27発の銃弾を発射可能。
使用武器は主に銃。現在愛用しているのは銃身が三つある﹃トライハウンド﹄。それ
起動詠唱は﹃枷解除、変化﹄
ト ラ ン ス レー ト
外見イメージは、CCFF7のイフリート。
化する。身体能力も爆発的に上がるが、体にかかる負担が大きいため、滅多に使わない。
また、体のリミッターを解除することにより、バサクレスと同程度の大きさの鬼に変
も人外レベルとなった。
﹃火﹄
﹃雷﹄
﹃氷﹄を入手する。また実験の影響で金髪は黒に、碧眼は赤に変色、身体能力
770
Extra story Ⅱ +プチ設定
771
ト ラ ン ス レー ト
の﹃枷解除、変化﹄とは違い、体への負担は殆どない。
格闘センスなどはヴィルヘルムに依存するが、剣吾の能力も切り札と固有結界を除い
て使えるようになる。おいそこ、チート言うな。
◎ ライラ・リヴァイアス
フリーランスの魔術師。12歳。リヴァイアス家現当主だが、さして﹃根源﹄には興
味ない。今は亡き両親も、﹃根源﹄には興味がなかった。
それなりに続く家系であり、魔術刻印も継承している。が、凛やルヴィアなどとは違
い、変な薬を飲んだりする必要はない。
4歳の頃に兄が拐われる、加えて両親は10歳のときに殺されるという経緯から、魔
術師特有の命を軽んじる行為には嫌悪を隠さない、魔術師らしからぬ魔術師。
衛宮一家とも親交があり、特に紅葉とは仲がいい。
772
◎ シェリア・エーデルフェルト
アベレージワン
ルヴィアゼリッダ・エーデルフェルトの娘。14歳。母同様、
﹃五大元素﹄を持つ。ル
ヴィアとは違って落ち着きはあるが、それでも年相応な面もある。
華憐同様、三人目第二魔法の使い手候補者。
ルヴィアと凛とは異なり、衛宮四兄妹とは仲がいい。
ヴィルヘルムは下ぼk⋮⋮もとい所有物。自分好みの男にするために、日々少しずつ
計画を進めている。彼の妹であるライラは既に買収済で、
﹃シェリア義姉様﹄と呼ばれて
いる。
外見は標準より身長が低いが、女性としての魅力を併せ持つトランジスタグラマー。
髪型はショートヘアで茶髪。虹彩の色は青。
キャラ外見モデルはDCFF7のシェルク・ルーイ。
◎ 柳洞綾音
柳洞一成と美綴綾子の一人娘。14歳。
幼少の頃から衛宮一家、冬木御三家と交流があり、衛宮四兄妹とは幼馴染み。特に剣
吾に対してはあまり表に出さないが、首ったけ状態、フラグ建築済。蒔寺とは色々な意
味でライバル。
父のように堅苦しい雰囲気を持つが、恋愛観などは母を受け継ぎ、少女趣味全開。ま
た武芸に秀でており、現在は弓道をたしなんでいる。
面倒見か良く、姉御肌気質なため、後輩からは男女問わず慕われている。外見イメー
ジは、髪が黒くなった美綴綾子。
又聞きになるが、ジニーの存在を知っている。
くっつけました。
注︶ 原作fateにおいて、美綴綾子は柳洞一成の天敵立ち位置にいるが、本作では
﹃冬木の巴御前﹄と呼ばれている。
Extra story Ⅱ +プチ設定
773
774
◎ 蒔寺葵
蒔寺楓の娘。14歳。
父は婿入りなため、姓は蒔寺を使っている。母親同様、和服が非常に似合う。
幼少の頃から衛宮一家、冬木御三家と交流があり、衛宮四兄妹とは幼馴染み。剣吾の
フラグは建築済。柳洞綾音とは色々な意味でライバル。
性格外見は母親似だが髪はボブカット、性格は大人しめである。また母親が中距離走
者であったのに対し、葵はスプリンター。﹃冬木のチーター﹄と呼ばれている。
又聞きになるが、ジニーの存在を知っている。
アズカバンの囚人
0. プロローグ
世間もホグワーツも夏休みに入って2週間が経過した。八月に入り、乾いた暑さが続
くイギリスのプリベット通り四番地の家では、マリー・ポッターが夏休みの宿題をして
いた。
去年までは﹁魔法﹂といった非現実的なものを敬遠していた家主のバーノン・ダーズ
リーもどんな心境の変化なのか、今年は一切追及したりすることはなかった。今も一人
息子のダドリーと共にテレビでバラエティー番組を見ている。
マージ叔母さん、マージョリー・ダーズリーはバーノン叔父さんの妹で、ブルドッグ
けた。
思い出したかのように突然告げられた叔父の言葉に、思わずマリーは顔を机に打ち付
﹁今週末から四日ほどマージが泊まりに来るぞ﹂
0. プロローグ
775
けしか
のブリーダーをしている。そしてマリーのことを去年までのバーノン以上に毛嫌いし
ている。今までも数度訪ねて来たことがあったが、その度に最低一匹はブルドッグを嗾
﹂
けられていた。一度叔母のペチュニアに病院に連れていかれたこともある。
﹁⋮⋮それって本当
れない。
折かなんかで入院しているとのことだ。要するに、今年は逃げ道が⋮⋮あ、あるかもし
とかなったが、今年に限って一週間前から不在である。彼の下宿先のフィッグさんも骨
死刑宣告ともいえる内容に、思わず突っ伏してしまう。今まではシロウがいたから何
﹁⋮⋮そうですか﹂
﹁本当だ。ついでにまた一匹連れてくるらしい﹂
恐れていた。
思わず叔父の正気を疑うように聞いてしまう。それほどにマリーは動揺し、マージを
?
776
﹂
﹁ねえ叔父さん﹂
﹁なんだ
?
﹂
?
ひとまず簡単な計画を立て、私は宿題の続きを再開した。
心配ない。
幸いガリオン金貨も数枚、換金したポンド硬貨と紙幣も持っているから、旅費も宿代も
仕方がない⋮か。ならその四日が終わったらすぐにでも﹁漏れ鍋﹂に向かうとしよう。
﹁ペチュニアの側に出来るだけ居させる。それで四日間我慢しろ﹂
﹁⋮⋮それで大丈夫なの
﹁その代わりになるかは知らんが、できるだけマージからはお前を遠ざけよう﹂
はい、詰みました。
﹁悪いがそれは無理だ。マージには既にお前がいることを伝えてしまった﹂
この宿にいるそうだし﹂
﹁私だけ先にロンドンに行ってもいい 旅費と宿代は自前で用意できるし、学友もそ
?
それにしてもシロウ、念話拒否までして何をしているんだろう
?
0. プロローグ
777
778
││││││││││││││││││││
まったく、世話を焼かせる。
ダンブルドアの頼みでなければ無視していたぞ。というより、まだお前のことは信用
していないからな。
さて、長話はあとにしよう。俺が何者か、そちらの三人と俺との関係が何なのか。そ
ならば早く行動するに限る。
れはこの場から拠点に戻ってからだ。お前は魔法界だけじゃなく、一般社会からも指名
手配を受けてるんだろう
桜、イリヤ。俺と認識阻害の結界を張ってくれ。お前は犬のまま大人しくしろ。
?
凛、頼んだぞ。行先は⋮⋮
﹁漏れ鍋﹂だ。
0. プロローグ
779
1. マージの大失敗 く だ ん の 週 末 が や っ て き た。今 は 叔 父 さ ん が マ ー ジ 叔 母 さ ん を 迎 え に 行 っ て い る。
外の天気は私の心情を表すかのような土砂降り。
﹂
私マリーはペチュニア叔母さんと夕食の下拵えをしていた。ダドリーは新しく庭に
作った超小型ジムで自主トレをして、あ、帰ってきた。
﹂
﹁ダドリー、叔母さんが来る前にお風呂に入ってきたら
﹁そうするよ。夕ご飯は
さんは一つ私の肩に手を置くと、私を伴って玄関まで出迎えに行った。そして玄関にた
に犬の吠える声も聞こえる。私は無意識にペチュニア叔母さんの袖をつまんだ。叔母
一時間ほど経過した後、外で車が停車する音がした。ああ、来てしまったか。ついで
した。
叔母さんに促され、ダドリーは着替えを持って風呂場に向い、私は夕食の準備を再開
﹁今夜ははダドちゃんの好きなラムチョップよ。だから早くいってらっしゃい﹂
?
?
780
﹂
﹂
どり着くか否かというとき、扉が勢いよく開かれた。開かれてしまった。
﹁ダドリーはどこかぇ
マージ叔母さんが吠える。
﹁私の可愛い甥っ子ちゃんはどこだい
マージ叔母さんはスーツケースを放り投げながら、私はそのスーツケースに吹っ飛ば
!?
?
され、リビングのダドリーの元へと突進していった。ダドリーにたどり着いた叔母さん
はその頬にキスをし、
﹂
!!
んの後から犬を連れたバーノン叔父さんが入ってきた。
手に10ポンド札が二枚握られてる︵投稿時、1ポンド=161,7円︶。マージ叔母さ
今度は叔母さんに突進し、その骨ばった頬にまた深々とキスした。あ、ダドリーの右
﹁ペチュニア
1. マージの大失敗 781
﹁マージ、ブランデーはどうかね
犬の食べ物はどうするかね
﹂
?
を見た。
﹁おんや
﹂
マージ叔母さんはクスクスと笑いながら叔父さんに振り返り、そしてそこで初めて私
﹁この子は私と同じものを食べるさ。好きだからねぇ﹂
?
!!
あたしだったらこんな礼儀知らず、すぐにでも孤児院送りだね﹂
!!
あなたに言われたくないわ。一から礼儀作法を学んだほうがいいわよ
﹁何だいその答えは
﹁⋮はい、お世話になっております﹂
﹁お前まだここにいたのかい
﹂
叔母さんは先ほどとは打って変わった、不快さを露わにした声を上げた。
?
そう思った私は間違ってないはず。
?
782
1. マージの大失敗 783
それからの数日は酷かった。
バーノン叔父さんとペチュニア叔母さん、ダドリーは私をマージ叔母さんから遠ざけ
ようとしてくれたけど、マージ叔母さんは私を側に置きたがった。そして何かといちゃ
もんを付け、私の怒りを煽った。でも私はそれには乗らない。乗ったら最後、叔母さん
の思う壺だ。
だから私は必死に耐えた。
ペチュニア叔母さんの見ていないところで、何度も犬を嗾けられ、靴下やストッキン
グの下には包帯を巻いている。化膿しないように消毒液を染み込ませ、包帯も定期的に
交換し、ついに最後の四日目になった。
◆
784
その日はペチュニア叔母さんに頼まれ、玄関外の花の手入れをしていた。叔母さんは
ガーデニングを趣味にしていて、多種多様の花を育てている。何故か中には薬草の類も
混じっているけど。でも前々からこれをやっていたためか、ホグワーツの薬草学でも特
に苦労したことはなかった。慣れって大事だよね。
でも平和な時間は長く続かなかった。荒い鼻息と低いうなり声が背後から聞こえた。
恐る恐る振り返ると、そこには大きなブルドッグが佇んでいた。まさかと思って家の窓
ふくらはぎ
を見ると、それはそれは嫌な笑みを浮かべたマージ叔母さんが見えた。
突然右足 脹 脛に痛みが走った。低く唸ったブルドッグは鋭い犬歯を突き立て、力強く
私に噛みついていた。ここで大きく声を上げていれば、楽にことは済むだろう。だがそ
れはマージ叔母さんに好都合になってしまう。それは私の望むところではない。だか
ら私はこの犬が離すまで我慢することを選んだ。
﹁まったく、この犬の飼い主はどんな神経をしているのかしら
﹂
でもその時は予想以上に早くきた。聞き覚えのある、気品のある声が前方から響い
?
た。閉 じ て い た 眼 を 開 け る と、そ こ に は 一 年 ぶ り に 会 う シ ロ ウ の 奥 さ ん、イ リ ヤ ス
あ、あの⋮イリヤ⋮さん
﹂
フィール・フォン・E・アインツベルンが立っていた。
﹁え
?
?
彼女はそう言ったのか
﹁久しぶりね、マリー。迎えに来たわよ﹂
迎えに来た
?
?
することなく玄関の扉を開けた。戸の音を聞いたペチュニア叔母さんがこちらにくる。
かぬうちに私の足を治療し、まっすぐ玄関へと向かった。私を伴ったイリヤさんは躊躇
イリヤさんはいつの間にか私から離されていたブルドッグを抱え、これまた私の気づ
﹁でもちょっと待ってね。この犬の飼い主をとっちめないと﹂
1. マージの大失敗 785
﹁マリー
花壇の作業⋮⋮は⋮﹂
?
エミヤ
ど、どちらさまでしょうか
﹁初めまして﹂
﹁へ
?
﹂
﹂
誰だいあんた。そんな常識の欠片もない格好して、親の顔が見てみたいよ﹂
﹁あら、ごきげんよう。どなたかしら
﹁あん
?
いない。あ、イリヤさんのこめかみに青筋が出た。正直怖い。
あとからのそのそとこちらへ来るマージ叔母さん。イリヤさんにまったく気づいて
﹁何だい、なんの騒ぎだい﹂
持ち前の人当たりの良さで打ち解けた。ちゃっかり犬の飼い主まで聞いて。
されていた。でも事前にシロウからいろいろ聞いていたのだろう。すぐにイリヤさん
いつの間に叔母さんの後ろにいた叔父さんやダドリーも、イリヤさんの高貴さに気圧
﹁え、あ。ど、どうも﹂
﹁イリヤスフィール・フォン・ E ・アインツベルンですわ。シロウの姉です﹂
?
786
?
いや、薄桃の膝丈スカートに白のブーツ、黒のレギンスにヴァイオレットの服を着て
いるイリヤさん。メチャクチャ綺麗で私も一瞬見とれたのに。
﹂
常識の欠片もないのはマージ叔母さんの方だよ。
﹁ペチュニアさん、彼女は
!?
﹂
あちゃー早速毒を吐きました。ついでにマージさんを無視する形で。
﹁あらそう。兄とは違って礼儀がなってないわね﹂
﹁バーノンの妹のマージです﹂
?
礼儀がなってないんじゃないかい
!!
﹂
?
叔母さんに言われ、私とダドリーは荷物の用意をしにいった。叔父さんは物置にし
﹁え、ええ大丈夫です。マリー、準備してらっしゃい。ダドリーは手伝ってあげて﹂
うか
﹁ペチュニアさん、今日はマリーを迎えに来ました。突然の訪問ですけど大丈夫でしょ
﹁ちょっと誰だいあんた
1. マージの大失敗 787
まっていた道具を出しに行った。
数分後にはすべての準備が整い、玄関に向かうと異様な光景が広がっていた。
イリヤさんの銀に輝く長い髪が、シュルルルという効果音が合うほど奇妙な動きをし
ている。真っ赤な双眼が見つめる先には顔を真っ青にさせ、壁に背を付けて床にへたり
準備は終わった
﹂
ただのお話しだけど
﹂
﹂
込み、ガタガタ震えているマージ叔母さん。犬もそのすぐ側でへたり込んでいる。
﹁あら
?
﹁はい⋮あの∼、何をしてるんですか
﹁え
?
ただのお話ならこうはならない
!!
嘘だっ
臨したに決まってる
﹁じゃあ行きましょうか
﹁いってら∼﹂
忘れ物はない
﹂
?
!!
﹁あ、はい。じゃあまた一年後に﹂
?
絶対にO☆HA☆NA☆SHI☆彡 のほうに決まってる。アクマ︵シロウ談︶が降
!!
?
?
?
788
1. マージの大失敗 789
唯一ダドリーの返事だけを聞き、私はイリヤさんとプリベット通りの家を後にした。
そのとき微かに後ろから、ペチュニア叔母さんとバーノン叔父さんが、マージ叔母さん
に呼び掛けているのが聞こえた。
2. 誓いをここに
ナ
イ
ト
バ
ス
ダーズリーの家を出発した後、私とイリヤさんは﹁夜の騎士バス﹂に乗って漏れ鍋に
向かった。道中はこの愉快な魔法のバスのおかげで退屈はしなかった。イリヤさんと
も久しぶりに話せたし、楽しいバスの旅だった。
でも楽しい時間はそこまで。漏れ鍋に着いたら、私だけ別の部屋に通された。そこに
私はコーネリウス・ファッジ、魔法大臣だ﹂
は小太りで私と大して変わりない身長の中年の男性がいた。確か魔法省の大臣だった
かな
﹁やぁ、初めましてかな
?
﹁君に関してだが、今年はちょっと非常事態でね。とある脱獄犯が君を狙っているんだ﹂
いや、知ってます。しかも相変わらず偉そうな人。
?
790
いやいや、単刀直入にもほどがあるでしょう。というか、今更命を狙われているとい
われてももう慣れちゃったよ。
するから安心したまえ﹂
﹁シリウス・ブラックというんだが、気を付けてくれ。出来る限り、こちらも迅速に対応
そう言って私は部屋から出された。というか偉そうな態度で矛盾したこと言われて
も⋮ねぇ。
まぁいいや。それより晩御飯がまだだから下の食堂に行こう。私はそう思って食堂
に降りると、そこには久しぶりの顔ぶれがあった。
ウィーズリー四兄弟妹がいた。隣にはハーマイオニーもいる。そして⋮⋮
﹁﹁ようマリー久しぶりだな﹂﹂
﹁マリー、久しぶりね﹂
﹁やあマリー、久しぶり﹂
2. 誓いをここに
791
﹂
?
元気そうだねシロウ、ところで⋮﹂
﹁一週間ぶりになるか、久しぶりと言うべきか
﹁ん∼違うんじゃないかな
﹂
なるほどね﹂
?
私の言っていた通りでしょ
﹁あら
﹁ね
この子がイリヤの言ってた子
シロウの後ろに立っている二人は誰だろう
?
ああ私たちはね﹂
?
﹁三人で士郎さんの妻をしています﹂
﹁ん
﹁あ、初めまして、マリナ・ポッターです。あなたたちは⋮﹂
﹁桜です﹂
﹁こんばんは。私は凛よ﹂
イリヤさんの両隣にいる二人の女性、とっても綺麗だ。
?
?
﹁本当ですね。初めまして﹂
?
?
792
﹁私とサクラ、リンでね﹂
妻が三人
﹁ウォン
﹂
がする。なんだか人間っぽい犬だなぁ。なんかシロウも引き攣った顔をしてるし。
シロウの言葉に元気よく返事する黒犬。心なしか、口元が人のようににやけている気
﹂
誰かの飼い
なんてハーレム⋮⋮。
?
⋮⋮ハッ
今とんでもない爆弾を落とされなかった
ウィーズリー夫妻順応が早い
﹁夫のアーサーです﹂
早い
!!
﹁あら初めまして、モリ│・ウィーズリーです﹂
?
!!
ところで、先ほどから私の足元で尻尾を振っている黒い犬は何だろう
犬かなぁ
?
!!
!!
?
?
﹁貴様、先ほどから黙っていれば。部屋で待っていろと言っていたはずだが
2. 誓いをここに
793
﹂
﹁貴様⋮⋮いい度胸しているな﹂
﹁ウォホンッ
ノックをする。
﹁⋮⋮誰だ﹂
﹁私、マリーだよ。ちょっと話があるんだけど大丈夫
﹁問題ない。入っていいぞ﹂
﹂
思 い 立 っ た が 吉 日。私 は 部 屋 を 出 て シ ロ ウ の 部 屋 に 向 か っ た。戸 口 の 前 に 立 っ て
とを伝えないと。もしかしたらリンさんたちにも良い意見が聞けるかも。
し、私たちはそれぞれの部屋に戻った。あ、そういえばシロウにファッジに言われたこ
そんなこんなで夕食をみんなで摂った。明日みんなで学用品を購入することで決定
あー。この犬、明らかにシロウを挑発をしてる。
!!
おり、床には大きく複雑な魔法陣が書かれていてってええええ
ここ宿
!?
宿だか
シロウに許可をもらったので、部屋に入る。みると部屋にはエミヤ夫妻が勢揃いして
?
!!
794
って、今から使う
これは今から使うから安心して﹂
ら、部屋は借り物だからね四方ぜんはんい
﹁ああこれ
いや、安心できないからね
?
!!
クのことを話したとき、床で寝ていた犬がビクッてしていたのが気になったけど。
それから私は事のあらましを話した。ファッジの忠告、ブラックのこと。ただブラッ
﹁あ、うん。ありがとう﹂
﹁待て、その前にマリーの話を聞こう﹂
!?
?
リンさん、結構辛辣ですね。否定はしないけど。
﹁お偉いさんの言うことは、どこに行っても変わらないものね﹂
﹁そうか﹂
﹁⋮⋮というわけなんだけど﹂
2. 誓いをここに
795
﹂
?
﹁ところで、この魔法陣は
﹂
当に綺麗だなぁ。イリヤさんとはまた違った優雅さがある。
シロウに呼ばれた綺麗な女性、サクラさんが一歩前に出てきた。一つ一つの動きが本
﹁はい﹂
﹁ああこれか。桜、説明を頼む﹂
?
性があるというのならそうなのだろう。
とりあえず胡散臭い大臣よりシロウの言うことの方が信用できる。彼が冤罪の可能
﹁冤罪ね。まぁシロウがそういうなら﹂
たらブラックが冤罪にかけられているのかもしれんのだ﹂
﹁いろいろと当時の魔法省の言っていたことと調べた証拠が矛盾していてな。もしかし
﹁え
﹁結論から言えば、ブラックに関しては心配ない﹂
796
﹁この魔法陣で今からある儀式をします。成功すれば、あなたと士郎さんは今まで以上
の繋がりができるわ﹂
印が出ると思う﹂
﹁一種の契約みたいなものを、士郎との間に結ぶ形になるわ。それに伴い、体のどこかに
契約、かぁ。小説に出てくる、使い魔との契約みたいなものしますかなぁ
﹁似て非なるものね。ま、とりあえずやるわよ﹂
﹁士郎さんはそこに、マリーちゃんはそこに立っててね﹂
﹁はいッ﹂
使うように、言葉に魔力を込めて﹂
﹁シロウには説明してるわ。あとはマリー、私の言う呪文を繰り返してね。杖で魔法を
?
うう、緊張してきた。こういう、いかにも魔術師ですっていうことしたことがないか
じゃあ、始めるわよ﹂
らなぁ。寝ていた犬も起きてこっちを見てるし。
﹁準備はいい
?
2. 誓いをここに
797
私たちを三角に囲むようにして立ったイリヤさんたちは目をつむり、意識を集中させ
始めた。すると魔法陣は淡い青の光を放ち始め、明かりの消された部屋を柔らかく照ら
した。
そして私はイリヤさんの言葉に倣い、詠唱を始めた。
││││告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
││││されど汝はその眼を混沌に染めることなかれ。
我は常世総ての悪を敷く者。
我は常世総ての善と成る者、
││││誓いを此処に。
が吹き始めた。
詠唱を始めると、魔法陣の光は徐々に強くなり、どこからともなく渦を巻くように風
﹁世界﹂の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
798
2. 誓いをここに
799
汝弱きを護り、強きを下す者。
汝無限の剣を担いし英雄。
汝三大の言霊を纏う七天。
我が意に従え、天秤の護り手よ。
さすれば我が命運、汝の剣に預けよう。
詠唱が終わる頃には光はとても強くなり、部屋には突風が吹いていた。その中、私の
真正面に立つシロウは目を開け、はっきりと結びの句を紡いだ。
││││錬鉄の英雄の御名において、その誓いを受けよう。
これより我は汝を護りし弓となり、汝の敵を穿つ矢となる。
契約はここに完了した。
シロウが言葉を紡ぎ終えると陣は一度目も眩むほど強く光り、陣を構成していた線も
ろとも飛散して消えた。同時に私は何かの胎動を感じ、胸元、丁度最近成長が始まった
バストの谷間あたりが赤い仄かな光を放った。
気になったので確認すると、そこには三本の剣が交わったかのような形の、入れ墨の
ような模様があった。
﹁よろしくお願いします。⋮⋮みなさん、おやすみなさい﹂
﹁今晩はゆっくりと休んで下さい、マリーちゃん﹂
﹁明日、朝食を食べたらこの部屋にいらっしゃい。出かけるまで説明してするから﹂
イリヤさんの心遣いは正直とてもありがたい。もう色々あって疲れた。
﹁は、はい⋮﹂
﹁まっ、今は色々あってパンクしそうだし、明日説明するわ﹂
正直何がなんだかわからない。
﹁は、はい⋮⋮﹂
ね﹂
﹁マリーちゃん、その胸のは令呪と言って、三度きりの絶対命令権よ。対象は士郎さん
﹁成功したわね﹂
800
2. 誓いをここに
801
明日の確認を終わらせた私は、部屋に戻り、ベッドにダイブした。いやはや、本当に
濃い1日だった。
3. 汽車の中で
摩訶不思議な儀式をした翌日、私とシロウ夫妻、ハーマイオニーにウィーズリー一家
はダイアゴン横町に出かけた。シロウは学用品をすでに揃えているらしいが、私たちは
まだなので着いてきてもらった。ついでに言えば、ロンの杖は去年折れちゃったため、
たのかなぁ
﹂
!!
﹂
?
魔法省の人たちは、この人の言うことに耳を傾け
?
側を歩いていた黒犬が唸り声をあげたので気になった。でも犬はただただ唸るばか
﹁ウォン
﹁どうしたの
﹁GRRRRR⋮﹂
?
のにしてるけど、どうなんだろう
しこの壁にブラックの指名手配書が張られている。みな狂暴そうな雰囲気を写したも
そういえばふと思ったのが、ダイアゴン横町の雰囲気が暗い。もっと言えば、そこか
︵確か決闘クラブでのシロウの魔法の余波で︶シロウが新しくロンに買っていた。
802
りなので、私はどうもできることはない。まぁ誰かに襲いかからないだけマシかな。
そのまま私とロン、ハーマイオニーはペットショップに向かった。なんでも最近ロン
のネズミ、スキャバーズの様子がおかしいらしい。ごはんも余り食さないようだから、
一度診てもらうとのことだ。
どれくらい生きているのかね
﹂
﹁あの、すみません。うちのネズミなんですけど、最近調子が悪いみたいで﹂
﹁ほう
?
え
十年って、相当長生きじゃない
ク﹄を渡しておきましょう﹂
﹁ふーむ、ただの老衰か。それともストレスが原因か。念のためこの﹃ネズミ栄養ドリン
?
﹁あー、正確には分からないですけど、十年くらい﹂
?
?
イオニーがクルックシャンクスという名前の猫を購入していた。
ロンは代金の3シックルを支払い、私たちは店を後にした。ついでに言えば、ハーマ
﹁ありがとうございます﹂
3. 汽車の中で
803
804
猫⋮でいいのかなぁ
◆
なんだか異種混合種っぽい気がするけど、まぁいいか。
シロウにニヤリと顔を向け、シロウはまた引き攣った笑みを浮かべていた。
いったんイリヤさんたちが預かり、二月ほどしたらシロウに返されるみたい。犬は一瞬
まかな説明を受け、あとはシロウから聞くことになった。真っ黒な犬だけど、あの子は
休みが終わる一週間前に元の世界に帰った。私はその前にシロウとの契約について大
したり、横町にウィンドウショッピングをしたりして過ごした。イリヤさんたちは長期
まぁそれから先、九月一日までの約一ヶ月は漏れ鍋で過ごし、私たちはその間宿題を
?
いろいろとあったが、現在は列車の中。
ハーマイオニーの猫は何故か飼い主ではなくマリーに懐き、無論ハーマイオニーを飼
い主として認めているみたいだが、マリーの膝の上でお昼寝中である。そしてオレたち
のコンパートメントには、恐らく新任の教師であろう人がおり、マントを被って寝てい
た。﹃R・J・ルーピン﹄という名前らしい。
オレたちはその人を起こさないように今後のことについて話をしていた。例えば今
年から取る選択科目とかの。
しかしどうも先ほどから冷える。季節は晩夏とはいえ、日本ほどではないが暑さは残
る時期である。それこそ長袖に腕を通したくなるほど冷え込むことはない。
マリーたちも様子がおかしいことに気が付き始めたとき、列車が大きく揺れて停車し
た。
轟く豪雨。一体何が起こった
?
マリーとハーマイオニーが言葉を発したそのとき、列車の照明が落ちた。外は雷鳴が
﹁それに変に冷え込んでるね﹂
﹁おかしいわ。ホグワーツに着くには早すぎる﹂
3. 汽車の中で
805
﹁何か動いてる、窓の外にいる⋮﹂
ロンが窓に張り付き、外を眺めている。が、俺はそれよりも凍てついていく窓ガラス
が気になった。よからぬものが近づいているとしか把握できない。
﹁シロウ⋮﹂
﹁お前たち、その場から離れるな。息潜めていろ﹂
俺は三人に忠告し、懐から黒鍵を一本取り出した。
再度列車が大きく揺れ、冷気の塊のようなものが近づいてくる。そして数刻もしない
うちに、俺たちのコンパートメントの前に一つの人影が立った。
﹂
﹂
黒く頭が天井に着くほどの影は手を動かさずに扉を開く。途端に一際強い冷気が俺
たちを襲う。そして黒い影は顔に当たる部位をぐるりと部屋を見渡す。
マリー、どうした
!?
﹁あ⋮⋮あああああああっあっぁぁぁああぁああっぁあぁああああぁぁああ
﹁ッ
!!
!?!?
806
﹁ああああ⋮⋮あああ⋮﹂
グゥッ│││﹂
!?
ヒ
ト
ヒト
ヒト
喚の救いを求める声。血のように染まる空に浮かぶ黒い太陽。
早く
まさかこれは⋮⋮俺の最初の記憶⋮⋮
誰だッ
││││士郎、逃げるんだ
ッ
!!
││││あなただけでも逃げなさい
!!
!?
誰かの声、俺に逃げろと催促する声だけが響く。いったいこれは何なんだ
!!
!?
ものを吸い取っている黒い影。
頭を振り、意識をはっきりとさせる。目の前には深く息を吸い込み、何か目に見えぬ
!?
││││目の前に積み重なる幾多もの死体、肉、火。そこかしこから聞こえる阿鼻叫
突然頭におかしなビジョンが流れる。
﹁
3. 汽車の中で
807
こいつが原因なら
貫けッ﹃火葬式典﹄
﹂
!!
﹁くッ
!!
マリーだけだった。
﹁⋮⋮それで、今の魔法はあんただな
﹂
抜けるのが同時だった。気づけば影はいなくなり、代わりに穴の開いた車両と気絶する
鉄甲作用を込めた黒鍵を影に投げつける。それと背後から白銀色に輝く何かが駆け
!!
﹂
?
よ﹂
ディメンター
あまつさ
﹁現段階で魔法では、奴らを追い払うことしかできない。私がしようとしたのはそれだ
﹁というと
﹁信じがたいけど、君は吸魂鬼に直接干渉できるんだね。 剰え仕留めるとは﹂
を向けると、遥か下方で激しく燃え上がる黒い物体があった。
そこで先ほどまで寝ていた男、ルーピンは穴の外に目を向ける。釣られて穴の外に目
﹁そうだけど、私の魔法が当たる前に君のが当たったみたいだね。それに⋮⋮﹂
?
808
静かにルーピンは語りながら、杖を一振りして列車の壁を修復する。同時に照明が点
灯し、列車が再び動き出した。そこで初めて俺は皆の顔を見た。
ハーマイオニーとジニーはとても怖かったのだろう。目を真っ赤にさせ、ロンにしが
みついている。当のロンも青い顔をしている。気絶していたマリーも意識が戻ってき
﹂
たらしい。身じろぎをし、上体を起こした。
﹁マリー、大丈夫か
﹁なんだか⋮とても寒い﹂
?
二時間ほどして学校に到着した。が、
気まずい雰囲気の中到着を待った。
その後、吸魂鬼の被害を受けた後の対処としてチョコレートをルーピンからもらい、
たく冷えていた。
俺はなんの変哲のない布を投影し、マリーを包んだ。その際彼女の手に触れたが、冷
﹁これを羽織ってろ﹂
3. 汽車の中で
809
至急私に着いてきなさい﹂
!!
エミヤ
!!
﹁大丈夫ですか
﹂
?
﹂
﹁ああ。奴のことだが、冤罪の可能性が極めて高い﹂
﹁というと
﹁ブラックについてだが、ある程度の情報が揃った﹂
ポンフリーと共に大広間へと向かった。で、俺はというとだ。
その後、マリーはポンフリーとダンブルドアからも軽い診察を受け、マグゴナガルと
﹁そうですか。それは良かったです﹂
﹁はい。あの場にいたものは全員、ルーピン先生からチョコレートをいただきました﹂
?
﹁⋮はい﹂
﹁まずミス・ポッター。吸魂鬼の被害にあわれたそうですね﹂
マグゴナガルに呼ばれ、渋々医務室に行くことになった。
﹁ポッター
810
﹁そうじゃったか⋮﹂
校長室に移動した俺は、ブラックについてダンブルドアに報告した。俺の報告に顔を
曇らせるダンブルドア。薄々感づいていたのだろう。
﹁だが、肝心のペティグリューとやらが見つかるか。またはそれに準ずる証拠を提示し
なければならんだろう﹂
﹁ふむぅ⋮⋮じゃが﹂
﹁│││問題があるとすれば、あの大臣だろう。奴は権力に溺れてしまっているな。十
分な証拠を提示しても、わが身可愛さのために情報をもみ消し兼ねん﹂
﹁そうじゃな⋮⋮﹂
一番の強敵は、権力に溺れた政治家だな。
﹁そうか。なら一先ずは安心じゃな﹂
る心配もない﹂
﹁とりあえず、今は妻たちと俺の世界に行ってもらってる。しばらくは吸魂鬼に見つか
3. 汽車の中で
811
﹂
﹁まぁここで話していても仕方がない。あんたも締めの挨拶とかあるだろう そろそ
ろ戻ったほうがいいのでは
?
?
防衛ならいいのだな。ならこの先奴らが何かすれば、容赦をすることはないだろう。
ダンブルドアは最後に意味深なことを言いながら事務所を後にした。なるほど正当
﹁正当防衛なら仕方がないのう。⋮⋮正当防衛ならのう﹂
﹁奴らが何もしなければ⋮⋮な﹂
吸魂鬼は出来るだけ殺さないでおくれ。あれも不本意じゃが、魔法省の依頼でのう﹂
﹁そうじゃな。では戻るとしようかのう。君も明日から学生として励むようにの。あと
812
4. ﹁地獄﹂の再現と占い
吸魂鬼騒動があった次の日から授業は始まった。俺たち三年の最初の授業は必須の
で、だ。
﹁闇の魔術に対する防衛術﹂、予想通りルーピンが教授を受け持っていた。
去年とおなじ教室に入ると、部屋の中央にはガタガタ揺れる衣装ダンスがあった。
﹁やぁグリフィンドール三年生のみんな、初めまして。私はこの授業を受け持つことに
なったリーマス・ルーピンだ﹂
顔に薄い引っ掻いたような複数の傷跡を残すルーピンの登場により、ざわついていた
ボ
ガー
ド
室内は静まった。ルーピンはそのまま衣装ダンスの前に立ち、みんなを見回すように俺
たちに顔を向けた。
が入っている﹂
﹁みんなはこの衣装ダンスが気になっているようだね。この衣装ダンスには﹃真似妖怪﹄
4. 「地獄」の再現と占い
813
ボガードとは、対象の最も恐れている存在、事象に変化する魔法生物。心の弱いもの
はそれによって精神を患うことになるらしいが、さてどうだろうな。
リ
ディ
ク
ラ
ス
そして今日はその撃退方法を練習するってことか。
悦対象は見破れぬと。
?
ビルが怖いのはセブルスだったか。まぁ確かに、あいつは生徒の恐怖の対象でもあるか
一人考え事に耽っていると衣装ダンスが開き、中からセブルスが出てきた。成程、ネ
シェーマスの後、マリーの前か。しかし、俺の怖いものは⋮⋮
ル ー ピ ン に 呼 ば れ た ネ ビ ル が 前 に 出 て、そ の あ と に 続 く よ う に 皆 が 並 ん だ。俺 は
﹁じゃあみんな、準備はいいかい
まずはネビルからだね﹂
面白おかしいものか。となるとボガードは相手の恐怖対象は詠むことが出来ても、愉
呪文は自分の頭の中で何か面白おかしいものイメージしないといけない﹂
﹁呪文は﹃馬鹿馬鹿しい﹄だ。これによってボガードを退治できる。でも注意して、この
814
らな。
﹁り、り、リディクラス
いを堪えられていない。
﹂
﹂
装になっていた。生徒たちはそれを見て忍び笑いを漏らし、冷静なルーピンでさえも笑
ネビルが恐る恐る唱えた呪文は効力を出し、スネイプの衣装は何とも婆臭い魔女の服
!!
どんどん行こう
!!
!!
を変えている。
ン
シー
しかし俺が前に立っても、一向に形が定まらない。それどころか先ほどから次々に形
そしてついに俺の順番がきた。
シェーマスでは﹃嘆き妖怪﹄に変化し、呪文によってその声をガラガラに嗄らした。
バ
た。パーバティーは巨大なコブラに変化し、呪文により巨大なビックリ箱に変化した。
と対峙していく。ネビルの次のロンでは巨大な蜘蛛に変化し、呪文によって足をなくし
室内にあった蓄音機からは感じのいいジャズが流れ、指示通り次々に生徒がボガード
﹁さぁ次行って
4. 「地獄」の再現と占い
815
﹁混乱してきたぞ
もうすぐだ
!!
﹂
紛れもなく、俺の原初。ご丁寧に焼ける人間も、聖杯も、煙も瓦礫も、そして一人歩
││ 熱い⋮熱いよう⋮
││ あおあぁぁああ⋮⋮
││ 火が⋮火がぁ
││ お⋮か⋮さん⋮
││ いやだ、死にたくない
││ 助けてくれぇ
部屋の中央に立つは、泥をこぼす黒い太陽を掲げた真っ黒な聖杯。
﹁聖⋮杯⋮﹂
を覆う黒く赤い雲。そして⋮⋮
時に部屋の中には真っ赤な炎、人の焼ける匂い、数では数えられないほどの悲鳴、天井
ニク
ルーピンがそう言うと同時にボガードが変化したクマがこちらに双眼を向けた。同
!!
!!
!?
!?
816
く俺も再現してやがる。
るなと。﹃座﹄に行っても未来永劫忘れるなと、そう言いたいのか﹂
﹁まだ見せるか、俺にこの光景を忘れるなと。助けを求める人々を見捨てたことを忘れ
意識ぜず、自然と口から言葉が出てきた。
﹁なに⋮これ⋮﹂
﹁うっぷ⋮﹂
﹁いや⋮いやぁ⋮﹂
﹂
早くこの状況をどうにかせねば、これは他の生徒には悪影響過ぎる。
!!
とりあえずこの状況は脱した。何人かの生徒は気絶しているか。当然だろう、むしろ吐
突如俺の前にルーピンが躍り出た。とたん、ボガードは地獄から満月へと変化した。
﹁こっちだぁ
4. 「地獄」の再現と占い
817
くにとどまっているほうがおかしい。
マリーは⋮⋮平気なのか
?
コ
﹂
﹁⋮なんで呼び出されたかわかるね
﹁⋮ボガードの件だろう
﹂
﹁簡単に答えよう。あれは俺の過去、俺の最初の記憶、俺の原初だ﹂
﹁しかし、それじゃあ﹃だが⋮﹄⋮
﹁⋮⋮詳しく語る気はない﹂
﹂
﹁ああ、あれ一体なんだ
?
?
?
?
﹂
された。大方、ボガードの件だろう。
とりあえず気絶した人、体調を崩した人を医務室に運び込み、俺はルーピンに呼び出
﹁そうか⋮﹂
﹁うん⋮その先も、この世界に来るまでの経緯も⋮﹂
コ
﹁⋮既に見ていたのか﹂
﹁簡易のラインと契約越しに⋮何度か見たから﹂
818
﹁なん⋮だって⋮
﹂
リーだけは立っていたが。
どうせ最初から聞いていたのだろう
﹂
?
﹁あ、あはは⋮﹂
﹁⋮ごめん﹂
?
俺は立ち上がると同時に後方の扉を開いた。そして雪崩れこむ同級生たち。唯一マ
そうと思う。だが、盗み聞きされている状況ではな﹂
﹁とりあえず、今回はここまでだ。詳しいことはまた後日、ついでにある件についても話
いるのは分かっているぞ、シェーマスにロン、ディーンにマリー、ハーマイオニーよ。
を帯びた表情になった。しかしまぁ、好奇心旺盛なのは判るが、扉の外で盗み聞きして
のことを除いてルーピンに説明した。最初は半信半疑だったルーピンも、次第に真剣味
俺はそれから簡単に、俺が並行世界の住人であることや聖杯戦争、守護者や英霊など
?
﹁気づかないと思っていたか
4. 「地獄」の再現と占い
819
謝られてもな、いずれは明かすことになるものだしな。
﹁いらっしゃい、ようこそ私の授業へ﹂
つの机には紅茶が準備されていた。
教室を移動すると、少し鼻がおかしくなりそうな香の匂いがささった。そして二人一
◆
とりあえず移動しよう確か次は占い学だったかな。
﹁⋮⋮﹂
﹁いや⋮まぁ⋮﹂
﹁今更だ。それより済まなかったな、あのようなものを見せて⋮﹂
820
それにしても、この先生は好きになれないな。
トレローニー先生はしばらく授業の説明をし、今日の講義は簡単な茶の葉占いをする
ことになった。しかし、紅茶の入れ方がなっていない。お湯の熱、ポットに入れるタイ
ミング、その他もろもろが甘すぎる、ってシロウなら言いそうだ。
そして残った茶葉の形を占う作業をペアで行うことになった。でも正直全然できな
い。私にはただの茶葉の塊にしか見えない。シロウも同じみたいだ。
﹂
﹂
そうこうしているうちに、私とシロウの座っている席にトレローニー先生が近づいて
きた。
まだですね﹂
﹁そちらのお二人はどうですか
?
﹁でしたら、私が見て差し上げま⋮は、はぁあ
?
﹁あ、あなた⋮⋮そんな⋮﹂
た。いったい何を見たのだろう。
シロウのカップを見た瞬間、先生は悲鳴を上げてカップを取り落とし、カップを割っ
!?
﹁
4. 「地獄」の再現と占い
821
﹁⋮⋮﹂
こと
る﹂
﹁授 業 に は 出 る。知 り 合 い が ル ー ン 占 い を す る も の で な。信 じ て な い だ け で 興 味 は あ
と一言、
シロウはそう告げると有無を言わさず荷物をまとめだした。そして鞄を背にかける
扱う気は無いが、俺は信じない﹂
﹁占いは当たりもするし、外れもする。不確かであり、確かでもある分野だ。ぞんざいに
?
黙していた。それほどにまで聞かれたくないことなのかな。﹁世界﹂って、いったい何の
その発言にはグリフィンドール生はおろか、合同授業を受けていたハッフルパフ生も沈
トレローニー先生の言葉を遮ったシロウ。その声には有無を言わせない力があった。
﹁そこまでだ﹂
﹁もしやあなたは⋮⋮﹃世界﹄の⋮﹂
822
4. 「地獄」の再現と占い
823
そう告げて教室を後にした。その後の教室はいたたまれない空気が支配したため、私
も荷物をまとめて教室を後にした。なんだか今日は午前だけでいろいろと濃いなぁ。
5. 疑問と誇り高き生き物
昼食を済ませた後の最初の授業は、マグゴナガル教授の変身術だった。
しかし教室内の空気は重い。まぁ仕方がないかもしれない。俺の過去を見た奴らも、
私の授業でこれほどまでに集中力がないのは珍しい﹂
回復してこの教室にいるのだしな。
﹁いったいどうしたのです
﹁午前の授業でなんですが⋮ボガードの授業で⋮﹂
﹁なんです、ミス・ブラウン﹂
﹁⋮先生﹂
る。しかしここでラベンダーが、気絶した人の一人がマグゴナガルに答えた。
流石に違和感を感じたマグゴナガルが声をあげるが、生徒は黙りこくったままであ
?
824
﹁何かあったのですか
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮そうだな。
﹂
?
﹁ボガードが、化けましてね﹂
﹁⋮いったい何にですか、エミヤ
﹂
﹁⋮⋮私の過去に﹂
﹁ッ
﹂
しかしここでラベンダーの言葉は止まった。事情を知っている奴らも黙っている。
?
?
﹁⋮俺の始まりを﹂
﹁⋮⋮そうですか﹂
﹂
葉は分からずとも、みんな意味がすんなりと入っていたみたいだ。
俺の発言に教室中が凍り付いた。ちなみにいうと、あの時響いていた数多の悲鳴は言
!?
﹁⋮どこの場所ですか
5. 疑問と誇り高き生き物
825
﹂
マグゴナガルはそれっきり黙り、思考に耽った。しかしハーマイオニーの質問がその
思考を遮った。
ええ、何でしょう﹂
﹁先生、一つお聞きしていいですか
﹁ん
?
﹂
この星のことではないですよね
?
﹁えっと⋮﹃世界﹄ってなんですか
﹁世界
﹂
しかし俺はこの質問が出てくるとは思っていなかった。
﹁はい実は⋮﹂
?
に関わること、下手すれば﹃エミヤ﹄のように契約する輩も出かねん。
マグゴナガルはしばらく考え込み、一度俺に視線を投げかけてきた。確かにこれは俺
﹁そうですか⋮シビルが⋮﹂
﹁はい⋮トレローニ先生が言っていたので、その意味ではないのではと⋮﹂
?
?
826
俺は首を小さく横に振り、話すことに拒否を示した。しかし隣に座っていたマリーに
は俺の行動が見えてしまったようだ。
彼女は静かにこちらを見たが、視線をすぐにマグゴナガルに戻した。
伺ってください﹂
﹁⋮すみませんが、私から話すことはできません。どうしても知りたい人は、校長にでも
﹁ですが⋮﹂
応はどう変化するのだろうな。
は逸らしたか。しかしボガードの光景が俺の過去と知られた今、はてさて俺に対する反
マグゴナガルは話を打ち切り、強制的に授業を開始した。とりあえず﹃世界﹄から話
は⋮⋮﹂
﹁くどいです、ミス・グレンジャー。私からは話せません。では授業に戻りますよ、今日
5. 疑問と誇り高き生き物
827
◆
変身術の授業が終わった後、私たちは森に移動した。どうも今年はハグリッドが﹁魔
そんじゃあ教科書を開け、ヒッポグリフの項目だ﹂
法生物飼育学﹂を担当するらしい。そしてスリザリンとの合同授業。絶対に何かが起こ
るのが目に見えてる。
﹁お前さんたち揃ったか
﹁わかった﹂
﹁了解﹂
でもなんか周りから変な視線を感じる。気になって顔を上げると、みんな革ベルトで
ハグリッドの指示に従い、
﹁怪物的な怪物の本﹂という教科書を私とシロウは開いた。
?
828
﹂
﹂
縛った教科書を持ったまま私たちを見ていた。
﹁みんな、どうしたの
﹁どうやってこれ開いたの
れいに輝いていた。
きな生き物がいた。一頭一頭は異なる羽毛と毛色をしており、木漏れ日にが反射してき
ら多数の気配が近づいてきた。顔を上げると、目の前には上半身が鷹、下半身が馬の大
ハグリッドに教科書の開き方を教わり、ヒッポグリフの項目を開いたところで前方か
よね。
うん、シロウならそうだと思った。なんかシロウに慣れてるのってハネジローだけだ
﹁﹁﹁シロウェ⋮⋮﹂﹂﹂
﹁俺はガタガタ怯えて自分から﹂
﹁どうやってって⋮⋮なんかすり寄ってきて自分から﹂
?
?
﹁さてヒッポグリフについてだが、こいつらは気高い。絶対に侮辱してはならねぇぞ﹂
5. 疑問と誇り高き生き物
829
ハグリッドが簡単にヒッポグリフについて説明するのを私たち、一部生徒を除いて、
前に出てくれ、そしてバックビーク、あの灰色のヒッポグ
真面目に聞く。誰だって怪我したくないからね。
﹁じゃあそうだな、マリー
リフにお辞儀するんだ﹂
﹂
﹁ハグリッド⋮先生﹂
﹁どうした、シロウ
ああ、いいぞ﹂
﹁俺が行ってもいいだろうか
﹁ん
?
?
シロウはハグリッドに許可を得てヒッポグリフたちの前に出た。対象はシロウの髪
?
﹂
﹁⋮⋮うん、まぁマリーならそうなるじゃろうな﹂
この展開見覚えがありすぎる。
バックビークは私のお辞儀を待たずにこちらに近寄り、体を摺り寄せてきた。うん、
ハグリッドに言われ、バックビークの前に出てお辞儀した、いや、しようとした。
!!
830
みたいに真っ白な子。バックビークとは違って目は少しだけ優しげ。
﹁お、そいつはメスだな。メスはオスよりも気難しいが⋮⋮﹂
ハグリッドの解説を背後に、シロウは黙々とヒッポグリフに近づく。やがてその距離
が3メートルとなったとき、事は起こった。シロウがお辞儀をしようとしたとき、白い
子は大きく鳴き声を上げた。それと同時に、周りの数頭も、バックビークも一緒に鳴き
声を上げ、シロウの周りに集まった。
そこには異様であり、神秘的な光景が広がった。
この場にいる全てのヒッポグリフはシロウを囲み、頭を下げていた。円陣を組むよう
に並ぶヒッポグリフの中心には、差し込む木漏れ日に照らされたシロウが立っていた。
こうべ
誰も声を上げない、その空気の中、シロウが歩き出すと道を開けるように円陣が崩れた。
それでも頭を垂れ続けるヒッポグリフ達。なんだろう、ゴーストたちもヒッポグリフ
達も、トレローニ│先生の言っていた﹃世界﹄という単語もシロウの過去も、どういう
関係を持っているのだろう
﹁これは⋮⋮いったい⋮﹂
5. 疑問と誇り高き生き物
831
?
﹁どうやらこいつらは⋮﹃何だい、簡単じゃあないか
﹄マルフォイ
﹂
?
あ
い
つ
歩いて近づいて行った。
﹂
﹁やっぱハグリッドの言うことなんて当てにならないな。そう思うだろ
たち
醜い野獣君
空気を壊す、気取ったような声。マルフォイがふんぞり返りながら士郎たちのもとに
!!
ま
れ
≫
!!
いったいこいつらは
﹂
?
﹁な、なんだ
?
裂こうとする爪を収め、しかしその鋭い眼はマルフォイを見据えたまま直立していた。
シロウの声が響いて全てのヒッポグリフが止まった。そして全員マルフォイを切り
≪Desine
止
がマルフォイに殺到しようとし⋮
マルフォイがそう言った瞬間白い子の爪が鈍い輝きを放った。そしてそのきらめき
?
?
832
﹁お前がこの子らを侮辱したからだ﹂
シロウはヒッポグリフ達よりも鋭い眼をして、今にも切り裂かれそうな空気を纏いな
がらマルフォイに近づいた。マルフォイの取り巻き達は、シロウの剣幕に怯えて近づい
てこない。
﹁おおかた、問題を起こしてハグリッドを退職、またはダンブルドアを不利な立ち位置に
立たせるつもりだったのだろうが⋮﹂
﹁な、なにを⋮﹂
ああ∼シロウ怒ってるな。夢で見たマジ切れではないようだけど、それでも相当怒っ
ている。
怒気をはらんだ声を浴びせられ、マルフォイは完全に凍り付いてしまっていた。自業
は下がってろ﹂
﹁俺の目の届く限り、そのような汚い真似はさせん。親の七光りに頼るだけのボンボン
5. 疑問と誇り高き生き物
833
834
日本の格言で﹁雀
期待していいよね。
自得だね、この先マルフォイのような生徒は改心するのだろうか
百まで踊り忘れず﹂ってのがあるけど大丈夫だよね
?
重たくなっていた。
そんなこんなで午後も濃い内容になり、夜に布団に入るころには全身と全心が疲労で
?
ディゴリーはレベルが高く、その実力は四寮トップと噂されている。
入 場 し た。相 手 は 全 体 的 な 強 さ の バ ラ ン ス が い い。と り わ け シ ー カ ー の セ ド リ ッ ク・
フィールドでは雷鳴に負けない歓声が上がり、私たちと同時にハッフルパフチームが
と向かった。
ルチームを止めることなどできない。私たちチームは其々の愛箒を持ち、フィールドへ
そう。仮令雷鳴が轟き、突風が駆け抜け、槍のような雨が降ろうとも、グリフィンドー
はどうにもならない。
ムの普通である。試合メンタルが完璧となった今では、ちょっとやそっとの土砂降りで
し、そしてチームがいい具合に熱くなる。これがグリフィンドール・クィディッチチー
相変わらずウッドはその熱い性分で選手を鼓舞し、双子のウィーズリーがそれを茶化
のシーズンが始まった。
そんな濃い一年の始まりを迎えて早一ヶ月。ハロウィンが始まる前にクィディッチ
6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅
6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅
835
き、動いている。間違いなく金のスニッチだった。
!!
私はその煌めきに向かい、箒を一気に加速させた。
グリフィンドールのシーカーが動いた
!!
≪おおーっと
スニッチを見つけたか
その時、フィールドの中央地面スレスレに光るものが見えた。それは不規則に煌め
チーム、侮れない。
其々三回づつシュートを決め試合は五分五分に拮抗していた。流石はウッドの認める
さ ら に 強 く な る け ど、箒 で バ ラ ン ス を と っ て 何 と か 耐 え る。そ の 間 に も 試 合 は 進 み、
まず私は上空高くに舞い上がりフィールド全体を一望できる位置に滞空した。風が
クワッフルが投げられ、試合が始まった。
対する私はその控えめな体格のせいか、風にさらわれないよう箒にしがみついている。
今、目の前にいるセドリックは雨風に踊らされることなく、真っすぐに滞空している。
たくなるほど馬鹿正直だ。なので彼がそう言うってことはその通りなのだろう。現に
試合前にウッドはそう語っていた。ウッドはクィディッチに関してはくどいと言い
かったらチームに入れたいと思うほどのな﹂
﹁いいかマリー。セドリックはパワー、テクニック、全てに秀でた選手だ。正直君がいな
836
6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅
837
≫
どれだけ飛んだのだろう。長く飛んでいるのか、それともそんなに時間がたっていな
風を切る音だけが聞こえる。視界にはスニッチしか映らない。
いつの間にかセドリックの姿はなくなり、私とスニッチだけになった。
│││││││││││││││││││││
先ほどの大きさに見えるまで高く上った。
ニッチはどんどん上昇し、私たちもそれに伴って空へと昇る。ついにはフィールドが指
うに上空に昇って行った。私とセドリックはすぐに方向転換し、スニッチを追った。ス
スニッチも私に気が付いたみたいで、フィールド中央から離れて私たちを迂回するよ
まえればいいだけのこと。私は箒をさらに加速させた。そしてセドリックを引き離す。
でも私は引かない。彼が私を利用するのなら、私がそれを上回る速さでスニッチを捕
たらしい。経験からくる判断だろう、私はまんまと引っかかったわけだ。
にマークしてきた。どうやら自分でスニッチを見つけず、私をマークする方にシフトし
ジョーダンさんの実況がフィールドに響く。同時にセドリックも私を追随するよう
!!
838
いのか。まるで世界に私とスニッチしかいない感覚になる。
│││││││││││││││││││││
突然スニッチが方向転換し、私は空高い位置にいたままスニッチを見失ってしまっ
た。周りは雲ばかり、自分がどこにいるのか、フィールドからどれほど離れているかが
わからない。
とりあえず地面に向かって飛び、視界が開ける場所に出て探そう。そう思い箒をつか
み直した時に初めて気が付いた。箒の柄が徐々に凍り付き、加えて周囲の気温も下がっ
てきてる。顔を上げると、周りには沢山の吸魂鬼が漂い、飛行していた。
急いでフィールドに戻るために箒の柄を下に向けたとき、一体の吸魂鬼が突進してき
た。私がそれを避けると、それを合図に次々に吸魂鬼が襲い掛かってきた。凍てついた
箒を必死に動かし、吸魂鬼を避けていく。しかしあまりにも数が多く、だんだんと逃げ
る空間がなくなってきた。
そしてほどなくして、ついに一体の吸魂鬼に接近を許してしまった。私の背後に近づ
き大きく息を吸う吸魂鬼、同時に私から抜けていく何か。自分から幸福が失われていく
ような感覚に襲われ、次いで女性の悲鳴が聞こえた。
6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅
839
意識が遠のく、全身から力が抜ける。そして次に私を襲うのは浮遊感。私が落下して
いると自覚したのは、眼下にフィールドが映り込んできた時だった。
悲鳴が聞こえる、どんどんフィールドが大きくなる。ああ、私はこのまま死ぬのかな。
これほどの高さから落下したらひとたまりもないだろう。
他人事のようにそう思っていると、不意に浮遊感がなくなった。それどころか何か暖
かいものに包まれ、とても安心感に満たされた。
意識を手放す最後に私の視界に移ったのは、地面に向けて落下するいくつもの炎の塊
だった。
││││││││││││││││││││
目が覚めた。最初に感じたのは柔らかいというもの、そして白い。一度瞬きをする
と、視界がはっきりとしてきた。周りを見渡すと、私が寝かされているのは医務室の
ベッドの一つだった。そしてベッドの周りにはグリフィンドールチームとロン、ハーマ
イオニー、シロウがいた。ベッドにはハネジローもいた。
﹂
﹂
ハネジローは長期休みの間、ハグリッドに預けていた。
﹁マリー、大丈夫
﹁うん、大丈夫。何があったの
プラス
﹁⋮そう。そんなことが﹂
された。
シロウが簡潔に説明するのを聞く。彼の説明は要点だけが纏められ、結果だけが報告
走だらけだった。そして君が襲われ、箒から落ちてきた﹂
﹁吸魂鬼は人間の正の感情を餌とする。あの時の試合場は奴らにとってまたとない御馳
﹁そう⋮﹂
﹁試合は君が気絶している間に終わった。グリフィンドールの負けという形でな﹂
人は一つため息をつくと、口を開いた。
私はハネジローを膝に乗せながら聞くと、途端みんながシロウに目を向けた。当の本
?
?
840
﹂
﹁それからだが⋮﹂
﹁ん
?
暴れ柳
柳ってことは植物だろうけど、﹃暴れ﹄とはいったい名だろう。
﹁君の箒だが、あれは君が落下した後に暴れ柳に衝突した﹂
?
もバラバラにされた私の相棒、﹃ニンバス2000﹄の残骸があった。
シロウがそういうと同時に、ロンが抱えている包みが開かれた。その中には、無残に
﹁察しの通りだ。君の箒は⋮﹂
はいえ、そんな植物に衝突したとなると。
正直骨折をするほどの威力なら、相当な衝撃を伴うだろう。そしていくら空飛ぶ箒と
﹁そんな植物があるの⋮﹂
うに振るい、その名の通り暴れだす。人ならば良くて打撲、骨折もするだろう﹂
﹁暴れ柳は森と湖の中間近くに生えている魔法植物でな。自己防衛のために枝を腕のよ
6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅
841
◆
マリーは疲れもあるだろうし、今日はこのまま入院させることになった。マリー以外
のメンバーは寮に戻り、俺は校長室に向かった。
校長室の前にはマグゴナガルがおり、二人して室内に向かった。だが、校長室には既
に先客がいた。
﹁しかし困るよアルバス。吸魂鬼は警備のために配置しているんだ、どかすことはでき
842
ん﹂
﹂
﹁コーネリウス、君は生徒たちに我慢せよと 此度のマリーのような事態が起こるか
もしれんのじゃぞ
?
俺は無言のまま校長室の扉を開いた。すると室内にいた二人の視線が俺に集まった。
どうやら魔法大臣が来ているらしい。だが関係ない。
﹁それに関してはこちらから厳重に指導している。今年一年だけだ﹂
?
﹁アルバス
この東洋人は誰だ
﹂
?
﹁因みに試合場の吸魂鬼を一掃したのは彼じゃ﹂
﹁そうか。私はコーネリウス・ファッジ、魔法大臣だ。よろしく頼むよ﹂
﹁お初にお目にかかる、シロウ・E・エミヤという﹂
いるとしてもだ。
魔法大臣とは初対面、一応礼儀なので挨拶をしておこう。仮令この男が俺を見下して
?
﹁おおシロウ、来てもらってすまんのぅ﹂
6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅
843
﹁何だと
﹂
﹁なんてことをしてくれたんだ
﹂
﹂
この男、自分が何を言っているのかわかっているのか
﹁だが
﹁その吸魂鬼が原因で、マリーが死にかけたんだが
﹂
くようにして驚いた。ダン
ブラックを捕まえるための吸魂鬼を
と、ファッジが掴みかからん勢いで俺に迫ってきた。
ブルドアの隣に移動していたマグゴナガルは平然としていたが。
ダンブルドアの余計な一言により、ファッジは目を引ん
!?
﹂
﹁それは⋮そうだ。私はそう言った。だが
﹁⋮⋮﹂
!?
?
ブラックを早く捕まえればいい話だろう
!!
方のはずだが﹂
﹁ブラックを捕まえるうえでマリーを守るといったのは誰だ 大臣、私の記憶では貴
!!
?
?
!!
?
!!
844
チッ、話にならん。
俺はダンブルドアに目配せをした。彼は俺の視線に一つ頷き、息をついた。それは彼
の了承を示す答え、この場は俺の一任となった。
未だ喚き散らすファッジに顔を向ける。
君のような東洋の小僧風情が私に意見するなど、身の程をわきまえ⋮﹂
!!
者エミヤ﹄と殆ど遜色ない外見である。
﹂
?
いつの間に
﹁黙って聞いておけば、結局はわが身可愛さゆえの行動か
﹁ひ、ヒィッ
!?
心配だ﹂
﹁子供らの安全よりも、自らの手柄が重要か 挙句の果てに人種差別、この国の未来が
!?
﹂
らしい。俺の肉体は全盛期だった二十代前半まで成長している。即ち、今の俺は﹃守護
刻印を発動させ、守護者形態になる。この世界では齢十三だが、体はそうもいかない
﹁そこまでにしておけよ、権力に飲み込まれた愚か者が﹂
﹁││大体だ
6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅
845
?
﹁貴様、言わせておけば
﹁そこまでです﹂
な。
﹂
﹁エミヤ殿、今回は引いてくだされ。ダンブルドアもそれでいいか
﹁構わん﹂
﹁わかった。済まなかったな﹂
﹂
棚の上の帽子から渋い声が響いた。組み分け帽子、確か俺の素性のすべてをみていた
!!
精々阿頼耶識の気に触らないよう気をつけることだ。でなければ守護者によって、貴
脅かすことになるならば、世界は貴方に目をつけるだろう。
人は誰しも世界を滅ぼす要因となる危険性を秘めている。大臣、貴方の判断が人類を
﹁と、最後に一つ忠告だ。
をあとにした。
事情を把握している帽子が言うなら仕方あるまい。俺は一礼し、服装を戻して校長室
?
846
方の存在が抹消されることになるぞ﹂
◆
シロウが出て行ったあと、いくらか溜飲が下がったコーネリウスに顔を向ける。
﹁アルバスが
悪い冗談はやめてくれ﹂
﹁それに、彼が本気になればわしですら一瞬で殺されるじゃろうな﹂
﹁大臣、一旦冷静になることを勧めます﹂
6. クィディッチでの出来事、大臣との邂逅
847
?
!!
?
いつの世も、力に振り回される者はいるのじゃな。
否、彼もまたその力ゆえに、何かしらの代償があったのだろう。
力を手に入れると歪んでしまう。シロウのような者は極めて珍しい。
ファッジはそういうと足音荒く部屋から出て行った。悲しきかな、人は己の身に余る
拒否権はない﹂
﹁あんたがそう言うなら、今度試してやる。私の選んだ先鋭たちの相手をしてもらう。
﹁コーネリウス﹂
﹁⋮ふん、私には生意気な小僧にしか見えんな﹂
ことなどたかが知れとる、仮令 彼であってもな﹂
シロウ
﹁コーネリウス、目に映るものが全てというわけではないのじゃぞ 人一人が出来る
﹂
﹁いや、冗談ではない。彼は恐らく、今の魔法族とマグルを含めて最強じゃろう﹂
そんなことがあってたまるか
!!
昔はこのような男ではなかったのじゃがのぅ。
﹁それこそ戯言だ
848
手助けしてくれるかもしれない。
ルーピン先生が使ったらしい。ということは、もしかしたらルーピン先生なら何かしら
と思う。そういえば聞いた話によると、新学期の列車の中で吸魂鬼を追い払う魔法を、
吸魂鬼に対抗する手段をもてたら、トラウマを克服する一歩が踏み出せるんじゃないか
私はこの状況が、トラウマから来ていることは何となく把握していた。たぶんだけど
に休まる気配が全くない。
そこで目が覚める。シロウの過去とはまた別の恐ろしさに襲われ、体は休めても精神的
がどんどん失われていく感覚が私を襲い、夢の最後には必ず吸魂鬼が出てきて、そして
そして最近は嫌な夢をよく見る。どこまでも冷たい空間に私は浮かび、幸福と言う者
まを再現したりと、調子のいいことばかりする。
を目深にかぶり、ローブの袖を伸ばして吸魂鬼のような恰好をしたり、私が気絶するさ
あの日の試合以来、マルフォイ一団がよくからかうようになってきた。わざとフード
7. 守護霊魔法
7. 守護霊魔法
849
そう思った私は早速事務所に赴いた。
﹂
事務所に着き、礼儀のため三度入口の扉をノックをした。
ああ大丈夫だよ、今開ける﹂
﹁先生、ルーピン先生。マリーですけど、今大丈夫ですか
﹁マリーかい
私は先生に指し示された椅子に腰かけた。
揺れだした。たぶんボガードがいるんだろうな。
先生に招かれ、部屋の中に入る。部屋に入ってすぐ右手のキャビネット棚がガタガタ
﹁はい、失礼します﹂
﹁いや、大丈夫だよ。立ち話もなんだからお入り﹂
﹁すみません、突然お邪魔して﹂
は声と同じようにくたびれた表情を浮かべた先生が出てきた。
中から先生のくたびれたような声が聞こえ、程無くして扉は開かれた。そして中から
?
?
850
﹁聞いたよ、クィディッチの試合中に吸魂鬼に襲われたんだってね﹂
﹁はい。それ以来よく吸魂鬼に襲われる夢を見てしまうんです﹂
﹁そうか﹂
﹁正直、外に出るたびに吸魂鬼に襲われるのでは、という思いがしてなりません﹂
﹁⋮⋮﹂
先生は私の話を黙って聞いている。恐らく、私が何のためにここに来たかも察してい
るだろう。だから私はそのまま話を続けようとした。
しかしここで扉が開かれた。そして二人の人が入ってきた。一人はゴブレットを片
手に持ったスネイプ先生。もう一人はシロウだった。
﹂
?
﹁ルーピン、今週分を持ってきた。む、先客がいたか
﹂
?
﹁大丈夫だよ﹂
﹁そうか。構わんか、ルーピン
﹂
﹁丁度私も用事があった。恐らく、彼女と同じ理由だろう﹂
﹁早く飲みたまえ。エミヤはどうする
﹁いや、大丈夫だ。いつもありがとう﹂
7. 守護霊魔法
851
?
スネイプ先生はゴブレットをデスクに置くと、足早に部屋から出て行った。同時に
ルーピン先生はゴブレットを手に取り、一気にその中身を飲み干した。その表情からし
て、あまり薬の味は良くないらしい。
﹂
?
﹁本当ですか
﹂
﹁⋮ふぅ、ありがとうエミヤ君。さてマリー、君の頼みだけど私でよければ指導しよう﹂
以外想像できないので、私は躊躇なくカップの中を飲んだ。
と、横合いから私と先生に紅茶の入ったカップが渡された。こんなことするのはシロウ
十分ほど話したか。休みなく、要点を的確に話していたため、のどが渇いてしまった。
返し、自分の本心を話した。
ルーピン先生は真っすぐと私を見つめ、問いかけてきた。なので私もその目を見つめ
﹁理由を聞いてもいいかい
﹁あ、はい。先生、もしよろしければ吸魂鬼の撃退法を教えてほしいのですが﹂
﹁さて、本題に入ろうか﹂
852
?
﹁ああ、それにエミヤ君も同じ相談内容だろう
そして椅子も下げ、私とシロウの前に立った。
理由は違うと思うけど﹂
先生はそう言うと杖を一振りし、ボガードの入っている棚ごと壁に寄せて片づけた。
﹁よろしい、じゃあ早速今から始めようか﹂
﹁はい﹂
習得できないことを念頭に置いてほしい﹂
﹁教えるのはいいよ。でもこの魔法はとても高難易度の魔法だ、生半可なきもちじゃあ
うな剣を使ったのかも。
異端ってあの時ぼんやりと見えた炎の雨のことかな。もしかしたらあの十字架のよ
では異端故、こちらの正攻法を覚えておきたいのです﹂
﹁ですね。今更ですけど私の撃退法は言葉通り、吸魂鬼を消滅させるものです。こちら
?
﹁いいかい 今の魔法界では吸魂鬼を撃退こそすれ、倒す方法はエミヤ君以外持ち合
7. 守護霊魔法
853
わせていない。これから教えるのはその撃退魔法だ﹂
?
守
護
霊
よ
来
ルーピン先生は静かに言葉を紡ぐ。
た
れ
﹁じゃあ二人とも、頭で思い浮かべたことを忘れないようにして、そして呪文を唱えて﹂
言われたように目をあけ、そして杖を取り出す。
﹁思い浮かべたようだね。それじゃあゆっくり目を開けて﹂
嗚呼、この光景が現実であれば、どんなに幸せなのだろう。
たかもしれない、二度とかなわない光景を思い浮かべた。
と思えるもの。最初に思い浮かんだのは家族。私がいて、父がいて、母がいて。あり得
ルーピン先生の指示に従い、私たちはめを閉じる。思い浮かべるのは私自身が幸せだ
使えない。じゃあ二人とも目を閉じて﹂
分にとっての一番の幸福を思い浮かべること。でないといくら呪文を唱えても魔法は
﹁呪文はこう、
﹃エクスペクト・パトローナム﹄。そしてこの魔法の発動に重要なのが、自
854
守
護
霊
よ
エクスペクト・パトローナム
来
た
れ
﹁﹃エクスペクト・パトローナム﹄﹂
﹁﹃守 護 霊 召 喚﹄﹂
二人同時に呪文を唱える。すると私の杖先から幾筋もの靄が出た。シロウのアゾッ
ト剣からは、いくつもの剣が形成され、シロウの周りに滞空している。が、その形はハッ
キリとはしていなかった。
﹁⋮⋮まさか不完全とはいえ、一発で発現させるとは﹂
もや
ルーピン先生はものすごく驚いた顔をしている。でもシロウの剣ならともかく。私
の靄では数秒動きを鈍らせる程度だろう。
﹂
?
頭に思い浮かべるのはあったかもしれない過去ではなく、これからあるだろう未来を
私は先生のその言葉に頷き再度目を閉じた。
﹁いいよ。ただし、あと一度だけだ。今日始めたばかりだしね﹂
﹁先生、もう一度いいですか
7. 守護霊魔法
855
想像することにした。
私にとっての幸福とは、ごくごく普通の家庭を築くこと。それ以外は想像できない。
それじゃあゆっくり目を開けて、呪文を唱えて﹂
私は母になっていた。息子と娘、夫、その親類たちに囲まれている情景。夫の顔は│
│││
﹁思い浮かべたかい
エクスペクト・パトローナム
!!
││その人影はどこか見たことのある外套を身に纏っていた。
││その人影はどこか見たことのある双剣を携えていた。
││その人影は今のシロウと同じような体躯だった。
││その影は人型だった。
飛び出し、事務室の床に着地し、立ち上がった。
呪文を唱えると同時に、杖先からまばゆい光が放たれた。そして大きな影が杖先から
﹁守 護 霊 召 喚
﹂
先生に言われたことに従い、杖を取り出す。
?
856
かすみ
しばらく人影は佇んでいたけど、やがて霞となって消えた。
てエミヤ君はそもそも生物じゃなかった。これは⋮﹂
﹁まさか成功させるとは⋮でも動物じゃなく人型守護霊なんて聞いたことがない。加え
先生が何か言っているけど、正直いまので結構疲れてしまった。私は近くの椅子に座
﹂
り、大きく息を吐いた。
﹁マリー、大丈夫か
﹁うん、平気。でもちょっと疲れちゃった﹂
?
そうだ。
シロウに促され、私は襲ってくる眠気に身を委ねた。今なら悪夢を見ることなく眠れ
﹁ああ。今は休んでおけ﹂
7. 守護霊魔法
857
858
◆
あの少女。
一度こちらに迷い込んできたが、その時から繋がりが少々強くなった。まぁあの小僧
と親密にしているのも理由の一つだろうがな。
あの子を初めて見たとき、その目はとても澄んだ緑色をしており、一本通った筋を感
じられた。あの子なら、凛や桜、イリヤが認めるのも頷ける。才能もあり、しかしその
心は人間として間違っていない。オレの一分身の記録に出てくる、月の聖杯戦争の勝者
に才能があるような感じだな。
そして彼女らの世界の守護霊魔法。ここから小僧を通して見ていたが、まさかオレを
出すとはな。いやはや、まさか無意識化で﹁守護する者﹂にエミヤシロウを選ぶとは、ど
こか面白く感じる。
ああ、少し小僧を通してな。あいつのいる世界を見ていた。なかなかどうして、
﹁シロウ、ここにいたのですか﹂
﹁ん
比べ、随分と平和な時を過ごしている。癪だが、あの小僧のおかげだろう。
﹁それにしても⋮﹂
﹂
ク
ス
カ
リ
バー
?
んだ。﹃約束された勝利の剣﹄を下してくれ﹂
エ
﹁いや、それ使ったらイギリス滅ぶからな 小僧も気にしていないだろうし、落ち着く
!!
?
﹁魔法大臣とやらのシロウに対しての態度、可能ならばこの剣で教育し直したい
﹂
らというもの、守護者のような仕事には片手の指ほどしか駆り出されていない。以前に
たまにここに来るアルトリアも交え、今見ていたことを話す。正規の英霊になってか
﹁そうですか。彼がどのような道を歩むのか、楽しみですね﹂
俺たちの世界とは違って平和だよ﹂
?
﹁どうした
7. 守護霊魔法
859
8. 忍びの地図
﹂
?
?
﹂
?
たいだ﹂
は途絶えたはずの魔術師の系譜が、そちらの〝闇の帝王〟とやらと何やら企んでいるみ
﹁いや、彼女によれば、向こう3年は大きな動きはないらしい。だが本来そちらの世界で
﹁⋮それは今年の話か
﹁そのままだ。アルトリアが言っていたが、何やら不穏な動きがそちらで起こっている﹂
﹁どういうことだ
﹁察しがいいな、なら本題に入ろう。気をつけろ﹂
るなんて余程のことだろう﹂
﹁前置きはこのくらいでいいだろう、要件はなんだ お前がわざわざ俺に関わってく
﹁それはこちらの台詞だ﹂
﹁また顔を合わすとは、想像もしてなかった﹂
﹁⋮久しぶりだな、小僧﹂
860
﹁ヴォルデモートとか。流石に場所まではわからないだろうが、事前に準備できるだけ
有難いものだな﹂
﹁彼女に感謝しておけ﹂
﹁ああ、本当に助かる﹂
ヘ
ラ
ク
レ
ス
﹁⋮こうして干渉できるのも今回限りだ﹂
﹁彼の大英雄も同じことを言っていたな﹂
﹁少なくとも、あの聖杯戦争で招ばれた者たちは、確実に一度は干渉できる。お前が解体
する際、少し泥を浴びてしまったからな﹂
﹁爺さんのようにならないだけマシか﹂
るが、人格は我らの影響を受けている。周りへの被害は殆ど考えなくていいだろう、お
﹁それに関してはお前の中にいるやつに聞け。いずれ一つの存在としてお前から出てく
前以外へのな﹂
﹁ぬかせ、小僧め﹂
﹁まぁ、なんとかするさ。じゃあな、今度顔を合わせるのは座であることを願うだけだ﹂
8. 忍びの地図
861
862
◆
11月も中旬になり、雨に混じってチラチラと降っていた雪も今では積もるほどに
なっていた。
そんな時期のとある週末、三年生以上の生徒はホグワーツ近郊に栄える村、ホグズ
ミードに遊びに行けることになっていた。しかしこれには保護者の許可が必要になっ
ており、私はいろいろあったために叔父さん達から許可を貰い忘れていた。よって私は
留守番となってしまい、ホグズミード行は来年までのお預けとなっている。
救いとなるかどうかはわからないけど、シロウも留守番となっているため、寂しさは
少し和らいでいる。なんでも士郎は頼りが届く前に漏れ鍋に移っていたため、許可の貰
いようが無かったらしい。でもシロウの実力なら、わざわざフィッグさんに許可貰わな
くても大丈夫な気がする。
ハネジローはバックビークのところに遊びに行っているし、シロ
まぁそんな感じで、現在私は散歩がてら外で妖精魔法と変身術の練習をしている。反
復練習は大事だよ
んだけど。
﹁⋮何してるの、フレッド、ジョージ
﹁安心しな、あれは有料だ﹂
﹁糞爆弾じゃあないでしょうね
﹂
﹂
﹁なぁに、ちょいと君にプレゼントをね﹂
?
﹂ お金払えば買えてしまうのか。いや、私は買わないわよ
?
﹁これは誰かに見られるわけには、特に教師陣とシロウに見られちゃダメだ﹂
?
ウは大事な用事でルーピン先生のところにいるし、だから現在私は一人、のはずだった
?
?
﹁ここじゃなんだから着いてきてくれ﹂
﹁ならどうしたの
8. 忍びの地図
863
双子に催促され、私たちは瘤のついた魔女の像の裏に移動した。三人で影に入るとフ
﹂
レッドが杖を、ジョージが古く大きな羊皮紙を幾重にも折りたたんだ物を取り出した。
﹁それなに
聞けば彼らが一年の頃、フィルチさんに捕まった際に掻っ払ったそうな。大胆なこと
﹁俺たちはこれに何度も世話になった﹂
﹁しかも誰がどこにいるかまでわかる﹂
﹁察しの通り、ホグワーツの地図だ﹂
﹁これって⋮﹂
シミはやがて流麗な曲線を描き始め、最終的には大きな地図となった。
フレッドが羊皮紙を杖先で叩くと、そこを中心として黒いシミが羊皮紙に広がった。
﹁﹃我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり﹄﹂
﹁〝忍びの地図〟って言うんだ﹂
﹁俺たちの秘策さ﹂
?
864
をするものね、この二人は。
﹁俺たちはもう覚えたからな﹂
﹁もう必要ないから、君にこれを進呈しようと思う﹂
﹁これはホグズミードに通じている抜け道も記載されている﹂
﹁でも暴れ柳のルートは使わないほうがいい﹂
﹁一番はこの像の瘤から通じる道だな﹂
双子は交互に口を開き、まるで捲したてるように説明をする。
﹁あと使った後は必ず地図をしまってくれ﹂
﹁﹃いたずら完了﹄﹂
た。成る程、彼らはこれを使ってフィルチさんから逃げていたのか。
双子がそう締めくくると同時に地図はみるみる折り畳まれ、元の羊皮紙の束に戻っ
﹁﹁じゃないと誰かに見られちまう﹂﹂
﹁これで元の羊皮紙の束に戻るから、忘れずに使う都度やってくれ﹂
8. 忍びの地図
865
通路を数十分ほど歩いた先、ようやく見えた出口から出ると、そこは何かの建物の倉
││││││││││││││││││││
を確認し、地図に表示された呪文を唱え、魔女の瘤に生じた亀裂から通路に入った。
私は寮に透明マントを取りに行き、また像の裏に戻ってきた。そして誰もいないこと
行動だ。
私は今回試しに使い、それからシロウに相談することに決めた。そうと決まれば早速
り、リドルの日記のような危険性はないようだ。
ないのだろう。でも使いたい感情もたしかにある。それに、先ほどの様子をみるかぎ
そういうと二人は足早に去っていった。手元の束に目を移す。本当は使ってはいけ
﹁楽しんでくれ﹂
﹁じゃっそういうことで﹂
866
庫裏だった。急ぎ透明マントを被り、建物の表へと出ると、どうやら〝三本の箒〟とい
うパブの裏から出たらしいことがわかった。ついでに言えば、入り口から中に入る複数
の教師陣兼魔法大臣兼何故か混じるシロウを見かけたため、私はマントを被ったままそ
の集団について行った。
集団は奥の部屋に案内され、各々注文した飲み物を一口煽るとマグゴナガル先生を始
めとして話し始めた。若干一名、シロウに敵意を込めた視線を送っているけど。
﹁それにしても、今年でもう12年ですか﹂
﹁あの二人が亡くなってそんなに月日が経ってしまったのですね﹂
恐らく、私の両親が殺されたことの話だろう。
わない重みを含んだ言葉を発した。10年経った今でも、私の両親の死は悲しまれてい
ハグリッドは涙ぐんだような声を出し、フリットウィック先生はその甲高い声には合
﹁本当に惨たらしいことだ﹂
﹁今も忘れちゃいねぇ。マリーを守るようにして死んでいたあの二人の姿を﹂
8. 忍びの地図
867
るのか。
いう﹂
﹂
﹁大臣、少し待っていただきたい﹂
﹁何だね
大臣が発した言葉に、マグゴナガル先生が待ったをかけた。一体なんだろう
ラックに関しては冤罪という話が濃いらしいけど。
?
?
﹂
?
﹁バカな⁉
それはありえない‼
﹂
?
﹁ですが現に生じているのです。これを﹂
?
冤罪である可能性が浮上してきたのです﹂
﹁おかしなことがわかったのです。当時の状況と調査結果に矛盾が生じた。ブラックが
﹁ほう、それで
を守るためにと﹂
﹁ブラックについてですけど、私とセブルスで独自に調査しました。少しでもポッター
ブ
﹁確かブラックの裏切りで居場所が暴露したと、そしてあいつはマリーも狙っていると
868
そう言ってスネイプ先生は羊皮紙の束を取り出し、大臣に手渡した。流石の大臣も目
﹂
を通さないわけにもいかなかったらしく、嫌々ながら読み始めた。始めは胡散臭げだっ
たその顔は、やがて驚愕に染められた。
﹁バカな⋮信じられん﹂
﹁ですが事実です。目を背けないでください﹂
﹁だがこれが事実だったとして、私にどうしろと
﹁今は頭の隅に置いておいてください﹂
はわかりません﹂
﹁まだ公表しなくていいです。証拠が足りない今では、彼が冤罪であるか有罪であるか
?
﹂
話は終わったらしく、皆はまた各々の飲み物を飲み始めた。どうでもいいけどシロ
ウ、あなたなんでここに混じってるの
?
?
﹁そういえば、大臣は何故エミヤ君を呼んだのです
8. 忍びの地図
869
ビールらしきものを飲んでいたルーピン先生が、ファッジに質問した。
︵︵︵︵︵いや、大臣が恥かくだけだから。やっぱバカだろこの人︶︶︶︶︶
﹁⋮⋮﹂
﹁大丈夫だよ、彼は学生だ。無茶なことはしない﹂
臣を心配していることが見て取れた。
しかしそれに一斉に反論、いや制止をかける教師陣。その表情はシロウではなく、大
﹁﹁﹁﹁﹁大臣、やめておきなさい﹂﹂﹂﹂﹂
のシロウ。二人の温度差は激しかった。
明らかにシロウを見下したような発言をするファッジと、非常にげんなりとした表情
﹁⋮本当に迷惑な話だ﹂
﹁ああ、ダンブルドアが自分よりも彼が強いというのでな。試すことにしたのだ﹂
870
何だろう。教師陣の考えていることが手に取るようにわかってしまう。
全員が勘定を済ませると、後から入ってきた大臣の選んだ先鋭らしき人たち七人を
伴って村の郊外に移動した。何故かその中にいたガマガエルのような女性を見て、私は
薄ら寒いものを感じた。
﹂
郊外へときた一行は適度に広がり、先鋭たちは既に真っ赤な外套を纏うシロウを囲む
ように並んでいた。
﹁⋮大臣。本気でやっていいのだな
﹁ああ、大丈夫だよ﹂
﹁⋮どうなっても知らんぞ﹂
うん、大臣も先鋭たちもバカだね。ただ、キングズリーって呼ばれた人だけは違うみ
︵︵︵︵︵はい、先鋭たち終わった。キングズリー以外は終わった︶︶︶︶︶
?
﹂
たいだけど。あの人はどうやら力量の差を把握しているのか、戦うそぶりを見せていな
い。
では始め‼
?
﹁準備はいいね
?
8. 忍びの地図
871
ステュービファイ
﹁﹃麻痺せよ﹄‼
﹂
﹁バカな⁉
﹂
・
なら今度は私の番だ﹂
?
﹁あなたはどうする
﹂
に倒れ伏し、気絶していた。そしてシロウは悠然とキングズリーの前に佇んでいた。
シロウから言葉が紡がれた次の瞬間、瞬き一度の間に七人中キングズリー以外全員地
﹁⋮⋮終わりか
ら飛ばされた閃光ものを同様に霧散し、一切の効果を出してなかった。
さらに何度も攻撃の魔法を飛ばしたけど、シロウには一つも当たらなかった。背後か
﹂
?
﹁クソッ‼
?
直前で霧散した。
開始と同時に放たれた6筋の赤い閃光。それらは狙い違わずシロウに殺到して⋮⋮
?
?
872
﹁止めておくよ。私じゃ到底かなわないから﹂
﹁そうか﹂
キングズリーが降伏を宣言した時、魔法大臣の負けが決定した。ファッジは信じられ
ないとでも言うように口をポカンと開き、両膝をついていた。
ボソリと呟いたスネイプ先生の言葉が印象的だった。
﹁⋮⋮だから止めたのだ﹂
8. 忍びの地図
873
9. その後とプレゼント
決闘騒動の後、気絶させられた魔法使いたちは起こされた後、ガマガエル女を除いて
全員が負けを認めた。道具を使ったのは明白だったけど、シロウ本人も認めていた、魔
法が一切効かないことに加えて普通じゃない身体能力。降参の意を示すには十分だっ
た。
理由は至極簡単、仮令魔法を防いだ外套を使っていなくても、瞬き一つの間に六人を
昏倒させ、息一つ上がらぬ身体能力の前では、杖を構える時間すら隙になってしまうた
めである。杖さえ構えられないのなら、流石のダンブルドアも敵わないだろうと。
しかしここでガマガエル女、アンブリッジとかいう大臣のお気に入りが異を唱えた。
のたま
シロウのやっていることはインチキであり、実力ではないと。麻痺の呪文は聞かなかっ
たが、〟許されざる呪文〟や閃光が飛ばない魔法なら効果があるはずだと宣 った。
﹁私が証明いたします
インカーセラス
﹃縛 れ﹄
!!
﹂
﹁しかし、ドローレス。一度負けたところでいちゃもんを付けては⋮﹂
874
!!
﹁ッ
﹂
ドローレス
﹁卑怯な
﹂
!?
ていた。
﹁⋮⋮﹂
?
語るアンブリッジ。どうやら自分の優位だと隠していたらしく口元には虫唾の走る笑
﹁ェヘン、ェヘン﹂と変な咳払いをした後に、気持ちの悪いほどの甘ったるい猫撫で声で
﹂
示していた。マグゴナガル先生だけじゃない、教師陣はみな一様に怒りの意を露わにし
グゴナガル先生は気づいてる。でもマグゴナガル先生はアンブリッジの所業に怒りを
でもそれに気づいていない皆は、それぞれ反応を示して⋮⋮訂正。スネイプ先生とマ
たぶんあれは態と背中から倒れた。顔が全然焦ってなかったし。
まま雪の中に仰向けに倒れこんだ。
シロウに巻き付いて強く縛り上げた。しばらくシロウはモゾモゾ動いていたけど、その
突如アンブリッジの杖先から放たれた一本のロープは、意思を持っているかのように
!!
!?
﹁フフフフ。いくらお前でも、この状況では何もできないでしょう
9. その後とプレゼント
875
かつ
みを浮かべている。それを無表情且無言で見つめるシロウ。
あげる﹂
﹂
流石にそれはいかん
﹂
﹂
!!
﹁⋮⋮﹂
﹁グッ
﹁ドローレス
!!
!!
?
﹁ハァハァ。どうかしら、〟磔の呪文〟の味は
﹁⋮⋮﹂
﹁フフフ。痛すぎて言葉も出ないようね﹂
﹂
して肝心のファッジはオロオロして何の役にも立たない。
く準備をする。けどやはり権力の犬だからか、大臣の命令がないと動けないらしい。そ
どうやら使ってはいけない魔法を使ったらしく、周りはアンブリッジを止めようと動
アンブリッジが呪文を使ったとたん、周りが大騒ぎしだした。
!!
﹁何ですかその生意気な目は。﹃苦しめ﹄
クルーシオ
﹁覚悟なさい。極東の子猿風情が大臣の顔に泥を塗ったことを、たっぷりと後悔させて
876
満足そうな笑みを浮かべたアンブリッジは、ファッジのほうへと体ごと顔を向けた。
﹂
それにしても磔って、拷問をしたことと同じでしょう。
﹁どうです大臣。私の仮説は正しかったですよ
ロウに。
﹂
!!
﹂
﹁こうしてピンピンしている俺か
﹁へっ
?
とは違い、全て掻き揚げられていた。
以前見た真っ黒なボロマントと黒い軽鎧を身に付けたシロウがいた。髪は先ほどまで
間抜けな声を出したアンブリッジが振り返った先には、いつの間にか着替えたのか、
?
その証拠が⋮⋮﹂
ファッジに向けられていた。だから気が付かない、彼女の後ろでゆらりと立ち上がるシ
心 底 う れ し そ う な 声 を 発 す る ア ン ブ リ ッ ジ。恐 ら く そ の 目 は、彼 女 の 意 識 は 全 て
!!
﹁やはりこの子猿のさっきやったことはインチキです
9. その後とプレゼント
877
﹁え、あ⋮な、なんで⋮﹂
﹁まさか、さっきの磔の呪文とやらは危険な魔法、とでもいうつもりか
﹁そんな⋮⋮確かに磔の呪文を⋮﹂
﹄
﹁あの程度の拷問で満足しているようだが、俺には効かない﹂
﹃ッ
れが効かないというシロウは、彼らにとってど映っているのだろう
グゥ⋮﹂
﹁もう貴様には用はない。せめてもの慈悲だ、眠れ﹂
﹁なnッ
すアンブリッジ。殺されなかっただけマシ、ということかな。
﹂
瞬きの間に、アンブリッジのドテッ腹に突き刺さるシロウの拳。そして力なく地に伏
!?
?
許されざる呪文〟なのだろう。拷問という言葉通り、痛みを伴う呪いを魔法で行う。そ
恐らく磔の呪文というのは、発明されても決して使ってはいけない、その名の通り〟
シロウの発言に皆言葉をなくす。
!?
?
878
外に出る。そのまま外の広間にでると、やはりシロウが鍛錬をしていた。朝も早く、ま
休暇中だったけどいつも通り、朝の七時に起床してタオルと水を用意し、厚着をして
業をこなし、ついに三度目のクリスマスを迎えることになった。
そのまま大きな出来事もなく、私はクィディッチの試合を学校の箒で出場しながら学
もかく、マグゴナガル先生は若干不機嫌だった。
で帰ってきた。でも本来違法な魔法を使った女もお咎めなしだったようで、シロウはと
そんなことがあったのが一か月前。結局シロウはお咎めなしで、あの日は何食わぬ顔
││││││││││││││││││││
嫌な空気に耐えられず、早々に抜け道に戻っていった。
そう言い放ったシロウは服装を制服に戻し、その場から去っていった。私もその後の
﹁さて大臣。この女のことだが、そちらに任せよう。公正な判断をお願いする﹂
9. その後とプレゼント
879
た学校周囲に吸魂鬼が配置されているため、ここ二年よりもさらに生徒数が少ない。そ
のためか、シロウはいつもの木刀ではなく、白黒の双剣で鍛錬をしていた。
三十分ぐらい一心に剣を振っていたか、最後に一度大きく左右に切り払うと、シロウ
は一つ息を吐いた。
ああ、ありがとう﹂
﹁お疲れさま、シロウ。はい﹂
﹁む
と彼の足元に目を向けると、彼の周りだけ雪が解けていた。
ああ、今日は二時間やっているな﹂
﹁今日も結構やってたみたいね﹂
﹁ん
﹁そう。たぶんお風呂場空いていると思うし、ご飯の前に入ってきたら
﹁そうしよう﹂
﹂
タオルと水筒を受け取ったシロウは、全身から蒸気を発しながら汗を拭いていく。ふ
?
?
タオルと空の水筒を受け取り、寮に戻って食堂に行く準備をする。タオルは洗濯に出
?
880
し、水筒は自分で洗う。丁度全部作業が終わったころに、シロウとウィーズリー5兄妹、
ハーマイオニーも準備を済ませてきたので、総勢八人という結構な人数で食堂へと向
かった。
毎年同様閑散とした食堂には、教師も含めて三十人程しかおらず、机の上の御馳走も
量が少なめだった。でも相変わらず御馳走はとても美味しく、魔法のクラッカーのプレ
ゼントも魔法界ならではの面白いものが多数あった。何故か〟騙し杖〟が混じってい
たけど。
で、朝食も済ませて寮に戻ると、早速みんなはプレゼントの開封に専念し始めた。私
は自室に戻り、みんな用のプレゼントを用意する。今年は学校のキッチンを借り、クッ
キーとケーキを作ってきた。ダーズリー家とウィーズリー家、そしてエミヤ家には保存
のきくお菓子を作った。
階下に降りると、シロウ以外のみんなはプレゼントを開封し終え、皆お揃いのウィー
ズリー家特性セーターを着用していた。
﹁問題ないさ、メリークリスマス﹂
﹁ごめんね、遅くなって。はい、メリークリスマス﹂
9. その後とプレゼント
881
882
で、早速髪を結って付けてみた。
クリスマスの挨拶を済ませ、プレゼントを渡してから私も開封に移る。最初はシロウ
からで、中には流麗な剣を象った簪 ヘアピン
?
の
雷
現時点で最速最高と言われている箒、〟ファイアボルト〟が誰かから送られてきた。
部分には、〟Fire Bolt〟と金文字で刻印されていた。
炎
感触が箒のようだった。包みをはがし、開封すると、そこには一本の箒があった。柄の
次に目についたのは、何やら長くて大きな包み。大きさは私と同じぐらいで、触った
そのヘアピンからは微かにシロウの魔力が感じられ、とても暖かい感覚に包まれた。
?
10. 帰還者と襲来者
差出人のわからない新品の箒。しかもそのスペックは現時点で速度、機動性、繊細さ
が最高である〟ファイアボルト〟。包みから転がり、床に落ちたそれを見て、箒にそん
﹂
な詳しくないハーマイオニーでさえも目を丸くしていた。
﹁それ⋮本物
?
その印は三本の剣が三つ巴を描くように組み合わさり、そして中央にある一本の剣を
いっぱいに広がる変な印だけだった。
調べた。でも手紙などはやはり同封されておらず、結局見つかったのは、大きな包装紙
誰から送られてきたのか。それが非常に気になり、包装に使われていた紙を隅々まで
﹂
﹁うん。そうだと思う﹂
?
﹁でも誰から⋮
10. 帰還者と襲来者
883
囲んでいた。何よりも剣の形に目を引かれた。
一つは剣というより斧といったほうがしっくりくるもので、剣の腹の部分には雪があ
しらわれていた。
二本目の剣はまるで釘のような形をしており、その腹には花があしらわれていた。
そして最後の三本目の剣、それは他の二本とは意匠が異なり、刀身が塗りつぶされて
おらず、宝石を思わせるような亀裂が入ったものだった。まるでゼルレッチさんの短剣
のように。
宝石に雪に花、いったいこれが指し示すものは⋮⋮
ふと頭の隅に三人の人物が浮かんでくる。
一人は凛としてクールな雰囲気を纏った、赤が非常によく似合う女性。
もう一人は優美という言葉を体現したような女性であり、桜の花が非常に良く似合い
そうである。
最後は聖女という表現が非常にしっくりくるものであり、雪のように混じり気のない
純粋な白を身に持つ女性。
﹁何だ
﹂
﹁⋮ねぇシロウ﹂
884
?
﹂
唯一混乱する私たちに参加していなかったシロウのもとに行き、包装紙の印を見せ
る。
﹂
﹁この印、シロウに⋮エミヤ家に何か関係ある
﹁先に聞くが、そう思ったわけは
?
くうちにシロウの表情は徐々に変わり、最終的には満足したような顔をしていた。
シロウに質問を返されたため、先ほど私が考えたことをそのまま伝えた。説明してい
?
﹁そうだ。その箒は俺たちエミヤ家からのプレゼントだ﹂
﹁というとこれは⋮﹂
た四家共通の家紋として使っているものだ﹂
﹁ああそうだ。それは遠坂、間桐、アインツベルンが自分の家紋とは別に、衛宮と合わせ
﹁それで、答えは正解なの﹂
﹁成程な﹂
10. 帰還者と襲来者
885
やはりというべきか、予想した通りだった。ただそうなると、少し後ろめたい気持ち
がある。普通のプレゼントに加え、私は皆よりも一つ多くもらっている。さらに言え
ば、現時点では相当高価な箒である。
﹂
?
﹁そういえばハーマイオニー。クルックシャンクスはどこ
?
と同じで自由行動させているらしいけど、入学してからと言うもの、ほとんど見かけた
膝でお昼寝するハネジローを撫でながら、ハーマイオニーに尋ねる。基本ハネジロー
﹂
ローブ。そしてフレッドとジョージには何か分厚い本を手渡していた。
ロンとハーマイオニー、パーシーとジニーには学校指定のローブを模した対魔法用
を持っており、その全ての包装紙にエミヤの紋章が描かれていた。
シロウに指示された先を見ると、なるほど。確かにみんなアクセサリーとは別の物品
﹁え
﹁心配しなくても、皆の分もちゃんと預かっている。箒と同等のものをな﹂
﹁いいのかなぁ。私だけ特別扱いみたいで嫌だな﹂
886
ことがない。
﹁あの子は今狩りに行ってるはずよ﹂
﹁頼むからスキャバーズに近づけないでくれよ 女生徒ならともかく、動物は雌雄関
係なく男子寮に入れるんだから﹂
﹁その辺はちゃんと言い聞かせてるわ﹂
ふとシロウに視線を向けると、何やら虚空を見つめてボーッとしていた。でも彼から
同等の知能は持ってるだろう。それに野生の感が加われば、まさに最強の猫といえる。
どうもハーマイオニーはちゃんと躾けてるらしい。まぁあの子は多分ハネジローと
?
魔力が感じられるため、恐らく何か自分だけでやっているのだろう。
﹂
?
る話をしており、双子は書物を読んでは羊皮紙に何やら熱心に書き込んでいる。そして
ちなみにロンとハーマイオニーは未だにクルックシャンクスとスキャバーズに関す
目の焦点が合ったところで、彼に話しかけた。
﹁シロウ、どうしたの
10. 帰還者と襲来者
887
ああ、少しな。知り合いと話していた﹂
ジニーとパーシーはチェスに勤しんでいる。
﹁ん
こっていなければいいけど。
何だろう、シロウの顔がどうも険しくなっていたような気がする。何も悪いことが起
なロングマフラーを巻いていた。
ブや私服じゃなく、黒の上下に真っ黒なロングコート、黒い手袋をはめ、首には真っ赤
シロウはものの数分で準備で終わらせ、寮を出て行った。シロウの恰好、学校のロー
﹁うん、いってらっしゃい﹂
﹁ちょっと出てくる。夕餉時までには帰る﹂
﹁そう﹂
?
888
10. 帰還者と襲来者
889
◆
談話室で遊ぶ談笑するマリーたちを眺めていたとき、唐突に念話が入ってきた。加え
≫
て相手はハッチャケ爺さんことキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。応じないわ
けにはいかない。
≪師匠、如何しました
≪何かまずいことが≫
≪シロウ、問題が起こった≫
?
≫
≪うむ、例のブラックという小僧を凛がそちらに送ったのだがな。どうも奴にトラブ
ルが生じたらしい≫
≪トラブルというと
?
嫌な予感がする。
≪うむ。こちらの愚か者の魔術師が一人、隠れて紛れていたらしく、気が付いた時に
は既に移動を終えていたらしい≫
≫
≫
≪で、ブラックが捕まったと。師匠達はむやみに手を出せないから、俺で処理してほ
しい、というわけですね
≪そういうことだ。頼めるか
≪無論≫
﹁シロウ、どうしたの
﹂
あとはダンブルドアから許可が出ればいいが。
幸い奴がこの世界に来てから、奴に付けたマーキングでどこにいるかは判っている。
杖を持っていない。
今回ばかりは仕方がない。凛特有の〟うっかり〟でもないし、ましてや今ブラックは
?
?
﹁そう﹂
﹁ああ、少し知り合いと話していてな﹂
?
890
﹁少し出てくる、夕餉時までには帰る﹂
﹁うん、いってらっしゃい﹂
着替えを手早く済ませ、真っすぐ校長室へと向かう。途中でスネイプに会ったため、
合言葉を教えてもらった。
﹃牡丹餅﹄
﹁どうぞお通りください﹂
合言葉で像をどかし、部屋に入る。ダンブルドアは俺が来ることを察していたらし
く、既にデスク前に座っていた。
﹂
?
今は休暇中じゃろう
?
れぬか
﹂
﹁止めても行くのじゃろう 付近までわしが送ろう。帰りは君の使い魔で知らせてく
うか﹂
﹁ブラックがこちらの事情に巻き込まれた。これからその処理に向かたいが、いいだろ
﹁どうしたのじゃ
10. 帰還者と襲来者
891
?
?
﹁了解した﹂
校長の許可も出たことだし、早速向かうとしよう。遠見の要領でダンブルドアにイ
メージを送る。大体を察したらしく、彼は杖を構え、こちらに近づく。
﹂
?
式をするには十分だ﹂
﹁ふむ⋮あそこから魔力の胎動を感じるな。龍脈は破格のものが通ってるし、即興の儀
﹁ストーンヘンジじゃのう﹂
﹁あれは⋮確か﹂
てそれらが落ち着いたとき、俺とダンブルドアはロンドン郊外にいた。
細いパイプを通るような圧迫感。そして視界に次々と映っては消えていく風景。そし
そう言いつつ、ダンブルドアは杖をかかげてその場で一回転する。途端に俺を襲う、
﹁慣れれば便利じゃぞ
﹁空間転移か。十年ほど前にも同じことをしたが、どうもあの感覚は好きになれん﹂
﹁わしの腕をつかんでくれ。〟姿くらまし〟をする﹂
892
﹁ではシロウよ。またあとでな﹂
﹁ああ﹂
再び〟パチンッ〟という音を発しながら、ダンブルドアは姿くらましをした。
さて、行くか。
しばらく歩くとストーンヘッジから仄かな明かりが漏れているのが確認できたため、
一つの岩の陰に隠れる。
﹁⋮私をどうするつもりだ﹂
君が魔法とやらを使えるって﹂
﹁君が魔力を持っていることは確認済みだよ。あの憎たらしい遠坂が言っていたしね、
﹂
?
﹂
の実験ができるのさ
魔法使いになれる
!!
!!
﹁そのための前段階だ。降霊呪術の生贄として、君を使わせてもらうよ﹂
﹁訳のわからないことを﹂
!!
これで私も根源に近づくことが出来る。ようやく私も本物の
﹁御名答 この世界では協会に怯えることもないからね、堂々と他人を巻き込んで私
﹁こうして台座の上に縛り付けて、生贄にでもするつもりか
10. 帰還者と襲来者
893
君はこの私、ビーフス・トロガノフ様の役に立てるのだからな
⋮なるほど。真っ当な魔術師だな、こいつは。それに、この声、聴いたことがある。
﹁光栄に思うといい
﹂
づいたが、特に反応しないところを見ると、俺のしようとしていることを理解している
岩陰からこっそりと出て、奴の死角へと移動する。寝かされているブラックは俺に気
よう。
どうやら儀式を始めるらしく、トロガノフは香を焚き始めた。さて、俺も行動を始め
﹁さて、そろそろ時間だからはじめようか﹂
まさかブラックに紛れ、ここまで来るとはな。
しまい、行方知れずだった。
奴の捕獲を依頼されたが、まだ俺が未熟だったがために、あと一歩のところで逃がして
思い出した。確か逃げ足だけが早い小物だった。一度高校を卒業したばかりの時に
!!
!!
894
らしい。
トロガノフは魔法陣を地面に刻んでいる。こういった陣は一部分でも欠損が出れば
効力がなくなる。今奴はこちらを見ていない。
というわけで、だ。
﹁││投影、開始﹂
ルー
ル・
ブ
レ
イ
カー
右 手 に 現 れ る は コ ル キ ス の 王 女 の 人 生 を 体 現 せ し 短 剣。 そ の 名 を 〟
破壊すべき全ての符〟、あらゆる魔術効果を打ち消す、対魔術宝具の贋作である。
俺はそれを魔法陣に突き立て、次にこの世界の魔法で見えないように術を施す。そし
て俺は再び岩陰に隠れ、遺跡を囲むように罠を張り終えたとき、奴の準備が終わった。
﹂
!!
流れた魔力は短剣に達した瞬間霧散し、効力を失った。
に魔力を流し込む。だが布石は打ってある。
相変わらずの大げさな身振りで発言し、台座へと歩み寄る。そして詠唱をはじめ、陣
﹁これで良し。さて、早速始めよう
10. 帰還者と襲来者
895
﹂
?
なんだ
?
﹁うるさい
私が間違えることはない
﹂
!!
ため、俺は奴に照準を合わせた。
オヤジ
っと、どうやら奴は儀式を再開させるらしい。再び台座のそばに立ち、詠唱を始めた
適しており、今まで何度か使ってきた。
何本も生えてくると言うもの。切嗣よりも非道なものだが、相手を確実に仕留めるには
場合、目標に打ち込まれたら魔術回路に俺の魔力が流れ込み、最終的には内側から剣が
この銃の弾には切嗣と同じ、俺の起源を織り込んだ〟起源弾〟を使用している。俺の
に仕留める際には、銃を使うことは少なくない。
ダーを懐から取り出す。これはダンブルドアにも黙っていたことだが、俺は目標を確実
俺はもう一度岩陰から出ていき、奴に近づいた。そして切嗣の礼装だったコンテン
らく答え合わせでもしているのだろう。
そして奴は台座の周りをくるくる歩き回り始めた。何やらぶつぶつ言っているが、恐
!!
﹁貴様のやり方が不完全だったんだろう﹂
﹁む
896
◆
不覚にも移動直後にとらえられ、情けなくも拘束されて生贄にされようとしている。
が戻ってきて詠唱を
隠れていたシロウが陣に小細工をしていたために問題はないが、いったいどうこの状況
を打破するつもりなのか。
考え事をしていると、再びビーフ⋮⋮ビーフカリー・ライス
始めた。しかしまた魔力が霧散し、儀式は失敗する。
私の理論は間違っていないはず、だが何故失敗する
﹂
?
!!
﹁何でだ
!?
10. 帰還者と襲来者
897
あれもあちらの世界でいう魔術礼装なのだろうか。
﹂
﹄な
何故何故と繰り返す、自称完璧な魔術師。そしてその後ろから忍び寄るシロウ。その
お、お前は、まさか
私は完璧なはずだ、間違いなd﹃それが外的要因からだったら
右手には、銃だと
ッ
?
銃、随分と大きいのは気のせいか
?
殺されたという話ではなかったのか
﹂
!?
﹁な、何故貴様がここに
﹁ちぃ
食らえ
﹂
!!
とから、魔術による閃光だろう。私も真正面から見てしまったため、視界がつぶれて何
男は地面に何かボールのようなものを投げた。途端視界に広がる白。爆音がないこ
!?
﹁答える義理はないな。二十年越しの任務、ここで果たさせてもらう﹂
!?
?
シロウ、もしかしてこいつは知り合いなのか そしてその頭に標準を合わせている
?
に
!?
﹁くそっくそっ
!?
﹁久しぶりだな。まさか貴様が生きていて且こちらに来るとは﹂
?
!!
898
も見えない。
﹂
?
串刺しにされた、人だったものだった。
目に入ったのは煙を上げる銃口、無表情で正面を見つめるシロウ。そして全身を剣で
線を向ける。
う音と聞くのも嫌になる肉が裂ける音。視界が回復したため、音が聞こえたそちらに視
シロウの声と共に聞こえる金属音。そして続いて聞こえた銃声と悲鳴、金属が擦れあ
﹁猪口才な、そんなものが効くとでも
10. 帰還者と襲来者
899
で、いざ練習を始めようと思うと、今度はフーチ先生がファイアボルトに夢中になっ
せたため、フーチ先生に頼んで人払いを頼むことになってしまった。
しかしやはり私のファイアボルトを一目見たいのか、観客席に沢山の野次馬が押し寄
めに、グリフィンドールチームは集まって練習することになった。
そして休暇が終わる一週間前、休み明けすぐに行われるレイブンクロ│との試合のた
││││││││││││││││││││
が関係しているのかも。
ど、ほかの人は気づいていないみたいだったから私は黙っていた。多分懐の盛り上がり
帰ってきたとき煙のような、それでいて酸っぱいような匂いがシロウからしていたけ
結局あの後、シロウは出かけてから一時間足らずで戻ってきた。
11. VS レイブンクロ│
900
ていた。
﹁このバランスの良さは素晴らしい ニンバス系も素晴らしいですが、あちらは尾の
うんちく
掴んで操作するのではなく、私が考えた動きを箒が実行している、と言ったほうが適切
素晴らしいの一言だ。軽く触れるだけで、私の思いのままに箒が動いてくれる。柄を
ファイアボルトに跨り、地面を蹴る。
ドに入ってから三十分、ようやく練習を始めることが出来た。
延々と蘊蓄を垂れるフーチ先生にしびれを切らしたウッドが待ったをかけ、フィール
産中止になったのでしょう⋮﹂
シャープな握り柄といい、生産中止になった〟 銀 の 矢 〟を思い出しますね。なんで生
シルバーアロー
先 端 に わ ず か な 傾 斜 が あ り、数 年 も す る と そ れ が 原 因 で ス ピ ー ド が 落 ち る で し ょ う。
!!
だろう。急加速も急ブレーキも、私が念ずるだけで行われる。
﹂
!!
ウッドの呼びかけに応じ、箒を一旦停止させる。チームの方針で、スニッチを放して
﹁マリー、スニッチを放すぞ
11. VS レイブンクロ─
901
一分後に探すことになっている。しかし今回、今まで探してから捕まえるまで十分ほど
かかっていた時間が、なんと2分足らずまで縮まった。
﹂
この結果にチームは満足だったみたいで、それからは何度もスニッチを獲る練習をし
た。
﹁今度の試合は敵なしだ
﹂
?
﹂
﹁ところでマリー、吸魂鬼対策はできているのか
﹁うん、一応﹂
﹁それは良かった﹂
﹁でももう現れないんじゃないか
ウッドの心配にフレッドが問いかける。
?
?
﹁流石に今度出てきたら、ダンブルドアが黙っちゃいないと思うぜ
﹂
中でもウッドの喜びようは半端ではなく、今にも踊りだしそうな雰囲気だった。
!!
902
﹁それに今度現れたらシロウが容赦しねぇだろうよ﹂
﹁﹁というかキレたシロウのほうが怖いぜ﹂﹂
﹁それはそうだが⋮﹂
双子の言葉に渋い顔をするウッド。
﹁二人とも、ウッドは心配しているんだよ。吸魂鬼が出たらみんなに影響があるから﹂
﹁それもそうだな﹂
双子は私の言葉に頷き、箒を方にかけた。
たいだし、今日は何を食べてもおいしく感じそう。
ウッドの一声でみんなは箒を手に取り、着替え部屋に向かった。箒の調子も大丈夫み
﹁さぁ、今日はもう暗い。帰って休もう﹂
11. VS レイブンクロ─
903
││││││││││││││││││││
冬季休暇が明けて最初の週末。今日はレイブンクロ│との試合である。控室にいて
も試合場の熱気が伝わってくる。
て、どうなるのだろう。
今回彼女が相手となるということは、彼女の頭脳に勝つことが要求されるだろう。さ
備えており、シロウには及ばないものの、その知識量は非常に多い。
輩で、何度か勉強を見てもらったことがある。レイブンクロ│が象徴する聡明さも兼ね
チョウ先輩とは何度か話したことがある。一つ上の彼女はとても人当たりのいい先
手なのだろう。
セドリックの時と同じく、真剣な顔で忠告してくるウッド。やはりそれほどに強い選
い﹂
箒は〟コメット260〟とファイアボルトとは天と地の差だが、油断しないほうがい
﹁いいかマリー。レイブンクロ│のシーカーはチョウ・チャン、これがかなりの選手だ。
904
フィールドに入り、全員配置に着いたところでホイッスルが鳴った。
﹄
しょう。ファイアボルトには様々な機能が組み込まれており、一例として自動ブレーキ
﹃全員飛び立ちました。今回の目玉は、なんといってもマリーの駈るファイアボルトで
試合の解説をしてくれませんか
?
が⋮﹄
﹃ジョーダン
?
再び一気に加速し、先輩を引き離して一気に加速する。
てきていた。なるほど、私をマークするのか。なら私は振り切るのみ。
私は箒を傾け、一息に加速して急降下する。ついでに後方を確認すると、先輩が追っ
いていない。
その時、スニッチが地面スレスレを飛んでいるのを見つけた。まだチョウ先輩は気づ
くと同時に、何人かの選手もその場でターンをして喜びを示した。
キーパーの防御を潜り抜け、シュートを決めた。グリフィンドール観客席から歓声が響
ジョーダンさんの実況の通り、クワッフルは今アリシアさんが持ってる。そして今、
手にあります。彼女は││﹄
﹃了解です、マグゴナガル先生。さて、クワッフルは現在グリフィンドールチェイサーの
11. VS レイブンクロ─
905
しかしもう少しでスニッチを掴めるというところで妨害された。レイブンクロ│の
ビーターが打ったブラッジャーが私の目の前を通り過ぎ、進路変更をせざるを得なかっ
た。ついでにスニッチも見失い、再び上空に舞い戻ることになる。
肝心の先輩は未だ私にピッタリとつき、自分で探すよりもマークした私を基準に行動
することにしたようだ。
それから試合は動き、八〇対四〇でグリフィンドールが勝ち越している。しかしここ
心を鬼にするんだ、箒から突き落とす勢いでやれ
﹂
で先輩にスニッチをとられれば、グリフィンドールは負けてしまうだろう。先輩もずっ
と私をマークしている。
﹁何を躊躇している、マリー
!!
ながら箒にブレーキを掛けていた。
急上昇させた。急な方向転換に着いてこれなかったらしく、彼女は驚いた表情を浮かべ
ピードで追いかけてくる。向こうもスピードが乗ってきたときに私は箒を傾け、一気に
実 際 に ス ニ ッ チ は 見 つ け て な い が 私 は 急 降 下 を 開 始 し た。続 い て 先 輩 も ト ッ プ ス
ントをかけることにした。
ウッドの吼える声が聞こえる。しかし流石に突き落とすことはできないため、フェイ
!!
906
再び彼女が上がってくるまでにスニッチを探す。そして見つけた。スニッチはレイ
ブンクロ│のゴールポスト足元を飛んでいた。
一息に加速し、スニッチ目がけて一直線に向かう。下方にいた先輩も私の動きに気づ
き、箒を走らせた。しかし彼女よりも早く、私がスニッチに近づいていく。
﹁あっ﹂
その時先輩が一点を指さし、叫んだ。つられて私も視線を向ける。
そこには三人の背の高い黒い姿が頭巾を被り、こちらを眺めていた。一瞬吸魂鬼と錯
覚したけど、奴らが出てきた時とは違い、気温が凍るほど下がっていない。ということ
エクスペクト・パトローナム
は、あの三人は誰かの質の悪すぎる悪戯だろう。
!!
ホイッスルが鳴り響き、グリフィンドールの勝利が告げられる。
もかかることなくスニッチをその手に掴んだ。
念には念をいれて、一応守護霊を詠んでおいて私はスニッチに突進した。そして一分
﹁﹃守 護 霊 召 喚﹄ ﹂
11. VS レイブンクロ─
907
﹂
﹂
気が付けば私はグリフィンドールチームと寮生にもみくちゃにされていた。
﹁いぇーい
﹁てぇしたもんだ
パトローナス
表情を浮かべながら近づいてきた。
﹁先生、あれは本当に吸魂鬼だったのですか
?
﹁その答えはついて来ればわかるよ﹂
試合から気になったことを聞く。私の問いかけにルーピン先生は苦笑いを浮かべた。
﹂
病気︵本人談︶から回復したルーピン先生が若干嬉しそうに、しかし困惑したような
﹁相変わらず素晴らしい守護霊だったよ﹂
ロンとハグリッドが賛辞の言葉を送ってくる。
!!
!!
908
先生の言葉に従い、フィールドの端に連れてこられる。そこには真っ赤な布で簀巻き
にされたマルフォイ、クラッブ、ゴイル、マーカス・フリントが宙づりにされていた。な
﹂
るほど、彼らがやっていたのか。
﹁悪質で下劣な卑しい行為です
!!
対シロウだね。聖骸布はマダム・ポンフリーが何やら歌を紡ぎながら管理しているか
ああー。その刺突剣といい、この真っ赤な布、たしか〟マグダラの聖骸布〟といい、絶
布が飛び込み、自動で彼らに巻き付いたという。
ともなく刺突剣が複数飛び、マルフォイたちを縫い付けたそう。更には四枚の真っ赤な
エストック
しかしながらそうはいかなかった。私の杖からは白銀に輝く男が飛び出し、どこから
が計画されていたのだろう。
妨害しようとしたらしい。彼らの中では、パニクッた私がプレイ続行不可能になること
どうもマルフォイたちは私が吸魂鬼に苦手意識を持っているということで、試合中に
マグゴナガル先生の怒声をバックに、ルーピン先生から解説を受ける。
﹁君はマルフォイ君達を随分と怖がらせたみたいだ﹂
11. VS レイブンクロ─
909
﹂
ら、暫くはマルフォイ達が解放されはしないだろう。
﹂
﹁そんじゃっ、帰ったらパーティーしようぜ
﹁祝勝会だ
伴いながら帰って行った。
それにしても、シロウは試合中も試合後もどこに行ったんだろう
◆
?
フレッドとジョージの言葉を皮切りに、グリフィンドール生は寮へと浮かれた空気を
!!
!!
910
11. VS レイブンクロ─
911
││その後、体は問題ないか
││問題ないのならいい。
││お前の力が必要だ。
││なに、監獄に比べたら恵まれているだろう
││もう少しの辛抱だ。
?
││証拠の最重要キーの捜索をその子といっしょにしてもらう。
?
12. シビル・トレローニ│の予言
クィディッチの勝利の余韻も束の間、その他の寮のから私たちは三ヶ月後の試験に向
けての授業にアップアップする日々に突入した。先生方は授業のスピードを上げてお
り、正直他のことに目がいかない状況である。
クィディッチ優勝に王手をかけたグリフィンドールと、同様に王手をかけているスリ
ザ リ ン の 試 合 は 試 験 後 に 予 定 さ れ、私 は 学 業 に 加 え て ク ィ デ ィ ッ チ の 練 習 が 加 わ り、
中々のハードスケジュールになっている。
そして今年何回目ともわからない占い学の授業、内容は水晶玉占いになっている。二
人一つの割合で水晶玉が配られ、私とシロウは何も見えない水晶玉を眺めながら眠気と
戦う。
﹁水晶占いはとても高度な技術です﹂
912
トレローニ│先生は語る。
今は精神と﹃外なる眼﹄をリラックスさせ、超意識と﹃内なる眼﹄顕れ易くしましょう﹂
﹁残念ながら皆さまがいきなり何か見ることが出来るとは思っておりません。ですから
その声と共にみんなは作業にかかった。
正直阿呆らしいと思う。未来なんてそう簡単に見通せるものなら、私の両親は亡くな
﹂
ることはなかっただろう。占いなんてはっきりしないものなど、信じるだけ無駄という
のが私の持論である。
﹁玉の内なる影の解釈に困っている方、私の手伝いが必要な方はいらっしゃいますか
﹂
﹁別に助けなんていらないと思うわ﹂
﹁どういうことだ
﹁だってこの水晶の靄をみてよ。今夜は霧が濃いでしょうって言いたいんじゃない
もや
私の言葉にシロウが怪訝そうな顔をする。
?
﹂
?
?
12. シビル・トレローニ─の予言
913
﹁⋮ククッ﹂
﹁まぁ、なんですの
﹂
﹁ではよろしければ私が見ましょうか
﹂
もう崇拝の域に入ってるんじゃないのかなぁ。
るパーバティとラベンダーはヒソヒソ話したのち、私たちを睨んできた。いや∼あれは
思わず漏らしただろうシロウの忍び笑いに耳ざとく反応する先生。彼女を慕ってい
?
﹂
?
いつもと違い、ずっと黙りこくる先生。流石におかしいと思い、シロウと一緒に先生
﹁⋮
﹁⋮⋮﹂
ることを言うのだろう。
生。ああどうせ今回も誰かが死ぬ予言をするのかな。それかまたシロウの琴線に触れ
頼んでもないのに私たちの水晶玉近づく先生。そして無表情に水晶玉を覗き込む先
?
914
の顔を覗き込んだ。
﹁⋮トレローニ│先生
﹂
?
﹁││事は近づいている﹂
﹂
﹂
﹁⋮⋮え
﹁なに
?
き、クラス全体が静寂に包まれる。
突如いつもの眠くなるような声ではなく、低くしゃがれた声を発した先生。流石に驚
?
今夜⋮召使が⋮闇の帝王のもとに⋮馳せ参ずるであろう⋮﹂
れし男のみ。
ラ
ヤ
むだろう。それを祓えるのは世界を渡りし錬鉄剣製の英雄、
﹃阿頼耶﹄よりその役を任さ
ア
召使によって使われた黒き淀みは世界に広がり、魔法界マグル界問わずに闇に包み込
参ずるだろう。闇の帝王は召使いの手を取り、再び立ち上がるであろう。
の間縛られていた。近く、彼の召使はその鎖を断ち、黒き淀みを用いて主のもとに馳せ
﹁││闇の帝王は友もなく、孤独に打ち捨てられ横たわっている。その召使は十二年も
12. シビル・トレローニ─の予言
915
916
先生はガクガクと震えたのち、糸が切れたかのように力なく地面に倒れ伏した。しか
し誰も動かない。語られた内容と先生の変貌ぶりがあまりにも凄まじく、反応が遅れて
いた。
いち早く復活したのはシロウ、次いで私とロンとハーマイオニーが復活し、事の対処
に当たった。というかシロウの事情を知っている人だけが復活した。
私とハーマイオニーはその他の生徒に忘却術をかけて回り、今の言葉の内容を忘れさ
せた。そしてシロウとロンで先生を医務室に運びに行った。
事が事だったためそのまま授業は終了、生徒たちは次の授業に向かった。しかし次の
薬草学の授業に、恐らく当然と考えるべきものだろう、シロウの姿はなかった。
◆
ベ ン シー ブ
トレローニーの予言。あのトランス状態は一度﹁憂いの篩﹂を通して見ている。俺に
関する予言をしていた時もあの状態だった。
気になる単語がいくつかある。まずは奴が、恐らくペティグリューだが、ヴォルデ
モートのもとに戻るということ。これが真実ならば、俺たちは奴を取り逃がすというこ
とを示す。
次に奴が用いるという〟黒き淀み〟。俺の魔術使いとしての本来の力を必要と示す
キーワード、〟錬鉄剣製の英雄〟と〟﹃阿頼耶﹄より役を任されし男〟。
〟黒き淀み〟は聖杯の泥のようなものを想像すればいいか、はたまた黒化英霊を想定
﹂
すればいいか。どちらにせよ、夜になる前に万全の体制を整えなければならんだろう。
﹂
!!
?
﹁⋮⋮﹂
﹁ウォン
﹁⋮⋮いるんだろう
12. シビル・トレローニ─の予言
917
﹂
呼びかけに答えるようにして出てくる二匹の獣、いや、一匹の獣と獣擬き。
﹂
﹁今夜事態が動く。目星は付けているか
﹁ウォホン
﹁⋮⋮﹂
それに、ペティグリューがこの城の中にいることは、休み明けひと月の間に判明して
手は使えない。ゆえに細工を施してある。
細工してある。獣擬き、シリウス・ブラックは兎も角としてこの子は真正の獣体だから
俺は彼らに札を渡す。どちらが奴に鉢合わせても対処できるよう、自動で動くように
である。転移先には捕縛結界が張ってあるから逃げられまい﹂
態は事を急する。もし奴が逃げ出そうとした場合はこれを使え、〟叫びの屋敷〟に繋い
﹁急いで奴の隠れている場所の調査、又は変装している者を確かめて知らせてくれ。事
其々に反応を示すもの達。事と次第によっては今すぐに行動をするべきだろう。
!!
?
918
﹂
いる。本来はもう少し時間を掛けるつもりだったが、この際強硬手段を取らせてもらう
としよう。
﹁なら行ってくれ。パッドフット、勢い余って奴を殺すなよ
﹁ウォン﹂
││││││││││││││││││││
るか。
奴は一声吼え、もう一匹と共にこの場を後にした。さて、俺は校長のもとに行くとす
?
俺の報告に、心底困惑したダンブルドアが顎に手を当てる。正直な話、予言を行った
﹁そうか⋮⋮困ったのぅ﹂
﹁⋮⋮というわけだ﹂
12. シビル・トレローニ─の予言
919
その日のうちに予言が真となる。加えてその予言はハッキリ言って悪いもの。困惑す
るなというほうが無理がある。
﹂
?
あとスネイプに自白剤を持ってくるように伝えてくれ﹂
﹁了解した。ついでにペティグリューに関することも何とかする。大臣を呼んでくれ、
﹁⋮⋮相分かった。ぬしに任せよう﹂
いだろう﹂
﹁出来るだけ学校に被害が及ばないようにする。しかし今晩中に何とかせねば意味はな
顔をしかめるダンブルドア。
﹁そうか⋮﹂
欠片もない黒化英霊であればな﹂
﹁俺も曲がりなりにも英雄に名を連ねる者だ。戦闘は相応の規模になる。相手が理性の
﹁それほどのものなのかのぅ
更地が生まれる可能性もあるだろう﹂
﹁ハッキリ言う。今回事と次第によっては俺は全力を出す。戦う場所と規模によっては
920
﹁承知、すぐに動こう﹂
﹂
文字通り羊皮紙を取り出し、何やら書き始めるダンブルドア。恐らく書状だろう。
﹂
﹁一つ思ったのだが﹂
﹁なんじゃ
﹁気が進まないが、奴を煽てるような文面なら乗ってくるんじゃないのか
﹁そうじゃな﹂
丈夫だろう。
ダンブルドアはもう一枚羊皮紙を取り出し、新たに何やら書き始めた。まぁこれで大
?
?
さて、俺も準備するか。
﹁承知﹂
﹁そこらは考慮しよう。頼んだぞ、シロウ﹂
﹁今日は準備に時間をとる。午後の授業はサボりにしていい﹂
12. シビル・トレローニ─の予言
921
13. 彼の名は
薬草学の授業、変身術の授業と本日の学業をこなし、私とロン、ハーマイオニーは寮
﹂
に荷物を置きに向かっていた。結局シロウはその日の授業を出席せず、念話も通じな
かった。
﹁シロウはどうしたんだろう
ができない。
た年数、潜り抜けてきた修羅場の数が圧倒的に違うのも相まって、彼の行動を読むこと
ときどきシロウの考えていることが分からない。それは私も同じである。生きてき
﹁そうね﹂
﹁知らないわ。時々彼が何を考えてるか分からないことがあるし﹂
?
922
﹁ん
なんだこの音
﹂
﹁ネズミの鳴き声みたいね⋮⋮ネズミ
﹁なにか⋮鳴き声のような﹂
?
を加えており、
﹁スキャバーズ
﹂
﹂
﹂
!!
!?
﹁クルックシャンクス
どうしてっ、やめなさい
ぶれた顔面と、鮮やかな橙の毛並みをしていた。更に言えば、猫は口に札のようなもの
一つはネズミ、どこか見覚えのある大きなネズミ。もう一つは猫で、見覚えのあるつ
た。
三人並んで茂みに忍び寄る。しかし半歩も踏み出さないうちに二つの影が飛び出し
﹁ちょっと覗いてみよう﹂
﹁そこの茂みからだね﹂
どこからかネズミの鳴き声が聞こえてくる。そしてガサガサと茂みが揺れている。
?
?
!?
13. 彼の名は
923
互いにペットの名前を呼び、追いかけるロンとハーマイオニー。咄嗟にかけだしたも
のだから、二人はその後ろから一匹の黒い犬が出てきたことに気づいていなかった。
﹂
﹁追いかけるんだね
﹁ウォン
﹂
しばらく歩くと、一本の大木の生えている広場に着いた。一見普通のかなり大きな柳
た。
た。恐らくついてきてくれ、と言っているのだろう。私は黙って先を行く犬の後を追っ
私の問いかけに一つ吼えて答える黒犬。そして少し進み、立ち止まって私に顔を向け
!!
?
して二人と二匹が去っていった方向を見た。
あの日、漏れ鍋にいた真っ黒な犬が、私の目の前にいた。真っ黒の犬は私を見つめ、そ
﹁⋮﹂
﹁あなたは⋮、確かシロウといっしょにいた⋮﹂
924
に見える大樹。しかし黒犬が柳に近づいたとたん、その大きな体躯をしならせて枝を振
り回し始めた。
こぶ
成程、あれが暴れ柳。枝を振り回す光景を見る限り、私のニンバスが砕かれたのも頷
ける。
しかしこの黒犬は先読みしているかのように動き、根元にある一つ飛び出た瘤に近よ
うろ
﹂
り押した。すると不思議なことに柳は暴れるのをやめ、大人しく元のようにそびえ立っ
た。
﹁⋮その洞に入るの
?
いうと新しい。魔女像の背中から伸びる通路は正直古ぼけており、いつ区連崩れてもお
道はホグズミード村の端も端、叫びの屋敷なる建物に通じているらしい。この道は正直
犬が瘤を抑えている間に洞に近づき、空洞に入った。確か忍びの地図によれば、この
中に入ろう。
二匹と二人はいるのだろう。ならば鬼が出るか蛇が出るか、この犬の言うことを信じて
またも私の問いに答える黒犬。根元に開いている空洞のその先、繋がっている場所に
﹁⋮ウォン﹂
13. 彼の名は
925
かしくない代物だった。 比較的安定した地盤の通路を進むと、果たして私と黒犬は建物の部屋の一つに辿り着
いた。村で聞いた話とは違い、結構きれいにされている内装は、最近まで使われていた
形跡を残している。穴が開いていたであろう壁や床は補修され、腐っていたであろう箇
﹂
所は張り替えされていた。
﹁ウォン
に⋮。
治療しながら付き添っていた。そして魔法陣の奥、部屋窓からの明かりが届かない位置
側にあるベッドには足を怪我したらしいロンが腰掛け、その隣にはハーマイオニーが
ズミがおり、エネルギーで形成された鎖につながれていた。
大きめの部屋の中央には魔法陣がしかれ、淡く発光している。その中央には一匹のネ
で、だけどどこかデジャヴを感じる光景が広がっていた。
疑問に感じた私は杖を構え、部屋の扉を開いて中に入る。そこで目に入ったのは異様
ろう。
黒犬は一言吼えると階段をのぼり、最上階の一つの部屋に入った。一体何があるのだ
!!
926
﹁⋮やっぱりここにいたんだね、シロウ﹂
﹂
﹁相変わらずの察しの良さだ。それに、俺だけじゃないぞ﹂
﹁え
ネイプ先生がいた。
﹁なんか、すごい勢揃いですね﹂
た一人の男になっていた。
・
・
﹂
私の隣に座っていた犬は一目シロウを見ると、次の瞬間にはボロボロの衣装をまとっ
?
﹁今回は少しばかり特殊じゃからのぅ。ところで⋮﹂
・
﹁そうだな。そろそろもとに戻ったらどうだ、ブラック
・
シロウの視線の先に目を向けると、そこには校長先生、魔法大臣、ルーピン先生、ス
﹁わしらもおる﹂
?
﹁⋮﹂
13. 彼の名は
927
﹁さて、数か月ぶりに人間態に戻った感想は
﹂
?
?
しを一度でも喜々として犯した人が浮かべる者ではない笑顔を浮かべて私に答えた。
私が話しかけた人、シリウス・ブラックは殺人鬼とは思えないほどの綺麗な笑顔、殺
﹁ああ、世間ではね﹂
﹁そうですか、貴方が今世間では大量殺人鬼と恐れられている﹂
﹁はじめまして、かな
私はブラック、シリウス・ブラックだ﹂
屋をぐるりと見渡し、そして口を開いた。
シロウの問いに答える男。犬の時の毛の色同様、黒いボロボロのローブを着た男は部
﹁嬉しいに決まっている。ようやくこの時が来たのだからのだからな﹂
928
14. 降臨
目の前にいるシリウス・ブラック、殺人鬼として名高い魔法使い、らしい。
正直いうと殺人鬼にはみえないし、それよりも魔法陣に縛られているネズミのほうが
気になる。
﹁十二年だ⋮﹂
シリウス・ブラックは呟く。
被せた真の裏切り者を裁く瞬間を
﹂
﹁十二年も待った。リリーとジェームズを殺す間接的原因となった奴を。私に濡れ衣を
!!
﹁それもそうだ。しかしこいつは⋮﹂
﹁だがその前に説明が必要だ。特にこの子たちや事情を知らない者達へのな﹂
14. 降臨
929
ブラックが不安そうにネズミを指差したけど、シロウはニヒルな笑みを浮かべて言っ
た。
﹂
﹁それを聞いて安心した。さすがは衛宮士郎、か
﹁それ以上は言うなよ
﹁さて、何から聞きたい
﹁無論だ﹂
﹂
正直に言うが十二年も待った、今すぐにでも奴を裁きたい﹂
﹁構わん、リーマスもいいか
﹂
グリューの関係について説明してもらおうか﹂
﹁殺す、と言わないだけマシか。まぁいい、まずはお前とジェームズ・ポッター、ペティ
?
ろすと、私たちを眺めて口を開いた。
魔術についてちょっと知っていても可笑しくはない。ブラックはドカリと床に腰を下
そう言えばブラックは一時凛さんたちと一緒にいたんだったね。ならシロウたちの
?
?
な﹂
﹁心 配 な い。こ の 束 縛 結 界 は ち ょ っ と や そ っ と じ ゃ 敗 れ ん よ。仮 令 ダ ン ブ ル ド ア で も
930
?
何故か呼ばれたルーピン先生と共に、ブラックは四人の関係性と今に至るまでを説明
した。
││││││││││││││││││││
彼ら四人は学生時代の親友同士だった。何をするにも四人一緒、悪戯も学問も遊びも
一緒だったそうだ。ただその際スネイプ先生が父のいじめの被害にあっていたらしい。
何をしてるんですか父さん。
アニメ│ガス
そして在学中に判明したルーピン先生の人狼化呪縛の秘密。他三人は少しでもルー
ピン先生の気持ちが楽になるようにと、未登録の﹁動物擬き﹂と呼ばれる、超高難易度
な動物変身魔法を身に付けた。
﹁この叫びの屋敷が建造されたのと暴れ柳が植えられたのは私が入学したからだ﹂
14. 降臨
931
ルーピン先生は疲れたように語る。
﹁こいつの前足﹂
ロンが足の痛みに声を詰まらせながら問いただす。
﹁それとスキャバーズに何の関係があるんだ﹂
もしない音だけがしばらく響く。
そこで先生は一度言葉を区切った。陣の中の鼠が激しく暴れているが、縛りがびくと
は君らも見た通り大型の黒犬、ジェームズは牡鹿、そしてペティグリューは鼠にね﹂
﹁月に一度、狼男となった私はシリウスやジェームズらと共に過ごしていた。シリウス
びの屋敷と呼ばれ始めた経緯は私の行動だよ﹂
人間がいなかった私が暴れ、吼えたことでいつ倒壊してもおかしくない状態だった。叫
﹁今はそこの誰かさんの手である程度修繕されているが当時は変身後、獲物となるべき
932
ブラックがネズミを指差しながら応える。
奴の変身後の特徴まで熟知
が周囲のマグルたちをも殺した殺人鬼に仕立て上げられた﹂
﹁ペティグリューが死んだと思われた十二年前、奴の小指だけが残り、状況証拠だけで私
﹁でも⋮﹂
?
いきさつ
この鼠は間違いなく奴だ、私にはわかる﹂
?
めたが逃げられてしまった。
た。ブラックがその事実を知ったのは事が終わった後、何とかペティグリューを追い詰
情報を流した。それによりヴォルデモートはすんなりと守りを突破し、両親は殺され
実はペティグリューは既にそのころにヴォルデモートと通じており、あっさりとその
しかしそれこそが間違いだった。
リューを推薦したため、両親もペティグリューを﹁秘密の守り人﹂にした。
る、﹁秘密の守り人﹂となる予定だった。しかしブラックは辞退し、代わりにペティグ
両親の居場所は一部のものしか知らず、シリウス・ブラックはその秘密を死んでも守
そしてブラックは私の両親が殺されるまでの経緯を話し始めた。
している私が、見間違うと思うか
﹁ペティグリューが変身したのを何度見たと思っている
14. 降臨
933
﹂
?
布﹂も取り出した。
ど前、ドビーの妨害術式を解除した短剣だった。ついでに真っ赤な布、
﹁マグダラの聖骸
みなの視線が集まる中、シロウは懐から歪な短剣を取り出した。その短剣は一年半ほ
見守っている。
シロウの言葉に渋々頷くロン。隣にいるハーマイオニーも黙ってことの成り行きを
﹁大丈夫、仮にこの鼠がただの鼠ならば、傷一つつかないから安心しろ﹂
﹁⋮⋮うん﹂
するためにも、この鼠を調べるのだ。わかるな、ロン
﹁ここにいる者達の殆どが、彼の説明に疑問を抱いていることだろう。その疑問を解消
暫くしてシロウが口を開いた。
ブラックが語り終えると、再び屋敷は静寂に包まれた。
﹁⋮以上がことのあらましだ﹂
934
ル
ブ
レ
イ
カー
﹂
ノ リ メ・ タ ン ゲ レ
﹁では行くぞ、マリーはこの鼠が変化したら﹃我に触れぬ﹄と唱えてくれ﹂
ルー
﹁ええ、分かった﹂
﹁それじゃあ、﹃破壊すべき全ての符﹄
﹁﹃我に触れぬ﹄
ノ リ メ・ タ ン ゲ レ
﹂
それと共に、陣の中央には一人の小柄な男が蹲っていた。
シロウが言霊と共に鼠に短けんを触れさせると、パキンッと何かが砕ける音がした。
!!
﹁さて大臣、これで証明されたな。ブラックは冤罪だった﹂
全体拘束具、女である私が扱うことによって、拘束力も強くなっている。
私が一声叫ぶと、赤い布は自然と男に巻き付き、その動きを封じた。流石は対男性用
!!
辞任するが、潔い魔法使いの鏡となる﹂
﹁あとはこいつを連行するだけ。そうすれば晴れてブラックは自由の身となり、大臣は
﹁⋮そのようだな﹂
14. 降臨
935
渋い顔をしながらも頷くファッジ大臣。蹲っている男、ペティグリューは命乞いを繰
り返しているが、周りは効く耳を持たない。
屋敷からホグワーツへと向かう最中、ペティグリューはずっと命乞いをしていた。し
がくるまでホグワーツで拘留することになった。
ウ便が魔法省に送られた。そしてペティグリューを拘束したまま屋敷を離れ、使いの者
私がロンの治療に専念している間にペティグリューの処遇が決まったらしく、フクロ
な治癒魔法なら使えるため、今よりかはマシな状態まで治療できる。
それだけを告げ、私はロンの治療に向かった。シロウや凛さんたちから教わって簡単
い。あなたの罪を数えなさい﹂
﹁それはあくまでも私の両親ならばの話よ。私はそこまで慈悲深くない、情けを持たな
気安く私の名前を呼ぶペティグリュー、しかし私はそこまで人間はできていない。
いだろう⋮⋮情けを掛けてくれるだろう﹂
﹁マリー⋮マリー⋮⋮君は両親の生き写しだ⋮⋮彼らなら⋮私が殺されることを望まな
936
かし私たちはそれを無視し黙って通路を歩き続けた。彼がこそこそと何かをしている
とも知らず。
││││││││││││││││││││
夜の帳が下りた頃に柳の洞から全員出た後、暫く休憩することとなった。理由として
は大臣が使いの者の迎えに行く間、ペティグリューが逃げないように見張っているため
である。
現 在 ペ テ ィ グ リ ュ ー に は ル ー ピ ン 先 生 と ス ネ イ プ 先 生 が 杖 を 向 け て 牽 制 し て い る。
空は分厚い雲に覆われ、薄気味悪い雰囲気を醸し出していた。
﹂
休憩の間、ブラックさんは懐かし気にホグワーツの城を眺めていたので、私は近づい
た。
?
﹁そうだね、彼らと過ごした学生時代を思い出していた﹂
﹁⋮懐かしいですか、ブラックさん
14. 降臨
937
﹁まだ老け込むには早いのでは
シロウとさほど変わらないでしょう
?
﹂
?
?
唸り声をあげ、全身を痙攣させながら変化していくルーピン先生。
雲の切れ間からのぞく満月。
そして目に入った。
クさんもそれは同じだったらしく、二人同時に柳のほうに振り返った。
柔らかく微笑んでいるブラックさんを見ていると、突然悪寒が背中を襲った。ブラッ
﹁いずれ抜けるのなら気にしないよ。その時は好きなように呼ぶといい﹂
ないかもしれません﹂
﹁初耳ですね。でもごめんなさい、まだあまり長く接してきた訳ではないので、暫く抜け
づけ親だしな﹂
﹁しかし、もっと砕けた口調でもいいんだぞ 誰かに聞いたかもしれんが、私は君の名
かった。
悪戯気に笑うブラックの姿は、とても十二年収監されていたとは思えないほど若々し
﹁クククッ、違いない﹂
938
スネイプ先生とシロウとダンブルドア先生を吹き飛ばし、宙に浮かんでいる高濃度の
魔力を纏ったカードのようなもの。
拘束を解かれたことでハーマイオニーとロンを昏倒させて逃走するペティグリュー。
上手くいっていたことが全て覆り、午前中に聞いたトレローニ│先生の予言通りのこ
とが起ころうとしていた。
隣にいたブラックさんは瞬時に犬へと変わり、ルーピン先生の方向へと突進していっ
た。向かう先には地面に転がるマグダラの聖骸布、恐らくあれで拘束して先生を無力化
するのだろう。
私はそれを確認した後カードに意識を向けた。
カードは宙に浮いたまま黒い光を纏い、どす黒い魔力はその濃度を増していく。黒い
輝きが眩しいほど強くなった後、台風の風なんてそよ風に感じるほどの突風に襲われ
た。それにより、倒れている倒れていないにかかわらず、私たちは一様に吹き飛ばされ
た。
﹂
?
﹁何なのだ⋮今のは⋮﹂
﹁この⋮濃密な魔力は⋮﹂
﹁イテテ⋮何だ
14. 降臨
939
拘束を完了したブラックさんやスネイプ先生、ダンブルドア先生が各々反応を示す
中、狼男になったルーピン先生は本能的な恐怖を感じて蹲っており、シロウは目をこれ
でもかと見開き、冷や汗を流して歯を食いしばっていた。
先 ほ ど ま で カ ー ド が あ っ た 場 所 に 目 を 向 け る。そ こ に は 直 径 十 メ ー ト ル ほ ど の ク
レーターが形成され、中心には人影があった。
その人影は真っ黒な魔力を身に纏い、ゆっくり、ゆっくりと立ち上がって私たちに顔
を向けた。
││その人影は雪のように真っ白な髪をしていた。
││頭に付けているのは目を覆うように巻いてある真っ赤な布。
││上半身は裸で両腕には頭と同じ真っ赤な布が巻き付けられていた。
││足は裸足で黒いピッチリとしたレギンスを履いており、腰にも地面まで垂れるほ
どの真っ赤な布が巻かれていた。
人影がつぶやく。標的はシロウらしい。
﹁⋮⋮コロ⋮ス⋮⋮エミヤ⋮⋮シロウ⋮⋮⋮﹂
940
奴は何者だ
﹂
﹁不完全とはいえ、貴様がそこまで身を堕とすとは⋮⋮皆下がってろ。こいつは俺が相
手する﹂
﹁どうするつもりだ、エミヤ
!!
することなく、ゆっくりと距離を縮めてくる。
シロウは説明しながら服装を真っ赤な外套に変え、白黒の双剣を構えた。人影は気に
だからすぐにみんなこの場を離れろ﹂
﹁この世界の魔法では全く効果がない。だから早く逃げろ、奴は物量攻撃が十八番だ。
﹁コ⋮ロ⋮⋮ス﹂
﹁奴は不完全に強制召喚された英霊、加えて汚染されて理性をなくしている﹂
ている。その間にも人影はこちらにゆっくりと近づいてきている。
シロウの言葉に怒鳴るブラックさん。スネイプ先生もダンブルドア先生も杖を構え
!!
﹁随分とあの英霊についてくわしいの﹂
14. 降臨
941
﹁嫌でも詳しいさ、何せあれは⋮⋮﹂
ロンとハーマイオニーを抱え、ルーピン先生を拘束しているブラックさんとスネイプ
先生と共に離れる準備をしているダンブルドア先生が問いかける。私も逃げる準備を
し、彼らのそばに行く。
その間にもシロウと人影のさは縮まり、一定距離で止まった。そして互いにぶつかり
﹂
合うために、全く同じ双剣を構えた二人が身を屈める。ここにきてようやく人影の正体
﹂
が分かった。わかってしまった。
﹁エミヤ⋮⋮シロウ⋮⋮⋮
﹁あれは俺の、衛宮士郎の別の可能性なのだからな
英雄である二人がぶつかったとき、空間が爆発が発生した。
!!
!!
942
それは一振りの剣だった。しかし戦っている場所からここまで、少なくとも100
そのすぐあと、何かが私のいた位置に勢いよく飛んでき、大きなくぼみを作った。
い感覚で何かがこちらに来ることを察知し、急いで右側に動いた。
その時、一際大きな音と火花が起こった。鼠状態だったため、髭による人の何倍も鋭
ぶつかり合う音が繰り返し聞こえてきた。
ていた。何が起こっているかは夜なのでわからない。だが火花に遅れて鋭利な金属が
暴れ柳の近くに大きなクレーターが形成されており、その付近では何度も火花が散っ
は目の前に広がる光景に目を奪われてしまった。
そのとき、後ろから突風が襲ってきて思わず止まってしまった。恐る恐る振り返り、私
暴れ柳はホグワーツの境界の近くにあるため、すぐにたどり着くことができた。でも
せっかく隙が出来たから無駄にせず、急いでネズミに変化してその場から逃げ出した。
め、指先を切って滴る血をそれに付けた途端、自分を縛っていた赤い布を弾き飛ばした。
十二年前にご主人様の協力者に手渡された一枚のカードをポケットに入れていたた
15. 勝敗
15. 勝敗
943
944
メートルは離れている。その距離をわずか1,2秒ほどで飛んでくるなど、どれほどの
規模の戦いか想像がつかない。
急いでこの場から離れ、ご主人様の元へと行かなければ。
◆
英雄。
それは優れた才知を持ち、人の身では到底成し遂げられない非凡なことを行うものを
指す。
今目の前で行われているのはその英雄同士の戦い。今を生きる英雄と、古文書にて書
﹂
かれていた、﹁座﹂という場所にに招かれた英雄の霊。そして戦う彼の話が本当であれ
ば、同一人物同士の戦いが繰り広げられている。
﹁■■■■■││■│■■│││コ■■│■ロ■│││■■ス■││
!!
﹂
﹁理性を引き換えに、貴様は何を得たというのだ ただの殺戮機械になり果てただけ
か
!!
﹁な、何事だね
﹂
﹂
大臣ともう一人、あの眼鏡かけた女性はだれだろう
?
!?
!?
がこの場に近づくのは危険が過ぎる。
補佐官らしき人がやってきた
こそできる戦いであろう、武器の有無など関係のない戦いを繰り広げている。
剣がぶつかり、剣が砕け、また剣を取り出し、またぶつかる。剣製を司る英雄だから
!!
﹁これは一体なんなの
15. 勝敗
945
﹁来てはならん
﹂
ロナルド君は私が運ぶ
二人ともこの場から離れるのじゃ
﹁マリー、ハーマイオニーと一緒に来なさい
﹁ルーピンは吾輩が﹂
﹂
!!
!!
﹂
﹁あれほど守護者になったことを後悔した貴様がッ
てた自身を許容するとはどういうことだ
それよりも堕ちた存在になり果
う。魔法使いが杖を取り出す前に殺されてしまう世界が背後には広がっている。
音と衝撃が伝わってくる。普通の人間どころか、魔法使いですら軽くあしらわれるだろ
其々指定された組み合わせになり、城に向かって走り出す。その間にも背後からは轟
!!
!!
■もの■│■ッ
﹂
生ま■■││■ない存在だ■■
﹂
!!
!!
そこまで腐ったか、エミヤシロウ
貴│は、俺はッ
﹁生まれてはならないだと
!!
!!
世界の世界の彼の叫びよりも哀しい叫び。理由がわからず、目から一筋の涙が流れ落ち
しまう。何故か呼び出されたシロウのほうの言葉も全て理解できた。夢で聞いた並行
剣戟の音に混じり、互いに叫ぶ声が聞こえてくる。その声に、私は思わず足を止めて
!?
!!
﹁正■■■方に、守護者に│││け■■よかっ■ッ エ│ヤシ││は存在■許さ■■
!!
!!
946
る。
﹂
﹂
﹁マリー、早く離れないと
﹁ポッター、急ぎたまえ
!!
﹂
?
彼の叫びを、声を聴かねばならないと、私の心が言っている。
﹁ならば﹃ですが﹄⋮なんだ
﹁⋮頭ではわかってるんです。離れなければならないと﹂
﹁マリー⋮﹂
いう奇妙な使命感のようなものだった。
目は顔は、体は死合いのほうを向いて動かない。恐怖からではない、見届けなければと
たたか
いつの間にか先に行っていた校長先生たちに呼ばれる。しかし頭でわかっていても
!!
﹁君は何を言っているのか分かっているのかね
﹂
﹁何故かは分かりません。ですが私の心が言っているのです。この戦いを見届けろと﹂
15. 勝敗
947
!?
﹁理解したうえで言っています﹂
問いかけてくる大人たちの目を真っすぐ見つめ、私の意思を示す。シロウにとってこ
れ以上にない迷惑になることは承知の上だからこそこの場から近づいてみるつもりは
﹂
ない。ただ、見届けるだけだ。
﹂
﹂﹂
﹁⋮どうしても見るのじゃな
﹁はい⋮
﹁⋮相分かった﹂
﹁﹁校長︵ダンブルドア︶
土地は土が表面に出て草が埋まっている。
が抉れ、湖の水打ち際は形成されたクレーターによって形が変わり、草花の生えていた
事態はさらに動き、柳を一本残して辺りは更地になりかけている。森の端っこは地面
クさんの二人だけだった。たぶんブラックさんは私の見張りとして残ったのだろう。
向けた。暫くすると人はブラックさんを残していなくなり、戦いを見るのは私とブラッ
校長先生以外の大人が非難の視線を向けるが、私は一つ頷き、再び彼らの戦いに目を
!?
!!
?
948
15. 勝敗
949
閃光を飛ばし合う魔法使いの戦いとは異なり、文字通り戦争のような惨状となってい
た。
││││││││││││││││││││
もうどれだけ時間がたったのだろうか。腕時計を見る限り満月は既に天頂に差し掛
かっているだろうが、戦いは終わる気配がない。
あれから戦いの舞台は変わり、見渡す限りの突き立つ剣。阻むもののない蒼穹のも
と、大小さまざまな錆びた歯車が転がる草花の生えた丘に私たちはいた。
離れた場所にいたけど、シロウの言霊と詩が響いた瞬間視界が真っ白になり、気が付
けばこの場所にいた。ブラックさんも隣におり、目の前の光景に驚きを示していた。し
かし戦いが再び始まると二人そろってそちらに意識を向けた。
この数時間の間に彼らは傷だらけとなっている。
暴走態シロウの体からは光り輝く粒子のようなものを体中から流し、シロウは全身か
ら血を流している。互いが互いに死に体、あと数合で決着がつくだろう。今はお互いに
肩で息をし、真正面睨みあっている。
ウ
ウ
⋮ウ
ウ
"
⋮﹂
るだけではない。俺がエミヤシロウだからだ﹂
﹁ウ
"
﹁ウ
ォ
オ
オ
ア
"
"
ア
"
ア
"
ア
"
ア
"
ア
"
ア
"
﹂
"
ちはひとりでに浮かび上がり、彼らから距離をとった。
訪れる静寂、常に吹いていた風も今は凪になっている。彼らの周りに立っていた剣た
うに赤い布を巻き、白い外套を上から羽織っていた。
おり、見慣れた真っ赤な外套は成りを変え、片袖はノースリーブ、頭にはハチマキのよ
双剣は相変わらず白黒だけど、その形状は細く長く、まるで刀のような形状になって
えた。シロウは同様に双剣を構えたけど少し趣が異なっていた。
シロウが言葉を投げかけると、暴走態のほうは天に顔を向け、大きく叫んで双剣を構
"
﹁次で終わらす。貴様も理性がないなりに貫きたいものがあるなら、本気で来い
"
"
!!
"
"
﹂
﹁だが、貴様を放っておくことはできん。それは俺が末席とはいえ、英雄に名を連ねてい
﹁エミヤ⋮シロウ⋮⋮﹂
﹁⋮貴様というエミヤシロウがどのような道を辿ったか、俺と貴様だからこそわかった﹂
950
空を舞っていた花弁が一片、ふわふわと舞い降りる。しかし二人は未だ動かない。や
がて花弁は二人の間をゆっくりと舞い降りた。そしてその花弁が地面に着いたとき、す
でに決着はついていた。
暴走態は左肩から右腰にかけて深く袈裟に切られており、対するシロウは左頬から顎
骨にかけて切られているだけ。敗者となった暴走態は地に膝を付け、魔力に還るのを待
つだけとなった。
﹁⋮まさか⋮⋮貴様に救われる⋮とはな﹂
暴走態の言ったその言葉にどれほどの思いが込められているのだろう。本人でない
私にわかることはできない。でも⋮
命 を背負った男﹂
フェイト/デスティニー
手前まで至ったこと。余りにも歪なその在り方が受け入れられなかった現実。
の中で、少なくとも三人のエミヤシロウが世のため人のために戦い続け、破滅又は一歩
彼らのぶつけ合う剣から感じたこと。それはシロウを含めた数多くのエミヤシロウ
﹁エミヤシロウとは⋮⋮どの世界においても哀しき 運
15. 勝敗
951
そ の 結 果 が 様 々 な 形 で 創 り 出 さ れ た。も し か し た ら シ ロ ウ も あ の 暴 走 態 の よ う に
なっていたかもしれない。これから至るかもしれない。
なんだか無性に訳の分からない、相反する気持ちが沸き上がってきた。エミヤシロウ
という存在に、彼を認めようとしなかった世界に。
前から疑問に思っていた。
三人の奥さんと四人の子供がいるにもかかわらず、時折見せる迷い。本人は隠してい
るつもりだろうが、彼は自分が幸せになることを迷っている気がした。恐らくそう思っ
ているのは私だけかもしれない。でもそれでも彼が時折悲しげな眼をしているのは間
違いない。
彼はその在り方によって世界を追われた、会えるとはいえ、家族と引き離された。彼
がもし以前の世界と同じような生き方をすれば、また同じことが起こるだろう。頑張っ
て人を助けたのに報われない人生になってしまう。
暴走態は全身から魔力を霧散させながら語る。
﹁⋮⋮人を救うために走り続けた私は、結局殺戮機械へとなり果てた﹂
952
﹂
﹁貴様が言った通り、守護者以下の存在に堕ちた。そんな存在が人を救うなどおこがま
しいとも気づかず﹂
﹁だがそれでも貴様は、人を救いたいと走り続けたのだろう
﹁⋮ああ﹂
のだろう。
ようやく手に入れた小さな光。その小さな光は、彼にとってどんなに大きな救いだった
嗚呼なんて、なんて救いのなかった道のりだったのだろう。長い長い殺戮の果てに、
それは自分自身による断罪と許しだった。
を掬いあげたかった男の結末。
暴走態。誰かに感謝されたかったわけでなく、一つでも多くの零れ落ちるはずだった命
心は泣いているのに泣かない、哀しいのに、悔しいのにその感情を理解できなかった
た。
目をも覆っていた布が落ちる。その目は狂気に侵されておらず、穏やかなものだっ
?
ら﹂
﹁誇っていい。貴様の思いは、俺たちの願いと想いは、決して間違いじゃなかったのだか
15. 勝敗
953
﹁そうか⋮誇っていいのか⋮⋮譲れぬもの、誇りとしていいのか﹂
﹂
?
﹁ブラックさん、行きましょうか﹂
いる。一先ず事態は収拾したようである。
包まれたのち、私たちは再び元の世界に戻っていいた。カードはシロウの手に握られて
その言葉を最後に暴走態は消滅し、不思議な世界は砕け散った。白い光に再び視界が
﹁ではな、核となったカードはお前が持っておけ。何か役に立つだろう﹂
﹁ああ⋮そして、私の勝ちだ﹂
﹁フッ⋮私の負けだ⋮﹂
﹁なんだ
﹁⋮エミヤシロウ﹂
は大元へと戻っていくだろう。この邂逅も時期に終わりを告げる。
もうすぐにでも霧散してしまうだろう。体を作っていた魔力は星へと還り、彼の意思
﹁ああ﹂
954
今は、彼のもとに行くことが先だ。
だ。これから先この気持ちがどうなるのか、それは世界のみぞ知るだろう。
この気持ちの正体は分からない。わからないけど、この二つの気持ちは大切なもの
ような木漏れ日のようなもの。
た。彼らの戦いを見て胸に宿ったこの気持ち。燃え盛る業火のようなものと包みこむ
私は校長に知らせるよと言ったブラックさんに一つ頷き、シロウの元へと歩き出し
﹁そうだね、彼を医務室に連れて行かなきゃだろうし﹂
15. 勝敗
955
アヴェンジャー
ようやく表に出れた。
││お前は⋮復 讐 者か
持った最弱のサーヴァントさ。
よちよちベイビー
今はもうそんなことし
││お前は一体何を望んでいる。また冬木の時のように災厄を世にばら撒くか
チャー
?
俺 様 の 無 色 の 人 格 は お 前 に 色 付 け さ れ
││おいおい、そりゃ俺がまだ成り損ないのときの話だぜ
ねぇよ。
アー
││その証拠は
│ │ あ の 気障な正義の味方 も 言 っ て た ろ
てるから、そう変なこと起こしゃしねぇよ。
?
?
?
││おおー御名答。察しの通り俺様は復讐者のサーヴァント、アンリ・マユの真名を
?
││それは一番お前が判っているはずだぜ、ククク。いやーお前が奴を倒したことで
││貴様がアーチャーの言っていたやつか。何者だ。
││よう
16. 真・守護霊召喚
956
16. 真・守護霊召喚
957
││そうか
││それより気を付けな、今回の奴でわかったと思うが⋮
││ああ。少なくともあと六体、サーヴァントの出来損ないと戦うのだろう
た。一 足 遅 れ て ブ ラ ッ ク も こ ち ら に 来 て い た。ま ぁ あ の 二 人 に 関 し て は 俺 の 素 性 を
アヴェンジャーと話していると、今の戦いを見ていたのだろう、マリーが近寄ってき
││││││││││││││││││││
││おう
││ならまた後で、色々と聞かせてもらおう
姫様の登場だぜ。
││嬉しいこと言ってくれるねぇ。それより、そろそろお前さんは休めや。そら、お
││ふむ、ある意味では心強いな。
強だからな。
││そういうこった。まぁ、もしもの時は俺が力を貸すぜ。何せ俺は人間相手にゃ最
?
知っているから、見られても余り支障はないか。
それにしても今回の戦い、今更気が付いたが、奴と打ち合う度に魔力を吸われていた。
奴自身ではなく、核となっていたカードに吸われていた。そしてそのカードだが、今は
俺の体に溶け込んでいる。意識すると、再び俺の手元に出てくることから、このカード
は俺の管轄下にあると考えていいだろう。
それにしても魔力を使いすぎたし、吸われすぎた。魔力を吸われている状況での固有
﹂
結界展開は流石にきつかったか。動くことはできても、この世界の攻撃魔法を使う魔力
は残っていない。
﹁シロウ、大丈夫
﹂
﹁ああ。動けるが、今日は魔法は使えないだろうな。それより、君らには怪我はないか
?
958
それを聞いて安心した。
﹁そうか﹂
﹁大丈夫だ。我々は君らの邪魔にならないよう、結構距離をとっていたから﹂
?
﹂
﹁じゃあ校長室に行こう。今後の方針の話し合いに君が必要だからね﹂
﹁それは分かったが、どうやって連絡を取ったのだ
外には以上はないらしく、体は正常に動いている。その体の傷も持ち前の回復力とマ
すわりこんだ状態から立ち上がり、首を鳴らして腕を回す。どうやら全身にある傷以
あの子が教えたのか。ならば心配ないな。
﹁なるほどな﹂
﹁ああそれはな、剣吾君に使い魔の魔術を教わってね﹂
ていない。ならばどうやって連絡をとったのだ。
この世界じゃあ守護霊を用いて伝言を伝えることが出来るそうだが、今奴は杖を持っ
?
﹂
﹂
リーの治療によって治りかけている。もう数分もすれば感知するだろう。
どうしたの
?
﹁
?
﹁どうやら奴らのお出ましだな﹂
?
﹁さて、そろそろ移動を⋮む
16. 真・守護霊召喚
959
﹁奴らって⋮まさか﹂
今回の戦いをかぎつけたのだろう、吸魂鬼が大勢こちらに向かってきていた。予想で
﹂
きるとすれば、人よりも大きな魂にそれが抱いた正の感情。奴らにとってみれば最高級
料理である。
﹁⋮ブラック、頼めるか
﹁分かっている﹂
﹂
﹂
エ ク ス ペ ク ト・パ ト ロ ー ナ ム
﹁守護霊よ来たれ
エクスペクト・パトローナム
﹁守 護 霊 召 喚
!!
!!
の念を込めた魔力を通す。
し異常を起こさない魔力が流れ込んでくる。立ち上がった俺はアゾット剣を構え、幸福
一時的なラインを俺とブラックに繋いだことにより、俺たちの魔力とは異なる、しか
た。指先から滴り落ちる血を俺の傷口に近づけ、俺の血と混ぜ合わせる。
俺が一言いうと、ブラックは懐に入れていたナイフを取り出し、自分の指先を傷つけ
?
960
俺とマリーが同時に唱える。俺の短剣からは無数の西洋剣がミサイルのごとく飛び
出し、マリーの杖先からは白銀に輝くアーチャーが飛び出した。其々が吸魂鬼を迎撃し
ていくが、個々撃破の形になってしまうため、どうしても撃退が増加に追い付かない。
抵抗むなしく俺たちは吸魂鬼に包囲されてしまった。
﹁これはまずいな﹂
﹁そのようだ﹂
正直先ほどから頭痛が絶え間なく襲い掛かり、視界も現実と封じられた記憶が移り変
わっている。自分が覚えているはずのその前の記憶までも揺り起こされ、記憶の混濁が
起こりそうになる。しかし葉を食いしばってそれに耐える。
ブラックとのラインを切り、残り少ない自身の魔力を用いて守護霊を形成して迎撃す
﹁そうか、ならもういい。君が動けなくなったら本末転倒だ﹂
﹁すまないシロウ。どうやら私の魔力が先に尽きそうだ﹂
16. 真・守護霊召喚
961
る。マリーの守護霊は俺のと違い使い捨てではないため、未だ懸命に迎撃を続けてい
る、が、マリーの顔は苦しそうに歪んでいた。
﹁⋮仕方ないか﹂
投影は魔法よりも魔力を消費するため、今の今まで控えていた。だがそうも言ってら
れない事態のため、黒鍵を作れるだけ作って滞空させる。狙いは全方位、自らを中心と
そんなことしたら、シロウの魔力が
﹂
した半球をイメージし、その方向に切っ先を向ける。
﹁シロウ
!?
!!
りゆらりと距離を詰めてくる。
方法が思いつかない。しっかりと狙いを定める。吸魂鬼は何も感じていないのか、ゆら
考えなしであり、いつもの自分らしくないのは分かっている。だが、今はこれ以外の
るのならば﹂
﹁一掃できなくとも、これで誰かしらが異常を察知する それに少しでも数を減らせ
!!
962
﹂
!!
いつものシロウらしくない方法で吸魂鬼は討伐されたけど、まだ二十体ほど残ってい
◆
真空状態で破裂させた。余波で巻き込んだ数も加えて五十弱の吸魂鬼が消滅した。
れらを炎で焼き尽くし、風で切り刻んで分解し、土塊に変えて崩し、水で圧縮して潰し、
黒鍵は狙いたがわず吸魂鬼に飛び、投影した三十弱の黒鍵は全て吸魂鬼に刺さり、そ
﹁停止解凍、全投影連続層写
16. 真・守護霊召喚
963
る。私の守護霊も霧散しかかっている。シロウの討伐にも誰かが気づくこともないか
もしれない。
先ほどから視界がチカチカと瞬き、幸福のイメージにほころびが出始める。それに伴
い、私の守護霊の動きも鈍くなっていく。魔力をもうほとんど残していないシロウとブ
ラックさんは肩で息をし、膝をついている。加えてシロウは頭を抑えてうめいている状
態だ。今この状況では、私の守護霊だけが唯一の戦力である。
ここは僕が食い止める
﹄
しかしながら私もさっきから現実と幻が混ざり合っている。正直いつ脳が処理落ち
して気絶するかわからない。
奴だ
!!
﹃リリー、マリーを連れて逃げろ
!!
う。
﹃ここは通さないぞ
﹄
アバダ・ケダブラ
!!
!!
﹃愚かな男だ。 死 せ よ
﹄
の声は、恐らく私の父親の声。そして状況は両親が殺されたハロウィンの夜の情景だろ
男の人の声が聞こえる。まるで記憶が揺り起こされるように頭が揺さぶられる。今
!!
964
ヴォルデモートが魔法を使った声が聞こえた。父はこうして殺されたのか、そして母
も。どうして吸魂鬼はこうも思い出したくない記憶を掘り起こすのか。そして私たち
を絶望させようとするのだろうか。
このまま身を委ねたら楽になるのだろうか。
そんな考えが頭に浮かんだ。彼らに捕まったら最後、魂を吸い取られて生ける屍にな
るそうだ。もう正直守護霊は保つことはできない。諦めてしまおうか。
﹃マリー大丈夫よ﹄
不意に女性の声が聞こえてきた。私が聞いたことのない女性の声、しかしどこかペ
チュニア叔母さんと似ているような声の女性だ。
女性の、母の言葉が続く。
まって﹄
﹃た ぶ ん 私 も 殺 さ れ る で し ょ う。ご め ん な さ い ね、貴 方 を 独 り に す る こ と に な っ て し
16. 真・守護霊召喚
965
﹃どけ、小娘
﹄
アバダ・ケダブラ
死 せ よ
﹄
!!
思い出せ、私の夢を。
もしれない。でも今はそれでいい。この単純さで今の状況を打開できるのなら。
たったこれだけのことで意識を変える私は、もしかしたらものすごく単純な女なのか
今ここで諦めたら両親の、母の願いを無下にしてしまう。それはできない、させない。
ま、声だけだったが両親の死の様子を知ることが出来た。そして母が残した願いも。
悲鳴と共に母の命が果てる。私は人伝でしか両親の最後を知らなかった。しかしい
﹃どけ
!!
﹃お願い、この子だけは﹄
!!
それは、親なら持つであろうささやかな願い。あの夜、母が私に残した願い。
すように⋮﹄
沢山の優しい人たちに会って、そしてささやかな⋮幸せな⋮明るい未来を歩んでいけま
﹃どうかこの子が争いごとに身を置くことがありませんように。沢山の友達が出来て、
966
思い出せ、託された願いを。
イ
メー
ジ
し
ろ
!!
思い出せ、受け取った想いを。
エクスペクト・パトローナム
そして思い浮かべろ、自らが至高と考える幸福を
!!
◆
陽みたいに眩しい輝きが放たれた。
イメージを確立し、呪文を唱える。その瞬間、私の杖先からは今までの比ではない、太
﹁﹃守 護 霊 召 喚﹄ ﹂
16. 真・守護霊召喚
967
大の大人が全く役に立たないなど、これほど悔しいことはない。自分の力不足のせい
で親友の娘一人に最後を任せることになってしまった。余った魔力を用いてシロウの
短剣で守護霊を呼ぼうとしたが、短剣に拒絶され、魔法を使うことが出来ない。
何か手がないものかと考えているとき、突如頭上で眩しい光が放たれ、私たちを中心
にしてまるで昼のような空間が出来上がった。普段日が照っていても余りわからない
吸魂鬼のローブの皺の秘湯一つまでが肉眼で見れる。
││それは八枚の大きな翼をはためかせていた。
││それは長い羽衣のようなものを翻していた。
││それはバランスの取れた人の女の形をしていた。
││それは人の三倍ほどの大きさだった。
とした光の粒と共に舞い降りたものをみて、私は開いた口が塞がらなかった。
マリーの杖先から放たれた光はそれ高く立ち上り、そこで大きくはじけた。キラキラ
私は光の発生源に目を向けた。そして不覚にもそれに見入ってしまった。
﹁これはいったい⋮⋮﹂
968
まるでこちらが本来の守護霊とでもいうように、大き
驚くなんてものじゃない。そもそも彼女が使っていた守護霊が人型だったことにも
驚いた。しかし今度はどうだ
取り戻している。
魂鬼の気配はない。凍り付いた地面や大気も、マリーの守護霊によって再びぬくもりを
ものの数秒で吸魂鬼は撃退され、私たち三人と守護霊だけが残った。周りにはもう吸
は、例外なく弾かれ、はるか遠くに飛ばされ、その場から逃げていった。
せて全身から発せられる白銀の波紋。球状に展開、伝達された波紋に当たった吸魂鬼
天使は宙に浮いたままゆっくりと口を開き、そして美しい声で歌いだす。それに合わ
﹁∼♪﹂
いうように。
天使の登場から吸魂鬼の動きが止まる。まるでこれ以上近づいてはならないとでも
な天使はその存在を際立たせていた。
?
﹁二人ともごめんなさい。もう⋮限界⋮⋮﹂
16. 真・守護霊召喚
969
970
力を使い果たしたのか、前方に倒れこむマリー。しかしその体は天使によって支えら
れ、ゆっくりとシロウに渡された。そして天使は二人を包み込むように一度輝いたの
ち、魔力へと還っていった。
後方から複数の足音が聞こえてくる。異常を察知した誰かが来たのだろう。さて、彼
女は医務室で休ませて、私とシロウは事後処理にあたるとしますかね。
17. クィディッチ優勝戦、開幕
目が覚めると私は医務室にいた。空にはすでに太陽が昇りきり、今はどんなに早く見
積もっていても10時過ぎだろう。どれほどの時間眠ってしまったかはわからないが、
少なくとも数時間は確実経過している。
ベッドの小脇にあるカレンダー付の時計に目を移す。日付は叫びの屋敷に向かった
日の次の日になっていた。ということは丸々一日寝ていた、ということはないだろう。
﹁はい、ちょっと体がダルイ程度です﹂
が足を組んで椅子に座っていた。手には何やら書物を抱えている。
小机とは反対側のベッド脇から声が聞こえた。そちらに顔を向けると、ブラックさん
﹁む、起きたのか﹂
17. クィディッチ優勝戦、開幕
971
正直な感想を述べる。おそらくあの守護霊魔法を連続使用した弊害だろう、体中の力
がほとんど沸いてこない。
﹁⋮⋮ブラックさん、あの後どうなったんですか
?
こ
こ
それでまぁ私は即座に医務室に搬送、ブラ⋮シリウスさんは魔法薬を用いた尋問で無
られたらパニックになるだろうしね。
先生のこともあり、校舎内を通らずに特別に空間移動を使用したそうだ。まぁ先生を見
たらしい。ペティグリューに逃げられ、狼男になって聖骸布で拘束されていたルーピン
ブラックさん、シリウスさんによると、私が気絶した直後に校長先生たちが戻ってき
﹁シリウスでいいよ。あの後私たち三人は回収され、医務室に運ばれた﹂
払ったところまでは覚えてますけど﹂
正直守護霊を出して吸魂鬼を追い
私は大人しくベッドに横たえ、顔だけをブラックさんに向けた。
﹁なら寝たままの体勢で失礼します﹂
﹁無理に動かなくていい。今の君は魔力がすっからかんだからね﹂
972
罪が判明して釈放、シロウの素性が大臣とボーンズ女史にのみ知られるという形になっ
た。ルーピン先生は新しい職場を大臣が工面すると言う条件でホグワーツ教師を今年
マ
エ
いっぱいで退職、吸魂鬼は学校からすべて撤退させ、ペティグリュー捜索に移る方針で
決まったそうだ。
﹁私は無罪になったが如何せん冤罪でも前科持ちでね、しばらく就職に困るがまぁ大丈
夫だろう。丁度ダンブルドアが新任を探しているみたいだしね﹂
シリウスさんはこともなげに言う。ちなみにシリウスさんの無罪放免はすでに公表
されており、真犯人が実は生きていたペティグリューだったことも公然の事実になった
らしい。大臣は責任をとって辞職しようとしたが、色々あって職務続行となったよう
﹂
﹂
だ。とりあえず、あのガマガエル女が関係しているだろうと睨んでいる。あのオバちゃ
ん、大臣大好きな蛙だったし。
何ですか
?
?
﹁
?
﹁ところでマリー、ひとついいかい
17. クィディッチ優勝戦、開幕
973
先ほどまでの若干重い空気とは異なり、比較的明るめの声をシリウスさんが出した。
に住まないかい
﹂
﹂
?
母一家は、最初は私を疎ましく思っていたでしょうが、それでも十二年私を育ててくれ
﹁二年前までの私なら、喜んでその提案を受けていたでしょう。でも今暮らしている叔
ん私の答えもある程度予想していたのかな。
シリウスさんは特にショックを受けた様子も見せず、冷静に理由を聞いてきた。たぶ
﹁理由を聞いていいかい
﹁⋮ごめんなさい。提案は嬉しいけど、成人するまで住居から移ることはしません﹂
して、シリウスさんは既ににこのことを考えていたのだろう。私は⋮
でもある程度予想はついていた。シロウとシロウの戦いの前に話していた内容から
?
?
突然の同居の申し込み、いや、この場合名付け親が引き取るってことなのかな
﹁実は私の住居はロンドンにあってね、キングスクロス駅とも近い。よければだが、一緒
974
ました。今は態度も軟化し、私を一員として認めてくれています。彼らに恩返しをする
まで、私は彼らの元を離れるつもりはないです﹂
これが私の正直な気持ちだ。それに一年前の9月、マージ叔母さんが来る前に気づい
たことだけど、あの家には何やら守りのようなものが働いていた。たぶん、私があの家
に来たときに、ダンブルドア先生あたりが魔法をかけたのだろう。詳しいことまではわ
からなかったけど、先生を安心させるという意味でも、私は今年もプリベット通りに帰
る。
﹁はい﹂
﹁まぁ予想はしていたよ。でもたまに遊びに来るといい﹂
を向けると、この人はスッキリとした顔をしていた。
少し申し訳ない気持ちになり、もう一度謝罪の言葉を出す。しかしシリウスさんに顔
﹁はい、ごめんなさい﹂
﹁⋮そうか。それならしょうがないな﹂
17. クィディッチ優勝戦、開幕
975
それから私は検査の時間まで昔話を聞いていた。どうやら私の父は何でもできる人
気者だったらしいが、どうにもスネイプ先生と馬が絶望的に合わなかったらしい。それ
はシリウスさんとも同じで、途中でマダム・ポンフリーに補充する薬を持ってきたスネ
イプ先生と険悪な雰囲気になっていた。
話を聞いているうちに体も動くようになったので、夕方には退院となった。でも結局
シロウは医務室に姿を見せず、シリウスさんに聞いても大事な話をしているの一点張り
﹂
﹂
だった。でも夕食時には現れ、私と一緒にみんなから揉みくちゃにされた。
﹂
﹁ねぇねぇ、昨晩寮にいなかったけどどうしたの
﹁昨日のあの爆発みたいなの、何か知ってる
﹁僕もしかしたら昨日天使を見たかもしれないけど、何か知らない
けどなぁ。
と、みんな顔を青ざめさせて自分の席に戻っていった。私笑顔浮かべていたはずなんだ
上がりにこの事態はきつかったため、出来得る限りの笑顔を浮かべて拒否の意思を示す
こんな質問をあちこちから浴びせられた。正直魔力が空になっただけとはいえ、病み
?
?
?
976
17. クィディッチ優勝戦、開幕
977
その日の夕食は、何を食べてもおいしく感じられた。
││││││││││││││││││││
シリウスさんが無罪放免になって早二ヶ月経過した4月中ほど、私を含めたグリフィ
ンドール・クィディッチチームは優勝戦にむけて猛練習を重ねていた。今年はロンのお
兄さんが卒業して以来の優勝戦らしい。
ロンの次兄、チャーリーさんがチームにいた時を最後にグリフィンドールは一度も優
勝しなかった。それが今年になって急に優勝手前と来たのだ。選手も寮生も、果ては公
平さで有名なマクゴナガル先生までピリピリしていた。
落ち着きがなかったのはグリフィンドール生だけじゃなかった。他の三寮の生徒も
またピリピリしており、特に対戦相手のスリザリンはグリフィンドールチームのメン
バーに度重なる嫌がらせをしてきた。
あるスリザリン生はフレッド・ジョージのペアに対して呪いを放ち︵シロウの護符で
防御・反射済み︶、あるスリザリン生はチェイサーの三人に態とおできのできる薬をぶち
まけたり︵シロウによってお仕置きされた︶、あるスリザリン生は箒に細工をしようとし
たり︵シロウ手製の結界に引っかかってOUT︶などなど、考えつく限りの嫌がらせを
受けた。
私もスリザリン生との合同授業の時に嫌がらせや精神的いびりを受けたけど、先生の
機転やシロウの機転、私の事前準備もあって効果を為さなかった。それによってマル
スニッチを捕るのは必ず俺たちが五十点差つけてからだぞ﹂
フォイが非常に悔しそうな顔をしていたのは記憶に新しい。
﹁いいか
るな
スニッチをとるのは⋮﹃⋮ウッドさん﹄ッ
な、なんだいマリー
!?
﹂
?
ニッチの取り方をすべきなのも。ですから、ね 焦らないで、キャプテンなんですか
﹁何 度 も 言 わ な く て も 理 解 し て い ま す。明 日 の 試 合 が と て も 大 切 な の も、ど う い う ス
?
ない。いいなスニッチを捕るのは俺たちが必ず五十点以上差をつけてからだぞ。わか
﹁いくらスニッチを捕っても、総合得点で二百点勝っている奴らに追いつくことはでき
じゃあ数えきれないほど言われている。
試合前日、談話室で行われているミーティングでウッドは私に言う。この話は両の手
?
978
?
らもっとドッシリと構えてください﹂
前日だからこそ、冷静にいつも通りに振る舞わねばならないのに、肝心要のチーム
リーダーがこうも不安定な状態だと、ほかの人にも影響が及んでしまう。現にフレッド
とジョージなんていつも以上にハイテンションになってしまっている。
愛おしさが溢れてきて、意図せずしてハネジローの頭を優しく数度撫でる。
?
次の日、待ちに待ったクウィディッチ優勝戦が開幕するということで、観客席はいつ
ベッドに入る。今夜は夢見がよさそうだ。
手の動きに合わせながら布団から少し出た尻尾を振るハネジローに微笑みつつ、私も
か
ていると、どんな嫌なことも気にならなくなる。子供を持ったらこんな感じなのだろう
り、ハネジローはその小さな体を布団にうずめて寝息を立てていた。この子の寝顔を見
落ち着かない空気の中、私は早々に寝室へと向かう。既にパジャマは用意されてお
残った課題を唯一冷静なシロウと一緒に終わらせた。
それから数分後、ミーティングは無事に終了し、皆思い思いの活動に勤しんだ。私は
﹁⋮⋮ミーティングはこれで終わりだ。各自しっかりと体を休めるように﹂
17. クィディッチ優勝戦、開幕
979
もの何十倍もの盛り上がりを見せていた。グリフィンドール側の観客席には大きな垂
れ幕がいくつも並び、優勝への期待を膨らませているのが判る。
﹂
﹂﹂﹂﹂
﹁みんな、準備はいいな
﹂
﹁﹁﹁﹁おう︵ええ︶
﹁よし、行くぞ
!!
﹃さぁグリフィンドールの登場です
﹄
﹃彼 ら は 何 年 に 一 度 出 る か 出 な い か の ベ ス ト・チ ー ム と の 呼 び 声 が 高 い で す。ま ず は
ジョーダンさんの実況が響き渡る。
!!
開いた。途端聞こえる、先ほどの何倍もの歓声。
る。スリザリンチームが先に入場したのだろう。続いて私たちの目の前のカーテンも
ぎ、フィールドへと向かう。仕切りのカーテンの先からは、喧しいほどの歓声が聞こえ
ウッドの掛け声とともに各々箒を手に取る。私も身の丈ほどのファイアボルトを担
!!
?
980
﹄
キャプテンのウッド、続いてチェイサー三人娘のアリシア、アンジェリーナ、ケイティ﹄
﹂﹂
﹃そして人間ブラッジャーのフレッド&ジョージ・ウィーズリー
﹁﹁俺たち、参上
!!
﹄
!!
!!
けないで。
!!
心の中で葛藤している間に試合が始まった。なんとも締まりのない始まり方で我が
﹄
させてください。そこ、ロンはあとで覚えておきなさい、そんな期待100%の目を向
いや、変に期待されても困ります。お願いですからいつも通りプレイできるよう集中
どのようなプレイをするか、今日も実況の腕がなります
﹃そしてホグワーツ史上最年少でチーム入りを果たした、マリーの登場です 彼女が
は拳骨で叱り飛ばしていた。
まるで日本の歌舞伎のようなポーズをとりながら入場した双子に会場は笑い、ウッド
!!
﹃クワッフルが投げられ、試合開始です
17. クィディッチ優勝戦、開幕
981
982
事ながら情けない。
18. Quidditch Final
試合開始のホイッスルと共に、私は上空に舞い上がった。正直こちらが五十点リード
するまで私はスニッチを捕まえることが出来ないので、マルフォイを妨害する以外やる
ことがない。また、箒のスペックが圧倒的に私が勝っているため、向こうが少しでも動
けば、回り込んで進路妨害が出来る。
ンが取り返し││いや
グリフィンドールが奪い返しました
││スリザリ
!!
!!
クワッフルは現在
!!
﹄
!!
ゴ ー ル に 進 む ア リ シ ア さ ん を ス リ ザ リ ン が 妨 害 し た。妨 害 す る の は 問 題 で は な い。
││あいつめ、わざとやりやがった
アリシア選手の手に。そのままゴールに直進してます。いけっアリシア、シュートだ│
!!!!
クアッフルはスリザリンチームに││いや、グリフィンドール││いや
﹃グリフィンドールの得点で、現在三十対十とグリフィンドールがリード さぁ現在
18. Quidditch Final
983
論点はその方法である。あろうことかキャプテンであり、チェイサーでもあるマーカ
ス・フリントが、アリシアさんの髪の毛を鷲掴みにして箒から落そうとした。果てはそ
の行為に対し、
﹄
!!
嬉しそうな声音の実況が響き渡る。
ぜ、ウッドがゴールを守りました
リント、グリフィンドールのゴール目掛けて飛びます。││やったー
信じられねぇ
を持っています。そのまま行けっ。ああ、駄目だ。フリントがボールを奪いました。フ
﹃さぁ気を取り直して、現在グリフィンドールの攻撃、アンジェリーナ選手がクワッフル
た。現在グリフィンドールが三十点リード中、あと二十点。
イッスルが鳴り、アリシアさんがペナルティシュートを決めると、再び試合は流れ出し
と反省ゼロのこの発言。スリザリン以外の観客席からはブーイングが起こった。ホ
﹁わりーわりー。クワッフルと間違えたわ、ハハハ﹂
984
!!
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ
てめえらがウッドの守備を破ろうなんざ十年早ぇんだよぉ 顔を洗って出直し
!!
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
﹃無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
18. Quidditch Final
985
﹄
てきやがれ⋮⋮すみません先生。ちゃんと、ちゃんと実況しますので許してください
!!
た。
ビーターもブラッジャーを打ち込み、私は前後をブラッジャーで挟まれた状態になっ
ビーターが私を潰そうとし、行動を起こしたらしい。私を挟み込むようにもう一人の
突如風切り音が聞こえ、何かが私の耳元をかすめていった。どうやらスリザリンの
ヒューッ
手が取り、スリザリンゴールへと向かっていった。
た。というか本当に嫌われてますねぇ、スリザリンって。ボールはそのままケイティ選
ウッドさんがゴールを守ったことにより、スリザリン以外の観客席から歓声が上がっ
!!
﹄
!!
の
身
魔
を
強
ジャーが背中と直撃した。
化
せ
力
よ
循
ブラッジャーが二つとも直撃してしまいました
!!
﹃ああーッ
﹄
!?
環
から驚きの悲鳴が上がる。フレッドとジョージはむしろやっぱりという顔をしていた。
ジョーダンさんの驚きの声と共に四方の観客席、果ては両チームの一部を除いた選手
!?
大丈夫⋮⋮ええええ
言葉に魔力を乗せ、言霊を小声で紡ぐ。瞬間全身をめぐるエネルギー。同時にブラッ
Corpus confirmandas﹂
こ
﹁│ │ potentiam magicam、 │ │ circulation、 │ │
ブラッジャーはある。スリザリンからは歓声が、他からは悲鳴が聞こえた。しかしだ。
ジョーダンさんの実況に気づいた双子がこっちに来るが、すでに間に合わない距離に
﹃ああっと、グリフィンドールのシーカーがブラッジャーに⋮
986
私がしたのは単純。懐に入れた杖を媒体にしてシロウ達の使う魔術の真似事をした
のだ。理論はフレッドとジョージが確立していたので、あとは自分に適性のあるものを
探るだけだった。結果、私は身体能力強化に向いていたみたいで、今回は単純に体を硬
化させてブラッジャーの打撃を防いだのだ。
﹄
らってもピンピンしています
とも自分は予想外でした
誰がこんなことを予想したのでしょうか
少なく
!?
!?
最近は腹に受けても
?
改正であるため、スニッチは動けばわずかに反射し、その煌めきを確認することが出来
いつもの高度に箒を持っていき、フィールドを一望するようにスニッチを探す。今日は
まぁそれは兎も角、ようやく五十点差が付いたので、ようやく私も動くことが出来る。
ピンピンしてらっしゃるけど。
れはわかる。けど、それ言ったらウッドさんはどうなんだろう
まぁ確かにブラッジャー食らってピンピンしているのはおかしいかも知れない。そ
したグリフィンドールチームが更に点数を加算したと同時に三度試合は流れ出した。
ジョーダンさんの実況が鳴り響く。両チームともに唖然としている中、いち早く復活
!!
!!
﹃な、なな、何ということでしょう グリフィンドールのシーカーはブラッジャーを食
18. Quidditch Final
987
988
・
る。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
その程度の刹那の煌めき程度なら視力を強化せずとも見逃さない。
マルフォイは自分で探すことをせず、私をマークすることにしたらしいが、流石に箒
の差は理解しているらしい。私よりも低い高度で私を見張っている。更に言えば、私に
はブラッジャーは意味がないと思われたようで、スリザリンはチェイサーを潰すことに
専念している。しかし双子がそれを阻んでいるので、妨害を成功させることが出来な
い。おかげで私はスニッチ探しに専念できる。
互いに点数を取り合いながら十分が経過したけど、未だスニッチは現れる気配がな
い。グリフィンドールはリードをキープしたままである。私は全体を見渡す方向から、
部分分けした範囲を探す方針に切り替えた。
そ し て 見 つ け た。グ リ フ ィ ン ド ー ル の ゴ ー ル ポ ス ト 足 元 に 飛 ぶ ス ニ ッ チ を。マ ル
フォイはまだ気づいていない。でも直接的に向かえば向こうも気づくだろう。ならス
ニッチから視線のみを離さず、ジグザグに動いてマルフォイを翻弄させる。
案の定マルフォイはこちらの策に引っかかり、私が次にどこに行くのか予想できず、
オ ロ オ ロ と う ろ つ く ば か り。少 し は 自 分 で ス ニ ッ チ を 探 せ ば い い と 思 う の だ け れ ど。
それじゃあマルフォイ、驚くのはまだ早いわよ。特訓の成果、とくとその目に焼き付け
なさいな♪
﹄
いつの間にか身に付けたのでしょうか ファイ
!!
ア・ボルトのスピードも加わって何がなんだかわかりません
!!
?
││ここだ
試合場が爆発した。
けたときには、すでに私の手にスニッチはあった。
な風が吹いたように見えただろう。マルフォイが私に気づき、実況や観客が私に目を向
直感に従って一気に加速してトップスピードに入る。恐らくマルフォイには真っ赤
!!
マルフォイが一瞬私から気を逸らした。私から目を離した。
そ こ に 再 び 歓 声 が 上 が っ た。ど う や ら グ リ フ ィ ン ド ー ル が 点 数 を 増 や し た ら し い。
なければならない。
ニッチとマルフォイの双方を気にしなければならず、マルフォイは私の動きを先読みし
ジョーダンさんの実況が響くが、私とマルフォイはそれどころではなかった。私はス
!!
見せなかったトリッキーな動き
﹃グリフィンドールのシーカーが動き始めました しかしついこの前までの試合まで
18. Quidditch Final
989
990
気が付けば私は揉みくちゃにされていた。女性選手からは抱きしめられ、男性選手か
らは背中を叩かれ、観客選手問わず声を嗄らして叫びながらフィールドで各々歓喜を表
現していた。皆が嬉し涙を流し、飛び跳ね、真っ赤な旗を振った。
フレッドに肩車され、フィールドの中央に運ばれる。そこには号泣するウッドさんと
大きな優勝杯を抱える校長先生がいた。しゃくりあげながらウッドが渡した優勝杯を
天に掲げて思う。これほど興奮したのは、これほど嬉しかったのは初めてではないか
と。そしてこれは夢じゃないかと少しだけ不安になる。
人だかりを見渡しながら、ふと選手入場口に目を向ける。聖骸布のマフラーはしてな
かったけど、そこにはクリスマスの時に見た全身真っ黒けな服を着たシロウがいた。そ
の手には大きなクリスタルが抱えられている。
その表情は非常に柔らかく、優しげなものだった。少し伸びた髪から覗く鋼色の双眼
は、敵と相対したときのような鷹のようなものではなく、まるで暖炉の炎のように暖か
いものだった。そこでようやく、これが夢でないという実感が出来た。今この時は、私
も自分の気持ちに素直に身を委ねよう。
││││││││││││││││││││
思い出していた。
パートメントの椅子に座りながら、つい先日ダンブルドア先生と話していたことを私は
そして今日、荷物も汽車に積み終わり、あとは出発するのを待つばかりである。コン
外は魔法生物飼育学の先生であるハグリッドの補佐をすること担っている。
向こうの世界で家事能力を鍛えられたらしく、学校の長期休暇期間は漏れ鍋で、それ以
いき、防衛術の授業は一時的にスネイプ先生が兼任することになった。シリウスさんは
この三ヶ月で目まぐるしく状況が変化した。まずルーピン先生がひっそりと辞めて
シリウスさん絡みで授業を休んでいたため、総合評価で平均点丁度にされていた。
全員試験をパスしていることがわかった。ただまぁ何というか、シロウはちょくちょく
優勝戦から早三ヶ月、興奮が冷めない中でも試験結果は発表され、私たちの同級生は
19. エピローグ
19. エピローグ
991
﹂
?
﹁⋮可能性を求めることは間違っておらんよ﹂
月、このことが頭から離れることはなかった。
既に起こってしまったことにケチをつけるのは間違っているだろう。でもこの数ヶ
きなかった。もしかしたら、何か手があったかもしれないのに﹂
﹁ペティグリューは逃げてしましました。それに、シロウの戦いも見ていることしかで
日に染まり、仄かなオレンジ色の空間になっている。
のフォークスの頭を撫でながら、ぽつりとつぶやいた言葉に先生が反応した。書斎は夕
校長室でシリウスさんの今後について話を聞いていた夕刻。肩に乗っていた不死鳥
﹁どうしたのかね
﹁私は、なにか役に立てたんでしょうか﹂
992
ダンブルドア先生は私の正面に座り、真っすぐ私の目を見つめて言葉をつづった。
によって因果に狂いが生じて複雑に絡み合う。もしかすれば、今飲んだものか紅茶では
﹁じゃが、起きたことは変えることはできぬ。否、変える方法は存在するんじゃが、それ
なくコーヒーであるだけで様々な事象がこの先変わるやもしれぬ﹂
﹁些細なことでも無限の可能性を孕んでおる。今回我々がペティグリューを逃がしてし
まったことは、結果的にあやつの命を助けることに繋がった。そして予言通りになるの
なら、間接的にヴォルデモートの復活にもつながるじゃろう﹂
ダンブルドア先生は重々しく言葉を重ねる。
そこまで言うと、先生は紅茶を一口煽った。肩にいたフォークスは止まり木に戻り、
﹁そうじゃな。あとはエミヤシロウとの契約も繋がりの一つと言えよう﹂
い合ったとき、ほんのちょっとだけあいつの気持ちが流れ込んできたので﹂
﹁⋮なんとなくわかります。少し違うかもしれませんが、二年前ヴォルデモートと向か
﹁望む望まぬに関係なく、人の道は繋がりによって形成されておる﹂
19. エピローグ
993
今は寝ている。
わ
守護霊は天使の姿をしておったのう。魔法を使う前に、何かあったのじゃろう
先生の問いかけに私は静かに頷く。
と
﹂
大
もの達の遺志じゃ。母君の願いと愛は、天使という形で君の前に現れたのじゃよ﹂
変なことが我が身に起きたとき、その者に最も強く働きかけるのは経験、そして逝った
﹁自らの愛しきものが死ぬとき、その者が永久に我々の元から離れると思うかね
?
?
パトローナス
継 ぐ。君 の 場 合、視 認 で き る も の で い え ば 髪 色 と 虹 彩 の 色。精 神 面 も 然 り じ ゃ。君 の
﹁両親は両親であって君は君じゃ、思い悩むことはない。子は何かしらの形で親を受け
リューは私の両親なら進んで助けるといいました。ですが、私は彼を見捨てました﹂
﹁私は、まだ十三年しか生きていないのもありますが、人間が出来ていません。ペティグ
暫く互いに黙ってカップを傾けていたところ、私から口を開いた。
﹁⋮⋮私は﹂
994
19. エピローグ
995
優しく微笑みながら、しかしその目には悲しみを浮かべながらダンブルドア先生は言
葉を紡ぎ終えた。
││││││││││││││││││││
先日話していたこと思い返している間に、どうやら私は眠ってしまっていたらしい。
汽車は既に出発しており、現在ちょうど中間地点に差し掛かるころだった。
室内を見渡すと、シロウ以外の面子はみんな眠っていた。シロウはシロウで、大きな
宝石を通して誰かと話している。あの宝石の虹色に輝いている感じからして、たぶんイ
リヤさんたちと話しているのだろう。柔らかい表情をしているから、たぶん深刻な話で
はないだろう。私は軽く食事をとって再び眠りについた。
◆
﹂
?
俺がいない数年の間にそのようなことになっていたとは、冬木だけなら過ごしやすい
﹁そうか。なら安心だな﹂
う非人道的なもの以外は受け入れられてるわよ﹄
﹃ああ、今や冬木は協会公認の魔術・一般混合地として成り立ってるわ。だから世間でい
﹁隠蔽とかは大丈夫なのか
行するわ。あと剣吾の友達も一人﹄
﹃ええ、紅葉も華憐も楽しみにしてたわよ。あと綾子の娘さんと蒔寺さんの娘さんも同
﹁そうか、今度は家族全員で来るのか﹂
996
だろうな。
﹄
﹁ああそういえば、剣吾に留学の誘いが出てるぞ﹂
﹃もしかしてあんたの在籍している学校
しら
﹄
﹃まぁ、そこらへんは本人に任せましょう。何ならエミヤ家全員で一年お邪魔しようか
びたいそうだ﹂
ベントごとをやるらしい。俺一人での護衛だと厳しいかもしれないから、保険として呼
﹁ああ、ダンブルドアが来年度一年間どうかとさ。まぁ、何やら外部の学校と連携してイ
?
﹃ええ。じゃあ来週ね。黒化英霊の話もその時しましょう﹄
﹁またイリヤが全面賛同しそうな話だな。そこらは君らに任せる﹂
?
宝石をしまいながら。自身の内面に意識を向ける。すると手元に一枚のカードが出
しい。その時は俺たちもいく予定になってるため、恐らく現地集合になるだろう。
るのだろう。どうやらウィーズリー一家と共にハーマイオニーやマリーも見に行くら
来週来るということは、ちょうどクィディッチ・ワールドカップ三日前にこちらに来
﹁ああ、また﹂
19. エピローグ
997
998
てきた。
あの日以来カードの暴走は起こっていない。アンリ・マユが言うには、俺が奴を撃破
したことである種の封印状態になっているらしい。だが一応持ち主は俺となっている
カ
レ
イ
ド・
ス
テッ
キ
が、専用の道具がないとカードの本当の使い方ができないそうだ。
頭にふと問題ばかり起こす杖が浮かんだが、頭を振ってそのイメージを祓う。同じ宝
石翁製の道具なら剣吾も持っているため、あの子なら使えるだろう。
今年も濃い一年だった。一人取り逃がすという失態をやらかしたが、当初の目的であ
るブラックの釈放というミッションは果たした。来年は色々と面倒が起こりそうな予
感がするが、対処にあたるのが俺一人でないだけ随分とマシである。
さてそろそろキングス・クロス駅に着く。お姫様たちを起こすとするか。
19. エピローグ
999
││何故だ。
こ
いにしえ
││何故あの娘の鞘の気配がするのだ。あの鞘は永久に失われたはず。
││これは、確かめねばなるまい。この島国に古より在る﹃赤﹄として。
炎のゴブレット
小柄の男が、何やら﹃自分﹄に諫められているのは分かった。しばらくすると霞が晴れ、
そこで周りに霞がかかり、周りの人間が何を言っているかがわからなくなった。ただ
ファーを動かし、暖炉に近づけた。
﹃自 分﹄の 口 か ら 発 せ ら れ る し ゃ が れ た 声。ワ ー ム テ ー ル と 呼 ば れ た 小 柄 な 男 は ソ
﹁ワームテール、俺様をもう少し火に近づけろ﹂
ソファに力なく座る﹃自分﹄の目の前に一人の鼠面の男が寄ってきた。
懐中電灯を片手に小屋から出てきた。
の管理をしている一人の老人が見える。こちらが点けている明かりに気づいたようで、
どこかの村の外れにそびえ立つ大きな屋敷、その窓から眺めた先の小屋に、その屋敷
最近同じような夢ばかり見る。
0. プロローグ
1000
再び声が聞こえた。
ん
ナギニか
﹂
﹁もう一人の忠実なるしもべに伝えろ。ホグワーツでのことは逐一報告するようにと。
?
﹁さ、さようでございますか、御主人様﹂
﹁ワームテール、ナギニが面白い情報を持ってきた﹂
シューと音を出す。
蛇が﹃自分﹄の近くに寄り、シューシューと音を出した。応えるように﹃自分﹄もシュー
?
い声をあげた。
電灯を持った老人が立っていた。それを察知し、
﹃自分﹄はクツクツと喉の奥で静かに笑
それを聞くや否や、小柄な男は扉をすぐに開いた。すると蛇の言う通り、先ほど懐中
しい﹂
﹁ああ。ナギニによれば、この部屋の扉のそばに老いたマグルが立ち聞きをしているら
0. プロローグ
1001
﹁どけ、ワームテール。客人をお迎えせねばな﹂
イオニーである。
?
﹁随分とうなされてたけど﹂
﹁マリー、大丈夫
﹂
すと、ランプを片手に私を心配そうに見つめる二人の人物がいた。親友のロンとハーマ
体からは絞れるほどの汗をかき、激しく息をつく。少し落ち着いてから上半身を起こ
目が覚めた。
││││││││││││││││││││
緑の閃光を飛ばした。
悲鳴を上げる。そしてその悲鳴に被せるように﹃自分﹄は言葉を発し、手に持つ杖から
﹃自分﹄がそういうと小柄な男はどき、老人の姿が見えた。老人は﹃自分﹄の姿を見て、
1002
ランプを小机に置き、ハーマイオニーは熱を測りながら、ロンはタオルを私に渡しな
がら訊ねてくる。それに対し私は首肯で返し、コップの水を飲み干した。
落ち着いたところで、ベッドから体を下す。部屋には私たち三人と、未だスヤスヤと
お休み中のジニーがいた。でも扉の外からは数人の気配がした。恐らく、私が魘されて
いるのを聞き、心配してくれたのだろう。
ズキズキと鈍く痛む首の傷跡を軽くもみ、大きく伸びをした。
﹂
﹁まぁ丁度いい時間に起きたし、私も準備するよ。大したことじゃなさそうだし。ほら
ジニー、起きる時間よ
﹂
﹁いつでも出れるよ。いや楽しみだよ、みんなの言うエミヤ一家に会えるんだから﹂
?
は外に出ないとできなかった十人以上の食事も、室内でできるようになっている。
が訪れた際に改築され、ウィーズリー夫妻の希望に近い広さに変わった。なので、前回
ジニーを起こし、みんなで階下の食卓に着く。﹁隠れ穴﹂は一昨年、アインツベルン家
?
﹁食事が終わったら、各自荷物を確認するんだ。ビルとチャーリーは大丈夫か
0. プロローグ
1003
﹁チャーリーもか、実は僕もだ﹂
﹁﹁二人とも驚くこと間違いなしだぜ﹂﹂
楽しそうな会話をする五人。確かシロウ一行とは今日合流する予定だ。クィディッ
チ・ワールドカップの試合会場に直接向かうらしく、私たちもこれから会場に向かう。
ポー ト
だ が 空 間 転 移 魔 法 を 使 う の で は な く、魔 法 ア イ テ ム を 使 っ て 会 場 に 転 移 す る ら し い。
食事を終わらせ、各々荷物をまとめてキーのある場所に向かう。なんでもキーは所謂
﹁移動キー﹂というそうだ。
マグルの﹁ガラクタ﹂らしい。マグルの目から隠すための措置だそうだ。だから見つけ
るのも一苦労らしい。
息子や、見つけたぞ
﹂
キーの置いてある林の中を探していると、奥のほうから声が聞こえた。
﹁アーサー、ここだ
!!
た。
声の聞こえた方向に向かうと、血色の良い髭を生やした男と見覚えのある青年がい
!!
1004
﹁エイモス
知ってるね
みんな、この方はエイモス・ディゴリーさんだ。息子さんのセドリックは
﹂
いるようだった。
?
出された。
ようにして猛スピードで移動した。そしてしばらく移動したあと、私たちは地面に投げ
るような感覚に襲われた。二つのブーツを中心に空気が歪み、生じた渦に吸い込まれる
エイモスさんに言われ、二手に分かれてキーに触れる。するとへその裏を引っ張られ
﹁ああ、その通り。指一本でも触れていれば大丈夫だ﹂
﹁ところで、キーはその二つのボロブーツですか
﹂
伝えていたらしいが、そこは息子が一番という親ならではの心で頭からすっぽり抜けて
スさんが過剰に反応したのは少し嫌だった。セドリックは私の落下の理由をしっかり
ウィーズリーさんの紹介でそれぞれ挨拶する面々。ただ私の番になったとき、エイモ
? !!
﹁なんともまぁ、派手な登場の仕方だな﹂
0. プロローグ
1005
﹂
﹁道具で空間転移だなんて、やっぱこちらとは違うのね﹂
﹂
?
?
﹁改めて、こんにちはシロウ。元気だった
﹂
﹂
?
?
﹁ああ、問題ない。君は⋮⋮嫌な夢でも見たか
﹁ッ
!?
﹂
ロウとイリヤさんたちが夫婦とは気づけなかったみたいだけど。
リックは、エミヤ夫妻の無意識の気迫に若干気圧されていた。ただ、やはり二人ともシ
アーサーさんの紹介でエミヤ夫妻への挨拶を済ませる。その際エイモスさんとセド
﹁これはこれは、お久しぶりです。また会えて嬉しいです。ほらみんな、挨拶だ﹂
ロウとイリヤさん、リンさんにサクラさんだ。
懐かしい声が聞こえた。顔を上げると、長身の男性とその三人の妻の姿があった。シ
﹁それもそうね。みんな大丈夫
﹁でもそれがいいんじゃないんですか
1006
流石シロウ、誤魔化せなかったか。
﹁ちょっとね。あとで話すわ﹂
﹁わかった﹂
話をする際、イリヤさんたちも同席することになった。シロウに加えて奥さんの三人
がいてくれるなら、何かしら収穫を得ることが出来るだろう。
﹂
﹁なぁなぁシロウ﹂
﹁剣吾はいるのか
因みにディゴリー親子は既にこの場を離れている。私たちもそうだけど、事前に予約し
そこにフレッドとジョージが近寄ってきた。どうやら剣吾くんを探しているようだ。
?
ああ、今こっちに⋮﹂
ていた場所にテントを張るらしい。
?
﹁おっ、いたいた﹂
﹁ん
0. プロローグ
1007
﹁ああ来たか。他の子もいるな
﹁おう、ちゃんといる﹂
﹂
﹁ほれ、みんな自己紹介しろ。シィも、会ったことない人がいるだろう
﹂
噂をすればなんとやら、剣吾君も合流してきた。ただ初めて会う子も4人ほどいる。
?
上のお姉さん二人と大きな男の人が前に出た。
以後、お見知りおきを﹂
﹁初めまして、私は遠坂華憐。母・遠坂凛と父・衛宮士郎の娘、衛宮四兄姉妹の次女です。
優美さを兼ねて、自然にお辞儀をする紅葉さん。
﹁初めまして、間桐紅葉です。母・間桐桜と父・衛宮士郎の娘、衛宮四兄姉妹の長女です﹂
きょうだい
剣吾君に促され、リンさんとサクラさんにそっくりな子が、シィちゃんが、そして年
?
1008
シィって呼んでね
一番下だよ﹂
優雅に片手を胸に当て一礼する華憐ちゃん、流石はリンさんの子供。
﹁シルフェリア・フォン・E・アインツベルン
!!
浮かべている。
顔する。後方にいたちょっとゴツい男の人でさえ、口元にちょっとした穏やかな笑みを
そして元気よく片手を挙げて挨拶するシィちゃん。可愛らしい彼女の様子に、一同破
!!
よろしくな﹂
﹁柳洞綾音、剣吾の同級生で幼馴染だよ﹂
﹁同じく同級生で幼馴染の蒔寺葵だ
!!
お姉さん二人が挨拶する。二人とも美人だなぁ、リンさんとはまた違う強さと、シィ
こいつ
ちゃんとは違う活発さを感じる。
﹁﹁﹁﹁え
ッ
"
﹂﹂﹂﹂
﹁⋮白銀浄ノ助、剣吾の友人で、一応年齢は16だ﹂
0. プロローグ
1009
!?
最後の浄ノ助さんの紹介に、私たち面々は口を阿呆のように開けた。シロウに迫る身
長に、シロウ以上の筋骨隆々な体。そして何というか、シロウやイリヤさんたち、剣吾
くんのように命の駆け引きをしていたような気配がする。とても日本の高校生には見
えない。
たなんて。これじゃあ親子そろって一夫多妻になっちゃうかも。
それにしても剣吾君、ジニーに加えてアオイさんとアヤネさんにまでフラグを立てて
男子陣は男子陣で友好を深め、テントに着くまでに仲良くなった。
シロウの先導で私たちはテントの場所に行くことになった。道中女子陣は女子陣で、
ウィーズリーさんたちの隣だ。案内しよう﹂
﹁ま ぁ 積 も る 話 も あ る だ ろ う し、試 合 ま で テ ン ト で 休 ん で お こ う。俺 た ち の 場 所 は
1010
﹂
1. ワールドカップと襲撃
﹁いやはや皆さん、息災でしたか
のついたテントの列を縫うようにして移動する。
行と私たちのテントは隣同士らしい。だから結構な大人数が、色とりどり、様々な飾り
エミヤ夫人達と談笑しながら、私たちは指定の場所に向かっていた。どうもエミヤ一
﹁はい。妻共々、家族一同元気にやっております﹂
﹁ええ、おかげさまで。息子さん達もウィーズリーさんもお元気そうで﹂
?
ウィーズリーおじさんは微笑みながら、でも少しの呆れを交えながら口を開いた。
﹁毎度のことだが﹂
1. ワールドカップと襲撃
1011
﹁大勢の魔法使いが集まると見栄を張りたくなるらしくてね。あんな感じで派手になっ
ちゃったりすることが大概なんだ。認識阻害を張っているとはいえ、一応ここはマグル
の土地なのにね﹂
していた。
彼らの言葉が聞こえた名前も知らない魔法使いたちは、気まずそうな顔や眉を顰めたり
まぁ、確かにシロウたちの言っていることは的を射ているため、反論のしようがない。
もうボロクソな言われよう。サクラさんは三人に対して苦笑を浮かべている。でも
﹁あはは⋮﹂
﹁慢心はいらぬ悪状況を生み出しかねん。そこらへん、この世界は認識が甘すぎる﹂
﹁本当よ。この世界は暮らしやすいのではなく、﹃魔法﹄に絶対的な信頼を持ちすぎね﹂
ねばならないというのに﹂
﹁魔の道に入った、いや、
﹃普通﹄から逸脱した存在である私たちは、隠蔽を常に心がけ
おじさんの発言に、エミヤ夫妻が同調する。
﹁﹁まったくだ︵ね︶﹂﹂
1012
辿り着いた場所にはまだテントは立っておらず、エミヤとウィーズリーを示す立札が
地面に刺さっっているだけだった。私たちは荷物を置くと、早速テントの設営に取り掛
かった。といっても魔法は使わず、手作業で組み立てる、加えて手慣れてるエミヤ一家
の指導もあって、何故か十分ほどで二つのテントが立った。
﹂
一 度
﹁よし、と。地図を見る限り、この場所は競技場のすぐ裏手の森の端らしい。とても近い
場所だ﹂
﹁試合はいつからなの
﹁試 合 は 明 日 の 夜、8 時 か ら だ。そ れ ま で の 食 事 等 は 一 切 魔 法 な し で や る ぞ
やってみたかったんだ﹂
夜に試合があるのか。私たちは問題ないけど、シィちゃんは大丈夫なのだろうか
﹁ん、パパかママに抱っこしてもらう﹂
成程。シィちゃんは自分が眠る時間を決めてるわけだ。ならあまり心配はいらない
?
!!
?
﹁シィ、眠くなったら寝ても大丈夫だからな﹂
1. ワールドカップと襲撃
1013
かな。
それから私たちはシロウたちの指導の下、何故か野営の基礎を学びつつ、食事やお風
呂︵これまた何故か大きなドラム缶製の︶などの準備を済ませた。流石経験者だけあっ
て野草毒草などの知識も沢山あり、私たちは普通じゃ学べない知識を取り込んでいっ
た。
﹂
﹁そういえば剣吾﹂
﹁ん
るらしい。
﹁この前世界を超えたらしいが、何してたんだ
﹂
せているのは気にしていない。アオイさんやアヤネさんは、魔道具で常時翻訳されてい
に合わせてくれており、英語で話してくれている。ちなみにシィちゃんたちが英語を話
君、日本の不良のような見た目とは違い、勉強ができるらしい。基本的な会話は私たち
到着してから次の日、昼食を摂っているときに浄ノ助さんが口を開いた。白銀浄ノ助
?
﹁ああ、あのときか。あれは師匠に頼まれてな、とある世界に救援に行ってたんだよ﹂
?
1014
﹁ならなんであんな落ち込んでたのよ
会いと別れがあったのだろう。
﹂
り、それ以上は語ろうとしなかった。でもそれだけで分かった。彼にとって、重要な出
チャーリーさんビルさんは、貴重な体験談に興味津々らしい。でも健吾さんは首を振
アヤネさんも便乗して剣吾君に質問する。ウィーズリー一家、特にパーシーさんや
?
ど﹂
﹁暗い話はここまでにして、今回の試合、クィディッチって競技の詳しい話が聞きたいけ
﹂﹂
!!
私はというと。
からお昼寝に入ってジニーが面倒をみてた。
リー三兄弟によるクィディッチ解説を聞いていた。ついでに言うと、シィちゃんは途中
詳しいことは分からなかったらしく、それから試合の時間まではロンを加えたウィーズ
話題を変えた剣吾君に、フレッドとジョージが乗っかった。シロウ以外のメンバーも
﹁﹁任せろ
1. ワールドカップと襲撃
1015
﹁成程。夢という形で経験の共有か﹂
﹂
?
﹂
?
シロウは私の首元を指差して言葉を発した。やはり数か月前、ペティグリューを逃が
を介してな﹂
た。恐らく、感覚共有はその過程で発生した魔力の制御ミスによるものだろう。その傷
﹁ペティグリューが逃走したことにより、奴を復活させるために動ける部下が一人増え
おじさんが怪訝そうな顔をする。
﹁力を増している
﹁⋮一つ考えられるとすれば奴が⋮ヴォルデモートが力を増していることだろうな﹂
らっている。予めどう話すかは要点を纏めていたので、すぐに話し合いは始まった。
奇妙な夢についての相談をしていた。エミヤ夫妻におじさんを交えて話を聞いても
﹁いいえ、今年に入ってからです﹂
﹁今までこんなことはあったの
1016
ヴォルヴォロス ってやつは、今は一人じゃ何もできない
したことが痛手だった。ヴォルデモートは近いうちに必ず復活する。そして私の前に
立ちはだかる。
?
だからマリーから覗かれていることにも気づけない﹂
﹁そのヴォルデモ│太
んでしょ
?
﹁サクラの言う通りよ。ロクでもない奴はロクでもない方法を躊躇なく使うわ﹂
なく利用してきますよ﹂
﹁でもいつか、近いうちに気づくと思います。そして聞いた通りの人間なら、それを躊躇
?
に、基本は一緒にいれるシロウから、たまにリンさんやイリヤさんたちからラインを閉
その旨を話すと、満場一致でその方法が取られることになった。そして今年在学中
ロウとの間に繋がっているラインのようなものではないのか。
見えない絆のようなものとダンブルドアはおっしゃっていた。ということは、これはシ
そのときふと一つのイメージが思い浮かんだ。傷跡は、ヴォルデモートと私を繋ぐ、
らせていた。
エミヤ夫妻は考え込み、現状を打開する策を練り始めた。私も何かないかと考えを巡
﹁なにか対策はないだろうか﹂
1. ワールドカップと襲撃
1017
1018
じる方法を教わるということで解決した。
││││││││││││││││││││
話し合いが終わるころには外は夕方になっており、私たちは早めの夕食をとってスタ
ジアムに移動した。
スタジアムには既にひとがひしめき合っており、移動するのも一苦労だった。幸い私
たちはみんな指定席のチケットだったため、席の心配はしなくてよかった。でもそれで
も一つ一つの席の感覚が狭かったため、比較的小柄な私もほんの少し窮屈に感じた。
その中で、ファッジ大臣の開会宣言のもと始まったワールドカップ。アイルランドと
ブルガリアの試合は、両チームともに﹃ファイアボルト﹄使用しているために、ものす
ごく目まぐるしく選手が動いている。余りの速さに、アオイさんやアヤネさんはついて
いくのがやっとみたいだ。エミヤ一家に関しては既に把握しているので、シィちゃんが
見えていることには驚かない。
と、暫く双方が得点しあう状況でシィちゃんがフィールドの一点を指差した。
﹂
﹁マーちゃん、あれキラキラのボールでしょ
﹁え
﹂
?
改めてエミヤ一族は恐ろしく感じる。潜在能力が計り知れない。
ガリアのクラム選手に目を移すけど、彼ら二人はスニッチを見つけた様子はなかった。
ているスニッチがいた。驚いて両チームのシーカー、アイルランドのリンチ選手とブル
シィちゃんの指差す方法に全員が視線を向けると、そこには細かくちょこまかと動い
?
﹄
?
!!
!!
百六〇対百七〇でアイ
!?
﹃クラムがスニッチを捕った しかし何といことでしょう
!!
観客が応援を飛ばす。実況が喧しいほどの声量で騒ぐ。そして⋮⋮
は確かにスニッチがあり、アイルランドのシーカーも同様に突進していた。
アナウンスにつられるように、観客の視線がクラム選手に集まる。彼が突進する先に
か
﹃おおっと ブルガリアチームのシーカーが動いた もしやスニッチを見つけたの
1. ワールドカップと襲撃
1019
﹄
ルランドの勝利です
です
スニッチを掴んだのはブルガリア、しかし勝者はアイルランド
!!
そこに二人がより不快そうに顔を歪めてテントに戻ってきた。
も同じらしく、パジャマに着替えずに身構えていた。
妙に真剣な時のシロウと重なって見え、私は嫌な予感が頭をかすめた。二人のお姉さん
と、そこで浄ノ助さんと剣吾さんが顔をしかめてテントの外に出て行った。その顔が
みんなは騒いでいるらしく、火花が飛んだり、声が聞こえる。
ニーは未だ興奮して騒いでおり、先ほど観た試合内容で盛り上がっていた。外も未だに
助君やお姉さん二人は既に寝る準備を始めていたけど、ウィーズリー兄妹やハーマイオ
試合の興奮冷めやらぬ中、私たちは就寝のためにテントに戻った。私や剣吾君、浄ノ
に勝てないなど、ショック以外の何物でもない。
能性がある事態ではあるが、実際に直面すると言葉が出てこない。スニッチを掴んだの
実況のアナウンスが鳴り響く。あまりの結果に、私たちは唖然としていた。起きる可
!!
﹁出ろ。上着と杖だけ持って出るんだ﹂
1020
1. ワールドカップと襲撃
1021
有無を言わさない浄ノ助君の口調に異常を察知したのか、騒いでいたロン達も急いで
準備をし、外に出た。
外に出た瞬間目に映ったのは火の海だった。
2. 闇の印と校長のお知らせ
響き渡る悲鳴、鳴り響く轟音、燃え盛る炎、肌を焼く熱気。
﹂
視界に、聴覚に、触覚に働きかけるものすべてが、今の状況を異常だと訴える。
華憐
!!
﹁⋮紅葉
﹂
!!
シルフェリア
﹂
?
!!
﹁なに、お兄ちゃん
﹂
﹁皆を連れて森に入れ。一人も漏らすな。そして遮断結界と防御結界をそれぞれ張れ。
ちはシロウたちのテントにいたはず。
剣吾くんが呼ぶと、私たちの後方から紅葉さんと華憐ちゃんが出てきた。確か彼女た
﹁ここにいます、お兄さん﹂
﹁はい
!!
1022
指揮を執る剣吾君は、次にシィちゃんに声をかけた。まさか4歳の子供にも何かさせ
るのだろうか。彼女はまだ魔術の類は教わってないと聞いてるけど。
﹂
わかるよ﹂
わかるな
﹁お姉ちゃん二人が張った結界に力を入れるんだ。目に力を入れるように、指先から。
﹁あい
?
﹁わかったわ﹂
﹁お姉ちゃんが大丈夫と言ったら力を入れるのはやめていい。二人とも、頼んだぞ﹂
!!
た。紅葉さんによると、シロウたちは逃げ遅れた人たち、マグル魔法族問わずに救出に
剣吾君は外装を変え、浄ノ助さんは長髪の大男を出しながら騒ぎの中心に向かっていっ
私たちは剣吾君の指示に従い、森の入口により、紅葉さんたちの張った結界に入った。
護衛にまわってくれているのだろう。
さんもそれに同行する。実戦経験の少ない、もしくは皆無な紅葉さんたちは、私たちの
恐らく剣吾君はシロウたちと一緒に、事態の鎮静化に向かうのだろう。そして浄ノ助
﹁はい。浄ノ助さん、どうか兄をお願いします﹂
2. 闇の印と校長のお知らせ
1023
﹂
﹂
向かってるらしい。主犯の鎮圧は剣吾君達に一任したそうだ。
﹁な、なんだ貴様ら
﹁俺に質問をするな﹂
﹁いい加減、うっとおしいぜお前らぁ
ていた。ついでにいうとその一人以外、全員顔が腫れあがっていた。
剣吾君と浄ノ助さんによって捕縛された魔法使いは、一人を残して全員気絶させられ
おじさんの一言に紅葉さんたちは結界を解除し、シロウさんのもとに寄った。
﹁みんな、もう大丈夫だ。結界から出てきていい﹂
と、そこにアーサーさんが近寄ってきた。
て治療されていく。
いく炎はシロウとリンさんによって鎮火され、怪我人はサクラさんとイリヤさんによっ
彼らに捕まっていたマグルたちも無事救助され、二人によって捕縛された。燃え移って
杖を構える間もなく次々にのされていく、今回の騒動の元凶である黒ずくめの集団。
!!
!?
1024
モースモードル
﹁﹃闇の印よ﹄
﹂
◆▼●▼●◆
﹂
﹂
!!
と、急に攻撃が止み、代わりに気絶しそうになるほどの重圧がこの場を襲った。
使いによる攻撃を逸らした。しかし魔法使いたちは執拗に攻撃呪文を放ってくる。
真っ先に気づいた紅葉さんが結界を張り、恐らくルーン文字による、突如現れた魔法
﹁﹃麻痺せよ﹄
ステュービファイ
!?
うな音が響き、私たちの周囲が取り囲まれた。
な悲鳴が上がる。同時に周囲で軽い爆発音、まるで試験管にためた水素に引火させたよ
あちらこちらで悲鳴が上がる。まるで再び恐ろしいものでも見たかのごとく、爆発的
顔を出した。
髑髏となった。口の部分からは一匹の長い蛇が鎌首を挙げ、胴体を幾重にも巻きながら
空で弾けた光は緑に発行する靄となり、徐々に形作り、果たしてそれは一つの巨大な
突如後方から響いた声。振り向くと森の中から緑の閃光が打ちあがり、空で弾けた。
!!
!!
﹁
2. 闇の印と校長のお知らせ
1025
﹂
?
﹂
?
﹁駆けつけた、な⋮﹂
とを確認し、部下と共に駆けつけたのだ
﹂
﹁私は魔法省の役人のバーティ・クラウチだ。この近辺から闇の印が打ち上げられたこ
魔法使いの中の一人が口を開いた。
﹁わ、わたしは⋮﹂
る。二年前のロックハート時の比じゃない、周囲が凍り付くほどの重圧である。
重圧の発生源は衛宮一家。自分たちに向けられているわけじゃないのに、息苦しくな
﹁ハードボイルドじゃないな。男の風上にもおけない﹂
﹁あはははは。死ぬ
﹁クスクスわらってゴーゴーですね。ええ、くぅくぅおなかがすきました﹂
﹁殴ッ血KILLのと捻ジ切ルの、どっちがいい
﹁貴様ら、俺たちの子供に手を挙げるとは⋮⋮死にたいのか﹂
1026
!!
クラウチ氏の言葉を聞くや否や、ゴミでも見るような視線でクラウチ氏を眺めるエミ
ヤ夫人たち。シロウと剣吾君は、そもそも目に感情がこもってなかった。言ってみれ
ば、いつでも人を殺せる目、殺しをすることに躊躇がない眼をしていた。
﹁それにしては随分と遅い登場だな。既に鎮圧された後に駆けつけるとは、いやはや、魔
法省は随分とドッシリと構えているのだな﹂
﹁ドッシリと構えすぎて、重い腰が上がらなければ意味がないけど﹂
シロウと剣吾君による口撃を受けるクラウチ氏。その顔は真っ赤に染まり、怒りに爆
発しそうになっていた。
﹁⋮⋮﹂
大事だが、市民の安全を優先すべきではないのかね
﹂
﹁犯罪者の捕縛よりも、あの空の文様のほうが大切なのか 犯罪者を捕まえることも
﹁⋮見る限りあなたは犯罪者を捕まえる機関に所属するみたいだが﹂
2. 闇の印と校長のお知らせ
1027
?
?
何もしゃべらないクラウチ氏。今この状況は、圧倒的に魔法省の人たちに不利であ
る。
﹁⋮⋮君たちは何者かね
﹂
ワールドカップの騒動から数週間後、私たちは新学期を迎えるためにホグワーツにい
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
葉だけだった。
沈黙を守っていたクラウチ氏が出せた言葉。それはシロウたちが何者かを尋ねる言
?
許さないからな﹂
﹁その代わり、こいつらを尋問するのはこちらにすべて任せてもらう。手を出すことは
して追い付けんだろう﹂
﹁まぁ貴様らが犯人を最優先するというなら、勝手に追えばいい。どうせ空間転移でも
1028
た。
既に新入生の組み分けも終わり、食事も終盤にかかっていた。デザートを腹に入れ、
夏の間の近況を話し、校長先生の締めの言葉を待った。
ついでに言うと、今年は剣吾君が留学という形でグリフィンドールにいる。自己紹介
ではイリヤさんの苗字を名乗り、シロウの親戚という形で今年を過ごすらしい。ただ自
己紹介の時、思わずシロウをお父さんと呼びそうになったのはご愛敬かな。
おうかのう﹂
﹁⋮さて、皆大いに食べ、大いに話したじゃろう。ここからはわしの話に耳を傾けてもら
デザートが下げられた後、ダンブルドア先生が立ち上がった。
ら何やら飲んでいた。その顔は古傷で歪み、立ち方は片足に重心がかかるようになって
片方に妙な形の義眼を入れた初老の先生が立ち上がり、会釈をした後に自前の酒瓶か
する防衛術﹄を担当なさる﹂
﹁ではまず、新任の教員を紹介しよう。アラスター・ムーディ先生じゃ、﹃闇の魔術に対
2. 闇の印と校長のお知らせ
1029
おり、義眼はギョロギョロとせわしなく動いていた。
﹂
?
﹂
!?
知らないため、フレッド含めた生徒たちが騒ぐ理由がわからない。それほどにまで大き
今度はフレッドが驚きの声を上げる。正直対抗試合︵以下TWT︶のことは露ほども
﹁御冗談でしょう
我らがホグワーツで行われることになった。三大魔法学校対抗試合が﹂
ト ラ イ ウ ィ ザ ー ド・ ト ー ナ メ ン ト
り、ここしばらくは中止されとった。じゃが今年いよいよもって復活することになり、
﹁これはとても由緒ある伝統的なイベントじゃ。過去に夥しい量の死者が出たことによ
がかかるんじゃよ﹂
トのためじゃ。このイベントは非常に大きなイベントでの。準備期間等に莫大な時間
﹁理由は今年、我らがホグワーツ魔法魔術学校で十月より、一年を通して行われるイベン
ジョージがぼやく。
﹁うそだろ
﹁そして次にじゃが、今年は寮対抗クィディッチの試合は取りやめじゃ﹂
1030
なイベントなのだろうか。
旬に本項に到着する予定じゃから、失礼にならんように。そして参加者は17歳以上の
﹁今回はダームストラング、ボーバトンの二校を招くことになっておる。両校は今月中
みとさせてもらう。それは数々の種目が危険なものであり、必要な措置であると考えた
からこそである。ああそれと、ミスター・アインツベルンも参加不可能じゃ﹂
校長先生がその後軽くTWTについて説明すると、今夜は解散になった。寮に帰る途
中、生徒たちは対抗戦のことに夢中になり、話し込んでいた。
﹂
?
を伴う競技なら、率先して観戦したいかというと首を横に振る。
者が出たという話を。私はそんな戦闘狂じゃないから出たいとは思わない。そして死
みんな思い思いの言葉を口にしている。でも忘れていないだろうか、過去に沢山の死
﹁少しぐらいスリルがないと面白くないよ、あーあ、僕もでたいなあ﹂
﹁どんな競技があるんだろう
﹁17歳以上だけが参戦なんて、不公平だよな﹂
2. 闇の印と校長のお知らせ
1031
﹂
?
・
・
万能じゃないのに、なんでもできると思いがちである。
代のマグルは銃を持って指先を動かすだけで十分な殺傷をすることが出来る。魔法は
あり、私たち魔法族の短所でもある。私たちが杖を振ったり、呪文を唱えている間に、現
私たちは魔法と言うものに絶大な信頼を置きすぎている。それは紛れもない事実で
ため、反論できない。
た。まぁでも、彼らの言うことはもっともだし、いくらか私にも当てはまる事柄もある
私のすぐ隣にいるエミヤ親子。彼らは呆れ5割、絶望4割、怒り1割で会話をしてい
﹁そしてお前が出場しないことだ﹂
﹁救いがあるとすれば、母さんたちが今度来るのは来年の6月﹂
﹁言うな。特に凛とイリヤはぶちキレるのご想像に難くない﹂
﹁はぁ⋮母さん達が今度きたときが怖い﹂
﹁⋮諦めろ、剣吾。むしろマリーだけでもマトモなのが救いだ﹂
・
﹁⋮なぁマリーさん、父さん。この世界の学生ってこうまでも危機管理能力がないのか
1032
ああそのことだが⋮﹂
﹁⋮そういえば、父さんは参加しないのか
﹁ん
一応3〇歳だろ
?
﹂
?
﹁で、俺が参加するかだったかな
?
・ ・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
と剣吾君について、ある程度事情を知っている人たちしか聞いていないけど。
シロウの言葉を、周囲の人はいつの間にか聞き耳を立てていた。と言っても、シロウ
﹁ああ﹂
﹂
ブスを撃退した後、再び列に戻って口を開いた。
シロウは一旦そこで言葉を切り、上空から襲撃しようとしたポルターガイストのピー
?
肩を落とすシロウと、その肩に手を置いて慰める剣吾くん。哀愁漂う二つの背中を見
﹁⋮この世界においても大変だな﹂
いな﹂
﹁ああ。対抗試合だが、依頼で特例で参加しなければならない。まったく、迷惑極まりな
2. 闇の印と校長のお知らせ
1033
1034
ると、やはり二人は親子なんだなぁと感じる。髪形や雰囲気など、異なる部分は多々存
在する、が、理屈では説明できない部分で親子と感じさせる。
なんか頭の中に﹁幸運E﹂という言葉が響いたけど無視しておこう。
3. 愚者と来校者
新年度が始まって早一週間、ハグリッドとシリウスさんの指導の下で飼育学を学んだ
り、ロンの失言で占い学の宿題がどっさり出たりと、中々ハードな一週間を過ごしてい
る。
そして週末金曜日の昼食中のこと。マルフォイが﹃日刊予言者新聞﹄という魔法界の
新聞を持って私とロンのところにやってきた。満面の笑みを浮かべてい様子からして、
私たちにとって不快な話なのだろう。
﹂
!!
君の父親が乗ってるぞ
!!
害。そして理不尽にも非難されているアーサーさんに関する記事だった。
いて書いてあった。ワールドカップの時の杜撰な警備。主犯たちのマグルに対する被
マルフォイの掲げている新聞の一面めには、ワールドカップの時の魔法省の失態につ
﹁おーいウィーズリー
3. 愚者と来校者
1035
ロンのお父さん、アーサーさんは魔法省の﹁マグル製品不正使用取締局﹂に勤めてい
それともこんなものが君らの家なのかい
﹂
るけど、今回の主犯たちがマグル製品に魔法をかけていたらしく、それを見抜けなかっ
たとして非難されていた。
﹁この写真の建物は豚小屋かい
?
床をともにしているのかい
﹂
?
?
それとも、ウィーズリーの母親は本物の豚なのかい
?
﹁教えてくれ。これは本当に家なのかい そしてそれともウィーズリーたちは豚と寝
嫌らしいニヤニヤを浮かべながら、今度は私に顔を向ける。
﹁そう言えばポッターはこの家に泊まったそうだね﹂
がする。
顔をしている。心なしか、私の隣でナッツを食べていたハネジローも毛が立っている気
マルフォイの挑発が続く。近くにいたほかの生徒は、スリザリン生を除いて嫌そうな
?
1036
流石の言い草に、私もいい加減に腹が立ってきた。でもここで言い返したり殴りか
かったりすれば、マルフォイと同類になってしまうから必死に自分とロンを抑えてい
﹂
た。ロンは今にも殴りかかりそうだったので、身体強化をして何とか私一人で抑えてい
る。
﹁何の騒ぎだ
配遮断まで使って。
﹂
邪魔しないでくれるかい
﹂
ちらに来たらしく、わざと遠回りしてマルフォイの後ろから近寄ってきた。わざわざ気
干白いような色である。シロウの長男の剣吾君だった。どうやら騒ぎを聞きつけてこ
そこに白髪紅眼、長身の男子生徒がやってきた。その肌は黒くなく、東洋人よりも若
?
なんのだ
?
﹁邪魔
?
?
生意気な子供と大人のやり取りを見ているようで、次第に怒りも収まってくる。
マルフォイがたてついていくが、すっとぼけるような発言をして躱す剣吾君。まるで
?
﹁⋮何だい君は
3. 愚者と来校者
1037
これ以上その汚らわしい〟穢れた血〟
?
﹂
?
﹁図星かい まったくこんな奴をこの学校に入れるなんて、この学校も堕ちたものだ
﹁⋮⋮﹂
人というのもはばかれるようなものなんだろう
の口で言葉を発さないでくれ。どうせ下賤な君のことだ、君の家族も低俗極まりない、
ミヤの親戚なんて嘘で入ってきたんだろう
﹁だいたい君は外の人間のくせに、僕たちの事情に口出ししないでくれ。どうせ君も、エ
1038
︵お気になさらず。さぁ早く︶
︵ありがとう、剣吾君。あとでお礼するわ︶
︵⋮マリーさん、今のうちにロナルドさんを︶
に向けさせたらしい。その証拠に、マルフォイは体ごと剣吾君のほうを向いている。
積し始めていると、剣吾君が目配せしているのに気付いた。どうやらわざと標的を自分
挑発と侮辱の対象は、ロンから剣吾君へと移った。聞くのも嫌な暴言にまた怒りを蓄
よ。父上が知ったらなんとおっしゃるか⋮﹂
?
剣吾君に促され、急いでロンをつれてこの場を離れる。大広間の出口に近づいたと
き、後方から大きな物体が回転しながら飛来し、大広間からでて壁に激突した。壁にぶ
つかって床に落ちたそれはどうやらマルフォイだったらしく、床に這いつくばって呻い
ていた。
﹁⋮存外に弱いな。あれほど大口を叩いていたものだから、てっきり力に自信があると
思っていたが﹂
背後からゆっくりと近づいてくる人物。振り返らなくてもわかる、濃密な怒気を纏っ
た剣吾君だった。まるでモーゼの海割りのごとく、人込みが分かれる中歩んできた剣吾
君は、ゆっくりとマルフォイに近寄った。
﹂
?
吾君は浮かべた。
剣吾君の問いに呻き声で答えるマルフォイ。その反応に、心底呆れたような表情を剣
﹁ノックしてもしもぉーし。生きてるか│
3. 愚者と来校者
1039
﹁あ、生きてる。まぁいいや、そのままの態勢で聞け﹂
たかが魔法を使えるだけで神にでもなったつもりか ?
?
うになっていたみたいで、今はキッチンがてんやわんやらしい︵シロウと剣吾君談︶。
全校生徒は玄関近くに集められていた。時刻は夕方六時ごろ、ちょうど夕食時に来るよ
更に2週間が経過し、9月末の金曜日となった。この日は授業が早く切り上げられ、
││││││││││││││││││││
イは悪夢に魘されたらしい。
それだけ言うと剣吾君は立ち上がり、その場を後にした。その後しばらく、マルフォ
歪みきっている﹂
ているかが重要なのだ。よく覚えておけ。今の貴様は、それこそ人と呼べないほど心が
人外の化け物と理性持つ生き物の違いは出生じゃない。その者がどのような心を持っ
もおかしくない内容だぞ
﹁小僧、人を貶すときはそれ相応の覚悟を持て。正直今回の貴様の発言は百回殺されて
1040
暫く待機していると何やら遠くのほう、上空に黒い小さな点が見えた。よく見ると、
微妙に上下に揺れている。
﹁⋮父さん。 俺人生で初めて見た﹂
になるのか﹂
﹁実に約二十年ぶりだが、まさか再びあの姿を見ようとは。恐らく、ある意味彼女の子孫
片や興奮した面持ちで、片や辰化しそうな面持ちで言葉を紡ぐ親子。どうやら二人は
黒い点の正体が見えているらしい。私ももう少し近づけばわかるのだけれど。
暫く待っていると黒い点はだんだん大きくなり、ようやくなにかわかることが出来
た。
それは巨大な馬車だった。車を引いている馬はペガサスで、見る者を魅了するような
真っ白な毛並みをしていた。車は巨大で、通常のもの数倍の大きさを誇っていた。
まるで家のような馬車の扉が開くと、ハグリッドと並ぶほどの巨大な女性と十数人ほ
どの男女生徒が降りてきた。
﹁これはこれはマダム・マクシーム。息災かのぅ﹂
3. 愚者と来校者
1041
﹁ダンブリー・ドール
お変わーりありーませんか
!!
﹂
?
?
もりだ。
た。あー、先生の考えてることが手に取るようにわかる。あれはシロウに押し付けるつ
ダンブルドア先生は考え込むような素振りを見せながら、視線だけシロウに向けてい
﹁ふむ、そうじゃのう⋮⋮﹂
﹁んー
ウーマたちが落ーち着きまーせん﹂
られた。
たちのように敬い畏れるようなものではなく、もっとこう懐きというようなものを感じ
振ったりしている。そしてどの子も一様にシロウを見つめてる。でも今までの生き物
ふとペガサスたちに目を向ける。4頭のペガサスは落ち着きなく足踏みしたり、首を
り全員17∼18歳ほどの年齢に見える。
たちに手招きすると、生徒たちは全員寒そうにしながらマダムの許に近寄った。見る限
女性とダンブルドア先生が挨拶を済ますと、女性、マダム・マクシームは自らの生徒
﹁お陰様で上々じゃ﹂
1042
﹁のうミスター・エミヤ、そしてミスター・アインツベルン。この子たちをお願いできる
かのぅ﹂
くつわ
校長先生の言葉に、盛大にため息をつく衛宮親子。しかし特に文句を言うことなく、
ペガサスに近寄った。 轡を外すと、ペガサスたちは一様に嘶き、シロウに頭を摺り寄せ
た。そして摺り寄せられたシロウはというと、口元に柔らかな笑みを浮かべながらその
子らの額を撫でていた。
眼はないみたいだが、その特徴的な瞳と虹彩の色は彼女のだ﹂
﹁やはりというべきか、彼女が召喚した彼女の子ともいうべきものの子孫なのだな。魔
の間にやら湖に巨大な帆船が姿を現した。大きさ的にはホグワーツの大広間ほどはあ
暫く待っていると、再び周囲がざわつき始めた。視線を騒ぎの許へと向けると、いつ
連れていかれた。
シロウと剣吾くんに連れられたペガサスたちは、大人しくハグリッドの小屋の方向に
﹁へぇ。父さんの話でしか聞いたことなかったけど、確かに美しい﹂
3. 愚者と来校者
1043
るだろう。湖の湖畔にその身を寄せた船は、胴体の脇にできた入口から、ダンブルドア
﹂
先生並みに年老いた先生と多数の厳つい男子生徒が降りてきた。
﹁ダンブルドア
ラリとカルカロフの左腕に目を向けていた。
りだろうが、事実周りの人や彼の生徒たちは気にしていないが、ダンブルドア先生もチ
けた。そして不自然に左手を隠すように動くさま。カルカロフ本人は隠しているつも
見えたが、私はその瞳奥に非常に冷たいもの、そして感覚的に彼が臆病そうな印象を受
先生も応えるように老人に駆け寄り、両の手を握って握手をした。その時老人の目が
﹁懐かしいのぅカルカロフ﹂
先頭の老人が上機嫌で校長先生に駆け寄っていく。
!!
1044
4. 炎のゴブレット
フランスのボーバトン校と北欧のダームストラング校が来た翌日、ダンブルドア先生
によって選抜方法が発表された。口から蒼い炎を燃やす巨大な杯、
﹁炎のゴブレット﹂に
よ っ て 選 抜 さ れ る ら し い。な ん で も 自 分 の 名 前 を 書 か れ た 紙 を 今 日 一 日 の 間 に ゴ ブ
レット入れ、明日発表されるのだとか。
更に校長先生は念のため、
﹁年齢線﹂なる結界をゴブレットの周りに張るそうだ。これ
によって17歳以下は弾かれる仕組みになっているらしい。
双子のフレッドとジョージが﹁老け薬﹂なる魔法役を調合し、ゴブレットに名前を入
れようと企んだけど、案の定結界に弾かれてしまった。
突然姿を現したダンブルドア先生が、口元に微笑を浮かべながら言葉を発する。
﹁忠告したはずじゃよ﹂
4. 炎のゴブレット
1045
﹁おっと
﹂
⋮⋮大広間という沢山の目がある場で。
でよろけた。そしてその時、偶然にもシロウは﹁年齢線﹂の内側に入ってしまった。
考え事をしていたのか、急にぶつかられたことに対応が遅れたため、シロウはその場
?
押す形になった。
した面持ちで部屋を後にしようとしたけど、その時取り巻きの数人がシロウを後ろから
え、バチバチと火花を散らして再び蒼に戻った。名前を入れ終わったセドリックは興奮
セドリックが名前の書かれた紙をゴブレットに入れると、蒼い炎は一瞬紅に色を変
カーである、セドリック・ディゴリーだった。
い。と、そこに一際大きな歓声と共に一人の生徒がやってきた。ハッフルパフのシー
クスクスと笑いながらその場を後にする先生。うん、やっぱり先生はただものじゃな
のう。まぁ二人の行動力は素晴らしいと思うがのう﹂
﹁過去にもそう考えた人間はいたのでのう。じゃがワシがそれを見逃すとでも思うたか
1046
﹁あ、悪⋮⋮い⋮
﹁⋮⋮えっ﹂
﹂
﹁おいおい⋮⋮なんの冗談だ
﹂
﹁士郎さん、何やってるんですか﹂
に近寄った。
と、そこに偶然にも剣吾君が居合わせた。彼は一瞬で状況を判断すると、シロウの許
からヒソヒソと声が上がり始める。
シロウも自分が今どこに立っているのかようやく気付き、額に手を当てていた。周り
?
?
んだろうか
?
し、シロウは剣吾君に会話を合わせている。阿吽の呼吸というのはこういうことを言う
剣吾君が咄嗟にフォローの言葉を入れる。流石親子だけあって彼の思惑をすぐに察
﹁可笑しいと思ったんですよ。俺より年上なのに学年が下だから﹂
﹁いや、俺も正直⋮⋮﹂
4. 炎のゴブレット
1047
今何歳ですか
﹂
悪いけど少しは疑うことを知ろうよみんな。
しかし事情を知らない人たちはそれで納得したらしい。それでいいのか、シロウには
﹁まぁ⋮⋮戦場を転々としていたら仕方ないな。うん﹂
﹁ハハ、ハハハ⋮納得してしまう自分が怖いわ﹂
﹁な、なんだ。エミヤって実は年上だったのか﹂
がこれ以上にうまいフォローができるかはさておいて。
ロウの事情を知ってる私たちからすれば、非常に苦しいフォローだったと言える。自分
剣吾君に促され、
﹁年齢線﹂の外に出るシロウ。はたから見れば完璧な演技だけど、シ
ですよ﹂
﹁しっかりしてください、20歳でしょう。エントリーしないのなら離れたほうがいい
?
?
﹁あーえー、何歳だったかな
﹂
﹁いくら戦場を転々としていたといっても、自分の年齢を忘れないでくださいよ。ほら、
1048
そんな騒動があった一日が過ぎ、シロウは実は17歳以上という大きな衝撃を残した
まま選手発表の時間となった。ただシロウはやはり昨日のうっかりが響いているのか、
若干、というか結構落ち込んでいる。親子二人して﹁うっか凛病﹂なんて呟いている。二
人ともリンさんに怒られるよ∼。
豪華な夕食も平らげ、あとは選手発表されるのを待つだけ。シロウは特別出場するみ
たいだけど、そこらへんダンブルドア先生はどうするんだろう
﹁ゴブレットに選ばれたものは隣の部屋に入るように﹂
一度激しく火柱を上げた後、一枚の少し焦げた紙切れが吐き出された。
校長先生がそういうと同時にゴブレットの炎の色が変わり、紅に燃え盛った。そして
?
ダンブルドア先生が勢いよくそれを掴むと、朗々と力ある声で読み上げた。
﹂
!!
﹂
!!
ダンブルドア先生の声が響くや否や、拍手喝采と共にカルカロフの声が響いた。クラ
﹁ブラボー、ビクトール
﹁ダームストラング校代表は、ビクトール・クラム
4. 炎のゴブレット
1049
ムは無言で立ち上がると、皆の歓声を受けながら隣室へと移動していった。
﹂
広間が静かになると同時に、ゴブレットの炎は再び燃え盛った。そして再び吐き出さ
れた紙片を、先生は力強くつかみ取った。
﹁ボーバトン校の代表選手は、フラー・デラクール選手
どう介入しようというのだろうか
ていた。紙に書かれていたのはボーバトンとダームストラング、両校の選手が更に一人
流石に皆予想外だったらしく、ダンブルドア先生たち含む教員たちも驚愕に顔を染め
と、ここで先ほど以上に炎が燃え上がり、紙片が二枚排出された。
?
これですべての学校から選手が選抜されたことになる。このような状況で、シロウは
していった。
べきか、セドリック・ディゴリーだった。かれははにかみながらも堂々と隣室へと移動
三度炎が激しくなり、また一枚紙片を吐き出した。書かれていた名前はやはりという
刷り込まれた雰囲気を感じる。
いった。どうもあの優雅さは本人の身のこなしではなく、なんかこう遺伝子的なものに
名前を呼ばれた女生徒は、シルバーブロンドの髪を靡かせながら隣室へと移動して
!!
1050
﹂
﹂
づつ選出された。またこれに関してはマダム・マクシームもカルカロフも予想外だった
らしく、非常に慌てていた。
﹁⋮⋮これはどういうことじゃ
一人ではなかったのか
﹂
﹁わ、わわ、わーたしも、びびびっくーりです
﹁なんなんだ一体
!!
?
!?
せた。
そして伸びた炎はまるで縄のようにシロウの腕に巻き付き、ゴブレットに強引に引き寄
そして今までで一番激しく燃え上がる炎は長く伸び、一直線にシロウ目掛けて伸びた。
大広間が騒然としている中、そんなことお構いなしにゴブレットの炎は燃え続ける。
どう見ても本当に驚いている様子からして、不正を働いたという筋はないだろう。
!?
炎が巻き付いた部分の布地は焼け焦げており、右腕にも刻印のようなものがついてい
﹁前代未聞じゃ⋮﹂
﹁⋮⋮これは﹂
4. 炎のゴブレット
1051
1052
た。ただ元の地肌が黒い分、刻印は目立ってなかったけど。
シロウを引き寄せた後の炎はたちまち勢いをなくし、ゴブレットの炎は静かに消え
た。しかし本来各校一人づつの代表選手が二人ずつになり、剰え最後の一人は杯に選ば
れた気来がある。
沈黙が支配する中、二人目の代表選手たちは隣室に移動した。
◆
さて本当に、本当に面倒なことになった。一応介入することにはなっていたが、選手
﹂
になるつもりはなかった。だがゴブレットに、名前を入れていないに関わらず、選手と
して選ばれてしまった。
シロウ、どうしたんだい
ハッキリ言おう、面倒くさい。
﹁あれ
?
﹂
思うような表情を浮かべると、俺にセドリックは質問してきた。
俺の言葉に残り二人は頷き、セドリックたちは驚愕に顔を染めていた。そして疑問に
の代表だ﹂
﹁俺たちも何が何だかわからん。俺たち三人は理由もわからずに選ばれた、各校二人目
すような視線は控えたほうがいいぞ。
寄ってきた。どうでもいいがフラーとやら、プライドが高いのはいいが、少々その見下
俺たち居ることに疑問を持ったのだろう、セドリックを先頭にして俺たちに三人が近
?
﹁君は名前を入れたのかい
?
4. 炎のゴブレット
1053
﹁否だ。俺が率先してこんなことに首を突っ込むように見えるか
﹂
?
辺に腰かけて思考を巡らせていた。
える。次第に周りのベッドで同級生が寝ていくのを認識しつつ、俺は夜が明けるまで窓
談話室で行われているパーティーをスルーし、寝室にて今後どう行動するべきかを考
らの魔法使い程度ならいっそうできるから問題ないだろうが。
ら、俺が動けないときの行動は剣吾に任せることになるだろう。まぁ、あいつならそこ
せよ、警戒しておくに越したことはなかろう。俺はしばらく表立って動くことになるか
果たして今回の選抜が偶然か、それとも俺を邪魔に思う奴らによる陰謀か。どちらに
ているだろう。
今回はマリーは巻き込まれないで済んだが、ある意味俺が関わることでより複雑になっ
さて、詳しい話は今後日を改めて行われることが決定し、今回は解散になった。さて、
二人体制で執り行われることが決定した。
その後、色々と教員たちによって会議が開かれたが、実行委員会の決定によって各校
やはりこの男もまた子供であるのが分かった。洞察力が足りない。
この男、信じていないな。視線でわかる。はぁ、紳士と皆に思われているのだろうが、
﹁⋮⋮ふーん﹂
1054
選抜の次の日、俺は前日集められた部屋にいた。なんでも選手の杖の状態を調べるの
と、新聞のインタビューのためらしいい。
しかし文屋が酷いのはどこの世界も同じようだ。リータ・スキータなる記者が一人一
人インタビューを行っていたが、メモの内容は酷いものだった。捏造八割、疑問一割、信
実一割の内容でどんどんメモを取っていく。いい加減腹も立ったので少し脅す羽目に
なった。
考えてもてくれ。曰く、
││その双眼は鋼の様であり、まるで人形の様。何を考えているかわからない。
だそうだ。後者は兎も角、俺は歴とした人間であるから人形の目などではない。それ
にイリヤの体は蒼崎製の人形体、奴の書き方がとことん気に入らなかった。
加えて何度もエントリーした理由を聞き、その度に否定を無視してメモを取ってい
た。誰が怖いもの知らずだ、誰が目立ちたがり屋だ。こちらはほとほと迷惑していると
いうのに。
﹁君は戦場を渡り歩いてきたという情報を仕入れたけど、怖かった どんな影響を与
4. 炎のゴブレット
1055
?
えた
﹁へ
﹂
﹂
﹂
﹁そうじゃ、よーく覚えておる﹂
員が騒めいた。
の番が来たので剣を取り出すと、ダンブルドアとスネイプ、オリバンダー老を除いた全
この日のために招かれたオリバンダー老は全員の杖を入念に調べていく。そして俺
う者はいない。
の注目を集めることになった。それはそうだろう、この世界に今時アゾット剣なんて使
さてインタビューも終わって杖調べとなったのだが、ここでもまた不本意ながら周り
だった。
ころでこの女は理解せず、都合のいいように書き連ねるだけ。何も言わないほうがまし
はどんなに手を伸ばしても、零れ落ちる命があるという残酷な現実。それを説明したと
最後にしてきた質問に対し、俺は答えを出さなかった。戦いが俺に与えたもの、それ
?
?
?
﹁⋮⋮それをきいてどうする
1056
俺の手から受け取ることなく剣を見つめる老、その目は爛々と輝いており、普段より
も生気が感じられた。
﹁万華鏡のように美しい短剣を帯びた人物から受け取ったこの剣、忘れるはずもなかろ
う。何年も待っておった担い手、それがエミヤさんじゃった﹂
懐かしそうに語る老。最後に剣を床に突き刺して簡易の防音結界を張ると、剣は万全
と言われて杖調べは終わった。
その夜、談話室の隅で宝石を用いて凛たちと交信していた。流石に今回は今まで以上
に一筋縄ではいかない事案である。加えてだが、体内に埋め込まれているアヴァロンが
若干力を持ち始めているのも、不確定要素の一つだ。
﹁去年の黒化英霊のこともあるわ。本来セイバーがいないと機能しないアヴァロンが何
凛が真剣な声で言葉を発する。
﹁士郎、用心しなさい﹂
4. 炎のゴブレット
1057
かしら反応を示しているのは、彼女関連で何か起こるかもしれないわよ﹂
││かの宝具を持つに足るものか、試させてもらおう
││いよいよもって赤が目覚める
││ときは近い
が妙なものでないことを祈るばかりだ。
談話室に人が集まり始めたため、交信を切る。対抗試合の試練は三つ、せめて一つ目
﹁ああ、頼んだ﹂
﹁ええ、そうして頂戴。一応来年の5月ごろ全員でそっちに行くわ。様子見もかねて﹂
る﹂
﹁あの子には悪いが、もしもの時は頼ることになる。出来るだけこちらの状況は報告す
が出ても足止めがせいぜいだと思う﹂
﹁一応剣吾がいるけど、まだあの子は英霊を相手に出来るほど強くはないわ。黒化英霊
﹁だろうな。今年は特に厄介事が多い気がする﹂
1058
5. 第一の課題
外部にも代表選手の話が公表され、選手には毎日のように手紙や雑誌のインタビュー
申し込みが舞い込んできた。無論俺も例外ではなく、俺を応援する手紙や、俺をズルし
た卑怯者と凶弾する手紙││寧ろ後者のほうが多い││が毎朝フクロウ便で届き、平穏
に過ごせる日がない。
そ し て 俺 た ち は 代 表 選 手 と は い え 一 学 生 で も あ る た め、課 題 に 備 え る こ と に 加 え、
日々の学業もある。ハッキリ言って、いくら俺でも首が回らない状況だ。週一のホグズ
ミード行きが今や数少ない癒しである。
まぁ、そうも言ってられないか。一週間後まで迫った第一の課題のために、そのホグ
ズミードもそろそろ記者たちの宿泊先となるのだろうが。
﹁エミヤ君。ため息つくのはいいけど、周りに聞こえないようにお願いね﹂
﹁⋮⋮はぁ﹂
5. 第一の課題
1059
﹁む
る。
ああマダム・ロスメルタ、すまない﹂
俺の許に来た。パブ﹃三本の箒﹄を切り盛りしている女店主、マダム・ロスメルタであ
机に突っ伏しているところに、トルコ石色のハイヒールの靴音と共に、一人の女性が
?
﹂
ど入っている。
﹁これは
?
?
﹁元従業員への労いよ。当店自慢の蜂蜜酒、年齢的には大丈夫でしょう
﹂
そう言って俺の目の前に一つのグラスジョッキが置かれた。琥珀色の液体が五割ほ
﹁そう。頑張って﹂
い﹂
﹁⋮⋮私としては余り出場したくはないのだがね。まぁ選ばれた以上は出るしかあるま
違う雰囲気だったし、ただ者じゃないとは思ってたけど﹂
﹁代表選手、選ばれたみたいね。まぁ元々ここで接客していた時も、普通の魔法使いとは
1060
﹁⋮⋮ありがたくいただこう﹂
他人の行為は無碍にできない。酒はあまり飲まないが、せっかく出されたのだからい
ただくとしよう。
ちびりちびりとジョッキを傾けていると、パブの入口が開く。まぁ日中とはいえ今は
昼時、昼食を摂りにこの店に来ても可笑しくないだろう。そろそろ俺もお暇しようか。
と、覚えのある声が聞こえたのでそちらに目を向けると、そこには大柄なハグリッド
﹂
とムーディ教授がいた。二人とも俺に気づくと、片やにこやかに、片や相変わらずの仏
頂面で近づいてきた。
﹁おうシロウ、元気か
?
と、ハグリッドが俺に顔を寄せてきた。
さか風邪薬ではあるまい。
わずかに妙な匂いが鼻をついたが、薬の類だろうか 普通の薬ではないと思うが、ま
席に着くなりハグリッドは蜂蜜酒を、ムーディは自前の酒瓶の中身を呷った。その時
﹁ああ、エミヤか﹂
5. 第一の課題
1061
?
﹁⋮⋮お前さん酒は飲んでも大丈夫なのか
﹁これでも年齢的には成人してるぞ﹂
﹁おお、そうか⋮⋮﹂
﹂
﹂
それだけを言ってハグリッドはジョッキをまた傾けた。しかしどこか落ち着きがな
?
い。まるで内緒話があるが言いだせない子供の様。
﹂
?
おおそれなんじゃが、今日の夜時間はあるか
﹁⋮⋮俺に話があるのでは
﹁む
?
?
してここまで経過し、比較的親しい間柄である俺だけに聞いてきた。まさかとは思う
いた。これの意味することは一つ、隠れてやらなきゃいけないことをするつもりだ。そ
ハグリッドはぼそぼそと俺に耳打ちする。その間ムーディの目はせわしなく動いて
﹁ならちょっくら俺の小屋まで来てくれ。見せたいものがある﹂
だ﹂
﹁今 晩 か 特 に 予 定 は な い。せ い ぜ い 一 週 間 後 に あ る 第 一 の 課 題 の 準 備 を す る 程 度
?
1062
が。
﹂
﹂
?
ゲホッゲホッ
﹁⋮⋮ハグリッド。それは対抗試合関連か
﹁むぐぅ
!!
るように、義眼もこちらに向けている。
ハグリッドが納得してないような表情を浮かべている。ムーディはこちらを観察す
﹁ならどうして﹂
不公平だろうよ。まぁ、恐らく他の二校の選手はズルするだろうがな﹂
﹁だとしたら悪いが断る。確かにそうすれば課題を熟しやすいだろう。だが他の生徒が
気質を利用させてもらった。
俺の問いかけに咽るハグリッド、確定だな。彼には悪いが、今回は彼の嘘をつけない
!?
今回はあくまで課題だ。それにこの様子からすると、相手は人ではない、それこそ幻想
﹁これが試合や実戦であれば成程、先に相手の情報を掴むことは理に適っている。だが
5. 第一の課題
1063
種のようなものだろう
﹂
?
││││││││││││││││││││
は店を後にした。
二人以外のいくつかの視線││まぁ恐らくは文屋だろうが││も背中に受けつつ俺
﹁まぁ心配するな。なるようになるさ﹂
た。ムーディはこちらを試すような視線を向けている。
とチップも一緒にカウンターに置く。振り返った先に座るハグリッドは呆然としてい
俺はそれだけ言うと、カウンターにジョッキを持って行った。ついでに一応酒の料金
課題に活用できるものとなれば、自ずと選択の幅は狭まるだろう﹂
予想もできない。ならば最初から見ないほうがまだマシかもしれん。それに、幻想種で
﹁ならばこそ、情報を集めようにもわかるのは生態だけ。本番でどのように動くかなど
1064
一週間後、俺たち6人の選手は一つのテントに集められた。そこは会場の近く、すで
に大きな歓声や野次が聞こえてくる。古来より見世物は大きく盛り上がるとはいえ、こ
れは本当に辟易する。
﹁やぁみんな集まったね。楽にしたまえ﹂
テントに一人の男が入ってきた。大会の進行役らしい、ルード・バグマンという男
だった。その横には小袋を抱えた別の魔法使いがいる。
﹂
!!
ゴンや大蛇になるだろうな。あるいは怪鳥か。
ろう。とすれば、必然的に卵生の生き物に限られてくるわけだ。まぁ恐らく弱めのドラ
バグマンは仰々しく課題内容を発表した。卵となると、他にもダミーの卵もあるのだ
つ、金の卵を取ることだ
﹁諸 君 に は こ れ か ら こ の 袋 の 中 の 模 型 を 取 っ て も ら う。そ し て 諸 君 の ミ ッ シ ョ ン は 一
5. 第一の課題
1065
﹁レディーファーストだ﹂
バグマンはまずボーバトンのデラクールともう一人を呼んだ。二人が袋に手を入れ
ると、2番と5番の数字をつけたミニチュアが取り出された。
本物そっくりに動くドラゴンの。
﹁次、ミスター・ディゴリーだ﹂
と知らなかったのは俺だけか。さて、どう対処したものか。
人も同様だった。ただディゴリーも落ち着いていることからすると、この中でドラゴン
その後に中国火の玉種を引いたクラムと、ハンガリー・ホーンテールを引いたもう一
ろう。
に毅然とした態度を見せていた。大方、マダム・マクシームから事前に聞いていたのだ
やはりというべきか、袋からミニチュアを取り出した二人は驚く素振りを見せず、逆
ア・ホワイト種﹂
﹁2番、ミス・デラクール。ウェールズ・グリーン種。5番、ミス・マルタン。ゲルマニ
1066
最後に回されたホグワーツ組。先に手を入れたディゴリーの手には、1番の番号が点
けられたドラゴンがいた。スウェーデン・ショート│スナウトという種類らしい。
﹁では最後に、ミスター・エミヤ﹂
ド
ラ
イ
グ・
ゴッ
ホ
最後に回されてきた俺。心なしかバグマンともう一人の魔法使いの目が語っていた。
ア・
この子は││対外的には俺はまだ子供││可哀そうに外れくじを引いたと。
こんなところでも﹁幸運E﹂は出るのだな。
?
な。さて、本当にどうしたものかな。
もしかしたらアヴァロンの活性化も、彼の龍の魔力に起因するものなのかもしれん
か、セイバー
やれやれここで赤い龍とは、どこまで俺たちの因果は深いのだろうな。そう思わない
﹁6番、ミスター・エミヤ⋮⋮ウェールズの赤き龍、﹃Y Ddraig Goch﹄﹂
5. 第一の課題
1067
6. Frwydr yn erbyn y ddra
もう一人のボーバトンの生徒も、卵を壊した怒りで狂暴化した龍の攻撃を受けたり掠っ
でに火傷という大怪我を負っている。続くフラーさんにダームストラングの二人、更に
それでもセドリックさんはスウェーデン・ショート│スナウトとの戦いの時点で、す
ろう。
ある広さは確実に持っている。ここまで広くしないと、ドラゴンもうまく動けないのだ
上がった。私たちがいる闘技場は新しく作られており、サッカースタジアムが2個ほど
しかし私の心配など誰も気にしてないのか、会場は進行役が出てきた瞬間大きく盛り
は少々オーバーキルなのではないかと思う。
いけないらしい。正直言うと、いくら魔法使いで成人している人限定といっても、これ
選手はドラゴンをやり過ごしながら他の本物の卵に混じってる金の卵を取らないと
第一の課題はドラゴンを出し抜くことだった。
ig goch
1068
6. Frwydr yn erbyn y ddraig goch
1069
たりで、大なり小なり怪我を負ってしまっている。
これでも恐らく一般的なドラゴンよりも本能が強い種類なのだろう。基本的にワイ
バ ー ン と 呼 ば れ る 種 類 の 5 体 だ っ た。普 通 に 考 え る な ら 最 後 に 残 っ た シ ロ ウ も ワ イ
バーン型だろう。でも何か胸騒ぎがする。
そしてその予感は悪いほうに的中した。
◆
外からバグマン氏の実況が響く中一人、また一人とテントから出ていき、最後に俺一
人だけが残された。
﹄
﹄
﹄
さぁ慎重に⋮⋮なんと、今度こそやられてしまったと思ったので
ディゴリー選手を火炎が襲う、これは大丈夫か
!?
﹃おおーっと
﹃良い度胸をみせました。そして⋮⋮卵を取りました
すが⋮⋮いやしかし
﹃おー⋮⋮危うく
!?
されようがどうでもいい。
﹄
﹃さぁ第一の課題もいよいよ最後の挑戦者を残すだけになりました
魔術学校代表、シロウ・エミヤ選手
!!
大きな地響きと共に、暴風がオレと観客を襲った。怯むことなく目を発生源に向ける
というべきか、このような会場を短期間で作成する力は称賛ものだ。
ドの中央は堆くなっており、幾つかの卵と共に金色の卵が安置されている。流石は魔法
うずたか
名前を呼ばれたため、椅子から立ち上がって闘技場へ向かう。広く作られたフィール
!!
ホグワーツ魔法
点をされているようだ。まぁ正直オレは優勝になんざ興味はない。だからいくら減点
どうやら各々金の卵は取れたらしい。ただ卵を破壊したり、大怪我を負ったりとで減
!!
!!
!!
1070
と、人の何倍もの大きさはある、それこそ剣吾がよく観ていた特撮の巨大怪獣並みの全
長はあるかもしれん。
混じるもののない、美しい紅に身を染める一体の龍が、威風堂々とオレを見下ろして
いた。
││貴様か
突如声が響き渡る。どうやらこの赤き龍の声みたいであり、その声は観客にも聞こえ
ているようだった。
││なぜだ。なぜ貴様がそれを⋮⋮
﹂
?
る。
これは⋮⋮不味いかもしれない。目の前の龍の口に魔力が集まっていることがわか
││しらばくれるか。ならば力尽くで聞きだすまでだ。
﹁⋮⋮何の話だ
6. Frwydr yn erbyn y ddraig goch
1071
﹃おおーっと、いきなりブレスが来るのか
エミヤ選手はどう対処するのか
﹄
?
して、オレだけが防御しても観客に被害が及ぶ。かといって彼女の聖盾を使っても、俺
プ ラ イ ウェ ン
実況が何か喚いているが、こちらはそれどころではない。あの集約する魔力の量から
!?
﹂
﹂
にダメージが通りすぎてしまう。ここはアイアスで防御し、残りをあいつに受け持って
結界を張れ
もらうとしよう。
﹁⋮⋮剣吾
﹁もう準備してる。 水 の 護 り
ラグス・エオロー・ソーン
!!
てしまうことぐらいか。
何故貴様があの娘の鞘を持っている
!!
││答えろ
!!
め、ある程度の攻撃はしのげる筈。問題はこの場に水がないため、本来の力よりも劣っ
水を象徴するラグスのルーンに守護のエオロー、危機回避のソーンの重ね掛けであるた
剣吾の言霊と共に、観客の前に巨大なルーン文字が浮かびあがり、障壁を形成する。
!!
!!
1072
怒号と共に、火炎放射器を何十本も束ねたぐらいの太さの火炎が迫る。正直これは投
擲攻撃ではないため、アイアスの守護がどこまで効くかわからないが。一応のダミーの
ロ ー・
ア
イ
ア
ス
﹂
ために、左手にアゾット剣を握り、右手に添えておく。
ト レ ー ス・オ ン
!!
る。
品。神造兵器だが、格を落すことによって炎を切り裂く能力を持つ刀として投影でき
日本神話において鍛冶の神、火の神として祀られている神の名を賜った刀、その贋作
ものと錯覚するはず。
人に見えないように完全に隠す。これにより、俺の取り出す武器はアゾットが変わった
に、オレは盾を消して武器を取り出す。その時アゾット剣は服の内側にしまい込み、他
暫く炎は浴びせられていたが、三十秒ほどでその勢いは止まった。煙や砂塵が舞う中
れた。伊達に人形師や宝石翁の下で修業を重ねたわけではないな。
炎を幾筋にも分割した。いくつかの炎は観客席へと向かったが、剣吾の結界よって防が
右手を掲げると、目の前に七枚花弁の大輪が咲いた。花は俺に向かう炎を防ぎ一本の
﹁││投影開始、﹃熾天覆う七つの円環﹄
6. Frwydr yn erbyn y ddraig goch
1073
││我が火炎を防ぐか。ならばこれはどうだ
が狙い過たず俺に殺到してくる。
﹃あーっと、ブレスの次は火の玉か
││さぁ、これはどう対応する
ノ
でもどうやって防いだんだ
ヒ
﹄
グ
?
ツ
チ
﹁⋮⋮幾つか避けられないな、仕方がない。焔を切り払え、﹃火之迦具土神﹄
カ
﹂
もう一度口を開いた龍の口から、次は十数個の火の玉を俺に対し吐き出す。その全て
!!
﹂
ベルンゲンの歌に出てくる大英雄、ジークフリートの持つ竜殺しの大剣。
バ
ル
ム
ン
ク
﹂
貴様は鞘一つだけで飽き足らず、その忌々しい剣も持っているのか
﹁贋作とはいえ、貴方ならこの剣の恐ろしさは分かるだろう
お
││何だと
!!
﹁竜を墜とし、世界を落陽へと至らしめよ。││﹃幻想大剣・天魔失墜﹄
!!
!?
││小賢しい
!!
!!
刀を消して今度は巨大なトゥーハンデッド・ソードを投影で創り出す。この剣は、ニー
空へと放たれた焔玉のうち、いくつかを切り払う。その際発生した爆煙に紛れつつ、
!!
? !?
1074
真明解放をした竜殺しを振るうが、オレは奴の振るう尻尾に弾き飛ばされ、地面に激
突した。体に響く痛みから察するに、少なくともあばら骨を二、三本やられている。流
石に上手く事が運ぶわけないか。
バルムンクを消し去り、次にもう一度懐からアゾットを取り出す。そのタイミングで
煙も晴れ、改めて相手の全身が浮かび上がる。
だぁ
しかし流石に尾の攻撃は防げなかったか
﹄
?
!!
効果は、太陽の輝きを一時的に作り出す。確か呪文は。
そういえば、昔ハーマイオニーが魔法の練習がてら光を杖から出していたな。魔法の
どうすれば⋮⋮
どうにかして一旦闘技場から離れなければ、オレも満足に全力を出すことが出来ない。
合ではないのだが。今も緑の双眼を爛々と燃やし、ドラゴンはオレを睨みつけてくる。
相変わらず実況は五月蠅い。こちらとしては今はもう、課題がどうこう言っている場
!!
﹃ななななんとぉ あれだけのブレスや火の玉を受けても、エミヤ選手は難なく防い
6. Frwydr yn erbyn y ddraig goch
1075
ル ー モ ス・ ソ レ ム
﹁﹃太陽の光よ﹄
﹂
﹁湖畔まで行ってくれ。頼めるか
﹂
オレに乗るよう催促するように、オレをジッと見つめていた。
会場の外に出ると、入場までいなかった天馬が一頭、外で待っていた。そしてまるで
在監視の目の届かない場所、例えば湖畔とかまで行かなければならない。
届かず、存分に戦える場となると、俺の固有結界が最適だろう。だが張るとなると、現
皆の視線がないうちに俺は急いで体を強化し、跳躍してこの場を離脱した。誰の目も
││おのれ。だが目を潰しても匂いでわかるぞ、小僧。
流石の赤い龍もこれには耐えられず、目を瞑っている。
アゾット剣を掲げて呪文を唱えると、闘技場は目を潰さんばかりの光に照らされた。
!!
会場から大きな影が飛ぶのが見えた。
背に乗って聞くと、天馬は一つ嘶いて翼を羽ばたかせた。後方からは咆哮が聞こえ、
?
1076
1077
6. Frwydr yn erbyn y ddraig goch
さて、ここからは第二ラウンドと洒落込むとしようか。古の赤よ。
7. Rwy
n credu yr hyn ddr
'
う。
飛行を続けている。ライダーの子ならば大丈夫だろうが、この子はそうはいかないだろ
だがこの子にもスタミナはあるだろう。もうかれこれ十分近くはアクロバティックな
さて、どうしたものか。天馬は攻撃を避ける以外はオレの意向に従ってくれている。
その瞳を怒りに燃やしていた。
多くの観客がこちらを見上げているのがわかる。そして龍は緑の双眼をこちらに向け、
現在オレは片手に虎徹を握り、上空で龍と向かい合っている。遥か下方の地上では、
ある。
天馬に乗ったことはない。せいぜいがライダーが乗っといたのを記憶している程度で
現状をはっきり述べると、こちらが圧倒的不利だった。一応乗馬の経験はあっても、
てくる。
天馬に跨り、空を駆ける。それを追うように龍は飛び、こちらに向かって火炎を放っ
aig goch.
1078
ーーどうやらここでは無理だな
突如龍が口を開いた。そして龍は翼を羽ばたかせると、一直線にこちらに突進してき
た。突然の行動に天馬は反応できず、オレはその大きな右手に掴まれた。天馬は嘶き、
その場から離脱する。そしてオレは、そのままどこかへと連れていかれた。
暫く身動きが取れないままもがいていると、突如空中に放り出された。しかしそれほ
ど高い高度ではなかったようで、オレは湖畔のぬかるみの上に着地することになった。
龍はそのすぐ近くの湖に着水した。
どうも様子がおかしい。先ほどまでは敵意を露わにしていたのに、今は幾分か落ち着
いている。とはいえ、その双眼には未だ怒りがにじみ出ているが。
ーー貴様、先ほどからヒトの目を気にしていたな
龍が問いかけてくる。その目は虚偽を許さぬと語っていた。
?
﹁⋮⋮ああ。貴方は分かるだろうが、俺の魔術はこの世界では特異すぎる。あまり見せ
7. Rwy'n credu yr hyn ddraig goch.
1079
るものではない﹂
ア
ヴァ
ロ
ン
ーーならば質問に答えなかったのは何故だ。
く加護を受けているな
ーーいつか眠りから覚めるその時まで
﹁その通りだ﹂
木々の枝からは、残り僅かな枯葉が舞い落ちる。
そ こ で 互 い に 沈 黙 す る。聞 こ え て く る の は 湖 か ら 響 く 小 波 の 音 だ け。風 に 揺 れ る
?
﹁⋮⋮彼女に返却しようとしたが、断られてな﹂
?
ーーならば再度問おう。何故貴様がその鞘を持っている。いや、持っているだけでな
抜けた瞬間パクリ、なんてのは話にならない。
幾分か龍は溜飲を下げたようだ。だがオレは一瞬たりとも気が抜けなかった。気が
ーー知られるわけにはいかなかったと。
るほど欲しいものだ﹂
﹁簡単なことだ。﹃全て遠き理想郷﹄は仮令俺の世界の魔術師でなくとも、喉から手が出
1080
ーー理解した、貴様に鞘は預けよう。だが心せよ。その鞘を悪しきことに使った暁に
は、我自ら鉄槌を振るう。
﹂
?
⋮⋮
まさかッ
﹂
その鞘を持つに値するか、我にその力を示せ
!! !?
だ
ーー元よりそのつもりよ
﹁⋮⋮
!!
?
言葉と共に、龍は特大の火球を放ってきた。
!!
?
ーー何を今更。何のために我がわざわざこのような遊びごとに付き合ったというの
﹁その必要はあるのか
ーーさて、続けよう。貴様も次は本気で来い。ここならば、誰も来ないだろう。
を交わす。
何よりそのようなことに使えば、彼女を侮辱することに他ならないから。互いに制約
﹁⋮⋮誓おう﹂
7. Rwy'n credu yr hyn ddraig goch.
1081
1082
◆
どれほど時間が経っただろうか。
ドラゴンとシロウが闘技場から去って、結構な時間が経過した。審査員たちも試合を
このまま続行するかどうか迷っている。そもそもいくらなんでもシロウとはいえ、伝説
に名を残す赤い龍相手は分が悪い。どんな人でもオーバーキルになると思う。
シロウたちがいなくなってから30分は経過した。もう審査員もあきらめているみ
たいだ。私や剣吾君の席は審査員席に近いため、ダンブルドア先生たちの会話が聞こえ
てくる。
んで見守る中、シロウはつ
?
次々にホグワーツの教師陣が拍手を始めた。そしてポツリポツリと始まった観客の拍
生が大きく拍手をしていた。そして後に続くようにマグゴナガル先生、スネイプ先生と
ふと気づくと、一つの拍手が聞こえてきた。そちらに目を向けると、ダンブルドア先
状態に大きくショックを受けていたのだった。
いに卵の許に辿り着き、それを掲げた。しかし誰も反応しない。皆が皆、シロウの今の
ていく。その光景に、誰一人言葉を発しなかった。固唾を
当のシロウはゆっくりとと歩きつつも、しっかりとした足取りで金の卵の許に向かっ
していた。恐らく肌や布についている緑の部分は、この龍の血なのだろう。
要な状態である。対する龍の方も、全身にくまなく傷を負い、夥しい量の緑色の血を流
を赤黒く、所々緑に染めたシロウだった。火傷も所々負っており、一刻も早く治療が必
着地すると同時に右手から降りてきたのは、全身が傷だらけになって、ユニフォーム
赤い龍だった。その右手は何かを握りしめている。
ダンブルドア先生の言葉に被せるように響いた声。それは先ほど飛び去ったはずの
その必要はない
﹁観客席の皆、残念な知らせじゃ。シロウ・エミヤの試練じゃが、此度失格と⋮⋮﹂
7. Rwy'n credu yr hyn ddraig goch.
1083
1084
手も次第に盛り上がり、シロウが退場するころには口笛やら魔法の爆発音やらが拍手と
共に鳴り響いていた。
そして肝心の龍はというと、シロウが退場したのちに大きな咆哮を上げながら飛び
去って行った。
◆
それにしても驚いた。まさか奴め、固有結界の使い手だったとはな。あの龍殺しの能
力を持った剣を雨のように降らせてきた時は、流石に肝が冷えた。
7. Rwy'n credu yr hyn ddraig goch.
1085
長らく生きてきたが、あれほどの使い手を見たのは初めてだ。奴が龍殺しの剣を複数
所持、使用していたのも頷ける。しかし疑問であるのは、どのようにしてあそこまでの
数の宝具を記憶したというのだろうか。
奴の魔術、固有結界は、一度視認した刀剣類を記録して貯蔵するという。この現代に
おいて、現存している宝具は、余程丁重に保存されたり、
﹁全て遠き理想郷﹂のように外
界の影響をものでないと、まず残っていない。
しかし奴の記憶していた宝具の大半は、明らかに現存していないもの、恐らくだが原
典だろうものの贋作が多数存在していた。宝具の原点となると、英雄王が所持していた
ということしか推測できないが、まさか奴は彼の英雄王と会い見えたとでもいうのだろ
うか
う。幸か不幸か、血を浴びたのは背中だ。まぁ我の血であるから悪いようにはならんだ
彼 の 龍殺しの英霊 の よ う な 呪 い を 受 け る こ と は な い が、何 か し ら の 影 響 は 出 る だ ろ
ジー ク フ リー ト
傷をし、我の血も浴びてしまったがな。
か。それに此度ほどの心躍る闘いも久しいことこの上ない。まぁ奴も尋常ではない負
それにしても、今回は傷を負いすぎた。これほどの大傷を負ったのはいつぶりだろう
の腕は持っている。いずれは奴に問いたださねばならないな。
いずれにしても、奴の技量はあの娘には及ばぬものの、そこらの英霊とやり合うだけ
?
1086
ろう。
せいぜい我を楽しませてくれよ、英雄となる可能性を持つものよ。願わくば、貴様が
抱える者に食いつぶされないことを。
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